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特開2022-93445加熱臭が抑制された乳成分含有飲食品及び乳成分の加熱臭抑制用組成物
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  • 特開-加熱臭が抑制された乳成分含有飲食品及び乳成分の加熱臭抑制用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093445
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】加熱臭が抑制された乳成分含有飲食品及び乳成分の加熱臭抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20220616BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20220616BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20220616BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220616BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20220616BHJP
   A23C 13/14 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
A23L5/00 K
A23C9/152
A23L2/00 B
A23L2/38 P
A23L2/56
A23L5/00 Z
A23C13/14
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072879
(22)【出願日】2022-04-27
(62)【分割の表示】P 2019115393の分割
【原出願日】2019-06-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公益社団法人 日本食品科学工学会 第65回大会、平成30年8月24日 公益社団法人 日本食品科学工学会 第65回大会 講演要旨集、表紙、目次、第125頁、裏付、平成30年8月22日
(71)【出願人】
【識別番号】591152584
【氏名又は名称】高梨乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】高木 和子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和幸
(72)【発明者】
【氏名】何 方
(72)【発明者】
【氏名】平松 優
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、乳成分を含有し、かつ、加熱処理されたものでありながら、加熱臭が抑制された飲食品及び該飲食品を製造するために利用される乳成分の加熱臭を抑制するための組成物を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、原料として乳成分を含有し、かつ、外部添加した(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを含有する、加熱処理飲食品及び(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを有効成分として含有する、乳成分の加熱臭抑制用組成物などにより解決される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として乳成分を含有し、かつ、外部添加した(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを含有する、加熱処理飲食品(ただし、乳成分及び(E)-6-オクテナールを含有する加熱処理飲食品は除く)であって、
前記乳成分は非加熱処理乳成分であり、かつ、前記(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは外部添加量が1ppb以上である、又は
前記乳成分は加熱処理乳成分であり、かつ、前記(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは外部添加量が0.01ppb以上である、前記加熱処理飲食品。
【請求項2】
前記加熱処理は、80℃~155℃の温度での加熱処理である、請求項1に記載の加熱処理飲食品。
【請求項3】
(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールと非加熱処理の乳成分とを該(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールが外部添加量として1ppb以上になる混合処理及び加熱処理に供することにより、加熱処理飲食品を得ることを含む、加熱処理飲食品(ただし、乳成分及び(E)-6-オクテナールを含有する加熱処理飲食品は除く)の製造方法。
【請求項4】
加熱処理した乳成分と(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールとを該(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールが外部添加量として0.01ppb以上になる混合処理に供することにより、加熱処理飲食品を得ることを含む、加熱処理飲食品(ただし、乳成分及び(E)-6-オクテナールを含有する加熱処理飲食品は除く)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳成分の加熱臭が抑制された飲食品及び乳成分の加熱臭を抑制するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
牛乳は,栄養バランスの優れた身近な食品として知られている。市場に置かれる牛乳は、衛生的な安全性確保のために加熱殺菌処理が施されている。日本国では、食品衛生法に基づく「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(非特許文献1)により、牛乳を加熱殺菌することが規定されている。
【0003】
加熱殺菌の方法には、63~65℃で30分間程度殺菌する「低温保持殺菌」(LTLT)、65~68℃で30分間程度殺菌する連続式低温殺菌(LTLT)などの低温殺菌;72℃以上で15秒間以上殺菌する「高温短時間殺菌」(HTST)、75℃以上で15分間以上殺菌する「高温保持殺菌」(HTLT)、120~150℃の超高温で1~3秒間殺菌する「超高温瞬間殺菌」(UHT)などの高温殺菌がある。
【0004】
例えば、UHTの牛乳は、130℃で2~4秒間程度で殺菌したものが主流であり、保存に際しては冷蔵保存しなければならない。一方で、140℃で2~4秒間程度で殺菌したもの、すなわち、UHT滅菌した牛乳は、常温保存が可能である。
【0005】
しかし、加熱殺菌の温度及び時間は、牛乳の風味に大きく影響することが知られている。その原因の一つとして、ホエイタンパク質が加熱変性し、加熱臭(クックドフレーバー)とよばれる風味変化が引き起こされることが挙げられる。低温殺菌された牛乳では、高温殺菌されたものよりホエイタンパク質の熱変性度合いが少なく、加熱臭が抑えられることが報告されている(非特許文献2)。
【0006】
また、特許文献1及び2には、牛乳などの乳又は乳製品に特定の糖類を添加することを含む、加熱臭抑制方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-295335号公報
【特許文献2】特開2006-94856号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(平成30年厚生労働省令第106号)
【非特許文献2】Japanese Journal of Sensory Evaluation, 2016, Vol. 20, No. 1, pp.10-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
牛乳などの乳成分を含有する飲食品について、加熱殺菌の温度及び時間を増加すると、保存方法に多様性が生じ、賞味期限を長大化することができるが、乳成分に依拠する加熱臭が生じて風味が損なわれるという問題がある。したがって、乳成分含有飲食品においては、加熱殺菌の温度及び時間と風味とはトレードオフの関係にある。
【0010】
また、特許文献1及び2に記載の加熱抑制方法は、特定の糖類を用いる。しかし、糖類の添加は乳又は乳製品に不要な甘味を付与し、乳本来の風味が損なわれることになる。さらに、糖類の添加によって、乳又は乳製品のカロリーが増大し、摂取者の体重や体脂肪の増加を招くおそれがある。結果として、糖類を添加した乳又は乳製品は用途が限定されることになる。
【0011】
そこで、本発明は、乳成分を含有し、かつ、加熱処理されたものでありながら、糖類を添加せずとも、加熱臭が抑制された飲食品及び該飲食品を製造するために利用される乳成分の加熱臭を抑制するための組成物を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を積み重ね、低温殺菌した牛乳と高温殺菌した牛乳との間における香気成分の相違について調べたところ、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは低温殺菌牛乳の風味を特徴づける成分であり、これを高温殺菌した牛乳に添加したところ、加熱臭が低減して、風味が優れた牛乳を得ることに成功した。
【0013】
さらに驚くべきことに、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを生乳に添加したものを高温殺菌処理に供したところ、加熱臭が低減して、風味が優れた牛乳を得ることに成功した。すなわち、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは、加熱処理の前後の乳成分に対して、加熱臭抑制作用を有することを見出した。
【0014】
これらの知見を基にして、遂に、本発明者らは、原料として乳成分を含有し、かつ、外部添加した(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを含有するものとして、加熱臭が抑制された加熱処理飲食品及び乳成分の加熱臭抑制用組成物を創作することに成功した。本発明はこのような知見及び成功例に基づいて完成するに至った発明である。
【0015】
したがって、本発明によれば、以下の各態様のものが提供される。
[1]原料として乳成分を含有し、かつ、外部添加した(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを含有する、加熱処理飲食品。
[2]前記加熱処理飲食品における(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの含有量は、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを外部添加していない加熱処理飲食品における(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの含有量よりも大きい、[1]に記載の加熱処理飲食品。
[3]前記乳成分は非加熱処理乳成分であり、かつ、前記(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの外部添加量が1ppb以上である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の加熱処理飲食品。
[4]前記乳成分は加熱処理乳成分であり、かつ、前記(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの外部添加量が0.01ppb以上である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の加熱処理飲食品。
[5]前記加熱処理は、80~155℃の温度での加熱処理である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の加熱処理飲食品。
[6](E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを有効成分として含有する、乳成分の加熱臭抑制用組成物。
[7](E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールと非加熱処理の乳成分とを混合処理及び加熱処理に供することにより、加熱処理飲食品を得ることを含む、加熱処理飲食品の製造方法。
[8]加熱処理した乳成分と(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールとを混合処理に供することにより、加熱処理飲食品を得ることを含む、加熱処理飲食品の製造方法。
[9]加熱処理した乳成分又は非加熱処理の乳成分と(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールとを混合処理に供することを含む、乳成分の加熱臭の抑制方法。
[10]乳成分と、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールとを含む、加熱処理飲食品製造用キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、乳成分を含有し、かつ、加熱処理されたものでありながら、加熱臭が抑制された飲食品を提供することができる。特に、本発明によれば、HTLT、HTST、UHTなどの高温殺菌処理に供されたものでありながら、加熱臭が抑制された乳成分含有飲食品を提供することができる。
【0017】
本発明によれば、乳成分含有飲食品それ自体、又は乳成分含有飲食品を使用した料理を、乳成分に依拠する加熱臭の抑制を通じて、風味の良好なものにすることが可能である。また、本発明によれば、乳成分を含有する飲食品について、加熱臭を抑制して風味を良好にしつつも、保存方法に多様性をもたせ、賞味期限を長大化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、後述する実施例に記載されているとおりの、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを後添加した加熱殺菌牛乳の官能評価結果を示す。(A)は香気での官能評価結果を示し、(B)は風味での官能評価結果を示す。
図2図2は、後述する実施例に記載されているとおりの、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを前添加した加熱殺菌牛乳の官能評価結果を示す。(A)は香気での官能評価結果を示し、(B)は風味での官能評価結果を示す。
図3図3は、後述する実施例に記載されているとおりの、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを前添加した加熱殺菌牛乳の官能評価結果を示す。(A)は香気での官能評価結果を示し、(B)は風味での官能評価結果を示す。
図4図4は、後述する実施例に記載されているとおりの、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを前添加した加熱殺菌牛乳の官能評価結果を示す。(A)は香気での官能評価結果を示し、(B)は風味での官能評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一態様である加熱処理飲食品、乳成分の加熱臭抑制用組成物、加熱処理飲食品の製造方法、乳成分の加熱臭の抑制方法及び加熱処理飲食品製造用キットの詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0020】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測や理論は、本発明者らのこれまでの知見や経験によってなされたものであることから、本発明の技術的範囲はこのような推測や理論のみによって拘泥されるものではない。
【0021】
本明細書における用語の意味のうち、非特許文献1である「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(以下、乳等省令)に記載があるものは、乳等省令に記載されているとおりの意味として解釈される。
【0022】
「飲食品」は、飲料品、食料品又はその両方を意味する。
「組成物」は、2種以上の成分が組み合わさってなる物であり、例えば、有効成分と別の物質とが組み合わさってなるもの、有効成分の2種以上が組み合わさってなるものなどが挙げられ、より具体的には、有効成分の1種以上と固形成分又は溶媒成分の1種以上とが組み合わさってなる固形組成物及び液性組成物などが挙げられる。
「及び/又は」は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「外部添加」は、原料である乳成分とは別に添加することを意味する。「外部添加量」は、原料である乳成分とは別に添加する量を意味する。
「香気」は、口に含まずに鼻だけで感じる香りをいう。
「風味」は、口に含んだ際に口腔内から鼻へ抜ける香り及び口に含んだ際に舌で感じる味をいう。
「加熱臭」は、クックドフレーバーともよび、乳成分を加熱処理に供した際に生じる不快臭をいう。不快臭の原因物質は、上野川修一らの文献(「ミルクの事典」、朝倉書店、2009年11月20日)によれば、ホエイタンパク質の含硫アミノ酸から生じる硫化水素、ジメチルサルファイド、メルカプタン、メイラード反応の過程で生じるアルデヒド及びピラジン類、脂肪の熱分解産物などが想定される。
「加熱臭の抑制」とは、香気及び/又は風味として、加熱臭が感じられなくなるようにする、又は加熱臭が感じられる程度を低減することを意味する。
【0023】
[加熱処理飲食品]
本発明の一態様の加熱処理飲食品は、乳成分及び(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを少なくとも含有する。ただし、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは、乳成分に含まれるものではなく、外部添加されたものである。なお、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは、低温殺菌乳の方が、高温殺菌乳よりも、人の嗅覚や味覚で感知されやすい。そして、加熱臭は高温殺菌乳において顕著に発生し、高温殺菌乳に(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを外部添加すると加熱臭が抑制される。このような事実から推測すると、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは、乳成分の加熱臭をマスキングする可能性がある。
【0024】
乳成分は、乳に含まれる成分であればよく、例えば、乳脂肪分及び無脂乳固形分などが挙げられる。乳成分は、乳成分を含む乳及び乳製品であってもよい。乳は、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳及び加工乳をいう。乳製品は、クリーム、ホイップクリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、タンパク質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、調製液状乳、発酵乳、乳酸菌飲料及び乳飲料をいう。
【0025】
乳成分は、加熱の有無によって、非加熱処理乳成分及び加熱処理乳成分に分けられる。ここで、本明細書では、非加熱処理乳成分及び加熱処理乳成分を、加熱臭の有無によって分けることにした。例えば、乳中の乳固形分を遠心分離などにより分離する際に、分離効率を上げるために60℃前後に加熱することがあるが、この程度の温度では加熱臭はほとんど生じない。そこで、本明細書では、非加熱処理乳成分は非加熱の乳成分及び加熱臭が感じられないような70℃未満に加熱した乳成分を包含し、加熱処理乳成分は70℃以上に加熱した乳成分をいう。
【0026】
乳成分の含有量は加熱した際に加熱臭が生じる程度の量であれば特に限定されず、例えば、加熱処理飲食品の全量に対して、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。乳成分の含有量の上限は特に限定されないが、典型的には外部添加する(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを除いた残余量である。
【0027】
(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは、合成や分離されたものでも、市販されているものでも、どちらでもよい。また、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは、R配位及びS配位のいずれのものでも用いることができる。
【0028】
(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは、加熱処理飲食品に外部添加するように用いられる。(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの外部添加の方法は特に限定されず、例えば、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの純品を加熱処理飲食品に添加すること、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールをトリアセチン、水、エタノール、酢酸メチルなどの溶媒で希釈して得られる希釈液を添加することなどが挙げられる。
【0029】
また、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは、すでに加熱処理した乳成分を含有する加熱処理飲食品に添加(後添加)してもよいし、未だ加熱処理していない乳成分に添加(前添加)してもよい。
【0030】
(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの外部添加量は、加熱処理飲食品における加熱臭を抑制することができる量であれば特に限定されない。加熱臭を抑制することができる量とは、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを外部添加した場合に、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを外部添加していないときに発生する加熱臭が、香気又は風味において、弱く感じられる、又は感じられなくなる量をいう。
【0031】
(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの外部添加量は、加熱臭の強さに応じて増減することから、加熱処理の態様、外部添加するタイミングなどによって、適宜変更され得る。
【0032】
例えば、本発明者らが調べたところによれば、生乳を間接加熱法によって連続式低温殺菌法で66℃、30分間で低温殺菌すると未変性ホエイタンパク質が88質量%に減少する。また、生乳を間接加熱法によって130℃、2秒間で超高温殺菌すると未変性ホエイタンパク質が9質量%に減少する。ホエイタンパク質の含硫アミノ酸から生じる硫化水素、ジメチルサルファイド、メルカプタンなどが加熱臭の一因とされていることから、低温殺菌牛乳よりも超高温殺菌牛乳の方が未変性ホエイタンパク質の量が減り、それに伴い硫化水素、ジメチルサルファイド、メルカプタンなどの量が増え、加熱臭が感じられると想定される。
【0033】
実際に、牛乳の官能評価経験のあるパネル8名(30代~50代男女)に対して、7段階評点法によるブラインド官能評価試験を実施したところ、超高温殺菌牛乳の方が低温殺菌牛乳よりも加熱臭が有意に強かった(P<0.01)。
【0034】
以上のとおり、低温殺菌牛乳よりも高温殺菌牛乳の方が加熱臭は強いことから、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの外部添加量は、低温殺菌牛乳よりも高温殺菌牛乳の方が多いことが好ましい。
【0035】
また、後述する実施例に記載があるとおり、後添加の方が、前添加よりも、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの添加量が少なくても加熱臭を抑制する効果が得られ得る。これは(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールが揮発性物質であり、前添加の場合は加熱処理により揮散して加熱処理飲食品における含有量が小さくなるからである。したがって、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの外部添加量は、前添加よりも後添加の方が多いことが好ましい。また、加熱処理飲食品における(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの含有量は、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを外部添加していない加熱処理飲食品における(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの含有量よりも大きいことが好ましい。
【0036】
(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの外部添加量は、乳成分が加熱処理乳成分である場合は、飲食品あたり0.01ppb以上であることが好ましく、乳成分に供した加熱処理が高温殺菌処理である場合は、飲食品あたり0.1ppb以上であることがより好ましく、0.5ppb以上であることがさらに好ましい。
【0037】
具体的には、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの外部添加量は、乳成分が非加熱処理乳成分である場合は、飲食品あたり1ppb以上であることが好ましく、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを外部添加した後に非加熱乳成分を含む飲食品を高温殺菌処理に供する場合は、15ppb以上であることが好ましく、特に、超高温滅菌(140℃以上で2~4秒間)で処理した場合には、25ppb以上であることがさらに好ましい。
【0038】
加熱処理飲食品は、原料である加熱処理乳成分又は加熱処理乳成分を含む原料へ(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを外部添加してなるもの、原料である非加熱処理乳成分又は非加熱処理乳成分を含む原料へ(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを外部添加し、次いで加熱処理してなるものなどが挙げられる。ただし、加熱処理飲食品は、原料である加熱処理乳成分又は加熱処理乳成分を含む原料へ(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを外部添加し、次いで加熱処理してなるものであってもよい。
【0039】
乳成分及び飲食品の加熱処理の条件は特に限定されず、例えば、低温殺菌及び高温殺菌の際に採用する加熱処理などが挙げられるが、加熱臭が生じるような加熱処理が好ましく、80℃以上の温度での加熱処理がより好ましく、80℃~155℃の温度での加熱処理がさらに好ましく、80℃~155℃の温度での数秒間~数分間での加熱処理がなおさらに好ましい。
【0040】
加熱処理の条件の具体的態様は、63~65℃で30分間程度殺菌する「低温保持殺菌」(LTLT)及び65~68℃で30分間程度殺菌する「連続式低温殺菌」(LTLT)などの低温殺菌に基づく加熱処理;72℃以上で15秒間以上殺菌する「高温短時間殺菌」(HTST)、75℃以上で15分間以上殺菌する「高温保持殺菌」(HTLT)及び120~150℃の超高温で1~3秒間殺菌する「超高温瞬間殺菌」(UHT)などの高温殺菌に基づく加熱処理であり、このうち好ましい具体的態様はUHTに基づく加熱処理である。
【0041】
加熱処理の方法は、乳や飲食品を上記した条件に供することができる方法であれば特に限定されず、例えば、乳や乳製品を殺菌処理する際に採用する方法などが挙げられ、具体的にはバッチ殺菌法、直接加熱殺菌法(インジェクション式、インフュージョン式)、間接加熱殺菌法(プレート式、チューブラー式、シェル&チューブ式、バッチ式)などが挙げられるが、好ましくは間接加熱殺菌法である。
【0042】
加熱処理飲食品の具体的態様としては、上記した乳及び乳製品に加えて、これらの加工物、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、果汁入り飲料、ゼリー、ムース、ババロア、プリン、ホットケーキ、パンケーキ、ケーキ、ホワイトソースなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
加熱処理飲食品は、容器に詰めて密封した容器詰加熱処理飲食品とすることができる。加熱処理飲食品は、容器に詰めて密封された後に加熱処理に供されたものであってもよい。容器は特に限定されないが、例えば、紙、PETやPTPなどのプラスチック、ガラス、アルミなどの金属等を素材とする包装容器が挙げられる。容器詰加熱処理飲食品は、それ自体で独立して、流通におかれて市販され得るものである。
【0044】
加熱処理飲食品は、加工せずにそのままで飲食の用に供されてもよいし、各種料理を調理する際の食材として用いてもよい。
【0045】
[乳成分の加熱臭抑制用組成物]
本発明の別の一態様は、乳成分を加熱処理に供した際に発生する加熱臭を抑制するための組成物としての、乳成分の加熱臭抑制用組成物である。本発明の一態様の乳成分の加熱臭抑制用組成物は、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを有効成分として少なくとも含有する。
【0046】
本発明の一態様の乳成分の加熱臭抑制用組成物は、乳成分や乳成分を用いて得られる飲食品の態様に応じて、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールに加えて、食材、調味料、食品添加物などのその他の成分を含有してもよい。
【0047】
本発明の一態様の乳成分の加熱臭抑制用組成物が有する加熱臭抑制作用は、本発明の一態様の乳成分の加熱臭抑制用組成物を使用しない場合に感じられる加熱臭を完全又は部分的に抑制する作用をいう。本発明の一態様の乳成分の加熱臭抑制用組成物が有する加熱臭抑制作用は、後述する実施例に記載の官能評価方法により確認できる。
【0048】
[加熱処理飲食品の製造方法]
本発明の別の一態様は、本発明の一態様の加熱処理飲食品を製造するための方法としての、加熱処理飲食品の製造方法である。加熱処理飲食品の製造方法は、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの添加のタイミング、すなわち、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの前添加又は後添加に応じて、2つの態様に分けられる。
【0049】
本発明の第1の態様の加熱処理飲食品の製造方法は、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを前添加する方法であり、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールと乳成分とを混合処理及び加熱処理に供することにより、加熱処理飲食品を得ることを少なくとも含む。
【0050】
本発明の第2の態様の加熱処理飲食品の製造方法は、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを後添加する方法であり、加熱処理した乳成分と(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールとを混合処理に供することにより、加熱処理飲食品を得ることを少なくとも含む。
【0051】
混合処理は、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールと、非加熱処理の乳成分又は加熱処理した乳成分と、が混ざり合う条件での処理であれば特に限定されず、例えば、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを乳成分又は加熱処理した乳成分へ添加して、必要に応じて低温又は室温下で、撹拌又は振盪することを含む処理などが挙げられる。
【0052】
[乳成分の加熱臭の抑制方法]
本発明の別の一態様は、乳成分を加熱処理に供した際に発生する加熱臭を抑制するための方法としての、乳成分の加熱臭の抑制方法である。本発明の一態様の乳成分の加熱臭の抑制方法は、非加熱処理の乳成分又は加熱処理した乳成分と、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールと、を混合処理に供することを少なくとも含む。(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールと、非加熱処理の乳成分又は加熱処理した乳成分と、を混合することにより、後段の加熱処理により発生する加熱臭又は前段の乳成分の加熱処理によりすでに発生した加熱臭を抑制することができる。
【0053】
[加熱処理飲食品製造用キット]
本発明の別の一態様は、乳成分を含む原料を加熱処理し、さらに乳成分の加熱臭が抑制された飲食品を製造するためのキットとしての、加熱処理飲食品製造用キットである。本発明の一態様の加熱処理飲食品製造用キットは、乳成分と、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールとを少なくとも含む。乳成分は、加熱処理されたものでも、加熱処理されていないものでも、どちらでもよい。
【0054】
本発明の一態様の加熱処理飲食品製造用キットにおいて、乳成分と、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールとは、1つの容器に混合された状態にあってもよく、それぞれ個別の容器に容れられて個装された状態にあってもよい。本発明の一態様の加熱処理飲食品製造用キットは、乳成分及び(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールに加えて、食材、調味料、食品添加物、加熱処理のための容器などを含んでもよい。
【0055】
本発明の一態様の加熱処理飲食品製造用キットの具体例としては、それぞれ個装された、乳成分、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、砂糖及び耐熱容器を含むホットミルク製造用キットなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0056】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0057】
[例1.(E)-4,5-エポシキ-(E)-2-デセナールが有する後添加処理における加熱臭抑制作用の評価]
加熱臭(クックドフレーバー)がある加熱処理乳(超高温殺菌牛乳)に、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを添加した場合(後添加)、加熱臭の強弱が変化するか否かについて官能評価により調べた。
【0058】
1-1.(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール溶液
(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール(長谷川香料社製;CAS No.188590-62-7)をトリアセチンに溶解して、濃度が0.001w/w%である(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール溶液を調製した。
【0059】
1-2.官能評価方法
10℃の牛乳サンプルを、記号化したプラスチック容器に60mlずつ注ぎ、牛乳の官能評価経験のあるパネル12名(30代~50代男女)に供試するブラインド評価を実施した。
【0060】
評価項目として、「牛乳サンプルを口に含まずに鼻だけで感じる香りの強弱を指標とした加熱臭の強弱(香気)」と「牛乳サンプルを口に含んだ際に口腔内から鼻へ抜ける香り及び口に含んだ際に舌で感じる味を指標とした加熱臭の強弱(風味)」について、それぞれ7段階評点法(1点:弱い~7点:強い)で評価した。
【0061】
1-3.統計処理
ブラインドで行った官能評価結果(7段階評点法)について、パネルをブロック因子とする「Studentのt検定」又は「Tukey-KramerのHSD検定」による分散分析と、各分析結果の有意差検定と、を解析ソフト「JMP10」(SAS Institute社、アメリカ)を用いて実施した。
【0062】
1-4.牛乳サンプルの調製
被験群として、岩手県産の生乳を、間接加熱法により、130℃、2秒間の超高温殺菌(UHT)に供して得られた加熱処理乳に、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール溶液を(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの添加量が0.5ppbになるように添加して、牛乳サンプル1を得た。
【0063】
コントロール群として、岩手県産の生乳を、間接加熱法により、130℃、2秒間の超高温殺菌(UHT)に供して得られた加熱処理乳を牛乳コントロール1とした。
【0064】
1-5.官能評価結果
牛乳サンプルについて、香気及び風味の官能評価により得られた結果を表1及び図1に示す。表1において、コントロール群に対して、危険率5%で有意であったものには「*」を付し、危険率1%で有意であったものには「**」を付した。
【0065】
また、図1のひし形において、グラフ縦軸方向の中央に位置するグラフ横軸方向平行線(図1(A)中の符号「▲」)のグラフ縦軸方向の位置は、各サンプルの平均値を示す。ひし形の頂点間を結ぶ高さは、各サンプル平均値の95%信頼区間を示し、ひし形の右側に位置する円の直径に対応している。ひし形の内部における2本の横軸方向平行線をオーバーラップマーク(図1(A)中の符号「△」)という。被験群のオーバーラップマーク間を結ぶグラフ縦軸方向平行線が、コントロール群のオーバーラップマーク間を結ぶグラフ縦軸方向平行線と、グラフ横軸方向で重ならない場合には、被験群はコントロール群と有意水準5%で有意差があることを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1及び図1に示すとおり、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを後添加することにより、香気及び風味のいずれにおいても加熱臭が有意に抑制されることがわかった。
【0068】
[例2.(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールが有する前添加処理における加熱臭抑制作用の評価]
生乳である非加熱処理乳に、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを添加した後に超高温殺菌した場合(前添加)、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの添加量に応じて加熱臭の強弱が変化するか否かについて官能評価により調べた。なお、超高温殺菌の条件は、熱履歴(熱のかかり)の異なる2種類の条件、すなわち、130℃、2秒間の条件と、140℃、3秒間の条件との2種類を用いた。ここで、140℃、3秒間の条件による殺菌は、通称「ロングライフ」、「超高温滅菌」などといわれる殺菌であり、130℃、2秒間の条件での殺菌よりも熱履歴が高く、賞味期限が延びるが、加熱臭が強くなる傾向にある。
【0069】
2-1.牛乳サンプルの調製(1)
被験群として、北海道産の生乳に、例1で用いた(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール溶液を(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの添加量が5ppb及び10ppbになるように添加した後、間接加熱法により、130℃、2秒間の超高温殺菌(UHT)に供することにより、それぞれ牛乳サンプル2A-1及び2A-2を得た。
【0070】
コントロール群として、北海道産の生乳を130℃、2秒間の超高温殺菌(UHT)に供して得られた加熱処理乳を牛乳コントロール2Aとした。
【0071】
2-2.牛乳サンプルの調製(2)
被験群として、北海道産の生乳に、例1で用いた(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール溶液を(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの添加量が15ppb及び25ppbになるように添加した後、間接加熱法により、130℃、2秒間の超高温殺菌(UHT)に供することにより、それぞれ牛乳サンプル2B-1及び2B-2を得た。
【0072】
コントロール群として、北海道産の生乳を130℃、2秒間の超高温殺菌(UHT)に供して得られた加熱処理乳を牛乳コントロール2Bとした。
【0073】
2-3.牛乳サンプルの調製(3)
被験群として、北海道産の生乳に、例1で用いた(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール溶液を(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの添加量が15ppb及び25ppbになるように添加した後、間接加熱法により、140℃、3秒間の超高温殺菌(UHT)に供することにより、それぞれ牛乳サンプル2C-1及び2C-2を得た。
【0074】
コントロール群として、北海道産の生乳を、間接加熱法により、140℃、3秒間の超高温殺菌(UHT)に供して得られた加熱処理乳を牛乳コントロール2Cとした。
【0075】
2-4.官能評価方法及び統計処理
例1と同様にして官能評価及び統計処理を実施した。
【0076】
2-5.官能評価結果
牛乳サンプルについて、香気及び風味の官能評価により得られた結果を、それぞれ表2~表4及び図2図4に示す。また、表中の記号及び図の意味については、表1及び図1と同様である。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
表2~表4に示すとおり、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを前添加することにより、加熱臭が抑制される傾向にあることがわかった。特に、130℃、2秒間のUHTでは(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの添加量が15ppb以上である場合に、香気及び風味のいずれにおいても加熱臭を有意に抑制した。また、140℃、3秒間のUHTでは(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの添加量が15ppb以上である場合に、風味における加熱臭を抑制する傾向にあった。
【0081】
[例3.(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールによるホイップクリームの加熱臭抑制作用の評価]
乳脂肪分35%のクリーム(北海道産)を、直接殺菌法により、148℃、2秒間の超高温殺菌(UHT)に供して乳製品を得た。被験群として、得られた乳製品に、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール溶液を(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの添加量が1.0ppbになるように添加して、クリームサンプル1を得た。
【0082】
コントロール群として、乳脂肪分35%のクリーム(北海道産)を、直接殺菌法により、148℃、2秒間の超高温殺菌(UHT)に供して得られた乳製品をクリームコントロール1とした。
【0083】
500gのクリームサンプル1に砂糖35gを加え、ミキサー(ホバート社製)を用いて、中速で10分立てになるまでホイップさせて、ホイップクリームサンプル1を得た。同様に、クリームコントロール1をホイップさせて、ホイップクリームコントロール1を得た。得られたホイップクリームについて3名で比較試食したところ、ホイップクリームサンプル1は、ホイップクリームコントロール1に対して、風味における加熱臭が抑制される結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、加熱臭を抑制して風味を良好にしつつも、保存方法に多様性があり、賞味期限が長大化した乳成分含有飲食品を、工業的規模で製造及び使用することができる。


図1
図2
図3
図4