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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094544
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】オイル劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/30 20060101AFI20220620BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20220620BHJP
【FI】
G01N33/30
G01N21/3577
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207492
(22)【出願日】2020-12-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】591055975
【氏名又は名称】水戸工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】小野 五千郎
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB04
2G059CC14
2G059EE01
2G059EE11
2G059GG01
2G059GG07
2G059HH01
2G059JJ13
2G059JJ22
2G059KK02
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】オイル採取を伴わずに作業機械の動作中にリアルタイムにオイルの劣化を正確且つ早期に検知するオイル劣化診断装置を提供する。
【解決手段】油圧回路1を備えた建設機械のオイル劣化診断装置10は、建設機械の動作中に油圧回路1内を流動するオイルに向けて所定波数又は波長の測定光を照射する投光器11aと、オイルを透過した透過光を受光する受光器11bと、吸光度又は透過率を連続又は断続して測定する信号処理部11cと、吸光度又は透過率の変動に基づいて、オイルに含まれる酸化防止剤の減少又は過酸化物の増加を検知する診断部12と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧回路を備えた作業機械のオイル劣化診断装置であって、
前記作業機械の動作中に前記油圧回路内を流動するオイルに向けて測定光を照射し、前記オイルを透過した透過光を受光して吸光度又は透過率を連続又は断続して測定する測定部と、
前記吸光度が低下した又は透過率が増加した場合に、前記オイルに含まれる酸化防止剤の減少を検知する診断部と、
を備え、
前記測定光の波数又は波長は、前記オイルが酸化して前記酸化防止剤が消費された場合に、前記吸光度が低下する又は透過率が増加する特徴的な赤外吸収を示す値に設定されていることを特徴とするオイル劣化診断装置。
【請求項2】
前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤であり、
前記測定光の波数は、3650~3660cm-1に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のオイル劣化診断装置。
【請求項3】
前記酸化防止剤は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛であり、
前記測定光の波数は、950~1000cm-1に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のオイル劣化診断装置。
【請求項4】
油圧回路を備えた作業機械のオイル劣化診断装置であって、
前記作業機械の動作中に前記油圧回路内を流動するオイルに向けて測定光を照射し、前記オイルを透過した透過光を受光して吸光度又は透過率を連続又は断続して測定する測定部と、
前記吸光度が増加した又は透過率が減少した場合に、前記オイルに含まれる過酸化物の増加を検知する診断部と、
を備え、
前記測定光の波数又は波長は、前記オイルが酸化して前記過酸化物が生成された場合に、前記吸光度が増加する又は透過率が減少する特徴的な赤外吸収を示す値に設定されていることを特徴とするオイル劣化診断装置。
【請求項5】
前記測定光の波長は、1450~1480nm又は2050~2100nmに設定されていることを特徴とする請求項4に記載のオイル劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧回路を備えている作業機械のオイル劣化診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設機械や車両等の作業機械に用いられる潤滑油等のオイルは、使用時間が長くなるにつれて化学的に変質する等して劣化する。オイルが化学的に変質すると、オイルの潤滑性が損なわれ、油圧回路を構成する機器が円滑に作動しなくなり損傷する恐れがある。
【0003】
オイルが化学的に変質する主な原因は、オイルの酸化である。オイルの酸化は、酸素、湿度、水分、金属イオン又は光等によって促進されるところ、特に空気中の酸素がオイルの酸化に最も影響を与える。空気中に約21%含まれる酸素が、オイルと反応して酸化反応を起こす。
【0004】
オイルの酸化反応は、ラジカル連鎖反応(自動酸化反応)による。具体的には、まず、オイル中に過酸化物が生じる。その後、過酸化物が、アルコール、ケトンへ酸化され、さらにカルボン酸、オキシ酸、ヒドロキシ酸等の酸化物になる。これらは二次生成物としてエステル生成やオキシ酸の縮重合により分子量が増えて不溶解性物質となり、潤滑性を劣化させる原因となる。
【0005】
オイルの酸化速度は、アーレニウスの式に従って、K=Aexp(E/RT)[K:酸化速度定数、R:ガス定数、T:絶対温度、E:活性化エネルギー、A:頻度因子]で算出され、酸化速度定数Kは、1/Tの指数関数で増加する。一般的には、オイルの温度が10℃上昇すると、反応速度は2倍に上昇するといわれる。さらに、オイルを使用する機械や設備は、温度が高い傾向にあり、オイルの酸化が進行し易い環境である。
【0006】
特許文献1には、センサがオイル性状(温度、密度、粘度、誘電率)を測定し、測定値と閾値との差異から異常の程度を判別し、オイル採取を伴うオイル分析の必要性の有無を判断することが開示されている。
【0007】
特許文献2には、潤滑油の一部を抜き出して電位差滴定法または化学発光法を用いて過酸化物を測定することで潤滑油に含まれる過酸化物を測定する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-113819号公報
【特許文献2】特開2012-132686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の判断手法は、酸化物の増加に起因する誘電率の上昇や重合物の増加に起因する粘度の上昇を検出するものであるが、酸化物はラジカル連鎖反応がある程度進んでから生成されるため、オイルの酸化がかなり進んだタイミングでなければオイル分析の要否を判断できない、という問題がある。
【0010】
また、特許文献2記載の測定装置では、油を油圧回路から抜き出し、電位差滴定または化学発光法によって油の劣化を分析するため、動作中の作業機械に対してオイル採取を伴わずにリアルタイムで測定することはできない、という問題がある。
【0011】
動作中の作業機械に対して、オイル採取を伴わずにリアルタイムでオイルの劣化を分析する方法として、酸化物の極性に着目する誘電率測定が考えられる。しかしながら、オイルの誘電率は、酸化物の極性の他に、オイル中に含まれる異物(金属粉・水分等)も影響するため、正確な分析結果を得られない虞がある。
【0012】
そこで、オイル採取を伴わずに作業機械の動作中にリアルタイムにオイルの劣化を正確且つ早期に検知するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係るオイル劣化診断装置は、油圧回路を備えた作業機械のオイル劣化診断装置であって、前記作業機械の動作中に前記油圧回路内を流動するオイルに向けて測定光を照射し、前記オイルを透過した透過光を受光して吸光度又は透過率を連続又は断続して測定する測定部と、前記吸光度が増加した又は透過率が減少した場合に、前記オイルに含まれる酸化防止剤の減少を検知する診断部と、を備え、前記測定光の波数又は波長は、前記オイルが酸化して前記酸化防止剤が消費された場合に、前記吸光度が減少する又は透過率が増加する値に設定されている。
【0014】
この構成によれば、酸化防止剤の消費に起因する吸光度の減少又は透過率の増加を検知することにより、オイルの酸化を抑制する酸化防止剤の減少が検知可能なため、オイル採取を伴うことなくオイル劣化の予兆をリアルタイムで検知することができる。
【0015】
また、本発明に係るオイル劣化診断装置は、前記酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤であり、前記測定光の波数が、3650~3660cm-1に設定されていることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、オイルに含まれるフェノール系酸化防止剤の消費に起因する測定光の波数3650~3660cm-1における透過率の増加を検知することにより、オイル採取を伴うことなくオイル劣化の予兆をリアルタイムで検知することができる。
【0017】
また、本発明に係るオイル劣化診断装置は、前記酸化防止剤が、ジアルキルジチオリン酸亜鉛であり、前記測定光の波数が、950~1000cm-1に設定されていることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、オイルに含まれるジアルキルジチオリン酸亜鉛の消費に起因する測定光の波数950~1000cm-1における透過率の増加を検知することにより、オイル採取を伴うことなくオイル劣化の予兆をリアルタイムで予測することができる。
【0019】
また、上記目的を達成するために、本発明に係るオイル劣化診断装置は、油圧回路を備えた作業機械のオイル劣化診断装置であって、前記作業機械の動作中に前記油圧回路内を流動するオイルに向けて測定光を照射し、前記オイルを透過した透過光を受光して吸光度又は透過率を連続又は断続して測定する測定部と、前記吸光度が増加した又は透過率が減少した場合に、前記オイルに含まれる過酸化物の増加を検知する診断部と、を備え、前記測定光の波数又は波長は、前記オイルが酸化して前記過酸化物が生成された場合に、前記吸光度が増加する又は透過率が減少する値に設定されている。
【0020】
この構成によれば、オイル劣化の初期に生成される過酸化物に起因した吸光度の増加又は透過率の減少を検知することにより、オイル採取を伴うことなくオイルの劣化をリアルタイムで予測することができる。
【0021】
また、本発明に係るオイル劣化診断装置は、前記測定光の波長が、1450~1480nm又は2050~2100nmに設定されていることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、オイルに含まれる過酸化物の増加に伴って、透過光の波長1450~1480nm、2050~2100nmにおける吸光度が増加すると、診断部は、オイル採取を伴うことなくオイルの劣化をリアルタイムで予測することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、オイル採取を伴うことなく、オイルの劣化を正確且つ早期に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るオイル劣化診断装置を適用した作業機械の構成を示す模式図。
図2】オイル劣化診断装置の測定部の構成を示す模式図。
図3】オイルが自動酸化する経緯を示す模式図。
図4】一般的なオイルに関する波数と透過率との関係を示す赤外吸収スペクトルを示すグラフ。
図5】酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤)を含むオイルに関する波長又は波数と透過率との関係を示す赤外吸収スペクトルを示すグラフ。
図6】酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤)を含むオイルに関する波数と吸光度との時間的変化を示す赤外吸収スペクトルを示すグラフ。
図7】酸化防止剤(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)を含むオイルに関する波長又は波数と透過率との関係を示す赤外吸収スペクトルを示すグラフ。
図8】過酸化物を含むオイルに関する赤外吸収スペクトルを示すグラフ。
図9】過酸化物を含むオイルに関する赤外吸収スペクトルを示すグラフ。
図10】本発明の変形例に係るオイル劣化診断装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0026】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0027】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係るオイル劣化診断装置10を適用した油圧駆動式の建設機械の構成を示す模式図である。建設機械は、動力源として油圧回路1を備えている。油圧回路1は、オイルタンク2と、油圧ポンプ3と、方向制御バルブ4と、アクチュエータ5と、を備えている。オイルタンク2に貯留されたオイルは、油圧ポンプ3によって加圧され、方向制御バルブ4を介して所定のアクチュエータ5に供給される。アクチュエータ5は、図示しない動力源(モータやシリンダ等)に接続されている。また、アクチュエータ5から戻るオイルは、方向制御バルブ4を介してオイルタンク2に戻る。油圧回路1の各種構成は、図示しない制御装置によって動作制御されている。
【0029】
オイル劣化診断装置10は、油圧回路1内を流動するオイルの劣化具合を診断する。図2に示すように、オイル劣化診断装置10は、測定部11と、診断部12と、を備えている。
【0030】
測定部11は、投光器11aと、油圧回路1の各種機器を接続する管路6を挟んで投光器11aと対向するように設けられた受光器11bと、信号処理部11cと、を備えている赤外線センサである。
【0031】
投光器11aは、光源としてのレーザーダイオードを備えている。レーザーダイオードは、所定波数又は波長に設定された測定光を連続又は断続して発する。レーザーダイオードは、オイルタンク2の上流側の管路6を流れるオイルに向けて測定光を照射する。管路6の一部は、測定光を透過可能に透明に形成されている。なお、投光器11aは、オイルタンク2内のオイルに向けて測定光を照射するように配置されても構わない。
【0032】
受光器11bは、受光素子としてのフォトダイオードと、フォトダイオードが出力する信号を増幅するアンプと、を備えている。フォトダイオードは、管路6を透過した測定光(透過光)を受光する。フォトダイオードの検出波長は、レーザーダイオードの発する測定光に対応して設定されている。
【0033】
信号処理部11cは、受光器11bが受光した吸光度又は透過率を算出する。透過率は、測定光強度及び透過光強度の比であり、吸光度は、ランベルトベールの法則に基づいて、測定光強度及び透過光強度から算出される。
【0034】
診断部12は、オイルの劣化に起因したオイルに含まれる酸化防止剤の減少又は過酸化物の増加を予測する。診断部12の詳細については、後述する。
【0035】
次に、オイルの酸化反応について説明する。図3は、横軸をオイルの使用時間、縦軸をオイル内の生成物量に設定したものです。
【0036】
まず、図3に示すように、オイルは、劣化の進行具合に応じてオイル内の生成物量が経時的に変化する。油圧回路1内を流動するオイルは、高温になりがちで酸化反応が生じ易い。このような酸化反応は、ラジカル連鎖反応(自動酸化反応)によるものであり、まず、オイル内に過酸化物が指数関数的に急激に増加する(過酸化物生成期)。その後、過酸化物が酸化されてアルコール、ケトンへと酸化され、そして、カルボン酸、オキシ酸、ヒドロキシ酸等の酸化物になる(酸化物生成期)。これらは二次生成物として、エステル生成やオキシ酸の縮重合により分子量が増え、不溶解性物質となり、オイルの粘度が上昇して潤滑性が低下する(粘度上昇期)。
【0037】
また、新品のオイルには、フリーラジカルと反応してラジカル連鎖反応を抑制する酸化防止剤が含まれているが、酸化反応が進むにつれて酸化防止剤が消費されて減少し、その後に過酸化物が生じる(誘導期)。
【0038】
図4は、一般的な新品のオイル(鉱物油)の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。図4において、波数3000cm-1付近での透過率の低下は、C-H伸縮振動の吸収によるものであり、波数1500cm-1付近での透過率の低下は、C-H変角振動によるものである。なお、オイルが酸化して劣化すると、1700cm-1付近において透過率の低下が生じるが、これは、C=Oの吸収によるものである。
【0039】
図5は、酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤である場合の透過光の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。図6は、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤)における波数3650~3660cm-1付近における吸光度の時間的変化を示す赤外吸収スペクトルを示すグラフである。なお、図6中の実線は新品の状態を示し、破線はオイル酸化が進んだ状態(誘導期の中期)を示し、一点鎖線はさらにオイル酸化が進んだ状態(誘導期の末期)を示す。
【0040】
図5、6に示すように、フェノール系酸化防止剤を含むオイルを透過した透過光は、3650~3660cm-1付近において、酸化が進むにつれて特徴的な赤外吸収である吸光度のピークの低下が発生する。すなわち、波数3650~3660cm-1における吸光度の減少又は透過率の増加を検知することにより、オイルに含まれるフェノール系酸化防止剤の減少を検知できることが分かる。
【0041】
図7は、酸化防止剤がジアルキルジチオリン酸亜鉛である場合の透過光の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。図7に示すように、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含むオイルを透過した透過光は、新品状態では1000cm-1付近において透過率のピークが存在するが、酸化が進むにつれて特徴的な赤外吸収である透過率のピークが増加する。すなわち、波数1000cm-1における透過率の増加を検知することにより、オイルに含まれるジアルキルジチオリン酸亜鉛の減少を検知できることが分かる。
【0042】
図8は、過酸化物を含むオイルを透過した透過光の波長1400~1500nmにおける赤外吸収スペクトルを示すグラフである。また、図9は、過酸化物を含むオイルを透過した透過光の波長2000~2100nmにおける赤外吸収スペクトルを示すグラフである。図8、9において、実線は過酸化物生成期の初期(過酸化物の生成物量が比較的少量である状態)の場合を示し、破線は過酸化物生成期の末期(過酸化物の生成物量が略最大である状態)の場合を示す。
【0043】
図8、9に示すように、オイルの酸化反応が進行すると、波長1400~1500nm、2000~2100nm付近において、酸化が進むにつれて特徴的な赤外吸収である吸光度の急増が発生する。すなわち、これらの波長における吸光度の増加を検知することにより、過酸化物の増加を検知できることが分かる。
【0044】
次に、オイル劣化診断装置10の作用について説明する。
【0045】
まず、建設機械の動作中に投光器11aが測定光を所定間隔(例えば、数秒)おきに照射して、受光器11bが、管路6内を流動するオイルを透過した透過光を受光する。
【0046】
測定光の波数又は波長は、上述した酸化防止剤の消費に起因する特徴的な赤外吸収である吸光度の低下又は透光率の増加を示すものに設定される。すなわち、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤を用いている場合には、測定光の波数が、3650~3660cm-1に設定され、酸化防止剤としてジアルキルジチオリン酸亜鉛を用いている場合には、測定光の波数が、1000cm-1に設定される。
【0047】
また、測定光の波数又は波長は、上述した過酸化物の増加に起因する特徴的な赤外吸収である吸光度の増加又は透光率の増加を示す波長1400~1500nm、2000~2100nmに設定される。
【0048】
そして、投光器11aのレーザーダイオードの設置数は、1個でも2個以上であっても構わない。例えば、測定部11が、酸化防止剤の減少及び過酸化物の増加の検知を行う場合には、それぞれの波数又は波長に対応したレーザーダイオードが合計3台設けられる。なお、酸化防止剤の減少の検知及び過酸化物の増加の検知の両方を必ずしも行う必要はなく、何れか一方のみであっても構わない。
【0049】
次に、信号処理部11cは、受光器11bが受光した吸光度を取得する。また、信号処理部11cは、オイルの使用時間に沿って比較し易いように、取得した吸光度を時系列順に記憶する。
【0050】
次に、診断部12は、吸光度の経時的な変化に基づいて、オイル内の酸化防止剤の減少又は過酸化物の増加を検知する。
【0051】
具体的には、例えば、酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤である場合には、診断部12が、波数:3650~3660cm-1の吸光度が減少した場合に、オイルの劣化が進行して酸化防止剤が消費されて減少していると判定する。
【0052】
同様に、酸化防止剤がジアルキルジチオリン酸亜鉛である場合には、診断部12が、波数:1000cm-1の吸光度が減少した場合に、オイルの劣化が進行して酸化防止剤が消費されて減少していると判定する。
【0053】
なお、予め実験等で誘導期におけるオイルの使用時間と吸光度の減少との関係を示す関数を算出しておくことにより、診断部12が、信号処理部11cが逐次取得する吸光度から誘導期の残り時間を予測するように構成しても構わない。
【0054】
また、予め実験等で誘導期からオイル交換時期に移行するまでの時間を測定して記憶することにより、診断部12が、酸化防止剤の減少を検知し、オイルの交換時期を予測するように構成しても構わない。
【0055】
また、診断部12は、波長:1400~1500nm、2000~2100nmの吸光度が増加した場合には、オイルの劣化が進行して過酸化物が増加していると判定する。特に、オイルに含まれる過酸化物は、オイル酸化の初期に指数関数的に急増するため、過酸化物の増加を早期且つ確実に検知することができる。
【0056】
なお、予め実験等で過酸化物生成期におけるオイルの使用時間と吸光度の増加との関係を示す関数を算出しておくことにより、診断部12が、信号処理部11cが逐次取得する吸光度から過酸化物生成期の残り時間を予測するように構成しても構わない。
【0057】
また、予め実験等で過酸化物生成期からオイル交換時期に移行するまでの時間を測定しておくことにより、診断部12が、過酸化物の上昇を検知することで過酸化物生成期に達していると判定し、オイルの交換時期を予測するように構成しても構わない。
【0058】
このようにして、オイル劣化診断装置10は、オイル採取を伴うことなく、建設機械の動作中にオイルの劣化具合をリアルタイムに検知することができる。
【0059】
また、オイル劣化診断装置10は、分光光度計のような光吸収スペクトルを広範囲に亘って取得して吸収パターンから物質を識別するような煩雑な構成ではなく、酸化防止剤の減少や過酸化物の増加に応じた特徴的な赤外吸収(吸光度又は透光率のピーク変動)を示す所定の波数又は波長の測定光を用いて簡便にオイルの劣化を検知することができる。また、広範囲の光吸収スペクトルを取得する場合と比べて、所定の波数又は波長の測定光の発光強度をピンポイントに増大可能なため、精度良くオイルの劣化を検知することができる。
【0060】
次に、オイル劣化診断装置10の変形例について説明する。図10に示すように、測定部11は、投光器11aと、受光器11bと、信号処理部11cと、ハーフミラー11d、11eと、ミラー11f、11gと、を備えている。また、新品のオイルを充填したリファレンス容器13が、管路6に隣接して設けられている。
【0061】
ハーフミラー11dは、投光器11aから照射された測定光の光路を分岐する。ミラー11fは、ハーフミラー11dで反射した反射光をリファレンス容器13に向けて屈折させる。ミラー11gは、リファレンス容器13を透過した反射光をハーフミラー11eに向けて屈折させる。ハーフミラー11eは、投光器11aを透過した透過光と透過させるとともにリファレンス容器13を透過した透過光を受光器11bに向けて屈折させる。
【0062】
そして、信号処理部11cが、投光器11aを透過した透過光及びリファレンス容器13を透過した透過光について、吸光度をそれぞれ算出する。
【0063】
そして、診断部12が、投光器11aを透過した吸光度と、リファレンス容器13を透過した吸光度とを比較して、これらの差が所定閾値に達した場合には、波長又は波数に応じてオイル内の酸化防止剤の減少又は過酸化物の増加を検知することができる。
【0064】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【0065】
なお、波数と波長とは互いに逆数であるから、波数及び波長を換算して読み替え可能である。また、透過率と吸光度とは相関関係にあるため、上述した実施形態において透過率、吸光度は、適宜換算して読み替えても構わない。
【0066】
なお、本発明を適用する油圧駆動式の作業機械は、上述した建設機械に限定されるものではない。また、本発明に係るオイル劣化診断装置は、自動車のエンジンオイル等の劣化診断にも適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 :油圧回路
2 :オイルタンク
3 :油圧ポンプ
4 :方向制御バルブ
5 :アクチュエータ
6 :管路
10 :オイル劣化診断装置
11 :測定部
11a:投光器
11b:受光器
11c:信号処理部
11d、11e:ハーフミラー
11f、11g:ミラー
12 :診断部
13 :リファレンス容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2021-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧回路を備えた作業機械のオイル劣化診断装置であって、
前記作業機械の動作中に前記油圧回路内を流動するオイルに向けて測定光を照射し、前記オイルを透過した透過光を受光して吸光度又は透過率を連続又は断続して測定する測定部と、
前記吸光度が低下した又は透過率が増加した場合に、前記オイルに含まれる酸化防止剤の減少を検知する診断部と、
を備え、
前記測定光の波数又は波長は、前記オイルが酸化して前記酸化防止剤が消費された場合に、前記吸光度が低下する又は透過率が増加する特徴的な赤外吸収を示す値に限定して設定されていることを特徴とするオイル劣化診断装置。
【請求項2】
前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤であり、
前記測定光の波数は、3650~3660cm-1に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のオイル劣化診断装置。
【請求項3】
前記酸化防止剤は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛であり、
前記測定光の波数は、950~1000cm-1に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のオイル劣化診断装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係るオイル劣化診断装置は、油圧回路を備えた作業機械のオイル劣化診断装置であって、前記作業機械の動作中に前記油圧回路内を流動するオイルに向けて測定光を照射し、前記オイルを透過した透過光を受光して吸光度又は透過率を連続又は断続して測定する測定部と、前記吸光度が増加した又は透過率が減少した場合に、前記オイルに含まれる酸化防止剤の減少を検知する診断部と、を備え、前記測定光の波数又は波長は、前記オイルが酸化して前記酸化防止剤が消費された場合に、前記吸光度が減少する又は透過率が増加する値に限定して設定されている。