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特開2022-94613不織布、短カット熱接着性繊維およびフィルター
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  • 特開-不織布、短カット熱接着性繊維およびフィルター 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094613
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】不織布、短カット熱接着性繊維およびフィルター
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4382 20120101AFI20220620BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20220620BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
D04H1/4382
D01F8/14 B
B01D39/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207591
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】高島 美樹
(72)【発明者】
【氏名】伴 紀孝
【テーマコード(参考)】
4D019
4L041
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019AA03
4D019BA13
4D019BB03
4D019BB05
4D019BD01
4D019CB04
4D019CB06
4D019CB07
4D019DA01
4D019DA03
4D019DA06
4L041AA07
4L041BA16
4L041BA21
4L041BA48
4L041BA49
4L041BD04
4L041BD11
4L041CA06
4L041CA12
4L041DD01
4L041DD05
4L041DD18
4L041EE06
4L047AA21
4L047AA27
4L047AA28
4L047AB02
4L047AB08
4L047BA09
4L047BB06
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】高捕集率かつ低圧力損失であり、加圧時の変形が少なく、実用上において寿命の長いフィルターろ材として適した不織布を提供する。
【解決手段】繊維径が0.1~1μmかつアスペクト比が100~3000である短カット極細繊維と、繊維径0.5~4μmかつアスペクト比が100~3000である短カット熱接着性繊維とを含み、30kPa加圧時の圧縮率が30%以下であることを特徴とする、不織布。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が0.1~1μmかつアスペクト比が100~3000である短カット極細繊維と、繊維径0.5~4μmかつアスペクト比が100~3000である短カット熱接着性繊維とを含み、30kPa加圧時の圧縮率が30%以下であることを特徴とする、不織布。
【請求項2】
短カット熱接着性繊維はポリエステルからなり、該ポリエステルは、テレフタル酸成分60~90モル%およびイソフタル酸成分10~40モル%をジカルボン酸成分としてなる共重合ポリエステルである、請求項1記載の不織布。
【請求項3】
短カット熱接着性繊維が、繊維形成性成分および熱接着性成分からなる複合繊維であり、該複合繊維において繊維形成性成分は20~80質量%を占め、熱接着性成分は80~20質量%を占め、繊維形成性成分は融点180℃以上のポリエステルであり、熱接着性成分は繊維形成性成分の融点より20℃以上低い融点のポリエステルである、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項4】
複合繊維が、繊維形成性成分を芯とし、熱接着性成分を鞘とする芯鞘型複合繊維である、請求項3に記載の不織布。
【請求項5】
熱接着性成分が融点250℃以下のポリエステルのみからなる、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項6】
繊維径0.5~4μmかつアスペクト比が100~3000であり、熱接着成分が融点250℃以下のポリエステルのみからなる短カット熱接着性繊維。
【請求項7】
短カット熱接着性繊維を構成するポリエステルが、テレフタル酸成分60~90モル%およびイソフタル酸成分10~40モル%をジカルボン酸成分としてなる共重合ポリエステルである、請求項6に記載の短カット熱接着性繊維。
【請求項8】
繊維形成性成分および熱接着性成分からなる短カット熱接着性繊維であって、該短カット熱接着性繊維において、繊維形成性成分が20~80質量%を占め、熱接着性成分が80~20質量%を占め、繊維形成性成分が、融点180℃以上のポリエステルであり、熱接着性成分が、繊維形成性成分の融点より20℃以上低い融点のポリエステルである、請求項6または7に記載の短カット熱接着性繊維。
【請求項9】
熱接着性成分のみからなる短カット熱接着性繊維であって、該短カット熱接着性繊維の熱接着性成分が融点250℃以下のポリエステルの単一成分からなる、請求項6または7に記載の短カット熱接着性繊維。
【請求項10】
繊維径が0.1~1μmかつアスペクト比が100~3000である短カット極細繊維の含有量が0.5~50質量%、繊維径0.5~4μmかつアスペクト比が100~3000である短カット熱接着性繊維の含有量が10~99.5質量%であり、目付が1~500g/m、厚みが0.01~3.0mm、平均細孔径が0.1~10.0μm、かつ最大細孔径/平均細孔径の値が1.0~2.5である、請求項1~5のいずれかに記載の不織布。
【請求項11】
請求項1~5および請求項10のいずれかに記載の不織布を用いてなるフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布、短カット熱接着性繊維およびおよびそれらを用いたフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
不織布からなるフィルターとしては、これまでも様々なものが提案されている。例えば、繊維繊度の勾配を付けた多層構造のエアレイド不織布からなるフィルターろ材(例えば、特許文献1参照)、汎用的な不織布の表層にエレクトロスピニング法により得られた超極細繊維を積層したもの(例えば、特許文献2、特許文献3)が提案されている。
【0003】
このうち、繊維繊度の勾配を付けたエアレイド多層フィルターろ材では、低圧力損失、高フィルター寿命は達成されるものの、極めて細かいダストを捕集するには不十分な面もある。また、汎用的な不織布の表層に超極細繊維を積層させたフィルターろ材では、超極細繊維が面状にコーティングされた状態となるため、圧力損失が上昇し易い、基材となる不織布との接着性が不十分となり繊維が脱落しやすい、などの問題があった。
【0004】
特許文献4には、繊維径が100~1000nm(0.1~1μm)の短カット極細繊維と単繊維繊度が0.1dtex以上のバインダー繊維を含む湿式不織布からなるフィルターろ材が提案されているが、捕集効率は従来よりも優れたものになるものの、バインダー繊維の細さには限界があるため、自動車の排ガスに含まれるようなカーボン微粒子を対象とする捕集効率を更に向上させる面では十分とはいえなかった。
【0005】
また、特許文献5には、2層以上の多層構造を有し、かつ前記多層構造の隣接する2層の間に境界面が存在しないことを特徴とする、短カット極細繊維を用いたフィルターろ材が提案されている。これは、高捕集効率・低圧力損失・高フィルター寿命のバランスには優れているものの、特許文献4の実施例と同様に、バインダー繊維の単繊維繊度は1.1dtexのものしか例示されておらず、排ガス中のカーボンのようなナノサイズの微粒子に対する捕集効率の向上に改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-301121号公報
【特許文献2】特開2006-289209号公報
【特許文献3】特開2007-170224号公報
【特許文献4】国際公開第2008/130019号パンフレット
【特許文献5】特開2013-126626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討によれば、フィルターろ材を通過する媒体や粒子によりフィルターろ材が受ける外力に対して、フィルターろ材の変形が小さいことが、実用上のフィルター寿命を長くするために重要な因子である。
本発明は、高捕集率かつ低圧力損失であり、加圧時の変形が少なく、実用上において寿命の長いフィルターろ材として適した不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、繊維径が0.1~1μmかつアスペクト比が100~3000である短カッ
ト極細繊維と、繊維径0.5~4μmかつアスペクト比が100~3000である短カット熱接着性繊維とを含み、30kPa加圧時の圧縮率が30%以下であることを特徴とする、不織布である。
本発明はまた、繊維径0.5~4μmかつアスペクト比が100~3000であり、熱接着成分が融点250℃以下のポリエステルのみからなる短カット熱接着性繊維である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高捕集率かつ低圧力損失であり、加圧時の変形が少なく、実用上において寿命の長いフィルターろ材として適した不織布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の材料となる短カット極細繊維を製造するために用いる海島型複合繊維の紡糸用口金の一例の一部分の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
〔短カット極細繊維〕
短カット極細繊維は、繊維形成性熱可塑性ポリマーからなる。この短カット極細繊維は、繊維径(D)が0.1~1μm、好ましくは0.2~0.9μm、特に好ましくは0.3~0.8μmである。繊維径(D)が1μmを超えると、抄紙法で作成された湿式不織布の表面に現れる孔の孔径が不均一となるおそれがある。他方、0.1μm未満であると、抄紙法でウェブを抄き上げる際に短カット極細繊維がメッシュから脱落しやすくなるおそれがある。
【0013】
短カット極細繊維のアスペクト比(繊維径(D)に対する繊維長(L)の比:L/D)は、100~3000、好ましくは300~2500、特に好ましくは500~2000である。アスペクト比が3000を超えると、抄紙法でウェブを抄き上げる前に水中で繊維同士が絡みを発生し分散不良となるため、抄紙法で製造された不織布の表面に現れる孔の孔径が不均一となるおそれがある。他方、アスペクト比が100未満であると、繊維と繊維との絡みが極めて弱くなり、ウェブ形成後にワイヤーパートから毛布への移行が困難となり工程安定性が低下するおそれがある。
【0014】
抄紙法で不織布を製造したときの湿式不織布の構造を均一にし、欠点の発生を少なくし、かつ抄紙法で不織布を製造するときの歩留まりを向上し製造効率を高くする観点から、短カット極細繊維の繊維長は、好ましくは0.05~3mmである。所定の長さに切断された短カット極細繊維を得る方法として、ギロチンカッター式繊維束切断装置や、多数のカッター刃が外側に向いて放射状に等間隔で設けられたイーストマン式等のロータリーカッターを用いて極細繊維をカットする方法を例示することができる。
【0015】
短カット極細繊維の繊維横断面は、丸断面であっても異型断面であってもよい。
短カット極細繊維を構成するポリマーとしては、熱可塑性ポリマーを好ましく用いることができ、例えばポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、アクリレート系、ポリフェニレンスルフィド系のポリマーであり、極細化や成型が比較的容易で、強度や寸法安定性に優れることから、ポリエステル系ポリマーが好ましい。
【0016】
ポリエステル系ポリマーでは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸、コハク酸等の脂肪族ジカルボン酸や、ε-カプロラクトン等
のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートが好ましい。
【0017】
ポリアミド系ポリマーでは、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610等の脂肪族ポリアミドが好ましい。
【0018】
ポリオレフィン系ポリマーでは、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、無水マレイン酸などのビニルモノマーのエチレン共重合体、アタクチックポリスチレン、アイソタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレンを例示することができる。これらは、酸やアルカリ等に侵され難いことや、比較的低い融点のために超極細繊維として取り出した後のバインダー成分として使え、好ましい。
【0019】
アクリレート系ポリマーでは、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸メチルおよびアクリルアミド架橋共重合体を例示することができる。
【0020】
〔短カット極細繊維の製造方法〕
短カット極細繊維は従来公知の方法で製造することができ、例えば国際公開第2005/095686号パンフレットに開示された方法で製造することができる。本発明において、この方法で製造されたものを用いることが好ましい。以下、短カット極細繊維の好ましい製造方法を説明する。
【0021】
望ましい繊径およびその均一性を得る観点から、短カット極細繊維は、短カット極細繊維を構成する繊維形成性熱可塑性ポリマーからなる島径(D)が100~1000nm(すなわち0.1~1μm)である島成分と、前記の繊維形成性熱可塑性ポリマーよりもアルカリ水溶液に溶解しやすいポリマー(以下、「アルカリ水溶液易溶解性ポリマー」ということもある)からなる海成分とを有する海島型複合繊維を束ねて繊維束(トウ)としてカットした後にアルカリ減量加工を施し、前記海成分を溶解除去したものであることが好ましい。
【0022】
ここで、アルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水溶液を言う。
なお、前記島径は、透過型電子顕微鏡で海島型複合繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。島の形状が丸断面以外の異型断面である場合には、前記の島径(D)は、その外接円の直径を用いる。
【0023】
海成分を形成するアルカリ水溶液易溶解性ポリマーの、島成分を形成する繊維形成性熱可塑性ポリマーに対する溶解速度比は、好ましくは200以上、さらに好ましくは300~3000である。この範囲であれば島分離性が良好となり好ましい。溶解速度が200倍未満であると、海島型複合繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した海島型複合繊維断面表層部の島成分が、径が小さいために溶解されるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、海島型複合繊維断面中央部の海成分を完全に溶解除去できず、島成分の太さ斑や島成分自体の溶剤侵食につながり、均一な繊維径の短カット極細繊維が得ることができないおそれがあり好ましくない。
【0024】
海島型複合繊維の海成分を形成するアルカリ水溶液易溶解性ポリマーとして、繊維形成
性の観点から、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマーのうちの脂肪族ポリアミド、ポリオレフィン系ポリマーのうちのポリエチレンやポリスチレンが好ましく、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリアルキレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルなどのポリエステル系ポリマーが特に好ましい。
【0025】
ポリエステル系ポリマーの中でも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸6~12モル%と分子量4000~12000のポリエチレングリコールを3~10質量%共重合させた固有粘度が0.4~0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5-ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。また、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じる可能性がある。また、PEGの共重合量が10質量%を超えると、溶融粘度低下作用があるので、好ましくない。
【0026】
前記の海島型複合繊維において、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合質量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合したりすることが少なく、海島型複合繊維となり易い。
【0027】
前記の海島型複合繊維における溶融粘度比(海/島)は、好ましくは1.1~2.0、特に好ましくは1.1~1.5である。この比が1.1倍未満であると溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり好ましくなく、他方2.0倍を超えると、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすいため好ましくない。
【0028】
短カット極細繊維は、海島型複合繊維の島の部分に由来するが、海島型複合繊維の横断面における島の数は、好ましくは100以上、さらに好ましくは300~1000である。海成分と島成分の質量比率である海島複合質量比率(海:島)は、好ましくは5:95~95:5である。この範囲であれば、島成分とそれに隣接する他の島成分との間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になり好ましい。海成分の割合が95%を超えると海成分の厚みが厚くなりすぎ、他方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて島間に接合が発生しやすくなる。
【0029】
溶融紡糸に用いられる口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。中空ピン群を有する口金の一例を図1に示す。
【0030】
図1に示されている紡糸口金1においては、分配前の島成分用ポリマー溜め部2内の溶融された島成分ポリマーは、複数の中空ピンにより形成された島成分用ポリマー導入通路3中に分配され、一方、海成分用ポリマー導入通路4を通って、溶融された海成分ポリマーが、分配前海成分用ポリマー溜め部5に導入される。島成分用ポリマー導入通路3を形成している中空ピンは、それぞれ海成分用ポリマー溜め部5を貫通して、その下に形成された複数の芯鞘型複合流用通路6の各々の入り口の中央部分において下向きに開口している。島成分用ポリマー導入通路3の下端から、島成分ポリマー流が、芯鞘型複合流用通路6の中心部分に導入され、海成分用ポリマー溜め部の5中の海成分用ポリマー流は、芯鞘型複合流用通路6中に、島成分ポリマーをかこむように導入され、島成分ポリマー流を芯とし、海成分ポリマー流を鞘とする芯鞘型複合流が形成され、複数の芯鞘型複合流がロート状の合流通路7中に導入され、この合流通路7中において、複数の芯鞘型複合流は、それぞれの鞘部が互いに近接して、海島型複合流が形成される。この海島型複合流は、ロート状合流通路7中を流下する間に、次第にその水平方向の断面積を減少し、合流通路7の下端の吐出口8から吐出される。
【0031】
吐出された海島型複合繊維は、冷却風により固化され、所定の引き取り速度に設定した回転ローラーあるいはエジェクターにより引き取られ、未延伸糸を得る。この引き取り速度は好ましくは200~5000m/分である。200m/分未満では生産性が悪く好ましくない。他方5000m/分を超えると紡糸安定性が悪く好ましくない。
【0032】
得られた未延伸糸は、海成分抽出除去後に得られる超極細繊維の用途・目的に応じて、そのままカット工程に供してもよく、所望の強度や伸度、熱収縮特性を得るために、延伸工程や熱処理工程の後にカット工程に供してもよい。延伸工程は、紡糸と延伸を別ステップで行う別延方式でもよく、一工程内で紡糸後直ちに延伸を行う直延方式でもよい。
【0033】
海島型複合繊維は、島成分のポリマーからなる短カット極細繊維のアスペクト比(島径(D)に対する繊維長(L)の比:L/D)が100~3000の範囲内となるようにカットする。このカットは、未延伸糸または延伸糸を、そのまま、または数十本~数百万本単位に束ねたトウにして、ギロチンカッターやロータリーカッターなどでカットすることで行うことができる。また、海成分抽出除去工程の後にカットしてもよい。なお、海成分抽出除去工程は、アルカリ減量加工により行う。
【0034】
この海成分抽出除去工程において、海島型複合繊維とアルカリ水溶液の比率(浴比)は例えば0.1~5質量%、好ましくは0.4~3質量%である。0.1質量%未満であると繊維とアルカリ液の接触は多いものの、排水等の工程性が困難となるおそれがある。他方、5質量%を超えると繊維量が多過ぎるため、海成分抽出除去工程で繊維同士の絡み合いが発生するおそれがある。
【0035】
浴比は、下記式にて定義する。
浴比(質量%)=〔海島型複合繊維質量(g)/アルカリ水溶液質量(g)〕×100
【0036】
海成分抽出除去工程のアルカリ減量加工の処理時間は、例えば5~60分間、好ましくは10~30分間である。5分間未満であるとアルカリ減量が不十分となるおそれがある。他方、60分間を超えると島成分までも減量されるおそれがある。
海成分抽出除去工程のアルカリ減量加工の処理温度は、例えば50~90℃、好ましくは60~80℃である。
【0037】
海成分抽出除去工程のアルカリ減量加工において、アルカリ水溶液のアルカリ濃度は、好ましくは2~10質量%である。2質量%未満であるとアルカリ不足となり、減量速度が極めて遅くなるおそれがあり好ましくない。他方、10質量%を超えるとアルカリ減量が進みすぎ、島部分まで減量されるおそれがあり好ましくない。
【0038】
海成分抽出除去工程のアルカリ減量加工の方法として、海島型複合繊維をアルカリ液に投入し、所定の条件で所定の時間処理した後、一度、脱水工程を経てから、再度、水中に投入し酢酸、シュウ酸などの有機酸を使用して中和、希釈を進め最終的脱水する方法を用いることができる。
【0039】
また、所定の時間処理した後に中和処理を施し、さらに水を注入し希釈を進めその後脱水をする方法を用いることができる。なお、これらの場合、前者ではバッチ式に処理する
ため、少量での製造(加工)を行えることができる反面、中和処理に時間を要すため、若干生産性が悪い。後者では、半連続生産が可能であるが、中和処理時に多くの酸系水溶液および希釈に多くの水を必要とする。
【0040】
処理設備は、脱水時に繊維脱落を防止する観点から、特許第3678511号公報に開示されているような開口率(単位面積当たりの開口部分の面積のこと)が10~50%であるメッシュ状物(例えば非アルカリ加水分解性袋など)を適用することが好ましい。この場合、開口率が10%未満であると水分の抜けが極めて悪く好ましくなく、他方、50%を超えると極細繊維の脱落が発生するおそれがあり好ましくない。
【0041】
海成分抽出除去工程の後、短カット極細繊維の分散性を高めるために分散剤(例えば、明成化学工業(株)製のメイカサーフ)を短カット極細繊維表面に、繊維質量に対して0.1~5.0質量%付着させることが好ましい。
【0042】
海島型複合繊維を所定の長さにカットした短カット繊維に、上記に説明した海成分抽出除去工程を施すことにより、海島型複合繊維は島成分からなる本発明における短カット極細繊維に転換される。その際、島成分がポリエステル系ポリマーからなる場合には、短カット極細繊維として、ポリエステルからなるものを得ることができる。
【0043】
〔短カット熱接着性繊維〕
本発明において短カット熱接着性繊維は、短カット極細繊維を不織布の形態に維持するためのバインダー繊維として用いられている。短カット熱接着性繊維を用いることで、不織布をフィルターろ材としたときの微小粒径粒子捕集効率を著しく向上させることができる。
【0044】
短カット熱接着性繊維の繊維径(D)は0.5~4μm、好ましくは0.8~3μm、さらに好ましくは1.0~2.8μmである。繊維径(D)が0.5μm未満であると、繊維そのものの剛性が低くなりフィルターろ材の構造が維持されにくくなるおそれがあり好ましくない。他方、4μmを超えると、フィルターろ材中に占める短カット熱接着性繊維の本数が少なくなり接着点が減少して剛性が低くなりフィルターろ材の孔径が大きくなり微小粒径粒子の捕集効率が低下するおそれがあり好ましくない。
【0045】
短カット熱接着性繊維のアスペクト比(単繊維径(D)に対する繊維長(L)の比:L/D)は100~3000、好ましくは300~2500、特に好ましくは500~2000である。アスペクト比が100未満であると繊維と繊維との絡みが極めて弱くなり、ウェブ形成後にワイヤーパートから毛布への移行が困難となり工程安定性が低下するおそれがある。他方、アスペクト比が3000を超えると、抄紙法でウェブを抄き上げる前に水中で繊維同士が絡みを発生し分散不良となるため、湿式不織布表面に現れる孔の孔径が不均一(すなわち、平均孔径と最大孔径との比が大きい)となるおそれがある。
【0046】
湿式不織布の構造の均一性、欠点発生が少ないこと、湿式不織布製造上の不具合や歩留まり・製造効率の観点から、短カット熱接着性繊維の繊維長は、好ましくは0.05~10mmである。
【0047】
所定の長さの短カット熱接着性繊維を得る方法として、ギロチンカッター式繊維束切断装置や、多数のカッター刃が外側に向いて放射状に等間隔で設けられたイーストマン式等のロータリーカッターを用いる方法を適用することができる。
【0048】
短カット熱接着性繊維の好ましい態様の一つは、短カット熱接着性繊維が、繊維形成性成分が20~80質量%を占め、熱接着性成分が80~20質量%を占める態様であり、
この態様において、繊維形成性成分は、融点180℃以上のポリエステルであり、熱接着性成分は、繊維形成性成分の融点より20℃以上低い融点のポリエステルである。
【0049】
短カット熱接着性繊維が20質量%未満であると不織布が所定の圧力下で形態を保持できなくなる点で好ましくない。他方、80重量%を超えると熱接着性成分の流動部分が多くなり、捕集物を捕捉する空間体積が低下し、捕集効率やフィルター寿命の低下につながり好ましくない。
【0050】
短カット熱接着性繊維における繊維形成性成分は、融点180℃以上、好ましくは融点190~270℃のアルキレンテレフタレートを主たる繰り返し成分とするポリエステルである。このポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルの融点が180℃未満であると、複合繊維を安定して製糸することが困難となるばかりでなく、熱接着処理時の寸法安定性が低下するため好ましくない。他方、融点が270℃を超えると極細化が難しくなり好ましくない。
【0051】
この繊維形成性成分のポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好ましく、ポリエチレンテレフタレートは安価で汎用であるため特に好ましい。なお、極細化のための繊維成型性を向上させるために、イソフタル酸、5-スルホイソフタル酸金属塩、5-スルホイソフタル酸有機リン塩、2,6-ジナフタレン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、εカプロラクトン、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、などのモノマー成分が、融点が所定の範囲内になる範囲で共重合されていてもよい。
【0052】
短カット熱接着性繊維における熱接着性成分は、繊維形成性成分より20℃以上融点が低いポリエステルであることが好ましい。この場合、ポリエステルは、好ましくは融点250℃以下のポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルである。熱接着性成分の融点が繊維形成性成分より20℃以上融点が低いことで、短カット極細繊維との良好な接着力を得ることができる。そして、熱接着性成分が融点250℃以下のポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルであることで、良好な接着力と圧力下でも不織布内の空間が潰れにくい弾性・剛性を得ることができる。
【0053】
熱接着性成分のポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルとして、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリアルキレン系ポリエステルであることが好ましく、熱接着温度調整、圧着温度・圧力の調整や極細化のための繊維成型性を向上させるために、イソフタル酸、5-スルホイソフタル酸金属塩、5-スルホイソフタル酸有機リン塩、2,6-ジナフタレン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、εカプロラクトン、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などのジカルボン酸、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、などのジオール成分が共重合されていてもよい。
【0054】
上記の複合繊維は、当該複合繊維同士の間を熱接着させるために、熱接着性成分が複合繊維の表面に露出するように複合化されていることが必要である。この態様として、例えば、熱接着性成分と繊維形成性成分が並列型(サイドバイサイド型)に複合化されたもの
、熱接着性成分を鞘成分とし繊維形成性成分を芯成分として複合化した同芯芯鞘型複合繊維、偏芯芯鞘複合繊維などが挙げられ、なかでも同芯芯鞘型複合繊維が好ましい。同芯芯鞘型複合繊維の方が、短カット極細繊維間または短カット熱接着性繊維同士の良好な接着点を得ることができ、フィルター性能として重要な細孔径に影響する繊維間距離が均一となり、また、高温下や高圧下の寸法安定性の面で良好である。なお、同芯芯鞘型複合繊維といっても、芯の重心と鞘の重心は、差し支えない範囲でずれていても問題なく、意図的に偏芯させる構造としない限りは、同芯芯鞘型複合繊維とみなすこととする。
【0055】
短カット熱接着性繊維のもう一つの形態として、短カット熱接着性繊維の熱接着性成分が融点250℃以下のポリエステルの単一成分からなる繊維を用いてもよい。この場合、短カット熱接着性繊維同士または短カット極細繊維を、熱融着または圧着することにより、本発明の短カット熱接着性繊維の細さと相俟って、細孔径を従来知られている熱接着性繊維より小さくすることができる。このようにするために、短カット熱接着性繊維の融点が短カット極細繊維の融点よりも5℃以上低いことが好ましい。
短カット熱接着性繊維の繊維断面形状は任意であり、たとえば、丸断面、中空、十字、扁平、フィンをもつ断面を挙げることができる。
【0056】
上述のポリマー中には、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、減粘剤、艶消し剤、着色剤、抗菌剤、消臭剤、カーボンブラック、親水化剤、撥水化剤、金属微粒子、金属酸化物、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、その他各種の改良剤等も必要に応じて配合されていてもよい。
【0057】
〔短カット熱接着性繊維の製造方法〕
本発明における繊維径が0.5~4μmといった極細の短カット熱接着性繊維は、例えば以下の方法により製造することができる。
【0058】
短カット熱接着性繊維が繊維形成性成分および熱接着性成分からなる複合繊維である場合、前述した熱接着性成分および繊維形成性成分を構成するポリマーをチップ状とし、これらをそれぞれ加熱または除湿した窒素または空気雰囲気下、または真空下で乾燥した後、溶融して複合紡糸口金に導入し、溶融複合繊維糸条として押し出し、口金下15~100mmの位置で冷却固化し紡糸速度300~1000m/分で引き取り未延伸糸を得る。複合紡糸口金は、公知のものを用いることができる。
【0059】
短カット熱接着性繊維の熱接着性成分が融点250℃以下のポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルの単一成分からなるものである場合、熱接着性成分を構成するポリマーをチップ状とし、前述と同様に乾燥・溶融して、公知の単孔ノズルを有する単成分用の紡糸口金に導入して、冷却固化、引き取りを行い、未延伸糸を得る。
【0060】
所望の繊維径の短カット熱接着性繊維を得る方法として、未延伸糸をフロー延伸により、未延伸糸中の非晶部配向や結晶化を極力変化させない状態で5倍以上の高倍率延伸を行い、その後、必要に応じて、ネック延伸により未延伸部分が消失するまでさらに延伸倍率を上げることで、合計で10倍以上の高倍率延伸を行う方法を用いることができる。
【0061】
このとき、未延伸糸の表面に、ポリエーテル・ポリエステル共重合体を付与することが好ましい。フロー延伸は、未延伸糸の熱接着性成分および繊維形成性成分のガラス転移温度のいずれか高い方より5~50℃高い温水中で行うが、ポリエーテル・ポリエステル共重合体を未延伸糸の表面に付与することで、未延伸糸の表面に皮膜が生じるため、高温の温水中におけるフロー延伸中に繊維間の融着・密着が生じ難くなるためである。
【0062】
さらには、得られた繊維を抄紙法にて湿式不織布を得る際に、ポリエーテル・ポリエス
テル共重合体が繊維に付着していることによって、繊維の水中分散性が良好になる。なお、ポリエーテル・ポリエステル共重合体を未延伸糸に付与するにあたり、未延伸糸が紡糸された直後にオイリング装置によって付与されるか、または、フロー延伸工程の温水浴中に含ませて付与されることが望ましい。
【0063】
引き続いて、未延伸糸をフロー延伸し、必要に応じてネック延伸や弛緩状態で制限熱収縮処理を行ったのち、さらに不織布の成型工程や付与機能に応じた繊維処理剤を付与した後、ギロチンカッターやロータリーカッターなどでカットして、所望の短カット熱接着性繊維を得ることができる。
【0064】
なお、不織布が湿式不織布である場合は、繊維処理剤として、未延伸糸に付与したものと同様のポリエーテル・ポリエステル共重合体の水系エマルジョンを延伸後またはカット前後に付与すると、湿式ウェブ形成工程における繊維の水中分散性がより向上する。この場合、ポリエーテル・ポリエステル共重合体は、該短カット熱接着性繊維100質量%あたり0.03~10.0質量%の量で付着させるとよい。0.03質量%未満であると抄紙工程での水中への繊維の分散が不十分となるので好ましくない、他方10.0質量%を超えると繊維間の接着性が阻害される傾向があるだけでなく、多量のポリエーテル・ポリエステル共重合体は湿式ウェブ形成工程の循環水への水質負荷を増大するので好ましくない。
【0065】
上記のポリエーテル・ポリエステル共重合体は、テレフタル酸および/またはイソフタル酸、低級アルキレングリコール並びにポリアルキレングリコールおよび/またはそのモノエーテルからなる。好ましく用いられる低級アルキレングリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールがあげられる。一方、ポリアルキレングリコールとしては、平均分子量が600~6000のポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体、ポリプロピレングリコールが例示できる。さらにポリアルキレングリコールのモノエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノフェニルエーテル等があげられる。
【0066】
上記のポリエーテル・ポリエステル共重合体はテレフタレート単位とイソフタレート単位のモル比が95:5~40:60の範囲内が水中分散性の点から好ましいが、アルカリ金属塩スルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等を少量共重合していてもよい。
【0067】
ポリエーテル・ポリエステル共重合体の平均分子量は、使用するポリアルキレングリコールの分子量にもよるが、通常1000~20000、好ましくは3000~15000である。平均分子量が1000未満では水中分散性の向上効果が十分でなく、他方、20000を越えると該重合体の乳化分散が難しくなる。
【0068】
フロー延伸性を向上させ、繊維径0.5~4μmの極細の短カット熱接着性繊維を得るために、短カット熱接着性繊維はポリエステルからなり、該ポリエステルは、テレフタル酸成分60~90モル%およびイソフタル酸成分10~40モル%をジカルボン酸成分としてなる共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0069】
ポリエステルにイソフタル酸成分を10~40モル%の範囲で共重合することによって、フロー延伸倍率が著しく向上することができる。共重合させない場合には10倍以下にとどまるのに対し、イソフタル酸共重合の場合は、20~200倍程度まで倍率を向上させることができる。このことの理由は明確ではないが、結晶性や未延伸糸やフロー延伸後の繊維中の非晶の分子配向を低下させることができ、また、共重合にもよるが、分子量を大きくしても、フロー延伸中の分子周囲の自由体積(排除体積)が大きくなり、ガラス転移温度より高い温度で分子鎖が動きやすく、分子鎖の絡みが十分確保できるほど分子量を上げることができるため、可能延伸倍率が向上するものと推定している。
【0070】
イソフタル酸成分の共重合量が10モル%未満であるとフロー延伸倍率が低下し、繊維径4μm以下の短カット熱接着性繊維を得ることが困難となり好ましくない。他方、イソフタル酸成分の共重合量が40モル%を超えると、フロー延伸中の繊維間の融着を抑えにくくなり、やはり所望の極細繊維が均一に安定して製造しにくくなり好ましくない。イソフタル酸成分の共重合量は、全ジカルボン酸成分を基準として、さらに好ましくは15~35モル%、特に好ましくは20~30モル%である。
【0071】
短カット熱接着性繊維が複合繊維の形態の場合において、繊維形成性成分と熱接着性成分の双方にイソフタル酸成分を共重合されていることが好ましく、イソフタル酸成分の共重合量が繊維形成性成分と熱接着性成分とで異なっていてもよいが、その場合でも、双方の荷重平均(すなわち繊維全体として)のイソフタル酸成分の共重合量は10~40モル%の範囲であることが好ましい。
【0072】
上記の共重合ポリエステルは、アルキレンテレフタレートを主たる繰り返し成分としてなるが、この繰り返し単位は、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートであることが好ましい。そして、共重合ポリエステルのジオール成分としては、脂肪族ジオールを用いることが好ましい。
【0073】
上記の共重ポリエステルのなかでも、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするイソフタル酸共重合ポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルが最も好ましい。なお、フロー延伸性や熱接着性成分の融点や接着力の調整のために、イソフタル酸以外の、アジピン酸、セバシン酸、3-5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの二官能性カルボン酸、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのジオール等が併せて共重合されていてもよい。
【0074】
〔不織布〕
本発明の不織布は、前述で規定される短カット極細繊維と短カット熱接着性繊維を含み、必要に応じてその他の短カット繊維を含み、ウェブを形成後、加熱または加圧によって不織布の形態に成型されることで得ることができる。
【0075】
ウェブの形成方法としては、カーディング法、エアレイド法、抄造法を例示することができ、抄紙法により湿式不織布とすることが特に好ましい。また、ウェブの接合方法としてはエアスルー法、エンボス法、ヤンキードライヤー法、多筒ドライヤー法、カレンダー法、レジンボンド法、ウォータージェット法が例示され、特にカレンダー法やウォータージェット法(スパンレース法、水流交絡法、ハイドロエンタングル法とも呼ばれることがある)が好適である。
【0076】
本発明の不織布において、不織布の全質量に対する短カット極細繊維の質量比率は、好ましくは0.5~50質量%、さらに好ましくは1~40質量%、特に好ましくは3~30質量%である。短カット極細繊維が0.5質量%未満であると、満足する捕集効率を得ることができないだけでなく、湿式不織布としての地合い斑を生じる可能性があり好ましくない。他方、50質量%を超えると、フィルターろ材(湿式不織布)が緻密になり過ぎるため、抄紙工程での濾水性が極端に悪くなり、生産性が悪化したり、圧損が大きくなり過ぎたりするため、好ましくない。
【0077】
また、本発明の不織布において、不織布全質量に対する短カット熱接着性繊維の質量比率は、好ましくは10~99.5質量%、さらに好ましくは10~95.5質量%、さらに好ましくは15~90質量%、特に好ましくは20~85質量%である。短カット極細繊維が10質量%未満であると熱接着性が小さく、不織布強度や加圧変形が不十分で、均一な細孔径を得ることができず、捕集効率やフィルター寿命に劣り、不安定な品質となるだけでなく、湿式不織布としての地合い斑を生じる可能性があり不適である。他方、95.5質量%を超えると短カット極細繊維の効果が不十分で、ろ過性能(捕集効率)として、極細繊維を用いた従来技術のものには及ばない。
【0078】
本発明の不織布は、繊維径の細い短カット熱接着性繊維を使用することで熱接着性成分の接着点の数を増やし、また、繊維間距離を均一にすることによって、フィルターろ材としての形態が維持され、圧力で潰れにくく、高捕集効率、低圧力損失、高フィルター寿命であることが大きな特徴である。
【0079】
本発明の不織布において、不織布の全質量に対して50質量%以下であれば、前記の短カット極細繊維および短カット熱接着性繊維以外の繊維として、各種合成繊維(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、オレフィン系、アラミド系)、木材パルプやリンターパルプなどの天然パルプ、アラミドやポリエチレンを主成分とする合成パルプなどを混抄してもよい。特に、単繊維繊度0.01~0.6dtex、繊維長1~10mmの、延伸されたポリエチレンテレフタレートからなるポリエチレンテレフタレート短繊維が寸法安定性等の観点から好ましい。
【0080】
なお、本発明の不織布は、短カット極細繊維と短カット熱接着性繊維を含む要件を満たせば、目的に応じて、短カット極細繊維と短カット熱接着性繊維が、それぞれ繊維径やポリマーの種類や組成が異なる2種以上の短カット繊維を混合した形態であってもよい。また、不織布は混合比が全体で均一な単層であってもよいが、目的に応じて、2層以上の多層で構成されていてもよい。その場合、フィルターろ材として使用するには、隣接する層間に境界面が存在しない混合比率や繊維密度が不織布の厚み方向に傾斜構造(混合比率や繊維密度が徐々に増減する)態様であることが好ましく、このような形態は、ウェブ形成の工程において、カーディング機やエアレイドウェブ製造装置、抄造機を複数配し、混合比率や繊維種別が異なる層を積層した後に、熱接着または熱圧着において繊維間を固定することで可能となる。また、2層以上の多層で構成する場合、短カット極細繊維の混合比率が大きい、または構成される繊維全体の平均繊維径が小さいと密度が大きく、貫通細孔は小さくすることができる。このようにウェブ層毎に密度差を設けることで、高捕集効率と低圧力損失とを有し、かつ高フィルター寿命を有するフィルターを設計することが可能である。ウェブ層の密度は、ろ過方向に大きくなるように設計してもよいし、小さく設計してもよく、大小が混合している積層状態であってもよく、目的に応じて自由に設計すればよい。
【0081】
また、目的によっては、フィルターの引張強力や堅さ、粗塵用プレフィルター的なフィルター寿命の更なる向上、プリーツ安定性や他素材の接着性などの目的によって、他素材の不織布を積層してもよい。例えば、他素材としては、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、ヒートボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布、レジンボンド不織布、ステッチボンド不織布、トウ開繊不織布、バーストファイバー不織布、これらの不織布の複合積層物、その他、織編物などを積層してもよい。
【0082】
本発明の不織布の目付は、好ましくは1~500g/m、さらに好ましくは3~400g/m、特に好ましくは5~300g/mである。目付が1g/m未満であると不織布が薄過ぎる為強度が弱くなり、また、抄紙で斑が生じやすく、フィルター使用時にろ過すべき物質を通過する欠陥や破損を生じる恐れがある。他方、500g/mを越えると、抄造時に水が抜けにくくなり、製造面、コスト面で問題が生じやすい。
【0083】
本発明の不織布の厚みは、好ましくは0.01~3.0mm、さらに好ましくは0.5~3.0mm、特に好ましくは1.0~2.5mmである。厚みが0.01mm未満であると、ろ材の強度が不足するため好ましくない。他方3.0mmを超えると、フィルターろ材としてのコンパクト性が低下し、特にろ過面積を増やすために行われるプリーツ加工(ジグザグ折り畳み構造)の成型が難しい方向であるため好ましくない。
【0084】
本発明の不織布において、貫通細孔の平均細孔径は好ましくは0.1~10.0μm、より好ましくは0.3~5.0μm、さらに好ましくは0.5~2.5μmである。平均細孔径が0.1μm未満であると、フィルターろ材の圧力損失が高くなりすぎて、フィルターろ過後の空気流量が低下するため好ましくない。他方10.0μmを超えると、フィルターろ材としての緻密性が低下し、微小粒子の捕集率が低下するため、好ましくない。
【0085】
また、本発明の不織布において、貫通細孔の最大細孔径/平均細孔径(最大細孔径を平均細孔径で割った値)は好ましくは1.0~2.5、好ましくは1.0~2.3である。最大細孔径/平均細孔径が1.0であることは、不織布の貫通孔径が均一であることを示し、最も好ましい。最大細孔径/平均細孔径が2.5を超えると、フィルターろ材としての緻密性が低下し、微小粒子の捕集率が低下するため、好ましくない。なお、孔形状が真円でない場合は、長径を孔径とする。
【0086】
上記の目付および厚みの本発明の不織布において、その通気性は好ましくは0.5~10cm/cm/sec、さらに好ましくは0.7~5cm/cm/sec、特に好ましくは1~4cm/cm/secである。通気性が0.5cm/cm/sec未満であると、フィルターの圧力損失が高くなりすぎてフィルターろ過後の空気流量が低下するため好ましくない。他方、通気性が10cm/cm/secを超えると、フィルターろ材としての緻密性が低下し、捕集効率が低下するため好ましくない。
【0087】
本発明の不織布は、以下の式で算出される30kPa加圧時の圧縮率が30%以下、好ましくは26%以下である。30kPa加圧時の圧縮率が30%を超えると、フィルターとして使用する際の圧力でフィルターろ材としての不織布が潰れて高密度になり、寿命が低下する。
加圧時の圧縮率(%)=圧縮時のろ材の厚み(mm)/圧縮前のろ材の厚み(mm)
【0088】
〔不織布の製造方法〕
本発明の不織布は、通常の長網抄紙機、短網抄紙機、円網抄紙機またはこれらを複数台組み合わせて多層抄きなどとして抄紙して湿式不織布を得た後、熱処理することにより製造することができる。
【0089】
熱処理工程は、抄紙法によるウェブ形成工程後に行い、熱処理にはヤンキードライヤー、エアースルードライヤーのどちらでも適用できる。熱処理温度は、通常100~140℃、好ましくは110~130℃、熱処理時間は例えば30~300秒、好ましくは60~180秒である。不織布には、必要に応じて、カレンダー加工やエンボス加工、平板熱プレス加工を施してもよい。カレンダー加工の場合、カレンダーローラーの温度は例えば140~250℃、ローラー間の線圧は例えば1~100kN/mである。
【0090】
〔フィルター〕
本発明の不織布は、短カット極細繊維短カットおよび熱接着性繊維に、非常に細い繊維
径のものを用いており、フィルターろ材として用いたときに、高い捕集率、低い圧力損失および長い寿命の全てを満足するフィルターを得ることができる。
【0091】
本発明の不織布を用いてなるフィルターは、例えばケミカルフィルター、エアーフィルター、液体フィルター、オイルフィルターに好適に用いることができる。
本発明の不織布は、均質で極めて孔径が小さいので、フィルター以外にも、孔版印刷用原紙、ワイパー、電池セパレーター、人工皮革などとしても好適に使用することができる。
【実施例0092】
次に、本発明の実施例及び比較例を詳述する。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0093】
(1)固有粘度
ポリマーサンプル0.12gを10mLのテトラクロロエタン/フェノール混合溶媒(容量比1/1)に溶解し、35℃における固有粘度(dL/g)を測定した。
【0094】
(2)融点
Du Pont社製熱示差分析計990型を使用し、昇温速度20℃/分で測定し、融解ピークを求めた。融解温度が明確に観測されない場合には、微量融点測定装置(柳本製作所製)を用い、ポリマーが軟化して流動を始めた温度(軟化点)を融点とした。いずれの場合も、測定するサンプル数を5個とし、平均値を求めた。
【0095】
(3)溶融粘度
供試ポリマーを乾燥し、溶融紡糸用押出機の溶融温度に設定されたオリフィス中にセットし、5分間溶融状態に保持したのち、所定水準の荷重下に、押出し、このときの剪断速度と溶融粘度とをプロットした。上記操作を、複数水準の荷重下において繰り返した。上記データに基づいて、剪断速度-溶融粘度関係曲線を作成した。この曲線上において、剪断速度が1000秒-1のときの溶融粘度を見積った。
【0096】
(4)溶解速度測定
海・島両成分用ポリマーの各々を、24個の孔径0.3mm、ランド長0.6mmの吐出孔を有する海島型複合繊維製造用紡糸口金を通して押出し、1000~2000m/分の速度で巻取りし、この繊維を延伸した。その切断伸び率が30~60%の範囲内にコントロールして、75dtex/24フィラメントのマルチフィラメントを製造した。このマルチフィラメントを、溶剤にて所定温度で浴比50にて溶解し、このときの溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
【0097】
(5)繊維長L
キーエンス製デジタルマイクロスコープ(VHX-5000)を用いて単糸繊維長を100本測定し、平均値を繊維長L(単位:mm)とした。
【0098】
(6)繊維径D(短カット極細繊維の場合)
透過型電子顕微鏡TEM(測長機能付)を使用し、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影して測定した。繊径Dは、単繊維横断面におけるその外接円の直径を用いた(サンプル数5個の平均値)。
【0099】
(7)繊維径D(短カット極細繊維以外の場合)
単糸繊度d(dtex)と密度ρ(g/cm)から、次式により算出した(単位:μm)。ここで、πは円周率である。
D(μm)=20×(d/πρ)1/2
【0100】
(8)単糸繊度(d)(短カット極細繊維以外の場合)
延伸後の繊維束2000mmを採取し、120℃の熱風乾燥機で40分間乾燥させた後、測定した絶乾質量を5000倍し、繊維束の総繊度(単位:dtex)を測定した。得られた総繊度を構成される単糸繊維本数で除して、単糸繊度d(単位:dtex)を算出した。
【0101】
(9)繊維密度(短カット極細繊維以外の場合)
JIS L1015:2010 8.14.2記載の密度勾配管法を用いて、繊維密度ρ(単位:g/cm)を測定した。
【0102】
(10)アスペクト比(L/D)
単糸繊度から計算で算出した繊維径D(単位:mm)と繊維長L(単位をμmからmmに換算)の値を用いて、繊維長(L)/繊維径(D)の比率をアスペクト比(L/D)とした。
【0103】
(11)目付
JIS P8124:2011(紙及び板紙-坪量の測定方法)に基づいて実施した。
【0104】
(12)厚さ
JIS P8118:2014(紙及び板紙-厚さ,密度及び比容積の試験方法)に基づいて実施した。
【0105】
(13)不織布密度
JIS P8118:2014(紙及び板紙-厚さ,密度及び比容積の試験方法)に基づいて実施した。
【0106】
(14)通気性
JIS L1913:2010(一般不織布試験方法)6.8に基づいて実施した。
【0107】
(15)比引張り強さ
JIS P8113:2006(紙及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸長法)に基づいて、サンプル作成時のドライヤー通紙方向(MD)およびそれと直交する方向(CD)についてそれぞれ測定し、比引張強さに換算した。(単位:N・m/g)
【0108】
(16)30kPa圧縮率
JIS L1913:2010(一般不織布試験方法)6.14に基づいて実施した。
【0109】
(17)細孔径
直径2.5cmの円形サンプルを不織布からランダムに2点採取し、パームポロメーター(PMI社製 細孔径分布測定器)を用いて平均細孔径、最小細孔径、最大細孔径(単位:μm)を測定した。また、最大細孔径/平均細孔径の値を算出した。
【0110】
(18)大気塵捕集率
風速5.1cm/secとなるように調整し、試料前後の大気塵をパーティクルカウンター(リオン株式会社製 KC-03B)でカウントし、その比によって捕集率を算出した。
大気塵捕集率(%)=(1-(試料通過後大気塵数/試料通過前大気塵数))×100
【0111】
(19)圧力損失
大気塵捕集率測定時(風速5.1cm/sec)の試験片通過前後の圧力を測定し、その圧力差を圧力損失として求めた。
【0112】
(20)フィルター寿命
試験用ダストとしてJIS Z 8901の8種を用い、サンプル通過時の流速16.7cm/sec、ダスト濃度を1g/mとした時、圧力損失の増加が2kPaとなった時のダスト捕集量(質量増加)を測定(g/m)した。
【0113】
[実施例1]
島成分に285℃での溶融粘度が120Pa・secのポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.64dL/g、融点256℃)、海成分に285℃での溶融粘度が135Pa・secである、平均分子量4000のポリエチレングリコールを4質量%、5-ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.39dL/g、融点226℃)を使用し、海:島=10:90の質量比率で、図1に示す構造の島数400の海島型複合繊維紡糸用口金を用いて紡糸し、紡糸速度1500m/minで引き取った。なお、島成分と海成分とのアルカリ減量速度差は1000倍であった。
【0114】
これを3.9倍に延伸した後、ギロチンカッターで繊維長1mmにカットして、短カット極細繊維A用の複合繊維を得た。これを濃度4質量%のNaOH水溶液で75℃にて10%減量したところ、繊維径と繊維長が比較的均一である極細短繊維が生成した。これを短カット極細繊維Aとした。得られた短カット極細繊維Aの繊維径は0.75μm、繊維長は0.8mm、アスペクト比は1067であった。
【0115】
他方、繊維形成性成分がイソフタル酸20モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.64dL/g、融点202℃)であり、熱接着性成分がイソフタル酸40モル%-ジエチレングリコール4モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.55dL/g、融点(軟化点)110℃)であり、繊維形成性成分が芯であり、熱接着性成分が鞘である芯鞘型複合繊維(芯:鞘=50:50 質量比率)を用意した。
【0116】
なお、この芯鞘型複合繊維に含まれる共重合成分であるイソフタル酸成分の含有量は、芯の繊維形成性成分に含まれる10モル%(20モル%×50%)と鞘の熱接着性成分に含まれる20モル%(40モル%×50%)の和として、30モル%であった。
【0117】
芯鞘型複合繊維を得るために、繊維形成性成分および熱接着性成分を、それぞれ別々のベント式二軸エクストルーダーで溶融し、繊維形成性成分を芯成分とし、熱接着性成分を鞘成分とし、質量比が芯:鞘=50:50となるように、孔径0.3mmのキャピラリーを1336孔有する公知の芯鞘型複合紡糸口金で複合して、糸状に溶融吐出させた。この際、口金温度は290℃、吐出量は430g/分とした。
【0118】
さらに吐出糸条を口金下31mmの位置で25℃の冷却風により冷却固化し、その下部でポリエーテル・ポリエステル共重合体水系エマルジョンを固形分付着量で0.5質量%付与しつつ、500m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。
【0119】
この未延伸糸を82℃の温水中で63倍に延伸し、続いて70℃の温水中で2倍に延伸した。繊維表面にポリエーテル・ポリエステル共重合体水溶液を付与した後、3mmの繊維長にカットし、繊度0.051dtex(繊維径2.3μm、繊維長3mm、アスペクト比1328)の短カット熱接着性繊維Bを得た。
【0120】
これ以外に、その他繊維Cとして、ポリエチレンテレフタレート短繊維(帝人フロンティア株式会社製 テピルス TA04PN SD0.1×3(固有粘度0.47dL/g、融点256℃、繊度0.1dtex、繊維径4μm、繊維長3mm、アスペクト比750)を用いた。
【0121】
短カット極細繊維A、短カット熱接着性繊維Bおよびその他繊維Cを、所定の質量割合(短カット極細繊維A/短カット熱接着性繊維B/その他繊維C=15/40/45)で混合攪拌し、TAPPI(熊谷理機工業製角型シートマシン)により目付100g/mで抄紙した後、ヤンキードライヤーで乾燥(120℃×2分)を施して湿式不織布を得た。得られた不織布(ろ材)の物性を表1および2に示す。
【0122】
[実施例2]
実施例1の抄紙において目付を300g/mとした他は実施例1と同様の方法で湿式不織布を得た。得られた不織布(ろ材)の物性を表1および2に示す。
【0123】
[実施例3]
短カット熱接着性繊維Bとして以下に説明する芯鞘型複合繊維の短カット繊維を用い、ドライヤー温度を150℃に変更した他は実施例1と同様の方法で湿式不織布を得た。得られた不織布(ろ材)の物性を表1および2に示す。
【0124】
繊維形成性成分がイソフタル酸20モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.64dL/g、融点202℃)、熱接着性成分がイソフタル酸20モル%-1,4ブタンジオール65モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.62dL/g、融点(軟化点)155℃)であり、繊維形成性成分を芯とし、熱接着性成分を鞘とする芯鞘型複合繊維を用いて、短カット熱接着性繊維Bを作成した。
【0125】
なお、短カット熱接着性繊維B中に含まれる共重合であるイソフタル酸成分は、繊維形成性成分に含まれる10モル%(20モル%の50%)と熱接着性成分に含まれる10モル%(20モル%の50%)の和として、20モル%であった。
【0126】
短カット熱接着性繊維Bを得るために、繊維形成性成分および熱接着性成分を、別々のベント式二軸エクストルーダーでそれぞれ溶融し、繊維形成性成分を芯成分とし、熱接着性成分を鞘成分とし、質量比が芯:鞘=50:50となるように、孔径0.3mmのキャピラリーを1336孔有する公知の芯鞘型複合紡糸口金で複合して糸状に溶融吐出させた。この際、口金温度は290℃、吐出量は430g/分とした。
【0127】
さらに吐出糸条を口金下42mmの位置で25℃の冷却風により冷却固化し、その下部でポリエーテル・ポリエステル共重合体水系エマルジョンを固形分付着量で0.5質量%付与しつつ、500m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。
【0128】
この未延伸糸を、82℃の温水中で28倍に延伸し、続いて70℃の温水中で2.9倍に延伸した。繊維表面にポリエーテル・ポリエステル共重合体水溶液を付与した後、3mmの繊維長にカットし、繊度0.079dtex(繊維径2.8μm、繊維長3mm、アスペクト比1067)の短カット熱接着性繊維Bを得た。
【0129】
[実施例4]
実施例3の抄紙において目付を300g/mとした他は実施例3と同様の方法で湿式不織布を得た。得られた不織布(ろ材)の物性を表1および2に示す。
【0130】
[実施例5および6]
イソフタル酸20モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.64dL/g、融点202℃)をベント式二軸エクストルーダーで溶融し、孔径0.18mmのキャピラリーを1192孔有する公知の単成分用の紡糸口金から糸状に溶融吐出させた。この際、口金温度は290℃、吐出量は200g/分とした。
【0131】
さらに吐出糸条を口金下26mmの位置で25℃の冷却風により冷却固化し、その下部でポリエーテル・ポリエステル共重合体水系エマルジョンを固形分付着量で0.5質量%付与しつつ、500m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を82℃の温水中で68倍に延伸し、続いて70℃の温水中で2倍に延伸した。繊維表面にポリエーテル・ポリエステル共重合体水溶液を付与した後、3mmの繊維長にカットし、繊度0.025dtex(繊維径1.6μm、繊維長3mm、アスペクト比1897)の熱接着性成分のみからなる短カット熱接着性繊維Bを得た。なお、短カット熱接着性繊維B中に含まれる共重合イソフタル酸成分は20モル%であった。
【0132】
実施例1および2において、短カット熱接着性繊維Bを前述のものに置き換えて、実施例1および2と同様の方法で抄紙・乾燥を施した後、油圧式クリアランスエンボス機(由利ロール株式会社製)を用いて190℃、29kN/m、速度2m/minで熱圧着処理を施し、湿式不織布を得た。得られた不織布(ろ材)の物性を表1および2ならびに表3および4に示す。
【0133】
[比較例1]
短カット熱接着性繊維Bとして以下に説明する芯鞘型複合繊維を用いた他は実施例1と同様の方法で湿式不織布を得た。得られた不織布(ろ材)の物性を表3および4に示す。
【0134】
繊維形成性成分がポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.64dL/g、融点256℃)、熱接着性成分がイソフタル酸40モル%-ジエチレングリコール4モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.55dL/g、融点(軟化点)110℃)である、繊維形成性成分を芯とし、熱接着性成分を鞘とする芯鞘複合繊維を用いて、短カット熱接着性繊維Bを用意した。
【0135】
芯鞘型複合繊維の製造方法としては、繊維形成性成分および熱接着性成分をそれぞれ別々のベント式二軸エクストルーダーで溶融し、繊維形成性成分を芯成分とし、熱接着性成分を鞘成分とし、質量比が芯:鞘=50:50となるように、孔径0.3mmのキャピラリーを1336孔有する公知の芯鞘型複合紡糸口金で複合して糸状に溶融吐出させた。この際、口金温度は290℃、吐出量は600g/分とした。
【0136】
さらに吐出糸条を口金下56mmの位置で25℃の冷却風により冷却固化し、その下部でポリエーテル・ポリエステル共重合体水系エマルジョンを固形分付着量で0.5質量%付与しつつ、1350m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を58℃の温水中で2.6倍に延伸し、続いて56℃の温水中で1.15倍に延伸した。繊維表面にポリエーテル・ポリエステル共重合体水溶液を付与した後、5mmの繊維長にカットし、繊度1.1dtex(繊維径10.5μm、繊維長5mm、アスペクト比477)の短カット熱接着性繊維Bを得た。
【0137】
なお、この短カット熱接着性繊維B中に含まれる共重合イソフタル酸成分は、繊維形成性成分に含まれる0モル%(0モル%の50質量部)と熱接着性成分に含まれる20モル%(40モル%の50質量部)の和として、20モル%であった。
【0138】
[比較例2]
比較例1の抄紙において目付を300g/mとした他は比較例1と同様の方法で湿式
不織布を得た。得られた不織布(ろ材)の物性を表3および4に示す。
【0139】
[比較例3および4]
短カット熱接着性繊維Bとして以下に説明する熱接着性成分単一成分からなる繊維を用いて、実施例5および6と同様の方法で湿式不織布を得た。得られた不織布(ろ材)の物性を表3および4に示す。
【0140】
熱接着性成分単一成分からなる繊維を得るために、イソフタル酸20モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.64dL/g、融点202℃)をベント式二軸エクストルーダーで溶融し、孔径0.18mmのキャピラリーを1192孔有する公知の単成分用の紡糸口金から糸状に溶融吐出させた。この際、口金温度は285℃、吐出量は180g/分とした。
【0141】
さらに吐出糸条を口金下25mmの位置で25℃の冷却風により冷却固化し、その下部でポリエーテル・ポリエステル共重合体水系エマルジョンを固形分付着量で0.5質量%付与しつつ、1350m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸は延伸せずに繊維表面にポリエーテル・ポリエステル共重合体水溶液を付与した後、5mmの繊維長にカットし、繊度1.1dtex(繊維径10.5μm、繊維長5mm、アスペクト比477)の熱接着性成分単一成分からなる短カット熱接着性繊維Bを得た。なお、この短カット熱接着性繊維B中に含まれる共重合イソフタル酸成分の量は20モル%であった。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
【表3】
【0145】
【表4】
【0146】
融点の欄の括弧内の数値は、軟化点を表す。
表1乃至表4をまとめて表5として以下に掲載する。
【0147】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の不織布は、フィルターろ材として好適に用いることができる。このフィルターは、高い捕集効率と低い圧力損失とを有し、かつ長いフィルター寿命を有するので、吸気用内燃機関用エアーフィルターなどとして好適に用いることができる。もちろん、室内エアコン用、冷房機用、暖房機(電気式、灯油式など)用、自動車エアコン用、空気清浄機用、クリーンルーム用、室内加湿器用など他の用途のエアーフィルターやマイクロフィルタおよび液体フィルターとして用いてもさしつかえない。
【符号の説明】
【0149】
1 紡糸口金
2 島成分用ポリマー溜め部
3 島成分用ポリマー導入通路
4 海成分用ポリマー導入通路
5 海成分用ポリマー溜め部
6 芯鞘型複合流用通路
7 合流通路
8 吐出口
図1