(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094728
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】工作機械の加工異常診断装置及び加工異常診断方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20220620BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
G05B19/18 X
G05B19/4155 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207783
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 英介
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB01
3C269BB12
3C269MN29
3C269MN44
(57)【要約】
【課題】異常の見逃しが発生した際に閾値調整か再学習かの対策を適切に判別する。
【解決手段】工作機械1の加工異常診断装置2は、予め設定された診断モデルによって加工が異常か否かを診断する異常診断手段4と、異常診断手段4による異常の診断の成否を入力する成否入力手段5と、成否入力手段5によって異常の診断が失敗と入力された際の対策を決定する対策決定手段6と、診断モデルでの診断に用いる異常閾値を更新する異常閾値変更手段7と、異常の診断を失敗した際の工作機械1の動作情報を用いて診断モデルを再学習する学習手段8と、を含み、対策決定手段6は、異常の診断を失敗した際に診断モデルが診断した動作情報に基づいて、異常閾値変更手段7と学習手段8との何れを採用するかを決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を用いてワークを加工する工作機械において、加工時における異常の発生を診断するための加工異常診断装置であって、
予め設定された診断モデルにより、異常閾値を用いて加工が異常か否かを診断する異常診断手段と、
前記異常診断手段による異常の診断の成否を入力する成否入力手段と、
前記成否入力手段によって異常の診断が失敗と入力された際の対策を決定する対策決定手段と、
前記異常閾値を更新する異常閾値変更手段と、
前記異常の診断を失敗した際の前記工作機械の動作情報を用いて前記診断モデルを再学習する学習手段と、を含み、
前記対策決定手段は、前記異常の診断を失敗した際に前記診断モデルが診断した前記動作情報に基づいて、前記対策として、前記異常閾値変更手段と前記学習手段との何れを採用するかを決定することを特徴とする工作機械の加工異常診断装置。
【請求項2】
前記異常診断手段で用いる前記診断モデルは、機械学習により構築することを特徴とする請求項1に記載の工作機械の加工異常診断装置。
【請求項3】
前記異常診断手段は、前記診断モデルによって加工の異常度を計算し、前記異常度を前記異常閾値と比較することで加工が異常か否かを診断し、
前記対策決定手段は、前記診断モデルで計算された前記異常度の微分値を予め設定した微分閾値と比較し、その比較結果に基づいて、前記異常閾値変更手段により前記異常閾値の更新を行うか、前記学習手段により前記診断モデルの再学習を行うか、を決定することを特徴とする請求項2に記載の工作機械の加工異常診断装置。
【請求項4】
前記異常閾値変更手段は、前記異常の診断を失敗した際の前記動作情報を用いて、前記異常が発生した時間を同定し、その時間に前記診断モデルが異常を検出できるように前記異常閾値を更新することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の工作機械の加工異常診断装置。
【請求項5】
前記成否入力手段では、センサを用いた工具状態の測定結果、加工したワークの品質検査結果、人が加工を観察した結果、の少なくとも何れかを用いて、前記異常の診断の成否が入力されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の工作機械の加工異常診断装置。
【請求項6】
工具を用いてワークを加工する工作機械において、加工時における異常の発生を診断するための加工異常診断方法であって、
予め設定された診断モデルにより、異常閾値を用いて加工が異常か否かを診断する異常診断ステップと、
前記異常診断ステップによる異常の診断の成否を入力する成否入力ステップと、
前記成否入力ステップによって異常の診断が失敗と入力された際、前記診断モデルが診断した前記工作機械の動作情報に基づいて前記失敗への対策を決定する対策決定ステップと、
前記対策決定ステップの決定により選択される、前記異常閾値を更新する異常閾値変更ステップと、前記動作情報を用いて前記診断モデルを再学習する学習ステップと、の何れかと、
を実行することを特徴とする工作機械の加工異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み込まれた診断モデルに基づいて工作機械の加工状態が異常か否かを診断する加工異常診断装置及び加工異常診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械における加工では、使用する工具に折損や欠損のような損傷が生じた場合、加工するワークの損傷につながり、精度や表面品位の悪化が原因で不良ワークとなるため、生産性が低下してしまう。加工するワークの材料が高価な場合は、材料費の面で大きな損失となる。したがって、加工状態を示す信号を測定して、正常か異常かを分類し、加工の異常を診断する技術が提案されている。
この技術として、例えば特許文献1では、機械の運転情報を入力として、機械学習を用いて作成した学習モデルが出力した特徴量を閾値と比較し、工具の状態が正常か異常かを診断する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、学習モデル(診断モデル)を用いて加工状態の診断を行う際、例えば加工の異常を見逃した場合は、正常と異常とを判別する閾値の調整を行うか、或いは学習モデルの再学習を行うか、が必要となるが、どちらを選択すべきか瞬時にわからない。したがって、特徴量の波形を分析する人の工数や過度なモデルの学習作業が発生し、診断精度を向上させる時間を多く費やし、改善が困難となってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、異常の見逃しが発生した際に閾値調整か再学習かの対策を適切に判別することができる工作機械の加工異常診断装置及び加工異常診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のうち、第1の発明は、工具を用いてワークを加工する工作機械において、加工時における異常の発生を診断するための加工異常診断装置であって、
予め設定された診断モデルにより、異常閾値を用いて加工が異常か否かを診断する異常診断手段と、
前記異常診断手段による異常の診断の成否を入力する成否入力手段と、
前記成否入力手段によって異常の診断が失敗と入力された際の対策を決定する対策決定手段と、
前記異常閾値を更新する異常閾値変更手段と、
前記異常の診断を失敗した際の前記工作機械の動作情報を用いて前記診断モデルを再学習する学習手段と、を含み、
前記対策決定手段は、前記異常の診断を失敗した際に前記診断モデルが診断した前記動作情報に基づいて、前記対策として、前記異常閾値変更手段と前記学習手段との何れを採用するかを決定することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記異常診断手段で用いる前記診断モデルは、機械学習により構築することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記異常診断手段は、前記診断モデルによって加工の異常度を計算し、前記異常度を前記異常閾値と比較することで加工が異常か否かを診断し、
前記対策決定手段は、前記診断モデルで計算された前記異常度の微分値を予め設定した微分閾値と比較し、その比較結果に基づいて、前記異常閾値変更手段により前記異常閾値の更新を行うか、前記学習手段により前記診断モデルの再学習を行うか、を決定することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記異常閾値変更手段は、前記異常の診断を失敗した際の前記動作情報を用いて、前記異常が発生した時間を同定し、その時間に前記診断モデルが異常を検出できるように前記異常閾値を更新することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記成否入力手段では、センサを用いた工具状態の測定結果、加工したワークの品質検査結果、人が加工を観察した結果、の少なくとも何れかを用いて、前記異常の診断の成否が入力されることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第2の発明は、工具を用いてワークを加工する工作機械において、加工時における異常の発生を診断するための加工異常診断方法であって、
予め設定された診断モデルにより、異常閾値を用いて加工が異常か否かを診断する異常診断ステップと、
前記異常診断ステップによる異常の診断の成否を入力する成否入力ステップと、
前記成否入力ステップによって異常の診断が失敗と入力された際、前記診断モデルが診断した前記工作機械の動作情報に基づいて前記失敗への対策を決定する対策決定ステップと、
前記対策決定ステップの決定により選択される、前記異常閾値を更新する異常閾値変更ステップと、前記動作情報を用いて前記診断モデルを再学習する学習ステップと、の何れかと、を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、異常の見逃しが発生した際に診断モデルが診断した動作情報に基づいて閾値調整か学習かの対策を適切に判別することができる。よって、診断モデルの診断精度を向上させる作業を自動化して診断性能の改善効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】工作機械及び加工異常診断装置のブロック構成図である。
【
図3】異常の見逃し時の加工トルク波形と異常度波形とを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の加工異常診断装置の一例を示すブロック構成図である。ここでは工作機械1に対し、加工異常診断装置2が併設されている。但し、加工異常診断装置2は、工作機械1の制御装置(図示しない)に内包されていても構わない。
加工異常診断装置2には、診断情報取得手段3と、異常診断手段4とが設けられている。診断情報取得手段3は、工作機械1の制御情報や各種センサ(図示しない)の測定信号を診断情報として取得する。異常診断手段4には、診断情報取得手段3で取得された診断情報をもとに異常度を計算する診断モデルが格納されており、異常診断手段4は、入力となる診断情報(動作情報)をもとに出力される異常度に対し、異常閾値と比較した判定を行うことで、加工が正常か異常かを判定する。この診断モデルは、機械学習によって構築される。
【0010】
また、加工異常診断装置2には、成否入力手段5と、対策決定手段6と、異常閾値変更手段7と、学習手段8とが設けられている。
成否入力手段5は、異常の診断が成功したか(異常回避)、または異常の診断を失敗したか(見逃し)の判定結果をオペレータが入力するために設けられる。成否入力手段5で入力された判定結果は、対策決定手段6に入力される。
対策決定手段6は、成否入力手段5で入力された判定結果をもとに、異常度を判定する異常閾値を変更するか、或いは診断モデルの再学習を行うかを判定する。
異常閾値変更手段7は、対策決定手段6で異常閾値の変更が必要と判定された場合、診断情報から異常閾値を再決定し、変更する。
学習手段8は、対策決定手段6で診断モデルの再学習が必要と判定された場合、診断情報に異常のラベルを付与し、再学習して診断モデルを更新する。
【0011】
以下、加工異常診断装置2による加工異常診断方法の詳細を、
図2のフローチャートに基づいて説明する。
まず、S1で、異常診断手段4は、診断モデル、異常閾値を読み込み、診断情報取得手段3から得た診断情報に基づいて、異常か正常かの診断を開始する(異常診断ステップ)。診断結果は図示しないモニタ等に出力される。
次に、S2で、オペレータが目視で診断結果を確認し、異常見逃しの発生があるか否かを判定して、判定結果を成否入力手段5によって入力する(成否入力ステップ)。
次に、S3で、対策決定手段6は、S2での入力を判別し、異常見逃しがなければS1へ戻り、再度診断を行う。異常見逃しが発生していれば、S4で、診断に用いた加工トルク波形と異常度波形とを取得する。
次に、S5で、対策決定手段6は、加工トルクが最大値となる点、すなわち加工異常が発生した時間tmaxを取得し、波形の開始時間から時間tmaxまでの時間範囲で波形を切り出す(
図3に示す)。そして、対策決定手段6は、S6で、異常度を微分してその変化量の最大値dmaxを計算し、S7で、最大値dmaxを、予め設定された変化量閾値ds(微分閾値)と比較する(S3~S5:対策決定ステップ)。
【0012】
S7の比較結果で最大値dmaxが変化量閾値dsを超える場合、S8で、異常閾値変更手段7は、時間tmaxの時点の異常度E(
図3に示す)を取得し、異常度Eに予め設定された閾値マージンmを加えたものを異常閾値として更新する(異常閾値変更ステップ)。
一方、S7の比較結果で最大値dmaxが変化量閾値dsを超えない場合、S9で、学習手段8は、加工トルク波形(
図3に示す)に異常ラベルを付与して学習を行い、新しい診断モデルを作成する。そして、S10で、異常を検知するモデルを、S9で作成した新しい診断モデルに更新する(S9~S10:学習ステップ)。
S11で診断を続行する場合はS1へ戻り、診断を続行しない場合は終了する。
【0013】
このように、上記形態の加工異常診断装置2及び加工異常診断方法によれば、予め設定された診断モデルにより、異常閾値を用いて加工が異常か否かを診断する異常診断手段4と、異常診断手段4による異常の診断の成否を入力する成否入力手段5と、成否入力手段5によって異常の診断が失敗と入力された際の対策を決定する対策決定手段6と、異常閾値を更新する異常閾値変更手段7と、異常の診断を失敗した際の工作機械1の動作情報を用いて診断モデルを再学習する学習手段8と、を含み、対策決定手段6は、異常の診断を失敗した際に診断モデルが診断した動作情報に基づいて、異常の診断が失敗と入力された際の対策として、異常閾値変更手段7と学習手段8との何れを採用するかを決定する。
この構成により、異常の見逃しが発生した際に診断モデルが診断した動作情報に基づいて閾値調整か学習かの対策を適切に判別することができる。よって、診断モデルの診断精度を向上させる作業を自動化して診断性能の改善効率を上げることができる。
【0014】
なお、本発明における成否入力手段による入力は、人による加工状態の目視結果に限らず、工具長測定装置による工具長の測定結果、カメラによる撮像で得た工具やワークの画像の処理結果、加工したワークの品質検査結果等の1又は複数の結果をもとに診断した成否信号を用いても何ら問題ない。
また、本発明で用いる診断モデルは、例えばニューラルネットワークなどの機械学習技術を用いて生成した数理モデルであれば問題ない。さらに、対策決定手段では取得した波形に対し、適宜平滑化するフィルタを用いても何ら問題はない。
【符号の説明】
【0015】
1・・工作機械、2・・加工異常診断装置、3・・診断情報取得手段、4・・異常診断手段、5・・成否入力手段、6・・対策決定手段、7・・異常閾値変更手段、8・・学習手段。