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特開2022-93784フィルターユニット及び微粒子捕集装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093784
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】フィルターユニット及び微粒子捕集装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 46/52 20060101AFI20220617BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B01D46/52 C
B01D39/16 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206430
(22)【出願日】2020-12-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】514269162
【氏名又は名称】関綜エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝明
(72)【発明者】
【氏名】石栗 幸博
(72)【発明者】
【氏名】瀧上 昭治
(72)【発明者】
【氏名】寺井 隆
【テーマコード(参考)】
4D019
4D058
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA13
4D019BB03
4D019BB08
4D019BC13
4D019BC20
4D019CA02
4D019CB06
4D058JA10
4D058JB14
4D058JB23
4D058JB25
4D058JB46
4D058KA29
4D058MA02
4D058MA06
4D058MA25
4D058PA04
4D058QA21
(57)【要約】
【課題】水分又は油分を含有する微粒子を高効率で捕集可能なフィルターユニット及び微粒子捕集装置を提供する。
【解決手段】フィルターユニット10は、水分W又は油分Oを含有して空気中に浮遊する微粒子Pを捕集するために用いられ、かつ、シート状のフィルター材を立体成形してなるフィルター本体12を含む。フィルター材は、ポリエステル長繊維不織布からなる基材20と、基材20の少なくとも一方の主面に、多孔質のPTFEメンブレンをラミネートしてなるメンブレン層22と、を備える。そして、少なくともメンブレン層22には、撥水撥油性を付与可能な表面処理剤24が塗工されている。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分又は油分を含有して空気中に浮遊する微粒子を捕集するために用いられ、かつ、シート状のフィルター材を立体成形してなるフィルター本体を含むフィルターユニットであって、
前記フィルター材は、
ポリエステル長繊維不織布からなる基材と、
前記基材の少なくとも一方の主面に、多孔質のPTFEメンブレンをラミネートしてなるメンブレン層と、
を備え、
少なくとも前記メンブレン層には、撥水撥油性を付与可能な表面処理剤が塗工されている、フィルターユニット。
【請求項2】
少なくとも前記メンブレン層の外表面及び細孔内壁には、フッ素化合物を含む前記表面処理剤が塗工されている、
請求項1に記載のフィルターユニット。
【請求項3】
前記微粒子は、金属加工時に発生する粉じん又はヒュームである、
請求項1又は2に記載のフィルターユニット。
【請求項4】
前記メンブレン層は、前記基材が有する二つの主面のうち、空気の導入側に対応する主面のみに設けられる、
請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルターユニット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の複数のフィルターユニットと、
前記複数のフィルターユニットに外力を付与することで前記フィルター本体の外表面に付着した微粒子を払い落とす払落し手段と、前記払落し手段が外力を付与するタイミングを制御する制御手段と、
を備える、微粒子捕集装置。
【請求項6】
前記制御手段は、所定の周期かつ同じタイミングで前記複数のフィルターユニットに外力を付与するように前記払落し手段を制御する、
請求項5に記載の微粒子捕集装置。
【請求項7】
前記微粒子の発生に関わる工作機械が設置される、設備内の空気を吸入するための吸気口をさらに備え、
前記制御手段は、前記払落し手段及び前記工作機械の制御を並列的に実行可能である、
請求項5又は6に記載の微粒子捕集装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルターユニット及び微粒子捕集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空気中に含まれる微粒子を捕集するためにフィルターを使用することは、一般的に広く知られている。例えば、熱可塑性連続長繊維からなる不織布をフィルターの基材として使用することで、剛性に優れたプリーツ形状のフィルターが得られる(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-127832号公報
【特許文献2】特開2020-138195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、日本国内において、溶接ヒュームを特定化学物質障害予防規則における「特定化学物質」に含めるような法整備がなされている。これにより、金属アーク溶接などの作業を行う環境下にて、濃度の測定、全体換気、局所排気装置、プッシュ・プル装置、呼吸用保護具の使用、フィットテストなどの各種作業が義務化される。これにより、溶接ヒュームを高効率で捕集できるフィルターユニットに対する需要が一層高まることが予想される。
【0005】
例えば、アーク溶接、レーザ加工、プラズマ加工、ガウジング加工などの金属加工を行う際に発生するヒュームは、水分又は油分を含有する。この種の微粒子を捕集する場合、フィルター材の外表面に付着した水分又は油分が徐々に浸透することで、フィルター材の通気性能が低下して目詰まりが起りやすくなってしまう。
【0006】
一方、この対策として、炭酸カルシウムやベントナイト混合物を含む吸収剤を、フィルター材の外表面に塗布する場合が想定される。これにより、水分又は油分の浸透を阻止する一定の効果が得られるものの、許容量を上回る微粒子がフィルターの外表面に付着した場合、水分又は油分の浸透を十分に阻止できないという問題が生じる。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、水分又は油分を含有する微粒子を高効率で捕集可能なフィルターユニット及び微粒子捕集装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一態様におけるフィルターユニットは、水分又は油分を含有して空気中に浮遊する微粒子を捕集するために用いられ、かつ、シート状のフィルター材を立体成形してなるフィルター本体を含むユニットであって、前記フィルター材は、ポリエステル長繊維不織布からなる基材と、前記基材の少なくとも一方の主面に、多孔質のPTFEメンブレンをラミネートしてなるメンブレン層と、を備え、少なくとも前記メンブレン層には、撥水撥油性を付与可能な表面処理剤が塗工されている。
【0009】
本発明の第二態様におけるフィルターユニットでは、少なくとも前記メンブレン層の外表面及び細孔内壁には、フッ素化合物を含む前記表面処理剤が塗工されている。
【0010】
本発明の第三態様におけるフィルターユニットでは、前記微粒子は、金属加工時に発生する粉じん又はヒュームである。
【0011】
本発明の第四態様におけるフィルターユニットでは、前記メンブレン層は、前記基材が有する二つの主面のうち、空気の導入側に対応する主面のみに設けられる。
【0012】
本発明の第五態様における微粒子捕集装置は、上記した複数のフィルターユニットと、前記複数のフィルターユニットに外力を付与することで前記フィルター本体の外表面に付着した微粒子を払い落とす払落し手段と、前記払落し手段が外力を付与するタイミングを制御する制御手段と、を備える。
【0013】
本発明の第六態様における微粒子捕集装置では、前記制御手段は、前記複数のフィルターユニットに対して、所定の周期かつ同じタイミングで前記払落し手段が外力を付与するように制御する。
【0014】
本発明の第七態様における微粒子捕集装置は、前記微粒子の発生に関わる工作機械が設置される、設備内の空気を吸入するための吸気口をさらに備え、前記制御手段は、前記払落し手段及び前記工作機械の制御を並列的に実行可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水分又は油分を含有する微粒子を高効率で捕集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態におけるフィルターユニットの斜視図である。
図2図1に示すフィルター本体の製造工程を示す図である。
図3図2に示すA領域の部分拡大図である。
図4】比較例におけるフィルター材の目詰まりを模式的に示す図である。
図5】本発明による微粒子の捕集効果を模式的に示す第一の図である。
図6】本発明による微粒子の捕集効果を模式的に示す第二の図である。
図7】本発明による微粒子の捕集効果を模式的に示す第三の図である。
図8図1のフィルターユニットが組み込まれた微粒子捕集装置としての集じん装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。
【0018】
[フィルターユニット10の構成]
<全体構成>
図1は、本発明の一実施形態におけるフィルターユニット10の斜視図である。このフィルターユニット10は、水分又は油分を含有して空気中に浮遊する微粒子、特に、粉じんやヒュームを捕集するために用いられる。
【0019】
ここで、「粉じん」とは、研磨、切削、粉砕などの機械的な作用を加えることにより発生した固体微粒子を意味する。粉じんの粒子径は、概ね1~150μmである。粉じんの例として、金属加工粉じん、薬粉、穀物粉などが挙げられる。粒子径が10μm以下である粉じんは、人間の鼻や口から吸入され、人体が備えている濾過機能によって捕捉されずに、体内に蓄積されてしまう。特に、粒子径が2.5μm以下である粉じんは、肺に沈着し又は血液中に入り込む場合があるので、人体にとって極めて有害である。
【0020】
一方、「ヒューム」とは、金属蒸気などの気体が空気中で凝固・化学変化を起こすことにより発生した固体微粒子を意味する。ヒュームの粒子径は、概ね0.1~1μmである。ヒュームの例として、溶接ヒューム、溶解ヒューム、溶断ヒュームなどが挙げられる。なお、実際に測定を行った結果、0.1~0.3μmの粒子径が多く含まれることが確認された。
【0021】
フィルターユニット10の用途は、工業用又は家庭用のいずれであってもよい。フィルターユニット10は、例えば、集じん装置のみならず、ファン・ダクトを含む様々な空調設備に取り付けられ得る。つまり、フィルターユニット10は、用途や設置対象などに応じた様々な形状を有してもよい。
【0022】
フィルターユニット10は、概略円筒状のフィルター本体12と、フィルター本体12の一端に固定されるエンドプレート14と、フィルター本体12の他端に固定されるエンドプレート16と、を有する。円板状のエンドプレート14は、濾過前の空気がフィルター本体12の内部に直接的に導入されることを阻止するための部材である。環状のエンドプレート16は、濾過後の空気をフィルター本体12の外部に案内するための部材である。
【0023】
フィルター本体12は、プリーツ状に加工されたフィルター材を円筒状に立体成形してなる部材である。フィルター本体12は、図2(c)に示すように、フィルター本体12のフィルター材は、基材20と、基材20の主面に設けられるメンブレン層22と、を備える。
【0024】
基材20は、長繊維21を織らずに絡み合わせたシート状の部材である。この長繊維21は、耐熱性及び剛性の両方に優れている熱可塑性樹脂、具体的にはポリエステル系重合体である。単繊維繊度及び目付は、微粒子の捕集性能を確保しつつ、高い加工性・剛性を実現する範囲に設定されている。
【0025】
メンブレン層22は、多数の細孔を有する構造体23からなるポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)メンブレンから構成される。メンブレン層22は、例えば、「JIS Z 8122」に準拠した試験において、粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集率、つまり、HEPAフィルター相当の捕集能力を有する。メンブレン層22は、基材20の少なくとも一方の主面(つまり、片面又は両面)に設けられる。通気性の観点から、メンブレン層22は、空気の導入側に対応する主面のみに設けられることが好ましい。
【0026】
フィルター材には、撥水撥油性を付与可能な表面処理剤24が塗工されている。この表面処理剤24は、シリカ又は金属酸化物からなるバインダーと、該バインダーの表面に共有結合により化学的に結合されたフッ素化合物(例えば、パーフルオロアルキル基を含むフッ素化合物)を含む複合バインダーである。この複合バインダーにより、フッ素化合物による撥水撥油機能、凹凸形状による撥水撥油機能が付与される。
【0027】
図2(c)及び図3の例では、表面処理剤24は、フィルター材の全体(より詳しくは、長繊維21の表面、構造体23の外表面及び細孔内壁)に設けられるが、フィルター材の一部に設けられてもよい。少なくともメンブレン層22の外表面及び細孔内壁に表面処理剤24を塗工していれば、上記した撥水撥油機能が発揮され得る。
【0028】
<フィルターユニット10の製造方法>
続いて、フィルターユニット10の製造方法について、図2を参照しながら説明する。
【0029】
第一工程において、シート状の基材20を作製する(図2(a)参照)。基材20の作製方法として、口金から紡出された糸条を高速牽引し、補集ネット上に噴射して補集する「スパンボンド法」が用いられる。また、ノズルから押し出した繊維を、熱風で吹きつけながら絡ませてシート状に集積する「メルトブロー法」が用いられてもよい。
【0030】
第二工程において、基材20上にメンブレン層22を貼り合わせるラミネート処理を行う(図2(b)参照)。ラミネート方法として、両者の部材を接着剤により貼り合わせる方法や、一方の部材を溶融させて両者の部材を接着させる方法などが用いられる。
【0031】
第三工程において、少なくともメンブレン層22上に表面処理剤24を塗工する(図2(c)参照)。この塗工方法には、主に含浸又は塗布が用いられる。含浸方式としては、例えば、サイズプレス方式、ディッピング方式、コーター方式、スプレー方式などの公知の方法が用いられる。塗布方法として、例えば、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布、滴下塗布、流延塗布(キャスト法)、スピンコートなどの公知の方法が用いられる。なお、必要に応じて、フィルター材を乾燥させることで、含浸液又は塗布液に含まれる溶媒を除去する。
【0032】
第四工程において、フィルター材の断裁・成形を行った後、エンドプレート14,16を取り付ける。以上のようにして、フィルターユニット10が完成する。
【0033】
<フィルターユニット10による作用効果>
続いて、フィルターユニット10による作用効果について、図4図7を参照しながら説明する。
【0034】
比較例1では、東レ株式会社製のフィルター基材「アクスターG2260-TR」をそのまま用いた。比較例2では、比較例1のフィルター基材に対して、三菱マテリアル電子化成社製の撥水撥油塗料A1002Kを塗工した。このG2260-TRは、その表面に撥水加工が施されたフィルター材に相当する。
【0035】
比較例3では、東レ株式会社製のフィルター基材「アクスターG2260-1S」をそのまま用いた。比較例4では、比較例3のフィルター基材に対して、三菱マテリアル電子化成社製の撥水撥油塗料A1002Kを塗工した。このG2260-1Sは、その表面に静電防止加工が施されたフィルター材に相当する。
【0036】
比較例5では、東レ株式会社製のフィルター基材「アクスターG2260-TF」をそのまま用いた。実施例1では、比較例5のフィルター基材に対して、三菱マテリアル電子化成社製の撥水撥油塗料A1002Kを塗工した。このG2260-TFは、メンブレンのラミネート加工が施されたフィルター材に相当する。
【0037】
(評価項目1)目詰まり特性
未使用の各フィルター材を搭載した集じん装置を稼働し、溶接ヒュームを含有する空気を濾過した。稼働時間が50時間を経過した後、フィルター材の外表面に付着した溶接ヒュームを払い落とした。そして、フィルター材に空気を通過させることで、フィルター材の目詰まりの有無を評価した。目詰まりが発生しなかった場合を「〇」とし、目詰まりが発生した場合を「×」とした。
【0038】
(評価項目2)性能持続性
未使用の各フィルター材を搭載した集じん装置を稼働し、溶接ヒュームを含有する空気を濾過した。稼働時間は通算10000時間とし、フィルター差圧が閾値を超える度に、フィルター材の外表面に付着した溶接ヒュームを払い落とす動作を行った。稼働開始時から100時間経過後の状況と比べて、捕集性能が変化しない場合を「〇」とし、捕集性能が低下した場合を「×」とした。
【0039】
比較例1~5及び実施例における評価結果は、次の表1に示す通りであった。この表から理解されるように、実施例において微粒子を高効率で捕集できることが確認された。このメカニズムについて、図4図7を参照しながら説明する。
【0040】
【表1】
【0041】
図4は、比較例におけるフィルター材の目詰まりを模式的に示す図である。図5は、フィルターユニット10による微粒子Pの捕集効果を模式的に示す第一の図である。より詳しくは、図4は「比較例5」におけるフィルター材の部分拡大断面図であり、図5は「実施例」におけるフィルター材の部分拡大断面図である。
【0042】
図4に示すように、微粒子Pが浮遊する空気をフィルター材に吹き付けた場合、微粒子Pがメンブレン層22の外表面で捕捉される。この状態でフィルター材を振動させることで、微粒子Pの大半がフィルター材から分離される。ところが、フィルターユニット10を長時間使用し続けると、粒径が概ね5μm以下である粉じんDやヒュームFが、メンブレン層22及び基材20の隙間に侵入してしまう。また、微粒子Pに含まれる水分又は油分が浸透することで、構造体23及び長繊維21の表面に水膜又は油膜(以下、膜26)が形成される。これにより、通気性の低下、つまりフィルターの目詰まりが起こる場合がある。
【0043】
一方、図5に示すように、フィルター材に表面処理剤24が塗工されている場合、メンブレン層22及び基材20には、水分及び油分をそれぞれ弾く撥水撥油性が付与される。これにより、フィルターユニット10を長時間使用し続ける場合であっても、微粒子Pに含まれる水分W又は油分Oが、メンブレン層22及び基材20の隙間に浸透するのが抑制される。その結果、メンブレン層22の外表面で捕捉された微粒子Pは、概ねすべて払い落とされる。つまり、図4の構成と比べて、フィルターの目詰まりがより起こりにくくなる。
【0044】
図6は、フィルターユニット10による微粒子の捕集効果を模式的に示す第二の図である。より詳しくは、図6は、フィルター差圧の時間変化を示している。グラフの横軸は時間(単位:min)を、グラフの縦軸はフィルター差圧(単位:kPa)をそれぞれ示している。ここでは、微粒子を含有する空気を一定の流速で通過させる場合を想定する。
【0045】
グラフから理解されるように、比較例及び実施例のいずれにおいても、時間が経過するにつれてフィルター材の外表面に溶接ヒュームが付着・蓄積することで、通気性が損なわれてフィルター差圧が増加する傾向がある。実施例の場合、メンブレン層22の外表面に付着した微粒子を撥水撥油機能によって弾き落とすことで、フィルター差圧の増加を遅らせる効果が得られる。
【0046】
図7は、フィルターユニット10による微粒子の捕集効果を模式的に示す第三の図である。より詳しくは、図7は、風量の時間変化を示している。グラフの横軸は時間(単位:日)を、グラフの縦軸は風量(単位:m/min)をそれぞれ示している。ここでは、フィルター差圧が閾値を超える度に、フィルター材の外表面に付着した微粒子Pを払い落とす動作を行っている。この閾値は、局所排気装置届出書類の記載に基づいて定められ、例えば、運転適正風量の1.2倍の値に設定される。
【0047】
グラフから理解されるように、比較例及び実施例のいずれにおいても、払落し動作によって風量が一時的に増加し、微粒子の捕集機能が回復する傾向がある。比較例の場合、時間が経過するにつれて水分又は油分の浸透が進行することで、上記した回復効果が徐々に薄れてしまう。例えば、一日につき20時間稼働の場合、僅か2日間で風量の低下が始まり、1年経たずに使用できなくなる。一方、実施例の場合、水分又は油分の浸透が抑制されるので、時間の経過にかかわらず上記した回復効果がそのまま持続される。
【0048】
[集じん装置50の説明]
続いて、本実施形態におけるフィルターユニット10の使用例について、図8を参照しながら説明する。ここでは、工作機械80から発生・排出される粉じんをダクトを介して集じん装置50で捕集する場合を想定する。この粉じんは、作業者による作業を通じて発生するものであってもよい。
【0049】
<装置構成>
図8は、図1のフィルターユニット10が組み込まれた微粒子捕集装置としての集じん装置50の全体構成図である。集じん装置50は、一又は複数のフィルターユニット10を装着可能であり、かつ吸気口52及び排気口54を有する筐体56を備える。例えば、設備内の空気は、吸気口52から吸入され、筐体56内で濾過された後、排気口54から排出される。
【0050】
筐体56の内部には、差圧センサ58と、ファン60と、ノズル62を有するブロー機構部64と、収容部66と、がさらに設けられる。
【0051】
差圧センサ58は、フィルター本体12における外側と内側の間の圧力差(つまり、フィルター差圧)を測定するセンサである。フィルター差圧の測定値が小さいほど、目詰まりが少なくフィルターユニット10の機能が十分に発揮されている状態を示している。一方、フィルター差圧の測定値が大きいほど、目詰まりによってフィルターユニット10の機能が十分に発揮されていない状態を示している。
【0052】
ファン60は、フィルターユニット10を通過した濾過後の空気を吸引するとともに、排気口54に向けて排気する装置である。ファン60の吸引方式は、軸流式あるいは遠心式のいずれであってもよい。
【0053】
ブロー機構部64は、圧縮空気をタンクに溜めて、複数のノズル62を介して高流速のエアを吹き付ける装置である。各々のノズル62は、フィルターユニット10の内部空間を向くようにそれぞれ配置される。例えば、エアの吹き付け状態が「OFF」から「ON」に遷移された場合に、フィルター本体12は周方向に膨らむように変形する。一方、エアの吹き付け状態が「ON」から「OFF」に遷移された場合に、フィルター本体12は周方向に縮んで元の形状に復元する。
【0054】
つまり、ブロー機構部64は、複数のフィルターユニット10に外力を付与することでフィルター本体12の表面に付着した微粒子Pを払い落とす「払落し手段」として機能する。なお、払落し手段は、ブロー機構部64による送風に限られず、他の手段(例えば、叩きや振動など)であってもよい。
【0055】
収容部66は、複数のフィルターユニット10の下方に設けられる。収容部66は、フィルターユニット10から自重で落とされ、又は、ブロー機構部64により払い落とされた微粒子を捕集物68として収容する。
【0056】
上述した図5のグラフに示した傾向を踏まえて、ブロー機構部64は、以下に示す動作を実行可能に構成されてもよい。例えば、ブロー機構部64は、[1]差圧センサ58の測定値が閾値(Pth)を上回った場合、又は[2]前回の吹付時点から所定の時間(T)が経過した場合、フィルターユニット10にエアを吹き付けてもよい。特に、後者の場合、[3]所定の周期かつ同じタイミングで複数のフィルターユニット10にエアを吹き付けることで、ブロー機構部64の吹付制御がより簡略化される。
【0057】
また、ブロー機構部64の制御は、集じん装置50に内蔵される制御ユニットにより行われてもよいし、外部の制御装置により行われてもよい。後者の場合、プログラマブルロジックコントローラ(以下、PLC70)が、ブロー機構部64及び工作機械80の制御を並列的に実行可能であってもよい。これにより、装置構成が簡略化されるとともに、工作機械80の稼働状態に適したブロー機構部64の制御を行うことができる。
【0058】
[実施形態のまとめ]
上記した実施形態におけるフィルターユニット10は、水分W又は油分Oを含有して空気中に浮遊する微粒子Pを捕集するために用いられ、かつ、シート状のフィルター材を立体成形してなるフィルター本体12を含む。フィルター材は、ポリエステル長繊維不織布からなる基材20と、基材20の少なくとも一方の主面に、多孔質のPTFEメンブレンをラミネートしてなるメンブレン層22と、を備える。そして、少なくともメンブレン層22には、撥水撥油性を付与可能な表面処理剤24が塗工されている。
【0059】
このように、少なくともメンブレン層22には撥水撥油性を付与可能な表面処理剤24が塗工されているので、フィルター材の外表面に付着した微粒子Pの水分W又は油分Oが弾き飛ばされやすくなり、フィルター材の目詰まりが抑制される。これにより、水分W又は油分Oを含有する微粒子Pを高効率で捕集することができる。
【0060】
特に、少なくともメンブレン層22の外表面及び細孔内壁には、フッ素化合物を含む表面処理剤24が塗工されていることが好ましい。これにより、フィルター材の外表面に付着した微粒子Pの水分又は油分が内部に浸透するのを阻止可能となり、フィルター材の目詰まりが抑制される。
【0061】
また、微粒子Pは、金属加工時に発生する粉じんD又はヒュームFであってもよい。粉じんD又はヒュームFは、人間の体内に蓄積されやすく人体に悪影響を及ぼし得るので、特に効果的である。
【0062】
また、メンブレン層22は、基材20が有する二つの主面のうち、空気の導入側に対応する主面のみに設けられてもよい。これにより、基材20が有する両方の主面にメンブレン層22を設ける場合と比べて、フィルター本体12の通気性を確保しやすくなる。
【0063】
上記した実施形態における集じん装置50は、複数のフィルターユニット10と、複数のフィルターユニット10に外力を付与することでフィルター本体12の外表面に付着した微粒子Pを払い落とす払落し手段(例えば、ブロー機構部64)と、ブロー機構部64が外力を付与するタイミングを制御する制御手段(例えば、PLC70)を備える。
【0064】
また、PLC70は、所定の周期かつ同じタイミングで複数のフィルターユニット10に外力を付与するようにブロー機構部64を制御してもよい。これにより、ブロー機構部64の吹付制御がより簡略化される。特に、水分W又は油分Oを含有する微粒子Pを高効率で捕集するフィルターユニット10を用いることで、この制御の簡略化が実現される。
【0065】
また、集じん装置50は、微粒子Pの発生に関わる工作機械80が設置される、設備内の空気を吸入するための吸気口52をさらに備え、PLC70は、ブロー機構部64及び工作機械80の制御を並列的に実行可能であってもよい。これにより、装置構成が簡素化されるとともに、工作機械80の稼働状態に適したブロー機構部64の吹付制御を実行できる。
【符号の説明】
【0066】
10…フィルターユニット、12…フィルター本体、20…基材、22…メンブレン層、24…表面処理剤、50…集じん装置(微粒子捕集装置)、64…ブロー機構部(払落し手段)、70…PLC(制御手段)、D…粉じん、F…ヒューム、O…油分、P…微粒子、W…水分

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2021-06-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分又は油分を含有して空気中に浮遊する微粒子を捕集するために用いられ、かつ、シート状のフィルター材を立体成形してなるフィルター本体を含むフィルターユニットであ って、
前記フィルター材は、
ポリエステル長繊維不織布からなる基材と、
JIS Z 8122に準拠した試験において、粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集率を有する多孔質のPTFEメンブレンを、前記基材の少なくとも一方の主面にラミネートしてなるメンブレン層と、
を備え、
少なくとも前記メンブレン層には、撥水撥油性を付与可能な表面処理剤であって、シリカ又は金属酸化物からなるバインダーと、該バインダーの表面に共有結合により化学的に結合されたフッ素化合物を含む複合バインダーである表面処理剤が塗工される、フィルターユニット。
【請求項2】
少なくとも前記メンブレン層の外表面及び細孔内壁には、前記表面処理剤が塗工されている、
請求項1に記載のフィルターユニット。
【請求項3】
前記微粒子は、金属加工時に発生する粉じん又はヒュームである、
請求項1又は2に記載のフィルターユニット。
【請求項4】
前記メンブレン層は、前記基材が有する二つの主面のうち、空気の導入側に対応する主 面のみに設けられる、
請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルターユニット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の複数のフィルターユニットと、
前記複数のフィルターユニットに外力を付与することで前記フィルター本体の外表面に 付着した微粒子を払い落とす払落し手段と、前記払落し手段が外力を付与するタイミング を制御する制御手段と、
を備える、微粒子捕集装置。
【請求項6】
前記制御手段は、所定の周期かつ同じタイミングで前記複数のフィルターユニットに外 力を付与するように前記払落し手段を制御する、
請求項5に記載の微粒子捕集装置。
【請求項7】
前記微粒子の発生に関わる工作機械が設置される、設備内の空気を吸入するための吸気 口をさらに備え、
前記制御手段は、前記払落し手段及び前記工作機械の制御を並列的に実行可能である、 請求項5又は6に記載の微粒子捕集装置。