(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094570
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】ブレイクフィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20220620BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20220620BHJP
C04B 35/569 20060101ALN20220620BHJP
C04B 35/111 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
B01D39/20 D
C04B38/00 303Z
C04B35/569
C04B35/111
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207527
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】福岡 聖一
【テーマコード(参考)】
4D019
4G019
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA05
4D019BA06
4D019BB08
4D019BD01
4D019CA03
4D019CB01
4D019CB06
4G019FA11
4G019FA13
(57)【要約】
【課題】本発明は、ベントガスの流れを緩やかにして均一に拡散し、パーティクルの舞い上がりを防ぐことができるブレイクフィルタを提供することを目的とする。本発明によれば、炭化ケイ素多孔体と、炭化ケイ素多孔体の装置内側となる面にアルミナ多孔体を配置した構成を有することで、ベントガスを均一に噴出し、ロードロック内のパーティクルを舞い上がらせない特性や、ベントガスに含まれるパーティクルを除去するろ過特性を有するとともに、雰囲気ガスに侵されることもないので、これらの特性は長期間の使用によっても維持される。
【解決手段】炭化ケイ素多孔体と、炭化ケイ素多孔体の片側で装置内部側の面に配置されたアルミナ多孔体とからなるブレイクフィルタ。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素多孔体と、炭化ケイ素多孔体の装置内側となる面に配置されたアルミナ多孔体とからなるブレイクフィルタ。
【請求項2】
炭化ケイ素多孔体と、アルミナ多孔体からなり、外気側に炭化ケイ素多孔体が配置され、装置内雰囲気に接する部位がアルミナ多孔体からなることを特徴とするブレイクフィルタ。
【請求項3】
炭化ケイ素多孔体とアルミナ多孔体がともに板状で、2枚を重ねて用いることを特徴とする請求項2記載のブレイクフィルタ。
【請求項4】
炭化ケイ素多孔体の平均気孔径よりも、アルミナ多孔体の平均気孔径が大きいことを特徴とする請求項2乃至3のいずれか記載のブレイクフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置における真空破壊用ブレイクフィルタに関し、詳しくは、半導体製造用の処理装置(容器)を真空破壊して大気圧に復する際、急激な圧力変動を抑制するために、ロードロック室のガス導入口に設置されるブレイクフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程においては、処理装置(容器)内部を減圧し、真空(減圧)下で熱処理が行われる。そして、この熱処理が終了すると、前記処理装置を真空状態から大気圧まで戻し、半導体ウェハの取り出しがなされる。
【0003】
このような半導体処理装置にあっては、被処理ウェハを外部から搬入、または処理後のウェハを外部へ搬出する際に、その処理装置内の雰囲気を外部雰囲気に合わせることになるため、通常、ガス導入口とガス排気口とが設けられている。そして、ガス排気口によって、処理装置内の雰囲気ガスを排出して真空状態にし、一方、ガス導入口によって、ガスを導入して真空状態を解除するように構成されている。
【0004】
この半導体処理装置の概略構成を、
図1に基づいて説明する。
図1に示すように、半導体処理装置50には、排気用の開閉弁52と並列に微調整弁53が備えられ、排気開始にあたって微調整弁53を操作することでスロー排気が実現される。そして、半導体処理装置50内部を減圧し、真空下で熱処理が行われる。なお、図中の符号Wは被処理ウェハである。
【0005】
半導体処理装置50には、ガスを導入して真空状態を解除するブレイクフィルタ(ガス導入装置)60が設けられている。この半導体処理装置50内部の真空状態を解除するには、まず開閉弁51を開放することにより、ブレイクフィルタ60を介して処理装置内に、ガスを導入する。
【0006】
このとき、ブレイクフィルタ60が抵抗となり、処理装置内に流入するガスの流速が減速されて徐々に真空状態が解除される。このように、流入するガスの流速が減速されることにより、処理装置内のパーティクルの舞い上がりや結露の発生が抑制される。
【0007】
ブレイクフィルタ60は、
図2に示すように、円筒状のフィルタエレメント61が、一対の金属製スペーサ62a、62b間にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製ガスケット63を介して装着されている。また、金属製中空状で周囲に多数の通気口64が穿設された通気パイプ65が設けられ、スペーサ62b及びフィルタエレメント61を貫通している。
【0008】
このブレイクフィルタ60によって真空状態を解除するには、まず開閉弁51が開放されて、ガスがスペーサ62b側の通気パイプ65から導入される。このガスは通気口64及びフィルタエレメント61を介して処理装置内に導入されるが、このときフィルタエレメント61が抵抗となり、流速が減速されて徐々に真空状態が解除される。
このように、ガスは、処理装置内へ流れ込む速度が減速され、処理装置内のパーティクルの舞い上がりや結露の発生が抑制される。
【0009】
ところで、ブレイクフィルタ(ガス導入装置)60には、処理装置から漏れ出る反応ガスや処理装置内で反応により生じたラジカルなどの反応種に対する耐食性、ベントガスに含まれるパーティクルを除去するろ過特性、ベントガスを均一に噴出しロードロック内のパーティクルを舞い上がらせない特性が求められることから、フィルタエレメント61の材質にはニッケルなどの耐食性金属や、アルミナまたは炭化ケイ素など微細孔を持つセラミックス多孔体が用いられる。また、特許文献1では、ドライエッチング装置の反応ガスを供給するシャワープレートの材質として、アルミナあるいは炭化ケイ素である多孔質板を用いることにより反応ガスが均一に供給されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、多孔体においても反応ガスやラジカルなどの反応種による腐食を完全に防ぐことは不可能で、アルミナの多孔体ではガスとの反応により生じた生成物により細孔が閉塞したり、炭化ケイ素の多孔体の場合は、炭化ケイ素と反応ガスやラジカルとの反応生成物が揮散して細孔が大きくなり、ベントガスの流れが不均一になってロードロック内のパーティクルを舞い上げたりベント時間が変化する問題があった。
【0012】
そこで、本発明では、炭化ケイ素多孔体と、炭化ケイ素多孔体の装置内側で反応ガスやラジカルなどの反応種に晒される面に配置したアルミナ多孔体とからなり、ベントガスの流れを低減して均一に拡散し、パーティクルの舞い上がりを防ぐことができるブレイクフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のブレイクフィルタは、炭化ケイ素多孔体と、炭化ケイ素多孔体の装置内側となる面に配置されたアルミナ多孔体とからなることを特徴とする。
また、本発明のブレイクフィルタは、炭化ケイ素多孔体と、アルミナ多孔体からなり、外気側に炭化ケイ素多孔体が配置され、装置内雰囲気に接する部位がアルミナ多孔体からなることを特徴とする。
炭化ケイ素多孔体とアルミナ多孔体がともに板状で、2枚を重ねて用いることが好ましい。
炭化ケイ素多孔体の平均気孔径よりも、アルミナ多孔体の平均気孔径が大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のブレイクフィルタは、炭化ケイ素多孔体とその外側で装置内側となる面にアルミナ多孔体を配置することで、ベントガスを均一に噴出し、ロードロック内のパーティクルの舞い上がりを防ぐことができる。また、ベントガスに含まれるパーティクルを除去するろ過特性を有する。前記ブレイクフィルタのこのような特性は、ベントガスの供給に長期間晒されても維持される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、半導体処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、ブレイクフィルタの概略構成を示すブロック図である。
【
図3A】
図3Aは実施例1のブレイクフィルタの概略断面図である。
【
図3B】
図3Bは比較例1のブレイクフィルタの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のブレイクフィルタ60について、詳細に説明する。
本発明のブレイクフィルタ60は、炭化ケイ素(SiC)多孔体2と、前記炭化ケイ素多孔体2の片側で装置内部側の面に配置されたアルミナ(Al2O3)多孔体3とからなる。
前記装置とは半導体ウェハの製造の真空プロセスにおいて、真空の処理装置(容器)50と大気側との間での被処理ウェハの搬送のために設置されたロードロック室のことである。ロードロック室では、被処理基板が装置内に搬入出されるたびに、大気圧および真空の切り替えが行われる。
【0017】
炭化ケイ素多孔体2は、炭化ケイ素(SiC)からなり、複数の炭化ケイ素粒子が結合して骨格をなし、それらの間に多数の気孔が形成されている。炭化ケイ素多孔体2の平均気孔径は、通常1~6μmであり、好ましくは3~5μmである。また、気孔率は35~55%程度である。炭化ケイ素多孔体2、および後述するアルミナ多孔体3の平均気孔径および気孔率は、水銀圧入法を用いて測定する。
【0018】
平均気孔径が1μm未満の場合、圧力損失が大きく、ガスやパーティクルの供給量が少なくなる。そのため、大気圧に到達するまでの時間が長くなる。一方、平均気孔径が6μmより大きいと、パーティクル捕集性能、およびパーティクル舞い上がり防止機能が低下し、ウェハ製造歩留まりの低下という問題が生じる。
【0019】
気孔率が35%より小さいと、ガス等の供給量が少なくなり、大気圧に到達するまでに時間を要する。一方、気孔率が55%より大きいと、パーティクル舞い上がり防止性能の低下により、ウェハ製造の歩留まりが低下する。
【0020】
炭化ケイ素多孔体2の細孔容積は、0.1~0.3ml/g程度、比表面積は0.1~0.3m2/g程度であることが好ましい。
【0021】
隣接する炭化ケイ素粒子同士は面接触し、その接触部にネック部が形成される。このネック部によりろ過材として使用するに耐える充分な強度を持たせることができる。
【0022】
アルミナ多孔体3は、原料となる結晶性アルミナ粉末にバインダーや造孔材を添加し、焼成することにより、形成される。
結晶性アルミナ粉末には、α-アルミナ粉体、β-アルミナ粉体およびγ-アルミナ粉体のいずれも用いることができるが、コストが安く、取り扱いの容易なα-アルミナ粉体が好ましい。これらのアルミナ粉体の平均粒子径としては、得られるアルミナ多孔体3の粒径が5~30μm程度となるようなものであればよく、平均粒子径が異なる混合体を組み合わせて用いてもよい。例えば、平均粒子径が3μm以上のアルミナ粉体100重量部に対して、平均粒子径が3μm未満のアルミナ粉体10~500重量部の混合体は、圧壊強度および形状性において優れた多孔体を形成する。また、アルミナ粉体は、微小な一次粒子の集合体であってもよい。
【0023】
アルミナ多孔体3の平均気孔径は、炭化ケイ素多孔体2の平均気孔径よりも大きい8~25μmが好ましく、10~20μmがより好ましい。アルミナ多孔体3の平均気孔径を炭化ケイ素多孔体2の平均気孔径よりも大きくすることで、炭化ケイ素多孔体2の小さな気孔でガスやパーティクルの供給量を調節しながら、アルミナ多孔体3の低い反応性により、ガスやパーティクルに起因する気孔の崩壊や破裂を防ぎ、ベントガスの流れの均一性を維持することができる。
アルミナ多孔体が装置側に配置されることで、装置内の反応性ガスと炭化ケイ素多孔体が直接接触して気孔径が拡大することを防ぐことができるとともに、アルミナ多孔体は、たとえガスとの反応により生じた生成物により細孔が閉塞しても予め炭化ケイ素多孔体よりも大きな気孔径が設定されているので、閉塞することは無く、通気は安定したものとなる。
【0024】
また、アルミナ多孔体3の気孔率は20~40%程度である。
アルミナ多孔体3の細孔容積は、0.05~0.15ml/g程度、比表面積は0.01~0.10m2/g程度であることが好ましい。
【0025】
前記のとおり、本発明のブレイクフィルタ60は、炭化ケイ素多孔体2とアルミナ多孔体3とからなる。前記ブレイクフィルタ60の形状は、通常は板状や円板状などであるが、これらの形状に限定されることはなく、例えば、円筒体であってもよい。その場合、アルミナ多孔体3の円筒を作製し、アルミナ多孔体3の円筒にできるだけ隙間が小さくなるように炭化ケイ素多孔体2の円筒を挿入することでブレイクフィルタ60を作製する。なお、炭化ケイ素円筒体をまず焼成し、その後、表面にアルミナ層を成形して焼成する方法もありうるが、この方法では、アルミナと炭化ケイ素との熱膨張率の違いにより、焼成後に界面の気孔を壊さずに維持することが難しい。
【0026】
炭化ケイ素多孔体2とアルミナ多孔体3とは、それぞれ板状の多孔体を作製した後、2枚重ねて使用してもよいし、一体的に製造してもよい。
【0027】
2枚重ねる場合、前記ブレイクフィルタ60は、炭化ケイ素多孔体2の上にアルミナ多孔体3を載せるだけでよい。その場合、強度に優れる炭化ケイ素多孔体2に対して反応ガスやラジカルに対して反応性が低いアルミナ多孔体3を装置内側の面に用い、炭化ケイ素多孔体を隠すようにする。このとき、炭化ケイ素多孔体2およびアルミナ多孔体3は板状で、炭化ケイ素多孔体2の厚みは0.5~3mmであり、アルミナ多孔体3の厚みは1~5mmであり、炭化ケイ素多孔体2とアルミナ多孔体3との厚みの比率は1:0.5~5の範囲である。
【0028】
このように形成された炭化ケイ素多孔体2とアルミナ多孔体3とからなるブレイクフィルタ60を用いることにより、充分なガス流量を確保しつつ、パーティクルを捕集し、パーティクル舞い上がりを充分に防止することができる。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記に示す実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
図3Aに示すように、直径50mm、厚さ3mmおよび平均気孔径3μmの板状の炭化ケイ素多孔体2と、その外側に直径50mm、厚さ2mmおよび平均気孔径15μmのアルミナ多孔体3とを接触させて配置し、PTFE製ガスケットを介してステンレスケーシング4に組み込み、特開2020-81911号公報に記載のように液体窒素中で-196℃で冷やしたステンレスリング41をステンレスケーシング4に嵌め込み、二枚の多孔体を固定してブレイクフィルタ60とした。エッチング装置のロードロックに取り付け使用したところ、アルミナ多孔体3の気孔表面に反応ガス種との化合物が生成したが、炭化ケイ素多孔体2に変化はなく、ベントガス噴出の均一性が維持されていた。
実施例1では、おおよそ1年間使用したブレイクフィルタの状態であり、耐久性があることがわかった。
【0030】
[比較例1]
図3Bに示すように、直径50mm、厚さ4mmおよび平均気孔径3μmの板状の炭化ケイ素多孔体2をPTFE製ガスケットを介してステンレスケーシング4に組み込み、実施例1と同様に冷やしたステンレスリングを用いて固定し、ブレイクフィルタとした。エッチング装置のロードロックに取り付け使用したところ、局所的に炭化ケイ素多孔体2の気孔表面で反応ガス種との反応より炭化ケイ素が分解、揮散して気孔径が大きくなり、ベントガスの噴出が大きくなりパーティクル舞い上がり特性が低下した。なお、比較例1もおおよそ1年間使用したブレイクフィルタの状態である。
【0031】
[比較例2]
比較例2の炭化ケイ素多孔体2を平均気孔径が5μmのアルミナ多孔体に代えて、同じように試験をした。局所的にアルミナ多孔体3の気孔表面で反応ガス種との反応より生じた生成物により細孔が閉塞しベントガスの噴出が不均一となり、さらに使用を継続すると細孔の閉塞が著しくなりベントできなくなった。