(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093963
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】炊飯器
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20220617BHJP
【FI】
A47J27/00 109P
A47J27/00 109K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206721
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】390010168
【氏名又は名称】東芝ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萱森 雅之
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 紀子
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋一
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 卓也
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一也
【テーマコード(参考)】
4B055
【Fターム(参考)】
4B055AA03
4B055BA42
4B055CD42
4B055CD45
4B055DB14
4B055GB09
4B055GB12
4B055GC06
4B055GC26
4B055GC36
4B055GD05
(57)【要約】
【課題】保温中のご飯の状態を把握することができる炊飯器を提供する。
【解決手段】本発明の炊飯器1は、被炊飯物として米と水を内部に収容する鍋5と、鍋5を加熱する加熱コイル12および胴ヒータ11と、加熱コイル12および胴ヒータ11を制御する加熱制御手段40と、調理に関わる情報を表示する表示部18と、を備え、加熱制御手段40は、鍋5を加熱して、被炊飯物を炊飯する炊飯行程と、炊飯行程で炊飯されたご飯を保温する保温行程と、の順に行なうように加熱コイル12および胴ヒータ11を制御し、表示部18は、保温行程を行なっていることを表示する「保温」のLED79と、保温行程におけるご飯の状態を表示する「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6、「保温」の表示要素81-7および保温時間表示要素81-8と、を有する構成としている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被炊飯物として米と水を内部に収容する鍋と、
前記鍋を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段を制御する制御手段と、
調理に関わる情報を表示する表示手段と、を備え、
前記制御手段は、前記鍋を加熱して、前記被炊飯物を炊飯する炊飯行程と、前記炊飯行程で炊飯されたご飯を保温する保温行程と、の順に行なうように前記加熱手段を制御し、
前記表示手段は、前記保温行程を行なっていることを表示する保温表示部と、前記保温行程における前記ご飯の状態を表示する状態表示部とを有することを特徴とする炊飯器。
【請求項2】
前記状態表示部は、前記ご飯の状態の変化に応じて前記ご飯の状態の表示を変化させることを特徴とする請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
前記状態表示部が表示する前記ご飯の状態は、前記ご飯の温度および前記保温行程を開始してからの経過時間の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2に記載の炊飯器。
【請求項4】
前記ご飯の状態の表示が、前記ご飯の状態を名称で表示することであり、あるいは、前記ご飯の状態をピクト表示することであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項5】
前記保温行程を開始してから60分以内の所定の経過時間である期間、または前記保温行程における前記ご飯の温度が所定の温度以上である期間を炊き立て期間としたことを特徴とする請求項4に記載の炊飯器。
【請求項6】
前記鍋の温度を検知する鍋温度検知手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記保温行程を開始してから60分以内の所定の経過時間である期間では、前記ご飯の温度を80℃以上の所定の温度に保持するように前記加熱手段を制御し、
前記状態表示部は、ピクト表示で前記期間における前記ご飯の状態を表示することを特徴とする請求項1に記載の炊飯器。
【請求項7】
前記鍋の上方開口部を覆う内蓋と、
前記内蓋を加熱する蓋加熱手段と、
前記内蓋の温度を検知する蓋温度検知手段と、をさらに備え、
前記蓋加熱手段は前記制御手段に制御され、
前記制御手段は、前記保温行程を開始してから60分以内の所定の経過時間である期間では、前記内蓋の温度を前記ご飯の温度よりも平均的に高くするように前記蓋加熱手段を制御することを特徴とする請求項6に記載の炊飯器。
【請求項8】
前記鍋を収容する本体の上面開口を蓋体が覆った状態で前記鍋の内部を通常の大気圧よりも低くする脱気を行なうための減圧手段をさらに備え、
前記保温行程中は前記鍋の内部を脱気する構成としたことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項9】
前記状態表示部は、前記保温行程を開始してからの経過時間が60分以内の所定の時間である期間内では1時間よりも短い単位で当該経過時間を表示し、前記所定の時間の期間を経過した後は時間単位で当該経過時間を表示する構成としたことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項10】
情報端末と通信可能な送信部をさらに備え、
前記保温行程に移行した後の前記ご飯の状態の情報を前記情報端末に送信する構成としたことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の炊飯器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ご飯を保温する保温行程を行なう炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炊飯器はご飯の炊飯行程が終了すると、自動的にご飯の保温行程に移行する構成になっている。ここで、保温行程の期間が長くなる程ご飯の食味が低下することが知られている。しかしながら保温行程に移行していつまでが炊き立て相当のご飯であるのかは、ユーザの感覚的な主観により左右されるため、客観的に知ることが難しい。そこで、例えば引用文献1のように、ユーザが食味保証時間を選択し、選択された食味保証時間により保温行程の加熱制御を変更させてご飯の食味を保つものが知られている。また本願出願人は、保温中のご飯にスチームを噴霧することでご飯の食味を保つものを提案している(引用文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-014546号公報
【特許文献2】特開2009-119297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食べたときのご飯が、炊き立てか否か、また炊き立てに近いか否か、もう炊き立てとは言えないのかなど、保温中のご飯の状態の変化をユーザが客観的に把握できれば、食べたご飯の良し悪しが分かりやすく、実際のご飯の食味とユーザの感覚的な主観によるご飯の食味との間で齟齬が生じにくい。しかしながら、上述した従来の技術は保温行程におけるご飯の食味を保つものであるので、やはり炊飯直後の炊き立てのご飯の状態とは食味が相違していた。
【0005】
図15は、炊き立てのご飯の定性的視点と定量的視点の一例を示す説明図である。ここで、炊き立てのご飯と保温したご飯や冷や飯との違いは、炊飯中に米粒から溶出した旨み成分がオネバ(水分)となって、ご飯粒周囲に付着した状態か否か、またオネバ付着による、透明感あるつや、ご飯粒周囲のねばりの有無、また約100℃に近い「あつあつ」な状態かなどになる。しかしながら、上述した従来の技術は保温行程におけるご飯の食味を保つものであり、例えば引用文献1の技術は保温の中で言及されたもので炊き立ての概念ではなく、引用文献2の技術は、炊き立てのご飯特有のご飯粒の周囲に付着したうまみ成分を含むオネバと、噴霧されたスチームとは相違するため単なる水分の補給になってしまい、炊飯直後の炊き立てのご飯の状態とは食味が相違していた。
【0006】
また保温行程開始からの経過時間を表示することにより、炊飯終了後からのご飯の状態をユーザが確認できる技術も知られているが、この経過時間を1時間単位で表示する商品が主流であり、時間が長すぎて炊き立てかどうかをユーザが把握できなかった。また、この経過時間を短い単位で表示する技術も知られているが、どのくらいの時間までが炊き立てであるかをユーザが把握できないため、無用に経過時間の表示が変化するのみの機能になってしまっていた。
【0007】
そこで本発明は、保温中のご飯の状態を把握することができる炊飯器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の炊飯器は、上記目的を達成するために、被炊飯物として米と水を内部に収容する鍋と、前記鍋を加熱する加熱手段と、前記加熱手段を制御する制御手段と、調理に関わる情報を表示する表示手段と、を備え、前記制御手段は、前記鍋を加熱して、前記被炊飯物を炊飯する炊飯行程と、前記炊飯行程で炊飯されたご飯を保温する保温行程と、の順に行なうように前記加熱手段を制御し、前記表示手段は、前記保温行程を行なっていることを表示する保温表示部と、前記保温行程における前記ご飯の状態を表示する状態表示部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の炊飯器によれば、保温中のご飯の状態を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態における炊飯器の縦断面図である。
【
図4】同上、鍋センサの検知温度、蓋温度センサの検知温度、加熱手段の電力の推移をあらわしたグラフである。
【
図5】同上、保温行程における鍋センサの検知温度、蓋温度センサの検知温度、鍋内のご飯の温度の推移をあらわしたグラフである。
【
図6】同上、(A)
図5における温度の計測場所を示す図、(B)鍋センサの検知温度、蓋温度センサの検知温度、鍋内のご飯の温度の推移の一例をあらわしたグラフである。
【
図7】同上、LCDの表示の変遷を示した図である。
【
図8】同上、ご飯の保温温度と食味低下との相関関係を示した図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態における炊飯器の操作パネルの上面図である。
【
図10】同上、ご飯の温度が保温設定温度の近傍になったときのLCDの表示を示した図である。
【
図11】同上、炊飯器への電力の供給が停止し、再供給された後のLCDの表示を示した図である。
【
図12】(A)本発明の第3の実施形態における炊飯器の、炊飯行程時に電力の供給が停止し再供給された後の保温行程時のLCDの表示を示した図、(B)同上、保温行程時に電力の供給が停止し再供給された後のLCDの表示を示した図、(C)同上、炊飯行程を行なわず手動で保温行程を開始したときのLCDの表示を示した図である。
【
図13】本発明の第4の実施形態における炊飯器のLCDの表示の変遷を示した図である。
【
図14】本発明の第5の実施形態における炊飯器の電気的構成を示すブロック図である。
【
図15】炊き立てのご飯の定性的視点と定量的視点の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明における炊飯器の各実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、これらの全図面にわたり、共通する部分には共通する符号を付すものとする。
【実施例0012】
図1~
図8は、本発明の炊飯器の第1の実施形態を示している。炊飯器全体の構成を
図1に基づいて説明すると、1は炊飯器であり、上方から見て前面と後面、左側面と右側面が対向する略矩形状をなし、上面が開口された炊飯器1の本体2と、本体2の上面開口部を開閉自在に覆う蓋体3とにより全体が構成される。本体2は上面を開口した鍋収容部4を有し、蓋体3を開けたときに、被調理物である水や米を収容する容器としての有底状の鍋5が、その鍋収容部4に着脱自在に収容される構成となっている。鍋収容部4は、椀状で樹脂製の内枠6や、金属製の内枠リング7などを組み合わせて構成され、全体が有底筒状に形成される。
【0013】
鍋5は、熱伝導性の良いアルミニウムを主材8とし、フェライト系ステンレスなどの磁性金属板からなる発熱体9が、主材8の外面の側部下部から底部にかけて接合してある。鍋5の外側面に対向する内枠リング7の外面には、加熱手段の一例としてコードヒータを用いた胴ヒータ11を備えている。また、鍋5の側面下部から底面に対向する内枠6の外面には、鍋5の発熱体9を電磁誘導加熱する加熱手段として、加熱コイル12を備えている。
【0014】
内枠6の底部中央部には、鍋温度検出手段としての鍋センサ14が、鍋5の外面底部と弾発的に接触するように配設される。本実施形態の鍋センサ14は、鍋5の温度を検知して加熱コイル12による鍋5の底部の加熱温度を主に温度管理する構成となっている。
【0015】
蓋体3の前方上面には、蓋開ボタン15が露出状態で配設されており、この蓋開ボタン15を押すと、本体2と蓋体3との係合が解除され、本体2の上部後方に設けたヒンジバネ(図示せず)により、ヒンジ軸16を回転中心として蓋体3が自動的に開く構成となっている。また、このヒンジ軸16には図示しない回転センサが設けられており、蓋体3が開いたときに、後述する加熱制御手段40の制御用IC42に検知信号を送出するように構成される。そして、蓋体3の後方上面には、鍋5内の被調理物から発生する蒸気を炊飯器1の外部に排出する蒸気口ユニット17が着脱可能に装着される。
【0016】
蓋体3の上面には、蓋開ボタン15や蒸気口ユニット17の他にも、炊飯器1の表示操作ユニットとなる操作パネル20などが配設されている。操作パネル20は、調理に関わる様々な情報を表示する表示部18と、炊飯を開始させたり、時間や炊飯コ-スなどを選択させたりするための操作部19とを備えており、これらの下面には、操作パネル20の制御手段である表示・操作制御手段46を備えた制御PC(Printed Circuit:印刷回路)板47が配置される。制御PC板47はパターン形成された導電回路部を有し、この制御PC板47に操作や表示に関わる制御用IC等を実装することで、後述する加熱制御手段40と連携した表示・操作制御手段46が構成される。
【0017】
蓋体3の下側には、蓋体3の下部部材としての内蓋組立体21が配設される。内蓋組立体21は、鍋5の上方開口部と略同径の円盤状を有する金属材料からなり、鍋5の上方開口部を覆う内蓋22と、この内蓋22と鍋5との間をシールするために、内蓋22の外側全周に設けられる弾性部材としての蓋パッキン23と、鍋5の内圧力を調整する調圧部24とを備えている。環状に形成された蓋パッキン23は、
図1に示されるように蓋体3を閉じた蓋閉時に、鍋5の開口部である上面に当接して、この鍋5と内蓋22との間の隙間を塞ぎ、鍋5から発生する蒸気を密閉するものである。
【0018】
蓋体3の内部には、内蓋22を加熱する蓋加熱手段としての蓋ヒータ33と、この蓋ヒータ33による内蓋22の温度管理を行なうためのサーミスタ式の蓋温度センサ34がそれぞれ設けられる。また、鍋5内で発生した蒸気を外部へ放出する通路として、蒸気口ユニット17と調圧部24とを連通する蒸気排出経路25が形成される。調圧部24には、鍋5の内部と蒸気口ユニット17との間の蒸気排出経路25を開閉する調圧弁26が設けられる。調圧弁26はボール状で、蓋体3の内部に設けたソレノイド27と連動し、鍋5内の蒸気を外部へ放出する場合には蒸気排出経路25を開放し、鍋5内を加圧または減圧状態にする場合には蒸気排出経路25を閉塞するように、ソレノイド27が調圧弁26を転動させる。そして加圧時には、加熱コイル12への高周波通電により鍋5内の被炊飯物が加熱され、鍋5の内圧が所定値に達すると、調圧弁26の自重に抗して蒸気排出経路25を開放することで、鍋5内の圧力を大気圧以上に維持する構成となっている。
【0019】
28は、蓋3を本体2に閉じた状態で、鍋5の内部を通常の大気圧よりも低くするための減圧手段である。減圧手段28は、鍋5を鍋収容体4に収容し、蓋3を閉じた後にソレノイド27を通電して、調圧弁26が蒸気排出経路25を塞いだ状態で、密閉した鍋5の内部圧力を低下させる。また、鍋5内部の圧力が大気圧よりも一定値下がった場合には、減圧手段28の動作源となる減圧ポンプ29の動作を停止し、鍋5内部を減圧状態に保っている。さらに、鍋5内部を減圧状態から外気と同じ圧力に戻す場合には、減圧ポンプ29の動作を停止し、減圧ポンプ29と鍋5の内部との間を連通する図示しない経路を開放する。つまり減圧手段28は、鍋5内部を減圧状態から外気と同じ圧力に戻す圧力戻し手段としての構成を兼用している。
【0020】
その他、本体2の内部には、加熱制御手段40を含むユニット化された加熱基板組立41が配設される。加熱制御手段40は、表示・操作制御手段46と組み合わせて炊飯器1の各部を電気的に制御するために、制御用IC42や記憶手段51(
図2参照)などを備えたマイクロコンピュータ(マイコン)などを含んで構成され、ここでは鍋センサ14や蓋温度センサ34からの各温度検知信号と、操作部19からの操作信号とを受けて、炊飯時および保温時に鍋5を加熱する胴ヒータ11や加熱コイル12と、蓋体3を加熱する蓋ヒータ22を各々制御すると共に、ソレノイド27と、減圧ポンプ29の動作を各々制御する。特に加熱制御手段40は、鍋センサ14の検知温度に基いて主に加熱コイル12を制御して鍋5の底部を温度管理し、蓋温度センサ34の検知温度に基いて主に蓋ヒータ22を制御して、被炊飯物に対向する内蓋24を温度管理するようになっている。
【0021】
次に、加熱制御手段40および表示・操作制御手段46の制御系統について、
図2を参照しながら説明する。同図において、本体2に装備される加熱制御手段40は、マイクロコンピュータを構成する制御用IC42や記憶手段51などを備え、鍋センサ14や蓋温度センサ34からの各温度検知信号と、表示・操作制御手段46からの制御信号を受けて、炊飯時および保温時に鍋5を加熱する胴ヒータ11や加熱コイル12と、内蓋24を加熱する蓋ヒータ33を各々制御すると共に、前述した調圧弁26を動かすソレノイド27や、減圧手段28の動作を各々制御するものである。特に加熱制御手段40は、鍋センサ14の検知温度に基いて主に加熱コイル12を制御して鍋5の底部を温度管理し、蓋センサ34の検知温度に基いて主に蓋ヒータ22を制御して、内蓋24を温度管理する。これらの加熱コイル12や蓋ヒータ22と、前述した胴ヒータ11は、鍋5に入れた被調理物を加熱する加熱手段52に相当する。
【0022】
加熱制御手段40は、記憶手段51から読み出したプログラムの制御シーケンス上の機能として、炊飯制御手段53、保温制御手段54および予約炊飯手段55を制御用IC42にそれぞれ備えている。炊飯制御手段53は、操作部19の、例えば炊飯キーからの炊飯開始の指示を受けて、鍋5に投入した米の吸水を促進させるひたし行程と、被炊飯物の温度を短時間に沸騰まで上昇させる昇温行程および被炊飯物の沸騰状態を継続させる沸騰継続行程を合わせた沸騰加熱行程と、ご飯を焦がさない程度の高温に維持するむらし行程の各行程を順に実行して、鍋5内部の被炊飯物に対して所望の圧力で炊飯加熱するものである。また保温制御手段54は、鍋5内部のご飯を所定の保温温度に保つように制御するものである。そして予約炊飯手段55は、タイマー機能を備え、炊き上がり時刻(炊飯終了時刻)を設定してタイマー動作を開始させると、設定された炊き上がり時刻にご飯が炊き上がるように、炊き上がり時刻の所定時間前になると、炊飯制御手段53により炊飯を自動的に開始させ、炊き上がり時刻には保温制御手段54による保温を開始するように制御するものである。
【0023】
一方、表示・操作制御手段46は、マイクロコンピュータを構成する制御用IC48や記憶手段57、図示しない計時手段などを備え、操作部19からの操作信号や加熱制御手段40からの制御信号を受けて表示部18の表示動作を制御し、また加熱制御手段40に制御信号を送信するものである。この表示・操作制御手段46は、記憶手段57に記憶されたプログラムの制御シーケンス上の機能として、操作部19からの操作信号に基づき、各種の制御信号を生成する操作部制御手段58と、表示部18の表示動作を制御する表示動作制御手段59と、操作部制御手段58や表示動作制御手段59と連携して、操作部43で選択できる条件の選択および設定、例えば複数の調理コースや炊飯コースの中から所望の調理コースや炊飯コースの選択および設定、を可能にする条件設定手段60と、を備えている。
【0024】
図3は本実施形態の炊飯器1の要部の上面図である。蓋体3の上面には操作パネル20が配設されており、操作パネル20の表示部18の後述するLCD76において、「コシヒカリ南魚沼産」および「白米」が選択されて示されており、炊飯後、保温10分経過時の状態であることが示されている。この
図3を参照して説明すると、操作部19は、操作パネル20の右側部分に並んで配置される予約キー63と、進むキー64と、戻るキー65と、炊飯キー66と、保温キー67と、切キー68に加えて、操作パネル20の下側部分に並んで配置される銘柄キー69と、炊き方キー70と、甘みキー71と、メニューキー72と、LCD76の上面に配設されるタッチセンサ73とで構成される。ここで、63~72の各キーはユーザのタッチ操作では操作できず、押動することにより操作可能なタクトスイッチなどの押動型操作手段として機能し、タッチセンサ73は制御PC板47に接続されることで、ユーザのタッチ操作で操作可能なタッチキーなどの非押動型操作手段として機能する。
【0025】
切キー68は、炊飯や保温をやめる際に操作されるもので、切キー68が押圧されると、操作部制御手段58が切キー68からの操作信号を受け付けて加熱制御手段40に送出し、炊飯制御手段53が本体1内の被調理物に対する加熱を中止して切状態にする制御を行なう。
【0026】
炊飯キー66は炊飯を開始する際に操作されるもので、炊飯キー66が押圧されると、操作部制御手段58が炊飯キー67からの操作信号を受け付けて加熱制御手段40に送出し、炊飯制御手段53が本体1内の被調理物に対する炊飯開始の制御をする構成となっている。
【0027】
保温キー67は保温を行なう際に操作されるもので、保温キー67が押圧されると、操作部制御手段58が保温キー67からの操作信号を受け付けて加熱制御手段40に送出し、保温制御手段54が本体1内の被調理物に対する保温再加熱を開始する制御を行なう。
【0028】
予約キー63は予約炊飯を行なう際に操作されるもので、予約キー63を押圧し、予約時刻や炊飯コースを設定した後に、炊飯キー66を押圧すると、操作部制御手段58が炊飯キー62からの操作信号を受け付けて加熱制御手段40に送出し、予約炊飯手段55が予め設定した予約時刻に本体1内の被調理物が炊き上がるように炊飯制御手段53により炊飯を開始し、また保温制御手段54による保温を開始するように制御する構成となっている。
【0029】
進むキー64や戻るキー65は、後述するお米の銘柄や炊き方、甘み、メニューの選択画面で、これらを設定する際に操作される他にも、予約時刻や現在時刻、調理時間を調整するのに操作されるものである。
【0030】
銘柄キー69は、例えば「南魚沼産のコシヒカリ」など、お米の銘柄を設定する際に操作するもので、銘柄キー69を押圧すると、操作部制御手段58が銘柄キー69からの操作信号を受け付けてお米の銘柄の選択画面に移行する。また炊き方キー70は、例えば炊飯されたご飯のかたさやねばりなど、お米の炊き方を設定する際に操作するもので、炊き方キー70を押圧すると、操作部制御手段58が炊き方キー70からの操作信号を受け付けてお米の炊き方の選択画面に移行する。そして甘みキー71は、炊飯したご飯の甘みを設定する際に操作するもので、甘みキー71を押圧すると、操作部制御手段58が甘みキー71からの操作信号を受け付けてご飯の甘みの選択画面に移行する。またメニューキー72は、例えば「白米」や「炊込み」など、ご飯のメニューを設定する際に操作するもので、メニューキー72を押圧すると、操作部制御手段58がメニューキー72からの操作信号を受け付けてご飯のメニューの選択画面に移行する。そして、これらの選択画面では、進むキー64や戻るキー65、タッチセンサ73でお米の銘柄やお米の炊き方、ご飯の甘みやご飯のメニューをそれぞれ選択、設定する構成となっている。
【0031】
タッチセンサ73は、導電性ポリマーによる透明電極部と制御PC板47に接続する接点部との間をパターン配線で繋いだ構成要素が、タッチキーとして複数配設されるものであり、タッチセンサ73下のLCD76に表示される複数の表示要素81の何れかに指先のタッチ操作を行なうことで、その表示要素81の上に配設され、当該表示要素に対応したタッチキーがタッチ操作されて、この表示要素81が選択される構成となっている。
【0032】
表示部18は、現在の時刻や選択したお米の銘柄、ご飯のメニュー、炊飯完了してからの時間を表示するLCD76と、操作パネル20の上側部分に並んで配置され、炊飯器としての工程を表示する「予約」のLED77、「炊飯」のLED78および「保温」のLED79と、で構成される。
図3を参照してLCD76に配置される表示要素81を説明すると、現在時刻を表示する時計用表示要素81-1と、予約炊飯を設定したときに炊飯完了の予約時刻を表示する炊上り予約用表示要素81-2と、後述するように保温工程におけるご飯の状態を表示する「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6、「保温」の表示要素81-7および保温時間表示要素81-8と、選択したお米の銘柄を表示するお米の銘柄の表示要素81-9と、選択されたメニューを黒塗りの白抜き文字で表示する「白米」の表示要素81-10、「炊込み」の表示要素81-11、「おかゆ」の表示要素81-12、「玄米」の表示要素81-13、「白米早炊き」の表示要素81-14、「リゾット」の表示要素81-15および「パエリア」の表示要素81-16と、が、それぞれ配置される。
【0033】
次に
図4を参照して、上記構成の炊飯器1について炊飯行程における作用を説明する。なお
図4は、本実施形態の炊飯器1の炊飯行程および保温行程における、鍋センサ14の検知温度t
1と、蓋温度センサ34の検知温度t
2と、加熱手段52の出力Wとの推移をあらわしたグラフである。
【0034】
先ず本実施形態の炊飯時における動作を説明すると、鍋5内に被炊飯物として米および水を入れ、これを本体2の鍋収容部4にセットした後に、蓋体3を閉じる。それと前後して、炊飯器1の電源プラグをコンセントに差し込んで通電すると、炊飯器1は炊飯や保温が行われていない初期の切(待機)状態となり、表示・操作制御手段46は、表示動作制御手段59と連携して、現在の炊飯コースの設定を表示部18に表示させる。ここで操作部19の、例えば銘柄キー69、炊き方キー70、甘みキー71、メニューキー72、進むキー64、戻るキー65、タッチセンサ73を操作する毎に、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、条件設定手段60により炊飯コースの設定が変更される。変更された設定は表示動作制御手段59により表示部18にその都度表示され、使用者はこれを目視で確認できる。
【0035】
そして操作部19の、例えば炊飯キー66を操作すると、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、表示動作制御手段59は「炊飯」のLED78を点灯させるように制御し、また条件設定手段60は表示部18に表示された炊飯コースを今回設定した炊飯コースとして記憶手段57に記憶し、その設定した炊飯コースに対応する加熱パターンの情報を加熱制御手段40に送出する。これを受けて、設定した炊飯コースの加熱パターンに沿って、加熱制御手段40が、制御用IC42に組み込まれた炊飯制御手段53により、鍋5内の被炊飯物に対するひたし行程、昇温行程、沸騰継続行程、むらし行程の各炊飯動作を行なう。
【0036】
表示・操作制御手段46から送出された情報を受けると、炊飯制御手段53は、鍋センサ14による鍋5の底部の温度検知に基づき、加熱コイル12と胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の底部と側面部をそれぞれ加熱し、鍋5内の水温を所定の温度、例えば45~60℃にまで昇温させて米の吸水を促進させるひたし行程を行なう。ひたし行程は、鍋5内の水温を所定の温度に所定の時間、例えば3分間保持するように構成される。
【0037】
ひたし行程中では鍋5内の圧力が大気圧よりも低い減圧状態となるように、炊飯制御手段53が、ソレノイド27や減圧手段28の動作を各々制御する。具体的には、ひたし行程が開始されると、炊飯制御手段53はソレノイド27を非通電状態から通電状態に切替えて、調圧弁26で蒸気排出経路25を閉塞する。そしてこの状態で、減圧手段28の経路を開放すると共に、減圧ポンプ29を連続動作させ、密閉した鍋5の内部の空気を減圧ポンプ29で抜き取る真空引きを行なう。その後、鍋5内部の圧力が大気圧よりも一定値下がったら減圧ポンプ29の動作を停止する。こうして、ひたし行程の全期間である所定の時間に亘って、鍋5内部を減圧状態に保っている。そのため、ひたし行程のときに鍋5の内部で米に水を十分に吸水させることが可能になる。
【0038】
その後、所定の時間のひたし行程が終了し、次の沸騰加熱行程の昇温行程に移行すると、被調理物の沸騰検知を行なうまでの加熱で、炊飯制御手段53は、加熱コイル12や胴ヒータ11を連続通電する制御を行なうことにより、ひたし行程よりも鍋5内の被調理物を強く加熱し、被調理物を短時間で沸騰の温度まで上昇させる。ここで炊飯制御手段53は、ひたし行程から引き続いて鍋5の内部を大気圧よりも低い減圧状態に維持するために、減圧手段28の経路を閉塞するように制御している。そのため、ひたし行程から昇温行程に移行した後も、鍋5への加熱やスローリークにより鍋5の内部は次第に圧力が上昇するものの、暫くの間は減圧ポンプ29を動作させることなく減圧状態を維持することができる。こうして、ひたし行程の後の昇温行程でも鍋5内部の被調理物が減圧状態に保持されることで、昇温行程中は100℃以下の温度で水が沸騰する。そのため、米の糊化温度とされる60℃~100℃で被調理物を減圧状態で沸騰させることで、沸騰時の泡で米を舞わせて加熱ムラがなくなり、併せて被調理物を減圧状態にすることで米の芯まで短時間に吸水させることができる。
【0039】
次に、炊飯制御手段53は鍋センサ14からの温度検知信号を取り込んで、鍋5の底部の検知温度が所定温度となる100℃に達したら、鍋5内部の被調理物が減圧状態で沸騰したと判断して、減圧手段28の経路を閉塞させて減圧ポンプ29を動作させないまま、ソレノイド27を一時的に非通電状態にして調圧弁26を退避させる。これにより蒸気排出経路25は、鍋5の内外を密閉せずに連通させた開放状態となり、鍋5内部は直ちに外気と同じ常圧に戻る。その後、炊飯制御手段53がソレノイド27を短時間で通電状態に切替え、鍋5の内部を再び密閉した状態にすると、引き続き、鍋5内部で被調理物を強く加熱しているため、この被調理物が大気圧以上、例えば1.2気圧に達するまで鍋5内部で加圧され、その加圧状態で被調理物を沸騰させることができる。こうして炊飯制御手段53は、昇温行程中に鍋5内部の被調理物が減圧状態で沸騰したと判断したら、鍋5内部を減圧状態から大気圧よりも高い加圧状態へ一気に切替えて、被調理物に圧力ショックを加えるために、ソレノイド27、ひいては調圧部24を構成する調圧弁26の動作を制御して、蒸気排出経路25を一時的に開放している。これにより、加圧状態における米の糊化最適温度である105℃(1.2気圧の場合)で被調理物を沸騰させることで、米の硬さと粘りのバランスを確保し、芯まで一気に米を糊化させることができる。
【0040】
その後、炊飯制御手段53は、鍋5の底部の温度が所定温度以上、例えば90℃以上になったことを鍋センサ14からの温度検知信号により検出し、それに加えて内蓋22の温度が所定温度以上、例えば90℃以上になったことを蓋温度センサ34からの温度検知信号により検出すると、被調理物の加圧状態での沸騰を検知する沸騰検知を開始する。具体的には、引き続き、加熱コイル12や胴ヒータ11を連続通電する制御を行なって鍋5内部で被調理物を強く加熱する一方で、蓋温度センサ34の検知温度が所定の時間にどの程度上昇するのかという検知温度の傾きを算出する。そして炊飯制御手段53は、この蓋温度センサ34の検知温度の傾きが一定値以下になって安定したら、鍋5内部の被調理物が加圧状態で沸騰したと判断して、次の沸騰継続行程に移行する。
【0041】
沸騰継続行程に移行すると、炊飯制御手段53は蓋ヒータ33を制御して蓋加熱を開始させる。ここでの蓋加熱は、内蓋22の温度が所定の温度、例えば100℃になるように、蓋温度センサ34の検知温度により蓋ヒータ33からの加熱量が管理されている。また沸騰継続行程に移行したら、炊飯制御手段53は鍋5内を常圧と大気圧よりも高い温度との間に繰り返し変化させるために、ソレノイド27を周期的に通断電制御して、調圧弁26で蒸気排出経路25を周期的に開閉している。
【0042】
そして炊飯制御手段53は、沸騰継続行程で鍋5内部の水が無くなり、鍋センサ14からの鍋5の底部の温度検知信号により所定の温度上昇を生じたことを検出することで、鍋センサ14の検知温度に基づき被調理物の炊き上げを検知する。ここでは、鍋センサ14の検知温度が所定のドライアップ温度に達すると、鍋5内部の被調理物の炊き上がりを検知して、沸騰継続行程が終了し、沸騰加熱行程から次のむらし行程に移行する。
【0043】
むらし行程中は、炊飯制御手段53が蓋温度センサ34の検知温度により、蓋ヒータ22を通断電制御して温度管理を行ない、内蓋22への露付きを防止すると共に、鍋5内部のご飯が焦げない程度に高温が保持されるように、加熱コイル12や胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の底部の温度を管理する。むらし行程は所定時間、例えば12分間続けられ、むらし行程が終了したら、保温制御手段54による保温行程に移行する。
【0044】
次に
図5~
図7を参照して、上記構成の炊飯器1について保温行程における作用を説明する。なお
図5は、本実施形態の炊飯器1の保温行程における、鍋5内のご飯の温度と、鍋5の内面の温度と、内蓋22の内面の温度との推移をあらわしたグラフである。温度の計測場所は、鍋5内のご飯の温度が
図6(A)の(1)および(2)であり、鍋5の内面の温度が
図6(A)の(3)および(4)であり、内蓋22の内面の、鍋対向面の温度が
図6(A)の(5)および(6)である。そして、(1)および(2)で計測した数値の平均値を温度t
Rとし、(3)および(4)で計測した数値の平均値を温度t
3とし、(5)および(6)で計測した数値の平均値を温度t
4とし、温度t
R、t
3およびt
4の推移をグラフであらわしている。
【0045】
むらし行程が終了して炊飯が完了してもユーザが炊飯器の近くにいるとは限らず、例えば炊飯器1からの報知をユーザが受領しても、保温行程に移行した直後に炊き立てのご飯を食べるのは稀であり、したがって保温行程に移行してから、最初にユーザが蓋体3を開放してご飯を食べるまでの経過時間は決まっていない。個人差も存在するが、ユーザはある程度の時間、例えば30分、が経過しても、保温行程に移行してから最初に蓋体3を開放したときに炊き立てご飯の感覚的な食味を期待する傾向がある。しかしながら前述した
図15に示されるように、保温行程に移行した炊飯直後のご飯の温度である100℃から、67℃~78℃、好ましくは70℃~76℃にご飯の温度を保持する保温温度にご飯の温度が低下するに従い、当該ご飯の食味が低下するため、時間経過の程度またはご飯の温度低下の程度に応じて、ユーザの期待する炊き立てご飯の食味が得られない場合がある。
【0046】
具体的には、炊飯行程が終了して保温行程に移行すると、時間経過やご飯の温度低下に従ってご飯からの水分の蒸発量が増加し、炊き上がった直後のご飯と比較してご飯の重量が減少するために食味が低下する。またご飯の温度が低下すると、蒸気排出経路25を経由して蒸気口ユニット17から炊飯器1の外へ蒸発していく水分が次第に減少し、その一方で鍋5や内蓋22の内部に水分が付着して結露が増加する。そのため鍋5の上部壁面近傍にある、いわゆる鍋肌上部のご飯の水分含有率が次第に上昇し、当該ご飯が、炊き上がった直後のご飯と比較して柔らかく、張りのない状態になってしまう。そして、ご飯のうまみ成分であるご飯粒表面部の糊状物質が、蒸発できずに残った水分を吸収し、温度低下と共に流動性を失って、当該ご飯粒同士を強固に接着させてしまうため、これらのご飯粒がだんご状となり食味が低下してしまう。さらに、鍋5の内壁や内蓋22の内面への結露が多くなると、この結露がご飯に滴下してしまうためにご飯が水っぽくなり、さらに食味が低下して炊き立てとは言えない食味になってしまう。
【0047】
その一方で、炊飯行程の終了後に蓋体3を開放して鍋5内のご飯をほぐし、余分な水分を炊飯器1の外へ拡散・放出させることも考えられる。しかしながら、確かに前述したような余分な水分に起因する食味の低下を抑制できるが、この拡散・放出させるタイミングが遅くなると、ユーザの感覚は当該ご飯が炊き立てである一方で、このご飯の実際の状態は炊き立てから食味が低下したものになってしまう。
【0048】
炊飯行程の終了後の保温行程における食味の低下は、炊飯器1の製品特性やご飯の炊飯量、環境温度やご飯のお米の品質により一様ではないが、大きく食味を低下させる目安として、例えば、概ね保温行程の開始後30分以内が時間の目安とされており、また炊飯されたご飯の温度が85℃以下と、鍋5内におけるご飯上部の空間部の温度が当該ご飯の温度より相対的に低い75℃以下と、内蓋22の内面の温度が鍋5内におけるご飯の温度よりも相対的に低い73℃以下と、が温度の目安とされている。なお、これらの目安は炊飯器1の製品特性やご飯の炊飯量、環境温度やご飯のお米の品質により適正に検討される。
【0049】
そこで本実施形態では、炊飯行程終了後の「炊き立て」期間として、保温行程初期の制御を別に設けて構成している。具体的には、時間をパラメータとする場合、保温行程を開始してから30分以内、好ましくは10分以内、の期間を保温初期T1の期間とし、その一方で温度をパラメータとする場合、ご飯の温度が90℃以上、好ましくは95℃以上、である期間を保温初期T1の期間とし、また保温行程を開始してから60分以内であり、ご飯の温度を徐々に低下させる期間を保温降下期T2として、保温初期T1および保温降下期T2の期間を「炊き立て」期間として構成している。そして、いわゆる鍋5の内面の温度や内蓋22の内面の温度を、鍋5内のご飯の温度よりも平均的に高めに制御して、結露を防止する構成としている。
【0050】
図5を参照して説明すると、本実施形態の保温行程は、保温行程を開始してから30分以内、好ましくは10分以内、の期間、またはご飯の温度が90℃以上、好ましくは95℃以上、である期間である保温初期T
1と、保温初期T
1の次に移行し、保温行程を開始してから60分以内であり、ご飯の温度を徐々に低下させる保温降下期T
2と、保温行程を開始してから60分を超えており、ご飯の温度が保温設定温度、例えば73℃プラスマイナス3℃になるように制御して保温する保温安定期T
3と、の各期間を備えて構成される。
【0051】
炊飯器1では、保温時間の経過に従い鍋5内のご飯の炊き立て鮮度の状態が低下する。炊飯行程の終了後の保温行程における食味の低下は、炊飯器1の製品特性やご飯の炊飯量、環境温度やご飯のお米の品質により一様ではないが、本願出願人の製品において、ご飯の炊き立て鮮度に関するアンケート調査を行なった結果、「炊き立て」と感じるのは炊飯行程が終了して保温行程を開始してから10分以内が多く、「炊き立て」であることを許容できるのは保温行程を開始してから30分以内が多く、60分を超過したご飯が「炊き立て」であるということを許容できるユーザはほとんどいなかった。本実施形態ではこの結果を踏まえて、保温初期T1および保温降下期T2の期間を「炊き立て」期間として構成している。
【0052】
なお、この炊き立て鮮度は、炊飯器1の製品特性、炊飯量、環境温度、及び米の品種などの違いにより鮮度低下のスピードは異なるため、本発明はこれらの記載に限定されることがなく、本実施形態の数値は一例に過ぎない。炊き立て鮮度は炊飯器1の炊飯量が多いか少ないか、炊飯器1の周囲の環境温度が高いか低いか、および米の品種のかたさやねばりなどに応じ、また炊飯器1の製品固有の特性に応じて決定されることが好ましく、また、この炊き立て鮮度の状態に対する保温経過時間やご飯の温度が決定されることが好ましい。
【0053】
また本実施形態では、保温行程が開始されると、鍋5内の圧力が大気圧よりも低い減圧状態となるように、保温制御手段54がソレノイド27や減圧手段28の動作を各々制御する。
図8はご飯の保温温度と食味低下との相関関係を示した図であり、保温温度が高ければ、メイラード反応による褐変、いわゆる黄ばみが早期に発生すること、ご飯が乾燥してかたくなること、メイラード反応および脂肪酸の酸化などで早期に保温臭が発生することが周知である。メイラード反応(またはアミノカルボニル反応)は、食品、ご飯に含まれる還元糖と、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質のアミノ化合物とが加熱により反応して、褐色物質であるメラノイジンが生成される反応であり、前述した褐変のキツネ色の正体はこのメラノイジンとされている。メイラード反応が最も活発化する温度は、食品により変化するが155℃程度とされており、100℃前後で略4時間程度、67℃~78℃では略12時間程度経過すると、メイラード反応による褐変が強くなる。そのため本実施形態の炊飯器1における保温初期T
1の期間中では、鍋5内のご飯に実害のある褐変の進行が無い一方で、炊飯器1の炊飯量が多い場合や炊飯器1の周りの環境において温度が高い場合は、炊き立て加熱後の鍋5内のご飯の温度低下が遅くなり、その後の保温安定期T
3の期間中に炊飯器1が、例えば12時間以上、24時間以上の長時間の保温を行なった場合に、前述のメイラード反応による褐変が早期に発生する虞がある。
【0054】
そこで本実施形態の炊飯器1では、鍋5内のご飯の保温による劣化を抑制するために、保温行程中は鍋5内を脱気して、炊き立て加熱後の前述したメイラード反応による褐変が早期に発生することを抑制し、保温行程開始直後の炊き立て状態を保持するために高温で保持することに対して、その後の保温降下期T2や保温安定期T3の保温継続時における鍋5内のご飯の劣化を抑制できるようにしている。なお当該脱気は、炊き立て加熱中を含めて保温初期T1と、保温降下期T2と、保温安定期T3と、の各期間に蓋体3を閉じたときに行なわれ、蓋体3を開放しているときは行なわない。
【0055】
保温初期T1における動作を説明すると、むらし行程が終了して保温行程に移行すると、保温制御手段54は、鍋センサ14の検知温度から鍋5内のご飯の温度tRを算出する。そして保温制御手段54は、当該ご飯の温度tRを90℃以上、好ましくは95℃以上に維持するように鍋センサ14の検知温度により加熱コイル12や胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の温度を管理する。また保温制御手段54は、当該ご飯の温度tRに対して鍋5の内部側面の温度t3が平均的に高くなるように、鍋センサ14の検知温度により加熱コイル12や胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の温度を管理し、当該鍋5内のご飯の温度tRに対して内蓋22の鍋対向面の温度t4が平均的に高くなるように、蓋温度センサ34の検知温度により蓋ヒータ22を通断電制御して温度を管理する。その結果、鍋5の内部側面や内蓋22の鍋対向面の結露を防止して、ご飯へのつゆ落ちを防止することができ、炊き立て状態を保持して炊き立て相当の食味を維持することができる。
【0056】
そして
図6(B)に示されるように、保温制御手段54は、鍋5の内部側面の温度t
3がご飯の温度t
Rよりも高い温度t
H1と低い温度t
L1とを交互に繰り返すように、鍋センサ14の検知温度により加熱コイル12や胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の温度を管理し、また内蓋22の鍋対向面の温度t
4がご飯の温度t
Rよりも高い温度t
H2と低い温度t
L2とを交互に繰り返すように、蓋温度センサ34の検知温度により蓋ヒータ22を通断電制御して内蓋22の温度を管理する構成としている。これらの場合、ご飯の温度t
Rよりも低い温度のときは鍋5の内部側面や内蓋22の鍋対向面に結露し、ご飯の温度t
Rよりも高い温度のときは結露した水分が蒸発するため、結露によりご飯の水分が余分に結露して当該ご飯が水分過多になることを抑制でき、かつ、蒸発によりご飯の水分が余分に蒸発して当該ご飯が乾燥することを抑制でき、このご飯を炊き立ての鮮度に保つことができる。ここで、これらの温度t
H1、t
L1、t
H2、t
L2は具体的な温度ではなく、ご飯の温度t
Rに対してΔt度だけ高い、低いという相対的な温度であることが好ましい。この場合、温度t
H1とt
L1は、例えばご飯の温度t
Rに対して+3℃と-3℃など、同程度の数値にして、加熱コイル12および胴ヒータ11により加熱制御されているご飯の温度t
Rへの影響を抑制しつつ結露を抑制する構成とし、温度t
H2とt
L2は、例えばご飯の温度t
Rに対して+7℃と-3℃など、内蓋22の鍋対向面の温度t
4がご飯の温度t
Rよりも温度が高くなる時間の方が低くなる時間よりも多くして、可能な限り結露を防止する構成とすることが好ましい。
【0057】
なお
図6(B)に示されるように、保温制御手段54は、期間T
11のときは温度t
3がご飯の温度t
Rよりも高くなるように鍋5の温度を管理する一方で温度t
4がご飯の温度t
Rよりも低くなるように内蓋22の温度を管理し、期間T
12のときは温度t
3がご飯の温度t
Rよりも低くなるように鍋5の温度を管理する一方で温度t
4がご飯の温度t
Rよりも高くなるように内蓋22の温度を管理し、期間T
11と期間T
12が交互に繰り返されるように制御することが好ましく、グラフの下に図示された矢印マークで説明されるように、鍋5の内部側面と内蓋22の鍋対向面が交互に結露と乾燥を繰り返すような構成にすることで、鍋5内のご飯の鮮度低下をより効果的に抑制することができる。
【0058】
そして保温制御手段54は、保温行程が開始されると、ソレノイド27を非通電状態から通電状態に切替えて、調圧弁26で蒸気排出経路25を閉塞する。そしてこの状態で、減圧手段28の経路を開放すると共に、減圧ポンプ29を連続動作させ、密閉した鍋5の内部の空気を減圧ポンプ29で抜き取る真空引きを行なう。その後、鍋5内部の圧力が大気圧よりも一定値下がったら減圧ポンプ29の動作を停止する。こうして、すべての保温行程に亘ってこれら一連の作業を行ない、鍋5内部を減圧状態に保っている。
【0059】
ここで保温制御手段54は、ヒンジ軸16の回転センサからの検知信号により蓋体3が開放されたと判断したときは、減圧手段28の経路を閉鎖すると共に減圧ポンプ29の動作を停止するように制御する。その後、保温制御手段54は、ヒンジ軸16の回転センサからの検知信号により蓋体3が閉じられたと判断したときに、再度これらの一連の動作を行なうように構成される。
【0060】
表示動作制御手段59は、むらし行程が終了して保温行程に移行すると、今まで点灯していた「予約」のLED77または「炊飯」のLED78を消灯させ、「保温」のLED79を点灯させるように制御する。また表示動作制御手段59は、
図7(A)に示されるように、「炊き立て」の表示要素81-3を点灯させ、また図示しない計時手段で計時している保温行程が開始してからの経過時間である保温時間を保温時間表示要素81-8に表示させるようにLCD76を制御する。ここで本実施形態では、保温表示を行なう保温表示部である「保温」のLED79と、鍋5内のご飯の状態を表示する状態表示部としての「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6、「保温」の表示要素81-7および保温時間表示要素81-8とを近接させて設けており、炊飯器1が保温中であることや保温中の鍋5内のご飯の状態をユーザが容易に把握できる。
【0061】
図7(A)は、保温行程に移行してから5分後の表示要素81-3~81-8の表示を示している。本実施形態の炊飯器1では保温初期T
1の保温時間が30分であり、表示動作制御手段59は、保温時間が30分経過するまでは1分単位で保温時間表示要素81-8に保温時間を表示させるようにLCD76を制御する。これは保温行程において、保温時間全体が、例えば6時間や12時間、24時間であることと比較すると保温初期T
1の期間が短く、また保温初期T
1の期間中は炊き立ての鮮度が短時間で低下するためであり、経過時間を短い単位である1分単位で表示確認することにより、ユーザが鍋5内のご飯の食味低下をリアルタイムで把握できるようにしている。なお本実施形態では、保温時間表示要素81-8に、例えば「5分」「15分」など“分”という記載で表示しているが、本発明はこれに限定されることなく、例えば“min”“m”という記載で表示してもよい。
【0062】
また表示動作制御手段59は、保温時間が10分経過するまでは「炊き立て」の表示要素81-3を点灯させる一方で、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6および「保温」の表示要素81-7を消灯したままにするようにLCD76を制御する。そのため、ユーザは現在の鍋5内のご飯の状態が炊飯直後の炊き立てであることが感覚的に一目で理解できる。
【0063】
図7(B)は、保温行程に移行してから15分後の表示要素81-3~81-8の表示を示しており、表示動作制御手段59は、保温時間が10分経過~15分までは「炊き立て」の表示要素81-3および矢印の表示要素81-4を点灯させる一方で、矢印の表示要素81-5、81-6および「保温」の表示要素81-7を消灯したままにするようにLCD76を制御する。また
図7(C)は、保温行程に移行してから19分後の表示要素81-3~81-8の表示を示しており、表示動作制御手段59は、保温時間が15分経過~20分までは「炊き立て」の表示要素81-3と矢印の表示要素81-4および81-5とを点灯させる一方で、矢印の表示要素81-6および「保温」の表示要素81-7を消灯したままにするようにLCD76を制御する。
【0064】
そして
図7(D)は、保温行程に移行してから25分後の表示要素81-3~81-8の表示を示しており、表示動作制御手段59は、保温時間が20分経過~25分までは「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5および81-6を点灯させる一方で、「保温」の表示要素81-7を消灯したままにするようにLCD76を制御する。また
図7(E)は、保温行程に移行してから29分後の表示要素81-3~81-8の表示を示しており、表示動作制御手段59は、保温時間が25分経過~30分までは「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5および81-6、「保温」の表示要素81-7をすべて点灯させるようにLCD76を制御する。このように表示動作制御手段59は、鍋5内のご飯の状態を「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6、および「保温」の表示要素81-7によるピクトグラムで表示するピクト表示としてLCD76を制御しており、時間経過と共に矢印の表示要素81-4、81-5および81-6の表示が増え、またそれに加えて「保温」の表示要素81-7も表示されるため、ユーザは、炊飯行程終了後の「炊き立て」期間としての保温初期T
1になってからどのくらい経過したのかを感覚的に一目で理解でき、具体的な時間を保温時間表示要素81-8の表示で把握できる。
【0065】
保温降下期T2における動作を説明すると、保温初期T1が終了して保温降下期T2に移行すると、保温制御手段54は、鍋5内のご飯の温度tRを低下させ、また80℃以上になるように、鍋センサ14の検知温度により加熱コイル12や胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の温度を管理し、また蓋温度センサ34の検知温度により蓋ヒータ22を通断電制御して温度を管理する。そのため、炊飯器1の特性、鍋5内のご飯の炊飯量、炊飯器1の周囲の環境の変化に左右されず、保温行程に移行してから一定期間経過した保温降下期T2のご飯でも炊き立て状態に近い鮮度を保持することができる。
【0066】
その一方で保温制御手段54は、例えば保温初期T1と同様に、鍋5の内部側面の温度t3がご飯の温度tRよりも高い温度tH1と低い温度tL1とを交互に繰り返すように、鍋センサ14の検知温度により加熱コイル12や胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の温度を管理し、また内蓋22の鍋対向面の温度t4がご飯の温度tRよりも高い温度tH2と低い温度tL2とを交互に繰り返すように、蓋温度センサ34の検知温度により蓋ヒータ22を通断電制御して内蓋22の温度を管理する構成としている。そのため、鍋5内のご飯の温度tRを可能な限り早く低下させることで、このご飯におけるメイラード反応を抑制しつつ、鍋5の内部側面や内蓋22の鍋対向面の結露を防止して、ご飯へのつゆ落ちを防止することができる。その結果、保温降下期T2のご飯でも炊き立て状態を保持して炊き立て相当の食味を維持することができる。
【0067】
図7(F)は保温行程に移行してから35分経過~40分までの表示要素81-3~81-8の表示を示しており、
図7(G)は保温行程に移行してから55分経過~60分までの表示要素81-3~81-8の表示を示している。表示動作制御手段59は、保温初期T
1が終了して保温降下期T
2に移行すると、「保温」の表示要素81-7を点灯させる一方で、「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6および「保温」の表示要素81-7を消灯させるようにLCD76を制御する。このためユーザは、鍋5内のご飯が炊き立ての期間である保温降下期T
2を経過したことを一目で確認できる。また本実施形態の炊飯器1では保温降下期T
2の保温時間が30分経過から60分までであり、表示動作制御手段59は、保温時間が30分経過から60分までは5分単位で保温時間表示要素81-8に保温時間を表示させるようにLCD76を制御する。これは保温初期T
1と同様に、保温行程において保温時間全体と比較すると保温降下期T
2の期間も短く、また保温降下期T
2の期間中も炊き立ての鮮度が短時間で低下する一方で、鍋5内のご飯の温度t
Rを低下させて炊き立て状態を保持することで当該ご飯の劣化が保温初期T
1よりも遅くなることに対応するためであり、ユーザが鍋5内のご飯の食味低下をリアルタイムで把握できるようにする一方で、無用に表示が変化してユーザの確認時に煩わしくならないようにしている。
【0068】
保温安定期T3における動作を説明すると、保温降下期T2が終了して保温安定期T3に移行すると、保温制御手段54は、鍋5内のご飯の温度tRを低下させ、また保温設定温度の、例えば73℃プラスマイナス3℃になるように、鍋センサ14の検知温度により加熱コイル12や胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の温度を管理し、また蓋温度センサ34の検知温度により蓋ヒータ22を通断電制御して温度を管理する。そして保温制御手段54は、鍋センサ14の検知温度から鍋5内のご飯の温度tRを算出しており、例えば蓋体3の開閉があって鍋5内のご飯の温度tRが73℃マイナス3℃よりも低下したと判断すると、このご飯の温度tRが73℃プラスマイナス3℃まで戻るように加熱コイル12や胴ヒータ11を通断電制御し、また蓋ヒータ22を通断電制御する。また一定の条件下で、60℃を下回らない程度にご飯の温度tRを一時的に低下させてもよく、鍋5内のご飯のメイラード反応を抑制することができ、また炊飯器1の省エネ性能を向上させることができる。
【0069】
また保温制御手段54は、例えば保温初期T1や保温降下期T2と同様に、鍋5の内部側面の温度t3がご飯の温度tRよりも高い温度tH1と低い温度tL1とを交互に繰り返すように、鍋センサ14の検知温度により加熱コイル12や胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の温度を管理し、また内蓋22の鍋対向面の温度t4がご飯の温度tRよりも高い温度tH2と低い温度tL2とを交互に繰り返すように、蓋温度センサ34の検知温度により蓋ヒータ22を通断電制御して内蓋22の温度を管理する構成としている。
【0070】
なお保温初期T1や保温降下期T2の期間に、ヒンジ軸16の回転センサからの検知信号により蓋体3の開閉があったと保温制御手段54が判断したとき、保温制御手段54は、保温時間が60分以内であっても保温安定期T3の上述した制御を行なうように構成してもよく、蓋体3が開放され、鍋5内のご飯がほぐされることにより余分な水分が炊飯器1から拡散、放出され、また鍋5内のご飯の温度tRが低下するので、余分な水分に起因する食味の低下およびメイラード反応を抑制することができる。
【0071】
図7(H)は保温行程に移行してから1時間経過~2時間までの表示要素81-3~81-8の表示を示しており、
図7(I)は保温行程に移行してから2時間経過~3時間までの表示要素81-3~81-8の表示を示している。表示動作制御手段59は、保温降下期T
2が終了して保温安定期T
3に移行すると、保温時間が60分を経過すると、1時間単位で保温時間表示要素81-8に保温時間を表示させるようにLCD76を制御する。これは保温降下期T
2の時よりも鍋5内のご飯の温度t
Rを低下させており、当該ご飯の劣化がさらに遅くなることに対応するためであり、無用に表示が変化してユーザの確認時に煩わしくならないようにしている。なお本実施形態では、保温時間表示要素81-8に、例えば「1時間」「2時間」など“時間”という記載で表示しているが、本発明はこれに限定されることなく、例えば“Hr”“H”という記載で表示してもよい。また表示動作制御手段59は、保温降下期T
2の時と同様に、「保温」の表示要素81-7を点灯させる一方で、「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6および「保温」の表示要素81-7を消灯させるようにLCD76を制御して、鍋5内のご飯が保温初期T
1や保温降下期T
2を経過したことをユーザが一目で確認できるようにしている。
【0072】
以上のように、本実施形態の炊飯器1では、被炊飯物として米と水を内部に収容する鍋5と、鍋5を加熱する加熱手段としての加熱コイル12および胴ヒータ11と、加熱コイル12および胴ヒータ11を制御する制御手段としての加熱制御手段40と、調理に関わる情報を表示する表示手段としての表示部18と、を備え、加熱制御手段40は、鍋5を加熱して、被炊飯物を炊飯する炊飯行程と、炊飯行程で炊飯されたご飯を保温する保温行程と、の順に行なうように加熱コイル12および胴ヒータ11を制御し、表示部18は、保温行程を行なっていることを表示する保温表示部としての「保温」のLED79と、保温行程におけるご飯の状態を表示する状態表示部としての「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6、「保温」の表示要素81-7および保温時間表示要素81-8とを有する構成としている。そのため、ユーザが表示部18を確認することにより、炊飯器1が保温中であることや保温中の鍋5内のご飯の状態を容易に把握できる。
【0073】
また本実施形態の炊飯器1では、保温行程が開始してからの経過時間である保温時間などの鍋5内のご飯の状態の変化に応じて、「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6および「保温」の表示要素81-7が点灯、消灯するように表示を変化させ、保温時間表示要素81-8の保温時間の表示も変化させる構成としている。そのため、保温行程が開始してからの鍋5内のご飯の食味低下の状況をユーザが把握することができる。
【0074】
また本実施形態の炊飯器1では、保温時間が60分以内である期間である保温初期T1および保温降下期T2を炊き立て期間としており、鍋5内のご飯が保温安定期T3よりも早く、ご飯の温度tRが73℃プラスマイナス3℃になるまでのご飯であることをユーザが把握することができる。
【0075】
また本実施形態の炊飯器1では、鍋5の温度を検知する鍋温度検知手段としての鍋センサ14をさらに備え、加熱制御手段40は、保温行程を開始してから60分以内の所定の経過時間である保温初期T1および保温降下期T2では、鍋5内のご飯の温度を80℃以上の所定の温度に保持するように加熱コイル12および胴ヒータ11を制御し、表示動作制御手段59は、「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6および「保温」の表示要素81-7によるピクトグラムで表示するピクト表示で保温初期T1および保温降下期T2における鍋5内のご飯の状態を表示する。
【0076】
このように構成することにより、炊飯器1の特性、鍋5内のご飯の炊飯量、炊飯器1の周囲の環境の変化に左右されず、保温行程に移行してから一定期間経過した保温降下期T2のご飯でも炊き立て状態に近い鮮度を保持することができる。またユーザは、炊飯行程終了後の「炊き立て」期間としての保温初期T1および保温降下期T2になってからどのくらい経過したのかを感覚的に一目で理解でき、具体的な時間を保温時間表示要素81-8の表示で把握できる。
【0077】
また本実施形態の炊飯器1では、鍋5の上方開口部を覆う内蓋22と、内蓋22を加熱する蓋加熱手段としての蓋ヒータ33と、内蓋22の温度を検知する蓋温度検知手段としての蓋温度センサ34と、をさらに備え、蓋ヒータ33は加熱制御手段40に制御され、加熱制御手段40は、保温行程を開始してから60分以内の所定の経過時間である保温初期T1および保温降下期T2では、内蓋22の鍋対向面の温度t4をご飯の温度tRよりも平均的に高くするように蓋ヒータ33を制御する。
【0078】
このように構成することにより、鍋5の内部側面や内蓋22の鍋対向面の結露を防止して、ご飯へのつゆ落ちを防止することができ、炊き立て状態を保持して炊き立て相当の食味を維持することができる。
【0079】
また本実施形態の炊飯器1では、鍋5を収容する本体2の上面開口を蓋体3が覆った状態で鍋5の内部を通常の大気圧よりも低くする脱気を行なうための減圧手段28をさらに備え、保温行程中である保温初期T1、保温降下期T2および保温安定期T3の期間を通して鍋5の内部を脱気する構成としている。そのため炊き立て加熱後のメイラード反応による褐変が早期に発生することを抑制することができ、保温行程開始直後の炊き立て状態を保持するために高温で保持することに対して、その後の保温降下期T2や保温安定期T3の保温継続時における鍋5内のご飯の劣化を抑制できるようにしている。
【0080】
また本実施形態の炊飯器1では、保温行程を開始してからの経過時間である保温時間が60分以内の所定の時間である保温初期T1および保温降下期T2の期間内では、1時間よりも短い単位である1分単位または5分単位で保温時間を表示し、保温降下期T2および保温安定期T3の期間を経過した後の保温安定期T3の期間では、時間単位で保温時間を表示する構成としている。保温行程において、保温時間全体が、例えば6時間や12時間、24時間であることと比較すると保温初期T1や保温降下期T2は期間が短く、また保温初期T1や保温降下期T2の期間中は炊き立ての鮮度が短時間で低下するが、このような構成によりユーザが鍋5内のご飯の食味低下をリアルタイムで把握できる。
なお本実施形態では、保温時間が60分経過するまでは1℃単位で保温温度を表示しているが、例えば98℃→96℃→94℃と2℃単位や、また95℃→90℃→85℃と5℃単位にしてもよく、温度の単位は任意に定めてもよい。この場合、例えば2℃単位の時はご飯の温度tRが100℃~98℃のときに98℃と表示するなど、実際のご飯の温度tRが温度の単位幅、今回の場合はご飯の温度tRプラスマイナス2℃の中にあることを示す構成となっている。
以上のように、本実施形態の炊飯器1では、状態表示部としての「炊き立て」の表示要素81-3、矢印の表示要素81-4、81-5、81-6、「保温」の表示要素81-7、保温時間表示要素81-8および保温温度表示要素83-21が表示する前記ご飯の状態は、鍋5内のご飯の温度tRおよび保温行程を開始してからの経過時間である保温温度の少なくとも1つであるように構成され、鍋5内のご飯の温度tRとご飯の炊きたて鮮度との間には密接な関係があるため、当該ご飯の温度tRを表示することにより、ユーザがこのご飯の炊きたて鮮度の状態を把握できるようにしている。