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特開2022-94228検査装置、検査方法および検査プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094228
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】検査装置、検査方法および検査プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/58 20200101AFI20220617BHJP
   G01R 31/52 20200101ALI20220617BHJP
【FI】
G01R31/58
G01R31/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207147
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】517161142
【氏名又は名称】株式会社SoBrain
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】頭本 頼数
【テーマコード(参考)】
2G014
【Fターム(参考)】
2G014AA10
2G014AA19
2G014AB33
2G014AC15
2G014AC18
(57)【要約】
【課題】相殺現象が生じている場合も考慮してIorを算出し、単相の被測定電線路の検査または監視を行うことができる検査装置を提供する。
【解決手段】単相三線式で結線された被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出部11と、被測定電線路に印加されている電圧を検出する電圧検出部12と、漏洩電流と電圧とに基づいて位相角を検出する位相角検出部13と、位相角と漏洩電流とに基づいて、抵抗成分漏洩電流を算出する算出部14と、前回測定抵抗成分漏洩電流と今回測定抵抗成分漏洩電流とを比較して、差分があるか否かを判定する判定部15とを備え、算出部14は、前回測定抵抗成分漏洩電流と今回測定抵抗成分漏洩電流との間に差分があると判定された場合、相殺現象が生じていると想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出し、および、相殺現象が生じていないと想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1非接地相、第2非接地相および接地相が単相三線式で結線された被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出部と、
前記被測定電線路に印加されている電圧を検出する電圧検出部と、
前記漏洩電流検出部により検出された漏洩電流と、前記電圧検出部により検出された電圧とに基づいて、位相角を検出する位相角検出部と、
前記位相角検出部により検出された位相角と、前記漏洩電流検出部により検出された漏洩電流とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流を算出する算出部と、
前記算出部により前回の測定で算出された前回測定抵抗成分漏洩電流と、前記算出部により今回の測定で算出された今回測定抵抗成分漏洩電流とを比較して、差分があるか否かを判定する判定部とを備え、
前記算出部は、前記判定部により前回測定抵抗成分漏洩電流と今回測定抵抗成分漏洩電流との間に差分があると判定された場合、
前記第1非接地相側に流れている第1抵抗成分漏洩電流と前記第2非接地相側に流れている第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあって相殺現象が生じていると想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出し、および、
前記第1抵抗成分漏洩電流と前記第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあっておらず相殺現象が生じていないと想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する検査装置。
【請求項2】
前記算出部は、
前記相殺現象が生じていると想定される場合には、前回測定抵抗成分漏洩電流から今回測定抵抗成分漏洩電流を減算し、符号をマイナスにすることにより抵抗成分漏洩電流を算出し、
前記相殺現象が生じていないと想定される場合には、前回測定抵抗成分漏洩電流から今回測定抵抗成分漏洩電流を減算することにより抵抗成分漏洩電流を算出する請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記算出部は、所定の期間毎に前記抵抗成分漏洩電流を算出しており、
前記判定部により前回の測定で算出された前記抵抗成分漏洩電流と今回の測定で算出された前記抵抗成分漏洩電流との間に差分がない、または、その差分が所定の範囲内であると判定された場合、前記所定の期間を延ばすように前記算出部を制御する制御部をさらに備える請求項1または2に記載の検査装置。
【請求項4】
第1非接地相、第2非接地相および接地相が単相三線式で結線された被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出工程と、
前記被測定電線路に印加されている電圧を検出する電圧検出工程と、
前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流と、前記電圧検出工程により検出された電圧とに基づいて、位相角を検出する位相角検出工程と、
前記位相角検出工程により検出された位相角と、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流を算出する第1算出工程と、
前記第1算出工程により前回の測定で算出された前回測定抵抗成分漏洩電流と、前記第1算出工程により今回の測定で算出された今回測定抵抗成分漏洩電流とを比較して、差分があるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程により前回測定抵抗成分漏洩電流と今回測定抵抗成分漏洩電流との間に差分があると判定された場合、
前記第1非接地相側に流れている第1抵抗成分漏洩電流と前記第2非接地相側に流れている第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあって相殺現象が生じていると想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出し、および、
前記第1抵抗成分漏洩電流と前記第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあっておらず相殺現象が生じていないと想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する第2算出工程とを備える検査方法。
【請求項5】
コンピュータに、
第1非接地相、第2非接地相および接地相が単相三線式で結線された被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出工程と、
前記被測定電線路に印加されている電圧を検出する電圧検出工程と、
前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流と、前記電圧検出工程により検出された電圧とに基づいて、位相角を検出する位相角検出工程と、
前記位相角検出工程により検出された位相角と、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流を算出する第1算出工程と、
前記第1算出工程により前回の測定で算出された前回測定抵抗成分漏洩電流と、前記第1算出工程により今回の測定で算出された今回測定抵抗成分漏洩電流とを比較して、差分があるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程により前回測定抵抗成分漏洩電流と今回測定抵抗成分漏洩電流との間に差分があると判定された場合、
前記第1非接地相側に流れている第1抵抗成分漏洩電流と前記第2非接地相側に流れている第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあって相殺現象が生じていると想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出し、および、
前記第1抵抗成分漏洩電流と前記第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあっておらず相殺現象が生じていないと想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する第2算出工程と、を実行させるための検査プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単相の電線路を検査または監視する検査装置、検査方法および検査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気設備の負荷機器を含む電気系統の絶縁性能は、感電、火災等の防止上、非常に重要であるが、電気設備の経年劣化や工事等により絶縁性能が損なわれ、電線路に漏洩電流(以下、「Io」という。)が発生することがある。Ioの発生を予兆したり、または、実際に発生しているIoを検知して、事故を未然に、または、早い段階で防止することが重要である。
【0003】
このため、受電変圧器には、二次側の回路の接地線にIoを検査する検査装置を設けるようにしている。ここで、Ioには、対地静電容量に起因する漏洩電流(以下、「Ioc」という。)と、絶縁抵抗に直接関与している対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流(以下、「Ior」という。)とが含まれている。
【0004】
例えば、特許文献1では、充電状態にある低圧配線から、その二種アース線に流れる漏れ電流の無効分または有効分と同相または180°位相の検査電流をつくり、この検査電流の流れる検査線を二種アース線と一緒にクランプメータで抱き合わせて測定し、検査電流の大きさと方向を調整し、無効分と同相又は180°位相の検査電流を用いた場合には、上記クランプメータの最小の指示値を有効分として計測し、有効分と同相または180°位相の検査電流を用いた場合には、上記クランプメータの指示値が最小になった状態での検査電流を漏れ電流有効分として計測する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-151570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、単相三線式(R相、N相、T相)電路の二次側は、主幹部と、各種の負荷が接続される分岐部とから構成されている。分岐部の、R相側のIor(r)と、T相側のIor(t)を合成したものが、主幹部で計測されるIoに含まれるIor(rt)である。しかしながら、R相側とT相側とは、180°の位相差があるため、Ior(rt)は、Ior(t)とIor(r)の差分で示される。以下では、Ior(rt)がIor(t)とIor(r)の差分で示されることを「相殺現象が生じている」と表現する。なお、単相三線式の各相の名称は、R相、N相、T相に限られず、他の名称でもよい。
【0007】
よって、Ior(rt)を算出した場合、このIor(rt)に相殺現象が生じているか否かを解析(予測)できないと、電線路の検査または監視を正しく行うことができない。
【0008】
本開示では、前回測定と今回測定の変化量の算出に加えて、相殺現象が生じている場合も考慮した結果も算出し、Iorの発生を見逃すことなく単相の被測定電線路の検査または監視を行うことができる検査装置、検査方法および検査プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の構成は、以下の通りである。
(1)第1非接地相、第2非接地相および接地相が単相三線式で結線された被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出部と、前記被測定電線路に印加されている電圧を検出する電圧検出部と、前記漏洩電流検出部により検出された漏洩電流と、前記電圧検出部により検出された電圧とに基づいて、位相角を検出する位相角検出部と、前記位相角検出部により検出された位相角と、前記漏洩電流検出部により検出された漏洩電流とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流を算出する算出部と、前記算出部により前回の測定で算出された前回測定抵抗成分漏洩電流と、前記算出部により今回の測定で算出された今回測定抵抗成分漏洩電流とを比較して、差分があるか否かを判定する判定部とを備え、前記算出部は、前記判定部により前回測定抵抗成分漏洩電流と今回測定抵抗成分漏洩電流との間に差分があると判定された場合、前記第1非接地相側に流れている第1抵抗成分漏洩電流と前記第2非接地相側に流れている第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあって相殺現象が生じていると想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出し、および、前記第1抵抗成分漏洩電流と前記第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあっておらず相殺現象が生じていないと想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する検査装置。
(2)前記算出部は、前記相殺現象が生じていると想定される場合には、前回測定抵抗成分漏洩電流から今回測定抵抗成分漏洩電流を減算し、符号をマイナスにすることにより抵抗成分漏洩電流を算出し、前記相殺現象が生じていないと想定される場合には、前回測定抵抗成分漏洩電流から今回測定抵抗成分漏洩電流を減算することにより抵抗成分漏洩電流を算出する(1)に記載の検査装置。
(3)前記算出部は、所定の期間毎に前記抵抗成分漏洩電流を算出しており、前記判定部により前回の測定で算出された前記抵抗成分漏洩電流と今回の測定で算出された前記抵抗成分漏洩電流との間に差分がない、または、その差分が所定の範囲内であると判定された場合、前記所定の期間を延ばすように前記算出部を制御する制御部を備える(1)または(2)に記載の検査装置。
(4)第1非接地相、第2非接地相および接地相が単相三線式で結線された被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出工程と、前記被測定電線路に印加されている電圧を検出する電圧検出工程と、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流と、前記電圧検出工程により検出された電圧とに基づいて、位相角を検出する位相角検出工程と、前記位相角検出工程により検出された位相角と、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流を算出する第1算出工程と、前記第1算出工程により前回の測定で算出された前回測定抵抗成分漏洩電流と、前記第1算出工程により今回の測定で算出された今回測定抵抗成分漏洩電流とを比較して、差分があるか否かを判定する判定工程と、前記判定工程により前回測定抵抗成分漏洩電流と今回測定抵抗成分漏洩電流との間に差分があると判定された場合、前記第1非接地相側に流れている第1抵抗成分漏洩電流と前記第2非接地相側に流れている第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあって相殺現象が生じていると想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出し、および、前記第1抵抗成分漏洩電流と前記第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあっておらず相殺現象が生じていないと想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する第2算出工程とを備える検査方法。
(5)コンピュータに、第1非接地相、第2非接地相および接地相が単相三線式で結線された被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する漏洩電流検出工程と、前記被測定電線路に印加されている電圧を検出する電圧検出工程と、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流と、前記電圧検出工程により検出された電圧とに基づいて、位相角を検出する位相角検出工程と、前記位相角検出工程により検出された位相角と、前記漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流とに基づいて、前記被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流を算出する第1算出工程と、前記第1算出工程により前回の測定で算出された前回測定抵抗成分漏洩電流と、前記第1算出工程により今回の測定で算出された今回測定抵抗成分漏洩電流とを比較して、差分があるか否かを判定する判定工程と、前記判定工程により前回測定抵抗成分漏洩電流と今回測定抵抗成分漏洩電流との間に差分があると判定された場合、前記第1非接地相側に流れている第1抵抗成分漏洩電流と前記第2非接地相側に流れている第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあって相殺現象が生じていると想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出し、および、前記第1抵抗成分漏洩電流と前記第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあっておらず相殺現象が生じていないと想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する第2算出工程と、を実行させるための検査プログラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、相殺現象が生じている場合も考慮してIorを算出し、単相の被測定電線路の検査または監視を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、単相三線式(R相、N相、T相)電路の二次側の構成を示す図である。
図2図2は、分岐部側のR相側において、分岐箇所ごとに計測したIoの値と、Ioから算出したIorの値とを示す図である。
図3図3は、分岐部側のT相側において、分岐箇所ごとに計測したIoの値と、Ioから算出したIorの値とを示す図である。
図4図4は、主幹部側において、計測したIoと、Ioから算出したIorの値とを示す図である。
図5図5は、主幹部側と分岐部側(R相側とT相側)のIoとIorをベクトル表現したときの様子を模式的に示す図である。
図6図6は、検査装置の構成を示す図である。
図7図7は、単相の場合のIocとIorの関係についての説明に供する図である。
図8図8は、検査方法の手順についての説明に供するフローチャートである。
図9図9は、コンピュータの第1構成例を示すブロック図である。
図10図10は、コンピュータの第2構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、単相三線式(R相、N相、T相)電路の二次側の構成を示す図である。単相三線式電路の二次側は、図1に示すように、主幹部側と、各種の負荷が接続される分岐部側とから構成されている。また、分岐部側は、R相側とT相側とにより構成されている。
【0013】
ここで、電線路をクランプして計測される漏洩電流(以下、「Io」と称することがある。)には、対地静電容量に起因する漏洩電流(以下、「Ioc」と称することがある。)と、絶縁抵抗に直接関与している対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流(以下、「Ior」と称することがある。)とが含まれている。また、Iorには、分岐部側のR相側のIorと、T相側のIorとが含まれている。
【0014】
図2は、分岐部側のR相側において、分岐箇所ごとに計測したIoの値と、Ioから算出したIorの値とを示す図である。図2に示す例では、分岐箇所が9箇所あり、Ioの合算が「30(mA)」であり、Iorの合算が「10(mA)」である。
【0015】
図3は、分岐部側のT相側において、分岐箇所ごとに計測したIoの値と、Ioから算出したIorの値とを示す図である。図3に示す例では、分岐箇所が9箇所あり、Ioの合算が「15(mA)」であり、Iorの合算が「5(mA)」である。
【0016】
図4は、主幹部側において、計測したIoと、Ioから算出したIorの値とを示す図である。図4に示す例では、Ioの合算が「15(mA)」であり、Iorの合算が「5(mA)」である。
【0017】
R相側とT相側とは、180°の位相差があるため、上述した例のように、R相側とT相側の双方にIoが生じた場合には、相殺現象が生じる。よって、主幹部側のIoは、分岐部側のR相側の各分岐箇所のIoを合算したものと、T相側の各分岐箇所のIoを合算したものとの差分で示される。また、主幹部側のIorは、分岐部側のR相側の各分岐箇所のIorを合算したものと、T相側の各分岐箇所のIorを合算したものとの差分で示される。
【0018】
ここで、ユーザは、主幹部側でIoとIorを監視する場合、Iorが5(mA)なので、問題が生じていないと判断してしまう可能性がある。しかし、実際には、R相側では、Iorが2倍の10(mA)生じており、ユーザは、誤った判断をする可能性がある。
【0019】
図5は、主幹部側と分岐部側(R相側とT相側)のIoとIorをベクトル表現したときの様子を模式的に示す図である。分岐部側のR相側のIo(図5中では、「Io(r)」で示す)は、Ior(r)とIoc(r)の合成(合成ベクトル)で示される。分岐部側のT相側のIo(図5中では、「Io(t)」で示す)は、Ior(t)とIoc(t)の合成(合成ベクトル)で示される。Ior(r)とIor(t)とは、180°の位相差で示される。また、同様に、Ioc(r)とIoc(t)とは、180°の位相差で示される。
【0020】
一方、主幹部側で計測されるIo(図5中では、「Io(rt)」で示す)は、Io(r)とIo(t)の差分である。また、主幹部側のIor(図5中では、「Ior(rt)」で示す)も、Ior(r)とIor(t)の差分である。
【0021】
このようにして、主幹部側で算出されたIoやIorの値には、相殺現象により、分岐部側で発生している値よりも低く算出され、主幹部側で算出したIoやIorの値だけで判断すると、電線路の検査または監視を正しく行うことができない。
【0022】
本開示では、相殺現象が生じている場合も考慮してIoやIorを算出し、単相の被測定電線路の検査または監視を行うことができる検査装置、検査方法および検査プログラムを提供する。
【0023】
以下に、本実施形態について説明する。なお、本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0024】
(検査装置の構成について)
図6は、検査装置1の構成を示す図である。検査装置1は、漏洩電流検出部11と、電圧検出部12と、位相角(位相)検出部13と、算出部14と、判定部15と、制御部16とを備える。
【0025】
漏洩電流検出部11は、第1非接地相、第2非接地相および接地相が単相三線式で結線された被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する。以下では、第1非接地相をR相と称し、第2非接地相をT相と称し、接地相をN相と称するが、この称呼に限定されない。また、以下では、漏洩電流検出部11により計測される漏洩電流を「Io」と称するが、この称呼に限定されない。
【0026】
漏洩電流検出部11には、零相変流器(ZCT)10が接続されている。零相変流器10は、電線路を一括してクランプする構成である。例えば、零相変流器10は、ハンディータイプの貫通分割形零相変流器で構成されることにより、現場において作業者が簡易に電線路に設置することができる。
【0027】
漏洩電流検出部11は、零相変流器10により計測された信号から被測定電線路に流れているIoを検出(算出)する。ここで、Ioには、対地静電容量に起因する漏洩電流(以下、「Ioc」と称することがある。)と、絶縁抵抗に直接関与している対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流(以下、「Ior」と称することがある。)とが含まれている。
【0028】
電圧検出部12は、被測定電線路に印加されている電圧を検出する。
【0029】
位相角検出部13は、漏洩電流検出部11により検出された漏洩電流(Io)と、電圧検出部12により検出された電圧とに基づいて、位相角(θ)を検出する。具体的には、位相角検出部13は、漏洩電流検出部11により検出された漏洩電流(Io)の波形と電圧検出部12により検出された電圧(基準電圧V)の波形を演算処理して、位相角(θ)を検出する。例えば、位相角検出部13は、基準電圧Vの零クロスする点と漏洩電流(Io)の零クロスする点とに基づいて、基準電圧Vと漏洩電流(Io)の位相角(θ)を検出する。また、位相角を算出する演算処理は、同期検波やDFT(離散フーリエ変換処理)を用いて行ってもよい。
【0030】
算出部14は、位相角検出部13により検出された位相角と、漏洩電流検出部11により検出された漏洩電流とに基づいて、被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流(以下、「Ior」と称することがある。)を算出する。
【0031】
図7は、単相の場合のIocとIorの関係についての説明に供する図である。図7に示すように、Iorが基準電圧と同軸(0°)に生じる。Iocは、Iorから90°進んだ場所に生じる。
【0032】
また、Iorは、漏洩電流検出部11で検出されたIoと、位相角検出部13で検出された位相角(θ)を下記式(1)に入力することにより算出することができる。
Ior=Io×cosθ ・・・(1)
【0033】
判定部15は、算出部14により前回の測定で算出された前回測定抵抗成分漏洩電流(以下、「前回Ior」と称する場合がある)と、算出部14により今回の測定で算出された今回測定抵抗成分漏洩電流(以下、「今回Ior」と称する場合がある)とを比較して、差分があるか否かを判定する。
【0034】
算出部14は、判定部15により前回Iorと今回Iorとの間に差分があると判定された場合、第1非接地相側に流れている第1抵抗成分漏洩電流と第2非接地相側に流れている第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあって相殺現象が生じていると想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する。また、算出部14は、第1抵抗成分漏洩電流と第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあっておらず相殺現象が生じていないと想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する。
【0035】
具体的には、算出部14は、(2)式に示すように、相殺現象が生じていると想定される場合には、前回Iorから今回Iorを減算し、符号をマイナスにすることによりIorを算出する。
Ior=-(前回Ior-今回Ior) ・・・(2)
なお、算出部14の算出結果であるIorがディスプレイに表示されるときには、ユーザに把握されやすいように様々な表示形式が考えられる。ディスプレイには、マイナスの符号が付加された表示形式以外の表示形式(例えば、他の記号が付加された表示形式など)で表現されてもよい。
【0036】
また、算出部14は、(3)式に示すように、相殺現象が生じていないと想定される場合には、前回Iorから今回Iorを減算することによりIorを算出する。
Ior=前回Ior-今回Ior ・・・(3)
なお、算出部14の算出結果であるIorがディスプレイに表示されるときには、ユーザに把握されやすいように様々な表示形式が考えられる。ディスプレイには、算出部14で算出された結果がそのまま表示されてもよいし、その他の表示形式でもよい。
【0037】
このようにして、検査装置1は、相殺現象が生じていると想定される場合のIorと、相殺現象が生じていないと想定される場合のIorをそれぞれ算出することができる。ユーザは、この算出結果に基づいて、単相の被測定電線路の検査、監視または保守などを行うことができる。
【0038】
また、算出部14は、所定の期間毎に抵抗成分漏洩電流を算出している。
【0039】
検査装置1は、判定部15により前回の測定で算出されたIorと今回の測定で算出されたIorとの間に差分がない、または、その差分が所定の範囲内であると判定された場合、所定の期間を延ばすように算出部14を制御する制御部16を備える。
【0040】
所定の期間が、例えば、1時間の場合であって、前回算出されたIorと今回算出されたIorとの間に差分がない、または、その差分が所定の範囲内の場合には、制御部16は、延長時間後(例えば、2時間後)に次の算出を行うように算出部14を制御する。なお、上述した所定の期間や延長時間は例示であって、この時間に限定されない。
【0041】
このようにして、検査装置1は、前回算出されたIorと今回算出されたIorとの間に差分がない、または、その差分が所定の範囲内の場合には、算出部14でIorを算出するタイミングを延長するので、算出部14の処理負担を軽減することができる。なお、制御部16は、算出部14ではなく、漏洩電流検出部11による検出タイミングと、電圧検出部12による検出タイミングを延長するように制御する構成でもよい。
【0042】
(検査方法について)
ここで、検査装置1による検査方法について説明する。図8は、検査方法の手順についての説明に供するフローチャートである。
【0043】
ステップST1において、漏洩電流検出部11は、第1非接地相、第2非接地相および接地相が単相三線式で結線された被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する(漏洩電流検出工程)。
【0044】
ステップST2において、電圧検出部12は、被測定電線路に印加されている電圧を検出する(電圧検出工程)。
【0045】
ステップST3において、漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流と、電圧検出工程により検出された電圧とに基づいて、位相角を検出する(位相角検出工程)。
【0046】
ステップST4において、算出部14は、位相角検出工程により検出された位相角と、漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流とに基づいて、被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流を算出する(第1算出工程)。
【0047】
ステップST5において、判定部15は、第1算出工程により前回の測定で算出された前回測定抵抗成分漏洩電流と、第1算出工程により今回の測定で算出された今回測定抵抗成分漏洩電流とを比較して、差分があるか否かを判定する(判定工程)。差分があると判定される場合(Yes)には、ステップST6に進み、差分がないと判定される場合(No)には、処理を終了する。
【0048】
ステップST6において、算出部14は、判定工程により前回測定抵抗成分漏洩電流と今回測定抵抗成分漏洩電流との間に差分があると判定された場合、第1非接地相側に流れている第1抵抗成分漏洩電流と第2非接地相側に流れている第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあって相殺現象が生じていると想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出し、および、第1抵抗成分漏洩電流と第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあっておらず相殺現象が生じていないと想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する(第2算出工程)。
【0049】
このような構成によれば、検査方法は、相殺現象が生じていると想定される場合のIorと、相殺現象が生じていないと想定される場合のIorをそれぞれ算出することができる。ユーザは、この算出結果に基づいて、単相の被測定電線路の検査、監視または保守などを行うことができる。
【0050】
(検査プログラムについて)
相殺現象が生じていると想定される場合のIorと、相殺現象が生じていないと想定される場合のIorをそれぞれ算出する検査プログラムは、主に以下の工程で構成されており、コンピュータ500(ハードウェア)によって実行される。
【0051】
工程1:第1非接地相、第2非接地相および接地相が単相三線式で結線された被測定電線路に流れている漏洩電流を検出する工程(漏洩電流検出工程)
【0052】
工程2:被測定電線路に印加されている電圧を検出する工程(電圧検出工程)
【0053】
工程3:第1漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流と、電圧検出工程により検出された電圧とに基づいて、位相角を検出する工程(位相角検出工程)
【0054】
工程4:位相角検出工程により検出された位相角と、漏洩電流検出工程により検出された漏洩電流とに基づいて、被測定電線路に流れている漏洩電流に含まれている対地絶縁抵抗に起因する抵抗成分漏洩電流を算出する工程(第1算出工程)
【0055】
工程5:第1算出工程により前回の測定で算出された前回測定抵抗成分漏洩電流と、第1算出工程により今回の測定で算出された今回測定抵抗成分漏洩電流とを比較して、差分があるか否かを判定する工程(判定工程)。ここで、差分があると判定される場合(Yes)には、工程6に進み、差分がないと判定される場合(No)には、処理を終了する。
【0056】
工程6:判定工程により前回測定抵抗成分漏洩電流と今回測定抵抗成分漏洩電流との間に差分があると判定された場合、第1非接地相側に流れている第1抵抗成分漏洩電流と第2非接地相側に流れている第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあって相殺現象が生じていると想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出し、および、第1抵抗成分漏洩電流と第2抵抗成分漏洩電流とが互いに打ち消しあっておらず相殺現象が生じていないと想定される場合の抵抗成分漏洩電流を算出する工程(第2算出工程)。
【0057】
ここで、コンピュータ500の構成と動作について図を用いて説明する。コンピュータ500は、図9に示すように、プロセッサ501と、メモリ502と、ストレージ503と、入出力I/F504と、通信I/F505とがバスA上に接続されて構成されており、これらの各構成要素の協働により、本開示に記載される機能、および/または、方法を実現する。
【0058】
入出力I/F504には、例えば、各種の情報を表示するディスプレイ、および、ユーザの操作を受け付けるタッチパネルなどが接続される。タッチパネルは、ディスプレイの前面に配置される。よって、ユーザは、ディスプレイに表示されるアイコンを指でタッチ操作などをすることにより、直感的な操作を行うことができる。なお、タッチパネルは、ディスプレイの前面に配置されていなくてもよい。また、タッチパネルに代えて、または、タッチパネルと共に、キーボードおよびマウスなどのポインティングデバイスが入出力I/F504に接続される構成でもよい。また、入出力I/F504には、外部に音声を出力するスピーカや、外部の音声が入力されるマイクが接続されてもよい。
【0059】
ディスプレイは、液晶ディスプレイまたは有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどにより構成され、プロセッサ501による制御の下、種々の情報を表示する。
【0060】
メモリ502は、RAM(Random Access Memory)で構成される。RAMは、揮発メモリまたは不揮発性メモリで構成されている。
【0061】
ストレージ503は、ROM(Read Only Memory)で構成される。ROMは、不揮発性メモリで構成されており、例えば、HDD(Hard Disc Drive)またはSSD(Solid State Drive)により実現される。ストレージ503には、上述した工程1から工程6で実現される検査プログラムなどの各種のプログラムが格納されている。
【0062】
例えば、プロセッサ501は、コンピュータ500全体の動作を制御する。プロセッサ501は、ストレージ503からオペレーティングシステムや多様な機能を実現する様々なプログラムをメモリ502にロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する演算装置である。
【0063】
具体的には、プロセッサ501は、ユーザの操作を受け付けた場合、ストレージ503に格納されているプログラム(例えば、検査プログラム)を読み出し、読み出したプログラムをメモリ502に展開し、プログラムを実行する。また、プロセッサ501が検査プログラムを実行することにより、漏洩電流検出部11、電圧検出部12、位相角検出部13、算出部14、判定部15および制御部16の各機能が実現される。
【0064】
ここで、プロセッサ501の構成について説明する。プロセッサ501は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、これら以外の各種演算装置、またはこれらの組み合わせにより実現される。
【0065】
また、本開示に記載される機能、および/または、方法を実現するために、プロセッサ501、メモリ502およびストレージ503などの機能の一部または全部は、図10に示すように、専用のハードウェアである処理回路601で構成されてもよい。処理回路601は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものである。
【0066】
また、プロセッサ501は、単一の構成要素として説明したが、これに限られず、複数の物理的に別体のプロセッサの集合により構成されてもよい。本明細書において、プロセッサ501によって実行されるとして説明されるプログラムまたは当該プログラムに含まれる命令は、単一のプロセッサ501で実行されてもよいし、複数のプロセッサにより分散して実行されてもよい。また、プロセッサ501によって実行されるプログラムまたは当該プログラムに含まれる命令は、複数の仮想プロセッサにより実行されてもよい。
【0067】
通信I/F505は、所定の通信規格に準拠したインターフェイスであり、有線または無線により外部装置と通信を行う。
【0068】
このようにして、検査プログラムは、相殺現象が生じていると想定される場合のIorと、相殺現象が生じていないと想定される場合のIorをそれぞれ算出することができる。ユーザは、この算出結果に基づいて、単相の被測定電線路の検査、監視または保守などを行うことができる。
【符号の説明】
【0069】
1 検査装置
10 零相変流器
11 漏洩電流検出部
12 電圧検出部
13 位相角検出部
14 算出部
15 判定部
16 制御部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10