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特開2022-94126針座保持構造、時計用ムーブメントおよび時計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094126
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】針座保持構造、時計用ムーブメントおよび時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/02 20060101AFI20220617BHJP
【FI】
G04B19/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206971
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】早川 和樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 怜次
(57)【要約】
【課題】車に針座を組み付ける際の組立性の低下が抑制された針座保持構造を提供する。
【解決手段】針座保持構造は、筒歯車61および筒歯車61から裏側に延びる軸部63を有し、軸部63の外周面には径方向外側よりも表側に傾斜した方向を向く段差面64が設けられた筒車60と、軸部63に外挿された針座70であって、外周縁に沿って離間した第1縁部73および第2縁部74を通る仮想直線Lに沿って折り曲げられ、軸線O上には軸部63のうち段差面64の外周縁よりも表側の部分が挿通された貫通孔71が形成された針座70と、を備える。貫通孔71は、針座70の折り曲げを解消した平坦状態で、軸線Oを中心に点対称な長孔で短手方向が仮想直線Lの延在方向に沿うように形成されている。平坦状態における貫通孔71の短手方向の孔径は、段差面64の外径よりも小さい。平坦状態における貫通孔71の長手方向の孔径は、段差面64の外径よりも大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車および前記歯車から前記歯車の回転軸線を中心に第1方向に延びる軸部を有し、前記軸部の外周面には径方向外側よりも前記第1方向とは反対の第2方向に傾斜した方向を向く段差面が設けられた車と、
前記軸部に外挿された針座であって、外周縁に沿って離間した第1縁部および第2縁部を通る仮想直線に沿って折り曲げられ、前記回転軸線上には前記軸部のうち前記段差面の外周縁よりも前記第2方向の部分が挿通された貫通孔が形成された針座と、
を備え、
前記貫通孔は、前記針座の折り曲げを解消した平坦状態で、前記回転軸線を中心に点対称な長孔で短手方向が前記仮想直線の延在方向に沿うように形成され、
前記平坦状態における前記貫通孔の前記短手方向の孔径は、前記段差面の外径よりも小さく、
前記平坦状態における前記貫通孔の長手方向の孔径は、前記段差面の外径よりも大きい、
針座保持構造。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記平坦状態の平面視で、楕円形状に形成されている、
請求項1に記載の針座保持構造。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記平坦状態の平面視で、長円形状に形成されている、
請求項1に記載の針座保持構造。
【請求項4】
前記貫通孔の内周縁は、
前記平坦状態の平面視で、前記仮想直線に交差し、前記仮想直線から離れるに従い接線方向が前記仮想直線の延在方向に近付く第1部分と、
前記平坦状態の平面視で、前記第1部分の端部から径方向の外側に延びる第2部分と、
を備える、
請求項1に記載の針座保持構造。
【請求項5】
前記軸部の前記外周面は、前記段差面によって下方から画成された凸部を有し、
前記凸部は、前記第2方向に向かうに従い拡径する誘い込み部を有する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の針座保持構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の針座保持構造を有する時計用ムーブメント。
【請求項7】
請求項6に記載の時計用ムーブメントと、
文字板と、
を備え、
前記針座は、前記歯車と前記文字板との間に介在する、
時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針座保持構造、時計用ムーブメントおよび時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に時計用ムーブメントにおいては、筒車等の車の軸部に歯車を付勢する針座が組み付けられる。しかし、針座が時計用ムーブメントの最表面に配置されて、付勢対象の歯車と文字板との間に介在する構成では、時計用ムーブメントに文字板が組み付けられる前の状態で、針座が車から脱落しないように針座を車に組み付けることが望ましい。
【0003】
針座の脱落を抑制する構成として、下記特許文献に開示された技術がある。特許文献1には、針座と、筒車と、針座脱落防止手段とを有し、針座を筒車の円筒状外周部に組み込んだ後、筒車の針座と重ならない円筒状外周部に略C形状の針座脱落防止手段を係合させた時計ムーブメントが開示されている。また、特許文献2には、指針を取り付けるための軸部及び歯車部を有する筒車と、筒車の軸部が貫通する孔部を有する針座を備え、筒車の一部に針座の軸方向への移動を規制するための規制部材を設けた時計が開示されている。そして、特許文献2には、規制部材の一例として、筒車の軸部から外周方向に突出し、針座の円孔と係合する凸部が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-98971号公報
【特許文献2】再公表WO2006/090694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、針座脱落防止手段を筒車に係合させる作業が必要となるので、工数増加による製造コストの上昇が生じ得る。また、特許文献2に開示された技術では、凸部を設けたことにより筒車の軸部が非回転体形状となるので、筒車の加工が難しく、製造コストの上昇が生じ得る。さらに、針座の円孔に凸部を係合させるので、組み立て時に針座に負荷が掛かって針座が変形し得るので、組み付け時に精密な作業が必要となって組立性が低下する可能性がある。したがって、車の軸部に針座を脱落不能に組み付ける構造においては、組み付け時の組立性の低下を抑制するという点で課題がある。
【0006】
そこで本発明は、車に針座を組み付ける際の組立性の低下が抑制された針座保持構造、並びにその針座保持構造を備えた時計用ムーブメントおよび時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の針座保持構造は、歯車および前記歯車から前記歯車の回転軸線を中心に第1方向に延びる軸部を有し、前記軸部の外周面には径方向外側よりも前記第1方向とは反対の第2方向に傾斜した方向を向く段差面が設けられた車と、前記軸部に外挿された針座であって、外周縁に沿って離間した第1縁部および第2縁部を通る仮想直線に沿って折り曲げられ、前記回転軸線上には前記軸部のうち前記段差面の外周縁よりも前記第2方向の部分が挿通された貫通孔が形成された針座と、を備え、前記貫通孔は、前記針座の折り曲げを解消した平坦状態で、前記回転軸線を中心に点対称な長孔で短手方向が前記仮想直線の延在方向に沿うように形成され、前記平坦状態における前記貫通孔の前記短手方向の孔径は、前記段差面の外径よりも小さく、前記平坦状態における前記貫通孔の長手方向の孔径は、前記段差面の外径よりも大きい、ことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、針座の貫通孔が長孔であり、貫通孔の短手方向の孔径が車の軸部における段差面の外径よりも小さいので、軸部のうち段差面の外周縁よりも第2方向の部分が貫通孔に挿通された状態で、針座が段差面によって第1方向への移動を規制される。これにより、針座が車に脱落不能に保持される。
ここで、車の軸部のうち段差面の外周縁よりも第2方向の部分に針座を組み付けるためには、貫通孔の短手方向の孔径を拡大させて段差面の外側を通過させる必要がある。針座のうち貫通孔に対して貫通孔の短手方向両側に位置する部分同士を離間させるように貫通孔を広げることで貫通孔の短手方向の孔径を拡大できるが、この際には貫通孔の長手方向の孔径が縮小し得る。本発明では、貫通孔の長手方向の孔径は、車の段差面の外径よりも大きいので、貫通孔を短手方向に広げても貫通孔の長手方向の孔径を段差面の外径以上とすることが可能となる。よって、段差面の外周縁の外側を針座に通過させることができる。
ところで、針座のうち貫通孔に対して貫通孔の短手方向両側に位置する部分同士を離間させるように針座を変形させると、針座のうち貫通孔に対して貫通孔の長手方向両側に位置する部分に応力が集中する。針座のうち貫通孔に対して貫通孔の長手方向両側に位置する部分は、短手方向両側に位置する部分よりも幅狭に形成されるので、応力集中により容易に撓む。よって、針座の構成材料が貫通孔の周囲に一定の幅で延在している構成と比較して、貫通孔の短手方向の孔径を小さい力で容易に拡大できる。したがって、車の軸部に針座を脱落不能に組み付ける針座保持構造において、車に針座を組み付ける際の組立性の低下を抑制できる。
さらに、針座は、貫通孔の短手方向に沿って延びる仮想直線に沿って折り曲げられる。つまり、針座のうち貫通孔に対して貫通孔の短手方向両側に位置する部分が折り曲げられる。針座のうち貫通孔に対して貫通孔の短手方向両側に位置する部分は、長手方向両側に位置する部分よりも幅広に形成されるので、針座のうち貫通孔に対して貫通孔の短手方向両側に位置する部分を折り曲げる構成と比較して、針座のばね力を大きく設定できる。よって、上述した針座保持構造において、貫通孔の長孔化に伴う針座としての機能性の低下を抑制できる。
【0009】
上記の針座保持構造において、前記貫通孔は、前記平坦状態の平面視で、楕円形状に形成されていてもよい。
【0010】
本発明によれば、貫通孔を長孔として形成できる。したがって、上述した作用効果を奏することができる。
【0011】
上記の針座保持構造において、前記貫通孔は、前記平坦状態の平面視で、長円形状に形成されていてもよい。
【0012】
本発明によれば、貫通孔を長孔として形成できる。したがって、上述した作用効果を奏することができる。
【0013】
上記の針座保持構造において、前記平坦状態の平面視で、前記仮想直線に交差し、前記仮想直線から離れるに従い接線方向が前記仮想直線の延在方向に近付く第1部分と、前記平坦状態の平面視で、前記第1部分の端部から径方向の外側に延びる第2部分と、を備えてもよい。
【0014】
本発明によれば、第2部分に囲まれた部分が長手方向の両端に位置するように、貫通孔を長孔として形成できる。さらに、針座のうち第2部分に対して貫通孔の短手方向両側に位置する部分は、貫通孔が楕円形状または長円形状に形成された構成比較して、幅広に形成される。よって、針座のばね力を大きく設定でき、貫通孔の長孔化に伴う針座としての機能性の低下を抑制できる。したがって、上述した作用効果を奏することができる。
【0015】
上記の針座保持構造において、前記軸部の前記外周面は、前記段差面によって下方から画成された凸部を有し、前記凸部は、前記第2方向に向かうに従い拡径する誘い込み部を有していてもよい。
【0016】
本発明によれば、貫通孔の内周縁を誘い込み部に摺接させながら針座を車の軸部に対して第1方向に移動させることで、貫通孔の短手方向の孔径を拡大させて凸部を通過させることができる。したがって、針座を車の軸部に容易に組み付けることができる。
【0017】
本発明の時計用ムーブメントは、上記の針座保持構造を有することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、針座が車に脱落不能に保持されているので、時計への組み付けが容易な時計用ムーブメントが得られる。
【0019】
本発明の時計は、上記の時計用ムーブメントと、文字板と、を備え、前記針座は、前記歯車と前記文字板との間に介在する、ことを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、針座が車の軸部に組み付けられた時計用ムーブメントにより、針座が文字板に直接接触する時計において、組立作業の簡素化を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、車に針座を組み付ける際の組立性の低下が抑制された針座保持構造、時計用ムーブメントおよび時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係る時計を示す平面図である。
図2】実施形態に係るムーブメントを示す断面図である。
図3】第1実施形態に係る針座保持構造を示す図である。
図4】第1実施形態に係る筒車を示す側面図である。
図5】第1実施形態に係る針座の平坦状態を示す平面図である。
図6】第2実施形態に係る針座保持構造を示す図である。
図7】第2実施形態に係る針座の平坦状態を示す平面図である。
図8】第3実施形態に係る針座保持構造を示す図である。
図9】第3実施形態に係る針座の平坦状態を示す平面図である。
図10】第4実施形態に係る針座保持構造を示す図である。
図11】第4実施形態に係る筒車を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態では、時計の一例としてアナログクオーツ式時計を例に挙げて説明する。
【0024】
(時計の基本構成)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、指針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板に対する厚さ方向の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(すなわち、文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(すなわち、文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。
【0025】
図1は、実施形態に係る時計を示す平面図である。
図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋およびガラス2からなる時計ケース内に、ムーブメント(時計用ムーブメント)10と、文字板3と、時針5、分針6および秒針7を含む指針と、を備える。ムーブメント10は、文字板3とケース裏蓋との間に配置されている。ムーブメント10は、例えば外形が時計ケースの内側の形状に対応するように、平面視円形状に形成されている。
【0026】
図2は、実施形態に係るムーブメントを示す断面図である。
図2に示すように、ムーブメント10は、文字板3に直接対向するように配置されている。ムーブメント10は、文字板3から時計ケースのガラス2側に突出して指針が取り付けられる回転軸11を有する。
【0027】
ムーブメント10は、ムーブメント10の基板を構成する地板12と、地板12の表側に配置された輪列受13と、を備える。ムーブメント10は、四番車20と、四番車20の回転に基づいて回転する三番車30と、三番車30の回転に基づいて回転する二番車40と、二番車40の回転に基づいて回転する日の裏車50と、日の裏車50の回転に基づいて回転する筒車60と、を備える。四番車20、二番車40および筒車60は、軸線Oを共通の回転軸線として、同軸に配置されている。以下の説明では、軸線Oに沿う方向を軸方向といい、軸線Oに直交して軸線から放射状に延びる方向を径方向といい、軸線O回りに周回する方向を周方向という。
【0028】
四番車20は、車軸21と、四番歯車22と、四番かな23と、を有している。四番かな23は、車軸21に一体に形成されている。四番歯車22は、四番かな23の表側で車軸21に一体に組み合わされている。車軸21は、四番かな23が二番車40の表側に位置する状態で、二番車40の内側に回転可能に挿通されている。車軸21の裏側の端部は、二番車40よりも下方に突出している。車軸21は、上述した回転軸11に含まれる。車軸21の裏側の端部には、秒針7が取り付けられる。
【0029】
三番車30は、車軸31と、三番歯車32と、三番かな33と、を有する。三番歯車32および三番かな33は、車軸31に一体に形成されている。三番車30は、地板12および輪列受13に回転可能に支持されている。三番歯車32は、四番かな23と噛み合っている。これにより、三番車30は四番車20の回転に伴って回転する。
【0030】
二番車40は、二番車本体41と、二番かな42と、二番歯車43と、を備える。二番車本体41は、円筒状に形成されている。二番車本体41は、地板12に保持された中心パイプ14の内側に回転可能に配置されている。中心パイプ14は、地板12から裏側に突出している。二番かな42および二番歯車43は、地板12の表側に位置する。二番かな42は、二番車本体41に一体に形成されている。二番歯車43は、二番かな42の裏側で二番車本体41に一体に組み合わされている。二番歯車43は、三番かな33と噛み合っている。これにより、二番車40は三番車30の回転に伴って回転する。
【0031】
二番車本体41は、中心パイプ14よりも下方に突出し、四番車20における車軸21の裏側の端部よりも表側に位置している。二番車本体41は、上述した回転軸11に含まれる。二番車本体41の裏側の端部には、分針6が取り付けられる。
【0032】
日の裏車50は、車軸51と、日の裏歯車52と、日の裏かな53と、を有する。日の裏歯車52および日の裏かな53は、車軸51に一体に形成されている。日の裏車50は、地板12および輪列受13に回転可能に支持されている。日の裏歯車52は、二番かな42と噛み合っている。これにより、日の裏車50は二番車40の回転に伴って回転する。日の裏かな53は、地板12の裏側に位置している。
【0033】
筒車60は、円筒状に形成されている。筒車60は、中心パイプ14に回転可能に外挿されている。筒車60は、日の裏かな53と噛み合う筒歯車61(歯車)と、筒歯車61から軸線Oを中心に裏側に延びる軸部63と、を備える。軸部63は、上述した回転軸11に含まれる。軸部63には、時針5が取り付けられる。筒歯車61は、軸部63と一体に形成され、軸部63の表側の端部から径方向の外側に張り出している。筒歯車61は、文字板3との間に所定の隙間が空くように形成されている。以下の説明では、軸部63の裏側の端部を先端と称する場合がある。
【0034】
筒歯車61と文字板3との間の隙間には、針座70が配置されている。針座70は、ムーブメント10の最表面に配置され、筒歯車61および文字板3に直接接触する。針座70は、所定のばね性を有する極薄の皿ばねである。針座70は、中心に貫通孔71(図3参照)が形成され、筒車60の軸部63に外挿されている。針座70は、弾性復元力を利用して筒歯車61を文字板3に対して表側に付勢している。針座70は、例えばステンレスや銅等の金属材料からなる金属板により形成されている。ただし、針座70は金属製に限定されるものではなく、例えばセラミックス等の金属材料以外の材料により形成されてもよい。
【0035】
(第1実施形態の針座保持構造)
図3は、第1実施形態に係る針座保持構造を示す図であって、針座が組み付けられた筒車を示す斜視図である。図4は、第1実施形態に係る筒車を示す側面図である。
図3および図4に示すように、筒車60の軸部63の外周面には、軸方向の筒歯車61側を向く環状の段差面64と、段差面64の内周縁から筒歯車61側に延びる括れ部65と、軸部63の先端から段差面64の外周縁に向けて延びて時針5を保持する保持部66と、を備える。段差面64は、括れ部65における軸部63の先端側の端縁から全周にわたって径方向の外側に延びている。括れ部65は、一定の外径で軸方向に延びている。括れ部65における筒歯車61側の端縁は、筒車60の裏面に接続している。保持部66は、一定の外径で軸方向に延びている。保持部66は、段差面64の外周縁から軸部63の先端にわたって設けられている。
【0036】
図3に示すように、針座70は、円形状の金属板を、外周縁に沿って離間した第1縁部73および第2縁部74を通る仮想直線Lに沿って折り曲げることにより形成されている。針座70は、表側に凸となるように湾曲している。第1縁部73および第2縁部74は、針座70の平面視外形の中心回りに互いに180°ずれて位置している。仮想直線Lは、平面視で針座70の外形の中心を通っている。針座70は、平面視で外形の中心が軸線Oに一致するように配置される。針座70は、仮想直線L上で筒歯車61に接触する。貫通孔71は、軸線O上に形成されている。貫通孔71には、筒車60の括れ部65が挿通されている。
【0037】
ここで、針座70の折り曲げを解消し、針座70を平板状に均した状態を平坦状態と定義する。また、以下の貫通孔71の形状に関する説明は、特に記載のない限り平坦状態における貫通孔71の平面視形状に関するものである。
【0038】
図5は、第1実施形態に係る針座の平坦状態を示す平面図である。
図5に示すように、貫通孔71は、軸線Oを中心に点対称、かつ軸線Oを通る対称軸を持つ線対称に形成された長孔である。これにより、針座70には、貫通孔71に対する貫通孔71の短手方向の両側に、針座70の外周縁と貫通孔71との間の幅広部76が形成される。また、針座70には、貫通孔71に対する貫通孔71の長手方向の両側に、幅広部76よりも幅の狭い、針座70の外周縁と貫通孔71との間の幅狭部77が形成される。
【0039】
貫通孔71は、楕円形状に形成されている。貫通孔71は、短手方向が仮想直線Lの延在方向に沿うように形成されている。これにより、針座70は、幅狭部77よりも径方向の幅が広い箇所において湾曲している。貫通孔71の短手方向の孔径Dmは、筒車60の括れ部65の外径以上、かつ筒車60の段差面64の外径よりも小さい。貫通孔71の長手方向の孔径Dlは、筒車60の段差面64の外径よりも大きい。なお、貫通孔71の短手方向の孔径Dmは、仮想直線L上での孔径である。また、貫通孔71の長手方向の孔径Dlは、軸線O上で仮想直線Lに直交する直線上での孔径である。また、段差面64の外径は、段差面64の外周縁の直径である。
【0040】
本実施形態の針座保持構造の作用について説明する。
針座70を筒車60に組み付けるにあたり、貫通孔71の短手方向の孔径Dmが軸部63の保持部66の外径よりも小さいので、そのままでは貫通孔71に軸部63を挿入できない。そこで、針座70の一対の幅広部76を互いに離間させるように貫通孔71を広げることで、貫通孔71に軸部63の保持部66を挿入可能とする。この際、針座70の幅狭部77が弾性範囲内で撓む。そして、軸部63の段差面64の外周縁が貫通孔71を通過した状態で針座70を解放することで、貫通孔71の広がりが解消される。これにより、針座70が軸部63の段差面64によって軸部63の先端側への変位を規制された状態となり、針座70が筒車60に対して脱落不能に組み付けられる。
【0041】
以上に説明した第1実施形態の針座保持構造によれば、針座70の貫通孔71が長孔であり、貫通孔71の短手方向の孔径Dmが筒車60の軸部63における段差面64の外径よりも小さいので、軸部63の括れ部65が貫通孔71に挿通された状態で、針座70が段差面64によって軸部63の先端側への移動を規制される。これにより、針座70が筒車60に脱落不能に保持される。
【0042】
ここで、筒車60の括れ部65に針座70を組み付けるためには、貫通孔71の短手方向の孔径を拡大させて段差面64の外周縁の外側を針座70に通過させる必要がある。針座70のうち貫通孔71に対して貫通孔71の短手方向両側に位置する幅広部76同士を離間させるように貫通孔71を広げることで貫通孔71の短手方向の孔径を拡大できるが、この際には貫通孔71の長手方向の孔径が縮小し得る。本実施形態では、貫通孔71の長手方向の孔径Dlは、筒車60の段差面64の外径よりも大きいので、貫通孔71を短手方向に広げても貫通孔71の長手方向の孔径を段差面64の外径以上とすることが可能となる。よって、段差面64の外周縁の外側を針座70に通過させることができる。
【0043】
ところで、針座70の幅広部76同士を離間させるように針座70を変形させると、針座70のうち貫通孔71に対して貫通孔71の長手方向両側に位置する幅狭部77に応力が集中する。幅狭部77、幅広部76よりも幅狭に形成されるので、応力集中により容易に撓む。よって、針座の構成材料が貫通孔の周囲に一定の幅で延在している構成と比較して、貫通孔71の短手方向の孔径を小さい力で容易に拡大できる。したがって、筒車60の軸部63に針座70を脱落不能に組み付ける針座保持構造において、筒車60に針座70を組み付ける際の組立性の低下を抑制できる。
【0044】
さらに、針座70は、貫通孔71の短手方向に沿って延びる仮想直線Lに沿って折り曲げられる。つまり、針座70の幅広部76が折り曲げられる。幅広部76は、幅狭部77よりも幅広に形成されるので、幅狭部77を折り曲げる構成と比較して、針座70のばね力を大きく設定できる。よって、上述した針座保持構造において、貫通孔71の長孔化に伴う針座70としての機能性の低下を抑制できる。
【0045】
また、貫通孔71が平坦状態の平面視で楕円形状に形成されているので、長孔の貫通孔71によって上述した作用効果を奏することができる。
【0046】
そしてムーブメント10は、上述した針座保持構造により針座70が筒車60に脱落不能に保持されているので、時計1への組み付けを容易とすることができる。また、針座70が筒車60の軸部63に組み付けられたムーブメント10により、針座70が文字板3に直接接触する時計1において、組立作業の簡素化を図ることができる。
【0047】
(第2実施形態の針座保持構造)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態の針座保持構造は、針座の貫通孔の形状が第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0048】
図6は、第2実施形態に係る針座保持構造を示す図であって、針座が組み付けられた筒車を示す斜視図である。図7は、第2実施形態に係る針座の平坦状態を示す平面図である。
図6および図7に示すように、針座70Aの貫通孔71Aは、長円形状(角丸長方形状)に形成されている。貫通孔71Aは、短手方向が仮想直線Lの延在方向に沿うように形成されている。これにより、針座70Aは、幅狭部77よりも径方向の幅が広い箇所において湾曲している。貫通孔71Aの短手方向の孔径Dmは、筒車60の括れ部65の外径以上、かつ筒車60の段差面64の外径よりも小さい。貫通孔71Aの長手方向の孔径Dlは、筒車60の段差面64の外径よりも大きい。
【0049】
以上に説明した第2実施形態の針座保持構造によれば、針座70Aの貫通孔71Aが長孔であり、貫通孔71Aの短手方向の孔径Dmが筒車60の軸部63における段差面64の外径よりも小さく、貫通孔71Aの長手方向の孔径Dlが段差面64の外径よりも大きいので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0050】
また、貫通孔71Aが平坦状態の平面視で長円形状に形成されているので、長孔の貫通孔71Aによって上述した作用効果を奏することができる。
【0051】
(第3実施形態の針座保持構造)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態の針座保持構造は、針座の貫通孔の形状が第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0052】
図8は、第3実施形態に係る針座保持構造を示す図であって、針座が組み付けられた筒車を示す斜視図である。図9は、第3実施形態に係る針座の平坦状態を示す平面図である。
図8および図9に示すように、針座70Bの貫通孔71Bの内周縁は、全周にわたって滑らかに延びている。貫通孔71Bの内周縁は、第1部分81と、第2部分82と、を備える。第1部分81は、仮想直線Lに交差している。第1部分81は、仮想直線Lとの交点から周方向の両側に延びている。第1部分81は、仮想直線Lを中心に線対称に形成されている。第1部分81は、仮想直線Lから離れるに従い接線方向が仮想直線Lの延在方向に近付くように延びている。第1部分81は、仮想直線Lとの交点を基準に、軸線Oを中心として90°未満延びている。第1部分81は、軸線Oを中心として円弧状に延びている。第2部分82は、第1部分81の端部から径方向の外側に延びている。第2部分82は、第1部分81と仮想直線Lとの交点よりも径方向の外側まで延びている。第2部分82は、軸線O上で仮想直線Lに直交する直線に交差している。第2部分82は、径方向の外側に凸となる曲線状に延びている。第2部分82の内側は、半長円状に画成されている。貫通孔71Bの短手方向の孔径Dmは、筒車60の括れ部65の外径以上、かつ筒車60の段差面64の外径よりも小さい。貫通孔71Bの長手方向の孔径Dlは、筒車60の段差面64の外径よりも大きい。
【0053】
以上に説明した第3実施形態の針座保持構造によれば、針座70Bの貫通孔71Bが長孔であり、貫通孔71Bの短手方向の孔径Dmが筒車60の軸部63における段差面64の外径よりも小さく、貫通孔71Bの長手方向の孔径Dlが段差面64の外径よりも大きいので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0054】
また、貫通孔71Bの内周縁は、仮想直線Lに交差し、仮想直線Lから離れるに従い接線方向が仮想直線Lの延在方向に近付く第1部分81と、第1部分81の端部か径方向の外側に延びる第2部分82と、を有するので、第2部分82に囲まれた部分が長手方向の両端に位置するように、貫通孔71Bを長孔として形成できる。さらに、針座70Bのうち第2部分82に対して貫通孔71Bの短手方向両側に位置する部分は、貫通孔が楕円形状または長円形状に形成された構成比較して、幅広に形成される。よって、針座70Bのばね力を大きく設定でき、貫通孔71Bの長孔化に伴う針座70Bとしての機能性の低下を抑制できる。したがって、上述した作用効果を奏することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、第1部分81が円弧状に延びているが、第1部分が楕円弧状に延びていてもよいし、長円形の外形に沿って延びていてもよい。また、本実施形態では、第2部分82の内側が半円状に画成されているが、第2部分の内側が半円形状や半楕円形状等に画成されるように第2部分が延びていてもよい。
【0056】
(第4実施形態の針座保持構造)
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態の針座保持構造は、筒車の軸部の形状が第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0057】
図10は、第4実施形態に係る針座保持構造を示す図であって、針座が組み付けられた筒車を示す斜視図である。図11は、第4実施形態に係る筒車を示す側面図である。
図10および図11に示すように、筒車60Aの軸部63の外周面には、径方向の外側に突出した環状の凸部67と、凸部67から筒歯車61側に延びる括れ部65と、軸部63の先端から凸部67に向けて延びて時針5を保持する保持部66Aと、を備える。凸部67は、軸方向の筒歯車61側を向く環状の段差面67aによって筒歯車61側から画成されているとともに、軸方向における軸部63の先端側かつ径方向外側を向く環状の誘い込み面67b(誘い込み部)によって軸部63の先端側から画成されている。段差面67aは、括れ部65における軸部63の先端側の端縁から全周にわたって径方向の外側に延びている。誘い込み面67bは、保持部66Aにおける凸部67側の端縁から軸方向の段差面67a側かつ径方向の外側に延びている。これにより誘い込み面67bは、軸方向における段差面67a側に向かうに従い拡径している。凸部67は、段差面67aと誘い込み面67bとの間に頂面67cを有する。頂面67cは、一定の外径で軸方向に延びている。ただし、凸部67は頂面67cを有していなくてもよい。すなわち段差面67aは、誘い込み面67bに接続していてもよい。
【0058】
保持部66Aは、一定の外径で軸方向に延びている。保持部66Aは、誘い込み面67bの内周縁から軸部63の先端にわたって設けられている。保持部66Aの外径は、括れ部65の外径よりも大きい。保持部66Aの外径は、針座70の貫通孔71の短手方向の孔径Dm以下である。ただし、保持部66Aの外径は、針座70の貫通孔71の短手方向の孔径Dmよりも大きくてもよい。
【0059】
以上に説明した第4実施形態の針座保持構造によれば、第1実施形態と同様の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏することができる。
本実施形態では、筒車60Aの軸部63の凸部67が誘い込み面67bを有するので、貫通孔71の内周縁を誘い込み面67bに摺接させながら針座70を軸部63に対して筒歯車61側に移動させることで、貫通孔71の短手方向の孔径を拡大させて凸部67を通過させることができる。したがって、針座70を筒車60Aの軸部63に容易に組み付けることができる。
【0060】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態ではアナログクオーツ式時計に本発明を適用しているが、機械式時計に本発明を適用してもよい。
【0061】
上記実施形態では、針座70,70A,70Bが湾曲するように折り曲げられているが、針座70,70A,70Bが断面V字状に折り曲げられていてもよい。また、針座は多段状に折り曲げられていてもよい。何れの場合であっても、針座はその中心を通る仮想直線上、またはその仮想直線と平行な直線上で筒歯車61に接触するように折り曲げられていればよい。
【0062】
また、上記実施形態では、筒車60,60Aの軸部63の段差面64,67aが径方向に延びて軸方向における筒歯車61側を向いているが、段差面は径方向外側よりも軸方向における筒歯車61側に傾斜した方向を向いていればよい。また、段差面が軸方向に対して傾斜した方向を向く構成において、段差面が筒歯車61の裏面に接続するように形成されて、段差面のうち段差面の外周縁よりも筒歯車61側の部分が針座の貫通孔に挿通されていてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、針座70,70A,70Bの外形が平坦状態で円形状であるが、針座の外形はこれに限定されない。針座は、貫通孔の周囲に上記実施形態と同様の幅広部および幅狭部が設けられるような外形を有していればよい。例えば、針座の外形は、平坦状態で楕円形状または長円形状であってもよい。ただし、針座は、貫通孔の中心点を中心とする点対称形状に形成されていることが望ましい。
【0064】
また、上記実施形態では、本発明の針座保持構造が筒車と文字板との間に配置された針座に適用された例を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。例えばクロノグラフ針等が取り付けられる車と文字板と間に針座が直接介在する構成に本発明を適用してもよい。
【0065】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…時計 3…文字板 10…ムーブメント 60,60A…筒車(車) 61…筒歯車(歯車) 63…軸部 64,67a…段差面 67…凸部 67b…誘い込み面(誘い込み部) 70,70A,70B…針座 71,71A,71B…貫通孔 73…第1縁部 74…第2縁部 81…第1部分 82…第2部分 L…仮想直線 O…軸線(回転軸線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11