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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009430
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】デモンストレーション用器具
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20220106BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61C 19/04 20060101ALI20220106BHJP
   A61C 13/34 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B9/00 Z
A61C19/04 J
A61C13/34 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173426
(22)【出願日】2021-10-22
(62)【分割の表示】P 2021014821の分割
【原出願日】2018-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100147762
【弁理士】
【氏名又は名称】藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】森▲崎▼ 宏
(72)【発明者】
【氏名】潮平 直人
【テーマコード(参考)】
2C032
4C052
【Fターム(参考)】
2C032CA10
2C032CA12
4C052NN05
4C052NN15
(57)【要約】
【課題】 例えば、光拡散性を有するコンポジットレジン(CR)や構造色により発色するCRなどの特定のCRについて、これを使用したことのない者が模擬修復を行って、そのCRが適合可能なシェード範囲を簡単に確認できるような器具を提供する。
【解決手段】 窩洞又は欠損部が形成された、互いにシェードが異なる複数、好ましくは3~7個の修復用人工歯と、これを模擬修復して得られた複数の修復サンプルを並べて保持可能で、更に保持される修復サンプルのシェードが、例えばシェードの明度順に並べて表示されている陳列面を有する陳列用プレートと、を含む、デモンストレーション用器具。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬修復体験者が特定の歯科用コンポジットレジンを用いて窩洞又は欠損部が形成された修復用人工歯を模擬修復することにより、当該模擬修復体験者本人が前記特定の歯科用コンポジットレジンが適合可能な歯牙のシェードを確認するためのデモンストレーション用器具であって、
複数の修復用人工歯と、
複数の修復用人工歯を模擬修復して得られた複数の修復サンプルを並べて保持可能な陳列面を有する陳列用プレートと、を含み、
前記複数の修復用人工歯は、互いにシェードが異なる人工歯からなると共に、これら複数の修復用人工歯を構成する個々の修復用人工歯について、その形状及び大きさ、並びに前記窩洞又は前記欠損部の形状、大きさ及び形成位置は、複数の修復用人工歯間で統一されている、
ことを特徴とする前記デモンストレーション用器具。
【請求項2】
前記陳列用プレートの陳列面は、複数の前記修復用人工歯のシェードを表示するキャプション表示部を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の前記デモンストレーション用器具。
【請求項3】
前記複数の修復用人工歯の数が3~7個であり、前記陳列用プレートが、縦3~10cm、横5~15cm、厚さ1~3mmの矩形板状体からなる、請求項1又は2に記載のデモンストレーション用器具。
【請求項4】
前記特定の歯科用コンポジットレジンが(1)有機無機複合フィラーを含み、その硬化体が光拡散性を有する光拡散性歯科用コンポジットレジン、又は(2)特定の平均粒子径及び粒度分布を有する球状フィラーを用い、当該球状フィラーの屈折率を硬化した時のマトリックスとなる樹脂部の屈折率よりも大きくすることにより、光の干渉や散乱等により構造色を発現するようにした構造色系歯科用コンポジットレジンである、請求項1~3の何れか1項に記載のデモンストレーション用器具。
【請求項5】
前記複数の修復用人工歯のシェードは、何れも、明度を高い方から順に低い方向かって並べた明度順列が、B1→A1→B2→D2→A2→C1→C2→D4→A3→D3→B3→A3.5→B4→C3→A4→C4となる16種のシェード中から選ばれ、
前記キャプション表示部には、前記複数の修復用人工歯のシェードが明度順に表示されている、請求項1~4の何れか1項に記載のデモンストレーション用器具。
【請求項6】
前記特定の歯科用コンポジットレジンが、前記16種のシェード中から選ばれる特定のシェードを有する前記(1)の光拡散性歯科用コンポジットレジンであり、
前記複数の修復用人工歯は、前記光拡散性歯科用コンポジットレジンのシェードと一致するシェードを有する修復用人工歯を含む、請求項5に記載のデモンストレーション用器具。
【請求項7】
前記特定の歯科用コンポジットレジンが、前記(2)の構造色系歯科用コンポジットレジンであり、
前記明度順列を5つに分割して、グループ1:B1、A1及びB2;グループ2:D2、A2及びC1;グループ3:C2、D4、A3及びD3;グループ4:B3、A3.5、B4;並びにグループG5:C3、A4及びC4;の5グループに分類したときに、
前記複数個の修復用人工歯は、A1、A2、A3、A3.5、及びA4からなる群より選ばれる1つシェードと、当該1つシェードが属するグループ以外のグループに属するシェードを有する修復用人工歯を含む、請求項5に記載のデモンストレーション用器具。
【請求項8】
前記模擬修復体験者が、前記特定の歯科用コンポジットレジンを使用した経験を有しない者である、請求項1~7の何れか1項に記載のデモンストレーション用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポジットレジンによる歯牙修復状態を比較するためのデモンストレーション用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用コンポジットレジン(以下、単に「CR」ともいう。)とは、齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復をするための材料の一種であり、重合性単量体と、無機及び/又は有機のフィラーとを含む硬化性組成物からなる。歯科用コンポジットレジン(CR)を用いた修復(CR修復)は、歯質の切削量を少なくでき、天然歯牙色と同等の色調を付与できることや操作が容易なことから、急速に普及している。また、近年においては、機械的強度の向上や、歯牙との接着力の向上から、前歯部の修復のみならず、高い咬合圧が加わる臼歯部に対しても使用されている。
【0003】
上記したように審美性の高い修復が可能であることがCR修復の優れた特徴の一つであるが、審美性の高い修復を行うためには、修復する歯牙(被修復歯牙)の色(色相及び色調)を判別し(このような色の判別は、「シェードテイキング」と呼ばれることもある。)、判別された色に適合する色のCRを選択して修復を行う必要がある。この場合、1色のCRを用いて修復が行われることが多いが、歯牙の部位による色の変化を忠実に再現するような高い審美修復を行う場合には、色の異なる複数のCRを積層して修復することもある。
【0004】
上記シェードテイキングは、シェードガイドと呼ばれる色調見本を用いて行われるのが一般的である。シェードガイドには、色見本の数や色見本を保持する保持用器具の構成等が色の判定作業をしやすいように工夫された様々なものがあるが、全16種の色(色相と、明度及び彩度の混合指標との組み合わせからなる指標、又は色相、明度及び彩度を考慮した指標。以下このような指標で特定される色を「シェード」ともいう。)の見本からなり、該シェードガイドと修復部位および周囲の歯の色とを照らし合わせることで修復部位の色を決定することができるVITA社製の“VITA Classical”(商品名)が、最も広く普及している(特許文献1参照)。CRについても顔料物質や染料物を用いて、上記16種のシェードのものが取り揃えられることが多い。
【0005】
しかしながら、同一のシェードであってもCRの種類によって微妙に色が異なっているため、正確なシェードテイキングを行うためにはCRごとにシェードガイドを用いて判別する必要があった。また、CRでは硬化の前後で色調が変化するため、充填部位の色の適合性を判別する為には、実際に歯の修復部位に対し充填硬化させた後に判別する必要があり、所期の色が得られない場合には修復をやり直すこともあった。さらに、顔料物質や染料物質を用いて色(シェード)の調整を行った従来のCRでは、修復直後は高い色調適合性を示すが、時間が経過するに従って変色し、長期間経過後には修復部位の外観が天然歯と適合しなくなることがあった。
【0006】
一方、光拡散性を付与することにより従来のCRよりも幅広い色調の歯牙に対して高い色調適合性を示すようにしたCR(特許文献2参照)や、染料や顔料を使用することなく外観色調を制御でき、且つ退色や変色の少ないCRも提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6004769号
【特許文献2】特許第4895443号
【特許文献3】特許第6250245号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献2に記載されているCRは、配合する有機無機複合フィラー屈折率と該有機無機複合フィラーが分散するマトリックスモノマーとの屈折率との差を調整することでCR硬化体に入射した光を拡散させることにより光拡散性を高め、修復物の背景色や修復物と天然歯との輪郭をぼかす効果を付与したものである(以下、このような効果を有するCRを「光拡散性CR」ともいう。)。そのため、当該光拡散性CRは、被修復歯牙の色が調和し易く、煩雑なシェードテイキングやコンポジットレジンのシェードの選択が容易になるという特徴を有する。
【0009】
また、前記特許文献3に記載されているCRは、特定の平均粒子径及び粒度分布を有する球状フィラーを用い、当該球状フィラーの屈折率を硬化した時のマトリックスとなる樹脂部の屈折率よりも大きくすることにより、光の干渉や散乱等により構造色を発現するようにしたものであり(以下、このような構造色を発現するCRを「構造色系CR」ともいう。)、当該構造色系CRは、次のような優れた特徴を有する。すなわち、(1)染料物質や顔料物質を用いていないので前記経時変色の問題が起こり難く、(2)(使用する球状フィラーの平均粒子径に応じて)象牙色質と同様の色である黄色~赤色に着色することができ、しかも(3)硬化体が適度な透明性を有するため、被修復歯牙の色と調和し易く、煩雑なシェードテイキングやコンポジットレジンのシェード選択を行うことなく、1種類のコンポジットレジンで広範な色の被修復歯牙に対して天然歯に近い外観の修復を行うことができる、という優れた特徴を有する。
【0010】
しかしながら、光拡散性CR及び構造色系CR(以下、これらを総称して「広範色適合性CR」ともいう。)におけるこれら効果は、非常に優れたものである半面、広範色適合性CR以外の従来のCRからは想像ができない効果であることから、実際に使用した経験を有しない歯科医等(以下、単に「無使用経験歯科医等」ともいう。)には中々理解され難い。そのため、思うように普及していないのが現状である。
【0011】
また、広範色適合性CRは、何れも色の適応範囲が広いとはいえ、特に光拡散性CRにおいては1種のシェードのCRが適応できる被修復歯牙の色には限界がある。このため、より高い適合性を得るためには、被修復歯牙の色の範囲に応じて、異なるシェードの光拡散性CR又は異なる色の構造色を発現する構造色系CRを選択して使用することが好ましい。ところが、これら広範色適合性CRの適合シェード範囲を簡単に確認する手段は、今のところ存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、CRによる歯牙修復状態を簡単に比較するためのデモンストレーション用器具を用いれば前記課題は解決できると考えた。すなわち、たとえば隣接シェード間の中間的な色相及び色調を有する歯牙を、シェードテイキングを行って選択した従来の(染料物質や顔料物質を用いた)CRを用いて(模擬的に)修復した場合と、広範色適合性CRを用いて(模擬的に)修復した場合と、について修復後の外観を比較できるようなデモンストレーション用器具を用いれば、広範色適合性CRの前記優れた効果を無使用経験歯科医等に容易に理解してもらうことができ、延いてはこれら広範色適合性CRの普及促進を図ることが可能となる。また、たとえば1種類の広範色適合性CRを用いて広範なシェードの歯を(模擬的に)修復した時の修復状態を確認できるようなデモンストレーション用器具を用いれば、無使用経験歯科医等に対する効果認識に役立つだけでなく、広範色適合性CRの適合シェード範囲を簡単に確認することができるようになり、実際の修復に際してより好ましい広範色適合性CRを選択することが容易となる。
【0013】
本発明は、このような着想に基づきなされたものであり、これまで知られていない新規なデモンストレーション用器具(デモンストレーション用ツール)を提供するものである。
【0014】
すなわち、本発明は、模擬修復体験者が特定の歯科用コンポジットレジンを用いて窩洞又は欠損部が形成された修復用人工歯を模擬修復することにより、当該模擬修復体験者本人が前記特定の歯科用コンポジットレジンが適合可能な歯牙のシェードを確認するためのデモンストレーション用器具であって、複数の修復用人工歯と、複数の修復用人工歯を模擬修復して得られた複数の修復サンプルを並べて保持可能な陳列面を有する陳列用プレートと、を含み、前記複数の修復用人工歯は、互いにシェードが異なる人工歯からなると共に、これら複数の修復用人工歯を構成する個々の修復用人工歯について、その形状及び大きさ、並びに前記窩洞又は前記欠損部の形状、大きさ及び形成位置は、複数の修復用人工歯間で統一されている、ことを特徴とする前記デモンストレーション用器具である。
【0015】
上記本発明のデモンストレーション用器具においては、前記陳列用プレートの陳列面は、複数の前記修復用人工歯のシェードを表示するキャプション表示部を有することが好ましく、また、前記複数の修復用人工歯の数が3~7個であり、前記陳列用プレートが、縦3~10cm、横5~15cm、厚さ1~3mmの矩形板状体からなることが好ましい。
【0016】
また、前記特定の歯科用コンポジットレジンが(1)有機無機複合フィラーを含み、その硬化体が光拡散性を有する光拡散性歯科用コンポジットレジン、又は(2)特定の平均粒子径及び粒度分布を有する球状フィラーを用い、当該球状フィラーの屈折率を硬化した時のマトリックスとなる樹脂部の屈折率よりも大きくすることにより、光の干渉や散乱等により構造色を発現するようにした構造色系歯科用コンポジットレジンである、ことが好ましい。
【0017】
さらに、前記複数の修復用人工歯のシェードは、何れも、明度を高い方から順に低い方向かって並べた明度順列が、B1→A1→B2→D2→A2→C1→C2→D4→A3→D3→B3→A3.5→B4→C3→A4→C4となる16種のシェード中から選ばれ、前記キャプション表示部には、前記複数の修復用人工歯のシェードが明度順に表示されている、ことが好ましい。
【0018】
そして、上記の場合には、前記特定の歯科用コンポジットレジンが、前記16種のシェード中から選ばれる特定のシェードを有する前記(1)の光拡散性歯科用コンポジットレジンであり、前記複数の修復用人工歯は、前記光拡散性歯科用コンポジットレジンのシェードと一致するシェードを有する修復用人工歯を含む、デモンストレーション用器具であるか、又は、前記特定の歯科用コンポジットレジンが、前記(2)の構造色系歯科用コンポジットレジンであり、前記明度順列を5つに分割して、グループ1:B1、A1及びB2;グループ2:D2、A2及びC1;グループ3:C2、D4、A3及びD3;グループ4:B3、A3.5、B4;並びにグループG5:C3、A4及びC4;の5グループに分類したときに、前記複数個の修復用人工歯は、A1、A2、A3、A3.5、及びA4からなる群より選ばれる1つシェードと、当該1つシェードが属するグループ以外のグループに属するシェードを有する修復用人工歯を含む、デモンストレーション用器具であることが好ましい。
【0019】
また、本発明のデモンストレーション用器具は、前記模擬修復体験者が、前記特定の歯科用コンポジットレジンを使用した経験を有しない者である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のデモンストレーション用器具を用いることにより、広範色適合性CRの優れた特徴が容易に理解できるようになる。すなわち、光拡散性CRにおいては、高い光拡散性に起因して得られる“修復物の背景色や修復物と天然歯との輪郭をぼかす効果”により、広範囲のシェードの被修復歯牙と調和し易く、シェードテイキングやコンポジットレジンのシェードの選択が容易になるという特徴が容易に理解できるようになる。また、構造色系CRでは、修復後の経時変色が起こり難く、非常に広範囲のシェードの被修復歯牙の色と調和し易く、煩雑なシェードテイキングやコンポジットレジンのシェード選択を行うことなく、1種類のコンポジットレジンで広範な色の被修復歯牙に対して天然歯に近い外観の修復を行うことができる、という優れた特徴が容易に理解できるようになる。そして、その結果、たとえば展示会や、潜在顧客に対する商品紹介の場などで、本発明のデモンストレーション用器具を用いたデモンストレーションや、本発明の修復用人工歯を用いた模擬修復体験を通じて、広範色適合性CRの良さを認識してもらうことが可能になり、延いては、広範色適合性CRの普及促進を図ることが可能となる。
【0021】
さらに、本発明のデモンストレーション用器具を用いることにより、広範色適合性CRの適合シェード範囲を簡単に確認することができるようになり、実際の修復に際してより好ましい広範色適合性CRを選択することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本図は、代表的な本発明のデモンストレーション用器具の平面図(上視図)であり、A1~A3、B1、B2及びC1の各シェードの本発明の人工歯について1種類の構造色系CRを用いて模擬修復した修復物を陳列用プレートの白色地の陳列面に並べて保持したものである。
図2】本図は、修復部の確認方法を説明するための図であり、上段は、自然光下で本発明のデモンストレーション用器具を見たときの様子を表し、下段は、自然光を遮光してブラックライト照射して見たときの様子を表している。
図3】本図は、代表的な本発明のデモンストレーション用器具における修復用人工歯(左図)とそれを用いた修復物の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【0024】
本発明のデモンストレーション用器具は、模擬修復体験者が特定の歯科用コンポジットレジンを用いて窩洞又は欠損部が形成された修復用人工歯を模擬修復することにより、当該模擬修復体験者本人が前記特定の歯科用コンポジットレジンが適合可能な歯牙のシェードを確認するためのデモンストレーション用器具であって、複数の修復用人工歯と、複数の修復用人工歯を模擬修復して得られた複数の修復サンプルを並べて保持可能な陳列面を有する陳列用プレートと、を有してなる。
【0025】
ここで、上記陳列用プレートは、後に詳述する複数の修復サンプルの保持するためのプレート状の部材であり、本体と陳列面を有する。陳列用プレート本体の大きさは、保持される修復サンプルの数や配置様式に応じて適宜決定されるが、通常は、縦3~10cm、横5~15cm、厚さ1~3mmの矩形板状体、好ましくは縦4~7cm、横7~10cm、厚さ1~2mmの矩形板状体からなる。その材質は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS樹脂)、ポリカーボネート等の合成樹脂、ステンレス鋼板等の金属などが使用できるが、加工が容易で軽く腐食しないといった理由からポリプロピレン等の合成樹脂からなるものが好ましい。
【0026】
前記陳列面は、複数の修復サンプルを並べて保持可能な面であり、色調が比較しやすいという理由から白色であることが好ましく、口腔内での色調を良く再現するという理由からは黒色であることが好ましい。さらに、陳列面には、保持される修復サンプルのシェードなどを簡便な説明(キャプション)を表示するためのキャプション表示部を有していることが好ましい。
【0027】
修復サンプルの前記陳列面への保持は、通常、接着剤を用いて接着することにより行われるが、修復サンプルを着脱可能に保持するための保持手段を用いて保持することもできる。このような保持手段を用いることにより、1つの陳列用プレートで、対比したい修復サンプルを適宜交換して保持できるようになり、短い時間内に様々な観点からの比較、確認を行う場合には便利である。このような保持手段は、通常、陳列面に設置されるもの(一方の保持手段)と修復サンプルに設置されるもの(他方の保持手段)とがセットになって、着脱可能に修復サンプルを保持できるものであり、このような保持手段としては、面ファスナー、スナップボタン、各種ワンタッチコネクター又はワンタッチジョイントを挙げることができる。
【0028】
本発明のデモンストレーション用器具で使用する前記複数の修復サンプルを構成する個々の修復サンプルは、それぞれ予め定めた、所定の形状及び所定の色相及び色調(シェード)を有する人工歯の、予め定めた所定の位置に、予め定めた所定の形状及び深さを有する窩洞が形成されてなるか、又は予め定めた所定の位置に、予め定めた所定の形状の欠損部を設けてなる修復用人工歯の前記窩洞を、コンポジットレジンを用いて修復した修復物である。
【0029】
上記修復サンプルとなる修復物に用いる人工歯は、所定の形状及び所定のシェードを有し、所定の位置に前記窩洞が形成されたもの、又は予め定めた所定の位置に、予め定めた所定の形状の欠損部を設けてなるものであれば特に限定されず、たとえば、義歯床用人工歯として入手可能なアクリル系レジン歯や硬質レジン歯について、カーバイドバーやダイヤモンドバーを用いた切削加工行い、前記窩洞又は欠損部を形成したものが使用できる。
【0030】
窩洞又は欠損部が形成される前の人工歯の材質や内部構造等は特に限定されないが、天然歯牙に近い内部構造を有しており、より精密な色調適合性の評価を実現できるという観点から、デンチン層とエナメル層等の多層構造を有するものを使用するのが好ましい。また、無使用経験歯科医等に模擬修復を行ってもらいその出来栄えを確認する場合などには、コストの観点かアクリル系レジン歯を使用することが好ましい。
【0031】
人工歯は前歯、臼歯又はそれ以外でも構わないが、対比に適していると言う観点から形状及び大きさは、相互に対比される修復物の修復用人工歯間で統一さていることが好ましい。
【0032】
窩洞又は欠損部の形状は目的に応じて適宜選択すればよいが、一般的な窩洞形態の分類であるI級~V級窩洞より選択することが好ましい。形成位置、大きさ等は、目的に応じて適宜決定すればよいが、例えばI級窩洞においては、通常、本発明のデモンストレーション用器具を陳列用プレート下にして水平面に上に置いたときに、保持された修復物を真上から見たときに、その中央又は略中央となる位置に、口径2~5mmφ、深さ1~4mm、特に口径3~4mmφ、深さ2~4mmの有底円筒状もしくは弾丸型状になるようにして形成することが好ましい。また、欠損部は、歯牙の破折部に対応するものであり、通常、保持された修復物を真上から見たときに、その周縁となる位置に形成されることが好ましい。対比に適していると言う観点から窩洞又は欠損部の形成位置、形状及び大きさ等は、相互に対比される修復物の修復用人工歯間で統一さていることが好ましい。
【0033】
前記窩洞の修復に用いるコンポジットレジン(CR)は、対比の目的に応じて適宜決定される。たとえば、広範色適合性CRの優れた特徴をデモンストレーションする場合(ケース1)や広範色適合性CRの適合シェードを確認する場合(ケース2)には、広範色適合性CRが使用される。また、前記デモンストレーションにおいて、広範色適合性CR以外の従来のCRを用いて(模擬)修復を行った場合との対比をする場合(ケース3)には、当該従来のCRも合わせて用いられる。
【0034】
そして、前記複数の修復サンプルは、上記ケース1及び/又は2においては下記(1)に示す複数の修復サンプルを、上記ケース3においては下記(2)に示す複数の修復サンプルを含んでなることが好ましい。
(1)互いに表面の色相及び/又は色調が異なる複数の前記修復用人工歯の窩洞を、それぞれ同一組成を有する1種類のコンポジットレジンを用いて修復してなる複数の修復サンプル。
(2)表面の色相及び/又は色調が同一若しくは実質的に同一である複数の前記修復用人工歯の窩洞を、それぞれ互いに組成の異なる複数のコンポジットレジンを用いて修復してなる複数の修復サンプル。
【0035】
ところで、広範色適合性CRを用いて修復を行った場合には、修復部が目視で確認し難く、修復を行っていない人工歯と区別できないことがあり、観察者が修復サンプルを未加工の人工歯と誤認し、所期の目的を達成できない虞がある。このような誤認を防ぐために、修復に用いるCRは、蛍光物質を含有するもので有ることが好ましい。蛍光物質を含むCRを用いて作成した修復サンプルにブラックライトや紫外線などの、蛍光物質を発光させる高エネルギー光を照射した場合には、発光により修復部を容易に確認することができるようになる(図2参照)。人工歯にも蛍光物質が含まれることもあるので、CRに含まれる蛍光物質の種類及び/又は濃度は、使用する人工歯に応じて、上記高エネルギー光によって修復部を認識できるように適宜決定することが好ましい。
【0036】
修復サンプルは、人工歯部が露出している第一の表面領域及びコンポジットレジンによる修復部が露出している第二の表面領域を有する観察面を有してなるものとなり、前記陳列面に並べて保持するに際しては前記観察面が観察者から観察又は目視可能なように、好ましくは正対するようにして配置されることになる。複数の修復サンプルの配列、配置の仕方は、自由に設計可能であり、目的に応じて適した配列、配置を適宜採用すればよい。
【0037】
たとえば、光拡散性CRについて、前記ケース1及び2の目的で用いる場合には、効果又は適合シェード範囲を確認したい「特定シェードを有する光拡散性CR」に対し、当該シェードと同一シェードの修復用人工歯を用いて修復サンプル(「同一シェード修復サンプル」ともいう。)を準備すると共に、VITAシェードガイドを明度順に並べた場合において、当該シェードを中心として、その前後各2種以上(計4種以上)のシェード(「周辺シェード」ともいう。)の修復用人工歯を選択して、これらを用いた修復サンプル(「周辺シェード修復サンプル」ともいう。)を準備し、同一シェード修復サンプルと、周辺シェード修復サンプルの少なくとも1つ、好ましくは4種以上とを、シェードの明度順に並べて配列することが好ましい。このとき選択する周辺シェードは必ずしも、上記VITAシェードガイドの明度順列において、連続したものである必要はなく、適度な間隔をあけて選択してもよい。
【0038】
なお、VITAシェードガイドを明度順に並べた時の順列(明度高→低)は、「B1→A1→B2→D2→A2→C1→C2→D4→A3→D3→B3→A3.5→B4→C3→A4→C4」となっている。
【0039】
上記目的での好適な配列・配置例を具体的に示せば、特定シェード(=同一シェード)がA2である場合には、A2の修復用人工歯をA2の光拡散性CRで修復した同一シェード修復サンプルと、B1,A1、B2、C1及びA3の各シェードの修復用人工歯をA2の光拡散性CRで修復した周辺シェード修復サンプルを準備し、B1→A1→B2→A2(同一シェード修復サンプル)→C1→A3のように配列配置した例を挙げることができる。
【0040】
ことき、配列を2段にして、上段(又は下段)にA2の光拡散性CRによる修復サンプルを上記配列で配置すると共に、下段(又は上段)にシェードA2の(広範色適合性CR以外の)従来のCRによる修復サンプルを、上段(又は下段)と対応するように配置した場合には、上記光拡散性CRの適合シェード範囲の広さが、より実感できるものとなる。
【0041】
また、構造色系CRについて前記ケース1及び2の目的で用いる場合には、前記VITAシェードガイドの明度順列を5つのグループ、すなわち、グループ1:B1→A1→B2、グループ2:D2→A2→C1、グループ3:C2→D4→A3→D3、グループ4:B3→A3.5→B4、及びグループ5:C3→A4→C4に分類し、このグループをベースに配置配列を構成することが好ましい。たとえば、各グループにおいて、A系色の色見本であるA1、A2、A3、A3.5およびA4を夫々基準シェードとし、これら5種の基準シェードの中から選んだ1種のシェード(「特定基準シェード」)を有する修復用人工歯を、効果又は適合シェード範囲を確認したい「特定の構造色系CR」で修復した修復サンプル(「特定修復サンプル」)を準備すると共に、選定した基準シェードが属するグループ以外のグループから選んだ1種以上のシェード(当該シェードは、特定基準シェード以外の基準シェードであってもよい。)を有する修復用人工歯を「特定の構造色系CR」で修復した1種以上の修復サンプル(「通常修復サンプル」)を準備し、明度順に配列することが好ましい。このように修復用人工歯を選択配列することで、異なる明度を有する修復用人工歯に対する色調適合性を評価することができ、上記構造色系CRの適合シェードの広さが、より実感できるものとなる。
【0042】
上記目的での好適な配列の例を具体的に示せば、特定基準シェードをA2とし、B1→A2→A4とする3修復サンプル配列、特定基準シェードをA1とし、B1→A1→C1→D3→B4→A4→C4とする7修復サンプル配列などを挙げることができる。
【0043】
本発明のデモンストレーション用器具では、窩洞又は欠損部を形成した人工歯をCRにより修復したものをそのまま前記個々の修復サンプルとしてよいが、陳列用プレートの陳列面に保持するときの保持のし易さを改善するために、前記修復を行う前の人工歯又は修復後の人工歯の裏側(陳列面と接合される側)に加工を施してもよい。たとえば、接着剤を用いて接着する際の接着面積を大きくするために、一部を切削して平たん部を形成しても良いし、前記保持手段の一方(修復サンプルに設置されるもの)を設置してもよい。
【0044】
以下、図面を参照して本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれら図面に示される態様に限定されるものではない。
【0045】
図1に、代表的な本発明のデモンストレーション用器具10の平面図(上視図)を示す。当該デモンストレーション用器具10では、陳列プレート20の陳列面30上に、A1~A3、B1、B2及びC1の各シェードの人工歯について1種類の構造色系CRを用いて模擬修復した修復物からなる計6個の修復サンプル50が並べて保持されている。陳列面30は白色であり、各修復サンプル50のシェードがキャプション部40に表記されている。
【0046】
図2には、蛍光物質を含む構造色系CRで修復した修復サンプル50を配列した本発明のデモンストレーション用器具について、自然光下で目視される状態(a)と、自然光を遮光してブラックライト照射した時の状態(b)を示している。(a)の状態ではCR修復部は認識し難いが、陳列面30が黒色であることもあり、(b)の状態で、蛍光により発光しているCR修復部と、人工歯部52とのコントラストが鮮明となり、CR修復部の位置がハッキリと確認できるようになっている。
【0047】
図3には、(A)に代表的な本発明の修復用人工歯61を、(B)に当該修復用人工歯61を用いて製造した修復サンプルを示している。(B)の点線で囲われた部分がCR修復部である。
【符号の説明】
【0048】
10・・・デモンストレーション用器具
20・・・陳列プレート
30・・・陳列面
40・・・キャプション表示部
50・・・修復サンプル
51・・・CR修復部
52・・・人工歯部
60・・・修復用人工歯
61・・・窩洞
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2021-11-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載のデモンストレーション用器具。