(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095220
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20220621BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20220621BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B60L3/00 H
B60L50/60
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208412
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】100111143
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 枝里
(72)【発明者】
【氏名】下郷 真弓
(72)【発明者】
【氏名】上原 秀章
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 崇司
(72)【発明者】
【氏名】ベシユド ナシム
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125DD13
5H125EE42
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電動車両の制御装置に関し、アクセル開度情報に異常が発生した場合であっても、安全に退避させることができるようにする電動車両を提供する。
【解決手段】バッテリ3から電力が供給され、アクセルペダル8の操作量に応じて駆動トルクを発生させる電動モータ2を備えた電動車両1において、アクセル開度情報の異常を検出するアクセル開度異常検出手段13と、を備える。駆動トルク制御手段12は、アクセル開度異常検出手段13によりアクセル開度情報の異常を検出した場合、アクセルペダル8の操作量に応じた電動モータ2の駆動トルクの出力を禁止すると共に、電動モータ2で発生させるクリープトルクを通常時のクリープトルクよりも大きいクリープトルクに制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリから電力が供給され、アクセルペダルの操作量に応じて駆動トルクを発生させる電動モータを備えた電動車両の制御装置であって、
前記アクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度情報を出力するアクセルペダル開度検出手段と、
前記アクセルペダル開度検出手段によって検出された前記アクセル開度情報に基づき、前記電動モータの前記駆動トルクを制御する駆動トルク制御手段と、
前記アクセル開度情報の異常を検出するアクセル開度異常検出手段と、を備え、
前記駆動トルク制御手段は、前記アクセル開度異常検出手段により前記アクセル開度情報の異常を検出した場合、前記アクセルペダルの操作量に応じた前記電動モータの駆動トルクの出力を禁止すると共に、前記電動モータで発生させるクリープトルクを通常時のクリープトルクよりも大きいクリープトルクに制御する
ことを特徴とする、電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセルペダルの操作量に応じて駆動トルクを発生させる電動モータを備えた電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、電動モータを駆動源とした電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両の開発が世界各国で進められている。電動モータで生成される駆動トルクの大きさは、アクセルペダルの操作量や車速等に応じて決定される。また、アクセルペダルが操作されていなくても、ドライバーによるブレーキペダルの踏み込み状態に応じて、クリープトルクと呼ばれる微小な駆動トルクを電動モータで発生させている。このような制御により、発進時や車両駐車時の微動性が向上する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アクセルペダルの操作量(踏み込み量)は、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサによって検出される。一方、何らかの故障によりアクセル開度情報が途絶されてしまった場合や、その値が正常な範囲を超えているような場合などでは、電動モータで発生させるべき駆動トルクの値が算出できなくなり、電動車両が走行不能に陥ってしまうことが懸念される。このような不具合は、アクセル開度センサの故障時だけでなく、アクセル開度センサと電子制御装置との間の通信経路(例えばハードワイヤやCAN経路)の故障時や、電子制御装置(ハードウェア,ソフトウェア)の故障時にも発生しうる。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アクセル開度情報に異常が発生した場合であっても、電動車両が走行不能に陥ってしまうことを防止でき、電動車両を安全に退避させることができるようにした、電動車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の適用例として実現することができる。
本適用例に係る電動車両の制御装置は、バッテリから電力が供給され、アクセルペダルの操作量に応じて駆動トルクを発生させる電動モータを備えた電動車両の制御装置である。本制御装置は、前記アクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度情報を出力するアクセルペダル開度検出手段と、前記アクセルペダル開度検出手段によって検出された前記アクセル開度情報に基づき、前記電動モータの前記駆動トルクを制御する駆動トルク制御手段と、前記アクセル開度情報の異常を検出するアクセル開度異常検出手段と、を備える。前記駆動トルク制御手段は、前記アクセル開度異常検出手段により前記アクセル開度情報の異常を検出した場合、前記アクセルペダルの操作量に応じた前記電動モータの駆動トルクの出力を禁止すると共に、前記電動モータで発生させるクリープトルクを通常時のクリープトルクよりも大きいクリープトルクに制御する。
【0007】
本適用例に係る電動車両の制御装置では、何らかの故障によりアクセル開度情報が不明である場合やその値が正常な範囲を超えているような場合に、アクセル開度異常検出手段でアクセル開度情報の異常が検出される。これを受けて駆動トルク制御手段は、アクセルペダルの操作量に応じた電動モータの駆動トルクの出力を禁止すると共に、電動モータで発生させるクリープトルクを通常時のクリープトルクよりも大きいクリープトルクに制御する。これにより、通常時のクリープトルクでは走行困難となり得る坂道の走行や縁石の乗り越え,踏切の通過等が可能となり、安全退避のための走行がより確実かつ速やかとなる。したがって、電動車両が走行不能に陥ってしまうような事態が回避される。
【発明の効果】
【0008】
本適用例に係る電動車両の制御装置によれば、アクセル開度情報に異常が検出された場合であっても、電動車両を確実かつ速やか退避走行させることができ、電動車両の走行安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本適用例に係る電動車両の制御装置の構成を例示するブロック図。
【
図2】
図1に示す電子制御装置の構成を例示するブロック図。
【
図3】(A)は通常時(アクセル開度情報の正常時)におけるクリープトルクと車速との対応関係を例示するグラフ、(B)はアクセル開度情報の異常時における第二クリープトルクと車速との対応関係を例示するグラフ。
【
図4】
図1に示す電子制御装置で実施される制御の手順を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1.装置構成]
図1~
図4は、本適用例(実施形態)に係る電動車両1の制御装置を説明するための図である。
図1に示すように、電動車両1には、少なくとも駆動源として機能する電動モータ2が搭載される。電動モータ2は、例えば永久磁石式同期電動機であり、バッテリ3から供給される電力で駆動輪7を回転駆動するための駆動トルクを発生させる。また、電動車両1に搭載される駆動源の数や種類は、追加されうる。例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンを第二の駆動源として搭載するハイブリッド型の電動車両1に本発明を適用することが可能である。
【0011】
バッテリ3は、例えばリチウムイオン電池,ニッケル水素電池等の二次電池や燃料電池等である。バッテリ3が二次電池である場合には、外部充電(例えば普通充電や急速充電)が可能とされ、電動モータ2での回生発電電力の充電も可能とされる。また、バッテリ3と電動モータ2とを接続する給電回路上には、インバータ4が介装される。インバータ4は、バッテリ3側の直流電力を交流電力に変換して供給するものである。電動モータ2は、インバータ4で変換された交流電力を消費して回転駆動され、駆動輪7を回転させるための駆動トルクを発生させる。インバータ4には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のスイッチ素子やその制御回路,整流回路(コンデンサ),変圧回路(トランス)等が内蔵される。
【0012】
電動モータ2で発生した駆動トルクは、変速機構5(トランスミッション,減速機等)を介してプロペラシャフトに伝達された後、ディファレンシャル装置6を介して駆動輪7に伝達される。変速機構5は、電動モータ2から伝達される回転駆動力を変速するものであり、例えば減速ギヤや変速用歯車機構等がこれに含まれる。ディファレンシャル装置6は、左右の駆動輪7の間に介装される駆動力分配機構であり、左右の駆動輪7の回転数差を吸収する差動歯車を内蔵する。なお、
図1に示す電動車両1では、荷室の下方に配置される後輪が駆動輪7となっているが、キャブの下方に配置される前輪を駆動輪7としてもよい。
【0013】
電動車両1のドライバー(運転手)が搭乗するキャブ内には、アクセルペダル8及びブレーキペダル9が設けられる。アクセルペダル8には、アクセル開度(アクセルペダル8の踏み込み量)に対応する信号を出力するアクセル開度センサ10が設けられる。アクセル開度センサ10は、アクセルペダル8の踏み込み量に対応するアクセル開度情報を出力するアクセルペダル開度検出手段として機能する。また、アクセル開度センサ10は、アクセルペダル開度の入力信号を複数設定して、各信号の値を比較することにより、センサの妥当性を診断することも可能である。また、ブレーキペダル9には、ブレーキ液圧(ブレーキペダル9の踏み込み量)に対応する信号を出力するブレーキ液圧センサ14が設けられる。なお、ブレーキ液圧センサ14の代わりに、ブレーキペダル9のストローク(踏み込み操作による移動量)を検出するペダルストロークセンサを用いてもよい。
【0014】
駆動輪7の駆動トルクが伝達される経路上には、電動車両1の走行速度(車速)に対応する信号を出力する車速センサ15が設けられる。
図1に示す車速センサ15は、プロペラシャフトの回転速度を検出するセンサである。また、電動モータ2には、その回転速度(モータ出力軸の角速度)に対応する信号を出力するモータ回転速度センサ16が設けられる。なお、変速機構5での変速比が既知である状況下では、電動モータ2の回転速度に基づいて電動車両1の車速を算出可能である。したがって、車速センサ15で検出された情報に代えて(あるいは加えて)、モータ回転速度センサ16で検出された情報を用いることも可能である。
【0015】
図2に示すように、アクセル開度センサ10,ブレーキ液圧センサ14,車速センサ15,モータ回転速度センサ16の各々で検出された情報は、通信経路(例えばハードワイヤやCAN経路)を介して電子制御装置11に伝達される。電子制御装置11は、電動モータ2で発生させる駆動トルクの大きさを制御するための車載ECU(Electronic Control Unit)である。電子制御装置11は、入力された情報に応じて適切な駆動トルクを電動モータ2で発生させるべく、インバータ4の作動状態を制御する。
【0016】
図2に示すように、電子制御装置11には、少なくともプロセッサとメモリとが搭載される。プロセッサには、例えばCPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)などのマイクロプロセッサが含まれ、メモリには、例えばROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory),不揮発メモリなどが含まれる。電子制御装置11で実施される制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存されている。プログラムの実行時には、プログラムの内容がメモリ空間内に展開され、プロセッサに読み込まれて実行される。
【0017】
[2.制御構成]
図1に示すように、電子制御装置11は、駆動トルク制御手段12としての機能と、アクセル開度異常検出手段13としての機能とを併せ持つ。これらの要素(駆動トルク制御手段12,アクセル開度異常検出手段13)は、プログラムの形で電子制御装置11内のメモリに記録,保存されている。なお、個々の要素を独立したプログラムとして記述してもよいし、二つの機能を兼ね備えた複合プログラムとして記述してもよい。
【0018】
アクセル開度異常検出手段13は、アクセル開度情報の異常を検出するものである。ここでは、例えば以下のような場合に、アクセル開度情報が異常であると判断される。以下のいずれでもない場合には、アクセル開度情報が正常であると判断される。
・アクセル開度情報が取得できない場合
・アクセル開度の値が正常な範囲に入っていない場合
・アクセル開度の値が不明である場合
・アクセル開度の値が不安定である場合
・アクセル開度センサ10の妥当性の診断により、アクセル開度の値が異常と判断される場合
【0019】
アクセル開度異常検出手段13でアクセル開度情報が異常であると判断された場合、電子制御装置11は、電動車両1の走行モードを通常モードからリンプホームモード(保全状態,安全状態,セーフモード)へと変更し、図示しない報知装置(例えば警報ランプ,ディスプレイ,スピーカ等)を作動させることで、何らかの故障が発生していることをドライバーに通知する。なお、アクセル開度情報が異常であると判断される状況の具体例を以下に列挙する。
・アクセルペダル8の故障時
・アクセル開度センサ10の故障時
・電子制御装置11(ハードウェア,ソフトウェア)の故障時
・アクセル開度センサ10と電子制御装置11との間の通信経路の故障時
・通信経路の信号に影響を与えうる車載機器の故障時
【0020】
駆動トルク制御手段12は、ドライバーの運転操作に応じて電動モータ2の駆動トルクを制御するものである。ここでは、アクセル開度センサ10で検出されたアクセル開度情報や、ブレーキ液圧センサ14で検出されたブレーキ液圧情報に基づいて、電動モータ2の駆動トルクが設定されるとともに、インバータ4の作動状態が制御される。駆動トルク制御手段12は、アクセル開度情報が正常である場合と異常である場合とで、異なる制御を実施する。
【0021】
アクセル開度情報が正常であり、アクセルペダル8が踏み込まれている場合、駆動トルク制御手段12は、アクセル開度及び車速に基づいて駆動トルクの値を設定するとともに、その駆動トルクが電動モータ2で生成されるようにインバータ4の作動状態を制御する。ここで設定される駆動トルクとアクセル開度と車速との関係は、あらかじめマップ(ドライバ要求トルクマップ)や数式で規定される。
【0022】
また、アクセル開度情報が正常であり、アクセルペダル8が踏み込まれていない場合、駆動トルク制御手段12は、ブレーキ液圧及び車速に基づいてクリープトルクの値を設定するとともに、そのクリープトルクが電動モータ2で生成されるようにインバータ4の作動状態を制御する。ここで設定されるクリープトルクとブレーキ液圧と車速との関係は、あらかじめマップ(クリープトルクマップ)や数式で規定される。
【0023】
図3(A)は、クリープトルクマップの一部分に対応する特性を表すグラフであって、ブレーキペダル9が踏み込まれていないとき(ブレーキ液圧が所定値未満であるとき)のクリープトルクと車速との関係を例示するグラフである。クリープトルクの値は、電動車両1が一定車速以下で走行しているときに、その車速が小さいほど大きく設定されている。なお、ブレーキペダル9が踏み込まれているときには、
図3(A)に示されるクリープトルクを上限として、ブレーキ液圧に応じてクリープトルクの値が設定される。例えば、ブレーキ液圧が増大するにつれて、クリープトルクの値が小さく設定される。
【0024】
アクセル開度情報が異常である場合には、アクセルペダル8の踏み込み操作に応じた走行が禁止され、クリープ走行のみが許容される。つまり、アクセル開度情報に異常が検出されたときには、クリープ走行が唯一の走行継続手段となる。一方、
図3(A)に示すようなグラフで設定されるクリープトルクは、発進時や車両駐車時の微動性に配慮されて比較的小さい値であることから、坂道の移動,踏切通過,縁石の乗り越え等ができない可能性があり、走行状況によっては安全退避が不確実となりうる。
【0025】
そこで駆動トルク制御手段12は、ブレーキ液圧及び車速に基づいて比較的大きな値の第二クリープトルクを設定し、その第二クリープトルクが電動モータ2で生成されるようにインバータ4の作動状態を制御する。第二クリープトルクとは、異常時専用のクリープトルクであって、通常時(アクセル開度情報の正常時)のクリープトルクよりも大きく設定される。ここで設定される第二クリープトルクとブレーキ液圧と車速との関係は、あらかじめマップ(第二クリープトルクマップ)や数式で規定される。
【0026】
図3(B)中の実線グラフは、クリープトルクマップの一部分に対応する特性を表すグラフであって、ブレーキペダル9が踏み込まれていないとき(ブレーキ液圧が所定値未満であるとき)のクリープトルクと車速との関係を例示するグラフである。
図3(B)中の破線グラフは、
図3(A)の実線グラフに対応するものである。実線グラフは、少なくとも破線グラフよりも上方に位置するように設定される。
【0027】
つまり、第二クリープトルクの値は、仮にアクセル開度情報が正常だった場合に設定されるクリープトルクよりも大きく設定される。なお、ブレーキペダル9が踏み込まれているときに設定される第二クリープトルクの大きさについても、ブレーキペダル9が踏み込まれていないときと同様に設定される。すなわち、ブレーキペダル9が踏み込まれているときの第二クリープトルクは、その時点のブレーキ液圧に対応する通常時のクリープトルクよりも大きく設定される。
【0028】
[3.フローチャート]
図4は、電子制御装置11で実施される制御の手順を説明するためのフローチャートである。ステップA1では、アクセル開度異常検出手段13において、アクセル開度情報が正常であるか否かが判定される。アクセル開度情報が正常である場合にはステップA2に進み、異常である場合にはステップA5に進む。
【0029】
ステップA2では、駆動トルク制御手段12において、アクセルペダル8が踏み込まれているか否か(アクセルONであるかアクセルOFFであるか)が判定される。この条件が成立する場合にはステップA3に進み、駆動トルク制御手段12がアクセル開度及び車速に基づいて駆動トルクの値を設定する。また、駆動トルク制御手段12は、その駆動トルクが電動モータ2で生成されるようにインバータ4の作動状態を制御する。
【0030】
また、ステップA2でアクセルペダル8が踏み込まれていない場合には、ステップA4に進む。ステップA4では、駆動トルク制御手段12がブレーキ液圧及び車速に基づいてクリープトルクの値を設定する。また、駆動トルク制御手段12は、そのクリープトルクが電動モータ2で生成されるようにインバータ4の作動状態を制御する。これにより、通常モードでのクリープ走行が実現される。
【0031】
一方、ステップA1において、アクセル開度情報が異常であると判定された場合にはステップA5に進み、アクセルペダル8の操作量に応じた電動モータ2の駆動トルクの出力を禁止すると共に、駆動トルク制御手段12がブレーキ液圧及び車速に基づいて第二クリープトルクの値を設定する。第二クリープトルクの値は、仮にアクセル開度情報が正常だった場合に設定されるクリープトルクよりも大きく設定される。このような設定により、坂道や踏切通過,縁石の乗り越えなどの走破可能性が向上し、速やかな安全退避が可能となる。
【0032】
[4.作用,効果]
本適用例に係る電動車両1の制御装置では、何らかの故障によりアクセル開度情報が不明である場合やその値が正常な範囲を超えているような場合などの状況下において、アクセル開度異常検出手段13でアクセル開度情報の異常が検出される。これを受けて駆動トルク制御手段12は、アクセルペダル8の操作量に応じた電動モータ2の駆動トルクの出力を禁止すると共に、電動モータ2で発生させるクリープトルクを通常時のクリープトルクよりも大きい第二クリープトルクに制御する。つまり、アクセルペダル8の操作状態が不明であるからといって、電動モータ2のトルク制御を完全に停止させるのではなく、アクセル開度情報を使用しないクリープ走行のための制御が継続される。また、このとき設定される第二クリープトルクは、アクセル開度情報が正常であるときに設定される通常のクリープトルクよりも大きく設定される。
【0033】
これにより、アクセル開度情報に異常があり、ドライバーのアクセルペダル8の操作に応じた電動モータ2の駆動トルクの出力ができない状況下であっても、通常時のクリープトルクでは十分な車速が得られないような坂道の走行や縁石の乗り越え,踏切の通過等が可能となり、安全退避のための走行がより確実かつ速やかとなる。したがって、電動車両1が走行不能に陥ってしまう可能性を低下させることができ、例えば踏み切り内での立ち往生や、後続車両による追突などを回避することができる。このように、電動車両1を確実かつ速やか退避走行させることができ、電動車両1の走行安全性を向上させることができる。
【0034】
[5.その他]
上記の適用例(実施形態)はあくまでも例示に過ぎず、上記の適用例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。上記の適用例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて複数の要素の一部分を取捨選択することができ、あるいは他の公知技術と組み合わせることができる。
【0035】
上記の適用例では、クリープトルクを設定するためのマップとして、
図3(A),(B)に示すような二種類のマップが用意されているが、マップの数はこれに限定されない。例えば、マップの数は一種類とし、通常時のクリープトルクに所定のゲインを乗じたものを第二クリープトルクとして設定してもよい。この場合、アクセル開度情報が正常であるときにはゲインを1に設定し、アクセル開度情報が異常であるときにはゲインを1よりも大きく設定すればよい。このような制御においても、上記の適用例と同様の作用,効果を獲得することができる。
【0036】
また、上記のゲインの値を路面勾配に応じて設定してもよい。例えば、登坂方向に路面勾配が大きい場合に、ゲインの値を大きく設定する。つまり、登坂路でアクセル開度情報の異常を検出した場合には、通常時よりも大きいクリープトルクを発生させる。このようなゲインの設定により、登坂路での安全退避のための走行がより確実かつ速やかとなり、電動車両1の走行安全性をさらに向上させることができる。
【0037】
また、
図3(B)に示すような第二クリープトルクとブレーキ液圧と車速との関係を、動的に変更できるようにしてもよい。例えば、第二クリープトルクマップで設定された第二クリープトルクを電動モータ2で発生させているにもかかわらず、実際の車速が十分に大きくならないような場合には、安全退避のためのトルクが足りていないと考えられる。そこで、ブレーキ液圧及び車速に対する第二クリープトルクの値が大きくなるように、第二クリープトルクマップの内容を変更する。あるいは、通常時のクリープトルクに乗算されるゲインの値をさらに増加させてもよい。これらの制御により、安全退避のためのトルクを増大させることができ、電動車両1の走行安全性をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 電動車両
2 電動モータ
3 バッテリ
4 インバータ5 変速機構
6 ディファレンシャル装置
7 駆動輪
8 アクセルペダル
9 ブレーキペダル
10 アクセル開度センサ(アクセルペダル開度検出手段)
11 電子制御装置
12 駆動トルク制御手段
13 アクセル開度異常検出手段
14 ブレーキ液圧センサ
15 車速センサ
16 モータ回転速度センサ