(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093822
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】バクテリアセルロース複合化粉末を用いた水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20220617BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20220617BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220617BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20220617BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220617BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220617BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220617BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220617BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20220617BHJP
A23L 27/60 20160101ALN20220617BHJP
A23L 27/00 20160101ALN20220617BHJP
A23C 9/13 20060101ALN20220617BHJP
A23L 9/20 20160101ALN20220617BHJP
C12P 19/04 20060101ALN20220617BHJP
【FI】
A23D7/00 504
A23D7/005
A61K8/73
A61K8/06
A61Q19/00
A61K9/06
A61K47/38
A61P3/02
A23L23/00
A23L27/60 A
A23L27/00 D
A23C9/13
A23L9/20
C12P19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206516
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健一
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 颯太
【テーマコード(参考)】
4B001
4B025
4B026
4B036
4B047
4B064
4C076
4C083
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001AC15
4B001AC20
4B001BC02
4B001EC04
4B025LB20
4B025LG29
4B025LG45
4B025LP10
4B025LP12
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4B047LB03
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4B047LP02
4B064AF11
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4B064DA10
4C076AA07
4C076AA17
4C076BB01
4C076BB29
4C076BB31
4C076CC18
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4C076EE24F
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4C083AA031
4C083AD091
4C083AD261
4C083AD281
4C083AD301
4C083AD351
4C083CC05
4C083DD33
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】乳化安定剤として、水と油脂を含む液状の組成物に直接添加又は製造過程において添加した後乳化させる、又は乳化させた組成物に添加して混ぜ合わせるなどの工程により、乳化を安定化する方法、及びその乳化安定剤、この乳化安定剤により乳化された組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】特定の製法により製造されたバクテリアセルロース複合化粉末は、乳化安定効果が高く、塩分濃度の高い液体や低pHの液体であっても簡単な撹拌で溶解することから、様々な組成物の乳化安定に効果がある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶媒を除去して乾燥したバクテリアセルロース複合化粉末を添加することを特徴とする水中油型乳化組成物。
【請求項2】
カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末を添加することを特徴とする水中油型乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバクテリアセルロース複合化粉末を使用した、水と油を含む液状の組成物における油滴の懸濁安定化に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水と油を含む液状の食品において、製品の安定性に関する要望は高度化し、高温状態や長期間の保存状態においても安定した物性が求められている。たとえば、油脂を多く含むドレッシングやパスタソース、調味液など、温めて喫食する製品や長期間保存される製品などがあげられる。また、食感に対する要望も多く、喫食時のべた付きやぬる付きなどの違和感を感じない食品が求められている。 従来、油脂成分を多く含む食品を安定化させるためには、乳化剤やキサンタンガムなどの増粘剤を使用することが一般的な解決手段である。しかしながら、乳化剤を多く使用すると乳化剤特有の風味が食品本来の風味を阻害してしまうことや増粘剤を使用すると食感に少なからず変化を生じさせて食品本来の食感を損ねてしまう等の問題があった。
【0003】
これらの問題に対して、様々な検討が行われている。例えば、特許文献1にゲル化剤及び/又は増粘剤と乳化剤を組み合わせることにより加熱耐性を付与する方法が記載されている。特許文献2には結晶セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有するセルロース複合化物を用いた乳化安定性に優れる乳化型ドレッシングが記載されている。特許文献3にはカルボキシメチルセルロースナトリウム塩のエーテル化度及び粘度を規定したソース用乳化安定剤が記載されている。特許文献4には発酵セルロースを使用し、-5℃で流動性を有する乳化ソースが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1乃至3においては、乳化安定のために増粘剤を用いており、少なからず食感への影響が避けられていない。また特許文献4は、冷凍状態での安定性を目的としたものであり、常温流通や製品の多様化を満たすまでには至っていない。さらに特許文献2に記載された結晶セルロースはケーキ状の状態で使用されており(実施例より)、特許文献4に記載された発酵セルロースはホモジナイザーを使用して均質化して使用されている(実施例より)。これはセルロースや結晶セルロースは各分子鎖が解けた状態の溶液であっても、乾燥し粉末化されると分子内に強力な水素結合が生じ、水に添加された場合、通常の撹拌では分子束を解くことができないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-189763
【特許文献2】特開2011-239725
【特許文献3】特開2006-75027
【特許文献4】特開2018-166423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はバクテリアセルロース複合化粉末を使用した、水と油を含む液状の組成物における油滴の懸濁安定化(以後単に乳化と記載することがある)に優れた組成物さらには食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、創意研究を重ねたところ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶媒を除去して乾燥したバクテリアセルロース複合化粉末、又はカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらにこの分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、水と油を含む液状の組成物における油滴の懸濁安定化に効果があることを見出した。
【0008】
本発明で重要なことは、発酵セルロースと高分子物質とが複合化した発酵セルロース複合化粉末を得る方法として、発酵セルロース培養時に培養液に特定の高分子物質を添加して培養し、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶剤を除去して乾燥する方法、及び発酵時に特定の高分子物質を添加して培養し、この培養液にさらに特定の高分子物質を添加し乾燥する方法のいずれかの方法により得た発酵セルロース複合化粉末は、水と油を含む液上組成物の懸濁安定性が従来の発酵セルロース粉末に比べ著しく向上したことである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るバクテリアセルロース複合化粉末によれば、水または塩濃度が高い溶液においても簡単な撹拌でバクテリアセルロースを液体中に均一に分散させることができ、さらに耐熱性、耐酸性、耐冷凍性を有しているため、様々な水と油を含む液状組成物の乳化が可能であり、さらに長期間にわたりこれらの組成物中の乳化安定に効果がある。ホモジナイザーなどの摩砕機械が無くても容易に様々の種類の液状組成物、食品に応用でき、乳化物を安定的に含む付加価値のある商品の開発ができる。更には安全性の高い素材であるため、液体組成物として、食品、化粧品、医薬品、医薬部外品、化成品などの分野に応用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るバクテリアセルロース複合化粉末の製造方法について記載する。本発明で使用されるバクテリアセルロース複合化粉末は、特許国際公開番号WO2018/038055、特願2020-021181に記載されたバクテリアセルロース複合化粉末である。
【0011】
具体的な製造方法は、特許国際公開番号WO2018/038055、特願2020-021181に記載された方法による。特許国際公開番号WO2018/038055に示された方法では、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶媒を除去して乾燥したバクテリアセルロース複合化粉末の製造方法である。特願2020-021181に示された方法では、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末の製造方法である。
【0012】
特に、特願2020-021181に記載された、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質が添加され乾燥される製造方法で製造されたバクテリアセルロース複合化粉末は、乳化安定効果が高く、さらに塩分濃度の高い液体であっても十分効果を発揮するバクテリアセルロース複合化粉末である。
【0013】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末は、水又は水と油を含む液状の組成物に加え手撹拌(ホモミキサーやホモジナイザーを使用しない)などの簡単な撹拌で分子がほどけ、バクテリアセルロース分子が均一に溶液中に分散することにより、見かけ上の網目構造をとる。この網目構造はバクテリアセルロース分子同士の分子間力、水素結合などにより安定しており乳化された微細なミセル粒子を均一に分散させることができる。増粘多糖類のような高分子構造粘性とは異なるため粘性はなくニュートン流体に近い液性となる。このため曳糸性の少ない扱いやすい乳化液となり、食品に使用した場合にはすっきりとした食感の乳化された食品となる。
【0014】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末は、セルロース分子であるため、耐熱性、耐酸性、耐塩性、耐アルカリ性、耐冷凍性などに優れている。そのため様々な水と油を含む液状の組成物や食品に使用することができる他、長期安定性にも優れたものとなる。例えば従来の乳化剤や増粘剤などを使用したものは、耐酸性や耐塩性、耐冷凍性に劣るため乳化が不安定となり、賞味期限が短いものとなっていた。しかし本発明のバクテリアセルロース複合化粉末を使用すれば乳化が安定するため賞味期限を延ばすことができる。よって食品の廃棄ロス問題、更には労働条件の改善にも役立つことができる。
【0015】
本発明のバクテリアセルロース粉末は、水や塩溶液に添加して撹拌することによりセルロース分子がナノサイズレベルで分散することができる。その理由はバクテリアセルロースの培養時にカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシエチルセルロースの少なくとも1以上のセルロース誘導体を添加することにある。バクテリアセルロースは低分子物質からバクテリアセルロース産生菌が発酵によりセルロース分子を作ることにより産生されるが、このセルロース分子伸長過程において前記セルロース誘導体が取り込まれて伸長していく。よって産生されたバクテリアセルロースは複合化物となり、粉末化する時も複合物として乾燥される。このため乾燥しても、分子中にカルボキシル基、ヒドロキシプロピル基、エチル基などの水に親和性を有する官能基を有しているために水や塩溶液に添加して撹拌することで分子が解け、乾燥前のナノレベルのサイズに戻って効果を発揮するのである。これに対し、セルロース誘導体を添加せずバクテリアセルロース単独で粉末化した場合、又は培養時でなく培養終了後にセルロース誘導体を加えた場合は分子内部には親水性の官能基を有していないため、乾燥時においてはセルロース分子が凝集乾燥し、強固な水素結合が生じるため例えばホモジナイザーなどの機械的分散を行っても完全にナノレベルの分子まで解けることができない。このため、懸濁安定効果に劣るのである。
【0016】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末ではカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶媒を除去して乾燥したバクテリアセルロース複合化粉末、又はカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末であるが、さらに好ましいものとして、ヒドロキシプロピルセルロースからなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらにこの分散液から水を除去して乾燥させて製造されたバクテリアセルロース複合化粉末が塩類溶液への分散性が良いことからより好ましい。水分の除去方法は特に限定されず、熱風乾燥、真空凍結乾燥、真空乾燥、ドラムドライ、噴霧乾燥、有機溶剤を添加して分離等があげられる。
【0017】
本発明のカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶媒を除去して乾燥したバクテリアセルロース複合化粉末は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースを含有する水に分散させることにより溶解し、復元バクテリアセルロース分散液を調整しても良く、さらにこの復元バクテリアセルロース分散液を乾燥して粉末化しても構わない。この場合乾燥方法は特に限定されるものではなく、熱風乾燥、真空凍結乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥、ドラムドライなどがある。
【0018】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末は、水と油を含む液状の組成物が塩度の高い溶液、低pHの溶液、高pHの溶液、高糖度の溶液など、様々な溶液に溶解し効果を発現することができる。当然ではあるが本発明のバクテリアセルロース複合化粉末の粉末化前の液体、つまり液体状バクテリアセルロース複合化物も同様に、塩度の高い溶液、低pHの溶液、高pHの溶液、高糖度の溶液など様々な溶液に溶解し効果を発現することができる。
【0019】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末の飲食品等への添加量は、目的とする油滴の懸濁安定化効果が得られれば良く、特に限定されるものではない。通常はバクテリアセルロースとして0.03重量%~5.0重量%が好ましい。
【0020】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末は水と油を含む液状の組成物や食品を乳化させる際、一般的に使用されている乳化剤や増粘剤を本発明の効果を妨げない範囲で併用しても構わない。本発明のバクテリアセルロース複合化粉末の品質はナノセルロースであるため電気的に中性の分子となる。そのため水と油を含む液状の組成物や食品中に分散した場合、イオン基を有する化合物や食品と併用しても反応することなく効果を発揮する。乳化剤としては、一般に使用される乳化剤で良いが、タンパク、ペプチド、でも構わない。増粘剤は増粘多糖類などが挙げられる。これらを併用することにより、より容易に乳化させることができ、且つ乳化は長期間安定したものになる。
【0021】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末が使用できる水と油を含む液状の組成物や食品としては、乳化物を含むものであれば特に限定されるものではないが、例えば食品では乳化タイプのドレッシング、マヨネーズ風調味料、コーヒーホワイトナー、乳化されたソース及びこれらを使用した冷凍食品やレトルト食品、乳化された油脂を含有する経腸栄養剤(ゲル化剤含有するものを含む)、酸性の乳化された飲料などがある。一般的な乳化物は、低pH、高温度、冷凍状態では乳化物が作製できないか、乳化物の経時安定性が悪いことが知られている。しかし、本発明の乳化物は、低pH、高温度、冷凍状態においても安定であることから低pHの乳化タイプのドレッシング、レトルト処理(121℃など)される乳化されたソース、冷凍解凍しても乳化が安定した様々な種類のソースなどに使用できる。
【0022】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末は飲食品に以外にも、医薬品、化粧品、化成品など様々な分野に応用できる。乳化剤を使用しない乳化化粧品、ワックス、40℃75RH%でも長期保管できるクリーム剤や軟膏剤などに使用できる。天然物由来なので安全性があり乳化剤フリーの製品に応用できる。
【実施例0023】
以下、本開示の実施例を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。また、特に指定がない限り%は重量%を示している。
本実施例で使用した物質を示す。
バクテリアセルロース1:特許国際公開番号WO2018/038055の実施例8 CMC-1使用のもの
バクテリアセルロース2:特許国際公開番号WO2018/038055の実施例8 HEC-2使用のもの
バクテリアセルロース3:特許国際公開番号WO2018/038055の実施例8 HPC-2使用のもの
バクテリアセルロース4:特願2020-021181の試験例1-1 高分子物質としてHPCを使用したもの
バクテリアセルロース5:特願2020-021181の試験例1-1 高分子物質としてHECを使用したもの
バクテリアセルロース6:特願2020-021181の試験例1-1 高分子物質としてキサンタンガムを使用したもの
バクテリアセルロース7:特願2020-021181の試験例1-1 高分子物質としてアルギン酸Naを使用したもの
バクテリアセルロース8:特願2020-021181の試験例1-2 高分子物質としてキサンタンガムを使用したもの
バクテリアセルロース9:サンアーティスト(登録商標)PN
乳化剤:ソルビタンモノ飽和脂肪酸エステル
キサンタンガム:イナゲルV-10T(伊那食品工業製)
【0024】
<実験例1> 乳化ドレッシングの作製
表1及び表2に示した配合にて乳化ドレッシングを作製した(作製量500g)。具体的には容器に卵黄、練マスタード、塩、胡椒、乳化安定剤を入れ混ぜ合わせた。油を少しずつ加えながらハンドミキサーを使用し撹拌し、食酢を混ぜ合わせ保形性が出て安定するまで20℃で撹拌した。乳化状態を確認した後85℃20分加熱殺菌したものと、-20℃で冷凍した後に20℃で解凍したものを作製し、乳化の状態等を確認した。評価は下記の指標で行い表3に示した。
乳化の状態(20℃)
◎:乳化が容易に行われ経時的にも安定している
〇:◎より劣るが良好な乳化状態である
△:一部乳化物の合一が確認され若干の水層油層の分離がある
×:乳化物が合一し△より分離がある
食感・味など(20℃)
◎:本来の味であり美味しい
〇:◎より劣るが問題ない程度
×:糊状感、分離等により本来の味ではない
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、乳化安定効果が高く、塩分濃度の高い液体や低pHの液体であっても簡単な撹拌で溶解することから、水と油を含む乳化ドレッシングの乳化及び経時的な乳化安定に優れた効果があった。
【0029】
<実験例2> コーヒーホワイトナー
市販のコーヒーホワイトナー100gに表4に示した乳化安定剤を0.1g加え、ハンドミキサーにて3分間撹拌し溶解させた。これをレトルトパウチに50g充填して121℃、20分でレトルト殺菌した。残りの50gは耐冷凍性の容器に充填後―20℃で冷凍し、さらに20℃で解凍した。これらについて乳化の状態等を確認した。結果を表4に示した。
【0030】
【0031】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、乳化安定効果が高く、コーヒーホワイトナーに使用した場合でも、簡単な撹拌で溶解することから、加熱や冷凍に対し安定な乳化物を作製するのに優れた効果があった。
【0032】
<実験例3> 経腸栄養剤
市販の経腸栄養剤500g(エンシュア、油脂含量3.5%)に、油脂(MCT)を100g添加し表5に示した乳化安定剤を0.3%添加して、ハンドミキサーにて5分間撹拌し溶解とした。このうち200gをレトルトパウチに充填し110℃,40分加熱殺菌した。別の200gにはクエン酸1.0gを添加し、85℃で30分間加熱殺菌を行った。乳化の状態と味を確認し結果を表5に記載した。
【0033】
【0034】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、乳化安定効果が高く、油脂やタンパク質、塩類を含有する経腸栄養剤であっても簡単な撹拌で溶解することから、加熱後でも乳化安定に優れた効果があった。また経腸栄養剤に油脂を多く含ませることが可能になるため、高カロリー化が可能となる。
【0035】
<実験例4> 乳化ソース様食品
表6及び表7に示した配合にて乳化ソース様食品を作製した(作製量1000g)。具体的には水30に小麦粉とバターを入れ加熱溶解した。これとは別に水残部に残りの原料を加えハンドミキサーにて3分間撹拌を行い溶解した。この溶液を加温し、小麦粉を溶解した溶液に加え、ヘラにて加熱撹拌を行い、乳化ソース様食品を作製した。乳化状態を確認した後121℃,20分加熱殺菌したものと、-20℃で冷凍した後に20℃で解凍したものを作製し、乳化の状態等を確認した。結果を表8に示した。
表6
【0036】
【0037】
【0038】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、乳化安定効果が高く、塩分を含む液体であっても簡単な撹拌で溶解することから、水と油を含む乳化ソースの乳化及び経時的な乳化安定に優れた効果があった。
【0039】
<実験例5> ヨーグルト飲料
市販の飲むヨーグルト(ブルガリア)に乳脂肪を10%添加し(グランディール乳脂肪40%を使用)、さらに表9で示した乳化安定剤を0.1g添加しハンドミキサーで5分間撹拌した。これを85℃、30分間加熱後、乳化の状態と味を確認し結果を表9に示した。これとは別にー20℃で冷凍処理したものについても指標に従い同様に確認を行った。
【0040】
【0041】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、カルシウムなどの塩類が多いヨーグルトに対しても乳化安定効果が高く、ヨーグルト飲料の乳化安定に優れた効果がありヨーグルト風味も良好であり良好な乳脂肪を多く含む濃厚なヨーグルト飲料となった。
【0042】
<実験例6> 液体状バクテリアセルロースを使用
バクテリアセルロース4の粉末化前の液体を使用し、実験例1及び実験例4の、水と油を含む液状の食品を製造し同様にして評価を行った。ただし、バクテリアセルロース4の粉末化前の液体の添加量はバクテリアセルロース4の添加量の100倍量とした。実験例1に関しては増えた水の量は、食酢の酸度を7のものと併用することにより調整した。実験例4に関しては、使用する水から減らし小麦粉と共に溶解し対応した。その結果はバクテリアセルロース4を使用した実施例と同様であった。
【0043】
<実験例7>
水40%、食塩5%、食酢(酸度4.5)10%、大豆油44.7%の混合溶液(各500g)に表10に示した乳化安定剤を0.3%添加して、ハンドミキサーにて5分間撹拌し乳化溶液とした。このうち200gをレトルトパウチに充填し121℃,20分加熱殺菌した。別の200gにー20℃で冷凍後解凍した。これらについて乳化の状態と味(食塩の味立ち等)を確認し結果を表10に記載した。
【0044】
【0045】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、乳化安定効果が高く、安定した乳化物を作製することができた。
本発明に係るバクテリアセルロース複合化粉末は、冷水、熱水、高塩類、低pHなどの条件においても、簡単な撹拌でバクテリアセルロースを液体中に均一に分散させることができる。これにより、水と油を含む組成物の乳化物を製造する際に、ホモジナイザーなどの乳化機が無くても容易に乳化が可能となり様々な食品や化成品、医薬品、及び化粧品の製造が可能となる。さらに乳化物を長期にわたり合一することなく安定に均一に維持させることができ賞味期限を従来品より延ばすことができる。本発明に係るバクテリアセルロース複合化粉末は、食品に限らず、多様な範囲で応用でき、乳化を安定化した付加価値のある商品を提供することができる。