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特開2022-94380油性マーキングペン用インキ組成物および油性マーキングペン
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  • 特開-油性マーキングペン用インキ組成物および油性マーキングペン 図1
  • 特開-油性マーキングペン用インキ組成物および油性マーキングペン 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094380
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】油性マーキングペン用インキ組成物および油性マーキングペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/17 20140101AFI20220620BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
C09D11/17
B43K8/02 150
B43K8/02 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207213
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤 智裕
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA04
2C350HA15
2C350HC03
2C350NA02
2C350NC02
2C350NC11
2C350NC12
4J039AE01
4J039BA13
4J039BA21
4J039BC07
4J039BC08
4J039BC09
4J039BC10
4J039BC11
4J039BC12
4J039BC13
4J039BC14
4J039BC15
4J039BC26
4J039BC33
4J039BC42
4J039BC43
4J039BC44
4J039BC51
4J039BC52
4J039BE01
4J039BE07
4J039BE12
4J039CA04
4J039EA28
4J039EA29
4J039GA21
(57)【要約】
【課題】金属製部材と接触したときの油性マーキングペン用インキ組成物の変色を低減する。
【解決手段】油性マーキングペン用インキ組成物は、溶剤と、蛍光染料と、前記溶剤に溶解する樹脂と、金属不活性化剤と、を含む。油性マーキングペン用インキ組成物は、溶解型蛍光顔料を含み、前記溶解型蛍光顔料は、前記蛍光染料を含んでもよい。前記金属不活性化剤は、NH基およびNH基からなる群より選択される少なくとも一種を有してもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤と、
蛍光染料と、
前記溶剤に溶解する樹脂と、
金属不活性化剤と、を含む、油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記金属不活性化剤は、NH基およびNH基からなる群より選択される少なくとも一種を有する、請求項1に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記金属不活性化剤は、ヒドラジド化合物およびアミン化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項4】
前記金属不活性化剤の含有率は、0.01質量%以上10質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項5】
前記蛍光染料の含有率は、0.1質量%以上15質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項6】
溶解型蛍光顔料を含み、
前記溶解型蛍光顔料は、前記蛍光染料を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項7】
前記溶解型蛍光顔料の含有率は、5質量%以上25質量%以下である、請求項6に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項8】
前記溶剤は、プロピレングリコールモノメチルエーテルを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の油性マーキングペン用インキ組成物を内部に収容する筒状のホルダーと、前記ホルダーの先端に設けられ、かつ被着面にマーキングするためのチップと、前記チップを支持する金属製支持部と、を含み、
前記チップには、前記ホルダーから前記油性マーキングペン用インキ組成物が供給され、前記金属支持部は、前記油性マーキングペン用インキ組成物と接触している、油性マーキングペン。
【請求項10】
前記金属製支持部は、メッキ被膜を含み、
前記メッキ被膜は、前記油性マーキングペン用インキ組成物と接触している、請求項9に記載の油性マーキングペン。
【請求項11】
前記金属製支持部は、ニッケル、クロム、鉄、コバルト、銅、銀、亜鉛、マンガン、およびスズからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項9または10に記載の油性マーキングペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性マーキングペン用インキ組成物および油性マーキングペンに関する。
【背景技術】
【0002】
マーキングペンに使用されるインキ組成物は、溶剤、着色剤、および樹脂などを含む。着色剤として、蛍光着色剤が用いられることもある。
【0003】
特許文献1は、水に不溶ないしは難溶性でかつ有機溶剤に可溶である蛍光染料を含有するとともに、平均粒子径が1μm以下であり、20~1000eq./tonの範囲でイオン性基を含有するポリエステル樹脂の微粒子が水系媒体中に微分散した水性蛍光インクを提案している。
【0004】
蛍光着色剤を用いた油性インキ組成物に関し、特許文献2は、溶解型蛍光顔料、有機溶剤、前記有機溶剤に可溶な樹脂、炭化水素系ワックス及び/又は酸化炭化水素系ワックスを少なくとも含有するマーキングペン用油性蛍光インキを提案している。
【0005】
なお、特許文献3は、フェノール系樹脂を含む塗布具用油性インキ組成物において、酸化防止剤を含む塗布具用油性インキ組成物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-150098号公報
【特許文献2】特開2001-240788号公報
【特許文献3】特開2005-263940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マーキングペンは、ペン先を支持する支持部として、金属製支持部を含む場合がある。例えば、細いペン先を補強する目的で、金属製支持部が設けられることがある。金属製支持部を含むマーキングペンに、蛍光染料を含む油性マーキングペン用インキ組成物を用いる場合、ペン先の金属製支持部の近傍の部分で油性マーキングペン用インキ組成物の変色が生じる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、溶剤と、
蛍光染料と、
前記溶剤に溶解する樹脂と、
金属不活性化剤と、を含む、油性マーキングペン用インキ組成物に関する。
【0009】
本発明の他の側面は、上記の油性マーキングペン用インキ組成物を内部に収容する筒状のホルダーと、前記ホルダーの先端に設けられ、かつ被着面にマーキングするためのチップと、前記チップを支持する金属製支持部と、を含み、
前記チップには、前記ホルダーから前記油性マーキングペン用インキ組成物が供給され、前記金属支持部は、前記油性マーキングペン用インキ組成物と接触している、油性マーキングペンに関する。
【発明の効果】
【0010】
金属製部材と接触したときの油性マーキングペン用インキ組成物の変色を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る油性マーキングペンのペン先およびその近傍の部分の概略断面図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る油性マーキングペンのペン先およびその近傍の部分の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
油性マーキングペンにおいて、蛍光染料を含む油性マーキングペン用インキ組成物と接触する部材が金属製である場合、金属製部材の近傍で油性マーキングペン用インキ組成物の変色が生じることがあることが明らかとなった。これは、金属製部材から溶出した金属イオンと、蛍光染料とが作用することによるものと考えられる。
【0013】
上記に鑑み、本発明の一側面の油性マーキングペン用インキ組成物は、溶剤と、蛍光染料と、溶剤に溶解する樹脂と、金属不活性化剤と、を含む。
【0014】
油性マーキングペン用インキ組成物が金属不活性化剤を含むことで、金属イオンと蛍光染料とが作用することが低減される。よって、油性マーキングペン用インキ組成物を、金属製部材を含むマーキングペンに用いる場合の変色を低減することができる。
【0015】
以下、本発明の油性マーキングペン用インキ組成物および油性マーキングペンについてより詳細に説明する。以下、油性マーキングペン用インキ組成物を、単にインキ組成物を称することがある。
【0016】
[油性マーキングペン用インキ組成物]
インキ組成物は、例えば、着色剤と、金属不活性化剤と、溶剤と、樹脂とを含む。
【0017】
(着色剤)
インキ組成物は、着色剤として、少なくとも蛍光染料(第1着色剤)を含む。インキ組成物は、蛍光染料以外の着色剤として、染料(第2着色剤)および顔料(第3着色剤)から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0018】
(蛍光染料)
蛍光染料は、蛍光性能を有する染料であり、蛍光増白剤も包含する。蛍光染料としては、溶剤に可溶の蛍光染料が用いられる。
【0019】
蛍光染料としては、例えば、フルオレセイン、エオシン、ローダミンB、スチルベン系蛍光増白剤、クマリン系蛍光増白剤、オキサゾール系蛍光増白剤、ナフタルイミド系蛍光増白剤が挙げられる。インキ組成物は、蛍光染料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでもよい。
【0020】
インキ組成物には、溶解型蛍光顔料を用いてもよい。溶解型蛍光顔料は、通常、溶剤に可溶性の樹脂(熱可塑性樹脂など)と蛍光染料とを含む。溶解型蛍光顔料は、通常、インキ組成物中に、樹脂および蛍光染料が溶解した状態で含まれている。そのため、溶解型蛍光顔料を用いる場合でも、インキ組成物が金属不活性化剤を含むことで、蛍光染料の変色を低減することができる。
【0021】
本明細書では、「インキ組成物が溶解型蛍光顔料を含む」場合には、溶解型蛍光顔料が添加された痕跡が検出可能であれば、溶解型蛍光顔料を構成する樹脂および染料が溶解した状態でインキ組成物に含まれる場合が包含される。
【0022】
溶解型蛍光顔料としては、シンロイヒ社製のFM-10シリーズ、FM-11~17、FM-27、FM-34N、FM-35N、FM-47、FM-100シリーズ、FM-103、FM-105、FM-107、FM-109などが挙げられる。
【0023】
インキ組成物は、溶解型蛍光顔料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0024】
インキ組成物中の蛍光染料の含有率は、例えば、0.1質量%以上であり、0.5質量%以上であってもよい。蛍光染料の含有率がこのような範囲である場合、金属製部材との接触によって変色の課題が顕在化し易い。この場合であっても、金属不活性化剤の作用によって、インキ組成物の変色を効果的に低減できる。インキ組成物中の蛍光染料の含有率は、15質量%以下であってもよく、12質量%以下であってもよい。蛍光染料の含有率がこのような範囲である場合、インキ組成物の粘度を調節し易く、高い筆記性を確保し易い。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0025】
溶解型蛍光顔料がインキ組成物に用いられる場合、インキ組成物中の溶解型蛍光顔料の含有率は、インキ組成物中の蛍光染料の含有率が上記の範囲となるように決定することができる。インキ組成物中の溶解型蛍光顔料の含有率とは、インキ組成物に対する溶解型蛍光顔料の添加比率(質量%)と同じ意味である。
【0026】
インキ組成物中の溶解型蛍光顔料の含有率は、例えば、1質量%以上であり、5質量%以上または10質量%以上であってもよい。溶解型蛍光顔料の含有率がこのような範囲である場合、金属製部材との接触によって変色の課題が顕在化し易い。この場合であっても、金属不活性化剤の作用によって、インキ組成物の変色を効果的に低減できる。インキ組成物中の溶解型蛍光顔料の含有率は、例えば、25質量%以下であり、20質量%以下であってもよい。溶解型蛍光顔料の含有率がこのような範囲である場合、インキ組成物の粘度を調節し易く、マーキングペンに充填し易いことに加え、ペン先から被着面にインキ組成物をスムーズに流出させることができる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0027】
(第2着色剤)
第2着色剤としては、第1着色剤以外の染料、例えば、油溶性染料が挙げられる。第2着色剤としては、例えば、アゾ系染料、トリフェニルメタン系染料、アンスラキノン系染料などが挙げられる。また、塩基性染料、酸性染料、直接染料、分散染料などを用いてもよい。インキ組成物は、第2着色剤を、一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0028】
インキ組成物中の第2着色剤の含有量は、例えば、0.1質量%以上15質量%以下であり、0.1質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0029】
(第3着色剤)
第3着色剤としては、溶解型蛍光顔料以外の顔料、例えば、着色顔料、体質顔料、および機能性顔料が挙げられる。第3着色剤としては、無機顔料、有機顔料、蛍光顔料、金属粉顔料などが挙げられる。顔料として、白色顔料(酸化チタン、白色樹脂粒子など)、パール顔料、樹脂粒子顔料、着色ビーズ、蓄光顔料などを用いてもよい。また、これらの顔料と樹脂とを含む粉体を第3着色剤として用いてもよい。インキ組成物は、第3着色剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0030】
インキ組成物中の第3着色剤の含有量は、例えば、1質量%以上15質量%以下であり、3質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0031】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤とは、金属(または金属イオン)の活性を抑制する作用を有する添加剤である。インキ組成物が金属不活性化剤を含むことで、金属製部材と接触した状態におけるインキ組成物の変色を抑制することができる。金属不活性化剤は、一般に重金属不活性化剤と呼ばれる成分も包含する。
【0032】
金属不活性化剤は、金属イオンと反応して、不活性な化合物(例えば、キレート化合物)を生成する成分であってもよい。このような金属不活性化剤は、金属製部材から溶出した金属イオンを捕捉することで、金属イオンと蛍光染料との反応を抑制することができると考えられる。
【0033】
金属不活性化剤は、例えば、金属表面を被覆する成分であってもよい。このような金属不活性化剤を用いると、金属製部材のインキ組成物と接触する表面に、金属不活性化剤が付着して被膜が形成され、金属イオンのインキ組成物中への溶出が低減されると考えられる。その結果、金属イオンと蛍光染料との接触および反応が低減されると考えられる。
【0034】
インキ組成物の変色を抑制する高い効果が得られる観点から、金属不活性化剤としては、金属イオンを捕捉する作用を有する成分を少なくとも用いることが好ましい。このような金属不活性化剤は、例えば、金属イオンと反応する反応性官能基を有している。
【0035】
金属イオンに対する高い捕捉能が得られることから、反応性官能基として、NH基およびNH基からなる群より選択される少なくとも一種を有する金属不活性化剤を少なくとも用いることが好ましい。
【0036】
金属不活性化剤1分子中のNH基およびNH基の合計個数は、1以上であり、2以上が好ましい。金属不活性化剤1分子中のNH基およびNH基の合計個数の上限は特に制限されず、例えば、8以下または6以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0037】
NH基およびNH基の少なくとも一方を有する金属不活性化剤としては、例えば、ヒドラジド化合物およびアミン化合物が挙げられる。アミン化合物は、アミド結合を有するアミド化合物も含む。
【0038】
金属不活性化剤の具体例としては、N,N’-ジサリチリデン-1,2-ジアミノプロパン、ベンゾトリアゾール、2-(n-ドデシルジチオ)ベンズイミダゾール、2-ヒドロキシ-N-1H-1,2,4-トリアゾール-3-イルベンズアミド、N’1,N’12-ビス(2-ヒドロキシベンゾイル)ドデカンジヒドラジド、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ(tert-ブチル)-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジンが挙げられる。金属不活性化剤としては、ADEKA社製のアデカスタブCDAシリーズ、リャンロンジャパン社製のRIANOX MD-697およびMD-1024を用いてもよい。アデカスタブCDAシリーズの金属不活性化剤としては、アデカスタブCDA-1、アデカスタブCDA-1M、アデカスタブCDA-6S、アデカスタブCDA-10などが挙げられる。しかし、金属不活性化剤は、これらの具体例に限定されない。金属不活性化剤として、NH基およびNH基の少なくとも一方を有するとともに、フェノール部位(好ましくはヒンダードフェノール部位)を有する成分を用いてもよい。このような成分は、酸化防止作用を有しており、金属イオンを不活性化する作用に優れているため、より高い変色抑制効果を確保することができる。
【0039】
インキ組成物は、金属不活性化剤を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0040】
インキ組成物中の金属不活性化剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上であり、0.05質量%以上であってもよい。金属不活性化剤の含有率がこのような範囲である場合、インキ組成物の変色を、より効果的に抑制することができる。インキ組成物中の金属不活性化剤の含有率は、例えば、10質量%以下であり、5質量%以下であってもよい。金属不活性化剤の含有率がこのような範囲である場合、インキ組成物における金属不活性化剤の析出を抑制できる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0041】
なお、インキ組成物中の金属不活性化剤の含有率とは、インキ組成物に対する金属不活性化剤の添加比率(質量%)と同じ意味である。インキ組成物が金属製部材と接触した後には、少なくとも一部の金属不活性化剤が、金属製部材から溶出した金属イオンと反応してキレート化合物などの不活性な化合物に変換される場合がある。そのため、インキ組成物から金属不活性化剤の含有率を求める場合には、金属製部材と接触する前のインキ組成物から求めることが望ましい。マーキングペンでは金属製部材から離れた部分から採取したインキ組成物から不活性化剤の含有率を求めてもよい。
【0042】
(溶剤)
溶剤としては、アルコール類(フェノール類も含む)、グリコールエーテル類、ケトン類(アセトン、ジメチルケトン、エチルメチルケトンなど)、エステル類などが挙げられる。アルコール類は、ヒドロキシ基を1つ有する一価アルコール類であってもよく、2つ以上有する多価アルコール類であってもよい。
【0043】
溶剤は、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)を含むことが好ましい。溶剤は、PM(第1溶剤)のみを含んでもよく、第1溶剤と第1溶剤以外の第2溶剤とを含んでもよい。着色剤として、溶解型蛍光顔料を用いる場合、第1溶剤を用いると、溶解型蛍光顔料の溶解性を高めることができ、インキ組成物の粘度を低く抑えることができる。
【0044】
溶剤は、第1溶剤を主成分として含んでもよい。第1溶剤を主成分として含む溶剤では、溶剤全体で第1溶剤の含有率が最も高い。溶剤中の第1溶剤の含有率は、例えば、40質量%以上であり、50質量%以上であってもよく、60質量%以上または70質量%以上であってもよい。溶剤中の第1溶剤の含有率は、100質量%以下である。溶剤として第1溶剤のみを用いてもよい。溶剤が第1溶剤と第2溶剤とを含む場合、溶剤中の第1溶剤の含有率は、例えば、95質量%以下または90質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0045】
第2溶剤としては、上記の溶剤のうち、脂肪族アルコール、第1溶剤以外のグリコールエーテル類が好ましい。脂肪族アルコールは、直鎖状アルコールであってもよく、分岐鎖状アルコールであってもよい。脂肪族アルコールは、直鎖状アルコールであってもよく、分岐鎖状アルコールであってもよい。
【0046】
一価の脂肪族アルコールとしては、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、デシルアルコールなどが挙げられる。一価の脂肪族アルコールの炭素数は、例えば、2~20であり、2~12または2~6であってもよい。
【0047】
多価の脂肪族アルコールとしては、ポリヒドロキシアルカン、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0048】
ポリヒドロキシアルカンとしては、アルキレングルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオールなど)、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。ポリヒドロキシアルカンの炭素数は、例えば、1~20であり、1~12または2~6であってもよい。
【0049】
ポリアルキレングリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコールなどが挙げられる。ポリアルキレングリコールに含まれるオキシアルキレン単位の炭素数は、例えば、2~4であり、2または3であってもよい。ポリアルキレングリコールにおいて、オキシアルキレン単位の繰り返し数は、例えば、2~20であり、2~10または2~6であってもよい。
【0050】
グリコールエーテル類(PMを除く)としては、例えば、グリコール類のモノエーテルまたはジエーテル、グリコール類のモノエーテルモノエステルが挙げられる。グリコール類としては、例えば、上記例示のポリヒドロキシアルカンおよびポリアルキレングリコールが挙げられる。エーテルとしては、アルキルエーテル、アリールエーテル、アラルキルエーテルなどが挙げられる。
【0051】
グリコールエーテル類のうち、他の成分を溶解し易く、インキ組成物の物性を安定化し易い観点からは、モノエーテルが好ましい。また、臭気等が少なく、第1溶剤との相溶性が高い観点からは、アルキルエーテル、モノアルキルエーテルモノエステルが好ましい。
【0052】
アルキルエーテルを構成するアルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどが挙げられる。アルキルの炭素数は、例えば、1~10であり、1~6であってもよく、1~4であってもよい。
【0053】
モノアルキルエーテルモノエステルのエステル部位を構成するアシル基としては、脂肪族アシル基(アセチル、プロピオニル基など)、ベンゾイル基などが挙げられる。中でも、炭素数2~4の脂肪族アシル基(特に、アセチル基)が好ましい。
【0054】
アルキルエーテルの具体例としては、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。モノアルキルエーテルモノエステルの具体例としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0055】
蛍光染料の高い溶解性、インキ組成物の速乾性などを確保し易い観点からは、第2溶剤として、少なくともエタノールおよびiso-プロピルアルコールを用いることが好ましい。
【0056】
溶剤は、一種の第2溶剤を含んでもよく、二種以上の第2溶剤を含んでもよい。
【0057】
(樹脂)
樹脂としては、溶剤に可溶性の樹脂が用いられる。インキ組成物が樹脂を含むことで、インキ組成物の被着面に対する高い定着性が得られる。樹脂としては、例えば、ケトン系樹脂、ケトン系樹脂の水素添加物、フェノール系樹脂(アルキルフェノール樹脂、フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂など)、キシレン系樹脂(アルキルフェノール変性キシレン樹脂、ロジン変性キシレン樹脂など)、ロジン系樹脂(ロジン酸系樹脂、ロジンエステル、ロジン金属塩、ロジンジオールなど)、有機酸変性ビニル重合体(例えば、スチレンと有機酸またはその酸無水物(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、および/または無水マレイン酸など)との共重合体(スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体など)またはその塩など)、アクリル系樹脂(アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルをモノマー単位として含む重合体など)が挙げられる。
【0058】
高い発色性および耐水性が得られ易い観点からは、樹脂として、ケトン系樹脂、ケトン系樹脂の水素添加物を用いることが好ましい。
【0059】
ケトン系樹脂としては、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いてもよいが、ケトンアルデヒド縮合樹脂を含むことが好ましい。ケトン系樹脂は、ケトンのカルボニル基を有するものである。ケトンアルデヒド縮合樹脂は、ケトンがアルデヒド化合物で縮合した構造を含む樹脂であり、ケトンの残基(カルボニル基を含む)とアルデヒド化合物の残基とを含む。ケトンとしては、脂肪族ケトンでもよいが、芳香族ケトンが好ましい。芳香族ケトンとしては、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノンなどが挙げられる。ケトンと縮合するアルデヒド化合物としては、アルデヒド(ホルムアルデヒドなど)またはその縮合物などが挙げられる。例えば、芳香族ケトンがアルデヒド化合物で縮合した樹脂は、芳香環がアルデヒド化合物の残基(ホルムアルデヒドの場合にはメチレン基)で連結された構造を有する。
【0060】
ケトン系樹脂としては、アセトフェノン系樹脂が好ましい。アセトフェノン系樹脂は、アセトフェノン化合物とアルデヒド化合物との縮合樹脂である。アセトフェノン化合物には、アセトフェノンの他、アセトフェノンの芳香環に置換基(例えば、アルキル基、アルコキシ基)を有するものも包含される。
【0061】
ケトン系樹脂の水素添加物としては、上記で例示したケトン系樹脂の水素添加物が挙げられる。ケトン系樹脂の水素添加物としては、ケトンアルデヒド縮合樹脂(上記で例示したケトンアルデヒド縮合樹脂など)の水素添加物が好ましい。水素添加物では、ケトンアルデヒド縮合樹脂のケトン基(>C=O)が、水素添加され、ヒドロキシメチレン基(>CH-OH)に変換されている。なお、水素添加物では、ケトン基以外の部分(例えば、芳香環)が水素添加されていてもよい。優れた発色性が得られ易い観点からは、アセトフェノン系樹脂の水素添加物を用いることが好ましい。
【0062】
インキ組成物は、一種の樹脂を含んでもよく、二種以上の樹脂を含んでもよい。
【0063】
発色性と耐水性とのバランスを取りやすい観点から、ケトン系樹脂とケトン系樹脂の水素添加物とを併用してもよい。ケトン系樹脂の、ケトン系樹脂の水素添加物に対する質量比(=ケトン系樹脂/ケトン系樹脂の水素添加物)は、例えば、0.3以上3.0以下であり、0.8以上2以下であってもよく、0.9以上1.5以下であってもよい。
【0064】
インキ組成物中の樹脂の含有率は、例えば、1質量%以上60質量%以下であり、5質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下であってもよい。樹脂の含有率がこのような範囲であることで、被着面に対する高い定着性を確保しながら、インキ組成物の粘度を低く抑えることができる。
【0065】
(その他)
インキ組成物は、必要に応じて、添加剤を含むことができる。添加剤としては、特に制限されず、油性マーキングペン用インキ組成物に添加される公知の添加剤が挙げられる。添加剤としては、例えば、増粘剤(粘度調整剤、チキソトロピー性付与剤なども含む)、構造粘性付与剤、染料可溶化剤、乾燥性付与剤、湿潤分散剤、界面活性剤(レベリング剤、消泡剤など)、シリコーンオイルなどが例示される。しかし、添加剤は、これらに制限されない。
【0066】
チキソトロピー性付与剤としては、無機系、有機系、および複合系のチキソトロピー性付与剤が挙げられる。これらのうち、無機系および複合系のチキソトロピー性付与剤が好ましい。無機系のチキソトロピー性付与剤としては、シリカ系、ベントナイト系、および沈降炭酸カルシウムなどが挙げられる。複合系のチキソトロピー性付与剤としては、表面処理シリカ系、有機ベントナイト系、表面処理炭酸カルシウム系のものが挙げられる。インキ組成物は、チキソトロピー性付与剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。なお、チキソトロピー性付与剤は、インキ組成物にチキソトロピー性(揺変性)を付与する成分である。
【0067】
中でも、チキソトロピー性付与剤は、疎水性シリカ粒子を含むことが好ましい。この場合、樹脂の分散安定性をさらに高めることができ、乾燥し易くなることで、より高い速乾性を確保することができる。
【0068】
疎水性シリカ粒子としては、例えば、ヘキサメチルジシラザンまたはジメチルジクロロシランなどで疎水化表面処理されたシリカ粒子が挙げられる。このような疎水性シリカ粒子としては、アエロジルRX-50、アエロジルRX-200、アエロジルRX-300、アエロジルR974、アエロジルR976(日本アエロジル社製)、レオロシールZD-30ST、レオロシールHM-20L、レオロシールHM-30S(トクヤマ社製)などが挙げられる。
【0069】
インキ組成物中のチキソトロピー性付与剤の含有率は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下であり、0.1質量%以上10質量%以下であってもよく、0.1質量%以上2質量%以下であってもよく、0.1質量%以上(または0.5質量%以上)1質量%以下であってもよい。チキソトロピー性付与剤の含有率がこのような範囲である場合、インキ組成物の高い安定性が得られるとともに、インキ組成物の粘度を低く抑えることができる。
【0070】
インキ組成物の25℃における粘度は、例えば、1mPa・s以上50mPa・s以下であり、5mPa・s以上30mPa・s以下であってもよい。
粘度は、例えば、E型回転粘度計(東機産業社製、TVE型粘度計、コーン・ロータ=1°34′×R24)を用いて、25℃および回転速度20rpmの条件で測定される。
【0071】
インキ組成物は、構成成分を混合することによって調製できる。調製の過程で、必要に応じて、混合物を加熱してもよい。構成成分を一度に混合してもよく、一部の構成成分を混合した後、残りの構成成分を添加してもよい。構成成分の添加の順序は特に制限されない。
【0072】
インキ組成物は、上述のように、金属製部材と接触した状態における変色を抑制できる。そのため、インキ組成物は、インキ組成物と接触した状態の金属製部材(金属製支持部など)を有する油性マーキングペンに用いるのに適している。
【0073】
[油性マーキングペン]
油性マーキングペンは、上記の油性マーキングペン用インキ組成物を内部に収容する筒状のホルダー(またはペン本体)と、ホルダーの先端に設けられ、かつ被着面にマーキングするためのチップと、チップを支持する金属製支持部と、を含む。チップには、ホルダーからインキ組成物が供給される。金属製支持部には、インキ組成物が接触した状態である。このような油性マーキングペンでは、金属製支持部がインキ組成物と接触した状態であるため、金属製支持部から金属イオンが溶出して、蛍光染料と反応することで変色が起こり易い。このような場合であっても、インキ組成物が上述のように金属不活性化剤を含むことで、金属イオンと蛍光染料との反応が低減され、インキ組成物の変色を低減することができる。チップおよび金属製支持部を含む油性マーキングペンのチップ側の端部は、ペン先と呼ばれることがある。
【0074】
金属製支持部がインキ組成物と接触した状態である限り、油性マーキングペンの構造は特に制限されない。油性マーキングペンは、直液式であってもよく、中芯式(または中綿式)であってもよい。油性マーキングペンでは、例えば、細いペン先を補強する目的で、金属製支持部が設けられることがある。
【0075】
油性マーキングペンは、チップへのインキ組成物の供給を制御するためのバルブを備えていてもよい。このようなバルブは、通常、ホルダー(ペン本体)と、ペン先との間に、配置されている。このような油性マーキングペンのペン先の概略断面図を図1に示す。バルブBを備える油性マーキングペンでは、チップ1を被着面に当てると圧力がバルブBに伝わってバルブBが開き、ホルダーHからインキ組成物がチップ1に供給される。このような構造の油性マーキングペンのペン先は、チップ1と、チップ1にインキ組成物を供給するためのコア(中継芯)3と、チップ1およびコア3を結合するための金属製支持部(先金具)2とを含む。このような構造の油性マーキングペンは、ペイントマーカーと呼ばれることもある。このような構造の油性マーキングペンでは、弁Bが開いてペン先に多くのインキ組成物が供給されると、コア3およびチップ1に吸収されずにあふれたインキ組成物がコア3およびチップ1と金属製支持部2との間に流れるため、金属製支持部2が多くのインキ組成物と接触した状態となる。そのため、インキ組成物の変色の課題が顕在化し易い。しかし、このような油性マーキングペンにおいても、上記のインキ組成物を用いることによってインキ組成物の変色を効果的に低減することができる。しかし、油性マーキングペンは、図1の例に限らず、チップとコアとが一体となった構造を有する油性マーキングペンであってもよい。
【0076】
中芯式の油性マーキングペンのペン先の概略断面図を図2に示す。中芯式の油性マーキングペンは、インキ組成物が染み込んだ中芯(吸蔵体)Cを内部に収容するホルダーHを備えている。ペン先は、チップ1とチップ1を支持する金属製支持部(先栓)2とを含む。インキ組成物は、毛管現象によって、中芯Cを通じてホルダーHの内部からペン先に供給される。このような構造の油性マーキングペンでは、金属製支持部2がペン先に含浸されたインキ組成物と接触した状態である。このような場合であっても、インキ組成物が上述のように金属不活性化剤を含むことで、インキ組成物の変色を低減することができる。
【0077】
金属製支持部は、メッキ被膜を含んでもよい。メッキ被膜がインキ組成物と接触していてもよい。この場合、メッキ被膜から金属イオンが溶出して、蛍光染料と反応することでインキ組成物の変色が起こることがある。このような場合でも、インキ組成物が金属不活性化剤を含むことで、インキ組成物の変色を低減することができる。
【0078】
金属製支持部は、例えば、ニッケル、クロム、鉄、コバルト、銅、銀、亜鉛、マンガン、およびスズからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。このような金属成分は、インキ組成物中に溶出すると、蛍光染料と反応して、インキ組成物を変色させ易い。金属製支持部(メッキ被膜も含む)がこのような金属成分を含む場合でも、金属不活性化剤を含むインキ組成物を用いることで、蛍光染料と金属イオンとの反応が抑制され、インキ組成物の変色を抑制することができる。
【0079】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
《実施例1~7および比較例1~3》
(1)インキ組成物の調製
表1に示す成分を表1に示す含有率となるように混合することによってインキ組成物を調製した。より具体的には、溶剤の混合物に、撹拌下で、添加剤およびチキソトロピー性付与剤を添加して混合した。混合物を45℃±5℃に加熱し、この温度で保持した状態で、撹拌下、第1着色剤を添加して溶解させた。得られた混合物に、45℃±5℃で保持した状態で、樹脂を加えて溶解させ、室温(20℃~35℃)に冷却した。このようにして、インキ組成物を調製した。得られるインキ組成物の色は透明であった。また、インキ組成物の既述の手順で求められる粘度は、約10mPa・sであった。
【0081】
インキ組成物の原料としては、下記のものを用いた。
(I)溶剤
(a)エタノール:EtOH
(b)2-プロパノール:IPA
(c)プロピレングリコールモノメチルエーテル:PM
【0082】
(II)樹脂
(a)樹脂1:ケトン系樹脂(アセトフェノン系樹脂)(TEGO(登録商標)Variplus AP(Evonik社製、ケトン-アルデヒド縮合樹脂))
(b)樹脂2:ケトン系樹脂(アセトフェノン系樹脂)の水素添加物(TEGO(登録商標)Variplus SK(Evonik社製))
【0083】
(III)第1着色剤
溶解型蛍光顔料(蛍光増白剤タイプ、シンロイヒ社製、FM-109)
【0084】
(IV)金属不活性化剤
(a)金属不活性化剤1(ADEKA社製、アデカスタブCDA-1)
(b)金属不活性化剤2(ADEKA社製、アデカスタブCDA-10)
(c)金属不活性化剤3(ADEKA社製、アデカスタブCDA-1M)
【0085】
(V)チキソトロピー性付与剤
疎水性シリカ粒子(トクヤマ社製、レオロシールHM-20L)
【0086】
(VI)添加剤
(a)酸化防止剤(ADEKA社製、アデカスタブAO-50(オクタデシル3-(3,5-ジ(tert-ブチル)-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート))
(b)紫外線吸収剤(ADEKA社製、アデカスタブLA-46(2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール))
(c)レベリング剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-302)
【0087】
(2)油性マーキングペンの作製
上記(1)で得られたインキ組成物を、油性マーキングペン用の中芯に充填し、ニッケルメッキ被膜を含む金属製先栓を有する油性マーキングペンのホルダーにセットすることによって、油性マーキングペンを作製した。油性マーキングペンにおいて、中芯の先端は、インキ組成物が含浸された状態で、先栓の先端から露出しており、チップを構成している。先栓のメッキ被膜の一部は、中芯に含浸されたインキ組成物と接触した状態である。
【0088】
(3)評価
組み立て直後の油性マーキングペンのチップおよび中芯の先栓近傍の部分は、インキ組成物が透明であるため、中芯自身の色が反映され、白色であった。油性マーキングペンを組み立てた直後から、キャップをした状態で、60℃で48時間静置した。静置後、チップおよび中芯の先栓近傍の部分の変色の状態を目視で観察した。チップおよび中芯の先栓近傍の部分の変色が確認されなかった場合をA、黄色く変色した場合をBとして評価した。
評価結果を表1に示す。表1中、E1~E7は、実施例1~7であり、C1~C3は、比較例1~3である。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示されるように、溶解型蛍光顔料を用いたインキ組成物では、金属製の先栓との接触によって、インキ組成物が変色した(C3)。インキ組成物に酸化防止剤または紫外線吸収剤を添加しても、インキ組成物の変色が生じた(C1およびC2)。それに対し、インキ組成物が金属不活性化剤を含む場合には、インキ組成物の変色が抑制された(E1~E7)。ペン先においてインキ組成物の変色が確認された比較例の油性マーキングペンを分解して中芯の変色の状態を確認したところ、先栓と接触する部分およびそのごく近傍だけでなく、ホルダー内部にまで変色した領域が広がっていた。
【0091】
C1~C3でインキ組成物が変色したのは、先栓のメッキ被膜からニッケルイオンが溶出し、溶解型蛍光顔料に含まれる蛍光染料と反応したためと考えられる。それに対し、E1~E7でインキ組成物の変色が抑制されたのは、金属不活性化剤が、メッキ被膜から溶出したニッケルイオンを捕捉することで、ニッケルイオンと蛍光染料との反応が抑制されたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のインキ組成物は、金属製部材と接触しても蛍光染料の変色が抑制される。よって、インキ組成物は、金属製先栓などのインキ組成物と接触する金属製部材を備える油性マーキングペンに用いるのに適している。油性マーキングペンは、例えば、工場などの作業現場で使用する部品や鋼材などにマーキングしたり、紙などの吸収面もしくはガラスまたはプラスチックなどの非吸収面を装飾したりする用途などに適している。しかし、インキ組成物および油性マーキングペンの用途はこれらに限定されない。
【符号の説明】
【0093】
1:チップ、2:金属製支持部、3:コア、B:弁、H:ホルダー、C:中芯
図1
図2