(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094219
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】試料中の被検出物質を検出する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20220617BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20220617BHJP
B01D 57/02 20060101ALI20220617BHJP
B03C 5/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N33/536 D
G01N21/64 C
B01D57/02
B03C5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207134
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】517174430
【氏名又は名称】ナノティス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 仁誠
(72)【発明者】
【氏名】永井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】長棟 輝行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 理紗
【テーマコード(参考)】
2G043
4D054
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA05
2G043EA01
2G043FA02
2G043FA03
2G043JA03
2G043KA02
2G043LA02
2G043LA03
4D054FA06
4D054FB05
4D054FB20
(57)【要約】
【課題】高感度な測定を専用の設備、環境、知識および技術を必要とすることなく行うことが可能となる新たな測定系を提供すること。
【解決手段】試料中の被検出物質を検出する方法であって、試料中で、電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮した被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定する工程を含み、被検出物質認識材料は特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識されており、特異的に被検出物質を認識して結合し、試料は、電極を検出セルの底部の内側に設けた検出セル内に存在し、(1)イメージセンサー上に透明な絶縁膜を設けて蛍光を測定するか、(2)検出セルの底部の外側に接するようにイメージセンサーを設けて蛍光を測定するか、(3)電極はX方向とY方向で異方性を有し、イメージセンサー上に電極と同様の異方性を有するスリットを設けて蛍光を測定するか、(4)検出セルの底部から励起光を照射し、検出セルの側面部にイメージセンサーを設けて蛍光を測定する、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の被検出物質を検出する方法であって、
試料中で、電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮した被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定する工程を含み、
被検出物質認識材料は特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識されており、特異的に被検出物質を認識して結合し、
試料は、電極を検出セルの底部の内側に設けた検出セル内に存在し、
(1)イメージセンサー上に透明な絶縁膜を設けて蛍光を測定するか、
(2)検出セルの底部の外側に接するようにイメージセンサーを設けて蛍光を測定するか、
(3)電極はX方向とY方向で異方性を有し、イメージセンサー上に電極と同様の異方性を有するスリットを設けて蛍光を測定するか、
(4)検出セルの底部から励起光を照射し、検出セルの側面部にイメージセンサーを設けて蛍光を測定する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の被検出物質を検出する方法に関する。具体的には、本発明は、高感度、高速度に検出可能な、試料中の被検出物質を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素、核酸、抗体などの生体物質はそれらが対象とする物質と高度な特異性で結合することを共通の特徴としている。生体物質の性質を応用した、いわゆるバイオセンシング技術は、例えば非特許文献1および2に開示されているように、加速度的に進化し、現在ではだれもが身近に感じるところまで普及が進んでいる。
非特許文献1に開示されているように、イムノクロマトグラフィー法により抗体を用いた測定方法は多種開発されてきている。イムノクロマトグラフィー法は使用するにあたり、知識、技術、装置、環境を選ばないため、例えば、抗ヒト絨毛性ゴナドトロピン抗体を用いた妊娠検査器は一般家庭で広く使われている。同様に、A型およびB型インフルエンザウイルスに結合する抗体を用いたイムノクロマトグラフィー法は、臨床現場で迅速にインフルエンザの判定をすることに大きく寄与している。
【0003】
このように、手軽に検査ができる系を構成しやすいイムノクロマトグラフィー法であるが、感度の向上という点では技術的な壁がある。そこで、例えば、非特許文献3に開示されているように、イムノクロマトグラフィー法において移動相の抗体を標識する方法を蛍光物質、もしくは発光を惹起する酵素などに置き換えることにより、感度の向上が試みられている。
また、インフルエンザウイルスにおいては、非特許文献4に開示されているように、100~1000倍の感度向上に成功すれば検体を鼻汁ではなく、唾液での検査が可能となるため、医療従事者および患者の負担が軽減されることが期待されている。
【0004】
非特許文献5に開示されているように、最近はアプタマー等の呼称で特定の分子をターゲットとして特異的に結合が可能な化合物の組み合わせを人工的に創製する試みも盛んである。
【0005】
また、水中の細菌を電気的に濃縮し、その電極系を用いて、インピーダンスの変化から細菌の濃度を測定した例が非特許文献6に開示されている。
さらに、非特許文献7には、電極付近に菌を濃縮したのちに菌に特異性のある抗体を添加して凝集させ、その後洗浄することによって、抗体によって凝集したかどうかで菌を判定することが開示されている。
【0006】
ここで、特許文献1には、溶液中の微生物数を測定するための微生物数・微生物濃度測定装置が開示されている。具体的には、レジオネラ菌を対象としこれに結合する抗体を蛍光標識し正の誘電泳動でレジオネラ菌を電極付近に集め、電極間ギャップの蛍光が変化する様子を電極間ギャップと同じ程度の大きさの光ファイバーを用いて観測している。
また、特許文献2には、複合体物質と試料中に含まれる特定分子以外の分子とを分離する方法が開示されている。具体的には、AFPを検出対象物質とし、抗AFP抗体を予めラテックス粒子に結合し、AFPの異なるエピトープに結合する抗体WA1のFabを蛍光標識したものと抗原抗体反応させたのちに、誘電泳動を行いAFPの有り無しで誘電泳動される様子をサンドイッチ反応した蛍光標識Fabで評価している。すなわち、特許文献2に開示される技術では、誘電泳動を行うことによりAFPを介してラテックス粒子に結合した蛍光標識Fabと、フリーに存在する蛍光標識Fabを、分離しているので、抗原の有無を、誘電泳動の有無によって区別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-174636号公報
【特許文献2】特開第2001-165906号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】西島、SCANS NEWS 2005 II
【非特許文献2】C. Sebastian et al, Indo American Journal of Pharmaceutical Research.2016:6(07).
【非特許文献3】C. K. Lee et al, Journal of Clinical Virology 55 (2012) 239- 243
【非特許文献4】A. Sueki et al, Clinica Chimica Acta 453, 71-74(2016)
【非特許文献5】坂本泰一, 日本結晶学会誌 60, 129-134(2018)
【非特許文献6】J. Suehiro et al 1999 J. Phys. D: Appl. Phys. 32 2814
【非特許文献7】J. Suehiro et al. J. Electrostatics 58 229(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献6に記載の方法では、菌の同定のみならず細菌と浮遊粒子の区別もつけられない。
また、非特許文献7に記載の方法では、抗体による特異性で菌の同定は可能となるが、反応セルは十分な流量を確保するために一定以上の大きさとなり、装置も三種の液体を切り替えて流す必要があるため大型化せざるを得ない。
【0010】
上記のとおり、イムノクロマトグラフィー法に代表される手軽さを維持しながら、試料中の被検出物質を濃縮するためには装置が複雑化、大型化することが課題であった。また、イムノクロマトグラフィー法における一番大きな課題として、抗原抗体反応が起きた前後で洗浄する、いわゆるB/F分離を必要としたことである。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、高感度な測定を専用の設備、環境、知識および技術を必要とすることなく行うことが可能となる新たな測定系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねることによって、検出部の感度を上げるにとどまらず、試料中の被検出物質を濃縮することが測定系全体として感度を上げる最も合理的な方法の一つであると考えた。また、B/F分離を必要としない均一系での検出系をベースとしながらも、これに電気的に被検出物質を濃縮する技術を融合させることに成功し、また、本発明においては、被検出物質と被検出物質認識材料の結合により生じる蛍光の蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定する際に、所定の方法を用いることで、従来法とは異なる測定系を提供し得ることに到達し、感度と簡便さを両立させた新しい価値を生み出したものである。
【0012】
本発明は以下のとおりである。
[1]
試料中の被検出物質を検出する方法であって、
試料中で、電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮した被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定する工程を含み、
被検出物質認識材料は特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識されており、特異的に被検出物質を認識して結合し、
試料は、電極を検出セルの底部の内側に設けた検出セル内に存在し、
(1)イメージセンサー上に透明な絶縁膜を設けて蛍光を測定するか、
(2)検出セルの底部の外側に接するようにイメージセンサーを設けて蛍光を測定するか、
(3)電極はX方向とY方向で異方性を有し、イメージセンサー上に電極と同様の異方性を有するスリットを設けて蛍光を測定するか、
(4)検出セルの底部から励起光を照射し、検出セルの側面部にイメージセンサーを設けて蛍光を測定する、方法。
なお、試料中の被検出物質を検出する方法は、
試料中の被検出物質、被検出物質認識材料もしくは被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮する工程、
場合により、試料中で被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する工程、
被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定する工程、
測定された蛍光強度により試料中の被検出物質の存在を確認する工程、
を含む、方法であってもよい。
[2]
試料中で被検出物質と、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料と、を混合することにより、被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する、[1]に記載の方法。
[2-1]
試料中の被検出物質を検出する方法であって、
試料中の被検出物質、被検出物質認識材料もしくは被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮する工程、
場合により、試料中で被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する工程、
被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度を測定する工程、
測定された蛍光強度により試料中の被検出物質の存在を確認する工程、
を含み、
蛍光強度を測定するために、試料中で被検出物質と、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料と、を混合することにより、被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する、
被検出物質認識材料は特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識されており、特異的に被検出物質を認識して結合する、方法。
[3]
試料中で被検出物質と、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質もしくは被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識される被検出物質ではない物質と、を混合することにより、試料中の被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する、[1]または[2]に記載の方法。
[3-1]
試料中の被検出物質を検出する方法であって、
試料中の被検出物質、被検出物質認識材料もしくは被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮する工程、
場合により、試料中で被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する工程、
被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度を測定する工程、
測定された蛍光強度により試料中の被検出物質の存在を確認する工程、
を含み、
蛍光強度を測定するために、試料中で被検出物質と、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質もしくは被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識される被検出物質ではない物質と、を混合することにより、試料中の被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する、
被検出物質認識材料は特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識されており、特異的に被検出物質を認識して結合する、方法。
[4]
試料中で特定波長を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料とが、被検出物質に同時に結合する、[1]~[3]に記載の方法。
なお、[2]または[3]については、[2]は[2-1]であってもよく、[3]は[3-1]であってもよい。
[5]
特定波長で蛍光を発する蛍光物質が波長1で励起して波長2を発する蛍光物質であり、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質が波長2を吸収して波長3を発する蛍光物質であり、波長1で励起して波長3の蛍光強度を測定する、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
ここで、波長3の蛍光強度の測定は、波長3単独、波長2および波長3の双方の測定であってもよい。
[6]
特定波長で蛍光を発する蛍光物質が波長1で励起して波長2を発する蛍光物質であり、当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質が波長2を吸収するが少なくとも測定波長域では蛍光を発しない消光物質であり、波長1で励起して波長2の蛍光強度を測定する、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
被検出物質認識材料、被検出物質および被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識される被検出物質ではない物質からなる群から選択されるいずれかが担体粒子に物理的または化学的に結合している、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
試料中で特定波長を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料とが、被検出物質に同時に結合し、
担体粒子に物理的または化学的に結合している被検出物質認識材料をさらに含み、試料中で被検出物質と当該被検出物質認識材料とが結合体を形成する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]
担体粒子が、金属微粒子、金属酸化物微粒子、非金属性微粒子、金属コーティングされた樹脂微粒子または非感染性の球状生物微粒子である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法
[10]
正の誘電泳動により局所に濃縮する、[1]~[9]のいずれかに記載の方法
[11]
被検出物質認識材料が、抗体または抗体断片である、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]
被検出物質が、細菌、ウイルス、核酸、タンパク質またはペプチドである、[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]
被検出物質がインフルエンザウイルス由来物質である、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]
蛍光物質の少なくとも1つが量子ドットである、[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]
被検出物質が核酸であり、被検出物質認識材料が被検出物質の核酸の少なくとも一部に対して相補的な核酸である、[1]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]
被検出物質が単鎖のRNAである、[1]~[15]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高感度な測定を専用の設備、環境、知識および技術を必要とすることなく行うことが可能となる。中でも、本発明においては、被検出物質と被検出物質認識材料の結合により生じる蛍光の蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定することで、従来法とは異なる測定系を提供することを可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】NPQSY9の添加によるAb1Qd565の蛍光スペクトルの変化を示す。
【
図8】BSAQSY21の添加によるAb1Qd655の蛍光強度の時間変化を示す。
【
図9】BSAの添加による消光阻害を示す。BSAQSY21で消光されていたAb1Qd655の蛍光増強の結果である。
【
図10】それぞれの段階での蛍光スペクトル(励起370nm)の比較を示す。
【
図13】Ab2AT390の吸収スペクトル(破線)および蛍光スペクトル(実線、390nm励起)を示す。
【
図14】Ab3DY485の吸収スペクトル(破線)および蛍光スペクトル(実線、470nm励起)を示す。
【
図16】検査容器の構成図を示す。スワブ164は矢印の方向に持ち上げることにより、唾液が搾り取られて反応液162に混合する。
【
図17】イメージセンサー上に透明な絶縁膜を設けて蛍光を測定する実施態様の構成図を示す。
【
図18】イメージセンサー上に透明な絶縁膜を設けて蛍光を測定する実施態様の構成の断面図を示す。
【
図19】検出セルの底部の外側に接するようにイメージセンサーを設けて蛍光を測定する実施態様の構成図を示す。
【
図20】電極はX方向とY方向で異方性を有し、イメージセンサー上に電極と同様の異方性を有するスリットを設けて蛍光を測定する実施態様の構成図を示す。
【
図21】電極はX方向とY方向で異方性を有し、イメージセンサー上に電極と同様の異方性を有するスリットを設けて蛍光を測定する実施態様における判定法の一態様を示す。
【
図22】検出セルの底部から励起光を照射し、検出セルの側面部にイメージセンサーを設けて蛍光を測定する実施態様の構成図を示す。
【
図23】IgG1Qd585の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。
【
図24】IgG2AF594の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本発明の検出方法は、
試料中の被検出物質を検出する方法であって、
試料中で、電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮した被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度の変化を測定する工程を含む。
本発明の検出方法において、被検出物質認識材料は特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識されており、特異的に被検出物質を認識して結合し、試料は、電極を検出セルの底部の内側に設けた検出セル内に存在して、蛍光強度の変化がイメージセンサーで測定される。
そして、本発明の検出方法においては、以下の(1)~(4)のいずれかの方法により測定を行うことで、蛍光強度の変化を測定して試料中の被検出物質を検出する。
(1)イメージセンサー上に透明な絶縁膜を設けて蛍光を測定する;
(2)検出セルの底部の外側に接するようにイメージセンサーを設けて蛍光を測定する;
(3)電極はX方向とY方向で異方性を有し、イメージセンサー上に電極と同様の異方性を有するスリットを設けて蛍光を測定する;
(4)検出セルの底部から励起光を照射し、検出セルの側面部にイメージセンサーを設けて蛍光を測定する。
【0017】
試料中の被検出物質を検出する方法として、
試料中の被検出物質、被検出物質認識材料もしくは被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮する工程、
場合により、試料中で被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する工程、
被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定する工程、
測定された蛍光強度により試料中の被検出物質の存在を確認する工程、
を含む方法であってもよい。
この場合、試料中の被検出物質を検出する方法は、
試料中の被検出物質、被検出物質認識材料もしくは被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮する工程、
場合により、試料中で被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する工程、
被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定する工程、
測定された蛍光強度により試料中の被検出物質の存在を確認する工程、を含み、
蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定する工程において、
(1)イメージセンサー上に透明な絶縁膜を設けて蛍光を測定する;
(2)検出セルの底部の外側に接するようにイメージセンサーを設けて蛍光を測定する;
(3)電極はX方向とY方向で異方性を有し、イメージセンサー上に電極と同様の異方性を有するスリットを設けて蛍光を測定する;
(4)検出セルの底部から励起光を照射し、検出セルの側面部にイメージセンサーを設けて蛍光を測定する。
【0018】
本発明の検出方法により被検出物質認識材料に結合させた蛍光物質を利用して蛍光スペクトルなどの変化を測定することによって、被検出物質を検出することができる。また、蛍光スぺクトルなどの変化を検出することにより、電気泳動または誘電泳動を蛍光スぺクトルなどの変化の測定とは別の用途すなわち、直接または間接的な被検出物質の濃縮に独立して用いることが可能な方法を提供し得る。したがって、本発明により、イムノクロマトグラフィー法を利用した従来の方法に比して高感度、高速度で検出可能な検出方法が提供される。
また、本発明の検出方法においては、被検出物質に特異的に結合し、蛍光物質で標識しておいた被検出物質認識材料と被検出物質との結合体を濃縮しつつ、被検出物質認識材料に結合させた蛍光物質を利用して蛍光スペクトルなどの変化を測定することによって、被検出物質を検出してもよい。この場合においても、本発明により、イムノクロマトグラフィー法を利用した従来の方法に比して高感度、高速度で検出可能な検出方法が提供される。
【0019】
本発明においては、被検出物質と被検出物質認識材料との間の結合に関し、その濃度や解離定数、結合曲線等について考察し、試料中の被検出物質を検出するためには、感度を上げる抜本的な対策として、被検出物質の濃度を結合曲線における変曲点付近に近づけてシステムとしての感度を上げることが抜本的な対策になるのではないかと考えた。そこで、検体を濃縮することが感度を上げることにつながるのではないかと考え、濃縮方法として電気泳動または誘電泳動を採用し、誘電泳動が好ましいと発想するに至った。また、ウイルスなどを被検出物質とする場合を考えると、被検出物質としてウイルスを用い、被検出物質認識材料としてウイルスの表面抗原に結合する抗体を用いることも可能であるが、ウイルス表面は時間経過による変異が大きいため、核タンパク質を被検出物質としてもよい。一般に核タンパク質は、界面活性剤を用いて抽出可能であるが、インフルエンザウイルスや2020年にパンデミックを引き起こした新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などは1本鎖のRNAが核タンパク質と同様の条件で抽出されるため、RNAを被検出物質とすることも可能である。
【0020】
本発明の検出方法においては、被検出物質と特異的に結合する被検出物質認識材料を利用するが、好ましくは水中で被検出物質と特異的な結合ができる被検出物質認識材料を用いる。この時、被検出物質認識材料は、遊離の形態である。また、後述するように、被検出物質や被検出物質と特異的に結合する被検出物質認識材料が担体粒子に物理的または化学的に結合している場合があり得るが、この場合も、被検出物質認識材料は、担体粒子に結合しているものの、基板などに固定はされておらず、遊離の状態となっている。すなわち、溶液中で本発明の検出方法は実施されるが、被検出物質認識材料は溶液中を移動する。
被検出物質認識材料が被検出物質と特異的に結合するとは、被検出物質認識材料が認識して結合する対象として、被検出物質に対する特異性を有していることを意味し、本発明における「特異性」とは、被検出物質認識材料が特定の被検出物質に結合することである。
【0021】
本発明の検出方法において測定対象となる試料としては、特に限定されないが、生体由来試料や、食品、工場、学校や病院といった建物内に存在するものから採取される試料などが挙げられる。
病院においては、院内感染が問題となることがあり、本発明の検出方法を適用して、高感度、高速度で院内感染の起因菌を検出可能である。
生体由来試料の生体としては、特に限定されないが、例えば、哺乳動物が挙げられ、具体的には、ヒトや家畜などが挙げられ、試料として、唾液、血液などの生体由来試料を用いてもよい。
本発明においては、上記試料をそのまま検出対象としてもよく、水やアルコールなどの溶媒で試料を希釈、懸濁または溶解したものを用いてもよい。
また、試料中に被検出物質が存在していることを検出するために、試料をそのまま検出するための試料とすることが好適であるものの、検出を行う前に、超音波処理などを行って、試料を粉砕して被検出物質を溶出などしてもよい。
【0022】
被検出物質となるものは、特に限定されないが、例えば、細菌、ウイルス、核酸、タンパク質およびペプチドなどが挙げられる。
細菌やウイルスの存在を確認することにより、有害細菌やウイルスの存在を確認することが可能となるし、核酸、タンパク質およびペプチドなどの生体由来物質の存在を確認することで、試料中の有害物質の存在の検出や、有用物質の存在の検出が可能となる。
生体内に存在する物質を被検出物質とする場合には、試料に事前に超音波処理などを行って、試料中に被検出物質を溶出または析出させておくことが好ましい。
被検出物質となる細菌としては、特に限定されないが、例えば、大腸菌(好ましくは病原性大腸菌)、肺炎球菌、白癬菌、クラミジア、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、カンピロバクターおよび結核菌などが挙げられる。
被検出物質となるウイルスとしては、特に限定されないが、例えば、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、コロナウイルス(新型コロナウイルスを含む)、ロタウイルス、肝炎ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスおよびヒトパピローマウイルスなどが挙げられる。
細菌やウイルスとしては、病原性を有するものが好適な被検出物質である。病原性を有するものとしては、感染症の原因となるものや、食中毒の原因となるものが挙げられ、食品の製造過程などにおける衛生管理の観点で検査することが有用なものであってもよい。例えば、食品の腐敗を促進してしまなど、食品中にコンタミしないことが求められる非病原性大腸菌などが挙げられる。
被検出物質となる核酸、タンパク質およびペプチドとしては、細菌やウイルスに由来するものが挙げられ、細菌やウイルスに由来するもの以外としては、蛇毒のような毒物、異常プリオンや各種腫瘍マーカーとなるものも挙げられる。また、生体内に存在して血液検査など生体の状態を測定するために実施される検査での対象となる物質であってもよい。
【0023】
被検出物質として、以下に例示してインフルエンザウイルスについて説明するが、インフルエンザウイルス核タンパク質またはインフルエンザウイルス粒子などのインフルエンザウイルス由来物質であってよく、被検出物質認識材料としては、例えば、インフルエンザウイルスの表面抗原に結合する抗体およびインフルエンザウイルスより抽出した核タンパク質に結合する抗体を用いることができる。
【0024】
本発明においては、試料中の被検出物質を認識し結合する被検出物質認識材料としては、好ましくは、被検出物質認識材料が抗体または抗体断片である。また、インフルエンザウイルスなどのウイルスを認識するような核酸断片(アプタマー)であってもよい。
抗体または抗体断片としては、試料中でその存在を検出することを予定している被検出物質を認識することが知られた抗体やその抗体断片を用いることができる。
被検出物質認識材料としての抗体または抗体断片は、従来公知の方法により製造可能である。
抗体または抗体断片としては、糖鎖が結合している分子であることが好ましく、抗体断片としては、蛍光物質や消光物質を標識可能なものであり、被検出物質を認識することができれば特に限定されない。特に限定されないが、Fv、FabおよびF(ab')2などが挙げられる。
被検出物質が、核酸であるとき、被検出物質認識材料は、被検出物質の核酸の塩基配列の一部に対して相補的な塩基配列を有する核酸であってよい。核酸は、従来公知の方法により製造可能である。
【0025】
本発明においては、被検出物質認識材料として、抗体または抗体断片を用いることが好ましいが、Fcを含む抗体の全分子をそのまま用いることが好ましく、糖鎖を含むことが好適である。
糖鎖を有する抗体を用いてFc領域の糖鎖を介して蛍光標識を行うことで、アフィニティーを維持することが可能である。
抗体としては、ポリクローナル抗体を用いてもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。
モノクローナル抗体の製造は従来公知の方法により実施可能であり、本発明においては、公知の方法により製造される抗体であってもよく、市販の抗体を用いることも可能である。
また、抗体の由来は特に問わないため、哺乳動物が挙げられ、実験動物であってもよく、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ラクダなどに由来する抗体を利用可能である。抗体としては、ヒト抗体であってもよく、また、キメラ抗体や、ヒト化抗体などを用いてもよい。
抗体は、IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgEといったクラスがあり、IgGまたはIgMを好適に用いればよいが特に限定されず、例えば、IgGを用いる場合にもIgG1~IgG4などのサブクラスは特に限定されない。
抗体断片は、上記説明したようなこれらの抗体の断片であってよい。
【0026】
本発明においては、B/F分離を行わずに被検出物質を検出できる点で利点がある。また、中でも、被検出物質認識材料として抗体または抗体断片を用いる場合、B/F分離を行わずに被検出物質を検出できる点で利点がある。
ここで、本発明におけるB/F分離とは、被検出物質認識材料に結合した被検出物質(B)から水中に遊離して存在している被検出物質(F)を分離することである。最も一般的な例として、ELISA法では1)抗体を容器の表面に固定化し、洗浄、2)非特異吸着を抑えるブロッキング剤を加えて、洗浄、3)検体を加えて一定時間後に廃棄して、洗浄、4)抗原に結合する抗体(酵素標識)を加えて、洗浄、5)何らかの基質を加えて酵素反応を検出、などの工程を含む方法であるが、各工程で洗浄操作が入り、このために各工程が煩雑化、設備が複雑化、当該検査を行う者が一定のレベルで技術に習熟することが必要となる。
【0027】
本発明においては、被検出物質と被検出物質認識材料とが結合した結合体を測定対象としている。
被検出物質と被検出物質認識材料の結合は、被検出物質を含む試料中で行われるため、試料は、液性試料であることが好ましい。
被検出物質と、被検出物質認識材料との結合は、被検出物質の存在を確認するために検出対象となる試料と、被検出物質認識材料とを混合することにより行われる。
被検出物質が存在しない試料を用いた場合、被検出物質と被検出物質認識材料との結合は起こらないが、本発明の検出方法においては、測定された蛍光強度の変化により試料中の被検出物質の存在を確認する工程を行うことにより、被検出物質と被検出物質認識材料との結合が起こっていなかったことが確認される。
したがって、本発明の検出方法においては、試料中で被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する工程は、被検出物質が存在する試料中では結合が生じるが、被検出物質が存在しない試料中では結合が生じない。
すなわち、本発明の検出方法の一実施態様における結合工程は、実質的には、試料と被検出物質認識材料とを混合する工程と理解される。
被検出物質と被検出物質認識材料との結合は、可逆な平衡反応となる結合であってよく、生体内におけるリガンドと受容体との結合や、抗原と抗体との結合と類似の様式での結合であってよい。
【0028】
結合工程としては、特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)試料中の被検出物質と、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料と、を混合することにより、試料中の被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する、
(2)試料中の被検出物質と、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質もしくは被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識される被検出物質ではない物質と、を混合することにより、試料中の被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する、および
(3)試料中の被検出物質と、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、を混合することにより、試料中の被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する。
【0029】
結合工程が上記(1)である場合、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料とにおける被検出物質の認識部位は異なっていることが好ましい。認識部位が異なることにより、2種の被検出物質認識材料は、被検出物質と同時に結合することができ、いわゆるサンドイッチ構造を取る。
この場合、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料と、試料中の被検出物質の混合順序は特に限定されないが、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料とが存在する空間に、被検出物質が含まれているかを確認したい試料を添加して、また、その逆でも可であるが、被検出物質認識材料と、被検出物質を混合して結合させることが好ましい。試料中の被検出物質と一方の被検出物質認識材料とを先に混合して結合させて、その後、他方の被検出物質認識材料を混合してもよい。この場合、他方の被検出物質認識材料の混合時期は、結合体の濃縮後であってもよい。また、被検出物質または被検出物質認識材料を濃縮した後に、結合体を形成してもよく、濃縮と結合体の形成が同時期に行われてもよい。
結合工程が上記(1)である場合、被検出物質には、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料とが、結合するため、模式的には、2つの異なる被検出物質認識材料により被検出物質はサンドイッチされる。
【0030】
結合工程が上記(2)である場合、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質における被検出物質は、試料中に存在しているかを確認したい被検出物質が選択される。また、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された、被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識される被検出物質ではない物質を用いてもよく、当該被検出物質ではない物質は、特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識されていると共に、被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識されるため、被検出物質におけるのと同様の挙動を取る。以下、本明細書において、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質の説明は、被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識される被検出物質ではない物質にも適用される。被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識される被検出物質ではない物質は、疑似被検出物質と理解される物質であってよい。
この場合、一方の被検出物質と被検出物質認識材料とを先に混合して結合させて、その後、他方の被検出物質を混合してもよい。この場合、他方の被検出物質の混合時期は、結合体の濃縮後であってもよい。また、被検出物質または被検出物質認識材料を濃縮した後に、結合体を形成してもよく、濃縮と結合体の形成が同時期に行われてもよい。
結合工程が上記(2)である場合、被検出物質認識材料には、試料中の被検出物質と、蛍光物質または消光物質で標識された被検出物質とが、競合的に結合する。
特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質とを結合しておいて、おって、試料中の被検出物質を混合することが好ましい。なお、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、試料中の被検出物質とを結合しておいて、おって、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質を混合してもよい。
【0031】
蛍光物質または消光物質は、被検出物質と被検出物質認識材料との結合を阻害しないか、できるだけ結合を阻害しない部位で結合している必要がある。また、2種の蛍光物質が用いられる場合、蛍光物質および消光物質が用いられる場合には、それぞれが、結合体において近傍に存在するように、具体的には、光励起エネルギーを授受できるように被検出物質または被検出物質認識材料との結合部位が選択されることが好ましい。
【0032】
本発明においては、被検出物質や被検出物質認識材料を標識する蛍光物質は、適宜選択すればよい。
蛍光物質としては、以下の一部またはすべての要件を満たす物質が好適に用いられる。
・励起波長が長いこと、好ましくは350nm以上、より好ましくは400nm以上
・蛍光波長が短いこと、好ましくは1500nm以下。
・吸光係数が高いこと、好ましくはモル吸光係数が10000以上。
・量子収率が高いこと、好ましくは0.1以上。
・複数の蛍光物質を用いる場合、一方の蛍光物質を励起する波長では他方の蛍光物質は励起されず、他方の蛍光物質の蛍光を測定する際には一方の蛍光物質が発する蛍光が重ならないこと。この場合、一方の蛍光物質の蛍光により他方の蛍光物質の励起が効率よく行えるよう、一方の蛍光物質の蛍光スペクトルと他方の蛍光物質の励起スペクトルのピークが十分近いことが好ましい。さらに、一方の蛍光物質の蛍光スペクトルは十分狭く、他方の蛍光物質の励起スペクトルは十分広いことが好ましく、励起スペクトルのピークと蛍光スペクトルのピークの位置の間の差(ストークスシフト)が十分大きいことがより好ましい。
また、蛍光物質としては、以下の一部またはすべての要件を満たすことが好適である。
・標識する物質の水溶性を阻害しないこと。
・標識した後で、被検出物質と被検出物質認識材料の特異的結合を阻害しないこと。
・標識により、非標識の物質を凝集させない、および/または光散乱を増強させないこと。
本発明においては、被検出物質や被検出物質認識材料を標識する消光物質は、適宜選択すればよい。
消光物質としては、上記蛍光物質について記載した要件に加え、以下の要件を満たす物質が求められる。
・エネルギー移動しても第二の蛍光がでないか、測定範囲よりさらに遠い波長で光る。
【0033】
本発明の検出方法においては、蛍光物質の少なくとも1つが量子ドットであることが好ましい。
蛍光標識として、量子ドットと一般に呼ばれている、半導体からなる粒径数nmの蛍光粒子が有機色素の数十倍の吸光係数と量子収率を持っていて、蛍光が強くかつ半値幅が狭いので系としては高い性能を得やすい。半値幅が狭いことにより、FRET現象と呼ばれているエネルギー移動の際、発光の波長範囲で漏らさず励起エネルギーを相手の色素(アクセプター)に受けさせることができる。量子ドットを抗体の糖鎖に結合する方法を取ることにより、場合によっては生じていたFv領域の化学操作によるアフィニティーの低減を完全に回避することができる点も大きな利点である。
なお、本発明においては、正確な意味でのFRET的エネルギー移動である必要はなく、結果的に優位に判別できるだけの変化を生じるエネルギー移動が起これればよい。
【0034】
本発明において、被検出物質、被検出物質および被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識される被検出物質ではない物質、または被検出物質認識材料が担体粒子に物理的または化学的に結合していてもよい。
担体粒子に結合する被検出物質認識材料を用いるか用いないかの判断は、被検出物質の性質により決定してよい。
本発明の検出方法の一実施態様においては、被検出物質、被検出物質認識材料、または被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮する。したがって、被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の形成は、濃縮工程の前工程であっても、後工程であってもよく、また、濃縮と結合を同時に行ってもよい。例えば、被検出物質と被検出物質認識材料とを混合する際に、電気泳動または誘電泳動を行えば、濃縮工程と結合工程が同時に行われているといえる。
特に限定されないが、例えば、電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮することが可能な被検出物質と被検出物質認識材料との結合体であれば、担体粒子に結合していない被検出物質認識材料を用いることができる。なお、電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮することが可能な被検出物質と被検出物質認識材料との結合体であったとしても、被検出物質認識材料を担体粒子に結合させて、より効率的に電気泳動または誘電泳動を行ってもよい。
したがって、本発明の検出方法を行う前に、被検出物質自体、被検出物質認識材料自体、被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮することが可能か確認することにより、被検出物質認識材料に担体粒子を物理的または化学的に結合させるか決定してよい。
被検出物質自体、被検出物質認識材料自体、被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮することができない場合に、被検出物質自体、被検出物質認識材料自体、被検出物質と被検出物質認識材料との結合体のいずれかに担体粒子を物理的または化学的に結合させてよい。
担体粒子の選択は、電気泳動または誘電泳動による局所への濃縮効率により決定すればよい。
被検出物質認識材料を担体粒子に物理的または化学的に結合させる方法は、特に限定されないが、従来公知の方法や、担体粒子に添付されるマニュアルに沿って結合させてよい。
【0035】
本発明においては、担体粒子に物理的または化学的に結合している被検出物質認識材料を含んでいてもよい。
当該被検出物質認識材料は、蛍光物質や消光物質で標識されていても、いなくてもよいが、標識されていない被検出物質認識材料であってよい。
この場合、例えば、
試料中で特定波長を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料とが、被検出物質に同時に結合し、
担体粒子に物理的または化学的に結合している被検出物質認識材料をさらに含み、試料中で被検出物質と当該被検出物質認識材料とが結合体を形成する、
あるいは、
試料中で被検出物質と、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質もしくは被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識される被検出物質ではない物質と、担体粒子に物理的または化学的に結合している被検出物質認識材料と、が用いられてもよい。
標識されていないが、担体粒子に物理的または化学的に結合している被検出物質認識材料を用いずに、標識されている被検出物質認識材料が、さらに、担体粒子に物理的または化学的に結合していてもよい。
【0036】
本発明の検出方法において用いられる担体粒子は、被検出物質認識材料に物理的または化学的に結合させた場合に、被検出物質との結合体を局所に濃縮可能であれば特に限定されないが、従来公知の担体粒子を用いてよい。また、実施例で、用いた担体粒子は、本発明における好適に用いることが可能な担体粒子の一例である。
担体粒子の具体例としては、特に限定されないが、例えば、金属微粒子、金属酸化物微粒子、非金属性微粒子、金属コーティングされた樹脂微粒子および非感染性の球状生物微粒子などが挙げられる。
金属微粒子の具体例としては、金、銀、白金、チタン、パラジウム、鉄およびアルミニウムなどが挙げられる。
金属酸化物微粒子の具体例としては、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよびITO(インジウム-スズ酸化物)、ATO(アンチモンースズ酸化物)などが挙げられる。
非金属性微粒子の具体例としては、磁性粒体や、黒鉛、ポリスチレン、導電性樹脂からなる微粒子などが挙げられる。
非感染性の球状生物微粒子としては、細菌、卵菌、変形菌または真菌などに属する菌類であってよく、その具体例としては、乳酸球菌および酵母(イースト菌)などが挙げられる。
積水化学工業製のミクロパールやミクロパールAuの商品名で販売されている、導電性金属で表面をメッキした微粒子を用いてもよい。
【0037】
担体粒子の粒径は、特に限定されず、用いられる担体粒子に応じて適宜選択される。
粒形は、特に限定されないが、例えば、金コロイド微粒子としては30~100nm、好ましくは40~60nm、ポリスチレン微粒子としては100nm~3μm、乳酸球菌やイースト菌としては1~5μmの範囲であること好ましい。
金属コーティングされた樹脂微粒子は、5μm以下の粒径を有する微粒子を好適に用いることができる。
【0038】
本発明においては、試料中で被検出物質と被検出物質認識材料とを結合して、被検出物質と被検出物質認識材料との結合体としたのち、結合体を電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮しつつ、蛍光強度の変化を測定してもよい。
ここで、被検出物質認識材料は担体粒子に結合していてもよい。
結合体の電気泳動または誘電泳動は、従来公知の方法により実施可能である。
本発明においては、誘電泳動が好適に用いられるが、誘電泳動を行って被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を濃縮して、所望の被検出物質を検出することが可能となっている。なお、電気泳動により結合体を濃縮する場合にも誘電泳動の場合と同様に、所望の被検出物質を検出することが可能である。
【0039】
電気泳動または誘電泳動を行うための結合体に対する電界を印加する方法として、一つには直流をかけてもよい。通常、水中の微粒子は正負いずれかの表面電荷で帯電している。例えば大腸菌の場合は負に帯電している。大腸菌の浮遊している試料にゲル電極を用いて直流電圧を印加した場合、正極に大腸菌がゲル付近に固体を形成するかのように凝集する。この時電圧を遮断すればこの固化状態がほぐれ、正負を逆転すると反対方向に移動することは本発明者らによって確認されている。この状態で大腸菌を測定することにより、検出系として感度が上がる。
直流で印加する(電気泳動)と、水の電気分解を誘引することがあり、また、同じ原理で電極材料がイオン化して溶解してしまうことが考えられるので、交流で印加する(誘電泳動)ことが好ましい。
交流で印加する場合には、金属電極で数Vまで印加しても電気分解は起こらず、誘電泳動と呼ばれる現象により粒子は電界密度の異なる領域間を移動することが知られている。この時、粒子は表面電荷ではなく、粒子および溶媒の誘電性と導電性と電界の周波数が関係することが知られている(R. Pethig, BIOMICROFLUIDICS, 4, 022811(2010))。
印加する電圧は、特に限定されないが、例えば、0.1~10Vであり、1~5V、1~4V、2~4Vであってもよい。周波数としては、特に限定されないが、例えば、100Hz~200MHzであり、MHzのオーダーであることが好ましく、2MHz前後であってもよい。
【0040】
交流を使用する場合の誘電泳動は、対象とする粒子および溶媒の誘電率と導電率、印加電圧および周波数(正弦波の場合)で発生する誘電泳動の支配因子が変わる。正の誘電泳動すなわち電極の角のような電界密度が高いところに粒子が集まる場合について説明したが、周波数帯域および誘電率、導電率の組み合わせによっては、負の誘電泳動が発生し粒子が電極から離れる方向に移動する場合もあり得る。
本発明においては、正の誘電泳動であってもよく、負の誘電泳動であってもよいが、正の誘電泳動であることが好ましい。
【0041】
本発明においては、結合体を局所に濃縮しつつ、蛍光強度の変化を測定してもよく、この場合、B/F分離を行わずに、試料中の被検出物質の存在を確認することが可能となる。
本発明において濃縮しつつ、蛍光強度の変化を測定するとは、B/F分離を行っていないことを意味しており、B/F分離を行わないのであれば、結合体を局所に濃縮した後に、蛍光強度を測定してもよい。
また、本発明の一実施態様においては、
試料中の被検出物質、被検出物質認識材料もしくは被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮する工程、
場合により、試料中で被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する工程、
被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定する工程、
を含むが、濃縮と蛍光強度測定が同時であってもよく、濃縮と結合が同時であってもよく、結合と蛍光強度測定が同時であってもよく、濃縮と結合と蛍光強度測定が同時であってもよい。
なお、本発明の一実施態様においては、設計の自由度を高めるために、濃縮と蛍光強度測定とを分離することを考え、蛍光の強度が変化する系を用いて蛍光変化から検出を行う工程と、これとは独立して電気泳動または誘電泳動により反応系を濃縮してシステム全体の感度を向上させる工程をそれぞれ独立に行うことが、より好ましい態様である。
また、好ましい一実施態様としては、
試料中で被検出物質と、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料と、を混合することにより、被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する、
あるいは、
試料中で被検出物質と、特定波長で蛍光を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質もしくは被検出物質認識材料において被検出物質と同じ部位で認識される被検出物質ではない物質と、を混合することにより、試料中の被検出物質と被検出物質認識材料とを結合する、
あるいは、
試料中で特定波長を発する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質で標識された被検出物質認識材料とが、被検出物質に同時に結合し、
担体粒子に物理的または化学的に結合している被検出物質認識材料をさらに含み、試料中で被検出物質と当該被検出物質認識材料とが結合体を形成する。
また、他の好ましい一実施態様としては、
担体粒子に物理的または化学的に結合している被検出物質認識材料を、被検出物質と結合させて、あるいは結合させないで、電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮し、場合により、試料中で被検出物質と被検出物質認識材料とを結合して、被検出物質に対して、上記好ましい一実施態様として記載の方法のいずれかにより、蛍光強度の変化を測定する。
【0042】
蛍光強度の測定は、蛍光物質に応じて適宜設定することが可能である。
蛍光強度を測定する場合の条件も適宜設定可能であるが、励起光が一般的には300~600nmの波長を有するが、350nm以上の波長を有することが好ましく、400nm以上の波長を有することがより好ましい。
蛍光強度の測定においては、フィルター+光センサー(フォトダイオード、フォトトランジスタ)による測定や、光っている状態を画像としてスマホ用の撮像素子で撮影し、あらかじめわかっている電極形状と照合して、画像認識させることにより、光っている部分のみを切り出すことが可能で、これによりコントラストを強調し、より精度の高い検出を行うことも可能である。
【0043】
本発明における蛍光強度の変化の測定工程としては、特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
結合工程が上記(1)または(2)であり、2種の蛍光物質が用いられる場合には、特定波長で蛍光を発する蛍光物質が波長1で励起して波長2を発する蛍光物質であり、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質が波長2を吸収して波長3を発する蛍光物質であり、波長1で励起して波長3の蛍光強度または波長2と波長3の蛍光強度を測定する、
結合工程が上記(1)または(2)であり、消光物質が用いられる場合には、特定波長で蛍光を発する蛍光物質が波長1で励起して波長2を発する蛍光物質であり、当該特定波長の蛍光を吸収する消光物質が波長2を吸収するが少なくとも測定波長域では蛍光を発しない消光物質であり、波長1で励起して波長2の蛍光強度を測定する、
結合工程が上記(3)である場合には、特定波長で蛍光を発する蛍光物質が波長1で励起して波長2を発する蛍光物質であり、波長1で励起して波長2の蛍光強度を測定する。
蛍光強度の変化の測定においては、蛍光の波長の変化や、蛍光の大小の変化を測定することで、被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度の変化を測定する工程としてよい。
【0044】
結合工程が上記(1)であって、2種の蛍光物質が用いられる場合には、2種の蛍光物質が被検出物質に対して、被検出物質認識材料を介して近傍に存在することによるエネルギー移動を利用している蛍光強度の測定法であり、2種の蛍光物質間でのエネルギー移動を観測することにより高感度化が図れる。中でも、混合前には観測されていなかった特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質の発する蛍光を測定することが好ましい。
【0045】
結合工程が上記(1)であって、蛍光物質と消光物質が用いられる場合には、蛍光物質と消光物質が被検出物質に対して、被検出物質認識材料を介して近傍に存在することによるエネルギー移動を利用している蛍光強度の測定法であり、蛍光物質と消光物質間でのエネルギー移動を観測することにより高感度化が図れる。中でも、混合によって減じる特定波長で蛍光する蛍光物質の発する蛍光を測定することが好ましい。
【0046】
結合工程が上記(1)であり、担体粒子に担持される場合には、特定波長で蛍光する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または消光物質で標識された被検出物質認識材料のいずれかが担体粒子に担持されていてもよいが、特定波長で蛍光する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料が担体粒子に担持されていることが好ましい。
【0047】
結合工程が上記(2)であって、2種の蛍光物質が用いられる場合には、2種の蛍光物質が近傍に存在することによるエネルギー移動を利用している蛍光強度の測定法であり、2種の蛍光物質間でのエネルギー移動を観測することにより高感度化が図れる。中でも、混合によって減じる特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質の発する蛍光を測定することが好ましい。この場合には、試料中の被検出物質が、蛍光物質で標識された被検出物質と置き換わって被検出物質認識材料と結合するため、蛍光物質で標識された被検出物質が遊離することによる現象を利用した測定であることが好ましい。
【0048】
結合工程が上記(2)であって、蛍光物質と消光物質が用いられる場合には、蛍光物質と消光物質が近傍に存在することによるエネルギー移動を利用している蛍光強度の測定法であり、蛍光物質と消光物質でのエネルギー移動を観測することにより高感度化が図れる。中でも、混合によって増加する特定波長で蛍光する蛍光物質の発する蛍光を測定することが好ましい。この場合には、試料中の被検出物質が、蛍光物質で標識された被検出物質と置き換わって被検出物質認識材料と結合するため、消光物質で標識された被検出物質が遊離することによる現象を利用した測定であることが好ましい。
【0049】
結合工程が上記(2)である場合には、特定波長で蛍光する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料と、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または消光物質で標識された被検出物質とが用いられるが、被検出物質が特定波長で蛍光する蛍光物質で標識されていて、被検出物質認識材料が当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または消光物質で標識されていてもよい。
【0050】
結合工程が上記(3)である場合には、試料全体に被検出物質認識材料が存在し、バックグラウンドとして、被検出物質認識材料に標識されている蛍光物質による蛍光が観測される。結合工程が上記(1)または(2)である場合には、特定波長で蛍光する蛍光物質で標識された被検出物質認識材料は担体粒子に担持されていてもよいが、結合工程が上記(3)である場合には、被検出物質自体が電気泳動または誘電泳動により濃縮されることが好ましい。
【0051】
結合工程が上記(1)~(3)である場合のいずれにおいても、本発明における蛍光強度の測定工程として説明した上記各実施態様において、担体粒子に物理的または化学的に結合している被検出物質認識材料をさらに含んでいてもよく、試料中で被検出物質と当該被検出物質認識材料とが結合体を形成させてもよい。この場合、担体粒子に物理的または化学的に結合している被検出物質認識材料により、被検出物質は、局所に当該被検出物質認識材料との結合を介して濃縮される。また、当該被検出物質認識材料は、担体粒子に物理的または化学的に結合しているが、蛍光物質または消光物質による標識は受けていない。
【0052】
本明細書において、担体粒子が被検出物質あるいは被検出物質認識材料に物理的または化学的に結合している場合、当該担体粒子は、誘電泳動を促進する粒子であることが好ましい。
【0053】
本発明で用いられる特定波長で蛍光する蛍光物質、当該特定波長とは異なる波長で蛍光する蛍光物質または消光物質のいずれかが担体粒子であってもよい。
【0054】
本発明の検出方法においては、高感度な測定を専用の設備、環境、知識および/または技術を必要とすることなく行うことが可能となるため、本発明により、従来不可能であった試料を用いた感染症の検査や従来検査の必要性がありながらも実施できていなかった現場での検査、さらに遺伝子検査では原理上検査が不可能であった項目の検査が可能となる。
より具体的には、インフルエンザウイルスを検出する場合に、試料として鼻汁ではなく唾液を用いることが可能となり、また、税関などの水際を検査の現場とすることが可能となり、従来数日の培養を必要としていた食品の加工工場、流通工程などの現場もそのまま検査現場として、目の前で結果を得ることが可能となり得る。あるいは、異常プリオンなど遺伝子を含んでいない病原因子も検査が可能となる。
【0055】
本発明の検出方法を実施するための試料中の被検出物質を検出装置としては以下があるいは実施例で例示されるが、これらは本発明を限定するものではない。
水性の試料を導入して保持することができる液だめに一対のマイクロ電極を有する検出セルを備え、マイクロ電極は外部または内部の電圧発生装置に電気的に接続され、試料と接触した状態で電極間に直流または交流を印加することにより試料中の被検出物質を電気泳動または誘電泳動により濃縮する手段と、被検出物質に特異的に結合することが可能で、あらかじめ蛍光標識を施した被検出物質認識材料を少なくとも有しており、標識の蛍光強度を測定する検出手段を備えており、水性の試料を移動させて被検出物質と被検出物質認識材料との結合体(B)とフリーの被検出物質認識材料(F)のB/F分離を行うことなく、蛍光強度を評価することにより被検出物質と被検出物質認識材料との結合の状態を定性的または定量的に測定して、試料中の被検出物質の存在を測定することを可能とする検出装置。
【0056】
図4に検出セルの参考となる構成図を、
図5に検出装置の参考となる構成図を示す。
検出装置においては、検出手段として、光源63とレンズ65とを備え、光源63からレンズ65を介して蛍光物質を励起する波長を有する励起光64が検出セル61に照射される。加えて、被検出物質の存在を確認するために蛍光強度を測定するための光センサー68と光フィルター67とを備え、検出波長の蛍光66が、あるいは検出波長の蛍光以外の蛍光66が光フィルター67により集光され、光センサー68で蛍光強度を測定する。光フィルター67では、検出波長以外の波長の蛍光がカットされることが好ましい。検出セルは、試料中の被検出物質を電気泳動または誘電泳動により濃縮する手段を備え、基板41にマイクロ電極42が印刷される。一対のマイクロ電極は、電極1 47と電極2 48として示される。検出装置にある液だめは、基板41、スペーサー43、カバー44により形成され、キャピラリー45として示される。カバー44には空気穴46が設けられている。
図4においては、試料の導入方向を4Aとして示す。
濃縮手段として、電極1 47および電極2 48に端子69が繋がる。端子69により、例えば、誘電泳動を行う際、ファンクションジェネレーター(図示していない)から最適な電圧、周波数の高周波が印加される。
【0057】
検出装置には、検出セルに試料を導入後、セルに振動を加え強制的に撹拌する手段を備えていてもよい。例えば、被検出物質が、ウイルスの核タンパク質であるような場合には、検出時には、ウイルスのエンベロープを破壊して核タンパク質を露出させるために、当該手段が用いられる。
図5において、当該手段は、振動子62として例示される。
【0058】
また、検出手段における蛍光強度の測定の際、光センサー68において、励起光を通過しない光フィルター67を介して撮像素子で蛍光を撮影し、マイクロ電極の形状を参照して抜き出す画像処理する電子的手段を有し、抜き出されなかった部分をバックグラウンドノイズとして扱い蛍光強度の変化情報を補正し、コントラストを強調することにより、より高感度な測定が可能となる。
【0059】
加えて、被検出物質を含む試料を水に分散して検出方法における試料として検出セルに導入可能な程度に液体に近いスラリー状に加工することが可能な粉砕機を備えてもよく、その場合、被検出物質を含む固形物も試料として導入することが可能となる。
【0060】
本発明の検出装置に備えられる検出セルには、蛍光物質や消光物質で標識された被検出物質認識材料や被検出物質、反応に最適なpH調整用バッファー、界面活性剤などが適量付着した状態であってもよい。検出セルにあらかじめこれらを溶液として添加し、凍結乾燥することにより、検出セル壁に付着させていてもよい。
本発明において、蛍光検出に用いる反応溶液としては、被検出物質と被検出物質認識材料との結合反応、電気泳動または誘電泳動を実施可能である溶液中で行うことが好ましい。例えば、被検出物質を含む試料を当該溶液に混合して、被検出物質を検出してもよい。反応溶液は、例えば、実施例に記載の溶液を好適に用いることができる。望ましくは被検出物質と被検出物質認識材料の反応を阻害しない範囲で、導電率を極力低くする溶媒、例えば、非イオン水、またはこれと糖アルコールの混合物を用いてよい。また、被検出物質と被検出物質認識材料との結合および濃縮が同じ溶媒でできることを考慮して、例えば、リン酸緩衝液を用いてよく、濃度が1mM以下のPBSを用いてよい。
ここで用いられるpH調整用バッファーは、特に限定されず、検出することを予定する被検出物質や、被検出物質と被検出物質認識材料との結合反応を考慮して適宜選択すればよい。
界面活性剤は、例えば、ウイルスを分解して内部の核タンパク質を抽出するために用いられ、また、試料を毛細管現象によりセル内に導くために用いられる。界面活性剤は1種を用いてもよく、必要とする作用に応じて、2種以上を用いてもよい。例えば、インフルエンザウイルスから核タンパク質を抽出するのには、TritonX-100を好適に用いることができる。
【0061】
本発明においては、検出セルとは別に小型のチューブが用意されており、チューブ内で検出に用いられる成分を混合してから検出セルに導入してもよい。この場合、あらかじめチューブに界面活性剤およびその他の成分が入っていてもよい。チューブへの導入方法は特に限定されないが、凍結乾燥によりチューブ内に界面活性剤などを存在させてもよい。また、界面活性剤およびその他の成分が独立して別の容器に入っていて、チューブで試料と混合してからセルに入れてもよい。
本発明においては、試料の有無で測定を行って校正してもよく、標準溶液を用いた検出を行ってもよく、ロットごとに標準のリファレンス値を用いて検出を行ってもよく、品質管理を徹底することで、リファレンス値を使わないで検出を行ってもよい。
【0062】
本発明の検出方法においては、試料は、電極を検出セルの底部の内側に設けた検出セル内に存在し、試料中で、電気泳動または誘電泳動により局所に濃縮した被検出物質と被検出物質認識材料との結合体の蛍光強度の変化をイメージセンサーで測定する際に、
(1)イメージセンサー上に透明な絶縁膜を設けて蛍光を測定するか、
(2)検出セルの底部の外側に接するようにイメージセンサーを設けて蛍光を測定するか 、
(3)電極はX方向とY方向で異方性を有し、イメージセンサー上に電極と同様の異方性を有するスリットを設けて蛍光を測定するか、
(4)検出セルの底部から励起光を照射し、検出セルの側面部にイメージセンサーを設けて蛍光を測定する。なお、底部は、底面と読み替えることも可能である。
上記(1)~(4)のいずれかの方法により測定を行うことで、蛍光強度の変化を測定して試料中の被検出物質を検出する。本発明の一実施態様においては、蛍光強度の変化が測定されることにより、試料中の被検出物質の存在の有無が確認される。
上記(1)~(4)のいずれかの方法による測定によって、濃縮されている被検出物質と被検出物質認識材料との結合体と試料全体との区別をより鮮明にすることができる。
【0063】
本発明の検出方法においては、試料全体の蛍光強度をバルクで測定する方法として、光センサーを使用するのが簡便である。しかしながら、本発明においては、蛍光強度の変化の測定においてイメージセンサーを用いる。
本発明者らの検討によれば、電界強度が電圧に比例し、距離に反比例することから、電極間の電圧が数V、電極間距離が数μmであると被検出物質を検出する上で設計上も、仕様上も好適である。また、本発明の検出方法においては、被検出物質と被検出物質認識材料との結合体を局所的に濃縮して、検出感度を上げることを目的としているので、電極付近と試料全体を数μmの解像度で検出する必要がある。
そこで、本発明においては、イメージセンサーを用いて、蛍光強度を測定することで、より解像度高く、被検出物質を検出可能となる。
【0064】
蛍光強度の変化を測定する工程において、(1)の方法により行う場合、イメージセンサー上に透明な絶縁膜が設けられる。
光フィルターを設けるような場合には、透明な絶縁膜は、蛍光の経路において、光フィルター、透明な絶縁膜、イメージセンサーの順に設けてよく、透明な絶縁膜、光フィルター、イメージセンサーの順に設けてもよい。また、通常既存のイメージセンサーは画素ごとに光学フィルターを有しているので、別途光フィルターを設けずに、既存のイメージセンサーの光フィルターを使用するか、また条件が合うなら、三原色の画素の出力をソフトウェア的に配分して、カラーフィルターの効果を模してもよい。さらに、通常イメージセンサー表面には、カラーフィルターおよびマイクロレンズで絶縁がなされているので、これらを透明な絶縁膜としてもよい。
また、イメージセンサーと透明な絶縁膜は、検出セルの底部を為すように設けてよい。この場合、イメージセンサー上に透明な絶縁膜を介して電極を設けてよく、透明な絶縁膜が、検出セルの底部を構成する。検出セルの底部の内側に存在する電極、検出セルの底部(透明な絶縁膜)、検出セルの底部の外側に存在するイメージセンサーが、順に配列されることになる。この場合、光フィルターは存在していなくてよい。また、検出セルの底部の内側に存在する電極、検出セルの底部(透明な絶縁膜)、検出セルの底部の外側に存在するイメージセンサーの一部又は全部が一体であってよい。
(1)の方法では、電極に濃縮された結合体からの蛍光が、イメージセンサー上で結像する。また、蛍光を光点として結像させる場合、電界を印加する前後で光点の数を計測することにより、局所に濃縮された結合体の数を計測可能である。
【0065】
(1)の方法の場合の構成図を
図17に、その断面図を
図18に示す。
図17及び
図18においては、マイクロ電極(201、211)、透明な絶縁膜(202、212)、イメージセンサー(203、213)が示されている。
イメージセンサーは、特に限定されないが、例えば、5mmx5mm、5000x5000素子(ピッチ1μm)のイメージセンサーであってよく、イメージセンサーとして最も一般的なものは、裏面照射型CMOSである。
イメージセンサーは、
図18に示すように、下から回路、センサー、カラーフィルター、マイクロレンズで構成される。マイクロレンズとカラーフィルターは三原色独立に構成される。すなわち三要素のマイクロレンズ、カラーフィルター、センサーが集まって一画素を形成する。現時点で普及帯のうち最も小さな画素は1μmを切るところまできている。
イメージセンサーのマイクロレンズの上に、マイクロ電極を印刷した透明な絶縁基板(絶縁膜)を設け、その上に検出液が貯められるように構成している。
マイクロ電極の幅および間隔は10μm以下であることが好ましく、電極幅5~10μm、電極間2~5μmであってよく、特に限定されないが、例えば、電極幅10μm、電極間5μm、長さ2mmを有する。この構成によれば、マイクロ電極の端に集まった結合体から発っせられる蛍光をイメージセンサーで画像として直接捉えることができるため、電圧印加の前後のイメージセンサーの出力を比較することで蛍光強度の変化を測定することができる。
好ましくは、簡易な方法とするため、LEDが発した励起光(320nmまたは450nm)は導光板を介して上方から照射される。また、イメージセンサーの発する信号のうち、励起光に反応する青色情報を遮断することにより、イメージセンサーに内蔵されているカラーフィルターを励起光の分離に用いてよい。
透明な絶縁膜としては、特に限定されないが、例えば、ガラス薄膜や合成樹脂膜などを用いてよい。絶縁膜の膜厚としては、好ましくは1μm以下である。
(1)の方法においてイメージセンサーおよび電極(マイクロ電極を含む)について記載する説明は、(2)~(4)の方法においても適用可能である。
【0066】
蛍光強度の変化を測定する工程において、(2)の方法により行う場合、検出セルの底部の外側に接するようにイメージセンサーが設けられる。(2)の方法においては、(1)の方法における場合と比較して、検出セルの底部が透明な絶縁膜ではない場合として理解できるものであり、(1)の方法において記載したのと同様の方法により、(2)の方法を実施可能である。
(2)の方法は、(1)~(4)の中で、最も簡単な構成を有するものであり、その構成図を
図19として示す。
(2)の方法においては、(1)の場合と異なる点として、検出セルの底部の厚みが、100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。検出セルの材質としては、蛍光を透過するものであれば、特に限定されない。
イメージセンサーを電極の極近傍に配置することで、電極付近における結合体由来の蛍光を受光可能である。また、電界を印加する前後でイメージセンサーが受ける信号の強弱を測定することにより、電極付近の粒子の数を測定することが可能であり、蛍光強度の変化が測定される。
検出セルの底部の厚みを、50μm以上とする場合には、検出セルの素材をプラスティックまたはガラスとすることができ、簡易に検出セルを製造可能となるが、イメージセンサーと蛍光の光点の間に距離ができてしまい、イメージセンサー上での結像がしにくくなる場合がある。この場合、電圧印加の前後での明るさを比較する面センサーとして評価することでも、蛍光強度の変化の測定は可能である。
【0067】
蛍光強度の変化を測定する工程において、(3)の方法により行う場合、電極はX方向とY方向で異方性を有し、イメージセンサー上に電極と同様の異方性を有するスリットが設けられる。
(2)および(3)の方法においては、検出セルを使い捨てにして使用してもよい。
(3)の方法は、(2)の場合において、検出セルの厚みが0.5~1.0mm程度ある場合に工夫を施した例といえ、(3)の方法の構成図を
図20として示す。
図20を例にして説明すると、例えばXY平面(検出セルの底面)において、Y方向にのびた櫛形電極がX方向に互いに向かいあっている構造を有する。なお、
図20では検出セルは示していない。マイクロ電極231とイメージセンサー233の間に、電極のX方向とY方向の異方性に準じた異方性を有するスリット233が設けられている。スリット233の幅は必ずしもマイクロ電極231と一致していなくてもよいが、1つのスリットに対して、電極が0.1~5本入ることが好ましい。
マイクロ電極の幅および間隔は10μm以下であることが好ましく、電極幅5~10μm、電極間2~5μmであってよく、特に限定されないが、例えば、電極幅10μm、電極間5μm、長さ2mmを有する。
1つ1つのスリットの幅およびスリット間隔は0.2~1.0μmであることが好ましく。スリット233の厚みは、光点からの感度よく蛍光を補足するために、1~5μmであることが好ましい。結合体からの蛍光は、点光源として全方向に拡散するが、スリットによって拡散光を制御することが可能である。
【0068】
(3)の方法においては、電圧を印加する前後で、イメージセンサー出力のX方向の積分値と、Y方向の積分値を比較することが好ましい(その概要は
図21として示す。)。
本方法においては、露光時間を増やすことにより感度を増すことが可能であり、XおよびYそれぞれの方向において、輝度を積分すると蛍光の変化が理解できるので、バックグラウンドとなる、電極から離れたところにある結合体等の蛍光はX方向、Y方向で同じように分散するので、同程度となり、所望の蛍光の変化を測定可能である。
【0069】
蛍光強度の変化を測定する工程において、(4)の方法により行う場合、検出セルの側面部にイメージセンサーが設けられる。また、(4)の方法においては、検出セルの底部から励起光が照射される。(4)の方法の構成図を
図22として示す。
(4)の方法においては、検出セルの底部をXY平面とすると、検出セルの側面部は、YZ平面となり、イメージセンサーがYZ平面に設けられていることにより、電圧印加の前後で深さ方向(Z方向)の変化を比較することにより、蛍光強度の変化が測定される。また、電界を印加する前後でイメージセンサーが受ける信号の強弱を測定することにより、電極付近の粒子の数を測定することが可能であり、蛍光強度の変化が測定される。
イメージセンサーを検出セルの側面部に設けていることにより、特に、検出セルの底部にイメージセンサーを設ける場合に比べて、より電極付近と電極から離れた場所の蛍光強度の違いをイメージセンサーで検出可能である。
(4)の方法においては、励起光は、例えば、LEDの放出した光を導光板を経由して面発光する(液晶ディスプレイのバックライトと同じ原理)ことが考えられる。
検出セルや、イメージセンサーについては、上記(1)~(3)の方法に関して記載を参照して、利用可能である。
【実施例0070】
以下実施例により、本発明を更に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0071】
<実施例1>
抗体の標識
インフルエンザA型ウイルスの核タンパク質に結合する抗体としてFIA3298(Bio Matrix研究所)を用いた。Qdot Antibody Conjugation Kit(Bio Matrix研究所)の方法にしたがって、抗体のFc領域の糖鎖に量子ドット(Qdot565、Thermo Fisher)を化学標識した。量子ドットを化学標識した抗体Ab1Qd565の蛍光分光光度計(F2500、日立ハイテック)を用いて測定した蛍光スペクトルは、561nmに蛍光のピークを有していた(
図1)。
例示として、量子ドットを標識した抗体は以下の式で表される。
【化1】
【0072】
核タンパク質(NP)の標識
遺伝子組み換えによって作成したインフルエンザA(H1N1)核タンパク質(NP)としてAAM75159.1(Sino Biological)を用いた。また、消光物質として、QSY9のNHSエステル(Thermo Fisher)を用いた。
QSY9のNHSエステルは以下の式で表される。
【化2】
QSY9のNHSエステルをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。10mMの重炭酸ナトリウムのバッファー(pH 8.0)にNPを溶解した水溶液に、QSY9のNHSエステルDMSO溶液を、QSY9の分子数がNPの分子数の30倍量になるように加え、室温で一晩放置した。混合液を、Biorad製マイクロバイオスピンカラム30を用いて、消光物質を標識した核タンパク質NPQSY9を精製した。精製条件は、展開液をPBS(pH7.2)にした以外は、Bioradが提供しているプロトコルに従った。精製により得られたフラクションのUV/VIS分光光度計(UV2500PC、島津製作所)を用いて測定した吸収スペクトルを
図2に示す。
図1と
図2の比較から、量子ドットを化学標識した抗体Ab1Qd565における蛍光ピークと、消光物質を標識した核タンパク質NPQSY9における消光物質の吸収ピークはほぼ理想的に重なっていた。
【0073】
消光確認実験
Ab1Qd565をPBSで10nMの濃度に希釈した。希釈液200μLをマイクロセルを用いて、蛍光分光光度計(F2500、日立製作所)で蛍光スペクトルを測定した。この溶液にタンパク濃度として10μMに調整したNPQSY9を、2μLずつ混合して561nmの蛍光強度の変化を観察した(
図3)。
図3の結果から、NPQSY9とAb1Qd565が溶液中で結合することにより、561nmをピークとする蛍光が消光されていることが確認された。
【0074】
ポリスチレン微粒子の誘電泳動
粒径3μmのポリスチレン微粒子水分散液(Polysciences)を非イオン水で10万倍に希釈した。導電率計(EC-33、堀場製作所)を用いて導電率を測定したところ、13μS/cmであった。
続いて、以下の条件で、このポリスチレン微粒子の誘電泳動を観察した。
セル:BAS製くし形マイクロ電極(Au、電極間距離5μm)をベースとし、マイクロ電極部に12μmのスペーサーを介して、カバーガラスを装着したもの
高周波発生装置:テクトロニクス製AFG3022ファンクションジェネレーター
オシロスコープ:ヒューレットパッカード製54602B
顕微鏡:テクトロニクス製VHX900に1000倍のレンズ搭載
上記のように調整したポリスチレン微粒子の希釈液約10μLをマイクロ電極の上にのせ、顕微鏡で観察しながら、電圧および周波数を掃引した。2V/1kHzの条件で、ポリスチレン微粒子が電極の輪郭に沿って並ぶことが確認された。
すなわち、ポリスチレン微粒子における正の誘電泳動が観察された。凝集して定常状態に達するのに必要な時間は約1~2秒であった。また、同様に、酵母を用いた場合も同様に正の誘電泳動が観察され、酵母が電極に沿って濃縮された。
【0075】
抗体の担持
ラテックス粒子メーカーの指定の方法で、ポリスチレン微粒子表面にAb1Qd565を担持した。その後、不要な非特異吸着を防止するためにBSAでブロッキング処理を行った。これに、抗体/NPの分子数が同等になるようNPQSY9を混合し、あらかじめ消光を起こした状態とした。
蛍光顕微鏡としてライカマイクロシステムズ製DFC360FXを用い、光源ebq100による観察下で、上記セルを用いて誘電泳動を行いAb1Qd565由来の蛍光が、2V/1kHzで電極の輪郭に沿って集まることを確認した。上記と同条件のAb1Qd565担持ポリチレン微粒子とNPQSY9の混合液に、未標識のNP(上記と同一品)をNPQSY9とタンパク濃度で同等量混合し、5分インキュベートした。これを蛍光顕微鏡で観察しつつ、2V/1kHzで電極の輪郭に沿って並んだことを確認した。
未標識のNP有/無について、誘電泳動時の蛍光顕微鏡画像を接続しているコンピュータで静止画として電子的に保管した。両者を比較すると、NP有の場合が蛍光の強度が高いことを確認した。これらの電子画像はAdobeのPhotoshopで読み込み、マイクロ電極付近の画像を切り取り、バックグラウンドノイズを消すこと、またコントラストを強調することにより両社の違いをより鮮明にできることを確認した。
【0076】
以上の結果から、専用ソフトを作成することで、これらの作業を一貫して実施し、定量的な判定ができると考えられる。
また、不活化ウイルス(81N73、Hy Test)をTritonX-100(1%)を含む展開液を用いてイムノクロマト(抗NP抗体としてFIA2121およびFIA3298、いずれもSino Biological製)に流すと展開中にウイルスが破壊され、NPが現れて両者の抗体でサンドイッチ反応を起こし、その結果イムノクロマトで検出できることを確認した。
以上を総合的に判断すると、本実施例により、誘電泳動と蛍光観察を融合させることができ、高感度、高速度での検出の可能性を示せたと考えられる。
【0077】
<実施例2>
抗体の標識
BSA(シグマ)に結合する抗体として抗BSAマウスモノクローナル抗体(フナコシ)を用いた。SiteClick
TM Qdot
TM 655 Antibody Labeling Kit(Invitrogen)に内包されている抗体濃縮機を用いて抗体を100μL(1mg/mL)に濃縮した。キットの方法にしたがって、抗体のFc領域の糖鎖に選択的に量子ドット(Qdot655、Thermo Fisher)を化学標識した。キットに内包されているゲルろ過装置を用いて、量子ドットを化学標識した抗体Ab1Qd655を精製した。Ab1Qd655の蛍光分光光度計(F7100、日立ハイテック)を用いて測定したPBS溶液の蛍光スペクトル(励起光370nm)は、
図6のとおりのピークを有していた。なお、720nmにわずかに見えるピークは、励起光の2倍波長が散乱したものである。
【0078】
抗原の標識
消光物質として、QSY21コハク酸エステル(QSY21NHS、Thermo Fisher)を用いた。
QSY21NHSは以下の式で表される。QSY21は650nm付近に大きな吸収を持つが、少なくとも可視光領域には蛍光を発しない消光物質であることが知られている
【化3】
QSY21NHSを無水DMSOで10mg/mL(12.3mM)の濃度に溶解した。BSAの10mMPBS溶液(5mg/mL)に、QSY21NHSのDMSO溶液を、分子数がBSA:QSY21NHSの分子数がBSAの分子数の30倍量になるように加え、ボルテックスにより撹拌した。さらに、NaHCO
3水溶液を最終濃度50mMになるように加え、室温で3時間放置した。混合液を、スピンカラム(BioRad P6)を用いて、消光物質を標識したBSAを精製した。精製物をPBSで5倍希釈した溶液のUV/VIS分光光度計(UV2500PC、島津製作所)を用いて測定した吸収スペクトルを
図7に示す。結合数を計算するとBSA1分子あたりQSY21は1.5分子であった。
【0079】
FRETによる消光確認実験
Ab1Qd655をPBSで10
-8Mの濃度に希釈した。希釈液を蛍光マイクロセル(励起側光路長10mm、蛍光側光路2mm、Hellma)を用いて、蛍光分光光度計(F-7100、日立ハイテクサイエンス)で370nmの励起光を照射し、350nmから800nmまでの蛍光スペクトルを測定した。以下、消光確認実験での蛍光スペクトルの波長範囲は全て同一とした。
10
-8M のAb1Qd655に1.0E
-6MのBSAQSY21を最終濃度10
-8Mとなるように加え、ボルテックスにより5秒間撹拌した。撹拌後、素早く蛍光マイクロセルに入れ、蛍光分光光度計で蛍光スペクトルを測定した。
その後30分までは5分置きに蛍光スペクトルを測定し、30分以降150分までの間は10分置きに蛍光スペクトルを測定した。結果を
図8に示す。
測定開始後瞬時に20%の消光が起き、その後速度は遅いながらも最終的に72%の蛍光の減少が確認できた。すなわち、抗原抗体反応に基づく分子間エネルギー移動(FRET)による蛍光の減少が確認できた。
【0080】
消光の阻害確認実験
消光確認実験の反応液に10
-5M無標識BSAを最終濃度10
-7Mになるよう添加した。添加後は素早くピペッティングで撹拌を行い、消光確認実験と同様に、蛍光分光光度計(F-7100、日立ハイテック)で370nmの励起光を照射し、350nmから800nmまでの蛍光スペクトルを測定した。以下、阻害確認実験での蛍光スペクトルの波長範囲は全て同一とした。
その後3分後の蛍光スペクトルを測定し、それ以降は5分置きに12回蛍光スペクトルを測定した。結果を
図9に示す。
72%消光した蛍光が無標識BSAを加えたことで、そこから37%増加した。Ab1Qd655とBSAQSY21が抗原抗体反応で結合し、消光している状態から非標識のBSAが置き換わり、Ab1Qd655の蛍光が増強したことを確認した。蛍光の増強を観察することにより、B/F分離を用いることなくBSAが検出できることが確認された。それぞれの段階の蛍光スペクトルを比較として並べたものを
図10に示す。なお、Qd655で修飾した場合はAb1Qd655の溶液が4℃、数日間の保存中に凝集して沈降しやすい性質を持っている。この現象は、例えばアルギニン(10mM-500mM、好ましくは50mM-200mM)で凝集が抑制される。
【0081】
誘電泳動
図11にBAS製微小くし形電極を用いた誘電泳動セルを示す。
図11中、111はマイクロ電極であり、電極長さ2mmの対向、電極幅および電極間5μmの金電極が基板112の上に印刷されており、それぞれの電極は端子113および113'と電気的に接続している。この上部に130μmのスペーサー115を介してカバーガラス114を張り付け、スペース(試料部)とした。高周波の発生は、テクトロニクスAFG3022を用いた。AFG3022の出力端子の一方に直流の防止用に0.001μFのコンデンサを介して端子113に接続した。端子113および113'に並列にオシロスコープ(ヒューレットパッカード 54602B)を接続し、波形をモニターした。
非イオン水にイースト菌を分散させた試料を誘電泳動セルの試料部に導入し、デジタル顕微鏡(VHX900、1000倍、キーエンス)で画像を録画しながら端子3および3'間に2MHz、2Vを印加したところ、分散していたイースト菌が瞬時に電極の端面に整列することが観察できた。同様のことが周波数5MHz、1MHz、300kHz、100kHzでも観察できた。
関連の粒子として以下いずれも粒径2μmのITO(スズ酸化インジウム)、ATO(アンチモン酸化スズ)および積水化学製ポリビーズ(ポリスチレン粒子の表面に金メッキしたもの)のA型(MB-A)およびB型(MB-B)で行うと誘電泳動は観察されなかったが、これらを0.1%BSAのPBS溶液に浸漬し8時間後5000gで20分遠心して上澄みを捨てることを2度行って、表面をBSAコーティングしたところ、ITO、ATO、MB-A、MB-Bのいずれも、1mMPBS中で2MHz5Vで瞬時に整列した。言い換えれば、電極端に濃縮された。
グラファイト微粒子(伊藤黒鉛工業)はBSAコーティングの有無にかかわらず、1mMPBSで2MHz、5MHz、300kHzで非常に速い誘電泳動が観察できた。PBSを10mMの濃度にしても若干の速度低下は認められたが誘電泳動を確認した。なお、上記の誘電泳動とはいずれも電極端(より正確には印刷している電極の角)のところに集る、正の誘電泳動であった。参考までに堀場製作所製の導電率計(Laqua Twin EC-33)を用いて、各種濃度のPBSの導電率を測定したところ、10mM:13,000μS/cm、2mM:3,360μS/cm、1mM:2,110μS/cm、唾液は、参考文献(Yen-Pei Lu et. al, Scientific Reports | (2019) 9:14771)によれば2,000-8,000μS/cmと記載されており、実検体を用いた実測値は5,780μS/cmであった。
【0082】
専用測定装置
測定部の基本的な構成を
図11に示す。検出セル121は光路長10mmの4面透明蛍光測定用セル、カラーフィルター123(シャープカットフィルターY50、HOYA)は500nmより短波長の光線を完全に遮断する。LED122はOSV2YL5111A(Opto Supply製)で370nmの光を発する。励起波長は370nm付近を用いた。センサー124はS7183(浜松ホトニクス)で650nm付近の光に感度の中心を持つ。
ADコンバータはArduinoUnoを使用し、ArduinoIDEでプログラムを作成した。また、PCとArduinoはUSB接続し、PC上のプログラムはProcessingで作成した。
以下動作のステップを示す。
・検出セルにはあらかじめBSA以外のタンパク質を用いて表面をブロッキングし、非特異吸着しないよう処理する。
・Ab1Qd655とBSAQSY21の PBS溶液(それぞれ10
-8M)を混合し、24時間室温にてインキュベートする。
・得られた混合液を検出セルに入れ、PC上のアプリケーションを立ち上げる。
・PC上のソフトから指示が送られADコンバータがセンサーの出力電圧を測定し、AD変換を行い、USBインタフェースを介してPCに信号を送る。これを0.5秒ごとに合計5回行い平均値を初期値として保存する。
・PCのモニターに「準備完了」を意味する文言を表示する。
・試験者は検体を検出セルに添加する(この時、体積変化は無視できる範囲とする)
・検出セルに接触した振動子(図示していない)が振動して液を3分間撹拌する。
・センサーの信号を読み取りPCに送るこれを5回繰り返し、PCは平均値を出しこれを測定値として保存する。
・振動子の撹拌を停止する。
・PCは初期値と測定値を比較し、あらかじめ定めた閾値(例えば5%)以上の蛍光強度上昇があれば「陽性」と判定を表示する。この時参考値として、上昇のパーセンテージを表示する、さらに「陽性」、「陰性」の2段階に加え、5-10段階で準定量値を表示してもよい。
試料を混合するだけでラテラルフロー方式のような展開工程や、ELISAのような洗浄工程、そのほかのB/F分離を行うことなく、均一溶液のままで対象物を定性的あるいは定量的に検出することが可能である。
【0083】
<実施例3>
一つの抗原に2種類の抗体(Ab2、Ab3)が同時に結合するいわゆるサンドイッチ型の抗原抗体反応において、Ab2とAb3を異なる蛍光色素(F2、F3)で標識し、F3はF2の発する蛍光(波長λF2)によって励起され波長λF3を発するが、F2の励起光(波長λE2)ではF3は励起されないという条件において、λE2で励起して、波長λF3の蛍光強度を検出することにより、サンドイッチ反応の進行をモニターすることが可能となる。
以下、インフルエンザA型ウイルスの核タンパク質(NP)を対象として、2種の抗体を調製した例について記載する。
同時にNPにサンドイッチ反応してAb2・NP・Ab3の抗体抗原結合体を形成する抗体として、抗体FIA2121およびFIA3298(いずれもバイオマトリックス研究所製の抗NPマウスモノクローナル抗体)を用いた。
抗体FIA2121をAb2としてPBS溶液(1mg/mL)10μLを出発点としATTO390NHSエステル(ATTO-Tec)が開示しているプロトコルにしたがって標識反応を行った。反応液はナノセップ分画分子量30kを用いて精製した。吸収スペクトルから算出した抗体1分子当たりの色素結合数は23であった。得られた標識抗体(Ab2AT390)の吸収スペクトル(破線)および390nm励起時の蛍光スペクトル(実線)を
図13に示す。
抗体FIA3298をAb3としてPBS溶液(2mg/mL)100μLを調整し、1MのNaHCO
3水溶液20μL添加し、直ちに色素DY485XLNHSエステル(Dyomic)のDMSO溶液(2mM)を25μL(抗体の37.5倍の分子数)添加しよく撹拌した。5分後、ナノセップ分画分子量30k(日本ジェネティックス)を用いて反応液を精製した。吸収スペクトルから算出した抗体1分子当たりの色素結合数は37であった。得られた標識抗体(Ab3DY485)の吸収スペクトル(破線)および470nm励起時の蛍光スペクトル(実線)を
図14に示す。
図13および14の結果から、2種類の標識抗体を含有する反応液を390nmで照射すると、Ab2AT390のみが励起されて470nm付近に蛍光を発するが、Ab2AT390とAb3DY485の分子は十分に距離が離れているのでAb3DY485は励起されることはないことが理解できる。また、溶液中にNPがあると、NPを介してAb2AT390とAb3DY485の分子は、推定5-10nmの近距離でNPに結合するため、FRETによるエネルギー移動が起こり、すなわちAb2AT390が発する470nm付近の蛍光に相当する励起エネルギーが移動してAb3DY485が励起され、560nmの蛍光を発する。つまり、390nmで反応液を励起して、560nmの蛍光を観察することによりNPの存在を判定することができる。
実施例1~3の結果から、以下の実施形態により本発明の実施が可能となる。なお、以下に示す実施形態は、例示として示すものであって、本発明の範囲を限定するものでなく、種々変法により本発明を実施可能である。
【0084】
<実施形態1>
インフルエンザA型ウイルスの核タンパク質(NP)のうち、異なる3箇所をエピトープとするモノクローナル抗体mAb11、mAb12、mAb13を用いる。
あらかじめmAb11の10μg/mL溶液1mLに平均粒径2μLのITOを0.2mg/mLの濃度で分散させる。十分に撹拌しながら2hインキュベートし、5000g/5分の遠心にかけ、上清を捨てる。沈殿物を1mg/mLのBSA溶液(0.05%のアジ化ナトリウムおよび1%のTritonX-100含有)に分散し試薬11とする。
一方、mAb12とmAb13はそれぞれATTO390とDY485XLで標識して、標識抗体Ab12AT390およびAb13DY485を得る。Ab12AT390、Ab13DY485を10-7M含む1mMPBS(0.05%アジ化ナトリウム含有)を調製し、試薬12とする。
検体として、インフルエンザA型不活化ウイルスを含有する唾液100μLを、400μLの試薬11と混合し5分間放置する。この時、ウイルスのエンベロープがTritonX-100によって破壊され、NPが放出される(社内で作製したイムノクロマトグラフィーによる評価で確認済み)。放出されたNPはITOの表面に吸着したmAb11に結合する。その後、500μLの試薬12と混合する。この時点で、唾液は10倍に希釈されており、導電率は誘電泳動が十分に起き得る1000μS/cm以下に低下している。
マイクロ電極を底面に備えた検出セルに導入する。以下の工程で検出を行う。
1)マイクロ電極に2MHz,5Vの交流電圧を印加する。
2)マイクロ電極付近を390nmの光源で照射し、560nm付近の蛍光強度を観察する。
3)蛍光観察は連続して10回行いこの平均値をPCに送る。
4)これを5秒ごとに合計2分間行い、蛍光強度の増加の傾向から最終強度を算出する。
5)最終強度に基づき、定量的データとともに陰性/陽性の判定を行う。
実施形態1では、検体由来のNPをITOにmAb11を介して結合させることにより、誘電泳動でマイクロ電極付近に局所的にNP濃度を高めている。電極面(XY面)での濃縮は100倍程度が見込まれるが、深さ方向(Z軸)は、振動子を利用してセルの深さ方向に効率的に対流を行うことにより、強制的に電極面に接触する頻度をあげることができ、総和として1000倍以上の検体の濃縮を行うことが可能となる。
実施形態1においては、例えば蛍光色素は分子吸光係数が高くかつ量子収率が高い色素であって、かつ効率よくFRET現象を起こす色素の組み合わせであれば応用可能である。反応はわかりやすくするために異なる試薬として調製しているが、試薬11と12はあらかじめ混合されていても差し支えない、さらには試薬11、12を検出セルに付着させて凍結乾燥したものを準備すれば、検査の際の工程がさらに削減されることは自明である。なお、実施形態2~3においても同様に適宜選択して応用可能である。
【0085】
<実施形態2>
インフルエンザA型ウイルスの核タンパク質(NP)のうち、異なる2箇所をエピトープとするモノクローナル抗体mAb21、mAb22を用いる。また、mAb22に結合するNPの断片(NP断片)を用いる。
NPは遺伝子組換えによる合成が可能なので、まずNPの断片を決めてからNP断片を免疫源として抗体作製を行うことによりmAb21、mAb22を調製してよい。得られた抗体がNPを認識することを確認する。その際、mAb22とNP断片の反応速度定数(ka:結合速度定数、kd:解離速度定数)は例えば、表面プラズモン共鳴法で決定できるので、のぞましくはka>106、kd<10-3の抗体をスクリーニングで拾い上げると高速な測定速度が得られる。
mAb21はITO表面に吸着し、ITOはその後BSAでブロッキングして、1%のTritonX100を含有する試薬21を調製する。
一方、mAb22はQd655で、またNP断片はQSY21で標識して、標識抗体Qd655Ab22、抗原の標識断片QSY21NP断片をいずれも10-8Mの濃度で含む1mMPBS溶液(0.05%アジ化ナトリウム含有)を試薬22として調製する。以下の工程で検査を行う。
1)検体(インフルエンザA型ウイルスを含有する唾液)100μLを400μLの試薬21と混合し5分間放置する。
2)得られた混合液を500μLの試薬22と混合する。
3)直ちに、マイクロ電極を底面に備えた検出セルに上記混合液を導入する。
4)振動子による撹拌を開始するとともに、370nm以下の波長でマイクロ電極付近を照射し、マイクロ電極付近から発する蛍光を500nm以下の波長をカットするカラーフィルターを介して、センサーで測定する。
5)最初の測定値を初期値として保存し、その後の蛍光強度の変化を測定するとともにその変化の傾向から最終測定値を算出する。
6)あらかじめ、Qd655Ab22とASY21NPが結合して一定の消光が起きている状態から、電極付近に存在するNPとQd655Ab22が結合して、消光の阻害(すなわち蛍光の増強)からNPの有無、および感染の陽性/陰性を判定する。
【0086】
<実施形態3>
A型インフルエンザウイルスの表面抗原に同時に結合するAb31、Ab32を用いる。Ab31、Ab32をそれぞれATTO390とDY485XLで標識する(以降Ab31AT390とAb32DY485とする)これらを10-7M以上含有する1mMのPBS(0.05%のアジ化ナトリウム含有)を調製する(試薬31)。以下の工程で検査を行う。
1)検体(インフルエンザA型ウイルスを含有する唾液)100μLを900μLの試薬31と混合し、底面にマイクロ電極を配した検出セルに導入する。
2)ただちにマイクロ電極に1kHz-5MHz望ましくは100kHz、5Vの高周波を印加するとともに、振動子による撹拌を開始する。
3)電極付近を390nmで励起し、560nm付近の蛍光強度を測定する。
4)蛍光強度の時間変化から、最終測定値を算出する。
5)最終測定値から、ウイルスの濃度、および感染の状態を判定する。
実施形態3では、ウイルスそのものを誘電泳動によって電極付近に濃縮しているので、NPの抽出に必要な界面活性剤およびインキュベートの時間は不要である。
【0087】
<実施形態4>
底面に電極幅および電極間隔5μm電極長さ5mmの櫛形が向かい合った形状のマイクロ電極を備えた検出セル151を用い、LED光源153およびセンサー155はマイクロ電極に向けて傾けた検出装置を構成する(
図15)。センサー155が出力するアナログ信号の処理を行う。
BSAQSY21を10
-6M含有するPBS溶液に、粒径2μmのITOを0.11mg/mLで分散させ一晩室温で放置し後、5000g, 20分で遠心分離したのち上清を捨て、次は1mg/mLの濃度のスキムミルクに分散し、ブロッキングを行なったのち遠心分離し上清を捨て,沈殿物を回収する、遠心分離による損失を30%と概算して、BSAQSY21が最終濃度10
-8MになるようにAb1Qd655(最終濃度10
-8M)とのPBS分散溶液を調製し、一晩室温で放置し、以下のステップでBSAの測定を行なう。
・得られた混合分散溶液を検出セルに入れ、PC上のアプリケーションを立ち上げる。
・PC上のソフトから指示が送られLEDが370nmを照射すると同時に、ADコンバータがセンサーの出力電圧を測定し、AD変換を行い、USBインタフェースを介してPCにデジタル信号を送る。これを0.5秒ごとに合計5回行い平均値を初期値として保存する。
・PCのモニターに「準備完了」を意味する文言を表示する。
・試験者は検体を検出セルに添加する(この時、体積変化は無視できる範囲とする)。
・検出セルに接触した振動子(図示していない)が振動して液を3分間撹拌する。同時にマイクロ電極間に5V, 2MHzの高周波を印加する。
・センサーの信号を読み取りPCに送るこれを5回繰り返し、PCは平均値を出しこれを測定値として保存する。
・振動子の撹拌と、高周波の印加を停止する。
・PCは初期値と測定値を比較し、あらかじめ定めた閾値(例えば5%)以上の蛍光強度上昇があれば「陽性」として判定を表示する。この時参考値として、上昇のパーセンテージを表示する、さらに「陽性」、「陰性」の2段階に加え、5-10段階で擬似定量値を表示してもよい。
実施形態4は、検出物ではなく、あらかじめ用意した検出物と同等のもの(擬似抗原)を担体表面に吸着させ、誘電泳動で電極付近に擬似抗原を濃縮したものである。同様に、標識抗体を担体表面に結合させ、誘電泳動で濃縮することも可能である。抗原抗体反応における、抗原抗体結合物の濃度は遊離の抗体濃度、遊離の抗原濃度、抗体のアフィニティーに比例するので今回のように擬似抗原と抗原が競争する場合には、抗体、擬似抗原、検出物質のいずれを担体に吸着させ誘電泳動で濃縮しても一定の効果がある。検体中の被検出物質を濃縮することにより、同じアフィニティーの抗体を用いてもシステムとしての感度を向上させることが最も効率的に行われるため望ましい。
【0088】
<実施形態5>
検体として、唾液を100μL採取する。採取方法は任意であるが、ある程度の定量性を持たせながらかつ専用の器具を使用しないためには、綿棒状のスワブ164が有効である(
図16)。マイクロ電極165が設けられた検査容器161に反応溶液が162のところまであらかじめ入っている状態で、スワブ164を絞り板163のくぼみに引っ掛けて絞ることにより、反応溶液に検体が混合される。
反応液は1mMのPBSに1%のTritonX-100を溶解したものにあらかじめインフルエンザA型RNAの一部の異なる位置の塩基配列にそれぞれ相補的なRNA1,2が被検出物質認識材料として混入されている。村上章ほか、化学と生物Vol.41, No.8, 2003を参考に、RNA1はピレン修飾2'-O-メチル型オリゴRNAとしたものとする。また、RNA2は粒径2μmの黒鉛に、物理的に吸着されたのちその上から0.1%BSAでブロッキング処理を加えられている。以上の反応液は、検出器に装着されると、以下の工程が行われる。
1)PCより送られた制御信号に従い、検査容器に接触した振動子が起動し、対流による撹拌が開始される。
2)常温で30秒撹拌することにより、検体に被検出物質であるインフルエンザA型ウイルスが含まれていた場合は、TritonX-100の作用によりウイルスのエンベロープが破壊され、単鎖RNAが反応液に露出し、このRNAに被検出物質認識材料としてのRNA1およびRNA2が結合する(RNA結合物)。
3)PCより送られた信号によって、検出容器の底面に配置されたマイクロ電極に2MHz、5Vの高周波が印加される。これにより、マイクロ電極に沿って、底面のXY方向にRNA結合物が濃縮される。さらに対流的撹拌により、反応液が満遍なくマイクロ電極に接触することによりZ方向の濃縮が行われる。
4)マイクロ電極付近に275nmの光をLED(スタンレー電気、MNU1109EAE-275)が照射する。
5)カラーフィルターで350nm以下の波長の光をカットし、カラーフィルターを通過してくる380nmの蛍光を光センサー(日置電機 9743)で検出し、AD変換ののちデジタル信号をPCに送る。
6)PCでは光センサーの出力変動を3分間に渡って記録し、あらかじめネガティブコントロール(導電率8000μS/cmに調整したバッファー)で検出した値との差を評価し、インフルエンザウイルスの有無の判定結果あるいは準定量データを表示する。
誘電泳動を確実なものにするために担体を使用したが、反応溶液の伝導率が十分小さく、印加電圧の上昇や検出速度の低下が許されるなら、担体を用いずに直接RNAを誘電泳動で濃縮すれば系はさらに簡単になる。
【0089】
なお、実施形態5では二重鎖になることによってRNA1に標識した蛍光が増強するケースを記載したが、実施形態5の変法となる実施形態6として、インフルエンザA型RNAの一部の塩基配列に相補的で担体に固定化されたRNA11およびRNA11に相補的なRNA12がそれぞれ蛍光、消光材で標識されており、通常はRNA11とRNA12が結合して消光されているが、被検出物質であるインフルエンザA型RNAがさらに混入された時RNA11が被検出物質と結合して消光が阻害されることを検出しても良い。この時RNA11をRNA12より十分長くしておけばRNA11と被検出物質の間のアフィニティーが高くなるため、RNA11とRNA12の結合よりRNA11と被検出物質との結合が優先され、反応速度、感度の両面から好適となる。同様に、被検出物質認識材料としてインフルエンザA型RNAの一部の塩基配列に相補的で担体に固定化されたRNA21を用い、RNA21の5'末端には蛍光標識、3'末端には消光プローブを標識した分子プローブが分子ビーコンとして、Merckまたはプライムテックから入手可能であるため、これらを用いてもよい。以上、被検出物質認識材料としてRNAを用いて説明したが、被検出物質がRNAであって、被検出物質認識材料が被検出物質に相補的なDNAであってもよい。
【0090】
<実施形態7>
材料の調製
典型的な組み合わせは、被検出物がインフルエンザA型ウイルス(InfV)であり、被検出物認識材料1、2がいずれも抗ヘマグルチニンのモノクローナル抗体(IgG1,IgG2)でありIgG1、IgG2は同時にInfVにサンドイッチ状に結合できるものである。このような抗体として、Abnova社のMAB5637-M40、MAB1268、MAB10133、MAB1269、MAB5637-M33、MAB10128から選ぶことができる。また、あらかじめ同時に結合することが確認された抗体のペアーとして、Sino Biological社SEK11684、SEKA11684でキットを組まれている抗体のいずれかを用いてもよい。
IgG1は、Qdot 585 Antibody Conjugation Kit(Thermo Fisher製)を用いて、キットに内包したプロトコルに従い、標識した。得られた標識抗体IgG1Qd585の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを
図23に示す。
IgG2はAlexa Fluor
TM 594 Antibody Labeling Kit(ThermoFisher製)を用いて、キットに内包したプロトコルに従い、標識した。得られた標識抗体IgG2AF594の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを
図24に示す。
図23と
図24を比較すると明らかなように、例えば320nm付近あるいは450nmではIgG1Qd585は十分な吸光度を持っているがこの波長では、IgG2AF594はほとんど励起されない。その一方、IgG1Qd585の蛍光(蛍光1)は585nmをピークとしており両分子が十分に近くにありFRET現象が起きればIgG2AF594が励起されて、620nmをピークとする蛍光(蛍光2)を発する。蛍光2を650nm付近で観察すれば蛍光1と分離をすることができる。また、蛍光2は励起光である、320nm、450nmと十分なストークスシフトを持っており光学フィルターなどで完全に分離をすることが可能である。
【0091】
反応液の調製
調製されたIgG1Qd585、IgG2AF594は安定剤として0.02%のアジ化ナトリウムを含む非イオン水で透析を行い脱塩したのち、両分子を同時に含む反応液を調整した。通常、抗原抗体反応をする際には、PBSなどの緩衝液を用いるが、のちに誘電泳動することを考慮すると、バッファーの導電率が低い方が望ましいので、バッファーの好適な一例は0.02%のアジ化ナトリウムを含む非イオン水である。この時、IgG1Qd585およびIgG2AF594の濃度はバックグランドとしての蛍光1および蛍光2が高くなりすぎない範囲で、高い方が望ましいが、一つの好適な例は、それぞれ10-7Mである。
【0092】
実施形態7(1)
図17の構成図に基づいて、以下の工程で、検出を行う。
1)検体として唾液を約100μL採取し、これを500μLの反応溶液と混合し、好ましくはボルテックスで撹拌する。
2)1)で得た混合液を検出セルに導入する。
3)イメージセンサーから得られた画像情報をコントロールとして保存する。
4)マイクロ電極に5V、2MHzの電圧を印加する。同時に検出セルに接触している振動素子を稼働し、積極的に反応液を特に深さ方向に対流的に撹拌する。
5)誘電泳動用の電圧、振動子はまだ稼働している状態で、2分後イメージセンサーから得られた画像情報を測定データとして保存する。
6)測定データからコントロールを差し引き、差分の画像を得る。
7)得られた差分画像データをソフト的に処理し、マイクロ電極に沿って集まった蛍光の量を計測する。この時、電極形状に沿って画像をソフト的に切り抜き、コントラストの増強などを行ってよい。
【0093】
実施形態7(2)
図19の構成図に基づいて、以下の工程で検出を行う。
1)検体として唾液を約100μL採取し、これを500μLの反応溶液と混合し、好ましくはボルテックスで撹拌する。
2)1)で得た混合液を検出セルに導入する。
3)イメージセンサーから得られた画像情報をコントロールとして保存する。
4)マイクロ電極に5V、2MHzの電圧を印加する。同時に検出セルに接触している振動素子を稼働し、積極的に反応液を特に深さ方向に対流的に撹拌する。
5)誘電泳動用の電圧、振動子はまだ稼働している状態で、2分後イメージセンサーから得られた画像情報を測定データとして保存する。
6)測定データからコントロールを差し引き、差分の画像を得る。
7)得られた差分画像データをソフト的に処理し、マイクロ電極に沿って集まった蛍光の量を計測する。
【0094】
実施形態7(3)
図20の構成図に基づいて、以下の工程で検出を行う。
1)検体として唾液を約100μL採取し、これを500μLの反応溶液と混合し、好ましくはボルテックスで撹拌する。
2)1)で得た混合液を検出セルに導入する。
3)イメージセンサーから得られた画像情報をコントロールとして保存する。
4)マイクロ電極に5V、2MHzの電圧を印加する。同時に検出セルに接触している振動素子を稼働し、積極的に反応液を特に深さ方向に対流的に撹拌する。
5)誘電泳動用の電圧、振動子はまだ稼働している状態で、2分後イメージセンサーから得られた画像情報を測定データとして保存する。
6)測定データからコントロールを差し引き、差分の画像を得る。
7)得られた差分画像データをソフト的に処理し、マイクロ電極に沿って集まった蛍光の量を計測する。この時、電極形状に沿って画像をソフト的に切り抜き、コントラストの増強などを行ってよい。
実施形態7(3)においては、光点から垂直方向の画素にのみ重点的に光が届くので一定の解像度で結像をする。スリットを設けたことにより、光度は落ちるがこれはイメージセンサーの高感度化もしくは露出時間を長くすることにより補うことが可能である。
図21に示すように、任意のY位置においてX方向にスキャンした場合に示したように電極に沿ってピークが得られる。また、この値をX方向に積分した値をΣxとする。任意のX位置においてY方向にスキャンすると、図に示したようにY方向には高い値を持続する場所が存在する。この場所でY方向に積分した値をΣyとすると、明らかにΣy>Σxになる。これにより蛍光の値をより正確に評価することが可能となる。なお、この実施形態でスキャンと表現したのは、機械的に移動するものではなく、実際には全ての画素の出力をイメージとして扱い、ソフト的な演算の方向をスキャンと表現したものである。
本発明の検出方法は、従来検出が不可能であった感染症の検査や従来検査の必要性がありながらも実施できていなかった現場での検査、さらに遺伝子検査では原理上検査が不可能であった項目の検査などにおいて有用である。