IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社の特許一覧

特開2022-94458移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置
<>
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図1
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図2
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図3
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図4
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図5
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図6
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図7
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図8
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図9
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図10
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図11
  • 特開-移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094458
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】移動体の位置検出装置、モータの回転量検出装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/292 20160101AFI20220620BHJP
   B60N 2/06 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
H02P7/292 K
B60N2/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207354
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】日本電産モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃史
(72)【発明者】
【氏名】片山 陽太
【テーマコード(参考)】
3B087
5H571
【Fターム(参考)】
3B087AA02
3B087BA02
5H571AA03
5H571CC01
5H571JJ03
5H571JJ17
5H571JJ26
5H571KK06
5H571LL14
5H571LL22
5H571LL23
5H571LL33
(57)【要約】
【課題】モータに流れるリプル電流を正常に検出できない場合であっても、モータの回転量や移動体の位置を検出できるようにする。
【解決手段】位置検出部1は、モータ電流に含まれるリプル電流に基づいてモータの回転量を算出し、当該回転量に基づいて移動体の位置を検出する第1の位置検出部1Aと、モータ電圧およびモータ電流を用いた所定の演算式に基づいてモータの回転量を算出し、当該回転量に基づいて移動体の位置を検出する第2の位置検出部1Bとを有している。リプル電流が定常的な変化を示す、移動体の第1の移動期間においては、第1の位置検出部1Aにより検出した移動体の位置を出力する。リプル電流が過渡的な変化を示す、移動体の第2の移動期間においては、第2の位置検出部1Bにより検出した移動体の位置を出力する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を移動させるためのモータを駆動するモータ駆動部と、
前記モータの端子間の電圧であるモータ電圧を検出する電圧検出部と、
前記モータに流れるモータ電流を検出する電流検出部と、
前記モータ電流に含まれるリプル電流を検出するリプル検出部と、
前記リプル電流に基づいて前記モータの回転量を算出し、当該回転量に基づいて前記移動体の位置を検出する第1の位置検出部と、
前記モータ電圧および前記モータ電流を用いた所定の演算式に基づいて前記モータの回転量を算出し、当該回転量に基づいて前記移動体の位置を検出する第2の位置検出部と、を備え、
前記リプル電流が定常的な変化を示す、前記移動体の第1の移動期間においては、前記第1の位置検出部により検出した移動体の位置を出力し、
前記リプル電流が過渡的な変化を示す、前記移動体の第2の移動期間においては、前記第2の位置検出部により検出した移動体の位置を出力する、ことを特徴とする移動体の位置検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体の位置検出装置において、
前記モータ電圧をV、前記モータ電流をI、前記モータの抵抗値をRm、前記モータの誘起電圧定数をKeとしたとき、
前記第2の位置検出部は、
前記モータの回転量Pを次式により算出するモータ回転量算出部と、
【数2】
前記モータ回転量算出部で算出されたモータの回転量に基づいて、前記移動体の位置を算出する位置算出部と、を有することを特徴とする移動体の位置検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の移動体の位置検出装置において、
前記電流検出部により前記モータ電流を検出するためのシャント抵抗をさらに備え、
前記第2の移動期間における前記モータの回転により、当該モータの端子間に誘起電圧が発生するとともに、前記シャント抵抗にブレーキ電流が流れ、
前記第2の位置検出部は、前記誘起電圧を前記モータ電圧とし、前記ブレーキ電流を前記モータ電流として、前記モータの回転量を算出し、当該回転量に基づいて前記移動体の位置を検出する、ことを特徴とする移動体の位置検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の移動体の位置検出装置において、
前記第2の移動期間は、前記移動体がストッパに衝突した後、反力により移動方向と逆の方向へ移動する期間である、ことを特徴とする移動体の位置検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の移動体の位置検出装置において、
前記第2の移動期間は、前記移動体が慣性により停止位置を越えて停止するまでの期間である、ことを特徴とする移動体の位置検出装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の移動体の位置検出装置において、
前記第2の移動期間は、前記モータが起動された直後の所定期間である、ことを特徴とする移動体の位置検出装置。
【請求項7】
モータを駆動するモータ駆動部と、
前記モータの端子間の電圧であるモータ電圧を検出する電圧検出部と、
前記モータに流れるモータ電流を検出する電流検出部と、
前記モータ電流に含まれるリプル電流を検出するリプル検出部と、
前記リプル電流に基づいて前記モータの回転量を検出する第1の回転量検出部と、
前記モータ電圧および前記モータ電流を用いた所定の演算式に基づいて前記モータの回転量を検出する第2の回転量検出部と、を備え、
前記リプル電流が定常的な変化を示す第1の期間においては、前記第1の回転量検出部により検出した回転量を出力し、
前記リプル電流が過渡的な変化を示す第2の期間においては、前記第2の回転量検出部により検出した回転量を出力する、ことを特徴とするモータの回転量検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータにより駆動される移動体の位置を検出する装置、およびモータの回転量を検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、車両に備わる電動シート(移動体)は、スイッチ操作によって回転するモータで駆動され、車室の床面に対して平行に、前後方向や左右方向に移動するようになっている。電動シートの移動量は、モータの回転量により決まるので、シートを所定の位置で停止させる停止制御を行うためには、モータの回転量を算出する必要がある。
【0003】
モータ回転量の算出にあたっては、ロータリエンコーダなどの回転センサを用いる方法が従来から知られている。一方、回転センサを用いずに、モータの巻線に流れるリプル電流を検出することで、モータ回転量を算出する方法がある。この方法は、検出したリプル電流を2値化してパルス信号に変換し、そのパルス信号の立ち上がりや立ち下がりの数を計数することで、モータ回転量を算出するものである。特許文献1~6には、このようなリプル電流に基づくモータ回転量の算出方法が示されている。リプル電流は、モータ電流を検出するために設けられたシャント抵抗を利用して検出することができる(特許文献1~4参照)。
【0004】
リプル電流に基づいてモータの回転量を算出する場合、モータが回転状態であるにもかかわらず、リプル電流を正常に検出できないことがある。たとえば、車両用の電動シートを例に挙げると、モータの停止制御が行われて移動中のシートがストッパに当たると、ストッパから受ける反力により、シートが移動方向と反対の方向へ逆戻りする現象が生じる。このため、モータは、停止制御が行われたにもかかわらず、シートの逆戻りに付随して逆回転し、これにより巻線に誘起電圧が発生する。その結果、誘起電圧に基づいて過渡的にモータ電流が流れるが、このモータ電流に含まれるリプル電流は、通常のリプル電流に比べて振幅が非常に小さく、また波形も崩れていることから、正常なリプル電流として検出することは困難である。したがって、上記のような反力発生時に、モータの逆回転によって流れるリプル電流は、モータの回転量(この場合は逆回転量)の算出に用いることができない。
【0005】
同様のことは、電動シートをストッパ位置より手前で停止させる場合にも起こりうる。この場合、モータを停止制御しても、電動シートは所定位置で直ちに停止せず、慣性によって所定位置を越えてから停止する(オーバーラン)。このため、電動シートが所定位置を越えてから停止するまでの間、モータはシートの移動に付随して回転を続ける。その結果、巻線に発生する誘起電圧に基づいて、過渡的にモータ電流が流れるが、このモータ電流に含まれるリプル電流も振幅が小さく、波形も崩れているので、これをモータの回転量の算出に用いることはできない。
【0006】
さらには、電動シートの移動が開始されたモータの起動直後においても、モータに流れるリプル電流は過渡的な変化を示し、振幅が小さく波形も崩れているので、上述した各場合と同様に、リプル電流を用いてモータ回転量を算出することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公開第2010/0259249号明細書
【特許文献2】米国特許第9787232号明細書
【特許文献3】特開2014-7806号公報
【特許文献4】特開2014-7807号公報
【特許文献5】特開2013-212028号公報
【特許文献6】特開2014-64424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、移動体に反力や慣性が作用した場合や、モータを起動した直後においては、モータに流れるリプル電流が正常に検出されないので、リプル電流を用いてモータの回転量を算出することができない。このため、モータの回転量に基づいて移動体の位置を検出することが不可能となり、位置検出の信頼性が低下する。
【0009】
本発明の課題は、モータに流れるリプル電流を正常に検出できない場合であっても、モータの回転量や移動体の位置の検出を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る移動体の位置検出装置は、移動体を移動させるためのモータを駆動するモータ駆動部と、モータの端子間の電圧であるモータ電圧を検出する電圧検出部と、モータに流れるモータ電流を検出する電流検出部と、モータ電流に含まれるリプル電流を検出するリプル検出部と、リプル電流に基づいてモータの回転量を算出し、当該回転量に基づいて移動体の位置を検出する第1の位置検出部と、モータ電圧およびモータ電流を用いた所定の演算式に基づいてモータの回転量を算出し、当該回転量に基づいて移動体の位置を検出する第2の位置検出部とを備えている。そして、リプル電流が定常的な変化を示す、移動体の第1の移動期間においては、第1の位置検出部により検出した移動体の位置を出力し、リプル電流が過渡的な変化を示す、移動体の第2の移動期間においては、第2の位置検出部により検出した移動体の位置を出力する。
【0011】
また、本発明に係るモータの回転量検出装置は、モータを駆動するモータ駆動部と、モータの端子間の電圧であるモータ電圧を検出する電圧検出部と、モータに流れるモータ電流を検出する電流検出部と、モータ電流に含まれるリプル電流を検出するリプル検出部と、リプル電流に基づいてモータの回転量を検出する第1の回転量検出部と、モータ電圧およびモータ電流を用いた所定の演算式に基づいてモータの回転量を検出する第2の回転量検出部とを備えている。そして、リプル電流が定常的な変化を示す第1の期間においては、第1の回転量検出部により検出した回転量を出力し、リプル電流が過渡的な変化を示す第2の期間においては、第2の回転量検出部により検出した回転量を出力する。
【0012】
このようにすると、たとえば移動体に反力が作用してモータが逆回転した場合のように、モータに流れるリプル電流を正常に検出できない場合であっても、所定の演算式を用いてモータの回転量を算出することができる。このため、算出された回転量に基づいて移動体の位置を検出することが可能となり、位置検出の信頼性が向上する。
【0013】
本発明では、第2の位置検出部は、モータ電圧、モータ電流、モータの抵抗値、およびモータの誘起電圧定数の各パラメータを用いた後記の演算式により、モータの回転量を算出するモータ回転量算出部と、このモータ回転量算出部で算出されたモータの回転量に基づいて、移動体の位置を算出する位置算出部とを有していてもよい。
【0014】
本発明では、電流検出部によりモータ電流を検出するためのシャント抵抗が備わっていてもよい。第2の移動期間におけるモータの回転により、当該モータの端子間に誘起電圧が発生するとともに、シャント抵抗にブレーキ電流が流れる。第2の位置検出部は、上記の誘起電圧をモータ電圧とし、上記のブレーキ電流をモータ電流として、モータの回転量を算出し、当該回転量に基づいて移動体の位置を検出する。
【0015】
本発明では、第2の移動期間は、移動体がストッパに衝突した後、反力により移動方向と逆の方向へ移動する期間であってもよい。また、第2の移動期間は、移動体が慣性により停止位置を越えて停止するまでの期間であってもよい。さらに、第2の移動期間は、モータが起動された直後の所定期間であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、モータに流れるリプル電流を正常に検出できない場合であっても、モータの回転量や移動体の位置を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る移動体の位置検出装置の全体構成を示したブロック図である。
図2】位置検出部の具体的構成を示したブロック図である。
図3】定常状態におけるモータ電流、リプル電流、およびリプルパルスの波形図である。
図4】定常状態における移動体の位置検出を説明する図である。
図5】電動シートに作用する反力を説明する図である。
図6】反力により生じる誘起電圧とモータ電流の波形図である。
図7】過渡状態における移動体の位置検出を説明する図である。
図8】慣性による電動シートのオーバーランを説明する図である。
図9】オーバーラン時のモータ電流とリプル電流の波形図である。
図10】モータ起動直後の電動シートの移動状態を示した図である。
図11】本発明に係るモータの回転量検出装置の全体構成を示したブロック図である。
図12】回転量検出部の具体的構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一の符号を付してある。
【0019】
図1は、本発明による移動体の位置検出装置の一例を示している。ここでは、移動体として、図5に示すような車両用の電動シート30を例に挙げる。電動シート30は、スイッチの操作により、車室の床面に対して平行に、前後方向(図5では左右方向)に移動するようになっている。
【0020】
図1において、移動体の位置検出装置100は、電動シート30の位置を検出する位置検出部1と、電動シート30を移動させるためのモータMを駆動するモータ駆動部2と、モータMの端子T1、T2間の電圧であるモータ電圧を検出する電圧検出部3と、モータMに流れるモータ電流を検出する電流検出部4と、モータ電流Iに含まれるリプル電流を検出するリプル検出部5と、電流検出部4によりモータ電流を検出するためのシャント抵抗Rsとを備えている。
【0021】
モータ駆動部2は、電源BとグランドGとの間に設けられており、4個のスイッチング素子を有するHブリッジ回路(図示省略)と、各スイッチング素子をオン・オフさせるスイッチング回路(図示省略)などから構成される。モータ駆動部2は、位置検出部1から与えられるモータ駆動指令に基づいて、モータMを駆動する。
【0022】
シャント抵抗Rsは、モータ駆動部2とモータMとの間に設けられており、その一端はモータMの端子T2に接続され、他端はモータ駆動部2に接続されている。モータMが駆動されている定常状態では、シャント抵抗Rsに太線矢印で示すようなモータ電流Ia(駆動電流)が流れる。また、モータ駆動部2が端子T1、T2間を短絡してモータMにブレーキがかかった状態や、モータMの非駆動時に反力や慣性などによりモータMが回転する過渡状態では、シャント抵抗Rsに点線矢印で示すようなモータ電流Ib(ブレーキ電流)が流れる。これらの電流の方向は、逆方向となっている。
【0023】
電圧検出部3は、端子T1、T2間の電圧を検出し、その電圧値をモータ電圧Vとして位置検出部1へ出力する。電流検出部4は、シャント抵抗Rsの両端に接続されていて、シャント抵抗Rsに生じる電圧降下に基づいてモータ電流を検出し、その電流値をモータ電流Iとして位置検出部1へ出力する。
【0024】
リプル検出部5は、電流検出部4の出力側に設けられていて、電流検出部4で検出されたモータ電流に含まれるリプル(脈動)を検出し、その振幅値をリプル電流Irとして位置検出部1へ出力する。
【0025】
位置検出部1は、電圧検出部3で検出されたモータ電圧V、電流検出部4で検出されたモータ電流I、およびリプル検出部5で検出されたリプル電流Irに基づいて、モータMの回転量を算出し、当該回転量に基づいて移動体である電動シート30の位置を検出する。
【0026】
図2は、位置検出部1の具体的構成を示したブロック図である。位置検出部1は、第1検出部1Aと第2検出部1Bとを有している。第1検出部1Aは、リプル抽出フィルタ11、2値化回路12、位置算出部13、高速フーリエ変換回路14、リプル周波数算出部15、およびリプル周波数推定部16を備えている。また、第2検出部1Bは、モータ回転量算出部17と、位置算出部18とを備えている。第1検出部1Aは、本発明における「第1の位置検出部」に相当し、第2検出部1Bは、本発明における「第2の位置検出部」に相当する。
【0027】
なお、図2では便宜上、第1検出部1Aと第2検出部1Bをハードウェアのブロックで表してあるが、各ブロックの機能は、実際にはソフトウェアによって実現される。もちろん、第1検出部1Aと第2検出部1Bをハードウェアから構成してもよい。
【0028】
第1検出部1Aにおいて、リプル抽出フィルタ11は、本実施形態ではFIR(Finite Impulse Response:有限インパルス応答)型のバンドパスフィルタから構成されている。このリプル抽出フィルタ11は、図1のリプル検出部5より入力されるリプル電流Irからノイズを除去して、所定帯域に含まれるリプルを抽出する。2値化回路12は、抽出されたリプルを、所定の閾値により「0」と「1」に2値化して、リプルパルスに変換する(図3(c)参照)。位置算出部13は、2値化回路12から出力されたリプルパルスの立上りと立下りの数を計数して、その計数値からモータMの回転量を算出する。そして、この回転量からさらに電動シート30の位置を算出し、これを位置情報として出力する。
【0029】
高速フーリエ変換回路14は、リプル電流Irの周波数を解析して、周波数スペクトルを作成する。リプル周波数算出部15は、図1の電圧検出部3から入力されるモータ電圧Vと、電流検出部4から入力されるモータ電流Iと、モータMの抵抗値Rmと、モータMの誘起電圧定数Keとに基づき、公知の手法を用いてリプル周波数(計算値)を算出する。抵抗値Rmと誘起電圧定数Keは、図示しないメモリに記憶されている。なお、抵抗値Rmと誘起電圧定数Keは、モータ電圧Vとモータ電流Iに基づいて定期的に更新してもよい。この場合、学習値としてのパラメータRm、Keを用いるので、モータMの特性のばらつきの影響を受けずに、リプル周波数を算出することができる。
【0030】
リプル周波数推定部16は、高速フーリエ変換回路14で作成された周波数スペクトルと、リプル周波数算出部15で算出されたリプル周波数(計算値)とに基づき、公知の手法を用いてリプル周波数の推定を行い、リプル周波数の推定値をリプル抽出フィルタ11へ与える。これにより、リプル抽出フィルタ11の周波数特性が、リプル周波数に応じて更新されるので、モータMの速度変動にかかわらず、リプル電流から所定帯域のリプルを抽出することができる。
【0031】
次に、第2検出部1Bは、所定の演算式に基づいてモータMの回転量を算出するモータ回転量算出部17と、このモータ回転量算出部17で算出されたモータMの回転量に基づいて、電動シート30の位置を算出する位置算出部18とを備えている。
【0032】
モータ回転量算出部17は、モータ電圧V、モータ電流I、モータMの抵抗値Rm、およびモータMの誘起電圧定数Keを用いて、次式によりモータの回転量Pを算出する。
【数1】
ここで、右辺のV-Rm・I/Keは、モータMの速度(計算値)であり、これを時間積分することで、モータの回転量Pが算出される。位置算出部18は、この回転量Pに基づいて電動シート30の位置を算出し、これを位置情報として出力する。
【0033】
図3は、モータMの通常の駆動状態、すなわちモータMが起動して一定時間が経過した時点t1から、モータMの停止制御が開始される時点t2までの期間Xにおける、モータ電流、リプル電流、およびリプルパルスの波形を示している。図3からわかるように、期間Xにおいては、それぞれの波形が定常的な変化を示している。この期間Xは、本発明における「第1の移動期間」に相当し、この間、電動シート30は、モータMの回転により移動を続ける。
【0034】
上述した期間Xにおいては、図4に太枠で示したように、第1検出部1Aのみによって電動シート30の位置が検出され、破線で示した第2検出部1Bはシート位置の検出に関与しない。したがって、通常状態では、第1検出部1Aにより従来と同じ方法で電動シート30の位置検出が行われる。
【0035】
次に、モータ電流が過渡的な変化を示す場合の位置検出について説明する。
【0036】
図5は、電動シート30の停止時に反力が作用する様子を示している。位置検出部1が、シート位置の検出結果(位置情報)に基づいて、モータ駆動部2へモータ停止指令を出力すると、モータ駆動部2は、モータMの端子T1、T2間を短絡状態にする。これによってモータMにブレーキがかかるので、移動中の電動シート30はストッパ31に当たって停止しようとするが、ストッパ31から反力を受けて、移動方向と反対の方向へ若干逆戻りする。このため、モータMは電動シート30の逆戻りに付随して逆回転する。
【0037】
図6は、モータMが逆回転した場合のモータ電圧とモータ電流の変化の様子を示している。t3は、電動シート30がストッパ31に当たった時点であり、この時点から電動シート30に反力が作用して、モータMは逆回転し、t4の時点で停止する。t3~t4の期間Yは、本発明における「第2の移動期間」に相当し、この間、電動シート30は逆戻りを続ける。
【0038】
上述した期間Yでは、モータMの逆回転によって、モータ巻線に誘起電圧が発生し、この誘起電圧に基づいて、モータMに過渡的にモータ電流(図1のブレーキ電流Ib)が流れる。このため、モータ電流に含まれるリプル電流は過渡的な変化を示す。しかるに、このときのモータ電流は微少であるため、モータ電流に含まれるリプル電流の振幅はきわめて小さく、また波形も崩れている。したがって、このリプル電流をモータMの逆回転量の算出に用いることはできない。
【0039】
そこで本発明では、期間Yにおいては、図7に太枠で示したように、第2検出部1Bによって電動シート30の位置を検出し、破線で示した第1検出部1Aによってシート位置を検出しないようにしている。このため、リプル電流を用いなくても、電圧検出部3で検出されたモータ電圧(誘起電圧)Vと、電流検出部4で検出されたモータ電流(ブレーキ電流)Iと、モータMの抵抗値Rmと、モータMの誘起電圧定数Keとを用いて、前記の演算式(1)によりモータMの回転量Pを算出し、この回転量Pから電動シート30の位置を検出することができる。その結果、位置検出の信頼性が向上するとともに、反力により生じた電動シート30の位置ずれ(逆戻り)を、モータMの逆回転量に基づいて補正することができる。
【0040】
上述した実施形態においては、電動シート30に反力が作用する場合を例に挙げたが、図8のように、電動シート30が慣性により停止位置を越えて停止(オーバーラン)する場合にも、本発明は有効である。
【0041】
図9は、この場合のモータ電流とリプル電流の変化の様子を示している。モータ駆動指令がONからOFFになった後、t5の時点からt6の時点までの間、モータMは、電動シート30のオーバーランによって回転を継続し、t6の時点で停止する。t5~t6の期間Zは、本発明における「第2の移動期間」に相当し、この間、モータMには、モータ巻線に発生する誘起電圧に基づくモータ電流(図1のブレーキ電流Ib)が、過渡的に流れる。このため、モータ電流に含まれるリプル電流も過渡的な変化を示すが、この場合も、リプル電流は振幅が小さく波形も歪んでいる。したがって、第1検出部1Aでは、このリプル電流を用いたモータ回転量の算出は不可能であるが、第2検出部1Bにより、前記の演算式(1)を用いてモータ回転量を算出できるので、電動シート30の位置検出が可能となる。
【0042】
さらに、本発明は、モータMが起動した直後のモータ回転量の算出にも有効である。モータMが起動を開始した後、一定時間が経過するまでは、モータ電流は不安定で過渡的な変化を示し、一定時間が経過すると安定した定常的な変化を示す。したがって、図10に示すように、モータMが起動してから電動シート30が一定距離Wだけ移動するまでの期間(本発明における「第2の移動期間」に相当)は、第2検出部1BによりモータMの回転量を算出すればよい。
【0043】
上述した実施形態においては、期間Xでは第1検出部1Aのみによって位置検出を行い、期間Y、Zでは第2検出部1Bのみによって位置検出を行ったが、第1検出部1Aと第2検出部1Bの双方が常時、並行して位置検出を継続し、期間Xと期間Y、Zとで検出出力を切り換えてもよい。すなわち本発明では、リプル電流が定常的な変化を示す期間Xでは、第1検出部1Aが検出した位置を出力し、リプル電流が過渡的な変化を示す期間Y、Zでは、第2検出部1Bが検出した位置を出力するようにすればよい。
【0044】
また、上述した実施形態においては、移動体として車両の電動シート30を例に挙げたが、本発明は、車両の窓ガラス、スライドドア、サンルーフなどの移動体の位置を検出する場合にも適用することができる。また、車両以外の分野で用いられる移動体の位置を検出する場合にも、本発明は適用が可能である。
【0045】
さらに、上述した実施形態においては、モータMの回転量に基づいて移動体の位置を検出する位置検出装置100について説明したが、本発明は、モータMの回転量それ自体を検出する回転量検出装置としても利用することができる。
【0046】
図11は、本発明によるモータの回転量検出装置200の一例を示している。図11において、図1と異なる点は、図1の移動体の位置を検出する位置検出部1が、モータの回転量を検出する回転量検出部10に置き換わっていることである。その他については図1と同じであるので、図1と同一の部分に同一の符号を付して、重複説明は省略する。
【0047】
図12は、回転量検出部10の具体的構成を示したブロック図である。図12において、図2と異なる点は、図2の位置算出部13がモータ回転量算出部23に置き換わり、図2の位置算出部18が省略されていること、および、図2の第1検出部1Aが第1検出部10Aに置き換わり、図2の第2検出部1Bが第2検出部10Bに置き換っていることである。その他については図2と同じであるので、図2と同一の部分に同一の符号を付して、重複説明は省略する。
【0048】
図12の回転量検出部10の動作は、検出対象がモータMの回転量である点を除いて、図2の位置検出部1の動作と基本的に同じである。すなわち、第1検出部10Aは、リプル電流Irに基づいて、リプルパルスからモータMの回転量を検出する。また、第2検出部10Bは、モータ電流I、モータ電圧V、モータMの抵抗値Rm、およびモータMの誘起電圧定数Keを用いた前記の式(1)に基づいて、演算によりモータMの回転量を検出する。そして、リプル電流が定常的な変化を示す期間(第1の期間)においては、第1検出部10A(第1の回転量検出部)により検出した回転量を出力し、リプル電流が過渡的な変化を示す期間(第2の期間)においては、第2検出部10B(第2の回転量検出部)により検出した回転量を出力する。
【0049】
以上のようなモータの回転量検出装置200は、電動シート30などの移動体の位置の検出だけでなく、モータMにより回転する回転体の回転量や回転角の検出にも利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 位置検出部
1A 第1検出部(第1の位置検出部)
1B 第2検出部(第2の位置検出部)
2 モータ駆動部
3 電圧検出部
4 電流検出部
5 リプル検出部
10 回転量検出部
10A 第1検出部(第1の回転量検出部)
10B 第2検出部(第2の回転量検出部)
11 リプル抽出フィルタ
12 2値化回路
13 位置算出部
14 高速フーリエ変換回路
15 リプル周波数算出部
16 リプル周波数推定部
17 モータ回転量算出部
18 位置算出部
23 モータ回転量算出部
30 電動シート(移動体)
100 移動体の位置検出装置
200 モータの回転量検出装置
M モータ
Rs シャント抵抗
T1、T2 モータの端子
X 第1の移動期間
Y、Z 第2の移動期間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12