(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094264
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】重症心身障害児者の反応理解装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20220617BHJP
【FI】
A61B5/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020219994
(22)【出願日】2020-12-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「令和元年度 国立研究開発法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発 委託研究/(データ連携・利活用による地域課題解決のための実証型研究開発(第2回))重症心身障害児の微細な反応を検知し、解析結果をお知らせするシステムの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(71)【出願人】
【識別番号】505182454
【氏名又は名称】学校法人四国大学
(72)【発明者】
【氏名】横関 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】山本 耕司
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PQ00
4C038PS00
4C038PS05
(57)【要約】
【課題】重症心身障害児者の微細な反応をもとに、意思伝達や快不快の状態検知を精度良く可能とすることで、緊急時にお知らせする機能を有する装置を提供する。
【解決手段】非接触でストレスフリーな複数センサーにより、動画像データS101からは表情筋の特徴量の算出、音声データS102の周波数分析、生理学的データS103の強度を同時に連続的に取得し、いつもの状態をアセスメントしてS104学習することにより精度を高め、時系列モデルとして蓄積S105する。いつもの状態でない場合の発生時は、異常検知領域S106において検知し、状態を評価して緊急時には状態通知を実行することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重症心身障害児者の微細な反応から状況を把握・理解するため、生理学的情報、表情からの情報、音声情報を同時に、かつ連続的に収集し、実時間に分析することにより、意思伝達や快不快のサインを即時に精度良く捉えることを可能とする装置。
【請求項2】
重症心身障害児者の生理学的情報、表情からの情報、音声情報を、ストレスをかけずに精度良く収集する方法を有する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
重症心身障害児者の生理学的情報、表情からの情報、音声情報を同時に、かつ連続的に取得した情報から、いつもの状態を動的に学習し、ストレスによる快不快や危険状態を検知し、お知らせする機能を有する請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重症心身障害児者(以下、重症児者という)の微細な反応をもとに、重症児者の意思伝達や快不快の状態検知を精度良く可能とすることで、緊急時にお知らせする機能を有する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重症児者は、医療機関から在宅へと移行する上で、生命維持のための医療的ケアや日常生活の介護が不可欠であることから、医療的ケアのための処置の指標となる数値等は、養育者自身が可視化した情報を医療機関において確認するが、重症児者の示す反応の意味については、養育者の感覚で理解していく必要があり、重症児者は自身のニーズや思いを伝えられないストレスから、筋緊張の亢進や消化管出血などの苦痛を体験しており、養育者は重症児者との意思疎通方法の困難さによって身体的・精神的・社会的負担がかなり大きくなっていた。
【非特許文献1】田中千鶴子,濱邉富美子,俵積田ゆかり,菅原スミ.医療的ケアの必要な重症心身障害者とその家族が求める在宅支援-横浜市におけるサービス利用の調査から-.日重障誌2014;39:405-414.
【非特許文献2】高木園美,桶本千史,嶋大二郎,長谷川ともみ.富山県の在宅重症心身障害児(者)の主介護者における介護負担感に関する要因.小児保健研究2014;73:403-408.
【先行技術文献】
【0003】
従来の障害児者の意思表示認識支援装置は、障害者に意思伝達の意図があることを前提としたものであるが、重症心身障害者は意思伝達の意図そのものが未発達、あるいは不明確であるため、従来のコミュニケーション支援装置は十分でない課題に対し、意思疎通が困難な障害者に与えられた刺激に対する障害者からのレスポンスを複数の生体情報を用いた演算に基づいて出力してコミュニケーションに役立てるためのコミュニケーション支援装置を提案した。
【特許文献1】特開2011-22869
【0004】
重症児者の微細な反応を理解するために、重症児者自身のコミュニケーション能力の向上を目的としてレッツチャットなどのAAC(Augmentative and Alternative Communication:拡大・代替コミュニケーション)が活用され、さらに重症児者自身の伝える能力の向上を目指してICTシステムを活用した取り組みもなされてきた。
【非特許文献3】神郡裕衣,勝二博亮,尾崎久記.超重症児者事例における教育的働きかけへの応答的反応の検討-手指動作、心拍、脳血流の解析による-.特殊教育学研究2019;57:1-11.
【非特許文献4】赤滝久美,三田勝己,長島康代,山田定宏,渡壁誠,宮野前健.重症心身障害児の訪問教育を革新するICT(情報通信技術)システム.日重障誌2018;43:117-127.
【0005】
重症児者に関わる人々が重症児者の微細な反応を捉えようと,重症児者への関わりに対する心拍数や脳血流の変化、唾液中アミラーゼ活性値など生理学的指標の活用、わずかな表情の変化や筋緊張の変化について,体験やビデオ記録から段階評定するなどの報告を行なった。
【非特許文献5】加藤篤,玄景華.唾液α-アミラーゼ活性値、筋電図および筋音図を用いた障害児(者)の歯科治療におけるストレス評価.岐阜歯科学会雑誌2018;45:113-122.
【非特許文献6】田中美央,西方真弓,宮坂道夫,倉田慶子,住吉智子.重症心身障害児の反応に関する母親の内面的支え体験.新潟大学保健学雑誌2017;14:69-78.坂本幸繁.母親の重症心身障害者の表現に対する捉え方.日重障誌2017;42:391-397.
【非特許文献7】西島和秀,奥田憲一.一事例による快反応と瞬目を指標とした重症心身障害者における姿勢の快適性の検討.作業療法2019;38:721-726.岡本拓也.わかりやすい構造構成理論-緩和ケアの本質を解く.青海社2012:35-36.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術、従来研究には以下のような問題点がある。まず、重症児者に与えられた刺激に対する重症児者からのレスポンスを複数の生体情報を用いた演算に基づいて出力してコミュニケーションに役立てるためのコミュニケーション支援装置では、反応の認識はできても変動要因を把握できないため意思伝達には十分ではないという課題がある。
【0007】
また、重症児者自身の伝える能力の向上を目指してICTシステムを活用した取り組みでは、基本的な概念として重症児者の伝える能力の存在をもとにしているが、重症児段階が大島分類の1、2等における重症児者を対象とする場合は、伝える能力に著しく向上を望めない児者を対象としているという課題がある。
【0008】
さらに、生理学的指標を測定する機器は、すべての重症児者が在宅で日常的に利用できるものではなく、また表情や筋緊張の変化の解釈は受け取る側の関心や在り方によって異なるため、経験や主観に影響される可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の発明として、重症児者の微細な反応を、複数の生体情報に加えて表情や音などの変化も機械的にセンシングして数値化し、これら異なる性質のデータを同じ時間軸上で共通に扱える値に連続変換し、重症児者固有の一連の時系列データとして取り扱うことを可能とする技術を提供する。
【0010】
第二の発明としては、第一の発明により同一時間軸上にて取り扱える時系列データを統合しアセスメントすることで、重症児者個々の持つ特徴を捉えた連続変化するデータ群によって微細な反応を捉え、伝える能力に著しく向上を望めない児者であっても「いつもの状態」モデルを形成する技術を提供する。
【0011】
第三の発明としては、第二の発明によって認知している重症児固有の「いつもの状態」を基準として、時事刻々と変化する重症児者の状態が、複数種のセンシングデータの変化の組み合わせが一定の域値を超えたとき、「いつもと違う」状態であることを検出し、必要な対応を行うことを可能とする技術を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、言語コミュニケーションを取ることができず、また非言語コミュニケーションも極めて微細で判断が難しい重症者において、快・不快のサインをストレスなく捉えるために、心拍数や呼吸数、呼吸音、発声、表情筋の動きや顔色から得られる血流変化などを指標として、複数の非接触センサを組み合わせて設置し、同時に連続データとして取得することで、本人のいつもの状態を学習し、異常を検知すると表示・通知することを可能とする。
【0013】
本発明の効果の根拠の一つはアセスメント基準にあり、その特定は専門医による検証のもと、重症児に対する快・不快時における生理学的データ、音声データ、動画像データを実際に取得して特徴量を抽出し分析したものである。他方、正常な一般成人においても実験的にストレスとなる負荷をかけてこれらデータを同様の方法で取得して特徴量を抽出・分析。さらに、これらを比較検討し、各データの域値、対象とする表情筋の特定等を経て、アセスメント基準を作成している。
【0014】
生理学的、音声、動画像の各種データを同時にかつ連続的に取得し、いつもの状態として学習する手段は、取得データの種類の組を入力とし、常時変化する各データ強度を時間軸上で一定時間内の平均及び偏差の時系列として機械学習による。音声データは高速フーリエ変換により周波数領域でいつもの状態をアセスメントし、異常と認める周波数特性を検知すると異常時と判断する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の実施の形態に係る反応理解装置を示す図である。
【
図1】装置の動作内容を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1における機能の詳細を示すブロック図である。
【
図3】
図1の動画像データ取得領域(S101)における機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0016】
実施形態1は、主に請求項1ついて説明する。実施形態2は、主に請求項2ついて説明する。実施形態3は、主に請求項3ついて説明する。
【実施例0017】
本発明は、重症児者の微細な反応を、非接触の複数センサーによりストレスフリーでデータ取得する。複数センサーとは、
図1に示す動画像データ取得領域S101、音声データ取得領域S102、生理学的データ取得領域S103を表す。この流れを詳述したのが
図2であり、動画像データ取得領域S101では顔領域パーツ検出部S1011において顔色を顔色検出部S1012で検出し、心拍数推定部にて推定に至る心拍数、及び顔領域パーツ検出部S1011における解析領域決定部で表情筋を特定し演算処理後、表情変化の強度推定部S10114に至る表情筋変化値、音声データ取得領域S102からは解析領域決定部S1022において推定する周波数、生理学的データ取得領域S103からは脈波信号抽出部S1031にて推定する脈拍数と、呼吸信号抽出部S1032にて推定する脈拍数に関し、統合アセスメント領域S104へ統合する。これらの複数種類センサーによる同時の連続データ採取により、請求項1を実現する。