(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093629
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】リプログラミング前駆体組成物およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0735 20100101AFI20220616BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20220616BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220616BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220616BHJP
【FI】
C12N5/0735
C12N5/02 ZNA
C12N5/10
C12N15/113 102Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075740
(22)【出願日】2022-05-02
(62)【分割の表示】P 2019040124の分割
【原出願日】2016-02-26
(31)【優先権主張番号】62/126,417
(32)【優先日】2015-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511154205
【氏名又は名称】ソーク インスティチュート フォー バイオロジカル スタディーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンス ロナルド
(72)【発明者】
【氏名】ダウンズ マイケル
(72)【発明者】
【氏名】木田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】川村 晃久
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ ツォン
(72)【発明者】
【氏名】ユー ルース ティー
(72)【発明者】
【氏名】アトキンス アネット アール.
(57)【要約】
【課題】人工多能性幹細胞前駆体(リプログラミング前駆細胞)を含む組成物およびこのような細胞を単離する方法、および、このような前駆細胞に由来する人工多能性幹細胞(iPSC)を含む組成物の提供。
【解決手段】Oct4、Sox2、Klf4およびcMycのうちの1つまたは複数を発現し、かつ、参照細胞と比べて発現が増加したエストロゲン関連受容体を有する人工多能性幹細胞前駆体を単離し、それによって、人工多能性幹細胞前駆体を選択する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願の明細書または図面に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2015年2月27日に出願された米国特許仮出願第62/126,417号の恩典を主張し、これに係る優先権を主張する。本仮出願の内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府の支援による研究によってなされた発明に関する権利の記載
本発明は米国立衛生研究所によって付与されたHD105278、DK057978、DK062434、およびDK063491に基づいて米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
傷ついた、または病気の組織または臓器を修復または交換するために、細胞に基づく組成物が必要とされている。移植可能な臓器の需要が供給をはるかに超えているために、米国だけで、ドナー臓器が手に入るのを待っている患者が毎年、何千人も死亡する。加えて、細胞に基づく療法によって、神経変性障害、心臓病、および糖尿病などの多くの重篤な医学的状態を治すことができるかもしれない。細胞に基づく療法を開発する制約の1つは信頼性の高い多能性幹細胞源が無いことである。
【発明の概要】
【0004】
下記で説明するように、本発明は、概して、人工多能性幹細胞前駆体(リプログラミング前駆細胞とも呼ばれる)を含む組成物およびこのような細胞を単離する方法を特徴とする。本発明はまた、このような前駆細胞に由来する人工多能性幹細胞(iPSC)を含む組成物も提供する。人工多能性幹細胞前駆体から高効率でiPSCが生じる。
【0005】
一局面において、本発明は、哺乳動物人工多能性幹細胞前駆体を選択するための方法であって、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycのうちの1つまたは複数を発現し、かつ参照細胞と比べて発現が増加したエストロゲン関連受容体を有する、人工多能性幹細胞前駆体を単離し、それによって、人工多能性幹細胞前駆体を選択する工程を含む、方法を提供する。
【0006】
別の局面において、本発明は、哺乳動物人工多能性幹細胞前駆体を選択するための方法であって、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycのうちの1つまたは複数を発現し、かつ参照細胞と比べて低発現のSca1およびCD34を有し、かつ発現が増加したエストロゲン関連受容体を有する、人工多能性幹細胞前駆体を単離し、それによって、人工多能性幹細胞前駆体を選択する工程を含む、方法を提供する。
【0007】
さらに別の局面において、本発明は、人工多能性幹細胞前駆体が豊富な細胞集団を単離する方法であって、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現し、かつ参照細胞と比べて発現が増加したエストロゲン関連受容体を有する、1つまたは複数の人工多能性幹細胞前駆体を単離する工程、ならびに1つまたは複数の哺乳動物人工多能性幹細胞前駆体を培養して、人工多能性幹細胞前駆体が豊富な細胞集団を得る工程を含む、方法を提供する。
【0008】
さらに別の局面において、本発明は、マウス人工多能性幹細胞前駆体を得る方法であって、培養中のマウス細胞においてOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現させる工程、参照細胞と比べて低発現のSca1およびCD34を有し、かつ発現が増加したERRγを有する、細胞を培養物から単離する工程、ならびに細胞を培養して人工多能性幹細胞前駆体を得る工程を含む、方法を提供する。一態様において、マウス細胞はマウス胚線維芽細胞である。別の態様において、前記細胞は、参照細胞と比べて増加したレベルのPGC-1βおよび/またはIDH3をさらに発現する。
【0009】
別の局面において、本発明は、ヒト人工多能性幹細胞前駆体を得る方法であって、培養中のヒト細胞においてOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現させる工程、参照細胞と比べて発現が増加したERRαおよび/またはPGC-1αおよび/またはPGC-1βおよび/またはIDH3を有する細胞を培養物から単離し、それによって、ヒト人工多能性幹細胞前駆体を得る工程を含む、方法を提供する。
【0010】
さらに別の局面において、本発明は、本明細書に示された上記の局面もしくは本発明の他の任意の局面または本明細書に示された上記の局面もしくは本発明の他の任意の局面の様々な態様に従って得られた人工多能性幹細胞前駆体を提供する。
【0011】
さらに別の局面において、本発明は、人工多能性幹細胞前駆体または人工多能性幹細胞を作製するための方法であって、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現する細胞において組換えエストロゲン関連受容体(ERR)αまたはγを発現させる工程、ならびに細胞を培養し、それによって、人工多能性幹細胞前駆体または人工多能性幹細胞を作製する工程を含む、方法を提供する。一態様において、前記細胞はまたPGC-1α、PGC-1β、および/またはIDH3も発現する。別の態様において、前記細胞はSca1-CD34-である。さらに別の態様において、前記細胞は、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycをコードするレトロウイルスベクターを含む。
【0012】
別の局面において、本発明は、薬学的に許容される賦形剤の中に、有効量の人工多能性幹細胞またはその細胞子孫を含有する細胞組成物を提供する。一態様において、人工多能性幹細胞は、膵臓細胞、神経細胞、または心臓細胞を生じることができる。
【0013】
さらに別の局面において、本発明は、本明細書に示された上記の局面もしくは本発明の他の任意の局面または本明細書に示された上記の局面もしくは本発明の他の任意の局面の様々な態様に従って得られた人工多能性幹細胞またはその前駆体を備える、キットを提供する。
【0014】
さらに別の局面において、本発明は、検出可能なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結された、酸化経路遺伝子または解糖経路遺伝子のプロモーター配列を含有する発現ベクターを提供する。一態様において、プロモーターは、ERRポリヌクレオチドの転写を誘導または増強するのに十分である。別の態様において、ベクターはレンチウイルスベクターである。さらに別の態様において、プロモーターはERRαエンハンサー配列を含む。さらに別の態様において、プロモーターは、少なくとも、11番染色体のおおよそヌクレオチド位置64072402-64073375を含む。
【0015】
別の局面において、本発明は、検出可能なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結された、酸化経路遺伝子または解糖経路遺伝子のプロモーター配列を含有する発現ベクターを含有する哺乳動物細胞を提供する。一態様において、前記細胞は、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycの1つまたは複数をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含有する。
【0016】
さらに別の局面において、本発明は、増加した酸化経路活性および/または解糖経路活性を有する細胞を選択する方法であって、
図7に列挙したタンパク質またはポリヌクレオチドのレベルまたは活性の増加を検出する工程を含む、方法を提供する。一態様において、前記細胞は、前記タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの5’側にありかつ前記オープンリーディングフレームの発現を誘導するポリヌクレオチド配列を含有する発現ベクターを含有する。別の態様において、前記細胞は、検出可能なポリペプチドに融合した、
図7に列挙したタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを含有する。さらに別の態様において、検出可能なポリペプチドは、GFP、RFP、YFP、およびルシフェラーゼからなる群より選択される。
【0017】
さらに別の局面において、本発明は、増加した酸化経路活性および/または解糖経路活性を有する細胞を選択する方法であって、活性酸素種のレベルの増加を検出する工程を含む、方法を提供する。
【0018】
本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、エストロゲン関連受容体はERRα、ERRβ、またはERRγである。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、前記細胞は、参照細胞と比べて増加したレベルのPGC-1α、PGC-1β、および/またはIDH3をさらに発現する。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、人工多能性幹細胞前駆体はヒト細胞またはマウス細胞である。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、人工多能性幹細胞前駆体は、線維芽細胞、胚線維芽細胞、ヒト肺線維芽細胞、脂肪幹細胞、またはIMR90細胞である細胞においてOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現させることによって得られる。
【0019】
本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、人工多能性幹細胞前駆体はOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現する。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、参照細胞は、Sca1および/もしくはCD34またはそのヒトオルソログもしくは機能的等価物を発現する。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、参照細胞は、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycの1つまたは複数を検出可能なレベルで発現しない。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、前記細胞は、検出不可能なレベルのSca1およびCD34タンパク質もしくはそのヒトオルソログ、または前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現する。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、前記細胞は、参照細胞と比べて増加した細胞外酸性化速度および/または酸素消費速度によって規定される増加した代謝率を示す。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、ERRγおよび/またはPGC-1βの発現は参照細胞のレベルより少なくとも約2倍、5倍、または10倍高い。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、ポリヌクレオチド発現レベルはqPCR分析によって測定される。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、前記細胞は、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycをコードする1つまたは複数のレトロウイルスベクターを含有する。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、人工多能性幹細胞は高エネルギー細胞である。
【0020】
本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、前記細胞は、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現させて約5日後に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、α-ケトグルタル酸、細胞ATP、NADH/NAD+比、ミトコンドリアにあるATP合成酵素(ATP5G1)、コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDHB)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH3)およびNADHデヒドロゲナーゼ(NDUFA2)、スーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)、NADPHオキシダーゼ4(NOX4)およびカタラーゼ(CAT)の1つまたは複数が増加する。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、前記細胞は、
図10Bに列挙された1つまたは複数の経路の遺伝子発現プロファイルまたは活性が増加する。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、前記細胞は、参照細胞と比べて、線維芽細胞同一性(fibroblast identity)において機能する遺伝子に関連するプロモーターまたはエンハンサー領域にあるヒストンアミノ酸のメチル化レベルが減少している。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、前記細胞は、参照細胞と比べて、リプログラミングにおいて機能する遺伝子に関連するプロモーターまたはエンハンサー領域にあるヒストンアミノ酸のメチル化レベルが増加している。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、参照細胞は検出可能なERRαを発現しない。本明細書に示された上記の局面または本発明の他の任意の局面の様々な態様において、ヒストンはH3ヒストンであり、アミノ酸は、ヒストンのN末端から4番目(4個目)のアミノ酸位置にあるリジンである。
【0021】
本発明の他の特徴および利点は詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【0022】
定義
特に定義のない限り、本明細書において用いられる技術用語および科学用語は全て、本発明が属する当業者に共通に理解される意味を有する。以下の参考文献は、本発明において用いられる用語の多くの一般的な定義を当業者に提供する: Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988); The Glossary of Genetics, 5th Ed., R. Rieger et al. (eds.), Springer Verlag (1991);およびHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書で使用する以下の用語は、特に定めのない限り、以下で、この用語のものとされている意味を有する。
【0023】
「人工多能性幹細胞前駆体」は「リプログラミング前駆体」とも呼ばれ、人工多能性幹細胞を生じる細胞を意味する。
【0024】
「Sca1ポリペプチド」とは、NCBI Ref:NP_001258375.1に提供される配列と少なくとも85%のアミノ酸配列同一性を有し、かつSCA1抗原性を有するタンパク質またはその断片を意味する。例示的なマウスアミノ酸配列は以下に提供される。
【0025】
「Sca1ポリヌクレオチド」とは、Sca1ポリペプチドまたはその断片をコードする任意の核酸分子を意味する。例示的なマウスSca1核酸配列はNCBI Ref NM_001271446.1に提供され、以下に記載される。
【0026】
「CD34ポリペプチド」とは、NCBI Ref:NP_001020280.1(ヒト)またはNCBI Ref:NP_001104529.1(マウス)に提供される配列と少なくとも85%の相同性を有するタンパク質またはその断片を意味する。
【0027】
【0028】
【0029】
「CD34ポリヌクレオチド」とは、CD34ポリペプチドまたはその断片をコードする任意の核酸配列を意味する。
【0030】
例示的なヒトCD34核酸配列はNCBI Ref NM_001025109.1に提供される。
【0031】
例示的なマウスCD34核酸配列はNCBI Ref:NM_001111059.1に提供される。
【0032】
「cMycポリペプチド」とは、NCBI Ref:NP_002458.2(ヒト)またはNP_001170823.1(マウス)に提供される配列と少なくとも85%の相同性を有するタンパク質またはその断片を意味する。
【0033】
【0034】
【0035】
「cMyc」とは、cMycポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。例示的なヒトcMycポリヌクレオチド配列はNM_002467.4に提供され、この配列は以下に記載される。
【0036】
例示的なマウスcMycポリヌクレオチド配列はNM_001177352.1に提供され、この配列は以下に記載される。
【0037】
この開示では、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含有する(containing)」、および「有する(having)」などは、米国特許法においてこれらの用語のものとされている意味を有することがあり、「含む(includes)」、「含む(including)」などを意味することがある。同様に、「から本質的になる(consisting essentially of)」または「本質的になる(consists essentially)」は、米国特許法においてこの用語のものとされている意味を有する。この用語はオープンエンドであり、列挙されたものの基本的な、または新規の特徴が、列挙されたものより多いが、先行技術の態様を除くものが存在することで変化しない限り、列挙されたものより多くのものが存在するのを可能にする。
【0038】
「検出する」とは、検出しようとする分析物の存在、非存在、または量を特定することを指す。
【0039】
「疾患」とは、細胞、組織、または臓器の正常な機能を傷つけるか、または妨げる任意の状態または障害を意味する。疾患の例には、細胞数の不足に関連する疾患が含まれる。このような疾患には、神経変性障害、心臓病、および糖尿病が含まれるが、これに限定されない。
【0040】
「有効量」とは、未処置患者と比べて疾患の症状を寛解させるのに必要な、本発明の細胞の量を意味する。疾患を治療的処置するために本発明を実施するのに用いられる活性化合物の有効量は、投与方法、対象の年齢、体重、および身体全体の健康に応じて異なる。最終的には、主治医または獣医師が適切な量および投与計画を決定する。このような量は「有効」量と呼ばれる。
【0041】
「エストロゲン関連受容体(ERR)αポリペプチド」とは、NCBI Ref No.NP_001269379またはNP_031979.2に提供されるエストロゲン関連受容体α配列と少なくとも85%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、または転写調節活性を有する、その断片を意味する。
【0042】
「ERR1」とも呼ばれるヒトERRαの配列は以下に提供される。
Err1_ヒトエストロゲン関連受容体α OS=ホモ・サピエンス(Homo sapiens)GN
【0043】
「ERR1」とも呼ばれるマウスERRα(NCBI Ref No.NP_031979.2)ポリペプチドの配列は以下に提供される。
【0044】
「ERRαポリヌクレオチド」とは、ERRαポリペプチドをコードする任意の核酸配列またはその断片を意味する。例示的なヒトERRα核酸配列はNCBI Ref:NM_001282450に提供され、以下に記載される。
【0045】
例示的なマウスERRα核酸配列はNCBI Ref No.NM_007953.2に提供される。
【0046】
「エストロゲン関連受容体(ERR)γポリペプチド」は「ERR3」とも呼ばれ、NCBI Ref No.P62508(ヒト)、NP_001230721.1(マウス)に提供されるエストロゲン関連受容体γ配列と少なくとも85%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、または転写調節活性を有する、その断片を意味する。
【0047】
ヒトERRγの配列は以下に提供される。
sp|P62508|ERR3_ヒトエストロゲン関連受容体γ OS=ホモ・サピエンスGN
【0048】
マウスエストロゲン関連受容体γ配列はNCBI Ref No.NP_001230721.1に提供される。マウスERRγの配列は以下に提供される。
【0049】
「ERRγポリヌクレオチド」とは、ERRγポリペプチドまたはその断片をコードする任意の核酸配列を意味する。例示的なヒトERRγ核酸配列はNCBI Ref:NM_001438.3に提供される。
【0050】
「ERRγポリヌクレオチド」とは、ERRγポリペプチドまたはその断片をコードする任意の核酸配列を意味する。例示的なマウスERRγ核酸配列はNCBI Ref:NM_001243792.1に提供され、以下に記載される。
【0051】
本発明は、ERRβなどの他のエストロゲン関連受容体の使用を提供する。ホモ・サピエンスエストロゲン関連受容体β(ESRRβ)のアミノ酸配列は、例えば、NCBIアクセッション番号NP_004443に提供され、以下に記載される。
【0052】
ERRβをコードするポリヌクレオチド配列は、例えば、NCBIアクセッション番号NM_004452に提供され、以下に記載される。
【0053】
「断片」とは、ポリペプチドまたは核酸分子の一部を意味する。この一部は、好ましくは、参照核酸分子またはポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%を含有する。断片は、10個、20個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、または100個、200個、300個、400個、500個、600個、700個、800個、900個、または1000個のヌクレオチドまたはアミノ酸を含有してもよい。
【0054】
「増加するまたは減少する」とは陽性変化または陰性変化を意味する。このような変化は、参照値の5%分、10%分、25%分、50%分、75%分、85%分、90%分の変化、さらには参照値の100%分の変化である。
【0055】
「単離された」、「精製された」、または「生物学的に純粋な」という用語は、天然状態で見出されるように通常付随する成分を様々な程度まで含まない材料を指す。「単離する」とは、最初の供給源または周囲にあるものから、ある程度、分離することを指す。「精製する」とは、単離より大きな程度の分離を指す。「精製された」または「生物学的に純粋な」タンパク質は、いかなる不純物もタンパク質の生物学的特性に物質的に影響を及ぼさず、他の有害事象を引き起こさないように十分に他の材料を含まない。すなわち、本発明の核酸またはペプチドは、組換えDNA法によって生成された時に細胞材料もウイルス材料も培養培地も実質的に含まなければ、精製されている、または化学合成された時に化学前駆体も他の化学物質も実質的に含まなければ、精製されている。純度および均一性は、典型的には、分析化学法、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーを用いて求められる。「精製された」という用語は、電気泳動ゲルにおいて核酸またはタンパク質が本質的に1つのバンドを生じることを指すことがある。修飾、例えば、リン酸化またはグリコシル化に供することができるタンパク質の場合、異なる修飾は、異なる単離されたタンパク質を生じる場合があり、異なる単離されたタンパク質は別々に精製することができる。
【0056】
「単離された細胞」とは、この細胞に天然で付随する分子成分および/または細胞成分から分離された細胞を意味する。特定の態様において、前記細胞は、Sca1および/またはCD34を発現する集団から単離されたSca1-CD34-細胞である。他の態様において、前記細胞は、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現する集団から単離されている。
【0057】
「単離されたポリヌクレオチド」とは、本発明の核酸分子の供給源である生物の天然ゲノムの中で、この遺伝子に隣接する遺伝子を含まない核酸(例えば、DNA)を意味する。従って、この用語は、例えば、ベクター;自己複製プラスミドもしくはウイルス;または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれた組換えDNA、あるいは他の配列とは独立した別個の分子(例えば、PCRまたは制限エンドヌクレアーゼ消化によって生じたcDNAまたはゲノム断片もしくはcDNA断片)として存在する組換えDNAを含む。さらに、この用語は、DNA分子から転写されたRNA分子、ならびにさらなるポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAを含む。
【0058】
「単離されたポリペプチド」とは、このポリペプチドに天然で付随する成分から分離されている本発明のポリペプチドを意味する。典型的には、少なくとも60重量%であり、天然で関連するタンパク質および天然有機分子を含まない時に、ポリペプチドは単離されている。好ましくは、調製物は、少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%の本発明のポリペプチドである。本発明の単離されたポリペプチドは、例えば、天然供給源を抽出することによって、このようなポリペプチドをコードする組換え核酸を発現させることによって、またはタンパク質を化学合成することによって、得られてもよい。純度は任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定することができる。
【0059】
「Klf4ポリペプチド」とは、NCBI Ref NP_004226.3(ヒト)またはNP_034767.2(マウス)に提供される配列と少なくとも85%の相同性を有するタンパク質またはその断片を意味する。例示的なヒトKlf4アミノ酸配列は以下に提供される。
【0060】
例示的なKlf4マウスアミノ酸配列は以下に提供される。
【0061】
「Klf4」とは、Klf4ポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。例示的なヒトKlf4ポリヌクレオチド配列は以下のNM_004235.4に提供される。
【0062】
例示的なマウスKlf4ポリヌクレオチド配列は以下のNM_010637.3に提供される。
【0063】
「マーカー」とは、疾患または障害に関連して発現レベルまたは活性が変化する任意のタンパク質またはポリヌクレオチドを意味する。
【0064】
「陰性」とは、細胞が、検出不可能なレベルのマーカーまたは低レベルのマーカーを発現することを意味し、そのためこの細胞は、陰性選択において、選択されない細胞の集団と区別され得る。
【0065】
「Oct4ポリペプチド」とは、NCBI Ref:NP_001167002.1(ヒト)またはNP_001239381.1(マウス)に提供される配列と少なくとも85%の相同性を有し、かつ転写調節活性を有するタンパク質またはその断片を意味する。
【0066】
例示的なOct4ヒトアミノ酸配列は以下に提供される。
【0067】
例示的なOct4マウスアミノ酸配列(NCBI Ref:NP_001239381.1)は以下に提供される。
【0068】
「Oct4ポリヌクレオチド」とは、Oct4ポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。例示的なヒトOct4ポリヌクレオチド配列はNM_001173531.2に提供され、以下に記載される。
【0069】
例示的なマウスOct4ポリヌクレオチド配列はNM_001252452.1に提供され、以下に記載される。
【0070】
「PGC1αポリペプチド」とは、NCBI Ref:NP_037393.1またはUniProt Ref:Q9UBK2(ヒト)、NCBI Ref:NP_032930.1(マウス)に提供されるアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し、かつ転写同時活性化活性を有するタンパク質またはその断片を意味する。例示的なPGC1αヒトアミノ酸配列は以下に提供される。
【0071】
例示的なマウスPGC1αアミノ酸配列は以下に提供される。
【0072】
「PGC1αポリヌクレオチド」とは、PGC1αポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。例示的なヒトPGC1αポリヌクレオチド配列はNM_013261に提供される。
【0073】
例示的なマウスPGC1αポリヌクレオチド配列はNM_008904.2に提供される。
【0074】
「PGC1βポリペプチド」とは、NCBI Ref:NP_001166169またはNCBI Ref:NP_573512.1に提供される配列と少なくとも85%の相同性を有し、かつ同時活性化活性を有するタンパク質またはその断片を意味する。例示的なヒトPGC1βアミノ酸配列は以下に提供される。
ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1-βアイソフォーム2[ホモ・サピエンス]
【0075】
例示的なマウスPGC1βポリペプチドアミノ酸配列は以下に提供される。
【0076】
「PGC1βポリヌクレオチド」とは、PGC1βポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。例示的なヒトPGC1βポリヌクレオチド配列はNM_001172698に提供される。
【0077】
例示的なマウスPGC1βポリヌクレオチド配列はNM_133249.2に提供される。
【0078】
「機能的に連結された」とは、適切な分子(例えば、転写アクチベータータンパク質)が第2のポリヌクレオチドに結合した時に第1のポリヌクレオチドの転写を誘導する第2のポリヌクレオチドに隣接して、第1のポリヌクレオチドが配置されていることを意味する。
【0079】
「陽性」とは、細胞が検出可能なレベルのマーカーを発現することを意味する。
【0080】
「プロモーター」とは、転写を誘導するのに十分なポリヌクレオチドを意味する。
【0081】
「参照」とは、標準または対照の条件を意味する。一態様において、参照細胞は、Sca1および/またはCD34を発現する細胞である。別の態様において、参照細胞はSca1および/またはCD34を発現し、かつOct4、Sox2、Klf4、およびcMyc(OSKM)も発現する。
【0082】
「参照配列」は、配列比較の基準として用いられる規定された配列である。参照配列は、指定された配列の一部でもよく、全てでもよく、例えば、完全長cDNAまたは遺伝子配列のセグメントでもよく、完全なcDNAまたは遺伝子配列でもよい。ポリペプチドの場合、参照ポリペプチド配列の長さは、一般的に、少なくとも約16アミノ酸、好ましくは少なくとも約20アミノ酸、より好ましくは少なくとも約25アミノ酸、さらにより好ましくは約35アミノ酸、約50アミノ酸、または約100アミノ酸である。核酸の場合、参照核酸配列の長さは、一般的に、少なくとも約50ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約60ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約75ヌクレオチド、さらにより好ましくは約100ヌクレオチドもしくは約300ヌクレオチド、またはこれらの値前後の任意の整数もしくはこれらの値の間の任意の整数である。
【0083】
「リプログラミング」とは細胞を変えることを意味し、そのためリプログラミング前にはこの細胞において産生されないかまたは対応する対照細胞において発現しない少なくとも1種類のタンパク質産物が、リプログラミングされた細胞では産生される。典型的に、リプログラミングされた細胞は、リプログラミング前にはこの細胞において(または対応する対照細胞において)発現しないタンパク質のセットを発現するように転写プロファイルまたは翻訳プロファイルが変化している。
【0084】
「再生する」とは、少なくとも1つの細胞が組織または臓器の修復または新規の構築に寄与できることを意味する。
【0085】
本発明の方法において有用な核酸分子には、本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする任意の核酸分子が含まれる。このような核酸分子は内因性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的には、実質的な同一性を示す。内因性配列と「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子のうちの少なくとも1本の鎖とハイブリダイズすることができる。本発明の方法において有用な核酸分子には、本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする任意の核酸分子が含まれる。このような核酸分子は内因性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的には、実質的な同一性を示す。内因性配列と「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子のうちの少なくとも1本の鎖とハイブリダイズすることができる。「ハイブリダイズする」とは、様々なストリンジェンシー条件下で、相補的ポリヌクレオチド配列(例えば、本明細書に記載の遺伝子)またはその一部の間で二本鎖分子を形成するように対形成することを意味する(例えば、Wahl, G. M. and S. L. Berger (1987) Methods Enzymol. 152:399; Kimmel, A. R. (1987) Methods Enzymol. 152:507を参照されたい)。
【0086】
例えば、ストリンジェントな塩濃度は、普通、約750mM NaClおよび75mMクエン酸三ナトリウムより低く、好ましくは、約500mM NaClおよび50mMクエン酸三ナトリウムより低く、より好ましくは、約250mM NaClおよび25mMクエン酸三ナトリウムより低い。低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、有機溶媒、例えば、ホルムアミドの非存在下で得ることができるのに対して、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、少なくとも約35%のホルムアミド、より好ましくは少なくとも約50%のホルムアミドの存在下で得ることができる。ストリンジェントな温度条件は、普通、少なくとも約30℃、より好ましくは、少なくとも約37℃、最も好ましくは、少なくとも約42℃の温度を含む。ハイブリダイゼーション時間、界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度、および担体DNAの採用または不採用などの様々なさらなるパラメータが当業者に周知である。様々なストリンジェンシーレベルは、必要に応じて、これらの様々な条件を組み合わせることによって成し遂げられる。好ましい態様では、ハイブリダイゼーションは、30℃で、750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウム、および1%SDSの中で行われる。さらに好ましい態様では、ハイブリダイゼーションは、37℃で、500mM NaCl、50mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、35%ホルムアミド、および100μg/ml変成サケ精子DNA(ssDNA)の中で行われる。最も好ましい態様では、ハイブリダイゼーションは、42℃で、250mM NaCl、25mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、50%ホルムアミド、および200μg/ml ssDNAの中で行われる。これらの条件の有用なバリエーションは当業者に容易に明らかである。
【0087】
ほとんどの用途について、ハイブリダイゼーションに続く洗浄工程もストリンジェンシーが変化する。洗浄ストリンジェンシー条件は塩濃度と温度によって規定することができる。前記のように、洗浄ストリンジェンシーは、塩濃度を下げることによって、または温度を上げることによって高めることができる。例えば、洗浄工程のためのストリンジェントな塩濃度は、好ましくは、約30mM NaClおよび3mMクエン酸三ナトリウムより低く、最も好ましくは、約15mM NaClおよび1.5mMクエン酸三ナトリウムより低い。洗浄工程のためのストリンジェントな温度条件は、普通、少なくとも約25℃、より好ましくは、少なくとも約42℃、さらにより好ましくは、少なくとも約68℃の温度を含む。好ましい態様において、洗浄工程は、25℃で、30mM NaCl、3mMクエン酸三ナトリウム、および0.1%SDSの中で行われる。さらに好ましい態様では、洗浄工程は、42℃で、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウム、および0.1%SDSの中で行われる。さらに好ましい態様では、洗浄工程は、68℃で、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウム、および0.1%SDSの中で行われる。これらの条件のさらなるバリエーションは当業者に容易に明らかである。ハイブリダイゼーション技法は当業者に周知であり、例えば、Benton and Davis (Science 196:180, 1977); Grunstein and Hogness (Proc. Natl. Acad. Sci., USA 72:3961, 1975); Ausubel et al. (Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience, New York, 2001); Berger and Kimmel (Guide to Molecular Cloning Techniques, 1987, Academic Press, New York);およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されている。
【0088】
「SOX2ポリペプチド」とは、NCBI Ref:NP_003097.1(ヒト)またはNP_035573.3(マウス)に提供される配列と少なくとも85%の相同性を有するタンパク質またはその断片を意味する。例示的なヒトアミノ酸配列は以下に提供される 。
【0089】
【0090】
「SOX2ポリヌクレオチド」とは、SOX2ポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。例示的なヒトSOX2ポリヌクレオチド配列はNM_003106に提供される。
【0091】
例示的なマウスSOX2ポリヌクレオチド配列はNM_011443.3に提供される。
【0092】
「IDH3αポリペプチド」とは、NCBI Ref:NP_005521.1(ヒト)またはNP_083849.1(マウス)に提供される配列と少なくとも85%の相同性を有するタンパク質またはその断片を意味する。IDH3αはIDH3aと呼ばれることもある。例示的なヒトアミノ酸配列は以下に提供される。
【0093】
【0094】
「IDH3αポリヌクレオチド」とは、IDH3αポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。例示的なヒトIDH3αポリヌクレオチド配列はNM_005530に提供される。
【0095】
例示的なマウスIDH3αポリヌクレオチド配列はNM_029573に提供される。
【0096】
「IDH3βポリペプチド」とは、NCBI Ref:NP_008830.2(ヒト)またはNP_570954.1(マウス)に提供される配列と少なくとも85%の相同性を有するタンパク質またはその断片を意味する。IDH3βはIDH3bと呼ばれることもある。例示的なヒトアミノ酸配列は以下に提供される。
【0097】
【0098】
「IDH3βポリヌクレオチド」とは、IDH3βポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。例示的なヒトIDH3βポリヌクレオチド配列はNM_006899に提供される。
【0099】
例示的なマウスIDH3βポリヌクレオチド配列はNM_130884に提供される。
【0100】
「IDH3γポリペプチド」とは、NCBI Ref:NP_004126.1(ヒト)またはNP_032349.1(マウス)に提供される配列と少なくとも85%の相同性を有するタンパク質またはその断片を意味する。IDH3γはIDH3gと呼ばれることもある。例示的なヒトアミノ酸配列は以下に提供される。
【0101】
【0102】
「IDH3γポリヌクレオチド」とは、IDH3γポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。例示的なヒトIDH3γポリヌクレオチド配列はNM_004135に提供される。
【0103】
例示的なマウスIDH3γポリヌクレオチド配列はNM_008323に提供される。
【0104】
「IDH3ポリヌクレオチド」とは、IDH3ポリペプチドをコードする核酸分子を意味する。
【0105】
「実質的に同一の」とは、参照アミノ酸配列(例えば、本明細書に記載のアミノ酸配列のいずれか一つ)または核酸配列(例えば、本明細書に記載の核酸配列のいずれか一つ)と少なくとも50%の同一性を示すポリペプチドまたは核酸分子を意味する。好ましくは、このような配列は、比較に用いられた配列とアミノ酸レベルまたは核酸において少なくとも60%同一であり、より好ましくは80%または85%同一であり、より好ましくは90%、95%、さらには99%同一である。
【0106】
配列同一性は、典型的には、配列分析ソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705, BLAST(登録商標)、BESTFIT、GAP、またはPILEUP/PRETTYBOXプログラム)を用いて評価される。このようなソフトウェアは、様々な置換、欠失、および/または他の修飾に応じて相同性の程度を割り当てることによって、同一の配列または類似する配列を対応させる。保存的置換は、典型的には、以下のグループ:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシンの中での置換を含む。同一性の程度を求める例示的なアプローチでは、密接に関係する配列を示すe-3~e-100の確率スコア(probability score)を用いてBLAST(登録商標)プログラムが用いられることがある。
【0107】
「対象」とは、ヒトまたは非ヒト哺乳動物、例えば、ウシ、ウマ、イヌ、マウス、ヒツジ、もしくはネコを含むが、これに限定されない哺乳動物を意味する。
【0108】
本明細書において示される範囲は、この範囲内にある全ての値の省略表現だと理解される。例えば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50からなる群からの任意の数、数の組み合わせ、または部分範囲を含むと理解される。
【0109】
本明細書で使用する、「処置する(treat)」、「処置する(treating)」、「処置(treatment)」などの用語は、これらに関連する障害および/または症状を軽減または寛解することを指す。除外されてはいないが、障害または状態の処置は、障害、状態、またはこれらに関連する症状が完全に無くなることを必要としないことが理解される。
【0110】
具体的に述べられていない限り、または文脈から明らかでない限り、本明細書で使用する「または」という用語は包括的(inclusive)であると理解される。具体的に述べられていない限り、または文脈から明らかでない限り、本明細書で使用する「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という用語は単数または複数であると理解される。
【0111】
具体的に述べられていない限り、または文脈から明らかでない限り、本明細書で使用する「約」という用語は、当技術分野において正常な許容誤差の範囲内にある、例えば、平均の2標準偏差内にあると理解される。約とは、述べられた値の10%以内、9%以内、8%以内、7%以内、6%以内、5%以内、4%以内、3%以内、2%以内、1%以内、0.5%以内、0.1%以内、0.05%以内、または0.01%以内にあると理解することができる。文脈から明らかでない限り、本明細書において提供される数値は全て、約という用語によって修飾される。
【0112】
本明細書における変数の任意の定義における化学グループの一覧の説明は、任意の1つのグループとして、または列挙されたグループの組み合わせとして、その変数を定義することを含む。本明細書における変数または局面についての態様の説明は、任意の1つの態様として、または他の任意の態様もしくはその一部と組み合わせて、その態様を含む。
【0113】
本明細書において提供される任意の組成物または方法は、本明細書において提供される他の任意の組成物および方法のうちの1つまたは複数と組み合わせることができる。
[本発明1001]
哺乳動物人工多能性幹細胞前駆体を選択するための方法であって、
Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycのうちの1つまたは複数を発現し、かつ参照細胞と比べて発現が増加したエストロゲン関連受容体を有する、人工多能性幹細胞前駆体を単離し、それによって、人工多能性幹細胞前駆体を選択する工程
を含む、方法。
[本発明1002]
哺乳動物人工多能性幹細胞前駆体を選択するための方法であって、
Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycのうちの1つまたは複数を発現し、かつ参照細胞と比べて発現が低下した幹細胞抗原1(Sca1)およびCD34を有し、かつ発現が増加したエストロゲン関連受容体を有する、人工多能性幹細胞前駆体を単離し、それによって、人工多能性幹細胞前駆体を選択する工程
を含む、方法。
[本発明1003]
エストロゲン関連受容体が、ERRα、ERRβ、およびERRγである、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
細胞が、参照細胞と比べて増加したレベルのPGC-1α、PGC-1β、またはIDH3をさらに発現する、本発明1001または1002の方法。
[本発明1005]
人工多能性幹細胞前駆体がヒト細胞またはマウス細胞である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1006]
人工多能性幹細胞前駆体が、線維芽細胞、胚線維芽細胞、ヒト肺線維芽細胞、脂肪幹細胞、およびIMR90細胞からなる群より選択される細胞においてOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現させることによって得られる、本発明1001または1002の方法。
[本発明1007]
人工多能性幹細胞前駆体が豊富な細胞集団を単離する方法であって、
Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現し、かつ参照細胞と比べて発現が増加したエストロゲン関連受容体を有する、1つまたは複数の人工多能性幹細胞前駆体を単離する工程、ならびに
該1つまたは複数の哺乳動物人工多能性幹細胞前駆体を培養して、人工多能性幹細胞前駆体が豊富な細胞集団を得る工程
を含む、方法。
[本発明1008]
マウス人工多能性幹細胞前駆体を得る方法であって、
培養中のマウス細胞においてOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現させる工程、
参照細胞と比べて発現が低下したSca1およびCD34を有し、かつ発現が増加したERRγを有する、細胞を培養物から単離する工程、ならびに
細胞を培養して人工多能性幹細胞前駆体を得る工程
を含む、方法。
[本発明1009]
マウス細胞がマウス胚線維芽細胞である、本発明1008の方法。
[本発明1010]
細胞が、参照細胞と比べて増加したレベルのPGC-1βおよび/またはIDH3をさらに発現する、本発明1008の方法。
[本発明1011]
ヒト人工多能性幹細胞前駆体を得る方法であって、培養中のヒト細胞においてOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現させる工程、
参照細胞と比べて発現が増加したERRαおよび/またはPGC-1αおよび/またはPGC-1βおよび/またはIDH3を有する細胞を培養物から単離し、それによって、ヒト人工多能性幹細胞前駆体を得る工程
を含む、方法。
[本発明1012]
人工多能性幹細胞前駆体がOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現する、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
参照細胞が、Sca1および/もしくはCD34またはそのヒトオルソログもしくは機能的等価物を発現する、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1014]
参照細胞が、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycの1つまたは複数を検出可能なレベルで発現しない、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1015]
細胞が、低下したレベルのSca1およびCD34タンパク質もしくはそのヒトオルソログ、または該タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現する、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1016]
細胞が、参照細胞と比べて増加した細胞外酸性化速度および/または酸素消費速度によって規定される増加した代謝率を有する、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1017]
ERRγおよびPGC-1βの発現が参照細胞のレベルより少なくとも約5倍または10倍高い、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1018]
ポリヌクレオチド発現レベルがqPCR分析によって測定される、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1020]
細胞が、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycをコードする1つまたは複数のレトロウイルスベクターを含む、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1021]
人工多能性幹細胞が高エネルギー細胞である、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1022]
リプログラミングされた細胞において、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、α-ケトグルタル酸、細胞ATP、NADH/NAD+比、ミトコンドリアにあるATP合成酵素(ATP5G1)、コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDHB)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH3)およびNADHデヒドロゲナーゼ(NDUFA2)、スーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)、NADPHオキシダーゼ4(NOX4)およびカタラーゼ(CAT)からなる群より選択される分析物のレベルが増加した、本発明1021の方法。
[本発明1023]
線維芽細胞同一性またはリプログラミングにおいて機能する遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー領域にあるヒストンのメチル化状態が参照細胞と比べて変化する、本発明1021の方法。
[本発明1024]
ヒストンがH3ヒストンである、本発明1023の方法。
[本発明1025]
変化が、ヒストンのN末端から4番目(4個目)のアミノ酸位置にあるリジンのメチル化状態の変化である、本発明1023の方法。
[本発明1026]
本発明1001~1025のいずれかの方法に従って得られた、人工多能性幹細胞前駆体。
[本発明1027]
人工多能性幹細胞前駆体または人工多能性幹細胞を作製するための方法であって、
Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycを発現する細胞において組換えエストロゲン関連受容体(ERR)αまたはγを発現させ、該細胞を培養し、それによって、人工多能性幹細胞前駆体または人工多能性幹細胞を作製する工程
を含む、方法。
[本発明1028]
細胞が、PGC-1α、PGC-1β、および/またはIDH3も発現する、本発明1027の方法。
[本発明1029]
細胞が、発現が低下したSca1およびCD34を有する、本発明1027の方法。
[本発明1030]
細胞が、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycをコードするレトロウイルスベクターを含む、本発明1027の方法。
[本発明1031]
薬学的に許容される賦形剤の中に、有効量の人工多能性幹細胞またはその細胞子孫を含む、細胞組成物。
[本発明1032]
人工多能性幹細胞が、膵臓細胞、神経細胞、または心臓細胞を生じることができる、本発明1031の細胞組成物。
[本発明1033]
本発明1001~1030のいずれかの方法に従って得られた人工多能性幹細胞またはその前駆体と、該細胞を対象に投与するための説明書とを備える、キット。
[本発明1034]
検出可能なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結された、酸化経路遺伝子または解糖経路遺伝子のプロモーター配列
を含む、発現ベクター。
[本発明1035]
プロモーターが、ERRポリヌクレオチドの転写を誘導または増強するのに十分である、本発明1034の発現ベクター。
[本発明1036]
レンチウイルスベクターである、本発明1034の発現ベクター。
[本発明1037]
プロモーターがERRαエンハンサー配列を含む、本発明1034の発現ベクター。
[本発明1038]
プロモーターが、少なくとも、11番染色体のおおよそヌクレオチド位置64072402-64073375を含む、本発明1034の発現ベクター。
[本発明1039]
本発明1034~1038のいずれかの発現ベクターを含む、哺乳動物細胞。
[本発明1040]
Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycの1つまたは複数をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む、本発明1039の細胞。
[本発明1041]
増加した酸化経路活性および/または解糖経路活性を有する細胞を選択する方法であって、
図7に列挙したタンパク質またはポリヌクレオチドのレベルまたは活性の増加を検出する工程を含む、方法。
[本発明1042]
細胞が、タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの5’側にあり、かつ該オープンリーディングフレームの発現を誘導するポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む、本発明1041の方法。
[本発明1043]
細胞が、検出可能なポリペプチドに融合した、
図7に列挙したタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む、本発明1041の方法。
[本発明1044]
検出可能なポリペプチドが、GFP、RFP、YFP、およびルシフェラーゼからなる群より選択される、本発明1043の方法。
[本発明1045]
増加した酸化経路活性および/または解糖経路活性を有する細胞を選択する方法であって、活性酸素種のレベルの増加を検出する工程を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【
図1-1】
図1(
図2に関連する)は、初期リプログラミングの間、ERRおよびPGC1α/βがリプログラミング因子の直接の標的であることを示した棒グラフ、画像、および2つの模式図である。
図1A~1Dは、qPCR結果によって示された、3日目のレトロウイルスリプログラミングマウス胚線維芽細胞(MEF)においてマウスERRα/γおよびPGC1α/βが活性化されたことを示した棒グラフを図示する(n=3、
*p<0.01、エラーバーは平均の標準誤差(s.e.m.)を示す)。
図1Eは、4日目を過ぎると、レトロウイルスリプログラミングMEFにおいてERRγを枯渇させてもリプログラミング効率は影響を受けなかったことを示した棒グラフである(n=3、エラーバーは標準偏差(s.d).を示す)。
図1Fは、レンチウイルスshRNAによってERRαまたはERRγを枯渇させたリプログラミング細胞の増殖速度が遅かったことを示した線形グラフである。
図1Gは、レトロウイルスOSKMリプログラミングの後に、野生型(ERRγ+/+)またはERRγノックアウト(ERRγ-/-)胚に由来する不死化MEFをNanog染色した2つの細胞培養画像を示す。
図1Hは、ヒトERRαが、5日目のレトロウイルスリプログラミングヒト肺線維芽細胞IMR90細胞ではアップレギュレートされたのに対して、脂肪幹細胞(ADSC)、IMR90、または多能性幹細胞ではアップレギュレートされなかったことを示した棒グラフである(n=3、
*p<0.01、エラーバーはs.e.m.を示す)。
【
図1-2】
図1(
図2に関連する)は、初期リプログラミングの間、ERRおよびPGC1α/βがリプログラミング因子の直接の標的であることを示した棒グラフ、画像、および2つの模式図である。
図1I~1Jは、PGC1α/βが、5日目のレトロウイルスリプログラミングヒト肺線維芽細胞IMR90細胞ではアップレギュレートされたのに対して、脂肪幹細胞(ADSC)、IMR90、または多能性幹細胞ではアップレギュレートされなかったことを示した棒グラフである(n=3、
*p<0.01、エラーバーはs.e.m.を示す)。
図1K~1Lは、1種類の因子に感染した細胞における、ERRα、およびPGC-1αの相対発現を示したqPCRの棒グラフである(n=3、エラーバーはs.e.m.を示す)。
【
図1-3】
図1(
図2に関連する)は、初期リプログラミングの間、ERRおよびPGC1α/βがリプログラミング因子の直接の標的であることを示した棒グラフ、画像、および2つの模式図である。
図1Mは、1種類の因子に感染した細胞における、PGC-1βの相対発現を示したqPCRの棒グラフである(n=3、エラーバーはs.e.m.を示す)。
図1Nは、Oct3/4、Sox2、Klf4、またはc-MycによるERRα、PGC-1α、およびPGC-1βの誘導の模式図である。
図1Oは、ERRγ過剰発現があるドキシサイクリン誘導性リプログラミングMEF(Ad-ERRγ)と、ERRγ過剰発現がないドキシサイクリン誘導性リプログラミングMEF(Ad-GFP)の相対リプログラミング効率を示した棒グラフである。リプログラミング効率は、21日目のアルカリホスファターゼ染色に基づいた(n=6、エラーバーはs.d.を示す、
**p<0.01)。
図1Pは、ヒトERRαエンハンサー活性を再現するレンチウイルスレポーターの概略図である。ヒトERRα遺伝子の上流と5UTRをカバーする974bpエンハンサー配列(chr11: 64072402-64073375)を、緑色蛍光タンパク質(GFP)とルシフェラーゼを含有するレンチウイルスレポーターにクローニングした。別個の構成的な活性プロモーターEF1aが、内因性ERRαの発現が低い細胞の選択を可能にするネオマイシン耐性遺伝子を発現させた。
図1Qは、ERRαを高発現するリプログラミング細胞の亜集団の単離の概略図である。ヒト線維芽細胞に、Oct4、Sox2、Klf4、cMyc、Nanog、およびLin28を過剰発現させるレンチウイルスリプログラミング因子を形質導入した。同時に、この線維芽細胞にERRαレポーターを形質導入した。GFPは、1日目~2日目には観察されなかったが、4日目~6日目に現れ、ピークに達し始めた。上位5%のGFP陽性細胞を単離するために、この段階でGFP強度によって細胞を選別した。
【
図1-4】
図1(
図2に関連する)は、初期リプログラミングの間、ERRおよびPGC1α/βがリプログラミング因子の直接の標的であることを示した棒グラフ、画像、および2つの模式図である。
図1Rは、5日目のリプログラミング線維芽細胞ではERRαレポーターを観察することができたのに対して、レポーターだけを形質導入し、リプログラミング因子を形質導入しなかった対照はGFP陰性のままであったことを示した蛍光画像である。
図1Sは、ERRαレポーターを有するリプログラミング細胞の蛍光標識細胞分取(FACS)結果を示す。P4はGFP陽性集団を表す。
図1Tは、リプログラミング6日目に、正常線維芽細胞(対照)、レポーターだけ形質導入した線維芽細胞(GFのみ)、ならびにGFP+およびGFP-集団におけるERRαとその標的を比較した遺伝子発現を示す。ERRαとその標的は他の試料と比較してGFP+集団に極めて豊富にあった。このことから、ERRαレポーターは内因性ERRα発現パターンを完全に捕捉できたことが分かる。
【
図2】
図2A~2Jは、マウス細胞およびヒト細胞の両方においてERRα/γおよびPGC1α/βが人工多能性に重要なことを示した棒グラフおよび画像である。
図2Aは、OSKMによるレトロウイルスリプログラミングを受けたマウス胚線維芽細胞(MEF)に、対照、ERRα、ERRγ、PGC-1α、またはPGC-1βshRNAが形質導入されたことを示した棒グラフである。ERRα/γおよびPGC-1α/βを枯渇させることでリプログラミング効率が有意に低下した(n=3、エラーバーはs.d.を示す)。
図2B~2Fは、OSKM誘導の3日後に4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)で処理した、ドキシサイクリン誘導性OSKMレンチウイルスに感染したERRγlox/loxマウスMEFおよびERRγlox/loxCreERTマウスMEFを示した細胞培養画像とグラフを図示する。
図2B~Eは、ERRγを枯渇させることで初期リプログラミング細胞のクラスターが低減し(
図2B)、APコロニーが有意に低減し(
図2Cおよび
図2D)、Nanog陽性コロニーが低減したことを示した(
図2Eおよび2F)、明視野画像とグラフである(n=3、
*p<0.01、エラーバーはs.d.を示す)。
図2Gは、ERRαおよびPGC-1α/βがIMR90のリプログラミングに重要なことを示した棒グラフである(n=3、
*p<0.01、エラーバーは標準偏差(s.d)を示す)。
図2Hおよび
図2Iは、p53を枯渇させることで、IMR90細胞のリプログラミング中にヒトERRαの発現が増加したことを示したqPCR結果を図示した棒グラフである(n=3、*p<0.01、エラーバーはs.e.mを示す)。
図2Jは、p53(左)shRNAベクターまたはp53およびERRγ(右)shRNAベクターを有するレトロウイルスOSKM感染MEFのNanog染色を示した2つの細胞培養画像である。このことから、ERRγが失われることで、p53枯渇が伴っていてもリプログラミングが完全に崩壊したことが証明された。
【
図3-1】
図3は、初期リプログラミングにおいて、ERRα/γが人工多能性に重要な代謝移行を誘導したことを示したグラフおよびヒートマップである。
図3Aは、単一遺伝子トランスジェニックマウスから単離したDox誘導性リプログラミングマウス胚線維芽細胞(MEF)における酸素消費速度(OCR)および細胞外酸性化速度(ECAR)の時間経過から、リプログラミング集団が初期酸化的リン酸化(OXPHOS)バーストを経験したことが明らかになったことを示したグラフである。
図3Bは、
図3Aでの初期リプログラミングMEFのミトストレス(mitostress)試験から、基礎OCRおよび最大OXPHOS能力が増加したことが分かったことを明らかにしたグラフである。
【
図3-2】
図3は、初期リプログラミングにおいて、ERRα/γが人工多能性に重要な代謝移行を誘導したことを示したグラフおよびヒートマップである。
図3Cは、qPCRによって測定された、IMR90細胞をレトロウイルスOSKMに感染させた後の、ERRα、コアクチベーターであるPGC-1αおよびPGC-1β、ならびにNanogの相対遺伝子発現から、ERRとそのコファクターの発現パターンが初期リプログラミングにおける代謝スイッチと一致することが分かったことを示したグラフである(n=3、
*p<0.01、エラーバーはs.e.m.を示す)。
図3Dは、レトロウイルスOSKM誘導性IMR90リプログラミング中の代謝遺伝子の経時的発現を示したヒートマップである。
【
図3-3】
図3は、初期リプログラミングにおいて、ERRα/γが人工多能性に重要な代謝移行を誘導したことを示したグラフおよびヒートマップである。
図3Eは、対照およびERRαノックダウンレトロウイルスリプログラミングIMR90細胞のOCRおよび細胞外酸性化速度(ECAR)測定値を示したグラフである。このことから、ERRαはヒト細胞における初期OXPHOSバーストに重要なことが証明された。
図3Fは、対照およびERRγノックダウンレトロウイルスリプログラミングMEF細胞のOCRおよびECAR測定値から、ERRγがマウス細胞における初期OXPHOSバーストに重要なことが証明されたことを示したグラフである。
図3Gは、OXPHOSバーストを阻害するロテノンで処置することによって、IMR90におけるレトロウイルスリプログラミング効率が有意に低下したことを示したグラフである。このことから代謝スイッチは重要なことが分かった(n=3、
*p<0.05、エラーバーはs.d.を示す)。
【
図4-1】
図4(
図3に関連する)は、リプログラミング中に、代謝活性と癌原遺伝子チロシン-プロテインキナーゼ(ROS)遺伝子が変化したことを示したグラフとヒートマップである。
図4Aは、ドキシサイクリン誘導性リプログラミングマウス胚線維芽細胞(MEF)における最大酸化的リン酸化(OXPHOS)能力のキネティクスを示した棒グラフである。2日目~5日目のリプログラミング細胞のOXPHOS能力はMEFおよびiPSCよりも高い。
図4Bおよび4Cは、レトロウイルスリプログラミングIMR90細胞における酸素消費速度(OCR、
図4B)および細胞外酸性化速度(ECAR、
図4C)の時間経過測定値から、初期リプログラミングヒト線維芽細胞において代謝プロファイルがアップレギュレートされたことが分かったことを示した線形グラフである。
図4D~4Fは、IMR90細胞の初期レトロウイルスリプログラミングにおいてNADH、ATP、およびNAD+/NADHレベルが変化したことを示した棒グラフである(n=5、エラーバーはs.d.を示す。
*p<0.01)。
【
図4-2】
図4(
図3に関連する)は、リプログラミング中に、代謝活性と癌原遺伝子チロシン-プロテインキナーゼ(ROS)遺伝子が変化したことを示したグラフとヒートマップである。
図4Gは、線維芽細胞(hFib)株とは対照的に、様々なヒトES株とiPS株との間で、
図4Dに列挙した代謝遺伝子の発現パターンが似ていることを示したヒートマップである。
【
図4-3】
図4(
図3に関連する)は、リプログラミング中に、代謝活性と癌原遺伝子チロシン-プロテインキナーゼ(ROS)遺伝子が変化したことを示したグラフとヒートマップである。
図4Hは、IMR90細胞のレトロウイルスリプログラミング中の、ROS遺伝子SOD2、NOX4、およびCATの動的な発現パターンを示した線形グラフである(n=3、エラーバーはs.e.m.を示す。
*p<0.01)。
【
図5】
図5A~5Gは、初期リプログラミング中のERRγが豊富にある亜集団が、リプログラミング効率が有意に高い本物のリプログラミング細胞であったことを示した画像、グラフ、および表である。
図5Aは、Sca1およびCD34で標識した本物のリプログラミング細胞を示した2つの画像を図示する。Sca1(緑色)およびCD34(赤色)発現について染色された、レトロウイルスOSKM感染マウス胚線維芽細胞(MEF)と、位相差画像(右)。位相差画像から、Sca1-CD34-二重陰性(DN)細胞を白色の破線で囲んだ。
図5Bは、レトロウイルスリプログラミング中のSca1-CD34-細胞の6つの代表的な位相差画像を示す。矢じり状のものは、代表的なDNコロニーを示す。
図5Cおよび
図5Dは、DN集団においてERRγおよびPGC-1βが豊富にあったことを証明したqPCRの棒グラフである(n=3、エラーバーはs.e.m.を示す。
*p<0.01)。
図5Eおよび
図5Fは、蛍光標識細胞分取(FACS)によって単離したDN集団の細胞外酸性化速度(ECAR、
図5E)および酸素消費速度(OCR、
図5F)が、二重陽性(DP)集団または単一陽性(SP)集団より速かったことを示した棒グラフである(n=4、
*p<0.05、エラーバーはs.d.を示す)。
図5Gは、DN細胞が有意に高いリプログラミング効率を証明したことを示した表である(n=7、
*p<0.05、
**p<0.01)。
【
図6-1】
図6(
図5に関連する)は、二重陰性(DN)集団からのiPSCの多能性アッセイおよび生殖系列伝達を示したグラフおよび画像である。
図6Aは、WTマウス胚線維芽細胞(MEF)、レトロウイルスOSKM感染MEF、iPSC、および胚性幹細胞(ESC)におけるSca1発現およびCD34発現のフローサイトメトリー分析を示した一群のグラフである。
【
図6-2】
図6(
図5に関連する)は、二重陰性(DN)集団からのiPSCの多能性アッセイおよび生殖系列伝達を示したグラフおよび画像である。
図6Bは、Sca1-MEFのリプログラミング効率がSca1+MEFと同様であったことを示した棒グラフである(n=6、エラーバーはs.d.を示す)。
図6Cは、DN集団からのiPSCのアルカリホスファターゼ染色と位相差画像を示す。
【
図6-3】
図6(
図5に関連する)は、二重陰性(DN)集団からのiPSCの多能性アッセイおよび生殖系列伝達を示したグラフおよび画像である。
図6Dは、Sca1-CD34-細胞から生じたiPSCにおけるSSEA1(PE)、Nanog(FITC)、およびDNA(DAPI)の免疫蛍光の3つの画像を示す。
図6Eおよび
図6Fは、未分化なおよび分化したマウスESCおよびiPSCにおける多能性マーカー遺伝子(
図6E)および分化マーカー遺伝子(
図6F)のq-PCR分析を示した棒グラフである。心臓a-アクチンおよびMtap2のスケールは、右側に灰色で陰を付けたy軸と一致した。
図6Gは、OSKM感染の5日後に選別したDN細胞集団に由来するiPSC株から得た成獣キメラマウスを示した画像である。
図6Hは、C56BL/6N雌(星印)と交雑したキメラの子孫を示した画像である。iPSC細胞から生じた黒色の毛がある仔(緑色の矢印)を示した。
【
図7-1】
図7は、トランスクリプトーム分析の表、グラフ、ヒートマップ、および模式図を図示する。これらから、ERRは、初期リプログラミング中に酸化的リン酸化(OXPHOS)関連遺伝子のパネルのアップレギュレーションを調整し、代謝スイッチを促進したことが明らかになった。
図7Aおよび
図7Bは、様々な細胞タイプのゲノムワイドな発現パターンを、多能性幹細胞、マウス胚線維芽細胞(MEF)、および中間レトロウイルスリプログラミング細胞に分類できることを明らかにしたRNA-Seq分析を示した行列とグラフである。これは、距離行列(
図7A)およびクラスタリング分析(
図7B)によって証明された。
図7Cおよび
図7Dは、二重陰性(DN)細胞とESCとの類似性を明らかにした、重要な多能性マーカー(
図7C)および細胞周期遺伝子(
図7D)の一部のRNA-Seqパターンを示したヒートマップである。これから、DN集団は、人工多能性を取り入れている途上にある、本物の初期リプログラミング細胞であったことが分かった。
【
図7-2】
図7は、トランスクリプトーム分析の表、グラフ、ヒートマップ、および模式図を図示する。これらから、ERRは、初期リプログラミング中に酸化的リン酸化(OXPHOS)関連遺伝子のパネルのアップレギュレーションを調整し、代謝スイッチを促進したことが明らかになった。
図7Eは、DN細胞には、高エネルギー状態を表す独特の代謝遺伝子パターンがあったことを示したRNA-Seqデータからの発現ヒートマップである。
図7Fは、ERRα枯渇後のIMR90細胞におけるマイクロアレイからの遺伝子発現のヒートマップである。これから、ヒト線維芽細胞リプログラミングにおいてOXPHOSプログラムのかなりの部分がERRαの影響を直接受けたことが分かった。
【
図7-3】
図7は、トランスクリプトーム分析の表、グラフ、ヒートマップ、および模式図を図示する。これらから、ERRは、初期リプログラミング中に酸化的リン酸化(OXPHOS)関連遺伝子のパネルのアップレギュレーションを調整し、代謝スイッチを促進したことが明らかになった。
図7Gは、初期OXPHOSバーストの誘導および人工多能性への移行におけるERRおよびPGC1α/βの役割の模式図である。OXPHOSバーストは体細胞リプログラミングに重要であり、ERRおよびそのコファクターの一過的な活性化は、リプログラミングにおいて、p53/p21によって誘導される老化という障害物(roadblock)よりも上位にあった。
【
図8】
図8A~8C(
図7に関連する)は、リプログラミング中にERRα枯渇が酸化的リン酸化(OXPHOS)バーストに影響を及ぼしたことを示した2つの円グラフおよび表である。
図8Aおよび
図8Bは、感染させて5日後のDN集団におけるOXPHOS関連遺伝子パネルを明らかにした、分子データセットを位置づけるプロセスであるKEGGパスウェイ解析の円グラフと表である。これから、本物のリプログラミング細胞におけるERRγのアップレギュレーションによってOXPHOSプログラムの転写が誘導されたことが分かる。遺伝子の選択は、αBonf=0.01のボンフェローニ誤差閾値(Bonferroni error threshold)に基づいた。
図8Cは、GO解析を用いて作製した遺伝子セットに対する濃縮(enrichment)分析の表である。これから、IMR90細胞においてERRαを枯渇させることで、代謝プロセスに関与する遺伝子の広範にわたる変化が誘導されたことが分かる。
【
図9】
図9A~9Fは、ERRがリプログラミングを調節するためにIDHとα-ケトグルタル酸を介して機能することを明らかにした模式図、グラフ、および画像を図示する。
図9Aは、リプログラミングにおけるERRの機能を証明するための模式図である。IDH3遺伝子は、イソクエン酸からα-ケトグルタル酸への酸化を触媒するイソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードする。H3K4Me2は、タンパク質のN末端から4番目(4個目)のアミノ酸位置に、ジメチル化(Me2)されたリジン(K4)があるH3ヒストン(H3)を表す。H3K4Me3は、タンパク質のN末端から4番目(4個目)のアミノ酸位置に、トリメチル化(Me3)されたリジン(K4)があるヒストン3を表す。H3K4Me1は、タンパク質のN末端から4番目(4個目)のアミノ酸位置に、モノメチル化(Me1)されたリジン(K4)があるH3ヒストンを表す。H3K4は、タンパク質のN末端から4番目(4個目)のアミノ酸位置に、メチル化されていないリジン(K4)があるH3ヒストンを表す。
図9Bは、ERR発現の急増と一致する、リプログラミング中のNAD+/NADH比の変化を示した棒グラフである。
図9Cは、様々なリプログラミング集団におけるIDH3遺伝子の調節を示した棒グラフである。WT線維芽細胞は、レンチウイルスに感染していない野生型線維芽細胞を表す。モック感染は対照として含めた。ERRα-GFPは、ERRαプロモーターの制御下でGFPタンパク質をコードするレンチウイルスを指す。細胞を処理しなかったか(WT線維芽細胞)、モック感染させたか、またはERRα-GFPレンチウイルスに感染させた。ERRα-GFP感染細胞をFACSによってGFP活性(ERRα-GFP+およびERRα-GFP-)に基づいて選別した。様々な細胞集団におけるIDH3遺伝子の相対発現をqPCRによって確かめた。
図9Dは、ERRγの発現を低減するように設計された低分子ヘアピン型RNA(shRNA)(ERRg shRNA)で処理をしなかった場合(対照)および処理をした場合の、初期リプログラミング(5日目)におけるα-ケトグルタル酸レベルを示した棒グラフである。α-KGはα-ケトグルタル酸を表す。
図9Eは、D-2-ヒドロキシグルタラート(D-2-HG)またはL-2-ヒドロキシグルタラート(L-2-HG)で処理した後のiPSコロニーの代表的な画像を示す。
図9Fは、細胞をD-2-HGまたはL-2-HGで処理した後のリプログラミング効率を示した棒グラフである。
図9Eおよび
図9Fの「Veh」と名前を付けた画像および棒は、陰性対照で処理した後のiPSコロニーを表す。陰性対照では、細胞をD-2-HG用およびL-2-HG用の溶媒だけで処理した。
【
図10】
図10A~10Bは、ERRα発現が、初期リプログラミング中に、代謝活性のある細胞亜集団を標識することを示した模式図と表を図示する。
図10Aは実験計画の模式図である。IMR90細胞には、内因性ERRα活性を反映するレンチウイルスGFPレポーターと一緒に、リプログラミング因子Oct4、Sox2、Klf4、Myc、Lin28、およびNanogを発現するレンチウイルスを形質導入した。レンチ-OSKMLNは、Oct4、Sox2、Klf4、Myc、Lin28、およびNanogを発現するレンチウイルスを表す。GF-hEERa-IIIは、GFP活性が内因性ERRα発現パターンの尺度であるレンチウイルスGFPレポーターを表す。2日目~6日目にGFP発現に基づいて細胞を選別する。全ての亜集団の細胞についてRNA配列決定を行った。
図10Bは、GFP+集団に豊富にある遺伝子のKEGG遺伝子オントロジー分析の結果を示すための表である。
【
図11】
図11A~11Bは、ERRα+リプログラミング集団およびERRα-リプログラミング集団におけるプロモーター/エンハンサーランドスケープを示したグラフである。
図11Aは、ERRα+集団およびERRα-集団での、線維芽細胞同一性において機能する遺伝子、例えば、SNAI1およびZEB2のエンハンサー/プロモーター領域におけるH3K4Me2レベルを示したグラフである。
図11Bは、Oct4およびSox2などのリプログラミングにおいて機能する遺伝子のエンハンサー/プロモーターにおけるH3K4Me2レベルを示したグラフである。H3K4Me2は、タンパク質のN末端から4番目(4個目)の位置に、ジメチル化されたリジンがあるH3ヒストンを表す。
【発明を実施するための形態】
【0115】
発明の詳細な説明
下記で説明するように、本発明は、概して、人工多能性幹細胞前駆体(リプログラミング前駆細胞とも呼ばれる)を含む組成物およびこのような細胞を単離する方法を特徴とする。本発明はまた、このような前駆細胞に由来する人工多能性幹細胞(iPSC)を含む組成物も提供する。人工多能性幹細胞前駆体から高効率でiPSCが生じる。
【0116】
細胞代謝は外因性の要求に対して順応性がある。しかしながら、人工多能性幹細胞(iPSC)のプログラムを動かす内因性の代謝要求は依然としてはっきりしていない。解糖はリプログラミングプロセス全体を通して増加するが、エストロゲン関連核受容体(ERRαおよびγ)と、これらのパートナーであるコファクターPGC-1αおよびβが初期段階で一過的に誘導され、その結果、酸化的リン酸化(OXPHOS)活性のバーストが起こることが本明細書で証明された。ERRαまたはγのアップレギュレーションが、それぞれ、ヒト細胞およびマウス細胞におけるOXPHOSバーストに重要であり、iPSCの生成そのものにも重要であった。この代謝スイッチを誘導できないことでリプログラミングプロセスが崩壊した。本発明は、少なくとも一部には、本物のリプログラミング前駆体において極めて豊富にある、Sca1-/CD34-で選別可能な細胞の稀なプールを発見したことに基づいている。転写プロファイリングによって、これらの前駆体はERRγ陽性およびPGC-1β陽性であり、大規模な代謝リプログラミングを受けていることが確かめられた。これらの研究から、人工多能性が確立する前に、以前では認められていなかったERR依存性代謝ゲート(metabolic gate)があることが特徴付けられた。
【0117】
従って、本発明は、リプログラミング前駆体またはその子孫(すなわち、IPSC)を含む組成物、および細胞数の不足に関連する状態を処置するために、このような組成物を使用する方法を提供する。
【0118】
人工多能性幹細胞
ヒト多能性幹細胞の作製、維持、および分化に影響を及ぼす分子機構の理解は、治療の場でヒト多能性幹細胞の使用を進めるための鍵である。転写の動態およびエピジェネティックな動態は広範囲にわたって記述されてきたのに対して、多能性が誘導されている間の代謝状態の経時的変化はほとんど分かっていない。体細胞とは異なり、多能性幹細胞には、細胞挙動およびエピジェネティック状態に影響を及ぼす独特の代謝経路がある(Zhang et al., 2012, Cell stem cell 11, 589-595)。実際に、リプログラミングを受けている細胞においてアップレギュレートされる最初の因子の中には、ミトコンドリアタンパク質などの代謝機能に関与する因子がある。従って、動的な細胞代謝調節を支配する分子機構を詳細に描写することは、代謝リプログラミングとエピジェネティックリプログラミングとの関連性の理解にとって重要である。
【0119】
核受容体(NR)は、グルコースおよび脂肪酸の代謝ならびにエネルギーホメオスタシス全体の広範な局面を制御する臓器生理機能の多面的な制御因子である(Mangelsdorf et al., 1995, Cell 83, 835-839, Yang et al., 2006, Cell 126, 801-810)。エストロゲン関連受容体(ERR)などのオーファン受容体はリガンド非依存性であるが、それにもかかわらず、高エネルギーの組織において解糖代謝および酸化的代謝を劇的に変えることができる。ERRは、そのコアクチベーターPGC-1α/βと優先的に結合することによって様々な酸化状態を切り替える。ERRファミリーのメンバーであるERRβ(Esrrbとも知られる)はPGC-1αの非存在下では糖分解し、多能性を確立するのに重要な役割を果たしている(Buganim et al., 2012, Cell 150, 1209-1222; Feng et al., 2009, Nature cell biology 11, 197-203; Festuccia et al., 2012, Cell stem cell 11, 477-490; Martello et al., 2012, Cell stem cell 11, 491-504)。対照的に、ERRαおよびERRγは骨格筋および心臓などの酸化組織において発現し(Narkar et al., 2011, Cell Metab 13, 283-293)、iPSCの作製に以前は結び付けられていなかった。下記で詳述されるように、リプログラミングの初期段階においてERRαおよびγを一過的にアップレギュレートすることで独特のエネルギー状態が誘導された。さらに、この代謝スイッチによって開始する、一過的なOXPHOSバーストと解糖の増加がエピジェネティックなリプログラミングに重要であることが示された。機構的に、ERRαおよびγは本物のリプログラミング前駆体に豊富にあり、代謝遺伝子ネットワークの広範にわたる変化を誘導した。これらの結果から、ERRを介した代謝移行は人工多能性に重要なことが分かる。
【0120】
従って、本発明は、人工多能性幹細胞を高効率で生じることができるリプログラミング前駆体を作製するための方法を提供する。一態様において、Sca1-CD34-リプログラミング前駆体がiPSCを生じる効率は参照細胞の約50倍である。他の態様では、OSKM感染細胞のうちの5%未満であったSca1-CD34-リプログラミング前駆体によって、集団内にあるiPSCコロニーのほぼ75%が作製された。驚いたことに、Sca1-CD34-リプログラミング前駆体は参照細胞と比べて1500%多いコロニー形成頻度(CFF)を示した。
【0121】
細胞組成物
精製されたリプログラミング前駆体またはその前駆体に由来する人工多能性幹細胞を含む本発明の組成物は、都合よく、滅菌した液体調製物、例えば、等張性の水溶液、懸濁液、エマルジョン、分散液、または粘性組成物として提供することができ、これらは、選択されたpHまで緩衝化されてもよい。液体調製物は、通常、ゲル、他の粘性組成物、および固体組成物よりも調製しやすい。さらに、液体組成物は、投与するのに、特に、注射によって投与するのに、いくらか便利である。他方で、粘性組成物は、特定の組織と長期の接触期間をもたらすように適切な粘性の範囲内で処方することができる。液体組成物または粘性組成物は担体を含んでもよく、担体は、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)を含有する溶媒または分散媒、およびその適切な混合物でもよい。
【0122】
滅菌注射液は、本発明の実施において利用されるリプログラミング前駆体またはその子孫を、望ましい場合、様々な量の他の成分と一緒に、必要とされる量の適切な溶媒に組み入れることによって調製することができる。このような組成物は、適切な担体、希釈剤、または賦形剤、例えば、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースなどと混合されてもよい。前記組成物はまた凍結乾燥することもできる。前記組成物は、望ましい投与経路および調製に応じて、補助物質、例えば、湿潤剤、分散剤、または乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル化または粘性を高める添加物、防腐剤、着香剤、染料などを含有することができる。過度に実験せずに適切な調製物を調製するために、参照として本明細書に組み入れられる「REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCE」, 第17版, 1985などの標準的な教科書が参照される場合がある。
【0123】
抗菌性防腐剤、抗酸化物質、キレート剤、および緩衝液を含む、組成物の安定性および無菌性を増強する様々な添加物を添加することができる。微生物の活動は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などによって阻止することができる。注射用薬学的形態の長期吸収は、吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することによって可能になる。しかしながら、本発明によれば、使用するビヒクル、希釈剤、または添加物はリプログラミング前駆体またはその子孫と適合しなければならない。
【0124】
前記組成物は等張性でもよい。すなわち、前記組成物の浸透圧は血液および涙液と同じでもよい。本発明の組成物の望ましい等張性は、塩化ナトリウム、または他の薬学的に許容される薬剤、例えば、デキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール、または他の無機溶質もしくは有機溶質を用いて成し遂げられてもよい。特に、ナトリウムイオンを含有する緩衝液には塩化ナトリウムが好ましい。
【0125】
前記組成物の粘性は、所望であれば、薬学的に許容される増粘剤を用いて、選択されたレベルで維持することができる。メチルセルロースは容易に、かつ経済的に入手することができ、かつ扱いやすいので好ましい。他の適切な増粘剤には、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボマーなどが含まれる。シックナーの好ましい濃度は、選択された薬剤に左右される。重要な点は、選択された粘性を実現する量を使用することである。明らかに、適切な担体および他の添加物の選択は、正確な投与経路と、特定の剤形がどういったものか、例えば、液体剤形(例えば、組成物が溶液、懸濁液、ゲル、または別の液体形態、例えば、徐放性形態もしくは液体充填形態に処方されるかどうか)に左右される。
【0126】
当業者は、前記組成物の成分が化学的に不活性になるように選択しなければならず、本発明に記載のようにリプログラミング前駆体またはその子孫(すなわち、IPSC)の生存率にも効力にも影響を及ぼさないことを認める。これは、化学原理および薬学原理に熟練した人に対して問題を提起しない。または、問題は、本開示および本明細書において引用された文書から、標準的な教科書を参照することによって、または(過度の実験法が関与しない)簡単な実験によって容易に回避することができる。
【0127】
本発明のリプログラミング前駆体またはその子孫(すなわち、IPSC)の治療的使用に関する考慮すべき事項の1つは、最適な効果を実現するのに必要な細胞の量である。投与される細胞の量は、処置されている対象によって変化する。一態様では、104~108個、105~107個、または106~107個の本発明の細胞がヒト対象に投与される。好ましい態様では、少なくとも約1x107、2x107、3x107、4x107、および5x107個の本発明の細胞がヒト対象に投与される。有効な用量とみなされるものを正確に決定するのは、特定の対象のサイズ、年齢、性別、体重、および状態を含む、各対象の個々の要因に基づく場合がある。本開示および当技術分野における知識から、当業者は容易に投与量を突き止めることができる。
【0128】
当業者は、組成物中にあり、本発明の方法において投与される、細胞と任意の添加物、ビヒクル、および/または担体の量を容易に決定することができる。典型的には、(活性のある幹細胞および/または薬剤に加えて)任意の添加物がリン酸緩衝食塩水の中に0.001~50(重量)%溶液の量で存在する。活性成分は、マイクログラム~ミリグラムのオーダー、例えば、約0.0001~約5wt%、好ましくは、約0.0001~約1wt%、さらにより好ましくは、約0.0001~約0.05wt%または約0.001~約20wt%、好ましくは、約0.01~約10wt%、さらにより好ましくは、約0.05~約5wt%で存在する。従って、もちろん、あらゆる組成物を動物またはヒトに投与するために、およびあらゆる特定の投与方法について、例えば、適切な動物モデル、例えば、マウスなどのげっ歯類において、致死量(LD)およびLD50を求めることによって毒性を求めることが好ましく、適切な応答を誘発する、組成物の投与量、組成物中の成分の濃度、および組成物を投与するタイミングを求めることが好ましい。このような決定は、当業者の知識、本開示、および本明細書において引用された文書からの過度の実験法を必要としない。そしてまた、連続投与するための時間を過度の実験なく突き止めることができる。
【0129】
細胞組成物の投与
リプログラミング前駆体またはその子孫(すなわち、IPSC)を含む組成物が本明細書において説明される。特に、本発明は、ERRαまたはγを発現し、任意でPGC1αまたはβを発現するリプログラミング前駆体に由来する人工多能性幹細胞の投与を提供する。このような細胞は、細胞数の減少に関連する疾患または状態(例えば、神経変性疾患、心臓病、自己免疫疾患、I型糖尿病、II型糖尿病、前糖尿病、代謝障害)を処置または予防するために、および細胞分裂、分化、および細胞死の欠陥(例えば、膵臓細胞数の低下、T細胞の低下、神経細胞または筋細胞の消失)に関連する他の疾患または障害を処置するために、対象の全身または局所に提供することができる。一態様において、本発明の細胞は関心対象の臓器または組織(例えば、膵臓、胸腺、脳、筋肉、または心臓)に直接注射される。または、本発明の細胞を含む組成物は、関心対象の臓器に間接的に、例えば、循環系(例えば、心臓または膵臓脈管構造)に投与することによって提供される。インビトロまたはインビボで、例えば、神経伝達物質、またはインシュリンを産生する能力を有する細胞の産生を増やすために、細胞を投与する前に、細胞を投与している間に、または細胞を投与した後に拡大剤および分化剤を提供することができる。前記細胞は、任意の生理学的に許容されるビヒクルに入れて、通常は、血管内に投与することができるが、再生および分化するのに適した部位を前記細胞が見つける可能性がある別の便利な部位に導入されてもよい。
【0130】
あるアプローチでは、少なくとも100,000個、250,000個、または500,000個の細胞が注射される。他の態様において、750,000個または1,000,000個の細胞が注射される。他の態様において、少なくとも約1x105個の細胞が投与され、1x106個、1x107個、さらには1x108~1x1010個もの細胞、またはもっと多くの細胞が投与される。本発明の選択された細胞は、ERRαまたはγおよびPGC1αまたはβを発現する細胞の精製された集団を含む。選択された細胞を含む集団における好ましい純度範囲は、約50~約55%、約55~約60%、および約65~約70%である。より好ましくは、純度は、少なくとも約70%、75%、または80%の純度、より好ましくは少なくとも約85%、90%、または95%の純度である。一部の態様において、集団は、少なくとも約95%~約100%の選択された細胞である。投与量は、当業者によって容易に調整することができる(例えば、純度の低下は投与量の増加を必要とする場合がある)。前記細胞は注射、カテーテルなどによって導入することができる。
【0131】
本発明の組成物は、リプログラミング前駆体またはその子孫(すなわち、IPSC)と、薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を含む。投与は自己投与でもよく、異種投与でもよい。例えば、体細胞は、ある対象から得られ、同じ対象に投与されてもよく、異なる、適合性のある対象に投与されてもよい。
【0132】
選択された本発明の細胞またはその子孫(例えば、インビボ由来、エクスビボ由来、またはインビトロ由来)は、カテーテル投与、全身注射、局所注射、静脈内注射、または非経口投与を含む局所注射を介して投与することができる。本発明の治療用組成物(例えば、選択された細胞を含有する薬学的組成物)が投与される時には、一般的に、注射可能な単位剤形(溶液、懸濁液、エマルジョン)で処方される。
【0133】
従って、本発明はまた、対象を処置する方法、例えば、神経変性疾患、癌、心臓病、自己免疫疾患、I型糖尿病、II型糖尿病、前糖尿病、代謝障害を含むが、これに限定されない細胞数の不足を特徴とする疾患または状態を有する対象を処置する方法、ならびに細胞分裂、分化、および細胞死の欠陥(例えば、膵臓細胞数の低下、T細胞の低下、神経細胞または筋細胞の消失)に関連する他の疾患または障害の処置に関する。この方法は、有効量の、本明細書において説明されたように単離されたリプログラミング前駆体またはその子孫(すなわち、IPSC)を対象に投与する工程を含む。
【0134】
キット
本発明は、有効量のリプログラミング前駆体またはその子孫(すなわち、IPSC)を備えるキットを提供する。一態様において、本発明は、ERRαまたはγを発現する胚線維芽細胞(MEF)または肺線維芽細胞に由来するリプログラミング前駆体を提供する。任意で、前記細胞はPGC1αまたはβも発現する。前記細胞は単位剤形で提供される。一部の態様において、キットは、治療用細胞組成物または予防用細胞組成物を入れた滅菌した容器を備える。このような容器は、箱、アンプル、瓶、バイアル、チューブ、バッグ、パウチ、ブリスター包装、または当技術分野において公知の他の適切な容器の形態でもよい。このような容器は、プラスチック、ガラス、ラミネート紙、金属箔、または医用薬剤を収容するのに適した他の材料から作られてもよい。
【0135】
所望であれば、本発明の細胞は、前記細胞を、細胞数の不足を特徴とする状態、例えば、神経変性疾患、心臓病、自己免疫疾患、I型糖尿病、II型糖尿病、前糖尿病、他の代謝障害、または細胞分裂、分化、および細胞死の欠陥(例えば、膵臓細胞数の低下、T細胞の低下、神経細胞もしくは筋細胞の消失)に関連する他の疾患もしくは障害を有するか、または発症するリスクのある対象に投与するための説明書と一緒に提供される。説明書は、一般的に、神経変性疾患、癌、心臓病、自己免疫疾患、I型糖尿病、II型糖尿病、前糖尿病、他の代謝障害、または細胞分裂、分化、および細胞死の欠陥(例えば、膵臓細胞数の低下、T細胞の低下、神経細胞もしくは筋細胞の消失)に関連する他の疾患もしくは障害を処置または予防するための組成物の使用についての情報を収めている。他の態様において、説明書は、以下:細胞の説明;神経変性疾患、癌、心臓病、自己免疫疾患、I型糖尿病、II型糖尿病、前糖尿病、他の代謝障害、または細胞分裂、分化、および細胞死の欠陥に関連する他の疾患もしくは障害、あるいはその症状を処置または予防するための投与計画および投与;注意;警告;適応症;禁忌症(counter-indication);過量投与情報;有害反応;動物薬理学;臨床研究;ならびに/あるいは参考文献の少なくとも1つを収めている。説明書は、直接、容器(存在する場合)に印刷されてもよく、容器に貼り付けられるラベルとして印刷されてもよく、容器の中に入れて、または容器と一緒に供給される別個のシート、パンフレット、カード、または折りたたんだ印刷物として印刷されてもよい。
【0136】
本発明の実施では、特に定めのない限り、十分に当業者の範囲内にある、分子生物学(組換え法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学の従来技法を使用する。このような技法は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」, second edition (Sambrook, 1989); 「Oligonucleotide Synthesis」 (Gait, 1984); 「Animal Cell Culture」 (Freshney, 1987); 「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir, 1996); 「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」 (Miller and Calos, 1987); 「Current Protocols in Molecular Biology」 (Ausubel, 1987); 「PCR: The Polymerase Chain Reaction」, (Mullis, 1994); 「Current Protocols in Immunology」 (Coligan, 1991)などの文献において完全に説明される。これらの技法は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの生成に適用することができ、従って、本発明の作製および実施において考慮され得る。特定の態様のための特に有用な技法を以下のセクションにおいて議論する。
【0137】
以下の実施例は、当業者に、本発明のアッセイ、スクリーニング、および治療方法を作製および使用するやり方を完全に開示および説明するために示され、本発明者らが本発明とみなすものの範囲を限定することを目的としない。
【実施例0138】
実施例1:ERRα/γは体細胞リプログラミングに重要である
Oct4、Sox2、Klf4、およびcMyc(OSKM)またはOSKを用いてリプログラミングした後のマウス胚線維芽細胞(MEF)における遺伝子の経時的発現研究から、感染させて3日後に、ERRγ、PGC-1α、PGC-1βの発現が一過的に増加し、それより少ない程度でERRαの発現が増加することが明らかになった(
図1A~1D)。さらに、OSKM誘導と同時に、shRNAノックダウンによってERRγ、PGC-1α、またはPGC-1βを枯渇させることでMEFにおけるリプログラミング効率が有意に低下した(
図2A)。これに対して、リプログラミングのもっと後になってERRγを枯渇させても影響はほとんどなかった(
図1E)。初期リプログラミングにおける遺伝子誘導のタイミングをさらに探索するために、ERRγlox/loxマウスおよびERRγlox/lox CreERTマウスから単離したMEFにおいて、ドキシサイクリン誘導性レンチウイルスを介してOSKM発現を誘導した(Wei et al., 2009, Stem cells (Dayton, Ohio) 27, 2969-2978)。タモキシフェンで処理したERRγlox/lox MEF(ERRγ対照細胞)はドキシサイクリン誘導性OSKM発現の5日後に複数のリプログラミング細胞フォーカスを示したが、3日目にタモキシフェンで処理したERRγlox/lox CreERT MEF(ERRγiKO細胞)は線維芽細胞に似た形態を示した(
図2B)。ERRγiKO細胞がリプログラミングできないことと一致して、OSKM感染の3週間後にアルカリホスファターゼ(AP)陽性コロニーもNanog陽性コロニーもほとんど観察されなかった。これに対して、対照細胞は正常なリプログラミング効率を示した(
図2C~2F)。リプログラミング細胞においてERRγまたはERRαを枯渇させると細胞増殖が遅くなったので(
図1F)、ERRγノックアウト(ERRγ-/-)または野生型(ERRγ+/+)マウス胚から作製した不死化MEFのリプログラミング効率も比較した。(ERRγ-/-)細胞ではOSKM感染後にNanog陽性細胞は検出されなかった(
図1G)。ERRγ過剰発現がある(Ad-ERRγ)、およびERRγ過剰発現がない(Ad-GFP)、ドキシサイクリン誘導性リプログラミングMEFのリプログラミング効率も比較した。このことから、ERRγ過剰発現はリプログラミング効率を有意に増加させることが分かった(
図1O)。まとめると、これらの発見から、リプログラミング初期におけるERRγ誘導は、MEFにおける効率から、iPSCを作製するのに重要なことが分かる。
【0139】
ERRγではなくERRαがアップレギュレートされた点で異なるが、ヒト肺線維芽細胞IMR90細胞および脂肪由来幹細胞(ADSC)をリプログラミングしている間に同様の遺伝子発現パターンが観察された(
図1H~1J)。ヒトIMR90細胞における同様のshRNAノックダウン研究から、PGC-1αおよびβ発現と比較してERRα発現への強力な依存性が明らかになった。これに対して、ERRγの枯渇は部分的に許容された(Nanog+コロニーの約40%の低減、
図2G)。このことから、ヒト線維芽細胞におけるiPSCの生成にはERRγではなくERRαが重要なことがさらに分かった。さらに、iPSCの生成を増加させることが以前に示されているp53ノックダウン(Kawamura et al., 2009, Nature 460, 1140-1144)によって、IMR90細胞リプログラミングの間にERRαおよびNanogが過剰に誘導された(
図2Hおよび
図2I)。注目すべきことに、ERRγおよびp53を同時にノックダウンするとMEFにおけるiPSCの生成がブロックされた(
図2J)。このことから、iPSCリプログラミングでは、ERRシグナル伝達経路は、p53によって誘導される老化より上位にあることが分かった。
【0140】
ERR/PGC-1誘導を動かす分子機構を解読するために、IMR90細胞を4種類の因子にそれぞれ個々に感染させた。感染させて5日後に、ERRα、PGC-1α、およびPGC-1βの特徴的な発現パターンが観察された。Klf4、c-Myc、およびSox2はそれぞれERRαを効率的に誘導することができ、Oct3/4およびKlf4は両方ともPGC-1αの発現を誘導したのに対して、c-MycはPGC-1β発現を効率的に誘導した(
図1K~1M)。これらの遺伝子誘導パターンから、5日目には、4種類全てのリプログラミング因子が、機能的なERRα転写複合体を生じるように補完的に寄与したことが分かる(
図1N)。
【0141】
さらに、ヒトERRα遺伝子を、緑色蛍光タンパク質(GFP)とルシフェラーゼを含有するレンチウイルスレポーターにクローニングした(
図1P)。別個の構成的な活性プロモーターEF1aがネオマイシン耐性遺伝子を発現させ、これにより、内因性ERRαの発現が低い細胞の選択が可能になった(
図1P)。ERRαを高発現するリプログラミング細胞の亜集団を単離した(
図1Q)。ヒト線維芽細胞に、Oct4、Sox2、Klf4、cMyc、Nanog、およびLin28を過剰発現させるレンチウイルスリプログラミング因子を形質導入した(
図1Q)。同時に、この線維芽細胞にERRαレポーターを形質導入した。GFPは1日目~2日目に観察されなかったが、4日目~6日目あたりで現れ、ピークに達し始めた(
図1Q)。上位5%のGFP陽性細胞を単離するために、この段階でGFP強度によって細胞を選別した(
図1Q)。ERRαレポーターは5日目のリプログラミング線維芽細胞では観察することができたのに対して、レポーターだけを形質導入しリプログラミング因子を形質導入しなかった対照はGFP陰性のままであった(
図1R)。ERRαレポーターを有するリプログラミング細胞を蛍光標識細胞分取(FACS)によって分析した。P4はGFP陽性集団を表す(
図1S)。正常線維芽細胞(対照)、レポーターだけ形質導入した線維芽細胞(GFのみ)、ならびにリプログラミング6日目のGFP+集団およびGFP-集団においてERRαとその標的との間で遺伝子発現を比較した(
図1T)。ERRαとその標的は他の試料と比較してGFP+集団に極めて豊富にあった。このことから、ERRαレポーターは内因性ERRα発現パターンを完全に捕捉できたことが分かる(
図1T)。
【0142】
実施例2:ERRは、リプログラミングにおいて機能する一過的な高エネルギー状態を誘導した
ERRとそのコアクチベーターの発現増加は、ミトコンドリアのエネルギーフラックスが実際に変化したことがリプログラミングを活気づけた可能性があるのかどうかという疑問につながった。リプログラミング因子ドキシサイクリン誘導性マウスに由来するマウス胚線維芽細胞(MEF)(Carey et al., 2010, Nature methods 7, 56-59)は、誘導後、2日目~4日目のあたりで酸化的リン酸化(OXPHOS)のピークに達した(
図3A)。重要なことに、最大OXPHOS能力も初期リプログラミングMEFにおいて有意に増加した(
図3Bおよび
図4A)。ヒトIMR90細胞におけるOSKM感染後、3日目~10日目に記録した同様の生体エネルギー特性の時間経過から、感染させて5日後にピークに達したミトコンドリアOXPHOSの一過的な増加(2.5~5.0倍の酸素消費速度(OCR)の増加)と、それに付随する解糖の持続的な増加(2.5~3.5倍の細胞外酸性化速度(ECAR)の増加)が明らかになった(
図4Bおよび
図4C)。エネルギー制御因子の発現増加と一致して、感染させて5日後にIMR90細胞ではニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)と細胞ATPのレベルが増加した一方で、NAD+/NADH比は減少した(
図4D~4F)。まとめると、これらの結果から、初期リプログラミング細胞は高エネルギー状態にあることが分かった。ヒト肺線維芽細胞IMR90細胞をさらに綿密に調べると、リプログラミングの初期段階の間に、ERRコファクターとしてのPCG1α/βの既知の役割と一致して、ERRα、PGC-1αおよびβの経時的発現パターンがかなり同時に発生することが明らかになった(3日目~8日目、
図3C)。ERRおよびPGC-1は、脂肪酸酸化、トリカルボン酸(TCA)回路、およびOXPHOSに関与するタンパク質を含む、エネルギーホメオスタシスを制御する遺伝子の広範なネットワークを直接調節する。従って、IMR90細胞のリプログラミング中に起こる、様々な既知の細胞エネルギーホメオスタシス制御因子の経時的発現パターンを調べた。注目すべきことには、5日目に、ミトコンドリアにあるATP合成酵素(ATP5G1)、コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDHB)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH3A)、およびNADHデヒドロゲナーゼ(NDUFA2)を含むエネルギー代謝における複数の重要なプレーヤーがピーク発現に達した(
図3Dおよび
図4G)。加えて、OSKM感染によってスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)、NADPHオキシダーゼ4(NOX4)、およびカタラーゼ(CAT)が誘導されたことから(
図4H)、ERRα-PGC-1の急増と協調して抗酸化プログラムが誘発されたことが分かった。
【0143】
多能性幹細胞はエネルギーを生じるのに主に解糖に頼ることが知られている。解糖の増加が、速い細胞周期とiPSCの生成に関連付けられたので、以前の研究はリプログラミング中の解糖活性の変化に焦点を合わせてきた(Folmes et al., 2011, Cell metabolism 14, 264-271; Panopoulos et al., 2012, Cell research 22, 168-177; Shyh-Chang et al., 2013b, Science, New York, NY, 339, 222-226)。しかしながら、本発見から、iPSC前駆体は酸化的リン酸化活性を一過的に増やしたことが分かる。ECARの動態は、リプログラミング中に細胞の解糖活性がiPSCと同様のレベルまで徐々に上昇し、維持されることを示した以前の研究を裏付けている(
図3Aおよび
図4C)。対照的に、ヒト細胞およびマウス細胞のリプログラミング中には一過的なOXPHOSバーストが起こることが以前に記述されている(
図3A、
図3B、および
図4B)。このことは、リプログラミング中の細胞可塑性に及ぼすERRα/γ急増の潜在的な影響力を調べることにつながった。
【0144】
ERRの発現と高エネルギー状態の誘導との潜在的な因果関係を調べるために、部分的にリプログラミングされた細胞の代謝活性を、標的指向したshRNAノックダウンの前後で比較した。注目すべきことに、ERRを枯渇させた細胞では、OXPHOSおよび解糖の増加が完全に無くなった(5日目のIMR90細胞ではERRα、および3日目のMEFではERRγ;
図3Eおよび
図3F)。さらに、ミトコンドリア阻害剤であるロテノンは、観察された高エネルギー状態と処理が同時に発生する時だけであったものの、iPSCの生成を有意に低下させた。このことは、OXPHOSバーストがリプログラミングに必要なことと一致する(
図3G)。まとめると、これらのデータから、ERRαおよびγは、体細胞リプログラミングに重要な一過的な高代謝状態を誘導することによってiPSCの生成を調節することが分かる。
【0145】
実施例3:本物のiPSC前駆体はERRγ発現が豊富にあった
標準的な条件下では、ごくわずかなパーセントの細胞しかiPSCへのリプログラミングに成功しなかった。リプログラミングの初期段階に存在する不均一な細胞集団において代謝スイッチが観察されたことを考慮して、本物のiPSC前駆体の亜集団には、ERRを介した高エネルギーバーストが豊富にある可能性があると仮説を立てた。マウス胚線維芽細胞(MEF)リプログラミング中に異なって発現している細胞表面マーカーを分析することによって、リプログラミング細胞の初期クラスターには幹細胞抗原1(Sca1)の発現および分化クラスター遺伝子34(CD34)の発現が無いことが明らかになった(
図5Aおよび
図5B)。OSKMが誘導されると、CD34発現は迅速にアップレギュレートされ、その結果、初期リプログラミング細胞において3つの異なる細胞亜集団; Sca1-CD34-二重陰性(DN)、Sca1+CD34+二重陽性(DP)、およびSca1+CD34-単一陽性(SP)が生じた(
図6A)。免疫蛍光染色(
図5A)と相互に関連して、初期リプログラミング細胞のごくわずかな画分(約3~5%)がSca1-CD34-であった(
図6A)。際立ったことに、qPCR分析によって測定した時に、DP細胞またはSP細胞と比較して、初期リプログラミングDN細胞のERRγ発現は約10倍高く、PGC-1β発現は約7倍高かった(
図5Cおよび
図5D)。重要なことに、これらの初期リプログラミングDN細胞は、DP集団またはSP集団と比較して有意に速い細胞外酸性化速度(ECAR)および酸素消費速度(OCR)を示し(
図5Eおよび
図5F)、高エネルギー細胞の亜集団を標識するSca1-CD34-と一致する。注目すべきことに、非感染MEFに存在するSca1-CD34-細胞は高いリプログラミング効率を示さなかった(
図6B)。この高エネルギー状態がリプログラミングに重要だという仮説を試験するために、単離されたDN細胞、SP細胞、およびDP細胞から作製したiPSコロニーの数を比較した。Nanog染色に基づくと、DN細胞は感染細胞の約5%しか構成しなかったのに対して、iPSCを作製する効率の点ではDP集団またはSP集団よりも約50倍大きかった(
図5G;35.5%(DN)対0.6%(DP)または0.8%(SP))。すなわち、作製したiPSCコロニーの約75%は感染細胞の5%未満から得られた。これは、コロニー形成頻度(CFF)が1500%増加したことに相当する。DN集団に由来するiPSCはESCに似た形態を示し、高レベルのアルカリホスファターゼ活性と多能性マーカーを発現した(
図6C~
図6E)。さらに、DN由来iPSCの胚様体分化によって、3つの胚葉それぞれからマーカーが生じた(
図6F)。加えて、DN細胞から作製したiPSCはキメラマウスの形成に寄与し、その後の交雑種から、生殖系列へと分化できる能力(germline-competency)が証明された(
図6Gおよび
図6H)。まとめると、これらのデータから、DN集団によって表される、初期リプログラミングにおいて特定された高エネルギー細胞は、iPSCを高効率で生じる本物のリプログラミング前駆体であったことが分かる。
【0146】
実施例4:リプログラミング細胞は、ERRを介したOXPHOSバーストを受けた
細胞リプログラミングと細胞運命決定の分子基礎をさらに深く理解するために、体細胞線維芽細胞(非感染マウス胚線維芽細胞(MEF)、5日目のモック感染MEF)、中間リプログラミング細胞集団(DN、DP、SP、選別されていない5日目の細胞)、および多能性幹細胞(DN集団から作製したiPSCおよびmESC)のRNA配列決定によって確かめられた完全トランスクリプトームを比較した。予想外のことではなかったが、距離行列とクラスタリング解析によって、細胞タイプは上記の3つのカテゴリーに分類された(
図7Aおよび
図7B)。DN集団が多能性幹細胞からはっきりと分離されたことから、これらの移行細胞は堅牢な多能性運命をまだ採り入れていないことが分かった。さらに、クラスター分析においてDN集団が他の中間リプログラミング細胞からわずかにしか分離されなかったことから、これらは、高いリプログラミング効率に関連した独特の遺伝子シグネチャーを発現することが示された(
図7B)。実際に、DN集団における、選択された多能性マーカーおよび重要な細胞周期遺伝子の発現は、DP集団およびSP集団において見出されたものよりもESCおよびiPSCにおいて観察されたものによく似ていた(
図7Cおよび
図7D)。しかしながら、ERRβおよびNanogを含む他の幹細胞マーカーの大多数はDN集団には豊富になかった。従って、DN細胞集団は、多能性への効率的な進行を容易にするように思われた定義可能な転写状態および代謝状態にある。
【0147】
DN集団、DP集団、またはSP集団間のトランスクリプトームを比較することによって、DN細胞の高いリプログラミング効率を制御する中心的な経路が特定された。興味深いことに、異なって調節される遺伝子の分子データセットをマッピングするプロセスであるKEGGパスウェイ分析によって、(酸化的リン酸化)OXPHOSが、DN細胞において最も有意に変化する経路であると突き止められた(
図8Aおよび
図8B)。さらに、細胞エネルギー代謝に関与する遺伝子の発現レベルを比較すると、DN集団において大多数がアップレギュレートされることが明らかになった(
図7E)。このことは、DN集団が最も高エネルギーの細胞を含んでいることと一致する。これにより、本物のリプログラミングの重要な特徴は、高エネルギー状態に入るように前駆体を向けることだという考えが裏付けられた。
【0148】
最後に、ERRの急増とエネルギー代謝遺伝子の発現増加との間に因果関係が存在するかどうか確かめるために、リプログラミングIMR90においてERRαをノックダウンした転写結果を調べた。多数の(1061種類の)代謝遺伝子の発現がERRα枯渇の影響を有意に受けた(
図8C)。特に、NADHデヒドロゲナーゼ(NDUF)、コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)、ミトコンドリア呼吸鎖(COX)、ATPアーゼ、およびミトコンドリアにあるATP合成酵素を含む細胞エネルギーホメオスタシスの制御因子の発現が劇的に減少した(
図7F)。ERRα枯渇が、複合体I-VおよびTCA回路の様々な遺伝子を含む極めて多くのミトコンドリア遺伝子の発現に影響を及ぼしたという事実(
図7F)から、一過的なERRα/γ発現は等しく一過的なOXPHOSバーストを誘導して、リプログラミングを容易にし、体細胞から多能性状態への移行を可能にするという結論がさらに裏付けられた(
図7G)。
【0149】
最近のシングル細胞発現分析から、「Mycの代わり」であるとFengらが以前に証明した(Feng et al., 2009)、ERRβ初期発現の必要性が明らかになった(Buganim et al., 2012)。このモデルでは、おそらく全てのトランスフェクトされた細胞において、Sox2およびERRβは相互に互いの発現を強化し、リプログラミングプロセスを開始した(Buganim et al., 2012)。ここでは、iPSC作製のために劇的に向上した効率を伴って、細胞の異なる亜集団を規定する、他のERRファミリーであるERRαおよびERRγと、これらのコアクチベーターであるPGC-1α/βが下流で必要とされることが明らかになった。リプログラミング中にERRα/γおよびPGC1α/βの発現が一過的に急増することで、一過的なOXPHOSバーストと持続的な多量の解糖によって典型的に示される初期代謝スイッチが誘導された。これらの発見は、解糖代謝の初期増加におけるHIF1αおよびHIF2αの段階特異的な役割を証明した最近の研究を補完している(Mathieu et al., 2014, Haematologica 99, e112-114)。ERRα/γとERRβとの間に驚くべき機能上の相違があることから、リプログラミングのためのモデルに新たな要素が加えられる。この場合、一過的なERRα/γ発現は、OXPHOSと解糖の増加によって特徴付けられる初期高エネルギー代謝状態を動かすのに重要であるのに対して、ERRβはもっと後のリプログラミング段階で人工多能性を確立するのに重要である(Chen et al., 2008, Cell 133, 1106-1117; Martello et al., 2012, Cell stem cell 11, 491-504; Zhang et al., 2008, The Journal of biological chemistry 283, 35825-35833)。代謝リプログラミングが人工多能性の必要条件だという事実から、独特の代謝状態が細胞可塑性の実現と機能的に関連することが明らかになった。さらに、Sca1/CD34二重陰性細胞を細胞選別することによって、ERRγおよびPGC-1βは新たに規定されたリプログラミング前駆体サブグループの初期マーカーであることが証明された。要約すると、これらの研究は、ヒト細胞およびマウス細胞の両方で、以前は認められていなかったERR/PGC-1依存性代謝スイッチが、人工多能性が確立する前にあることを特徴付けている(
図7G)。
【0150】
実施例5:ERRはリプログラミングを調節するためにIDHおよびα-ケトグルタル酸を介して機能する
ERRα/γはリプログラミング中に細胞おいてIDH遺伝子発現を調節し、NAD+/NADHレベルを制御する(
図9A)。ヒストンデメチラーゼの重要な補酵素として、α-ケトグルタル酸は、KDM2およびKDM5などの、いくつかのヒストンデメチラーゼの酵素活性を調節し、これらのヒストンデメチラーゼはH3K4Me2/3およびH3K9Me3に働く。KDMはリジン(K)特異的デメチラーゼを表す。
図9Aに示したように、ERRγはIDH3を活性化し、次に、IDH3はイソクエン酸からα-ケトグルタル酸への酸化を触媒する。この反応の間に、電子ドナーであるNAD+はNADHに変換され、従って、NAD+量は減少し、NADH量は増加し、NAD+/NADH比は減少する(NADH/NAD+比は増加する)(
図9B)。α-ケトグルタル酸の調節を受けて、ヒストンデメチラーゼはヒストンのリジン部位を脱メチル化する。例えば、H3K4Me3はH3K4Me1に脱メチル化される。ヒストンが脱メチル化されるとエンハンサーおよびプロモーターランドスケープが全体的に変化し、その後に、トランスクリプトーム動態が全体的に変化する。
【0151】
細胞集団のリプログラミング中にIDH3遺伝子発現がアップレギュレートされた(
図9C)。リプログラミングの6日目に、IDH3α、IDH3β、およびIDH3γ遺伝子の相対発現レベルを測定した。ERRα発現レベルに応答したIDH3遺伝子発現を評価するために、線維芽細胞を、ヒトERRαプロモーターの制御下でGFPを発現するレンチウイルスに感染させた。GFP発現は感染細胞を標識するのに使用し、その後に、細胞を、FACSによって高感染細胞(ERRα-GFP+)と低感染細胞(ERRα-GFP-)に選別するのに使用した。IDH3α、β、およびγ遺伝子の発現は、対応する対照細胞と比べて高レベルのERRαを発現する細胞(GFP+細胞)においてアップレギュレートされた。感染していない野生型(WT)線維芽細胞と、モック感染した(ベクターにしか感染していない)細胞は対照として役立つ。
【0152】
初期リプログラミング(5日目)におけるα-ケトグルタル酸レベルはマウスリプログラミング細胞のERRγレベルに依存する。shRNAサイレンシングによってERRγ発現レベルが低下した細胞では、α-ケトグルタル酸の相対存在量は少なかった(
図9D)。
【0153】
α-ケトグルタル酸依存性ヒストンデメチラーゼを阻害することでリプログラミング効率が低下した(
図9Eおよび
図9F)。α-ケトグルタル酸依存性ヒストンデメチラーゼを競合的に阻害するD-2-ヒドロキシグルタラート(D-2-HG)またはL-2-ヒドロキシグルタラート(L-2-HG)で処理した後に、iPSコロニーはほとんど形成されなかった。D-2-HG処理後またはL-2-HG処理後にリプログラミング効率は有意に減少した。L-2-HGはD-2-HGより強力な競合物質であることが知られている。それに対応して、L-2-HG処理はリプログラミングを有意に減少させた(n=4~6、
*P<0.05、
*P<0.01)(
図9Eおよび
図9F)。α-ケトグルタル酸の存在量の測定は当業者に周知である。例えば、α-ケトグルタル酸を定量するために市販のキットを利用することができる。例えば、http://www.biovision.com/alpha-ketoglutarate-colorimetric-fluorometric-assay-kit-2943.htmlを参照されたい。この内容は参照として組み入れられる。
【0154】
実施例6:ERRαは、初期リプログラミング中に、代謝活性のある亜集団を標識する
初期リプログラミング中に、ERRα発現細胞およびERRα非発現細胞をGFPに基づくFACS分析によって分離し、それぞれの細胞集団に対してRNA-seqを行った(
図10A)。ERRα発現集団に豊富にある遺伝子を特定するためにKEGG遺伝子オントロジー分析を行った。GFP+細胞における高発現遺伝子は、ERRαの既知の機能と相関関係にある酸化的リン酸化および他の代謝プロセスと関連付けられた。KEGG遺伝子オントロジー分析は当業者に周知である。例えば、Mao et al., Automated genome annotation and pathway identification using the KEGG Orthology (KO) as a controlled vocabulary, Bioinformatics, 2005, 21(19): 3787-93を参照されたい。この内容は参照として組み入れられる。
【0155】
実施例7:プロモーター/エンハンサーランドスケープはERRα+リプログラミング集団とERRα-リプログラミング集団との間で異なる
プロモーター/エンハンサーランドスケープをリプログラミング集団において特徴付けた。ERRα+集団では、線維芽細胞同一性において機能する遺伝子、例えば、SNAI1およびZEB2のエンハンサー/プロモーター領域にあるジメチル化H3ヒストンリジン4(H3K4Me2)レベルが、検出可能なERRαを発現しない細胞のレベルと比較して減少していた。このことから、ERRαは、線維芽細胞特異的なエピジェネティック修飾のサイレンシングに関与する可能性があることが示唆される。
【0156】
Oct4およびSox2などのリプログラミングにおいて機能する遺伝子では反対の変化が観察された。すなわち、これらの遺伝子のエンハンサー/プロモーター領域ではH3K4Me2レベルは増加していた。このことから、ERRα+集団は、多能性回路網(circuitry)が活性化される準備ができている細胞を含むことが示唆される。
【0157】
プロモーター/エンハンサーランドスケープ測定値を特徴付けるための方法は当業者に周知である。一例は、クロマチン免疫沈降アッセイ(ChIPアッセイ)を用いて、修飾アミノ酸、例えば、メチル化リジンを有するヒストンに関連するポリヌクレオチドを特定し、細胞集団におけるアミノ酸修飾のレベルを定量することである。例えば、Chromatin Assembly and Analysis, Current Protocols in Molecular Biology, Chapter 21 (Ausubel et al. eds., 2011)を参照されたい。この内容は参照として組み入れられる。前記の実験は以下の方法および材料を用いて行った。
【0158】
方法
野生型マウスおよびERRγ欠損マウスから入手した胎生(E)13.5日目の胚からマウス胚線維芽細胞(MEF)を単離した(Alaynick et al., 2007)。レトロウイルスおよびレンチウイルスをHEK293T細胞において産生し、感染させて12~14日後に、染色のためにMEFを固定した。以前に述べられたように、MEFおよびヒト肺線維芽細胞IMR90をリプログラミングした(Kawamura et al., 2009, Nature 460, 1140-1144; Sugii et al., 2010, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 107, 3558-3563; Takahashi et al., 2007, Cell 126, 663-676; Wei et al., 2013, Cell stem cell 2013 Jul 3;13(1):36-47; Yu et al., 2007, Science, New York, NY, 318, 1917-1920)。
【0159】
リプログラミング
以前に述べられたように、変更を加えてマウスリプログラミングを行った(Kawamura et al., 2009, Nature 460, 1140-1144; Sugii et al., 2010, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 107, 3558-3563; Takahashi and Yamanaka, 2006, Cell 126, 663-676; Yu et al., 2007, Science, New York, NY, 318, 1917-1920)。レトロウイルスリプログラミングのために、リポフェクタミン(Invitrogen)を用いて、マウスリプログラミング遺伝子(c-Myc、Klf4、Oct4、またはSox2; Addgene)をそれぞれ有する、pMXをベースとするレトロウイルスベクターをgag/polおよびVSV-Gエンベロープ遺伝子と一緒にトランスフェクションによってHEK293T細胞に移入した。レンチウイルスを産生するために、OSKMを含有するtet誘導性レンチウイルスベクター(Wei et al., 2009)をpspax2およびpMD2.G(Addgene)と一緒にトランスフェクションによって移入した。トランスフェクションの2日後に、ウイルスを含有する上清を収集し、0.45μmフィルターで濾過した。レトロウイルスリプログラミングのために、合計1x104個のMEF(継代2~4)を12ウェルプレートの中でレトロウイルス混合物に感染させた(0日目)。1個のウェルを用いて各群の細胞数を定量した。感染効率を求めるために、対照細胞にGFPレトロウイルスだけを形質導入した。2日目に、細胞の1/5を、MEFフィーダー層のあるゼラチンコーティングプレート(Millipore)に継代し、15% knockout serum replacement(KSR、Millipore、またはInvitrogen)を含む、L-グルタミン(2mM)、ヌクレオシド(1x)、NEAA(非必須アミノ酸; 1x)、β-メルカプトエタノール(1x)、およびLIF(1,000ユニット/mL)を含有するKnockout (KO)-DMEMに入れて培養した。培地を1日おきに交換した。7~10日目に、細胞を、効率を評価するために免疫染色したか、または下流分析のために個々のコロニーに誘導した。
【0160】
IMR90線維芽細胞をリプログラミングするために、前記のようにgag/polおよびVSV-Gを同時導入した293T細胞において産生させたヒトリプログラミングレトロウイルスの組み合わせ(pMXの中にc-Myc、Klf4、Oct4、またはSox2; Addgene)に細胞を感染させた。形質導入効率の内部標準としてEGFPレトロウイルスを1/40体積で含めた。細胞数を定量するために、各群から1個のウェルを確保した。2日目に、(iPSCを作製する場合は)MEFフィーダー細胞を含有する12ウェルプレートに細胞を継代した。または、(5日目にmRNAを収集する場合には)MEFがない6cmディッシュに細胞を継代した。細胞を、β-メルカプトエタノール(0.1%)、NEAA(1x)、Glutamax(1%)、および10ng/mL FGF2を加えたKnockout (KO)-DMEM+20% knockout serum replacement(KSR)の中で培養した。培地を毎日交換した。以前に述べられた通りに(Wei et al., 2009)、誘導性レンチウイルスシステムを用いてMEFのリプログラミングを行った。Gt(ROSA)26Sortm1(rtTA*M2)Jae Col1a1tm4(tetO-Pou5f1,-Sox2,-Klf4,-Myc)Jae/Jマウス(Jackson Labs)からドキシサイクリン誘導性MEFを単離し、以前に述べられた通りに(Carey et al., 2010)、リプログラミングを行った。ERRγlox/lox(Johan Auwerxのご厚意によって提供されたもの)とB6.Cg-Tg(CAG-cre/Esr1)5Amc/j(Jackson Labs, カタログ番号004682)を交雑させることによってERRγ-iKOマウスを作製し、胎生14.5日目の胚からERRγ-iKO MEFを単離した。ERRγ-iKO MEFを、誘導性レンチウイルスシステム(Wei et al., 2009)を用いてリプログラミングし、リプログラミング0日目~2日目から最終濃度50nMの4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)で処理した。hiPS/hES細胞が関与する手順は全て、ソーク研究所(Salk Institute)の胚性幹細胞研究監督委員会(Embryonic Stem Cell Research Oversight Committee)によって認可された。
【0161】
マイクロアレイ分析
RNEASY(登録商標)(QIAGEN)を用いて、shERRαを用いた3日目、4日目、5日目、6日目、7日目のOSKM誘導性MEFsatと、5日目のGFP感染IMR90細胞からRNAを抽出した。RNAをDNASE(登録商標)(AMBION)で処理し、SUPERSCRIPT(登録商標)IIキット(Invitrogen)を用いて第1鎖cDNAに逆転写し、次いで、RNアーゼで処理した。記載されたように(Narkar et al., 2011, Cell Metab 13, 283-293.)、全体的な遺伝子発現分析を行った。
【0162】
RNA-Seqライブラリーの作製
全RNAを、RNA miniキット(Qiagen)を用いてRNALATER(登録商標)で処理した細胞ペレットから単離し、DNASEI(登録商標)(Qiagen)で、室温で30分間処理した。TRUSEQ(登録商標)RNA Sample Preparation Kit v2(Illumina)を用いて製造業者のプロトコールに従って、100~500ngの全RNAから配列決定ライブラリーを調製した。簡単に述べると、mRNAを精製し、断片化し、第1鎖cDNA合成、次いで、第2鎖cDNA合成に使用した後に、3’末端をアデニル化した。試料をユニークなアダプターに連結し、PCR増幅に供した。次いで、2100 BIOANALYZER(登録商標)(Agilent)を用いてライブラリーを検証し、正規化し、配列決定のためにプールした。各実験条件について2つの生物学的複製物から調製したRNA-Seqライブラリーを、Illumina HISEQ(登録商標)2000によって、バーコードを用いるマルチプレキシングを行い100bpリード長で配列決定した。
【0163】
ハイスループット配列決定および分析
Illumina CASAVA(登録商標)-1.8.2を用いて、画像分析およびベースコールを行った。これにより、1試料につき29.9Mの使用可能なリードの中央値が得られた。RNA配列アライナー(RNA-sequence aligner)STAR(登録商標)(Dobin et al., 2013, Bioinformatics. 29(1):15-21)を用いて、短いリード配列をUCSC mm9参照配列にマッピングした。mm9からの既知のスプライスジャンクションをアライナーに供給し、新規のジャンクションの発見も許容した。CUFFDIFF(登録商標)2(Trapnell et al., 2013, Nat Biotechnol. 31(1):46-53)を用いて、ディファレンシャル遺伝子発現分析、統計的検定、およびアノテーションを行った。転写物発現は、マッピングされた断片100万個あたりの、エキソンモデル1キロベースあたりの断片中の遺伝子レベル相対存在量として計算し、転写物存在量のバイアスに対する補正を使用した(Roberts et al., 2011, Genome biology 12, R22)。UCSC Genome Browserも用いて視覚的に、関心対象の遺伝子のRNA-Seq 結果を調査した。
【0164】
qPCRによる遺伝子発現分析
試料を3回繰り返して操作し、ヒトおよびマウスのハウスキーピング対照Rplp0(36b4)のレベルに対して発現を正規化した。SYBR(登録商標)Green色素(Invitrogen)を用いたqPCRによって試料を分析した。以前に報告されたように(Yang et al., 2006, Cell 126, 801-810)、内因性対外因性リプログラミング遺伝子発現を行った。スチューデントt検定を用いて統計学的に比較した。エラーバーは平均±SEMである。
【0165】
免疫組織化学および細胞染色
ディッシュ上で増殖させた細胞を、VectaStain ABCキットおよびIMMPACT(登録商標)DAB基質(Vector Lab)とウサギ抗マウスNanog(Calbiochem)、抗ヒトNanog(Abcam)を用いて免疫染色した。
【0166】
生体エネルギー(bioenergetic)アッセイ
SEAHORSE(登録商標)XF機器を用いて測定を行った。測定する16時間前に、付着細胞を96ウェルSEAHORSE(登録商標)細胞培養マイクロプレートに1ウェルあたり20,000個で播種した。アッセイの約60分前に、培養培地を、20mMグルコースおよび1mMピルビン酸ナトリウムを含む低緩衝化DMEMアッセイ培地と交換した。最大酸化的リン酸化(OXPHOS)能力を測定するために、オリゴマイシン(最終濃度1.2μM)、カルボニルシアニド-4(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラジン(FCCP, 最終濃度4μM)、アンチマイシンA(最終濃度1μM)、およびロテノン(最終濃度2μM)を製造業者の説明書に従って添加した。HOECHST(登録商標)33342染色を用いて各ウェルにある細胞数を測定し、その後に、355励起および460発光での蛍光を定量することによって、酸素消費速度(OCR)および細胞外酸性化速度(ECAR)値をさらに正規化した。ベースラインOCRは最初の4回の測定値の平均値と規定した。最大OXPHOS能力は、カルボニルシアニド-4(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラジン(FCCP、minute 88-120)を添加した後の平均OCRと、アンチマイシンAおよびロテノン(minute 131-163)を添加した後のOCRとの差と規定した。
【0167】
shRNAノックダウン
マウスおよびヒトERRα/γおよびPGC-1α/βのshRNA構築物ならびに対照shRNAはOPENBIOSYSTEMS(登録商標)から購入した。レンチウイルスshRNAを293T細胞において産生し、形質導入ではポリブレン(6μg/ml)を使用した。リプログラミング実験のために、リプログラミングの0日目に、細胞にレンチウイルスshRNAを形質導入した。
【0168】
生細胞染色、アルカリホスファターゼ染色、および細胞選別
細胞を、FITC結合抗Sca1(1:50, Biolegend)およびフィコエリトリン(PE)結合抗CD34(1:100, Biolegend)抗体を含有する培養培地と30分間インキュベートし、洗浄し、次いで、培養状態で維持した。アルカリホスファターゼ染色を、ホルムアルデヒド固定細胞に対して、NTMT溶液(0.1M NaCl、0.1M Tris PH9.5、50mM MgCl2、および0.1%TWEEN(登録商標)20)に溶解した4-ニトロブルーテトラゾリウムクロライド(450mg/ml)および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(175mg/ml)を用いて行った。感染させて5日後に、OSKM感染細胞に、FITC結合抗Sca1(1:100)およびフィコエリトリン(PE)結合抗CD34抗体(1:200)を用いて蛍標識細胞分取(FACS, FACSAria, BD Biosciences)を行い、その後に、iPS細胞形成のために培養した。
【0169】
インビトロ分化
いくらか改変を加えて、胚様体を形成することによってiPS細胞をインビトロで分化させた(Kawamura et al., 2009, Nature 460, 1140-1144)。簡単に述べると、ハンギングドロップ法に供する細胞(LIFを含まないマウスES細胞培地中、60細胞/μlの1500個のシングル細胞)をペトリ皿の蓋につり下げて、2日または3日間懸滴培養した。分化させて6日後に、胚様体を、ゼラチンで処理したディッシュ上で1~2週間培養した。多能性マーカー(Oct4、Sox2、Nanong、およびE-Ras)ならびに胚葉マーカー(内胚葉についてはAFP、Pdx1、およびGATA6;中胚葉についてはGATA4、SMα-アクチン、および心臓α-アクチン;外胚葉についてはCdx2、Pax6、およびMtap2)の遺伝子発現をQPCRによって確かめた。値をGAPDHに対して標準化し、未分化マウスES細胞に対して正規化した。
【0170】
キメラマウスのための胚盤胞注射
マウスiPS細胞(C57BL/6N MEFに由来する)をBALB/c宿主胚盤胞に注入し、2.5dpc ICR偽妊娠レシピエント雌に移した。出生後に、アルビノの宿主の仔に黒色の毛色(iPS細胞由来)が現れたことでキメラ現象が確かめられた。生殖系列伝達を試験するために、高寄与(high-contribution)キメラをC57BL/6Nマウスと交雑させた。
【0171】
NAD+/NADHアッセイ
細胞内NAD+レベルおよびNADHレベルをNAD+/NADH Assay Kit(Abcam, San Francisco, CA)によって製造業者の説明書に従って測定した。簡単に述べると、2×105個の細胞を冷PBSで洗浄し、NADH/NAD抽出緩衝液を用いて2回の凍結/解凍サイクルによって(ドライアイス上で20分、次いで、室温で10分)抽出した。全NAD(NADt)およびNADHを96ウェルプレートの中で検出し、発色させ、450nmで読み取った。NAD/NADH比を[NADt-NADH]/NADHとして計算した。
【0172】
ATPの測定
細胞内ATPを、ATPアッセイキット(Sigma-Aldrich)によって製造業者の指示に従って測定した。簡単に述べると、1×104個の細胞を冷PBSで洗浄し、ATP抽出緩衝液を用いてATPを抽出した。ATPの量を384ウェルプレートにおいて検出し、ルミノメーターを用いて測定した。
【0173】
ChIP-Seqライブラリー構築、配列決定、およびデータ解析
ChIP-Seqライブラリーを標準的なIlluminaプロトコールを用いて構築し、2100 BioAnalyzer(Agilent)を用いて検証し、正規化し、配列決定のためにプールした。ライブラリーを、Illumina HiSeq 2500によって、バーコードを用いるマルチプレキシングを行い50bpリード長で配列決定した。短いDNAリードは、Illumina CASAVA v1.8.2を用いてデマルチプレックスを行った。Bowtieアライナーを用いてリードをマウスmm9とアラインメントした。リードの中にはミスマッチを2個まで許容した。ゲノムに一義的にマッピングされたタグだけを、さらなる分析の対象とした。これに続くピークコールとモチーフ解析は、ChIP-Seq解析用のソフトウェアスイートであるHOMERを用いて行った。下記で説明するHOMERに関する方法は実行されており、http://biowhat.ucsd.edu/homer/で無料公開されている。それぞれのユニークな位置に由来する1個のタグは、ChIP-Seqプロトコール中の断片のクローン増幅に起因するピークを排除するとみなされた。ピークは、200bpスライディングウィンドウの中にあるタグクラスターを検索することによって特定された。このため、隣接するクラスターは互いと少なくとも1kb離れていることが必要である。無作為化されたタグ位置を用いてピーク発見手順を繰り返すことによって実験的に求められたように、<0.01の偽発見率のために、有効なピークを決定するタグ数の閾値が選択された。ゲノム重複または非局在化結合のある領域を特定するのを避けるために、ピークはインプットまたはIgG対照試料よりも少なくとも4倍多いタグ(総数に対して正規化された)と、局所バックグラウンド領域(10kb)と比べて4倍多いタグを有することが必要とされた。ピークは、最も近いRefSeq転写開始部位を特定することによってゲノム産物にアノテートされた。ChIP-Seq結果の検証は、カスタムトラックをUCSCゲノムブラウザにアップロードすることによって行った。
【0174】
RNA-seqおよびデータ解析
全RNAをTrizol(Invitrogen)およびRNeasy mini kit(Qiagen)を用いて単離した。RNA純度と完全性をAgilent Bioanalyzerを用いて確かめた。ライブラリーを100ngの全RNA(TrueSeq v2, Illumina)から調製し、Illumina HiSeq 2500によって、バーコードを用いるマルチプレキシングを行い100bpリード長でシングルエンドシークエンシングを実施して、1試料につき34.1Mのリードの中央値を得た。リードアラインメントとジャンクションの発見は、STARと、参照配列としてUCSC mm9を利用したCuffdiff2を用いた遺伝子発現差異を用いて行った。
【0175】
クロマチン免疫沈降
次いで、ChIPアッセイのために細胞を収集した。簡単に述べると、固定した後に、核を単離し、溶解し、DNA断片サイズが200~1000塩基対となるようにDiagenode Bioruptorで剪断し、その後に、H3K4Me2抗体(Abcam ab32356)を用いて免疫沈降を行った。
【0176】
ChIP-Seqデータ解析
この手順は以前に述べられたように行った(Barish et al., 2010; Ding et al., 2013)。簡単に述べると、短いDNAリードは、Illumina CASAVA v1.8.2を用いてデマルチプレックスを行った。Bowtie アライナーを用いてリードをヒトhg18(NCBI Build 36.1)とアラインメントした。リードの中にはミスマッチを2個まで許容した。ゲノムに一義的にマッピングされたタグだけを、さらなる分析の対象とした。これに続くピークコールとモチーフ解析は、ChIP-Seq解析用のソフトウェアスイートであるHOMERを用いて行った。下記で説明するHOMERに関する方法は実行されており、http://biowhat.ucsd.edu/homer/で無料公開されている。それぞれのユニークな位置に由来する1個のタグは、ChIP-Seqプロトコール中の断片のクローン増幅に起因するピークを排除するとみなされた。ピークは、200bpスライディングウィンドウの中にあるタグクラスターを検索することによって特定された。このため、隣接するクラスターは互いと少なくとも1kb離れていることが必要である。無作為化されたタグ位置を用いてピーク発見手順を繰り返すことによって実験的に求められたように、<0.01の偽発見率のために、有効なピークを決定するタグ数の閾値が選択された。ゲノム重複または非局在化結合のある領域を特定するのを避けるために、ピークはインプットまたはIgG対照試料よりも少なくとも4倍多いタグ(総数に対して正規化された)と、局所バックグラウンド領域(10kb)と比べて4倍多いタグを有することが必要とされた。ピークは、最も近いRefSeq転写開始部位を特定することによってゲノム産物にアノテートされた。ChIP-Seq結果の検証は、カスタムトラックをUCSCゲノムブラウザにアップロードすることによって行った。
【0177】
他の態様
前述の説明から、本明細書に記載の発明を様々な使用および条件に合わせるために、本明細書に記載の発明に変更および修正が加えられる場合があることは明らかである。このような態様も以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【0178】
本明細書における変数の任意の定義における要素の一覧の説明は、任意の1つの要素として、または列挙された要素の組み合わせ(もしくはサブコンビネーション)として、その変数を定義することを含む。本明細書における態様の説明は、その態様を任意の1つの態様として、または他の任意の態様もしくはその一部と組み合わせて含む。
【0179】
本明細書において言及された特許および刊行物は全て、それぞれ独立した特許および刊行物が参照として組み入れられるように詳細かつ個々に示されるのと同じ程度に参照により本明細書に組み入れられる。