(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094281
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】器具、トレーニング方法
(51)【国際特許分類】
A61H 39/00 20060101AFI20220617BHJP
A63B 23/16 20060101ALI20220617BHJP
A63B 26/00 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
A61H39/00 A
A63B23/16
A63B26/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092996
(22)【出願日】2021-06-02
(62)【分割の表示】P 2020207094の分割
【原出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】521416926
【氏名又は名称】株式会社レモン
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】菅尾 尚代
(72)【発明者】
【氏名】山田 眞次郎
【テーマコード(参考)】
4C101
【Fターム(参考)】
4C101BA01
4C101BB08
4C101BC27
4C101BD12
4C101BE02
(57)【要約】
【課題】筋肉伸長を促進し、関節可動域を拡大させることのできる器具及びトレーニング方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る器具は、筋肉伸長時の筋肉の痛みを軽減させ、関節可動域を拡大させるための器具であって、本体部と、本体部から突出して設けられ、ユーザの手の平に存在するパチニ小体を押圧により刺激する押圧部と、を備え、本体部を片手で把持することにより、パチニ小体に正確に押圧部が当接して、パチニ小体に適切な圧力を加えることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手の平に存在するパチニ小体を押圧可能な押圧部を有することを特徴とする、筋肉伸長促進用又は関節可動領域の拡大用器具。
【請求項2】
本体部と、前記本体部から突出して設けられた押圧部と、を備え、
前記本体部を片手で把持することにより、手の平に存在するパチニ小体上の皮膚に前記押圧部が当接して前記パチニ小体を押圧可能に構成されている
ことを特徴とする器具。
【請求項3】
前記押圧部が、前記パチニ小体を狙って指向可能であることを特徴とする、請求項2に記載の器具。
【請求項4】
前記押圧部は、
前記パチニ小体の押圧時に、前記パチニ小体上の皮膚と当接する当接面を有する当接部と、
前記本体部が前記ユーザにより把持された状態で前記ユーザの掌から離間して前記本体と前記当接部とを接続する接続部と、
を備えることを特徴とする、請求項2に記載の器具。
【請求項5】
前記接続部は、
前記パチニ小体上の皮膚が当接された状態で、前記パチニ小体上の前記皮膚を取り囲む皮膚の少なくとも一部と前記器具とを非接触状態とするよう構成されている、
ことを特徴とする、請求項3に記載の器具。
【請求項6】
前記本体部は、
前記押圧部が設けられた位置とは略反対となる位置に、前記ユーザの小指を位置決めするための第1窪みを有し、
前記本体部の第1窪みに前記ユーザの小指を位置させた状態で前記本体部を把持することで、前記押圧部により前記パチニ小体が押圧されるよう構成されてなることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の器具。
【請求項7】
前記本体部は、
前記第1窪みに隣接して前記ユーザの薬指を位置決めするための第2窪みを有し、
前記本体部の第2窪みに前記ユーザの薬指を位置させた状態で前記本体部を把持することで、前記押圧部により前記パチニ小体が押圧されるよう構成されてなることを特徴とする、請求項5に記載の器具。
【請求項8】
前記本体部は、
前記本体部から突出して設けられ、前記本体部が前記ユーザにより把持された状態で前記ユーザの小指と当接して、前記ユーザの手の平内において前記器具の位置を位置決めする第1ストッパー
を備えることを特徴とする、請求項2乃至請求項6のいずれかに記載の器具。
【請求項9】
前記本体部は、
前記本体部から突出して設けられ、前記本体部が前記ユーザにより把持された状態で前記ユーザの人差指及び中指との間に位置して、前記ユーザの手の平内において前記器具の回転を規制する第2ストッパー
を備えることを特徴とする、請求項2乃至請求項7のいずれかに記載の器具。
【請求項10】
前記本体部は、
前記本体部から突出して設けられ、前記本体部が前記ユーザにより把持された状態で前記ユーザの親指の付根近傍と当接して、前記ユーザの手の平内において前記器具の回転を規制する第3ストッパー
を備えることを特徴とする、請求項2乃至請求項8のいずれかに記載の器具。
【請求項11】
関節可動域を拡大させるためのトレーニング方法であって、
本体部と、前記本体部から突出して設けられ、ユーザの手の平に存在するパチニ小体を押圧により刺激する押圧部とを備える器具の前記本体部を片手で把持することにより、前記パチニ小体上の皮膚に前記押圧部が当接して、前記パチニ小体が押圧された状態で前記関節を可動させることを特徴とするトレーニング方法。
【請求項12】
運動機能向上器具用又はリハビリ用である
ことを特徴とする、請求項1乃至9のいずれかに記載の器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節可動域を拡大させるための器具及びトレーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
老化とともに関節の柔軟性が失われ身体が固くなるが、柔軟性が失われると思わぬ障害を負うことがある。特に高齢者の場合、転倒・転落時に脚を骨折すると寝たきりとなりやすく、寝たきりになると認知症が進むとの報告もある。また、高齢者でなくとも、柔軟性が低いと思わぬ大きな事故を引き起こす。また、スポーツ時におけるアキレス腱断裂や筋肉を痛める等の不慮の障害を招く恐れがある。柔軟性が高いことは、これらのような、不慮の事故や怪我、障害の予防となる。この柔軟性は、人間の体力の一つであり、筋肉と腱が伸びる能力のことで、筋力・瞬発力・持久力・調整力とともに運動能力の一つとされ、基本的な行動の基礎となる身体能力である。柔軟性が高いことは、換言すると、関節可動域が拡がることであり、しなやかな動きを実現する。人生100年時代に健康を保持増進し、安心して活動していくためには、基本的な行動の基礎となる身体能力として体力の構成要素の行動を円滑に行う力である柔軟性を高め保っていくことは、非常に重要な取り組みの一つである。
【0003】
例えば、特許文献1には、柔軟性を向上させるために、踏み板と、この踏み板の後端部の上部側に突設した踵ストッパーと、踏み板を所望の角度に傾斜させて支持する支持部材とを有し、踏み板の上面には板の巾方向に向けた所望本数の角度調整用の係合凹溝が板の前後方向に所定の間隔で平行に形成され、支持部材は板の巾の寸法より幾分長い距離間隔を存して平行に対設した所定長の一対の脚杆と、両脚杆を連結固定した連結杆と、両脚杆の上端に、両脚杆を直線で結ぶ線上に位置させると共に直角方向に向けて形成され、凹溝に係合する係合杆と、この係合杆の下部にあって、係合杆との間に板の肉厚と対応する距離間隔を存して両脚杆間に水平に架橋固設した支持杆とを有してなるストレッチング用補助器具が提案されている。
【0004】
そして、ストレッチング用補助器具によれば、支持部材の係合杆と支持杆との間に踏み板を先端側から挿入して係合杆を係合凹溝に係合し、その状態で脚杆を踏み板の前方側へ開くようにして踏み板を接地すると、踏み板は支持杆で支持されると共に係合杆とのクサビ作用によって固定され、傾斜した状態で安定して支持される。そこで、踏み板上に立ち、従来と同様の方法で使用することによりアキレス腱の強化その他の優れたストレッチングの諸効果を発揮するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の関節可動域を拡大させるための手法は、大掛かりな装置を利用したり、筋肉伸長時の筋肉の痛みや苦痛を伴ったりするもので、容易に且つ継続的に行うことが困難という問題がある。また、しばらくストレッチを行わないと柔軟性がもとに戻るという問題がある。このように、従来の関節可動域を拡大させるための手法は、効果が薄いもしくは効果が見込まれないものであった。このため、より効果の高いやり方が望まれている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、筋肉伸長を促進し、関節可動域を拡大させることのできる器具及びトレーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは、人体に多数存在するパチニ小体の内、特定のパチニ小体(具体的には手の平に存在するパチニ小体)を押圧すると、筋肉伸長が促進されること、該軽減により関節可動域を拡大させることができること、を見出し、本発明を完成させたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筋肉伸長を促進し、関節可動域を拡大させることのできる器具及びトレーニング方法を提供することができる。しかも、本発明によれば、該器具を使用した場合、使用後も一定時間(例えば5分)、筋肉伸長効果が持続するという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】実施形態に係る器具の機能を説明する図である。
【
図5】実施形態に係る器具の機能を説明する図である。
【
図6】実施形態に係る器具の把持方法を説明する図である。
【
図7】実施形態に係る器具の把持方法を説明する図である。
【
図8】実施形態の変形例に係る器具の構成を説明する図である。
【
図27】実施例の測定結果(徒手と器具(グリップ))を示す図である。
【
図28】実施例の測定結果(棒と器具(グリップ))を示す図である。
【
図29】実施例の測定結果(徒手と棒)を示す図である。
【
図30】手の存在する2つのパチニ小体の位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
人体の手の平のパチニ小体の位置は、ほぼ同じ位置にはあるが、人によって、また、左右の手によって、微妙に位置が違う。
実施形態に係る器具は、片手に持って使用する手具において、手の平に握ると、本体に備える突起であるパチニ・ボール(押圧部20の当接部21)が、毎回、正確なパチニ小体の位置に当たるような構造を有している。また、実施形態に係る器具は、パチニ小体の効果(筋弛緩効果)を最大限発揮できる適切な圧力が加えられるよう、力又は圧力の調整ができることを特徴とする。
【0012】
(パチニ小体)
パチニ小体は、圧力を検出する感覚受容器であり、手では、
図30に示すように、小指側の手の平(手首から指の付け根までの、手を握ったときに内側となる面)中央部付近(図中のA)及び中指の先端部(図中のB)に存在する。これらの内、本発明に係るパチニ小体は、手の平に存在するパチニ小体である(図中のA)。実施形態に係る器具1は、小指側の手の平中央部付近に存在するパチニ小体を刺激する。本発明では、パチニ小体への圧力刺激により筋肉伸長時における筋肉が伸びる側の痛みを軽減させることを目的としている(なお、パチニ小体については、例えば、石浦 章一 (監修)、「運動・からだ図解 脳・神経のしくみ」マイナビ出版、2016年3月29日、p.45-46や、小澤 瀞司・福田 康一郎(編集)、「標準生理学」医学書院、2009年4月1日、p.221-223、パチニ小体の位置については、Johansson RS, Vallbo AB (1983) Tactile sensory coding in the glabrous skin of the human hand. Trends Neurosci 6: 27‐31、丁 憙勇, 金子 真, 東森 充, 松川 寛二(2007)「指根元部圧迫時に おける指先触感度の向上」,計測自動制御学会論文集43 巻11 号,p. 973-979 ,https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicetr1965/43/11/43_973/_pdf/-char/ja,https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicetr1965/43/11/43_973/_article/-char/ja/、 森 友揮, 田中 孝之, 金子 俊一(2010)「把持力による皮膚変形を考慮したVibration Alert Interfaceの振動強度設計」,ヒューマンインタフェース学会論文誌12巻 2号,pp.103-111,https://www.jstage.jst.go.jp/article/his/12/2/12_103/_pdf/-char/jaなどを参照のこと)。
【0013】
[実施形態]
(器具1の構成)
図1~
図4を参照して器具1の構成について説明する。実施形態に係る器具1は、関節可動域を拡大させるための器具である。具体的には、筋肉伸長時における筋肉が伸びる側の痛みを軽減させつつ筋肉伸長を促進し、運動時の関節可動域を拡大することで、より円滑に運動が行えるようになることを目的とする器具である。
【0014】
図1(a)は、器具1の平面図、
図1(b)は、器具1の右側面図、
図1(c)は、器具1の底面図、
図1(d)は、器具1の背面図、
図1(e)は、器具1の正面図である。
図2は、
図1(b)の拡大図である。
図3(a)は、器具1の平面図、
図3(b)は、器具1の左側面図である。また、
図4及び
図5は、器具1の各部の機能を説明するための図である。
【0015】
なお、以下の説明において、
図3に示すように、Y軸に垂直で2つの第2ストッパー11Bをつなぐ仮想線に対して水平方向をX軸、器具1の長手方向をY軸、Y軸に垂直で第1窪み12Aと当接部21をつなぐ仮想線に対して水平方向をZ軸として説明する。
【0016】
器具1は、後述する把持方法により器具1を把持することで器具1の当接部21が、パチニ小体の位置に当たる所に来るように設計されている。器具1は、小指の握る力と補助的な薬指の握る力でパチニ小体を器具1の当接部21の当接面21Aで押圧することで刺激を与える設計となっている。なお当接部21は、パチニ小体だけをピンポイントで押圧できるように球形状となっている(パチニ小体以外に刺激を与えない(触れないもしくは触れにくい)形状となっていることが好ましい)。
【0017】
器具1は、ユーザにより把持される本体部10と、本体部10から突出して設けられ、本体部10がユーザにより把持された状態でユーザの手の平に存在するパチニ小体を押圧により刺激する押圧部20とを備えている。押圧部20は、パチニ小体と当接する当接面21Aを有する当接部21(パチニ・ボール)と、本体部10が前記ユーザにより把持された状態でユーザの手の平から離間して本体部10と当接部21とを接続する接続部22とを備える。ここで、当接部21は、パチニ小体だけをピンポイントで押圧できる形状(本実施形態ではボール形状であるが、パチニ小体だけをピンポイントで押圧できればよく、その他の形状であることを妨げない)となっている(パチニ小体以外に刺激を与えない(触れないもしくは触れにくい)形状となっていることが好ましい)。
【0018】
また、器具1の本体部10は、本体部10から突出して設けられ、本体部10がユーザにより把持された状態でユーザの小指と当接して、ユーザの手の平内において器具1の位置を位置決めする第1ストッパー11Aを備える。第1ストッパー11AによりY軸の上方向の移動が規制される。
【0019】
また、器具1の本体部10は、本体部10から突出して設けられ、本体部10がユーザにより把持された状態でユーザの人差指及び中指との間に位置して、ユーザの手の平内において器具1の回転を規制する第2ストッパー11Bを備える。第1ストッパー11AによりY軸の下方向の移動が規制される。
【0020】
さらに、器具1の本体部10は、本体部10から突出して設けられ、本体部10がユーザにより把持された状態でユーザの親指の付根近傍と当接して、ユーザの手の平内において器具1の回転を規制する第3ストッパー11Cを備える。
図3に示すように、第1ストッパー11AによりY軸の下方向の移動が規制される。
【0021】
以上のように、第1~第3ストッパー11A~11Cで器具1のY軸下方向への移動が規制され、手の平の中の器具1の位置は、握って位置でY軸方向には動かなくなる。また、器具1が、手の平の中で回転すると、当接部21がパチニ小体の位置からずれてしまう。小指の力により当接部21でパチニ小体を押圧するためには、器具1が手の平の中で回転してはいけない。そのため、
図4に示すように、時計方向の回転は第2ストッパー11Bが、反時計方向の回転は第3ストッパー11Cが規制することで、手の平に把持した器具1の回転が規制され、小指の押圧する力が器具1を介して確実にパチニ小体に伝わる。このように、器具1は、第1ストッパー11Aを起点とし、第2ストッパー11B及び第3ストッパー11Cの3点で、手の平の意図した位置(押圧部20の当接部21(パチニ・ボール)がパチニ小体と当接する位置)に器具1が来るよう設計されている。
【0022】
また、器具1の本体部は、押圧部20が設けられた位置とは略反対となる位置に、ユーザの小指を位置決めするための第1窪み12Aを有している。また、器具1の本体部1は、第1窪み12Aに隣接してユーザの薬指を位置決めするための第2窪み12Bを有している。実施形態の器具1は、本体部10の第1窪み12Aにユーザの小指を位置させ、第2窪み12Bにユーザの薬指を位置させた状態で本体部10を把持することで、
図5に示すように押圧部20によりパチニ小体が適切な力で押圧されるよう構成されている。
【0023】
なお、実施形態の器具1は、押圧部20が球体形状となっている。これは、パチニ小体を押圧して刺激を与える際に、パチニ小体の周りの他の感覚受容器等に刺激を与えると、それらが外乱となり、パチニ小体への圧力の刺激の感度が弱まる。押圧部20の当接部21(パチニ・ボール)を球形とすることにより、圧力刺激をパチニ小体だけに集中させることができるため、圧力を与えるボール形状の押圧部20の当接部21の周りは、所定範囲の空間が形成され、本発明の効果が大きくなる。なお、器具1が備える押圧部20の当接部21(パチニ・ボール)が1mm~15mm(好適には3~10mm)程度手の平に沈み込むことで、パチニ小体に適切な圧力を加えることができるため、
図5に示すように器具1が備える押圧部20の当接部21(パチニ・ボール)が1mm~15mm程度手の平に沈み込んだ状態で、パチニ小体以外の感覚受容器に刺激を与えないように、当接部21(パチニ・ボール)の周囲に空間が形成されていることが好ましい。また、押圧部20の当接部21の周りに所定範囲の空間が形成され、圧力刺激をパチニ小体だけに集中させることができればよく、押圧部20の当接部21は必ずしも球体形状でなくともよい。
【0024】
以上のように、手の平のパチニ小体をピンポイント的に押圧することが好適である。この点をより詳細に説明する。手の平には、尺骨神経が存在する。そして、尺骨神経上には、パチニ小体に加え他の機械受容体も存在すると理解される。この状況下、本発明に係る器具を用いた際、手の平のパチニ小体に印加される圧力>手の平の該他の機械受容体に印加される圧力、となるよう設計された器具であることが好適である。また、別の観点からは、本発明の器具を用いた際、当接部の周囲に空間が形成されることが好適である。換言すれば、当接部が手の平と当接している領域(当接領域)の外側に、器具が手の平と当接していない領域(非当接領域)が、当接領域を取り囲むよう形成されていることが好適である。
【0025】
前述したように、押圧部20は、手の平のパチニ小体をピンポイント的に押圧することが好ましい。押圧部20は、使用時に手の平のパチニ小体を狙って指向可能であり、当接部21がパチニ小体に向かって膨出する曲面を有するのが好ましい。曲面は、球面でも非球面でもよい。また、膨出の程度は、適宜に定めればよい。例えば、パチニ小体を強く刺激する場合には、膨出の程度を大きくし、パチニ小体を弱く刺激する場合には、膨出の程度を小さく(平面に近づける)すればよい。さらに、押圧部20は、円柱によって構成されてもよい。円柱によって押圧部20を構成した場合には、円柱の底面が当接部21となり、当接部21は、平面状の形状を有する。平面がパチニ小体と向かい合って当接する。さらに、押圧部20は、半径が異なる同心状に配置された複数の円柱によって構成されてもよい。押圧部20は、いずれの形状であっても、使用時に手の平のパチニ小体に指向可能にして、パチニ小体に対して圧力集中させることができればよい。
【0026】
(器具1の把持方法)
図6~
図7を参照して器具1の使用方法(把持方法)について説明する。
(1)器具1の当接部21(パチニ・ボール)の当接面21Aをパチニ小体の位置に合わせる(
図6(a)参照)。
(2)第2ストッパー11Bに小指を当接させて、第1窪み12Aに小指を、第2窪み12Bに薬指を添えるようにして本体部1の本体部10を把持する(
図6(b)参照)。
指や手は、把持したものの形状になじむため、パチニ小体の位置に当接部21(パチニ・ボール)を合わせても、小指ストッパーの位置を握ることができる。
(3)中指を第2ストッパー11Bに当接させて本体部1の本体部10を把持する(
図7(a)参照)。
(4)親指の付け根付近(水かきのある箇所)を第3ストッパー11Cに当接させて、本体部1の本体部10を把持する(
図7(b)参照)。
(5)第1~第3ストッパー11A~11Cにより手の平の中で器具1の位置が正常に決まる。換言すると、器具1の当接部21の当接面21Aがパチニ小体の位置に合う(
図7(c)参照)。
【0027】
なお、
図3(a)に示すように、器具1は平面視にてY軸を中心として左右対称に構成されているが、必ずしも平面視にてY軸を中心として左右対称に構成されている必要はない。
【0028】
以上のように、実施形態に係る器具1は、関節可動域を拡大させるための器具である。器具1は、ユーザにより把持される本体部10と、本体部10から突出して設けられ、本体部10がユーザにより把持された状態でユーザの手の平に存在するパチニ小体を押圧により刺激する押圧部20とを備える。このため、パチニ小体を刺激した状態でストレッチを行うことができ、より効果的に関節可動域を拡大させることができる。
【0029】
本実施形態に係る器具1の押圧部20は、パチニ小体と当接する当接面を有する当接部21と、本体部10がユーザにより把持された状態でユーザの手の平から離間して本体部10と前記当接部とを接続する接続部22とを備える。このため、パチニ小体だけを押圧して刺激することができ、より効果的に筋弛緩を起こすことで、関節可動域を拡大させることができる。
【0030】
本実施形態に係る器具1の本体部10は、押圧部20が設けられた位置とは略反対となる位置に、ユーザの小指を位置決めするための第1窪み12Aを有し、本体部10の第1窪み12Aにユーザの小指を位置させた状態で、本体部10を把持することで、押圧部20によりパチニ小体が押圧されるよう構成されている。このように、ユーザの手の平内で器具1を位置決めすることができるので、パチニ小体を確実に押圧して刺激することができる。
【0031】
本実施形態に係る器具1の本体部10は、第1窪み12Aに隣接してユーザの薬指を位置決めするための第2窪み12Bを有し、本体部10の第2窪み12Bにユーザの薬指を位置させた状態で本体部10を把持することで、押圧部20によりパチニ小体が押圧されるよう構成されている。このように、ユーザの手の平内で器具1を位置決めすることができるのでパチニ小体を確実に押圧して刺激することができる。
【0032】
本実施形態に係る器具1の本体部10は、本体部10から突出して設けられ、本体部10がユーザにより把持された状態でユーザの小指と当接して、ユーザの手の平内において前記器具の位置を位置決めする第1ストッパー11Aを備えている。このように、ユーザの手の平内で器具1を位置決めすることができるのでパチニ小体を確実に押圧して刺激することができる。
【0033】
本実施形態に係る器具1の本体部10は、本体部10から突出して設けられ、本体部10がユーザにより把持された状態でユーザの人差指及び中指との間に位置して、ユーザの手の平内において器具1の回転を規制する第2ストッパー11Bを備えている。このように、ユーザの手の平内で器具1を位置決めすることができるのでパチニ小体を確実に押圧して刺激することができる。
【0034】
本実施形態に係る器具1の本体部10は、本体部10から突出して設けられ、本体部10がユーザにより把持された状態でユーザの親指の付根近傍と当接して、ユーザの手の平内において器具の回転を規制する第3ストッパー11Cを備えている。このように、ユーザの手の平内で器具1を位置決めすることができるのでパチニ小体を確実に押圧して刺激することができる。
【0035】
[実施形態の変形例]
図8は、実施形態の変形例に係る器具1の構成を説明する図である。
図8(a)は、実施形態の変形例に係る器具1を分離した図、
図8(b)は、実施形態の変形例に係る器具1を組み立てた図である。上記実施形態では、器具1の押圧部20や第1~第3ストッパー11A~11Cの位置は本体部10に固定されていたが、実施形態の変形例に係る器具1は、本体部10から押圧部20や第1~第3ストッパー11A~11Cを分離可能な構成としている。
【0036】
図8(a)に示すように、実施形態の変形例に係る器具1は、本体部10は、第1本体部101、第2本体部102、第3本体部103及び第4本体部104に分離可能に構成されている。第1本体部101には、長手方向がY軸に平行な凹部101bが設けられ、押圧部20には、凹部101bと摺動可能に係合する凸部20aが設けられている。そして、第1本体部101の凹部101bに押圧部20の凸部20aが摺動可能に係合することで、押圧部20の当接部21(パチニ・ボール)の位置をY軸に対して平行に調整できるよう構成されている。
【0037】
また、第1本体部101には、長手方向がY軸に平行な凸部101aが設けられ、第2本体部102には、第1本体部101の凸部101aと摺動可能に係合する凹部102cが設けられている。そして、第2本体部102の凹部102cに第1本体部101の凸部101aが摺動可能に係合することで第1ストッパー11A(小指ストッパー)の位置をY軸に対して平行に調整できるよう構成されている(なお、第1ストッパー11A(小指ストッパー)の位置を調整することで当接部21(パチニ・ボール)の位置も調整される)。
【0038】
また、第2本体部102には、長手方向がY軸に平行な凸部102aが設けられ、第3本体部103には、第2本体部102の凸部102aと摺動可能に係合する凹部103bが設けられている。そして、第2本体部102の凸部102aに第3本体部103の凹部103bが摺動可能に係合することで第3ストッパー11C(親指ストッパー)の位置をY軸に対して平行に調整できるよう構成されている。
【0039】
また、第2本体部102には、長手方向がY軸に平行な凸部102bが設けられ、第4本体部104には、第2本体部102の凸部102bと摺動可能に係合する凹部104bが設けられている。そして、第2本体部102の凸部102bに第4本体部104の凹部104bが摺動可能に係合することで第2ストッパー11B(中指ストッパー)の位置をY軸に対して平行に調整できるよう構成されている。
【0040】
このように構成することで、各ユーザの手の大きさや形状の違いに合わせて、押圧部20の当接部21(パチニ・ボール)や第1~第3ストッパー11A~11Cの位置を調整することができ、器具を片手で把持することにより、押圧部20の当接部21(パチニ・ボール)がパチニ小体に正確に当たり、適切な圧力を加えることができる。
【0041】
なお、
図8に示す実施形態の変形例に係る器具1は、各ユーザの手の大きさや形状の違いに合わせて、押圧部20の当接部21(パチニ・ボール)や第1~第3ストッパー11A~11Cの位置を調整することができる点以外の機能、構成については、
図1~
図7を参照して説明した実施形態に係る器具1と同等である。このため、
図8に示す実施形態の変形例に係る器具1の機能及び把持方法については重複する説明を省略する(機能及び把持方法については、
図4~
図7及び対応する説明を参照のこと)。
【0042】
また、実施例にて後述するが、押圧等によりパチニ小体に刺激を与えることができれば、本発明の効果を奏する。このため、
図1~
図6を参照して説明したような実施形態に係る器具1のように必ずしも片手で握るような形状でなくともよく、例えば、手の平を挟むようにしてパチニ小体と当接してパチニ小体に押圧により刺激を与える押圧部が設けられたクリップ形状の器具であってもよい。また、手袋の内側にパチニ小体と当接する当接面を有する押圧部が設けられている構成でもよい。
【0043】
[用途]
本発明に係る器具は、筋肉伸長が促進されるので、筋肉伸長を伴う各種用途に有効である。例えば、具体的用途として、運動機能向上器具用{例えば、筋肉伸長トレーニング用(例えば、ストレッチ、ヨガ、筋トレ);陸上競技用(例えば、短距離、マラソン、走り幅跳び)、球技用(例えば、野球、ゴルフ);氷上競技用(例えば、フィギュアスケート、ジャンプ)}、リハビリ用(例えば、腰痛、四十肩、肩こり)}を挙げることができる。ここで、例えば、ゴルフ用の場合、グローブの内側にパチニ押圧部を設けたグローブを用いると、腕がより上がる効果が期待できる。また、フィギュアスケート用の場合、手の平のパチニに押圧しながら回転すると、回転数がより上がることが期待できる。本発明は、アスリートにとってはパフォーマンスをより向上させることができ、一般人にとっては痛みなく筋肉の柔軟性を向上させることができる。尚、本発明の効果をより実現させるためには、所定時間(例えば5分程度)パチニ小体を押圧し続けることが好適である。
【実施例0044】
(本実施例の目的)
本実施例では、グリップ(
図1~
図5を参照して説明した器具1)を用い、以下の方法にて、年代の異なる8名の以下の男女(以下、被験者という)に試験を行った。
【0045】
(被験者)
無作為に選んだ、20代から70代の男女(合計8名)を測定した。
20代 女性1人
30代 男性2人 女性1人
40代 男性1人 女性2人
70代 女性1人
以下の表1に今回の測定した被験者の属性を示す。
【表1】
【0046】
(測定方法1)
徒手(何も把持していない状態)、棒把持時(棒を把持した状態)及びグリップ把持時(グリップを把持した状態)との3種類の状態下にて、3種類の測定運動(側屈、足上げ、腰捻りの3種類)を被験者に実施してもらい、筋肉伸長時における筋肉の痛みや伸長をヒアリングした。その結果、3種類のいずれの測定運動(側屈、足上げ、腰捻りの3種類)についても、すべての被験者に関し、グリップ把持時が、徒手及び棒把持時と比較して、筋肉伸長時の筋肉の痛みや伸長が低いことが確認された。
【0047】
(測定方法2)
被験者を所定の位置に立たせ、3種類の測定運動(側屈、足上げ、腰捻りの3種類)をビデオカメラ(カメラ1及びカメラ2)で撮影し、徒手(何も把持していない状態)、棒把持時(棒を把持した状態)及びグリップ把持時(グリップを把持した状態)の関節可動域の角度を測定した。なお、測定にあたっては、床上に被験者の足の位置を固定するためのマットを設置した。ビデオカメラの撮影は、被験者に対して、前方及び横に各1台のビデオカメラを設置して行った(
図9参照)。
【0048】
具体的には、以下の手順で被験者の測定を行った。
被験者は所定の足位置基準ラインに合わせて立ち、3種類の測定運動を行う。
(カメラ1)
カメラ1は、被験者の各種運動での関節可動域を撮影し、関節可動域の拡大を確認するデータとした。
(カメラ2)
カメラ2で、被験者の側面から各種運動を撮影し、被験者の運動時の足の位置が正しいかを側面から確認するとともに、各運動時に被験者の身体が正しい角度で、運動が行われたかを確認した。
【0049】
(効果測定の運動の種類)
効果測定の運動(以下、測定運動と称す)は、側屈、足上げ、腰捻りの3種類を左右それぞれ行った(
図10参照)。
【0050】
(足の位置決め)
カメラ1からの被験者の距離を一定に保つことと、被験者がカメラ1の視線に対して直角に立つための位置決めを以下のように行った。
(a)側屈と腰捻りの足位置(
図11参照)
・被験者の靴のつま先の先端を、足の位置決めラインに合わせて立たせた。
・足幅は、被験者各自の運動しやすい幅を縦軸センターライン(CL)振り分けで足を開いて決めた。
・試験中に、足がずれても元の位置に戻れるように、被験者本人が決めた位置に、図示されているように、靴の先端と床にテープTを貼った。
・被験者の運動測定時の立ち位置が正しかったかは、カメラ1の映像で確認し、データに利用できるか判断をした。
【0051】
(b)足上げの足位置(
図12参照)
・上げる側の足の靴のかかと部分と、靴の側面を足位置基準ラインで示してあるラインLに沿って被験者を立たせた。
・被験者の軸足の位置は、上げる側の足位置を決めた後、上げる側の靴にくっつけるように、かつ、かかとの位置はラインLで示してある枠線に沿って、足位置をセットした。
・被験者は、足上げ運動を行う都度、足位置を確認した。
・被験者の運動測定時の足位置が正しかったかどうかは、カメラ2の映像で確認し、データに利用できるか判断をした。
【0052】
(測定手順)
(a)被験者は一人ずつ、時間を決めて集まってもらった。
(b)測定の目的、データ使用目的、安全管理及び危険性などを被験者に十分説明した。
(c)後述の方法で、被験者のパチニ小体の位置を検出し、マジックで印をつけた(後述のパチニ小体の位置の検出を参照)。
(d)試験前に約5分の準備運動を行ってもらい、身体を整えてもらった。
(e)準備運動が終わると、速やかに測定運動に入った。
【0053】
(手の平のパチニ小体の位置の検出)
上述したように、手の平のパチニ小体は、皮膚に見られる機械的な受容体の一つであり、
図1で説明したように、中指の先と、小指下の手の平にあり、圧力を検出する関節可動域である。
【0054】
(中指パチニ小体の位置の検出:
図13(a)参照)
中指の先にあるので、位置が検出しやすく、パチニ小体を押すとズキンと感じるときの感覚を認識してもらうために行った。
(a)場所を変えながらつぼ押し棒を使って中指の腹側に刺激を与え、つぼ押し棒で押したときの刺激の違いを感じてもらった。
(b)次いで、中指の腹側の先(第1関節部)の中心部をつぼ押し棒で、ゆっくり及び早く押して、ズキンと痛む箇所を検出した。
(c)次いで、ズキンと痛む箇所(パチニ・ポイント)にマジックで印をつけた。
【0055】
(手の平のパチニ小体の位置の検出:
図13(b)参照)
本実施例の測定において押圧する手の平にあるパチニ小体を検出した。
(a)場所を変えながらつぼ押し棒を使って手の平に刺激を与え、つぼ押し棒で押したときの刺激の違いを感じてもらった。
(b)次いで、小指側の手の平の中央部をつぼ押し棒で、ゆっくり及び早く押して、中指で感じた時と同じようなズキンと痛む箇所を検出した。
(c)次いで、ズキンと痛む箇所(パチニ・ポイント)にマジックで印をつけた。
なお、パチニ小体は、被験者全員が、中指の先と手の平のほぼ同じ位置にあった。
【0056】
図14は、各被験者の検出された手の平のパチニ小体の位置を示す画像である。なお、マジックでつけた印は
図14の画像では見えにくいため「〇」で囲った。
【0057】
(測定)
(a)各運動の最大角度になる時点で、カメラ1、カメラ2を、カメラがブレないように、2つのリモコンを同時に操作し、連射で撮影をした。1回30枚程度連写した。
(b)徒手、棒把持、グリップ把持を行う間、身体の位置(特に足の位置)がずれないように、実験者は被験者が決められた位置から動かないようにしているかを確認し、また、グリップをパチニ小体にきちんと当てているかを確認し、グリップを所定の位置に把持させた。
(c)3種類の各運動の間は、3分間のインターバルを設け、被験者は運動をこなした。
なお、被験者の手の平のパチニ小体の位置に、器具1の押圧部20が確実に当たっていること(押圧していること)を運動毎に確認している。
【0058】
(原点の規定)
なお、被験者の体の原点(関節可動域拡大効果を計るための原点)を以下のように規定した。
始めに絶対座標を以下のように規定した。
(a)床面をゼロとして、上方向をプラスとした。
(b)縦軸センターラインCLをゼロとして、右方向をプラス、左方向をマイナスとした。
【0059】
(グリッド原点)
また、測定の時に使うために、床面から150cmの位置で、縦軸センターライン(CL)上の位置をグリッド原点として規定した。
【0060】
(被験者の体の原点)
関節可動域拡大効果を計るための原点として以下の原点を規定した。
・足上げ右の原点
・足上げ左の原点
・側屈左右の原点
【0061】
以下に、体の原点の考え方を示す。
(a)各被験者の足の中心線を引く。また、大腿骨の関節と思われる位置に縦に体の略中心を通る線L1を引く(
図15(a)参照)
(b)足の中心部を通る線L2と線L1とが交わった位置を足上げ左の体の原点とする(
図15(b)参照)
(c)足上げ左の体の原点の縦軸センターラインCLを中心線として対称となる位置を足上げ右の体の原点とし、足上げ右の体の原点の高さで縦軸センターラインCLと交わる点を側屈の体の原点とする(
図15(c)参照)。
【0062】
次に、測定結果を得るための手順について説明する。
各運動の測定結果は、体の原点を基準として比較した(
図16参照)。
(a)撮影した測定画像から、各運動の最大パフォーマンスが出ている画像を選ぶ。
(b)イラスト機能を使って、画像から人体だけを抜き出してパワーポイント(登録商標)(以下、PPTと称する)に画像データとして貼り付ける。
(c)PPTの機能により、画像は、PPT画面の左右中央に、上下一杯のサイズで貼り付けられる。これによって、貼り付けた全ての画像は、PPTの中央に、同じ縮尺で貼り付けられる。したがって、どの画像のグリッッド原点も、PPTの画面で、同じ位置に来るため、正確な比較を行うことができる。
【0063】
徒手とグリップ把持の寸法比較方法(
図17参照)
(a)PPTに貼り付けた画像を、65インチ・ハイビジョン液晶モニターに写し、画面の上にトレーシング・ペーパーを貼り、原点を出し、トレーシング・ペーパーに写し取った各測定点や線を、定規や分度器を使って寸法を計測した。
(b)測定結果は以下の倍率で、実寸換算した。
なお、65インチの画面上で、実寸□600mmの箱を測定すると、167mmであった。このことから、画面の測定倍率は、600/167=3.593倍として計算した。
【0064】
側屈の結果(足上げ、腰捻りについても、基本的にデータのまとめ方は同じである)(
図18参照)
(a)上述した体の原点(
図18では側屈の体の原点)を特定する。
(b)トレーシング・ペーパー上に写した画像の、肘関節の中心部に鉛筆でポイントを置く。パソコンのPPT上で、そのポイントに合わせて白の三角形の直角部分をポイントとして置く。
(c)側屈の体の原点から、ポイントまでを直線(縦軸センターライン)で結ぶ。
(d)縦軸センターラインCLから傾いた体幹の屈曲角度を、徒手時の側屈の関節可動域とする。
(e)徒手と同様の手順で、グリップ把持時の原点からの関節可動角度を出す(
図19参照)。
【0065】
(徒手とグリップ把持時の比較)
(a)グリップ把持時の画像を、イラスト機能を使って、人体だけを抜き出し、画像加工する。
(b)徒手の画像の上に、上記の抜きだした画像を貼り付ける。
なお、PPTに貼り付けてある全ての人体だけの画像は、同じ縮尺で同じ原点のとおり、抜き出している。したがって、グリップ把持の画像は、徒手の画像に貼り付けても、正確に原点と縮尺は守られており、正確な比較となる(
図20参照)。なお、徒手と棒把持時の比較についても同様の手順で比較を行った。
【0066】
(測定結果の比較画像)
(側屈)
側屈は、体の側面を屈曲させる運動である。行い方は、体を真っすぐにして床上に立ち、右腕を縦軸センターラインと平行になるように真上に上げ、下の画像のように、腰から下を動かさず、上体だけを左側又は右側へ倒して側屈していく運動である。本実施例では、縦軸センターラインと側屈原点とを軸として側屈し、徒手時の体幹の傾き角度(θ1)と、棒把持時の体幹の傾き角度(θ2)と、グリップ把持時の体幹の傾き角度(θ3)を測定し、その差を比較した。なお、
図21に徒手時(点線)の体幹の傾き角度(θ1)及びグリップ把持時(実線)の体幹の傾き角度(θ3)を測定した際の画像を示す。
【0067】
(足上げ)
足上げは、両足をそろえて体を真っすぐ立て、反動をつけず、画像のように前方へ左足又は右足を振り上げる運動である。本実施例では、足上げ原点からの、徒手時の軸足と振り上げ足の間の屈曲角度(θ1)と、棒把持時の軸足と振り上げ足の間の屈曲角度(θ2)と、グリップ把持時の軸足と振り上げ足の間の屈曲角度(θ3)を測定し、その差を比較した。なお、
図22に徒手時(点線)の軸足と振り上げ足の間の屈曲角度(θ1)と、グリップ把持時(実線)の軸足と振り上げ足の間の屈曲角度(θ3)を測定した際の画像を示す。
【0068】
(腰捻り)
腰捻りは、体を真っすぐにして立った後、最大限前屈をして、腰から下を動かさないようにしておき、左手を右足の靴の位置決めテープの方向に向け、右手を真下に伸ばした状態から上方の縦軸センターラインに向かって、ゆっくり拳上していき、上体だけで体をひねっていく運動である。本実施例では、縦軸センターラインの垂直なラインと、捻り角度のラインの交点を中心として、徒手時の捻り角度(θ1)と、棒把持時の捻り角度(θ2)と、グリップ把持時の捻り角度(θ3)を測定し、その差を比較した。なお、
図23に徒手時(点線)の捻り角度(θ1)と、グリップ把持時(点線)の捻り角度(θ3)を測定した際の画像を示す。
【0069】
(比較結果)
参考のため、
図24~
図26に、側屈、足上げ及び腰捻りの測定画像を示す。
図24(a)は側屈左の画像、
図24(b)は、側屈右の画像である。
図25(a)は、足上げ左の画像、
図25(b)は、足上げ右の画像である。
図26(a)は、腰捻り左の画像、
図26(b)は、腰捻り右の画像である。なお、
図24~
図26には、「棒」の測定画像及び「グリップ(器具1)」の測定画像に加え、徒手の測定画像を示している。
【0070】
(徒手と器具(グリップ)との比較)
図27は、上記説明のようにして測定した「徒手」での角度(θ1)と「グリップ(器具1)」把持時での角度(θ3)の測定結果及び差分(Δθ1)を示す図である。
図27に示すように、程度の差はみられるものの、全ての被験者1~8において、徒手よりもグリップ(器具1)を握った方が、角度が大きくなっており、関節可動域が拡大していることがわかる。なお被験者7の腰捻り右だけが、θ3の値がマイナスとなっているが微差であり、本測定の結果に影響を与えるものではなく、本発明のグリップ(器具1)による効果は明白であると言える。
【0071】
(棒と器具(グリップ)との比較)
図28は、上記説明のようにして測定した「棒」把持時での角度(θ2)と「グリップ(器具1)」把持時での角度(θ3)の測定結果及び差分(Δθ2)を示す図である。
図28に示すように、程度の差はみられるものの、全ての被験者1~8において、棒を握った場合よりもグリップ(器具1)を握った場合の方が、角度が大きくなっており、関節可動域が拡大していることがわかる。
また、棒を握った場合、徒手の場合に比して、関節可動域が少し広がっているが、グリップ(器具1)を握った場合との関節可動域の拡大効果の違いは明白である。
これは、棒を握った場合は、力が入りやすいため筋力により関節可動域の拡大が広がったように見えるのに比して、後述の「考察」で述べるようにグリップによりパチニ小体に圧力を加えると筋肉の痛みが無くなるため関節可動域が拡大することから、根本的に異なる作用効果によるためと考えられる。
なお被験者6は、試験の最初の一人であり、足上げ右について記録が上手くできていなかった。他の被験者においては、記録及び測定ができており、その効果も顕著であるため、被験者6のデータの欠落は、本測定の結果に影響を与えるものではなく、本発明のグリップ(器具1)による効果は明白であると言える。
【0072】
(徒手と棒との比較)
図29は、上記説明のようにして測定した「徒手」での角度(θ1)と「棒」把持時での角度(θ2)の測定結果及び差分(Δθ4)を示す図である。
図29に示すように、徒手よりも棒を握った場合の方が、角度が大きくなっている被験者はいるものの、その程度は低いものであり、グリップ(器具1)を握った場合との関節可動域の拡大効果の違いは明白である。
これは、上述したように、棒を握った場合は、力が入りやすいため筋力により関節可動域の拡大が広がったように見えるのに比して、後述の「考察」で述べるようにグリップによりパチニ小体に圧力を加えると筋肉の痛みが無くなるため関節可動域が拡大することから、根本的に異なる作用効果によるためと考えられる。
なお被験者6の足上げ右については、最初の一人で、撮影ができていなかったため、測定ができていない。
【0073】
(考察)
以上のように、手の平に存在するパチニ小体の正確な位置に、適切な形状による突起で、適切な圧力による刺激を与えることで、全身の筋肉の強張りが無くなり、筋弛緩を起こすことが分かった。また、筋弛緩により、全身の柔軟性が増し、結果として関節可動域が拡がることが分かった。
【0074】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。例えば、実施形態の各構成を各々組み合わせて実施してもよい。