(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095116
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20220621BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C14/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208257
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 さち子
(72)【発明者】
【氏名】福井 治世
(72)【発明者】
【氏名】津田 圭一
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF02
3C046FF03
3C046FF04
3C046FF05
3C046FF11
3C046FF13
3C046FF16
3C046FF25
4K029AA02
4K029AA04
4K029BA41
4K029BA64
4K029BB02
4K029BB07
4K029BD05
4K029CA04
4K029CA05
4K029CA13
4K029DD06
(57)【要約】
【課題】特にチタン合金の旋削加工時のような熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供する。
【解決手段】基材と、前記基材上に配置される被膜とを備える切削工具であって、前記被膜は、金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンと、からなる第一層を含み、前記第一層において、{110}面のX線回折強度Iw{110}に対する{220}面のX線回折強度Iw{220}の比Iw{220}/Iw{110}が、0.035以上0.080以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に配置される被膜とを備える切削工具であって、
前記被膜は、金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンと、からなる第一層を含み、
前記第一層において、{110}面のX線回折強度Iw{110}に対する{220}面のX線回折強度Iw{220}の比Iw{220}/Iw{110}が、0.035以上0.080以下である、切削工具。
【請求項2】
前記第一層の厚さは、0.3μm以上4.0μm以下である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記被膜は、前記第一層の上に配置される第二層を更に含み、
前記第二層は、前記第一層とは組成が異なる第一単位層を少なくとも含み、
前記第一単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、又は前記元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなる、請求項1又は請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第二層は、第二単位層を更に含み、
前記第二単位層は、前記第一層及び前記第一単位層とは組成が異なり、
前記第二単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、又は前記元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなり、
前記第一単位層及び前記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成する、請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
前記第一単位層の厚さは1nm以上100nm以下であり、前記第二単位層の厚さは1nm以上100nm以下である、請求項4に記載の切削工具。
【請求項6】
前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、cBN焼結体及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具の長寿命化を目的として、種々の検討がなされている。特開平06-262405号公報(特許文献1)には、基材の表面に、立方晶炭化タングステンを30容量%以上含有する膜厚0.5~100μmの被膜が存在することを特徴とする切削工具用または研磨工具用被覆部品が開示されている。
【0003】
特開昭54-152281号公報(特許文献2)には、タングステンおよびタングステンカーバイドのうちの1種または2種からなる被覆層を形成した表面被覆工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-262405号公報
【特許文献2】特開昭54-152281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チタン合金の旋削加工時のように、熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有する切削工具が求められている。
【0006】
そこで、本開示は、特にチタン合金の旋削加工時のような熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の切削工具は、基材と、前記基材上に配置される被膜とを備える切削工具であって、
前記被膜は、金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンと、からなる第一層を含み、
前記第一層において、{110}面のX線回折強度Iw{110}に対する{220}面のX線回折強度Iw{220}の比Iw{220}/Iw{110}が、0.035以上0.080以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の切削工具は、特にチタン合金の旋削加工時のような熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、切削工具の一態様を例示する斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の一態様における切削工具の模式断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の他の態様における切削工具の模式断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の別の他の態様における切削工具の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0011】
(1)本開示の切削工具は、基材と、前記基材上に配置される被膜とを備える切削工具であって、
前記被膜は、金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンと、からなる第一層を含み、
前記第一層において、{110}面のX線回折強度Iw{110}に対する{220}面のX線回折強度Iw{220}の比Iw{220}/Iw{110}が、0.035以上0.080以下である。
【0012】
本開示の切削工具は、特にチタン合金の旋削加工時のような熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有することができる。
【0013】
(2)前記第一層の厚さは、0.3μm以上4.0μm以下であることが好ましい。これによると、工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
【0014】
(3)前記被膜は、前記第一層の上に配置される第二層を更に含み、
前記第二層は、前記第一層とは組成が異なる第一単位層を少なくとも含み、
前記第一単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、又は前記元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることが好ましい。
【0015】
これによると、工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
【0016】
(4)前記第二層は、第二単位層を更に含み、
前記第二単位層は、前記第一層及び前記第一単位層とは組成が異なり、
前記第二単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、又は前記元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなり、
前記第一単位層及び前記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成することが好ましい。
【0017】
これによると、工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
【0018】
(5)前記第一単位層の厚さは1nm以上100nm以下であり、前記第二単位層の厚さは1nm以上100nm以下であることが好ましい。これによると、工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
【0019】
(6)前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、cBN焼結体及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これによると、工具は高温における硬度と強度とに優れる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0021】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0022】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「TiN」と記載されている場合、TiNを構成する原子数の比は、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。
【0023】
本明細書中の結晶学的記載においては、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。
【0024】
[実施形態1:切削工具]
本実施形態の切削工具は、基材と、該基材上に配置される被膜とを備える切削工具であって、
該被膜は、金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンと、からなる第一層を含み、
該第一層において、{110}面のX線回折強度Iw{110}に対する{220}面のX線回折強度Iw{220}の比Iw{220}/Iw{110}が、0.035以上0.080以下である。
【0025】
本実施形態の切削工具は、特にチタン合金の旋削加工時のような熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有することができる。この理由は明らかではないが、第一層が金属タングステンと六方晶炭化二タングステンとを所定の割合で含むことにより、被膜と被削材との拡散反応が抑制されるためと推察される。
【0026】
本実施形態の切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
【0027】
図1は、切削工具の一態様を例示する斜視図である。このような形状の切削工具は、例えば、刃先交換型切削チップとして用いられる。切削工具10は、すくい面1と、逃げ面2と、すくい面1と逃げ面2とが交差する刃先稜線部3とを有する。すなわち、すくい面1と逃げ面2とは、刃先稜線部3を挟んで繋がる面である。刃先稜線部3は、切削工具10の切刃先端部を構成する。このような切削工具10の形状は、切削工具の基材の形状と把握することもできる。すなわち、上記基材は、すくい面と、逃げ面と、すくい面及び逃げ面を繋ぐ刃先稜線部とを有する。
【0028】
<基材>
本実施形態の基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、上記基材は、超硬合金(例えば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、WCの他にCoを含む超硬合金、WCの他にCr、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体(cBN焼結体)及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、超硬合金、サーメット及びcBN焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0029】
なお、基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素又はη相と呼ばれる異常相を含んでいても本実施形態の効果は示される。なお、本実施形態で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本実施形態の効果は示される。
【0030】
切削工具が、刃先交換型切削チップ(フライス加工用刃先交換型切削チップ等)である場合、基材は、チップブレーカーを有するものも、有さないものも含まれる。刃先の稜線部分の形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与した形状)、ネガランド(面取りをした形状)、ホーニングとネガランドを組み合わせた形状の中で、いずれの形状も含まれる。
【0031】
<被膜>
本実施形態に係る「被膜」は、上記基材の少なくとも一部(例えば、切削加工時に被削材と接する部分)を被覆することで、切削工具における耐欠損性、耐摩耗性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。上記被膜は、上記基材の全面を被覆してもよい。なお、上記基材の一部が上記被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
【0032】
上記被膜は、その厚さが0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.3μm以上10μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上10μm以下であることが更に好ましく、1μm以上6μm以下であることが更により好ましく、1.5μm以上4μm以下であることが特に好ましい。上記厚さが0.1μm未満である場合、耐摩耗性が低下する傾向がある。上記厚さが10μmを超えると、例えば、断続加工において被膜と基材との間に大きな応力が加わった際に被膜の剥離又は破壊が高頻度に発生する傾向がある。
【0033】
本明細書中、被膜の厚さとは、後述する第一層、第二層(第一単位層、第二単位層)及び下地層等の被膜を構成する層それぞれの厚さの総和を意味する。上記被膜の厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の3点を測定し、測定された3点の厚さの平均値をとることで求めることが可能である。後述する第一層、第二層(第一単位層、第二単位層)及び下地層等のそれぞれの厚さを測定する場合も同様である。透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製の球面収差補正装置「JEM-2100F(商標)」が挙げられる。
【0034】
(第一層)
上記被膜は、金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンと、からなる第一層を含む。第一層は本実施形態に係る切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、不可避不純物を含んでいてもよい。該不可避不純物としては、例えば、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、ナトリウム(Na)、フッ素(F)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)が挙げられる。該不可避不純物の含有割合は、第一層の全質量に対して0質量%以上0.2質量%以下であることが好ましい。不可避不純物の含有割合は、グロー放電質量分析法により測定される。後述する「第二層」及び「他の層」の表記についても同様に、本実施形態に係る切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、不可避不純物が含まれていてもよい。
【0035】
第一層が金属タングステンと六方晶炭化二タングステン(W2C)とからなることは、測定試料の基材と反対側の表面にX線を照射することにより、上述の第一層の任意の領域に対してX線回折測定(XRD測定)を行い分析することで確認できる。第一層が金属タングステンを含む場合、XRD測定において、金属タングステンの(110)面及び(220)面等の結晶面に由来するピークが観察される。第一層が六方晶炭化二タングステンを有する場合、XRD測定において、六方晶炭化二タングステン(011)面等の結晶面に由来するピークが観測される。具体的には、X線回折パターンにおいて、金属タングステンの(110)面及び六方晶炭化二タングステン(011)面に由来するピークは2θ=39.6~40.1°に観察され、金属タングステンの(220)面に由来するピークは2θ=86.0~86.5°に観察される。
【0036】
XRD測定において、第一層の金属タングステン及び六方晶炭化二タングステンに由来するピーク以外の、中間層などの他の層や基材に由来するピーク(以下、「他のピーク」とも記す。)が検出される場合がある。この場合は、以下の方法により、第一層に由来するピークを同定する。
【0037】
測定試料の基材と反対側の表面にX線を照射することにより、第一層に対してXRD測定を行い、回折パターンAを得る。上記の測定試料の第一層よりも表面側(X線照射側)の層を機械的に除去して第一層を露出させる。露出した第一層の表面にX線を照射することにより、第一層に対してXRD測定を行い、回折パターンBを得る。回折パターンAと回折パターンBとを比較することにより、第一層に由来するピークを同定する。
【0038】
なお、第一層の厚みが1μm以上の場合は、薄膜X線回折法により第一層に由来するピークを同定することもできる。
【0039】
上記X線回折測定に用いる装置としては、たとえば、株式会社リガク製の「SmartLab」(商品名)、パナリティカル製の「X’pert」(商品名)等が挙げられる。
【0040】
本明細書において、XRD測定の条件は下記の通りである。
(XRD測定条件)
走査軸 :2θ-θ
X線源 :Cu-Kα線(1.541862Å)
検出器 :0次元検出器(シンチレーションカウンタ)
管電圧 :45kV
管電流 :40mA
入射光学系 :ミラーの利用
受光光学系 :アナライザ結晶(PW3098/27)の利用
ステップ :0.03°
積算時間 :2秒
スキャン範囲(2θ) :10°~120°
【0041】
なお、出願人が測定した限りでは、同一の試料において上記の分析をする限りにおいては、測定領域を変更して複数回行っても、分析結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定領域を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0042】
本実施形態の第一層に対して上記XRD測定を行った場合、{110}面のX線回折強度Iw{110}に対する{220}面のX線回折強度Iw{220}の比Iw{220}/Iw{110}が、0.035以上0.080以下である。Iw{220}/Iw{110}が0.035以上であると、被膜と被削材との拡散反応が抑制され、切削工具は優れた耐摩耗性を有することができる。Iw{220}/Iw{110}が0.080以下であると、被膜が十分な硬度を有するため、切削工具は優れた耐摩耗性を有することができる。
【0043】
Iw{220}/Iw{110}の下限は、0.035以上であり、0.037以上、0.040以上とすることができる。Iw{220}/Iw{110}の上限は、0.080以下であり、0.065以下、0.050以下とすることができる。Iw{220}/Iw{110}は、0.037以上0.065以下、0.040以上0.050以下とすることができる。
【0044】
本明細書中、「{110}面のX線回折強度」とは、金属タングステンの(110)面及び六方晶炭化二タングステンの(011)面に由来するX線回折ピークのうち、最も高いピークにおける回折強度(ピークの高さ)を意味する。また、「{220}面のX線回折強度」とは、金属タングステンの(220)面に由来するX線回折ピークのうち、最も高いピークにおける回折強度(ピークの高さ)を意味する。
【0045】
具体的には、上記XRD測定条件でXRD測定を行う場合、{110}面のX線回折強度は、X線回折パターンの2θ=39.6~40.1°におけるX線回折強度に対応し、{220}面のX線回折強度は、X線回折パターンの2θ=86.0~86.5°におけるX線回折強度に対応する。本実施形態では、上記第一層における任意の3点それぞれを測定して所定の結晶面のX線回折強度を求め、求められた3点のX線回折強度の平均値を当該所定の結晶面のX線回折強度とする。ここで、上記任意の3点の各点は100μm×500μmサイズの領域とする。
【0046】
なお、出願人が測定した限りでは、同一の試料において上記の測定をする限りにおいては、測定領域を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定領域を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0047】
図2は、本実施形態の一態様における切削工具の模式断面図である。
図2に示すように、上記第一層12は、上記基材11に接していてもよい。言い換えると、上記第一層12は、上記基材11の直上に設けられていてもよい。
【0048】
上記第一層の厚さの下限は、0.3μm以上が好ましい。これによると、第一層と被削材との拡散反応が抑制される。上記第一層の厚さの下限は、0.3μm以上、0.5μm以上、0.7μm以上が好ましい。上記第一層の厚さの上限は、4.0μm以下が好ましい。これによると、被膜が高い硬度を有し、耐摩耗性が良好である。上記第一層の厚さの上限は、4.0μm以下、2.0μm以下、1.5μm以下が好ましい。上記第一層の厚さは、0.3μm以上4.0μm以下が好ましく、0.5μm以上2.0μm以下が好ましく、0.7μm以上1.5μm以下が好ましい。
【0049】
(第二層)
上記被膜は、上記第一層の上に配置される第二層を更に含むことが好ましい。上記第二層は、上記第一層とは組成が異なる第一単位層を少なくとも含むことが好ましい。ここで「上記第一層の上に配置される」とは、上記第一層の上側(基材から離れる側)に第二層が設けられていればよく、互いに接触していることを要しない。言い換えると、上記第一層と、第二層との間に他の層が設けられていてもよい。また、
図3に示すように上記第二層13は、上記第一層12の直上に設けられていてもよい。上記第二層は、最外層(表面層)であってもよい。
【0050】
(第一単位層)
上記第一単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム(Al)及び珪素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、又は上記元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることが好ましい。上記第一単位層は、Cr、Al、Ti及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素又は、上記元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることがより好ましい。周期表4族元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等が挙げられる。周期表5族元素としては、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等が挙げられる。周期表6族元素としては、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。
【0051】
上記第一単位層に含まれる化合物としては、例えば、TiAlN、TiAlSiN、TiCrSiN、TiAlCrSiN、AlCrN、AlCrO、AlCrSiN、TiZrN、TiAlMoN、TiAlNbN、TiSiN、AlCrTaN、AlTiVN、TiB2、TiCrHfN、CrSiWN、TiAlCN、TiSiCN、AlZrON、AlCrCN、AlHfN、CrSiBON、TiAlWN、AlCrMoCN、TiAlBN、TiAlCrSiBCNO、ZrN及びZrCN等が挙げられる。
【0052】
上記第二層が上記第一単位層のみからなる場合(例えば、
図3の場合)、上記第一単位層(すなわち、上記第二層)は、その厚さが0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上7μm以下であることがより好ましい。
【0053】
(第二単位層)
上記第二層は、第二単位層を更に含み、該第二単位層は、上記第一層及び上記第一単位層とは組成が異なることが好ましい。上記第二単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム(Al)及び珪素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、又は上記元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることが好ましい。上記第二単位層は、Cr、Al、Ti及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素又は、上記元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることがより好ましい。周期表4族元素、5族元素及び6族元素それぞれの具体例としては、上述した各元素が挙げられる。
【0054】
上記第二単位層に含まれる化合物としては、例えば、上記(第一単位層)の欄において、例示した化合物等が挙げられる。
【0055】
さらに、上記第一単位層及び上記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成していることが好ましい。すなわち、
図4に示すように、第二層13は、第一単位層131及び第二単位層132からなる多層構造を含むことが好ましい。ここで上記多層構造は、上記第一単位層又は上記第二単位層のいずれの層から積層を開始してもよい。すなわち、上記多層構造における上記第一層側の界面は、上記第一単位層又は上記第二単位層のどちらで構成されていてもよい。また、上記多層構造における上記第一層側と反対側の界面は、上記第一単位層又は上記第二単位層のどちらで構成されていてもよい。
【0056】
上記第二層が上記多層構造を含む場合、上記第二層は、その厚さが0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上7μm以下であることがより好ましい。
【0057】
上記第二層が上記多層構造を含む場合、上記第一単位層は、その厚さが1nm以上100nm以下であることが好ましく、2nm以上25nm以下であることがより好ましい。さらに上記第二単位層は、その厚さが1nm以上100nm以下であることが好ましく、2nm以上25nm以下であることがより好ましい。本実施形態の一態様において、上記第二層が上記多層構造を含む場合、上記第一単位層の厚さは1nm以上100nm以下であり、且つ上記第二単位層の厚さは1nm以上100nm以下であることが好ましい。ここで、「第一単位層の厚さ」とは、上記第一単位層の1層あたりの厚さを意味する。「第二単位層の厚さ」とは、上記第二単位層の1層あたりの厚さを意味する。
【0058】
また、当該多層構造の積層数は、上記第二層全体の厚さが上記範囲内となる限り、上記第一単位層、上記第二単位層をそれぞれ1層ずつ積層させる態様が含まれるとともに、好ましくは両層をそれぞれ20~2500層ずつ積層させたものとすることができる。
【0059】
(他の層)
本実施形態の効果を損なわない範囲において、上記被膜は、他の層を更に含んでいてもよい。上記他の層は、上記第一層及び上記第二層とは組成が異なっていてもよいし、同じであってもよい。他の層としては、例えば、TiN層、TiWCN層等を挙げることができる。なお、その積層の順も特に限定されない。例えば、上記他の層としては、上記基材と上記第一層との間に設けられている下地層、上記第一層と上記第二層との間に設けられている中間層、上記第二層の上に設けられている表面層等が挙げられる。下地層等の上記他の層の厚さは、本実施形態の効果を損なわない範囲において、特に制限はないが例えば、0.1μm以上2μm以下が挙げられる。
【0060】
[実施形態2:切削工具の製造方法]
実施形態1の切削工具の製造方法について以下に説明する。なお、以下の製造方法は一例であり、実施形態1の切削工具は、他の方法で作製されたものでもよい。本実施形態に係る切削工具の製造方法は、基材準備工程と、第一層被覆工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0061】
<基材準備工程>
基材準備工程では、上記基材を準備する。上記基材としては、上述したようにこの種の基材として従来公知のものであればいずれの基材も使用することができる。例えば、上記基材が超硬合金からなる場合、まず所定の配合組成(質量%)からなる原料粉末を市販のアトライターを用いて均一に混合する。続いてこの混合粉末を所定の形状(例えば、SEET13T3AGSN、CNMG120408等)に加圧成形する。その後、所定の焼結炉において1300~1500℃以下で、上述の加圧成形した混合粉末を1~2時間焼結することにより、超硬合金からなる上記基材を得ることができる。また、基材は、市販品をそのまま用いてもよい。
【0062】
<第一層被覆工程>
第一層被覆工程では、上記基材の表面の少なくとも一部を第一層で被覆する。ここで、「基材の表面の少なくとも一部」には、切削加工時に被削材と接する部分が含まれる。
【0063】
上記基材の少なくとも一部を第一層で被覆する方法としては、例えば、物理蒸着法(PVD法)が挙げられる。
【0064】
物理蒸着法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、電子イオンビーム蒸着法等を挙げることができる。特に原料元素のイオン率が高いカソードアークイオンプレーティング法又はスパッタリング法を用いると、被膜を形成する前に基材表面に対して金属又はガスイオンボンバードメント処理が可能となるため、被膜と基材との密着性が格段に向上するので好ましい。
【0065】
アークイオンプレーティング法により第一層を形成する場合、例えば以下のような条件を挙げることができる。まずWCターゲット(例えば、組成がWCを93質量%以上含むバインダレスWCであって、C量が3~6.1質量%である焼結ターゲット)を装置内の対向する2機のアーク式蒸発源にセットする。基板(基材)温度を400~550℃及び該装置内のガス圧を0.3~1.5Paに設定する。
【0066】
上記ガスとしては、アルゴンガスのみ又は炭化水素系ガスであるメタンガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入する。ここで、炭化水素系ガスとしては例えばアセチレンガス、メタンガス等が挙げられる。
【0067】
基板(負)バイアス電圧を10~150V且つDC又はパルスDC(周波数20~50kHz)に維持したまま、カソード電極に80~150Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより第一層を形成することができる。成膜中にタングステンフィラメントも放電する(エミッション電流30~45A)。これにより、プラズマ中のイオンを増加させることができる。アークイオンプレーティング法に用いる装置としては、例えば、株式会社神戸製鋼所製のAIP(商品名)が挙げられる。
【0068】
上記の条件で第一層を形成することにより、第一層は金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンと、からなり、第一層において、{110}面のX線回折強度Iw{110}に対する{220}面のX線回折強度Iw{220}の比Iw{220}/Iw{110}が、0.035以上0.080以下となる。上記の条件は本発明者らが試行錯誤の結果、新たに見出したものである。
【0069】
<第二層被覆工程>
本実施形態に係る切削工具の製造方法は、上記第一層被覆工程の後に第二層被覆工程を更に含むことが好ましい。第二層の形成方法は、特に制限なく、従来の方法を用いることが可能である。具体的には、例えば、上述したPVD法によって第二層を形成することが挙げられる。
【0070】
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法では、上述した工程の他にも、基材と上記第一層との間に下地層を形成する下地層被覆工程、上記第一層と上記第二層との間に中間層を形成する中間層被覆工程、上記第二層の上に表面層を形成する表面層被覆工程及び表面処理する工程等を適宜行ってもよい。上述の下地層、中間層及び表面層等の他の層を形成する場合、従来の方法によって他の層を形成してもよい。具体的には、例えば、上述したPVD法によって上記他の層を形成することが挙げられる。表面処理をする工程としては、例えば、弾性材にダイヤモンド粉末を担持させたメディアを用いた表面処理等が挙げられる。上記表面処理を行う装置としては、例えば、株式会社不二製作所製のシリウスZ等が挙げられる。
【実施例0071】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
≪切削工具の作製≫
[試料1~試料27、試料1-3、試料1-4]
<基材準備工程>
まず、基材準備工程として、JIS規格K10超硬(形状:JIS規格CNMG120408)を基材として準備した。次に、上記基材をアークイオンプレーティング装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:AIP)の所定の位置にセットした。
【0073】
<第一層被覆工程>
第一層被覆工程として、アークイオンプレーティング法により上記基材の上に第一層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずWCターゲット(組成がWCを93質量%以上含むバインダレスWCであって、C量が3~6.1質量%である焼結ターゲット)を装置内の対向する2機のアーク式蒸発源にセットした。基板(基材)温度を400~550℃及び該装置内のガス圧を0.3~1.5Paに設定した。
【0074】
上記ガスとしては、アルゴンガスのみ又は炭化水素系ガスであるメタンガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。
【0075】
試料1~試料27では、基板(負)バイアス電圧を10~150V且つDC又はパルスDC(周波数20~50kHz)に維持したまま、カソード電極に80~150Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより第一層を形成した。成膜中にタングステンフィラメントも放電した(エミッション電流30~45A)。
【0076】
試料1-3及び試料1-4では、基板(負)バイアス電圧を160V且つDC又はパルスDC(周波数51~60kHz)に維持したまま、カソード電極に80~150Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより第一層を形成した。成膜中にタングステンフィラメントも放電した(エミッション電流46~50A)。
【0077】
<下地層被覆工程>
基材と第一層との間に下地層を設けた試料(試料19)については、第一層被覆工程を行う前に以下の手順にて、基材の上に下地層を形成した。まず表1及び表2に記載の下地層の組成の欄における金属組成を含むターゲット(焼結ターゲット又は溶成ターゲット)をアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を400~650℃及び該装置内のガス圧を0.8~5Paに設定した。反応ガスとしては窒素ガスとメタンガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。その後、カソード電極に80~150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによって、表1及び表2に記載の厚さまで下地層を形成した。
【0078】
<第二層被覆工程>
また、第一層の上に第二層を設けた試料(試料20~試料23)については、第一層被覆工程を行った後に以下の手順にて、第一層の上に第二層を形成し、本実施形態に係る切削工具を作製した。
【0079】
試料20では、HiPIMS法により第二層であるTiB2層を作製した。まず、TiB2ターゲットをアークイオンプレーティング装置とHiPIMS装置との複合装置のHiPIMS蒸発源にセットした。次に、チャンバ内を真空にし、不活性ガス(Ar)を導入した。次に基材に対し、バイアス電源を介してバイアス電圧を印加するとともに、ターゲットに対し、HiPIMS電源を介してパルス電力を供給することにより、HiPIMS装置に対して成膜動作を開始させた。成膜条件は以下のとおりである。
【0080】
(成膜条件)
ターゲット :TiB2
Ar圧 :0.4Pa
平均電力 :5kW
出力周波数 :800Hz
Duty比 :5%
バイアス電圧 :50V
基材温度 :450℃
【0081】
これにより、チャンバ内にプラズマが発生し、且つTiB2ターゲットにイオンが衝突することにより、TiB2ターゲットからTi原子、Bi原子、Tiイオン、Biイオンが放出され、基材上に表1の記載の厚さのTiB2層が形成された。
【0082】
試料21~試料23では、まず表1及び表2に記載の第二層の組成の欄における金属組成を含むターゲット(焼結ターゲット又は溶成ターゲット)をアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を500~650℃及び該装置内のガス圧を0.8~5.0Paに設定した。反応ガスとしては、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。その後、カソード電極に80~150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによって、表1及び表2に記載の厚さまで第二層を形成した。なお、多層構造の第二層を形成する場合(試料22及び試料23)は、表1及び表2において左側に記載されているものから順に第一単位層、第二単位層として目的の厚さになるまで繰り返して積層した。
【0083】
[試料1-1]
<基材準備工程>
基材準備工程として、上記の試料1と同一の基材を準備し、該基材をアークイオンプレーティング装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:AIP)の所定の位置にセットした。
【0084】
<第一層被覆工程>
第一層被覆工程として、アークイオンプレーティング法により上記基材の上に第一層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずタングステンターゲット(例えば、組成がタングステン99.5質量%以上である焼結ターゲット)を装置内の対向する2機のアーク式蒸発源にセットした。基板(基材)温度を400~550℃及び該装置内のガス圧を0.3~1.5Paに設定した。上記ガスとしては、アルゴンガスのみを導入した。
【0085】
基板(負)バイアス電圧を40V且つDCに維持したまま、カソード電極に130Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより第一層を形成した。
【0086】
[試料1-2]
<基材準備工程>
基材準備工程として、上記の試料1と同一の基材を準備し、該基材をアークイオンプレーティング装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:AIP)の所定の位置にセットした。
【0087】
<第一層被覆工程>
第一層被覆工程として、アークイオンプレーティング法により上記基材の上に第一層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずWCターゲット(例えば、組成がWCを93質量%以上含むバインダレスWCであって、C量が3~6.1質量%である焼結ターゲット)を装置内の対向する2機のアーク式蒸発源にセットした。基板(基材)温度を400~550℃及び該装置内のガス圧を0.3~1.5Paに設定した。
【0088】
上記ガスとしては、炭化水素系ガスであるメタンガスと、アルゴンガスとの混合ガスを導入した。
【0089】
基板(負)バイアス電圧を20V且つDCに維持したまま、カソード電極に120Aのパルスアーク電流(周波数0.25Hz)を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより第一層を形成した。
【0090】
[試料1-5]
<基材準備工程>
基材準備工程として、上記の試料1と同一の基材を準備し、該基材をアークイオンプレーティング装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:AIP)の所定の位置にセットした。
【0091】
<第一層被覆工程>
第一層被覆工程として、アークイオンプレーティング法により上記基材の上に第一層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずWCターゲット(例えば、組成がWCであって、C量が3~6.1質量%である焼結ターゲット)を装置内の対向する2機のアーク式蒸発源にセットした。基板(基材)温度を450℃及び該装置内のガス圧を1.0~1.5Paに設定した。
【0092】
上記ガスとしては、アルゴンガスのみを導入した。
【0093】
基板(負)バイアス電圧を30VパルスDC(周波数30kHzと200kHzを交互に印加)とし、カソード電極に150Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより第一層を形成した。
【0094】
≪切削工具の特性評価≫
上述のようにして作製した試料(試料1~試料27、試料1-1~試料1-5)の切削工具を用いて、以下のように、切削工具の各特性を評価した。
【0095】
(第一層の組成)
各試料の基材と反対側の表面にX線を照射することにより、第一層に対してXRD測定を行い、第一層の組成及び結晶構造を特定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。
【0096】
結果を表1及び表2の「第一層」の「組成」欄に示す。「組成」欄において、「W+hW2C」とは、第一層が金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンとからなることを示し、「W」とは、第一層が金属タングステンからなることを示し、「W+cWC+hW2C」とは、第一層が金属タングステンと、立方晶炭化タングステンと、六方晶炭化二タングステンとからなることを示し、「hW2C」とは、第一層が六方晶炭化二タングステンからなることを示す。
【0097】
(Iw{220}/Iw{110})
各試料の基材と反対側の表面にX線を照射することにより、第一層に対してXRD測定を行い、Iw{220}/Iw{110}を算出した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1及び表2に示す。
【0098】
(各層の厚さ)
第一層、下地層、第二層(第一単位層、第二単位層)及び被膜の厚さは、以下のようにして求めた。まず透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、商品名:JEM-2100F)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の3点を測定した。その後、測定された3点の厚さの平均値をとることで求めた。結果を表1及び表2の各層の「厚さ」欄に示す。
【0099】
表1及び表2中、「下地層」及び「第二層」における「-」との表記は、該当する層が被膜中に存在しないことを示す。また、「第二層」における「TiAlSiN(7nm)/AlTiCrBN(5nm)」等の表記は、第二層が、厚さ7nmのTiAlSiN層(第一単位層)と厚さ5nmのAlTiCrBN層(第二単位層)とを上下交互に積層した多層構造(合計厚み1.5μm)により形成されていることを示している。
【0100】
【0101】
【0102】
≪切削試験≫
上述のようにして作製した各切削工具を用いて、以下の切削条件により切削工具が欠損するまで、又は、逃げ面摩耗量が0.15mmとなるまでの切削時間(工具寿命)を測定した。その結果を表2の「切削試験」の「工具寿命」欄に示す。
【0103】
(切削条件)
被削材(材質):Ti-6Al-4V
速度 :V70m/min
送り :0.2mm/rev
切り込み :1.0mm
上記の切削条件は、チタン合金の旋削加工に該当し、加工時に切削工具に高い熱負荷がかかる。
【0104】
試料1~試料27の切削工具は実施例に該当し、試料1-1~試料1-5の切削工具は比較例に該当する。上記切削試験の結果から、試料1~試料27の切削工具は、試料1-1~試料1-5の切削工具に比べて、耐欠損性に優れており、工具寿命が長いことが分かった。このことから、試料1~試料27の切削工具は、加工時の熱負荷の高い環境下の用途に向いていることが示唆された。
【0105】
以上のように本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0106】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。