IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 國立屏東科技大學の特許一覧

<>
  • 特開-異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス 図1a
  • 特開-異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス 図1b
  • 特開-異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス 図1c
  • 特開-異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス 図1d
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094899
(43)【公開日】2022-06-27
(54)【発明の名称】異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/362 20060101AFI20220620BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220620BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220620BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
B23K35/362 A
C22C38/58
C22C38/60
C22C38/00 302Z
C22C38/00 301A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116124
(22)【出願日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】109144291
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】511053012
【氏名又は名称】國立屏東科技大學
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】特許業務法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曾 光宏
【テーマコード(参考)】
4E084
【Fターム(参考)】
4E084AA01
4E084AA03
4E084AA06
4E084AA17
4E084AA23
4E084CA19
4E084CA23
4E084DA34
4E084EA04
4E084GA17
(57)【要約】
【課題】ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとのアプセット溶接工程において、従来の摩擦撹拌接合が作業現場で使用できず、ステンレス鋼ワーク及び炭素鋼ワークに予め溝加工を行うことで作業時間及び製造コストが増加してしまうという問題を解決するための異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスを提供する。
【解決手段】本発明による異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、25~35重量%の二酸化ケイ素、20~30重量%の四酸化三コバルト、15~20重量%の四酸化三マンガン、10~15重量%の三酸化二ニッケル、7~12重量%の三酸化モリブデン、6~11重量%の炭酸マンガン、5~10重量%の炭酸ニッケル、及び、2~4重量%のフッ化アルミニウムを含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25~35重量%の二酸化ケイ素、20~30重量%の四酸化三コバルト、15~20重量%の四酸化三マンガン、10~15重量%の三酸化二ニッケル、7~12重量%の三酸化モリブデン、6~11重量%の炭酸マンガン、5~10重量%の炭酸ニッケル、及び、2~4重量%のフッ化アルミニウムを含むことを特徴とする異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス。
【請求項2】
25~28重量%の二酸化ケイ素を含むことを特徴とする請求項1に記載の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス。
【請求項3】
20~23重量%の四酸化三コバルトを含むことを特徴とする請求項1に記載の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス。
【請求項4】
6~8重量%の炭酸マンガンを含むことを特徴とする請求項1に記載の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス。
【請求項5】
5~7重量%の炭酸ニッケルを含むことを特徴とする請求項1に記載の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス。
【請求項6】
2~3重量%のフッ化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス。
【請求項7】
前記異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスの粉末の粒径が50~90μmであることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TIG溶接フラックスに関し、特に、異種鋼材の溶接に用いられるTIG溶接フラックスに係るものである。
【背景技術】
【0002】
異種鋼材の溶接とは、異なる化学組成を有する、二種又は二種以上の鋼材を接合させる工程であり、異種鋼材は、物理・化学的性質及び機械的性質いずれにおいても顕著な差異を有するので、特殊な溶接工程を用いる必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとのアプセット溶接工程が開示され、ステンレス鋼ワークの側縁及び炭素鋼ワークの側縁に斜面を形成させ、ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとの側縁を相互に当接させることで、二つの斜面が開放した角構造を成し、ステンレス鋼溶接ワイヤをその開放した角構造に充填し、さらに、摩擦撹拌接合により、ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとが共に溶接物となる工程である。
しかしながら、摩擦撹拌接合は、特定の機械で行うものであるため、作業現場で使用できず、さらに、ステンレス鋼ワーク及び炭素鋼ワークに予め溝加工工程を行う必要があるので、作業時間及び製造コストが増加してしまう。
よって、上記の問題を解決するために、TIG溶接に用いられることができる異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスを提供する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国公告第103600167号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の問題を解決するために、本発明は、TIG溶接工程に用いられ、作業現場での溶接を行うことができる異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスを提供することを目的とする。
【0006】
さらに、本発明は、TIG溶接工程に用いられ、深く狭い溶接ビードを形成させ、ひいては、ワークの溝加工工程を省くことができる異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が提供する異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、25~35重量%の二酸化ケイ素、20~30重量%の四酸化三コバルト、15~20重量%の四酸化三マンガン、10~15重量%の三酸化二ニッケル、7~12重量%の三酸化モリブデン、6~11重量%の炭酸マンガン、5~10重量%の炭酸ニッケル、及び、2~4重量%のフッ化アルミニウムを含む。
【0008】
これにより、本発明の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、TIG溶接に用いられることができるので、作業現場で使用でき、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスの使用利便性を向上させる効果を有する。
さらに、本発明の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、TIG溶接工程に用いられることでステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとが共に溶接物となることができ、ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとの間に形成した溶接ビードは、少なくとも、0.9以上のアスペクト比を有するので、厚さが比較的に厚いワークに対しても、予め溝加工を行う必要がなく、ひいては、ワークの溝加工工程に起因する溶接物の強度低下及び熱影響部が広すぎる問題を避け、さらに、ワークの溝加工工程で増加した作業時間及び製造コストを低減させる効果を有する。
【0009】
また、本発明の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、25~28重量%の二酸化ケイ素を含むことができ、或いは、20~23重量%の四酸化三コバルトを含むことができ、もしくは、6~8重量%の炭酸マンガンを含むことができ、または、5~7重量%の炭酸ニッケルを含むことができ、さらに、2~3重量%のフッ化アルミニウムを含むことができる。
これにより、ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとの間に形成した溶接ビードは、少なくとも、0.9以上のアスペクト比を有することができる。
【0010】
また、本発明の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、その粉末の粒径が50~90μmであっても良い。
これにより、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスの粉末粒子の混合均一性を向上させることができるので、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスがステンレス鋼ワーク及び炭素鋼ワークの表面に均一に塗布され易くなることができるだけでなく、TIG溶接の際に、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスが溶接熱源により完全に溶融できるので、溶接ビードの深さを効果的に深くするという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1a】TIG溶接フラックスを使用せずにTIG溶接を行い、形成したB00組の溶接物における溶接ビードの断面形態を示す図であり、破線に囲まれた箇所は、溶接ビードの範囲であり、Wは、溶接ビードの幅であり、かつ、Dは、溶接ビードの深さである。
図1b】A01組のTIG溶接フラックスを使用してTIG溶接を行い、形成したB01組の溶接物における溶接ビードの断面形態を示す図であり、破線に囲まれた箇所は、溶接ビードの範囲であり、Wは、溶接ビードの幅であり、かつ、Dは、溶接ビードの深さである。
図1c】A06組のTIG溶接フラックスを使用してTIG溶接を行い、形成したB06組の溶接物における溶接ビードの断面形態を示す図であり、破線に囲まれた箇所は、溶接ビードの範囲であり、Wは、溶接ビードの幅であり、かつ、Dは、溶接ビードの深さである。
図1d】A11組のTIG溶接フラックスを使用してTIG溶接を行い、形成したB11組の溶接物における溶接ビードの断面形態を示す図であり、破線に囲まれた箇所は、溶接ビードの範囲であり、Wは、溶接ビードの幅であり、かつ、Dは、溶接ビードの深さである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施例について、以下、図面を参照して説明する。
【0013】
本発明の一つの実施例は、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスであり、TIG溶接工程に用いられることができ、さらに、ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとを溶接するのに用いられることができる。
【0014】
詳しく述べると、前記ステンレス鋼ワークは、ASTM 316ステンレス鋼からなるステンレス鋼ワークであっても良く、その化学組成は、表1に示される。
前記炭素鋼ワークは、ASTM A36炭素鋼であっても良く、その化学組成は、表2に示される。
ただし、前記ステンレス鋼ワーク及び前記炭素鋼ワークは、他の従来のステンレス鋼または炭素鋼からなるものであっても良いことは、当業者が理解し得る。
【0015】
表1、ASTM 316ステンレス鋼の化学組成
【表1】
【0016】
表2、ASTM A36炭素鋼の化学組成
【表2】
【0017】
異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、二酸化ケイ素(SiO)、四酸化三コバルト(Co)、四酸化三マンガン(Mn)、三酸化二ニッケル(Ni)、三酸化モリブデン(MoO)、炭酸マンガン(MnCO)、炭酸ニッケル(NiCO)、及び、フッ化アルミニウム(AlF)などを含むことができる。
【0018】
詳しく述べると、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、25~35重量%の二酸化ケイ素、20~30重量%の四酸化三コバルト、15~20重量%の四酸化三マンガン、10~15重量%の三酸化二ニッケル、7~12重量%の三酸化モリブデン、6~11重量%の炭酸マンガン、5~10重量%の炭酸ニッケル、及び、2~4重量%のフッ化アルミニウムを含むことができる。
好ましくは、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、25~28重量%の二酸化ケイ素;或いは、20~23重量%の四酸化三コバルト;また、6~8重量%の炭酸マンガン;もしくは、5~7重量%の炭酸ニッケル;或いは、2~3重量%のフッ化アルミニウムを含むことができる。
これにより、TIG溶接工程に用いられる際に、ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとの間に、アスペクト比が、少なくとも0.9以上である溶接ビードを形成することができ、ステンレス鋼ワーク及び炭素鋼ワークそれぞれに形成した熱影響部を縮小させることができ、ひいては、溶接物の熱変形及び残留応力を低減させる。
なお、溶接工程においてアークブローが発生しない。
【0019】
また、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスの粉末の粒径は、50~90μmであっても良い。
これにより、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスの粉末粒子の混合均一性を向上させることができるので、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスが、ステンレス鋼ワーク及び炭素鋼ワークの表面に均一に塗布され易くなることができるだけでなく、TIG溶接の際に、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスが、溶接熱源により完全に溶融できるので、溶接ビードの深さを効果的に深くすることができる。
【0020】
上記異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、TIG溶接工程に用いられることで、ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとが共に溶接物となることができ、かつ、形成された溶接ビードのアスペクト比を向上させ、アークブローの発生を避けることができることを証明するために、以下の試験を行った。
【0021】
(A)TIG溶接フラックスの作製
【0022】
下記表3に示す組成割合により、二酸化ケイ素、四酸化三コバルト、四酸化三マンガン、三酸化二ニッケル、三酸化モリブデン、炭酸マンガン、炭酸ニッケル、及び、フッ化アルミニウムなどの粉末を混合した後、溶剤としてアセトンを用いてスラリー状にし、A01~A14組のTIG溶接フラックスを作製した。
【0023】
表3、A01~A14組のTIG溶接フラックスの組成割合
【表3】
【0024】
(B)溶接物の性質
【0025】
本試験では、厚さが6mmであるステンレス鋼板、及び、厚さが同じく6mmである炭素鋼板を用いて、前記ステンレス鋼ワーク及び炭素鋼ワークとした。
粒度が#400である炭化ケイ素紙やすりを用いて、ステンレス鋼板及び炭素鋼板にある汚れを除去した後、アセトンでステンレス鋼板及び炭素鋼板を拭いた。
そして、毛ブラシでスラリー状のA01~A14組のTIG溶接フラックスをステンレス鋼板及び炭素鋼板の表面に塗布し、アセトンが完全に揮発してからTIG溶接を行い、それぞれB01~B14組の溶接物を得た。
なお、B00組は、TIG溶接フラックスを一切塗布しないという条件で、ステンレス鋼ワーク及び炭素鋼ワークに対してTIG溶接を行って形成した溶接物である。
【0026】
TIG溶接工程において、溶接電流は、170Aであり、溶接速度は、73mm/minであり,シールドガス流量は、8L/minであり、バックパージガス流量は、6L/minであり、タングステン電極棒は、EWLa―2(φ3.2mm)を用い、タングステン電極棒の角度は、60°であり、かつ、タングステン電極棒の先端からステンレス鋼ワーク及び炭素鋼ワークの表面までの距離は、2~3mmである。
【0027】
TIG溶接工程を行うときに、アークブローが発生したか否かを記録した。
かつ、TIG溶接を行った後に、B00~B14組の溶接物における溶接ビードの断面のサンプルを取り、各溶接ビードの深さと幅を記録し、さらに、各溶接ビードのアスペクト比を計算した。
その結果を表4に示す。
【0028】
表4、B00~B14組の溶接ビードの深さ、幅、アスペクト比、及び、アークブローの発生有無
【表4】
【0029】
図1a~1dは、それぞれB00、B01、B06、B11組の溶接物における溶接ビードの断面形態を示し、B11組の溶接物のみ溶接ビードが完全に浸透していることがわかった。
さらに、表4に示されるように、B01~B10組の溶接物の溶接ビードに比べ、B11~B14組の溶接物の溶接ビードは、深さが深く、かつ、幅が狭く、アスペクト比が少なくとも0.90以上であり、0.99に達することもあるので、より狭い熱影響部を形成でき、ひいては、溶接物の熱変形及び残留応力を低減できる。
【0030】
さらに、表4に示されるように、A11~A14組のTIG溶接フラックスを用いて、TIG溶接を行った際に、アークブローが発生しなかった。
【0031】
以上により、本発明の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、TIG溶接に用いられることができるので、作業現場で使用でき、異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスの使用利便性を向上させる効果を有する。
【0032】
さらに、本発明の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスは、TIG溶接工程に用いられることでステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとが、共に溶接物となることができ、ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとの間に形成した溶接ビードは、少なくとも、0.9以上のアスペクト比を有するので、厚さが比較的に厚いワークに対しても、予め溝加工を行う必要がなく、ひいては、ワークの溝加工工程に起因する溶接物の強度低下及び熱影響部が、広すぎる問題を避け、さらに、ワークの溝加工工程で増加した作業時間及び製造コストを低減させる効果を有する。
【0033】
また、本発明の異種鋼材溶接用TIG溶接フラックスにより、ステンレス鋼ワークと炭素鋼ワークとの間に形成した溶接ビードは、少なくとも、0.9以上のアスペクト比を有することができ、ステンレス鋼ワーク及び炭素鋼ワークそれぞれに形成した熱影響部を縮小させることができ、ひいては、溶接物の熱変形及び残留応力を低減させ、かつ、溶接工程においてアークブローが発生しないという効果を有する。
【0034】
本発明は、その精神と必須の特徴事項から逸脱することなく他のやり方で実施することができる。
従って、本明細書に記載した好ましい実施形態は、例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
図1a
図1b
図1c
図1d