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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093450
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】コアレスモータ及び発電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20220616BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
H02K9/19 A
H02K9/19 B
H02K7/116
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072955
(22)【出願日】2022-04-27
(62)【分割の表示】P 2020204002の分割
【原出願日】2019-12-23
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/031502
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517221310
【氏名又は名称】コアレスモータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】白木 学
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦幸
(72)【発明者】
【氏名】川野 将太郎
(57)【要約】
【課題】簡易な構造で、モータ稼働時におけるコイルの過熱を抑制し、コイルに過剰な電流を供給して電動モータを高回転出力させることが可能なコアレスモータを提供する。
【解決手段】密閉されているハウジングの中央で軸方向に伸びている回転中心軸と、前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、一方の側の端面がステータに支持されて前記回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状コイルと、前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、前記回転中心軸の円周方向に回転するロータと、前記ハウジング内に収容されていて、前記ロータの回転によって前記ハウジング内を流動し、前記円筒状コイルに接触する液状冷媒とを備えているコアレスモータ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉されているハウジングの中央で軸方向に伸びている回転中心軸と、
前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、一方の側の端面がステータに支持されて前記回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状コイルと、
前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、前記回転中心軸の円周方向に回転するロータであって前記円筒状コイルを半径方向で互いの間に挟む円筒状のインナーヨークと円筒状のアウターヨークとからなり、前記インナーヨークの外側面あるいは前記アウターヨークの内側面に磁石を備えているロータと、
前記ハウジング内に収容されている液状冷媒であって、静止状態で前記軸方向に伸びる液面が前記アウターヨークの外周面に接触している液状冷媒と
を備えていて、
前記ロータの回転によって前記液状冷媒が前記ハウジング内を流動し、前記円筒状コイルに接触する
コアレスモータ。
【請求項2】
前記アウターヨークは、前記アウターヨークを半径方向に貫通する孔を備えている請求項1記載のコアレスモータ。
【請求項3】
密閉されているハウジングの中央で軸方向に伸びている回転中心軸と、
前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、一方の側の端面がステータに支持されて前記回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状コイルと、
前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、前記回転中心軸の円周方向に回転するロータであって前記円筒状コイルを半径方向で互いの間に挟む円筒状のインナーヨークと円筒状のアウターヨークとからなり、前記インナーヨークの外側面あるいは前記アウターヨークの内側面に磁石を備えているロータと、
前記ハウジング内に配備されていて、前記回転中心軸を中心とする前記ロータの回転運動を回転運動出力部の回転運動に伝達する遊星歯車機構からなる減速機と、
前記ハウジング内に収容されている液状冷媒であって、静止状態で前記軸方向に伸びる液面が前記アウターヨークの外周面に接触している液状冷媒と
を備えていて、
前記ロータの回転によって前記液状冷媒が前記ハウジング内を流動し、前記円筒状コイルに接触する
コアレスモータ。
【請求項4】
前記減速機は、前記回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状のギアケース内に収容されており、当該ギアケースは、当該ギアケースを半径方向に貫通する孔を備えている請求項3記載のコアレスモータ。
【請求項5】
前記静止状態における前記液状冷媒の前記軸方向に伸びる液面が前記遊星歯車機構の半径方向における最も外周縁に接触している
請求項3又は4記載のコアレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
電動モータについては、通常運転時に電動モータを構成するコイル、マグネットなどの温度上昇に対して保証される使用限度が、一般的に、製造元から定格として表示される。定格は、所定の電圧で電動モータを、定格トルクまたは定格出力で稼働する際に、製造元が保証する独自基準で、一般的には、カタログや諸元表に記載されている。例えば、電動モータが所定の電圧で良好な特性を発揮しながら発生する最大出力が定格出力、定格出力で運転されているときの回転速度が定格回転速度、そのときのトルクが定格トルク、そのときの電流が定格電流として表示される。
【0002】
本願出願人が市場に提供した電動モータとして、ハウジング内で回転中心軸に対して同心円状に配置され一方の側の端面がステータに支持されて回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状コイルと、ハウジング内で回転中心軸に対して同心円状に配置され回転中心軸の円周方向に回転するロータとを備えている構造のものがある。
【0003】
このコアレスモータの定格は、円筒状コイルの温度が許容上限温度130℃を超えない条件として、定格トルクT0=0.28Nm、定格電流I0=9.7Arms、定格回転速度n0=6537rpm、定格出力P0=191.67Wであった。
【0004】
このコアレスモータを用いて、定格を越える条件で駆動させて検討したところ、駆動開始後、僅か数十秒で円筒状コイルの許容上限温度130℃を超えることになった。このことから容易に想定され得る最悪の事態は、定格を越える条件で駆動させると、円筒状コイルが焼損し破壊されることである。また、たとえ破壊にまで至らなくとも、性能面から、コアレスモータの長時間の正常運転を期待することはできなくなるということである。
【0005】
このように、電動モータは、始動時などに定格電流を瞬間的に超えることはあっても、通常、定格を超える状態で連続運転されることを想定していない。電動モータを過負荷の状態、つまり定格以上で連続運転すると、電流によって電動モータのコイルは想定以上に発熱する。
【0006】
そこで、本願の発明者は、円筒状コイルを備えているコアレスモータに冷却機構を配備することで、円筒状コイルの発熱やマグネットの加熱に伴う電動モータの性能低下を防止したり、定格を超える負荷で稼働できるようにする提案を行っている(特許文献1、2)。
【0007】
また、電動モータに冷却機能を付加することは、従来から種々提案されている(例えば、特許文献3、4、5、6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5943333号公報
【特許文献2】特許第6399721号公報
【特許文献3】特開平4-359653号公報
【特許文献4】特開2018-157645号公報
【特許文献5】特開2014-90553号公報
【特許文献6】米国特許出願公開公報US2014/0175917
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、簡易な構造で、稼働時におけるコイルの過熱を抑制し、高出力可能なコアレスモータ及び発電機を提供することを目的にしている。
【0010】
特に、回転中心軸と、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され前記回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状コイルと、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、前記円筒状コイルを半径方向で互いの間に挟む円筒状のインナーヨークとアウターヨークとからなり前記インナーヨークの外側面あるいは前記アウターヨークの内側面に磁石を備えていて前記回転中心軸の円周方向に回転するロータとを備えている構成のコアレスモータ及び発電機において、稼働時におけるコイルの過熱を抑制し、高出力可能なコアレスモータ及び発電機を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
密閉されているハウジングの中央で軸方向に伸びている回転中心軸と、前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、一方の側の端面がステータに支持されて前記回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状コイルと、前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、前記円筒状コイルを半径方向で互いの間に挟む円筒状のインナーヨークと円筒状のアウターヨークとからなり、前記インナーヨークの外側面あるいは前記アウターヨークの内側面に磁石を備えていて前記回転中心軸の円周方向に回転するロータとを備えている構成のコアレスモータ及び発電機である。
【0012】
前記ハウジング内に液状冷媒が収容されており、静止状態で前記軸方向に伸びる前記液状冷媒の液面が前記アウターヨークの外周面に接触する構造になっている。そして、前記ロータの回転によって前記液状冷媒が前記ハウジング内を流動し、前記円筒状コイルに接触するものである。
【0013】
円筒状コイルを半径方向で互いの間に挟むインナーヨークとアウターヨークとの間に形成されている断面ドーナッツ状の空間部に、ロータの回転によって液状冷媒を流入させ、発熱している円筒状コイルに液状冷媒を接触させ、円筒状コイルから熱を奪い、奪った熱量をハウジング内を流動する液状冷媒によってハウジングに移し、円筒状コイルよりも表面積が大きいハウジングの外周表面全体から放熱させる。
【0014】
これによって、前記ロータを回転させる稼働によって発熱している円筒状コイルが前記液状冷媒によって冷却され、また発熱している円筒状コイルから熱を奪った前記液状冷媒が前記ハウジング内を流動することで前記ハウジングに熱を伝え、ハウジングの外側表面全体から放熱させる。これによって、コアレスモータ稼働時におけるコイルの過熱を抑制し、コイルに過剰な電流を供給してコアレスモータを高回転出力させることを可能にした。
【0015】
また、前記ハウジング内で高速で回転するロータによってハウジング内で液状冷媒を高速で流動させることで液状冷媒を微細化、微粒子化させる。これによって、噴霧状態になった液状冷媒がハウジング内を高速で流動する。また、この流動する液状冷媒の一部が発熱しているコイルに接触することで気化する。これらによって、ハウジング内部の雰囲気を気液混在状態にする。ハウジング内部の雰囲気が噴霧状態になった液状冷媒が存在している気液混在状態になることで、通電によって発熱しているコイルからハウジングへの熱伝導が向上する。この結果、ハウジングの温度を、発熱しているコイルと同程度の温度にまで効率よく昇温させ、ハウジングの外側表面全体から放熱させる構成にした。これによって、コアレスモータ稼働時におけるコイルの過熱を抑制し、コイルに過剰な電流を供給してコアレスモータを高回転出力させることを可能にした。
【0016】
[1]
密閉されているハウジングの中央で軸方向に伸びている回転中心軸と、
前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、一方の側の端面がステータに支持されて前記回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状コイルと、
前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、前記回転中心軸の円周方向に回転するロータであって前記円筒状コイルを半径方向で互いの間に挟む円筒状のインナーヨークと円筒状のアウターヨークとからなり、前記インナーヨークの外側面あるいは前記アウターヨークの内側面に磁石を備えているロータと、
前記ハウジング内に収容されている液状冷媒であって、静止状態で前記軸方向に伸びる液面が前記アウターヨークの外周面に接触している液状冷媒と
を備えていて、
前記ロータの回転によって前記液状冷媒が前記ハウジング内を流動し、前記円筒状コイルに接触する
コアレスモータ。
【0017】
[2]
前記アウターヨークは、前記アウターヨークを半径方向に貫通する孔を備えている[1]のコアレスモータ。
【0018】
[3]
密閉されているハウジングの中央で軸方向に伸びている回転中心軸と、
前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、一方の側の端面がステータに支持されて前記回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状コイルと、
前記ハウジング内で、前記回転中心軸に対して同心円状に配置され、前記回転中心軸の円周方向に回転するロータであって前記円筒状コイルを半径方向で互いの間に挟む円筒状のインナーヨークと円筒状のアウターヨークとからなり、前記インナーヨークの外側面あるいは前記アウターヨークの内側面に磁石を備えているロータと、
前記ハウジング内に配備されていて、前記回転中心軸を中心とする前記ロータの回転運動を回転運動出力部の回転運動に伝達する遊星歯車機構からなる減速機と、
前記ハウジング内に収容されている液状冷媒であって、静止状態で前記軸方向に伸びる液面が前記アウターヨークの外周面に接触している液状冷媒と
を備えていて、
前記ロータの回転によって前記液状冷媒が前記ハウジング内を流動し、前記円筒状コイルに接触する
コアレスモータ。
【0019】
[4]
前記減速機は、前記回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状のギアケース内に収容されており、当該ギアケースは、当該ギアケースを半径方向に貫通する孔を備えている[3]のコアレスモータ。
【0020】
[5]
前記静止状態における前記液状冷媒の前記軸方向に伸びる液面が前記遊星歯車機構の半径方向における最も外周縁に接触している
[3]又は[4]のコアレスモータ。
【0021】
[6]
上述した[1]~[5]のコアレスモータの構成、構造を備えている発電機
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、簡易な構造で、モータ稼働時におけるコイルの過熱を抑制し、コイルに過剰な電流を供給して電動モータを高回転出力させることが可能なコアレスモータを提供することができる。またそのような構造の発電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るコアレスモータの内部構造を説明する一部を省略した拡大断面図。
図2図1図示の実施形態のコアレスモータの他の実施形態の内部構造を説明する一部を省略した拡大断面図。
図3図1図示の実施形態のコアレスモータの他の実施形態における液状冷媒撹拌手段の他の実施形態を説明する概念図。
図4】本発明の他の実施形態に係るコアレスモータの内部構造を説明する一部を省略した拡大断面図。
図5図4図示の実施形態のコアレスモータの他の実施形態の内部構造を説明する一部を省略した拡大断面図。
図6図5図示の実施形態に採用されている円筒状のギアケースの側面図。
図7図5図示の実施形態に採用されている円筒状のギアケースの斜視図。
図8図4図示の実施形態のコアレスモータの他の実施形態の斜視図。
図9図8図示のコアレスモータの内部構造を説明する一部を破切し、一部を省略して表した斜視図。
図10図8図示のコアレスモータの内部構造を説明する一部を省略して表した断面図。
図11】(a)は、図1図2図示の実施形態でハウジング内に収容されている液状冷媒の静止状態における液面の高さ位置を説明する一部を省略した断面図、(b)は、液状冷媒の静止状態における液面の高さ位置が図11(a)図示の場合よりも高い場合を説明する一部を省略した断面図である。
図12図4図示の実施形態でハウジング内に収容されている液状冷媒の静止状態における液面の高さ位置の一例を説明する一部を省略した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施の形態1)
図1図示のコアレスモータ1は、密閉されているハウジング4と、ハウジング4の中央で軸方向(図1における左右方向)に伸びている回転中心軸5とを備えている。
【0025】
図1図示の実施形態では、回転中心軸5はハウジング4に回転可能に支持されており、回転中心軸5がコアレスモータ1における回転運動出力部になっている。
【0026】
図示の実施形態では、密閉されているハウジング4は、円筒状ケーシング2と、円筒状ケーシング2の図1中の右端側開口部を閉鎖する円板状の蓋部3とからで構成されている。
【0027】
円筒状ケーシング2は、円板状部2bと円筒状部2aとを備えている。円筒状ケーシング2を構成する円筒状部2aの図1中の右端部は、パッキン7a、7bを介して、円板状の蓋部3に圧着されている。回転中心軸5は蓋部3の半径方向内側で、シール付きベアリング6a、6b、6c、6dを介して、ハウジング4に回転可能に支持されている。シール付きベアリング6a、等としては、例えば、オイルシール付きベアリングを採用することができる。以下、本明細書にて、シール付きベアリング6a、6b、6c、6dを、単に、べアリング6a、6b、6c、6dと記載することがある。
【0028】
図示の実施形態では、パッキン7a、7b、ベアリング6a、6b、6c、6dの存在によってハウジング4の密閉が図られている。
【0029】
コアレスモータ1は、ハウジング4の内側に円筒状コイル8、ロータ12を備えている。
【0030】
円筒状コイル8は、回転中心軸5に対して同心円状に配置され、一方の側の端面(図1の実施形態では、右側端面)がハウジング4に支持されているステータに支持されて回転中心軸5が伸びる方向に伸びている。
【0031】
円筒状コイル8は通電可能な無鉄心コイルである。図示の実施形態では、図1中、回転中心軸5が伸びる方向である長手方向に複数の離間された線状部と絶縁層を介して重畳により形成される導電性金属シートの積層体構造によって円筒状に形成されている。半径方向における厚みは、例えば、5mm以下で、所定の剛性を備えている。このような円筒状のコイルは、例えば、日本国特許第3704044号に記載されている製造方法によって製造される。
【0032】
ロータ12は、回転中心軸5に対して同心円状に配置され、径方向の中心側で回転中心軸5に支持されている。図1図示の実施形態では、ロータ12は、円筒状コイル8を半径方向で互いの間に挟むインナーヨーク9とアウターヨーク10とからで構成されている。アウターヨーク10はインナーヨーク9に対向する半径方向内側面に磁石11を備えている。これによって、円筒状コイル8を互いの間に挟む、半径方向内側面に磁石11を備えているアウターヨーク10と、インナーヨーク9との間に断面ドーナッツ状の磁界が形成され、磁気回路が形成されている。
【0033】
図1図示の実施形態では、アウターヨーク10の半径方向内側面に磁石11が配備されているが、これに替えて、インナーヨーク9の半径方向外側面に磁石11が配備されている形態にすることもできる。
【0034】
密閉されているハウジング4内には、液状冷媒20が収容されている。図1図示の実施形態では、ハウジング4の円板状の蓋部3が、栓15によって密封される開口部14を備えている。
【0035】
栓15を開口部14から取り外し、所定の量の液状冷媒20をハウジング4内に入れた後、再び、栓15で開口部14を塞ぐことで、ハウジング4の密閉状態を維持している。
【0036】
液状冷媒20としては、機械動作部の潤滑に使用されるオイルや、不凍液、水などを採用することができる。
【0037】
図1図示のコアレスモータ1において、インナーヨーク9とアウターヨーク10との間に断面ドーナッツ状の磁界が形成されている下で円筒状コイル8に所定の電流を供給することによりロータ12は回転中心軸5の円周方向に回転する。ロータ12を構成しているインナーヨーク9の半径方向内側は回転中心軸5に支持されており、これによって、回転中心軸5も図1に矢印21で示す周方向に回転運動する。
【0038】
図1図11(a)図示のように、ハウジング4内に収容されている液状冷媒20は、静止状態で軸方向に伸びる液面がアウターヨーク10の外周面に接触する構造になっている。
【0039】
ロータ12が回転中心軸5の円周方向に回転すると、アウターヨーク10の外周面に接触している液状冷媒20は、アウターヨーク10の外周面に連れられてアウターヨーク10が回転する円周方向に流動し、アウターヨーク10の外周面上を円周方向に上昇する。ハウジング4内でアウターヨーク10の外周面上を円周方向に上昇した液状冷媒4は、その後、その重さによって、アウターヨーク10の外周面に沿って図1図示の水平状態におけるハウジング4底面側にまで落下する。ロータ12の回転運動によって液状冷媒20がこのような流動動作を繰り返す中で、円筒状コイル8を半径方向で互いの間に挟むインナーヨーク9とアウターヨーク10との間に形成されている断面ドーナッツ状の空間部に、図1における左右の端部から液状冷媒20の一部が流入する。流入した液状冷媒20は稼働によって温度が上昇し始めた円筒状コイル8に接触する。
【0040】
こうして液状冷媒20の中の一部が発熱している円筒状コイル8に接触することで円筒状コイル8が冷却される。また、発熱している円筒状コイル8から熱を奪った液状冷媒20がハウジング4内を流動することで液状冷媒20を介してハウジング4に熱が伝えられ、ハウジング4の温度が上昇し、ハウジング4の外側表面全体から放熱が行われる。これによって、コアレスモータ稼働時におけるコイルの過熱が抑制され、コイルに過剰な電流を供給してコアレスモータ1を高回転出力させることが可能になる。
【0041】
密閉されているハウジング4の中央で軸方向に伸びている回転中心軸5と、ハウジング4内で、回転中心軸5に対して同心円状に固定配置されて回転中心軸5が伸びる方向に伸びている円筒状コイル8と、回転中心軸5に対して同心円状に配置され、円筒状コイル8を半径方向で互いの間に挟む円筒状のインナーヨーク9とアウターヨーク10とからなり、インナーヨーク9の外側面あるいはアウターヨーク10の内側面に磁石11を備えていて回転中心軸5の円周方向に回転するロータ12とを備えている構成のコアレスモータで、ハウジング4内に液状冷媒20が収容されていて、図1図示の静止状態で軸方向に伸びる液状冷媒20の液面がアウターヨーク10の外周面に接触し、ロータ12の回転によって液状冷媒12がハウジング4内を流動して円筒状コイル8に接触する構成でモータ稼働時におけるコイルの過熱を抑制したのである。
【0042】
特許文献3~6で提案されている電動モータ用の従来の冷却機構には、このように、円筒状コイル8を半径方向で互いの間に挟むインナーヨーク9とアウターヨーク10との間に形成されている断面ドーナッツ状の空間部にロータ12の回転によって液状冷媒を流入させ、発熱している円筒状コイル8に液状冷媒を接触させ、円筒状コイル8から熱を奪う機構は提案されていなかった。
【0043】
また、この実施形態では、密封されているハウジング4内に収納されている液状冷媒20が、上述したように、ロータ12が回転中心軸5の円周方向に高速で回転することで、微細化、微粒子化され、噴霧状態になってハウジング4内を高速で流動する。ハウジング4内を高速で流動する噴霧状態の液状冷媒20は、磁石11の半径方向内側と、円筒状コイル8の半径方向外側との間に形成されている断面ドーナッツ状の隙間及び、インナーヨーク9の半径方向外側と、円筒状コイル8の半径方向内側との間に形成されている断面ドーナッツ状の隙間に入り込む。
【0044】
電流の供給を受けている円筒状コイル8は発熱しており、円筒状コイル8の半径方向内側面、半径方向外側面に接触した噴霧状態の液状冷媒20の一部は、高温の円筒状コイル8によって気化される。
【0045】
この結果、ハウジング4の内部空間は、高速回転するロータ12によって微細化、微粒子化され、噴霧状態になった液状冷媒が存在している気液混在状態になる。この気液混在状態の密閉された雰囲気下でロータ12が高速回転する。高速回転するロータ12によって噴霧状態の気液混在物が密閉状態のハウジング4内を流動することで、ハウジング1内が気体だけである状態の時に比較して、通電によって発熱している円筒状コイル8からハウジング4への熱伝導が向上する。
【0046】
これによって、円筒状コイル8への通電が開始されて、ロータ12が回転開始し、円筒状コイル8の温度が上昇し始めると、ハウジング4を構成する円板状部2b、円筒状部2aの温度も上昇し始め、円板状部2b、円筒状部2aの温度は、次第に、円筒状コイル8の温度に近づいていく。こうして、円板状部2b、円筒状部2aの外側表面という広い放熱面積から放熱が行われる。
【0047】
この結果、コアレスモータ1稼働時における円筒状コイル8の過熱を抑制し、円筒状コイル8に過剰な電流を供給してコアレスモータ1を高回転出力させることが可能になる。
【0048】
図1図示の実施形態では密封されているハウジング4に収納されている液状冷媒20はロータ12の一部に接触する状態でハウジング4に収納されている。そこで、ロータ12が回転すると、直ちに、液状冷媒20は、ハウジング4内を流動開始するようになる。
【0049】
図示していないが、ハウジング4に収納されている液状冷媒20がロータ12の一部に接触していない形態にすることもできる。この場合でも、ロータ12がハウジング4で高速で回転することで、ハウジング4内にロータ12の回転方向に高速の空気流が発生し、この空気流によって、液状冷媒20は、ハウジング4内を流動開始するようになる。
【0050】
図1図示の実施形態では、アウターヨーク8は、アウターヨーク8を半径方向に貫通する孔13a、13b、13c、13dを備えている。
【0051】
ロータ12が回転すると、液状冷媒20は孔13a、13b、13c、13dを介してアウターヨーク10の半径方向内側に向かって流動することが可能になる。
【0052】
そこで、アウターヨーク10の半径方向内側に位置している円筒状コイル8に効率よく接触し、発熱している円筒状コイル8から効率よく熱を奪い、流動によりハウジング4の内壁面に接触して効率よく熱をハウジング4に伝えることができる。
【0053】
また、ロータ12が回転中心軸5の円周方向に高速で回転することで、ハウジング4内における液状冷媒20の流動状態がより活性化され、より効率よく、上述したハウジング4内部空間の気液混在状態が生起されることになる。
【0054】
上述したように、密封されているハウジング4に収納されている液状冷媒20がロータ12の一部に接触している、あるいは、接触していなくても、ロータ12の高速回転によってハウジング4内部空間が気液混在状態になるが、ロータ12が上述したように、半径方向に貫通する孔13aを備えていることで、より効率よく気液混在状態が生起され、発熱している円筒状コイル8からハウジング4へのより効率よい熱伝導が行われる。
【0055】
図1図示の実施形態では、円筒状のアウターロータ10の図1における左端側の円周方向に所定の間隔をあけて複数の孔13a、13b、13c、13dが形成されているが、孔の数や、孔が設けられている位置は図1図示のものに限られない。
【0056】
また、この実施形態において、開口部14、栓15による密閉構造に替えて、後述する図4図示の実施形態で採用している弁体36を採用する形態にし、ハウジング4内の圧力が所定の圧力を越えるときにハウジング4の内部から外部へ気体を噴出させ、ハウジング4内の圧力が前記所定の圧力を下回ると、再度、ハウジング4を密封、密閉する形態にすることもできる。
【0057】
このように、ハウジング4の密封、密閉構造は、ロータ12の回転によってハウジング4内に収容されている液状冷媒20がハウジング4内を流動し、円筒状コイル8に接触して熱を奪い、ハウジング4に伝熱することを可能にする密閉状態が維持されればよいものである。
【0058】
(実施の形態2)
図2は、密閉されているハウジング4内に収容されている液状冷媒20を、ロータ12の回転によって、より効率よくハウジング4内で流動させる実施形態の一例を説明するものである。
【0059】
ロータ12が、ハウジング4の円筒状部2aの内周面側に向かって伸びる撹拌羽根16、16を備えている。その他の構造については、図1図示の実施形態と同一であるので、共通する部材には共通する符号をつけてその説明を省略する。
【0060】
ロータ12が、ハウジング4の円筒状部2aの内周面側に向かって伸びる撹拌羽根16、16を備えていることで、ロータ12が回転中心軸5の円周方向に回転することで生起されるハウジング4内での液状冷媒20の流動がより確実、強力に行われるようになる。
【0061】
図2図示の実施形態では、撹拌羽根16、16は、ロータ12の半径方向外側であって、なおかつ、図2中の右端面から、ハウジング4の円筒状部2aの内周面側に向かう半径方向外側、かつ、ハウジング4の円板状部2bの内面側に向かって伸びている。
【0062】
そこで、コアレスモータ1が、図1図2図示の配置形態で、液状冷媒20が図1図2図示のように収容されているときも、また、図示していないが、コアレスモータ1が、ハウジング4の円板状部2bを下側にし、ハウジング4の外側に向かって伸びる回転中心軸5の先端が上側に向かっている配置形式で、ハウジング4内に収納されている液状冷媒20が円板状部2b側に位置しているときも、ロータ12が回転中心軸5の円周方向に回転することで生起されるハウジング4内での液状冷媒20の流動がより確実、強力に行われるようになる。
【0063】
(実施の形態3)
図3は、密閉されているハウジング4内に収容されている液状冷媒20を、ロータ12の回転によって、より効率よくハウジング4内で流動させる実施形態の他の一例を説明する概念図である。
【0064】
円筒状コイル8が半径方向外側に向かって伸びる撹拌用の突起17を備えている。
【0065】
ロータ12が回転すると、ロータ12の回転で生じる遠心力で、円筒状コイル8の半径方向外側面に対向する箇所に、図3図示のように、液状冷媒20が押しつけられることがある。
【0066】
図3では、アウターヨーク10の半径方向内側面に磁石11が配備されていて、磁石11の周囲に液状冷媒20が入り込んで液体溜りが形成されている。
【0067】
円筒状コイル8から半径方向外側に向かって伸びる撹拌用の突起17が液体溜りに突入するので、ロータ12が回転すると液体溜りが解消されて、液状冷媒20は効率よくハウジング4内で流動するようになる。
【0068】
(実施の形態4)
図1図2図示の実施形態において、密閉されているハウジング4の中央で軸方向に伸びてハウジング4に回転可能に支持されていた回転中心軸が、図4図示の実施形態では、軸方向(図4における左右方向)に伸びる第一回転中心軸5a、第二回転中心軸5b、第三回転中心軸5cによって構成されている。
【0069】
また、図4図示の実施形態では、円筒状ケーシング2を構成する円筒状部2aの図4における右端開口にベアリング6a、6bを介して、円板状の蓋部3が回転可能に取り付けられ、第三回転中心軸5cは円板状の蓋部3に固定されていて、円板状の蓋部3と共に回転するようになっている。
【0070】
図1図2の実施形態では、ロータ12はその半径方向内側が回転中心軸5に支持されていて、ロータ12の回転により、直接、回転中心軸5が回転していた。図4図示の実施形態では、回転中心軸を中心とするロータ12の回転運動を回転運動出力部である第三回転中心軸5cの回転運動に伝達する遊星歯車機構からなる減速機がハウジング4内に配備されている。
【0071】
図1図2図示の実施形態では、回転中心軸5がコアレスモータ1における回転運動出力部になっていたが、上述した構成により、図4図示の実施形態では、第三回転中心軸5cがコアレスモータ1における回転運動出力部になっている。
【0072】
図1図2図示の実施形態では、ハウジング4の円板状の蓋部3が、栓15によって密封される開口部14を備えていて、栓15を開口部14から取り外し、所定の量の液状冷媒20をハウジング4内に入れた後、再び、栓15で開口部14を塞いでハウジング4の密閉状態を維持していた。
【0073】
これに対して、図4図示の実施形態では、密閉されているハウジング4が弁体36を備えている。図4では、ハウジング4の円筒状部2aに弁体36が配備されている。弁体36は円筒状部2aに対して着脱自在であり、弁体36を円筒状部2aから取り外して、ハウジング4内に液状冷媒20を入れた後、再度、弁体36を図4図示のように、円筒状部2aに取り付けてハウジング4を密封する構造になっている。
【0074】
弁体36は、ハウジング4の内部から外部への液体の漏出を防止する機能を備えている。また、ハウジング4内の圧力が所定の圧力を越えるときにハウジング4の内部から外部へ気体を噴出させ、ハウジング4内の圧力が前記所定の圧力を下回ると、再度、ハウジング4を密封する構造になっている。
【0075】
その他の構成は基本的に図1図2を用いて説明した実施の形態1、2と共通している。そこで、図1図2図示の実施形態と共通する部材には図4で共通する符号をつけてその説明を省略する。
【0076】
ロータ12の半径方向内側を支持していて、図4中、右端がハウジング4の円板状部2bに回転可能に支持されている第一回転中心軸5aの先端側(図4の左側)には、遊星歯車機構からなる減速機を構成する第一サンギヤ30が固定されている。
【0077】
ロータ12の回転に応じて第一回転中心軸5a及び、第一サンギヤ30が回転すると、この回転運動は、第一サンギヤ30から、第一遊星ギヤ31、第1キャリア32を介して第二回転中心軸5bに伝えられ、第二回転中心軸5bが第一回転中心軸5aと同一円周方向に回転する。
【0078】
第二回転中心軸5bの先端側(図4の左側)には、遊星歯車機構からなる減速機を構成する第二サンギヤ33が固定されている。
【0079】
第二回転中心軸5bが回転することで第二サンギヤ33が回転すると、この回転運動は、第二サンギヤ33から、第二遊星ギヤ34、第二キャリア35を介して第三回転中心軸5cを固定的に支持している円板状の蓋部3に伝えられ、第三回転中心軸5cが第二回転中心軸5bと同一円周方向(例えば、矢印21で示す方向)に回転する。
【0080】
この実施形態においても、インナーヨーク9とアウターヨーク10との間に断面ドーナッツ状の磁界が形成されている下で円筒状コイル8に所定の電流を供給することによりロータ12は第一回転中心軸5aの円周方向に回転する。ロータ12を構成しているインナーヨーク9の半径方向内側は第一回転中心軸5aに支持されており、これによって、第一回転中心軸5aも周方向に回転運動する。
【0081】
この第一回転中心軸5aの回転が、上述した遊星歯車機構からなる減速機を介して第三の回転中心軸5cに伝えられて出力される。
【0082】
図4図示の実施形態では、上述した二段階の減速機構なっていて、ロータ12の回転によるトルクが高められて第三回転出力軸5cから出力される。
【0083】
以上に説明した構成からなる減速機は、回転中心軸である、第一回転中心軸5a、第二回転中心軸5b、第三回転中心軸5cが伸びる方向に伸びている円筒状のギアケース18に収容されている。
【0084】
図4図示の実施形態のコアレスモータ1でも、密閉されているハウジング4内に収納されている液状冷媒20は、上述したように、ロータ12が第一回転出力軸5aの円周方向に回転することで、ハウジング4内を流動する。
【0085】
図4図示の実施形態では、ハウジング4内に収容されている液状冷媒20は、静止状態で軸方向に伸びる液面がアウターヨーク10の外周面に接触する構造になっている。
【0086】
そこで、図1図示の実施形態で説明したのと同様に、ロータ12が回転中心軸5の円周方向に回転すると、アウターヨーク10の外周面に接触している液状冷媒20は、アウターヨーク10の外周面に連れられてアウターヨーク10が回転する円周方向に流動し、アウターヨーク10の外周面上を円周方向に上昇する。ハウジング4内でアウターヨーク10の外周面上を円周方向に上昇した液状冷媒4は、その後、その重さによって、アウターヨーク10の外周面に沿って図1図示の水平状態におけるハウジング4底面側にまで落下する。ロータ12の回転運動によって液状冷媒20がこのような流動動作を繰り返す中で、図4における左右の端部からアウターヨーク10の内側と円筒状コイル8の外側との間の空間部に流入する一部の液状冷媒20は稼働によって温度が上昇し始めた円筒状コイル8に接触する。
【0087】
こうして液状冷媒20の中の一部が発熱している円筒状コイル8に接触することで円筒状コイル8が冷却される。また、発熱している円筒状コイル8から熱を奪った液状冷媒20がハウジング4内を流動することで液状冷媒20からハウジング4に熱が伝えられ、ハウジング4の温度が上昇し、ハウジング4の外側表面全体から放熱が行われる。これによって、コアレスモータ稼働時におけるコイルの過熱が抑制され、コイルに過剰な電流を供給してコアレスモータ1を高回転出力させることが可能になる。
【0088】
また、液状冷媒20がこのように流動することで、液状冷媒20の一部は円筒状のギアケース18内に流入する。そこで、液状冷媒20として機械動作部の潤滑に使用されるオイルを使用すると、上述した、遊星歯車機構からなる減速機における各ギヤ部の潤滑を図ることができる。
【0089】
また、ロータ12が回転中心軸5の円周方向に高速で回転することで、上述したように、ハウジング4の内部空間が、気液混在状態となり、通電によって発熱する円筒状コイル8からハウジング4に効率よく熱伝導が行われ、コアレスモータ1稼働時における円筒状コイル8の過熱を抑制し、円筒状コイル8に過剰な電流を供給してコアレスモータ1を高回転出力させることが可能になることは実施の形態1、2で説明したものと同様である。
【0090】
この実施の形態では、ハウジング4に上述した機能を有する弁体36が配備されている。そこで、例えば、コアレスモータ1の高出力での可動が長時間になり、ハウジング4内の圧力が所定の圧力を越えるようになったときには、ハウジング4の内部から外部へ気体が噴出される。これによって、コアレスモータ1の高出力での可動が長時間になり、ハウジング4内の圧力が許容されている内部圧力以上になるときに、弁体36による上述した噴出(排気)を行わせることで、ハウジング4内の圧力が許容されている内部圧力以上になることを防止できる。
【0091】
この実施形態では、回転中心軸を中心とするロータ12の回転運動を回転運動出力部である第三回転中心軸5cの回転運動に伝達する、上述した、遊星歯車機構からなる減速機がハウジング4内に配備されている。
【0092】
液状冷媒20として、機械動作部の潤滑に使用されるオイルを使用すると、上述した、遊星歯車機構からなる減速機における各ギヤ部の潤滑を図ることができる。
【0093】
これにより図4図示の実施形態では遊星歯車機構からなる減速機がハウジング4内に配備されているが、回転運動する、互いに噛み合っている複数のギアの存在による音の発生を抑止し、静かに駆動されるコアレスモータとすることができる。適度な粘性のオイルが存在することで、減速機を構成する複数のギアからなる回転部が安定に維持される。
【0094】
なお、複数のギヤから減速機が構成されていることで、ギヤの回転による金属摩耗で金属粉が出て、液体冷媒20として上述したオイルを使用するとオイル中に金属粉が混入し、オイルが汚れるおそれがある。
【0095】
しかし、ロータ12には、上述したように、磁石11が配備されているので、金属粉は磁石11に吸い付けられ、オイルが汚れることを防止できる。
【0096】
遊星歯車機構からなる減速機を構成するギヤを合成樹脂製又はステンレス製にすることができる。このようにすれば冷媒として水を用いても錆びの発生が防げる。尚、冷媒にオイルを用いればギヤが鉄でも錆びの発生は防げるが、冷媒に水を用いて鉄錆びの発生を防ぐにはギヤ側に限らず冷媒の水に防錆剤を添加したり、所謂、還元水(電解水)を用いれば良い。ここで、遊星歯車機構からなる減速機が合成樹脂で形成されている構造にすると上述したギヤの回転による金属摩耗での金属粉発生の問題はなくなる。
【0097】
モータには一般的にグリースを用いるが、グリースのような高粘性のものは回転に連れて遠心力を受けて塗布カ所から遠ざかっていく。これに対し本発明ではオイルを使うからグリースは不要となる。そもそも、歯車機構のギア部に潤滑のために用いられるグリースは、一般的に、80℃程度で液状化してしまい、グリースを採用した効果が得られなくなる。このため、グリースをギア部の潤滑に用いる時は80℃程度の温度にならないようにするのが一般的である。
【0098】
本実施形態のコアレスモータでは、通電により発熱する円筒状コイル部の温度は100℃を越える温度になることが一般的であり、この面からも、グリースの使用に適さないものである。
【0099】
なお、弁体36を採用する形態に替えて、実施の形態1で説明した、開口部14、栓15による密閉構造を採用することもできる。
【0100】
(実施の形態5)
図5図7は、実施の形態4(図4)の他の実施形態を説明するものである。実施の形態4(図4)では、上述したように、減速機は、回転中心軸である、第一回転中心軸5a、第二回転中心軸5b、第三回転中心軸5cが伸びる方向に伸びている円筒状のギアケース18に収容されている。
【0101】
図5図7図示の実施の形態5では、ギアケース18が、ギアケース18を半径方向に貫通する孔19を備えている。
【0102】
上述したように、ロータ12が第一回転出力軸5aの円周方向に回転することで、密閉されているハウジング4内に収納されている液状冷媒20が、ハウジング4内を流動する。ハウジング4内を流動する液状冷媒20の一部が、発熱している円筒状コイルに接触して気化することで、ハウジング4の内部空間が、気液混在状態となり、通電によって発熱する円筒状コイル8からハウジング4に効率よく熱伝導が行われる。
【0103】
同時に、ハウジング4内を流動する液状冷媒20は、遊星歯車機構からなる減速機における各ギヤ部の潤滑を図ることに活用される。
【0104】
図5図7図示の実施形態では、減速機を内部に収容している円筒状のギアケース18が、ギアケース18を半径方向に貫通する孔19を備えていることで、液状冷媒20が効率よく減速機に供給される。そこで、液状冷媒20による各ギヤ部の潤滑がより効果的に行われるようになる。
【0105】
なお、図12図示のように、静止状態において、液状冷媒20の軸方向に伸びる液面が遊星歯車機構40の半径方向における最も外周縁に接触している状態にすることもできる。
【0106】
このようにすれば、ロータ12が回転運動開始すると直ちに液状冷媒20が減速機に供給され、液状冷媒20による各ギヤ部の潤滑がより効果的に行われることになる。
【0107】
図5図7図示の実施形態では、円筒状のギアケース18の円周方向に所定の間隔をあけて、また、円筒状のギアケース18の長手方向に所定の間隔をあけてそれぞれ複数個の孔19が形成されている。
【0108】
孔19の数、形成される位置は種々に設定することができる。
【0109】
(実施の形態6)
図8図10は、実施の形態4の他の実施形態を説明するものである。
【0110】
なお、図8図10では、実施の形態1、実施の形態4で説明していた、開口部14、栓15によるハウジング4の密閉構造や、弁体36によるハウジング4の密閉構造に関しては図示を省略している。
【0111】
実施の形態4(図4)において、第一回転中心軸5a、第二回転中心軸5b、第三回転中心軸5cによって構成されていた回転中心軸を、ハウジング4を貫通している固定軸5dにしている。ハウジング4は内部が密閉されている状態で、オイルシールを介して、固定軸5dに回転可能に支持されている。ハウジング4を構成する円筒状部2aが回転運動出力部になっている。
【0112】
図8図10の実施形態では、ロータ12を構成するインナーヨークの半径方向中心側が固定軸5dに回転可能に支持されている。そして、この固定軸5dに回転可能に支持されているインナーヨークの半径方向中心側部分の外周9aが、実施の形態4(図4)における第一サンギヤを構成している。
【0113】
実施の形態4(図4)では、第一回転中心軸と共に回転する第一サンギヤの回転運動が、第一遊星ギヤ、第一キャリア、第二サンギヤ、第二遊星ギヤ、第三キャリアを介して回転運動出力部である第三回転出力軸に伝えられていた。
【0114】
図8図10図示の実施形態では、固定軸5dに回転可能に支持されているインナーヨークの半径方向中心側部分9aの外周からなる第一サンギヤの回転運動が、第一遊星ギヤ、第一キャリア、固定軸5dに回転可能に支持されている第二サンギヤ、第二遊星ギヤ、第三キャリアを介して回転運動出力部である、ハウジング4を構成する円筒状部2aの、固定軸5dを中心とする円周方向の回転運動に伝えられている。
【0115】
その他の基本的な構造、機構は、実施の形態4(図4)で説明したものと共通している。
【0116】
この実施形態でも、密閉されているハウジング4内に収納されている液状冷媒20は、ロータ12が固定軸5dの円周方向に回転することで、ハウジング4内を流動する。これによって、ハウジング4の内部空間が、気液混在状態となり、通電によって発熱する円筒状コイル8からハウジング4に効率よく熱伝導が行われ、コアレスモータ1稼働時における円筒状コイル8の過熱を抑制し、円筒状コイル8に過剰な電流を供給してコアレスモータ1を高回転出力させることが可能になることは実施の形態1、2で説明したものと同様である。
【0117】
また、液状冷媒20として、機械動作部の潤滑に使用されるオイルを使用することで、遊星歯車機構からなる減速機における各ギヤ部の潤滑を図ることができ、遊星歯車機構からなる減速機がハウジング4内に配備されているが、回転運動する、互いに噛み合っている複数のギアの存在による音の発生を抑止し、静かに駆動されるコアレスモータとすることができる。
【0118】
(試験例)
本願出願人が市販しているコアレスモータ(CPH80F)を用いて試験を行った。このコアレスモータは、ハウジング内で回転中心軸に対して同心円状に配置され一方の側の端面がステータに支持されて回転中心軸が伸びる方向に伸びている円筒状コイルと、ハウジング内で回転中心軸に対して同心円状に配置され回転中心軸の円周方向に回転するロータとを備えている構造のものである。
【0119】
試験に供した2台のコアレスモータ(CPH80F)をいずれも密閉構造にし、一台には内部に液状冷媒として水を入れ、他方の一台には水を入れない通常の状態で運転を行った。
【0120】
試験運転は、2台とも24Vdc入力、トルク:1Nm、出力:380Wで同一の室内で、同時に行った。結果は以下の表1(実施例(液状冷媒(水)あり)、表2(比較例(液状冷媒(水)なし)の通りであった。
【表1】
【表2】
【0121】
この試験結果から、密閉されているコアレスモータのハウジング内に液状冷媒を収容しておき、ロータの回転によって液状冷媒をハウジング内で流動させ、液状冷媒を発熱している円筒状コイルに接触させることで一部を気化させてハウジング内を気液混在状態にすることで、ハウジング内の熱伝導効率が向上し、ハウジングの温度が円筒状コイルの温度上昇に追随して上昇すること、これによって効率よく放熱が図られることを確認できた。
【0122】
(発電機の実施形態)
上記ではコアレスモータの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。モータの構造は発電機の構造と基本的に同一である。コアレスモータの上述した構成、構造において、ロータが入力された回転力によって回転することで発電が行われるのが発電機である。そこで、本発明では、上述した構成、構造を有する発電機の実施形態にすることができる。
【0123】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-04-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状冷媒を内部に収容していると共に、円筒状のコイルとロータとが内部に配備されている密閉されたモータハウジングを備えていて、
円筒状の前記コイルは前記モータハウジング内に固定的に配備され、
前記ロータは、前記コイルを半径方向で互いの間に挟む円筒状のインナーヨークと円筒状のアウターヨークとからなり、前記インナーヨークの外側面あるいは前記アウターヨークの内側面に磁石を備えており、
前記コイルに通電することで前記モータハウジング内で回転する前記ロータによって前記液状冷媒が前記モータハウジング内を流動し、
流動する前記液状冷媒が通電によって発熱している前記コイルに接触して前記コイルから熱を奪い、
前記コイルから熱を奪った前記液状冷媒が前記モータハウジングの内壁に接触することで前記モータハウジングに熱を伝え、
前記モータハウジングの外壁表面から放熱が行われる
コアレスモータ。
【請求項2】
液状冷媒を内部に収容していると共に、円筒状のコイルとロータとが内部に配備されている密閉されたモータハウジングを備えていて、
円筒状の前記コイルは前記モータハウジング内に固定的に配備され、
前記ロータは、前記コイルを半径方向で互いの間に挟む円筒状のインナーヨークと円筒状のアウターヨークとからなり、前記インナーヨークの外側面あるいは前記アウターヨークの内側面に磁石を備えており、
前記コイルに通電することで前記モータハウジング内で回転する前記ロータによって前記液状冷媒を前記モータハウジング内で高速で流動させ、通電によって発熱している前記コイルに接触させて前記コイルから熱を奪うと共に、前記ロータの高速回転によって前記モータハウジング内の雰囲気を気液混在状態にして前記コイルから前記モータハウジングへの熱伝導を向上させ、
前記コイルから熱を奪った前記液状冷媒が前記モータハウジングの内壁に接触することで前記モータハウジングに熱を伝え、
前記モータハウジングの外壁表面から放熱が行われる
コアレスモータ。
【請求項3】
液状冷媒を内部に収容していると共に、円筒状のコイルとロータとが内部に配備されている密閉されたモータハウジングを備えていて、
円筒状の前記コイルは前記モータハウジング内に固定的に配備され、
前記ロータは、前記コイルを半径方向で互いの間に挟む円筒状のインナーヨークと円筒状のアウターヨークとからなり、前記インナーヨークの外側面あるいは前記アウターヨークの内側面に磁石を備えており、
前記ロータの回転によって前記液状冷媒が前記インナーヨークと前記アウターヨークとの間に形成されている断面ドーナッツ状の空間部に流入して発熱している前記コイルに接触して発熱している前記コイルから熱を奪うと共に、前記アウターヨークの半径方向外側と前記モータハウジングの内壁面との間の空間部で前記ハウジング内を流動し、前記モータハウジングに前記液状冷媒から熱を伝え、前記コイルの半径方向における外側に位置する前記アウターヨークの前記外周面よりも表面積が大きい前記モータハウジングの外壁表面から放熱する
コアレスモータ。
【請求項4】
前記ロータの回転によって回転する歯車機構が前記モータハウジングに内蔵されている請求項1~のいずれか一項に記載のコアレスモータ。
【請求項5】
前記液状冷媒が前記歯車機構の潤滑に使用されるオイルである請求項4記載のコアレスモータ。
【請求項6】
前記液状冷媒が不凍液である請求項1~3のいずれかに記載のコアレスモータ
【請求項7】
前記液状冷媒が水である請求項1~3のいずれかに記載のコアレスモータ。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載のモータの構成、構造を備えている発電機