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特開2022-95047ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095047
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20220621BHJP
【FI】
B41J2/14 303
B41J2/14 607
B41J2/14 605
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208135
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】色川 大城
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF40
2C057AF93
2C057AG29
2C057AG45
2C057AG68
2C057AN01
(57)【要約】
【課題】印字安定性に優れたヘッドチップを提供する。
【解決手段】ヘッドチップ50は、X方向に配列された吐出チャネル65がX方向に交差するY’方向に延びるアクチュエータプレート53と、吐出チャネル65に連通する複数のノズル孔90が吐出チャネル65ごとに形成され、複数のノズル孔90はX方向に等間隔で配列されているノズルプレート51と、アクチュエータプレート53に対してノズルプレート51とは反対側に重ね合わされ、吐出チャネル65に連通した入口共通インク室80および出口共通インク室81が形成されているカバープレート54と、を備える。複数のノズル孔90のうち一のノズル孔90は、一のノズル孔90にX方向で隣り合う他のノズル孔90が連通する吐出チャネル65とは隣り合わない吐出チャネル65に連通している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に配列された噴射チャネルが前記第1方向に交差する第2方向に延びるアクチュエータプレートと、
前記噴射チャネルに連通する複数の噴射孔が前記噴射チャネルごとに形成され、前記複数の噴射孔は前記第1方向に等間隔で配列されている噴射孔プレートと、
前記アクチュエータプレートに対して前記噴射孔プレートとは反対側に重ね合わされ、前記噴射チャネルに連通した共通液室が形成されているカバープレートと、
を備え、
前記複数の噴射孔のうち一の噴射孔は、前記一の噴射孔に前記第1方向で隣り合う他の噴射孔が連通する前記噴射チャネルとは隣り合わない前記噴射チャネルに連通している、
ヘッドチップ。
【請求項2】
前記複数の噴射孔は、
前記第1方向に延びる第1仮想直線上で等間隔に配列されている第1噴射孔と、
前記第1仮想直線と平行に延びる第2仮想直線上で等間隔に配列され、前記第1方向において隣り合う前記第1噴射孔の中間位置に位置する第2噴射孔と、
を備える、
請求項1に記載のヘッドチップ。
【請求項3】
前記第1方向に沿う前記噴射チャネルの間隔をAとし、
前記第1方向に対する前記第2方向の傾斜角度をα(0°<α<90°)とし、
nを4以上の偶数とし、
前記第1仮想直線および前記第2仮想直線の間隔をBとした場合、
B=A×n/tan(90°-α)
の関係を満たす、
請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項4】
前記噴射チャネルそれぞれにおける両端の中心は、前記第1仮想直線および前記第2仮想直線の中間に位置する、
請求項3に記載のヘッドチップ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のヘッドチップを備えた液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項5に記載の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタに搭載されるインクジェットヘッドは、インクジェットヘッドに搭載されるヘッドチップを通じて被記録媒体にインクを吐出する。ヘッドチップは、インクが噴射される複数のノズル孔を有するノズルプレートと、ノズル孔に連通するとともにインクが収容された複数のチャネルを有するアクチュエータプレートと、各チャネルに連通する流路を有する流路部材と、を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-89219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したヘッドチップにおいては、例えばインク吐出時等に発生するチャネル内の圧力変動が流路を介して他のチャネル等に圧力波となって伝播(いわゆるクロストーク)し、吐出性能(印字安定性)に影響が及ぶという問題がある。具体的には、1つ以上のチャネルを駆動した際に発生した圧力波は流路に伝播し、その他のチャネル内で吐出のために発生させる圧力波の共振周波数以外の周波数成分として吐出に対する影響を与え、速度が低下または上昇する等の影響がある。これと同時に液滴のボリュームも低下したり上昇したりするため、記録紙に対する画質に影響を及ぼす。また、上述した圧力変動は、単位時間あたりの吐出量が多くなったり、液滴サイズが大きくなったりするに従い大きくなる。したがって、従来のヘッドチップにあっては、チャネル間の圧力波の伝播によって印字安定性が低下する課題がある。
【0005】
そこで本発明は、印字安定性に優れたヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は以下の態様を採用した。
(1)本開示の一態様に係るヘッドチップは、第1方向に配列された噴射チャネルが前記第1方向に交差する第2方向に延びるアクチュエータプレートと、前記噴射チャネルに連通する複数の噴射孔が前記噴射チャネルごとに形成され、前記複数の噴射孔は前記第1方向に等間隔で配列されている噴射孔プレートと、前記アクチュエータプレートに対して前記噴射孔プレートとは反対側に重ね合わされ、前記噴射チャネルに連通した共通液室が形成されているカバープレートと、を備え、前記複数の噴射孔のうち一の噴射孔は、前記一の噴射孔に前記第1方向で隣り合う他の噴射孔が連通する前記噴射チャネルとは隣り合わない前記噴射チャネルに連通している。
【0007】
仮に第1方向で隣り合う一対の噴射孔が互いに隣り合う一対の噴射チャネルに連通している場合、一方の噴射チャネルで圧力を印加して一方の噴射孔から液体を噴射する際に、共通液室を介して他方の噴射チャネルに圧力が伝搬し得る。本態様によれば、隣り合う一対の噴射孔が連通する一対の噴射チャネルに着目すると、一方の噴射チャネルと他方の噴射チャネルとの間には少なくとも1つの噴射チャネルが配置されている。このため、一方の噴射チャネルで圧力を印加して一方の噴射孔から液体を噴射する際に、共通液室を介して他方の噴射チャネルに圧力が伝播することを抑制できる。すなわち、いわゆるクロストークを抑制し、優れた印字安定性が得られる。
【0008】
(2)上記(1)の態様のヘッドチップにおいて、前記複数の噴射孔は、前記第1方向に延びる第1仮想直線上で等間隔に配列されている第1噴射孔と、前記第1仮想直線と平行に延びる第2仮想直線上で等間隔に配列され、前記第1方向において隣り合う前記第1噴射孔の中間位置に位置する第2噴射孔と、を備えていてもよい。
【0009】
本態様によれば、第1方向において第1噴射孔の間に第2噴射孔が位置するので、複数の噴射孔が一直線上に配列されている構成と比べて解像度を向上させることができる。
【0010】
(3)上記(2)の態様のヘッドチップにおいて、前記第1方向に沿う前記噴射チャネルの間隔をXとし、前記第1方向に対する前記第2方向の傾斜角度をα(0°<α<90°)とし、nを4以上の偶数とし、前記第1仮想直線および前記第2仮想直線の間隔をYとした場合、Y=X×n/tan(90°-α)の関係を満たしてもよい。
【0011】
本態様によれば、第1方向で隣り合う一対の噴射孔を、互いに隣り合わない一対の噴射チャネルに連通させることができる。
【0012】
(4)上記(3)の態様のヘッドチップにおいて、前記噴射チャネルそれぞれにおける両端の中心は、前記第1仮想直線および前記第2仮想直線の中間に位置してもよい。
【0013】
本態様によれば、噴射チャネルが互いに同形に形成され、かつ噴射チャネルがその延在方向の垂直面に対して面対称に形成されている場合に、第1噴射孔および第2噴射孔を圧力波の共振点に設けることができる。よって、液体の着弾を安定させることができる。
【0014】
(5)本開示の一態様に係る液体噴射ヘッドは、上記(1)から(4)のいずれかの態様に係るヘッドチップを備えている。
【0015】
本態様によれば、上記いずれかの態様に係るヘッドチップを備えているので、印字品質に優れた液体噴射ヘッドを提供できる。
【0016】
(6)本開示の一態様に係る液体噴射記録装置は、上記(5)の態様に係る液体噴射ヘッドを備えている。
【0017】
本態様によれば、上記態様に係る液体噴射ヘッドを備えているので、印字品質に優れた液体噴射記録装置を提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一態様によれば、印字安定性に優れたヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態のプリンタの概略構成図である。
図2】実施形態のインクジェットヘッドおよびインク循環機構の概略構成図である。
図3】実施形態のヘッドチップの分解斜視図である。
図4】実施形態のアクチュエータプレートの底面図である。
図5図4のV-V線に相当するヘッドチップの断面図である。
図6図4のVI-VI線に相当するヘッドチップの断面図である。
図7】実施形態の第1変形例のアクチュエータプレートの底面図である。
図8】実施形態の第2変形例のアクチュエータプレートの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0021】
<プリンタ>
図1は、実施形態のプリンタの概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態のプリンタ(液体噴射記録装置)1は、一対の搬送機構2,3と、インクタンク4と、インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)5と、インク循環機構6と、走査機構7と、を備えている。
【0022】
以下の説明では、必要に応じてX,Y,Zの直交座標系を用いて説明する。この場合、X方向(第1方向)は被記録媒体P(例えば、紙等)の搬送方向(副走査方向)に一致している。Y方向は走査機構7の走査方向(主走査方向)に一致している。Z方向は、X方向およびY方向に直交する高さ方向(鉛直方向)を示している。以下の説明では、X方向、Y方向およびZ方向のうち、図中矢印側をプラス(+)側とし、矢印とは反対側をマイナス(-)側として説明する。本実施形態において、+Z側は鉛直方向の上方に相当し、-Z側は鉛直方向の下方に相当する。
【0023】
搬送機構2,3は、被記録媒体Pを+X側に搬送する。搬送機構2,3は、例えばY方向に延びる一対のローラ11,12をそれぞれ含んでいる。
インクタンク4は、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクが各別に収容されている。各インクジェットヘッド5は、接続されたインクタンク4に応じてイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクをそれぞれ吐出可能に構成されている。なお、インクタンク4に収容されるインクは、導電性インクであっても、非導電性インクであってもよい。
【0024】
図2は、実施形態のインクジェットヘッドおよびインク循環機構の概略構成図である。
図1および図2に示すように、インク循環機構6は、インクタンク4とインクジェットヘッド5との間でインクを循環させる。具体的に、インク循環機構6は、インク供給管21およびインク排出管22を有する循環流路23と、インク供給管21に接続された加圧ポンプ24と、インク排出管22に接続された吸引ポンプ25と、を備えている。
【0025】
加圧ポンプ24は、インク供給管21内を加圧し、インク供給管21を通してインクジェットヘッド5にインクを送り出している。これにより、インクジェットヘッド5に対してインク供給管21側は正圧となっている。
【0026】
吸引ポンプ25は、インク排出管22内を減圧し、インク排出管22内を通してインクジェットヘッド5からインクを吸引している。これにより、インクジェットヘッド5に対してインク排出管22側は負圧となっている。インクは、加圧ポンプ24および吸引ポンプ25の駆動により、インクジェットヘッド5とインクタンク4との間を、循環流路23を通して循環可能となっている。
【0027】
走査機構7は、インクジェットヘッド5をY方向に往復走査させる。走査機構7は、Y方向に延びるガイドレール28と、ガイドレール28に移動可能に支持されたキャリッジ29と、を備えている。
【0028】
図1に示すように、インクジェットヘッド5は、キャリッジ29に搭載されている。図示の例では、複数のインクジェットヘッド5が、一つのキャリッジ29にY方向に並んで搭載されている。インクジェットヘッド5は、ヘッドチップ50(図3参照)と、インク循環機構6およびヘッドチップ50間を接続するインク供給部(不図示)と、ヘッドチップ50に駆動電圧を印加する制御部(不図示)と、を備えている。
【0029】
<ヘッドチップ>
図3は、実施形態のヘッドチップの分解斜視図である。
図3に示すヘッドチップ50は、インクタンク4との間でインクを循環させるとともに、後述する吐出チャネル65からインクを吐出する、いわゆる循環式サイドシュートタイプのヘッドチップである。ヘッドチップ50は、ノズルプレート51(噴射孔プレート)と、アクチュエータプレート53と、カバープレート54と、流路プレート55(図5参照)と、を備えている。ヘッドチップ50は、ノズルプレート51、アクチュエータプレート53、カバープレート54が、この順番にZ方向に積層された構成である。以下の説明では、Z方向のうち、ノズルプレート51からカバープレート54に向かう方向(+Z側)を裏側とし、カバープレート54からノズルプレート51に向かう方向(-Z側)を表側として説明する場合がある。
【0030】
アクチュエータプレート53は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料で形成されている。アクチュエータプレート53は、例えば分極方向がZ方向で異なる2枚の圧電板を積層してなる、いわゆるシェブロン基板である。但し、アクチュエータプレート53は、分極方向がZ方向の全域で一方向な、いわゆるモノポール基板であってもよい。
【0031】
図4は、実施形態のアクチュエータプレートの底面図である。
図3および図4に示すように、アクチュエータプレート53には、チャネル列61が形成されている。チャネル列61は、X方向に延びている。
【0032】
図4に示すように、チャネル列61は、インクが充填される吐出チャネル(噴射チャネル)65と、インクが充填されない非吐出チャネル66と、を有している。各チャネル65,66は、-Z側から見た平面視において、それぞれX方向に鋭角をなして交差するY’方向(第2方向)に直線状に延びるとともに、X方向に間隔をあけて交互に並んでいる。Y’方向は、Z方向に直交し、かつY方向に交差している。本実施形態において、+Y’側は+X側および+Y側の間を向く方向である。アクチュエータプレート53のうち、吐出チャネル65および非吐出チャネル66間に位置する部分は、吐出チャネル65および非吐出チャネル66間をX方向で仕切る駆動壁63(図3参照)を構成している。複数の吐出チャネル65は、互いに同形に形成されている。複数の非吐出チャネル66は、互いに同形に形成されている。
【0033】
図5は、図4のV-V線に相当するヘッドチップの断面図である。
図5に示すように、吐出チャネル65は、Y’方向の垂直面に対して面対称に形成されている。吐出チャネル65は、Y’Z断面において、表面側に向けて凸の湾曲形状に形成されている。吐出チャネル65は、例えば円板状のダイサーをアクチュエータプレート53の裏面側(+Z側)から進入させることで形成される。具体的に、吐出チャネル65は、Y’方向の両端部に位置する切り上がり部65aと、各切り上がり部65a間に位置する貫通部65bと、を有している。
【0034】
切り上がり部65aは、Y’Z断面上で円弧状に延びている。切り上がり部65aは、Y’方向において貫通部65bから離れるに従い裏側に向けて湾曲しながら延びている。
貫通部65bは、アクチュエータプレート53をZ方向に貫通している。
【0035】
図6は、図4のVI-VI線に相当するヘッドチップの断面図である。
図6に示すように、非吐出チャネル66は、駆動壁63を間に挟んで吐出チャネル65とX方向で隣り合っている。非吐出チャネル66は、例えば円板状のダイサーをアクチュエータプレート53の表面側(-Z側)から進入させることで形成される。非吐出チャネル66は、貫通部66aと、浅溝部66bと、を備えている。
【0036】
貫通部66aは、アクチュエータプレート53をZ方向に貫通している。すなわち、貫通部66aは、Z方向における溝深さが一様に形成されている。
浅溝部66bは、非吐出チャネル66のうち-Y’側端部を構成している。浅溝部66bは、アクチュエータプレート53の-Y側の側面に至るまで溝深さが一定となるように形成されている。
【0037】
図5に示すように、吐出チャネル65のY’方向に延びる内面(駆動壁63のうち、各吐出チャネル65に面する内側面)には、共通電極75がそれぞれ形成されている。共通電極75は、Y’方向における長さが吐出チャネル65の貫通部65bと同等(アクチュエータプレート53の表面における吐出チャネル65の開口長と同等)とされている。
【0038】
図6に示すように、非吐出チャネル66のY’方向に延びる内面(駆動壁63のうち、各非吐出チャネル66に面する内側面)には、個別電極77が形成されている。個別電極77は、貫通部66aから浅溝部66bにわたって形成されている。
【0039】
アクチュエータプレート53の表面には、フレキシブルプリント基板56が圧着されている。フレキシブルプリント基板56は、アクチュエータプレート53の表面に形成された図示しない端子を介して、共通電極75および個別電極77に電気的に接続されている。フレキシブルプリント基板56は、アクチュエータプレート53の外側を通って+Z側に引き出されている。
【0040】
図3に示すように、カバープレート54は、非吐出チャネル66を閉塞するようにアクチュエータプレート53の裏面に重ね合わせて接合されている。カバープレート54には、入口共通インク室(共通液室)80および出口共通インク室(共通液室)81が形成されている。なお、図4において、入口共通インク室80および出口共通インク室81を仮想線で示している。
【0041】
図3および図4に示すように、入口共通インク室80は、カバープレート54のうち、チャネル列61の吐出チャネル65における+Y側端部と平面視で重なる位置に形成されている。入口共通インク室80は、カバープレート54をZ方向に貫通するとともに、X方向に沿って延在している。これにより、入口共通インク室80は、チャネル列61の各吐出チャネル65にまとめて連通している。
【0042】
出口共通インク室81は、カバープレート54のうち、チャネル列61の吐出チャネル65における-Y側端部と平面視で重なる位置に形成されている。出口共通インク室81は、カバープレート54をZ方向で貫通するとともに、X方向に沿って延在している。これにより、出口共通インク室81は、チャネル列61の吐出チャネル65にまとめて連通している。したがって、入口共通インク室80および出口共通インク室81は、それぞれ各吐出チャネル65に連通する一方、非吐出チャネル66には連通していない。
【0043】
図5および図6に示すように、流路プレート55は、カバープレート54の裏面に重ね合わせて接合されている。流路プレート55には、上述したインク供給管21内を流通するインクを入口共通インク室80内に供給するための入口流路85が形成されている。また、流路プレート55には、出口共通インク室81内を流通するインクを上述したインク排出管22に排出するための出口流路86が形成されている。
【0044】
図3に示すように、ノズルプレート51は、アクチュエータプレート53の表面に重ね合わせて接合されている。ノズルプレート51は、Y方向における幅がアクチュエータプレート53よりも小さくなるように形成されている。本実施形態において、ノズルプレート51は、ステンレス鋼の金属材料(ステンレス鋼やNi-Pd等)により形成されている。但し、ノズルプレート51は、金属材料の他、ポリイミド等の樹脂材料や、ガラス、シリコン等による単層構造、または積層構造であってもよい。
【0045】
ノズルプレート51には、ノズルプレート51をZ方向に貫通し、吐出チャネル65に連通する複数のノズル孔(噴射孔)90が形成されている。複数のノズル孔90は、吐出チャネル65ごとに形成されている。複数のノズル孔90は、Y方向から見てX方向に等間隔で配列されている。複数のノズル孔90は、第1ノズル列91Aを構成する第1ノズル孔(第1噴射孔)90Aと、X方向に延びる第2ノズル列91Bを構成する第2ノズル孔(第2噴射孔)90Bと、を備える。第1ノズル列91Aおよび第2ノズル列91Bは、Y方向に間隔をあけて設けられている。なお、図4においては、ノズル孔90を仮想線で示している。
【0046】
図4に示すように、第1ノズル孔90Aは、平面視でX方向に延びる第1仮想直線L1上で等間隔に配列されている。第2ノズル孔90Bは、平面視でX方向に延びる第2仮想直線L2上で等間隔に配列されている。第1仮想直線L1および第2仮想直線L2の中間は、平面視で各吐出チャネル65の両端の中心に位置している。第2ノズル孔90Bは、X方向において隣り合う第1ノズル孔90Aの中間位置に配置されている。これにより、第1ノズル孔90Aおよび第2ノズル孔90Bは、X方向において互い違いに配置されている。
【0047】
図5に示すように、ノズル孔90は、例えば裏側から表側に向かうに従い内径が漸次縮小するテーパ状に形成されている。第1ノズル孔90Aは、吐出チャネル65の貫通部65bのうち吐出チャネル65の両端の中心よりも-Y’側の部分に連通している。第2ノズル孔90Bは、吐出チャネル65の貫通部65bのうち吐出チャネル65の両端の中心よりも+Y’側の部分に連通している。
【0048】
吐出チャネル65とノズル孔90との位置関係について、図4を参照して説明する。
ここで、X方向に沿う吐出チャネル65の間隔をAとする。X方向に対するY’方向の傾斜角度をα(0°<α<90°)とする。第1仮想直線L1および第2仮想直線L2の間隔をBとする。nを4以上の偶数(本実施形態では4)とした場合、ヘッドチップ50は、下記の式(1)の関係を満たすように形成される。
B=A×n/tan(90°-α) ・・・(1)
【0049】
これにより、各ノズル孔90は、該ノズル孔90にX方向で隣り合う他のノズル孔90が連通する吐出チャネル65とは隣り合わない吐出チャネル65に連通している。具体的には、1つの第1ノズル孔90Aに着目すると、第1ノズル孔90Aが連通する吐出チャネル65は、第1ノズル孔90Aに+X側で隣り合う第2ノズル孔90Bが連通する吐出チャネル65に対して、2つの吐出チャネル65を間に挟んで-X側に配置されている。また、1つの第1ノズル孔90Aに着目すると、第1ノズル孔90Aが連通する吐出チャネル65は、第1ノズル孔90Aに-X側で隣り合う第2ノズル孔90Bが連通する吐出チャネル65に対して、4つの吐出チャネル65を間に挟んで配置されている。
【0050】
<プリンタの動作>
次に、上述したように構成されたプリンタ1を利用して、被記録媒体Pに文字や図形等を記録する場合について以下に説明する。
なお、初期状態として、図1に示す4つのインクタンク4にはそれぞれ異なる色のインクが十分に封入されているものとする。また、インクタンク4内のインクがインク循環機構6を介してインクジェットヘッド5内に充填された状態となっている。
【0051】
このような初期状態のもと、プリンタ1を作動させると、被記録媒体Pが搬送機構2,3のローラ11,12に挟み込まれながら+X側に搬送される。また、これと同時にキャリッジ29がY方向に移動することで、キャリッジ29に搭載されたインクジェットヘッド5がY方向に往復移動する。
インクジェットヘッド5が往復移動する間に、各インクジェットヘッド5よりインクを被記録媒体Pに適宜吐出させる。これにより、被記録媒体Pに対して文字や画像等の記録を行うことができる。
【0052】
ここで、各インクジェットヘッド5の動きについて、以下に詳細に説明する。
本実施形態のような循環式サイドシュートタイプのインクジェットヘッド5では、まず図2に示す加圧ポンプ24および吸引ポンプ25を作動させることで、循環流路23内にインクを流通させる。この場合、インク供給管21を流通するインクは、入口共通インク室80を通して各吐出チャネル65内に供給される。各吐出チャネル65内に供給されたインクは、各吐出チャネル65をY’方向に流通する。その後、インクは、出口共通インク室81に排出された後、インク排出管22を通してインクタンク4に戻される。これにより、インクジェットヘッド5とインクタンク4との間でインクを循環させることができる。
【0053】
そして、キャリッジ29(図1参照)の移動によってインクジェットヘッド5の往復移動が開始されると、フレキシブルプリント基板56を介して電極75,77に駆動電圧が印加される。この際、個別電極77を駆動電位Vddとし、共通電極75を基準電位GNDとして各電極75,77間に駆動電圧を印加する。すると、吐出チャネル65を画成する2つ駆動壁63に厚み滑り変形が生じ、これら2つの駆動壁63が非吐出チャネル66側へ突出するように変形する。すなわち、各電極75,77間に電圧を印加することで、駆動壁63がZ方向の中間部分を中心にしてV字状に屈曲変形する。これにより、吐出チャネル65の容積が増大する。そして、吐出チャネル65の容積が増大したことにより、入口共通インク室80内に貯留されたインクが吐出チャネル65内に誘導される。吐出チャネル65の内部に誘導されたインクは、圧力波となって吐出チャネル65の内部に伝播する。圧力波がノズル孔90に到達したタイミングで、電極75,77間に印加した電圧をゼロにする。これにより、駆動壁63が復元し、一旦増大した吐出チャネル65の容積が元の容積に戻る。この動作によって、吐出チャネル65の内部の圧力が増加し、インクが加圧される。その結果、液滴状のインクがノズル孔90を通って外部に吐出されることで、上述したように被記録媒体Pに文字や画像等を記録することができる。
【0054】
以上に説明したように、本実施形態では、複数のノズル孔90のうち一のノズル孔90は、一のノズル孔90にX方向で隣り合う他のノズル孔90が連通する吐出チャネル65とは隣り合わない吐出チャネル65に連通している。仮にX方向で隣り合う一対のノズル孔90が互いに隣り合う一対の吐出チャネルに連通している場合、一方の吐出チャネルで圧力を印加して一方のノズル孔90からインクを噴射する際に、入口共通インク室および出口共通インク室の少なくともいずれか一方を介して他方の吐出チャネルに圧力が伝搬し得る。本実施形態によれば、隣り合う一対のノズル孔90が連通する一対の吐出チャネル65に着目すると、一方の吐出チャネル65と他方の吐出チャネル65との間には少なくとも1つ(本実施形態では2つまたは4つ)の吐出チャネル65が配置されている。このため、一方の吐出チャネル65で圧力を印加して一方のノズル孔90からインクを噴射する際に、入口共通インク室80または出口共通インク室81を介して他方の吐出チャネル65に圧力が伝播することを抑制できる。すなわち、いわゆるクロストークを抑制し、優れた印字安定性が得られる。
【0055】
また、複数のノズル孔90は、X方向に延びる第1仮想直線L1上で等間隔に配列されている第1ノズル孔90Aと、第1仮想直線L1と平行に延びる第2仮想直線L2上で等間隔に配列され、X方向において隣り合う一対の第1ノズル孔90Aの中間位置に位置する第2ノズル孔90Bと、を備える。この構成によれば、X方向において第1ノズル孔90Aの間に第2ノズル孔90Bが位置するので、複数のノズル孔が一直線上に配列されている構成と比べて解像度を向上させることができる。
【0056】
ここで、仮に上記の式(1)においてn=2の場合には、1つの第1ノズル孔90A、およびその第1ノズル孔90Aに-X側で隣り合う第2ノズル孔90Bは、互いに隣り合う一対の吐出チャネルに連通する。また、仮に上記の式(1)においてnが奇数の場合には、1つの吐出チャネルに第1ノズル孔90Aおよび第2ノズル孔90Bがそれぞれ1つずつ連通する。本実施形態のヘッドチップ50は、n=4として上記の式(1)の関係を満たすように形成されているので、X方向で隣り合う一対のノズル孔90を、互いに隣り合わない一対の吐出チャネル65に連通させることができる。
【0057】
また、吐出チャネル65それぞれにおける両端の中心は、平面視で第1仮想直線L1および第2仮想直線L2の中間に位置する。この構成によれば、本実施形態のように吐出チャネル65が互いに同形に形成され、かつ吐出チャネル65がその延在方向(Y’方向)の垂直面に対して面対称に形成されている場合に、第1ノズル孔90Aおよび第2ノズル孔90Bを圧力波の共振点に設けることができる。よって、インクの着弾を安定させることができる。
【0058】
そして、本実施形態のインクジェットヘッド5およびプリンタ1では、上述したようにクロストークが抑制されて印字安定性に優れたヘッドチップ50を備えるので、印字品質に優れたインクジェットヘッド5およびプリンタ1を提供できる。
【0059】
図7は、実施形態の第1変形例のアクチュエータプレートの底面図である。
第1変形例のアクチュエータプレート153は、n=6とした場合、上記の式(1)の関係を満たすように形成されている。これにより、図7に示すように、各ノズル孔90は、該ノズル孔90にX方向で隣り合う他のノズル孔90が連通する吐出チャネル65とは隣り合わない吐出チャネル65に連通している。具体的には、1つの第1ノズル孔90Aに着目すると、第1ノズル孔90Aが連通する吐出チャネル65は、第1ノズル孔90Aに+X側で隣り合う第2ノズル孔90Bが連通する吐出チャネル65に対して、4つの吐出チャネル65を間に挟んで-X側に配置されている。また、1つの第1ノズル孔90Aに着目すると、第1ノズル孔90Aが連通する吐出チャネル65は、第1ノズル孔90Aに-X側で隣り合う第2ノズル孔90Bが連通する吐出チャネル65に対して、6つの吐出チャネル65を間に挟んで配置されている。したがって、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0060】
図8は、実施形態の第2変形例のアクチュエータプレートの底面図である。
第2変形例のアクチュエータプレート253は、n=8とした場合、上記の式(1)の関係を満たすように形成されている。これにより、図8に示すように、各ノズル孔90は、該ノズル孔90にX方向で隣り合う他のノズル孔90が連通する吐出チャネル65とは隣り合わない吐出チャネル65に連通している。具体的には、1つの第1ノズル孔90Aに着目すると、第1ノズル孔90Aが連通する吐出チャネル65は、第1ノズル孔90Aに+X側で隣り合う第2ノズル孔90Bが連通する吐出チャネル65に対して、6つの吐出チャネル65を間に挟んで-X側に配置されている。また、1つの第1ノズル孔90Aに着目すると、第1ノズル孔90Aが連通する吐出チャネル65は、第1ノズル孔90Aに-X側で隣り合う第2ノズル孔90Bが連通する吐出チャネル65に対して、8つの吐出チャネル65を間に挟んで配置されている。したがって、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0061】
なお、本開示の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、液体噴射記録装置の一例として、インクジェットプリンタ1を例に挙げて説明したが、プリンタに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機等であってもよい。
【0062】
上記実施形態では、印刷時にインクジェットヘッドが被記録媒体に対して移動する構成(いわゆる、シャトル機)を例にして説明をしたが、この構成に限られない。本開示に係る構成は、インクジェットヘッドを固定した状態で、インクジェットヘッドに対して被記録媒体を移動させる構成(いわゆる、固定ヘッド機)に採用してもよい。
上記実施形態では、Z方向が鉛直方向に一致する構成について説明したが、この構成のみに限らず、Z方向を水平方向に沿わせてもよい。
【0063】
上記実施形態では、被記録媒体Pが紙の場合について説明したが、この構成に限られない。被記録媒体Pは、紙に限らず、金属材料や樹脂材料であってもよく、食品等であってもよい。
上記実施形態では、液体噴射ヘッドが液体噴射記録装置に搭載された構成について説明したが、この構成に限られない。すなわち、液体噴射ヘッドから噴射される液体は、被記録媒体に着弾させるものに限らず、例えば調剤中に配合する薬液や、食品に添加する調味料や香料等の食品添加物、空気中に噴射する芳香剤等であってもよい。
【0064】
上記実施形態では、ヘッドチップ50が上記の式(1)においてnが4の場合の構成であったが、これに限定されず、nが6以上の偶数の場合の構成であってもよい。
上記実施形態では、アクチュエータプレート53にチャネル列61が1列設けられているが、チャネル列は複数列設けられていてもよい。
【0065】
上記実施形態では、ヘッドチップ50は、アクチュエータプレート53にノズルプレート51を重ね合わせた構成を有しているが、ヘッドチップの構成はこれに限定されない。ヘッドチップは、アクチュエータプレートとノズルプレートとの間に、吐出チャネルおよびノズル孔に連通する連通孔が形成された中間プレートが介在した構成を有していてもよい。
【0066】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…プリンタ(液体噴射記録装置) 5…インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド) 50…ヘッドチップ 51…ノズルプレート(噴射孔プレート) 53…アクチュエータプレート 54…カバープレート 65…吐出チャネル(噴射チャネル) 80…入口共通インク室(共通液室) 81…出口共通インク室(共通液室) 90…ノズル孔(噴射孔) 90A…第1ノズル孔(第1噴射孔) 90B…第2ノズル孔(第2噴射孔) L1…第1仮想直線 L2…第2仮想直線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8