IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コタ株式会社の特許一覧 ▶ 巨 東英の特許一覧

<>
  • 特開-育毛剤 図1
  • 特開-育毛剤 図2
  • 特開-育毛剤 図3
  • 特開-育毛剤 図4
  • 特開-育毛剤 図5
  • 特開-育毛剤 図6
  • 特開-育毛剤 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093838
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】育毛剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20220617BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20220617BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
A61K8/19
A61Q7/00
A61K8/81
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206543
(22)【出願日】2020-12-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】592028514
【氏名又は名称】コタ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501169970
【氏名又は名称】巨 東英
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安 鋼
(72)【発明者】
【氏名】巨 東英
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AB231
4C083AB232
4C083AC102
4C083AC851
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD491
4C083AD531
4C083AD532
4C083AD661
4C083CC37
4C083DD08
4C083DD17
4C083EE22
(57)【要約】
【課題】育毛効果を有しつつ、使用感が良好な育毛剤を提供する。
【解決手段】この育毛剤は、粒子状物質を含有する育毛剤であって、粒子状物質は、表面に酸化ケイ素をコートした、核となるマグネタイト微粒子に、マグネタイト微粒子の表面を覆うように形成された、育毛剤の有効成分を含む有効成分層と、有効成分層を覆うように形成された、水溶性ポリマーを含む水溶性ポリマー層とが、コーティングされており、水溶性ポリマーは、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状物質を含有する育毛剤であって、
前記粒子状物質は、
表面に酸化ケイ素をコートした、核となるマグネタイト微粒子に、
前記マグネタイト微粒子の表面を覆うように形成された、育毛に関する有効成分を含む有効成分層と、
前記有効成分層を覆うように形成された、水溶性ポリマーを含む水溶性ポリマー層とが、コーティングされており、
前記水溶性ポリマーは、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体を含む、育毛剤。
【請求項2】
前記有効成分は、タマサキツヅラフジアルカロイド、セファランチン、ニンジンエキス、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸、ヒノキチオール、アラニントイン、クジンエキス、センブリエキス、ショキョチンキ、及び酢酸トコフェロールからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の育毛剤。
【請求項3】
前記有効成分は、タマサキツヅラフジアルカロイド、セファランチン、ニンジンエキス、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸、ヒノキチオール、アラニントイン、クジンエキス、センブリエキス、ショキョチンキ、及び酢酸トコフェロールからなる群から選ばれる2種以上である、請求項1に記載の育毛剤。
【請求項4】
剤型がエアゾール剤であり、少なくともジメチルエーテル(DME)ガスを含む噴射ガスをさらに含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の育毛剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育毛剤に関し、特に、ナノサイズの磁性体微粒子を核とし、当該磁性体微粒子に有効成分がコーティングされている粒子状物質からなる育毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の育毛剤に含まれる有効成分は頭皮に直接塗布した後、頭皮内部に効果的に浸透しにくく、効果は発揮しにくい状態となっている。そのため、頭皮内部まで浸透できる高い浸透性を有する育毛剤の開発は重要な課題である。特許文献1には、磁性体微粒子の表面を親水性のレシチンで被覆し、さらに、育毛有効成分とLIPIDURE(登録商標)-NRをこの順にコーティングした育毛剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5549034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が鋭意検討した結果、特許文献1に開示された育毛剤に含まれる粒子状物質は、ゼータ電位がゼロに近いため、当該粒子状物質が、相互に反発し合う力が弱く、凝集しやすいことが判明した。凝集した粒子状物質は、大きすぎて、頭皮内部まで浸透できず、育毛効果が十分に発揮されないことがある。また、特許文献1に開示の育毛剤は、レシチンが高い粘性を有するため、使用時に頭髪や頭皮のべたつきが生じ、使用感が悪くなることがある。特許文献1に記載された技術は、これらの点で、未だ改良の余地がある。
【0005】
そこで、本開示の目的は、育毛効果を有しつつ、使用感が良好な育毛剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る育毛剤は、粒子状物質を含有する育毛剤であって、粒子状物質は、表面に酸化ケイ素をコートした、核となるマグネタイト微粒子に、マグネタイト微粒子の表面を覆うように形成された、育毛剤の有効成分を含む有効成分層と、有効成分層を覆うように形成された、水溶性ポリマーを含む水溶性ポリマー層とが、コーティングされており、水溶性ポリマーは、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る育毛剤によれば、良好な使用感を得つつ、優れた育毛効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の育毛剤に含有される粒子状物質のゼータ電位の測定結果を示す図である。
図2】比較例1の育毛剤に含有される粒子状物質のゼータ電位の測定結果を示す図である。
図3】実施例の育毛剤塗布、比較例1の育毛剤塗布、比較例2の育毛剤塗布、及び精製水塗布における、マウスの背部写真の一例を示す図である。
図4】実施例の育毛剤塗布、比較例1の育毛剤塗布、比較例2の育毛剤塗布、及び精製水塗布の評価開始28日後において、マウスの背部毛の毛球近傍をデジタルマイクロスコープで観察した結果を示す図である。
図5】実施例の育毛剤塗布、比較例3の育毛剤塗布、及び精製水塗布における、マウスの背部写真の一例を示す図である。
図6】実施例の育毛剤塗布、比較例3の育毛剤塗布、及び精製水塗布の評価開始14日後において、マウスの背部毛の毛球近傍をデジタルマイクロスコープで観察した結果を示す図である。
図7】実施例、比較例4、比較例5、及び比較例6の育毛剤を5か月間室温で保持した後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る育毛剤について詳細に説明する。なお、以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は当該実施形態に限定されない。
【0010】
本発明に係る育毛剤は、ナノサイズの粒子状物質を含有する。ここで、本明細書においてナノサイズの粒子状物質とは、直径が数nm~数10nmの粒子状の物質である。粒子状物質の直径は、例えば、透過式電子顕微鏡等の方法により観察できる。
【0011】
粒子状物質は、後述するように、育毛に関する有効成分(以下、有効成分という)がコーティングされており、育毛効果を発現させるための主要成分である。粒子状物質は、上述のように、十分に小さいので、頭皮に蓄積した皮脂等によって阻害されずに頭皮内部に浸透することができて、有効成分を毛乳頭細胞まで到達させることができる。
【0012】
粒子状物質は、表面に酸化ケイ素をコートした、核となるマグネタイト微粒子に、マグネタイト微粒子の表面を覆うように形成された、育毛剤の有効成分を含む有効成分層と、有効成分層を覆うように形成された、水溶性ポリマーを含む水溶性ポリマー層とが、コーティングされており、水溶性ポリマーは、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体を含む。この粒子状物質を含む育毛剤によれば、良好な使用感を得つつ、優れた育毛効果を得ることができる。
【0013】
以下、育毛剤に含有される各成分、特に粒子状物質について詳説する。
【0014】
<粒子状物質>
粒子状物質は、表面に酸化ケイ素をコートしたマグネタイト微粒子(以下、SiOコートマグネタイト微粒子という)と、マグネタイト微粒子の表面を覆うように形成された有効成分層と、有効成分層を覆うように形成された水溶性ポリマー層とを含む。以下、マグネタイト微粒子、有効成分層、及び、水溶性ポリマー層について説明する。
【0015】
[SiOコートマグネタイト微粒子]
マグネタイト微粒子は、粒子状物質の核となる成分であり、直径が数nm~数10nmであるナノサイズの微粒子である。マグネタイト微粒子の組成は、Feであり、2価のFeイオンと3価のFeイオンを含む。マグネタイト微粒子は、例えば、共沈法により作製したマグネタイト塊を解砕して作製できる。
【0016】
SiOコートマグネタイト微粒子は、マグネタイト微粒子の表面に酸化ケイ素(SiO)をコートした微粒子である。SiOコートマグネタイト微粒子は、マグネタイト微粒子と同様に、直径が数nm~数10nmであるナノサイズの微粒子である。マグネタイト微粒子及びSiOコートマグネタイト微粒子の直径は、例えば、動的散乱法により測定できる。SiOコートにより、マグネタイト微粒子の表面は、親水性となり、有効成分層をコーティングしやすくできる。また、育毛剤の粘性も大きくならないので、レシチンを含有するものに比べて育毛剤の使用感が向上する。
【0017】
SiOコートは、例えば、イオン交換水にマグネタイト微粒子が分散したスラリーを作製し、このスラリー100質量部に対して、50質量部~500質量部のケイ酸ナトリウム水溶液を少量ずつ滴下して加え、その後、スラリーのpHが7になるまで、塩酸を加えて中和することで作製できる。ここで、ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度は、例えば、1質量%~50質量%であり、好ましくは5質量%~25質量%である。
【0018】
[有効成分層]
有効成分層は、育毛に関する有効成分を含有し、グネタイト微粒子の表面を覆っている。育毛剤の使用時には、粒子状物質が頭皮に浸透した後に、有効成分層に含まれる有効成分が、溶け出て、毛乳頭細胞に到達して育毛効果が発現する。有効成分層に含有される有効成分は、育毛に効果がある成分であり、例えば、血行促進剤や細胞活性剤と言われる成分である。血行を促進したり、細胞を活性化させたりすることのできるものとしては、例えば、タマサキツヅラフジアルカロイド(タマサキツヅラフジアルカロイドは、セファランチン、イソテトランドリン、シクレアニン、ベルバミンを含有する)、セファランチン、ニンジンエキス、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸、ヒノキチオール、アラニントイン、クジンエキス、センブリエキス、ショキョチンキ、酢酸トコフェロール、サクラエキス、ビワ葉エキス、ビタミン類およびその塩類、アミノ酸類およびその塩類、パンテノール誘導体、塩化カルプロニウム、オリザノール、カンフル、トコフェロール、リノレイン酸エステル、ニコチン酸、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ベンジル、ニコチン酸ブトキシエチル、ニコチン酸エステル、トコフェロールニコチン酸、トコフェロールニコチン酸エステル、イノシトールヘキサニコチン酸エステル、トコフェロールリノレイン酸エステル、ノナン酸バニリルアミド、コハク酸トコフェロール、デキストラン硫酸ナトリウム、アセチルコリン、トウガラシチンキ、カンタリスチンキ、ショウキョウチンキ、オタネニンジン、チクセツニンジン、ニコランジル、ピナシジル、ニンニクエキス、トウキエキス、ゲンチアナエキス、ヨウ化ニンニクエキス、カンゾウ、ミノキシジル、センキュウ、チクセツニンジン、ショウガ、ジオウ、アロエ、スピロノラクトン、ヒノキオール、朝鮮にんじん、桃仁、白薬子、防巳、補骨脂、黄耆、紅花、感光素101、感光素201、感光素301、感光素401等が挙げられる。
【0019】
有効成分層に含有される有効成分は、タマサキツヅラフジアルカロイド、セファランチン、ニンジンエキス、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸、ヒノキチオール、アラニントイン、クジンエキス、センブリエキス、ショキョチンキ、及び酢酸トコフェロールからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。また、当該有効成分は、タマサキツヅラフジアルカロイド、セファランチン、ニンジンエキス、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸、ヒノキチオール、アラニントイン、クジンエキス、センブリエキス、ショキョチンキ、及び酢酸トコフェロールからなる群から選ばれる2種以上であることがより好ましい。ニンジンエキスを含有する原料としては、例えば、テクノーブル社製のHARニンジン抽出液が挙げられる。また、グリチルリチン酸ジカリウムを含有する原料としては、例えば、丸善製薬社製の外原規グリチルリチン酸ジカリウムが挙げられる。また、タマサキツヅラフジアルカロイドを含有する原料としては、例えば、テクノーブル社製のビスコチンが挙げられる。
【0020】
有効成分層に含有される有効成分は、上述の血行促進剤や細胞活性剤以外にも、育毛、発毛、養毛、増毛効果を有する種々の成分を含む。例えば、有効成分層に含有される有効成分は、殺菌剤、抗男性ホルモン剤、脂分泌抑制剤、免疫抑制剤、抗ヒスタミン剤、局所刺激剤、角質軟化剤、抗アポトーシス剤等を含んでもよい。また、有効成分層に含有される有効成分は、グリチルリチン酸よびその誘導体、カンゾウエキス、塩酸ジフェンヒドラミン、シコンエキス、エイジツエキス、酢酸ヒドロコルチゾン等の抗炎症剤を含んでもよい。
【0021】
育毛剤全体の質量に対する、有効成分層に含有される有効成分の割合は、例えば、0.01質量%~10質量%であり、0.1質量%~5質量%が好ましく、0.2質量%~1質量%がより好ましい。
【0022】
[水溶性ポリマー層]
水溶性ポリマー層は、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体を含む水溶性ポリマーを含有し、有効成分層を覆っている。水溶性ポリマー層は、有効成分層の安定化に寄与する。水溶性ポリマー層は、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体以外の、例えば、ホスホリルコリン官能基を含有する水溶性ポリマーを含有してもよい。2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体を含有する原料としては、例えば、日本油脂社製のLIPIDURE(登録商標)-NRが挙げられる。
【0023】
<育毛剤に含まれる粒子状物質以外の成分>
育毛剤は、上述した粒子状物質を0.1質量%~10質量%の範囲で含有することが好ましく、0.3質量%~5質量%の範囲で含有することがより好ましく、0.5質量%~2質量%の範囲で含有することが特に好ましい。
【0024】
育毛剤は、粒子状物質以外の成分として、例えば、水、育毛に関する有効成分、界面活性剤、アルコール、香料、酸化剤、pH調整剤等を含有してもよい。水は、例えば、精製水、イオン交換水、蒸留水等が使用できる。育毛剤の溶液部分に含まれる育毛に関する育毛成分としては、例えば、タマサキツヅラフジアルカロイド、セファランチン、ニンジンエキス、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸、ヒノキチオール、アラニントイン、クジンエキス、センブリエキス、ショキョチンキ、酢酸トコフェロール、サクラエキス、ビワ葉エキス、ビタミン類およびその塩類、アミノ酸類およびその塩類、パンテノール誘導体、塩化カルプロニウム、オリザノール、カンフル、トコフェロール、リノレイン酸エステル、ニコチン酸、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ベンジル、ニコチン酸ブトキシエチル、ニコチン酸エステル、トコフェロールニコチン酸、トコフェロールニコチン酸エステル、イノシトールヘキサニコチン酸エステル、トコフェロールリノレイン酸エステル、ノナン酸バニリルアミド、コハク酸トコフェロール、デキストラン硫酸ナトリウム、アセチルコリン、トウガラシチンキ、カンタリスチンキ、ショウキョウチンキ、オタネニンジン、チクセツニンジン、サークレチン、ニコランジル、ピナシジル、ニンニクエキス、トウキエキス、ゲンチアナエキス、ヨウ化ニンニクエキス、カンゾウ、ミノキシジル、センキュウ、チクセツニンジン、ショウガ、ジオウ、アロエ、スピロノラクトン、ヒノキオール、朝鮮にんじん、桃仁、白薬子、防巳、補骨脂、黄耆、紅花、感光素101、感光素201、感光素301、感光素401、殺菌剤、抗男性ホルモン剤、脂分泌抑制剤、免疫抑制剤、抗ヒスタミン剤、局所刺激剤、角質軟化剤、抗アポトーシス剤、グリチルレチン酸およびその誘導体、カンゾウエキス、塩酸ジフェンヒドラミン、シコンエキス、エイジツエキス、酢酸ヒドロコルチゾン等が挙げられる。育毛剤の溶液部分には、有効成分層と同じ育毛成分が含まれてもよい。また、界面活性剤、アルコール、香料、酸化剤、pH調整剤等について、市販の各種原料を使用することができる。
【0025】
育毛剤の剤型は、エアゾール剤であることが好ましい。特に、噴射ガスは、少なくともジメチルエーテル(DME)ガスを含むことが好ましい。噴射ガスにDMEガスを含むことで、マグネタイト微粒子の酸化を抑制することができる。育毛剤に含有されるDMEガスの量は、育毛剤の液体の体積に対して、例えば、10体積%~50体積%である。
【0026】
次に、育毛剤の作製方法について、説明する。
【0027】
<粒子状物質の調製>
上述したSiOコートマグネタイト微粒子と、育毛成分と、精製水と、所定の割合で混合し、さらに、無水エタノールを加えて攪拌して混合液とした。これにより、マグネタイト微粒子の表面に育毛成分層を形成することができる。
【0028】
次に、上記混合液に2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体を含む水溶性ポリマーを添加し、超音波を加えて攪拌する。これにより、育毛成分層の上に水溶性ポリマー層がコーティングされた粒子状物質が形成され、当該粒子状物質を含有する濃縮液が作製できる。
【0029】
<育毛剤の作製>
上記濃縮液、精製水、育毛成分層の含まれる成分以外の育毛成分、酸化防止剤、界面活性剤、アルコール、香料等を混合、攪拌し、pH調整剤を用いてpHを5±0.5とすることで、育毛剤を調製できる。さらに、当該育毛剤に、一定量のジメチルエーテル(DME)等のガスを含有させることで、エアゾール剤とすることができる。
【実施例0030】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>
[SiOコートマグネタイト微粒子の作製]
100質量部のイオン交換水と、12質量部のナノサイズのマグネタイト微粒子とを混合して、マグネタイト微粒子が分散したスラリーを作製した。
【0032】
このスラリー100質量部に、200質量部の10質量%ケイ酸ナトリウム水溶液を少量ずつ滴下して加えた。その後、スラリーのpHが5になるまで、0.1モル/Lの塩酸を加えて中和して反応スラリーを作製した。
【0033】
反応スラリーを漏斗で吸引濾過した後、濾液の電気伝導度が十分に小さくなるまでイオン交換水で洗浄した。洗浄後の濾過ケーキを乾燥させて、SiOコートマグネタイト微粒子を作製した。
【0034】
[粒子状物質を含有する濃縮液の作製]
SiOコートマグネタイト微粒子と、精製水と、育毛成分(テクノーブル社製HARニンジン抽出液、丸善製薬社製外原規グリチルリチン酸ジカリウム、テクノーブル社製ビスコチン)とを、質量比で、0.5:0.1:0.002割合で混合し、さらに、無水エタノールを加えて攪拌した。これにより、マグネタイト微粒子の表面には、育毛成分層が形成された。
【0035】
次に、この混合液に日本油脂社製のLIPIDURE(登録商標)-NRが0.8質量%となるように添加し、超音波を加えて攪拌した。これにより、育毛成分層の上に、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体を含む水溶性ポリマー層がコーティングされた粒子状物質が形成され、当該粒子状物質を含有する濃縮液が作製された。
【0036】
[育毛剤の調製]
濃縮液、精製水、育毛成分層の含まれる成分以外の育毛成分、酸化防止剤、界面活性剤、アルコール、香料等を混合、攪拌し、pH調整剤を用いてpHを5とし、育毛剤を調製した。さらに、当該育毛剤に、育毛剤の液体の体積に対して、30体積%のジメチルエーテル(DME)ガスを、含有させ、エアゾール剤とした。表1に実施例の育毛剤の組成を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
<比較例1>
特許文献1(特許第5549034号公報)に示された方法により、マグネタイト微粒子の表面に、レシチンからなる親水性膜と、LIPIDURE(登録商標)-NRからなる水溶性ポリマー層とがこの順に形成された粒子状物質を含む育毛剤を調製した。なお、実施例1の育毛剤と同様に、pH調整剤を用いてpHを5とした。
【0039】
<比較例2>
育毛剤の調製において、粒子状物質を含有する濃縮液を混合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして育毛剤を調製した。
【0040】
<比較例3>
SiOコートマグネタイト微粒子の作製において、10質量%ケイ酸ナトリウム水溶液の代わりに20質量%水酸化マグネシウム水溶液を使用して、酸化マグネシウム(MgO)コートマグネタイト微粒子を作製したこと以外は、実施例1と同様にして育毛剤を調製した。
【0041】
<比較例4>
育毛剤の調製において、育毛剤にガスを含有させなかったこと以外は、実施例1と同様にして育毛剤を調製した。
【0042】
<比較例5>
育毛剤の調製において、育毛剤に、DMEガスの代わりに炭酸(CO)ガスを含有させたこと以外は、実施例1と同様にして育毛剤を調製した。
【0043】
<比較例6>
育毛剤の調製において、育毛剤に、DMEガスの代わりに窒素(N)ガスを含有させたこと以外は、実施例1と同様にして育毛剤を調製した。
【0044】
[ゼータ電位の測定]
実施例の育毛剤から、所定量の粒子状物質を取り出して、精製水に分散させ、分散液Aを作製した。また分散液Aの作製方法と同様に、比較例1の育毛剤から、所定量の粒子状物質を取り出し、精製水に分散させ、分散液Bを作製した。協和界面科学株式会社のゼータ電位測定装置を用いて、分散液A、Bに含まれる粒子状物質のゼータ電位を測定した。
【0045】
図1に、実施例に係る分散液Aについての測定結果を示す。また、図2に、比較例1に係る分散液Bについての測定結果を示す。分散液Aは、分散液Bに比べてゼータ電位の絶対値が大きい方にピークがシフトしており、分散液Bに比べて分散性が良いことがわかる。よって、実施例の育毛剤に含有される粒子状物質は、比較例1の育毛剤に含有される粒子状物質に比べて凝集しづらいので、粒子径が小さいまま維持され、より頭皮に浸透しやすいと考えられる。また、レシチンを含有する比較例1の育毛剤の粘性は、実施例1の育毛剤に比べて粘性が非常に高く、使用時に頭髪や頭皮に残り易く、使用感の悪化を引き起こすと考えられる。
【0046】
[発毛効果の評価1(実施例、比較例1、比較例2の比較)]
C3H/HeN S1cマウスを用いて、以下の手順で、育毛剤の発毛効果を評価した。C3H/HeN S1cマウスは、毛剃りをすると毛周期が休止期に入る特徴があり、毛剃り2週間は発毛しない。
(1)2週間馴化したC3H/HeN S1cマウス(雄、生後8週齢)の背部下部の部位において、皮膚を傷つけたり、刺激したりしないように注意しながら、バリカンで毛を剃り、1日後シェーバーで剃毛し皮膚を露出させ、この日から評価を開始した。
(2)実施例の検体では、マウスの剃毛部位に、実施例の育毛剤を1日1回100μLずつマイクロピペットマンで均一に塗布した。比較例1の検体では、マウスの剃毛部位に比較例1の育毛剤を1日1回100μLずつマイクロピペットマンで均一に塗布した。比較例2の検体では、マウスの剃毛部位に比較例2の育毛剤を1日1回100μLずつマイクロピペットマンで均一に塗布した。また、比較対象として、精製水を1日1回100μLずつマイクロピペットマンで均一に塗布した検体を設けた。
(3)実施例の育毛剤塗布、比較例1の育毛剤塗布、比較例2の育毛剤塗布、精製水塗布の各々につき、マウス5匹を1組として、評価開始14日後、評価開始21日後、評価開始28日後にマウスの動きを止め、マウスの背部を写真撮影した。
【0047】
図3に、実施例、比較例1、比較例2、及び精製水塗布の各々につき、評価開始14日後、評価開始21日後、及び評価開始28日後のマウスの背部写真の一例を示す。実施例の育毛剤を塗布したマウスは、比較例1の育毛剤を塗布したマウス及び比較例2の育毛剤を塗布したマウスに比べて、育毛効果が高いことが明確に確認できる。
【0048】
図4に、実施例、比較例1、比較例2、及び精製水塗布の評価開始28日後における、マウスの背部毛の毛球近傍をデジタルマイクロスコープで撮影した写真を示す。実施例の育毛剤を塗布したマウスは、比較例1の育毛剤を塗布したマウス及び比較例2の育毛剤を塗布したマウスよりも、毛根の体積が顕著に大きく、毛乳頭細胞が発達していることが確認できる。よって、実施例の育毛剤は、従来例である比較例1の育毛剤、及び粒子状物質を含有しない比較例2の育毛剤よりも優れた育毛効果を有することがわかる。
【0049】
[発毛効果の評価2(実施例、比較例3)]
C3H/HeN S1cマウスを用いて、以下の手順で、育毛剤の発毛効果を評価した。C3H/HeN S1cマウスは、毛剃りをすると毛周期が休止期に入る特徴があり、毛剃り2週間は発毛しない。
(1)2週間馴化したC3H/HeN S1cマウス(雄、生後8週齢)の背部下部の部位において、皮膚を傷つけたり、刺激したりしないように注意しながら、バリカンで毛を剃り、1日後シェーバーで剃毛し皮膚を露出させ、この日から評価を開始した。
(2)実施例の検体では、マウスの剃毛部位に、実施例の育毛剤を1日1回100μLずつマイクロピペットマンで均一に塗布した。比較例3の検体では、マウスの剃毛部位に比較例3の育毛剤を1日1回100μLずつマイクロピペットマンで均一に塗布した。また、比較対象として、精製水を1日1回100μLずつマイクロピペットマンで均一に塗布した検体を設けた。
(3)実施例の育毛剤塗布、比較例3の育毛剤塗布、精製水塗布の各々につき、マウス5匹を1組として、発毛評価開始時、評価開始9日後、評価開始14日後にマウスの動きを止め、マウスの背部を写真撮影した。
【0050】
図5に、実施例、比較例3、及び精製水塗布の各々につき、発毛評価開始時、評価開始9日後、及び評価開始14日後のマウスの背部写真の一例を示す。評価開始9日後において、実施例の育毛剤を塗布したマウスでは明確に育毛効果が確認できる。一方、比較例3の育毛剤を塗布したマウスは、育毛効果はある程度確認できるが、実施例育毛剤を塗布したマウスに比べると背部毛の濃度が薄い。精製水を塗布したマウスについては、評価開始時と発毛状態が略変わらなかった。評価開始14日後においても同様の傾向が確認できる。
【0051】
図6に、実施例、比較例3、及び精製水塗布の評価開始14日後における、マウスの背部毛の毛球近傍をデジタルマイクロスコープで撮影した写真を示す。実施例の育毛剤を塗布したマウスは、比較例3の育毛剤を塗布したマウス及び精製水を塗布したマウスよりも、毛根の体積が顕著に大きく、毛乳頭細胞が発達していることが確認できる。よって、実施例の育毛剤は、マグネタイト微粒子のコート成分が異なる比較例3の育毛剤よりも優れた育毛効果を有することがわかる。
【0052】
[変色の評価]
実施例、比較例4、比較例5、及び比較例6の育毛剤を、各々、ガラス容器に所定量投入し、密閉した。全ての容器を、5か月間室温で保持し、育毛剤の変色について評価した。
【0053】
図7は、5か月間室温で保持した後の各育毛剤の様子を示す写真である。目視において、DMEガスを含有する実施例の育毛剤は、略変化がなく、無色透明な状態を維持していたのに対し、比較例4(噴射ガス含有せず)、比較例5(COガス含有)、及び比較例6(Nガス含有)は、薄黒色に変色していた。この変色は、粒子状物質の核であるマグネタイト微粒子が酸化したためと考えられる。よって、実施例の育毛剤は、特異的に変色を抑制できることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-04-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状物質を含有する育毛剤であって、
前記粒子状物質は、
表面に酸化ケイ素をコートした、核となるマグネタイト微粒子に、
前記マグネタイト微粒子の表面を覆うように形成された、育毛に関する有効成分を含む有効成分層と、
前記有効成分層を覆うように形成された、水溶性ポリマーを含む水溶性ポリマー層とが、コーティングされており、
前記水溶性ポリマーは、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリル共重合体を含み、
剤型がエアゾール剤であり、少なくともジメチルエーテル(DME)ガスを含む噴射ガスをさらに含有する、育毛剤。
【請求項2】
前記有効成分は、タマサキツヅラフジアルカロイド、セファランチン、ニンジンエキス、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸、ヒノキチオール、クジンエキス、センブリエキス、ショキョチンキ、及び酢酸トコフェロールからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の育毛剤。
【請求項3】
前記有効成分は、タマサキツヅラフジアルカロイド、セファランチン、ニンジンエキス、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸、ヒノキチオール、クジンエキス、センブリエキス、ショキョチンキ、及び酢酸トコフェロールからなる群から選ばれる2種以上である、請求項1に記載の育毛剤。
【請求項4】
レシチンを含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の育毛剤。