(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094311
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】運転支援システムによる、自動化された運転過程の選択方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20220617BHJP
B60W 30/08 20120101ALI20220617BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W30/08
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021186999
(22)【出願日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】10 2020 215 780.4
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】508097870
【氏名又は名称】コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
【住所又は居所原語表記】Vahrenwalder Strasse 9, D-30165 Hannover, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】フランク・エドリング
(72)【発明者】
【氏名】ダーニエール・ドゥーベ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・クニーヴェル
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA11
3D241BA33
3D241BB01
3D241BB16
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CD10
3D241DA51Z
3D241DD13Z
(57)【要約】 (修正有)
【課題】運転支援システムによる少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択する方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は,a)現在の運転シナリオと、現在の運転シナリオに基づいて複数の異なる可能な未来の運転過程とを、運転支援システムによって決定するステップと、b)決定構造の複数の決定段階の決定によって、運転支援システムのコンピュータユニットを用いて決定構造を自動的に作成するステップと、c)走行経路を算出するステップと、d)走行経路の評価指標を算出するステップと、e)確率値を算出するステップと、f)複数の決定指標を算出するステップと、g)少なくとも部分的に自動化された運転過程を自律性の運転支援システムによって選択するステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の運転支援システムを用いて、少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択する方法であって、
a)現在の運転シナリオと、前記現在の運転シナリオに基づいて複数の異なる可能な未来の運転過程とを、前記運転支援システムによって決定するステップ(S10)と、
b)決定構造(3)の複数の決定段階(3.1)の決定によって、前記運転支援システムのコンピュータユニットを用いて前記決定構造(3)を自動的に作成するステップ(S11)と、
ここで、前記決定段階(3.1)が未来の時刻と関連付けられ、車線変更又は交通行動に関して、前記車両(1)の運転者又は関係他者(2)が行うべき少なくとも1つの決定(3.2)が、前記運転シナリオに依存して、前記決定段階(3.1)に少なくとも部分的に割り当てられており、前記運転支援システム自身が行うべき少なくとも2つの決定(3.2)が、前記決定段階(3.1)に少なくとも部分的に割り当てられており、
c)走行経路(3.3)を算出するステップ(S12)と、
ここで、各走行経路は、定義されたパスに前記決定構造(3)によって割り当てられ、各パスは1つの又は連続して行われる複数の決定(3.2)を含み、
d)前記走行経路(3.3)の評価指標を算出するステップ(S13)と、
ここで、前記評価指標は、それぞれの前記走行経路(3.3)の快適性及び/又は安全性の尺度であり、
e)確率値を算出するステップ(S14)と、
ここで、前記確率値は、前記決定構造(3)の決定段階(3.1)に割り当てられており、前記確率値はそれぞれ、前記決定段階(3.1)に割り当てられた時刻において、前記車両(1)の運転者又は関係他者(2)が車線変更又は交通行動の決定(3.2)を行う確率を示しており、
f)複数の決定指標を算出するステップ(S15)と、
ここで、1つの決定指標が1つの決定段階(3.1)にそれぞれ割り当てられ、前記決定指標の算出は、少なくとも部分的に以下の、
-前記車両(1)の運転者又は関係他者(2)が、前記決定段階(3.1)に割り当てられた前記時刻に車線変更又は交通行動の決定(3.2)を行うことを示している、それぞれの前記決定段階(3.1)の前記確率値に、及び、
-それぞれの前記決定段階(3.1)の時刻に行われる決定によって確定される走行経路(3.3)の少なくとも1つの評価指標に、基づくものであり、
g)少なくとも部分的に自動化された運転過程を自律性の前記運転支援システムによって選択するステップ(S16)であって、前記決定構造(3)、前記決定指標に基づいて、且つ、前記車両(1)の運転者又は前記関係他者(2)が、前記決定段階(3.1)に割り当てられた時刻に車線変更又は交通行動を開始したか否かに依存して、前記運転過程を選択するステップ(S16)と、
を含む、方法。
【請求項2】
少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択するために、前記決定構造(3)の前記決定段階(3.1)の前記決定指標の値を比較し、
選択された前記運転過程は、最小の決定指標の値を有する前記決定段階(3.1)に割り当てられた時刻において車線変更又は減速過程を開始する走行経路(3.3)に基づいていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記決定段階(3.1)の前記決定指標を、第1の乗算の結果と第2の乗算の結果との加算によって、少なくとも部分的にそれぞれ算出し、
前記第1の乗算においては、前記車両(1)の前記運転者又は前記関係他者(2)が、前記決定段階(3.1)に割り当てられた時刻に、車線変更を開始する確率値と、前記車線変更を実行する、走行経路の前記評価指標とを乗算し、
前記第2の乗算においては、前記車両(1)の前記運転者又は前記関係他者(2)が、前記決定段階(3.1)に割り当てられた時刻に、車線変更又は交通行動を開始しない確率値と、車線を維持して前記車両(1)を減速させる、走行経路の前記評価指標とを乗算することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記車両(1)の前記運転者が行う決定(3.2)を,ウィンカの設定及び/又は車線変更を引き起こすハンドル操作によって検出することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記関係他者(2)が行う決定を、ウィンカの検出によって、他者車両の曲がり及び/又は車線変更によって、又は人(2)の車線への進入によって検出することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
走行経路(3.3)の算出は、前記走行経路を走行する際に前記車両(1)が沿って移動する多次元座標の算出、縦方向及び横方向の加速度値の算出、及び/又は縦方向及び横方向の瞬間衝撃値の算出を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
走行経路(3.1)の前記評価指標の算出を、前記車両(1)と他者車両(2,2’)及び/又は物体との距離、設定速度との差、及び/又は車線変更頻度の考慮のもとに行うことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
走行経路(3.3)が、前記決定構造(3)を通るパスに対応しており、
前記走行経路(3.3)が、前記決定構造(3)の前記パスに割り当てられる決定(3.2)に基づいていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
決定段階(3.1)に割り当てられた未来の時刻において前記運転者が車線変更を開始する前記確率値を、前記運転者の過去の運転過程から得られたデータを用いて学習されたニューラルネットワークに基づいて算出することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
決定段階(3.1)に割り当てられた未来の時刻において前記運転者が車線変更を開始する前記確率値を、それぞれのノード(3.1)の時刻において決定によって開始される前記走行経路(3.3)の前記評価指標に基づいて算出することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
決定段階(3.1)に割り当てられた未来の時刻において前記運転者が車線変更を開始する前記確率値を、少なくとも1つのセンサによって検出された運転者の行動に基づいて算出することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記車両(1)の前記運転者又は前記関係他者(2)が,前記決定段階(3.1)に割り当てられた前記時刻に車線変更又は交通行動の決定を行うことの異なる確率値に基づいた複数の決定指標を、前記決定段階(3.1)の少なくとも一部について、それぞれ算出し、
決定段階(3.1)ごとに、最大の決定指標を、少なくとも部分的に自動化された運転過程の前記選択のためにそれぞれ使用することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記車両(1)の前記運転者が行う前記決定は、右車線から左車線への車線変更、又は中央車線から左車線又は右車線への車線変更を含むことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
複数の可能な運転過程から少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択するように形成された、車両(1)のための運転支援システムであって、前記運転支援システムは、以下のステップ、
a)現在の運転シナリオと、前記現在の運転シナリオに基づいて複数の異なる可能な未来の運転過程とを、前記運転支援システムによって決定するステップと、
b)決定構造(3)の複数の決定段階(3.1)の決定によって、前記運転支援システムのコンピュータユニットを用いて前記決定構造(3)を自動的に作成するステップと、
ここで、前記決定段階(3.1)が未来の時刻と関連付けられており、車線変更又は交通行動に関して、前記車両(1)の運転者又は関係他者(2)が行うべき少なくとも1つの決定(3.2)が、前記運転シナリオに依存して、前記決定段階(3.1)に少なくとも部分的に割り当てられており、前記運転支援システム自身が行うべき少なくとも2つの決定(3.2)が、前記決定段階(3.1)に少なくとも部分的に割り当てられており、
c)自動化された経路プランナを用いて走行経路(3.3)を算出するステップと、
ここで、各走行経路は、定義されたパスに前記決定構造(3)によって割り当てられ、各パスは1つの又は連続して行われる複数の決定(3.2)を含み、
d)前記走行経路(3.3)の自動化された評価指標を算出するステップと、
ここで、前記評価指標は、それぞれの前記走行経路(3.3)の快適性及び/又は安全性の尺度であり、
e)確率値を算出するステップと、
ここで、前記確率値は、前記決定構造(3)の決定段階(3.1)に割り当てられており、前記確率値はそれぞれ、前記決定段階(3.1)に割り当てられた時刻において、前記車両(1)の運転者又は関係他者(2)が車線変更又は交通行動の決定(3.2)を行う確率を示しており、
f)複数の決定指標を算出するステップ(S15)と、
ここで、1つの決定指標が1つの決定段階(3.1)にそれぞれ割り当てられ、前記決定指標の前記算出は、少なくとも部分的に以下の、
-前記車両(1)の運転者又は関係他者(2)が、前記決定段階(3.1)に割り当てられた前記時刻に車線変更又は交通行動を行う決定(3.2)を行うことを示している、それぞれの前記決定段階(3.1)の前記確率値に、及び、
-それぞれの決定段階(3.1)の時刻に行われる決定(3.2)によって確定される走行経路(3.3)の少なくとも1つの評価指標に、基づくものであり、
g)少なくとも部分的に自動化された運転過程を自律性の前記運転支援システムによって選択するステップであって、前記決定構造(3)、前記決定指標に基づいて、且つ、前記車両(1)の運転者又は前記関係他者(2)が、前記決定段階(3.1)に割り当てられた時刻に車線変更又は交通行動を開始したか否かに依存して、前記運転過程を選択するステップと、
を実行するように形成されている、運転支援システム。
【請求項15】
請求項14に記載の運転支援システムを備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転支援システムによって、少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転支援システムは、現在の運転シナリオに基づいて、車両が自動運転される走行経路(Fahrtrajektorie)を算出することができる。すなわち、例えば、運転者がハンドル操作することなく、及び/又は、運転者がアクセルペダル或いはブレーキペダルを操作することなく、車両を移動させることができる。特に、自動運転レベル2(SAEレベル2)による運転支援システムでは、車線を維持する機能はあるが、運転者の操作なしには車線変更ができないものが知られている。また、運転者が車線変更を開始した場合には、自動的に車線変更が行われる。
【0003】
それぞれの運転シナリオに依存して、さまざまな運転過程を行うことができる。例えば、複数車線の道路において、前方の遅い他者車両に接近する際に、この他者の車に対する時刻又は距離を変えて、速度を下げることが可能である。これは、特に、自動運転レベル2以下の運転支援システムを備えた自車両の運転者が、車線変更を開始したか否かを想定できるかどうかに依存する。
【0004】
別の運転シナリオにおいては、関係他者の可能な交通行動によって、特定の運転過程を開始することが有利であるかどうかを決定する。すなわち、運転支援システムの影響を受けないトリガは、自車両の運転者ではなく、他の道路利用者(例えば、他者車両、歩行者、自転車など)又は交通規制装置(信号機、遮断機など)によって引き起こされる。
【0005】
運転者が車線変更を開始することが予想される場合、人間の運転者から見て不必要な速度低下につながるため、早期に速度を低下させない方が有利である。反対に、運転者が車線変更を開始しないと予想される場合には、早い段階において速度を下げた方が、先行の他者車両に接近しすぎて、それに伴う大きなブレーキをかけることを防ぐために有利である。安全性及び/又は快適性の観点から、どのような運転過程が有利かを関係他者の交通行動が決定するような運転シナリオにおいても同様である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に基づき、本発明の課題は、運転支援システムによる少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択する方法を提供することであり、この方法は、人間の運転行動に可能な限り近い車両の制御を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、独立請求項1の特徴を有する方法によって解決される。好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。運転支援システムは、独立請求項14の主題であり、そのような運転支援システムを備えた車両は、独立請求項15の主題である。
【0008】
第1の局面によると、本発明は、車両の運転支援システムによって、少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択する方法に関するものである。この方法は、以下のステップを含む。
【0009】
まず、現在の運転シナリオ、すなわち、車両が現在置かれている運転状況を決定する。これは、例えば、「車両は2車線道路の右車線を走行中であり、左車線は空いており、150m先に遅い他者車両が存在する」というような内容であり得る。運転支援システムは、現在の運転シナリオに基づいて、複数の異なる未来の運転過程の可能性を確定する。上記の運転シナリオにおいては、例えば、一定速度での車線変更、一定速度での車線維持、減速しながらの車線維持が考えられる。言うまでもなく、これらの運転過程が異なる時刻において開始できる。
【0010】
次いで、運転支援システムのコンピュータユニットによって、決定構造(以下、決定木ともいう)を自動的に作成する。その際、決定木の複数の決定段階(以下、ノードともいう)を決定し、ノードはそれぞれ未来の特定の時刻に関連付けられている。車線変更又は交通行動に関して、車両の運転者又は関係他者が行うべき少なくとも1つの決定が、運転シナリオに依存して、ノードに少なくとも部分的に割り当てられる。関係他者は、例えば、他者車両、歩行者、サイクリスト、又は交通行動(例えば、車線変更、方向転換、車線への進入など)を行うことができる他の対象物であり得る。
【0011】
さらに、運転支援システム自身が行う少なくとも2つの決定又は行動オプションが、ノードに少なくとも部分的にそれぞれ割り当てられている。それによって、決定木によれば、決定木のノードに関連付けられた時刻に複数の決定を行うことができる。しかも、その決定は、自車両の運転者(自身の車線変更)によって、又は関係他者(例えば、他者車両の車線変更)によって、又は運転支援システム自体の決定(例えば、減速を伴う車線維持、減速を伴わない車線維持、衝突回避のための急ブレーキ)によってイニシアティブを取られて行うことができる。
【0012】
それぞれのノードにおいて行われる決定に関して、より長い期間を有する運転過程の一部である部分的な運転過程が定義される。言い換えれば、1つの運転過程は、決定木の枝に割り当てられた複数の部分運転過程によって構成される。例えば複数のノードに拡がる、決定木を通るパス(Prad)は、それによって複数の決定から、及び、それによって、複数の関連付けられた部分運転過程から構成される。
【0013】
続いて、走行経路を算出する。各走行経路は、決定木を通る定義されたパスに割り当てられ、各パスは1つの又は連続して行われる複数の決定を含む。それぞれの走行経路は、例えば、2次元座標系における車両の移動車線(Bewegungsbahn)を定義し、好ましくは、この移動車線を走り抜ける車両の速度も決定する。また、走行経路を算出する際には、縦方向及び横方向の加速度、又は、縦方向及び横方向の瞬間衝撃(Ruck)を確定することもできる。そのため、このステップにおいては、決定木に従って行うことができるそれぞれの決定に依存して、現在の運転シナリオにおいて通過することができる複数の走行経路が算出される。
【0014】
さらに、走行経路の評価指標を算出する。評価指標は、その際、それぞれの走行経路の快適性及び/又は安全性の尺度である。評価指標は数値であることが好ましく、それによって、評価指標を比較することによって、快適性及び/又は安全性の観点から個々の走行経路を互いに比較することができる。
【0015】
さらに、決定木のノードに割り当てられた確率値を算出する。確率値は、ノードに割り当てられた時刻において、車両の運転者又は関係他者が、車線変更又はその他の交通行動の決定を行う確率を示している。言い換えれば、この確率値は、ノードに割り当てられた時刻において、車両の運転者又は関係他者によってなされる決定の可能性を示している。その決定に対して、走行経路の提供によって自車両の運転支援システムが応じなければならない。
【0016】
次いで、複数の決定指標を算出する。その際、1つの決定指標が1つのノードにそれぞれ割り当てられる。決定指標の算出は、少なくとも部分的には、車両の運転者又は関係他者が、ノードに割り当てられた時刻に車線変更又は交通行動の決定を行うことを示す、それぞれのノードの確率値に基づいている。さらに、決定指標の算出は、それぞれのノードの時刻に行われる決定によって確定される走行経路の少なくとも1つの評価指標に基づいている。
【0017】
最後に、自律性の運転支援システムによって、決定木、決定指標に基づいて、且つ、車両の運転者又は関係他者がノードに割り当てられた時刻に車線変更又は交通行動を開始したか否かに依存して、少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択する。特に、自車両の運転者の決定又は関係他者の決定が、事前に別の運転過程の開始を余儀なくされていない場合、決定木は最も低い決定指標を有するノードまで走り抜け(durchlaufen)、そこでは、運転支援システムによって自動化されて、同時に低い減速度(例えば、緊急ブレーキをかける場合に比べて、少なくとも80%又は90%の減速度)においての車線維持の決定が開始される。
【0018】
本発明による方法の技術的利点は、車線変更又は交通行動が開始される確率を考慮し、且つ、快適性及び/又は安全性の観点から経路特性を考慮することによって、できるだけ自然であって、人間の運転行動を指向した運転感覚を可能にする運転過程が自動的に選択されることにある。言い換えれば、人間の運転者の運転行動に非常に大きく対応する運転過程が選択される。
【0019】
一実施例によれば、少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択するために、決定木のノードの決定指標の値を比較する。選択された運転過程は、最小の決定指標値を有するノードに割り当てられた時刻において、車線変更又は減速過程を開始する走行経路に基づいている。言い換えれば、ノードの決定指標の比較が行われ、どのノードに最も低い決定指標値が割り当てられているかが確定される。最も低い決定指標値は、そのノードの時刻に運転者が車線変更を開始する確率と、そのノードの走行経路の評価指標とを考慮すると、その時刻において、車線変更を開始する(自車両又は他者車両の運転者が開始しなければならない)か、車線を維持して減速する(運転支援システムのみが開始する)かのどちらが有利であるかの、しるしである。
【0020】
なお、車線変更のイニシアティブは、好ましくは、運転者にあることに留意すべきである。車線変更自体は、運転支援システムによって自動化することができる。
【0021】
一実施例によれば、ノードの決定指標を、第1の乗算の結果と第2の乗算の結果との加算によって、少なくとも部分的にそれぞれ算出する。第1の乗算においては、車両の運転者又は関係他者が、ノードに割り当てられた時刻に、車線変更又は交通行動を開始する確率値と、車線変更を実行する、走行経路の評価指標とを乗算する。第2の乗算においては、車両の運転者又は関係他者が、ノードに割り当てられた時刻に、車線変更又は交通行動を開始しない確率値と、車線を維持して車両を減速させる、走行経路の評価指標とを乗算する。それによって、ノードに割り当てられ、且つ、それによってそれぞれの決定時刻に割り当てられる決定指標の算出には、この時刻において選択されている走行経路の評価指標と、自車両の運転者又は関係他者の行動によってこれらの走行経路が選択される確率との両方が考慮される。
【0022】
一実施例によれば、車両の運転者が行う決定を、ウィンカの設定及び/又は車線変更を引き起こすハンドル操作によって検出する。それによって、運転者がいつ車線変更をしたいかを、運転支援システムが検知できる。
【0023】
一実施例によれば、関係他者が行う決定を、他者車両のウィンカ及び/又は車線変更の検出、他者車両の曲がり、他者車両の自車線への接近及び進入、又は人の車線への進入によって検出する。これは、例えば、カメラ、レーダセンサ、及び/又はLIDARセンサを有する、この目的に適したセンサシステムを介して検出することができる。それによって、運転支援システムによって、他者車両が車線変更を行っているかどうか、或いは、関係他者が、運転支援システムによる運転過程を必要とする可能性のある交通行動を行っているかどうかを認識することができる。
【0024】
一実施例によれば、走行経路の算出は、走行経路を走行する際に車両が沿って移動する多次元座標の算出、縦方向及び横方向の加速度値の算出、及び/又は、縦方向及び横方向の瞬間衝撃値の算出を含む。それによって、走行経路上に車両を移動させたときに、走行経路が衝突フリー(kollisionsfrei)かどうか、どのような力が車両の乗員に作用するかを確定することができる。これらは、走行経路の快適性及び安全性の印象のために重要なパラメータである。
【0025】
一実施例によれば、走行経路の評価指標の算出は、自車両と他者車両及び/又は物体との距離、設定速度との差、及び/又は車線変更頻度を含めて行われる。これらも、走行経路の快適性や安全性の印象のために欠かせないパラメータである。
【0026】
一実施例によれば、走行経路が、決定木を通るパスに対応しており、走行経路が、決定木のパスに割り当てられる決定に基づいている。そのため、走行経路は、例えば、最初は一定の速度において車線を維持し、後に車線変更を行うなど、複数の部分経路から構成され得る。
【0027】
一実施例によれば、ノードに割り当てられた未来の時刻において運転者が車線変更を開始する確率値を、運転者の過去の運転過程から得られたデータを用いて学習されたニューラルネットワークに基づいて算出する。これによって、過去に得られた統計的な関係から、車線変更の確率を推定又は算出することができる。
【0028】
一実施例によれば、ノードに割り当てられた未来の時刻において運転者が車線変更を開始する確率値を、それぞれのノードの時刻における決定によって開始される走行経路の評価指標に基づいて算出する。人間の運転者は、快適性及び/又は安全性の観点から十分に良好な車線変更が可能な走行経路を利用できる場合に、車線変更を開始することが多い。そのため、運転者によって開始される車線変更の確率を決定又は推定するために、走行経路の評価指標を利用できる。
【0029】
一実施例によれば、ノードに割り当てられた未来の時刻において運転者が車線変更を開始する確率値を、少なくとも1つのセンサによって検出された運転者の行動に基づいて算出する。センサは、例えば、運転者が既にサイドミラーを見ているか、肩越しに見ているか、自車線の前方だけを長く見ているかなどを検出することができる。それによって、センサに基づいて車線変更確率を算出又は推定することができる。
【0030】
一実施例によれば、車両の運転者又は関係他者が、ノードに割り当てられた時刻に車線変更又は交通行動の決定を行うことの異なる確率値に基づいた複数の決定指標を、ノードの少なくとも一部について、それぞれ算出し、ノードごとに、最大の決定指標を、少なくとも部分的に自動化された運転過程の選択のためにそれぞれ使用する。車線変更又は交通行動に関する確率値は、その確率値が関係する時刻が未来になればなるほど、不確実性が増す。異なる確率値に基づいて決定指標を算出することによって、確率値が不正確であっても、快適性及び/又は安全性の観点から最適な運転過程を可能にする運転過程を選択することができる。
【0031】
一実施例によれば、車両の運転者が行う決定は、右車線から左車線への車線変更、又は中央車線から左車線又は右車線への車線変更を含む。
【0032】
さらなる局面によれば、本発明は、複数の可能な運転過程から少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択するように形成された、車両のための運転支援システムに関する。この運転支援システムは、以下のステップを実行するように形成されている。
a)現在の運転シナリオと、現在の運転シナリオに基づいて複数の異なる可能な未来の運転過程とを、運転支援システムによって決定するステップと、
b)決定木の複数のノードの決定によって、運転支援システムのコンピュータユニットを用いて決定木を自動作成するステップと、
ここで、ノードが未来の時刻と関連付けられており、車線変更又は交通行動に関して、車両の運転者又は関係他者が行うべき少なくとも1つの決定が、運転シナリオに依存して、ノードに少なくとも部分的に割り当てられており、運転支援システム自身が行うべき少なくとも2つの決定又は動作オプションが、ノードに少なくとも部分的に割り当てられており、
c)自動化された経路プランナを用いて走行経路を算出するステップと、
ここで、各走行経路は、決定木を通る定義されたパスに割り当てられ、各パスは1つの又は連続して行われる複数の決定を含み、
d)走行経路の自動化された評価指標を算出するステップと、
ここで、評価指標は、それぞれの走行経路の快適性及び/又は安全性の尺度であり、
e)確率値を算出するステップと、
ここで、確率値は、決定木のノードに割り当てられており、確率値はそれぞれ、ノードに割り当てられた時刻において、車両の運転者又は関係他者が車線変更又は交通行動の決定を行う確率を示しており、
f)複数の決定指標を算出するステップと、
ここで、1つの決定指標が1つのノードにそれぞれ割り当てられ、決定指標の算出は、少なくとも部分的に以下の、
-車両の運転者又は関係他者が、ノードに割り当てられた時刻に車線変更又は交通行動を行う決定を行うことを示している、それぞれのノードの確率値に、及び、
-それぞれのノードの時刻に行われる決定によって確定される走行経路の少なくとも1つの評価指標に、基づくものであり、
g)少なくとも部分的に自動化された運転過程を自律性の運転支援システムによって選択するステップであって、決定木、決定指標に基づいて、且つ、ノードに割り当てられた時刻において、車両の運転者又は関係他者が車線変更又は交通行動を開始したか否かに依存して、選択するステップ。
【0033】
さらに別の局面によれば、本発明は、先に述べた実施例の1つによる運転支援システムを備えた車両に関する。
【0034】
本発明の趣旨において「決定木」とは、複数の決定段階(ノードともいう)を有する決定構造を意味する。決定段階は、未来の異なる時刻に割り当てられる。決定段階においては、運転支援システム自身が決定するか、自車両の運転者が決定するか、他者車両の運転者又は運転支援システムが決定するかのいずれかになる。
【0035】
本発明の趣旨において、「関係他者」とは、自車両の運転過程に影響を与え得る行動を取り得るあらゆる関係者を意味する。これは、例えば、他者車両、停留所から近づいてくるバス、車道に出る可能性のある歩行者、自転車道から車道に出る可能性のある自転車、交差点において側道から入ってくる可能性のある車、さらには信号機又は遮断機である。
【0036】
本発明の趣旨において、「交通行動」とは、自車両の運転者又は関係他者による行為であって、その発生によって運転支援システムの動作のオプション又は決定の自由が制限されるものをいう。例えば、人が車道に踏み込んだ場合、運転支援システムの動作のオプションが制限され、それによって、「一定速度において車線維持」という走行経路が不可能になり、代わりに車線変更を試みるか、ブレーキをかけることになる。
【0037】
「およそ」、「実質的に」、「約」という表現は、本発明の趣旨において、それぞれの正確な値から±10%、好ましくは±5%の偏差、及び/又は、機能にとって重要でない変化の形態においての偏差を意味する。
【0038】
本発明のさらなる形態、利点、及び適用可能性は、以下の実施例の説明及び図から明らかになる。その際、説明及び/又は図示されたすべての特徴は、原則として、個々に又は任意の組み合わせにおいて、特許請求の範囲又はその関連における、それらの要旨とは独立して、本発明の主題である。また、請求項の内容は、本明細書の一部を成す。
【0039】
以下、図に示した実施例を参照しながら、本発明をより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】車線変更又は速度低下を伴う車線維持に関する決定を行う運転シナリオにおける車両を例示的及び概略的に示す図である。
【
図2】
図1に示した運転シナリオに対して、複数の可能な運転過程を選択することができる決定木を例示的に示す図である。
【
図3】
図2の決定木による運転過程を例示的に示す概略図である。
【
図4】
図2による決定木を、決定に割り当てられた確率値とともに例示的に示す図である。
【
図5】
図4の決定木に,走行経路の評価指標と、ノードに割り当てられた決定指標とともに例示的に示す図である。
【
図6】選択方法を実行するための運転支援システムの例示的及び概略的なブロック図である。
【
図7】少なくとも部分的に自動化された運転過程の選択方法のステップを示す例示的及び概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、自車両とも呼ばれる車両1が、1台以上の他者車両2,2’も走行している複数車線の道路を走行している場合の運転シナリオを例示的に示している。
【0042】
この運転シナリオは、特に、他者車両2’が同じ車線において車両1の前方を低速で走行しており、そのため、車両1,2’の間の距離dが増々縮まっていくことに特徴がある。
【0043】
さらに、運転状況は、道路の左車線において後方から別の他者車両2が接近していることに特徴付けることができる。
【0044】
このような運転シナリオにおいては、複数の運転過程が考えられる。まず、車両1は、矢印で示すように車線変更を開始する、又は車線変更をせずに走行速度を落として、前方を走行する他者車両2’の後方を走行することができる。
【0045】
この2つの基本的な運転過程は、異なる時刻において開始することができる。例えば、他者車両2’からの距離dが大きい場合には、前方の他者車両2’にゆっくりと追いつくために、車両1の速度を既に少し下げておくことができる。代わりに、減速過程の開始が遅れ、より強い減速が必要になることもある。同様に、車両1の車線変更は、異なる時刻に、それによって、他者車両2’に対して様々な距離dにおいて、開始することができる。
【0046】
自動運転レベル2(SAEレベル2)による運転支援システムを備えた車両においては、車線変更は運転者によって開始されなければならない。すなわち、自律性の運転支援システムが単独において車線変更を開始することはできず、運転者が、例えば、ウィンカの設定又は車線変更を引き起こすハンドル操作によって車線変更を開始した場合にのみ、車線変更を行うことができる。この運転者の開始の後に、車線変更を自動的に行うことができる。
【0047】
以下に説明する方法によって、ある時刻において運転者が車線変更を開始する確率に依存して、人間の運転者の自然な運転行動に合わせて、できるだけ快適な運転過程を行うことが可能になる。これは、急なブレーキ又は急な車線変更を必要とする運転過程を効果的に回避することができることを意味する。
【0048】
図2は、決定木3を示し、この決定木3に基づいて、少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択することができる。
【0049】
決定木3は、幹3aを含み、その幹に沿って複数のノード3.1が設けられている。そのノード3.1から、枝3bが分岐している。その際、それぞれの枝3bは、決定3.2をそれぞれ示している。木の枝3bはそれぞれ、走行経路3.3に対応する、いわゆる葉で終わっている。言い換えれば、1つ以上の決定3.2を行うことで、ある走行経路3.3に導かれる。走行経路は、経路プランナによって自動的に算出され、この走行経路3.3に導く決定3.2が次々と行われた場合に、どの移動車線に車両1が自動的に移動されるかを指定する。
【0050】
ノード3.1は、それぞれの時刻t0~t3に関連付けられており、現在の時刻(「現在」)を起点として、時刻t0~t3が時間順に連続する。それによって、ノード3.1を有する決定木3の幹3aは、時間軸を形成する。ノード3.1に関連付けられた時刻t0~t3は、ノード3.1に関連付けられたどの決定が、どの時刻にできるかを示している。
【0051】
それによって、決定木3は、異なる時刻において行われる決定3.2を、その結果としての運転過程を伴って、走行経路3.3とともに表している。決定木全体は、例えば、5秒から15秒の未来の期間をカバーすることができ、2つのノード間の期間は、例えば、1秒から5秒、好ましくは1、2又は3秒とすることができる。
【0052】
図2による決定木3においては、例えば、時刻t0において、「車線変更して速度維持」、「車線維持して速度維持」、「車線維持して減速」という決定が可能である。
【0053】
ノードにおいて行うべき決定3.2の一部には、例えば、運転者自身が開始しなければならないものがある。行うべき決定3.2の他の一部には、自律性の運転支援システム自身が開始できることがある。そのため、例えば、「車線変更」の決定3.2は、車両1の運転者が開始しなければならない。他方、「車線維持」の決定3.2は、自律性の運転支援システム自身によって開始することができ、すなわち、運転者による特別な主導動作、例えば、ウィンカの設定は必要ない。
【0054】
図3は、
図2による決定木によって示される可能な運転過程を図解したものである。車両1が他者車両2’に向かって移動する場合に、車線変更は異なる時刻において、したがって車間距離が異なる場合に開始することができる。例えば、時刻t0,t1,t2に車線変更が開始された場合、走行経路Trj1,Trj3,Trj5が車線変更経路に対応する。
【0055】
走行経路は1つの決定だけを指すのではなく、「今」からそれぞれの葉までの決定木3を通る全てのパスに対応し、したがって、連続して行われた複数の決定3.2の連鎖を含むことに留意すべきである。例えば、走行経路Trj5を使用するには、時刻t0及びt1においてそれぞれ「車線を維持し、且つ速度を維持する」という決定がなされ、時刻t2において運転者が車線変更を開始している必要がある。
【0056】
走行経路Trj2,Trj4,Trj6は、運転者による車線変更が行われず、異なる時刻t0~t2において減速が開始されることを意味する。
【0057】
運転者が車線変更を行わず、事前に走行速度の減速を行わない場合、最終的には車両1の緊急ブレーキアシスタントが自動的に緊急ブレーキをかける。
【0058】
以下においては、それぞれの運転状況での運転者が車線変更を開始する確率に依存して、多数の可能な運転過程の中から少なくとも部分的に自動化された運転過程を、快適性及び安全性の観点からどのように改善して選択するかについて説明する。
【0059】
図4は、
図2による決定木3に、決定木3の枝3bに追加の確率値を付けたものである。特に、確率値p0,p1,p2は、運転者が開始した車線変更に関する決定3.2に関連する枝3bに割り当てられる。その際、確率値はそれぞれノードに関連付けられており、時刻t0~t2において運転者が車線変更を決定する確率p0~p2を示している。
【0060】
それによって、本実施例においては、運転支援システムは、それぞれの時刻t0~t2において、1-p0,1-p1,1-p2の確率によって、他の2つの決定、すなわち、車線を維持して、且つ減速する又は速度を一定に保つ、のいずれかを行うことができる。
【0061】
運転者が車線変更を開始する確率p0~p2を、すべてのノード3.1又は時刻t0~t2について事前に算出又は推定する。
【0062】
その際、時刻t0~t2においての車線変更の確率p0~p2の算出は、さまざまな方法によって可能である。以下において、確率の算出例が示される。言うまでもなく、確率の算出には、その例とは異なる可能性も存在する。
【0063】
そのため、各運転者の運転履歴、特に過去の車線変更イベントの情報を利用して、ある時刻における車線変更の確率を算出することができる。特に、それぞれの運転者の運転履歴からのこの情報は、機械学習システム、特にニューラルネットワークのトレーニングデータとして使用することができる。それによって、与えられた運転シナリオにおいて運転者がどの時刻において車線変更を開始するかという統計的な関連を認識することができる。学習後、機械学習システムは、現在の運転シナリオにおいて、未来のそれぞれの時刻に車線変更が行われる確率を算出することができる。
【0064】
さらなる代替の方法によれば、それぞれの走行経路に割り当てられた評価指標を用いて、時刻t0~t2における車線変更の確率p0~p2を推定する。走行経路に割り当てられた評価指標は、走行経路の快適性(例えば、縦方向及び横方向の加速度が所定の閾値以下、縦方向及び横方向の瞬間衝撃が所定の閾値以下、車線変更頻度)及び安全性(例えば、周囲の他者車両及び/又は物体との距離)を示す。評価指標に基づく時刻t0~t2における車線変更の確率p0~p2の算出は、人間の運転者が車線変更を快適かつ安全に行うことができる場合に行うのが一般的であることを背景にしている。そのため、ほぼ確実に、快適性或いは安全性が最も高い走行経路を利用できる時刻において、車線変更の確率が最も高くなる。
【0065】
さらなる代替の方法によれば、車線変更の確率を算出するために、さらに入手可能な情報を使用することができる。その情報として、例えば、以下を利用することができる。
-ウィンカが設定されているか;
-運転者が目標車線に向けられているサイドミラーを見ていることが、運転者カメラによって確認可能かどうか;
-周辺検知手段(すなわち、1つ以上のセンサ)によって、目標車線が空いていることが確認可能かどうか;
-運転者が肩越しに目標車線の方向を見ていることを、運転者カメラによって確認可能かどうか;
-ナビゲーションシステムは、ナビゲーション目的地に到達するために、車線変更が有利なルートを提案しているかどうか。
【0066】
さらなる代替の方法によれば、車線変更の確率を算出するために、さらに入手可能な情報を使用することができる。その情報として、例えば、以下を利用することができる。
-運転者が現在の車線のみを長時間見ていることが、運転者モニタリングカメラによって認識可能であるかどうか;
-運転者が現在の車線上の障害物のみを長時間見ていることが、運転者モニタリングカメラによって認識可能であるかどうか;
-ナビゲーションシステムは、ナビゲーションの目的地に到達するために、車線維持が有利なルートを提案しているかどうか。
【0067】
また、これらの挙げられた例を組み合わせて、時刻t0~t2における車線変更の確率p0~p2を算出することも可能である。
【0068】
上記したように、決定木3に基づいて行われる決定のために、走行経路が少なくとも部分的に算出される。一方においては、走行経路は、例えば2次元座標に基づいて、空間における車両の移動車線を示している。他方においては、例えば、x方向及びy方向の速度、縦方向及び横方向の加速度、或いは縦方向及び横方向の瞬間衝撃の情報は、走行経路に割り当てられている。それによって、経路の走行が運転者にとってどれだけ快適かを確定することができる。
【0069】
さらに、走行経路を算出する際には、例えば、車両が、周辺の第3者の車両或いは物体といかなる車間距離を維持するかの、さらなる情報も確定することができる。
【0070】
決定木3において考慮可能のために、それぞれのケースにおいて算出された走行経路が衝突フリーであらねばならぬことに留意する必要がある。
【0071】
走行経路の計画は、経路プランナによって行うことができる。
この経路プランナは、さまざまな運転操作に対する経路を算出することができる。
運転操作は特に以下が可能である。
-車線保持;
-車線変更;
-減速を伴う車線保持;
-x秒間減速なしの車線保持(xは整数)、その後の減速。
【0072】
さらに、計画された走行経路を、快適性及び安全性の観点から評価できるユニットも提供される。好ましくは、それぞれの走行経路に関連する評価指標が算出され、その評価指標は、走行経路の快適性及び安全性を数値の形態において示す。それによって、車両がそれぞれの走行経路を走行する際に、車両の運転者がどのような快適性及び安全性の印象を有するかを、その評価指標によって確定される。
【0073】
例えば、縦方向及び横方向の加速度が小さい状態において走行経路を通過する第1の走行経路は、縦方向及び横方向の加速度が大きい状態において通過する第2の走行経路に比べて、小さい評価指標を有する。
【0074】
同様に、車両がゆっくりと減速する走行経路は、車両が急激に減速する走行経路に比べて、小さい評価指標を有する。
【0075】
言い換えれば、走行経路の評価指標は、人間の運転者が走行経路を快適性及び安全性の観点からどのように感じているかを示す指標である。
【0076】
図5は,
図4による決定木を示しており、その際、個々の経路Trj1~Trj6には,それぞれ評価指標C
sw0,C
sw1,C
sw2,C
sh0,C
sh1,C
sh2が割り当てられている。その際、添え字の「sw」は車線変更、添え字の「sh」は車線維持を表している。それによって、評価指標C
sw0は、例えば、経路Trj1の評価指標を形成し、評価指標C
sh0は、例えば、経路Trj2の評価指標を形成している。
【0077】
車線変更の確率(p0~p2)及び走行経路の評価指標に基づき、決定指標を算出することができる。その際、各ノード3.1には1つの決定指標をそれぞれ割り当てることが望ましい。
図5においては、第1のノードの決定指標をCost_0、第2のノードの決定指標をCost_1、第3のノードの決定指標をCost_2と表示している。
【0078】
運転支援システムは、異なるノード3.1の決定指標の比較に基づいて、運転者が特定のノードにおいて車線変更を開始しない場合、運転者の快適性及び安全性の認識の観点から、車線を保持し且つ減速を開始するのと、減速せずに車線を保持するのとでは、どちらが好ましいかを決定することができる。
【0079】
異なるノード3.1の決定指標Cost_x(xはノードインデックス又は時刻インデックス)の算出は、例えば以下のように行うことができる。
Cost_x=px*Cswx+(1-px)*Cshx
ここで、
Cost_x:各ノードの決定指標;
px:時刻txにおいて運転者が車線変更を開始する確率;
Cswx:ノードxにおける車線変更経路の評価指標;
Cshx:ノードxにおける車線維持経路の評価指標。
【0080】
さらに、緊急ブレーキオプションには、可能な限り最高の評価指標又は決定指標値CNB(NB:緊急ブレーキ)が割り当てられている。
【0081】
すべてのノード3.1について決定指標Cost_xを算出した後、決定指標値が最も小さいノードを最初に決定する。例えば、ノード0の決定指標Cost_0が40、ノード1の決定指標Cost_1が30、ノード2の決定指標Cost_2が50、ノード3の決定指標CNBが100の場合、決定指標の値が最も小さいノード1が選択される。
【0082】
ここで、最小の決定指標値とは、この最小の決定指標値が割り当てられたノードにおいて運転者が車線変更を開始する確率を考慮すると、その決定のコスト(Kosten)又はその決定に割り当てられた走行経路のコストが最も低くなることを意味する。
【0083】
代替的に、決定指標の値が最も低いということは、そのノードにおけるコストの期待値が最も低いことを意味する場合もある。これは、このノードの枝のすべての葉がコストの低い経路を有している、又はコストの低い経路がコストの高い経路に比べて高い確率を有しているからと考えられる。
【0084】
次に、運転者の運転行動及びノード3.1の決定指標に依存して、決定木3が実行される。例えば、ノード1(時刻t1)よりも高い決定指標値を有するノード0(時刻t0)において、運転者が車線変更を開始しなかった場合には、快適性及び安全性の観点から最適化された運転操作がノード1において利用可能であるため、決定木はさらにノード1まで通り抜ける、すなわち経路Trj2は通り抜けない。
【0085】
ノード1において運転者が車線変更を開始しなかった場合、決定指標の最小値に基づいて、自動化された運転支援システムが時刻t1に経路Trj4を開始する、すなわち車線を維持して減速することが決定される。
【0086】
言い換えれば、時刻t0において運転者が車線変更を開始せずに経路Trj1を通過した場合、時刻t1に経路Trj3が開始され、且つ、この時に運転者が車線変更を開始する、又は経路Trj4を開始する、すなわち、車線が維持され且つ減速される。
【0087】
少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択する上述の方法は、必要に応じて以下のように変更することができる。
【0088】
上記のように、ノード3.1に割り当てられた決定指標(Cost_0~Cost_2)は、ノード3.1に割り当てられたある時刻に運転者が車線変更を開始する確率値(p0~p2)によって影響される。これらの確率値は不正確なものである可能性がある。確率値の不正確さは、確率値が割り当てられたノード或いは時刻が遠い未来にあるほど大きくなる。
【0089】
そのため、最初に算出した確率値からの異なる確率値偏差について、例えば、偏差のない第1のシナリオ、+20%の偏差のある第2のシナリオ、-20%の偏差のある第3のシナリオ、+30%の偏差のある第4のシナリオ、-30%の偏差のある第4のシナリオについて、決定指標を確定することが提案される。続いて、これらすべてのシナリオについてノードの決定指標を算出し、最大の値を有する決定指標を各ノードについて選択することができる。次いで、少なくとも部分的に自動化された運転過程の選択は、ノードの、最大値を有するこれらの決定指標に基づいて行われる。
【0090】
本発明のさらなる一実施形態によれば、決定木3を実行する際のノードにおいて、現在の周辺情報に基づいて再び経路計画を実施すべきかどうかの決定を行うことができ、したがって決定木3を再生成して、走行可能な経路、確率、走行経路の評価指標、決定指標を算出することができる。条件として、未来に存在する少なくとも2つの時刻/ノードにおいて、それぞれの決定に対して衝突フリーの経路が利用可能である必要がある。
【0091】
以上、本発明を、車両が追い越し過程を開始するために左車線への車線変更を行う実施例を参照して説明した。言うまでもなく、本発明は、車両が右車線への車線変更を行う他の運転シナリオにも適用可能である。同様に、左右への車線変更が可能な運転シナリオに本発明を適用することも考えられる。
【0092】
さらに、他者車両が自車線に合流することが予想されるか否かに応じて、自動化された運転過程を行う運転シナリオにも本発明を適用することができる。言い換えれば、予測されるのは、自身の車両(自車両)の運転者が車線変更を開始する確率ではなく、他者車両が車線変更を開始する確率である。
【0093】
そのため、決定木のノードに関連付けられた確率値は、他者車両が自車両の車線に車線変更を開始する可能性を示している。この決定木は、他者車両が車線変更を行った場合に運転過程を開始するか、あるいは他者車両が車線変更を行わなかった場合に、速度を適度に落として車線変更に備えるのが良いか、又は、速度を維持して車線変更時に強めのブレーキをかけるのが良いかを決定するのに使用することができる。
【0094】
図6は、少なくとも部分的に自動化されて実行される運転過程を行うための運転支援システムを概略的に示す。
【0095】
運転支援システムは、後述する処理を実行するための演算手段及び記憶手段を提供する中央制御ユニット11を有することが好ましい。また、代替的に、分散型のコンピュータ・アーキテクチャが提供されてもよく、或いは、センサが十分なコンピュータ能力を提供することを条件に、処理がセンサのコンピュータユニット上において、実行又は算出され得る。
【0096】
制御ユニット11は、周辺モデルユニット12を有しており、その周辺モデルユニット内において車両の周辺の周辺モデルが提供される。この周辺モデルユニット12は、1つ又は好ましくは複数のセンサ13から情報を受け取る。センサ13は、例えば、カメラ、レーダセンサ、LIDARセンサ、超音波センサなどであってもよい。周辺モデルユニット12は、センサ13の情報から周辺モデルを生成し、その周辺モデルを運転過程プランナ14に提供する。運転過程プランナ14は、周辺モデルに基づいて1つ以上の走行経路を算出することができるプランナであり、しかも、好ましくは、現在の運転シナリオに依存して、この運転シナリオにおいて衝突フリーに適用可能な、且つ実現可能な複数の走行経路を算出することができる。
【0097】
好ましくは、運転過程プランナ14は、それぞれの走行経路の評価指標も算出する。なお、走行経路を選択する上記した方法は、同様に、運転過程プランナ14においても行うことができる。
【0098】
車両を移動させる走行経路が確定された場合、それに対応する情報が車両移動制御装置15に送信される。この車両移動制御装置15は、制御ユニット11内に設けられていてもよいし、遠隔地、すなわち別の制御装置に設けられていてもよい。車両移動制御装置15は、ステアリング、ブレーキシステム、及びドライブトレインへの出力信号を生成する。
【0099】
図7は、車両の運転支援システムによって、少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択する方法のフローチャートを概略的に示す。
【0100】
まず、運転支援システムによって、現在の運転シナリオと、現在の運転シナリオに基づいて未来の可能な複数の異なる運転過程とを決定する(S10)。
【0101】
続いて、決定木を自動的に作成する(S11)。決定木は複数のノードを有し、その際、ノードは未来のある時刻に関連付けられる。運転シナリオに依存して、車両の運転者又は他者車両の運転者が車線変更に関して行うべき少なくとも1つの決定が、ノードのそれぞれに少なくとも部分的に割り当てられる。さらに、運転支援システム自身が行うべき少なくとも2つの決定が、少なくとも部分的にノードに割り当てられる。
【0102】
さらに、走行経路を算出し、その際、各走行経路は決定木を通る定義されたパスに割り当てられ、各パスは順次行われる1つ又は複数の決定を含む(S12)。
【0103】
続いて、走行経路の評価指標を算出する。評価指標は、それぞれの走行経路の快適性及び/又は安全性の尺度である(S13)。
【0104】
さらに、確率値を算出する。その際、その確率値は決定木のノードに割り当てられ、確率値はそれぞれ、ノードに割り当てられた時刻において、自車両又は他者車両の運転者が車線変更を決定する確率を示している(S14)。
【0105】
続いて、複数の決定指標を算出する(S15)。その際、決定指標がノードにそれぞれ割り当てられる。決定指標の算出は、それぞれのノードに割り当てられた確率値に少なくとも部分的に基づいており、この確率値は、自車両又は他者車両の運転者が、ノードに割り当てられた時刻に車線変更の決定を行うことを示している。さらに、決定指標の算出は、それぞれのノードの時刻に行われる決定によって確定された走行経路の少なくとも1つの評価指標に基づいている。
【0106】
最後に、自律性の運転支援システムによって、少なくとも部分的に自動化された運転過程を選択する(S16)。その選択は、決定木、決定指標に基づいて、また、ノードに割り当てられた時刻において、自車両又は他者車両の運転者が車線変更を開始したか否かに依存して行われる。
【0107】
以上、本発明を、実施例を参照して説明した。言うまでもなく、特許請求の範囲によって定義された保護範囲から逸脱することなく、多数の変更及び修正が可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 車両
2,2’ 他者車両
3 決定木
3a 幹
3b 枝
3.1 ノード
3.2 決定
3.3 走行経路
10 運転支援システム
11 制御ユニット
12 周辺モデルユニット
13 センサ
14 運転過程プランナ
15 車両移動制御装置
d 距離
【外国語明細書】