(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093941
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】直動案内ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20220617BHJP
F16N 7/02 20060101ALI20220617BHJP
F16N 9/04 20060101ALI20220617BHJP
F16N 7/12 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
F16C29/06
F16N7/02
F16N9/04
F16N7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206679
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】松井 雅士
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅寿
(72)【発明者】
【氏名】山口 脩介
(72)【発明者】
【氏名】松井 潤二
【テーマコード(参考)】
3J104
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA25
3J104AA36
3J104AA67
3J104AA69
3J104AA74
3J104AA76
3J104BA80
3J104CA24
3J104DA05
3J104DA18
3J104DA20
(57)【要約】
【課題】潤滑油保持部材の交換が容易でメンテナンス性に優れた直動案内ユニットを提供すること。
【解決手段】レールと、前記レールに対して摺動可能であるスライダと、前記レールおよび前記スライダによって形成される転走溝を転走可能である転動体と、を備える直動案内ユニットであって、前記スライダの少なくとも一方の端面に潤滑油供給装置が備えられており、前記潤滑油供給装置は、潤滑油を保持し、前記レール軌道面に当接することによって前記レールに前記潤滑油を供給する潤滑部材と、前記潤滑部材の前面、背面および底面を覆う前面、背面および底面を有し、上面は開放されているケースと、前記潤滑部材の少なくとも上面を覆うカバーと、を備え、前記ケースは、第1固定部材によって前記スライダに対して固定され、前記カバーは、前記第1固定部材によって固定されず、第2固定部材によって前記ケースに対して固定されている、直動案内ユニットである。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールと、前記レールに対して摺動可能であるスライダと、前記レールおよび前記スライダによって形成される転走溝を転走可能である転動体と、を備える直動案内ユニットであって、
前記スライダの少なくとも一方の端面に潤滑油供給装置が備えられており、
前記潤滑油供給装置は、
潤滑油を保持し、前記レール軌道面に当接することによって前記レールに前記潤滑油を供給する潤滑部材と、
前記潤滑部材の前面、背面および底面を覆う前面、背面および底面を有し、上面は開放されているケースと、
前記潤滑部材の少なくとも上面を覆うカバーと、を備え、
前記ケースは、第1固定部材によって前記スライダに対して固定され、
前記カバーは、前記第1固定部材によって固定されず、第2固定部材によって前記ケースに対して固定されている、
直動案内ユニット。
【請求項2】
前記カバーは、前記潤滑部材の上面を覆う上面部と、前記上面部の両端から延び、前記潤滑部材の側面を覆う2つの側面部と、を含む、請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記ケースは、さらに、前面および背面の外側端部のそれぞれから側面方向に延びる側面部分を有し、前面から延びる側面部分と背面から延びる側面部分との間は離間している、請求項1または請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記潤滑部材は、レールの長手方向に対して左右の2部材からなり、
前記潤滑部材の厚みは、前記前面から延びる側面部分と前記背面から延びる側面部分との間の離間部の幅と同じであるか、より小さい厚みである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記潤滑部材は、その側面における前記レールの前記軌道面に対応する位置に、外方に突出する突出部を有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
前記ケースの前記底面における前記レールに相対する部分には、前記レールに向かって突出するテーパ部が設けられている、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】
前記カバーの前記側面の先端は、テーパ形状に形成されている、請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
レールと、レール上を摺動するスライダと、摺動部分に潤滑油を供給する潤滑油保持部材を含む潤滑油供給装置と、を備えた、直動案内ユニットが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
レールと、レール上を摺動するスライダと、潤滑油保持部材と、を備えた直動案内ユニットにおいて、潤滑油保持部材を含むカートリッジを左右別体としたものが知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-351251号公報
【特許文献2】特開2003-90338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レールに供給される潤滑油は、直動案内ユニットの稼働に従って消費される。そのため、潤滑油供給装置には、潤滑油を補充可能であるか、潤滑油保持部材を交換できることが望まれる。潤滑油保持部材を交換する場合には、潤滑油保持部材の交換が容易であることが望まれる。そこで、潤滑油保持部材の交換が容易でメンテナンス性に優れた直動案内ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った直動案内ユニットは、レールと、前記レールに対して摺動可能であるスライダと、前記レールおよび前記スライダによって形成される転走溝を転走可能である転動体と、を備え、前記スライダの少なくとも一方の端面に潤滑油供給装置が備えられている。前記潤滑油供給装置は、潤滑部材と、ケースと、カバーと、を備える。潤滑部材は潤滑油を保持し、レールの軌道面に当接することによってレールに前記潤滑油を供給する。ケースは、前記潤滑部材の前面、背面および底面を覆う前面、背面および底面を有し、上面は開放されている。カバーは、前記潤滑部材の少なくとも上面を覆う。前記ケースは、第1固定部材によって前記スライダに対して固定されている。前記カバーは、前記第1固定部材によって固定されず、第2固定部材によって前記ケースに対して固定されている。
【発明の効果】
【0007】
上記直動案内ユニットによれば、潤滑油保持部材の交換が容易でメンテナンス性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、実施の形態1における直動案内ユニットの構造を示す斜視図である。
【
図1B】
図1Bは、実施の形態1における直動案内ユニットの構造を示す一部断面斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1における直動案内ユニットに含まれるスライダおよびレールの断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1における潤滑油供給装置を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3の潤滑油供給装置を分解して示す斜視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1における直動案内ユニットの断面模式図である。
【
図6】
図6は、実施の形態1における潤滑油供給装置に含まれる潤滑部材の斜視図である。
【
図7】
図7は、実施の形態1における潤滑油供給装置に含まれるカバーの平面図図である。
【
図8】
図8は、実施の形態1における潤滑油供給装置に含まれるカバーの斜視図である。
【
図9】
図9は、実施の形態1におけるスライダの構造を示す分解斜視図である。
【
図10】
図10は、潤滑油供給装置において、ケースの形状を変更した変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に従った直動案内ユニットは、レールと、前記レールに対して摺動可能であるスライダと、前記レールおよび前記スライダによって形成される転走溝を転走可能である転動体と、を備え、前記スライダの少なくとも一方の端面に潤滑油供給装置が備えられている。前記潤滑油供給装置は、潤滑部材と、ケースと、カバーと、を備える。潤滑部材は潤滑油を保持し、レールの軌道面に当接することによってレールに前記潤滑油を供給する。ケースは、前記潤滑部材の前面、背面および底面を覆う前面、背面および底面を有し、上面は開放されている。カバーは、前記潤滑部材の少なくとも上面を覆う。前記ケースは、第1固定部材によって前記スライダに対して固定されている。前記カバーは、前記第1固定部材によって固定されず、第2固定部材によって前記ケースに対して固定されている。
【0010】
従来、直動案内ユニットにおいて、スライダの端面に固定された潤滑油供給装置が知られている。潤滑油供給装置にはレールの軌道面に当接するよう配置された潤滑部材が備えられており、スライダがレール上を摺動する時、潤滑部材からレールに対して潤滑油が供給される。潤滑部材に保持される潤滑油は直動案内ユニットの稼働とともに消費されていくため、適時、潤滑部材に潤滑油を補充するか、潤滑部材を交換する必要があった。
【0011】
例えば特許文献1の直動案内ユニットでは、潤滑油を保持する潤滑プレートが、エンドシールやエンドキャップとともに、ボルトによってスライダのケーシングに固定される。このため、潤滑プレートを交換する際には、エンドシールやエンドキャップも取り外す必要があった。しかしながら、エンドシールやエンドキャップを取り外し、再度取り付けるという作業は煩雑で、取り付け時には部品間にずれが生じないよう精密な作業が必要とされていた。一方、特許文献2の直動案内ユニットでは、潤滑油を保持するカートリッジが左右別体として構成されており、カートリッジを左右から引き抜くことができる。しかしながら、特許文献2の直動案内ユニットでも、エンドキャップと潤滑油カートリッジとホルダとが一体になってボルトによってスライダに装着されるため、カートリッジを交換する際には、少なくともボルトを緩める必要があり、ボルトを緩めることによってエンドキャップがずれるおそれがあった。
【0012】
そこで、潤滑部材を交換する際に他の部品がずれるおそれが少なく、より容易に潤滑部材を交換できる潤滑油供給装置の構成が検討された。そして、潤滑油供給装置のケースをスライダに固定する固定部材と、潤滑部材を覆うカバーを固定する固定部材とを分けて、別々の部材でそれらの間を固定するというアイデアが得られた。さらなる検討の結果、第1固定部材によって潤滑油供給装置のケースをスライダに対して固定し、また、第2固定部材によって潤滑油供給装置のカバーをケースに対して固定し、かつ、カバーは第1固定部材によって固定されない、という構成とすることが見出された。これらの構成によれば、第2固定部材を緩める(取り外す)だけで、第1固定部材を緩めることなく潤滑油供給装置のカバーを取り外すことが可能となる。そのため、潤滑部材の交換ないし給油がより容易で、スライダとの間のずれの発生の問題が生じにくく、より取り扱いの容易な潤滑油供給装置が得られる。
【0013】
前記の直動案内ユニットにおいて、カバーは、前記潤滑部材の上面を覆う上面部と、前記上面部の両端から延び、前記潤滑部材の側面を覆う2つの側面部と、を含むものとできる。潤滑部材の上面および両側面を覆うカバーとすることによって、ケース内に収められる潤滑部材が確実に保護される。
【0014】
前記の直動案内ユニットにおいて、ケースは、前面、背面および底面に加えて、前面および背面の外側端部のそれぞれから側面方向に延びる側面部分を有し、前面から延びる側面部分と背面から延びる側面部分との間は離間しているものとできる。この構成によって、カバーを確実に保持することができ、また、カバーの取り外しがより容易になる。
【0015】
前記の直動案内ユニットにおいて、潤滑部材は、レールの長手方向に対して左右の2部材からなり、前記潤滑部材の厚みは、前記前面から延びる側面部分と前記背面から延びる側面部分との間の離間部の幅と同じであるか、より小さいものとできる。この構成によれば、カバーを取り外した時に、潤滑部材をケースの左右の側方のそれぞれから取り出すことができるため、潤滑部材の交換がより容易になる。
【0016】
前記の直動案内ユニットにおいて、潤滑部材は、その側面における前記レールの前記軌道面に対応する位置に、外方に突出する突出部を有するものとできる。この構成によれば、潤滑部材の突出部とケースやカバーの側面とが当接し、ケースやカバーによって潤滑部材が内方に押されてレールに押し付けられる。このため、レールと潤滑部材とが密着し、レールに対して潤滑油が確実に塗布される。
【0017】
前記の直動案内ユニットにおいて、ケースの底面におけるレールに相対する部分には、レールに向かって突出するテーパ部が設けられているものとできる。この構成によれば、潤滑油供給装置の底面から埃などが侵入することを防止できる。
【0018】
前記の直動案内ユニットにおいて、カバーの前記側面の先端は、テーパ形状に形成されているものとできる。この構成によれば、カバーをケースに出し入れしやすくなる。特に、潤滑部材とケースの側面部分との間にカバーの側面を差し込む場合、容易に挿入することができる。
【0019】
[実施形態の具体例]
次に、本開示の直動案内ユニットの具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0020】
[実施の形態1]
図1Aは、本開示の実施の形態1である直動案内ユニット1の構造を示す斜視図である。
図1Aにおいて、X軸は直動案内ユニット1の幅方向、Y軸方向は直動案内ユニット1(レール10)の長手方向、Z軸は直動案内ユニット1の厚み方向である。
図1Bは、
図1Aの直動案内ユニット1を一部切り開いて示す斜視図である。
【0021】
まず、直動案内ユニット1の全体的な構成を説明する。
図1A、
図1Bを参照して、直動案内ユニット1は、レール10と、スライダ100と、転動体であるころ200と、を備える。スライダ100はレール10に跨架されており、レール10に対して摺動自在である。スライダ100は、上面である台状部と、台状部の両側端から垂下する袖部とを有する。スライダ100は、ケーシング110と、ケーシング110の長さ方向の両端面に取付られたエンドキャップ120と、を備える。さらに、一方のエンドキャップ120のケーシング110と逆側の端面に、潤滑油供給装置500が備えられている。潤滑油供給装置500のエンドキャップ120と逆側の端面には、エンドシール140が取り付けられている。他方のエンドキャップ120のケーシング110と逆側の端面には、潤滑油供給装置は備えられず、エンドシール140が取り付けられている。潤滑油供給装置が無い方のエンドシール140の外側に、グリースニップル31が取り付けられている。
【0022】
レール10には、直動案内ユニット1を取り付ける相手部材を固定するための取付け孔11が形成されている。ケーシング110の上面には、ワークや機器等の相手部材を取付るための取付け用のねじ穴である穴101が複数形成されている。
【0023】
図2は、直動案内ユニット1のケーシング110およびレール10を取り出して示す断面図である。
図1B、
図2を参照して、レール10の側面には、長手方向に沿う上下2対の軌道面10a、10bが形成されている。ケーシング110の、軌道面10a、10bに対向する位置に軌道面110a、110bが形成されている。軌道面10aおよび110a、軌道面10bおよび110bによって、負荷領域である軌道溝としての2列の軌道路102a、102bが形成される。すなわち直動案内ユニット1は、上下2列の転走溝を有する。スライダ100の移動に従って、ころ200が転走溝を転走する。ケーシング110の内部には、軌道路102a、102bとそれぞれ連続し、無負荷領域である循環路103a、103bが形成される。図示していないが、エンドキャップ120には、軌道路102aと循環路103aとの間、軌道路102bと循環路103bとの間をそれぞれ連結する無負荷領域である2つの方向転換路が形成される。
【0024】
図9は、スライダ100の構造を示す分解斜視図である。
図1A、
図1B、
図9を参照して、ケーシング110の端面には、エンドキャップ120を取り付けるためのねじ穴である穴115が形成されている。エンドキャップ120において、ケーシング110の穴115と対応する位置に、エンドキャップ120を厚み方向に貫通するねじ穴である穴125が形成されている。また、潤滑油供給装置500のケース510において、穴115、125と対応する位置に、ねじ穴である穴515が形成されている。また、エンドシール140において、穴115、125、515と対応する位置に、ねじ穴である穴145が形成されている。第1固定部材としてのねじ81が、穴145、515、125、115に挿通される。つまり、ねじ81によって、エンドシール140、ケース510、エンドキャップ120が、ケーシング110に対して固定される。穴145、515、125、115は、スライダ100を端面方向に見て、上方の左右2個所に設けられる。
【0025】
図3は、実施の形態1における潤滑油供給装置500を取り出して示す斜視図である。潤滑油供給装置500は、ケース510と、カバー520と、潤滑部材530とを備える。ケース510の上面は開放されており、ケース510の上面からカバー520を出し入れできる。
図1B、
図3を参照して、ケース510とカバー520とは、第2固定部材としてのねじ82によって互いに固定されている。ねじ82は、エンドシール140と、ケース510と、カバー520とを固定する。ねじ82は、エンドキャップ120には至っていない。
【0026】
すなわち、ねじ81が、エンドシール140と、潤滑油供給装置500のケース510と、エンドキャップ120とをケーシング110に対して固定するのに対して、ねじ82はエンドシール140と、潤滑油供給装置500のケース510と、カバー520とを固定している。また、カバー520はねじ81によって固定されていない。この構成によって、ねじ82を取り外すと、エンドシール140とケース510とエンドキャップ120とをケーシング110に対して固定したままの状態で、カバー520を取り外すことができる。
【0027】
次に、潤滑油供給装置500についてさらに詳しく説明する。なお、以下の説明において、「前面」とはスライダ100を長手方向に見た時、ケーシング110を基準として外側となる面(ケーシング110から遠い面)をいう。「背面」とはスライダ100を長手方向に見た時、ケーシング110を基準として内側となる面(ケーシング110に近い面)をいう。「底面」「上面」とはそれぞれ直動案内ユニット1の下側、上側をいい、「側面」とはレール10の側面に沿う方向に延びる面をいう。
【0028】
図4は、潤滑油供給装置500の構成を示す分解斜視図である。
図4を参照して、潤滑油供給装置500は、ケース510と、カバー520と、左右2つの分割体である潤滑部材530と、カラー540と、ねじ82と、を含む。
図3、
図4を参照して、潤滑部材530はケース510に収容され、カバー520で覆われる。
【0029】
図3、
図4を参照して、ケース510について説明する。ケース510は、前面である第1面510a、背面である第2面510b、底面である510cを含む。第1面510aおよび第2面510bは、レール10を跨ぐよう、幅方向の中央部に、底面から上方に向かって凹部が形成されている。当該凹部を規定する壁面は、レールの側面形状に沿うように、高さ方向の中央部に凸部514が形成されている。すなわち、ケース510の開口部である凹部は、レール10の最大幅よりも狭い部分を有する。第1面510a、第2面510bはそれぞれ、潤滑部材530の前面および背面を覆う。ケース510の底面である第3面510cが、第1面510aと第2面510bとを接続する。第1面510aの幅方向における両端部から、側面方向に、第2面510bに向かって側面部分510dが延びている。また、第1面510bの外側の端部から、側面方向に、第1面510aに向かって側面部分510eが延びている。側面部分510dと側面部分510eとは、互いに離間している。
【0030】
ケース510における凹部の下端の内側、すなわち、第3面510cにおけるレール10に相対する部分(
図5)には、内方に突出するテーパ部511が設けられている。ケース510にテーパ部511を設けることによって、潤滑油供給装置500への埃等の侵入を防止できる。すなわちテーパ部511は潤滑油供給装置500のシールの役割を果たす。テーパ部511の先端は、レール10からわずかに離間するように形成してもよく、レール10に当接するように形成してもよい。また、第3面510cには、底面の他の部分よりも肉厚に形成された、肉厚部513が形成されている。
【0031】
ケース510の第1面510a、第2面510bの内面にはそれぞれ、突出部512a(不図示)、512bが設けられている。突出部512a、512bによって、ケース510の内部で潤滑部材530が必要以上に動かないように保持される。また、第1面510a、第2面510bには、第1固定部材であるねじ81が挿通される左右2か所の穴515と、第2固定部材であるねじ82が挿通される中央部の穴517と、が形成されている。穴517の径は、ねじ82の頭部の径に適合されている。ケース510は、例えば樹脂または鋼材からなるもの、あるいはそれらの組み合わせとできるが、材質は特に制限されない。
【0032】
図5は直動案内ユニット1の断面模式図であり、
図1A中のA-A断面を示す。
図3、
図4、
図5を参照して、潤滑部材530は、レール10の長手方向に対して左右に分割された2部材からなり、ケース510に収容される。潤滑部材530の厚みL
3は、ケース510の第1面510aと第2面510bとの内寸L
1よりも小さい。さらに、厚みL
3は、ケース510の側面部分510dと側面部分510eとの離間部の長さL
2とほぼ同じであるか、L
2よりもわずかに小さい。
【0033】
潤滑部材530は、潤滑油を保持できる材料からなり、多孔質の焼結樹脂部材からなることが好ましい。例えば、焼結樹脂部材は、合成樹脂の微粒子を所定の金型に充填して加熱成形することによって、多孔質構造に焼結されたものである。具体的には例えば、焼結樹脂部材として、超高分子量ポリエチレン樹脂の微粒子を焼結して成形したものを使用できる。超高分子量ポリエチレン樹脂の粒子径は、例えば、細粒径が30μmで、粗粒径が250~300μmの粉末を用いることができる。このように製造された焼結樹脂部材によれば、成形品の加工精度を例えば±0.025mm程度の高い精度にすることができる。多孔質構造としては、空間率が例えば40~50%のオープンポアから成る構造のものを用いることができる。その多孔質構造の多孔部に潤滑油が含浸され、保持されている。
【0034】
図6は、潤滑部材530を取り出して示す斜視図である。
図4、
図5、
図6を参照して、潤滑部材530は、レール10の軌道面10a、10bに当接するように内側に突出する膨出部である第1部分531と、側方から中央に向かって延在する上部である第2部分532と、側方部である第3部分533と、を含む。潤滑部材530は、ねじ81およびねじ82のどちらにも干渉しないように、ねじ81およびねじ82に相当する部分を避けた形状とされている。さらに、ねじ81が固定された状態でも潤滑部材530を出し入れできるように、斜め上方に刳り抜かれた溝530sが形成されている。ねじ81が固定された状態であっても、カバー520を取り外し、溝530sに沿って斜め上方に潤滑部材530を引き出すことによって、潤滑部材530を取り外すことができる。潤滑部材530をこの形状とすることによって、潤滑部材530が取出し可能であるともに、大きな体積を確保し、十分な潤滑油を保持させることができる。
【0035】
潤滑部材530の第3部分533の側面には、幅方向の外方に突出する突出部534が形成されている。突出部534は、高さ方向においてレール10の軌道面10a、10bに対応する位置に、設けられている。突出部534はカバー520と当接し、カバー520によって内方に押される。この構成によって、膨出部531がレール10に対して押し付けられることとなり、潤滑油が効率よく塗布される。突出部534の位置、大きさおよび突起の高さは、レールの寸法や求められる潤滑の程度等に応じて変更できる。突出部534を無くして、潤滑部材530の側面の全体がカバー520と当接する構成としてもよい。第3部分533の底面には、下方に突出する凸部535が形成されている。凸部535と、ケース510の肉厚部513とが組み合わさることによって、潤滑部材530とケース510との位置決めが容易にできる。
【0036】
図4、
図5を参照して、ケース510の第1面510aと第2面510bとの距離を保持し、また、潤滑部材530を保護するために、第1固定部材であるねじ81の挿通される位置にカラー540が配置される。カラー540は、金属製または樹脂製のチューブ状の部材である。カラー540の厚みL
4は、ケース510の第1面510aと第2面510bの内寸L
1とほぼ等しい。
【0037】
図7は潤滑油供給装置500に含まれるカバー520の平面図である。
図8はカバー520の斜視図である。
図4、7、8を参照して、カバー520は、幅方向に延びる上面部521と、上面部521の両端から垂下する側面部522と、を含む。上面部521の中央の下面には、第2固定部材であるねじ82(
図5)が挿通されるねじ穴である穴527が設けられた突出部である、部分523が設けられている。穴527は、ケース510における穴517と対応する位置に形成されている。穴527の径は、ねじ82の胴部の径に適合されている。カバー520は、上面と側面とから構成される。また、カバー520は、上面を除いて、幅方向に内方に突出する部分を含まない。さらに、カバー520は、ねじ81およびカラー540と干渉しないように、ねじ81およびカラー540に相当する部分を避けた形状とされている。これらの構成によって、カバー520は、ねじ81が固定された状態であっても、ねじ81によって固定されることがなく、取り外しおよび取り付けすることが可能である。
【0038】
図4を参照して、カバー520の厚みL
5は、潤滑部材530の厚みL
3とほぼ等しく形成される。カバー520の厚みL
5は、ケース510の側面部分510dと側面部分510eとの離間部の長さL
2よりも大きい。この構成によって、側面部分510dと側面部分510eとによって、カバー520の側面が保持される。さらに、カバー520の厚みL
5は、ケース510の内寸L
1およびカラー540の厚みL
4よりも0.1~1mm程度小さい。この構成によって、ケース510およびカラー540が固定されたままの状態で、カバー520のみを取り外すことができる。カバー520は、例えば樹脂または鋼材からなるもの、あるいはそれらの組み合わせとできるが、材質は特に制限されない。
【0039】
図7、
図8を参照して、カバー520の側面部分522は、先端に向かって細くなるテーパ部524を有する。テーパ部524によって、カバー520をケース510に挿入することがより容易になる。また、カバー520における上面部521と側面部522との間の屈曲部分は、外面が面取りされており、内面は肉厚に形成されている。この形態によって、カバー520の強度を向上させ、取り外しや挿入時の破損を防止できる。
【0040】
前述の構成を有する潤滑油供給装置500は、エンドキャップ120を固定するねじ81を緩めることなく、潤滑部材530を交換することが可能である。また、潤滑部材530を配設しているケース510のカバー520を外すことで容易に交換が可能である。直動案内ユニットを長期使用すると、軌道面から摩耗紛が発生し、摩耗粉によって潤滑部材の目詰まりが生じることがあるが、潤滑油供給装置500によれば容易に潤滑部材530を取り換えることができ、メンテナンス性に優れる。
【0041】
次に、直動案内ユニット1のその他の構成について説明する。
図1B、
図2を参照して、直動案内ユニット1において、循環路103aを転走する転動体200aは、ケーシング110の下側の軌道路102aからケーシング110の上側の循環路103aを循環する。転動体200aは、スライダ100の下方向の負荷を受ける。循環路103bを転走する転動体200bは、ケーシング110の上側の軌道路102bから下側の循環路103bを循環するよう構成されている。転動体200bは、スライダ100の上方向の負荷を受ける。
【0042】
図1B、
図9を参照して、直動案内ユニット1において、エンドキャップ120には、軌道路102aと循環路103aとの間、軌道路102bと循環路103bとの間をそれぞれ接続する、2つの第2循環路(方向転換路)が形成されている。2つの第2循環路は、エンドキャップ120内で、たすき掛けの交差状態で形成されている。エンドキャップ120における循環路103aに接続する側には、エンドキャップ120を装着する際に位置決めを容易にするために、外周面が円筒面からなる突起が設けられている。エンドキャップ120は、レール10を跨ぐように、断面においてU字形状に形成されている。エンドキャップ120の上部中央には、グリースニップル31を挿入可能なねじ穴である穴127が形成されている。エンドキャップ120の外方に潤滑油供給装置500が取り付けられる場合、穴127はグリース導入穴として使用されないため、栓128が挿入されている。潤滑油供給装置500が取り付けられていない端面においては、エンドシール140の穴147と、エンドキャップ120の穴127とに固定ねじが挿入され、エンドシール140とエンドキャップ120とが固定されていてもよい。ケーシング110とエンドキャップ120との間には、第2循環路の一部を構成するスペーサが配置されていてもよい。エンドキャップ120には、グリースニップル31から挿入される潤滑剤を案内する油溝が形成されていてもよい。エンドキャップ120の底部のレール10と対向する位置には、アンダーシール129を配設するためのフックが設けられてもよい。
【0043】
図2を参照して、循環路103a、103bは、長手方向に沿って2分割されたパイプ111、112が組み合わされて形成されてもよい。パイプ111、112の外周面は、その一部が、ケーシング110に形成された円筒状の穴118を規定する周壁に沿う弧状に形成されている。パイプ111、112の内周面は、断面が矩形で長手方向に延在する循環路103a、103bを構成する。パイプ111、112の端部は、エンドキャップ120に形成される突起と嵌め合い可能に形成されてもよい。パイプ111、112は、潤滑油が含浸され、潤滑油を保持可能である焼結樹脂部材からなるものであってもよい。パイプ111、112が潤滑油を保持可能である焼結樹脂部材からなるものである場合、直動案内ユニット1のメンテナンス性がさらに向上する。
【0044】
図1B、
図2を参照して、軌道路102a、102bを転走する転動体200は、レール10からスライダ100を外した場合でも転動体200が脱落しないよう、保持板131および保持バンド132によって保持される。保持板131のケーシング110に対向する側には、長さ方向に延在するV字形状の溝が形成されている。保持板131のレール10に対向する側には、外側に向かって凹む凹形状の溝が、長手方向に延在している。当該凹溝には、保持バンド132が配設される。保持バンド132は、その両端がエンドキャップ120の保持バンド溝126(
図9)に嵌入するよう形成されている。
【0045】
一般に、潤滑部品への再給油を行う場合、実際に潤滑部品にどの程度の潤滑油が補充されたかを目視で判断することは難しい。本開示の直動案内ユニットによれば、潤滑部品自体を交換することで、確実に潤滑油を再供給できる。また、潤滑部品自体を交換することで、摩耗等で発生するパーティクルによる潤滑部品の目詰まりを抑制できる。本開示の直動案内ユニットによれば、潤滑部品を交換する際に、潤滑油供給装置をレールから取り外す必要がない。さらには、エンドシール等を固定したままの状態で潤滑部品を交換できる。このため、再給油や潤滑部品の交換に伴ってエンドシール等のずれが生じるおそれが少なく、直動案内ユニットが稼働している現場にて、容易にメンテナンスを行うことができる。
【0046】
(変形例)
上述の実施の形態1は1つの実施態様に過ぎず、多くの構成を変更可能である。例えば、潤滑油供給装置500におけるケース510の開口部の形状は、レール10に沿う形状に制限されない。具体的には、
図10を参照して、凸部514(
図3)を無くし、レール10の幅よりも広い開口幅を有し矩形に切り取られた凹部としてもよい。矩形に切り取られた凹部とする場合であっても、底部にはテーパ部511を設けることが好ましい。また、カバー520および潤滑部材530の形状も、本開示の効果を奏する限りにおいて変更可能である。また、潤滑油供給装置500において、第1固定部材であるねじ81を左右の2個所に設けるとともに、第2固定部材であるねじ82を中央1箇所に設ける構造としているが、この形態に限定されない。例えば、カバーを左右2分割の形態とし、さらに第2固定部材を2箇所に設けて、左右の潤滑部材をそれぞれ交換可能としてもよい。
【0047】
実施の形態1においては、2対の転動体循環路を有し、転動体としてころが用いられる直動案内ユニットであるが、転動体および転走部の形態はこれに制限されない。例えば、転動体循環路は1対であってもよい。また、転動体としてボールを用いてもよい。また、転動体の間隔を保持する保持器を備えるものでもよい。
【0048】
また、実施の形態1においては、スライダ100の一方側のみに潤滑油供給装置500が配設されているが、ケーシング110の両側に潤滑油供給装置500を配置してもよい。また、潤滑油供給装置500のみで十分な潤滑油が供給される場合等は、グリースニップル31を削除することもできる。
【0049】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1 直動案内ユニット、10 レール、100 スライダ、110 ケーシング、102a、102b 軌道路、103a、103b 循環路、111、112 パイプ、120 エンドキャップ、126 保持バンド溝、128 栓、129 アンダーシール、131 保持板、132 保持バンド、140 エンドシール、200、200a、200b 転動体、31 グリースニップル、500 潤滑油供給装置、510 ケース、511 テーパ部、512a、512b 突出部、513 肉厚部、514 凸部、520 カバー、521 上面部、522 側面部、523 部分、524 テーパ部、530 潤滑部材、531 第1部分、532 第2部分、533 第3部分、534 突出部、535 凸部、540 カラー、81、82 ねじ、11、101、115、118、127、145、147、515、517 穴、10a、10b、110a、110b 軌道面、510a、510b、510c 面、510d、510e 側面部分。