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特開2022-93955鉄道車両用の潤滑状態監視システム及び潤滑状態監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093955
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】鉄道車両用の潤滑状態監視システム及び潤滑状態監視方法
(51)【国際特許分類】
   B61K 3/02 20060101AFI20220617BHJP
   B61F 13/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B61K3/02
B61F13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206699
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504158881
【氏名又は名称】東京地下鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】317005022
【氏名又は名称】独立行政法人自動車技術総合機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】品川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】谷本 益久
(72)【発明者】
【氏名】松田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】福島 知樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 陽
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安弘
(72)【発明者】
【氏名】大野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】緒方 正剛
(57)【要約】
【課題】車輪と曲線レールとの間の潤滑状態をより安価に監視することができる、鉄道車両用の潤滑状態監視システムを提供する。
【解決手段】監視システムは、各々が一方のレール(31o)に設置された検出部(4a、5a)と、各々が他方のレール(31i)に設置された検出部(4b、5b)と、検出部(4a、4b)のそれぞれから検出値を取得して、先頭外軌側横圧(Q1o)、先頭内軌側横圧(Q1i)、後尾外軌側横圧(Q2o)、及び後尾内軌側横圧(Q2i)を算出する横圧測定部(6)と、検出部(5a、5b)のそれぞれから検出値を取得して、先頭外軌側輪重(P1o)、先頭内軌側輪重(P1i)、後尾外軌側輪重(P2o)、及び後尾内軌側輪重(P2i)を算出する輪重測定部(7)と、各横圧及び各輪重に基づいて、車輪(11o、11i、12o、12i)とレールとの間の潤滑状態を推定する潤滑状態推定部(8)と、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪と曲線路のレールとの間の潤滑状態を監視する、鉄道車両用の潤滑状態監視システムであって、
各々が曲線路の一方のレールに設置された第1横圧測定用検出部及び第1輪重測定用検出部と、
各々が前記曲線路の他方のレールに設置された第2横圧測定用検出部及び第2輪重測定用検出部と、
車両が前記曲線路を走行するときに、前記第1横圧測定用検出部及び前記第2横圧測定用検出部のそれぞれから検出値を取得する横圧測定部であって、取得した検出値に基づいて、前記車両が備える台車の先頭輪軸の外軌側車輪に作用する先頭外軌側横圧、前記先頭輪軸の内軌側車輪に作用する先頭内軌側横圧、前記台車の後尾輪軸の外軌側車輪に作用する後尾外軌側横圧、及び前記後尾輪軸の内軌側車輪に作用する後尾内軌側横圧を算出する前記横圧測定部と、
前記車両が前記曲線路を走行するときに、前記第1輪重測定用検出部及び第2輪重測定用検出部のそれぞれから検出値を取得する輪重測定部であって、取得した検出値に基づいて、前記先頭輪軸の前記外軌側車輪に作用する先頭外軌側輪重、前記先頭輪軸の前記内軌側車輪に作用する先頭内軌側輪重、前記後尾輪軸の前記外軌側車輪に作用する後尾外軌側輪重、及び前記後尾輪軸の前記内軌側車輪に作用する後尾内軌側輪重を算出する前記輪重測定部と、
前記横圧測定部で算出された前記先頭外軌側横圧、前記先頭内軌側横圧、前記後尾外軌側横圧、及び前記後尾内軌側横圧、並びに前記輪重測定部で算出された前記先頭外軌側輪重、前記先頭内軌側輪重、前記後尾外軌側輪重、及び前記後尾内軌側輪重に基づいて、前記車輪と前記レールとの間の潤滑状態を推定する潤滑状態推定部と、を備える、鉄道車両用の潤滑状態監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用の潤滑状態監視システムであって、
前記第1横圧測定用検出部及び前記第2横圧測定用検出部のそれぞれは、対応する前記レールの底部に取り付けられたひずみゲージであり、
前記第1輪重測定用検出部及び前記第2輪重測定用検出部のそれぞれは、対応する前記レールの腹部に取り付けられたひずみゲージである、鉄道車両用の潤滑状態監視システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉄道車両用の潤滑状態監視システムであって、
前記潤滑状態推定部は、下記の式(1)で表される旋回指標Y、及び下記の式(2)で表される横圧・輪重比κに基づいて、前記車輪と前記レールとの間の潤滑状態を推定する、鉄道車両用の潤滑状態監視システム。
Y={-(Q1o-Q1i)+(Q2o-Q2i)}/{(P1o+P1i+P2o+P2i)/4} (1)
κ=Q1i/P1i (2)
上記式(1)及び式(2)における各記号の意味は以下の通りである;
Q1o:前記先頭外軌側横圧、
Q1i:前記先頭内軌側横圧、
Q2o:前記後尾外軌側横圧、
Q2i:前記後尾内軌側横圧、
P1o:前記先頭外軌側輪重、
P1i:前記先頭内軌側輪重、
P2o:前記後尾外軌側輪重、及び
P2i:前記後尾内軌側輪重。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両用の潤滑状態監視システムであって、
前記潤滑状態推定部は、前記横圧・輪重比κが0.4以上の場合、前記旋回指標Yに応じて、前記車輪と前記レールとの間の潤滑状態を以下の潤滑状態(a)~(c)と判定する、鉄道車両用の潤滑状態監視システム。
(a)前記旋回指標Yが-0.2よりも大きくて0.3よりも小さい場合:前記先頭輪軸及び前記後尾輪軸の両方の前記車輪について潤滑不足の可能性がある、
(b)前記旋回指標Yが0.3以上である場合:前記先頭輪軸の前記車輪について潤滑不足で、前記後尾輪軸の前記車輪について潤滑良好の可能性がある、及び
(c)前記旋回指標Yが-0.2以下である場合:前記先頭輪軸の前記車輪について潤滑良好で、前記後尾輪軸の前記車輪について潤滑不足の可能性がある。
【請求項5】
鉄道車両の車輪と曲線路のレールとの間の潤滑状態を監視する、鉄道車両用の潤滑状態監視方法であって、
曲線路の一方のレールに第1横圧測定用検出部及び第1輪重測定用検出部が設置され、
前記曲線路の他方のレールに第2横圧測定用検出部及び第2輪重測定用検出部が設置されており、
前記潤滑状態監視方法は、
車両が前記曲線路を走行するときに、前記第1横圧測定用検出部及び前記第2横圧測定用検出部のそれぞれから検出値を取得する横圧測定ステップであって、取得した検出値に基づいて、前記車両が備える台車の先頭輪軸の外軌側車輪に作用する先頭外軌側横圧、前記先頭輪軸の内軌側車輪に作用する先頭内軌側横圧、前記台車の後尾輪軸の外軌側車輪に作用する後尾外軌側横圧、及び前記後尾輪軸の内軌側車輪に作用する後尾内軌側横圧を算出する前記横圧測定ステップと、
前記車両が前記曲線路を走行するときに、前記第1輪重測定用検出部及び第2輪重測定用検出部のそれぞれから検出値を取得する輪重測定ステップであって、取得した検出値に基づいて、前記先頭輪軸の前記外軌側車輪に作用する先頭外軌側輪重、前記先頭輪軸の前記内軌側車輪に作用する先頭内軌側輪重、前記後尾輪軸の前記外軌側車輪に作用する後尾外軌側輪重、及び前記後尾輪軸の前記内軌側車輪に作用する後尾内軌側輪重を算出する前記輪重測定ステップと、
前記横圧測定ステップで算出された前記先頭外軌側横圧、前記先頭内軌側横圧、前記後尾外軌側横圧、及び前記後尾内軌側横圧、並びに前記輪重測定ステップで算出された前記先頭外軌側輪重、前記先頭内軌側輪重、前記後尾外軌側輪重、及び前記後尾内軌側輪重に基づいて、前記車輪と前記レールとの間の潤滑状態を推定する潤滑状態推定ステップと、を備える、鉄道車両用の潤滑状態監視方法。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道車両用の潤滑状態監視方法であって、
前記潤滑状態推定ステップは、下記の式(1)で表される旋回指標Y、及び下記の式(2)で表される横圧・輪重比κに基づいて、前記車輪と前記レールとの間の潤滑状態を推定する、鉄道車両用の潤滑状態監視方法。
Y={-(Q1o-Q1i)+(Q2o-Q2i)}/{(P1o+P1i+P2o+P2i)/4} (1)
κ=Q1i/P1i (2)
上記式(1)及び式(2)における各記号の意味は以下の通りである;
Q1o:前記先頭外軌側横圧、
Q1i:前記先頭内軌側横圧、
Q2o:前記後尾外軌側横圧、
Q2i:前記後尾内軌側横圧、
P1o:前記先頭外軌側輪重、
P1i:前記先頭内軌側輪重、
P2o:前記後尾外軌側輪重、及び
P2i:前記後尾内軌側輪重。
【請求項7】
請求項6に記載の鉄道車両用の潤滑状態監視方法であって、
前記潤滑状態推定ステップは、前記横圧・輪重比κが0.4以上の場合、前記旋回指標Yに応じて、前記車輪と前記レールとの間の潤滑状態を以下の潤滑状態(a)~(c)と判定する、鉄道車両用の潤滑状態監視方法。
(a)前記旋回指標Yが-0.2よりも大きくて0.3よりも小さい場合:前記先頭輪軸及び前記後尾輪軸の両方の前記車輪について潤滑不足の可能性がある、
(b)前記旋回指標Yが0.3以上である場合:前記先頭輪軸の前記車輪について潤滑不足で、前記後尾輪軸の前記車輪について潤滑良好の可能性がある、及び
(c)前記旋回指標Yが-0.2以下である場合:前記先頭輪軸の前記車輪について潤滑良好で、前記後尾輪軸の前記車輪について潤滑不足の可能性がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両用の潤滑状態監視システム及び潤滑状態監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、台車と、台車上に支持された車体と、を備える。台車は輪軸を備え、輪軸の両端部のそれぞれに車輪が設けられている。車両はレール上を走行する。
【0003】
例えば都市部では、レールを敷設する場所が制限されるため、曲線路が多い。車両が曲線路を走行するとき、車輪とレールとの間に摩擦が生じる。車輪とレールとの間の摩擦係数が極端に大きいと、騒音や振動が発生したり、レールや車輪が摩耗したりする。一方、車輪とレールとの間の摩擦係数が極端に小さいと、制動のときに車両が止まらない。このため、曲線路において、適度な摩擦が生じるように、車輪とレールとの間の潤滑を管理することが望ましい。特に、台車の先頭輪軸の外軌側車輪はレールと激しく接触するため、先頭輪軸の外軌側車輪とレールとの間の潤滑の管理が必要となる。
【0004】
車輪と曲線レールとの間の潤滑を管理するために、車輪やレールに潤滑剤(例:グリス、摩擦調整剤)が供給される。潤滑剤の供給は、例えば、地上に設置された供給装置や台車に搭載された供給装置によって行われる。
【0005】
旧来、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を測定する技術がなかったことから、潤滑状態の把握は極めて難しかった。このため、潤滑剤の過剰な供給によって必要以上に潤滑剤が消費されても、その事態を認識できなかった。また、潤滑剤供給の過小な設定や供給装置の故障によって潤滑剤の供給が不足しても、その事態を認識できなかった。
【0006】
このような不都合に対し、特開2006-188208号公報(特許文献1)には、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を監視する技術が示唆されている。特許文献1に開示される従来技術では、曲線路を走行する車両において、後尾輪軸の車輪に作用する上下力(輪重)の検出値と、その車輪に作用する前後力(接線力)の検出値と、に基づいて、車輪とレールとの間の摩擦係数を算出する。この摩擦係数により、車輪とレールとの間の潤滑状態を監視する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-188208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される従来技術では、各検出値は、台車に設けられた検出部から得られる。この場合、運行する車両の全てに特殊な台車が必要となる。これはコストの面で困難であり、従来技術は一部の車両への導入にとどまっている。
【0009】
本開示の目的は、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態をより安価に監視することができる、鉄道車両用の潤滑状態監視システム及び潤滑状態監視方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る鉄道車両用の潤滑状態監視システムは、鉄道車両の車輪と曲線路のレールとの間の潤滑状態を監視する。当該潤滑状態監視システムは、各々が曲線路の一方のレールに設置された第1横圧測定用検出部及び第1輪重測定用検出部と、各々が曲線路の他方のレールに設置された第2横圧測定用検出部及び第2輪重測定用検出部と、横圧測定部と、輪重測定部と、潤滑状態推定部と、を備える。
【0011】
横圧測定部は、車両が曲線路を走行するときに、第1横圧測定用検出部及び第2横圧測定用検出部のそれぞれから検出値を取得し、取得した検出値に基づいて、先頭外軌側横圧、先頭内軌側横圧、後尾外軌側横圧、及び後尾内軌側横圧を算出する。先頭外軌側横圧は、車両が備える台車の先頭輪軸の外軌側車輪に作用するものである。先頭内軌側横圧は、先頭輪軸の内軌側車輪に作用するものである。後尾外軌側横圧は、台車の後尾輪軸の外軌側車輪に作用するものである。後尾内軌側横圧は、後尾輪軸の内軌側車輪に作用するものである。
【0012】
輪重測定部は、車両が曲線路を走行するときに、第1輪重測定用検出部及び第2輪重測定用検出部のそれぞれから検出値を取得し、取得した検出値に基づいて、先頭外軌側輪重、先頭内軌側輪重、後尾外軌側輪重、及び後尾内軌側輪重を算出する。先頭外軌側輪重は、先頭輪軸の外軌側車輪に作用するものである。先頭内軌側輪重は、先頭輪軸の内軌側車輪に作用するものである。後尾外軌側輪重は、後尾輪軸の外軌側車輪に作用するものである。後尾内軌側輪重は、後尾輪軸の内軌側車輪に作用するものである。
【0013】
潤滑状態推定部は、横圧測定部で算出された先頭外軌側横圧、先頭内軌側横圧、後尾外軌側横圧、及び後尾内軌側横圧、並びに輪重測定部で算出された先頭外軌側輪重、先頭内軌側輪重、後尾外軌側輪重、及び後尾内軌側輪重に基づいて、車輪とレールとの間の潤滑状態を推定する。
【0014】
本開示に係る鉄道車両用の潤滑状態監視方法は、鉄道車両の車輪と曲線路のレールとの間の潤滑状態を監視する。曲線路の一方のレールに第1横圧測定用検出部及び第1輪重測定用検出部が設置され、曲線路の他方のレールに第2横圧測定用検出部及び第2輪重測定用検出部が設置されている。当該潤滑状態監視方法は、横圧測定ステップと、輪重測定ステップと、潤滑状態推定ステップと、を備える。
【0015】
横圧測定ステップは、車両が曲線路を走行するときに、第1横圧測定用検出部及び第2横圧測定用検出部のそれぞれから検出値を取得し、取得した検出値に基づいて、先頭外軌側横圧、先頭内軌側横圧、後尾外軌側横圧、及び後尾内軌側横圧を算出する。先頭外軌側横圧は、車両が備える台車の先頭輪軸の外軌側車輪に作用するものである。先頭内軌側横圧は、先頭輪軸の内軌側車輪に作用するものである。後尾外軌側横圧は、台車の後尾輪軸の外軌側車輪に作用するものである。後尾内軌側横圧は、後尾輪軸の内軌側車輪に作用するものである。
【0016】
輪重測定ステップは、車両が曲線路を走行するときに、第1輪重測定用検出部及び第2輪重測定用検出部のそれぞれから検出値を取得し、取得した検出値に基づいて、先頭外軌側輪重、先頭内軌側輪重、後尾外軌側輪重、及び後尾内軌側輪重を算出する。先頭外軌側輪重は、先頭輪軸の外軌側車輪に作用するものである。先頭内軌側輪重は、先頭輪軸の内軌側車輪に作用するものである。後尾外軌側輪重は、後尾輪軸の外軌側車輪に作用するものである。後尾内軌側輪重は、後尾輪軸の内軌側車輪に作用するものである。
【0017】
潤滑状態推定ステップは、横圧測定ステップで算出された先頭外軌側横圧、先頭内軌側横圧、後尾外軌側横圧、及び後尾内軌側横圧、並びに輪重測定ステップで算出された先頭外軌側輪重、先頭内軌側輪重、後尾外軌側輪重、及び後尾内軌側輪重に基づいて、車輪とレールとの間の潤滑状態を推定する。
【発明の効果】
【0018】
本開示に係る鉄道車両用の潤滑状態監視システム及び潤滑状態監視方法によれば、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態をより安価に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、曲線路を走行する車両の車輪に作用する各力を示す模式図である。
図2図2は、旋回指標Yがゼロ付近の場合に、曲線路を走行する車両の車輪に作用する接線力を示す模式図である。
図3図3は、旋回指標Yが大きい場合に、曲線路を走行する車両の車輪に作用する接線力を示す模式図である。
図4図4は、旋回指標Yが小さい場合に、曲線路を走行する車両の車輪に作用する接線力を示す模式図である。
図5図5は、台上試験による結果をまとめた図である。
図6図6は、車両の実走行による実績をまとめた図である。
図7図7は、潤滑状態監視システムの全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を重ね、その結果下記の知見を得た。
【0021】
[基本検討]
車輪と曲線レールとの間の潤滑状態は、両者の間の摩擦係数によって監視できる。摩擦係数は、車輪に作用する接線力及び輪重から算出できる。そうすると、潤滑状態を監視するには、車輪に作用する接線力及び輪重を測定できればよいと言える。ここで、接線力を直接測定するには、検出部を台車に設けなければならない。そのため、従来技術では、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を監視するのに、検出部を台車に設け、この検出部の検出値から得られる接線力を用いている。この場合、上記の課題が生じる。
【0022】
そこで、本発明者らは、検出部を地上のレールに設け、この検出部の検出値を用いて車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を監視することができないかを検討した。つまり、本発明者らは、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を監視するのに、接線力を直接測定するのではなく、接線力に代わる他の指標の導入を検討した。
【0023】
本明細書において、車両が曲線路を走行するときに車輪に作用する各力(接線力、横圧及び輪重)の意味は、以下の通りである。接線力は、レールが車輪を前後方向に押す力を意味する。接線力は、レールが車輪から受ける前後方向の力とも言える。横圧は、レールが車輪を左右方向に押す力を意味する。横圧は、レールが車輪から受ける左右方向の力とも言える。輪重は、レールが車輪を上下方向に押す力を意味する。輪重は、レールが車輪から受ける上下方向の力とも言える。ここで、前後方向は、車両が走行する方向であり、レールの延びる方向である。左右方向は、レールの延びる方向に垂直な水平方向であり、レールの幅方向に相当する。上下方向は、レールの延びる方向に垂直な鉛直方向であり、レールの高さ方向に相当する。
【0024】
図1は、曲線路を走行する車両の車輪11o、11i、12o及び12iに作用する各力を示す模式図である。図1には、外軌側レール31o及び内軌側レール31iからなる曲線路を車両が走行するときの台車1の上面図が示される。図1中の白抜き矢印は、車両が進む方向を意味する。
【0025】
図1を参照して、台車1は、車両が進む方向の前側に配置される先頭輪軸11と、車両が進む方向の後側に配置される後尾輪軸12と、を備える。先頭輪軸11は、外軌側レール31oに対応する外軌側車輪11oと、内軌側レール31iに対応する内軌側車輪11iと、を備える。これらの外軌側車輪11o及び内軌側車輪11iは、先頭輪軸11の両端部に設けられ、先頭輪軸11と一体で軸回転する。後尾輪軸12は、外軌側レール31oに対応する外軌側車輪12oと、内軌側レール31iに対応する内軌側車輪12iと、を備える。これらの外軌側車輪12o及び内軌側車輪12iは、後尾輪軸12の両端部に設けられ、後尾輪軸12と一体で軸回転する。
【0026】
車両が曲線路を走行するとき、先頭輪軸11及び後尾輪軸12の各車輪11o、11i、12o及び12iには、下記の力が作用する。先頭輪軸11の外軌側車輪11oには、接線力T1o、横圧Q1o、及び輪重P1o(図示省略)が作用する。先頭輪軸11の内軌側車輪11iには、接線力T1i、横圧Q1i、及び輪重P1i(図示省略)が作用する。後尾輪軸12の外軌側車輪12oには、接線力T2o、横圧Q2o、及び輪重P2o(図示省略)が作用する。後尾輪軸12の内軌側車輪12iには、接線力T2i、横圧Q2i、及び輪重P2i(図示省略)が作用する。
【0027】
ここで、先頭輪軸11において、外軌側車輪11oに作用する接線力T1oと内軌側車輪11iに作用する接線力T1iは、互いに先頭輪軸11の長手方向の中心11c回りに先頭輪軸11をねじる力となるため、点対称に発生する。このため、先頭外軌側接線力T1oの大きさは、先頭内軌側接線力T1iの大きさと等しい。これらの接線力T1o及びT1iを総称して先頭側接線力T1とも言う。これと同様に、後尾輪軸12において、外軌側車輪12oに作用する接線力T2oと内軌側車輪12iに作用する接線力T2iは、互いに後尾輪軸12の長手方向の中心12c回りに後尾輪軸12をねじる力となるため、点対称に発生する。このため、後尾外軌側接線力T2oの大きさは、後尾内軌側接線力T2iの大きさと等しい。これらの接線力T2o及びT2iを総称して後尾側接線力T2とも言う。
【0028】
図1に示す各力により、台車1には、台車1の中心1c回りに下記の式(i)で表される操舵モーメントMaが発生する。操舵モーメントMaは、台車1が曲線路に沿うように、台車1を曲線路の内側に旋回させるモーメントである。また、台車1には、台車1の中心1c回りに下記の式(ii)で表される反操舵モーメントMbが発生する。反操舵モーメントMbは、操舵モーメントMaと逆向きのモーメントである。つまり、反操舵モーメントMbは、台車1が曲線路から離れるように、台車1を曲線路の外側に旋回させるモーメントである。
【0029】
Ma=2×b×(T1+T2)+a×(Q1o+Q2i) (i)
Mb=a×(Q1i+Q2o) (ii)
【0030】
上記式(i)及び式(ii)において、aは、先頭輪軸11と後尾輪軸12との間隔の半分の距離を意味し、bは、先頭輪軸11及び後尾輪軸12のそれぞれにおける外軌側車輪11o及び12oと内軌側車輪11i及び12iとの間隔の半分の距離を意味する。つまり、aは、台車1の中心1cから先頭輪軸11までの前後方向の距離、又は台車1の中心1cから後尾輪軸12までの前後方向の距離を意味する。bは、先頭輪軸11の中心11cから外軌側車輪11oまでの左右方向の距離、先頭輪軸11の中心11cから内軌側車輪11iまでの左右方向の距離、後尾輪軸12の中心12cから外軌側車輪12oまでの左右方向の距離、又は後尾輪軸12の中心12cから内軌側車輪12iまでの左右方向の距離を意味する。a及びbの意味は、本明細書における他の式でもこれと同様である。
【0031】
各車輪11o、11i、12o及び12iが外軌側レール31o及び内軌側レール31iに束縛されながら、車両は曲線路を走行するため、操舵モーメントMaと反操舵モーメントMbは釣り合う。つまり、操舵モーメントMaは反操舵モーメントMbと等しい。したがって、下記の式(iii)の関係が成り立つ。
【0032】
-(Q1o-Q1i)+(Q2o-Q2i)=c×(T1+T2) (iii)
【0033】
上記式(iii)において、cは「2×b/a」である。つまり、cは、台車1のサイズから決まる係数である。
【0034】
ただし、実際に車両が曲線路を走行するとき、車体から台車1に、台車1を曲線路の外側に旋回させる力が働く。このため、上記式(iii)は下記の式(iv)に書き換えられる。
【0035】
-(Q1o-Q1i)+(Q2o-Q2i)=c×(T1+T2)-k (iv)
【0036】
上記式(iv)において、kは、車体が台車1に及ぼす力から決まる定数である。例えば、台車1がボルスタレス台車である場合、台車枠上に空気ばねが設置され、この空気ばねによって車体は支持される。この場合、定数kは、空気ばねの水平方向の抵抗力から決まる。台車1がボルスタ台車である場合、台車枠上に枕ばりが回動可能に設置され、この枕ばり上に設置された空気ばねによって車体は支持される。この場合、定数kは、枕ばりが回動するときの水平方向の抵抗力から決まる。
【0037】
ここで、各接線力T1及びT2、並びに各横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2iは乗車率(車輪が支える上下方向の重量)の影響を受ける。同様に、上記式(iv)中のkは乗車率の影響を受ける。そこで、乗車率の影響をなくすために、上記式(iv)の左辺及び右辺を平均輪重Pで割って無次元化する。これにより、上記式(iv)は下記の式(v)に書き換えられる。
【0038】
{-(Q1o-Q1i)+(Q2o-Q2i)}/P={c×(T1+T2)-k}/P (v)
【0039】
上記式(v)において、平均輪重Pは、4つの車輪11o、11i、12o及び12iに作用する平均の輪重であり、“(P1o+P1i+P2o+P2i)/4”を意味する。
【0040】
上記式(v)の関係より、左辺に示される横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2iは、右辺に示される接線力T1及びT2と相関することがわかる。このため、横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2iから接線力T1及びT2を推定できる。そうすると、各横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2i、並びに各輪重P1o、P1i、P2o及びP2iを測定すれば、接線力T1及びT2を測定するのと同様に、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を監視することができると言える。
【0041】
各横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2i、並びに各輪重P1o、P1i、P2o及びP2iは、地上のレールに設けた検出部からの検出値によって算出できる。
【0042】
例えば、各横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2iを測定するための検出部として、ひずみゲージを適用することができる。このひずみゲージは、外軌側レール31o及び内軌側レール31iそれぞれの底部に取り付けられる。各車輪11o、11i、12o及び12iがひずみゲージの位置を通過したとき、ひずみゲージは、検出値として各レール31o及び31iの左右方向のひずみを検出する。検出値より、各横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2iを算出することができる。
【0043】
また、各輪重P1o、P1i、P2o及びP2iを測定するための検出部として、ひずみゲージを適用することができる。このひずみゲージは、外軌側レール31o及び内軌側レール31iそれぞれの腹部に取り付けられる。各車輪11o、11i、12o及び12iがひずみゲージの位置を通過したとき、ひずみゲージは、検出値として各レール31o及び31iの上下方向のひずみを検出する。検出値より、各輪重P1o、P1i、P2o及びP2iを算出することができる。
【0044】
上記式(v)の左辺及び右辺はいずれも、車両が曲線路を走行するときに台車1を旋回させる力の度合いを示す。本明細書において、上記式(v)の左辺を旋回指標Yと称する。上記(v)式の右辺を旋回指標Yと称することもできる。上記式(v)より、旋回指標Yは、下記の式(vi)で表される。
【0045】
Y={-(Q1o-Q1i)+(Q2o-Q2i)}/{(P1o+P1i+P2o+P2i)/4}={c×(T1+T2)-k}/{(P1o+P1i+P2o+P2i)/4} (vi)
【0046】
上記式(vi)より、旋回指標Yは、先頭側接線力T1と後尾側接線力T2の和が主な項である。一般に、先頭側接線力T1は正の値を取り、後尾側接線力T2は負の値を取る。これは以下の理由による。
【0047】
車両が曲線路を走行するとき、先頭輪軸11は曲線路の左右方向の外側に変位する。この場合、先頭輪軸11において、外軌側車輪11oは直径の大きい部分で外軌側レール31oと接触し、内軌側車輪11iは直径の小さい部分で内軌側レール31iと接触する。このため、外軌側レール31oに対する外軌側車輪11oの周長は、内軌側レール31iに対する内軌側車輪11iの周長よりも大きい。つまり、外軌側車輪11oの周長と内軌側車輪11iの周長との間に差が生じる。これにより、台車1が曲線路に沿うように、先頭輪軸11には、台車1を曲線路の内側に旋回させるモーメントが作用する。その結果、先頭側接線力T1は正の値となり、先頭外軌側接線力T1oの向きが車両の進む方向となる。
【0048】
これに対し、後尾輪軸12は曲線路の左右方向にほとんど変位しない。この場合、後尾輪軸12において、外軌側レール31oに対する外軌側車輪12oの周長は、内軌側レール31iに対する内軌側車輪12iの周長とほぼ等しい。これにより、台車1が直進するように、後尾輪軸12には、台車1を曲線路の外側に旋回させるモーメントが作用する。その結果、後尾側接線力T2は負の値となり、後尾外軌側接線力T2oの向きが車両の進む方向とは反対方向となる。
【0049】
したがって、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の摩擦係数が相互にほぼ同じである場合、先頭側接線力T1と後尾側接線力T2は打ち消し合う。この場合、旋回指標Yはゼロ付近の値を取る。上記式(vi)において、先頭側接線力T1及び後尾側接線力T2の項がほぼゼロであっても、定数kの項が存在するからである。ただし、定数kは、先頭側接線力T1及び後尾側接線力T2よりも遥かに小さい。このため、定数kの項は無視できるほど小さい。
【0050】
ここで、先頭輪軸11の各車輪11o及び11iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の摩擦係数が、後尾輪軸12の各車輪12o及び12iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の摩擦係数と異なる場合について、摩擦係数が旋回指標Yに与える影響を以下に検討する。
【0051】
先頭輪軸11において、各車輪11o及び11iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の潤滑状態が向上して、両者の間の摩擦係数が低下した場合、外軌側車輪11oの周長と内軌側車輪11iの周長との間に差が生じても、各車輪11o及び11iが曲線レールに対して滑る。この場合、先頭側接線力T1が小さくなる。このため、旋回指標Yが小さくなる。
【0052】
一方、後尾輪軸12において、各車輪12o及び12iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の潤滑状態が向上して、両者の間の摩擦係数が低下した場合、各車輪12o及び12iが曲線レールに対して滑ることから、台車1が直進しようとする作用は弱まる。この場合、負の値の後尾側接線力T2はゼロに近づく。このため、旋回指標Yが大きくなる。
【0053】
したがって、旋回指標Yに応じて、各車輪11o、11i、12o及び12iに関する摩擦係数をある程度推定することができる。要するに、各横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2i、並びに各輪重P1o、P1i、P2o及びP2iを測定すれば、上記式(vi)で表される旋回指標Yを算出でき、この旋回指標Yに応じて、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の潤滑状態を推定することができる。
【0054】
[潤滑状態の具体例]
以下に、図2図4を参照して、旋回指標Yに応じた潤滑状態の具体例を説明する。
【0055】
図2は、旋回指標Yがゼロ付近の場合に、曲線路を走行する車両の車輪11o、11i、12o及び12iに作用する先頭側接線力T1及び後尾側接線力T2を示す模式図である。本明細書において、図2の場合の潤滑状態を潤滑状態(A)とも言う。
【0056】
図2を参照して、先頭側接線力T1が後尾側接線力T2の絶対値とほぼ等しい場合、先頭輪軸11の各車輪11o及び11iに関する摩擦係数は、後尾輪軸12の各車輪12o及び12iに関する摩擦係数とほぼ等しい。このため、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の潤滑状態は、いずれもドライか、又はいずれもウェットと推定できる。
【0057】
潤滑状態(A)において、先頭輪軸11の各車輪11o及び11iに関する潤滑状態がドライであれば、先頭側接線力T1が大きい。さらに、後尾輪軸12の各車輪12o及び12iに関する潤滑状態もドライであれば、後尾側接線力T2の絶対値が大きい。この場合、旋回指標Yがゼロ付近になる。これに対して、先頭輪軸11の各車輪11o及び11iに関する潤滑状態がウェットであれば、先頭側接線力T1が小さい。さらに、後尾輪軸12の各車輪12o及び12iに関する潤滑状態もウェットであれば、後尾側接線力T2の絶対値が小さい。この場合も、旋回指標Yがゼロ付近になる。
【0058】
図3は、旋回指標Yが大きい場合に、曲線路を走行する車両の車輪11o、11i、12o及び12iに作用する先頭側接線力T1及び後尾側接線力T2を示す模式図である。本明細書において、図3の場合の潤滑状態を潤滑状態(B)とも言う。
【0059】
図3を参照して、後尾側接線力T2の絶対値が低下した場合、後尾輪軸12について外軌側車輪12o及び内軌側車輪12iの少なくとも一方に関する摩擦係数が低下している。先頭輪軸11の各車輪11o及び11iに関する摩擦係数は高い。このため、後尾輪軸12において、外軌側車輪12o及び内軌側車輪12iの少なくとも一方と曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の潤滑状態はウェットと推定できる。先頭輪軸11の各車輪11o及び11iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の潤滑状態はドライと推定できる。
【0060】
潤滑状態(B)では、後尾輪軸12における外軌側車輪12o及び内軌側車輪12iの少なくとも一方に関する潤滑状態がウェットであるため、後尾側接線力T2の絶対値が小さい。先頭輪軸11の各車輪11o及び11iに関する潤滑状態がドライであるため、先頭側接線力T1が大きい。この場合、旋回指標Yが大きくなる。
【0061】
図4は、旋回指標Yが小さい場合に、曲線路を走行する車両の車輪11o、11i、12o及び12iに作用する先頭側接線力T1及び後尾側接線力T2を示す模式図である。本明細書において、図4の場合の潤滑状態を潤滑状態(C)とも言う。
【0062】
図4を参照して、先頭側接線力T1が低下した場合、先頭輪軸11について外軌側車輪11o及び内軌側車輪11iの少なくとも一方に関する摩擦係数が低下している。後尾輪軸12の各車輪12o及び12iに関する摩擦係数は高い。このため、先頭輪軸11において、外軌側車輪11o及び内軌側車輪11iの少なくとも一方と曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の潤滑状態はウェットと推定できる。後尾輪軸12の各車輪12o及び12iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の潤滑状態はドライと推定できる。
【0063】
潤滑状態(C)では、先頭輪軸11における外軌側車輪11o及び内軌側車輪11iの少なくとも一方に関する潤滑状態がウェットであるため、先頭側接線力T1が小さい。後尾輪軸12の各車輪12o及び12iに関する潤滑状態がドライであるため、後尾側接線力T2の絶対値が大きい。この場合、旋回指標Yが小さくなる。
【0064】
潤滑状態(A)~(C)のいずれの場合も、先頭輪軸11の内軌側車輪11iに関する摩擦係数は、先頭輪軸11の内軌側車輪11iにおける横圧・輪重比κと等しいことが知られている。横圧・輪重比κは、先頭内軌側横圧Q1iと先頭内軌側輪重P1iとの比であり、下記の式(vii)で表される。
【0065】
κ=Q1i/P1i (vii)
【0066】
横圧・輪重比κが小さければ、先頭輪軸11の内軌側車輪11iに関する摩擦係数が小さい。この場合、先頭側接線力T1が小さく、先頭輪軸11の内軌側車輪11iと内軌側レール31iとの間の潤滑状態はウェットと推定できる。一方、横圧・輪重比κが大きければ、先頭輪軸11の内軌側車輪11iに関する摩擦係数が大きい。この場合、先頭輪軸11の内軌側車輪11iと内軌側レール31iとの間の潤滑状態はドライと推定できる。要するに、横圧・輪重比κに応じて、先頭輪軸11の内軌側車輪11iと内軌側レール31iとの間の潤滑状態を推定できる。
【0067】
[潤滑状態の実態]
以下に、図5及び図6を参照して、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態の実態を説明する。
【0068】
上記の推測を検証するため、台上試験を実施した。台上試験では、試験用の台車を試験装置に取り付け、曲線路を走行する車両を模擬した。試験において、各車輪に関する潤滑状態を種々変更し、各車輪に作用する横圧及び輪重を測定した。潤滑状態は下記の6条件とした。各条件において、ウェットの潤滑状態は、該当する車輪にグリスを塗布することにより実現した。ドライの潤滑状態では、該当する車輪にグリスを塗布しなかった。
【0069】
・条件1:4つの車輪の全てについて潤滑状態をドライとした。
・条件2:先頭輪軸の外軌側車輪について潤滑状態をウェットとした。その他の車輪について潤滑状態をドライとした。
・条件3:先頭輪軸の内軌側車輪及び外軌側車輪、並びに後尾輪軸の内軌側車輪について潤滑状態をウェットとした。その他の車輪について潤滑状態をドライとした。
・条件4:先頭輪軸の内軌側車輪及び後尾輪軸の内軌側車輪について潤滑状態をウェットとした。その他の車輪について潤滑状態をドライとした。
・条件5:先頭輪軸の内軌側車輪について潤滑状態をウェットとした。その他の車輪について潤滑状態をドライとした。
・条件6:後尾輪軸の内軌側車輪について潤滑状態をウェットとした。その他の車輪について潤滑状態をドライとした。
【0070】
図5は、台上試験による結果をまとめた図である。図5において、横軸は、先頭輪軸の内軌側車輪の横圧・輪重比κを示し、縦軸は、旋回指標Yを示す。横圧・輪重比κ及び旋回指標Yは、試験装置で測定した横圧及び輪重より算出した。
【0071】
図5を参照して、条件3、4及び5の場合、横圧・輪重比κが小さい。具体的には、横圧・輪重比κが0.4よりも小さい。これは、先頭輪軸の内軌側車輪に関する潤滑状態がウェットであることによる。これらの条件のいずれの場合でも、旋回指標Yがゼロ付近となっている。一方、先頭輪軸の内軌側車輪に関する潤滑状態がウェットであるため、当該車輪に関する摩擦係数が小さく、先頭側接線力T1が小さい。したがって、横圧・輪重比κが0.4よりも小さければ、先頭輪軸の各車輪の潤滑状態は問題視されない。
【0072】
条件1、2及び6の場合、横圧・輪重比κが大きい。具体的には、横圧・輪重比κが0.4以上である。これは、先頭輪軸の内軌側車輪に関する潤滑状態がドライであることによる。
【0073】
ここで、条件1の場合、旋回指標Yがゼロ付近となっている。具体的には、旋回指標Yが-0.2よりも大きくて0.3よりも小さい。また、条件1の場合、先頭輪軸の各車輪に関する潤滑状態がドライである。さらに、条件1の場合、後尾輪軸の各車輪に関する潤滑状態もドライである。したがって、この条件1の潤滑状態は、上記した潤滑状態(A)に相当する。したがって、横圧・輪重比κが0.4以上であり、且つ旋回指標Yが-0.2よりも大きくて0.3よりも小さい場合、先頭輪軸及び後尾輪軸の両方の車輪について潤滑不足の可能性がある。
【0074】
条件6の場合、旋回指標Yが大きい。具体的には、旋回指標Yが0.3以上である。また、条件6の場合、後尾輪軸の内軌側車輪に関する潤滑状態がウェットである。さらに、条件6の場合、先頭輪軸の外軌側車輪及び後尾輪軸の外軌側車輪に関する潤滑状態はドライである。したがって、この条件6の潤滑状態は、上記した潤滑状態(B)に相当する。したがって、横圧・輪重比κが0.4以上であり、且つ旋回指標Yが0.3以上である場合、先頭輪軸の車輪について潤滑不足で、後尾輪軸の車輪について潤滑良好の可能性がある。
【0075】
条件2の場合、旋回指標Yが小さい。具体的には、旋回指標Yが-0.2以下である。また、条件2の場合、先頭輪軸の外軌側車輪に関する潤滑状態がウェットである。さらに、条件2の場合、後尾輪軸の各車輪に関する潤滑状態はドライである。したがって、この条件2の潤滑状態は、上記した潤滑状態(C)に相当する。したがって、横圧・輪重比κが0.4以上であり、且つ旋回指標Yが-0.2以下である場合、先頭輪軸の車輪について潤滑良好で、後尾輪軸の車輪について潤滑不足の可能性がある。
【0076】
続いて、実走行の状況を調査した。実際に曲線路のレールにひずみゲージを取り付け、車両を実走行させた。その際、ひずみゲージからの検出値を取得し、各車輪に作用する横圧及び輪重を測定した。
【0077】
図6は、車両の実走行による実績をまとめた図である。図6において、横軸は、先頭輪軸の内軌側車輪の横圧・輪重比κを示し、縦軸は、旋回指標Yを示す。横圧・輪重比κ及び旋回指標Yは、車両の実走行中に測定した横圧及び輪重より算出した。
【0078】
図6を参照して、横圧・輪重比κが広範に分散していることがわかる。さらに、旋回指標Yは-0.2から0.3までの範囲内に分散し、ゼロ付近となっていることがわかる。このことから、調査した実績では、車両と曲線レールとの間には潤滑状態(A)が生じていることがわかる。
【0079】
本実施形態に係る鉄道車両用の潤滑状態監視システム及び潤滑状態監視方法は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0080】
本実施形態に係る鉄道車両用の潤滑状態監視システムは、鉄道車両の車輪と曲線路のレールとの間の潤滑状態を監視する。当該潤滑状態監視システムは、各々が曲線路の一方のレールに設置された第1横圧測定用検出部及び第1輪重測定用検出部と、各々が曲線路の他方のレールに設置された第2横圧測定用検出部及び第2輪重測定用検出部と、横圧測定部と、輪重測定部と、潤滑状態推定部と、を備える。
【0081】
横圧測定部は、車両が曲線路を走行するときに、第1横圧測定用検出部及び第2横圧測定用検出部のそれぞれから検出値を取得し、取得した検出値に基づいて、先頭外軌側横圧、先頭内軌側横圧、後尾外軌側横圧、及び後尾内軌側横圧を算出する。先頭外軌側横圧は、車両が備える台車の先頭輪軸の外軌側車輪に作用するものである。先頭内軌側横圧は、先頭輪軸の内軌側車輪に作用するものである。後尾外軌側横圧は、台車の後尾輪軸の外軌側車輪に作用するものである。後尾内軌側横圧は、後尾輪軸の内軌側車輪に作用するものである。
【0082】
輪重測定部は、車両が曲線路を走行するときに、第1輪重測定用検出部及び第2輪重測定用検出部のそれぞれから検出値を取得し、取得した検出値に基づいて、先頭外軌側輪重、先頭内軌側輪重、後尾外軌側輪重、及び後尾内軌側輪重を算出する。先頭外軌側輪重は、先頭輪軸の外軌側車輪に作用するものである。先頭内軌側輪重は、先頭輪軸の内軌側車輪に作用するものである。後尾外軌側輪重は、後尾輪軸の外軌側車輪に作用するものである。後尾内軌側輪重は、後尾輪軸の内軌側車輪に作用するものである。
【0083】
潤滑状態推定部は、横圧測定部で算出された先頭外軌側横圧、先頭内軌側横圧、後尾外軌側横圧、及び後尾内軌側横圧、並びに輪重測定部で算出された先頭外軌側輪重、先頭内軌側輪重、後尾外軌側輪重、及び後尾内軌側輪重に基づいて、車輪とレールとの間の潤滑状態を推定する。
【0084】
本実施形態の監視システムでは、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を監視するのに、検出部(第1横圧測定用検出部、第1輪重測定用検出部、第2横圧測定用検出部及び第2輪重測定用検出部)を地上のレールに設け、この検出部の検出値から得られる横圧(先頭外軌側横圧、先頭内軌側横圧、後尾外軌側横圧、及び後尾内軌側横圧)及び輪重(先頭外軌側輪重、先頭内軌側輪重、後尾外軌側輪重、及び後尾内軌側輪重)を用いる。そして、各横圧及び各輪重に基づいて、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を推定する。この場合、従来技術のような特殊な台車は不要である。したがって、本実施形態の監視システムによれば、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態をより安価に監視することができる。
【0085】
典型的な例では、第1横圧測定用検出部及び第2横圧測定用検出部のそれぞれは、対応するレールの底部に取り付けられたひずみゲージである。第1輪重測定用検出部及び第2輪重測定用検出部のそれぞれは、対応するレールの腹部に取り付けられたひずみゲージである。この場合、各検出部の設置に必要なコストを低減できる。検出部としての各ひずみゲージは安価だからである。
【0086】
本実施形態の監視システムは、好ましくは、下記の構成を備える。潤滑状態推定部は、下記の式(1)で表される旋回指標Y、及び下記の式(2)で表される横圧・輪重比κに基づいて、車輪とレールとの間の潤滑状態を推定する。
Y={-(Q1o-Q1i)+(Q2o-Q2i)}/{(P1o+P1i+P2o+P2i)/4} (1)
κ=Q1i/P1i (2)
上記式(1)及び式(2)における各記号の意味は以下の通りである;
Q1o:先頭外軌側横圧、
Q1i:先頭内軌側横圧、
Q2o:後尾外軌側横圧、
Q2i:後尾内軌側横圧、
P1o:先頭外軌側輪重、
P1i:先頭内軌側輪重、
P2o:後尾外軌側輪重、及び
P2i:後尾内軌側輪重。
【0087】
上記式(1)は上記式(vi)に対応する。上記式(2)は上記式(vii)に対応する。この場合、上記した通り、旋回指標Y及び横圧・輪重比κに応じて、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を監視することができる。
【0088】
この監視システムは、好ましくは、下記の構成を備える。潤滑状態推定部は、横圧・輪重比κが0.4以上の場合、旋回指標Yに応じて、車輪とレールとの間の潤滑状態を以下の潤滑状態(a)~(c)と判定する。
(a)旋回指標Yが-0.2よりも大きくて0.3よりも小さい場合:先頭輪軸及び後尾輪軸の両方の車輪について潤滑不足の可能性がある、
(b)旋回指標Yが0.3以上である場合:先頭輪軸の車輪について潤滑不足で、後尾輪軸の車輪について潤滑良好の可能性がある、及び
(c)旋回指標Yが-0.2以下である場合:先頭輪軸の車輪について潤滑良好で、後尾輪軸の車輪について潤滑不足の可能性がある。
【0089】
この場合、旋回指標Y及び横圧・輪重比κに応じて、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を潤滑状態(a)~(c)に分類し、適切な処置を施すことができる。潤滑状態(a)~(c)は、上記した潤滑状態(A)~(C)に相当する。
【0090】
本開示に係る鉄道車両用の潤滑状態監視方法は、鉄道車両の車輪と曲線路のレールとの間の潤滑状態を監視する。曲線路の一方のレールに第1横圧測定用検出部及び第1輪重測定用検出部が設置され、曲線路の他方のレールに第2横圧測定用検出部及び第2輪重測定用検出部が設置されている。当該潤滑状態監視方法は、横圧測定ステップと、輪重測定ステップと、潤滑状態推定ステップと、を備える。
【0091】
横圧測定ステップは、車両が曲線路を走行するときに、第1横圧測定用検出部及び第2横圧測定用検出部のそれぞれから検出値を取得し、取得した検出値に基づいて、先頭外軌側横圧、先頭内軌側横圧、後尾外軌側横圧、及び後尾内軌側横圧を算出する。先頭外軌側横圧は、車両が備える台車の先頭輪軸の外軌側車輪に作用するものである。先頭内軌側横圧は、先頭輪軸の内軌側車輪に作用するものである。後尾外軌側横圧は、台車の後尾輪軸の外軌側車輪に作用するものである。後尾内軌側横圧は、後尾輪軸の内軌側車輪に作用するものである。
【0092】
輪重測定ステップは、車両が曲線路を走行するときに、第1輪重測定用検出部及び第2輪重測定用検出部のそれぞれから検出値を取得し、取得した検出値に基づいて、先頭外軌側輪重、先頭内軌側輪重、後尾外軌側輪重、及び後尾内軌側輪重を算出する。先頭外軌側輪重は、先頭輪軸の外軌側車輪に作用するものである。先頭内軌側輪重は、先頭輪軸の内軌側車輪に作用するものである。後尾外軌側輪重は、後尾輪軸の外軌側車輪に作用するものである。後尾内軌側輪重は、後尾輪軸の内軌側車輪に作用するものである。
【0093】
潤滑状態推定ステップは、横圧測定ステップで算出された先頭外軌側横圧、先頭内軌側横圧、後尾外軌側横圧、及び後尾内軌側横圧、並びに輪重測定ステップで算出された先頭外軌側輪重、先頭内軌側輪重、後尾外軌側輪重、及び後尾内軌側輪重に基づいて、車輪とレールとの間の潤滑状態を推定する。
【0094】
本実施形態の監視方法では、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を監視するのに、検出部(第1横圧測定用検出部、第1輪重測定用検出部、第2横圧測定用検出部及び第2輪重測定用検出部)を地上のレールに設け、この検出部の検出値から得られる横圧(先頭外軌側横圧、先頭内軌側横圧、後尾外軌側横圧、及び後尾内軌側横圧)及び輪重(先頭外軌側輪重、先頭内軌側輪重、後尾外軌側輪重、及び後尾内軌側輪重)を用いる。そして、各横圧及び各輪重に基づいて、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を推定する。この場合、従来技術のような特殊な台車は不要である。したがって、本実施形態の監視方法によれば、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態をより安価に監視することができる。
【0095】
典型的な例では、第1横圧測定用検出部及び第2横圧測定用検出部はひずみゲージである。横圧測定用検出部としての各ひずみゲージは、対応するレールの底部に取り付けられている。第1輪重測定用検出部及び第2輪重測定用検出部はひずみゲージである。輪重測定用検出部としての各ひずみゲージは、対応するレールの腹部に取り付けられている。この場合、各検出部の設置に必要なコストを低減できる。検出部としての各ひずみゲージは安価だからである。
【0096】
本実施形態の監視方法は、好ましくは、下記の構成を備える。潤滑状態推定ステップは、上記の式(1)で表される旋回指標Y、及び上記の式(2)で表される横圧・輪重比κに基づいて、車輪とレールとの間の潤滑状態を推定する。この場合、上記した通り、旋回指標Y及び横圧・輪重比κに応じて、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を監視することができる。
【0097】
この監視方法は、好ましくは、下記の構成を備える。潤滑状態推定ステップは、横圧・輪重比κが0.4以上の場合、旋回指標Yに応じて、車輪とレールとの間の潤滑状態を上記の潤滑状態(a)~(c)と判定する。この場合、旋回指標Y及び横圧・輪重比κに応じて、車輪と曲線レールとの間の潤滑状態を潤滑状態(a)~(c)に分類し、適切な処置を施すことができる。
【0098】
[本実施形態に係る監視システム及び監視方法の具体例]
以下に、図面を参照しながら、本実施形態に係る潤滑状態監視システム及び潤滑状態監視方法の具体例を説明する。
【0099】
図7は、潤滑状態監視システムの全体構成を示す模式図である。図7を参照して、本実施形態の監視システムは、車両が走行する線路3のうちの曲線路31に、第1横圧測定用検出部4a、第1輪重測定用検出部5a、第2横圧測定用検出部4b及び第2輪重測定用検出部5bを備える。第1横圧測定用検出部4a及び第1輪重測定用検出部5aは、それぞれ曲線路31の一方のレール、例えば外軌側レール31oに設置される。第2横圧測定用検出部4b及び第2輪重測定用検出部5bは、それぞれ曲線路31の他方のレール、例えば内軌側レール31iに設置される。
【0100】
各検出部4a、5a、4b及び5bはひずみゲージである。第1横圧測定用検出部4aとしてのひずみゲージは、外軌側レール31oの底部32oに取り付けられる。第1輪重測定用検出部5aとしてのひずみゲージは、外軌側レール31oの腹部33oに取り付けられる。第2横圧測定用検出部4bとしてのひずみゲージは、内軌側レール31iの底部32iに取り付けられる。第2輪重測定用検出部5bとしてのひずみゲージは、内軌側レール31iの腹部33iに取り付けられる。これらの検出部4a、5a、4b及び5bは、互いに曲線路31の長手方向の同じ位置に配置される。これらの検出部4a、5a、4b及び5bが一組である。
【0101】
さらに、本実施形態の監視システムは、横圧測定部6と、輪重測定部7と、潤滑状態推定部8と、を備える。横圧測定部6、輪重測定部7及び潤滑状態推定部8は、鉄道の運行を司る管理室9のコンピュータに搭載される。第1横圧測定用検出部4a及び第2横圧測定用検出部4bは、横圧測定部6に接続される。第1輪重測定用検出部5a及び第2輪重測定用検出部5bは、輪重測定部7に接続される。これらの接続は、有線であってもよいし、無線であってもよい。横圧測定部6及び輪重測定部7は潤滑状態推定部8に接続される。
【0102】
横圧測定部6は、車両が曲線路31を走行するときに、第1横圧測定用検出部4a及び第2横圧測定用検出部4bのそれぞれから検出値を取得する。これと同時に、輪重測定部7は、第1輪重測定用検出部5a及び第2輪重測定用検出部5bのそれぞれから検出値を取得する。
【0103】
具体的には、まず、先頭輪軸の各車輪11o及び11iが検出部4a、5a、4b及び5bの位置を通過する。このとき、検出部4a及び4bは、各レール31o及び31iの左右方向のひずみを検出し、横圧測定部6は検出部4a及び4bから検出値を取得する。これと同時に、検出部5a及び5bは、各レール31o及び31iの上下方向のひずみを検出し、輪重測定部7は検出部5a及び5bから検出値を取得する。
【0104】
続いて、後尾輪軸の各車輪12o、12iが検出部4a、5a、4b及び5bの位置を通過する。このとき、上記と同様に、横圧測定部6は検出部4a及び4bから検出値を取得する。これと同時に、上記と同様に、輪重測定部7は検出部5a及び5bから検出値を取得する。
【0105】
横圧測定部6は、取得した検出値に基づいて、先頭輪軸の外軌側車輪11oに作用する横圧Q1o、先頭輪軸の内軌側車輪11iに作用する横圧Q1i、後尾輪軸の外軌側車輪12oに作用する横圧Q2o、及び後尾輪軸の内軌側車輪12iに作用する横圧Q2iを算出する。各横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2iの算出は、横圧測定部6内のプログラムによって実行される。
【0106】
輪重測定部7は、取得した検出値に基づいて、先頭輪軸の外軌側車輪11oに作用する輪重P1o、先頭輪軸の内軌側車輪11iに作用する輪重P1i、後尾輪軸の外軌側車輪12oに作用する輪重P2o、及び後尾輪軸の内軌側車輪12iに作用する輪重P2iを算出する。各輪重P1o、P1i、P2o及びP2iの算出は、輪重測定部7内のプログラムによって実行される。
【0107】
なお、横圧測定部6による検出値の取得タイミングによって、先頭輪軸の各車輪11o及び11iに作用する横圧Q1o及びQ1iを、後尾輪軸の各車輪12o及び12iに作用する横圧Q2o及びQ2iと識別できる。同様に、輪重測定部7による検出値の取得タイミングによって、先頭輪軸の各車輪11o及び11iに作用する輪重P1o及びP1iを、後尾輪軸の各車輪12o及び12iに作用する輪重P2o及びP2iと識別することができる。
【0108】
ただし、先頭輪軸の各車輪11o及び11iに作用する横圧Q1o及びQ1i、並びに後尾輪軸の各車輪12o及び12iに作用する横圧Q2o及びQ2iを同時に測定することも可能である。先頭輪軸の各車輪11o及び11iに作用する輪重P1o及びP1i、並びに後尾輪軸の各車輪12o及び12iに作用する輪重P2o及びP2iを同時に測定することも可能である。このような測定を実現するには、二組の検出部4a、5a、4b及び5bを、互いに先頭輪軸と後尾輪軸との間隔分の距離をあけて配置すればよい。この場合、各横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2i、及び各輪重P1o、P1i、P2o及びP2iを同時に検出して測定することできる。検出に時間差がないことから、精度の高い測定が行える。
【0109】
潤滑状態推定部8は、横圧測定部6で算出された各横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2i、並びに輪重測定部7で算出された各輪重P1o、P1i、P2o及びP2iに基づいて、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の潤滑状態を推定する。潤滑状態の推定は、潤滑状態推定部8内のプログラムによって実行される。
【0110】
本実施形態の監視方法は、本実施形態の監視システムを用いる。監視方法は、横圧測定ステップと、輪重測定ステップと、潤滑状態推定ステップと、を備える。横圧測定ステップは、上記した横圧測定部6による動作を行う。輪重測定ステップは、上記した輪重測定部7による動作を行う。潤滑状態推定ステップは、上記した潤滑状態推定部8による動作を行う。
【0111】
本実施形態の監視システム及び監視方法では、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レール(外軌側レール31o及び内軌側レール31i)との間の潤滑状態を監視するのに、検出部4a、5a、4b及び5bを地上のレールに設け、この検出部4a、5a、4b及び5bの検出値から得られる横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2i並びに輪重P1o、P1i、P2o及びP2iを用いる。そして、各横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2i及び各輪重P1o、P1i、P2o及びP2iに基づいて、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レールとの間の潤滑状態を推定する。この場合、従来技術のような特殊な台車は不要である。つまり、運行する車両の全てに検出部を設ける必要はなく、対象とする曲線路31に検出部4a、5a、4b及び5bを設ければ足りる。したがって、本実施形態の監視システム及び監視方法によれば、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レールとの間の潤滑状態をより安価に監視することができる。
【0112】
本実施形態では、潤滑状態推定部8は、上記式(1)で表される旋回指標Y、及び上記式(2)で表される横圧・輪重比κに基づいて、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レールとの間の潤滑状態を推定する。旋回指標Y及び横圧・輪重比κは、横圧Q1o、Q1i、Q2o及びQ2i並びに輪重P1o、P1i、P2o及びP2iから算出される。この場合、上記した通り、旋回指標Y及び横圧・輪重比κに応じて、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レールとの間の潤滑状態を監視することができる。
【0113】
さらに、潤滑状態推定部8は、横圧・輪重比κが0.4以上の場合、旋回指標Yに応じて、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レールとの間の潤滑状態を上記した潤滑状態(a)~(c)と判定する。この場合、旋回指標Y及び横圧・輪重比κに応じて、各車輪11o、11i、12o及び12iと曲線レールとの間の潤滑状態を潤滑状態(a)~(c)に分類し、適切な処置を施すことができる。
【0114】
潤滑状態(a)では、旋回指標Yが-0.2よりも大きくて0.3よりも小さい。これにより、先頭輪軸及び後尾輪軸の両方の車輪について潤滑不足の可能性がある。この場合、潤滑状態を改善する処置が必要である。例えば、潤滑不足の可能性があるレールに潤滑剤(例:グリス、摩擦調整剤)を塗布すればよい。管理室9のコンピュータからの指令により、地上に設置された供給装置を作動させ、この供給装置からレールに潤滑剤を供給してもよい。
【0115】
潤滑状態(b)では、旋回指標Yが0.3以上である。これにより、先頭輪軸の車輪について潤滑不足で、後尾輪軸の車輪について潤滑良好の可能性がある。この場合、先頭輪軸の車輪と後尾輪軸の車輪との間で潤滑状態のムラがあると言える。ただし、潤滑状態のムラは一時的なものと考えられる。車両の繰り返しの走行により、潤滑状態は平準化すると考えられるからである。このため、潤滑状態を改善する処置は保留すればよい。
【0116】
潤滑状態(c)では、旋回指標Yが-0.2以下である。これにより、先頭輪軸の車輪について潤滑良好で、後尾輪軸の車輪について潤滑不足の可能性がある。この場合、潤滑状態を改善する処置は必要ない。この状態は、最も潤滑の確保が必要な先頭輪軸の外軌側車輪で潤滑状態が良好だからである。
【0117】
以上、本開示に係る実施形態を説明した。しかしながら、上述した実施形態は例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0118】
1:台車
11:先頭輪軸
11o:外軌側車輪
11i:内軌側車輪
12:後尾輪軸
12o:外軌側車輪
12i:内軌側車輪
3:線路
31:曲線路
31o:外軌側レール
31i:内軌側レール
4a:第1横圧測定用検出部
4b:第2横圧測定用検出部
5a:第1輪重測定用検出部
5b:第2輪重測定用検出部
6:横圧測定部
7:輪重測定部
8:潤滑状態推定部
9:管理室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7