(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094525
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】撥液性構造体及び包装材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20220620BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207461
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】木下 廣介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 了嗣
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
3E086AD05
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA35
3E086BB51
3E086BB71
3E086BB74
3E086BB90
3E086CA01
3E086CA28
3E086CA29
3E086CA35
3E086DA02
4F100AK01B
4F100AK17A
4F100AK25A
4F100AK42C
4F100AL01A
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA10A
4F100BA10C
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4F100DD07
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4F100GB15
4F100JB04A
4F100JB16B
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】長期に亘り優れた撥液性を有する撥液性構造体を提供すること。
【解決手段】撥液性を付与すべき表面と、表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、撥液層が、フッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に分散されたフィラーとを含有し、三次元表面粗さ解析により得られる、撥液層表面の突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2を、撥液層表面の突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1で除した値Smr2/Smr1が5以下である、撥液性構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が、フッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に分散されたフィラーとを含有し、
三次元表面粗さ解析により得られる、前記撥液層表面の突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2を、前記撥液層表面の突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1で除した値Smr2/Smr1が5以下である、撥液性構造体。
【請求項2】
X線光電子分光法により得られる、前記撥液層表面のフッ素原子濃度が35~50atom%である、請求項1に記載の撥液性構造体。
【請求項3】
前記フィラーが、複数の一次粒子が数珠状に連結した構造を有する第一フィラーを含む、請求項1又は2に記載の撥液性構造体。
【請求項4】
前記フッ素含有樹脂がフッ素-アクリル共重合体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項5】
前記フィラーが、鱗片状の第二フィラーを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項6】
前記表面と前記撥液層との間に下地層をさらに備え、
前記下地層が、熱可塑性樹脂及び平均一次粒子径が5~60μmである第三フィラーを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項7】
表面粗さSaが1.5~15.0μmである、請求項6に記載の撥液性構造体。
【請求項8】
物品と接する側に、請求項1~7のいずれか一項に記載の撥液性構造体を有する包装材。
【請求項9】
前記物品が油分及びO/W型エマルションの少なくともいずれかを含む、請求項8に記載の包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撥液性構造体及び包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水性を有する構造体について種々の態様が知られている。例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂と、疎水性粒子とを含む、単層の撥水性ヒートシール膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明においては、水滴等との接触角によって撥水性が評価されている。しかし、同文献に記載の発明においては、油分を含む液状物(例えば、サラダ油、カレー、生クリーム)に対する撥液性は検討されていない。特に、当該撥液性は長期に亘り維持されることが求められるが、同文献に記載の発明においてはそれが可能であるか不明である。
【0005】
本開示は、長期に亘り優れた撥液性を有する撥液性構造体を提供することを目的とする。また、本開示は、物品と接する側に上記撥液性構造体を有する包装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る撥液性構造体は、撥液性を付与すべき表面(以下、場合により「被処理面」という。)と、表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、撥液層が、フッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に分散されたフィラーとを含有し、三次元表面粗さ解析により得られる、撥液層表面の突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2を、撥液層表面の突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1で除した値Smr2/Smr1が5以下である。
【0007】
上記撥液性構造体が備える撥液層は、水及び油に対する優れた撥液性を有すると共に、その撥液性を長期に亘り維持することができる。後述のとおりSmr2/Smr1なる値は、撥液性構造体表面の撥液層の表面性状(凹凸の様子)を示すものであり、この値を5以下とすることで凹部に液体が入り込み難くなり、単なる撥液性のみならず撥液耐久性が向上するものと発明者らは推察している。
【0008】
上記撥液性構造体において、X線光電子分光法により得られる、撥液層表面のフッ素原子濃度は35~50atom%であってよい。これにより、撥液耐久性をより向上し易くなる。
【0009】
上記撥液性構造体において、フィラーは、複数の一次粒子が数珠状に連結した構造を有する第一フィラーを含んでよい。数珠状フィラーが有する数珠状構造は、その立体的な構造により撥液層に柔軟性を付与し易く、より長期に亘り撥液性を維持することができる。
【0010】
上記撥液性構造体において、フッ素含有樹脂はフッ素-アクリル共重合体を含んでよい。フッ素-アクリル共重合体を含むことで、より長期に亘り撥液性を維持することができる。
【0011】
上記撥液性構造体において、フィラーは、鱗片状の第二フィラーを含んでよい。撥液層に鱗片状フィラーを含ませることで、その表面に凹凸がより効率的に形成され、より長期に亘り撥液性を維持し易くなる。
【0012】
上記撥液性構造体は、表面と撥液層との間に下地層をさらに備えていてよく、下地層は、熱可塑性樹脂及び平均一次粒子径が5~60μmである第三フィラーを含んでいてよい。これにより、撥液性構造体に粗大な凹凸を形成することができる。粗大な凹凸は、撥液層と内容物とを点接触にし易くするため、撥液性の低下をより抑制することができる。
【0013】
上記撥液性構造体において、内容物を点接触で保持する効果が得られ易いよう、その表面粗さSaは1.5~15.0μmであってよい。
【0014】
本開示は、物品と接する側に、上記撥液性構造体を有する包装材を提供する。上述のとおり、撥液性構造体が備える撥液層は、水及び油に対する優れた撥液性を有すると共に、その撥液性を長期に亘り維持することができる。当該撥液層は、油分及びO/W型エマルションの少なくともいずれかを含む物品に特に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、長期に亘り優れた撥液性を有する撥液性構造体を提供することができる。本開示の撥液性構造体は、水分のみならず、油分やO/W型エマルション等に対しても、長期に亘り優れた撥液性を発現することができる。また、本開示によれば、物品と接する側に上記撥液性構造体を有する包装材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示に係る撥液性構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本開示に係る撥液性構造体の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本開示に係る撥液性構造体の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、撥液性構造体に対する乳液の浸漬イメージを示す図である。
【
図5】
図5は、Smr1及びSmr2の概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0018】
<撥液性構造体>
図1は、本開示に係る撥液性構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図1に示されるように、撥液性構造体10Aは、被処理面1a(撥液性を付与すべき表面)を有する基材1と、被処理面1a上に形成された撥液層3Aとを備える。
【0019】
(基材)
基材1は、撥液性を付与すべき表面を有し且つ支持体となるものであれば特に制限はなく、例えば、フィルム状(厚さ:10~200μm程度)であっても、プレート状(厚さ:1~10mm程度)であってもよい。フィルム状の基材としては、例えば、紙、樹脂フィルム、金属箔等が挙げられる。これらの材料からなるフィルム包装材の内面を被処理面1aとし、これに撥液層3を形成することで、内容物が付着しにくい包装袋を得ることができる。プレート状の基材としては、例えば、紙、樹脂、金属、ガラス等が挙げられる。これらの材料を成形してなる容器の内面を被処理面1aとし、これに撥液層3を形成することで、内容物が付着しにくい容器を得ることができる。
【0020】
紙としては、上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、模造紙、クラフト紙等が挙げられる。樹脂としては、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、セルロースアセテート、セロファン樹脂等が挙げられる。金属としては、例えばアルミ、ニッケル等が挙げられる。
【0021】
基材1がフィルム状である場合、基材1は撥液層3と熱融着性を有することが好ましい。また、後述するように基材1と撥液層3との間に下地層が介在する場合には、基材1は下地層と熱融着性を有することが好ましい。基材1の融点は170℃以下であることが好ましい。これにより、ヒートシールによって包装袋を形成する際、基材1と撥液層3との密着性がより強固になるため、ヒートシール性がより向上する。このような観点から、基材1の融点は150℃以下であることがより好ましい。基材1の融点は示差走査熱量分析により測定することが可能である。
【0022】
(撥液層)
撥液層3Aは撥液性を有する層であり、第一フィラー5f及びバインダ樹脂5bを有する。撥液層3Aは基材1の表面の一部又は全部を覆うように形成されている。撥液性とは、撥水性及び撥油性の両特性を包含する概念であり、具体的には、液体状、半固体状、もしくはゲル状の水性又は油性材料に対し撥液する特性である。水性又は油性材料としては、水、油(サラダ油等)、ヨーグルト、カレー、生クリーム、ゼリー、プリン、シロップ、お粥、スープ等の食品、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス等の洗剤、ハンドクリーム、乳液等の化粧品、医薬品、化学品などが挙げられる。これらが直接接するように、撥液性構造体10において、撥液層3Aが最内層又は最外層をなしている。本実施形態に係る撥液層は、水のみならず、油分、O/W型エマルション(乳液、牛乳、ヴィネグレットソース、オランデーズソース、ブイヤベース、木工用接着剤、アクリル絵の具)等に対し長期に亘り撥液性(撥液耐久性)を維持することができる。
【0023】
撥液層3Aは、
図1に示すように、第一フィラー5fを含有する。第一フィラー5fは、例えば、球状であり、その平均一次粒子径は、3~1000nmであることが好ましく、5~100nm又は5~20nmであってもよい。第一フィラー5fの平均一次粒子径が3nm以上であることで、第一フィラーがフッ素含有樹脂に埋もれることなく、微細な凹凸を形成し易い傾向があり、1000nm以下であることで、フッ素含有樹脂と第一フィラーとで緻密な凹凸を形成し易い傾向がある。第一フィラーの平均一次粒子径は、SEM又はTEMの視野内における任意の計10個の第一フィラーについて長径と短径の長さを測定し、その和を2で割ることで得られる値の平均値を意味する。
【0024】
第一フィラー5fを構成する材料としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、雲母、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、スメクタイト、ゼオライト、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0025】
第一フィラー5fは、複数の一次粒子が数珠状に連結した構造を有する数珠状フィラーであってよい。数珠状フィラーが有する数珠状構造は、球状の粒子が数珠状に連結した構造に加えて、球状の粒子が鎖状に連結した構造を分岐構造として有していてよい。数珠状構造は、その立体的な構造により撥液層に柔軟性を付与し易い。数珠状フィラーは、パールネックレス型フィラーということもできる。
【0026】
数珠状フィラーの平均粒子径(平均二次粒子径)は、50~1000nmであることが好ましく、100~400nm又は100~200nmであってもよい。数珠状フィラーの平均粒子径が50nm以上であることで数珠状フィラーが有する柔軟性を撥液層に付与し易い傾向があり、1000nm以下であることで数珠状フィラーが微細な凹凸を形成し易い傾向がある。数珠状フィラーの平均粒子径は、TEMの視野内における任意の計10個の数珠状フィラーについて長径と短径の長さを測定し、その和を2で割ることで得られる値の平均値を意味する。
【0027】
撥液層3Aにおける第一フィラー5fの含有量は、撥液層の全量を基準として例えば、20~80質量%であってもよく、30~75質量%、又は、30~50質量%であってもよい。第一フィラー5fの含有量が上記範囲内であると、第一フィラー5fの脱落を抑制し易くなると共に、充分な凹凸を撥液層3Aに付与することができるため、第一フィラー5fに起因する優れた撥液性が得られ易い。
【0028】
第一フィラー5fとしては市販品を使用することができる。シリカフィラーの市販品として、例えば、日本アエロジル製のアエロジル(AEROSIL50、90G、130、200、300、380等)、株式会社トクヤマ製のレオロシール(QS-10、20、40)、信越シリコーン製のシリカ球状微粒子QSG、日産化学株式会社製のスノーテックスシリーズ(スノーテックスST-30、PS-S-PO、ST-XS等)、富士シリシア化学株式会社製の530、550などが挙げられる。酸化アルミニウムフィラーの市販品として、例えば、エボニックデグサ社製のAEROXIDE Aluが挙げられる。酸化チタンフィラーの市販品として、例えば、エボニックデグサ社製のAEROXIDE TiO2が挙げられる。アクリル樹脂フィラーの市販品として、例えば、株式会社日本触媒製のエポスターが挙げられる。また、数珠状フィラーの市販品として、例えば、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製のHDKシリーズ(HDK V15、N20、T30、T40等)、日産化学株式会社製のスノーテックスシリーズ(スノーテックスPS-S-PO等)が挙げられる。
【0029】
図2は、本開示に係る撥液性構造体の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
図2に示されるように、撥液性構造体10Bは、被処理面1aを有する基材1と、被処理面1a上に形成された撥液層3Bとを備える。撥液層3Bは、
図2に示すように、第一フィラー5f及びバインダ樹脂5bに加えて、さらに第二フィラー6fを含んでよい。第二フィラー6fは鱗片状(板状)であり、鱗片状(板状)フィラーということができる。フィラーが第二フィラー6fを含む場合、撥液層3Bは第一フィラー5f及び第二フィラー6fの凝集体Fを含んでいてもよい。第一フィラー5f、第二フィラー6f及び凝集体Fによって、撥液層3Bの表面に凹凸が形成される。凝集体Fは、第一フィラー5f及び第二フィラー6fと、これを覆っているバインダ樹脂5bとによって構成されている。このような構成を有する撥液層3Bは、その表面に凹凸がより効率的に形成され、長期に亘り撥液性(撥油性)を維持し易くなる。
【0030】
第二フィラー6fは、その一次粒子、二次凝集体又は三次凝集体の状態で存在し得る。二次凝集体は、第二フィラー6fの一次粒子が平行的に配向して複数枚重なり合うことによって形成されるものである。第二フィラー6fの三次凝集体は、一次粒子や二次凝集体が不規則に重なり合うことにより、各方向に結晶成長したものである。
【0031】
第二フィラー6fの平均粒子径は、0.1~10μmであることが好ましく、0.1~6μmであってもよく、0.1~4μm又は4~6μmであってもよい。第二フィラー6fの平均粒子径が0.1μm以上であることで凝集体Fが形成されやすく、他方、10μm以下であることで、第二フィラー6fの複雑且つ微細な形状に由来する撥液性が十分に発現される。第二フィラーの平均粒子径は、SEMの視野内における任意の計10個の第二フィラーについて長径と短径の長さを測定し、その和を2で割ることで得られる値の平均値を意味する。
【0032】
第二フィラー6fを構成する材料としては、シリカ、雲母、酸化アルミニウム、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、スメクタイト、ゼオライト、窒化ホウ素等が挙げられる。鱗片状シリカの市販品として、例えば、AGCエスアイテック株式会社製のサンラブリーが挙げられる。鱗片状雲母の市販品として、例えば、株式会社レプコ製のレプコマイカが挙げられる。鱗片状酸化アルミニウムの市販品として、例えば、河合石灰工業株式会社製のセラシュールが挙げられる。鱗片状窒化ホウ素の市販品として、例えば、河合石灰工業株式会社製のショウビーエヌが挙げられる。なお、第二フィラー6fは、疎水処理や撥液性処理が施されていないものであってよい。
【0033】
撥液層3Bにおける第二フィラー6fの含有量は、第一フィラー5fの質量100質量部に対し、例えば、5~100質量部であってもよく、5~75質量部、又は、5~50質量部であってもよい。第二フィラー6fの含有量が上記範囲内であると、第二フィラー6fの一次粒子が過度に積層(凝集)することに起因して過度に大きい凝集体が形成されることを抑制し易くなるとともに、第一フィラー5f及び第二フィラー6fに起因する優れた撥液性が得られ易い。
【0034】
複数の凝集体Fは、撥液層3Bにおいて互いに離間して配置されていてもよい。つまり、複数の凝集体Fが島状に配置されていてもよい。あるいは、多数の凝集体Fが連続的に形成されており、撥液層3Bにおいて凝集体Fからなる多孔質な層が形成されていてもよい。また、凝集体Fは第二フィラー6fの複雑且つ微細な形状に由来する複雑な形状を有している。すなわち、凝集体Fは、複数の第二フィラー6fの一次粒子(例えば平均一次粒子径0.1~6μmの粒子)がランダムに並んだ状態で凝集していることで、ひだ状の表面と、ひだによって形成される空隙部とを有する。本発明者らの検討によると、一つの凝集体Fのサイズ((長径+短径)/2)が4μm以上であれば、撥液層の撥液性向上に凝集体Fが大きく寄与する。
【0035】
バインダ樹脂5bは、少なくともフッ素含有樹脂を含む。バインダ樹脂5bは更に、熱可塑性樹脂及び架橋剤の一方又は両方を含んでもよい。バインダ樹脂5bが架橋剤を含む場合、撥液層3においてバインダ樹脂5bは、架橋剤を介してフッ素含有樹脂や熱可塑性樹脂が架橋した架橋構造を有していてもよい。
【0036】
フッ素含有樹脂としては特に制限されず、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル、パーフルオロポリエーテル等の構造を有する樹脂を適宜用いることができる。フッ素含有樹脂は、撥液層3の撥液性をより向上させる観点から、フッ素-アクリル共重合体を含むことが好ましい。フッ素-アクリル共重合体とは、含フッ素単量体とアクリル単量体とからなる共重合体である。フッ素-アクリル共重合体は、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。フッ素-アクリル共重合体を用いることで、撥液層3の耐侯性、耐水性、耐薬品性及び造膜性についても向上させることができる。
【0037】
X線光電子分光法(XPS)により得られる、撥液層表面のフッ素原子濃度は35~50atom%とすることができ、40~45atom%であってもよい。フッ素原子濃度が下限以上であることにより、撥液層の表面張力の低エネルギー化を行い易くなり、撥液耐久性を向上させ易い。
【0038】
XPSによる、撥液層表面を含む表層の厚み方向における組成分析は、装置として例えば、アルバックファイ社製のQuantera-SXMを用い、以下の分析条件にて行うことができる。
(分析条件)
X線源:Al Kα
X線のビームサイズ:約20μmφ
測定エリア:約20μmφ
検出角:試料面から45度
スパッタ用イオン:Ar
スパッタ用イオンの加速電圧:1kV
スパッタ用イオンのラスターサイズ:3×3mm2
測定ピーク:F1s、C1s、S2s
No. of Sweeps:3(F1s)、3(C1s)、32(S2s)
Pass Energy:224eV
Step Size:0.4eV
Ratio:2(F1s)、2(C1s)、2(S2s)
解析ソフト:MultiPak
【0039】
フッ素含有樹脂としては、市販のフッ素系塗料を使用することができる。市販のフッ素系塗料として、例えば、旭硝子株式会社製のアサヒガード、AGCセイミケミカル株式会社製のエスエフコート、株式会社ネオス製のフタージェント、ソルベイ社製のフルオロリンク、ダイキン工業株式会社製のユニダイン、第一工業製薬株式会社製のH-3539シリーズ、日油株式会社製のモディパーFシリーズ等が挙げられる。
【0040】
フッ素含有樹脂を用いることで、特に油分や、O/W型エマルションに対する撥液性を向上させることができる。この観点から、フッ素含有樹脂は、ピロリドン又はその誘導体(ピロリドン類)に由来する構造単位を含まないものであってもよい。ここで、ピロリドン類としては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3,3-ジメチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。ピロリドン類に由来する構造単位を含まないフッ素含有樹脂としては、例えば、旭硝子株式会社製のアサヒガードAG-E060、AG-E070、AG-E082、AG-E090、ダイキン工業株式会社製のユニダインTG-8111が挙げられる。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ホモ、ブロック、あるいはランダムポリプロピレン、プロピレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。例えば、エチレン-αオレフィン共重合体であれば、プロピレンとα-オレフィンとのブロック共重合体、ランダム共重合体等ということができる。αオレフィン成分としては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンなどを例示することができる。
【0042】
熱可塑性樹脂の融点は、例えば、50~135℃である。融点が135℃以下であることにより、フッ素含有樹脂を撥液層の表面にブリードアウトさせやすい。フッ素含有樹脂が表面にブリードアウトすることで、表面自由エネルギーを低下させることができ、これにより、撥液層の表面に優れた撥液性を発現させることができる。なお、フッ素含有樹脂のブリードアウト促進には高温で乾燥させる方法があるが、熱可塑性樹脂の融点が高過ぎる場合は相応の高温が必要となるため、基材1に変形等の支障が生じる虞がある。一方、融点が50℃以上であることで、ある程度の結晶性が確保されるため軟化によるブロッキングの発生が抑制される。このような観点から、熱可塑性樹脂の融点は60~120℃であることがより好ましい。
【0043】
熱可塑性樹脂は、所定の酸で変性された変性ポリオレフィンであってもよい。変性ポリオレフィンは、例えば不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等から導かれる不飽和カルボン酸誘導体成分で、ポリオレフィンをグラフト変性することで得られる。また、ポリオレフィンとして、水酸基変性ポリオレフィンやアクリル変性ポリオレフィン等の変性ポリオレフィンを使用することもできる。変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば日本製紙株式会社製のアウローレン、住友精化株式会社製のザイクセン、セポルジョン、三井化学株式会社製のユニストール、ユニチカ株式会社製のアローベース等が挙げられる。
【0044】
上記変性ポリオレフィンは官能基が導入されているため、架橋剤と反応して架橋構造を形成しやすいという観点からも好ましい。上記官能基としては、カルボキシル基、水酸基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基等が挙げられる。これらの官能基を有する変性ポリオレフィンを後述する架橋剤と共に用いることで、撥液層3には熱可塑性樹脂、フッ素含有樹脂及び架橋剤からなる架橋構造が形成され、より優れた耐久性を撥液層3に付与することができる。
【0045】
架橋剤は、フッ素含有樹脂と反応する官能基を有するものであることが好ましい。このような架橋剤としては、例えば、アジリジン基、イソシアネート基、カルボジイミド基、アミノ基等の官能基を有する架橋剤を用いることができる。市販の架橋剤としては、例えば、株式会社日本触媒製のケミタイト、三井化学株式会社製のタケネート、日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト、明成化学工業株式会社製のメイカネート、サイテックインダストリーズ社製のサイメル(Cymel)が挙げられる。
【0046】
なお、フッ素含有樹脂は、水に分散させた水分散体として用いられることが一般的である。そのためフッ素含有樹脂の多くは、水との親和性を高めるために水酸基やアミノ基等の親水性基を有する。フッ素含有樹脂と反応する官能基を有する架橋剤を用いることで、フッ素含有樹脂が有するこれらの官能基は、架橋剤が有する官能基と反応し、撥液層に架橋構造が形成されることとなる。また、フッ素含有樹脂が有するこれらの官能基は、架橋剤と反応することで減少するため、撥液層に残存する官能基が低減される。そのため、撥液層が液状物と長期間接触した場合でも撥液性の低下を抑制でき、優れた撥液性を長期間維持することができる。なお、フッ素含有樹脂を水以外の溶剤に分散させた分散体として用いる場合、フッ素含有樹脂は使用される溶剤との親和性を高めるための構造(例えば、炭化水素鎖等)を有していてもよい。
【0047】
バインダ樹脂5bにおけるフッ素含有樹脂の含有量(バインダ樹脂5bの質量基準)は、例えば、5質量%以上であり、15質量%以上又は50質量%以上であってもよい。バインダ樹脂5bにおけるフッ素含有樹脂の含有量は100質量%であってもよいが、バインダ樹脂5bが熱可塑性樹脂や架橋剤を含む場合、フッ素含有樹脂の含有量は99質量%以下であってもよく、75質量%以下であってもよい。バインダ樹脂5bにおけるフッ素含有樹脂の含有量が5質量%以上であると、撥液層が優れた撥液性を発現しやすく、他方、99質量%以下であると、熱可塑性樹脂や架橋剤の含有量を十分に確保でき、撥液層からフィラーが脱落することを十分に抑制することができるとともに、撥液層の耐久性を十分に高めることができる。
【0048】
バインダ樹脂5bにおける熱可塑性樹脂の含有量(バインダ樹脂5bの質量基準)は、例えば、5~90質量%であり、10~50質量%又は20~30質量%であってもよい。バインダ樹脂5bにおける熱可塑性樹脂の含有量が5質量%以上であると、撥液層からフィラーが脱落することを十分に抑制することができ、他方、90質量%以下であると、フッ素含有樹脂や架橋剤の含有量を十分に確保でき、撥液層が優れた撥液性及び耐久性を発現しやすい。
【0049】
バインダ樹脂5bに含まれる架橋剤の質量WCと、バインダ樹脂5bに含まれるフッ素含有樹脂の質量WJとの比WC/WJは、例えば、0.01~0.5であり、0.05~0.3又は0.1~0.2であってもよい。上記比WC/WJが0.01以上であると、撥液層からフィラーが脱落することを十分に抑制することができるとともに、撥液層の耐久性を十分に高めることができる。他方、上記比WC/WJが0.5以下であると、フッ素含有樹脂の含有量を十分に確保でき、フッ素含有樹脂を撥液層の表面に十分にブリードアウトさせることができるため、良好な撥液性を発現させることができる。
【0050】
撥液層に含まれるバインダ樹脂5bの質量WBとフィラーの質量WSとの比WB/WSは、0.1~5であってもよく、0.2~2又は0.3~1であってもよい。ここで、バインダ樹脂5bの質量WBは、フッ素含有樹脂の質量WJ、並びに場合により含まれる熱可塑性樹脂の質量WP、及び架橋剤の質量WCの合計の質量に相当する。上記比WB/WSが上記範囲内であることで、フィラーの全体がバインダ樹脂5bで十分に覆われていながらも、撥液層の表面にフィラーによる凹凸構造が形成され易い。これにより、フィラーが撥液層から脱落することが抑制されるとともに、フィラーに起因する撥液性及びバインダ樹脂5bに含まれるフッ素含有樹脂による撥液性の両方を享受することができる。なお、撥液層3を燃焼させてもフィラーの質量WSは実質的に変化しないため、上記比WB/WSの値は、撥液層の燃焼による質量の変化を測定し、その測定値から算出することができる。
【0051】
撥液層の単位面積当たりの質量は、例えば、0.3~10.0g/m2であり、1.0~3.0g/m2又は1.5~2.5g/m2であってもよい。撥液層の単位面積当たりの質量が0.3g/m2以上であることで、フッ素含有樹脂による優れた撥液性を達成することができる。他方、撥液層の単位面積当たりの質量が10.0g/m2以下であることで、凹凸構造とフッ素含有樹脂による撥液効果とを効率良く得ることができる。
【0052】
撥液層は、撥液機能を損なわない程度の範囲で、必要に応じてその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等が挙げられる。
【0053】
撥液層は、特に油分や、O/W型エマルションに対する撥液性をより向上させる観点から、ピロリドン類に由来する構造単位を含まないものであってもよい。すなわち、ピロリドン類に由来する構造単位は、フッ素含有樹脂に含まれないだけでなく、それ以外の撥液層を構成する成分のいずれにも含まれなくてもよい。撥液層におけるピロリドン類に由来する構造単位の有無は、赤外分光法や核磁気共鳴分光法、熱分解GC-MSなどにより判断することができる。
【0054】
上記実施形態においては、基材1の被処理面1a上に撥液層が直接接して形成されている場合を例示したが、基材1の被処理面1a上に下地層が形成されており、当該下地層上に撥液層が形成されていてもよい。下地層は基材1と撥液層との間に配置される層であり、基材1の表面(被処理面1a)の一部又は全部を覆うように形成することができる。下地層を基材1と撥液層との間に介在させることで、基材1と撥液層との密着性を高めることができる。また、下地層を設けることで、撥液性構造体の撥液性をより向上させることができる。
【0055】
図3は、本開示に係る撥液性構造体の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
図3に示されるように、撥液性構造体10Cは、被処理面1aを有する基材1と、被処理面1a上に形成された下地層2と、下地層2上に撥液層3Cとを備える。下地層は、熱可塑性樹脂7b及び第三フィラー7fを含む。撥液層3Cは、
図1に示すような、第一フィラー5f及びバインダ樹脂5bを含むものであってよく、
図2に示すような、第一フィラー5f及びバインダ樹脂5bに加えて、さらに第二フィラー6fを含むものであってよい。
図3では一例として、前者の態様を示している。撥液層3C下部に下地層2を備えることで、その表面に凹凸がより効率的に形成され、長期に亘り撥液性を維持し易くなる。
【0056】
(下地層)
下地層は、撥液層に用いられる熱可塑性樹脂と同様の樹脂から形成することができる。熱可塑性樹脂の具体的態様は上述のとおりである。
【0057】
下地層には、平均一次粒子径が5~60μmである第三フィラーが含まれていてもよい。第三フィラーの材質としては、シリカ、タルク、雲母、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、スメクタイト、ゼオライト、酸化アルミニウム等の無機材料や、シリコーン、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン)等の樹脂材料が挙げられる。第三フィラーを含有させることで、下地層の表面に粗い凹凸を形成することができ、その上に撥液層を設けることで、撥液性構造体により粗く且つ複雑な凹凸を形成することができる。その結果、撥液性を一層向上させることができる。この観点から、第三フィラーの平均一次粒子径は10~50μmであってよく、20~50μmであってよい。
【0058】
第三フィラーとしては、例えばAGCエスアイテック株式会社製のサンスフェア(シリカ)、信越化学工業株式会社製のシリコーンパウダーKMPシリーズ(シリコーン)、アイカ工業株式会社製のガンツパール(アクリル樹脂)、根上工業株式会社製のアートパール(アクリル樹脂)、根上工業株式会社製のアートパール(ウレタン樹脂)、住友精化株式会社製のフロービーズ(ポリエチレン樹脂)、住友精化株式会社製のフロービーズ(ポリプロピレン樹脂)、三井化学株式会社製のミペロン(超高分子量ポリエチレン)等が挙げられる。
【0059】
下地層により、撥液性構造体により粗大な凹凸を付与することができる。粗大な凹凸は、撥液層と内容物とを点接触にし易くするため、撥液性の低下をより抑制することができる。撥液性構造体の表面粗さSaは、点接触の効果を充分に得易い点、及び凹部内に内容物が取り込まれ難い点から、1.5~15.0μmであってよく、2.0~14.0μmであってよく、5.0~10.0μmであってよい。
【0060】
下地層に含まれる熱可塑性樹脂の質量WBUと第三フィラーの質量WSUとの比WBU/WSUは、0.1~1であってもよく、0.2~0.5であってもよい。上記比WBU/WSUが上記範囲内であることで、第三フィラーの脱離が抑制されながらも、第三フィラーによる粗大な凹凸構造が形成され易い。比WBU/WSUの値は、塗料の仕込み量によって容易に調整できる。比WBU/WSUの値は、下地層の燃焼による質量の変化を測定し、その測定値から算出することもできる。
【0061】
下地層の単位面積当たりの質量は、例えば、1.0~20.0g/m2であり、3.0~10.0g/m2であってもよい。下地層の単位面積当たりの質量が1.0g/m2以上であることで、優れた撥液性を達成し易くなる。他方、下地層の単位面積当たりの質量が20.0g/m2以下であることで、点接触の効果を充分に得易くなる。
【0062】
(撥液性構造体の表面性状)
三次元表面粗さ解析により得られる、撥液層表面の突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2を、撥液層表面の突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1で除した値Smr2/Smr1は5以下である。これにより、優れた撥液耐久性を得ることができる。
図4は、撥液性構造体に対する乳液の浸漬イメージを示す図である。同図(a)はSmr2/Smr1が5超の場合の、同図(b)はSmr2/Smr1が5以下の場合の凹凸断面形状と、それぞれの凹凸断面形状に対する、推察される乳液の浸漬イメージを示す。同図(a)では、乳液Lが撥液性構造体10の表面の凹部に入り込んでいる。同図(b)では、乳液Lが撥液性構造体10の表面の凹部に入り込んでいない。乳液のようにレベリング性が高く且つ粘度が高い液であっても、Smr2/Smr1が5以下であることで凹部に乳液が入り込み難く、乳液が流れ落ち易くなるものと推察される。これにより、優れた撥液耐久性が担保されるものと考えられる。
【0063】
Smr2/Smr1は、4.5以下であってよく、4以下であってよく、3.5以下であってよい。また、Smr2/Smr1の下限は1.67とすることができ、2以上であってよい。凸部の形状の観点から、Smr1は20~60とすることができ、30~60であってよい。
【0064】
Smr1、Smr2及びSmr2/Smr1の値の調整は、例えば、粒子の分散度合いを調整すること等により行うことができる。例えば、ロッキングシェーカー(例えばセイワ技研社製)を使用したガラスビーズ分散や通常のスターラーを使用した強撹拌により、Smr2/Smr1の値を大きくすることができ、一方通常のスターラーを使用した低撹拌により、Smr2/Smr1の値を小さくすることができる。
【0065】
負荷面積率Smr1及びSmr2は、JIS B0681-2に規定されるパラメータである。
図5は、Smr1及びSmr2の概念を示す図である。縦軸は表面凹凸高さであり、横軸は各高さで表面凹凸を切った場合の面積の総和(負荷面積率)である。面の負荷曲線とは、負荷面積率が0%から100%となる高さを表した曲線をいう。同図に示されるように、粗さ曲線についての負荷曲線の中央部分において、負荷面積率Smrの差ΔSmrを40%にして引いた負荷曲線の割線が、最も緩い傾斜となる直線を等価直線とし、等価直線が負荷面積率0%と100%の位置で縦軸と交わる二つの高さ位置の間をコア部(図中S
k)としたときに、Smr1は、負荷曲線が突出山部とコア部との境界線と交わる点における負荷面積率をいう。Smr2は、同様に、負荷曲線が突出谷部とコア部との境界線と交わる点における負荷面積率をいう。
【0066】
<撥液性構造体の製造方法>
撥液性構造体の製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、撥液層形成用の塗液を準備する工程と、基材の被処理面上に塗液の塗膜を形成する工程と、塗膜を乾燥及び硬化させることによって撥液層を形成する工程とを備える。以下、各工程について説明する。
【0067】
まず、フィラーと、フッ素含有樹脂と、溶媒と、必要に応じて熱可塑性樹脂と、必要に応じて架橋剤と、を含む塗液を調製する。溶剤としては水、アルコール、有機溶媒等が挙げられる。塗液中の各成分の配合量(固形分)は、撥液層における各成分の含有量が上述のとおりになるように適宜調整すればよい。この際、上記Smr2/Smr1が5以下となるように粒子の分散度合い等を調整する。なお、熱可塑性樹脂は、水、アルコール等に分散したエマルジョンの形態であってもよい。このようなポリオレフィンエマルジョンは、対応するモノマーの重合反応等により生成したポリマーを乳化する方法で調製されたものでもよく、あるいは対応するモノマーを乳化重合することにより調製されたものでもよい。
【0068】
得られた塗液を基材上に塗布する。塗布方法としては公知の方法が特に制限なく使用可能であり、浸漬法(ディッピング法);スプレー、コーター、印刷機、刷毛等を用いる方法が挙げられる。また、これらの方法に用いられるコーター及び印刷機の種類並びにそれらの塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。塗液の塗布量は、上述の撥液層の単位面積当たりの質量が得られるように適宜調整することができる。
【0069】
基材上に形成された塗膜を加熱により乾燥及び硬化させる。これにより、基材と、基材上に設けられた撥液層とを備える撥液性構造体を得ることができる。塗液が架橋剤を含む場合、撥液層には、フッ素含有樹脂と必要に応じて用いられる熱可塑性樹脂と架橋剤とからなる架橋構造が形成される。加熱条件は、溶剤を揮発させることができ且つ架橋反応を生じさせることができれば制限はないが、例えば60~100℃で0.5~5分間とすることができる。
【0070】
撥液性構造体が下地層をさらに備える場合は、本実施形態に係る製造方法は、下地層形成用の塗液及び撥液層形成用の塗液を準備する工程と、基材の被処理面上に下地層形成用の塗液の塗膜を形成する工程と、塗膜を乾燥及び硬化させることによって下地層を形成する工程と、撥液層形成用の塗液の塗膜を形成する工程と、塗膜を乾燥及び硬化させることによって撥液層を形成する工程とを備える。下地層形成用の塗液の調製及び塗布、並びに塗膜の乾燥硬化については、下地層形成用の塗液の調製及び塗布、並びに塗膜の乾燥硬化の記載に準じて実施することができる。
【0071】
<包装材>
本実施形態に係る包装材は、物品と接する側に、撥液性構造体を有する。本実施形態に係る包装材は、水分を含む物品(例えば、水、飲料、ヨーグルト)、油分を含む物品(例えば、サラダ油、カレー、生クリーム)、O/W型エマルションを含む物品に適用することができる。包装材の具体的態様としては、カレーやパスタソース用のレトルトパウチ、ヨーグルトやプリン用の容器及び蓋材、乳液、ハンドソープ、シャンプー、リンス等のトイレタリー用の容器又はこれらの詰め替え用パウチ、歯磨きや医薬品用のチューブなどが挙げられる。
【実施例0072】
本開示を以下の実験例により更に詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0073】
実験例に係る撥液性構造体を作製するため、以下の材料を準備した。
(基材)
・ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム
(フッ素含有樹脂)
・アサヒガードAG-E060(商品名、旭硝子株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有しないフッ素-アクリル共重合体、カチオン系の水系材料)
・アサヒガードAG-E070(商品名、旭硝子株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有しないフッ素-アクリル共重合体、カチオン系の水系材料)
・アサヒガードAG-E082(商品名、旭硝子株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有しないフッ素-アクリル共重合体、カチオン系の水系材料)
・アサヒガードAG-E090(商品名、旭硝子株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有しないフッ素-アクリル共重合体、アニオン系の水系材料)
・ユニダインTG-8111(商品名、ダイキン工業株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有しないフッ素-アクリル共重合体、カチオンの水系材料)
・ユニダインTG-8811(商品名、ダイキン工業株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有するフッ素-アクリル共重合体、カチオンの水系材料)
(第一フィラー)
・AEROSIL50(商品名、日本アエロジル株式会社製、真球状フィラー)
・AEROSIL200(商品名、日本アエロジル株式会社製、真球状フィラー)
・AEROSIL300(商品名、日本アエロジル株式会社製、真球状フィラー)
・AEROSIL380(商品名、日本アエロジル株式会社製、真球状フィラー)
・スノーテックスST-30(商品名、日産化学株式会社製、真球状フィラー)
・HDK V15(商品名、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、数珠状フィラー)
・HDK N20(商品名、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、数珠状フィラー)
・HDK T30(商品名、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、数珠状フィラー)
・HDK T40(商品名、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、数珠状フィラー)
(第二フィラー)
・サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、鱗片状フィラー、平均粒子径4~6μm)
・サンラブリーLFS(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、鱗片状フィラー、平均粒子径4~6μm)
・ショウビーエヌUHP-S2(商品名、昭和電工株式会社製、鱗片状フィラー、平均粒子径0.5~0.9μm)
・ショウビーエヌUHP-1K(商品名、昭和電工株式会社製、鱗片状フィラー、平均粒子径6~10μm)
(第三フィラー)
・アートパールSE-010T(商品名、根上工業株式会社製、架橋アクリル樹脂粒子、平均一次粒子径10μm)
・アートパールSE-020T(商品名、根上工業株式会社製、架橋アクリル樹脂粒子、平均一次粒子径20μm)
・アートパールSE-030T(商品名、根上工業株式会社製、架橋アクリル樹脂粒子、平均一次粒子径30μm)
・アートパールSE-050T(商品名、根上工業株式会社製、架橋アクリル樹脂粒子、平均一次粒子径50μm)
(熱可塑性樹脂)
・アウローレンAE-301(商品名、ユニチカ株式会社製、変性ポリオレフィン樹脂)
・ザイクセンAC(商品名、日本製紙株式会社製、変性ポリオレフィン樹脂)
・セポルジョンVA406N(商品名、住友精化株式会社製、変性ポリオレフィン樹脂)
・アローベースSB5230N(商品名、ユニチカ株式会社製、変性ポリオレフィン樹脂)
(溶媒)
・アルコール系溶媒(2-プロパノール)
【0074】
<撥液性構造体の作製(下地層無)>
撥液層の構成が表1~3に示すものとなるように、各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱して乾燥及び硬化させ、基材上に撥液層を形成した。撥液層の単位面積当たりの質量が1.8g/m2となるように塗布量を調整した。
【0075】
<撥液性構造体の作製(下地層有)>
下地層の構成が表1~3に示すものとなるように、各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して下地層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱して乾燥及び硬化させ、基材上に下地層を形成した。下地層の単位面積当たりの質量が6.0g/m2となるように塗布量を調整した。その後、下地層無の場合と同様にして、下地層上へ撥液層を形成した。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
<撥液性構造体の評価>
撥液性構造体について、以下の観点から評価を行った。評価結果を表4~6に示す。
【0080】
(表面性状評価)
JIS B0681-2 製品の幾何特性仕様(GPS) -表面性状:三次元- 第2部:用語、定義及び表面性状パラメータの4.1.7項目記載の、輪郭曲面の算術平均高さ(Sa)、4.4.4項目記載の、負荷面積率(Smr1及びSmr2)を測定した。試料に傾斜が見られた場合、表面補正(傾き補正)を行った後、3次元計測によりSaを測定した。撥液構造体の任意の3点を測定し、その平均値を表面粗さSaとし、また負荷面積率比Smr2/Smr1算出に用いた。
測定機器:オリンパス製 OLS4000(レーザー顕微鏡)
測定倍率:x20
測定モード:マルチレイヤー
【0081】
(撥液層表面のフッ素原子濃度)
X線光電子分光法(XPS)により、撥液層表面のフッ素原子濃度を測定した。装置としてアルバックファイ社製のQuantera-SXMを用い、以下の分析条件にて行った。
(分析条件)
X線源:Al Kα
X線のビームサイズ:約20μmφ
測定エリア:約20μmφ
検出角:試料面から45度
スパッタ用イオン:Ar
スパッタ用イオンの加速電圧:1kV
スパッタ用イオンのラスターサイズ:3×3mm2
測定ピーク:F1s、C1s、S2s
No. of Sweeps:3(F1s)、3(C1s)、32(S2s)
Pass Energy:224eV
Step Size:0.4eV
Ratio:2(F1s)、2(C1s)、2(S2s)
解析ソフト:MultiPak
【0082】
(撥液性評価)
撥液性構造体を撥液層側の面が上になるように平置きし、撥液層上に下記の液体をスポイトで2μL滴下した。その後、撥液性構造体を垂直に立て、そのまま30秒静置して、滴下した液体の状態を目視にて観察した。観察結果から下記の評価基準に基づいて撥液性を評価した。評価結果が2以上であれば実用上問題ないと言える。評価結果は3以上であることが望ましい。
[使用した液体]
純水
ヨーグルト:明治ブルガリアヨーグルトL81低糖(明治)
サラダ油:日清サラダ油(日清オイリオ)
カレー(常温):ボンカレーゴールド中辛(大塚食品)
乳液:豆乳イソフラボン含有の乳液(なめらか本舗)
[評価基準]
5:撥水層上から液滴が丸くなって転がり落ちた。又は剥がれ落ちた。
4:撥液層上から流れ落ち、流れた跡が残らなかった。
3:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が点状に残った。
2:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が線状に残った。
1:撥液層上に留まって動かなかった。又は撥液層中に染み込んだ。
【0083】
(耐久性評価)
撥液構造体を幅50mm、長さ100mmのサイズに切り出して試験片とした。撥液性評価で使用した液体のうち一部の液体を、それぞれ200mlビーカーに150ml注入し、上記試験片をその半分の長さまで液体に浸漬して、室温(25℃)で5日間放置した。放置後、試験片を液体から引き上げ、撥液構造体の浸漬部の撥液層が形成されている側の表面に対する各液体の付着状態を目視にて観察し、下記評価基準に基づいて耐久性(各液体と長期間接触した後の撥液性)を評価した。評価結果が2以上であれば実用上問題ないと言える。評価結果は3以上であることが望ましい。
[評価基準]
5:浸漬部に液体の付着が見られなかった。
4:浸漬部の10%未満の面積に液体の付着が見られた。
3:浸漬部の10%以上30%未満の面積に液体の付着が見られた。
2:浸漬部の30%以上70%未満の面積に液体の付着が見られた。
1:浸漬部の70%以上の面積に液体の付着が見られた。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
本開示の構成を具備する実験例1~57の撥液性構造体は、長期に亘り優れた撥液性を有することが分かった。
1…基材、1a…被処理面(撥液性を付与すべき表面)、2…下地層、3A,3B,3C…撥液層、5b…バインダ樹脂、5f…第一フィラー、6f…第二フィラー、7b…熱可塑性樹脂、7f…第三フィラー、F…凝集体、10,10A,10B,10C…撥液性構造体、L…乳液。