IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図1
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図2
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図3
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図4
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図5
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図6
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図7
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図8
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図9
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図10
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図11
  • 特開-生体組織貼付フィルム及び転写シート 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094038
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】生体組織貼付フィルム及び転写シート
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20220617BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20220617BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220617BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20220617BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220617BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20220617BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20220617BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20220617BHJP
   A61L 15/24 20060101ALI20220617BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/02
A61Q19/00
A61L31/12
A61L31/14 300
A61K8/86
A61L31/04 110
A61L31/06
A61L15/24 100
A61L15/26 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206832
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】早坂 雄一郎
【テーマコード(参考)】
4C081
4C083
【Fターム(参考)】
4C081AA03
4C081AA12
4C081AA14
4C081BA11
4C081BB01
4C081BB02
4C081BB04
4C081BB07
4C081BB08
4C081CA051
4C081CA171
4C081DA02
4C081DA05
4C081DC02
4C081DC04
4C081DC13
4C081EA02
4C081EA03
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD111
4C083AD112
4C083BB36
4C083CC02
4C083DD12
4C083EE03
4C083EE07
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】被着体の表面形状への追従性を高めることが可能な、生体組織貼付フィルムと転写シートを提供する。
【解決手段】疎水性生体適合材料を用いて形成されたフィルム基材である疎水系高分子層11と、疎水系高分子層11に含有される粒子状の水溶性高分子である親水性高分子粒子13とを備え、親水性高分子粒子13は、単位当たりの質量が0.1g/m以上10g/m以下の範囲内で疎水系高分子層11に含有されている生体組織貼付フィルム10と、疎水系高分子層11に積層され、且つ生体組織貼付フィルム10を支持する支持基材とを備える転写シート。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性生体適合材料を用いて形成されたフィルム基材と、
前記フィルム基材に含有される粒子状の水溶性高分子と、を備え、
前記水溶性高分子は、単位当たりの質量が0.1g/m以上10g/m以下の範囲内で前記フィルム基材に含有されている生体組織貼付フィルム。
【請求項2】
前記水溶性高分子の最大粒径は、0.1μm以上100μm以下の範囲内であり、
前記水溶性高分子の粒子は、前記フィルム基材から突出している請求項1に記載した生体組織貼付フィルム。
【請求項3】
疎水性生体適合材料を用いて形成されたフィルム基材と、
前記フィルム基材の一方の面に積層され、且つ層状に形成された水溶性高分子と、を備える生体組織貼付フィルム。
【請求項4】
前記生体組織貼付フィルムの全体の質量に対する前記水溶性高分子の質量の割合は、10質量%以上30質量%以下の範囲内である請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の生体組織貼付フィルム。
【請求項5】
請求項1、請求項2又は請求項4に記載した生体組織貼付フィルムと、
前記フィルム基材に積層され、且つ前記生体組織貼付フィルムを支持する支持基材と、を備える転写シート。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載した生体組織貼付フィルムと、
前記フィルム基材の他方の面に積層され、且つ前記生体組織貼付フィルムを支持する支持基材と、を備える転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織貼付フィルム及び転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
数nm~数μm程度の厚さを有した極めて薄いフィルムは、高い柔軟性を有することから、生体器官の表面形状に対して高い追従性を示す。それゆえ、フィルムは、接着剤や粘着剤がなくとも生体器官の表面に貼り付くため、フィルムを臓器や皮膚等の被着体に貼り付けて利用することが試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フィルムを美容用途に用いることが記載されている。美容用途において、フィルムは、スキンケアやメイクアップの補助のために皮膚に貼り付けられる。
また、特許文献2には、フィルムを医療用途に用いることが記載されている。医療用途において、フィルムは、外科手術による切開部位の閉鎖、熱傷や創傷が生じている部位の保護、止血等を目的として、臓器や皮膚に貼り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/058060号
【特許文献2】国際公開第2016/204266号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
美容用途及び医療用途では、被着体に貼り付けられたフィルムにて水分の透過が抑えられることにより、フィルムが被着体の表面上に閉塞状態を形成できることが望まれる。例えば、美容用途においては、閉塞状態が形成されることにより、皮膚の表面に水分が保持されて角層水分量が高められるため、保湿効果が得られる。また、医療用途においては、閉塞状態が形成されることにより、湿潤によって創傷治癒環境を改善する湿潤療法や、皮膚への薬剤浸透を高める閉鎖密封法に適した状態が構築される。
【0006】
しかしながら、薄膜化により被着体の表面形状への追従性が高められている従来のフィルムは、薄さに起因した水分の透過や、薄さに起因した強度不足により破れが発生する問題がある。そして、水分透過や強度確保のためにフィルムを厚くした場合、十分な皮膚への密着性が得られないという問題がある。
【0007】
本発明は、被着体の表面形状への追従性を有するフィルムにおいて、密着性を高めることで高い追従性を有する生体組織貼付フィルムと、生体組織貼付フィルムを備える転写シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するために、本発明の一態様は、疎水性生体適合材料を用いて形成されたフィルム基材と、フィルム基材に含有される粒子状の水溶性高分子と、を備える生体組織貼付フィルムである。水溶性高分子は、単位当たりの質量が0.1g/m以上10g/m以下の範囲内でフィルム基材に含有されている。
【0009】
また、課題を解決するために、本発明の一態様は、疎水性生体適合材料を用いて形成されたフィルム基材と、フィルム基材の一方の面に積層され、且つ層状に形成された水溶性高分子と、を備える生体組織貼付フィルムである。
【0010】
また、課題を解決するために、本発明の一態様は、上述した生体組織貼付フィルムと、フィルム基材に積層され、且つ生体組織貼付フィルムを支持する支持基材と、を備える転写シートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被着体の表面形状への追従性を高めることが可能な、生体組織貼付フィルムと転写シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態の生体組織貼付フィルムの俯瞰図である。
図2】第1実施形態の生体組織貼付フィルムの断面図である。
図3】第1実施形態の転写シートの断面図である。
図4】転写シートの貼付工程を示す図である。
図5】支持基材の配置工程を示す図である。
図6】支持基材の剥離工程を示す図である。
図7】第1実施形態の変形例を示す断面図である。
図8】第2実施形態の生体組織貼付フィルムの断面図である。
図9】第2実施形態の転写シートの断面図である。
図10】生体組織貼付フィルムの製造工程を示す図である。
図11】生体組織貼付フィルムの製造工程を示す図である。
図12】生体組織貼付フィルムの製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本技術の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。以下に示す実施形態は、本技術の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本技術の技術的思想は、下記の実施形態に例示した装置や方法に特定するものでない。本技術の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
【0014】
(第1実施形態)
以下、図1から図3を参照して、生体組織貼付フィルムと、転写シートの構成を説明する。
生体組織貼付フィルムが貼り付けられる対象である被着体は、生体組織であり、例えば、皮膚や臓器である。生体組織貼付フィルムは、特に、皮膚への貼り付けに用いることが好適である。
【0015】
また、生体組織貼付フィルムは、美容用途に用いられてもよいし、医療用途に用いられてもよい。美容用途に用いられる場合、生体組織貼付フィルムは、スキンケアやメイクアップを補助するために、皮膚に貼り付けられる。医療用途に用いられる場合、生体組織貼付フィルムは、創傷の保護や薬剤の塗布領域を保護するために、皮膚や臓器に貼り付けられる。
【0016】
[生体組織貼付フィルム]
図1に示すように、生体組織貼付フィルム10は、フィルム基材である疎水系高分子層11と、粒子状の水溶性高分子(水溶性高分子の塊)である親水性高分子粒子13を備える。
【0017】
[疎水系高分子層11]
疎水系高分子層11は、疎水性生体適合材料を用いて、フィルム状に形成されている。
疎水系高分子層11の厚さは、例えば、0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲内である。
【0018】
疎水性生体適合材料としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等のエステル樹脂及びこれらの共重合樹脂、化粧品の皮膜形成剤として使用される樹脂である、アクリル樹脂やシリコーン及びこれらの共重合樹脂、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等のセルロース誘導体、医療分野での使用実績の多い樹脂である、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、スチレンブタジエン系エラストマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド等を用いることが可能である。また、疎水性生体適合材料としては、疎水性高分子であれば複数種類の材料を含んでいてもよい。
【0019】
[親水性高分子粒子13]
親水性高分子粒子13は、疎水系高分子層11に含有されている。
また、親水性高分子粒子13は、例えば、単位当たりの質量が0.1[g/m]以上10[g/m]以下の範囲内で、疎水系高分子層11に含有されている。
親水性高分子粒子13の最大粒径(最大粒子径)は、例えば、0.1[μm]以上100[μm]以下の範囲内である。
また、親水性高分子粒子13は、図2に示すように、疎水系高分子層11の両面から突出している。
【0020】
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合は、10質量%以上30質量%以下の範囲内である。
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合を、10質量%以上30質量%以下の範囲内とすることで、皮膚への密着性が向上し、良質な追従性を発揮することが可能となる。なお、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合を、10質量%未満とすると、皮膚への密着性を向上させる効果が弱い。また、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合を、30質量%を超える値とすると、強度の面で問題がある。
【0021】
生体組織貼付フィルム10は、親水性高分子粒子13が、単位当たりの質量が0.1[g/m]以上10[g/m]以下の範囲内で、疎水系高分子層11に含有されていることで、被着体の表面形状に対する良好な追従性を得ることが可能となる。これにより、生体組織貼付フィルム10を単独で使用した際に、被着体に対する接着性を発現させることが可能となる。
【0022】
なお、親水性高分子粒子13が、単位当たりの質量が0.1[g/m]未満で疎水系高分子層11に含有されている場合、生体組織貼付フィルム10に含有する親水性高分子粒子13が少ないため、十分な効果が得られない。また、親水性高分子粒子13が、単位当たりの質量が10[g/m]を超えて疎水系高分子層11に含有されている場合、ナノフィルム被着体に対する接着性が発現しない。
【0023】
なお、単位面積当たりの質量は、平面視にて1[m]の面積を有する部分当たりに換算した、生体組織貼付フィルム10の質量である。単位面積当たりの質量は、例えば、複数の測定領域で測定された質量の平均値から換算すること、又は、生体組織貼付フィルム10の厚さの平均値に密度を乗算することによって求められる。
【0024】
親水性高分子粒子13に含まれる親水性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸系共重合体、マレイン酸系共重合体、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、カラギーナン、サクラン、デルマタン硫酸等のムコ多糖類等の吸水性高分子等が用いることが可能である。特に、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0025】
[転写シート]
転写シート20は、図3に示すように、生体組織貼付フィルム10と、支持基材21を備えている。転写シート20は、生体組織貼付フィルム10を被着体に張り付ける場合に用いられるシートである。
【0026】
支持基材21は、生体組織貼付フィルム10に積層されており、生体組織貼付フィルム10を支持する基材である。
【0027】
また、支持基材21は、生体組織貼付フィルム10の保管時や生体組織貼付フィルム10の使用に際して、被着体まで生体組織貼付フィルム10を移動させるときに、生体組織貼付フィルム10の変形を抑制する機能を有する。したがって、支持基材21に支持されていることにより、生体組織貼付フィルム10が取り扱いやすくなる。
【0028】
支持基材21は、多孔質基材であることが好ましい。多孔質基材は、内部に微小な多数の間隙を有する基材であり、液体を浸透又は透過させることが可能である。
支持基材21として用いることが可能な多孔質基材としては、例えば、不織布、紙、編物、織物等の繊維材料を用いて形成したシートや、メッシュ状のように間隙を含む構造を有する樹脂シートが挙げられるが、特に、不織布が好適に用いられる。
【0029】
不織布を構成する繊維は、例えば、綿、麻、羊毛、パルプ等の天然繊維、レーヨン等の半合成繊維、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の合成繊維等である。また、不織布を構成する繊維のなかでも、天然繊維、特に、パルプが好適に用いられる。不織布は、1種類の繊維から構成されていてもよいし、2種類以上の繊維から構成されていてもよい。
【0030】
なお、支持基材21は、多孔質基材に限らず、内部に間隙を有さない樹脂シートや金属箔等の基材であってもよい。また、支持基材21として、シリコーンやフッ素樹脂を用いて形成された表面を有する樹脂シートのように、離型性を有する基材が用いられてもよい。
【0031】
[生体組織貼付フィルムの製造方法]
以下、生体組織貼付フィルム10の製造方法を説明する。
【0032】
まず、疎水高分子材料を溶解させた溶媒中に、最大粒径が、0.1[μm]以上100[μm]以下の範囲内である粒子状の親水性高分子粒子13を分散させる。
次に、親水性高分子粒子13を分散させた溶媒を、離型性の基材である成膜用基材に塗布して乾燥させることで、生体組織貼付フィルム10を形成する。
【0033】
なお、最大粒径が、0.1[μm]以上100[μm]以下の範囲内である親水性高分子粒子13は、例えば、ビーズミル等を用いた圧縮、衝撃、摩擦、せん断等の力機械的な力による粉砕、又は、気相法、液相法等の合成反応によって作製する。
【0034】
[転写シートの製造方法]
以下、転写シート20の製造方法を説明する。
成膜用基材から生体組織貼付フィルム10を剥離させる前、又は、成膜用基材から生体組織貼付フィルム10を剥離させた後に、生体組織貼付フィルム10に支持基材21を積層することで、転写シート20を形成する。
【0035】
例えば、成膜用基材の上に生体組織貼付フィルム10を配置し、さらに、生体組織貼付フィルム10の上面に支持基材21を接触させ、成膜用基材から支持基材21へ生体組織貼付フィルム10を転写することにより、転写シート20を形成する。
成膜用基材から支持基材21へ生体組織貼付フィルム10を転写する方法としては、吸引による剥離を利用する方法や犠牲膜を利用する方法等、公知の方法を用いることが可能である。
【0036】
生体組織貼付フィルム10を成膜用基材から剥離させることにより、単独の生体組織貼付フィルム10を得ることが可能である。生体組織貼付フィルム10を成膜用基材から剥離させる方法は、例えば、成膜用基材と生体組織貼付フィルム10との間に剃刀で切り込みを入れてきっかけを作ることにより、成膜用基材から生体組織貼付フィルム10を剥離させる方法を用いることが可能である。
【0037】
なお、疎水系高分子層11に親水性高分子粒子13を分散させた構造と、生体組織貼付フィルム10に支持基材21を積層させた構造を形成することが可能であれば、生体組織貼付フィルム10及び転写シート20の製造方法は、上述した方法と異なってもよい。
【0038】
[生体組織貼付フィルムの貼付方法]
図4から図6を参照して、被着体へ生体組織貼付フィルム10を貼り付ける方法、すなわち、転写シート20を用いた生体組織貼付フィルム10の転写方法を説明する。以降の説明では、一例として、美容用途において、被着体としての皮膚に生体組織貼付フィルム10を貼り付ける場合を説明する。
【0039】
図4に示すように、まず、皮膚Sk上に、液状体Lqを塗り付け、液状体Lqが塗り付けられた領域を塗布領域とする。なお、液状体Lqは、水、化粧水、ローション、美容クリーム等液状であれば、特に限定はされない。
そして、図5に示すように、液状体Lqの塗布領域に対し、転写シート20のうち生体組織貼付フィルム10の側を被着体に貼付するように重ね、転写シート20を皮膚Skの上に配置する。
なお、転写シート20の構成を、両面に支持基材21が積層されている構成とした場合は、被着体に貼付する面の支持基材21を、予め剥離させておく。
【0040】
続いて、図6に示すように、生体組織貼付フィルム10から支持基材21を剥離させる。これにより、生体組織貼付フィルム10が皮膚Skに転写される。そして、生体組織貼付フィルム10は、液状体Lqと共に皮膚Skの表面形状に追従していき、皮膚Skと密着する。なお、時間の経過とともに、液状体Lqが皮膚Skに吸収されることによって、生体組織貼付フィルム10と皮膚Skの表面との間に位置する液状体Lqの体積が減少する。その結果、生体組織貼付フィルム10と皮膚Skとの密着性が高まると考えられる。
【0041】
(第1実施形態の変形例)
(1)第1実施形態では、親水性高分子粒子13が、疎水系高分子層11の両面から突出している構成としたが、これに限定するものではなく、例えば、図7に示すように、親水性高分子粒子13が、疎水系高分子層11の一方の面から突出している構成としてもよい。
【0042】
(第2実施形態)
以下、図8及び図9を参照して、生体組織貼付フィルムと、転写シートの構成を説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、説明を省略する場合がある。
【0043】
[生体組織貼付フィルム]
図8に示すように、生体組織貼付フィルム10は、フィルム基材である疎水系高分子層11と、層状に形成された水溶性高分子である親水性高分子層12を備える。
【0044】
[疎水系高分子層11]
疎水系高分子層11は、疎水性生体適合材料を用いて、フィルム状に形成されている。
疎水系高分子層11の厚さは、例えば、0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲内である。
【0045】
[親水性高分子層12]
親水性高分子層12は、疎水系高分子層11の一方の面(図8では下方の面)に積層されている。
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の質量の割合は、10質量%以上30質量%以下の範囲内である。
【0046】
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の質量の割合を、10質量%以上30質量%以下の範囲内とすることで、皮膚への密着性が向上し、良質な追従性を発揮することが可能となる。なお、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の質量の割合を、10質量%未満とすると、皮膚への密着性を向上させる効果が弱い。また、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の質量の割合を、30質量%を超える値とすると、強度の面で問題がある。
【0047】
親水性高分子層12を形成する親水性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸系共重合体、マレイン酸系共重合体、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、カラギーナン、サクラン、デルマタン硫酸等のムコ多糖類等の吸水性高分子等が用いることが可能である。特に、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0048】
[転写シート]
転写シート20は、図9に示すように、生体組織貼付フィルム10と、支持基材21を備えている。
【0049】
支持基材21は、生体組織貼付フィルム10の他方の面(図9では上方の面)に積層されており、生体組織貼付フィルム10を支持する基材である。
【0050】
[生体組織貼付フィルムの製造方法]
以下、図10及び図11を用いて、生体組織貼付フィルム10の製造方法を説明する。
まず、図10に示すように、水溶性高分子材料を溶媒に溶解させたインクを、離型性の基材である成膜用基材30に塗布して乾燥させることで、親水性高分子層12を形成する。
【0051】
なお、インクを塗布する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等を用いた公知の方法を用いることが可能である。
【0052】
成膜用基材30は、離型性を有する基材であればよく、例えば、シリコーンやフッ素樹脂を用いて形成された表面を有するポリエチレンテレフタレートフィルムや、オレフィンフィルムが好適に用いられてもよい。
その後、図11に示すように、疎水性生体適合材料を溶媒に溶解させたインクを、親水性高分子層12の上に塗布して乾燥させることで、疎水系高分子層11を形成する。
【0053】
[転写シートの製造方法]
以下、図12を用いて、転写シート20の製造方法を説明する。
成膜用基材30から生体組織貼付フィルム10を剥離させる前、又は、成膜用基材30から生体組織貼付フィルム10を剥離させた後に、生体組織貼付フィルム10に支持基材21を積層することで、転写シート20を形成する。
【0054】
例えば、図12に示すように、成膜用基材30の上に生体組織貼付フィルム10を配置し、さらに、生体組織貼付フィルム10の上面(図12では、上側の面)に支持基材21を接触させ、成膜用基材30から支持基材21へ生体組織貼付フィルム10を転写することにより、転写シート20を形成する。
成膜用基材30から支持基材21へ生体組織貼付フィルム10を転写する方法としては、吸引による剥離を利用する方法や犠牲膜を利用する方法等、公知の方法を用いることが可能である。
【0055】
生体組織貼付フィルム10を成膜用基材30から剥離させることにより、単独の生体組織貼付フィルム10を得ることが可能である。生体組織貼付フィルム10を成膜用基材30から剥離させる方法は、例えば、成膜用基材30と生体組織貼付フィルム10との間に剃刀で切り込みを入れてきっかけを作ることにより、成膜用基材30から生体組織貼付フィルム10を剥離させる方法を用いることが可能である。
【0056】
なお、疎水性生体適材料層11に親水性高分子層12を積層させた構造と、生体組織貼付フィルム10に支持基材21を積層させた構造を形成することが可能であれば、生体組織貼付フィルム10及び転写シート20の製造方法は、上述した方法と異なってもよい。
【0057】
[実施例]
第1実施形態及び第2実施形態の生体組織貼付フィルム10及び転写シート20について、具体的な実施例及び比較例を用いて説明する。以下、実施例と比較例の作製方法を詳細に説明する。
【0058】
(実施例1)
成膜用基材30として、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学社製:FOS#50)を用い、固形分3質量%のポリビニルアルコール(三菱化学製、ゴーセノールEG-40)の水溶液を、バーコート法を利用して成膜用基材30に塗布することにより、塗膜を形成した。そして、成膜用基材30に形成した塗膜を温度が90[℃]の環境にて2分間乾燥させることによって、塗布量が約0.1[g/m]の親水性高分子層12を形成した。
【0059】
次に、固形分が10質量%のポリDL乳酸(武蔵野化学製:平均質量分子量11万)の酢酸ブチル溶液を、バーコート法を利用して親水性高分子層12に塗布することにより、塗膜を形成した。そして、親水性高分子層12に形成した塗膜を温度が90[℃]の環境にて2分間乾燥させることによって、塗布量が約0.9[g/m]の疎水系高分子層11を形成し、総塗布量が約1.0[g/m]であり、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の割合が10質量%である、実施例1の生体組織貼付フィルム10を作製した。
【0060】
続いて、成膜用基材30の上に配置した生体組織貼付フィルム10の表面、すなわち、複合層の表面に、支持基材21としてポリエステル製の不織布を積層した後、成膜用基材30から生体組織貼付フィルム10と支持基材21との積層体を剥離させた。これにより、実施例1の転写シート20を作製した。
【0061】
(実施例2)
実施例1と同様の方法にて、親水性高分子層12の塗布量が1.5[g/m]、疎水系高分子層11の塗布量が0.85[g/m]、総塗布量が約1.0[g/m]、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の割合が15質量%である、実施例2の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0062】
(実施例3)
実施例1と同様の方法にて、親水性高分子層12の塗布量が3.0[g/m]、疎水系高分子層11の塗布量が0.7[g/m]、総塗布量が約1.0[g/m]、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の割合が30質量%である、実施例3の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0063】
(実施例4)
実施例1と同様の方法にて、親水性高分子層12の塗布量が0.03[g/m]、疎水系高分子層11の塗布量が0.17[g/m]、総塗布量が約2.0[g/m]、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の割合が15質量%である、実施例4の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0064】
(実施例5)
実施例1と同様の方法にて、親水性高分子層12の塗布量が1.5[g/m]、疎水系高分子層11の塗布量が8.5[g/m]、総塗布量が約10.0[g/m]、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の割合が15質量%である、実施例5の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0065】
(実施例6)
ボールミルを用いてポリビニルアルコール(三菱化学製:ゴーセノールEG-40)を粉砕し、ステンレスふるい(サンポー製:目開き212[μm]、目開き150[μm]、目開き100[μm])を、目開きが大きい順にふるいがけを行うことで、最大粒径が100[μm]以下の親水性高分子粒子13を作製した。
【0066】
次に、親水性高分子粒子13を、ポリDL乳酸(武蔵野化学製:平均質量分子量11万)の酢酸ブチル溶液に、総固形分が10質量%、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合が10質量%となるように調整した。成膜用基材30として、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学社製:FOS#50)を用い、酢酸ブチル溶液を、バーコート法を用いて成膜用基材30に塗布することにより、塗膜を形成した。さらに、形成した塗膜を温度が90[℃]の環境にて2分間乾燥させることによって、塗布量が約1.0[g/m]である、実施例6の生体組織貼付フィルム10を作成した。
【0067】
続いて、成膜用基材30の上に配置した生体組織貼付フィルム10の表面、すなわち、複合層の表面に、支持基材21としてポリエステル製の不織布を積層した後、成膜用基材30から生体組織貼付フィルム10と支持基材21との積層体を剥離させた。これにより、実施例6の転写シート20を作製した。
【0068】
(実施例7)
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合が15質量%である以外は実施例6と同様にして、実施例7の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
(実施例8)
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合が30質量%である以外は実施例6と同様にして、実施例8の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0069】
(実施例9)
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合が15質量%であり、塗布量が約0.2[g/m]である以外は実施例6と同様にして、実施例9の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0070】
(実施例10)
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合が15質量%であり、塗布量が約10[g/m]である以外は実施例6と同様にして、実施例10の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0071】
(比較例1)
実施例1と同様の方法にて、親水性高分子層12の塗布量が0.05[g/m]、疎水系高分子層11の塗布量が0.95[g/m]、総塗布量が約1.0[g/m]、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の割合が5質量%である、比較例1の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0072】
(比較例2)
実施例1と同様の方法にて、親水性高分子層12の塗布量が0.5[g/m]、疎水系高分子層11の塗布量が0.5[g/m]、総塗布量が約1.0[g/m]、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の割合が5質量%である、比較例2の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0073】
(比較例3)
実施例1と同様の方法にて、親水性高分子層12の塗布量が0.015[g/m]、疎水系高分子層11の塗布量が0.85[g/m]、総塗布量が約0.1[g/m]、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の割合が5質量%である、比較例3の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0074】
(比較例4)
実施例1と同様の方法にて、親水性高分子層12の塗布量が2.25[g/m]、疎水系高分子層11の塗布量が12.75[g/m]、総塗布量が約15[g/m]、生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子層12の割合が5質量%である、比較例4の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0075】
(比較例5)
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合が5質量%である以外は実施例6と同様にして、比較例5の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0076】
(比較例6)
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合が50質量%である以外は実施例6と同様にして、比較例6の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0077】
(比較例7)
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合が15質量%であり、塗布量が約15[g/m]である以外は実施例6と同様にして、比較例7の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0078】
(比較例8)
生体組織貼付フィルム10の全体の質量に対する親水性高分子粒子13の質量の割合が15質量%であり、塗布量が約0.1[g/m]である以外は実施例6と同様にして、比較例8の生体組織貼付フィルム10と転写シート20を作製した。
【0079】
(追従性評価方法)
作製した転写シート20を10[mmφ]の大きさに切り出した後、人工皮革(株式会社イデアテックスジャパン製:サプラーレ)に50[μL]の蒸留水を滴下させる。その後、滴下させた蒸留水に生体組織貼付フィルム10がある面を乗せ、支持基材21を剥離させて人工皮革の上に生体組織貼付フィルム10を転移させる。その後、室温の環境にて3時間乾燥させて測定サンプルを作製した。
【0080】
そして、作製した測定サンプルを、小型卓上試験機(島津製作所:EX-SX)に設置し、測定治具である8[mmφ]の圧縮治具に6[mmφ]に切り出した両面テープ(NW-P15)を貼り付けた後、小型卓上試験機に設置した測定治具を20[mm/min]の速度で加重が3[N]になるまで圧縮した。その後、10秒間停止させ、さらに、10[mm/min]の速度で上昇させ、上昇時における両面テープの粘着によって測定サンプルが人工皮革から剥離する際の抵抗を、密着力(mN)として取得した。
【0081】
さらに、成膜用基材30として、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学社製:FOS#50)を用い、固形分が10質量%であるポリDL乳酸(武蔵野化学製:平均質量分子量11万)の酢酸ブチル溶液を、バーコート法を用いて成膜用基材30に塗布することにより、各実施例と同等の塗布量で塗膜を形成した。さらに、形成した塗膜を温度が90[℃]の環境にて2分間乾燥させることによって作製したサンプルの密着力と比較し、同等及びそれ以下であれば追従性向上効果無しとして「×」と評価し、それ以上であれば追従性効果有りとして「〇」と評価した。
【0082】
(評価結果)
上述した評価方法による評価結果を、表1に示す。
表1に示すように、実施例1~実施例10では、全て追従性を向上させる効果が有り、比較例1~比較例8では、全て破断により測定不可能か、追従性を向上させる効果が無いという結果が得られた。
得られた結果から、本発明の生体組織貼付フィルム10及び転写シート20であれば、被着体の表面形状への追従性を高めることが可能となることが確認された。
【0083】
【表1】
【符号の説明】
【0084】
10…生体組織貼付フィルム、11…疎水系高分子層、12…親水性高分子層、13…親水性高分子粒子、20…転写シート、21…支持基材、30…成膜用基材、Lq…液状体、SK…被着体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12