(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093842
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】電動弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20220617BHJP
【FI】
F16K31/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206551
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】特許業務法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 智宏
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 真司
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062AA15
3H062BB06
3H062CC02
3H062DD01
3H062EE06
3H062FF07
3H062HH04
3H062HH08
3H062HH09
(57)【要約】
【課題】電動弁において、センサマグネットの磁界がロータマグネットへ与える影響を小さくし、ロータの安定性を向上させる。
【解決手段】電動弁1は、弁体34を軸線方向に支持する作動ロッド32と、作動ロッド32を作動させるロータ60と、ロータ60の外周面に沿って複数の磁極が設けられたロータマグネット104と、ロータ60の回転運動を作動ロッド32の軸線運動に変換するねじ送り機構109と、ロータ60と同軸状に設けられ、ロータ60と一体に回転可能なセンサマグネット106と、センサマグネット106と軸線方向に対向し、センサマグネット106の磁束を検出することでロータ60の変位量を検出する磁気センサ119と、を備える。センサマグネット106は、軸線方向の両面に着磁がなされ、各面が回転方向に複数の磁極を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体を軸線方向に支持する作動ロッドと、
前記作動ロッドを作動させるロータと、
前記ロータの外周面に沿って複数の磁極が設けられたロータマグネットと、
前記ロータの回転運動を前記作動ロッドの軸線運動に変換するねじ送り機構と、
前記ロータと同軸状に設けられ、前記ロータと一体に回転可能なセンサマグネットと、
前記センサマグネットと軸線方向に対向し、前記センサマグネットの磁束を検出することで前記ロータの変位量を検出する磁気センサと、
を備え、
前記センサマグネットは、軸線方向の両面に極性が互いに反転するよう着磁がなされ、各面が回転方向に複数の磁極を有することを特徴とする電動弁。
【請求項2】
前記ロータがロータコアを有し、
前記ロータマグネットが前記ロータコアの外周面に設けられ、
前記センサマグネットが前記ロータコアの軸端部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電動弁。
【請求項3】
前記ロータを内包する筒状部材であって、流体の圧力が作用する内部空間と作用しない外部空間とを画定するキャンをさらに備え、
前記磁気センサが前記外部空間に配置され、
前記センサマグネットと前記磁気センサとが、前記キャンの端壁を介して対向することを特徴とする請求項1又は2に記載の電動弁。
【請求項4】
前記ねじ送り機構は、前記作動ロッドとともに前記ロータを軸線方向に変位させ、
前記センサマグネットは、前記ねじ送り機構の作動により前記磁気センサに対して近接又は離間することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電動弁。
【請求項5】
前記センサマグネットは、軸線に沿った孔部が設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の電動弁。
【請求項6】
前記センサマグネットは、磁性体の上に設けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の電動弁。
【請求項7】
前記センサマグネットは、各面に4極以上の磁極を有することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の電動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁開度を検出するための磁気センサを備える電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置は、一般に、圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器等を冷凍サイクルに配置して構成される。冷凍サイクルには、膨張装置としての膨張弁など、冷媒の流れを制御するために各種制御弁が設けられている。近年の電気自動車等の普及に伴い、駆動部としてモータを備える電動弁が広く採用されつつある。
【0003】
このような電動弁として、弁開度を検出するための磁気センサを備えるものが知られている(例えば特許文献1)。ロータとともに回転する作動ロッドの一端に弁体が設けられ、他端にマグネット(センサマグネット)が設けられている。そのセンサマグネットと軸線方向に対向するように磁気センサが設けられる。ロータの回転運動は、ねじ送り機構により弁体の軸線運動に変換される。ロータの回転に伴う磁束の変化を磁気センサで捉えることによりセンサマグネットの回転角度ひいては弁体の軸線方向位置を検出でき、弁開度を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような電動弁では、ロータのマグネット(ロータマグネット)とセンサマグネットとが比較的近い位置に配置されるため、センサマグネットの磁界がロータマグネットの磁界に干渉する可能性がある。その結果、ロータとステータとの吸引力のバランスを崩し、ロータの安定した回転を阻害する虞がある。なお、このような問題は、冷凍サイクルに限らず種々の用途に用いられる電動弁について同様に生じ得る。
【0006】
本発明の目的の一つは、磁気センサを備える電動弁において、センサマグネットの磁界がロータマグネットへ与える影響を小さくし、ロータの安定性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は電動弁である。この電動弁は、弁体を軸線方向に支持する作動ロッドと、作動ロッドを作動させるロータと、ロータの外周面に沿って複数の磁極が設けられたロータマグネットと、ロータの回転運動を作動ロッドの軸線運動に変換するねじ送り機構と、ロータと同軸状に設けられ、ロータと一体に回転可能なセンサマグネットと、センサマグネットと軸線方向に対向し、センサマグネットの磁束を検出することでロータの変位量を検出する磁気センサと、を備える。センサマグネットは、軸線方向の両面に極性が互いに反転するよう着磁がなされ、各面が回転方向に複数の磁極を有する。
【0008】
この態様によれば、センサマグネットの両面に極性が互いに反転するよう着磁がなされることで、軸線方向の磁束密度を十分に確保できる。センサマグネットの両面に極性が互いに反転するよう着磁がなされ、かつ各面が複数の磁極を有することで、後述のようにセンサマグネットの磁界がロータマグネットに影響を与えることを抑制でき、ロータの回転安定性を確保できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、磁気センサを備える電動弁において、センサマグネットの磁界がロータマグネットへ与える影響を小さくし、ロータの回転安定性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】ステータおよびその周辺の構成を表す図である。
【
図4】センサマグネットを上下二層の両面4極としたことによる作用を模式的に表す図である。
【
図5】センサマグネットの内径の大きさが磁気センサで感知する磁束密度に与える影響を検証した解析結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係る電動弁を表す断面図である。
電動弁1は、図示しない自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される。この冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を絞り膨張させて霧状に送出する膨張弁、霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器等が設けられている。電動弁1は、その冷凍サイクルの膨張弁として機能する。
【0013】
電動弁1は、弁本体2とモータユニット3とを組み付けて構成される。弁本体2は、弁部を収容したボディ5を有する。ボディ5は、「バルブボディ」として機能する。ボディ5は、第1ボディ6と第2ボディ8とを同軸状に組み付けて構成される。第1ボディ6および第2ボディ8は、ともにステンレス鋼(以下「SUS」と表記する)からなる。第2ボディ8には弁座24が設けられるため、耐摩耗性に優れた材質が選定されている。第1ボディ6は第2ボディ8よりも溶接性に優れ、第2ボディ8は第1ボディ6よりも加工性に優れている。
【0014】
第1ボディ6は、外径が下方に向けて段階的に縮径する段付円筒状をなす。第1ボディ6の上端部の外径がやや縮径され、段差による係止部52が構成されている。第1ボディ6の下部外周面には、電動弁1を図示しない配管ボディに組み付けるための雄ねじ10が形成されている。なお、配管ボディには、凝縮器側から延びる配管や、蒸発器につながる配管などが接続されるが、その詳細については説明を省略する。第1ボディ6における雄ねじ10のやや上方の外周面には、環状溝からなるシール収容部12が形成され、シールリング14(Oリング)が嵌着されている。
【0015】
第1ボディ6の下部には、円穴状の凹状嵌合部16が設けられている。第2ボディ8は有底円筒状をなし、その上部が凹状嵌合部16に圧入されている。第2ボディ8の下部外周面には環状溝からなるシール収容部18が形成され、シールリング20が嵌着されている。第2ボディ8の底部を軸線方向に貫通するように弁孔22が設けられ、その弁孔22の上端開口部に弁座24が形成されている。第2ボディ8の側部に入口ポート26が設けられ、下部に出口ポート28が設けられている。第1ボディ6および第2ボディ8の内方に弁室30が形成されている。入口ポート26と出口ポート28とは、弁室30を介して連通している。
【0016】
ボディ5の内方には、モータユニット3のロータ60から延びる作動ロッド32が挿通されている。作動ロッド32は、弁室30を貫通する。作動ロッド32は、非磁性金属からなる棒材を切削加工して得られ、その下部にニードル状の弁体34が一体に設けられている。弁体34が弁室30側から弁座24に着脱することにより弁部を開閉する。
【0017】
第1ボディ6の上部中央には、ガイド部材36が立設されている。ガイド部材36は、非磁性金属からなる管材を段付円筒状に切削加工して得られ、その軸線方向中央部の外周面に雄ねじ38が形成されている。ガイド部材36の下端部が大径となっており、その大径部40が第1ボディ6の上部中央に圧入され、同軸状に固定されている。ガイド部材36は、その内周面により作動ロッド32を軸線方向に摺動可能に支持する一方、その外周面によりロータ60の回転軸62を回転摺動可能に支持する。回転軸62は非磁性金属からなる。
【0018】
作動ロッド32における弁体34のやや上方にばね受け42が設けられ、ガイド部材36の底部にもばね受け44が設けられている。ばね受け42,44間に、弁体34を閉弁方向に付勢するスプリング46(「付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0019】
一方、モータユニット3は、ロータ60とステータ64とを含む三相ステッピングモータとして構成されている。モータユニット3は、有底円筒状のキャン66を有し、そのキャン66の内方にロータ60を配置し、外方にステータ64を配置して構成されている。キャン66は、弁体34およびその駆動機構が配置される空間を覆うとともにロータ60を内包する有底円筒状の部材であり、冷媒の圧力が作用する内方の圧力空間(内部空間)と作用しない外方の非圧力空間(外部空間)とを画定する。
【0020】
キャン66は、非磁性金属(本実施形態ではSUS)からなり、その下部が第1ボディ6の上端部に外挿されるようにして同軸状に組み付けられている。キャン66は、その下端が係止部52に係止されることによりその挿入量が規制される。キャン66の下端と第1ボディ6との境界に沿って全周溶接が施されることにより(図示略)、ボディ5とキャン66との固定およびシールが実現されている。ボディ5とキャン66とに囲まれた空間が、上記圧力空間を形成している。
【0021】
ステータ64は、積層コア70の内周部に複数の突極を等間隔に配置して構成される。積層コア70は、環状のコアが軸線方向に積層されて構成される。各突極には、コイル73(電磁コイル)が装着されたボビン74が組み付けられている。これらコイル73およびボビン74により「コイルユニット75」が構成される。本実施形態では、三相電流を供給するための3つのコイルユニット75が、積層コア70の中心軸に対して120度ごとに設けられている(詳細後述)。
【0022】
ステータ64は、モータユニット3のケース76と一体に設けられている。すなわち、ケース76は、耐食性を有する樹脂材の射出成形(「インサート成形」又は「モールド成形」ともいう)により得られる。ステータ64は、その射出成形によるモールド樹脂によって被覆されている。ケース76は、そのモールド樹脂からなる。以下、ステータ64とケース76とのモールド成形品を「ステータユニット78」とも称する。
【0023】
ステータユニット78は、中空構造を有し、キャン66を同軸状に挿通しつつボディ5に組み付けられている。第1ボディ6における係止部52のやや下方の外周面には、環状溝からなるシール収容部80が形成され、シールリング82(Oリング)が嵌着されている。第1ボディ6の上部外周面とケース76の下部内周面とに間にシールリング82が介装されることにより、キャン66とステータ64との間隙への外部雰囲気(水など)の侵入が防止されている。
【0024】
ロータ60は、回転軸62に組み付けられた円筒状のロータコア102と、ロータコア102の外周面に設けられたロータマグネット104と、ロータコア102の上端面に設けられたセンサマグネット106を備える。ロータコア102は、回転軸62に組み付けられている。センサマグネット106は、ロータコア102の上端部に外挿される態様で同軸状に組み付けられている。ロータマグネット104は、その周方向に複数極に磁化(着磁)されている。センサマグネット106も複数極に磁化(着磁)されている。
【0025】
回転軸62は、有底円筒状の円筒軸であり、その開口端を下にしてガイド部材36に外挿されている。回転軸62の下部内周面に雌ねじ108が形成され、ガイド部材36の雄ねじ38と噛合している。これらのねじ部によるねじ送り機構109によって、ロータ60の回転運動が作動ロッド32の軸線運動に変換される。それにより弁体34が軸線方向、つまり弁部の開閉方向に移動(昇降)する。
【0026】
作動ロッド32の上部が縮径され、その縮径部110が回転軸62の底部112を貫通している。縮径部110の先端部には環状のストッパ114が固定されている。一方、縮径部110の基端と底部112との間には、作動ロッド32を下方(つまり閉弁方向)に付勢するスプリング116が介装されている。このような構成により、開弁時には、ストッパ114が底部112に係止される態様で作動ロッド32がロータ60と一体変位する。一方、閉弁時には、弁体34が弁座24から受ける反力によりスプリング116が押し縮められる。このときのスプリング116の弾性反力により弁体34を弁座24に押し付けることができ、弁体34の着座性能(弁閉性能)を高められる。
【0027】
モータユニット3は、キャン66の外側に回路基板118を有する。回路基板118は、ケース76の内方に固定されている。本実施形態では、回路基板118の下面に制御部や通信部として機能する各種回路が実装されている。具体的には、モータを駆動するための駆動回路、駆動回路に制御信号を出力する制御回路(マイクロコンピュータ)、制御回路が外部装置と通信するための通信回路、各回路およびモータ(コイル)に電力を供給するための電源回路等が実装されている。ケース76の上端は、蓋体77により閉止されている。ケース76における蓋体77の下方の空間に回路基板118が配設されている。
【0028】
回路基板118におけるセンサマグネット106との対向面には、磁気センサ119が設けられている。磁気センサ119は、キャン66の底部端壁を介してセンサマグネット106と軸線方向に対向する。ロータ60の回転に伴ってセンサマグネット106による磁束が変化する。磁気センサ119は、この磁束の変化を捉えることでロータ60の変位量(本実施形態ではロータ60の回転角度)を検出する。制御部は、そのロータ60の変位量に基づいて弁体34の軸線方向位置ひいては弁開度を算出する。
【0029】
それぞれのボビン74からはコイル73につながる一対の端子117が延出し、回路基板118に接続されている。回路基板118からは電源端子、グランド端子および通信端子(これらを総称して「接続端子81」ともいう)が延出し、それぞれケース76の側壁を貫通して外部に引き出されている。ケース76の側部にコネクタ部79が一体に設けられ、そのコネクタ部79の内方に接続端子81が配置されている。
【0030】
図2は、ステータ64およびその周辺の構成を表す図である。(A)は
図1のA-A矢視断面に対応し、ステータユニット78の断面図である。(B)はステータ64のみ(樹脂モールド前の状態)を表す図である。なお、
図2(A)には参考のため、キャン66およびロータ60を示している(二点鎖線参照)。
【0031】
モータユニット3が三相のモータであるため、
図2(A)に示すように、ロータ60の軸線Lの周りに等間隔でコイルユニット75が設けられている。
図2(B)にも示すように、積層コア70の内周部に軸線Lに対して120度の間隔でスロット120a~120c(これらを特に区別しないときは「スロット120」と総称する)が設けられている。各スロット120には、その中央から半径方向内向きに突出する突極122a~122c(「突極122」と総称する)が形成され、それぞれU相コイル73a、V相コイル73b、W相コイル73c(「コイル73」と総称する)が組み付けられている。互いに隣接するスロット120の間にも、横断面U字状のスリット124が形成され、磁路の最適化が図られている。
【0032】
ロータマグネット104は、キャン66を介して突極122a~122cと対向する。本実施形態では
図2(A)に示すように、ロータマグネット104が10極に磁化されている。なお、その極数については適宜設定できる。
【0033】
次に、ロータ60におけるマグネットの構成について詳細に説明する。
図3は、ロータ60の構成を表す図である。(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は平面図、(D)は(C)のB-B矢視断面図である。図中の「N」はN極、「S」はS極を示す。なお、
図3(A)~(C)においては説明の便宜上、回転軸62の表記を省略している。
【0034】
ロータ60は、ロータコア102の外周面に沿ってロータマグネット104を有し、ロータコア102の軸端部にセンサマグネット106が配設されている(
図3(A),(D))。ロータマグネット104は円筒状をなし、外周面10極着磁とされている(
図3(B),(C))。一方、センサマグネット106は環状をなし、上下二層の両面4極着磁(片面2極の両面着磁)とされている。すなわち、センサマグネット106は、その上層106aと下層106bがそれぞれ2極となるように着磁され、その上下両面で磁極の極性が反転されている。このような構成により、磁束の強化が図られている。
【0035】
ロータコア102は、円筒状の磁性金属(磁性体)からなる。ロータコア102の軸線方向中央には、その外周面に沿って環状溝140が形成されている(
図3(D))。ロータマグネット104の内周面がその環状溝140に嵌合している。すなわち、環状溝140は、ロータコア102からのロータマグネット104の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。
【0036】
回転軸62は、その上部に外径がやや縮小された縮径部63を有する。ロータコア102の軸端部142(上端開口部)は、その縮径部63と相補形状となるよう内径がやや縮小されており、ロータコア102を回転軸62に組み付ける際の軸線方向のストッパを構成している。
【0037】
センサマグネット106は、回転軸62の縮径部63に外挿されつつ、ロータコア102の上面に組み付けられている。センサマグネット106は、このように磁性体(本実施形態ではロータコア102)の上に配置されることで、その磁力を大きくすることができる。回転軸62の上端部にワッシャ65が同軸状に挿通された状態でその上端部が加締められることで、ロータコア102の軸端部142とワッシャ65との間にセンサマグネット106が保持される。
【0038】
図1に戻り、以上のように構成された電動弁1は、モータユニット3の駆動制御によってその弁開度を調整可能な電動膨張弁として機能する。すなわち、図示しない外部装置からの指令に基づき、制御部は、目標開度を実現するための制御量(モータの駆動ステップ数)を設定し、これを実現するための駆動信号を駆動回路に出力する。駆動回路は、各コイル73に設定されたタイミングで三相の駆動電流(駆動パルス)を供給する。それにより、ロータ60が高分解能にて回転する。このとき、弁体34が弁座24から離間した開弁状態であれば、スプリング116の付勢力によりストッパ114が回転軸62に当接し、作動ロッド32ひいては弁体34が、ロータ60と一体に動作する。
【0039】
ロータ60は、ガイド部材36との間のねじ送り機構109により上下方向に動作する。つまり、弁体34が弁部の開閉方向に並進し、弁部の開度が設定開度に調整される。このねじ送り機構109は、ロータ60の軸線周りの回転運動を作動ロッド32の軸線運動(直進運動)に変換し、弁体34を弁部の開閉方向に駆動する。電動弁1が配管ボディに取り付けられて膨張弁として機能するとき、弁部は小開度に制御される。
【0040】
制御部は、磁気センサ119の検出信号に基づいてセンサマグネット106の回転角度(ロータ60の回転角度)を検出し、弁開度を算出できる。
【0041】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
図4は、センサマグネット106を上下二層の両面4極としたことによる作用を模式的に表す図である。(A)は実施形態の作用を示し、(B)は比較例の作用を示す。比較例は、センサマグネット126を上下一層の2極構造とした場合を示す。図中の二点鎖線矢印は、センサマグネットにおける磁束の向きを例示する。
【0042】
本実施形態では、センサマグネット106を両面着磁(磁極が上下二層)とし、かつその両面で磁極の極性を反転させているため、その両面の一方から出た磁束は、基本的に他方に引き込まれる。これに対し、比較例では、磁極が上下一層であるため、センサマグネット126の磁極から出た磁束の一部がロータマグネット104の磁極に引き込まれる。すなわち、センサマグネット126の磁界がロータマグネット104の磁界に干渉し、ロータ60とステータ64との間の磁束のバランスを崩す可能性がある。言い換えれば、本実施形態によれば、比較例よりもロータ60とステータ64との磁束のバランスを良好に保つことができ、ロータ60の回転をより安定に保つことができる。
【0043】
図5は、センサマグネット106の内径の大きさが磁気センサ119で感知する磁束密度に与える影響を検証した解析結果を表す図である。同図の横軸は、磁気センサ119とセンサマグネット106との距離を示し、縦軸は磁束密度の大きさを示す。本解析では、センサマグネット106の内径をd1~d5(d1>d2>d3>d4>d5)で変化させた場合の結果を示す。
【0044】
本実施形態では、
図1に示したように、センサマグネット106が孔部107を有し、その内方に回転軸62の上端部、ストッパ114、および作動ロッド32の上端部が位置する。回転軸62と作動ロッド32とは同軸状に設けられ、回転軸62の上端部とストッパ114とは径方向に当接しない。すなわち、センサマグネット106と作動ロッド32との間には径方向の空隙が存在する。本解析では、このような構成において、センサマグネット106に孔部107を設けること、より詳細にはその孔部107の内径の大きさが磁気センサ119による磁束の検知に与える影響を検証した。
【0045】
図5に示すように、全体的な傾向として、センサマグネット106と磁気センサ119との距離が大きいほど、つまり弁体34が閉弁方向へ変位するほど、磁気センサ119で検知される磁束密度が小さくなることが分かる。すなわち、センサマグネット106が磁気センサ119に近接するほどその磁束は大きく、離れるほどその磁束は小さくなる。このこと自体は当然の結果と言える。一方、センサマグネット106の内径が大きくなるほど、その磁束密度の変化が小さくなっており、これは新たな知見である。
【0046】
本実施形態では、センサマグネット106の内径をd1~d3の範囲に設定することで、作動ロッド32つまり弁体34のストロークによる磁束密度の変化を小さく抑えている。すなわち、磁気センサには一般に感知する磁束密度の推奨範囲があり、磁束密度が小さすぎる場合はもちろん、大きすぎる場合も感知が困難となる。この点、本実施形態によれば、センサマグネット106の内径を適切に設定することで、センサ感度を良好に保つことができる。
【0047】
本解析により、センサマグネット106に設ける孔部107の大きさを変えると、センサマグネット106と磁気センサ119とが近接したときに検知される磁束密度の差は大きくなるものの、両者が離間したときに検知される磁束密度の差は小さく抑えられるとの知見が得られた。これは、孔部107の大きさを十分に確保することで、両者が近接したときに磁束密度が過大にならないようにするとともに、両者が離間したときの磁束密度を必要十分に確保できることを意味する。すなわち、本解析結果により、本実施形態においてセンサマグネット106に孔部107を設けたことと、その孔部107の大きさをある程度大きくすることの有効性が確認できた。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、センサマグネット106を両面4極着磁(片面2極の両面着磁)とし、その両面で磁極の極性を反転させることで磁束を強化できる。このため、ロータ60が閉弁方向に変位してセンサマグネット106と磁気センサ119との距離が大きくなっても、磁気センサ119の感度を良好に維持できる。
【0049】
一方、センサマグネット106の中央に孔部107を設けてその内径を十分に確保することで、ロータ60が開弁方向に変位してセンサマグネット106が磁気センサ119に近接しても、磁気センサ119に作用する磁束密度が過大とならないようにしている。すなわち、
図5に関連して説明したように、弁体34のストロークにかかわらず、磁気センサ119に作用する磁束密度を推奨範囲に収めることができ、磁気センサ119の感度を良好に維持できる。
【0050】
また、センサマグネット106を両面4極着磁(片面2極の両面着磁)とし、その両面で磁極の極性を反転させることで、
図4に関連して説明したように、センサマグネット126の磁界がロータマグネット104の磁界に干渉することを防止又は抑制できる。その結果、ロータ60の回転をより安定に保つことができる。
【0051】
さらに、センサマグネット106がロータコア102の軸端部に設けられ、かつセンサマグネット106に孔部107が設けられることで、センサマグネット106が作動ロッドではなくロータコア102と連結して回転する構成が実現される。それにより、作動ロッド32の径に関係なく、孔部107の径を調整できるようになる。すなわち、本実施形態によれば、センサマグネット106の設計自由度を高めることができる。
【0052】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0053】
図6は、変形例に係るロータの構成を表す図である。(A)はセンサマグネット単体の斜視図である。(B)はロータの斜視図、(C)は平面図、(D)は正面図である。
本変形例では、センサマグネット206が、両面8極着磁(片面4極の両面着磁)とされている。すなわち、センサマグネット206は、その上層206aと下層206bがそれぞれ4極となるように着磁され、その上下両面で磁極の極性が反転されている。
【0054】
このような構成を採用しても、センサマグネット206が両面着磁であり、かつ各面が複数の磁極を有することで、センサマグネット206の磁界がロータマグネット104に影響を及ぼすことを抑制できる。その結果、上記実施形態と同様に、ロータ260の安定性を向上させることができる。
【0055】
上記実施形態では、ロータ60においてロータコア102と回転軸62とを別部材にて構成する例を示した。変形例においては、ロータコアと回転軸とを一体成形し、その内周面にねじ部(雌ねじ108)を設けてもよい。その場合、ロータコアがねじ送り機構としても機能する。
【0056】
上記実施形態では述べなかったが、ロータマグネット104は、ロータコア102に一体成型されたマグネット部に後工程で着磁して得られるものでもよい。また、上記実施形態では、ロータコア102とセンサマグネット106とを別部材にて構成し、両者を組み付ける構成とした。変形例においては、センサマグネット106についても、ロータコア102に一体成型されたマグネット部に後工程で着磁して得られるものとしてもよい。ロータコア102を母材としてロータマグネット部およびセンサマグネット部の双方が一体成型され、後工程で着磁されてもよい。マグネット部の成形においては、磁性材料を射出成形してもよい。あるいは、鍛造や押出成形その他の金型成形によりマグネット部を成形してもよい。
【0057】
上記実施形態では、両面着磁のセンサマグネット106を一つ設ける構成を例示した。変形例においては、両面着磁のセンサマグネットを回転軸の軸線方向に複数直列に配設してもよい。
【0058】
上記実施形態では、センサマグネット106をロータコア102の軸端部に設ける構成を例示した。変形例においては、センサマグネットを作動ロッドの軸端部に設けてもよい。あるいは、センサマグネットをロータコアと離間させ、ロータの回転軸に固定する構成を採用してもよい。
【0059】
上記実施形態では、作動ロッド32をロータ60と同軸状に回転させる構成を例示した。変形例においては、作動ロッドが回転しない構成を採用してもよい。例えば、
図1に示す構成において、ストッパ114とロータ60との間に滑り軸受を設け、作動ロッド32が回転しないようにしてもよい。また、ロータの回転運動をギアにて作動ロッドに伝達し、作動ロッドの軸線がロータの軸線と一致しないようにしてもよい。
【0060】
上記実施形態では、回転軸62および作動ロッド32の各上端部がセンサマグネット106の孔部107に挿通される構成を例示した。変形例においては、ロータの回転軸および作動ロッドのいずれか一方又は双方が、センサマグネットの孔部107に挿通されない構成を採用してもよい。その場合、センサマグネットとロータコアとを嵌合、圧入その他の手段により固定してもよい。
【0061】
上記実施形態では、開弁状態においてロータ60と作動ロッド32とを軸線方向に一体変位させる構成を示した。すなわち、ロータ60が作動ロッド32を同軸状に支持し、ロータ60そのものが軸線方向に変位する構成とした。変形例においては、特許文献1にも記載のように、ロータの位置を軸線方向に固定する構成を採用してもよい。すなわち、ロータと一体に回転するシャフトと、弁体を一体に有するドライバとを軸線方向に接続し、作動ロッドを構成してもよい。ドライバは、シャフトと一体に回転するが、軸線方向には相対変位可能とされる。ロータの回転運動は、ねじ送り機構によってドライバの軸線運動に変換される。
【0062】
上記実施形態では、磁気センサがロータの回転量(回転角度)を検出し、制御部がその回転量に基づき作動ロッドの軸線方向変位(弁体のストローク、つまり弁部の開度)を算出する例を示した。変形例においては、磁気センサがロータの軸線方向変位(つまり作動ロッドの軸線方向変位)を直接検出し、制御部がその変位に基づき弁体のストローク(つまり弁部の開度)を算出してもよい。すなわち、磁気センサはロータの変位量(つまりセンサマグネットの変位量)を検出するものであればよい。
【0063】
上記実施形態では、ロータマグネット104とセンサマグネット106とが軸線方向に離隔する構成を例示した。変形例においては、ロータマグネットとセンサマグネットとを一体に構成してもよい。ロータマグネット部とセンサマグネット部とを一体成形してもよい。その場合、磁気センサが磁束を確実に検出できるよう、センサマグネットの面積(外径)を大きくしてもよい。
【0064】
上記実施形態では述べなかったが、バルブボディと配管ボディとを合わせて「電動弁のボディ」としてもよい。
【0065】
各実施形態では、ステータのコアとして積層コア(積層磁心)を例示した。変形例においては、圧粉コアその他のコアを採用してもよい。圧粉コアは、「圧粉磁心」とも呼ばれ、軟磁性材料を粉末にし、非導電性の樹脂等でコーティングした紛体と、樹脂バインダとを混練し、圧縮成型・加熱することで得られる。
【0066】
各実施形態では、回路基板の下面に駆動回路、制御回路、通信回路および電源回路が実装される構成を例示したが、実装される回路については適宜変更できる。例えば、駆動回路および電源回路を実装する一方、制御回路を電動弁の外部に設置してもよい。また、各回路を回路基板の上面に実装してもよい。
【0067】
各実施形態では、モータユニットとして、PM型ステッピングモータを採用したが、ハイブリッド型ステッピングモータを採用してもよい。また、上記実施形態では、モータユニットを三相モータとしたが、二相,四相、五相などその他のモータとしてもよい。ステータにおける電磁コイルの数も3つや6つに限らず、モータの相数に合わせて適宜設定してよい。
【0068】
各実施形態の電動弁は、冷媒として代替フロン(HFC-134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルに凝縮器に代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0069】
各実施形態では、上記電動弁を膨張弁として構成したが、膨張機能を有しない開閉弁や流量制御弁として構成してもよい。
【0070】
各実施形態では、上記電動弁を自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用する例を示したが、車両用に限らず電動膨張弁を搭載する空調装置に適用可能である。また、冷媒以外の流体の流れを制御する電動弁として構成することもできる。
【0071】
上記実施形態では、センサマグネット106を上下両面着磁とし、その両面の対応する位置で磁極の極性を反転させる構成を例示した。すなわち、センサマグネット106では、磁極の境界線が上下面で一致する。変形例においては、上下両面の磁極が一部の位置で反転していないセンサマグネットを採用してもよい。すなわち、磁極の境界線が上下面で完全に一致しておらず、多少ずれていてもよい。その場合、一部の位置で上下面が同じ極性となるため、上記実施形態と比較して効果が劣る可能性があるが、実使用上問題のない程度の効果が得られる可能性はある。
【0072】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 電動弁、2 弁本体、3 モータユニット、5 ボディ、22 弁孔、24 弁座、26 入口ポート、28 出口ポート、30 弁室、32 作動ロッド、34 弁体、36 ガイド部材、38 雄ねじ、46 スプリング、60 ロータ、62 回転軸、63 縮径部、64 ステータ、65 ワッシャ、66 キャン、70 積層コア、73 コイル、76 ケース、78 ステータユニット、102 ロータコア、104 ロータマグネット、106 センサマグネット、106a 上層、106b 下層、107 孔部、108 雌ねじ、109 ねじ送り機構、114 ストッパ、116 スプリング、118 回路基板、119 磁気センサ、126 センサマグネット、142 軸端部、206 センサマグネット、206a 上層、206b 下層。