(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094092
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】化粧シート
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20220617BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220617BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20220617BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20220617BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220617BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220617BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20220617BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20220617BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C08L75/04
B32B27/00 E
B32B27/40
C09J201/00
C09D175/04
C09D7/65
C08L1/02
C08K9/04
C08G18/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206909
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】久米 誠
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J034
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AJ04A
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4F100AK51A
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4J040JB02
4J040JB07
4J040MA10
4J040MB03
4J040NA12
(57)【要約】
【課題】高い硬度を有するとともに、耐摩擦性に優れた表面保護層を有する化粧シートを提供する。
【解決手段】水性ポリウレタン樹脂組成物を用いて形成されているバインダマトリックス5と、複合粒子4とを含む表面保護層3を有し、複合粒子4は、微細化セルロースにより構成された被覆層を有し、微細化セルロースの表面に、少なくとも一種類のポリマーを含むコア粒子が配置されている化粧シート1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリウレタン樹脂組成物と、複合粒子と、を含む表面保護層を有し、
前記複合粒子は、微細化セルロースにより構成された被覆層を有し、
前記微細化セルロースの表面に、少なくとも一種類のポリマーを含むコア粒子が配置されていることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記微細化セルロースは、四級アルキルアミン化されていることを特徴とする請求項1に記載した化粧シート。
【請求項3】
前記表面保護層の表面における鉛筆硬度評価方法に従った鉛筆硬度が、2H以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した化粧シート。
【請求項4】
前記表面保護層を積層する基材シートをさらに有する請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載した化粧シート。
【請求項5】
前記基材シートの一方の面に積層した装飾層と、
前記装飾層の前記基材シートと対向する面と反対の面に積層した接着剤層と、
前記接着剤層の前記装飾層と対向する面と反対の面に積層した透明樹脂層と、をさらに有し、
前記表面保護層は、前記透明樹脂層の前記接着剤層と対向する面と反対の面に積層されている請求項4に記載した化粧シート。
【請求項6】
前記基材シートは、樹脂成分としてポリオレフィン系樹脂を含有する請求項4又は請求項5に記載した化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、化粧シートは、木質板等の被着材に対する表面の保護や装飾等を目的とするものであって、化粧シートを被着材の表面に貼り付けて使用する。そして、化粧シートを備える化粧板は、各種の建材や家具等に使用されている。
【0003】
化粧シートには、最表面を保護するための表面保護層が設けられている。したがって、表面保護層は、様々な液体又は固形物と接触し得るため、傷つき防止性、耐汚染性(防汚性)等の耐久性を有する必要がある。
【0004】
また、近年では、環境意識の高まりから、溶剤だけでなく、化粧シート用の基材シートとして、ポリ塩化ビニルからポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂への変換も進みつつある。
【0005】
しかしながら、ポリオレフィン系樹脂においても、ポリ塩化ビニルと比較して耐摩擦性が不十分であるため、要求される特性をクリアするために、化粧シートの最表面層には表面保護層が設けられる場合が多い。
【0006】
一方、環境影響の観点から、従来では、例えば、特許文献1に開示されているように、表面保護層等は、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の脂肪族溶剤等を含む溶剤系塗工剤から形成されている点にも目が向けられている。
【0007】
芳香族溶剤、脂肪族溶剤等は、いずれも揮発性有機化合物(VOC)であり、特に、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤は、PRTR法の指定化学物質及び室内空気中化学物質の指針値策定物質として挙げられている。また、化粧シートの製造時における溶剤系塗工剤に含まれるVOCの揮発による作業環境の問題、化粧シートの使用時における残存VOCが、一般の生活空間に拡散される環境安全性の問題等が指摘されている。そのため、化粧シートに含まれるVOCの使用量を低減することが最近の課題となっている。
【0008】
そこで、表面保護層の形成に用いるコーティング剤としては、溶剤系のコーティング剤が使用されているが、近年では、有機溶剤を極力使用しない水性コーティング剤を使用する要望が強くなってきている。
【0009】
水性コーティング剤としては、例えば、特許文献2に開示されているように、水性アクリル樹脂を用いたものが知られている。
【0010】
しかしながら、水性アクリル樹脂系の水性コーティング剤は、溶剤系コーティング剤に比べて表面保護層の耐摩擦性及びポリオレフィン系樹脂に対する密着性が劣る傾向がある。
【0011】
ところで、例えば、特許文献3に開示されているように、欠点を改善するために水性アクリル-ウレタン共重合組成物を水性コーティング剤として用いることが提案されている。水性アクリル-ウレタン共重合組成物を用いて形成した表面保護層は、耐摩擦性及びポリオレフィン系樹脂に対する密着性が改善されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11-198309号公報
【特許文献2】特開平9-158098号公報
【特許文献3】特開2000-119362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献3に開示されているような、水性アクリル-ウレタン共重合組成物を用いて形成された表面保護層は、ブロッキング性が十分ではなく、化粧シートを巻き取った際に、表面保護層が隣層と付着してしまうという問題がある。
【0014】
また、特許文献2に開示されているような水性アクリル樹脂を用いて形成した表面保護層や、特許文献3に開示されているような水性アクリル-ウレタン共重合組成物を用いて形成した表面保護層は、耐汚染性の観点からも特性が不十分である。
【0015】
さらに、化粧シートに限らず、様々な工業製品に対して、環境配慮型材料や製造方法への要求が高まっている。地球環境への負荷や化石資源の枯渇化、廃棄物処理等の環境問題が深刻化している近年では、化石資源の代わりに天然資源を有効利用する材料開発が求められている。中でも、地球上で最も多く生産されるバイオマス材料として、また、自然環境下にて生分解可能な材料としてセルロース系材料が注目されている。特に、セルロースの特徴である、高強度、高弾性率、高結晶性、低熱線膨張係数に加え、高い透明性を有するナノファイバー状セルロースは、新規セルロース材料として機能性材料への利用が期待されている。
【0016】
本発明は、化粧シートにおける問題を解決するために、天然資源由来の材料である微細化セルロースを用いて高い硬度を有するとともに、耐摩擦性に優れた表面保護層を有する化粧シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
課題を解決するために、本発明の一態様は、表面保護層を有する化粧シートである。表面保護層は、水性ポリウレタン樹脂組成物と、複合粒子とを含む。複合粒子は、微細化セルロースにより構成された被覆層を有する。微細化セルロースの表面には、少なくとも一種類のポリマーを含むコア粒子が配置されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い硬度を有するとともに、耐摩擦性に優れた表面保護層を有する化粧シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る化粧シートの断面模式図である。
【
図2】第1実施形態に係る複合粒子の概略図である。
【
図3】第1実施形態に係る微細化セルロースを用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部の重合性モノマー又はポリマーを固体化することで得られた複合粒子と、複合粒子の被覆層に機能性成分を付加することで得られる複合粒子の概略図である。
【
図4】実施例1で得られた複合粒子を、走査型電子顕微鏡によって観察した結果を示す図である。
【
図5】実施例1で得られた複合粒子を、走査型電子顕微鏡によって高倍率で観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本技術の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。以下に示す実施形態は、本技術の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本技術の技術的思想は、下記の実施形態に例示した装置や方法に特定するものでない。本技術の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
【0021】
(第1実施形態)
図1に示すように、化粧シート1は、基材2シートと、表面保護層3を有する。
【0022】
<基材シート>
基材シート2は、表面(おもて面)に、絵柄層等(図示略)が積層されている。
【0023】
基材シート2の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂を用いることが可能である。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等を用いることが可能である。また、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂等を用いることも可能である。
【0024】
基材シート2は、着色されていても良い。基材シート2を着色する場合は、熱可塑性樹脂に対して着色材(顔料又は染料)を添加して着色する。着色剤としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄等の無機顔料、フタロシアニンブルー等の有機顔料のほか、各種の染料も使用することが可能である。着色剤は、公知又は市販のものから1種又は2種以上を選ぶことが可能である。また、着色剤の添加量も、所望の色合い等に応じて適宜設定すれば良い。
【0025】
基材シート2には、必要に応じて、充填剤、艶消し剤、発泡剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等の各種の添加剤が含まれていても良い。
【0026】
基材シート2の厚さは、最終製品の用途、使用方法等により適宜設定されるが、一般には50[μm]以上250[μm]以下の範囲内が好ましい。
【0027】
また、基材シート2には、必要に応じて、絵柄層を形成するインキの密着性を高めるために、表面にコロナ放電処理を施してもよい。コロナ放電処理の方法・条件は、公知の方法・条件を用いることが可能である。
【0028】
<絵柄層>
絵柄層は、化粧シート1に所望の絵柄(意匠)を付与するものであり、絵柄の種類等は限定的ではない。絵柄の種類等としては、例えば、木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様等が挙げられる。
【0029】
絵柄層を形成する方法は、特に限定されず、例えば、公知の着色剤(染料又は顔料)を結着材樹脂とともに溶剤(又は分散媒)中に溶解(又は分散)して得られるインキを用いた印刷法により、基材シート2の表面に形成すればよい。インキとしては、化粧シート1のVOCを低減する観点から、水性組成物を用いることが望ましい。
【0030】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタン白、亜鉛華、弁柄、紺青、カドミウムレッド等の無機顔料;アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料;アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属粉顔料;酸化チタン被覆雲母、酸化塩化ビスマス等の真珠光沢顔料;蛍光顔料;夜光顔料等を用いることが可能である。着色剤は、単独又は2種以上を混合して用いることが可能である。また、着色剤には、シリカ等のフィラー、有機ビーズ等の体質顔料、中和剤、界面活性剤等をさらに配合してもよい。
【0031】
結着材樹脂としては、親水性処理されたポリエステル系ウレタン樹脂のほか、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリスチレン-アクリレート共重合体、ロジン誘導体、スチレン-無水マレイン酸共重合体のアルコール付加物、セルロース系樹脂等も併用することが可能である。より具体的には、例えば、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリN-ビニルピロリドン系樹脂、水溶性ポリエステル系樹脂、水溶性ポリアミド系樹脂、水溶性アミノ系樹脂、水溶性フェノール系樹脂、その他の水溶性合成樹脂;ポリヌクレオチド、ポリペプチド、多糖類等の水溶性天然高分子;等も使用することが可能である。また、例えば、天然ゴム、合成ゴム、ポリ酢酸ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン-ポリアクリル系樹脂変性ないし混合樹脂、その他の樹脂を使用することも可能である。結着材樹脂は、単独又は2種以上で使用することが可能である。
【0032】
絵柄層の形成に用いる印刷法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法等を用いることが可能である。また、全面ベタ状の絵柄模様層を形成する場合には、例えば、ロールコート法、ナイフコート法、エアーナイフコート法、ダイコート法、リップコート法、コンマコート法、キスコート法、フローコート法、ディップコート法等の各種コーティング法を用いることが可能である。その他、手描き法、墨流し法、写真法、転写法、レーザービーム描画法、電子ビーム描画法、金属等の部分蒸着法、エッチング法等を用いてもよく、また、他の形成方法と組み合わせて用いてもよい。
【0033】
絵柄層の厚さは、特に限定されず、製品特性に応じて適宜設定することが可能であるが、塗工時における絵柄層の厚さは、例えば、1[μm]以上15[μm]以下の範囲内程度、乾燥後における絵柄層の厚さは、例えば、0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲内程度である。
【0034】
<表面保護層>
表面保護層3は、複合粒子4と、バインダマトリックス5を含む。
また、表面保護層3は、化粧シートの最表面を形成する面(
図1では、上側の面)に、エンボス模様(図示略)が形成されている。
【0035】
<エンボス>
エンボス模様を形成するためのエンボス加工は、化粧シート1に木材の表面等、所望のテクスチャを付与するために行われる。
また、エンボス加工は、例えば、加熱したドラムの上で化粧シート1を加熱して軟化させた後、軟化させた化粧シート1を、赤外線輻射ヒーターを用いて160[℃]以上180[℃]以下の範囲内で加熱し、さらに、所望の形に形成した凹凸模様を設けたエンボス板を用いて加圧・賦形し、冷却固定して形成する。エンボス加工は、例えば、公知の枚葉又は輪転式のエンボス機を使用して行うことが可能である。凹凸模様としては、例えば、木目導管溝、浮造模様(浮出した年輪の凹凸模様)、ヘアライン、砂目、梨地等が挙げられ、これらの中から所望の模様を適宜選択することが可能である。
【0036】
複合粒子4とバインダマトリックス5とを混合した組成物を用いて表面保護層3を形成する方法としては、特に制限はないが、組成物は流動性を有しているため、例えば、基材シート2の上に組成物をウェット塗工し、塗膜を硬化させることで、表面保護層3を形成する。
【0037】
複合粒子4とバインダマトリックス5とを混合した組成物を基材シート2の上に塗工する方法としては、公知の方法を用いることが可能である。具体的には、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、プレードコーティング法、ワイヤードクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等を用いることが可能である。
【0038】
<複合粒子>
複合粒子4は、
図2に示すように、コア粒子8と、被覆層7を有する。
コア粒子8は、少なくとも一種類のポリマーを含んだ粒子である。
被覆層7は、コア粒子8の表面を被覆する層であり、微細化セルロース6を含んで構成されている。以降の説明では、「微細化セルロース」を、「セルロースナノファイバー」や「CNF」と記載する場合がある。
【0039】
なお、「微細化セルロース」とは、短軸径において、数平均短軸径が1[nm]以上1000[nm]以下の範囲内である繊維状セルロースを意味する。
また、微細化セルロース6とコア粒子8は結合して不可分の状態である。
【0040】
複合粒子4を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、微細化セルロース6を用いたO/W型ピッカリングエマルションを形成させ、エマルション内部の液滴を固体化させて固体のコア粒子とすることで、コア粒子8と微細化セルロース6とが結合して不可分の状態にある複合粒子4を得ることが可能である。微細化セルロース6を用いることで、界面活性剤等の添加物を用いることなく、液滴を形成することが可能であり、複合粒子4を形成することが可能である。
【0041】
なお、「不可分」とは、例えば、複合粒子4を含む分散液を遠心分離処理して上澄みを除去し、さらに、溶媒を加えて再分散することで、複合粒子4を精製・洗浄する操作、又は、メンブレンフィルターを用いた濾過洗浄によって、繰り返し溶媒による洗浄する操作を繰り返した後であっても、微細化セルロース6とコア粒子8とが分離せず、微細化セルロース6によるコア粒子8の被覆状態が保たれることを意味する。被覆状態は、例えば、走査型電子顕微鏡による複合粒子4の表面観察により、確認することが可能である。
【0042】
なお、複合粒子4において、微細化セルロース6とコア粒子8の結合メカニズムについては、複合粒子4は、微細化セルロース6によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として製造されるため、エマルション内部の液滴に微細化セルロース6が接触した状態で液滴が固体化するために、固体化後に得られる複合粒子4において、コア粒子8の表面に存在する微細化セルロース6の少なくとも一部が、コア粒子8の内部に取り込まれた状態となることが予想される。
【0043】
以上の理由により、物理的に微細化セルロース6が固体化後のコア粒子8に固定化されて、最終的にコア粒子8と微細化セルロース6とが不可分な状態に至ると推察される。
ここで、O/W型エマルションは、水中油滴型(Oil-in-Water)とも言われ、水を連続相とし、その中に油が油滴(油粒子)として分散しているものである。
【0044】
また、複合粒子4は、微細化セルロース6によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として製造されるため、複合粒子4の形状は、O/W型エマルションに由来した真球状となる。詳細には、真球状のコア粒子8の表面に、微細化セルロース6を用いて形成された被覆層7が、比較的均一な厚さで形成された様態となる。被覆層7の平均厚さは、例えば、複合粒子4を包埋樹脂で固定したものをミクロトームで切削し、走査型電子顕微鏡による観察を行い、画像中の複合粒子4の断面像における被覆層7の厚さを、画像上で100箇所ランダムに測定し、平均値を取ることで算出される。また、複合粒子4は、比較的揃った厚さの被覆層7で均一に被覆されている。
【0045】
被覆層7の厚さの変動係数は、0.5以下となることが好ましく、0.4以下となることがより好ましい。微細化セルロース6を含む被覆層7の厚さの変動係数が0.5を超える場合には、例えば、複合粒子4の回収が困難となることがある。
【0046】
さらに、微細化セルロース6は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、微細化セルロース6は繊維状であり、数平均短軸径が1[nm]以上1000[nm]以下の範囲内、数平均長軸径が50[nm]以上であり、さらに、数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。また、微細化セルロース6の結晶構造は、セルロースI型であることが好ましい。
【0047】
(複合粒子の製造方法)
図3に、複合粒子4の製造方法の一例を示す。
複合粒子4の製造方法は、複合粒子第1工程と、複合粒子第2工程と、複合粒子第3工程を有する。
複合粒子第1工程は、
図3(a)に示すように、セルロース原料を溶媒中で解繊して、微細化セルロース6の分散液10を得る工程である。
【0048】
複合粒子第2工程は、
図3(a)に示すように、微細化セルロース6の分散液10中において液滴9の表面の少なくとも一部を微細化セルロース6で覆い、液滴9をエマルションとして安定化させる工程である。
【0049】
複合粒子第3工程は、
図3(b)に示すように、液滴9の表面の少なくとも一部が微細化セルロース6で覆われた状態で、液滴9を固体化してコア粒子8とすることで、コア粒子8の表面の少なくとも一部を微細化セルロース6で覆い、且つコア粒子8と微細化セルロース6とを不可分の状態にする工程である。
【0050】
上述した製造方法により製造した複合粒子4は、溶媒中の分散体として形成される。さらに、溶媒を除去することにより、乾燥固形物として形成される。溶媒の除去方法は、特に限定されず、例えば、遠心分離法や濾過法によって余剰の溶媒を除去し、さらに、オーブンで熱乾燥することで、乾燥固形物として形成することが可能である。
【0051】
この際、形成した乾燥固形物は、膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として形成される。乾燥固形物が肌理細やかな粉体として形成される理由としては、通常、微細化セルロース6の分散体から溶媒を除去すると、微細化セルロース6同士が強固に凝集、膜化することが知られている。一方、複合粒子4を含む分散液の場合、微細化セルロース6が表面に固定化された真球状の複合粒子であるため、溶媒を除去しても、微細化セルロース6同士が凝集することなく、複合粒子4間の点と点で接するのみであるため、その乾燥固形物は肌理細やかな粉体として得られると考えられる。また、複合粒子4同士の凝集がないため、乾燥粉体として得られた複合粒子4を再び溶媒に分散させることも容易であり、再分散後も複合粒子4の表面に結合された微細化セルロース6に由来した分散安定性を示す。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0052】
(複合粒子第1工程)
複合粒子第1工程では、まず、各種のセルロース原料を溶媒中に分散し、懸濁液とする。
懸濁液中のセルロース原料の濃度としては、0.1[%]以上10[%]未満の範囲内が好ましい。これは、懸濁液中のセルロース原料の濃度が0.1[%]未満であると、溶媒過多となり生産性を損なう傾向があるため好ましくなく、懸濁液中のセルロース原料の濃度が10[%]以上であると、セルロース原料の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘し、均一な解繊処理が困難となる傾向があるため好ましくないためである。
【0053】
懸濁液作製に用いる溶媒としては、水を50[%]以上含むことが好ましい。これは、懸濁液中の水の割合が50[%]未満であると、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース6の分散液10を得る工程において、微細化セルロース6の分散が阻害される傾向があるためである。
【0054】
また、水以外に含まれる溶媒としては、親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒については、特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。必要に応じて、セルロースや、生成する微細化セルロース6の分散性を上げるために、例えば、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液等の有機アルカリ等が挙げられる。コスト等の面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0055】
続いて、懸濁液に物理的解繊処理を施して、セルロース原料を微細化する。
物理的解繊処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突等の機械的処理が挙げられる。
【0056】
物理的解繊処理を行うことで、懸濁液中のセルロースが微細化され、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロース(微細化セルロース6)の分散液を得ることが可能である。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、得られる微細化セルロース6の数平均短軸径及び数平均長軸径を調整することが可能である。
【0057】
上記のようにして、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロースの分散体(微細化セルロース6の分散液10)が得られる。得られた分散体は、そのまま、又は、希釈、濃縮等を行って、O/W型エマルションの安定化剤として用いることが可能である。
【0058】
通常、微細化セルロース6は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であるため、微細化セルロース6としては、以下に示す範囲にある繊維形状のものが好ましい。すなわち、微細化セルロース6の形状としては、繊維状であることが好ましい。また、繊維状の微細化セルロース6は、短軸径において数平均短軸径が1[nm]以上1000[nm]以下の範囲内であればよく、好ましくは2nm[nm]500nm[nm]以下の範囲内であればよい。ここで、数平均短軸径が1[nm]未満では、高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造をとならず、エマルションの安定化と、エマルションを鋳型とした重合反応とを実施することが困難となる傾向がある。一方、短軸径において数平均短軸径が1000[nm]を超えると、エマルションを安定化させるにはサイズが大きくなり過ぎるため、得られる複合粒子4のサイズや形状を制御することが困難となる傾向がある。また、数平均長軸径においては、特に制限はないが、好ましくは数平均短軸径の5倍以上であればよい。数平均長軸径が数平均短軸径の5倍未満であると、複合粒子4のサイズや形状を十分に制御することが困難となる傾向があるために好ましくない。
【0059】
なお、微細化セルロース繊維の数平均短軸径は、例えば、透過型電子顕微鏡観察及び原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。一方、微細化セルロース繊維の数平均長軸径は、例えば、透過型電子顕微鏡観察及び原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求められる。
【0060】
微細化セルロース6の原料として用いることが可能であるセルロースの種類や結晶構造は、特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶を用いて形成された原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることが可能である。また、セルロースII型結晶を用いて形成されたレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースも用いることが可能である。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、例えば、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ、等、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることが可能である。精製及び微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
【0061】
さらに、微細化セルロース原料は、化学改質されていることが好ましい。より具体的には、微細化セルロース原料の結晶表面に、アニオン性官能基が導入されていることが好ましい。これは、セルロース結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることによって、浸透圧効果でセルロース結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化が進行しやすくなるためである。
【0062】
セルロースの結晶表面に導入されるアニオン性官能基の種類や導入方法は、特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基がより好ましい。
【0063】
セルロースの繊維表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸、又は、モノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることにより、カルボキシメチル化を行ってもよい。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物と、セルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。さらに、水系の比較的温和な条件で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPOをはじめとするN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。カルボキシ基導入部位の選択性及び環境負荷低減のためには、N-オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。
【0064】
ここで、N-オキシル化合物としては、例えば、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、等が挙げられる。そのなかでも、反応性が高いTEMPOが好ましい。N-オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して、0.01質量%以上5.0質量%以下の範囲内程度である。
【0065】
N-オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば、木材系天然セルロースを水中に分散させ、N-オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N-オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N-オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、さらに、オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
【0066】
共酸化剤としては、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、又は、それらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物等、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることが可能である。入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。上記共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することが可能である量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1質量%以上200質量%以下の範囲内程度である。
【0067】
また、N-オキシル化合物及び共酸化剤とともに、臭化物及びヨウ化物を用いて形成された群から選ばれる、少なくとも1種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応を円滑に進行させることが可能となり、カルボキシ基の導入効率を改善することが可能とある。このような化合物としては、臭化ナトリウム又は臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。化合物の使用量は、酸化反応を促進することが可能な量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1質量%以上50質量%以下の範囲内程度である。
【0068】
酸化反応の反応温度は、4[℃]以上80[℃]以下の範囲内が好ましく、10[℃]以上70[℃]以下の範囲内がより好ましい。酸化反応の反応温度が4[℃]未満であると、試薬の反応性が低下して反応時間が長くなってしまう傾向がある。酸化反応の反応温度が80[℃]を超えると、副反応が促進されて、試料であるセルロースが低分子化し、高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造が崩壊し、O/W型エマルションの安定化剤として用いることが困難となる傾向がある。
【0069】
また、酸化処理の反応時間は、反応温度や、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定することが可能であり、特に限定されないが、通常、10分~5時間程度である。
【0070】
酸化反応時の反応系のpHは特に限定されないが、9~11が好ましい。pHが9以上であると、反応を効率良く進めることが可能である。pHが11を超えると、副反応が進行し、試料であるセルロースの分解が促進されてしまうおそれがある。また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中は、反応系のpHを9~11に保つことが好ましい。反応系のpHを9~11に保つ方法としては、例えば、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0071】
アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液等の有機アルカリ等を用いることが可能である。コスト等の面から、アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0072】
N-オキシル化合物による酸化反応は、例えば、反応系にアルコールを添加することにより停止させることが可能である。このとき、反応系のpHは、9~11の範囲内に保つことが好ましい。反応系に添加するアルコールとしては、例えば、反応をすばやく終了させるためには、メタノール、エタノール、プロパノール等の低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性等から、エタノールが特に好ましい。
【0073】
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよいが、N-オキシル化合物等の触媒、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。酸化セルロースの回収は、例えば、ガラスフィルターや、孔径が20[μm]のナイロンメッシュを用いた濾過等の公知の方法により、実施が可能である。酸化セルロースの洗浄に用いる洗浄液としては、純水が好ましい。
【0074】
作製する微細化セルロース6とバインダマトリックス5との親和性を高めるために、酸化セルロースのカルボキシ基を、四級アルキルアミン化してもよい。
酸化セルロースのカルボキシ基を四級アルキルアミン化するには、酸化反応時のpHをコントロールする際にアルカリ化されたカルボルキシ基を、一旦、酸性化するため、塩酸等の酸、蒸留水の順で洗浄することが好ましい。その後、回収した酸化セルロースを蒸留水等に分散させた後、四級アルキルアンモニウム塩を加える。
【0075】
四級アルキルアンモニウム塩としては、モノアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、トリアルキルモノメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等が挙げられるが、特に限定しない。
【0076】
得られたTEMPO酸化セルロースに対して解繊処理を行うと、3[nm]前後の均一な繊維幅を有するセルロースナノファイバー(CNF)が得られる。CNFを複合粒子4の微細化セルロース6の原料として用いると、その均一な構造に由来して、得られるO/W型エマルションの粒径も均一になりやすい。
【0077】
(複合粒子第2工程)
複合粒子第2工程は、具体的に、複合粒子第1工程で得られた分散液10に、親和性のない少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを添加し、さらに、分散液10に親和性のない少なくとも一種類の重合性モノマー又はポリマーを液滴9として分散させた後、液滴9の表面の少なくとも一部を微細化セルロース6によって被覆し、微細化セルロース6によって安定化されたO/W型エマルションを作製する工程である。
【0078】
O/W型エマルションを作製する方法としては、例えば、分散液10に開始剤を含む重合性モノマーを添加しエマルション化させる方法、常温にて固体であるポリマーを微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒で溶解したものを分散液10に添加してエマルション化させる方法、分散液10に常温にて固体であるポリマーを添加し、ポリマーが流動性を持つ温度以上に加熱して融解させエマルション化させる方法がある。いずれの方法においても、添加する重合性モノマー又はポリマーは、分散液10に対して相溶性がないものが好ましい。相溶性がある場合は、分散液10中にてポリマーの液滴を形成することが困難となり、複合体を得ることが困難となる傾向がある。
【0079】
分散液10に、開始剤を含む重合性モノマーを混合したものを添加してエマルション化させる方法に用いることが可能である重合性モノマーとしては、ポリマーの単量体であって、その構造中に重合性の官能基を有し、常温で液体であって、水と完全に相溶せず、重合反応によってポリマー(高分子重合体)を形成可能であるものであれば、特に限定されない。重合性モノマーは、少なくとも一つの重合性官能基を有する。重合性官能基を一つ有する重合性モノマーは、単官能モノマーとも称する。また、重合性官能基を二つ以上有する重合性モノマーは、多官能モノマーとも称する。重合性モノマーの種類としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマー等が挙げられる。また、エポキシ基やオキセタン構造等の、環状エーテル構造を有する重合性モノマー(例えばε-カプロラクトン等、)を用いることも可能である。なお、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」と「メタクリレート」との両方を含むこと示す。
【0080】
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-アダマンタン及びアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレート等のアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる
【0081】
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0082】
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0083】
単官能のビニル系モノマーとしては、例えば、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、芳香族ビニル系、特にスチレン及びスチレン系モノマー等、常温で水と相溶しない液体が好ましい。また、単官能芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、例えば、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロペニルトルエン、イソブチルトルエン、tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。
【0084】
多官能のビニル系モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン等の不飽和結合を有する多官能基が挙げられ、常温で水と相溶しない液体が好ましい。例えば多官能性ビニル系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼン等のジビニル類、その他に、例えばテトラメチレンビス(エチルフマレート)、ヘキサメチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートが挙げられる。
【0085】
スチレン系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0086】
また、これらの他にも、重合性の官能基を少なくとも1つ以上有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することが可能であり、特にその材料を限定しない。
【0087】
また、重合性モノマーは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
また、重合性モノマーには、予め、重合開始剤が含まれていてもよい。一般的な重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物やアゾ重合開始剤等のラジカル開始剤が挙げられる。
【0089】
有機過酸化物としては、例えば、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等が挙げられる。
【0090】
アゾ重合開始剤としては、例えば、ADVN,AIBNが挙げられる。例えば、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
【0091】
複合粒子第2工程において、予め重合開始剤が含まれた状態の重合性モノマーを用いることで、O/W型エマルションを形成した際に、エマルション粒子内部の重合性モノマー液滴9に重合開始剤が含まれるため、複合粒子第3工程において、エマルション内部のモノマーを重合させる際に、重合反応が進行しやすくなる。
【0092】
複合粒子第2工程において用いることが可能である、重合性モノマーと重合開始剤の重量比については特に限定されないが、通常、重合性モノマー100質量部に対し、重合開始剤が0.1質量部以上であることが好ましい。重合性モノマーが0.1質量部未満となると重合反応が充分に進行せずに複合粒子4の収量が低下する傾向があるため好ましくない。
【0093】
常温にて固体であるポリマーを、微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒で溶解し、微細化セルロース分散液に添加しyrエマルション化させる方法に用いることが可能であるものとしては、上述した重合性モノマーを重合させたポリマーが挙げられる。また、常温にて固体であるポリマーを溶解する溶媒としては、微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒が好ましい。水への溶解度が高い場合、ポリマー相から水相へ溶媒が容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる傾向がある。水への溶解性がない場合は、ポリマー相から溶媒が移動することができないため、複合粒子を得ることが極めて困難となる傾向がある。また、ポリマーを溶解する溶媒は、沸点が90[℃]以下であることが好ましい。沸点が90[℃]よりも高い場合、ポリマーを溶解する溶媒よりも先に微細化セルロース分散液が蒸発してしまい複合粒子を得ることが極めて困難となる傾向がある。ポリマーを溶解する溶媒としては、具体的に、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ベンゼン等が挙げられる。
【0094】
微細化セルロース分散液に、常温にて固体であるポリマーを添加し、ポリマーが流動性を持つ温度以上に加熱して融解させ、エマルション化させる方法に用いることが可能であるものとしては、常温で固体であり、加熱することで流動性を持つものである。なお、流動性を持つ温度とは融点又はガラス転移温度である。添加するポリマーの融点又はガラス転移温度は、40[℃]以上90[℃]以下の範囲内が好ましい。ポリマーの融点又はガラス転移温度が40[℃]未満である場合、常温で固体化することが難しいため、複合体を得ることが極めて困難となる傾向がある。また、ポリマーの融点又はガラス転移温度が90[℃]以上である場合、ポリマーが溶解するよりも、一緒に加熱する微細化セルロース分散液の溶媒である水が気化してしまい、エマルション化することが困難となる傾向がある。このため、本発明において使用可能であるポリマーとしては、具体的に、ポリ‐S‐メチルヘプテン、ポリデセン、ポリビニルパルミテート、ポリビニルステアレート、cis‐1,4‐ポリクロロプレン、it cis‐1,4‐ポリ‐1,3ペンタジエン、it trans‐1,4‐ポリ‐1,3ヘキサジエン、it trans‐1,4‐ポリ‐1,3ヘプタジエン、it trans‐1,4‐ポリ‐1,3オクタジエン、ポリヘキサメチレンオキシド、ポリオクタメチレンオキシド、ポリブタジエンオキシド、ポリテトラメチレンスルフィド、ポリペンタメチレンスルフィド、ポリヘキサメチレンスルフィド、ポリメチレンチオテトラメチレンスルフィド、ポリエチレンチオテトラメチレンスルフィド、ポリトリメチレンジスルフィド等が挙げられる。
【0095】
複合粒子第2工程において用いることが可能である、微細化セルロース分散液とポリマー及びポリマーと重合性モノマーの混合液の重量比については、特に限定されないが、微細化セルロース繊維100質量部に対し、ポリマー及びポリマーと重合性モノマーの混合液が1質量部以上50質量部以下の範囲内であることが好ましい。ポリマー及びポリマーと重合性モノマーの混合液が1質量部未満となると、複合粒子4の収量が低下する傾向があるため好ましくない。また、ポリマー及びポリマーと重合性モノマーの混合液が50質量部を超えると、液滴9を微細化セルロース6で均一に被覆することが困難となる傾向があり、好ましくない。
【0096】
O/W型エマルションを作製する方法としては、特に限定されないが、一般的な乳化処理、例えば、各種ホモジナイザー処理や機械攪拌処理を用いることが可能であり、具体的に、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、万能ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ペイントシェイカー等の機械的処理が挙げられる。また、複数の機械的処理を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
例えば、超音波ホモジナイザーを用いる場合、複合粒子第1工程にて得られた分散液10に対して重合性モノマーを添加して混合溶媒とし、混合溶媒に超音波ホモジナイザーの先端を挿入して超音波処理を実施する。超音波ホモジナイザーの処理条件としては、特に限定されないが、例えば周波数は20[kHz]以上が一般的であり、出力は[10W/cm2]以上が一般的である。処理時間についても特に限定されないが、通常は、10秒から1時間程度である。
【0098】
超音波処理により、分散液10中に液滴9が分散してエマルション化が進行し、さらに、液滴9と分散液10の液/液界面に選択的に微細化セルロース1が吸着することで、液滴9が微細化セルロース6で被覆され、O/W型エマルションとして安定した構造を形成する。このように、液/液界面に固体物が吸着して安定化したエマルションは、学術的には「ピッカリングエマルション」と呼称されている。
【0099】
上述したように、微細化セルロース繊維によってピッカリングエマルションが形成されるメカニズムは、セルロースが、分子構造において水酸基に由来する親水性サイトと炭化水素基に由来する疎水性サイトとを有することから両親媒性を示すため、両親媒性に由来して疎水性モノマーと親水性溶媒の液/液界面に吸着すると考えられる。
【0100】
O/W型エマルション構造は、例えば、光学顕微鏡観察により確認することが可能である。O/W型エマルションの粒径サイズは特に限定されないが、通常、0.1[μm]以上1000[μm]以下の範囲内程度である。
【0101】
O/W型エマルション構造において、液滴9の表層に形成された微細化セルロース層(被覆層7)の厚さは、特に限定されないが、通常、3[nm]以上1000[nm]以下の範囲内程度である。被覆層7の厚さは、例えば、クライオTEMを用いて計測することが可能である。
【0102】
(複合粒子第3工程)
複合粒子第3工程は、具体的に、複合粒子第2工程にて、分散液10に開始剤を含む重合性モノマーを添加しエマルション化させる方法を用いた場合、重合性モノマーを重合する方法については特に限定されず、用いた重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって、適宜選択可能である。重合性モノマーを重合する方法としては、例えば、懸濁重合法が挙げられる。
【0103】
具体的な懸濁重合の方法についても、特に限定されず、公知の方法を用いて実施することが可能である。例えば、複合粒子第2工程で作製された、重合開始剤と重合性モノマーとを含有する液滴9が、微細化セルロース6によって被覆され、安定化したO/W型エマルションを攪拌しながら加熱することで実施可能である。攪拌の方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることが可能であり、具体的には、ディスパーや攪拌子を用いることが可能である。また、攪拌せずに、加熱処理のみでもよい。また、加熱時の温度条件については、重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって、適宜設定することが可能であるが、20[℃]以上90[℃]以下の範囲内が好ましい。加熱時の温度が20[℃]未満であると、重合の反応速度が低下する傾向があるため好ましくなく、加熱時の温度が90[℃]を超えると、微細化セルロース分散液が蒸発してしまう傾向があるため好ましくない。重合反応に供する時間は、重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、通常は、1時間~24時間程度である。また、重合反応は、電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施してもよい。また、電磁波以外にも、電子線等の粒子線を用いても良い。
【0104】
複合粒子第2工程にて、常温で固体であるポリマーを、微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒で溶解し、微細化セルロース分散液に添加しエマルション化させる方法を用いた場合、エマルションを加熱し、ポリマーを溶解した溶媒を揮発させることで、ポリマーを固体化させることが可能である。加熱時の温度条件については、溶解する溶媒の種類によって適宜設定することが可能であるが、溶媒の沸点以上90[℃]以下が好ましい。加熱時の温度が溶媒の沸点未満であると、溶媒が水相へ移動するのが遅くなり、加熱時の温度が90[℃]を超えると、微細化セルロース分散液が蒸発してしまう傾向があるため、好ましくない。
【0105】
複合粒子第2工程にて、分散液10に常温にて固体であるポリマーを添加し、ポリマーが流動性を持つ温度以上に加熱して融解させ、エマルション化させる方法を用いた場合、エマルションを冷却し、ポリマーが流動性を持つ温度以下にすることで、ポリマーを固体化することが可能である。
【0106】
なお、固体化の反応が終了した直後の状態は、複合粒子4の分散液中に、多量の水と、複合粒子4の被覆層に形成に寄与していない遊離した微細化セルロース6が混在した状態となっている。そのため、
図3(c)に示すように、作製した複合粒子4を回収・精製する必要がある。
【0107】
作製した複合粒子4の回収・精製方法としては、遠心分離による洗浄又は濾過洗浄が好ましい。遠心分離による洗浄方法としては、公知の方法を用いることが可能であり、具体的には、遠心分離によって複合粒子4を沈降させて上澄みを除去し、水・メタノール混合溶媒に再分散する操作を繰り返し、最終的に、遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を除去して、複合粒子4を回収することが可能である。濾過洗浄についても、公知の方法を用いることが可能であり、例えば、孔径が0.1[μm]のPTFEメンブレンフィルターを用いて、水とメタノールで吸引濾過を繰り返し、最終的に、メンブレンフィルターの上に残留したペーストから、さらに残留溶媒を除去して、複合粒子4を回収することが可能である。
【0108】
残留溶媒の除去方法は、特に限定されず、例えば、風乾やオーブンで熱乾燥にて実施することが可能である。こうして得られた複合粒子4を含む乾燥固形物は、上述したように、膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。
【0109】
また、微細化セルロース6の四級アルキルアミン化は、複合粒子4を作製する前に行わなくてもよく、酸化セルロース時のアンモニウム塩化工程を踏まず、微細化した微細化セルロース6を用いて複合粒子4を作製した後、アンモニウム塩化工程を行うことで、複合粒子4に被覆する微細化セルロース6を四級アルキルアミン化してもよい。
【0110】
<バインダマトリックス>
バインダマトリックス5は、表面保護層3を構成する層であり、水性ポリウレタン樹脂組成物(A)を用いて形成されている。
【0111】
(水性ポリウレタン樹脂組成物(A))
水性ポリウレタン樹脂組成物(A)は、ポリウレタン樹脂水分散体(B)とポリイソシアネート水分散体(C)が、ポリウレタン樹脂水分散体の固形分100質量部に対してポリイソシアネート水分散体の固形分が10~80質量部となるように配合されて形成されている。
【0112】
また、水性ポリウレタン樹脂組成物(A)は、ポリウレタン樹脂水分散体の固形分100質量部に対して、ポリイソシアネート水分散体の固形分が10~80質量部となるように配合されており、好ましくは、ポリウレタン樹脂水分散体の固形分100質量部に対して、ポリイソシアネート水分散体の固形分が20~60質量部となるように配合されている。
【0113】
ポリイソシアネート水分散体の固形分が、10質量部未満の場合には、化粧板や壁紙等の基材への密着性が低下するという問題がある。また、ポリイソシアネート水分散体の固形分が、80質量部を超える場合には、水性ポリウレタン樹脂組成物(A)から形成される表面保護層3が柔らかくなり、コーティング後の巻き取り時にブロッキング性が低下するという問題がある。
【0114】
なお、固形分とは、ポリウレタン樹脂水分散体及びポリイソシアネート水分散体から、水分を除いて残る部分であり、水性ポリウレタン樹脂組成物(A)には、紫外線吸収剤、顔料や染料、粘度調整のための水、分散安定剤、揺変剤、酸化防止剤、消泡剤、増粘剤、分散剤、界面活性剤、触媒、フィラー、滑剤、帯電防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、造膜助剤等の添加剤を添加することも可能である。
【0115】
(ポリウレタン樹脂水分散体(B))
ポリウレタン樹脂水分散体(B)は、ポリエステルポリオール(D)と有機ポリイソシアネート(E)とを反応させて得られるウレタンプレポリマーを乳化させて形成した水分散体である。
また、ポリウレタン樹脂水分散体(B)は、公知の方法によって製造可能である。例えば、ポリエステルポリオール(D)と有機ポリイソシアネート(E)を一度に加えて反応させるワンショット法の他、有機ポリイソシアネート(E)と活性水素化合物の一部とを反応させてイソシアネート基を末端に有するプレポリマーを形成した後、活性水素化合物の残部を加えて更に反応させて製造する多段法等が挙げられる。また、有機ポリイソシアネート(E)に対して、不活性で水と相溶する有機溶媒中で上記の方法を用いて反応を行い、反応後に水を添加し、有機溶媒を取り除いてポリウレタン樹脂水分散体を製造する方法でもよい。
【0116】
なお、適当な界面活性剤、例えば、高級脂肪酸、樹脂酸、酸性脂肪アルコール、硫酸エステル、高級アルキルスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸、スルホン化ひまし油、スルホコハク酸エステル等に代表されるアニオン系界面活性剤、又は、エチレンオキシドと長鎖脂肪アルコール又はフェノール類との公知の反応生成物に代表されるノニオン系界面活性剤等を併用して乳化させてもよい。
【0117】
ウレタンプレポリマーの製造は、ポリエステルポリオール(D)と有機ポリイソシアネート(E)を用いて、通常は、20[℃]以上140[℃]以下の範囲内、好ましくは40[℃]以上120[℃]以下の範囲内の温度で行われる。反応を促進させるため、必要により、通常のウレタン反応において使用される触媒を使用してもよい。ウレタン反応触媒としては、アミン触媒(例えば、トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチレンジアミン等)、錫系触媒(例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、オクチル酸錫等)、チタン系触媒(例えば、テトラブチルチタネート等)を挙げることが可能である。
【0118】
触媒の使用量は、ウレタンプレポリマー中、通常、0.1質量%以下である。
【0119】
有機ポリイソシアネート(E)に対して、不活性で水と相溶する有機溶剤としては、エステル系溶剤(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセロソルブアセテート等)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エーテル系溶剤(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールジメチルエーテル等)、アミド系溶剤(例えば、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等)を挙げることが可能である。これらの溶剤は、単独で、又は、2種以上を併用して用いることが可能である。
【0120】
これらの中で、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフランが好ましい。
【0121】
(ポリイソシアネート水分散体(C))
ポリイソシアネート水分散体(C)は、本分散体が有するイソシアネート基とポリウレタン樹脂水分散体(B)の水酸基等と縮合することにより、架橋体を形成し、保護膜を作製することが可能である。
【0122】
ポリイソシアネート水分散体(C)としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名:アクアネート100,アクアネート200又は住友バイエルウレタン(株)製、商品名:バイジュール310)、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体(旭化成工業(株)製、商品名:デュラネートWB40-80D)等を挙げることが可能である。
【0123】
(ポリエステルポリオール(D))
ポリエステルポリオール(D)を構成する酸成分の芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等、又はこれらの酸無水物、アルキルエステル、酸ハライド等の反応性誘導体等を挙げることが可能である。これらの芳香族ジカルボン酸は、単独で、又は、2種以上で用いることが可能である。
【0124】
ポリエステルポリオール(D)を構成する酸成分の脂環族ジカルボン酸としては、例えば、前記芳香族ジカルボン酸の水添加物等、又はこれらの酸無水物、アルキルエステル、酸ハライド等の反応性誘導体等を挙げることが可能である。これらの脂環族ジカルボン酸は、単独で、又は、2種以上で用いることが可能である。
【0125】
ポリエステルポリオール(D)を構成する他の酸成分としては、例えば、マロン酸、琥珀酸、酒石酸、シュウ酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アルキル琥珀酸、リノレイン酸、マレイン酸、フマール酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸、又はこれらの酸無水物、アルキルエステル、酸ハライド等の反応性誘導体等を挙げることが可能である。これらの脂肪族ジカルボン酸は、単独で、又は、2種以上で用いることが可能である。
【0126】
ポリエステルポリオール(D)は、酸成分として芳香族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸のうち少なくとも一つを、35質量%以上含有するものである。
【0127】
芳香族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸のうち少なくとも一つの含有割合が35質量%未満では、表面保護層3が柔らかくなり、化粧シート1の巻き取りに際してブロッキングが生じるおそれがある。
【0128】
なお、芳香族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸等が好ましい。
また、脂環族ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸等が好ましい。
芳香族ジカルボン酸と前記脂環族ジカルボン酸とは、単独又は混合して使用可能である。
【0129】
ポリエステルポリオール(D)を構成するグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール等の直鎖グリコール又は1,2-プロピレングリコール、1-メチル-1,3-ブチレングリコール、2-メチル-1,3-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1-メチル-1,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,4-ペンタンジオール、1,2-ジメチル-ネオペンチルグリコール、2,3-ジメチル-ネオペンチルグリコール、1-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ジメチルブチレングリコール、1,3-ジメチルブチレングリコール、2,3-ジメチルブチレングリコール、1,4-ジメチルブチレングリコール等の分岐グリコール等を挙げることが可能である。これらの直鎖グリコール又は分岐グリコールは、単独で、又は、2種以上を併用して用いることも可能である。
【0130】
ポリエステルポリオール(D)は、酸成分とグリコール成分とを脱水縮合させる、公知のポリエステル製造方法と同様の方法で得られる。
【0131】
ポリエステルポリオール(D)の数平均分子量は、500以上5000以下の範囲内であり、好ましくは1000以上4000以下の範囲内、より好ましくは1500以上3000以下の範囲内である。
【0132】
数平均分子量が500未満では、水性ポリウレタン樹脂組成物から形成される表面保護層3が硬くて脆くなり、密着性は低下する。また、数平均分子量が5000を超えると、水性ポリウレタン樹脂組成物から形成される表面保護層3が柔らかくなり、ブロッキング性が低下する。
【0133】
(有機ポリイソシアネート(E))
有機ポリイソシアネート(E)としては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートを挙げることが可能である。
【0134】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート等を挙げることが可能である。
【0135】
脂環族ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることが可能である。
【0136】
芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート等を挙げることが可能である。
【0137】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることが可能である。
【0138】
また、有機ポリイソシアネート(E)としては、これらの有機ポリイソシアネートの2量体、3量体やビューレット化イソシアネート等の変性体を挙げることが可能である。なお、これらは、単独で、又は、2種以上で用いることが可能である。
【0139】
なお、有機ポリイソシアネート(E)としては、耐候性の面から、脂環族ポリイソシアネートが好ましく、具体的には、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が好ましい。
【0140】
有機ポリイソシアネートは、ウレタンプレポリマー中に30質量%以上50質量%以下の範囲内で含有されていることが好ましく、33質量%以上45質量%以下の範囲内で含有されることがより好ましく、37質量%以上45質量%以下の範囲内で含有されることが特に好ましい。
【0141】
有機ポリイソシアネートの含有量が30質量%未満では、ブロッキング性が低下するという問題がある。また、有機ポリイソシアネートの含有量が50質量%を超えると、コーティングの際の造膜温度が高くなりすぎ、皮膜が形成されにくくなる。また、皮膜の柔軟性がなくなり、傷つき防止性が低下するという問題がある。
【0142】
(効果)
第1実施形態に係る化粧シート1は、環境配慮型の材料であり、高い硬度を有する。
【0143】
また、第1実施形態に係る化粧シート1であれば、表面保護層3を、複合粒子4とバインダマトリックス5を用いて形成することで、表面保護層3の表面に微細な凹凸が形成されるため、表面保護層3の耐ブロッキング性を向上させることが可能となる。
【0144】
<変形例>
本発明の化粧シート1は、層構成が限定されるものではない。すなわち、表面保護層3が化粧シート1の最表面に配置される構成であればよく、例えば、図示を省略するが、基材シート2の上に、絵柄層、接着剤層、透明性樹脂層及び表面保護層3が積層された構成としてもよい。
【0145】
絵柄層、接着剤層、透明性樹脂層及び表面保護層3は、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷、転写印刷等による印刷;スプレー、ローラー、刷毛等による塗工液の塗布;シートの積層等により形成する。特に、絵柄層、接着剤層、透明性樹脂層及び表面保護層3は、それぞれ、水性組成物による塗膜によって形成されていることが望ましい。
【0146】
絵柄層、接着剤層、透明性樹脂層及び表面保護層3の厚さは限定されるものではなく、最終製品の用途、特性等に応じて適宜決定可能である。通常は、0.1[μm]以上500[μm]以下の範囲内である。
【0147】
(接着剤層)
接着剤層は、絵柄層と透明性樹脂層との間に存在する。接着剤層で使用する接着剤は、絵柄層又は透明性樹脂層を構成する成分等に応じて、適宜選択することが可能である。例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂等を含む各種接着剤を使用可能である。また、反応硬化タイプのほか、ホットメルトタイプ、電離放射線硬化タイプ、紫外線硬化タイプ等の接着剤でもよい。
【0148】
なお、本発明では、熱圧着可能である接着剤を使用し、熱圧着によって絵柄層と透明性樹脂層とを積層することも可能である。
【0149】
また、接着剤層は、化粧シート1のVOCを低減可能である点で水性組成物により形成されることが望ましい。水性組成物としては、水性バインダーを含む組成物を使用することが可能である。水性バインダーは、樹脂水溶液、水性樹脂エマルジョン等のいずれの形態であっても良い。これらに使用される樹脂は、絵柄層の形成に使用される水性組成物の水性バインダーと同様のものを使用することが可能である。
【0150】
接着剤層の塗工方法は限定的ではなく、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、ワイヤーバーコート、リバースコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、エアーナイフコート、キスコート、ブレードコート、スムーズコート、コンマコート、スプレーコート、かけ流しコート、刷毛塗り等の方法を使用可能である。
【0151】
なお、本発明では、必要に応じ、コロナ放電処理、プラズマ処理、脱脂処理、表面粗面化処理等の公知の易接着処理を、接着面に施すことも可能である。
【0152】
接着剤層の厚さは、透明性保護層、使用する接着剤の種類等によって異なるが、一般的には0.5[μm]以上30[μm]以下の範囲内程度が好ましく、1[μm]以上5[μm]以下の範囲内がより好ましい。
【0153】
(透明性樹脂層)
透明性樹脂層は、透明である限り着色されていてもよく、絵柄層が視認可能である範囲内で半透明であってもよい。
【0154】
透明性樹脂層を形成する樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー、ポリメチルペンテン、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ポリカーボネート、セルローストリアセテート等を挙げることが可能である。透明性樹脂層を形成する樹脂は、特に、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。より好ましくは、立体規則性を有するポリオレフィン系樹脂である。ポリオレフィン系樹脂を用いる場合は、溶融させたポリオレフィン系樹脂を押し出し法により透明性樹脂層を形成することが望ましい。
【0155】
透明樹脂層には、必要に応じて、充填剤、艶消し剤、発泡剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、ラジカル捕捉剤、軟質成分(例えばゴム)等の各種の添加剤が含まれていても良い。
【0156】
透明性樹脂層の厚さは、特に限定されないが、一般的には10[μm]以上150[μm]以下の範囲内程度とすれば良い。
【0157】
<実施例>
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。
【0158】
(実施例1)
(酸化セルロースの調製)
セルロースとして、汎用的に入手可能な針葉樹漂白パルプを用いた。セルロース60[g](絶乾質量換算)を蒸留水1000[g]に加えて撹拌し、膨潤させた後ミキサーにより解繊した。さらに、蒸留水2200[g]と、予め、蒸留水400[g]に溶解させたTEMPOを0.6[g]と、臭化ナトリウム6[g]の溶液を加え、濃度が2[mol/L]の次亜塩素酸ナトリウム水溶液172[g]を滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は、常に20[℃]以下に維持した。反応中は、系内のpHが低下するが、0.5[N]のNaOH水溶液を逐次添加し、pHを10に調整した。NaOH水溶液の添加量をモニタリングしながら反応を続け、4時間かけて反応させた時点で、エタノール60[g]を添加し、反応を停止した。続いて反応液に0.5[N]のHClを滴下しmpHを1.8まで低下させた。次に、ナイロンメッシュを用いてこの反応液を濾過し、固形分をさらに水で数回洗浄し、反応試薬や副生成物を除去し、固形分の濃度が7[%]の水を含有した酸化セルロースを得た。
【0159】
(官能基の導入量の測定)
絶乾質量換算で0.2[g]の湿潤酸化セルロースをビーカーに量りとり、蒸留水を加えて60[g]とした。0.1[M]のNaCl水溶液を0.5[mL]加え、0.5[M]の塩酸でpHを1.8とした後、0.5[M]のNaOH水溶液を滴下して伝導度測定を行った。測定は、pHが11程度になるまで続けた。弱酸の中和段階に相当する部分がカルボキシ基の含有量となるので、得られた伝導度曲線からNaOHの添加量を読み取ると、カルボキシ基の含有量は、2.0[mmol/g]であった。
【0160】
次に、絶乾質量換算で2[g]の湿潤酸化セルロースに、0.5[M]の酢酸20[mL]と蒸留水60[mL]と亜塩素酸ナトリウム1.8[g]を加え、pHを4に調整して48時間反応させた。この後、上記と同様の手法でカルボキシ基の含有量を測定したところ、2.1[mmol/g]であった。これより、アルデヒド基の含有量は、0.1[mmol/g]と算出された。
【0161】
(微細化セルロース分散液の調製)
上述した処理によって調製した固形分濃度が7[%]の酸化セルロース57.14[g](固形分4[g])に、蒸留水と、10[wt%]水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH、関東化学社製)を加え、pHが10の酸化セルロース懸濁液400[g]とした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細化セルロース分散液を得た。得られた微細化セルロース分散液を10[g]量りとり、そこへアセトン9.95[g]と蒸留水0.05[g]を加えて撹拌し、固形分濃度0.5[%]の微細化セルロース分散液を調製した。
【0162】
(O/W型エマルションを作製する工程)
次に、重合性モノマーであるジビニルベンゼン(以下、DVBと記載する場合がある)10[g]に対し、重合開始剤である2、2-アゾビス-2、4-ジメチルバレロニトリル(以下、ADVNとも称する。)を1[g]溶解させた。DVB/ADVN混合溶液全量を、微細化セルロース濃度0.5[%]の微細化セルロース分散液40[g]に対し添加したところ、DVB/ADVN混合溶液と微細化セルロース分散液は、それぞれ、透明性の高い状態で2層に分離した。
【0163】
次に、2層に分離した状態の混合液における上層の液面から、超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24[kHz]、出力400[W]の条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は、白濁した乳化液の様態であった。そして、一滴の混合液をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、1[μm]~数[μm]程度のエマルション液滴が無数に生成され、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0164】
(重合反応によりCNFで被覆された複合粒子4を得る工程)
O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70[℃]の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理した後に、O/W型エマルション分散液を室温まで冷却した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。得られた分散液に対し、遠心力75,000G(「G」は重力加速度)で5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径が0.1[μm]のPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水とメタノールで繰り返し洗浄した。こうして得られた精製・回収物を1%濃度で再分散させ、粒度分布計(日機装株式会社:NANOTRAC UPA-EX150)を用いて粒径を評価したところ、平均粒径は2.1[μm]であった。次に精製・回収物を風乾し、さらに、室温25[℃]にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、肌理細やかな乾燥粉体(複合粒子4)を得た。
【0165】
(走査型電子顕微鏡による形状観察)
得られた乾燥粉体を、走査型電子顕微鏡にて観察した結果を、
図4及び
図5に示す。
図4に示されるように、O/W型エマルション液滴を鋳型として重合反応を実施したことにより、エマルション液滴の形状に由来した、真球状の複合粒子が無数に形成していることが確認された。
【0166】
さらに、
図5に示されるように、複合粒子の表面は、幅が数[nm]のCNFによって均一に被覆されていることが確認された。また、濾過洗浄によって繰り返し洗浄したにも拘らず、複合粒子の表面は、等しく均一に微細化セルロースによって被覆されていることから、本発明では、複合粒子の内部のコア粒子と微細化セルロースであるCNFは、結合している可能性があり、コア粒子と微細化セルロースとが不可分の状態にあることが示された。
【0167】
(バインダマトリックスの調製方法)
(水酸基価の測定法)
水酸基価は、「JIS K1557-1970」に準拠して測定した。
(数平均分子量)
数平均分子量は、水酸基価より算出した。
(酸価)
酸価は、「JIS K0070-1992」に準拠して、水性ポリウレタン樹脂組成物の固形分1[g]に含まれる遊離カルボキシル基を中和するために要する、KOHのmg数より求めた。
【0168】
(ポリエステルグリコールAの合成)
脱水装置を備えたフラスコの中に、酸成分としてテレフタル酸(210質量部)及びアジピン酸(93質量部)と、グリコール成分としてエチレングリコール(62質量部)及びネオペンチルグリコール(104質量部)とを仕込み、反応触媒としてテトライソプロピルチタネート(0.1質量部)を添加した後、酸価が1.0以下、水分が0.05%以下となるまで、220[℃]で縮合反応を行った。
【0169】
得られたポリエステルグリコールAは、数平均分子量が2000、水酸基価が56[mgKOH/g]、酸成分が69質量%であった。
【0170】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリエステルグリコールA(512.5質量部)、トリメチロールプロパン(13.3質量部)、ジメチロールプロピオン酸(24.7質量部)、シクロヘキサンジメタノール(73.9質量部)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(375.6質量部)、メチルエチルケトン(800質量部)を加え、75[℃]で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が2.9[%]であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0171】
そして、メチルエチルケトン溶液を40[℃]まで冷却し、第一工業製薬(株)製の「非イオン活性剤ノイゲンEA-157」を15質量部、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製の「チヌビン900」を30質量部、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製の「チヌビン123」を20質量部、メチルエチルケトン(300質量部)に溶解させて添加し、23.6質量部の10%苛性ソーダ水溶液を加えて中和させた後、2200質量部の水を徐々に加えて、ホモジナイザーを使用し乳化分散させた。さらに、24.7質量部のジプロピレントリアミンを添加して、1時間攪拌した。その後、減圧し、温度が50[℃]の環境下で脱溶剤を行い、不揮発分が約35[%]のポリウレタン水分散体を得た。
【0172】
さらに、上述した合成例で得られた1286質量部のポリウレタン樹脂水分散体(固形分100質量部相当(水分186質量部含有))と、ポリイソシアネート水分散体(アクアネート200使用:固形分28.6質量部相当)とを、水28.6質量部に分散した塗布液(水合計量214.6質量部)を調製した。
【0173】
(化粧シート塗布液の調整)
上述した乾燥複合粒子をエタノールと混合し、複合粒子量が10質量部となるように複合粒子分散液を調整した。複合粒子分散液と塗布液中のポリウレタン樹脂とを、固形分重量比が10:100となるように調整して、化粧シート形成用の塗布液を調整した。
【0174】
(化粧シートの作製)
化粧シート形成用の塗布液を、コロナ放電処理した厚さが100[μm]の延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)のコロナ放電処理面へバーコーターにより塗布し、100[℃]で30秒間かけてドライヤーで乾燥させた。その後、乾燥後の膜厚が3[μm]の塗膜を形成して、化粧シートを作製した。
そして、作製した化粧シートを試験片として、OPP密着性試験、耐汚染性試験、ブロッキング性試験、耐候性試験を行った。
【0175】
(実施例2)
複合粒子分散液とポリウレタン樹脂とを、固形分重量比が5:100となるように調整した点を除き、実施例1と同様の条件で、実施例2の化粧シートを作製した。
【0176】
(実施例3)
DVBの代わりに、ジエチレングリコールジアクリレート(日立化成:商品名FA-222A。なお、以降の説明では、「FA-222A」と記載する場合がある)を用いた点を除き、実施例1と同様の条件で、実施例3の化粧シートを作製した。
【0177】
(実施例4)
コア粒子を形成するポリマーとして、ポリスチレン(以降の説明では、「PS」と記載する場合がある)6[g]を、ジクロロメタン(沸点:39.6[℃])4[g]に溶解させた。次に、PSとジクロロメタンとを混合した溶液の全量を、実施例1で用いた微細化セルロース分散液40[g]に対して添加した。
【0178】
次に、混合液に対して、実施例1と同様、周波数が24[kHz]、出力が400[W]の条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行い、O/W型エマルション分散液を得た。
【0179】
そして、O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70[℃]の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、ジクロロメタンを揮発させた。8時間処理した後に、実施例1と同様に分散液を処理し、乾燥粉体(複合粒子)を得た。
【0180】
得られた複合粒子をエタノールと混合し、複合粒子量が10質量部となるように複合粒子分散液を調整した。調整した複合粒子分散液を用いて、実施例1と同様の条件で、実施例4の化粧シートを作製した。
【0181】
(比較例1)
複合粒子分散液とポリウレタン樹脂とを、固形分重量比が0.5:100となるように調整した点を除き、実施例1と同様の条件で、比較例1の化粧シートを作製した。
【0182】
(比較例2)
複合粒子分散液とポリウレタン樹脂とを、固形分重量比が100:100となるように調整した点を除き、実施例1と同様の条件で、比較例2の化粧シートを作製した。
【0183】
(比較例3)
複合粒子ではなく、市販のポリスチレン粒子(コアフロント:「エスタポール」)を用いた点を除き、実施例1と同様の条件で、比較例3の化粧シートを作製した。
【0184】
実施例1~実施例4と、比較例1~比較例4で作製した化粧シート塗布液の組成を、表1に示す。
【0185】
【0186】
実施例1~実施例4と、比較例1~比較例4の化粧シートに対し、以下に示す測定・評価を実施した。
(試験方法及び評価方法)
(1)OPP密着性試験:塗膜を形成した試験片を25[℃]で3日間養生し、試験片の表面をカッターナイフで幅1[mm]にカットし、100個のマス目を作った。そして、試験片に粘着テープ(ニチバン製:セロテープ(登録商標))を貼付した後、貼付した粘着テープを急速に剥がした。
【0187】
OPP密着性試験の評価基準を、以下に示す。
◎:塗膜が全く剥がれなかった
○:塗膜が80~99%残存した
△:塗膜が50~79%残存した
×:塗膜が50%未満しか残存しなかった
【0188】
(2)耐汚染性試験:試験片の表面を、青インク(水性)及び黒ペン(油性)で直径2[cm]に塗りつぶし、4時間放置した後、エタノールでふき取り、表面を観察した。
【0189】
耐汚染性試験の評価基準を、以下に示す。
○:汚れが認められなかった
△:少し汚れが残った
×:顕著に汚れが残った
【0190】
(3)ブロッキング性試験:塗膜硬化前の試験片の塗布面と塗布面とを、2.0[kg/cm2]で圧着したまま、50[℃]のオーブンに放置した。そして、24時間後に取り出して塗布面と塗布面とを剥離させ、ブロッキングの状態を観察した。
【0191】
ブロッキング性試験の評価基準を、以下に示す。
○:容易に剥がれた
△:抵抗があるが剥がれた
×:剥がれなかった
【0192】
(4)耐候性試験:試験片を、岩崎電気製の「アイ・スーパーUVテスター」を用いて192時間かけて暴露させた後、外観を目視にて評価した。暴露条件は、温度が63[℃]、湿度が50[%RH]、照射強度が60[mw/m2]とした。さらに、照射時間を20時間、結露4時間を1サイクルとし、8サイクル暴露した。
【0193】
耐候性試験の評価基準を、以下に示す。
◎:変化は認められなかった
○:製品特性に影響を与えない範囲での軽微な艶変化が認められた
△:製品特性に影響を与える軽微な白化が認められた
×:顕著な白化が認められた
【0194】
(5)鉛筆硬度試験:試験片に対し、テスター産業の「クレメンス型引掻き硬度試験機」を用いて、「JIS K5600-5-4」に準じて鉛筆硬度を測定した。
【0195】
鉛筆硬度試験では、傷が入らなかった鉛筆硬度の中でもっとも高い硬度を評価結果とした。
【0196】
実施例1~実施例4と、比較例1~比較例4で作製された化粧シートの評価結果は、表2に示す。
【0197】
【0198】
表2に示されるように、実施例1~実施例4の化粧シートは、良好な耐ブロッキング性と、高い鉛筆硬度を有することが確認された。
【0199】
一方、比較例1の化粧シートは、耐ブロッキング性が低いことが確認された。また、比較例2の化粧シートは、全体が白くなってしまい、耐汚染性が低いことが確認された。また、比較例3の化粧シートは、鉛筆硬度が低いことが確認された。
【符号の説明】
【0200】
1…化粧シート、2…基材シート、3…表面保護層、4…複合粒子、5…バインダマトリックス、6…微細化セルロース、7…被覆層、8…コア粒子、9…液滴、10…分散媒