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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094685
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】親水化剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/32 20060101AFI20220620BHJP
【FI】
C08F220/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207713
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青野 竜也
(72)【発明者】
【氏名】山田 明宏
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL08Q
4J100AL10P
4J100BC54P
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA04
4J100JA28
4J100JA43
4J100JA57
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れ、エラストマーに対する親水性付与効果を有し、さらに経時安定性及び色素の分散性にも優れる親水化剤を提供する。
【解決手段】エポキシ基含有モノマー(A1)、及び、下記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)を含むモノマー成分を重合してなり、前記モノマー成分中、前記エポキシ基含有モノマー(A1)の割合が10~95mol%であり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の割合が5~90mol%である共重合体を含む親水化剤。
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素数9~22のアルキル基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基含有モノマー(A1)、及び、下記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)を含むモノマー成分を重合してなり、前記モノマー成分中、前記エポキシ基含有モノマー(A1)の割合が10~95mol%であり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の割合が5~90mol%である共重合体を含む親水化剤。
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素数9~22のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記エポキシ基含有モノマー(A1)がグリシジル(メタ)アクリレートである、請求項1に記載の親水化剤。
【請求項3】
前記モノマー成分が、更に水酸基含有モノマー(A3)を含む、請求項1または請求項2に記載の親水化剤。
【請求項4】
前記水酸基含有モノマー(A3)の割合が60mol%以下である、請求項3に記載の親水化剤。
【請求項5】
前記水酸基含有モノマー(A3)がグリセリンモノ(メタ)アクリレートまたは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである、請求項3または請求項4に記載の親水化剤。
【請求項6】
前記共重合体のポリスチレン換算重量平均分子量が3,000~50,000である、請求項1~5のいずれか1項に記載の親水化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は親水化剤に関し、特に、エラストマーに対する親水性付与効果を有し、耐熱性及び親水性の経時安定性に優れる親水化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エラストマーは、耐熱性、耐摩耗性、及び、弾性に優れることから、日用雑貨や建築・土木素材、電化製品部品、自動車部品と幅広い用途に使用されており、各用途での要求特性に合わせ、エラストマーを改質することが一般的に行われている。
【0003】
エラストマーの改質の一つに、親水化処理がある。エラストマーを親水化することにより、エラストマー表面及び内部の改質することができる。表面改質の効果としては、濡れ性向上、密着性の向上、防曇性能の付与、防汚性能の付与などが挙げられる。また、内部改質の効果としては、色素の分散性向上などが挙げられる。例えば、特許文献1には、エラストマー内部に色素を分散させた組成物が開示されている。
【0004】
親水化方法の1つとして、プラズマ照射や紫外線照射による処理が挙げられる。特許文献2に、エチレンプロピレンエラストマーの表面に、プラズマまたは紫外線照射によりを親水化する方法が開示されている。
【0005】
別の親水化方法として、エラストマーに親水化剤を添加することが知られている。特許文献3に、アクリロニトリルブタジエンエラストマーに親水性化剤としてポリエチレングリコールエステルを添加することにより、親水性や防汚性に優れるゴム組成物が得られることが開示されている。また特許文献4に、アルキレンオキサイド付加物と炭素数1~24のモノカルボン酸とのエステル化物の親水化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-043401号公報
【特許文献2】特開2013-123975号公報
【特許文献3】特開2018-53160号公報
【特許文献4】特開2017-171815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示されている、プラズマまたは紫外線による親水化方法では、製造設備に照射装置が必要となり、大型の製品や複雑形状の製品への適用には不向きであった。
【0008】
一方、親水化剤による親水化方法では、親水化剤の耐熱性が低いと、エラストマーを用いた製品の製造過程で加熱が施される工程(例えば加硫工程、溶融混錬工程)が含まれると、親水化剤が分解して機能を喪失する可能性がある。特許文献4に開示される親水化剤は、高温条件下で熱分解しやすいことが問題となっていた。
特許文献3に記載される親水化剤は、加硫工程を経ても親水性を発揮する点では耐熱性を有していると言える。しかしながら、特許文献3では時間経過により親水性の低下といった特性変化が検討されていなかった。このため、親水化剤による効果の経時安定性に課題があった。
また、特許文献3及び特許文献4のいずれにおいても、色素の分散性との観点での評価は行われていなかった。
【0009】
本発明は、耐熱性に優れ、エラストマーに対する親水性付与効果を有し、さらに経時安定性及び色素の分散性にも優れる親水化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、特定構造の重合体を親水化剤として用いることにより上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、本発明は、以下の<1>~<6>を提供する。
<1>エポキシ基含有モノマー(A1)、及び、下記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)を含むモノマー成分を重合してなり、前記モノマー成分中、前記エポキシ基含有モノマー(A1)の割合が10~95mol%であり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の割合が5~90mol%である共重合体を含む親水化剤。
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素数9~22のアルキル基を示す。)
<2>前記エポキシ基含有モノマー(A1)がグリシジル(メタ)アクリレートである、<1>に記載の親水化剤。
<3>前記モノマー成分が、更に水酸基含有モノマー(A3)を含む、<1>または<2>に記載の親水化剤。
<4>前記水酸基含有モノマー(A3)の割合が60mol%以下である、<3>に記載の親水化剤。
<5>前記水酸基含有モノマー(A3)がグリセリンモノ(メタ)アクリレートまたは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである、<3>または<4>に記載の親水化剤。
<6>前記共重合体のポリスチレン換算重量平均分子量が3,000~50,000である、<1>~<5>のいずれかに記載の親水化剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の親水化剤を用いることにより、耐熱性が高く、エラストマーに親水性を付与することができる親水化剤を得ることができる。更には、本発明の親水化剤を用いることにより、更に親水性の経時安定性に優れ、色素の分散性が高いエラストマー組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の親水化剤について、詳細に説明する。なお、本明細書中の「AA~BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0013】
[親水化剤(共重合体P)]
本発明の親水化剤は、エポキシ基含有モノマー(A1)、及び、下記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)を含むモノマー成分を重合してなり、前記モノマー成分中、前記エポキシ基含有モノマー(A1)の割合が10~95mol%であり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の割合が5~90mol%である共重合体を含むものである。
【化2】

(一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素数9~22のアルキル基を示す。)
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを包含する総称である。
【0014】
本発明における共重合体(P)は、エポキシ基含有モノマー(A1)、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)に由来する構成単位のみから構成されていて良い。あるいは、これらのモノマーに由来する構成単位以外に、他のモノマーに由来する構成単位を含んでいても良い。
【0015】
共重合体(P)は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互コポリマーなど、いずれの形態であっても良い。特に、ランダム共重合体が好適である。
【0016】
本発明の親水化剤には、共重合体(P)以外に他の成分が含まれていても良い。本発明の親水化剤における共重合体(P)の含有量は、70~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましい。
【0017】
<エポキシ基含有モノマー(A1)>
共重合体(P)は、エポキシ基含有モノマー(A1)に由来する構成単位を含む。共重合体(P)がモノマー成分としてエポキシ基含有モノマーを含むことにより、エラストマーに親水性を付与することができる。
【0018】
エポキシ基含有モノマー(A1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)と重合可能な官能基を有していることが好ましい。このような官能基として、アクリル基、メタクリル基、ビニル基などが挙げられる。本発明においては、エポキシ基含有モノマー(A1)は、アクリル基、または、メタクリル基を有していることが特に好ましい。
【0019】
エポキシ基含有モノマー(A1)は、分子量が50~500、好ましくは100~300の単量体であることが好ましい。上記分子量のモノマーを用いることにより、エラストマーに親水性を付与することができる。
【0020】
エポキシ基含有モノマー(A1)としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。エラストマーへの親水性の付与効果及び入手の容易性から、エポキシ基含有モノマー(A1)としては、グリシジル(メタ)アクリレート、または、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートが好ましく、グリシジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
エポキシ基含有モノマー(A1)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。2種類以上を併用する場合は、主鎖が異なる(メタ)アクリレートを組み合せても良く、主鎖が同じメタクリレートとアクリレートのみを組み合せても良い。
【0021】
共重合体(P)のモノマー成分中、エポキシ基含有モノマー(A1)の割合(全モノマーに対するエポキシ基含有モノマー(A1)の含有割合)は、10~95mol%である。エポキシ基含有モノマー(A1)の含有割合が10mol%未満であると、エラストマーの親水性および色素分散性が低下する。一方、エポキシ基含有モノマー(A1)の含有割合が95mol%を超えると、親水性が発現し難くなるとともに、経時安定性が低下する。エラストマーに適度な親水性を付与するとの観点から、エポキシ基含有モノマー(A1)の含有割合は、15~50mol%であることが好ましく、20~40mol%であることがより好ましい。
【0022】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)>
共重合体(P)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)に由来する構成単位を含む。共重合体(P)がモノマー成分として上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)を含むことにより、親水化剤の経時安定性及び色素の分散性を向上させることができる。
本発明における(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)は、下記一般式(1)で示される。
【化3】

一般式(1)中、R1は、水素原子またはメチル基である。重合性の観点からメチル基が好ましい。
R2は、炭素数9~22のアルキル基である。炭素数9~22のアルキル基としては、例えば、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ラウリル基、ステアリル基などが挙げられる。エラストマーへの親水性付与の観点から、R2を構成するアルキル基の炭素数は、12~22が好ましい。更に、親水化剤の耐熱性及び経時安定性の観点から、R2を構成するアルキル基の炭素数は、16~18がより好ましく、18が特に好ましい。
R2は、分岐アルキル基であっても良く、直鎖アルキル基であっても良いが、直鎖アルキル基であることが特に好ましい。R2が分岐アルキル基である場合には、R2の主鎖部分の炭素数が9以上であることが好ましい。
【0023】
本発明に適用される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の例としては、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ベヘニルなどが挙げられる。この中でも、(メタ)アクリル酸ステアリルが好ましく、メタアクリル酸ステアリルが特に好ましい。
【0024】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
共重合体(P)のモノマー成分中、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の割合(全モノマーに対する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有割合)は、5~90mol%である。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有割合が5mol%より少ないと、エラストマーに親水性、耐熱性、および経時安定性を付与することが困難となる。一方、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有割合が90mol%より多いと、色素分散性やエラストマーの硬度が低下するおそれがある。親水性、耐熱性、経時安定性及び色素分散性を考慮すると、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有割合は、7~50mol%であることがより好ましく、10~30mol%であることが更に好ましい。
【0026】
また、エポキシ基含有モノマー(A1)及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有割合の合計に対する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の含有割合の比率は、0.30~0.70が好ましく、0.30~0.65がより好ましく、0.30~0.60が特に好ましい。上記範囲として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)の割合を多くすることにより、親水性、耐熱性、経時安定性及び色素分散が良好なエラストマーとすることができる共重合体(P)を得ることができる。
【0027】
<水酸基含有モノマー(A3)>
共重合体(P)は、水酸基含有モノマー(A3)に由来する構成単位を更に含んでいてもよい。共重合体(P)がモノマー成分として水酸基含有モノマー(A3)を含むことにより、エラストマーの親水性及び色素分散性を更に良好にできるとともに、適度な硬度を有するエラストマーとすることができる。
【0028】
水酸基含有モノマー(A3)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)と重合可能な官能基を有していることが好ましい。このような官能基として、アクリル基、メタクリル基、ビニル基などが挙げられる。本発明においては、水酸基含有モノマー(A3)は、アクリル基、または、メタクリル基を有していることが特に好ましい。
【0029】
水酸基含有モノマー(A3)は、分子量が50~1000、好ましくは100~300の単量体であることが好ましい。上記分子量のモノマーを用いることにより、エラストマーに適度な親水性、色素分散性及び硬度を付与することができる。
【0030】
水酸基含有モノマー(A3)としては、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。エラストマーとの相溶性と親水性付与効果の観点から、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0031】
共重合体(P)のモノマー成分中、水酸基含有モノマー(A3)の割合(全モノマーに対する水酸基含有モノマー(A3)の含有割合)は、60mol%以下であることが好ましい。水酸基含有モノマー(A3)の割合が60mol%以下であることにより、親水性、色素分散性及び硬度が良好なエラストマーを得ることができる。水酸基含有モノマー(A3)の割合は、より好ましくは55mol%以下、更に好ましくは50mol%以下である。なお、水酸基含有モノマー(A3)による上記効果を得るとの観点から、水酸基含有モノマー(A3)の割合は、好ましくは20mol%以上、より好ましくは30mol以上%である。
【0032】
エポキシ基含有モノマー(A1)及び水酸基含有モノマー(A3)の含有量の合計に対する水酸基含有モノマー(A3)の含有量の比率(モル比)は、0.30~0.80が好ましく、0.40~0.70がより好ましい。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)及び水酸基含有モノマー(A3)の含有量の合計に対する水酸基含有モノマー(A3)の含有量の比率(モル比)は、0.40~0.80が好ましく、0.50~0.70がより好ましい。上記範囲とすることで、親水性、色素分散性及び硬度が良好なエラストマーとすることができる共重合体(P)を得ることができる。
【0033】
<他のモノマー>
共重合体(P)は、上記(A1)~(A3)に由来する構成単位以外に、(A1)~(A3)と重合可能なモノマーに由来する構成単位を含んでいても良い。共重合体(P)に他のモノマー成分を含ませることにより、親水化剤の種々の物性を調整することができる。他のモノマーとしては、例えば、炭素数1~8の(メタ)アクリル酸アルキルなどが挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、オクチル基などが挙げられる。この場合、共重合体(P)のモノマー成分中、他のモノマーの割合(全モノマーに対するA1~A3以外のモノマーの含有割合)は、上記(A1)~(A3)のモノマー成分による効果を得る観点から、30mol%以下であることが好ましく、15mol%以下であることがより好ましく、10mol%以下であることが更に好ましい。
【0034】
<共重合体(P)の分子量>
本発明の共重合体(P)は、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、好ましくは3,000~50,000、より好ましくは4,000~30,000、更に好ましくは5,000~15,000である。共重合体(P)のMwを3,000以上とすることにより、エラストマーに添加した際の経時安定性を確保することができる。また、共重合体(P)のMwを50,000以下とすることにより、エラストマーと共重合体(P)との相溶性を良好とすることができる。
【0035】
本発明の共重合体(P)は、分散度[Mw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)]が、好ましくは1.5~4.0であり、より好ましくは1.5~2.5である。共重合体(P)の分散度を上記範囲とすることにより、上述した本発明の効果をバランスよく付与することができる。
【0036】
なお、共重合体(P)の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として求める。
【0037】
[共重合体(P)の製造方法]
次に、本発明の共重合体(P)を製造する方法について説明する。
共重合体(P)は、エポキシ基含有モノマー(A1)、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A2)、及び、水酸基含有モノマー(A3)を少なくとも含有するモノマー混合物を、ラジカル重合させることにより得ることができる。
重合は公知の方法で行うことができる。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられる。共重合体(P)の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び、分散度(Mw/Mn)を上記範囲内に調整しやすいという面で、溶液重合または懸濁重合が好ましい。
【0038】
重合開始剤としては、公知のものを使用することができる。例えば、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などを挙げることができる。重合開始剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、用いるモノマーの組み合わせや、反応条件などに応じて適宜設定することができる。
重合開始剤の投入は、全量を一括仕込みしてもよいし、一部を一括仕込みして残りを滴下してもよいし、全量を滴下してもよい。なお、モノマー混合物とともに重合開始剤を滴下すると、反応の制御が容易となるので好ましい。更に、モノマー混合物の滴下後も重合開始剤を添加すると、残存モノマーを低減できるので好ましい。
【0039】
溶液重合の際に使用する重合溶媒としては、モノマー及び重合開始剤が溶解するものを使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。
重合溶媒に対するモノマー混合物の濃度は、10~60質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。モノマー混合物の濃度が低すぎると、反応後にモノマーが残存しやすく、得られる共重合体の分子量が低下するおそれがある。一方、モノマーの濃度が高すぎると、発熱を制御し難くなるおそれがある。
重合溶媒へのモノマーの投入に際しては、全量を一括仕込みしても良いし、一部を一括仕込みして残りを滴下しても良いし、あるいは全量を滴下しても良い。発熱の制御しやすさから、一部を一括仕込みして残りを滴下するか、全量を滴下することが好ましい。
【0040】
重合温度は、重合溶媒の種類などにより適宜設定することができるが、50℃~110℃の範囲内であることが好ましい。重合時間は、重合開始剤の種類及び重合温度により設定することができる。例えば、重合開始剤として1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを使用した場合、重合温度を90℃として重合すると、重合時間は6時間程度が適している。
【0041】
以上の重合反応を行なうことにより、本発明の親水化剤の有効成分である共重合体(P)が得られる。得られた共重合体(P)は、そのまま用いてもよいし、重合反応後の反応液に、脱溶媒、ろ取や精製を施して単離してもよい。
【0042】
[エラストマー組成物]
本発明の共重合体(P)は、エラストマー組成物としたときに、エラストマーの親水化剤として好適に用いられる。
上記エラストマーとしては、熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーが挙げられる。熱硬化性エラストマーとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムなどのジエン系ゴム;ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムの非ジエン系ゴム等が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレンやスチレンブタジエンエラストマーなどのポリスチレン系エラストマー、ポリエチレンやエチレン酢酸ビニルエラストマーなどのオレフィン/アルケン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー等が挙げられる。
【0043】
熱硬化性エラストマー中に本発明の重合体(P)を共存させる場合は、加硫前のゴム組成物と共重合体(P)を混合し、その後加硫することが好ましい。
【0044】
エラストマー組成物中での本発明の共重合体(P)の含有量は、エラストマーの質量を100質量部としたとき、0.5質量部~30質量部であることが好ましく、1質量部~20質量部であることがより好ましく、2質量部~10質量部であることが更に好ましい。共重合体の含有量を上記範囲とすることにより、エラストマーに親水性を適切に付与することができる。
【0045】
また、エラストマー組成物は、必要に応じて、物性を調整するために一般的に添加される各種成分を含んでいても良い。このような成分としては、例えば、可塑剤、架橋剤、軟化剤、粘着付与剤、帯電防止剤、充填剤、老化防止剤、シランカップリング剤、亜鉛華(酸化亜鉛)、加硫促進剤、加硫剤、ステアリン酸、作業改良剤、樹脂、ワックス、オイル、溶媒等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していてもよい。
【0046】
エラストマー組成物は、上述した各成分を配合して、公知の方法により混練することによって製造することができる。
【実施例0047】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
[共重合体(P)の重合]
下記重合例に従い、共重合体P1~P7、比較共重合体P’1~P’3を得た。各共重合体中のモノマー成分の割合を表1に示す。表1において、モノマー成分の割合はmol%である。
【0048】
(重合例1)
攪拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコ(反応容器)に、メチルエチルケトン(製品名:MEK、丸善石油化学(株)製)210.0gを仕込み、フラスコ内を窒素置換して、窒素雰囲気下にした。グリシジルメタクリレート(製品名:ブレンマーG、日油(株)製、表1では「GMA」と記載する)50.0g、メタクリル酸ステアリル(製品名:ブレンマーSMA、日油(株)製、表1では「SMA」と記載する)80.0g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(製品名:ブレンマーE、日油(株)製、表1では「HEMA」と記載する)70.0g、及び、メチルエチルケトン40.0gを混合したモノマー溶液を調製した。また、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(製品名:パーブチルND、日油(株)製)50.0g及びメチルエチルケトン50.0gを混合した重合開始剤溶液を調製した。
反応容器内を75℃まで昇温し、モノマー溶液及び重合開始剤溶液を同時にそれぞれ2時間かけて滴下し、その後75℃で3時間反応させた。反応終了後メチルエチルケトンを留去し、共重合体P1を得た。
【0049】
(重合例2)
モノマーを、グリシジルメタクリレート30.0g、メタクリル酸ステアリル120.0g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート50.0gに変更したこと以外は、重合例1と同じ手法で共重合体P2を得た。
【0050】
(重合例3)
モノマーを、グリシジルメタクリレート50.0g、メタクリル酸ラウリル(製品名:ブレンマーLMA、日油(株)製、表1では「LMA」と記載する)80.0g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート70.0gに変更したこと以外は、重合例1と同じ手法で共重合体P3を得た。
【0051】
(重合例4)
モノマーを、グリシジルメタクリレート50.0g、メタクリル酸ステアリル80.0g、グリセリンモノメタクリレート(製品名:ブレンマーGLM、日油(株)製、表1では「GLM」と記載する)70.0gに変更したこと以外は、重合例1と同じ手法で共重合体P4を得た。
【0052】
(重合例5)
モノマーを、グリシジルメタクリレート50.0g、メタクリル酸ステアリル70.0g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート70.0g、メタクリル酸メチル(製品名:MMAモノマー、(株)クラレ製、表1では「MMA」と記載する)10.0gに変更したこと以外は重合例1と同じ手法で重合体P5を得た。
【0053】
(重合例6)
モノマーを、グリシジルメタクリレート80.0g、メタクリル酸ステアリル50.0g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート70.0g、に変更したこと以外は、重合例1と同じ手法で共重合体P6を得た。
【0054】
(重合例7)
モノマーを、グリシジルメタクリレート40.0g、メタクリル酸ステアリル160.0g、に変更したこと以外は、重合例1と同じ手法で共重合体P7を得た。
【0055】
(重合例8)
モノマーを、グリシジルメタクリレート50.0g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート70.0g、メタクリル酸メチル80.0gに変更したこと以外は、重合例1と同じ手法で比較共重合体P’1を得た。
【0056】
(重合例9)
モノマーを、グリシジルメタクリレート200.0gに変更したこと以外は、重合例1と同じ手法で比較共重合体P’2を得た。
【0057】
(重合例10)
モノマーを、2-ヒドロキシエチルメタクリレート200.0gに変更したこと以外は、重合例1と同じ手法で比較共重合体P’3を得た。
【0058】
[共重合体の重量平均分子量、分散度の測定]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の条件により共重合体P1~P7、P’1~P’3の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定した。表1に、重量平均分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)を示す。
装置:東ソー(株)社製、HLC-8220
カラム:shodex社製、LF-804
標準物質:ポリスチレン
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0059】
【表1】
【0060】
[エラストマー組成物の調製]
(実施例1~8、比較例1~3)
共重合体P1~P7、P’1~P’3をそれぞれ0.5g秤量し、オレフィン/アルケン系エラストマー(製品名:ウルトラセン685、東ソー(株)製)10g、及び、トルエン39.5gと混合して、実施例1~7及び比較例1~3のエラストマー組成物のトルエン溶液を調製した。
【0061】
(実施例8)
共重合体P2を3.0g秤量し、エチレンプロピレンエラストマー(製品名:EP912、JSR(株)製)10g、及び、トルエン39.5gを混合して、実施例8のエラストマー組成物のトルエン溶液を調製した。
【0062】
(参考例)
親水化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(製品名:ノニオンE-202S、日油(株)製)を用い、実施例1と同様にオレフィン/アルケン系エラストマー及びトルエンと混合して、参考例のエラストマー組成物のトルエン溶液を調製した。
【0063】
表2に、各実施例及び比較例、参考例の親水化剤及びエラストマーの配合比を示す。表2中の各成分量は、「質量部」である。
【0064】
[評価]
(1)親水性(初期親水性)の評価
実施例1~8、比較例1~3及び参考例のエラストマー組成物のトルエン溶液を、それぞれガラス基板上にバーコーターにより塗布し、ホットプレートにて100℃で30分間乾燥した。これにより、厚さ1μmの樹脂膜を形成した。
得られた樹脂膜の接触角を、JIS R3257に準じて接線法により測定した。以下の指標により、樹脂膜の親水性を評価した。評価結果と接触角を表2に示す。
A(親水性が非常に良好):接触角が30°未満
B(親水性が良好):接触角が30°以上45°未満
C(親水性がやや不良):接触角が45°以上75°未満
D(親水性が不良):接触角が75°以上
【0065】
(2)耐熱性の評価
実施例1~8、比較例1~3及び参考例のエラストマー組成物のトルエン溶液を、それぞれ10g量り取り、真空乾燥オーブンにて120℃、-0.1kPa以下で1時間乾燥し、試料を作製した。得られた試料10mgをアルミパン中に入れ、熱質量分析装置(STA7200、(株)日立ハイエクサイエンス社製)を用い、空気雰囲気下で10℃/分の速度で300℃まで昇温し、熱重量減少率を測定した。
熱重量減少率が5%になったときの温度(Td5)を用い、共重合体(親水化剤)の耐熱性を以下の指標により評価した。評価結果及びTd5の値を表2に示す。
A(耐熱性が非常に良好):Td5が270℃以上
B(親水性が良好):Td5が250℃以上270℃未満
C(親水性がやや不良):Td5が240℃以上250℃未満
D(親水性が不良):Td5が240℃未満
【0066】
(3)経時安定性の評価
(1)で得られた樹脂膜を形成したガラス基板を、80℃湿度70%に1週間保管した。その後、樹脂膜を水洗し、室温で1日乾燥した。乾燥後の樹脂膜の接触角(経時接触角)を、(1)と同様の方法で測定した。(1)で測定した接触角(初期接触角)を基準として、下記式により接触角の変化率を算出した。
変化率(%)=|(初期接触角)-(経時接触角)|/(初期接触角)×100
以下の指標により、樹脂膜の安定性を評価した。評価結果と変化率を表2に示す。
A(非常に良好な安定性):変化率が3.0%以下
B(良好な安定性):変化率が3.0%より大きく5.0%未満
C(安定性がやや不良):変化率が5.0%以上10.0%未満
D(安定性が不良):変化率が10.0%以上
【0067】
(4)色素分散性の評価
実施例1~8、比較例1~3及び参考例のエラストマー組成物のトルエン溶液50gに、色素として緑色3号を0.1g添加し、60分間混合した。色素配合エラストマー組成物を、ガラス基板上にバーコーターにより塗布し、ホットプレートにて100℃で30分間乾燥した。これにより、厚さ1μmの樹脂膜を形成した。
得られた樹脂膜を光学顕微鏡(倍率10倍)及び目視にて観察した。色素の分散性を、以下の指標により評価した。結果を表2に示す。
A(分散性が良好):顕微鏡観察したときに、ムラがなく均一な塗膜で、表面がほぼ平滑であると評価できたもの
B(分散性がやや良好):顕微鏡観察したときにムラが確認できたが、目視ではムラが確認できなかったもの
C(分散性が不良):目視でムラや荒れが確認できるもの
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示すように、実施例1~8のエラストマー組成物は、初期の親水性に優れており、高温多湿条件での保管後も親水性の変化が小さく、経時安定性に優れている結果が得られた。更に、色素の分散性も良好であった。また、耐熱性評価の結果から、本発明における共重合体P1~P7は耐熱性に優れることが示された。
一方、比較例1~3では、初期の親水性は不十分であり、更に経時安定性も悪い結果となった。また、比較例1~3では色素の分散性も不良であった。
参考例は、実施例と構造が異なる従来品であるが、親水性、耐熱性、安定性色素分散性の全てを満たすものではなかった。