(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094754
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】吸着式スタッド溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/20 20060101AFI20220620BHJP
【FI】
B23K9/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207828
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000228981
【氏名又は名称】日本スタッドウェルディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】馬場 敏
(72)【発明者】
【氏名】稲本 晃士
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶接作業者にかかる負担が小さく、また、装置の保持状態を安定させることで溶接品質を維持できるようにした溶接対象物を被溶接対象物に横向き又は上向き姿勢で溶接を行うようにした吸着式スタッド溶接装置を提供する。
【解決手段】溶接対象物であるスタッドボルトSを被溶接対象物Mである鋼板製母材に横向き又は上向き姿勢で溶接を行うようにしたもので、被溶接対象物Mに対してスタッド溶接装置1を吸着させる吸着機構として吸着パッドを備え、スタッド溶接装置1の重量の少なくとも一部を被溶接対象物Mに支持させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接対象物を被溶接対象物に横向き又は上向き姿勢で溶接を行うようにした吸着式スタッド溶接装置であって、前記スタッド溶接装置に、被溶接対象物に対してスタッド溶接装置を吸着させる吸着機構を備え、スタッド溶接装置の重量の少なくとも一部を被溶接対象物に支持させるようにしてなることを特徴とする吸着式スタッド溶接装置。
【請求項2】
前記吸着機構が、圧縮空気を供給することで動作する吸着パッドを備えた吸着機構からなることを特徴とする請求項1に記載の吸着式スタッド溶接装置。
【請求項3】
前記吸着機構の吸着パッドに向かって飛散するスパッタを遮断する遮断壁を、フェルールグリップに備えてなることを特徴とする請求項2に記載の吸着式スタッド溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接対象物を被溶接対象物に横向き又は上向き姿勢で溶接を行うようにした吸着式スタッド溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッド等の溶接対象物を、被溶接対象物(母材)の鉛直面や下向き面に溶接する場合、手持ち式スタッド溶接装置を使用し、横向き又は上向き姿勢で溶接を行うようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、手持ち式スタッド溶接装置は、通常、10kg程度かそれ以上の重量があるため、これを保持しながら操作する溶接作業者にかかる負担が大きく、また、装置の保持状態が不安定になることによって溶接品質が低下しやすいという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の手持ち式スタッド溶接装置の有する問題点に鑑み、溶接作業者にかかる負担が小さく、また、装置の保持状態を安定させることで溶接品質を維持することができるようにした溶接対象物を被溶接対象物に横向き又は上向き姿勢で溶接を行うようにした吸着式スタッド溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の吸着式スタッド溶接装置は、溶接対象物を被溶接対象物に横向き又は上向き姿勢で溶接を行うようにした吸着式スタッド溶接装置であって、前記スタッド溶接装置に、被溶接対象物に対してスタッド溶接装置を吸着させる吸着機構を備え、スタッド溶接装置の重量の少なくとも一部を被溶接対象物に支持させるようにしてなることを特徴とする。
【0007】
この場合において、前記吸着機構が、圧縮空気を供給することで動作する吸着パッドを備えた吸着機構からなるようにすることができる。
【0008】
また、前記吸着機構の吸着パッドに向かって飛散するスパッタを遮断する遮断壁を、フェルールグリップに備えてなるようにすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸着式スタッド溶接装置によれば、スタッド溶接装置に、被溶接対象物に対してスタッド溶接装置を吸着させる吸着機構を備え、スタッド溶接装置の重量の少なくとも一部を被溶接対象物に支持させるようにしてなることから、溶接対象物を被溶接対象物に横向き又は上向き姿勢で溶接を行う場合の溶接作業者にかかる負担が小さく、また、装置の保持状態を安定させることで溶接品質を維持することができる。
【0010】
また、前記吸着機構が、圧縮空気を供給することで動作する吸着パッドを備えた吸着機構からなるようにすることにより、必要な設備を簡略化し、吸着及び吸着解除の操作を簡易に行うことができる。
【0011】
また、前記吸着機構の吸着パッドに向かって飛散するスパッタを遮断する遮断壁を、フェルールグリップに備えてなるようにすることにより、吸着パッドがスパッタによって損傷することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の吸着式スタッド溶接装置の一実施例を示す説明図で、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【
図2】同吸着式スタッド溶接装置の内部構造を示す説明図である。
【
図3】同吸着式スタッド溶接装置の使用方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の吸着式スタッド溶接装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0014】
図1~
図2に、本発明の吸着式スタッド溶接装置の一実施例を示す。
この吸着式スタッド溶接装置1は、溶接対象物であるスタッドボルトSを被溶接対象物Mである鋼板製母材に横向き又は上向き姿勢で溶接を行うようにしたもので、従来の手持ち式スタッド溶接装置と同様、スタッドボルトSを保持する通電部2、フェルールFを保持するフェルールグリップ3及び通電用ケーブル6を備え、さらに、被溶接対象物Mに対してスタッド溶接装置1を吸着させる吸着機構4として吸着パッドを備え、スタッド溶接装置1の重量の少なくとも一部を被溶接対象物Mに支持させるようにしている。
【0015】
ここで、「スタッド溶接装置1の重量の少なくとも一部を被溶接対象物Mに支持させる」とは、10kg程度かそれ以上の重量があるスタッド溶接装置1を保持しながら操作する溶接作業者にかかる負担を軽減できるように、スタッド溶接装置の重量の50~100%、好ましくは、80~100%を吸着機構4によって被溶接対象物Mに支持させることをいう。
【0016】
この場合において、吸着機構4は、圧縮空気を供給することで動作するように、具体的には、コンプレッサ(図示省略)の圧縮空気を圧縮空気供給部41からエジェクタ式負圧発生器(図示省略)に供給することで負圧を発生させ、これにより吸引力を発生する吸着パッドを備えたものを用いるようにしている。
吸着機構4(の吸着パッド)は、120°間隔に3個配置するようにしている。
これにより、吸着機構4に必要となる付帯設備を簡略化し、吸着及び吸着解除の操作を圧縮空気の供給及び停止によって簡易に行うことができる。
【0017】
吸着機構としては、本実施例に示すもののほか、
・空気吸引機構によって吸着パッドから空気を直接吸引し、負圧を発生させることで被溶接対象物Mに吸着させる機構
・サクションリフタ等で汎用されているレバー操作で円盤状の吸着パッドから空気を吸引し、負圧を発生させることで被溶接対象物Mに吸着させる機構
・被溶接対象物Mが鋼板等の磁性体の場合には、磁石(好ましくは、吸着及び吸着解除の操作を容易に行う機構を備えたもの、例えば、電磁石。)の磁着力により被溶接対象物Mに吸着させる機構
等の各種吸着機構を採用することができる。
【0018】
フェルールFを保持するフェルールグリップ3には、スタッド溶接時に吸着機構4の吸着パッドに向かって飛散するスパッタを遮断する遮断壁を備えるようにしている。
遮断壁は、スタッド溶接時に、その先端が、被溶接対象物Mの被溶接面に接するようにされている。
遮断壁には、スタッド溶接時に発生する高温ガスを放出するための放出溝31を形成するようにしている。
放出溝31は、高温ガスが吸着機構4の吸着パッドが位置しない方向に放出されるように、吸着機構4(の吸着パッド)の中間角度位置に、すなわち、60°の角度間隔を設けて、120°間隔に3個配置するようにしている。
これにより、ゴム又は合成樹脂製の吸着パッドがスパッタによって損傷することを防止することができる。
【0019】
スタッド溶接時にスタッド溶接装置1の中心軸が被溶接対象物Mの被溶接面に対して垂直になるように、姿勢設定機構5を備えるようにしている。
この姿勢設定機構5は、被溶接対象物Mの被溶接面に対する接地部の位置を調節できるように、具体的には、フェルールグリップ3の遮断壁の先端と略同位置になるように、軸部をボルトで構成するようにしている。
姿勢設定機構5は、吸着機構4(の吸着パッド)の中間角度位置に、すなわち、60°の角度間隔を設けて、120°間隔に3個配置するようにしている。
【0020】
次に、この吸着式スタッド溶接装置1の使用方法を説明する。
まず、通電部2にスタッドボルトSを、フェルールグリップ3にフェルールFを、それぞれ挿入、保持させ、所定の溶接位置にスタッド溶接装置1を位置させる(
図3(1))。
【0021】
次に、コンプレッサ(図示省略)の圧縮空気を吸着機構4の圧縮空気供給部41からエジェクタ式負圧発生器(図示省略)に供給することで負圧を発生させ、これにより吸着パッドに吸引力を発生するようにした状態で、スタッド溶接装置1を被溶接対象物Mに押し付けることにより、吸着パッドを介してスタッド溶接装置1の重量の少なくとも一部を被溶接対象物Mに支持させる(
図3(2))。
このとき、姿勢設定機構5(及びフェルールグリップ3に備えた遮断壁)により、スタッド溶接装置1の中心軸が被溶接対象物Mの被溶接面に対して垂直になるようにされている。
この状態で、起動スイッチをONにすることにより、スタッド溶接が開始される。
【0022】
この場合、スタッド溶接装置の重量の100%を吸着機構4によって被溶接対象物Mに支持させることにより、スタッド溶接装置1の操作を溶接作業者が保持しながら行う必要がなくなり、スタッド溶接装置1の遠隔操作を可能にすることができる。
【0023】
スタッド溶接時には、スタッド溶接部から、フェルールFの通気口を介して、高温ガスと共にスパッタが放出されるが、フェルールグリップ3に備えた遮断壁により、吸着機構4の吸着パッドがスパッタによって損傷することを防止することができる。
【0024】
スタッド溶接が終了すると、コンプレッサ(図示省略)の圧縮空気の供給を手動又は自動で停止することで、吸着機構4による吸着を解除し、スタッド溶接装置1を被溶接対象物Mの被溶接面から後退させる(
図3(3))。
【0025】
溶接部が冷却した後、フェルールFを除去して溶接を完了する(
図3(4))。
以下、上記操作を繰り返して、他の箇所にスタッド溶接を行う。
【0026】
以上、本発明の吸着式スタッド溶接装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の吸着式スタッド溶接装置は、溶接作業者にかかる負担が小さく、また、装置の保持状態を安定させることで溶接品質を維持できることから、溶接対象物を被溶接対象物に横向き又は上向き姿勢で溶接を行うようにしたスタッド溶接装置の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 スタッド溶接装置
2 通電部
3 フェルールグリップ
4 吸着機構
5 姿勢設定機構
6 通電用ケーブル
F フェルール
M 被溶接対象物
S スタッドボルト