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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095221
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 7/18 20060101AFI20220621BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20220621BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20220621BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B60L7/18
B60L50/60
B60T8/17 C
B60T8/1755 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208413
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】100111143
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 枝里
(72)【発明者】
【氏名】上原 秀章
(72)【発明者】
【氏名】下郷 真弓
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 崇司
(72)【発明者】
【氏名】ベシユド ナシム
【テーマコード(参考)】
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246BA08
3D246DA01
3D246EA05
3D246GB04
3D246GB39
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA08A
3D246HA13A
3D246HA42A
3D246HA51A
3D246HA86A
3D246HC01
3D246JA03
3D246JB11
3D246JB12
3D246LA15Z
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125CA08
5H125CA11
5H125CB02
5H125EE49
5H125EE53
(57)【要約】
【課題】電動車両の制御装置に関し、車両挙動制御中における減速度の変化に起因して車両挙動が不安定になることを防止する。
【解決手段】バッテリ3の電力で駆動トルクを発生させる電動モータ2を備えた電動車両1の制御装置において、電動車両1の減速度の度合が設定された複数の減速度モードを有し、ドライバーの操作に応じて減速度モードの切り換えを要求する減速度切換手段13を備える。また、減速度切換手段13で要求された減速度モードで設定される減速度が得られるように、電動モータ2の回生トルクを制御する減速度制御手段11と、電動車両1の車両挙動が不安定になった場合に、車両挙動を安定させる車両挙動安定制御を実施する車両挙動安定制御手段12とを備える。減速度制御手段11は、車両挙動安定制御の実施中に減速度切換手段13による減速度モードの切り換えが要求された場合に、減速度モードの切り換えを禁止する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリから供給される電力で駆動トルクを発生させる電動モータを備えた電動車両の制御装置であって、
前記電動車両の減速度の度合が設定された複数の減速度モードを有し、ドライバーの操作に応じて前記減速度モードの切り換えを要求する減速度切換手段と、
前記減速度切換手段で要求された前記減速度モードで設定される前記減速度が得られるように、前記電動モータの回生トルクを制御する減速度制御手段と、
前記電動車両の車両挙動が不安定になった場合に、前記車両挙動を安定させる車両挙動安定制御を実施する車両挙動安定制御手段と、を備え、
前記減速度制御手段は、前記車両挙動安定制御の実施中に前記減速度切換手段による前記減速度モードの切り換えが要求された場合に、前記減速度モードの切り換えを禁止することを特徴とする、電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記減速度制御手段は、前記車両挙動安定制御の実施中に前記減速度切換手段による前記減速度モードの切り換えが要求された場合、前記車両挙動安定制御の作動が終了した後に、前記減速度モードの切り換えを実行する
ことを特徴とする、請求項1記載の電動車両の制御装置。
【請求項3】
前記減速度制御手段は、異なる大きさの回生トルクが設定された複数のトルクマップを切り換えることで前記電動モータの回生トルクを制御する
ことを特徴とする、請求項1または2記載の電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを備えた電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、乗用車だけでなくトラックやバスなどの商用車においても、電動モータによって車両を駆動する電動車両が開発されている。電動車両では、バッテリから供給される電力が電動モータに供給され、車両を走行させるための駆動力が生成される。また、車両の減速時には電動モータで回生発電が実施され、回生エネルギーとして生じた電力がバッテリに回収される。このとき、回生発電による減速度合(回収される電力の大きさ)をドライバーが多段階に設定できるようにした制御装置も提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-128193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、電動車両には、カーブでのコーナリング時の車体姿勢を安定する車両姿勢安定機能や、氷上路(低μ路)でのスリップを防止するABS機能(Antilock Braking System)などを提供する車両挙動制御が搭載されている。この車両挙動制御が実施されている状態において、例えばドライバーが車速を落とそうとして、減速度合が大きな回生発電モードを設定してしまうことが考えられる。この場合、減速度合の変化によって車両の挙動が不安定になり、車両挙動制御の効果が低下するおそれがある。特に、トラックやバスなどの商用車では車両重量が大きいため、減速度合の変更による影響が大きい。また、積荷を積載している場合などには、車両挙動が不安定になる可能性が高まる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、車両挙動制御中における減速度の変化に起因して車両挙動が不安定になることを防止する電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
(1)本適用例に係る電動車両の制御装置は、バッテリから供給される電力で駆動トルクを発生させる電動モータを備えた電動車両の制御装置であって、前記電動車両の減速度の度合が設定された複数の減速度モードを有し、ドライバーの操作に応じて前記減速度モードの切り換えを要求する減速度切換手段を備える。
【0007】
また、前記減速度切換手段で要求された前記減速度モードで設定される前記減速度が得られるように、前記電動モータの回生トルクを制御する減速度制御手段を備える。さらに、前記電動車両の車両挙動が不安定となった場合に、前記車両挙動を安定させる車両挙動安定制御を実施する車両挙動安定制御手段を備える。前記減速度制御手段は、前記車両挙動安定制御の実施中に前記減速度切換手段による前記減速度モードの切り換えが要求された場合に、前記減速度モードの切り換えを禁止する。
【0008】
上記の通り、車両挙動安定制御の実施中における減速度モードの切り換えを禁止することで、減速度の変化による車両挙動の不安定化が防止される。また、減速度モードが維持されたまま車両挙動安定制御が継続されることから、車両挙動が速やかに安定する。
【0009】
(2)本適用例に係る電動車両は、上記(1)において、前記減速度制御手段が、前記車両挙動安定制御の実施中に前記減速度切換手段による前記減速度モードの切り換えが要求された場合、前記車両挙動安定制御の作動が終了した後に、前記減速度モードの切り換えを実行してもよい。
車両挙動安定制御の作動が終了した後に減速度モードの切り換えを実行することで、車両挙動が安定した状態でドライバーの望む減速度が実現され、電動車両のドライブフィーリングが改善される。
【0010】
(3)本適用例に係る電動車両は、上記(1)または(2)において、前記減速度制御手段が、異なる大きさの回生トルクが設定された複数のトルクマップを切り換えることで前記電動モータの回生トルクを制御してもよい。
異なる大きさの回生トルクが設定された複数のトルクマップを用意しておき、これらを切り換えるようにすることで、ドライバーの望む減速度での走行が速やかに実現され、電動車両のドライブフィーリングがさらに改善される。
【発明の効果】
【0011】
本適用例に係る電動車両の制御装置によれば、車両挙動制御中における減速度の変化に起因して車両挙動が不安定になることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本適用例に係る電動車両の制御装置の構成を例示するブロック図。
図2図1に示す電子制御装置の構成を例示するブロック図。
図3図1に示す電子制御装置に保存されたトルクマップを例示するグラフ。
図4図1に示す電子制御装置で実施される制御の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1.装置構成]
図1図4は、本適用例(実施形態)に係る電動車両1の制御装置を説明するための図である。図1に示すように、電動車両1には、少なくとも駆動源として機能する電動モータ2が搭載される。電動モータ2は、例えば永久磁石式同期電動機であり、バッテリ3から供給される電力で駆動輪7を回転駆動するための駆動トルクを発生させる。また、電動車両1に搭載される駆動源の数や種類は、追加されうる。例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンを第二の駆動源として搭載するハイブリッド型の電動車両1に本発明を適用することが可能である。
【0014】
バッテリ3は、例えばリチウムイオン電池,ニッケル水素電池等の二次電池や燃料電池等である。バッテリ3が二次電池である場合には、外部充電(例えば普通充電や急速充電)が可能とされ、電動モータ2での回生発電電力の充電も可能とされる。また、バッテリ3と電動モータ2とを接続する給電回路上には、インバータ4が介装される。インバータ4は、バッテリ3側の直流電力を交流電力に変換して供給するものである。電動モータ2は、インバータ4で変換された交流電力を消費して回転駆動され、駆動輪7を回転させるための駆動トルクを発生させる。インバータ4には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のスイッチ素子やその制御回路,整流回路(コンデンサ),変圧回路(トランス)等が内蔵される。
【0015】
電動モータ2で発生した駆動トルクは、変速機構5(トランスミッション)を介してプロペラシャフトに伝達された後、ディファレンシャル装置6を介して駆動輪7に伝達される。変速機構5は、電動モータ2から伝達される回転駆動力を変速するものであり、例えば減速ギヤや変速用歯車機構等がこれに含まれる。ディファレンシャル装置6は、左右の駆動輪7の間に介装される駆動力分配機構であり、左右の駆動輪7の回転数差を吸収する差動歯車を内蔵する。なお、図1に示す電動車両1では、荷室の下方に配置される後輪が駆動輪7となっているが、キャブの下方に配置される前輪を駆動輪7としてもよいし、前輪及び後輪の両方を駆動輪7としてもよい。
【0016】
電動車両1には、各輪(操舵輪,従動輪,駆動輪7等を含む)に制動力を発生させる制動装置8が設けられる。ここでいう制動装置8には、ディスクブレーキやドラムブレーキ等が含まれる。図1中に示す制動装置8は、各車輪の車軸に設けられたディスクブレーキのブレーキキャリパーである。制動装置8の作動状態は、後述する電子制御装置10によって制御される。
【0017】
電動車両1のドライバー(運転手)が搭乗するキャブ内には、報知装置9が設けられるとともに、ドライバーによって操作されるセレクトレバー13,アクセルペダル24,ブレーキペダル25,ステアリング26等が設けられる。報知装置9は、ドライバーに情報を報知するための装置であり、電子制御装置10の出力装置としての機能を持つ。ここでいう報知装置9には、例えばスピーカ,ブザー,ランプ,ディスプレイなどが含まれる。
【0018】
セレクトレバー13は、ドライバーの操作に応じてパーキングポジション(駐車レンジ)、ドライブポジション(前進走行レンジ)、リバースポジション(後退走行レンジ)が切り換え可能に設けられる。さらにセレクトレバー13(減速度切換手段)には、ドライバーの操作に応じて電動車両1の減速度を複数の減速度モードの切り換える機能を有している。セレクトレバー13を操作することで、電動モータ2の回生制動に係る減速度の度合いが設定された複数の減速度モードの一つが選択され、その情報が電子制御装置10に伝達される。電子制御装置10は、その情報を受けて減速度モードの切り換えを実施し、減速度モードに応じたトルクが電動モータ2で発生するように、インバータ4の作動状態を制御する。ただし、減速度モードは、セレクトレバー13が切り換えられたときに、常に直ちに切り換えられるわけではない。電子制御装置10は、セレクトレバー13が切り換えられた時点における電動車両1の走行状態を考慮した上で、減速度モードの切り換えを実施する。電子制御装置10で実施される具体的な制御については後述する。
【0019】
複数の減速度モードには、例えば回生制動に係る減速度がほぼ0に設定される第一回生ブレーキモードや、エンジン搭載車両におけるエンジンブレーキ相当の減速度が設定される第二回生ブレーキモード,第二回生ブレーキモードの減速度よりも大きい減速度であってエンジン搭載車両における排気ブレーキ相当の減速度が設定される第三回生ブレーキモード,第三回生ブレーキよりもさらに大きな減速度が設定される第四回生ブレーキモード等が含まれる。
【0020】
各減速度モードで設定される減速度に関して、アクセルペダル24が踏み込まれていないときのトルクと車速(モータ回転速度)との関係が規定されたトルクマップを図3に例示する。第一回生ブレーキモードでは、図3中に細破線で示すような関係で電動モータ2のトルクが制御される。また、図3中の細実線は第二回生ブレーキモードに対応し、太破線は第三回生ブレーキモードに対応し、太実線は第四回生ブレーキモードに対応する。各々の回生ブレーキモードの名称に付加される序数が大きいほど、回生トルク(回生制動力)が大きく設定される。各々のトルクマップには、異なる大きさの回生トルクが設定される。
【0021】
なお、図3に示す例では、車速が正の所定範囲内にあるとき(所定の車速範囲内で前進走行しているとき)に、回生トルクが設定されている。また、各々の回生ブレーキモードには、車速変化に対して回生トルクの値が一定になる(グラフが水平になる)車速範囲が含まれている。さらに、車速がある程度大きい走行状態では、各々の回生ブレーキモードで設定される回生トルクの値が同一値に設定されるようになっている。
【0022】
ドライバーが着座するシートの近傍には、アクセルペダル24,ブレーキペダル25,ステアリング26が設置される。アクセルペダル24には、アクセル開度(アクセルペダル24の踏み込み量)に対応する信号を出力するアクセル開度センサ14が設けられ、ブレーキペダル25には、ブレーキ液圧(ブレーキペダルの踏み込み量)に対応する信号を出力するブレーキ液圧センサ15が設けられる。また、ステアリング26には、操舵角を検出する操舵角センサ16が設けられる。なお、ブレーキ液圧センサ15の代わりに、ブレーキペダル25のストローク(踏み込み操作による移動量)を検出するペダルストロークセンサを用いてもよい。
【0023】
駆動輪7の駆動トルクが伝達される経路上には、電動車両1の走行速度(車速)に対応する信号を出力する車速センサ17が設けられる。図1に示す車速センサ17は、プロペラシャフトの回転速度を検出するセンサである。また、電動モータ2には、その回転速度(モータ出力軸の角速度)に対応する信号を出力するモータ回転速度センサ18が設けられる。なお、変速機構5での変速比が既知である状況下では、電動モータ2の回転速度に基づいて電動車両1の車速を算出可能である。したがって、車速センサ17で検出された情報に代えて(あるいは加えて)、モータ回転速度センサ18で検出された情報を用いることも可能である。
【0024】
図2に示すように、電子制御装置10の入力側には、セレクトレバー13,アクセル開度センサ14,ブレーキ液圧センサ15,操舵角センサ16,車速センサ17,モータ回転速度センサ18等が接続される。これらの各々で検出された情報は、通信経路(例えばハードワイヤやCAN経路)を介して電子制御装置10に伝達される。また、電子制御装置10の出力側には、インバータ4,制動装置8,報知装置9等が接続される。電子制御装置10は、入力された情報に応じて適切な駆動トルクや回生トルクが電動モータ2で発生するように、インバータ4や制動装置8の作動状態を制御する。
【0025】
電子制御装置10には、少なくともプロセッサとメモリとが搭載される。プロセッサには、例えばCPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)などのマイクロプロセッサが含まれ、メモリには、例えばROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory)等が含まれる。電子制御装置10で実施される制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存されている。
【0026】
プログラムの実行時には、プログラムの内容がメモリ空間内に展開され、プロセッサに読み込まれて実行される。また、図2に示すように、電子制御装置10には、記憶装置やインタフェース装置が搭載されうる。記憶装置は、長期的に保存されるデータやプログラムを記憶するものであり、例えばフラッシュメモリ,不揮発メモリ等がこれに含まれる。インタフェース装置は、電子制御装置10と外部装置との間の入出力(Input/ Output;I/O)を司る装置である。
【0027】
[2.制御構成]
図1に示すように、電子制御装置10は、減速度制御手段11としての機能と、車両挙動安定制御手段12としての機能とを併せ持つ。これらの要素(減速度制御手段11,車両挙動安定制御手段12)は、プログラムの形で電子制御装置10内のメモリに記録,保存されている。なお、個々の要素を独立したプログラムとして記述してもよいし、二つの機能を兼ね備えた複合プログラムとして記述してもよい。
【0028】
車両挙動安定制御手段12は、車両挙動安定制御を実施するものである。車両挙動安定制御とは、電動車両の車両挙動が不安定になった場合に実施されて、車両挙動を安定させる制御全般を意味する。ここでいう車両挙動安定制御には、例えば以下のような制御が含まれる。
・ABS制御(Antilock Braking System,制動時の車輪ロック防止制御)
・ESP制御(Electronic Stability Program,旋回姿勢の安定化制御)
・ASR制御(Anti-Slip Regulator,力行時のスリップ防止制御)
【0029】
車両挙動安定制御手段12は、電子制御装置10とは別体の制御装置として設けられてもよいし、複数の電子制御装置に分かれて設けられてもよい。例えば、ABSを統括管理するためのABS-ECUとESPを統括管理するためのESP-ECUとが電子制御装置10とは別に設けられてもよい。この場合、ABS-ECUとESP-ECUとの両方が車両挙動安定制御手段12に対応する要素となる。本適用例の車両挙動安定制御で制御される対象となる装置には、インバータ4,制動装置8,報知装置9が含まれる。車両挙動安定制御では、車両挙動が安定するように電動車両1の駆動力と各輪の制動力とが自動的に制御される。また、車両挙動安定制御が実施されていることが、報知装置9を介してドライバーに報知される。
【0030】
減速度制御手段11は、セレクトレバー13で選択された減速度モードの情報に基づき、インバータ4の作動状態を制御することで電動モータ2のトルク(駆動トルクや回生トルク)を制御するものである。減速度制御手段11は、原則的には、選択された減速度モードに対応する減速度が得られるようにインバータ4を制御する。減速度制御手段11は、図3に示すような複数のトルクマップを切り換えることで、車速に応じて電動モータ2の回生トルクを制御する。
【0031】
一方、車両挙動安定制御手段12で車両挙動安定制御が実施されている場合、減速度制御手段11は減速度モードの切り換えを禁止する。この場合、減速度制御手段11は、車両挙動安定制御が終了するまで減速度モードの切り換えを保留し、車両挙動安定制御が終了した後に減速度モードの切り換えを実行する。減速度モードの切り換えを一時的に停止させることで、回生トルクの急変が抑制されることになり、電動車両1の車両挙動が安定しやすくなる。なお、車両挙動安定制御が実施されていない場合には、直ちに減速度モードの切り換えが実行される。
【0032】
なお、車両挙動安定制御が終了したと判定される具体的な状況としては、以下のような状況が挙げられる。これらの条件の成否は車両挙動安定制御手段12で判断される。減速度制御手段11は、車両挙動安定制御手段12での判断に基づき、車両挙動安定制御が継続されているのか、それとも終了したのかを判定する。
・車速が所定値以下になった(停車した)
・舵角が所定値以下になった(旋回動作が終了した)
・車輪のスリップ量が所定値以下になった(スリップ状態が安定化した)
【0033】
[3.フローチャート]
図4は、電子制御装置10で実施される制御の手順を説明するためのフローチャートである。ステップA1では、減速度制御手段11において、セレクトレバー13の操作により減速度モードの切り換えが要求されたか否かが判定される。例えば、ドライバーがセレクトレバー13の操作位置を変更しておらず、減速度モードの切り換えが要求されていなければ本フローは終了し、次回の制御周期に再びステップA1が判定される。一方、減速度モードの切り換えが要求された場合には、ステップA2に進む。
【0034】
ステップA2では、車両挙動安定制御が作動中であるか否かが判定される。ここで、車両挙動安定制御手段12で車両挙動安定制御が実施されている場合には、ステップA3に進み、トルクマップの切り換えが禁止される。また、続くステップA4では、車両挙動安定制御が終了したか否かが判定される。車両挙動安定制御が終了していない場合にはステップA3に戻り、トルクマップの切り換えが禁止された状態が維持される。
【0035】
一方、ステップA4で車両挙動安定制御が終了したと判定された場合には、ステップA5に進み、トルクマップの切り換えが実行される。なお、ステップA2で車両挙動安定制御が作動中でない場合にもステップA5に進み、トルクマップの切り換えが直ちに実行される。
【0036】
[4.作用,効果]
(1)上記の電動車両1では、車両挙動安定制御手段12が車両挙動安定制御を実施している間は、たとえセレクトレバー13の操作位置が変更されたとしても減速度モードの切り換え(トルクマップの切り換え)が禁止される。つまり、それまで選択されていた減速度モードが維持されたまま、車両挙動安定制御が継続される。このような制御により、回生トルクの急変が抑制されることになり、車両挙動が速やかに安定する。したがって、本適用例に係る電動車両1の制御装置によれば、車両挙動制御中における減速度の変化に起因して車両挙動が不安定になることを防止できる。
【0037】
(2)上記の電動車両1では、車両挙動制御が終了するまで減速度モードの切り換えが禁止される。また、車両挙動安定制御が終了した後には、減速度モードの切り換えが実行される。このように、車両挙動安定制御の作動が終了した後に減速度モードの切り換えを実行することで、車両挙動が安定した状態でドライバーの望む減速度を実現することができ、電動車両1の安定性を確保しつつドライブフィーリングを改善することができる。
【0038】
(3)上記の電動車両1では、図3に示すように、異なる大きさの回生トルクが設定された複数のトルクマップを切り換えることで、電動モータ2の回生トルクの大きさが制御される。このように、トルクマップをあらかじめ用意しておき、これらを切り換えるようにすることで、ドライバーの望む減速度での走行を速やかに実現することができ、電動車両1のドライブフィーリングをさらに改善できる。
【0039】
[5.その他]
上記の適用例(実施形態)はあくまでも例示に過ぎず、上記の適用例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。上記の適用例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて複数の要素の一部分を取捨選択することができ、あるいは他の公知技術と組み合わせることができる。
【0040】
上記の適用例では、図3に示すような四種類のトルクマップが用意されているが、トルクマップの数はこれに限定されない。例えば、通常時の回生トルクを与えるマップを一種類だけ用意しておき、これに所定のゲインを乗じることで通常時以外の回生トルクを設定することにしてもよい。ゲインの値は、通常時には1に設定され、回生トルクを強めたい場合には1よりも大きく設定される。少なくとも、車両挙動安定制御の実施中に電動車両1の減速度の度合が変化しないように減速度モードの切り換えを禁止することで、上記の適用例と同様の作用,効果を獲得することができる。
【0041】
また、上記の適用例では、減速度モードの切り替え要求の有無を判定するステップA1の後に、車両挙動安定制御の作動状態を判定するステップA2が実施されるフローチャートを例示したが、これらの判定順序や具体的な判定内容はこれに限定されない。例えば、図4中のステップA1とステップA2とを入れ替えてもよい。少なくとも、車両挙動安定制御手段12による車両挙動安定制御が実施中の場合であって、減速度切換手段(セレクトレバー13)による減速度モードの切り換えが要求された場合に、減速度制御手段11が減速度モードの切り換えを禁止することで、上記の適用例と同様の作用,効果を獲得することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 電動車両
2 電動モータ
3 バッテリ
4 インバータ
5 変速機構
6 ディファレンシャル装置
7 駆動輪
8 制動装置
9 報知装置
10 電子制御装置
11 減速度制御手段
12 車両挙動安定制御手段
13 セレクトレバー(減速度切換手段)
14 アクセル開度センサ
15 ブレーキ液圧センサ
16 操舵角センサ
17 車速センサ
18 モータ回転速度センサ
図1
図2
図3
図4