(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094438
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】イヤホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20220620BHJP
H04R 1/30 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
H04R1/10 104Z
H04R1/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207320
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】720009310
【氏名又は名称】オンキヨーサウンド株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 優一
【テーマコード(参考)】
5D005
5D018
【Fターム(参考)】
5D005BA15
5D005BA16
5D018AE02
5D018AE09
(57)【要約】
【課題】ホーンとしての効果を発揮可能なイヤホンを提供すること。
【解決手段】イヤホン1は、一部がホーン形状である音道8を有するノズル6を有する。音道8を形成するノズル6の内壁面において、所定範囲にディンプル9が設けられている。所定範囲は、音道8の長さを100%とした場合、音道8の両端側から20%を除く範囲である。音道8は、ホーン形状ではない部分の断面積が一定である。ホーン形状は、エクスポネンシャルホーン状である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部がホーン形状である音道を有するノズルを有し、
前記音道を形成する前記ノズルの内壁面において、所定範囲にディンプルが設けられていることを特徴とするイヤホン。
【請求項2】
前記ディンプルは、複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載のイヤホン。
【請求項3】
前記ディンプルの形状は、略半球形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイヤホン。
【請求項4】
前記ディンプルは、千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のイヤホン。
【請求項5】
前記ディンプルは、前記音道をホーン形状に形成している前記ノズルの内壁と、前記音道をホーン形状ではない形状に形成している前記ノズルの内壁と、に設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のイヤホン。
【請求項6】
前記所定範囲は、前記音道の長さを100%とした場合、前記音道の両端側から20%を除く範囲であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のイヤホン。
【請求項7】
前記音道は、ホーン形状ではない部分の断面積が一定であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のイヤホン。
【請求項8】
ホーン形状は、エクスポネンシャルホーン状であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のイヤホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カナル型のイヤホンに関する。
【背景技術】
【0002】
図13は、カナル型のイヤホンの一般的な構造を示す図(断面図)である。
図13に示すイヤホン101は、有線型のイヤホンであり、ハウジング102、スピーカー103、ケーブル104、ブッシング105、ノズル106、イヤーピース107等を備える。イヤホンにおいては、スピーカーが、ダイナミック型のもの、バランスドアーマチュア型のもの、また、音楽プレーヤーとの接続が、有線型のもの、無線型のもの等、近年、様々なタイプのものが存在する。しかしながら、イヤホンにおいて、外耳道にイヤホン101を固定するためのイヤーピース107と、イヤーピース107が取り付けられ、且つ、スピーカー103の再生音を耳穴へと導く音道108を有するノズル106と、を備える構成は、共通している。
【0003】
音道の形状について、音経路の曲がりの有無、長短の違いはあるが、音道の断面積は、一定である場合がほとんどである。音質の向上効果を目的として、音道端面に曲面(R)加工を施す場合(
図13における破線の矢印で示す箇所)、例外として、スピーカーが、ダイナミック型とバランスドアーマチュア側との併用(通称、ハイブリッド型)の場合、又は、ノイズキャンセリングのために、音道内にマイクを備える場合がある。これらは、結果的に、音道の断面積が一定ではないが、設計スタンスとしては、「断面積一定」である。
【0004】
一方、積極的に断面積を変化させる手法が存在する。例えば、特許文献1に開示のホーン型音道等である。特許文献1に開示の発明は、ブックエンド型スピーカーのツイーターに散見される音響部品であるホーンを、イヤホンの音道に適用し、高域周波数の改善を図るものである。この発明は、ホーンにより音響インピーダンスマッチングを行い、その効果は、特に高域に表れるという理には適っている。しかしながら、その効果を最大限に得るには、「ホーン状」になっているだけでは、不十分であり、エクスポネンシャルホーンに代表される特定の形状を満たす必要がある。特許文献1においても、「エクスポネンシャルホーン」と記載されているが(例えば、[請求項2]等参照。)、特に、音道径に制約が厳しいイヤホンでは、実現は難しく、エクスポネンシャルホーン「状」、すなわち、エクスポネンシャルホーンとは類似するものの、エクスポネンシャルホーンではない形状となってしまう。その結果、ホーンとしての効果が、完全に発揮されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来のイヤホンは、ホーンとしての効果を完全に発揮できないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、ホーンとしての効果を発揮可能なイヤホンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明のイヤホンは、一部がホーン形状である音道を有するノズルを有し、
前記音道を形成する前記ノズルの内壁面において、所定範囲にディンプルが設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、音道の一部がホーン形状であり、音道を形成するノズルの内壁面において、所定範囲にディンプルが設けられている。ディンプルにより、スピーカーから音放射空間に徐々に音波を拡散させることができるため、本発明によれば、ホーンとしての効果を発揮することができる。
【0010】
第2の発明のイヤホンは、第1の発明のイヤホンにおいて、前記ディンプルは、複数設けられていることを特徴とする。
【0011】
第3の発明のイヤホンは、第1又は第2の発明のイヤホンにおいて、前記ディンプルの形状は、略半球形状であることを特徴とする。
【0012】
第4の発明のイヤホンは、第1~第3のいずれかの発明のイヤホンにおいて、前記ディンプルは、千鳥状に配置されていることを特徴とする。
【0013】
第5の発明のイヤホンは、第1~第4のいずれかの発明のイヤホンにおいて、前記ディンプルは、前記音道をホーン形状に形成している前記ノズルの内壁と、前記音道をホーン形状ではない形状に形成している前記ノズルの内壁と、に設けられていることを特徴とする。
【0014】
第6の発明のイヤホンは、第1~第5のいずれかの発明のイヤホンにおいて、前記所定範囲は、前記音道の長さを100%とした場合、前記音道の両端側から20%を除く範囲であることを特徴とする。
【0015】
第7の発明のイヤホンは、第1~第6のいずれかの発明のイヤホンにおいて、前記音道は、ホーン形状ではない部分の断面積が一定であることを特徴とする。
【0016】
第8の発明のイヤホンは、第1~第7のいずれかの発明のイヤホンにおいて、ホーン形状は、エクスポネンシャルホーン状であることを特徴とする。
【0017】
本発明では、ホーン形状は、エクスポネンシャルホーン状である。ここで、「エクスポネンシャルホーン状」とは、「エクスポネンシャル(指数関数)ホーン」形状ではないが、「エクスポネンシャルホーン」の形状に類似する、「ホーン」形状をいう。「エクスポネンシャルホーン形状」は、特に音道径に制約の厳しいイヤホンにおいては、実現は厳しいが、「エクスポネンシャルホーン状」とすることで、設計の自由度が格段に増すという利点がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ホーンとしての効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係るイヤホンを示す断面図である。
【
図2】ディンプルが設けられていないイヤホンを示す断面図である。
【
図3】ディンプル条件から外れた箇所に、ディンプルが設けられている例を示す図である
【
図4】ディンプル条件から外れた箇所に、ディンプルが設けられている例を示す図である。
【
図5】ディンプルが設けられていないイヤホン(
図2)の流動解析を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るイヤホンの流動解析を示す図である。
【
図7】
図3に示すイヤホンの流動解析を示す図である。
【
図8】
図4に示すイヤホンの流動解析を示す図である。
【
図13】カナル型のイヤホンの一般的な構造を示す図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るイヤホン1を示す断面図である。
図2は、
図1に示すイヤホン1から、後述するディンプル9が除かれたイヤホンを示す図である。イヤホン1は、ケーブル4を備える有線型のイヤホンである。これに限らず、イヤホン1は、例えば、音楽プレーヤーと、Bluetooth(登録商標)規格に従って無線接続される、無線型のイヤホンであってもよい。
【0021】
図1に示すように、イヤホン1は、ハウジング2、スピーカー3、ケーブル4、ブッシング5、ノズル6、イヤーピース7等を備える。ノズル6は、スピーカー3から発せらせた音を、ユーザーの耳に導くための音道8を有する。音道8は、ノズル6の内部に、ノズル6の内壁によって形成(規定)された空間である。本実施形態では、音道8のスピーカー3側を、「入口」、音道8の開口側を、「出口」という場合がある。
【0022】
音道8の形状は、一部がホーン形状である。音道8におけるホーン形状の起点は、
図2に示す矢印により、「ホーン曲線起点」と示されている箇所である。この箇所を起点として、音道8の入口側から、出口側に向かって、音道8は、ホーン形状となっている。「ホーン形状」とは、断面視の形状が、「ホーン」であることを指す。音道8の断面積は、矢印で図示する箇所を起点として、一方側(音道8の入口側)から他方側(音道8の出口側)に向かって、曲線的に増加(変化)している。一部の音道8の形状は、具体的には、「エクスポネンシャルホーン状」である。「エクスポネンシャルホーン状」とは、「エクスポネンシャル(指数関数)ホーン」形状ではないが、「エクスポネンシャルホーン」の形状に類似する、「ホーン」形状をいう。
【0023】
音道8において、「ホーン曲線起点」から音道8の入口側、すなわち、ホーン形状ではない部分は、音道8の断面積が一定である。すなわち、音道8の断面視の形状は、ホーンではなく、矩形である。
【0024】
音道8を形成するノズル6の内壁面において、所定範囲にディンプル9(窪み)が複数設けられている。「所定範囲」は、例えば、音道8の長さを100%とした場合、音道8の両端側から20%を除く範囲、すなわち、音道8の入口側から20%、音道8の出口側から20%を除く範囲(以下、「ディンプル条件」という。)である。ディンプル9の形状は、例えば、略半球形状である。ディンプル9は、例えば、千鳥状に配置されている。
図1においては、ディンプル9は、音道8をホーン形状に形成しているノズル6の内壁と、音道8をホーン形状ではない形状(断面積一定)に形成しているノズル6の内壁と、に設けられている。なお、ディンプル9が設けられる箇所は、
図1で図示される箇所に限られず、例えば、上述したディンプル条件を満たしていればよい。
【0025】
上述したように、本発明の目的は、「ホーンとしての効果を発揮する」ことであるが、「ホーンとしての効果を発揮する」とは、スピーカー振動板から音放射空間に徐々に音波を拡散させることである。言い換えれば、音道の断面積を使い切って、音が放射されるほど、よい。
図3、及び、
図4は、上述したディンプル条件から外れた箇所に、ディンプルが設けられている例を示す図である。
【0026】
図5は、ディンプルが設けられていないイヤホン(
図2)の流動解析を示す図である。
図5から、ホーン形状に沿って、流体が広がろうとしている様子はうかがえるが、およそ音道中央で、界面から剥離してしまっている。その影響で、渦が発生し、急激に流体が曲げられ、音道壁面に衝突している様子がうかがえる。結果、音道出口では、流体軌跡が歪になり、疎密が生じている。
図6は、本実施形態に係るイヤホン1の流動解析を示す図である。ディンプル9の効果により、流体界面剥離点が、より音道8の出口へオフセットできており、疎密もほとんどない。
【0027】
図7は、
図3に示すイヤホンの流動解析を示す図である。
図8は、
図4に示すイヤホンの流動解析を示す図である。
図3、及び、
図4に示すイヤホンは、本実施形態に係るイヤホン1(
図1)に比べて、ディンプルの数を増やすことで、一層の改善を図っているが、改善の効果が得られていない。
図7では、音道の断面積一定区間でのディンプルが、むしろ流れを歪にし、疎密波を生じている。
図8では、流体軌跡の直線性が向上し、拡散が抑えられた。
【0028】
図9~
図12は、
図1~
図4、
図13に示す各イヤホンの周波数特性を示すグラフである。横軸は、周波数[Hz]、縦軸は、SPL[dB]を示している。
図9は、
図2に示すイヤホン、
図13に示すイヤホンの周波数特性を示している。
図9に示すように、音道をホーン形状(
図2)とすることで、高域において、ピークディップが小さくなる。また、音圧レベルが向上することが確認できる。
図10は、
図1に示すイヤホン、
図2に示すイヤホンの周波数特性を示している。
図10に示すように、
図1に示すイヤホン1によれば、高域において、ピークディップが小さくなることが確認できる。
【0029】
図11は、
図2示すイヤホン、
図3に示すイヤホンの周波数特性を示している。ディンプルを設けすぎると(
図3)、高域において、ピークディップが小さくなる帯域もあるが、大きくなる帯域もあることが確認できる。
図12は、
図2示すイヤホン、
図4に示すイヤホンの周波数特性を示している。ディンプルを設けすぎると(
図4)、高域において、ピークディップが大きくなる帯域があることが確認できる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態では、音道8の一部がホーン形状であり、音道8を形成するノズル6の内壁面において、所定範囲にディンプル9が設けられている。ディンプル9により、スピーカー3から音放射空間に徐々に音波を拡散させることができるため、本実施形態によれば、ホーンとしての効果を発揮することができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は、上述の実施形態には限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、カナル型のイヤホンに好適に採用され得る。
【符号の説明】
【0033】
1 イヤホン
3 スピーカー
6 ノズル
8 音道
9 ディンプル