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▶ 伊那食品工業株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093823
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】食品の分散安定化剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/262 20160101AFI20220617BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20220617BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20220617BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220617BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220617BHJP
   A23F 3/16 20060101ALN20220617BHJP
   A23L 2/38 20210101ALN20220617BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20220617BHJP
【FI】
A23L29/262
A23L29/269
A23L29/256
A23L27/00 D
A23L5/00 N
A23F3/16
A23L2/38 P
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206517
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健一
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 颯太
【テーマコード(参考)】
4B027
4B035
4B036
4B041
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B027FB13
4B027FC10
4B027FK04
4B027FP85
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG07
4B035LG25
4B035LG26
4B035LG27
4B035LK12
4B036LF02
4B036LH11
4B036LH22
4B036LH25
4B036LP01
4B036LP18
4B041LC10
4B041LE01
4B041LH10
4B041LH11
4B041LH16
4B041LK07
4B041LP07
4B047LG03
4B047LG11
4B047LG24
4B047LG29
4B047LG30
4B047LG37
4B047LG44
4B047LG62
4B047LP02
4B117LG01
4B117LK13
4B117LK18
(57)【要約】
【課題】液体食品に直接添加、又は製造過程において添加した後、簡単な撹拌により十分に効果が発現し、液体食品に含まれる不溶性成分の経時的沈降を抑制することできる、耐熱、耐酸、耐塩性に優れた分散安定剤、及びこの分散安定剤を含む食品を提供することを目的とする。
【解決手段】カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、分散安定効果が高く、様々な液体状食品の分散安定に優れた効果がある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶媒を除去して乾燥したバクテリアセルロース複合化粉末を添加することを特徴とする液体状食品の不溶性物質の分散安定化方法。
【請求項2】
カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末を添加することを特徴とする液体状食品の不溶性物質の分散安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバクテリアセルロース複合化粉末を使用した、不溶性物質を含む液体状食品の、分散安定化に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料が多様化し、ミカンのさのうなどの果実片、カルシウムなどのミネラル粉末、ココア粉末、小豆、コーン、麹等様々な水不溶性成分を含んだ製品が開発されている。また液体調味料では香辛料、香味野菜等が多く含まれるより高級感のある製品が開発されている。しかし、共通している問題点として、経時的に水不溶性成分が沈降してしまい、使用時に容器を振るなど撹拌操作を行わなくてはならないことである。軽く撹拌する程度であれば特に問題ないが、沈殿を均一に分散するには強めの撹拌が必要となる。このため容器を振るなどの撹拌工程が無い製品が好ましい。撹拌工程を無くすためには増粘剤を使用して粘性を付与して沈殿を防ぐ方法があるが、経時的に沈殿してしまう問題や粘性が出るため食感や使用感が悪くなる問題がある。
【0003】
また、増粘剤の代わりにセルロース繊維を使用して沈殿を防止する方法が開発されている。例えば、特許文献1には微生物由来のセルロースと高分子物質とを複合化して得られる複合化物を含有する食品の分散安定組成物及び分散が安定化された食品が記載されている。特許文献2には結晶セルロースと水溶性ガムと糖類を水に分散溶解して高圧ホモジナイザーを使用して摩砕し、乾燥して得られた易分散安定剤とこれを含む食品が記載されている。特許文献3にはセルロースナノファイバーに対して、水溶性高分子を5~300重量%含有していることを特徴とするセルロースナノファイバーの乾燥固形物が記載されている。特許文献4には不溶性物質含有飲料にキサンタンガム及び発酵セルロース複合体を添加することを特徴とする不溶性物質の分散安定化方法が記載されている。特許文献5には発酵セルロース及びカルボキシメチルセルロースのアルカリ塩を含有する被加熱殺菌処理食品の分散安定化組成物が記載されている。特許文献1及び6には発酵セルロースと高分子物質とが複合化した発酵セルロースを得る方法として、発酵時に高分子物質を添加する方法(第一の方法)、生産された発酵セルロースのゲルを高分子物質の溶液に浸漬含侵させて複合化する方法(第二の方法)が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された分散安定組成物は、微生物由来のセルロースと高分子物質とを複合化しているが、微生物由来のセルロースが産生される時に高分子物質と複合化しているのではないため、分散安定に劣る問題がある。また、これを熱風乾燥したものは、高圧ホモジナイザーを使用しないと複合化物がほどけない問題もある。さらにナノ化していないセルロースはより均一に分散しないため効果が劣る。特許文献2に記載された易分散安定剤は、結晶セルロースと水溶性ガムを高圧ホモジナイザーを使用して摩砕しているが、木材パルプなどの天然セルロースより得られる結晶セルロースは高圧ホモジナイズしても発酵セルロースのように微細な分子にならない。また、水溶性ガムを添加してもセルロースが産生された後に添加させるため分散安定の効果に劣る。特許文献3ではセルロースナノファイバーに水溶性高分子を配合しているがセルロース産生時に水溶性高分子が複合化していないため分散安定の効果が劣る。またこれを乾燥したものは高速撹拌機などを使用しないと複合化物がほどけない。特許文献4にはキサンタンガムと発酵セルロース複合体を使用した分散安定化方法が記載されているが発酵セルロース産生時に高分子物質が複合化されていないため分散安定効果が充分ではなかった。特許文献5には発酵セルロース及びカルボキシメチルセルロースのアルカリ塩を含有する分散安定化剤はカルボキシメチルセルロースのアルカリ塩が発酵セルロース産生時に複合化されていないため分散安定化効果が充分でなかった。特許文献1及び6に記載された2つの方法によって得られる発酵セルロースと高分子物質とが複合化した発酵セルロースは分散性が充分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-121787
【特許文献2】特開2008-113572
【特許文献3】特開2017-8176
【特許文献4】特開2009-278970
【特許文献5】特開平11-178516
【特許文献6】特開2009-278905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、飲料、塩類が含まれる調味料などの液体食品に直接添加、又は製造過程において添加した後、簡単な撹拌により十分に効果が発現し、液体食品に含まれる不溶性成分の経時的沈降を抑制することができる、耐熱、耐酸、耐塩性に優れた分散安定剤、及びこの分散安定剤を含む食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、創意研究を重ねたところ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶媒を除去して乾燥したバクテリアセルロース複合化粉末、又は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、分散安定効果が高く、塩分濃度の高い液体や低pHの液体であっても簡単な撹拌で溶解することから、不溶性成分を含有する様々な液体状食品の分散安定に優れた効果があることを見出した。
【0008】
本発明で重要なことは、発酵セルロースと高分子物質とが複合化した発酵セルロース複合化粉末を得る方法として、発酵セルロース培養時に培養液に特定の高分子物質を添加して培養し、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶剤を除去して乾燥する方法、及び発酵時に特定の高分子物質を添加して培養し、この培養液にさらに特定の高分子物質を添加し乾燥する方法のいずれかの方法により得た発酵セルロース複合化粉末は、水や塩水への分散性が従来の発酵セルロース粉末に比べ著しく向上したことである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るバクテリアセルロース複合化粉末によれば、水または塩濃度が高い溶液においても簡単な撹拌でバクテリアセルロースを液体中に均一に分散させることができ、さらに耐熱性、耐酸性を有しているため、液体食品中の不溶性物質が長期にわたり沈殿することなく均一に分散することができる。よってホモジナイザーなどの摩砕機械が無くても容易に様々の種類の不溶物が含まれる商品に応用でき、沈殿を起こさない付加価値のある商品の開発ができる。更には安全性の高い素材であるため、液体食品以外にも、化粧品、医薬品、医薬部外品、化成品などの分野に応用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るバクテリアセルロース複合化粉末の製造方法について記載する。本発明で使用されるバクテリアセルロース複合化粉末は、特許国際公開番号WO2018/038055、特願2020-021181に記載されたバクテリアセルロース複合化粉末である。
【0011】
具体的な製造方法は、特許国際公開番号WO2018/038055、特願2020-021181に記載された方法による。国際公開番号WO2018/038055に示された方法では、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶媒を除去して乾燥したバクテリアセルロース複合化粉末の製造方法である。特願2020-021181に示された方法では、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末の製造方法である。
【0012】
特に、特許出願番号2020-021181に記載された、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質が添加され乾燥される製造方法で製造されたバクテリアセルロース複合化粉末は、分散安定効果が高く、さらに塩分濃度の高い液体であっても十分効果を発揮するバクテリアセルロース複合化粉末である。
【0013】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末は、水に加え手撹拌(ホモミキサーやホモジナイザーを使用しない)などの簡単な撹拌で分子がほどけ、バクテリアセルロース分子が均一に溶液中に分散することにより、見かけ上の網目構造をとる。この網目構造はバクテリアセルロース分子どおしの分子間力、水素結合などにより安定しており不溶性物質を均一に分散させることができる。増粘多糖類のような高分子構造粘性とは異なるため粘性はなくニュートン流体に近い液性となる。このためすっきりとした食感の液体状食品となる。
【0014】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末は、セルロース分子であるため、耐熱性、耐酸性、耐塩性、耐アルカリ性などに優れている。そのため様々な液体状食品に使用することができる他、長期安定性にも優れたものとなる。例えば従来の増粘剤を使用したものは、耐酸性や耐塩性に劣るため、賞味期限が短いものとなっていた。しかし本発明のバクテリアセルロース粉末、バクテリアセルロース複合化粉末を使用すれば賞味期限を延ばすことができるため、食品の廃棄ロス問題、更には労働条件の改善にも役立つことができる。
【0015】
本発明のバクテリアセルロース粉末は、水や塩溶液に添加して撹拌することによりセルロース分子がナノサイズレベルで分散することができる。その理由はバクテリアセルロースの培養時にカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシエチルセルロースの少なくとも1以上のセルロース誘導体を添加することにある。バクテリアセルロースは低分子物質からバクテリアセルロース産生菌が発酵によりセルロース分子を作ることにより産生されるが、このセルロース分子伸長過程において前記セルロース誘導体が取り込まれて伸長していく。よって産生されたバクテリアセルロースは複合化物となり、粉末化する時も複合物として乾燥される。このため乾燥しても、分子中にカルボキシル基、ヒドロキシプロピル基、エチル基などの水に親和性を有する官能基を有しているために水や塩溶液に添加して撹拌することで分子が解け、乾燥前のナノレベルのサイズに戻って効果を発揮するのである。これに対し、セルロース誘導体を添加せずバクテリアセルロース単独で粉末化した場合、又は培養時でなく培養終了後にセルロース誘導体を加えた場合は分子内部には親水性の官能基を有していないため、乾燥時においてはセルロース分子が凝集乾燥し、強固な水素結合が生じるため例えばホモジナイザーなどの機械的分散を行っても完全にナノレベルの分子まで解けることができない。このため、分散安定効果に劣るのである。
【0016】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末ではカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶媒を除去して乾燥したバクテリアセルロース複合化粉末、又はカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末であるが、さらに好ましいものとして、ヒドロキシプロピルセルロースからなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、及びポリグリコール酸の少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させて製造されたバクテリアセルロース複合化粉末が塩類溶液への分散性が良いことからより好ましい。水分の除去方法は特に限定されず、熱風乾燥、真空凍結乾燥、真空乾燥、ドラムドライ、噴霧乾燥、有機溶剤を添加して分離等があげられる。
【0017】
本発明の、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、この培養液に有機溶媒を添加した後、培養液から水と有機溶媒を除去して乾燥したバクテリアセルロース複合化粉末は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースを含有する水に分散させることにより溶解し、復元バクテリアセルロース分散液を調整しても良く、さらにこの復元バクテリアセルロース分散液を乾燥して粉末化しても構わない。この場合乾燥方法は特に限定されるものではなく、熱風乾燥、真空凍結乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥、ドラムドライなどがある。
【0018】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末は、塩度の高い溶液、低pHの溶液、高pHの溶液、高糖度の溶液など様々な溶液に溶解し、効果を発現することができる。当然ではあるが本発明のバクテリアセルロース複合化粉末の粉末化前の液体、つまり液体状バクテリアセルロース複合化物も同様に、塩度の高い溶液、低pHの溶液、高pHの溶液、高糖度の溶液など様々な溶液に溶解し、効果を発現することができる。
【0019】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末の液体状食品への添加量は、目的とする分散安定化効果が得られれば良く特に限定されるものではない。通常はバクテリアセルロースとして0.03重量%~5.0重量%が好ましい。
【0020】
本発明のバクテリアセルロース複合化粉末が使用できる液体状食品としては、特に限定されるものではないが、さのう入り果汁飲料、カルシウム補給目的などの不溶性カルシウム含有飲料、抹茶粉末含有飲料、不溶性ビタミン含有飲料、フルーツプレパレーション中のフルーツ粒子の安定化、ヨーグルト中の固形物(フルーツ等)、汁粉やコーンスープなどの固形分含有飲料、ごまや香辛料などを含有する液体調味料、ドレッシングなど乳化粒子の安定化などに適応できる。また、食品以外には、水不溶性成分を含有した液体状化粧品や医薬品にも応用できる。例えばビタミンや機能性成分を含有したナノカプセルやナノ粒子を含むものが挙げられる。
【実施例0021】
以下、本開示の実施例を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。また、特に指定がない限り%は重量%を示している。
本実施例で使用した物質を示す。
バクテリアセルロース1:特許国際公開番号WO2018/038055の実施例8 CMC-1使用のもの
バクテリアセルロース2:特許国際公開番号WO2018/038055の実施例8 HEC-2使用のもの
バクテリアセルロース3:特許国際公開番号WO2018/038055の実施例8 HPC-2使用のもの
バクテリアセルロース4:特願2020-021181の試験例1-1 高分子物質としてHPCを使用したもの
バクテリアセルロース5:特願2020-021181の試験例1-1 高分子物質としてHECを使用したもの
バクテリアセルロース6:特願2020-021181の試験例1-1 高分子物質としてキサンタンガムを使用したもの
バクテリアセルロース7:特願2020-021181の試験例1-1 高分子物質としてアルギン酸Naを使用したもの
バクテリアセルロース8:特願2020-021181の試験例1-2 高分子物質としてキサンタンガムを使用したもの
バクテリアセルロース9:サンアーティスト(登録商標)PN
バクテリアセルロース10:サンアーティスト(登録商標)PG
キサンタンガム:イナゲルV-10T(伊那食品工業製)
【0022】
<実験例1> 液体調味料の作製
表1及び表2に示した配合にて液状調味料を作製した(作製量500g)。具体的には水に各種素材を加え調理用の泡立て器を使用し25℃で5分間撹拌混合した。10℃にて1カ月保管後、不溶性物質(黒コショウ、ゴマ)の状態、及び油滴(乳化)の状態を比較した。また、液状調味料の味を比較した。評価は下記の指標で行い表3に示した。
不溶性物質の状態
◎:作製時と同様な状態である
〇:若干沈降がみられるが問題ない程度である
△:〇に状態より沈降がみられるが問題ない程度である
×:沈降がみられる

味の評価
◎:味立ち、香り立ちが良く、嫌な粘性がない
〇:◎の状態より劣るが良好
△:粘性があり、味立ち、香り立ちが悪くなる
×:糊状感を感じ、味立ち、香り立ちが△より悪くなる
【0023】
表1
【0024】
表2
【0025】
表3
【0026】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、分散安定効果が高く、塩分濃度の高い液体や低pHの液体であっても簡単な撹拌で溶解することから、不溶性成分を含有する液体状食品の分散安定に優れた効果があった。
【0027】
<実験例2> ヨーグルト飲料
市販の飲むヨーグルト(糖度10)に表4に示した分散安定剤を0.2gを加え、ハンドミキサーにて撹拌した。これにブルーベリーのプレパレーション(糖度20)を加え、5℃にて7日間放置して、ブルーベリーの沈降状態、ヨーグルトの味等を調べ結果を表4に記載した。
【0028】
表4
【0029】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、分散安定効果が高く、カルシウム濃度の高い液体や低pHの液体であっても簡単な撹拌で溶解することから、不溶性成分を含有する食品の分散安定に優れた効果があった。
【0030】
<実験例3> コーンポタージュ
市販のコーンポタージュスープに、市販の缶詰めホールコーンを5%加え、表5に示した分散安定剤を0.3%添加してハンドミキサーにて3分間撹拌した。これをレトルトパウチに充填し、121℃、20分の加熱処理を行った。30℃にて1カ月間保管のコーンの状態と味を確認し結果を表5に記載した。
【0031】
表5
【0032】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、分散安定効果が高く、塩類や糖濃度の高い液体であっても簡単な撹拌で溶解することから、コーンなどの野菜片を含有する食品の分散安定に優れた効果があった。
【0033】
<実験例4> 抹茶飲料
水に市販の抹茶を2%添加し分散させた。これに表6で示した分散安定剤を0.1g添加しハンドミキサーで3分間撹拌した。これを120℃、10分加熱処理後、ペットボトルに無菌充填した。50℃で1カ月保管後の抹茶の状態と味の評価を行い表6に示した。
【0034】
表6
【0035】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、分散安定効果が高く、抹茶粒子を含有する飲料の分散安定に優れた効果があり抹茶の風味も良好であった。
【0036】
<実験例5> 高塩分調味料
市販の醤油調味料(塩度5%)に、表7に示した分散安定剤を0.4%添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌した。これにさいの目に切った玉ねぎ、ニンニク、リンゴ(3mm角)を10%添加し瓶に充填した。これを5℃で3カ月保管し、野菜片の状態と味を確認し、結果を表7に示した。
【0037】
表7
【0038】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、分散安定効果が高く、塩度高い液体であっても簡単な撹拌で溶解することから、野菜片を含有する食品の分散安定に優れた効果があり味も良好であった。
【0039】
<実験例6> 汁粉
市販の汁粉(糖度30)に表8に示した分散安定剤を0.2%添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌した。これに煮小豆粒子を20%添加した後、レトルトパウチに充填し、110℃、40分の殺菌を行った。25℃にて6カ月保管後の小豆粒子の状態と味を確認し、結果を表8に示した。
【0040】
表8
【0041】
以上のように、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースの少なくとも1以上からなる第1の高分子物質の存在下でバクテリアセルロースが培養され、培養後この培養液に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムの少なくとも1以上からなる第2の高分子物質を添加し分散液とした後、さらに、この分散液から水を除去して乾燥させたバクテリアセルロース複合化粉末は、分散安定効果が高く、糖度の高い液体であっても簡単な撹拌で溶解することから、小豆粒子を含有する液体状食品の分散安定に優れた効果があり味も良好であった。
【0042】
<実験例7> 液体状バクテリアセルロースを使用
バクテリアセルロース4の粉末化前の液体を使用し、実験例1~6の液体状食品を製造し同様にして評価を行った。ただし、バクテリアセルロース4の粉末化前の液体の添加量はバクテリアセルロース4の添加量の100倍量とした。実験例1に関しては増えた水の量は使用する水から減らし対応した。他の実験例に関しては、バクテリアセルロース4の粉末化前の液体の塩分濃度、糖度、pHを使用する商品と同様に調整し使用した。その結果はバクテリアセルロース4を使用した実施例と同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るバクテリアセルロース複合化粉末は、冷水、熱水、高塩類、低pHなどの条件においても、簡単な撹拌でバクテリアセルロースを液体中に均一に分散させることができる。これにより、不溶性物資を含む液体状食品を製造する際に、ホモジナイザーなどの摩砕機械が無くても容易に不溶性物資を含む様々な液体状食品の製造が可能となる。さらに不溶性物質を長期にわたり沈殿することなく均一に分散させることができ賞味期限を従来品より延ばすことができる。本発明に係るバクテリアセルロース複合化粉末は、食品に限らず、不溶物が含まれる商品に応用でき、沈殿を起こさない付加価値のある商品を提供することができる。