(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093962
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20220617BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220617BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220617BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20220617BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/08
C01G25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206720
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 舞
(72)【発明者】
【氏名】寺西 真哉
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真祈
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 彬
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ05
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】粉末原料を用いて、LLZ系複合酸化物からなるガーネット型固体電解質の微粒子を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】ガーネット型のリチウムイオン伝導性酸化物からなる固体電解質1の製造方法であって、Li原料として、累積粒度分布に基づく50%粒径D
50が10μm以下かつ90%粒径D
90が20μm以下に調整されており、融剤を兼ねるリチウム化合物を準備する原料準備工程と、固体電解質1の目標組成に対して、Li原料を化学量論量以上の含有量で添加した粉末原料11を混合して、混合原料粉末12とする原料混合工程と、混合原料粉末12を650℃よりも低い熱処理温度T1で熱処理して、固体電解質1の核C1を含む中間体13を形成する中間体形成工程と、中間体13を1000℃よりも低い焼成温度T2で焼成して、固体電解質1の結晶集合体とする焼成工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともLi、La、Zr及びOを含むガーネット型のリチウムイオン伝導性酸化物からなる固体電解質(1)の製造方法であって、
Li原料として、累積粒度分布に基づく50%粒径D50が10μm以下かつ90%粒径D90が20μm以下に調整されており、融剤を兼ねるリチウム化合物を準備する原料準備工程と、
上記固体電解質の目標組成に対して、上記Li原料を化学量論量以上の含有量で添加した粉末原料(11)を混合して、混合原料粉末(12)とする原料混合工程と、
上記混合原料粉末を650℃よりも低い熱処理温度(T1)で熱処理して、上記固体電解質の核(C1)を含む中間体(13)を形成する中間体形成工程と、
上記中間体を1000℃よりも低い焼成温度(T2)で焼成して、上記固体電解質の結晶集合体とする焼成工程と、を備える、固体電解質の製造方法。
【請求項2】
上記原料準備工程において、La原料及びZr原料として、累積粒度分布に基づく50%粒径D50が、それぞれ1.0μm以下に調整されたランタン化合物及びジルコニウム化合物を準備する、請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項3】
上記Li原料は、融点が600℃以下のリチウム化合物であり、
上記中間体形成工程において、上記Li原料の融点よりも低い保持温度(T11)にて保持する保持工程を有する、請求項1又は2に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項4】
上記保持工程において、上記Li原料の融点より低い温度を含む複数の上記保持温度にて段階的に保持する、請求項3に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項5】
上記保持温度は、400℃~500℃の範囲の温度を含み、
上記保持工程の後に、上記中間体を粉砕処理する中間体粉砕工程を備える、請求項3又は4に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項6】
上記Li原料は、水酸化リチウム又はその水和物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガーネット型のリチウムイオン伝導性酸化物からなる固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池において、正極層と負極層との間を区画するセパレータ層等の材料として、イオン伝導性の酸化物系固体電解質が用いられている。近年、このような酸化物系固体電解質として、ガーネット型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導性酸化物が着目されている。例えば、Li(リチウム)とLa(ランタン)とZr(ジルコニウム)と、を含むリチウムランタンジルコニウム系複合酸化物(Li7La3Zr2O12;以下、適宜LLZと称する)を基本組成とする固体電解質は、良好なリチウムイオン伝導性を示すと共に、負極材として有用なリチウム金属に対して電気化学的に安定であることから、全固体電池への適用が期待されている。
【0003】
LLZ系複合酸化物からなる固体電解質の製造方法としては、固相反応法が知られるが、焼成温度が1000℃~1200℃の高温となるため、粒成長が促進されやすい。そのために、微粒子状のLLZ系固体電解質を製造する方法が種々検討されており、例えば、特許文献1には、特定のZr錯体を含む溶液をZr源として沈殿物を形成した後に、Li源を添加して、1000℃未満の温度で焼成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法によれば、得られる一次粒子のサイズが10μm以下となり、沈殿物の粗大化により20μm超の粗大粒子となるのを抑制可能となる。しかしながら、焼成用の原料混合物を調製する前に、特定のZr源を含む溶液を調製し、他の元素源となる原料との沈殿物を得る必要があり、工程数が多く製造に手間がかかる。一方、粉末原料に融剤(すなわち、フラックス)を混合して焼成するフラックス法が知られており、LLZ系固体電解質への応用が検討されている。フラックス法では、焼成工程において融剤が液相を形成することにより、焼成温度の低下が可能になるものの、焼成温度の低下による粒子サイズの低下には限界があった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、粉末原料を用いて、LLZ系複合酸化物からなるガーネット型固体電解質の微粒子を得るための製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
少なくともLi、La、Zr及びOを含むガーネット型のリチウムイオン伝導性酸化物からなる固体電解質(1)の製造方法であって、
Li原料として、累積粒度分布に基づく50%粒径D50が10μm以下かつ90%粒径D90が20μm以下に調整されており、融剤を兼ねるリチウム化合物を準備する原料準備工程と、
上記固体電解質の目標組成に対して、上記Li原料を化学量論量以上の含有量で添加した粉末原料(11)を混合して、混合原料粉末(12)とする原料混合工程と、
上記混合原料粉末を650℃よりも低い熱処理温度(T1)で熱処理して、上記固体電解質の核(C1)を含む中間体(13)を形成する中間体形成工程と、
上記中間体を1000℃よりも低い焼成温度(T2)で焼成して、上記固体電解質の結晶集合体とする焼成工程と、を備える、固体電解質の製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
上記製造方法によれば、原料準備工程にて、融剤を兼ねるLi原料が特定の粒径範囲に調整され、原料混合工程にて、化学量論量以上の割合で他の原料と混合されて混合原料粉末とされる。この混合原料粉末を、中間体形成工程にて650℃よりも低い温度で熱処理することにより、固体電解質の核を含む微粒な中間体が得られる。その理由は、必ずしも明らかではないが、従来は、焼成過程で、La原料とZr原料との反応生成物が形成され、さらに、Li原料が反応して目標組成になると考えられており、これに対して、粒径調整された融剤としてのLi原料が、適度にLa原料とZr原料との反応を阻害しつつ、より低温での核生成を可能にするものと推測される。この核を含む中間体を、さらに焼成工程にて1000℃よりも低い温度で焼成すると、粒成長が抑制されて、固体電解質の結晶粒子を微粒化することができる。
【0009】
以上のごとく、上記態様によれば、粉末原料を用いて、LLZ系複合酸化物からなるガーネット型固体電解質の微粒子を得るための製造方法を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1における、LLZ系固体電解質の製造方法の一例を示す工程図。
【
図2】実施形態1における、LLZ系固体電解質の製造工程を模式的に示す図。
【
図3】実施形態1における、LLZ系固体電解質を基材層とする全固体電池の概略構成図。
【
図4】従来のLLZ系固体電解質の製造工程を模式的に示す図。
【
図5】従来の製造方法における、LLZ系固体電解質の生成反応と、生成した結晶集合体を用いた固体電解質層の状態を模式的に示す図。
【
図6】実施形態1の製造方法における、LLZ系固体電解質の生成反応と、生成した結晶集合体を用いた固体電解質層の状態を模式的に示す図。
【
図7】実施形態1における、LLZ系固体電解質の製造方法の詳細例を示す工程図。
【
図8】実施形態1における、混合原料粉末に含まれるLi原料の割合を変化させたときの、中間体形成と焼成の過程を比較して模式的に示す図。
【
図9】実施形態1における、中間体形成工程後に焼成工程を行う場合と、中間体粉砕工程を行う場合を比較して模式的に示す図。
【
図10】実施例1における、LLZ系固体電解質の結晶集合体の状態を示す走査型電子顕微鏡観察画像。
【
図11】実施例1における、LLZ系固体電解質のX線回折パターンを示す図。
【
図12】実施例2における、LLZ系固体電解質の結晶集合体の状態を示す走査型電子顕微鏡観察画像。
【
図13】比較例1における、LLZ系固体電解質の結晶集合体の状態を示す走査型電子顕微鏡観察画像。
【
図14】試験例1における、原料準備工程の原料粒径調整を行った場合について、焼成過程における、LLZ系固体電解質の走査型電子顕微鏡観察画像と、X線回折パターンの変化を示す図。
【
図15】試験例1における、原料準備工程の原料粒径調整を行わない場合について、焼成過程における、LLZ系固体電解質の走査型電子顕微鏡観察画像と、X線回折パターンの変化を示す図。
【
図16】試験例1における、原料準備工程の原料粒径調整の有無と、焼成過程のLLZ系固体電解質の粒径変化を示すグラフ図。
【
図17】試験例1における、原料準備工程の原料粒径調整の有無と、焼成過程のLLZ系固体電解質の粒径変化を模式的に示す図。
【
図18】試験例2における、混合原料粉末に含まれるLi原料の質量割合と、LLZ系固体電解質の粒径の関係を示すグラフ図。
【
図19】実施例3における、LLZ系固体電解質の結晶集合体の状態を示す走査型電子顕微鏡観察画像。
【
図20】実施例4における、LLZ系固体電解質の結晶集合体の状態を示す走査型電子顕微鏡観察画像とその部分拡大画像。
【
図21】実施例5における、LLZ系固体電解質の結晶集合体の状態を示す走査型電子顕微鏡観察画像。
【
図22】実施例5における、中間体形成工程後の粒子状態を示す走査型電子顕微鏡観察画像とX線回折パターンを示す図。
【
図23】参考例における、中間体形成工程後に粉砕処理を行った場合の、粉砕前及び焼成後のX線回折パターンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
固体電解質の製造方法に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
本形態において、固体電解質は、少なくともLi、La、Zr及びOを含むガーネット型のリチウムイオン伝導性酸化物からなる固体電解質(以下、適宜、LLZ系固体電解質と略称する)1であり、
図1に示される製造方法によって得られる。この製造方法は、原料準備工程(1)と、原料混合工程(2)と、中間体形成工程(3)と、焼成工程(4)と、を備えており、これら複数の工程を経ることにより、LLZ系固体電解質1の結晶粒子Cを微粒化することができる。
【0012】
原料準備工程(1)は、Li原料として、所定の粒径範囲に調整された、融剤を兼ねるリチウム化合物を準備する工程である。Li原料は、具体的には、累積粒度分布に基づく50%粒径D50が10μm以下であり、かつ、90%粒径D90が20μm以下となるように調整されている。Li原料は、LLZ生成反応の原料であると共に、融剤として添加されて、より低温でのLLZ生成反応の開始を可能にし、適度に粒径調整されることにより、中間体13の生成と焼成後の微粒化に寄与する。
【0013】
このとき、平均粒子径に相当する50%粒径D50が10μm以下に調整されると共に、最大粒子径に相当する90%粒径D90が、50%粒径D50の上限値に対して2倍程度ないしそれ以下に調整されることが重要となる。その理由は、必ずしも明らかではないが、粉末原料全体に適度な大きさの融剤が均一に分散されて、La原料とZr原料の反応を阻害しながら、Liを含む中間体13の形成が低温で進行可能になるものと推測される。
【0014】
なお、累積粒度分布に基づく50%粒径D50とは、体積基準の粒子径分布を求めて、全体積を100%とする累積粒度分布曲線で表したときに、小径側からの累積が50%となる粒径であり、累積粒度分布の中央値を示す。同様に、90%粒径D90とは、累積粒度分布曲線において、小径側からの累積が90%となる粒径を示している。
【0015】
好適には、原料準備工程(1)において、La原料及びZr原料の粒径が、所定の粒径範囲となるように、併せて準備することができる。具体的には、La原料及びZr原料は、累積粒度分布に基づく50%粒径D50が、それぞれ1.0μm以下に調整されたランタン化合物及びジルコニウム化合物であることが望ましく、焼成後の微粒化が可能になる。
【0016】
その理由は、必ずしも明らかではないが、La原料及びZr原料の粒径が、Li原料の50%粒径D50の上限値に対して、10分の1程度ないしそれ以下に調整されることにより、反応性が向上する一方、より粒径の大きいLi原料の介在によって、反応が適度に阻害されることが、結晶成長の抑制に寄与するものと推測される。
【0017】
好適には、原料準備工程(1)において、Li原料の粒径は、焼成後の結晶粒子Cをより微粒化する観点から、その他のLLZ原料の50%粒径D50以上の大きさとなるように調整されることが望ましい。具体的には、Li原料の50%粒径D50は、1.0μm以上、10μm未満の範囲に調整されていることが望ましい。また、Li原料の90%粒径D90は、5.0μm以上、20μm未満の範囲に調整されていることが望ましい。
【0018】
このように、原料準備工程(1)において、Li原料、La原料及びZr原料は、必要により、予め粉砕処理を行って、所望の粒径範囲に調整することができる。これらLi原料、La原料及びZr原料となる原料化合物は、所望のLLZ組成となるように秤量され、それ以外の原料化合物と共に、LLZ系固体電解質1の製造用の粉末原料11とすることができる。
【0019】
原料混合工程(2)は、秤量されたLLZ系固体電解質1の製造用の粉末原料11を調製し、混合して、混合原料粉末12とする工程である。粉末原料11には、LLZ系固体電解質1の目標組成に対して、Li原料を、化学量論量ないしそれ以上の含有量で添加することができ、化学量論量を超えるLi原料は、融剤としての機能を高めて、結晶粒子Cの微粒化を促進する。粉末原料11は、乾式又は湿式等の任意の方法で混合されて、混合原料粉末12とすることができる。
【0020】
中間体形成工程(3)は、混合原料粉末12を、650℃よりも低い熱処理温度T1で熱処理して、LLZ系固体電解質1の核(以下、適宜、LLZ核と略称する)C1を含む中間体13を形成する工程である。所定の粒径に調整された、融剤を兼ねるLi原料は、混合原料粉末12を熱処理する過程で溶融し、その融点に応じた温度域において、La原料及びZr原料と共に、LLZ系固体電解質1に近似する結晶構造を示すLLZ核C1を生成する。このLLZ核C1を含む中間体13が、650℃よりも低い温度で形成されることにより、La原料とZr原料の反応生成物の形成が抑制され、後段の焼成過程での結晶成長を抑制することが可能になる。
【0021】
好適には、融剤を兼ねるLi原料として、融点が600℃以下のリチウム化合物を用いることができる。このとき、中間体形成工程(3)において、Li原料の融点よりも低い温度にて、Li原料を核として凝集が開始されると共に、LLZ系固体電解質1の生成反応が進行して、650℃よりも低い温度で、LLZ核C1を含む中間体13を形成可能となる。
【0022】
好適には、
図2の工程図に温度プロファイルを示すように、中間体形成工程(3)において、Li原料の融点よりも低い保持温度T11に保持する保持工程(3A)を有することができる。中間体形成工程(3)における熱処理温度T1は、650℃よりも低い温度で、LLZ核C1を含む中間体13が形成されるように、融剤となるLi原料の融点に応じて任意に設定することができる。熱処理温度T1は、一定とする必要はなく、例えば、所定の温度範囲を、連続的に昇温しながら熱処理することも可能であるが、所定の保持温度T11に保持することもできる。
【0023】
その場合には、保持温度T11を、融剤となるLi原料の融点よりも低い温度とすることができ、より低温にてLLZ生成反応を進行させて、LLZ核C1を含む微粒の中間体13を生成可能となる。保持温度T11は、Li原料の融点よりも低い温度を含む、複数の温度とすることもでき、例えば、Li原料の融点を超える温度まで、段階的に昇温しながら、熱処理するようにしてもよい。
【0024】
焼成工程(4)は、中間体13を1000℃よりも低い焼成温度T2で焼成して、LLZ系固体電解質1の結晶集合体とする工程である。中間体形成工程(3)後に、さらに熱処理温度T1以上に昇温し、LLZ核C1を含む中間体13を、所定の焼成温度T2にて焼成することにより、焼成過程における結晶成長を抑制することが可能になる。このようにして得られるLLZ系固体電解質1は、微粒化された結晶粒子Cの集合体となる。
【0025】
好適には、上記製造工程において、中間体形成工程(3)における保持温度T11は、400℃~500℃の範囲の温度を含む。その場合には、中間体形成工程(3)の後に、中間体を粉砕処理する中間体粉砕工程(3B)を備えることもできる。LLZ核C1を含む中間体13を粉砕し、粉砕された微粒の中間体13を形成することにより、焼成工程(4)後に得られるLLZ系固体電解質1を、さらに微粒化することができる。
【0026】
好適には、融剤を兼ねるLi原料として、水酸化リチウム又はその水和物を含む、リチウム化合物を用いることができる。水酸化リチウムは、600℃以下の融点(例えば、無水状態にて462℃)を有し、中間体形成工程(3)において、融剤を兼ねるLi原料として好適に用いられる。
【0027】
上記製造工程によって製造されるLLZ系固体電解質1は、具体的には、Li(リチウム)とLa(ランタン)とZr(ジルコニウム)と、を含むリチウムランタンジルコニウム系複合酸化物(Li7La3Zr2O12)を基本組成とする固体電解質である。LLZ系固体電解質1は、ガーネット型の結晶構造を有し、LLZのLaの一部をSr、Ca等の元素で置換し、あるいは、Zrの一部をNb、Ta等の元素で置換した構成であってもよい。LLZ系固体電解質1は、良好なリチウムイオン伝導性を示すと共に、負極材として有用なリチウム金属に対して電気化学的に安定であることから、全固体電池への適用が期待されている。
【0028】
このようなLLZ系固体電解質1は、例えば、各種電池用の構成材料として用いることができる。一例として、
図3に示される全固体リチウムイオン二次電池(以下、適宜、全固体電池と略称する)100に適用された場合について、次に説明する。全固体電池100は、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質層を、電池各層を構成する基材層として用いることができる。全固体電池100は、例えば、自動車用電源又は各種機器用の電源として用いられる。
【0029】
図3において、全固体電池100は、正極活物質2を含む正極層20と、負極活物質3を含む負極層30とを、LLZ系固体電解質1を含むセパレータ層10を挟んで一体化した積層体構造を有する。セパレータ層10は、正極層20と負極層30との間に配設されて、両層を隔てると共に、イオン伝導体として機能する。正極層20又は負極層30の外側に、さらに、図示しない正極集電体又は負極集電体を配置した構成とすることもできる。
【0030】
具体的には、正極層20は、LLZ系固体電解質1と正極活物質2とを含み、負極層30は、LLZ系固体電解質1と負極活物質3とを含む。セパレータ層10を構成するLLZ系固体電解質1は、正極層20又は負極層30を構成するLLZ系固体電解質1と、同一組成であっても異なっていてもよい。LLZ系固体電解質1が、正極層20及び負極層30に含まれることにより、セパレータ層10との界面における接合性が向上する。全固体電池100は、正極層20及び負極層30にそれぞれ設けられる電極端子部を介して、図示しない外部機器等に接続される。
【0031】
正極活物質2としては、例えば、リチウム(Li)を含む複合酸化物が好適に用いられる。このような複合酸化物としては、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)等から選ばれる1つ以上の金属を含む、リチウム含有複合酸化物が好適に用いられる。また、負極活物質3としては、例えば、リチウム金属が好適に用いられる。リチウム合金、又は、リチウム含有複合酸化物等のリチウム化合物を用いることもできる。
【0032】
次に、LLZ系固体電解質1の製造方法の詳細例と、LLZ成長のメカニズムについて、
図4に示す従来例と比較して、説明する。従来例は、フラックス法を用いた従来の製造工程の一例を示しており、原料混合工程(20)と、昇温工程(41)と、焼成工程(40)とを有している。Li原料としては、例えば、Li
2CO
3(融点:723℃)、LiCl(融点:613℃)等が用いられ、上記
図1、
図2に示した原料準備工程(1)は行われない。このとき、上記
図1、
図2に示した中間体13は形成されず、得られるLLZ系固体電解質1の結晶粒子Cが粗大化しやすい。
【0033】
従来のフラックス法では、LLZ原料は、予め原料毎に粒径調整を行うことなく、原料混合工程(20)に供される。原料混合工程(20)では、各原料を所望の組成となるように添加混合して、混合原料粉末101とし、次いで、昇温工程(41)において、所定の焼成温度T2(例えば、700℃~900℃)まで徐々に昇温する。混合原料粉末101は、この過程で、徐々に凝集して、凝集粒子102となるものの、さらに、上記
図2に示した保持温度T11を超えて、焼成温度T2付近となるまで、LLZ結晶C2を含む粒子103は形成されない。その後、焼成工程(40)において、焼成温度T2にて所定時間保持される保持されることにより、LLZの結晶粒子Cが完成する。
【0034】
従来のフラックス法におけるLLZ生成反応は、一般に、
図5の上段のように進行し、LaとZrを含むLLZの前駆体(以下、適宜、LZ前駆体と称する)104を経て、LLZ結晶C2が形成されると考えられる。これは、La原料とZr原料との反応性が比較的高いのに対して、Li原料の融点が600℃を超えるために、昇温過程において、LZ前駆体104が形成された後に、速やかにLi原料との反応が進まないことによる。その場合には、LZ前駆体104とLi原料とが反応する際に、さらには、焼成温度T2にて保持される間に、粒成長が進むことから、得られる結晶粒子Cの微粒化には限界があった。
【0035】
図5の下段に示すように、全固体電池100に用いられる固体電解質層は、LLZ系固体電解質1の結晶粒子Cが層状に集合する焼結体にて構成される。このような固体電解質層において、電気抵抗の上昇を抑制するためには、結晶粒子Cがより密に充填されるのがよいが、結晶粒子Cが粗大化すると、粒子間に形成される空隙が大きくなり、充填率が低下する。その場合には、隣り合う粒子同士の接触界面を介してLiイオンが移動するための経路(以下、適宜、導電パスと称する)105が形成されにくくなり、高電気抵抗となりやすい。
【0036】
なお、上述したLZ前駆体104は、La
2Zr
2O
7(LZ)で示される組成を有し、焼成過程において、例えば、約650℃にてLa原料とZr原料との反応により生成することが知られている。このLZ前駆体104は、例えば、約700℃以上の温度にて、Li原料と反応して、LLZを生成可能であることから、焼成温度T2を低減可能であるものの、上記
図1、
図2における熱処理温度T1(例えば、詳細を後述する保持温度T11)にて、LLZ核C1又はLLZ結晶C2が形成されることはない。
【0037】
これに対して、上記
図1、
図2に示した製造工程では、原料準備工程(1)において、少なくともLi原料が、所定の粒径範囲に調整されると共に、融剤を兼ねるリチウム化合物が用いられることにより、LLZ生成の反応経路が、従来とは異なるものとなる。すなわち、原料混合工程(2)にて得られた混合原料粉末12が、中間体形成工程(3)において熱処理されて、LLZ核C1を含む中間体13が形成されることにより、焼成工程(4)における結晶成長が抑制可能となる。
【0038】
図6の上段に示すように、中間体形成工程(3)では、特定の粒径範囲にあるLi原料が、混合原料粉末12の全体に均等に分布し、La原料とZr原料との間に適度に入り込んだ状態で熱処理されることになる。これにより、La原料とZr原料との接触が抑制されながら、Li原料の融点近傍まで昇温される。この熱処理過程において、Li原料の少なくとも一部が液相を形成して、La原料及びZr原料を引き寄せやすくなり、La原料とZr原料との反応が進行する際に、La原料とZr原料との反応生成物にLiが取り込まれやすくなる。
【0039】
そのために、上記
図5のようなLZ前駆体104が形成される代わりに、Liを含むLZ反応生成物(例えば、図中に示すLi-LZ)が生成されて、LLZ核C1となるものと推測される。このLLZ核C1は、LLZ系固体電解質1の結晶構造に近似する構造を有するものであり、核形成の有無は、例えば、LLZ結晶のX線回折に基づくピークリスト(以下、LLZリファレンスと称する)と比較したときに、LLZ系固体電解質1に特徴的なピークを有することから判別することができる。
【0040】
このように、650℃よりも低い熱処理温度T1にて、LLZ核C1を含む中間体13が形成された場合には、焼成工程(4)において、結晶粒子Cが完成する過程で、上記
図5のような粗大化は生じない。その結果、
図6の下図に示すように、全固体電池100に用いられる固体電解質層が、より小さい結晶粒子Cにて構成されることになる(例えば、10μm以下)。これにより、粒子間の空隙が小さくなって充填率が上がり、密度の高い固体電解質層となるために、Liイオンが移動する際の障壁が減少して、導電パス105の低電気抵抗化が可能となる。
【0041】
図7に示す詳細工程例において、原料準備工程(1)にて準備されるLi原料は、予め粒径調整されると共に、融剤を兼ねることにより、中間体形成工程(3)におけるLLZ核C1の形成に大きく寄与する。具体的には、Li原料として、融点が600℃以下のリチウム化合物を用いることにより、融点以下の温度にて、LLZ核C1の形成を可能にし、中間体13の形成を促進する。
【0042】
また、それに先立ち、Li原料の50%粒径D50が10μm以下、かつ90%粒径D90が20μm以下となるように、予め粒径調整されることにより、原料混合工程(2)において、混合原料粉末12の全体に均一に混合されて、La原料とZr原料との反応を抑制しつつ、LLZ生成反応を好適に進行させることが可能になる。好適には、Li原料は、50%粒径D50が1.0μm以上10μm未満であり、90%粒径D90が5.0μm以上20μm未満となるように、調整されていることが望ましい。
【0043】
Li原料が粒径調整されることにより、結晶粒子Cを微粒化する効果が得られるが、好適には、Li原料と、La原料及びZr原料とは、以下の関係にあることが好ましい。
Li原料の50%粒径D50≧La原料及びZr原料の50%粒径D50
より好適には、Li原料の50%粒径D50よりも、La原料及びZr原料の50%粒径D50が小さいことが望ましく、La原料及びZr原料以外の原料を含む場合も同様である。
【0044】
この関係を満足するため、好適には、La原料及びZr原料は、50%粒径D50が1.0μm以下となるように、予め粉砕調整されている。La原料及びZr原料以外の原料を含む場合も同様であり、より好適には、50%粒径D50が1.0μmよりも小さいことが望ましい。このとき、La原料及びZr原料の粒径が十分小さいことにより、反応性が向上する一方、Li原料の粒径がより大きいことにより、La原料とZr原料の反応が阻害されて、適度な反応速度しながら、比較的低温で均質な反応が進行可能になる。
【0045】
このようなLi原料としては、LZ前駆体104が形成される温度(例えば、650℃程度)よりも低い温度で液相を形成可能なリチウム化合物の少なくとも一種を用いることができる。このようなリチウム化合物は、好適には、融点が600℃以下のリチウム化合物、より好適には、融点が500℃以下のリチウム化合物であり、例えば、水酸化リチウム(LiOH;融点462℃)、硝酸リチウム(LiNO3;融点462℃)、酢酸リチウム(CH3CO2Li;融点286℃)、又は、それらの水和物等が挙げられる。好適には、水酸化リチウム(LiOH)又は水酸化リチウムの水和物(LiOH・H2O)が用いられる。
【0046】
原料混合工程(2)では、Li原料を含むLLZ系固体電解質1の粉末原料11を調製する。具体的には、原料準備工程(1)にて予め粒径調整されたLi原料を、必要により予め粒径調整されたLa原料及びZr原料と、さらにLLZ組成に応じた他の原料と共に、混合粉砕して、混合原料粉末12とする。その際に、Li原料は、LLZ組成に応じた化学量論量ないしそれ以上の含有量で、粉末原料11に添加、混合される。
【0047】
LLZ系固体電解質1を構成する各原料は、所望の組成となるように、出発原料を化学量論量用意して、混合すればよいが、Li原料を、化学量論量よりも多く添加した混合原料粉末12とすることもできる。Li原料は、融剤として機能すると共に、La原料及びZr原料の反応を阻害する阻害剤として機能し、生成する結晶粒子Cの微粒化を促進する。過剰となるLi原料の添加量は、特に制限されないが、好適には、粉末原料11の全体に占めるLi原料の割合が、化学量論量よりも多く55%以下(質量割合)となる範囲で、適宜選択することが望ましい。Li原料の割合が、原料全体の55%(質量割合)を超えると、La原料とZr原料の接触機会が減少して、LLZ核C1を微粒化する効果が低下しやすくなる。
【0048】
このとき、
図8に示すように、Li原料と、La原料及びZr原料との混合比は、LLZ核C1の形成に影響し、焼成後の結晶粒子Cの大きさが変化する。
図8の上図は、例えば、Li原料、La原料及びZr原料の粒子が1:1:1で混合されている場合を模式的に示しており、反応性の高いLa原料及びZr原料が互いに接触して反応し、さらにLi原料が取り込まれることにより、Li-LZとして示すLLZ核C1が生成する。一方、
図8の下図のように、La原料及びZr原料に対して、Li原料の割合が倍増すると、Li原料の粒子が、La原料とZr原料の間に入り込んで、反応を阻害しやすくなる。その結果、生成するLLZ核C1がより小さくなり、より微粒化された結晶粒子Cを得ることができる。
【0049】
原料混合工程(2)では、混合原料粉末12に、LLZ系固体電解質1の組成に応じた原料の化合物の他、焼成工程(4)において焼成用融剤として機能する化合物等を添加することもできる。焼成用融剤は、所定の焼成温度において液相を形成可能な化合物であればよく、例えば、リチウムとホウ素を含有するリチウムホウ素化合物(以下、適宜、LBOと称する)を用いることができる。LBOは、リチウムとホウ素を含む種々の複合酸化物であり、例えば、ホウ酸リチウム(Li3BO3;融点700℃付近)等が挙げられる。
【0050】
図7において、中間体形成工程(3)では、混合原料粉末12を、650℃よりも低い熱処理温度T1にて熱処理する。熱処理温度T1は、650℃よりも低い温度で中間体13が形成されるように調整されていればよく、例えば、所定の昇温速度で中間体13の形成温度まで、さらには、650℃程度まで連続的に昇温してもよいし、あるいは、中間体13が形成可能な所定の一定温度にて保持してもよい。または、複数の温度にて保持しながら、段階的に昇温させてもよい。
【0051】
中間体形成工程(3)は、好適には、融剤となるLi原料の融点よりも低い保持温度T11にて、所定時間保持する保持工程(3A)を有する。中間体13は、上述したように、所望のLLZ組成に対応するLLZ核C1を含む中間生成物であり、Li原料の融点よりも低い温度にて生成することが確認されていることから、適当な保持温度T11を設定することにより、中間体13の全体に微細なLLZ核C1を均等に形成することが可能になる。
【0052】
熱処理温度T1は、LLZ核C1の結晶構造を安定化する観点から、好適には、350℃よりも高い温度であるとよく、また、LLZ核C1を微粒化する観点から、650℃よりも低い温度であるとよい。より好適には、熱処理温度T1は、375℃~600℃の範囲、例えば、400℃~500℃の範囲において、適宜選択されることが望ましい。
【0053】
図9に示すように、中間体形成工程(3)にて、保持工程(3A)の後に、中間体粉砕工程(3B)を有することもできる。中間体粉砕工程(3B)では、保持工程(3A)により得られた中間体13を取り出して、粉砕処理することにより、中間体13を微粒化する。このようにして、それぞれがLLZ核C1を含む、より微粒化された中間生成物が得られる。なお、中間体粉砕工程(3B)を行う場合には、中間体13の核形成が不十分であると、粉砕処理後に組成ずれが生じる可能性があるため、保持工程(3A)における保持温度T11を、400℃~500℃の範囲の温度を含むように設定することが望ましい。
【0054】
図7、
図9において、焼成工程(4)では、このようにして得られた中間体13を、1000℃よりも低い所定の焼成温度T2まで昇温して、所定時間保持することにより、所望の組成を有するLLZ系固体電解質1の結晶集合体が得られる。焼成温度T2は、結晶粒子Cを微粒化する観点から、好適には、950℃よりも低い温度、例えば、700℃~900℃の範囲で適宜選択されることが望ましい。
【0055】
以上のように、保持工程(3A)の後に引き続いて、焼成工程(4)に供されることにより、LLZ核C1を含む中間体13が粗大化することなく焼成反応が進行し、結晶粒子Cとなる。また、さらに中間体粉砕工程(3B)を経ることにより、LLZ核C1を含む中間体13が粉砕され、微粒化された状態で焼成反応が進行し、より微粒の結晶粒子Cが得られる。
【0056】
なお、中間体粉砕工程(3B)を行わず、焼成工程(4)後に粉砕処理することも可能であるが、副生成物が生成したり又は結晶性が低下したりすることから、中間体13の状態で粉砕処理を行うことが好ましく、より高品質の結晶集合体が得られる。
【実施例0057】
(実施例1)
[LLZ系固体電解質の製造]
次に、上記実施形態1に示した製造工程に基づき、LLZ系固体電解質1の結晶集合体として、Li7La3Zr2O12のZrの一部をNbで置換した複合酸化物(Li7-XLa3Zr2-XNbXO12)を製造した。具体的には、Li6.4La3Zr1.4Nb0.6O12の組成を有するLLZ系固体電解質1について、以下の原料準備工程(1)、原料混合工程(2)、中間体形成工程(3)、焼成工程(4)を経て、結晶粒子Cの集合体を得た。
【0058】
[原料準備工程(1)]
まず、上記組成を有するLLZ系固体電解質1の原料として、Li原料であるLiOH・H2Oと、La原料であるLa(OH)3と、Zr原料であるZrO2と、Nb原料であるNb2O5の各粉末を準備し、それぞれ化学量論量となるように秤量した。また、焼成工程(4)における焼成用融剤として、LBO(例えば、Li3BO3)の粉末を準備した。このうち、Li原料であるLiOH・H2Oは、中間体形成工程(3)における融剤を兼ねるものであり(融点:462℃)、予め粉砕処理を行ったものを用いた。また、La原料及びZr原料、LBOについても、予め粉砕処理を行ったものを用いた。Nb原料は、原料粒径が1μm以下であるものを用いたため、粉砕処理は行っていない。
【0059】
Li原料の粉砕処理は、以下のようにして行った。φ2mmのジルコニアビーズとLiOH・H2Oの粉末とを、遊星ボールミル容器に入れて、超脱水エタノール100mlとを加え、回転数200rpm、6時間の条件で粉砕した。粉砕処理後のLiOH・H2Oの粒径は、以下の通りであった。
50%粒径D50:7.74μm(<10μm)
90%粒径D90:14.28μm(<20μm)
【0060】
また、La原料及びZr原料、LBOについても、同様にして粉砕処理を行った。これら原料とLBOの50%粒径D50は、それぞれ以下の通りであった。
La(OH)3:0.73μm(<1μm)
ZrO2:0.22μm(<1μm)
Nb2O5:0.39μm(<1μm)
LBO:3.84μm
なお、これら粒径は、粒度分布測定装置(MT3300EX2;マイクロトラック・ベル株式会社製)による測定結果に基づいており、以降の実施例についても同様である。
【0061】
[原料混合工程(2)]
粉砕されたLiOH・H2O、La原料及びZr原料と、LBOとをLLZ製造用の粉末原料11として、φ3mmのジルコニアビーズ500gと共に遊星ボールミル容器に入れて、超脱水エタノール100mlを加えた。次いで、回転数150rpm、6時間の条件で、連続して粉砕、混合して、スラリーを作製した。粉砕、混合されたスラリーを容器に取り、乾燥機に入れて90℃にて約1時間、乾燥させた。乾燥後の混合粉末とジルコニアビーズとを、目開き1.7mm篩で分け、混合粉末を回収した。
【0062】
さらに、回収された混合粉末と、φ2mmのジルコニアビーズ500gとを、遊星ボールミル容器に入れて、超脱水エタノール100mlを加えた。次いで、回転数120rpm、15時間とした以外は、上記したのと同様の条件で、連続して粉砕、混合し、得られたスラリーを乾燥させた。乾燥後の混合粉末とジルコニアビーズとを、目開き0.3mm篩で分けて、混合原料粉末12を回収した。
【0063】
[中間体形成工程(3)、焼成工程(4)]
金箔を内面に張った焼成るつぼに、回収された約15gの混合原料粉末12を入れ、電気炉にて、以下の条件で、中間体形成工程(3)と焼成工程(4)とを、引き続いて行った。まず、中間体形成工程(3)として、300℃/hrの昇温速度で、室温から熱処理温度となる400℃以上となるように、600℃前後まで連続的に温度上昇させて、熱処理を行った。この昇温過程において、LLZ生成反応が進行し、LLZ核C1を含む中間体13となる。
【0064】
さらに、焼成工程(4)として、引き続いて300℃/hrの昇温速度で、焼成温度となる900℃まで温度上昇させ、900℃にて20時間保持することにより、中間体13の焼成を行った。その後、170℃/hrの降温速度にて、400℃まで温度低下させ、そのまま電気炉内にて炉冷して、室温まで冷却することにより、LLZ焼成粉体を得た。
【0065】
[洗浄乾燥工程(5)]
100mlの樹脂容器に、固まった状態のLLZ焼成粉体を入れて、約60mlのイオン交換水を加え、超音波洗浄機を用いてLBOを分解した。これをイオン交換水の使用量が約500mlとなるまで繰り返し、LLZ粉体のスラリーを回収した後、ろ紙(0.22μm)を用いた吸引ろ過装置にて水分除去して、ろ紙上にLLZ焼成粉体の堆積物を得た。このLLZ焼成粉体の堆積物を、真空乾燥機に入れて40℃に加熱し、約1.0時間、脱水乾燥させた。
【0066】
次いで、500mlの樹脂容器に、脱水乾燥させたLLZ焼成粉体を入れて約250mlのイオン交換水を加え、上述した方法と同様にして、超音波洗浄機にて洗浄した。さらに、上述した方法と同様にして、洗浄、ろ過した後、脱水乾燥させた。このようにして、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。
【0067】
このようにして得られたLLZ系固体電解質1の結晶粒子Cについて、走査型顕微鏡による観察を行い、また、X線回折装置によるXRDパターンの測定(X線源:CuKα線)を行った。
図10にSEM観察画像を、
図11にXRDパターンを示す。また、粒度分布測定に基づく50%粒径D
50、90%粒径D
90を、以下に示す。
50%粒径D
50:3.46μm(<5μm)
90%粒径D
90:5.53μm
【0068】
図10のSEM観察画像と粒度分布測定の結果に示されるように、得られたLLZ系固体電解質1は、粒径の揃った微粒子状の結晶集合体からなる。結晶粒子Cは、50%粒径D
50は3.46μmと、5μmよりも小さくなっており、また、90%粒径D
90は5.53μmと、全体にばらつきが小さい均質な粒子となっている。また、
図11に示されるXRDパターンのピークは、図中にLLZレファレンスとして示す参照用パターンのピーク位置とほぼ一致し、所望のLLZ結晶構造を有することが確認された。
【0069】
(実施例2)
[LLZ系固体電解質の製造]
上記実施例1と同様のLLZ系固体電解質1について、原料準備工程(1)にて、予め粉砕処理を行うLLZ原料を、Li原料であるLiOH・H2Oのみとした。それ以外は同様にして、原料準備工程(1)、原料混合工程(2)、中間体形成工程(3)、焼成工程(4)を経て、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。
【0070】
[原料準備工程(1)]
Li原料であるLiOH・H2Oについて、実施例1と同様の粉砕処理を行って、粒径調整を行った。Li原料の50%粒径D50及び90%粒径D90は、以下の通りであった。
50%粒径D50:7.2μm(<10μm)
90%粒径D90:16.38μm(<20μm)
【0071】
予め粉砕したLi原料と、その他の原料を化学量論量となるように秤量して、LLZ製造用の粉末原料11とした。La原料であるLa(OH)3及びZr原料であるZrO2については、粉砕処理を行わずに用いた。その他の原料の50%粒径D50は、それぞれ以下の通りであった。
La(OH)3:2.7μm(>1.0μm)
ZrO2:12μm(>1.0μm)
Nb2O5:0.39μm(<1.0μm)
LBO:15.85μm
【0072】
[原料混合工程(2)]
粉砕されたLiOH・H2Oを含むLLZ製造用の粉末原料11を、実施例1と同様にして、遊星ボールミル容器に入れて、粉砕、混合されたスラリーを作製した。得られたスラリーを、乾燥させた後、篩分けしたものを回収することを繰り返して、混合原料粉末12とした。
【0073】
[中間体形成工程(3)、焼成工程(4)]
実施例1と同様にして、回収された混合原料粉末12を焼成るつぼに入れ、電気炉にて、300℃/hrの昇温速度で、室温から600℃へ向けて温度上昇させることにより、熱処理を行って中間体13を形成した。さらに、引き続いて、300℃/hrの昇温速度で、900℃まで温度上昇させ、900℃にて20時間保持することにより、中間体13の焼成を行った。その後、170℃/hrの降温速度にて、400℃まで温度低下させ、室温まで炉冷して、LLZ焼成粉体を得た。
【0074】
[洗浄乾燥工程(5)]
さらに、実施例1と同様にして、得られたLLZ焼成粉体にイオン交換水を加え、超音波洗浄機を用いてLBOを分解除去した。次いで、LLZ粉体のスラリーを回収し、吸引ろ過装置にて水分除去して、LLZ焼成粉体の堆積物を得た後、脱水乾燥させた。さらに、洗浄、ろ過した後、脱水乾燥させることを繰り返して、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。
【0075】
このようにして得られたLLZ系固体電解質1の結晶粒子Cについて、走査型顕微鏡による観察を行った。
図12にSEM観察画像を示す。また、粒度分布測定(MT3300EX2;Microtrac製)に基づく、50%粒径D
50を以下に示す。
50%粒径D
50:4.95μm(<5μm)
【0076】
図12のSEM観察画像と粒度分布測定の結果に示されるように、得られたLLZ系固体電解質1は、50%粒径D
50が4.95μmと、5μmよりも小さくなっており、実施例1の50%粒径D
50よりも大きいものの、粒径の揃った微粒子状の結晶集合体からなる。これらの結果から、少なくとも融剤を兼ねるLi原料を粒径調整することにより、La原料及びZr原料が微粒化されていなくとも、得られる結晶粒子Cの微粒化に有効であることが確認された。
【0077】
(比較例1)
[LLZ系固体電解質の製造]
比較のために、上記実施例1と同様のLLZ系固体電解質1について、原料準備工程(1)にて、予め粉砕処理を行うLLZ原料を、La原料であるLa(OH)3及びZr原料であるZrO2として、結晶粒子Cの粒径への影響を調べた。Li原料であるLiOH・H2Oについては、粉砕処理による粒径調整を行わずに、原料混合工程(2)、焼成工程(4)を経て、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。
【0078】
[原料準備工程(1)]
Li原料と、その他の原料を化学量論量となるように秤量して、LLZ製造用の粉末原料11とした。Li原料であるLiOH・H2Oの50%粒径D50及び90%粒径D90は、以下の通りであった。
50%粒径D50:7.75μm(<10μm)
90%粒径D90:25.98μm(>20μm)
【0079】
それに先立ち、La原料であるLa(OH)3及びZr原料であるZrO2については、実施例1と同様の粉砕処理を行った。その他の原料の50%粒径D50は、それぞれ以下の通りであった。La(OH)3:0.77μm(<1.0μm)
ZrO2:0.22μm(<1.0μm)
Nb2O5:0.39μm(<1.0μm)
LBO:15.85μm
【0080】
[原料混合工程(2)]
粒径調整されていないLiOH・H2Oと、予め粉砕処理したLa原料及びZr原料と、LBOとをLLZ製造用の粉末原料11として、実施例1と同様にして、遊星ボールミル容器に入れて、粉砕、混合されたスラリーを作製した。得られたスラリーを、乾燥させた後、篩分けしたものを回収することを繰り返して、混合原料粉末12とした。
【0081】
[焼成工程(4)]
実施例1と同様にして、回収された混合原料粉末12を焼成るつぼに入れ、電気炉にて、300℃/hrの昇温速度で、室温から900℃まで温度上昇させ、900℃にて20時間保持することにより、焼成を行った。その後、170℃/hrの降温速度にて、400℃まで温度低下させ、室温まで炉冷して、LLZ焼成粉体を得た。
【0082】
[洗浄乾燥工程(5)]
さらに、実施例1と同様にして、得られたLLZ焼成粉体にイオン交換水を加え、超音波洗浄機を用いてLBOを分解除去した。次いで、LLZ粉体のスラリーを回収し、吸引ろ過装置にて水分除去して、LLZ焼成粉体の堆積物を得た後、脱水乾燥させた。さらに、洗浄、ろ過した後、脱水乾燥させることを繰り返して、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。
【0083】
このようにして得られたLLZ系固体電解質1の結晶粒子Cについて、走査型顕微鏡による観察を行った。
図13にSEM観察画像を示す。また、粒度分布測定(MT3300EX2;Microtrac製)に基づく、50%粒径D
50を以下に示す。
50%粒径D
50:10.46μm(>10μm)
90%粒径D
90:17.62μm
【0084】
図13のSEM観察画像と粒度分布測定の結果に示されるように、得られたLLZ系固体電解質1は、50%粒径D
50が10.46μmと、10μmよりも大きくなっている。これは、実施例1の50%粒径D
50に対して3倍程度、実施例2の50%粒径D
50に対しても2倍以上の大きさであり、また、90%粒径D
90も17.62μmとばらつきがやや大きい。これらの結果から、La原料及びZr原料のみを粒径調整しても、Li原料が粒径調整されていない場合には、得られる結晶粒子Cが10μmを超えてしまい、所望の結果が得られない。
【0085】
このように、実施例1、2と比較例1の結果から、融剤を兼ねるLi原料が予め粉砕処理されて、所定の粒径範囲にあるときに、結晶粒子Cの粗大化を抑制する効果が得られる。その際には、Li原料の50%粒径D50が、10μm以下であるだけでなく、90%粒径D50が、20μm以下であることが重要であり、加えて、La原料及びZr原料が予め粉砕処理されると、さらに結晶粒子Cの微粒化に有効であることがわかる。
【0086】
(試験例1)
ここで、
図14~
図17に示すように、原料準備工程(1)におけるLi原料の粉砕処理の有無と、その後の昇温過程における粒成長への影響を調べた。
図14は、実施例1の変形例として、予め粉砕処理により粒径調整したLi原料を含む粉末原料11を用いて、同様の方法で、LLZ系固体電解質1を製造した場合であり、熱処理工程(3)及び焼成工程(4)の各温度におけるLLZ結晶の生成状態と粒径変化を示している。
図15は、比較のために、Li原料の粉砕処理を行わずにLLZ系固体電解質1を生成した場合について、同様に、LLZ結晶の生成と温度との関係を調べた結果を示したものである。
【0087】
図14、
図15の試験結果の比較から、Li原料が予め粒径調整されている場合には、熱処理過程において、より低温で反応が開始され、粒成長が進行している(例えば、400℃における50%粒径D
50:1.44μm)。また、XRDピークには、LZ前駆体に特徴的なピークは見られず、Li原料の融点近傍にて(例えば、500℃)、LLZリファレンスとほぼ同等位置にピークを有している。これに対して、粒径調整されていない場合には、400℃における粒成長はほとんど見られない(例えば、50%粒径D
50:0.46μm)。また、500℃において粒成長が急速に進んでいるものの(例えば、50%粒径D
50:4.2μm)、XRDピークは、LLZリファレンスのピーク位置からずれた状態にある。そのために、焼成過程にて形成されるLLZ結晶の粒子サイズに違いが生じており、例えば、900℃における50%粒径D
50は、粒径調整されている場合には、3.1μmであるのに対し、粒径調整されていない場合には、7μm以上となっている。
【0088】
図16は、Li原料の粉砕処理の有無による、昇温過程における粒子サイズ(50%粒径D
50)の変化を比較して示している。Li原料が予め粒径調整されている場合には、融点よりも低温で粒成長が開始される一方、Li原料の溶融温度域(例えば、500℃~600℃)における粒成長は比較的緩やかとなり、その後の焼成温度域(例えば、700℃~900℃)における粒子サイズの変化も小さい。
【0089】
図17の上図に示すように、一般に、混合原料粉末12を構成する原料粒径が小さいほど、反応性が高まり、反応速度が大きくなる。特に、融剤としてのLi原料が粒径調整されることによって、より低温にてLLZ生成反応が開始され、融点よりも低い温度、例えば、400℃付近にて、LLZ核C1の生成が可能になる。その場合には、低温で反応が進行するために、粒成長が抑制されて、比較的低い温度で全体にLLZ核C1が均一に形成可能となり、焼成温度域において、LLZ核C1からのLLZ結晶化に際しても、過度な粒成長が抑制されるものと推測され、微粒子状の結晶粒子Cが得られる。
【0090】
ここで、化学反応における反応速度定数Kと温度Tの関係は、一般的にアレニウスの式として知られ、下記式で表される。
K=Aexp(-Ea/RT)
A:頻度因子
Ea:活性化エネルギー
R:気体定数
T:温度
活性化エネルギーEaは、化学反応に応じて定まるので、ある温度Tにおける反応速度定数Kは、頻度因子A、すなわち、粒子の接触頻度に依存し、原料粒径が小さいほど、反応速度が大きくなる。
【0091】
これに対して、
図16において、Li原料が粒径調整されていない場合には、溶融温度域以下での粒成長は見られない一方で、融点近傍にて大きく粒成長し、その後の焼成温度域においても粒成長が進行している。
図17の下図に比較して示すように、一般に、原料粒径が大きくなると、反応速度は小さくなるために、融剤としてのLi原料が粒径調整されていない場合には、La原料及びZr原料が粒径調整されていても、より高温までLLZ生成反応は進行しない。その場合に、より高温で反応が開始されると、La原料及びZr原料の反応性が高まっているために、粒成長が進みやすくなるものと推測され、結晶粒子Cが粗大化しやすくなる。
【0092】
(試験例2)
さらに、
図18に示すように、実施例1の変形例として、原料準備工程(1)におけるLi原料の割合を変化させて、その後のLLZ生成反応における粒子状態への影響を調べた。
図18は、実施例1と同様の方法で、予め粉砕処理により粒径調整したLi原料と、La原料及びZr原料とを用いて、LLZ系固体電解質1を製造した場合について、Li原料を化学量論量より多く添加した混合原料粉末12を調製し、Li原料の割合と得られるLLZ結晶の粒径との関係を調べた結果を示している。
【0093】
図18において、混合原料粉末12に添加されるLi原料が、化学量論量に対応する質量割合よりも増加すると、焼成後の結晶粒子Cの50%粒径D
50が、より微粒化している。具体的には、Li原料の質量割合が40%前後までは、質量割合が多くなるほど、50%粒径D
50が低減し、その後、再び増加して、55%を超えると、微粒化の効果が見られなくなる。この結果から、融剤としてのLi原料の増量には、適切な範囲があり、好適には、質量割合で55%以下となる範囲で適宜調整することにより、所望の微粒化効果が得られる。
【0094】
これは、上記
図8に示したように、融剤を兼ねるLi原料が、混合原料粉末12において、La原料とZr原料との接触を阻害する阻害剤として機能すると共に、LLZ原料として、LLZ生成反応の進行に影響することによる。すなわち、Li原料の増加と共に、La原料とZr原料との接触頻度が減少すると、上記アレニウスの式における頻度因子Aの低下により、反応速度が低下する。その場合には、La原料とZr原料との反応によるLZ前駆体の生成が抑制され、Liが取り込まれた微粒のLZ反応生成物が生成しやすくなる。ただし、LLZの構成材料であるLi原料が適量を超えると、取り込まれるLiが多くなり、LLZ核C1の粗大化につながるものと推測される。
【0095】
(実施例3)
[LLZ系固体電解質の製造]
上記実施例1と同様のLLZ系固体電解質1について、原料準備工程(1)にて、予め粉砕処理を行うLLZ原料を、Li原料、La原料及びZr原料とし、同様にして、原料準備工程(1)、原料混合工程(2)、中間体形成工程(3)、焼成工程(4)を経て、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。中間体形成工程(3)は、連続的に昇温せず、所定の保持温度で保持する保持工程(3A)を設けた。
【0096】
[原料準備工程(1)]
Li原料とその他の原料を化学量論量となるように秤量して、LLZ製造用の粉末原料11とした。Li原料であるLiOH・H2Oについては、実施例1と同様の粉砕処理を行った。Li原料の50%粒径D50及び90%粒径D90は、以下の通りであった。
50%粒径D50:5.63μm(<10μm)
90%粒径D90:19.44μm(<20μm)
【0097】
また、La原料であるLa(OH)3及びZr原料であるZrO2について、実施例1と同様の粉砕処理を行った。その他の原料の50%粒径D50は、それぞれ以下の通りであった。
La(OH)3:0.77μm(<1.0μm)
ZrO2:0.22μm(<1.0μm)
Nb2O5:0.39μm(<1.0μm)
LBO:3.84μm
【0098】
[原料混合工程(2)]
予め粉砕されたLiOH・H2Oと、それ以外のLa原料及びZr原料と、LBOとをLLZ製造用の粉末原料11とし、実施例1と同様にして、遊星ボールミル容器に入れて、粉砕、混合されたスラリーを作製した。得られたスラリーを、乾燥させた後、篩分けしたものを回収することを繰り返して、混合原料粉末12とした。
【0099】
[中間体形成工程(3)、保持工程(3A)]
実施例1と同様にして、回収された混合原料粉末12を焼成るつぼに入れ、電気炉にて、300℃/hrの昇温速度で、室温から保持温度となる400℃まで温度上昇させた。次いで、400℃にて、20時間保持することにより、熱処理を行って中間体13を形成した。
【0100】
[焼成工程(4)]
次いで、300℃/hrの昇温速度で、900℃まで温度上昇させ、焼成温度となる900℃まで温度上昇させ、900℃にて1時間保持することにより、中間体13の焼成を行った。その後、170℃/hrの降温速度にて、400℃まで温度低下させ、室温まで炉冷して、LLZ焼成粉体を得た。
【0101】
[洗浄乾燥工程(5)]
さらに、実施例1と同様にして、得られたLLZ焼成粉体にイオン交換水を加え、超音波洗浄機を用いてLBOを分解除去した。次いで、LLZ粉体のスラリーを回収し、吸引ろ過装置にて水分除去して、LLZ焼成粉体の堆積物を得た後、脱水乾燥させた。さらに、洗浄、ろ過した後、脱水乾燥させることを繰り返して、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。
【0102】
このようにして得られたLLZ系固体電解質1の結晶粒子Cについて、走査型顕微鏡による観察を行った。
図19にSEM観察画像を示す。また、粒度分布測定(MT3300EX2;Microtrac製)に基づく、50%粒径D
50を以下に示す。
50%粒径D
50:1.7μm(<2μm)
【0103】
図19のSEM観察画像と粒度分布測定の結果に示されるように、得られたLLZ系固体電解質1は、50%粒径D
50が1.7μmと、2μm以下であり、実施例1、2の50%粒径D
50よりもさらに小さくなっている。これらの結果から、融剤を兼ねるLi原料を粒径調整し、さらに融点以下の温度で保持することにより、得られる結晶粒子Cをより微粒化することができることが確認された。
【0104】
(実施例4)
[LLZ系固体電解質の製造]
上記実施例1と同様のLLZ系固体電解質1について、原料準備工程(1)にて、予め粉砕処理を行うLLZ原料を、Li原料、La原料及びZr原料とし、同様にして、原料準備工程(1)、原料混合工程(2)、中間体形成工程(3)、焼成工程(4)を経て、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。中間体形成工程(3)は、連続的に昇温せず、所定の保持温度にて多段階に保持する保持工程(3A)の後、粉砕処理を行う中間体粉砕工程(3B)を設けた。
【0105】
[原料準備工程(1)]
Li原料とその他の原料を化学量論量となるように秤量して、LLZ製造用の粉末原料11とした。Li原料であるLiOH・H2Oについては、実施例1と同様の粉砕処理を行った。Li原料の50%粒径D50及び90%粒径D90は、以下の通りであった。
50%粒径D50:7.74μm(<10μm)
90%粒径D90:14.28μm(<20μm)
【0106】
また、La原料であるLa(OH)3及びZr原料であるZrO2について、実施例1と同様の粉砕処理を行った。その他の原料の50%粒径D50は、それぞれ以下の通りであった。
La(OH)3:0.26μm(<1.0μm)
ZrO2:0.16μm(<1.0μm)
Nb2O5:0.39μm(<1.0μm)
LBO:9.48μm
【0107】
[原料混合工程(2)]
予め粉砕されたLiOH・H2Oと、それ以外のLa原料及びZr原料と、LBOとをLLZ製造用の粉末原料11とし、実施例1と同様にして、遊星ボールミル容器に入れて、粉砕、混合されたスラリーを作製した。得られたスラリーを、乾燥させた後、篩分けしたものを回収することを繰り返して、混合原料粉末12とした。
【0108】
[中間体形成工程(3)、保持工程(3A)]
実施例1と同様にして、回収された混合原料粉末12を焼成るつぼに入れ、電気炉にて、300℃/hrの昇温速度で、室温から保持温度となる500℃まで温度上昇させた。500℃にて10時間保持することにより、熱処理を行って中間体13を形成した。
【0109】
[中間体粉砕工程(3B)]
この中間体13を回収し、φ2mmのジルコニアビーズと共に遊星ボールミル容器に入れて、超脱水エタノール40mlを加え、回転数150rpm、15時間の条件で、粉砕した。得られたスラリーを容器に取り、乾燥機に入れて、90℃にて約1時間乾燥させた。乾燥後の粉砕粉末とジルコニアビーズとを、目開き0.3mm篩で分けて、粉砕粉末を回収した。
【0110】
[焼成工程(4)]
回収された粉砕粉末を焼成るつぼに入れ、電気炉にて、300℃/hrの昇温速度で、室温から温度上昇させながら、375℃、400℃、425℃、450℃、500℃にて、それぞれ5時間保持した。さらに、焼成温度となる900℃まで温度上昇させ、900℃にて20時間保持することにより、中間体13の焼成を行った。その後、170℃/hrの降温速度にて、400℃まで温度低下させ、室温まで炉冷して、LLZ焼成粉体を得た。
【0111】
[洗浄乾燥工程(5)]
さらに、実施例1と同様にして、得られたLLZ焼成粉体にイオン交換水を加え、超音波洗浄機を用いてLBOを分解除去した。次いで、LLZ粉体のスラリーを回収し、吸引ろ過装置にて水分除去して、LLZ焼成粉体の堆積物を得た後、脱水乾燥させることにより、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。
【0112】
このようにして得られたLLZ系固体電解質1の結晶粒子Cについて、走査型顕微鏡による観察を行った。
図20にSEM観察画像を示す。また、粒度分布測定(MT3300EX2;Microtrac製)に基づく、50%粒径D
50を以下に示す。
50%粒径D
50:0.70μm(<1μm)
【0113】
図20のSEM観察画像と粒度分布測定の結果に示されるように、得られたLLZ系固体電解質1は、50%粒径D
50が0.7μmと、1μm以下であり、実施例1~3の50%粒径D
50よりもさらに小さくなっている。これらの結果から、融剤を兼ねるLi原料を粒径調整し、さらに融点以下の温度を含む多段階にて保持することにより、得られる結晶粒子Cをより微粒化することができることが確認された。
【0114】
(実施例5)
[LLZ系固体電解質の製造]
上記実施例1と同様のLLZ系固体電解質1について、原料準備工程(1)にて、予め粉砕処理を行うLLZ原料を、Li原料、La原料及びZr原料とし、同様にして、原料準備工程(1)、原料混合工程(2)、中間体形成工程(3)、焼成工程(4)を経て、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。中間体形成工程(3)は、連続的に昇温せず、所定の保持温度で保持する保持工程(3A)を設けた。
【0115】
[原料準備工程(1)]
Li原料とその他の原料を化学量論量となるように秤量して、LLZ製造用の粉末原料11とした。Li原料であるLiOH・H2Oについては、実施例1と同様の粉砕処理を行った。Li原料の50%粒径D50及び90%粒径D90は、以下の通りであった。
50%粒径D50:5.63μm(<10μm)
90%粒径D90:19.44μm(<20μm)
【0116】
また、La原料であるLa(OH)3及びZr原料であるZrO2について、実施例1と同様の粉砕処理を行った。その他の原料の50%粒径D50は、それぞれ以下の通りであった。
La(OH)3:0.77μm(<1.0μm)
ZrO2:0.22μm(<1.0μm)
Nb2O5:0.39μm(<1.0μm)
LBO:3.84μm
【0117】
[原料混合工程(2)]
予め粉砕されたLiOH・H2Oと、それ以外のLa原料及びZr原料と、LBOとをLLZ製造用の粉末原料11とし、実施例1と同様にして、遊星ボールミル容器に入れて、粉砕、混合されたスラリーを作製した。得られたスラリーを、乾燥させた後、篩分けしたものを回収することを繰り返して、混合原料粉末12とした。
【0118】
[中間体形成工程(3)、保持工程(3A)]
実施例1と同様にして、回収された混合原料粉末12を焼成るつぼに入れ、電気炉にて、300℃/hrの昇温速度で、室温から保持温度となる375℃まで温度上昇させた。次いで、375℃にて、20時間保持することにより、熱処理を行って中間体13を形成した。
【0119】
[焼成工程(4)]
次いで、300℃/hrの昇温速度で、900℃まで温度上昇させ、焼成温度となる900℃まで温度上昇させ、900℃にて1時間保持することにより、中間体13の焼成を行った。その後、170℃/hrの降温速度にて、400℃まで温度低下させ、室温まで炉冷して、LLZ焼成粉体を得た。
【0120】
[洗浄乾燥工程(5)]
さらに、実施例1と同様にして、得られたLLZ焼成粉体にイオン交換水を加え、超音波洗浄機を用いてLBOを分解除去した。次いで、LLZ粉体のスラリーを回収し、吸引ろ過装置にて水分除去して、LLZ焼成粉体の堆積物を得た後、脱水乾燥させた。さらに、洗浄、ろ過した後、脱水乾燥させることを繰り返して、LLZ系固体電解質1の結晶集合体を得た。
【0121】
このようにして得られたLLZ系固体電解質1の結晶粒子Cについて、走査型顕微鏡による観察を行った。
図21にSEM観察画像を示す。また、粒度分布測定(MT3300EX2;Microtrac製)に基づく、50%粒径D
50を以下に示す。
50%粒径D
50:2.55μm(<5μm)
【0122】
図21のSEM観察画像と粒度分布測定の結果に示されるように、得られたLLZ系固体電解質1は、50%粒径D
50が2.55μmと、5μm以下であり、実施例3の50%粒径D
50よりも大きいものの、実施例1、2の50%粒径D
50よりは小さくなっている。これらの結果から、融剤を兼ねるLi原料を粒径調整し、さらに融点以下の温度で保持する場合には、保持温度T11を375℃以上とすることにより、得られる結晶粒子Cの微粒化に効果があることが確認された。
【0123】
ここで、
図22に示すように、実施例5と同様にして、保持工程(3A)を行った中間体13を取り出してSEM観察を行ったところ、上記
図14に示した400℃の場合ほど中間体13の粒子の形成は見られず、XRDパターンにおけるピーク位置のLLZレファレンスのずれも見られた。これらの結果から、好適には、保持温度T11を375℃よりも高い温度、例えば、400℃以上に設定すると微粒化により有効となる。
【0124】
また、
図23に参考例として示すように、上記実施例5と同様の保持工程(3A)後に、さらに、上記実施例4と同様の中間体粉砕工程(3B)を行ったところ、焼成工程(4)後のXRDパターンに変化が見られた。
図23の上段は、中間体13のXRDパターンであり、
図22の実施例5の中間体13と同様のピークを示している。これに対して、
図23の下段は、焼成体のXRDパターンであり、LLZレファレンスのピーク位置からのずれが大きくなる一方、LZ前駆体に特徴的なピークが見られた。
【0125】
これは、LLZ核C1が十分形成されていない状態の中間体13を粉砕処理した場合に、粉砕粉末に含まれるLLZ核C1の組成が崩れてしまい、Li不足によりLa2Zr2O7(LZ)が形成されやすくなるためと推測される。そのため、保持工程(3A)後の中間体粉砕工程(3B)を実施する場合には、保持温度T11が比較的高くして、LLZ結晶構造を形成させるか、保持温度T11が比較的低い場合には、その後の中間体粉砕工程(3B)を実施せずに、焼成工程(4)を行うことが望ましい。
【0126】
以上のように、LLZ系固体電解質1を製造するに際して、融剤を兼ねる所定の粒径範囲のLi原料を準備し、La原料及びZr原料と共に混合したものを、熱処理することにより、低温にてLLZ核を含む中間体が形成される。この中間体を焼成することにより、LLZ生成反応における粒成長が抑制されて、微粒子状の結晶集合体を得ることができる。
【0127】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、上記実施例では、LLZ系固体電解質1として、Li7La3Zr2O12のZrの一部をNbで置換した複合酸化物を例示したが、置換元素や置換割合は異なっていてもよい。また、LLZ系固体電解質1を全固体電池に適用した例を示したが、これに限らず、任意の用途に用いることができる。