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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093964
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】金属材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/08 20060101AFI20220617BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C23C24/08 B
B32B15/01 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206722
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】前野 吉秀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智広
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慶樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB16B
4F100AB16C
4F100AB31B
4F100AJ06C
4F100AK25C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH46C
4F100EJ48C
4F100GB41
4F100JB02
4F100JK12C
4F100JL11
4K044AA06
4K044BA02
4K044BA06
4K044CA24
4K044CA27
4K044CA29
(57)【要約】
【課題】タングステンを主体として構成される基材上に密着性の高い層が付与された金属材料を提供すること。
【解決手段】ここで開示される金属材料1は、タングステンを主体として構成される基材14と、該基材上に形成された、タングステンマトリックス中にニッケルが拡散した拡散層12と、該拡散層上に形成された、ニッケルを含む金属層10とを備えた積層構造を有する。ここで、拡散層12において、該拡散層に含まれるニッケル量が、当該拡散層中のタングステンおよびニッケルの原子数の合計100原子%としたときに、少なくとも2原子%である部分が存在することを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを主体として構成される基材と、
該基材上に形成された、タングステンマトリックス中にニッケルが拡散した拡散層と、
該拡散層上に形成された、ニッケルを含む金属層と、
を備えた積層構造を有する金属材料であって、
前記拡散層において、該拡散層に含まれるニッケル量が、当該拡散層中のタングステンおよびニッケルの原子数の合計を100原子%としたときに、少なくとも2原子%である部分が存在することを特徴とする、金属材料。
【請求項2】
前記金属層は、ニッケル-タングステン合金を含む、請求項1に記載の金属材料。
【請求項3】
前記ニッケル-タングステン合金は、NiWを含む、請求項2に記載の金属材料。
【請求項4】
前記金属層のイオンミリング研磨面のSEM観察画像に基づく緻密度は、95%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属材料。
【請求項5】
前記拡散層において、該拡散層に含まれるニッケル量が、当該拡散層中のタングステンおよびニッケルの原子数の合計を100原子%としたときに、少なくとも2原子%である部分の厚みが、5nmまたはそれ以上である部分が存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タングステン材料は半導体分野において広く用いられているが、タングステンは腐食性ガスにより浸食され易い性質を有するため、耐食性材料を用いた保護(表面処理)が必要となる。かかる表面処理の一例として、下記特許文献1には、タングステンを含む半導体デバイス構造上にニッケルめっきを施す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008-511992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者の検討によると、タングステン材料(特に、タングステンを主体として構成される基材)にニッケルめっきを施した場合において、ニッケルめっき膜はその硬くて脆い性質により、タングステン基材から剥離し易いことが分かった。
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、タングステンを主体として構成される基材上に密着性の高い膜(層)が付与された金属材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を実現するべく、本発明は、タングステンを主体として構成される基材と、該基材上に形成された、タングステンマトリックス中にニッケルが拡散した拡散層と、該拡散層上に形成された、ニッケルを含む金属層とを備えた積層構造を有する金属材料を提供する。ここで、上記拡散層において、該拡散層に含まれるニッケル量が、当該拡散層中のタングステンおよびニッケルの原子数の合計100原子%としたときに、少なくとも2原子%である部分が存在することを特徴とする。
【0006】
本発明者は、タングステンを主体として構成される基材上に、ニッケル微粒子を含むペースト状(スラリー状、インク状を包含する。以下同様。)の組成物を塗布し、乾燥させた後、還元雰囲気下、1000℃で焼成することにより、該基材上に、ニッケルを含む金属層が密着性高く形成されることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、本発明者は、上記基材および上記金属層の間には、タングステンマトリックス中にニッケルが拡散した拡散層が存在し、該拡散層中にはニッケルが少なくとも2原子%含有される部分が存在することを見出した。なお、タングステンマトリックス中にニッケルが2原子%以上拡散している態様は、これまでに報告されておらず、今回初めて実現されたものである。
【0007】
ここで開示される金属材料の好ましい一態様において、上記金属層はニッケル-タングステン合金を含む。
従来、ニッケル-タングステン合金(即ち、ニッケルおよびタングステンから構成された金属間化合物)が生じると、その部分が脆くなるため好ましくないとされてきたが、ここで開示される金属材料では、上述したような拡散層が形成されるため、ニッケル-タングステン合金を含む金属層がタングステンを主体として構成される基材上に密着性高く形成された金属材料を得ることができたと考えられ得る。
【0008】
また、ここで開示される金属材料の好ましい一態様において、上記ニッケル-タングステン合金はNiWを含む。
上述したような理由により、NiWを含むニッケル-タングステン合金は、ここで開示される技術を適応する対象として好適である。
【0009】
ここで開示される金属材料の好ましい一態様において、上記金属層のイオンミリング研磨面のSEM観察画像に基づく緻密度は、95%以上である。
金属層が上述したような高い緻密度を有することにより、体積抵抗率が低く良好な導電性を有する金属材料を得ることができる。なお、本明細書ならびに特許請求の範囲における「緻密度」の詳細に関しては、<金属層の緻密度>で詳述する。
【0010】
ここで開示される金属材料の好ましい一態様においては、上記拡散層に含まれるニッケル量が、該拡散層中のタングステンおよびニッケルの原子数の合計を100原子%としたときに、少なくとも2原子%である部分の厚みが、5nmまたはそれ以上である部分が存在する。
かかる構成によると、基材上に金属層がより密着性高く形成された金属材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る金属材料の構成を示す模式図である。
図2】実施例1および比較例1,2に係る金属材料について得られたMSE試験の結果を示すグラフである(硬さの評価)。
図3】実施例1および比較例1,2に係る金属材料について得られたMSE試験の結果を示すグラフである(脆さの評価,砥粒の投射力;標準投射力)。
図4】実施例1および比較例1,2に係る金属材料について得られたMSE試験の結果を示すグラフである(脆さの評価,砥粒の投射力;標準投射力の1/2)。
図5】実施例1に係る金属材料におけるFIB処理の態様を示すHAADF-STEM観察画像(1万倍)である。
図6】実施例1に係る金属材料のFIB処理後に得られた薄片におけるTEM-EDX元素マッピングの結果を示すHAADF-STEM観察画像(3万倍)である。
図7】実施例1に係る金属材料のFIB処理後に得られた薄片のHAADF-STEM観察画像(50万倍)と、該観察画像中のライン部分RにおけるTEM-EDXライン分析の結果を示すグラフである。
図8図7のグラフのS部分を構成する生データを掲載した表である。
図9】実施例1に係る金属材料のFIB処理後に得られた薄片のHAADF-STEM観察画像(3万倍)と、該観察画像中のA領域およびB領域における電子回折図形である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の実施形態は、ここで開示される技術をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。また、本明細書にて示す図面では、同じ作用を奏する部材・部位に同じ符号を付して説明している。そして、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0013】
<金属材料の構成>
図1は、一実施形態に係る金属材料1の構成を示す模式図である。図1に示すように、金属材料1は、大まかにいって、基材14と、該基材上に形成された拡散層12と、該拡散層上に形成された金属層10とを備える。以下、各構成要素について説明する。
【0014】
<基材>
基材14は、タングステンを主体として構成される基材である。ここで「タングステンを主体として構成される基材」とは、基材を構成する成分のうち、重量基準で最も多く含まれる成分がタングステンであることを意味する。基材14は、好ましくはタングステンを90重量%以上、95重量%以上、あるいは99重量%以上含む基材であり得る。タングステン以外の成分としては、不可避的な不純物としての種々の金属元素や非金属元素等が挙げられる。
【0015】
<拡散層>
拡散層12は、タングステンマトリックス中にニッケルが拡散した層である。また、拡散層12は、タングステンにニッケルが固溶した層と言及することもできる。
拡散層12において、該拡散層に含まれるニッケル量が、当該拡散層中のタングステンおよびニッケルの原子数の合計100原子%としたときに、少なくとも2原子%である部分が存在する。拡散層12においては、該拡散層中に含まれるニッケル量が、3原子%以上、4原子%以上、5原子%以上である部分が存在し得る。また、典型的には、拡散層12に含まれるニッケル量は、10原子%以下等であり得る。
また、拡散層12の厚みとしては、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に限定されない。拡散層12において、該拡散層に含まれるニッケル量が、当該拡散層中のタングステンおよびニッケルの原子数の合計を100原子%としたときに、少なくとも2原子%である部分の厚みが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、20nm以上、30nm以上、さらに好ましくは40nm以上の部分が存在する場合が好ましい。かかる構成によると、基材14上に金属層10がより密着性高く形成された金属材料1を得ることができる。また、典型的には、拡散層12の厚みは、200nm以下等であり得る。
【0016】
<金属層>
金属層10は、金属を主体とする層であり、ニッケルを含む層である。また、金属層10は、ニッケル-タングステン合金を含んでいてもよい。かかるニッケル-タングステン合金としては、例えばNiW、NiW、NiW等が挙げられる。
ここで、金属層10の一態様として、上述したようなニッケル-タングステン合金層に加えて、さらにニッケル層が形成されていてもよい。金属層10の構成は、例えば<金属材料の作製方法>に記載されるニッケル微粒子ペースト中のニッケル微粒子の含有量により変化し得る。ニッケル微粒子ペースト中のニッケル微粒子の含有量が、ニッケル微粒子ペーストを100重量%としたときに、例えば70重量%~90重量%である場合に、上述したような構成になり得る。
【0017】
<金属層の緻密度>
本明細書および特許請求の範囲における金属層の「緻密度」とは、金属層のイオンミリング研磨面を映した10万倍のSEM断面画像から、Media Cybernetics社製画像解析ソフト「Image-Pro(登録商標)」により黒色のボイド部分(即ち、空洞部分)の面積を求め、緻密度(%)=1-(ボイドの面積/全体の面積)%として算出される値のことを意味している。高い緻密度を有する金属層は、体積抵抗率が低く良好な導電性を示し得る。
金属層10の緻密度は、80%以上であることが好ましいとされ、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上であり、特に好ましくは95%以上であり得る(なお、緻密度の上限は100%である)。
【0018】
<金属材料の作製方法>
金属材料1は、例えば後述する実施例に記載される方法等により作製される。具体的には、ニッケル微粒子を含むニッケル微粒子ペーストをタングステンからなる基材上に塗布し、乾燥させた後、還元雰囲気下において1000℃で焼成する方法等により作製される。
ここで、上記ニッケル微粒子ペーストに含まれるニッケル微粒子の大きさは、例えば平均粒子径が300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、例えば100nm~200nmとすることができる。なお、本明細書ならびに特許請求の範囲において「平均粒子径」とは、電子顕微鏡観察に基づき測定された個数基準の粒度分布における、累積50%粒子径を意味する。粒度分布は、具体的には、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)等を用い、適切な倍率(例えば5万倍)で粒子(ここでは、ニッケル微粒子)を観察し、100個以上(例えば100~1000個)の粒子について求めた円相当径を基に作成することができる。なお、ニッケル微粒子ペースト中のニッケル微粒子の含有量は特に制限されないが、ニッケル微粒子ペースト全体を100重量%としたとき、概ね30重量%以上、典型的には40~95重量%、例えば50~70重量%の範囲内であり得る。
そして、上述したようなニッケル微粒子と、溶剤と、必要に応じてバインダ等の成分を混錬することにより、ペースト状の組成物(即ち、ニッケル微粒子ペースト)を調整することができる。ここで、上記バインダとしては、例えばアクリル樹脂、セルロース系樹脂等の樹脂を、一種類または二種類以上組み合わせて用いることができる。なお、ニッケル微粒子中に含まれるバインダの含有量は特に制限されないが、ニッケル微粒子ペースト全体を100重量%としたとき、概ね30重量%以下、典型的には0.1~25重量%、例えば10~20重量%の範囲内であり得る。また、上記溶剤としては、例えばミネラルスピリット等の石油系炭化水素(特に脂肪族炭化水素)、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、ターピネオール、メンタノール、メントール、イソボルニルアセテート等の溶剤を、一種類または二種類以上組み合わせて用いることができる。なお、ニッケル微粒子ペースト中の溶剤の含有量は特に制限されないが、ニッケル微粒子ペースト全体を100重量%としたとき、概ね70重量%以下、典型的には5~60重量%、例えば10~40重量%の範囲内であり得る。
【0019】
<金属材料の用途>
金属材料1は、半導体機器等の分野において好適に用いることができる。また、金属材料1は、例えば、金属層10および/または基材14に他の層(例えば、金属層)が接合された形態で用いることもできる。
【0020】
以下、ここで開示される金属材料に関する実施例を説明するが、かかる実施例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0021】
1.金属材料の作製
実施例1:
ニッケル微粒子(平均粒子径:180nm)と、アクリル樹脂と、イソボルニルアセテートとを混錬し、ニッケル微粒子ペーストを作製した。ここで、各成分の含有量は、上記ニッケル微粒子ペーストを100重量%としたとき、ニッケル微粒子が50重量%、アクリル樹脂が10重量%、残部が溶剤となるようにした。
続いて、上記のとおり作製したニッケル微粒子ペーストを、焼成後のニッケル膜厚が1~2μm程度になるように、タングステン基板(縦×横×厚み:15mm×15mm×0.3mm,以下のタングステン基板は、同様のサイズのものを使用した)上に塗布した。そして、これを120℃で10分間乾燥した後、3%水素-窒素ガスの雰囲気下(すなわち、還元雰囲気下)において10℃/分で昇温し、1000℃で30分間保持して焼成した。これにより、タングステン基板上にニッケル焼成膜(ニッケルを含む金属層に相当)が形成された金属材料を得た。
【0022】
比較例1:
膜厚が1~2μm程度になるように、タングステン基板上に電気ニッケルめっき膜を形成することにより、比較例1に係る金属材料を得た。なお、通常、電気ニッケルめっき膜は1000℃等の高温で焼成して使用することはないため、未焼成のものを比較例1に係る金属材料とした。
【0023】
比較例2:
膜厚が3~4μm程度になるように、タングステン基板上に無電解ニッケルめっき膜を形成することにより、比較例2に係る金属材料を得た。なお、通常、無電解ニッケルめっき膜は1000℃等の高温で焼成して使用することはないため、未焼成のものを比較例2に係る金属材料とした。
【0024】
2.金属材料の密着性評価
上記のとおり作製した各金属材料に対して、タングステン基板およびニッケル膜の密着性を評価した。かかる評価は、MSE(Micro Slurry-Jet. Erpsion)試験に基づいて行った(使用装置:株式会社パルメソ社製のナノ・エム・エス・イー)。具体的には、MSE試験により、各例に係る金属材料が備えるニッケル膜の硬さおよび脆さを評価することで、ニッケル膜のタングステン基板に対する密着性を評価した。以下、試験内容について詳細に説明する。
【0025】
(1)金属材料が備えるニッケル膜の硬さの評価
各例に係る金属材料が備えるニッケル膜の表面に対して、メーカー規格条件の標準投射力の1/100の投射力で、砥粒(砥粒形状:多角,材質:アルミナ,砥粒粒径:1.2μm)を投射し、エロ―ジョン率(即ち、エロ―ジョンの進行速度)を測定した。かかる測定は各金属材料に対して3回ずつ実施し、3回の測定から得られたエロ―ジョン率の平均値を算出した(図2を参照)。なお、エロ―ジョン率の値がより大きい場合、金属材料が備えるニッケル膜がより硬いものであるとみなすことができる。
【0026】
(2)金属材料が備えるニッケル膜の脆さの評価
各例に係る金属材料が備えるニッケル膜の表面に対して、メーカー規格条件の標準投射力で、砥粒(砥粒形状:球形,材質:シリカ,砥粒粒径:1.2μm)を投射し、エロ―ジョン率を測定した。かかる測定は各金属材料に対して2回ずつ実施し、2回の測定から得られたエロ―ジョン率の平均値を算出した(図3を参照)。ただし、比較例2に関しては、砥粒投射後直ぐにニッケル膜が剥離したため、グラフは掲載していない。
さらに、各例に係る金属材料が備えるニッケル膜の表面に対して、メーカー規格条件の標準投射力の1/2の投射力で、砥粒(砥粒形状:球形,材質:シリカ,砥粒粒径:1.0μm)を投射し、エロ―ジョン率を測定した。かかる測定は各金属材料に対して2回ずつ実施し、2回の測定から得られたエロ―ジョン率の平均値を算出した(図4を参照)。ただし、比較例2に関しては、砥粒投射後直ぐにニッケル膜が剥離したため、グラフは掲載していない。
ここで、上記測定において、エロ―ジョン率の値がより大きい場合、金属材料が備えるニッケル膜がより脆いものであるとみなすことができる。
【0027】
図2に示すように、各金属材料におけるエロ―ジョン率は、実施例1では0.044μm/g、比較例1では0.048μm/g、比較例2では0.1μm/gであった。したがって、エロ―ジョン率の値は、実施例1、比較例1、比較例2の順に大きいことから、金属材料が備えるニッケル膜は、実施例1、比較例1、比較例2の順により硬くなることが分かる。
また、図3および図4に示すように、実施例1に係るニッケル膜は、タングステン基板から剥離することなく下地まで削れたのに対して、比較例1に係るニッケル膜は、線P(図3を参照)および線Q(図4を参照)を境にしてタングステン基板から剥離することが確認された。そこで、比較例1に係るニッケル膜が剥離する前における各金属材料のエロ―ジョン率を比較することにした。
図3において、線Pよりも上部の領域におけるエロ―ジョン率は、実施例1では0.1μm/g、比較例1では0.3μm/gであった。また、図4において、線Qよりも上部の領域におけるエロ―ジョン率は、実施例1では0.05μm/g、比較例1では0.1μm/gであった。したがって、エロ―ジョン率の値は、実施例1、比較例1の順に大きいことから、金属材料が備えるニッケル膜は、実施例1、比較例1、比較例2の順により脆くなることが分かる。
以上より、各例に係るニッケル膜は、(硬い,脆い)比較例2>比較例1>実施例1(柔らかい,脆くない)のように結論付けることができる。そして、かかる結果から、ニッケル膜のタングステン基板に対する密着性は、比較例2、比較例1、実施例1の順により高いことが分かる。
【0028】
3.実施例1に係る金属材料の断面観察
実施例1に係る金属材料に対して、断面観察を行った。具体的には、まず、図5に示すように、実施例1に係る金属材料を樹脂詰めした後、枠線で囲んだ部分においてFIB(Focused Ion Beam;収束イオンビーム)処理を行い、金属材料の薄片化を行った。そして、かかる薄片の断面に対してEDX(Energy Dispersive X-ray;エネルギー分散型X線)元素マッピングおよびライン分析を行った。
ここで、図6は、実施例1に係る金属材料のFIB処理後に得られた薄片におけるTEM-EDX元素マッピングの結果を示すHAADF-STEM観察画像(3万倍)である。また、図7は、実施例1に係る金属材料のFIB処理後に得られた薄片のHAADF-STEM観察画像(50万倍)と、該観察画像中のライン部分RにおけるTEM-EDXライン分析の結果を示すグラフである。そして、図8は、図7のグラフのS部分を構成する生データを掲載した表である。なお、上記S部分は、図7のグラフにおいて、タングステンの原子%の増加が緩やかになった部分からタングステンが100原子%に到達する部分までを示すものとする。
さらに、上記薄片の断面における領域AおよびBに対して、SAD(Selective Area Diffraction;制限視野回折)パターンを取得した。ここで、図9は、実施例1に係る金属材料のFIB処理後に得られた薄片のHAADF-STEM観察画像(3万倍)と、該観察画像中のA領域およびB領域における電子回折図形である。
これらのデータに基づいて、実施例1に係る金属材料の構成(組成)を確認した。なお、EDX元素マッピング、ライン分析、SADパターンの取得は、株式会社トプコン社製のEM-002BFを用いて実施した。
【0029】
実施例1に係る金属材料の薄片については、図6に示すようなニッケルとタングステンのマッピングが確認された。また、図7のTEM-EDXライン分析のグラフに示すように、上記薄片において、タングステン基板およびニッケル焼成膜の間に、タングステンマトリックス中にニッケルが拡散した拡散層が確認された。ここで、かかる拡散層は、図7のグラフにおいて、ニッケルの原子%とタングステンの原子%の値の大小が逆転する点から、タングステンの原子%が100%に到達するまでの部分を示すものとする(図7のグラフにおける実線矢印部分を参照)。
また、かかる拡散層は、タングステン基板とニッケル焼成膜とが積層された方向において、厚み40nmで存在することが確認された。そして、図8より、S部分に相当する、厚み44.0nmから74.2nmの部分において、ニッケルの原子%の平均値は4.4原子%(=61.7/14)である(即ち、2原子%またはそれ以上である)ことが確認された。このことから、拡散層に相当する領域において、ニッケルの拡散量が少なくとも2原子%である部分が存在し、かかる部分の厚みは5nmまたはそれ以上であることが分かった。
また、TEM-EDXのライン分析結果では、HAADF-STEM観察画像から判断されるタングステンとニッケルとの界面付近約40nmの領域に、オーバーラップ部分が存在することが確認された。ここで、かかるオーバーラップ部分は、図7のグラフにおけるニッケルとタングステンの原子%の値がほぼ一定の割合で変化する部分を示すものとする(図7のグラフにおける破線矢印部分を参照)。
さらに、図9に示すように、上記薄片におけるA領域には、Ni、NiO、NiW、Wが含まれており、B領域にはWが含まれていることが確認された。このことから、ニッケル焼成膜はNiWを含むことが分かった。
【0030】
4.実施例1に係る金属材料が備えるニッケル膜の緻密度
実施例1に係る金属材料が備えるニッケル膜の断面のイオンミリングを行った。そして、得られたイオンミリング研磨面を映した10万倍のFE-SEM断面画像から、Media Cybernetics社製画像解析ソフト「Image-Pro(登録商標)」により黒色のボイド部分(即ち、空洞部分)の面積を求め、緻密度(%)=1-(ボイドの面積/全体の面積)%として算出した。その結果、緻密度は99%であった。
【0031】
上記2~4の結果から明らかなように、タングステン基板およびニッケル焼成膜(ニッケルを含む金属層に相当する)が、タングステンマトリックス中にニッケルが少なくとも2原子%拡散した部分を有する拡散層を介して積層された金属材料においては、該タングステン基板および該ニッケル焼成膜の密着性が高いことが確認された。また、ニッケル焼成膜の緻密度は95%以上と高いことが確認された。よって、体積抵抗率が低い良好な導電性を有する金属材料を提供することができる。
このように、ここで開示される技術によると、タングステンを主体として構成される基材上に密着性の高い膜(層)が付与された金属材料を提供することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 金属材料
10 金属層
12 拡散層
14 基材
P,Q 剥離の境界線
R ライン部分
S 拡散層に含まれるニッケル量を示す部分

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9