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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094130
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】紙製積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20220617BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B32B27/18 A
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206975
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 正太
(72)【発明者】
【氏名】森田 遥
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA14
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB23
3E086CA01
3E086DA08
4F100AA17B
4F100AA21B
4F100AK01B
4F100AK16B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DE02B
4F100DG10A
4F100EH46B
4F100GB15
4F100HB31C
4F100JD04B
4F100JD09B
4F100JM01B
(57)【要約】
【課題】紙層を基材とし、1層のみで、紫外線(UV)カット性とガスバリア性の両者を発揮する層を備える、紙製積層体を提供する。
【解決手段】特定範囲の波長に吸収を有する、金属酸化物が被覆された鱗片状材料を用いて層を形成する。具体的には、紙基材と、紫外線カット層と、を含む紙製積層体であって、紫外線カット層を、樹脂と、少なくとも表面が、波長300~550nmの範囲に吸収を有する金属酸化物である鱗片状の無機化合物と、を含むものとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、紫外線カット層と、を含む紙製積層体であって、
前記紫外線カット層は、樹脂と、少なくとも表面が、波長300~550nmの範囲に吸収を有する金属酸化物である鱗片状の無機化合物と、を含む、
紙製積層体。
【請求項2】
前記金属酸化物は、波長300~400nmの範囲に吸収を有する、請求項1に記載の紙製積層体。
【請求項3】
前記無機化合物は、前記金属酸化物の被覆層を備える、請求項1又は2に記載の紙製積層体。
【請求項4】
前記無機化合物は、平均粒子径が1μm以上50μm以下であり、アスペクト比が10以上150以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の紙製積層体。
【請求項5】
前記無機化合物は、前記紙基材の表面に対して略並行に、層状に配列している、請求項1~4のいずれか1項に記載の紙製積層体。
【請求項6】
前記樹脂は、ポリ塩化ビニリデンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の紙製積層体。
【請求項7】
前記紫外線カット層は、水蒸気バリア性を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の紙製積層体。
【請求項8】
前記紙基材の、前記紫外線カット層とは反対側の面に印刷層を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の紙製積層体。
【請求項9】
包装材である、請求項1~8のいずれか1項に記載の紙製積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境対応として脱プラスチックが求められており、食品包装分野においては、プラスチック製から紙製への転換が求められている。
【0003】
しかしながら、紙単独の包装材は紫外線カット性を有さないことから、医薬品や食品等の内容物の劣化を十分に抑制することが困難であった。そこで、紙製の包装材に紫外線(UV)カット性を付与する技術が検討されている。
【0004】
紙製の包装材に紫外線(UV)カット性を付与する手段としては、例えば、紙基材に、UVカット性を有する乳白フィルムを貼合する方法が知られている。あるいは、アルミニウム蒸着フィルムを貼合すれば、UVカット性に加えて、水蒸気バリア性や酸素バリア性を付与することができる。
【0005】
例えば、特許文献1には、基材である紙層の外面側に、少なくとも最外層から熱可塑性樹脂層、紫外線吸収層が順次設けられ、且つ、紙層の内面側に、バリア層が設けられた積層体が提案されている。
【0006】
そして、紫外線吸収層としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等の有機系紫外線吸収剤の1種又は複数を、インキやワニスに溶解又は分散して塗工剤を作製し、各種の塗工方法によって塗工することによって形成することが記載されている。あるいは、上記の紫外線吸収剤を熱可塑性樹脂に添加して、エクストルージョンラミネーションによって形成することが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、紙又は板紙からなるコア層を有する積層体であって、酸素ガスバリア層として、水性又は溶液型媒体内に分散又は溶解されている重合体バインダと、当該重合体バインダ内に分散された無機粒子と、を含む層が提案されている。
【0008】
そして、重合体バインダとしては、PVOH、水分散性EVOH、例えばデンプン又はデンプン誘導体のような多糖、水分散性ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、若しくは水分散性ポリエステルが例示されている。
【0009】
また、重合体バインダ内に分散される無機粒子としては、層状又は薄片状の無機化合物が好ましいとされている。
【0010】
特許文献2において、重合体バインダ内に分散された薄片状の無機粒子は、バリア層内で層状に配列されることによって、曲がりくねった経路(迷路)を形成する。そして酸素ガス分子は、バリア層の厚み方向に横切る真っ直ぐな経路ではなく、この曲がりくねった経路(迷路)を通らなければ、包装体の内部にまで到達することができなくなる。この曲がりくねった経路(迷路)を形成することにより、層状又は薄片状の無機化合物は、バリア層のガスバリア性を向上させる。
【0011】
また、特許文献3には、紫外線カット層と、ガスバリア層とが、基材上に積層された、紫外線遮断包装材料が提案されている。特許文献3におけるガスバリア層は、ポリビニルアルコールと、無機層状化合物と、ウレタン系樹脂とを含む層となっている。また、紫外線カット層は、紫外線吸収性の材料であっても、紫外線遮蔽性の材料であっても良いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007-55056号公報
【特許文献2】特表2012-512058号公報
【特許文献3】特開2015-137138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の積層体においては、基材である紙層の異なる面に、紫外線吸収層とバリア層とが、それぞれ設けられていた。また、特許文献3に記載の積層体においては、基材の同じ面に、紫外線カット層とガスバリア層とが、個別に設けられている。特許文献2においては、紫外線カットの性能については、まったく認識されていない。
【0014】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、紙層を基材とし、1層のみで、紫外線(UV)カット性とガスバリア性の両者を発揮する層を備える、紙製積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、特定範囲の波長に吸収を有する、金属酸化物が被覆された鱗片状材料を用いて層を形成すれば、1層のみで、紫外線(UV)カット性とガスバリア性の両者を発揮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0016】
《態様1》
紙基材と、紫外線カット層と、を含む紙製積層体であって、
前記紫外線カット層は、樹脂と、少なくとも表面が、波長300~550nmの範囲に吸収を有する金属酸化物である鱗片状の無機化合物と、を含む、
紙製積層体。
《態様2》
前記金属酸化物は、波長300~400nmの範囲に吸収を有する、態様1に記載の紙製積層体。
《態様3》
前記無機化合物は、前記金属酸化物の被覆層を備える、態様1又は2に記載の紙製積層体。
《態様4》
前記無機化合物は、平均粒子径が1μm以上50μm以下であり、アスペクト比が10以上150以下である、態様1~3のいずれか一態様に記載の紙製積層体。
《態様5》
前記無機化合物は、前記紙基材の表面に対して略並行に、層状に配列している、態様1~4のいずれか一態様に記載の紙製積層体。
《態様6》
前記樹脂は、ポリ塩化ビニリデンである、態様1~5のいずれか一態様に記載の紙製積層体。
《態様7》
前記紫外線カット層は、水蒸気バリア性を有する、態様1~6のいずれか一態様に記載の紙製積層体。
《態様8》
前記紙基材の、前記紫外線カット層とは反対側の面に印刷層を有する、態様1~7のいずれか一態様に記載の紙製積層体。
《態様9》
包装材である、態様1~8のいずれか一態様に記載の紙製積層体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の紙製積層体は、1層のみで、紫外線(UV)カット性と、ガスバリア性、特に水蒸気バリア性の両者を備える層が形成された、紙基材の積層体となる。
【0018】
したがって、本発明の紙製積層体は、紫外線(UV)カット性と、ガスバリア性、特に水蒸気バリア性の両者が必要となる内容物を包装するための包装材料として、特に有益に用いることができる。
【0019】
また、紫外線カット層とガスバリア層とを個別に設ける必要がなくなり、従来は2層の作製が必要となっていたところ、1層のみで対応することができる。このため、本発明の紙製積層体は、加工性及び経済性の両者に貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《紙製積層体》
本発明の紙製積層体は、紙基材と、紫外線(UV)カット層と、を含む紙基材の積層体である。そして、紫外線カット層は、紫外線(UV)カット性と同時に、ガスバリア性、特に水蒸気バリア性を有する。
【0021】
<紙基材>
本発明の紙製積層体を構成する紙基材は、植物繊維その他の繊維を膠着させて製造したものであればよく、特に限定されるものではない。中では、植物由来のパルプを主成分とするものであれば、環境対応の要請を満足することができる。
【0022】
本発明に用いられる紙基材としては、例えば、上質紙、中質紙、微塗工紙、塗工紙、片艶紙、晒又は未晒クラフト紙等を挙げることができる。中では、クラフト紙は、包装用途として用いた場合に、十分な強度を有するため好ましい。
【0023】
<紫外線(UV)カット層>
本発明の紙製積層体における紫外線(UV)カット層は、樹脂と、特定の鱗片状の無機化合物と、を含む。樹脂と、特定の鱗片状の無機化合物とを必須成分として含んでいれば、機能性等を付与するためのその他の添加剤等を、任意に含んでいてもよい。
【0024】
紫外線(UV)カット層が紫外線(UV)カット性と同時に有するバリア性は、特に限定されるものではない。例えば、酸素バリア性、水蒸気バリア性等が挙げられ、1種のみならず、複数種のバリア性を発揮するものであってもよい。
【0025】
本発明の紙製積層体は、中でも、水蒸気バリア性を有する紫外線(UV)カット層を有することが好ましい。ここで、本発明の紙製積層体が有する水蒸気バリア性とは、水蒸気透過度(WVTR)が、7.0gm/m-day未満であり、5.5gm/m-day未満、5.0gm/m-day未満、4.0gm/m-day未満、3.0gm/m-day未満、又は2.0gm/m-day未満であることが好ましい。なお、水蒸気透過度(WVTR)は、水蒸気透過率測定装置(PERMATRAN-W Model 398、MOCON(登録商標)Inc,社)を用いて、40℃、90%RHの条件下で測定することができる。
【0026】
(樹脂)
紫外線(UV)カット層を構成する樹脂としては、特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)等のポリオレフィン樹脂、ナイロン-6、ナイロン-66等のポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ナイロン(NY)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル(PAN)等が挙げられる。
【0027】
なお、上記の樹脂は、1種のみならず、2種以上がブレンドされていてもよい。
【0028】
中では、酸素や水蒸気等のガスを遮断する機能を発現する、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ナイロン(NY)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、又はポリアクリロニトリル(PAN)等であれば、形成される紫外線(UV)カット層のガズガリア性を、より向上させることができる。
【0029】
とりわけ、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)は、優れたガスバリア性を有し、また、樹脂骨格に塩素を保有しているため脱塩酸により経時的に酸性を維持できることから、水分散型エマルジョンとして、後記する特定の鱗片状の無機化合物と組み合わせて塗料組成物を形成したときに、無機化合物が、凝集したり、カードハウス構造を形成したりすることを抑制することができる。その結果、無機化合物の分散性を向上させることができ、均一な紫外線(UV)カット層となる塗膜を形成することができる。
【0030】
(鱗片状の無機化合物)
本発明の紙製積層体の紫外線(UV)カット層は、鱗片状の無機化合物を含む。
【0031】
そして、本発明の紙製積層体の紫外線(UV)カット層において、鱗片状の無機化合物は、紙基材の表面に対して略並行に、層状に配列している。これにより、鱗片状の無機化合物は、曲がりくねった経路(迷路)を形成しており、その結果、紫外線(UV)カット層のガスバリア性を向上させる。
【0032】
無機化合物の平均粒子径は、1μm以上50μm以下であってもよい。無機化合物の平均粒子径は、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上であってもよく、また、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下であってもよい。
【0033】
無機化合物の平均粒子径が上記の範囲であれば、紫外線(UV)カット層において、無機化合物による迷路構造を十分に形成することができる。
【0034】
無機化合物のアスペクト比は、10以上150以下であってもよい。無機化合物のアスペクト比は、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上であってもよく、また、140以下、130以下、120以下、110以下、100以下であってもよい。
【0035】
無機化合物のアスペクト比が上記の範囲であれば、紫外線(UV)カット層において、無機化合物により、緻密な迷路構造を形成することができる。
【0036】
紫外線(UV)カット層に含まれる鱗片状の無機化合物は、少なくとも表面が、波長300~400nmの範囲に吸収を有する金属酸化物である。これにより、紫外線吸収性能を有し、紫外線(UV)カット機能を有する層を形成することができる。
【0037】
なお、波長300~400nmの範囲に吸収を有する金属酸化物としては、例えば、バンドギャップが3.2~4.1eVである半導体が挙げられる。
【0038】
半導体の吸収スペクトルは、バンドギャップに依存しており、バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光が吸収されることとなる。ここで光のエネルギーEは、下記式(1)で表される。
E=hν=h・(c/λ) ・・・(1)
(式中、hはプランク定数、cは光速度、λは吸収スペクトルである。)
このため、吸収スペクトルλは、λ=1240/Eとなり、波長300nmにおけるバンドギャップは、4.1eVとなる。
【0039】
一方で400nm以上の光は可視光の範囲となるため、バンドギャップが3.2eV未満の半導体を選択した場合には、UV吸収能を有すると同時に、可視光についても吸収が見られるようになる。その結果、形成される層は発色した外観となってしまい、例えば、印刷基材としてはあまり望ましいものではなくなる。
【0040】
バンドギャップが3.2~4.1eVである半導体としては、例えば、酸化チタン(バンドギャップ:3.2eV、吸収スペクトル:387nm)が挙げられる。
【0041】
紫外線(UV)カット層に含まれる鱗片状の無機化合物は、上記の通り、少なくとも表面に、波長300~400nmの範囲に吸収を有する金属酸化物を有していればよい。すなわち、当該金属酸化物が、鱗片状の無機化合物の表面に被覆層として存在していてもよいし、鱗片状の無機化合物の全体が、当該金属酸化物であってもよい。
【0042】
鱗片状の無機化合物の表面に、被覆層として、波長300~400nmの範囲に吸収を有する金属酸化物を備える場合には、被覆層の内核となる金属酸化物の種類は、特に限定されるものではない。鱗片形状となる公知の無機化合物を適用することができる。
【0043】
具体的には例えば、本発明において用いる鱗片状の無機化合物は、金属酸化物、例えば酸化チタン及び/又は酸化鉄で被覆された鱗片状粒子、特に鱗片状マイカであってよい。
【0044】
<紙製積層体の製造方法>
紙基材とバリア層とを備える紙製包装材料を製造する方法は、特に限定されるものではなく、紙基材の上に、樹脂と、少なくとも表面が、波長300~400nmの範囲に吸収を有する金属酸化物である鱗片状の無機化合物とを含む原料を用いて、紫外線(UV)カット層を形成する方法であればよい。
【0045】
例えば、樹脂の水分散型エマルジョンと、鱗片状の無機化合物と、を含む塗料組成物を調製して、紙基材に塗布する方法や、鱗片状の無機化合物を溶融した樹脂に混合し、紙基材の上に押出ラミネートする方法等が挙げられる。
【0046】
樹脂の水分散型エマルジョンと、鱗片状の無機化合物と、を含む塗料組成物を用いて、紙基材の上に紫外線(UV)カット層を形成する場合には、樹脂の水分散型エマルジョンとしては、媒体となる水に、樹脂がエマルジョン状に分散したものを用いることができる。媒体となる水には、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコールが添加されていてもよい。
【0047】
このとき、樹脂の水分散型エマルジョンのpHと、鱗片状の無機化合物の等電点のpHとの間には、乖離があることが好ましい。例えば、液性が酸性の水分散型エマルジョンに、等電点がpH3.0~9.5の範囲の鱗片状の無機化合物を配合した塗料組成物としてもよく、あるいは、液性が塩基性の水分散型エマルジョンに、等電点がpH3.0~7.0の範囲の鱗片状の無機化合物を配合した塗料組成物としてもよい。
【0048】
水分散型エマルジョンのpHと、鱗片状の無機化合物の等電点のpHとの間に差があれば、塗料組成物の中で、無機化合物が、凝集したり、カードハウス構造を形成したりすることを抑制でき、塗料組成物中の無機化合物の分散性を向上させることができる。その結果、塗料組成物から塗膜を形成したときに、無機化合物が層状に配列し、曲がりくねった経路(迷路)構造を容易に形成することができ、紫外線(UV)カット層のガリア性をより向上させることができる。
【0049】
例えば、塗料組成物を構成する水分散型エマルジョンとして、液性が酸性のものを用いる場合には、そのpHは、pH6.5以下であってよく、例えば、pH1.0~6.5の範囲であってよい。pH1.0~4.5の範囲がより好ましく、強酸性であるpH1.0~3.0の範囲が、特に好ましい。
【0050】
液性が酸性の樹脂の水分散型エマルジョンに配合する鱗片状の無機化合物は、その等電点がpH3.0~9.5の範囲であってもよい。無機化合物の等電点は、pH4.0以上、pH5.0以上、6.0以上、7.0以上、8.0以上、9.0以上であってよく、また、9.2以下、9.0以下、8.7以下、8.5以下であってよい。
【0051】
塗料組成物を紙基材に塗布する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。塗布方法としては、例えば、グラビアリバース法、スリットリバース法、グラビアノーマル法等が挙げられる。
【0052】
塗料組成物を紙基材に塗布する塗布量は、特に限定されるものではなく、用いる用途に必要なバリア性能に応じて適宜設定することができる。十分なバリア性を付与するためには、例えば、塗膜としたときの乾燥質量で、5g/m以上であってもよい。塗布量は、塗膜としたときの乾燥重量で、10g/m以上、15g/m以上、20g/m以上、25g/m以上、30g/m以上であってもよい。
【0053】
<その他の層>
本発明の紙製積層体は、紙基材と紫外線(UV)カット層とを必須の層として含んでいれば、その他の層を任意に備えていてもよい。その他の層としては、特に限定されるものではなく、例えば、熱融着して構造体を形成するためのヒートシール層、紫外線(UV)カット層とは異なる種類のバリア性を付与するためのバリア層、強度を補強するための補強層、あるいは、層と層との間を接着するための接着層等が挙げられる。
【0054】
ヒートシール層は、紙製積層体の最内層となるように配置する。ヒートシール層としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体(EP)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等からなる層が挙げられる。
【0055】
バリア層としては、例えば、酸素や水蒸気等のガスを遮断する機能を発現する、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ナイロン(NY)、ポリアクリロニトリル(PAN)、又はポリ塩化ビニリデン(PVDC)からなる層等が挙げられる。なお、バリア層としては、紫外線(UV)カット層に用いた樹脂と同一の樹脂を用いてもよい。同一の樹脂を用いる場合には、当該バリア性をより強力なものとすることができる。
【0056】
補強層の材料としては、例えば、紙、合成紙、不織布等が挙げられる。これらには、隣接する層との接着性を付与するための接着剤が塗布されていてもよい。
【0057】
層と層との間を接着するための接着層としては、例えば、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマーからなる層等が挙げられる。
【0058】
その他の層を構成する樹脂等は、1種のみならず、2種以上がブレンドされていてもよい。また、必要に応じて、機能性等を付与するための添加剤等が配合されていてもよい。
【0059】
(印刷層)
本発明の紙製積層体は、紙基材の、バリア層とは反対側の面に、印刷層を有していてもよい。印刷層は、公知の構成であってよく、例えば、樹脂と顔料とを含む層であってよい。
【0060】
(その他の層の積層方法)
本発明の紙製積層体において、紙基材と紫外線(UV)カット層以外のその他の層の積層方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、ドライラミネーション法、ホットメルトラミネーション法、エクストルージョンラミネーション法、及びサンドイッチラミネーション方法等が挙げられる。
【0061】
<紙製積層体の用途>
本発明の紙製積層体の用途は、特に限定されるものではない。紫外線(UV)カット性とバリア性の両者が必要となる各種の用途に用いることができ、例えば、包装材として用いることができる。中でも、紫外線(UV)カット性とバリア性の両者が必要となる食品包装に適用した場合には、紙製の包装材であることから、環境への要請を満足させることができる。
【実施例0062】
以下、実施例及び比較例等により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
<材料>
実施例及び比較例においては、層を構成する材料として、以下を準備した。
【0064】
(1)紙基材
・片艶クラフト紙(OKブリザード、日本製紙)
(2)樹脂の水分散型エマルジョン
・水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY、pH=1.5)
・水分散系アクリルスチレンエマルジョン(XP8812、星光PMC、pH=9±1)
(3)鱗片状の無機化合物
・合成マイカベース酸化チタン被覆パール顔料(TWINCLEPEARL(登録商標) GXB、日本光研、等電点≒pH5.0、平均粒子径:13μm、アスペクト比:20)
酸化チタン(バンドギャップ:3.2eV、吸収スペクトル:387nm)
・合成マイカベース酸化鉄被覆パール顔料(PEARL-GLAZE(登録商標) MC-504、日本光研、等電点≒pH5.7)
酸化鉄(バンドギャップ:2.2eV、吸収スペクトル:539nm)
・アルミナ系板状フィラー(セラシュール(登録商標)、河合石灰工業、等電点≒pH7.7、平均粒子径:8μm、アスペクト比:20~40)
アルミナ(バンドギャップ:8.8eV、吸収スペクトル:141nm)
・合成マイカ(NK-8G、日本光研、等電点≒pH1.0、平均粒子径:8μm、アスペクト比:約45)
合成マイカ(バンドギャップ:なし)
【0065】
<実施例1>
(塗料組成物の作製)
水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)20質量部に対して、合成マイカベース酸化チタン被覆パール顔料(TWINCLEPEARL(登録商標) GXB、日本光研)4.38質量部(塗料組成物の全固形分に対する無機化合物の割合:30質量%)を加え、攪拌機を使用して十分に攪拌させて、塗料組成物を得た。
【0066】
(紙製積層体の作製)
片艶クラフト紙(OKブリザード、日本製紙)に、バーコーターを用いて、上記で得られた塗料組成物を塗布し、乾燥させることで、紙基材と紫外線(UV)カット層とを備える紙製積層体を得た。なお、塗料組成物の塗工量は、乾燥質量で15g/mとした。
【0067】
<実施例2>
合成マイカベース酸化チタン被覆パール顔料の配合量を、10.2重量部(塗料組成物の全固形分に対する無機化合物の割合:50質量%)に変更して塗料組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。
【0068】
<実施例3>
(塗料組成物の作製)
水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョンに替えて、水分散系アクリルスチレンエマルジョン(XP8812、星光PMC)を用いた以外は、実施例1と同様にして、塗料組成物を得た。
【0069】
(紙製積層体の作製)
片艶クラフト紙(OKブリザード、日本製紙)に、バーコーターを用いて、上記で得られた塗料組成物を塗布し、乾燥させることで、紙基材と紫外線(UV)カット層とを備える紙製積層体を得た。なお、塗料組成物の塗工量は、乾燥質量で5g/mとした。
【0070】
<実施例4>
水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)20質量部に対して、合成マイカベース酸化鉄被覆パール顔料(PEARL-GLAZE(登録商標) MC-504、日本光研)1.13質量部(塗料組成物の全固形分に対する無機化合物の割合:10質量%)を加えて塗料組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。
【0071】
<比較例1>
無機化合物を配合することなく、水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)を紙基材に塗布した以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。
【0072】
<比較例2>
無機化合物を配合することなく、水分散系アクリルスチレンエマルジョン(XP8812、星光PMC)を紙基材に適用し、塗工量を乾燥質量で5g/mとした以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。
【0073】
<比較例3>
水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)20質量部に対して、アルミナ系板状フィラー(セラシュール(登録商標)、河合石灰工業)1.13質量部(塗料組成物の全固形分に対する無機化合物の割合:10質量%)を加えて塗料組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。
【0074】
<比較例4>
水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)20質量部に対して、合成マイカ(NK-8G、日本光研)4.38質量部(塗料組成物の全固形分に対する無機化合物の割合:30質量%)を加えて塗料組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。
【0075】
<評価>
【0076】
(UVA透過率の測定)
得られた紙製積層体につき、紫外可視近赤外分光光度計(UH4150、日立ハイテクサイエンス社)を用いて、UVA(320~400nm)透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
(UVA透過率の判定)
得られたUVA透過率に基づき、以下の基準で判定を実施した。結果を表1に示す。
〇:5.0%未満
×:5.0%以上
【0078】
(水蒸気透過度(WVTR)の測定)
得られた紙製積層体につき、水蒸気透過率測定装置(PERMATRAN-W Model 398、MOCON(登録商標)Inc,社)を用いて、40℃、90%RHの条件下で、水蒸気透過度を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
(水蒸気透過度(WVTR)の判定)
得られた水蒸気透過度に基づき、以下の基準で判定を実施した。結果を表1に示す。
〇:7.0gm/m-day未満
×:7.0gm/m-day以上
【0080】
【表1】