(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094159
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】紙製包装材料の製造方法、及び紙製積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 37/14 20060101AFI20220617BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20220617BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220617BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220617BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220617BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
B32B37/14 Z
B32B27/10
B32B27/20 A
B05D7/00 F
B05D7/24 303J
B05D7/24 303B
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207017
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 正太
(72)【発明者】
【氏名】森田 遥
【テーマコード(参考)】
3E086
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
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3E086BA14
3E086BA15
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4F100AA01B
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4F100JN22
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】水分散型エマルジョンを用いて、当該エマルジョンとこれに分散された薄片状の無機化合物と、を含む塗料組成物を紙基材に塗布することを含む、ガスバリア性の高い紙製包装材料を製造する方法、及び、ガスバリア性の高い紙製積層体を提供する。
【解決手段】塗料組成物を構成する水分散型エマルジョンの液性と、配合する無機化合物の等電点とを特定の関係とした塗料組成物を用いることで、塗料組成物における無機化合物の凝集を抑制するとともに、無機化合物が層状に配列されたバリア層を備える紙製包装材料とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、バリア層と、を備える紙製包装材料の製造方法であって、
樹脂の水分散型エマルジョンと、鱗片状の無機化合物と、を含む塗料組成物を、前記紙基材に塗布することを含み、
前記水分散型エマルジョンは酸性であり、
前記無機化合物の等電点はpH3.0~9.5である、
紙製包装材料の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂は、ポリ塩化ビニリデンである、請求項1に記載の紙製包装材料の製造方法。
【請求項3】
前記無機化合物は、平均粒子径が1μm以上50μm以下であり、アスペクト比が10以上150以下である、請求項1又は2に記載の紙製包装材料の製造方法。
【請求項4】
前記塗布の塗布量は、5g/m2以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の紙製包装材料の製造方法。
【請求項5】
前記バリア層は、水蒸気バリア性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の紙製包装材料の製造方法。
【請求項6】
紙基材と、バリア層と、を含む紙製積層体であって、
前記バリア層は、ポリ塩化ビニリデンと、等電点がpH3.0~9.5である鱗片状の無機化合物と、を含む、
紙製積層体。
【請求項7】
前記無機化合物は、平均粒子径が1μm以上50μm以下であり、アスペクト比が10以上150以下である、請求項6に記載の紙製積層体。
【請求項8】
前記無機化合物は、前記紙基材の表面に対して略並行に、層状に配列している、請求項6又は7に記載の紙製積層体。
【請求項9】
前記バリア層は、水蒸気バリア性を有する、請求項6~8のいずれか1項に記載の紙製積層体。
【請求項10】
包装材である、請求項6~9のいずれか1項に記載の紙製積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製包装材料の製造方法、及び紙製積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境対応として脱プラスチックが求められる中で、食品包装分野においては、プラスチック製から紙製への転換が求められている。
【0003】
しかしながら、紙単独の包装材はガスバリア性を有さないことから、内容物を十分に保護することが困難であった。そこで、紙製の包装材にガスバリア性を付与する技術が検討されている。
【0004】
紙製の包装材にガスバリア性を付与する手段としては、例えば、紙基材に塗料を塗布して、バリア層を形成する方法が知られている。バリア層により、水蒸気バリア性や酸素バリア性を付与することができる。
【0005】
例えば、特許文献1には、酸素ガスバリア層として、水性又は溶液型媒体内に分散又は溶解されている重合体バインダと、当該重合体バインダ内に分散された無機粒子と、を含む層が提案されている。
【0006】
そして、重合体バインダとしては、PVOH、水分散性EVOH、例えばデンプン又はデンプン誘導体のような多糖、水分散性ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、若しくは水分散性ポリエステルが例示されている。
【0007】
特許文献1において、重合体バインダ内に分散される無機粒子としては、層状又は薄片状の無機化合物が好ましいとされている。
【0008】
重合体バインダ内に分散された薄片状の無機粒子は、バリア層内で層状に配列されることによって、曲がりくねった経路(迷路)を形成する。そして酸素ガス分子は、バリア層の厚み方向に横切る真っ直ぐな経路ではなく、この曲がりくねった経路(迷路)を通らなければ、包装体の内部にまで到達することができなくなる。この曲がりくねった経路(迷路)を形成することにより、層状又は薄片状の無機化合物は、バリア層のガスバリア性を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、紙基材に塗布してガスバリア層を形成するための塗料を作製するために、水性媒体内に分散された重合体バインダに無機粒子を分散させると、無機粒子が凝集してしまう場合があった。また、無機粒子の種類によっては、塗膜を形成したときに、層状に配列しない場合があった。
【0011】
そして本発明者らは、無機粒子が凝集している塗料を用いて形成した塗膜や、層状に配列しない無機粒子を用いて塗膜を形成した場合には、たとえ薄片状の無機粒子を用いていても、薄片は層状に配列せず、その結果、ガスバリア性の向上がみられなくなることを見出した。
【0012】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、水分散型エマルジョンを用いて、当該エマルジョンとこれに分散された薄片状の無機化合物と、を含む塗料組成物を紙基材に塗布することを含む、ガスバリア性の高い紙製包装材料を製造する方法、及び、ガスバリア性の高い紙製積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、層状の無機粒子であるカオリンは、等電点がpH1.5付近という低pH域にあるため、強酸性溶媒下では凝集が発生してしまうこと、また、モンモリロナイト等の層状の粘土鉱物は、低pH環境下ではカードハウス構造を形成するため、塗膜を形成するときに層状に配列させることが困難となることに着目した。
【0014】
そして、塗料組成物を構成する水分散型エマルジョンの液性と、配合する無機化合物の等電点とが特定の関係にある塗料組成物を用いれば、塗料組成物における無機化合物の凝集を抑制できるとともに、塗膜を形成したときに無機化合物が層状に配列したバリア層を形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0015】
《態様1》
紙基材と、バリア層と、を備える紙製包装材料の製造方法であって、
樹脂の水分散型エマルジョンと、鱗片状の無機化合物と、を含む塗料組成物を、前記紙基材に塗布することを含み、
前記水分散型エマルジョンは酸性であり、
前記無機化合物の等電点はpH3.0~9.5である、
紙製包装材料の製造方法。
《態様2》
前記樹脂は、ポリ塩化ビニリデンである、態様1に記載の紙製包装材料の製造方法。
《態様3》
前記無機化合物は、平均粒子径が1μm以上50μm以下であり、アスペクト比が10以上150以下である、態様1又は2に記載の紙製包装材料の製造方法。
《態様4》
前記塗布の塗布量は、5g/m2以上である、態様1~3のいずれか一態様に記載の紙製包装材料の製造方法。
《態様5》
前記バリア層は、水蒸気バリア性を有する、態様1~4のいずれか一態様に記載の紙製包装材料の製造方法。
《態様6》
紙基材と、バリア層と、を含む紙製積層体であって、
前記バリア層は、ポリ塩化ビニリデンと、等電点がpH3.0~9.5である鱗片状の無機化合物と、を含む、
紙製積層体。
《態様7》
前記無機化合物は、平均粒子径が1μm以上50μm以下であり、アスペクト比が10以上150以下である、態様6に記載の紙製積層体。
《態様8》
前記無機化合物は、前記紙基材の表面に対して略並行に、層状に配列している、態様6又は7に記載の紙製積層体。
《態様9》
前記バリア層は、水蒸気バリア性を有する、態様6~8のいずれか一態様に記載の紙製積層体。
《態様10》
包装材である、態様6~9のいずれか一態様に記載の紙製積層体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の紙製包装材料の製造方法によれば、ガスバリア性、特に水蒸気バリア性の高い紙製包装材料を製造することができる。
【0017】
また、本発明の紙製積層体は、ガスバリア性、特に水蒸気バリア性の高い紙基材の積層体となる。
【0018】
したがって、本発明の紙製包装材料の製造方法によって得られる紙製包装材料、及び本発明の紙製積層体は、ガスバリア性、特に水蒸気バリア性が必要となる内容物を包装するための包装材料として、特に有益に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1で作製した紙製積層体の断写写真である。
【
図2】比較例1で作製した紙製積層体の断面写真である。
【
図3】比較例2で作製した紙製積層体の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《紙製包装材料の製造方法》
本発明の紙製包装材料の製造方法は、紙基材と、バリア層と、を備える紙製包装材料の製造方法である。そして、塗料組成物を紙基材に塗布することでバリア層を形成し、塗料組成物は、樹脂の水分散型エマルジョンと、鱗片状の無機化合物と、を含む。
【0021】
本発明の紙製包装材料の製造方法は、バリア層の形成に用いる塗料組成物を構成する水分散型エマルジョンの液性と、無機化合物の等電点とが、特定の関係にあることを特徴とする。これにより、塗料組成物における無機化合物の凝集を抑制できるとともに、バリア層となる塗膜を形成したときに、無機化合物を層状に配列させて、曲がりくねった経路(迷路)を形成することが可能となる。
【0022】
<紙基材>
本発明に用いられる紙基材は、植物繊維その他の繊維を膠着させて製造したものであればよく、特に限定されるものではない。中では、植物由来のパルプを主成分とするものであれば、環境対応の要請を満足することができる。
【0023】
本発明に用いられる紙基材としては、例えば、上質紙、中質紙、微塗工紙、塗工紙、片艶紙、晒又は未晒クラフト紙等を挙げることができる。中では、クラフト紙は、包装用途として用いた場合に、十分な強度を有するため好ましい。
【0024】
<塗料組成物>
本発明に用いられ、上記の紙基材に塗布される塗料組成物は、樹脂の水分散型エマルジョンと、鱗片状の無機化合物と、を含む。
【0025】
(樹脂の水分散型エマルジョン)
樹脂の水分散型エマルジョンは、媒体となる水に、樹脂がエマルジョン状に分散したものである。媒体となる水には、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコールが添加されていてもよい。
【0026】
塗料組成物を構成する水分散型エマルジョンは、酸性である。そのpHは、特に限定されるものではなく、例えば、pH6.5以下であってよく、例えば、pH1.0~6.5の範囲であってよい。pH1.0~4.5の範囲がより好ましく、強酸性であるpH1.0~3.0の範囲が、特に好ましい。
【0027】
塗料組成物を構成する水分散型エマルジョンが酸性を呈していれば、後記する、等電点がpH3.0~9.5である無機化合物が、凝集したり、カードハウス構造を形成したりすることを抑制でき、無機化合物の分散性を向上することができる。そして、塗料組成物から塗膜を形成したときに、無機化合物が層状に配列し、曲がりくねった経路(迷路)構造を有するバリア層を形成することができる。
【0028】
水分散型エマルジョンとする樹脂は、液性を酸性とすることができ、塗膜としたときにバリア性を発現するものであれば、特に限定されるものではない。
【0029】
例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等を挙げることができる。
【0030】
中では、樹脂骨格に塩素を保有しているポリ塩化ビニリデン(PVDC)は、脱塩酸により経時的に酸性を維持できることから、本発明の塗料組成物を構成する水分散型エマルジョンとして好ましく用いることができる。
【0031】
(鱗片状の無機化合物)
塗料組成物を構成する無機化合物は、鱗片状の形状を有する。鱗片状であることにより、紙基材の表面に対して略並行に、層状に配列した状態で塗膜を形成できれば、無機化合物により曲がりくねった経路(迷路)を形成することができる。その結果、塗膜(バリア層)のガスバリア性を向上させることができる。
【0032】
本発明の紙製包装材料の製造方法に用いられる無機化合物は、その等電点がpH3.0~9.5の範囲である。無機化合物の等電点は、pH5.0以上、6.0以上、7.0以上、8.0以上、9.0以上であってよく、また、9.2以下、9.0以下、8.7以下、8.5以下であってよい。
【0033】
塗料組成物を構成する鱗片状の無機化合物が、上記の等電点を有するものであれば、酸性の水分散型エマルジョンと混合されて塗料組成物となったときに、無機化合物が、凝集したり、カードハウス構造を形成したりすることを抑制でき、分散性を向上することができる。そして、塗料組成物から塗膜を形成したときに、無機化合物が層状に配列し、曲がりくねった経路(迷路)を有するバリア層を形成することができる。
【0034】
無機化合物の平均粒子径は、1μm以上50μm以下であってもよい。無機化合物の平均粒子径は、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上であってもよく、また、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下であってもよい。
【0035】
無機化合物の平均粒子径が上記の範囲であれば、塗料組成物から塗膜を形成したときに、無機化合物による迷路構造を十分に形成することができる。
【0036】
無機化合物のアスペクト比は、10以上150以下であってもよい。無機化合物のアスペクト比は、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上であってもよく、また、140以下、130以下、120以下、110以下、100以下であってもよい。
【0037】
無機化合物のアスペクト比が上記の範囲であれば、塗料組成物から塗膜を形成したときに、無機化合物により、緻密な迷路構造を形成することができる。
【0038】
<バリア層の形成>
本発明の紙製包装材料の製造方法は、塗料組成物を紙基材に塗布することを含み、これにより、紙基材とバリア層とを備える紙製包装材料を製造する。
【0039】
塗料組成物を紙基材に塗布する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。塗布方法としては、例えば、グラビアリバース法、スリットリバース法、グラビアノーマル法等が挙げられる。
【0040】
塗料組成物を紙基材に塗布する塗布量は、特に限定されるものではなく、用いる用途に必要なバリア性能に応じて適宜設定することができる。十分なバリア性を付与するためには、例えば、塗膜としたときの乾燥質量で、5g/m2以上であってもよい。塗布量は、塗膜としたときの乾燥重量で、10g/m2以上、15g/m2以上、20g/m2以上、25g/m2以上、30g/m2以上であってもよい。
【0041】
本発明の紙製包装材料の製造方法により形成されるバリア層のバリア性は、特に限定されるものではない。例えば、酸素バリア性、水蒸気バリア性等が挙げられ、1層のバリア層にて、1種のみならず複数種のバリア性を発揮するものであってもよい。
【0042】
本発明の紙製包装材料の製造方法においては、水蒸気バリア性を有するバリア層を形成することが好ましい。
【0043】
《紙製積層体》
本発明の紙製積層体は、紙基材と、バリア層と、を含む。そして、上記した本発明の紙製包装材料の製造方法により形成されるものであってもよい。
【0044】
<紙基材>
本発明の紙製積層体を構成する紙基材は、上記した本発明の紙製包装材料の製造方法に適用できる紙基材と同様である。
【0045】
<バリア層>
本発明の紙製積層体におけるバリア層は、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)と、等電点がpH3.0~9.5である鱗片状の無機化合物と、を含む。
【0046】
(ポリ塩化ビニリデン(PVDC))
バリア層に含まれるポリ塩化ビニリデンは、特に限定されるものではない。その分子量も特に限定されるものではなく、異なる2種以上のポリ塩化ビニリデンの混合物であってもよい。
【0047】
ポリ塩化ビニリデンは、優れたガスバリア性を備える。このため、本発明の紙製積層体は、水蒸気バリア性を有するものとなる。ここで、本発明の紙製積層体が有する水蒸気バリア性とは、水蒸気透過度(WVTR)が、5.0gm/m2-day未満であり、4.0gm/m2-day未満、3.0gm/m2-day未満、又は2.0gm/m2-day未満であることが好ましい。なお、水蒸気透過度(WVTR)は、水蒸気透過率測定装置(PERMATRAN-W Model 398、MOCON(登録商標)Inc,社)を用いて、40℃、90%RHの条件下で測定することができる。
【0048】
(鱗片状の無機化合物)
本発明の紙製積層体のバリア層に含まれる鱗片状の無機化合物は、上記した本発明の紙製包装材料の製造方法に適用できる鱗片状の無機化合物と同様である。
【0049】
本発明の紙製積層体のバリア層において、無機化合物は、紙基材の表面に対して略並行に、層状に配列している。これにより、鱗片状の無機化合物は、曲がりくねった経路(迷路)を形成しており、その結果、バリア層のガスバリア性を向上させている。
【0050】
(バリア層の形成方法)
本発明の紙製積層体のバリア層を形成する方法は、ポリ塩化ビニリデンと、等電点がpH3.0~9.5である鱗片状の無機化合物とを含む原料を用いていれば、特に限定されるものではない。例えば、ポリ塩化ビニリデンの水分散型エマルジョンと、鱗片状の無機化合物と、を含む塗料組成物を調製し、紙基材に塗布する方法であってもよい。
【0051】
<その他の層>
本発明の紙製積層体は、紙基材とバリア層とを必須の層として含んでいれば、その他の層を任意に備えていてもよい。その他の層としては、特に限定されるものではなく、例えば、熱融着して構造体を形成するためのヒートシール層、異なる種類のバリア性を付与するための第2のバリア層、強度を補強するための補強層、あるいは、層と層との間を接着するための接着層等が挙げられる。
【0052】
ヒートシール層は、紙製積層体の最内層となるように配置する。ヒートシール層としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体(EP)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等からなる層が挙げられる。
【0053】
第2のバリア層としては、例えば、酸素や水蒸気等のガスを遮断する機能を発現する、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ナイロン(NY)、又はポリアクリロニトリル(PAN)からなる層等が挙げられる。ポリ塩化ビニリデン(PVDC)を、第2のバリア層として用いてもよい。
【0054】
補強層の材料としては、例えば、紙、合成紙、不織布等が挙げられる。これらには、隣接する層との接着性を付与するための接着剤が塗布されていてもよい。
【0055】
層と層との間を接着するための接着層としては、例えば、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマーからなる層等が挙げられる。
【0056】
その他の層を構成する樹脂等は、1種のみならず、2種以上がブレンドされていてもよい。また、必要に応じて、機能性等を付与するための添加剤等が配合されていてもよい。
【0057】
(印刷層)
本発明の紙製積層体は、紙基材の、バリア層とは反対側の面に、印刷層を有していてもよい。印刷層は、公知の構成であってよく、例えば、樹脂と顔料とを含む層であってよい。
【0058】
(その他の層の積層方法)
本発明の紙製積層体において、紙基材とバリア層以外のその他の層の積層方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、ドライラミネーション法、ホットメルトラミネーション法、エクストルージョンラミネーション法、及びサンドイッチラミネーション方法等が挙げられる。
【0059】
<紙製積層体の用途>
本発明の紙製積層体の用途は、特に限定されるものではない。バリア性が必要となる各種の用途に用いることができ、例えば、包装材としても用いることができる。中でも、バリア性が必要となる食品包装に適用した場合には、紙製の包装材であることから、環境への要請を満足させることができる。
【実施例0060】
以下、実施例及び比較例等により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
<材料>
実施例及び比較例においては、層を構成する材料として、以下を準備した。
【0062】
(1)紙基材
・片艶クラフト紙(OKブリザード、日本製紙)
(2)樹脂の水分散型エマルジョン
・水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY、pH=1.5)
(3)鱗片状の無機化合物
・合成マイカベース酸化チタン被覆パール顔料(TWINCLEPEARL(登録商標) GXB、日本光研、等電点≒pH5.0、平均粒子径:13μm、アスペクト比:20)
・アルミナ系板状フィラー(セラシュール(登録商標)、河合石灰工業、等電点≒pH7.7、平均粒子径:8μm、アスペクト比:20~40)
・合成マイカ(NK-8G、日本光研、等電点≒pH1.0、平均粒子径:8μm、アスペクト比:約45)
・カオリン(バリサーフ(登録商標)LX、イメリス、等電点:pH3未満、平均粒子径:1.5μm、アスペクト比:60)
・ベントナイト(クニピア(登録商標)F、クニミネ工業、等電点なし、平均粒子径:0.5μm、アスペクト比:500)
【0063】
<実施例1>
(塗料組成物の作製)
水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)20質量部に対して、合成マイカベース酸化チタン被覆パール顔料(TWINCLEPEARL(登録商標) GXB、日本光研)4.38質量部(塗料組成物の全固形分に対する無機化合物の割合:30質量%)を加え、攪拌機を使用して十分に攪拌させて、塗料組成物を得た。
【0064】
(紙製積層体の作製)
片艶クラフト紙(OKブリザード、日本製紙)に、バーコーターを用いて、上記で得られた塗料組成物を塗布し、乾燥させることで、紙基材とバリア層とを備える紙製積層体を得た。なお、塗料組成物の塗工量は、乾燥質量で15g/m
2とした。得られた紙製積層体の断面写真を、
図1に示す。
【0065】
<実施例2>
水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)20質量部に対して、アルミナ系板状フィラー(セラシュール(登録商標)、河合石灰工業)1.13質量部(塗料組成物の全固形分に対する無機化合物の割合:10質量%)を加えて塗料組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。
【0066】
<比較例1>
無機化合物を配合することなく、水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)を紙基材に塗布した以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。得られた紙製積層体の断面写真を、
図2に示す。
【0067】
<比較例2>
水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)20質量部に対して、合成マイカ(NK-8G、日本光研)4.38質量部(塗料組成物の全固形分に対する無機化合物の割合:30質量%)を加えて塗料組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。
【0068】
<比較例3>
水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)20質量部に対して、カオリン(バリサーフ(登録商標)LX、イメリス)4.38質量部(塗料組成物の全固形分に対する無機化合物の割合:30質量%)を加えて塗料組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。得られた紙製積層体の断面写真を、
図3に示す。
【0069】
<比較例4>
水分散系ポリ塩化ビニリデンエマルジョン(Diofan(登録商標)B204、SOLVAY)100質量部に対して、ベントナイト(クニピア(登録商標)F、クニミネ工業)1.96質量部(塗料組成物の全固形分に対する無機化合物の割合:4質量%)を加えて塗料組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、紙製積層体を得た。
【0070】
<評価>
(水蒸気透過度(WVTR)の測定)
得られた紙製積層体につき、水蒸気透過率測定装置(PERMATRAN-W Model 398、MOCON(登録商標)Inc,社)を用いて、40℃、90%RHの条件下で、水蒸気透過度を測定した。結果を表1に示す。なお、比較例4で作製した紙製積層体は、バリア性が無いため測定自体が開始しない結果となった。
【0071】
(判定)
得られた水蒸気透過度に基づき、以下の基準で判定を実施した。結果を表1に示す。
〇:5.0gm/m2-day未満
×:5.0gm/m2-day以上
【0072】