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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093846
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】ポンプ制御装置及びポンプ制御方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 14/22 20060101AFI20220617BHJP
   F04C 2/344 20060101ALI20220617BHJP
   F04C 14/00 20060101ALI20220617BHJP
   F04C 14/20 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
F04C14/22 E
F04C2/344 331C
F04C2/344 331M
F04C14/00 D
F04C14/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206555
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝城 勝
【テーマコード(参考)】
3H040
3H044
【Fターム(参考)】
3H040AA03
3H040BB05
3H040BB11
3H040CC22
3H040DD03
3H040DD06
3H040DD32
3H044AA02
3H044BB05
3H044CC26
3H044DD03
3H044DD04
3H044DD18
3H044DD19
3H044DD36
(57)【要約】
【課題】流体圧システムの不具合の発生を防止する。
【解決手段】ポンプ制御装置は、流体を吐出するポンプ部と、ポンプ部を駆動するモータと、モータの回転を制御する制御部と、を備え、ポンプ部は、内燃機関からの動力によって回転するロータと、モータからの動力により回転するカムリングと、ロータの外周面から出没可能に設けられて先端部分がカムリングの内周面を摺動する複数のベーンと、カムリングとともに回転する一対のサイドプレートと、を有し、制御部は、流体圧作動ユニットの作動要求に対応した流量の流体を吐出するために必要なロータとカムリングとの相対回転速度の基礎値を演算し、基礎値が、あらかじめ設定された制限領域に含まれる場合には、制限領域から外れるようにモータにカムリングを回転させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吐出して流体圧作動ユニットに供給するポンプ部と、前記ポンプ部を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御部と、を備えるポンプ制御装置であって、
前記ポンプ部は、
内燃機関からの動力が伝達されるシャフトと、
前記内燃機関からの動力によって前記シャフトと一体に前記シャフトの回転軸周りを回転するロータと、
前記ロータを収容し内部にポンプ室を画成するとともに、前記モータからの動力により回転可能に設けられたカムリングと、
前記ロータの外周面から出没可能に設けられて先端部分が前記カムリングの内周面を摺動する複数のベーンと、
前記シャフトの回転軸方向における前記カムリングの両側に配置されて前記カムリングとともに回転し、一方に流体を吸入する吸入ポートが設けられ他方に流体を吐出する吐出ポートが設けられる一対のサイドプレートと、
を有し、
前記制御部は、
前記流体圧作動ユニットの作動要求に対応した流量の流体を吐出するために必要な前記ロータと前記カムリングとの相対回転速度の基礎値を演算し、
前記基礎値が、あらかじめ設定された制限領域に含まれる場合には、前記制限領域から外れるように前記モータに前記カムリングを回転させる、
ポンプ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプ制御装置であって、
前記制限領域は、流体の圧力に基づいて設定され、前記ベーンの前記先端部分が前記カムリングに対して油膜切れを起こす領域である、
ポンプ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のポンプ制御装置であって、
前記制限領域は、流体の温度に基づいて設定され、前記ポンプ部がエア吸いを起こす領域である、
ポンプ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のポンプ制御装置であって、
前記制限領域は、流体の圧力に基づいて設定され、前記ポンプ部から吐出された流体を調圧する調圧弁がオーバーライドを起こす領域である、
ポンプ制御装置。
【請求項5】
内燃機関からの動力が伝達されるシャフトと、
前記内燃機関からの動力によって前記シャフトと一体に前記シャフトの回転軸周りを回転するロータと、
前記ロータを収容し内部にポンプ室を画成するとともに、モータからの動力により回転可能に設けられたカムリングと、
前記ロータの外周面から出没可能に設けられて先端部分が前記カムリングの内周面を摺動する複数のベーンと、
前記シャフトの回転軸方向における前記カムリングの両側に配置されて前記カムリングとともに回転し、一方に流体を吸入する吸入ポートが設けられ他方に流体を吐出する吐出ポートが設けられる一対のサイドプレートと、
を有し、流体を吐出して流体圧作動ユニットに供給するポンプ部を制御するポンプ制御方法であって、
前記流体圧作動ユニットの作動要求に対応した流量の流体を吐出するために必要な前記ロータと前記カムリングとの相対回転速度の基礎値を演算し、
前記基礎値が、あらかじめ設定された制限領域に含まれる場合には、前記制限領域から外れるように前記モータに前記カムリングを回転させる、
ポンプ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ制御装置及びポンプ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンによって回転駆動されるシャフトと、シャフトと一体に回転するロータと、ロータの外周から径方向に往復動可能に設けられるベーンと、ロータの外周を囲むカムリングと、カムリングを回転させるモータ機構と、を備えるベーンポンプが開示されている。このベーンポンプでは、エンジンがロータを回転させて油を吐出するだけでなく、モータ機構がカムリングを回転させることによっても油を吐出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-044149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ベーンポンプでは、低回転時又は高回転時にベーンの先端部分が油膜切れを起こすことがある。また、ベーンポンプでは、極低温時には、オイルパン内の一部のみから油を吸い込むことで部分的に油面が低下してエア吸いが発生することがある。また、ベーンポンプでは、高回転時にオーバーライドが発生して調圧弁の調圧値が上昇してゆくことがある。このように、ベーンポンプでは、運転条件によって、ポンプ、ポンプの上流回路、及びポンプの下流回路を含む流体圧システムに不具合が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、流体圧システムの不具合の発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のポンプ制御装置は、流体を吐出して流体圧作動ユニットに供給するポンプ部と、前記ポンプ部を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御部と、を備え、前記ポンプ部は、内燃機関からの動力が伝達されるシャフトと、前記内燃機関からの動力によって前記シャフトと一体に前記シャフトの回転軸周りを回転するロータと、前記ロータを収容し内部にポンプ室を画成するとともに、前記モータからの動力により回転可能に設けられたカムリングと、前記ロータの外周面から出没可能に設けられて先端部分が前記カムリングの内周面を摺動する複数のベーンと、前記シャフトの回転軸方向における前記カムリングの両側に配置されて前記カムリングとともに回転し、一方に流体を吸入する吸入ポートが設けられ他方に流体を吐出する吐出ポートが設けられる一対のサイドプレートと、を有し、前記制御部は、前記流体圧作動ユニットの作動要求に対応した流量の流体を吐出するために必要な前記ロータと前記カムリングとの相対回転速度の基礎値を演算し、前記基礎値が、あらかじめ設定された制限領域に含まれる場合には、前記制限領域から外れるように前記モータに前記カムリングを回転させる。
【0007】
本発明の別の態様によれば、上記ポンプ制御装置に対応するポンプ制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
これらの態様では、流体圧作動ユニットの作動要求に対応した流量の流体を吐出するために必要なロータとカムリングとの相対回転速度の基礎値が制限領域に含まれる場合には、当該制限領域から外れるようにモータにカムリングを回転させる。これにより、ポンプ部を含む流体圧システムに不具合が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態が適用されるポンプシステムの概略構成図である。
図2図2は、本発明の実施形態が適用されるポンプ部を軸方向の断面で示す図である。
図3図3は、図2のポンプ部の軸方向に直交する方向でのポンプ室近傍の部分断面図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る流体圧システムの不具合の発生を防止するためのポンプ制御のフローチャートである。
図5図5は、低回転油膜切れ領域及び高回転油膜切れ領域について説明する図である。
図6図6は、極低温時におけるエア吸い領域について説明する図である。
図7図7は、低圧側オーバーライド領域及び高圧側オーバーライド領域について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
まず、図1を参照して、本実施形態に係るポンプ制御装置100の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係るポンプ制御装置100の概略構成図である。
【0012】
図1に示すように、ポンプ制御装置100は、内燃機関としてのエンジン1を備える車両に搭載される。ポンプ制御装置100は、無段変速機2と、流体としての油を加圧して吐出するポンプ部としてのツインドライブポンプ(以下では、単に「ポンプ」という。)10と、ストレーナ4と、油貯留部5と、ポンプ10を駆動するモータ32と、モータ32の回転を制御する制御部としてのコントローラ30と、油圧制御回路8と、を備える。
【0013】
無段変速機2は、ベルト無段変速機であり、車両に設けられる。無段変速機2には、車両の駆動源であるエンジン1の動力が伝達される。無段変速機2は、プーリ部PLYと、クラッチ部CLと、トルクコンバータTCと、潤滑部LBと、を有する。
【0014】
ポンプ10は、エンジン1及びモータ32の動力によって駆動される。ポンプ10は、油貯留部5からストレーナ4を介して油を吸い込み、油圧制御回路8に油を供給する。ポンプ10は、モータ32と、インバータ33と、を有する。ポンプ10と、ポンプ10の上流回路6a、及びポンプ10の下流回路6bは、油流体圧システムとしての油圧システム9に含まれる。
【0015】
モータ32は、ポンプ10を駆動する。モータ32は、具体的には三相交流モータである。
【0016】
インバータ33は、モータ32に電流を供給する。インバータ33は、具体的にはバッテリ36からの直流電流を三相の交流電流に変換してモータ32に供給する。
【0017】
モータ32には、モータ32の回転速度を検出するための回転速度センサ(レゾルバ)34が設けられる。インバータ33には、温度センサ35が設けられる。回転速度センサ34及び温度センサ35からの信号はインバータ33に入力され、インバータ33を介してコントローラ30に入力される。
【0018】
ストレーナ4は、油を濾過する。ストレーナ4は、油貯留部5に設けられる。油貯留部5には、例えば、油圧制御回路8からドレンされた油や潤滑部LBを流通した油等が貯留される。
【0019】
油圧制御回路8は、例えば、プーリ部PLY、クラッチ部CL、トルクコンバータTC、及び潤滑部LBに油を供給する。これらのプーリ部PLY、クラッチ部CL、トルクコンバータTC、及び潤滑部LBが、流体圧作動ユニットとしての油圧作動ユニット3に該当する。油圧制御回路8は、ポンプ10から吐出された油を調圧する調圧弁8aを有する。
【0020】
プーリ部PLYは、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、プライマリプーリ及びセカンダリプーリを各々駆動する油圧アクチュエータと、を有する。プーリ部PLYは、プライマリプーリ及びセカンダリプーリに掛け回されるベルトとともにバリエータVAを構成する。
【0021】
バリエータVAは、無段変速機2の無段変速機構である。本実施形態では、バリエータVAの変速比が、無段変速機2の変速比である。バリエータVAの変速比は、バリエータVAのプライマリプーリ、具体的にはプライマリプーリを駆動する油圧アクチュエータに供給される油の流量を調整することによって制御される。
【0022】
クラッチ部CLは、車両前進時に締結されて動力伝達を行う油圧式の前進クラッチFWD/Cと、車両後退時に締結されて動力伝達を行う油圧式の後進ブレーキREV/Bと、を有する。クラッチ部CLには、例えば前後進切替機構が適用される。
【0023】
トルクコンバータTCは、作動流体を介したトルク伝達を行う。トルクコンバータTCでは、油圧式のロックアップクラッチLUに油が供給される。また、トルクコンバータTCには、作動油が作動流体として供給される。油圧制御回路8からは、無段変速機2で潤滑が必要とされる潤滑部LBに油が供給される。
【0024】
コントローラ30は電子制御装置であり、無段変速機2の制御装置を構成する。具体的には、コントローラ30は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ30を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。コントローラ30には、回転速度センサ34からの信号及び温度センサ35からの信号が入力される。
【0025】
コントローラ30には、エンジン1の回転速度Neを検出するための回転速度センサ21からの信号、アクセルペダルの操作量を表すアクセル開度APOを検出するためのアクセル開度センサ22からの信号、車速VSPを検出するための車速センサ23からの信号、バリエータVAの入力側回転速度Npriを検出するための回転速度センサ24からの信号、バリエータVAの出力側回転速度Nsecを検出するための回転速度センサ25からの信号、ライン圧PLを検出するための油圧センサ26からの信号、無段変速機2の油温Toilを検出するための油温センサ27からの信号、運転者によって選択された選択レンジRNGを検出するための選択レンジ検出スイッチ28からの信号、等が入力される。
【0026】
バリエータVAの入力側回転速度Npriは、具体的にはプライマリプーリの回転速度であり、バリエータVAの出力側回転速度Nsecは、具体的にはセカンダリプーリの回転速度である。
【0027】
コントローラ30は、入力される信号に基づき、油圧制御回路8、ポンプ10等を制御する。コントローラ30は、油圧制御回路8を制御することで、バリエータVA、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/B、ロックアップクラッチLU、等を制御する。コントローラ30は、ポンプ10を制御する際には、インバータ33を制御することでモータ32の駆動を制御し、これによりポンプ10の駆動を制御する。
【0028】
次に、図2及び図3を参照して、ポンプ10の具体的な構成について説明する。図2は、ポンプ10を軸方向の断面で示す図である。図3は、ポンプ10の軸方向に直交する方向でのポンプ室P近傍の部分断面図である。
【0029】
図2及び図3に示すように、ポンプ10は、エンジン1の出力軸1aに接続され、エンジン1からの動力が伝達されるシャフトとしての駆動軸12と、エンジン1からの動力によって駆動軸12と一体に駆動軸12の回転軸周りを第1方向(図3の矢印参照)に回転するロータ13と、ロータ13を内部に収容するカムリング15と、ロータ13の外周面から出没可能に設けられ、背圧室14aの流体圧によって先端部分がカムリング15の内周面に押し付けられて摺動する複数のベーン14と、駆動軸12の回転軸方向におけるカムリング15の両側に配置された一対のサイドプレートとしての第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17と、内部にカムリング15、第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17が固定され、これらと一体に回転するシリンダ18と、シリンダ18を収容するとともにシリンダ18を回転可能に支持するハウジング11と、を備える。
【0030】
図2に示すように、ハウジング11はポンプ10の筐体であり、隔壁11aと、入口ポート11bと、出口ポート11cと、を有する。隔壁11aは、駆動軸12の軸方向においてハウジング11内を第1油室H1と第2油室H2とに区分する。入口ポート11bは、第1油室H1に開口し、ハウジング11の内外を連通する。出口ポート11cは、第2油室H2に開口し、ハウジング11の内外を連通する。入口ポート11bには、油貯留部5に貯留された油がストレーナ4を通過して流入し、出口ポート11cからは下流回路6bを通じて油圧制御回路8に供給される油が排出される(図1参照)。
【0031】
駆動軸12は、ロータ13の回転軸と同軸に設けられる。駆動軸12の一端はロータ13に連結され、他端はハウジング11外に突出するようにハウジング11に回転可能に設けられる。駆動軸12には、エンジン1からの動力が図示しない動力伝達機構を介して伝達される。
【0032】
ロータ13は、円柱形状に形成され、駆動軸12により駆動されて駆動軸12の回転軸周りに回転する。ロータ13には複数のスリット溝が放射状に設けられ、各スリット溝にはベーン14が設けられる。各ベーン14はロータ13の外周面から出没可能に設けられる。ベーン14は、背圧室14aの油圧によってスリット溝から外周に突出し、カムリング15の内周面に押し付けられる。
【0033】
カムリング15は、内部にロータ13を収容する。カムリング15は、駆動軸12の回転軸と同軸に、ロータ13に対して回転可能に設けられる。カムリング15の内周面は、ロータ13の外周との離間距離がロータ13の回転軸周りの周方向で変化するカム面により構成される。カムリング15の内周面は、ベーン14の先端部分が摺動する。
【0034】
第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17は、ロータ13の回転軸方向におけるカムリング15の両側に、それぞれロータ13の端面に対向するように配置される。第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17は、カムリング15とともに回転する。第1サイドプレート16には、2つの吸入ポート16a,16bが設けられ、第2サイドプレート17には、2つの吐出ポート17a,17bが設けられる。第1サイドプレート16及び第2サイドプレート17、カムリング15の内周面、ロータ13の外周面、隣り合うベーン14によってポンプ室Pが区画される。
【0035】
図3に示すように、吸入ポート16a,16bは、ロータ13の回転軸周りの周方向においてポンプ室Pが拡大する領域(吸入領域)INに開口するように設けられる。吐出ポート17a,17bは、ロータ13の回転軸周りの周方向においてポンプ室Pが縮小する領域(吐出領域)OUTに開口するように設けられる。ロータ13が回転することにより、吸入ポート16a,16bからポンプ室Pに油が吸入され、ポンプ室Pの容積縮小により油が加圧されて吐出ポート17a,17bから吐出される。
【0036】
上述のように、本実施形態では、吸入ポート16a,16bと吐出ポート17a,17bは2つずつ設けられる。これにより、ポンプ10では、ベーン14がカム面を一周する間にポンプ室Pが油の吸入及び吐出を2回繰り返す。
【0037】
図2に示すように、シリンダ18は、略有底円筒状に形成され、ロータ13の回転軸と同軸に回転可能にハウジング11に支持される。シリンダ18は、保持部18aと、接続部18bと、軸部18cと、出口ポート18dと、を有する。
【0038】
保持部18aは、筒状に形成され、その内部にカムリング15、第1サイドプレート16、及び第2サイドプレート17を保持する。カムリング15、第1サイドプレート16、及び第2サイドプレート17は、保持部18a内に固定され、シリンダ18と一体回転する。シリンダ18は、保持部18aで開口し、第1サイドプレート16は、シリンダ18の開口を塞ぐように設けられる。保持部18aは第1油室H1に収容される。
【0039】
接続部18bは、保持部18aと軸部18cとを接続する。本実施形態では、接続部18bは、保持部18aから軸部18cに向かって次第に縮径するように形成される。接続部18bには、吐出ポート17a,17bから吐出された油が流入する。接続部18bは第1油室H1に収容される。
【0040】
軸部18cは保持部18aよりも縮径された中空の軸状部分であり、軸部18c内には接続部18bから油が流入する。軸部18cは、モータ32の出力軸20aと接続される。これにより、モータ32の動力が軸部18cに伝達されると、シリンダ18とともに、カムリング15、第1サイドプレート16、及び第2サイドプレート17が回転する。
【0041】
軸部18cは、ハウジング11の隔壁11aを貫通するとともにハウジング11外に突出するように設けられる。駆動軸12と軸部18cとはロータ13の回転軸方向において互いに反対側に向かって突出するように設けられる。
【0042】
軸部18cには、複数の出口ポート18dが設けられる。出口ポート18dは、径方向に軸部18cの内外を連通する。軸部18cにおける出口ポート18dが設けられた部分は第2油室H2に収容される。このため、軸部18c内の油は出口ポート18dを介して第2油室H2に流出する。そして、第2油室H2に流出した油が出口ポート11cを介して油圧制御回路8に供給される。
【0043】
モータ32は、例えばブラシレスモータによって構成される。モータ32は、車両に搭載されたバッテリ36を電源として駆動される。モータ32は、モータ32のロータの回転位置(回転角)を検出する位置検出器としての回転速度センサ34を備える。コントローラ30は、回転速度センサ34によって検出されたモータ32の回転位置に基づいて、モータ32を制御する。
【0044】
次に、ポンプ10の運転モードについて説明する。
【0045】
コントローラ30は、車両の運転状況に応じてポンプ10の運転モードを切り換える。本実施形態のポンプ制御装置100は、運転モードとして、エンジン1によってロータ13のみを回転させるMOPモードと、モータ32によってカムリング15のみを回転させるEOPモードと、エンジン1とモータ32によってロータ13及びカムリング15を相対回転させるTDPモードと、を有する。
【0046】
MOPモードは、エンジン1の回転速度Neが高い場合に選択される。具体的には、車両に搭載されている油圧機器が必要とする流量(以下では、「要求流量」という。)を、ロータ13の回転のみ(エンジン1の動力による回転のみ)によって吐出される吐出流量で賄うことができる場合に選択される。ロータ13の回転速度、つまり、ポンプ10の吐出流量は、エンジン1の回転速度Neに比例する。このため、エンジン1の回転速度Neが高い場合には、エンジン1の動力のみに基づく吐出流量で要求流量を賄うことができるため、モータ32は停止した状態に維持される。
【0047】
EOPモードは、エンジン1が停止している場合に選択される。アイドリングストップ、コーストストップ、あるいはセーリングストップなどを実行している場合には、エンジン1が停止しているため、ロータ13の回転も停止している。そこで、エンジン1が停止しているときには、コントローラ30は、要求流量を賄うためにモータ32を駆動してカムリング15を回転させる。これにより、ロータ13を実質的に回転させることになるので、ポンプ10によって要求流量を賄うことができる。
【0048】
TDPモードは、要求流量をエンジン1の動力のみに基づく吐出流量で賄うことができない場合、具体的には、エンジン1の回転速度Neが低い場合に選択される。上述のように、エンジン1のみを駆動している場合、ポンプ10の吐出流量は、エンジン1の回転速度Neに比例する。このため、エンジン1の回転速度Neが低い場合には、エンジン1の動力のみに基づく吐出流量で賄うことができないため、コントローラ30は、モータ32を駆動し、カムリング15をロータ13の回転方向(第1方向)とは逆方向(第2方向)に回転させる。これにより、ロータ13の回転速度を実質的に上昇させることができるので、エンジン1の動力のみに基づく吐出流量だけでは不足していた要求流量を賄うことができる。
【0049】
また、TDPモードは、例えばエンジン1の回転速度Neが高い場合など、エンジン1の動力に基づく吐出流量では多すぎる場合にも選択される。この場合、コントローラ30は、モータ32を駆動し、カムリング15をロータ13の回転方向(第1方向)と同方向(第1方向)に回転させる。このとき、コントローラ30は、ロータ13の回転速度よりもカムリング15の回転速度の方が低くなるように制御する。これにより、ロータ13の回転速度を実質的に下降させることができるので、エンジン1の動力に基づく吐出流量では多すぎる場合に、吐出流量を減少させることができる。
【0050】
次に、図4を参照して、油圧システム9の不具合の発生を防止するためのポンプ制御について説明する。図4は、油圧システム9の不具合の発生を防止するためのポンプ制御のフローチャートである。本実施形態のポンプ制御は、コントローラ30にあらかじめ記憶されたプログラムに基づいて実行される。
【0051】
ステップS11では、コントローラ30は、油圧作動ユニット3の作動要求に対応した油の流量を演算する。
【0052】
ステップS12では、コントローラ30は、ステップS11にて演算した流量の油をポンプ10が供給するために必要なロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値Vb[rpm]を演算する。
【0053】
ステップS13では、コントローラ30は、油圧センサ26及び油温センサ27からの信号に基づき、油温及び油圧を検出する。また、コントローラ30は、回転速度センサ21及び回転速度センサ34からの信号に基づき、現在のロータ13とカムリング15との相対回転速度を検出する。なお、油温センサ27からの信号に代えて、水温センサ(図示せず)からの信号に基づいて検出した水温から油温を演算してもよい。
【0054】
ステップS14では、コントローラ30は、基礎値Vbが制限領域としての低回転油膜切れ領域内に入っているか否かを判定する。ステップS14にて、基礎値Vbが低回転油膜切れ領域内に入っていると判定された場合には、ステップS20に移行して、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が低回転油膜切れ領域から外れるような制限値Vlim[rpm]を演算する。一方、ステップS14にて、基礎値Vbが低回転油膜切れ領域内に入っていないと判定された場合には、ステップS15に移行する。
【0055】
ステップS15では、コントローラ30は、基礎値Vbが制限領域としての高回転油膜切れ領域内に入っているか否かを判定する。ステップS15にて、基礎値Vbが高回転油膜切れ領域内に入っていると判定された場合には、ステップS20に移行して、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が高回転油膜切れ領域から外れるような制限値Vlim[rpm]を演算する。一方、ステップS15にて、基礎値Vbが高回転油膜切れ領域内に入っていないと判定された場合には、ステップS16に移行する。
【0056】
ステップS16では、コントローラ30は、基礎値Vbが制限領域としてのエア吸い領域内に入っているか否かを判定する。ステップS16にて、基礎値Vbがエア吸い領域内に入っていると判定された場合には、ステップS20に移行して、ロータ13とカムリング15との相対回転速度がエア吸い領域から外れるような制限値Vlim[rpm]を演算する。一方、ステップS16にて、基礎値Vbがエア吸い領域内に入っていないと判定された場合には、ステップS17に移行する。
【0057】
ステップS17では、コントローラ30は、基礎値Vbが制限領域としての低圧側オーバーライド領域内に入っているか否かを判定する。ステップS17にて、基礎値Vbが低圧側オーバーライド領域内に入っていると判定された場合には、ステップS20に移行して、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が低圧側オーバーライド領域から外れるような制限値Vlim[rpm]を演算する。一方、ステップS17にて、基礎値Vbが低圧側オーバーライド領域内に入っていないと判定された場合には、ステップS18に移行する。
【0058】
ステップS18では、コントローラ30は、基礎値Vbが制限領域としての高圧側オーバーライド領域内に入っているか否かを判定する。ステップS18にて、基礎値Vbが高圧側オーバーライド領域内に入っていると判定された場合には、ステップS20に移行して、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が高圧側オーバーライド領域から外れるような制限値Vlim[rpm]を演算する。一方、ステップS14にて、基礎値Vbが高圧側オーバーライド領域内に入っていないと判定された場合には、ステップS19に移行する。
【0059】
ステップS19では、基礎値Vbがすべての制限領域に入っていないので、ポンプ10が吐出する油の流量を変更する必要はない。よって、コントローラ30は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が基礎値Vbになるようにモータ32の回転を制御する。即ち、ポンプ10は、油圧作動ユニット3の作動要求に対応した流量の油を供給する。
【0060】
ステップS20では、基礎値Vbがいずれかの制限領域に入っているので、ポンプ10が吐出する油の流量を変更する必要がある。よって、コントローラ30は、上述したようにロータ13とカムリング15との相対回転速度が制限領域から外れるような制限値Vlimを演算する。
【0061】
ステップS21では、コントローラ30は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が制限値Vlimになるようにモータ32の回転を制御する。即ち、コントローラ30は、基礎値Vbが、ポンプ10を含む油圧システム9に不具合が発生するあらかじめ設定された制限領域に含まれる場合には、当該制限領域から外れるようにモータ32にカムリング15を回転させる。
【0062】
このように、油圧作動ユニット3の作動要求に対応した流量の油を供給するために必要なロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値Vbが制限領域に含まれる場合には、当該制限領域から外れるようにモータ32にカムリング15を回転させる。これにより、ポンプ10を含む油圧システム9に不具合が発生することを防止できる。
【0063】
以下、図5から図7を参照して、不具合の発生を防止するためのポンプ制御について具体的に説明する。図5は、低回転油膜切れ領域及び高回転油膜切れ領域について説明する図である。図6は、極低温時におけるエア吸い領域について説明する図である。図7は、低圧側オーバーライド領域及び高圧側オーバーライド領域について説明する図である。図5から図7では、横軸は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度[rpm]である。図5及び図7では、縦軸は、油圧[MPa]である。図6では、縦軸は、油温[℃]である。
【0064】
まず、図5を参照して、ロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値Vbが低回転油膜切れ領域又は高回転油膜切れ領域に含まれる場合について説明する。
【0065】
図5の使用範囲のグラフは、ロータ13とカムリング15との相対回転速度に対応する使用可能な油圧の最大値であり、あらかじめ設定されるものである。ここでは、使用範囲のグラフは、カムリング15が回転しておらず、エンジン1によってロータ13のみが回転駆動されてポンプ10が油を吐出している場合を示すものである。
【0066】
ここで、ベーン14の先端部分の摺動部は、すべり軸受と同様にくさび膜によって油膜を形成している。しかしながら、ベーン14の先端部分とカムリング15の内周面との相対速度が低下すると、くさび膜を形成する油膜圧力が低下する。低回転油膜切れ領域は、ベーン14の張り出し力によって油膜が形成できなくなり、ベーン14の先端部分とカムリング15の内周面との間で油膜切れが発生するおそれのある領域である。
【0067】
図5に示すように、低回転油膜切れ領域は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が低い場合に、油圧が高くなるにつれて高い相対回転速度まで含まれるように設定される。また、低回転油膜切れ領域は、油圧をメインパラメータとする領域であるが、油温によっても変化する領域である。低回転油膜切れ領域は、油圧、油温、及びロータ13とカムリング15との相対回転速度に基づいてあらかじめマップとして設定される。
【0068】
例えば、ロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値VbがVb1[rpm]であり、そのときの油圧がP1[MPa]である場合には、使用範囲内ではあるが、低回転油膜切れ領域に含まれている。そこで、コントローラ30は、油圧P1のときにロータ13とカムリング15との相対回転速度が低回転油膜切れ領域から外れるような制限値Vlim1を演算する。そして、コントローラ30は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が制限値Vlim1になるようにモータ32の回転を制御する。具体的には、コントローラ30は、モータ32にロータ13とは逆方向にカムリング15を回転させる。
【0069】
これにより、ロータ13の回転速度を実質的に上昇させることができるので、ロータ13とカムリング15との相対回転速度を、基礎値Vb1よりも高い制限値Vlim1にすることができ、低回転油膜切れ領域から外すことができる。これにより、ベーン14の先端部分とカムリング15の内周面との間で油膜切れが発生することを防止できる。したがって、油圧システム9の不具合の発生を防止することができる。
【0070】
また、高回転油膜切れ領域は、ベーン14の先端部分とカムリング15の内周面との間の面圧と相対回転速度との積が大きくなったときに、摩擦面温度が上昇することで油膜切れが発生するおそれのある領域である。
【0071】
図5に示すように、高回転油膜切れ領域は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が高い場合に、油圧が高くなるにつれて低い相対回転速度まで含まれるように設定される。また、高回転油膜切れ領域は、油圧をメインパラメータとする領域であるが、油温によっても変化する領域である。高回転油膜切れ領域は、油圧、油温、及びロータ13とカムリング15との相対回転速度に基づいてあらかじめマップとして設定される。
【0072】
例えば、ロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値VbがVb2[rpm]であり、そのときの油圧がP2[MPa]である場合には、使用範囲内ではあるが、高回転油膜切れ領域に含まれている。そこで、コントローラ30は、油圧P2のときにロータ13とカムリング15との相対回転速度が高回転油膜切れ領域から外れるような制限値Vlim2を演算する。そして、コントローラ30は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が制限値Vlim2になるようにモータ32の回転を制御する。具体的には、コントローラ30は、モータ32にロータ13と同方向にカムリング15を回転させる。
【0073】
これにより、ロータ13の回転速度を実質的に下降させることができるので、ロータ13とカムリング15との相対回転速度を、基礎値Vb2よりも低い制限値Vlim2にすることができ、高回転油膜切れ領域から外すことができる。これにより、ベーン14の先端部分とカムリング15の内周面との間で油膜切れが発生することを防止できる。したがって、油圧システム9の不具合の発生を防止することができる。
【0074】
また、ベーン14の先端部分とカムリング15の内周面との間で油膜切れが発生することを防止できるので、ベーン14の先端部分若しくはカムリング15の内周面に表面処理を施す必要がなくなり、複数の背圧室14aを連通させる背圧溝(図示せず)の公差を緩和することができる。したがって、コストを低減させることができる。
【0075】
次に、図6を参照して、ロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値Vbがエア吸い領域に含まれる場合について説明する。
【0076】
図6の使用範囲のグラフは、ロータ13とカムリング15との相対回転速度に対応する使用可能な油温の範囲であり、あらかじめ設定されるものである。図6のグラフでは、油温の範囲として、例えば-40~-35[℃]の極低温の範囲を拡大して示している。また、図6のグラフでは、アイドル回転時のエンジン1の回転数に応じたロータ13とカムリング15との相対回転速度の範囲を拡大して示している。使用範囲は、温度範囲に応じて段階的に設定される。ここでもまた、使用範囲のグラフは、カムリング15が回転しておらず、エンジン1によってロータ13のみが回転駆動されてポンプ10が油を吐出している場合を示すものである。
【0077】
ここで、ポンプ10は、油温が極低温の場合には、油貯留部5のオイルパンにおいて油を吸い込みやすい部分のみからストレーナ4を介して油を吸い上げることがある。エア吸い領域は、油が吸い上げられた部分の油面が局所的に低下してポンプ10がエア吸いを発生するおそれのある領域である。
【0078】
図6に示すように、エア吸い領域は、油温が極低温であり、かつロータ13とカムリング15との相対回転速度が低い場合に、油温が低いほど低い相対回転速度まで含まれるように設定される。また、エア吸い領域は、油温をメインパラメータとする領域であるが、油圧によっても変化する領域である。エア吸い領域は、油温、油圧、及びロータ13とカムリング15との相対回転速度に基づいてあらかじめマップとして設定される。
【0079】
例えば、ロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値VbがVb3[rpm]であり、そのときの油温がT3[℃]である場合には、使用範囲内ではあるが、エア吸い領域に含まれている。そこで、コントローラ30は、油温T3のときにロータ13とカムリング15との相対回転速度がエア吸い領域から外れるような制限値Vlim3を演算する。そして、コントローラ30は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が制限値Vlim3になるようにモータ32の回転を制御する。具体的には、コントローラ30は、モータ32にロータ13とは同方向にカムリング15を回転させる。
【0080】
これにより、ロータ13の回転速度を実質的に下降させることができるので、ロータ13とカムリング15との相対回転速度を、基礎値Vb3よりも高い制限値Vlim3にすることができ、エア吸い領域から外すことができる。これにより、油が吸い上げられた部分の油面が局所的に低下してポンプ10がエア吸いを発生することを防止できる。したがって、油圧システム9の不具合の発生を防止することができる。
【0081】
また、ポンプ10がエア吸いを発生することを防止できるので、油貯留部5に貯留する油の量に余裕を持たせておく必要もなくなり、オイルパンを大きくする必要もない。したがって、コストを低減させることができるとともに、ポンプ制御装置100全体の質量を低減させることができる。
【0082】
次に、図7を参照して、ロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値Vbが低圧側オーバーライド領域又は高圧側オーバーライド領域に含まれる場合について説明する。
【0083】
図7の使用範囲のグラフは、図5と同様に、ロータ13とカムリング15との相対回転速度に対応する使用可能な油圧の最大値であり、あらかじめ設定されるものである。ここでもまた、使用範囲のグラフは、カムリング15が回転しておらず、エンジン1によってロータ13のみが回転駆動されてポンプ10が油を吐出している場合を示すものである。
【0084】
ここで、調圧弁8aでは、油圧が低く、かつロータ13とカムリング15との相対回転速度が高い場合に、調圧弁8aの上流側の圧力を低圧にするためにスプール(図示せず)を移動させて開口面積を大きくすると、スプールが最大ストローク量まで移動しきってオーバーライドするおそれがある。このときのオーバーライドするおそれがある領域を、低圧側オーバーライド領域として設定する。
【0085】
図7に示すように、低圧側オーバーライド領域は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が高い場合に、油圧が低くなるにつれて低い相対回転速度まで含まれるように設定される。また、低圧側オーバーライド領域は、油圧をメインパラメータとする領域であるが、油温によっても変化する領域である。低圧側オーバーライド領域は、油圧、油温、及びロータ13とカムリング15との相対回転速度に基づいてあらかじめマップとして設定される。
【0086】
例えば、ロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値VbがVb4[rpm]であり、そのときの油圧がP4[MPa]である場合には、使用範囲内ではあるが、低圧側オーバーライド領域に含まれている。そこで、コントローラ30は、油圧P4のときにロータ13とカムリング15との相対回転速度が低圧側オーバーライド領域から外れるような制限値Vlim4を演算する。そして、コントローラ30は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が制限値Vlim4になるようにモータ32の回転を制御する。具体的には、コントローラ30は、モータ32にロータ13と同方向にカムリング15を回転させる。
【0087】
これにより、ロータ13の回転速度を実質的に下降させることができるので、ロータ13とカムリング15との相対回転速度を、基礎値Vb4よりも低い制限値Vlim4にすることができ、低圧側オーバーライド領域から外すことができる。これにより、調圧弁8aがオーバーライドすることを防止できる。したがって、油圧システム9の不具合の発生を防止することができる。
【0088】
また、調圧弁8aでは、油圧が高く、かつロータ13とカムリング15との相対回転速度が高い場合に、スプールのノッチ部分(図示せず)にて噴流速度が大きくなることでノッチ部分の圧力が低下することがある。ノッチ部分の圧力が低下すると、調圧弁8aにおいてノッチ部分がある面に作用する面圧が小さくなり、スプールが開口面積を小さくする方向に移動することで、オーバーライドするおそれがある。このときのオーバーライドするおそれがある領域を、高圧側オーバーライド領域として設定する。
【0089】
図7に示すように、高圧側オーバーライド領域は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が高い場合に、油圧が高くなるにつれて低い相対回転速度まで含まれるように設定される。また、高圧側オーバーライド領域は、油圧をメインパラメータとする領域であるが、油温によっても変化する領域である。高圧側オーバーライド領域は、油圧、油温、及びロータ13とカムリング15との相対回転速度に基づいてあらかじめマップとして設定される。
【0090】
例えば、ロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値VbがVb5[rpm]であり、そのときの油圧がP5[MPa]である場合には、使用範囲内ではあるが、高圧側オーバーライド領域に含まれている。そこで、コントローラ30は、油圧P5のときにロータ13とカムリング15との相対回転速度が高圧側オーバーライド領域から外れるような制限値Vlim5を演算する。そして、コントローラ30は、ロータ13とカムリング15との相対回転速度が制限値Vlim5になるようにモータ32の回転を制御する。具体的には、コントローラ30は、モータ32にロータ13と同方向にカムリング15を回転させる。
【0091】
これにより、ロータ13の回転速度を実質的に下降させることができるので、ロータ13とカムリング15との相対回転速度を、基礎値Vb5よりも低い制限値Vlim5にすることができ、高圧側オーバーライド領域から外すことができる。これにより、調圧弁8aがオーバーライドすることを防止できる。したがって、油圧システム9の不具合の発生を防止することができる。
【0092】
また、調圧弁8aがオーバーライドすることを防止できるので、調圧弁8aが大型化することを防止でき、スプールのストローク量を大きくする必要もなくなる。したがって、コストを低減させることができるとともに、ポンプ制御装置100全体の質量を低減させることができる。
【0093】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0094】
(1)ポンプ制御装置100は、油を吐出して油圧作動ユニット3に供給するポンプ10と、ポンプ10を駆動するモータ32と、モータ32の回転を制御するコントローラ30と、を備え、ポンプ10は、エンジン1からの動力が伝達される駆動軸12と、エンジン1からの動力によって駆動軸12と一体に駆動軸12の回転軸周りを回転するロータ13と、ロータ13を収容し内部にポンプ室Pを画成するとともに、モータ32からの動力により回転可能に設けられたカムリング15と、ロータ13の外周面から出没可能に設けられて先端部分がカムリング15の内周面を摺動する複数のベーン14と、駆動軸12の回転軸方向におけるカムリング15の両側に配置されてカムリング15とともに回転し、一方に油を吸入する吸入ポート16a,16bが設けられ他方に流体を吐出する吐出ポート17a,17bが設けられる一対のサイドプレート16,17と、を有し、コントローラ30は、油圧作動ユニット3の作動要求に対応した流量の油を吐出するために必要なロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値Vbを演算し、基礎値Vbが、あらかじめ設定された制限領域に含まれる場合には、制限領域から外れるようにモータ32にカムリング15を回転させる。
【0095】
この構成によれば、油圧作動ユニット3の作動要求に対応した流量の油を吐出するために必要なロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値Vbが制限領域に含まれる場合には、当該制限領域から外れるようにモータ32にカムリング15を回転させる。これにより、ポンプ10を含む油圧システム9に不具合が発生することを防止できる。
【0096】
(2)制限領域は、油圧に基づいて設定され、ベーン14の先端部分がカムリング15に対して油膜切れを起こす領域である。
【0097】
この構成によれば、ベーン14の先端部分がカムリング15に対して油膜切れを起こす低回転油膜切れ領域若しくは高回転油膜切れ領域を制限領域として設定することで、ベーン14の先端部分とカムリング15の内周面との間で油膜切れが発生することを防止できる。
【0098】
(3)制限領域は、油温に基づいて設定され、ポンプ10がエア吸いを起こす領域である。
【0099】
この構成によれば、ポンプ10がエア吸いを起こす領域を制限領域として設定することで、油が吸い上げられた部分の油面が局所的に低下してポンプ10がエア吸いを発生することを防止できる。
【0100】
(4)制限領域は、油圧に基づいて設定され、ポンプ10から吐出された油を調圧する調圧弁8aがオーバーライドを起こす領域である。
【0101】
この構成によれば、ポンプ10から吐出された油を調圧する調圧弁8aがオーバーライドを起こす領域を低圧側オーバーライド領域若しくは高圧側オーバーライド領域として設定することで、調圧弁8aがオーバーライドすることを防止できる。
【0102】
(5)ポンプ10は、エンジン1からの動力が伝達される駆動軸12と、エンジン1からの動力によって駆動軸12と一体に駆動軸12の回転軸周りを回転するロータ13と、ロータ13を収容し内部にポンプ室Pを画成するとともに、モータ32からの動力により回転可能に設けられたカムリング15と、ロータ13の外周面から出没可能に設けられて先端部分がカムリング15の内周面を摺動する複数のベーン14と、駆動軸12の回転軸方向におけるカムリング15の両側に配置されてカムリング15とともに回転し、一方に油を吸入する吸入ポート16a,16bが設けられ他方に油を吐出する吐出ポート17a,17bが設けられる一対のサイドプレート16,17と、を有する。油を吐出して油圧作動ユニット3に供給するポンプ10を制御するポンプ制御方法は、油圧作動ユニット3の作動要求に対応した流量の油を吐出するために必要なロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値Vbを演算し、基礎値Vbが、あらかじめ設定された制限領域に含まれる場合には、制限領域から外れるように32モータにカムリング15を回転させる。
【0103】
この構成によれば、油圧作動ユニット3の作動要求に対応した流量の油を吐出するために必要なロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値Vbが制限領域に含まれる場合には、当該制限領域から外れるようにモータ32にカムリング15を回転させる。これにより、ポンプ10を含む油圧システム9に不具合が発生することを防止できる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0105】
例えば、図5から図7では、使用範囲のグラフは、カムリング15が回転しておらず、エンジン1によってロータ13のみが回転駆動されてポンプ10が油を吐出している場合を示すものである。
【0106】
しかしながら、使用範囲のグラフは、ポンプ10がTDPモードで運転される場合、即ち、エンジン1によってロータ13が回転駆動されるとともに、モータ32によってカムリング15が回転駆動される場合を示すものであってもよい。このとき、ロータ13とカムリング15との相対回転速度の基礎値Vbが制限領域に含まれる場合には、モータ32によって回転駆動されるカムリング15の回転方向を変えずに回転速度を低下させるか又は逆方向に回転させることで、制限領域から外れるようにする。
【符号の説明】
【0107】
100 ポンプ制御装置
1 エンジン(内燃機関)
3 油圧作動ユニット(流体圧作動ユニット)
9 油圧システム(流体圧システム)
10 ツインドライブポンプ(ポンプ部)
12 駆動軸(シャフト)
13 ロータ
14 ベーン
15 カムリング
16 第1サイドプレート(サイドプレート)
16a、16b 吸入ポート
17 第2サイドプレート(サイドプレート)
17a、17b 吐出ポート
30 コントローラ(制御部)
32 モータ
P ポンプ室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7