(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095225
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】熱膨張性耐火シート、及び、熱膨張性耐火シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 21/02 20060101AFI20220621BHJP
C09K 21/14 20060101ALI20220621BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C09K21/02
C09K21/14
E04B1/94 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208418
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000119830
【氏名又は名称】因幡電機産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】龍田 佳招
【テーマコード(参考)】
2E001
4H028
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001GA24
2E001HD11
2E001JA18
2E001LA04
2E001LA16
4H028AA03
4H028AA43
(57)【要約】
【課題】建築物における狭小な隙間に取り付けた状態における耐火性を向上させることができ、しかも、前記狭小な隙間に取り付けるときの作業性を向上させることができる熱膨張性耐火シート等を提供する。
【解決手段】本発明に係る熱膨張性耐火シートは、マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火組成物で構成された熱膨張性耐火シートであって、前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率よりも高い。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火組成物で構成された熱膨張性耐火シートであって、
前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率よりも高い
熱膨張性耐火シート。
【請求項2】
熱膨張前の厚みが0.6mm以下である
請求項1に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項3】
マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火組成物を、加熱溶融状態でシート化するシート化工程を実施して、前記熱膨張性耐火性組成物で構成された熱膨張性耐火シートを製造する
熱膨張性耐火シートの製造方法。
【請求項4】
前記シート化工程においては、
加熱溶融状態の前記熱膨張性耐火組成物で一次シートを作製する一次シート作製工程と、
該一次シート作製工程で作製された前記一次シートを薄肉化して、前記一次シートよりも厚みの薄い二次シートを作製する薄肉化工程と、
を実施する
請求項3に記載の熱膨張性耐火シートの製造方法。
【請求項5】
前記薄肉化工程において、一対のローラ間に、前記一次シートを挟みつつ搬送することにより、前記一次シートを薄肉化する
請求項4に記載の熱膨張性耐火シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性耐火シート、及び、熱膨張性耐火シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一戸建住宅、集合住宅、高層住宅、高層ビル、商業施設、公共施設などの各種の建築物において、該建築物の耐火性を確保するために、前記建築物の隙間に耐火物を取り付けることがある。
そして、前記建築物の隙間が狭小な隙間(例えば、ガラス板と、該ガラス板が取り付けられる框と、該框が取り付けられる窓枠とを備える窓における、前記ガラス板と前記框との間の隙間や前記框と前記窓枠との間の隙間など)の場合には、このような狭小な隙間には、耐火物として、耐火性パテが充填されて取り付けられたり、熱膨張性耐火シートが介装されて取り付けられたりしている(例えば、下記特許文献1)。
【0003】
前記耐火性パテは、通常、マトリックス成分(熱硬化性樹脂など)及び熱膨張性黒鉛を含む樹脂組成物で構成されており、また、前記熱膨張性耐火シートは、下記特許文献1に記載されているように、通常、マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含む樹脂組成物をシート状に成形することにより得られている。
また、前記熱膨張性黒鉛は、火災時などに、前記耐火性パテや前記熱膨張性耐火シートが火炎に曝されたときに膨張し、この膨張に伴って断熱層を形成する。
そのため、前記耐火性パテや前記熱膨張性耐火シートが前記熱膨張性黒鉛を含むことにより、前記建築物で火災などが生じて、前記耐火性パテや前記熱膨張性耐火シートが火炎に曝されたときに、前記熱膨張性黒鉛が膨張することにより、前記建築物の隙間を小さくした上で、前記熱膨張性黒鉛の膨張に伴う断熱層が形成されるようになる。
これにより、前記火炎が前記建築物の隙間を通過することが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記熱膨張性耐火シートは、樹脂組成物をシート状に成形することにより得られるものであることから、前記耐火性パテに比べて変形性に乏しく、狭小な隙間への取り付け量を適切に調整することが容易なものではない。
また、壁に設けた貫通孔に前記熱膨張性耐火シートを巻き付けた管などを挿通させるような場面でも、前記貫通孔と前記管との間が狭いような場合には、挿入作業を容易に行うことができないことがある。
したがって、前記熱膨張性耐火シートを狭小な隙間に取り付ける場合には、前記狭小な隙間に取り付けた状態において耐火性を向上させることが難しいことに加え、前記狭小な隙間に取り付けるときの作業性を向上させることが難しい(耐火性の向上と作業性の向上とを両立させることが難しい)。
【0006】
しかしながら、建築物などの狭小な隙間に取り付けた状態における耐火性を向上させる観点及び前記狭小な隙間に取り付けるときの作業性の観点から、前記熱膨張性耐火シートについての検討が、これまでに十分になされているとは言い難い。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、建築物における狭小な隙間に取り付けた状態における耐火性を向上させることができ、しかも、前記狭小な隙間に取り付けるときの作業性を向上させることができる熱膨張性耐火シート、及び、該熱熱膨張性耐火シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討したところ、熱膨張性耐火シートを、マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火組成物で構成した上で、さらに、前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率よりも高いものとすることにより、前記熱膨張性耐火シートが、建築物における狭小な隙間に取り付けた状態において良好な耐火性を示し、かつ、前記狭小な隙間に取り付けるときの作業性にも優れることを見出した。
そして、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る熱膨張性耐火シートは、
マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火組成物で構成された熱膨張性耐火シートであって、
前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率よりも高い。
【0010】
斯かる構成によれば、前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率よりも高いので、建築物などの狭小な隙間に取り付けた状態において火炎に曝されたときに、前記熱膨張性耐火シートは、前記狭小な隙間を比較的十分に埋めることができる。
これにより、前記火炎が前記狭小な隙間を通過することを比較的十分に抑制することができる。
その結果、前記熱膨張性耐火シートは、建築物などの狭小な隙間に介装されて取り付けられた状態における耐火性が向上されたものとなる。
また、前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率よりも高いので、前記熱膨張性耐火シートの厚みを比較的薄くすることができる。
これにより、壁に設けた貫通孔に前記熱膨張性耐火シートを巻き付けた管などを挿通させるような場面において、前記貫通孔と前記管との間が狭いような場合でも、挿入作業を容易に行うことができる。
すなわち、前記熱膨張性耐火シートを狭小な箇所に取り付けるときの作業性が向上される。
【0011】
また、上記熱膨張性耐火シートにおいては、
熱膨張前の厚みが0.6mm以下である、ことが好ましい。
【0012】
斯かる構成によれば、建築物における隙間に介装されて取り付けられた状態において火炎に曝されたときに、前記熱膨張性耐火シートは、幅方向よりも厚み方向により一層膨張するものとなるので、前記熱膨張性耐火シートは、前記狭小な隙間をより一層十分に埋めることができる。
これにより、前記火炎が前記狭小な隙間を通過することをより一層十分に抑制することができる。
その結果、前記熱膨張性耐火シートは、建築物などの狭小な隙間に介装されて取り付けられた状態における耐火性がより一層向上されたものとなる。
また、前記熱膨張性耐火シートが、幅方向よりも厚み方向により一層膨張するものとなることにより、前記熱膨張性耐火シートの厚みをより一層薄いものとすることができる。
これにより、前記熱膨張性耐火シートを狭小な箇所に取り付けるときの作業性がより一層向上される。
【0013】
本発明に係る熱膨張性耐火シートの製造方法は、
マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火組成物を、加熱溶融状態でシート化するシート化工程を実施して、前記熱膨張性耐火性組成物で構成された熱膨張性耐火シートを製造する。
【0014】
斯かる構成によれば、得られる熱膨張性耐火シートを、建築物における隙間に介装されて取り付けられた状態において火炎に曝されたときに、幅方向よりも厚み方向に膨張するものとすることができる。
その結果、得られる熱膨張性耐火シートを、建築物などの狭小な隙間に介装されて取り付けられた状態における耐熱性が比較的向上されたものとすることができる。
また、前記熱膨張性シートの厚みを比較的薄いものとすることができるので、前記熱膨張性耐火シートを狭小な箇所に取り付けるときの作業性が向上される。
【0015】
本発明に係る熱膨張性耐火シートの製造方法は、
前記シート化工程においては、
加熱溶融状態の前記熱膨張性耐火組成物で一次シートを作製する一次シート作製工程と、
該一次シート作製工程で作製された前記一次シートを薄肉化して、前記一次シートよりも厚みの薄い二次シートを作製する薄肉化工程と、
を実施する、ことが好ましい。
【0016】
斯かる構成によれば、得られる熱膨張性耐火シートを、建築物における隙間に介装されて取り付けられた状態において火炎に曝されたときに、幅方向よりも厚み方向に、より一層膨張し易いものとすることができる。
その結果、得られる熱膨張性耐火シートを、建築物などの狭小な隙間に介装されて取り付けられた状態における耐熱性がより一層向上されたものとすることができる。
また、前記熱膨張性耐火シートの厚みをより一層薄くすることができるので、前記熱膨張性耐火シートを狭小な箇所に取り付けるときの作業性が向上される。
【0017】
本発明に係る熱膨張性耐火シートの製造方法は、
前記薄肉化工程において、一対のローラ間に、前記一次シートを挟みつつ搬送することにより、前記一次シートを薄肉化する、ことが好ましい。
【0018】
斯かる構成によれば、前記薄肉化工程において、前記一次シートを比較的容易に薄肉化することができる。
【発明の効果】
【0019】
上記の通り、本発明によれば、建築物における狭小な隙間に取り付けた状態における耐火性を向上させることができ、しかも、前記狭小な隙間に取り付けるときの作業性を向上させることができる熱膨張性耐火シート、及び、該熱熱膨張性耐火シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る熱膨張性耐火シートの製造方法を示す図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る熱膨張性耐火シートの製造に用いる装置の構成を示す図。
【
図3】熱膨張性耐火シートについて、初期厚さtに対して、幅方向の熱膨張率に対する厚み方向の熱膨張倍率の比Rをプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態ともいう)に係る熱膨張性耐火シート及び熱膨張性耐火シートの製造方法について説明する。
【0022】
[熱膨張性耐火シート]
まず、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートは、マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火組成物で構成されている。
また、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートでは、前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率よりも高い。
なお、本明細書では、熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率が高いとは、熱膨張性耐火シートを800℃で20分間加熱した後において、厚み方向の熱膨張倍率が幅方向の熱膨張倍率よりも高いことを意味する。
【0023】
前記マトリックス成分は、熱膨張性シートを構成する熱膨張性耐火組成物に含有させるものとして公知の各種マトリックス樹脂を含有させることができる。
前記マトリックス成分は、熱可塑性樹脂を含有していることが好ましい。
前記熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン樹脂などが挙げられる。
【0024】
また、前記マトリックス成分は、熱可塑性樹脂以外に、エラストマー及びゴムの少なくとも一方を含有していることが好ましく、ゴムを含有していることがより好ましい。
前記エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、塩化ビニル系エラストマーなどが挙げられる。
前記ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。また、ゴム成分は、これらの多加硫ゴムや非加硫ゴムであってもよい。
上記のごとき熱可塑性樹脂との親和性をより高める点から、前記ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴムを用いることが好ましい。
【0025】
また、前記マトリックス成分が、熱可塑性樹脂とゴムとを含む場合、前記マトリックス成分は、前記熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂)であって、ゴムがオレフィン系樹脂中に微分散されて構成された(オレフィン系樹脂がハードセグメントを構成し、ゴムがソフトセグメントを構成する)、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂(TPO)を含むことが好ましい。
前記マトリックス成分が前記オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂(TPO)を含むことにより、前記熱膨張性耐火組成物を溶融状態としたときに、溶融状態における前記熱膨張性耐火組成物の粘度を適切に調整することができる。これにより、熱膨張性耐火シートをより薄いものに成形し易くなる。
前記マトリックス成分がTPOを含む場合、前記ゴムは、ブチルゴムであることが特に好ましい。前記ゴムがブチルゴムであることにより、前記熱膨張性耐火組成物を適度な粘性を有するものとすることができる。
また、前記マトリックス成分は、酢酸ビニル含有量が15質量%以上25質量%以下であるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を含んでもよい。酢酸ビニル含有量が15質量%以上25質量%以下であることにより、前記熱膨張性耐火組成物を適度な硬さを有するものとすることができる。
また、前記マトリックス成分は、酢酸ビニル含有量が15質量%以上25質量%以下であるエチレン酢酸ビニル共重合体中に、ゴムが微分散されたものを含んでいてもよい。前記マトリックス成分が、酢酸ビニル含有量が15質量%以上25質量%以下であるエチレン酢酸ビニル共重合体に、ゴムが微分散されたものを含んでいる場合にも、前記ゴムは、ブチルゴムであることが特に好ましい。
【0026】
EVAなどの熱可塑性樹脂は、熱膨張性耐火シートを後述するような方法で容易に作製できる点において、JIS K7210-1に規定のMFR(190℃、2.16kg)が0.1g/10min以上であることが好ましく、0.5g/10min以上であることがより好ましい。
EVAなどの熱可塑性樹脂のMFRは、30g/10min以下であることが好ましく、20g/10min以下であることがより好ましい。
熱膨張性耐火組成物自体も上記のようなMFRを有することが好ましい。
【0027】
本実施形態に係る熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性耐火組成物は、前記マトリックス成分を15質量%以上含んでいることが好ましく、20質量%以上含んでいることがより好ましく、25質量%以上含んでいることがさらに好ましい。
また、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性耐火組成物は、前記マトリックス成分を85質量%以下含んでいることが好ましく、80質量%以下含んでいることがより好ましく、50質量%以下含んでいることがさらに好ましい。
なお、上記した前記マトリックス成分の質量割合は、配合時の質量割合を意味する。
前記熱膨張性耐火組成物が前記マトリックス成分を15質量%以上85質量%以下含んでいると、所望の熱膨張倍率を安定して得ることができる。
【0028】
また、前記マトリックス成分が前記エラストマー及び前記ゴムの少なくとも一方を含有している場合、前記エラストマー及び前記ゴムの少なくとも一方が前記マトリックス成分の総質量に占める質量割合は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。
また、前記エラストマー及び前記ゴムの少なくとも一方が前記マトリックス成分の総質量に占める質量割合は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
前記エラストマー及び前記ゴムの少なくとも一方が前記マトリックス成分の総質量に占める質量割合が、5質量%以上50質量%以下であると、所望の耐火性能が得られ易くなる。
【0029】
また、前記マトリックス成分は、前記熱可塑性樹脂や、前記エラストマーやゴム以外に、可塑剤を含有していてもよい。前記可塑剤としては、ナフテン系やパラフィン系などのプロセスオイルやシリコンオイルなどが挙げられる。
前記熱膨張性耐火シートをより耐熱性に優れるものとすることを重視した場合、前記可塑性としては、シリコンオイルを用いることが好ましい。
また、前記熱膨張性耐火シートをより廉価に作製することを重視した場合、前記可塑剤としては、プロセスオイルを用いることが好ましい。
【0030】
前記熱膨張性黒鉛は、熱膨張性耐火シートに熱膨張性を付与する。
前記熱膨張性黒鉛は、火災時などにおいて、前記熱膨張性シートが火炎に曝されたときに膨張し、この膨張に伴って断熱層を形成する。
前記熱膨張性黒鉛としては、各種公知のものを用いることができる。
前記熱膨張性黒鉛としては、例えば、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キャッシュグラファイトといったグラファイトや、これらグラファイトが処理剤で処理されたものなどが挙げられる。
上記処理剤としては、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸や、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素などの強酸化剤が挙げられる。
また、前記熱膨張性黒鉛は、中和処理されたものであってもよい。詳しくは、上記のような強酸化剤で処理された前記熱膨張性黒鉛を、アンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などで中和処理されたものであってもよい。
【0031】
本実施形態に係る熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性耐火組成物は、前記熱膨張性黒鉛を10質量%以上含んでいることが好ましく、20質量%以上含んでいることがより好ましい。
前記熱膨張性耐火組成物が、前記熱膨張性黒鉛を10質量%以上含んでいることにより、熱膨張性耐火シートとされた状態において、該熱膨張性耐火シートをより適切に膨張させることができる。
また、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性耐火組成物は、前記熱膨張性黒鉛を30質量%以下含んでいることが好ましく、25質量%以下含んでいることがより好ましい。
前記熱膨張性耐火組成物が、前記熱膨張性黒鉛を30質量%以下含んでいることにより、熱膨張性耐火シートとされた状態おいて、該熱膨張性耐火シートが火炎に曝されたときに、前記熱膨張性耐火シートの保形性をより十分に維持できることに加えて、前記熱膨張性耐火シートが過度に膨張することを抑制することができる。
なお、上記した前記熱膨張性黒鉛の質量割合は、配合時の質量割合を意味する。
【0032】
本実施形態に係る熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性耐火組成物は、前記マトリックス成分及び前記熱膨張性黒鉛に加えて、充填材を含んでいることが好ましい。
前記充填材は、無機系充填材であってもよいし、有機系充填材であってもよい。
本実施形態に係る熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性耐火組成物は、前記充填材として、前記無機系充填材及び前記有機系充填材の両方を含んでいることが好ましい。
【0033】
本実施形態に係る熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性耐火組成物が前記充填材を含んでいる場合、その含有割合(質量割合)は、30質量%以上であること好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。前記熱膨張性耐火組成物における前記充填材の含有割合(質量割合)が30質量%以上であると、所望の熱膨張倍率を安定して得ることができる。
また、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性耐火組成物が前記充填材を含んでいる場合、その含有割合(質量割合)は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。前記熱膨張性耐火組成物における前記充填材の含有割合(質量割合)が60質量%以下であると、所望の熱膨張倍率を安定して得ることができる。
さらに、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性耐火組成物が前記充填材として前記無機系充填材及び前記有機系充填材の両方を含んでいる場合、前記無機系充填材の含有割合(質量割合)MR1と前記有機系充填材の含有割合(質量割合)MR2との比は、MR1:MR2=1:2~1:5であることが好ましく、MR1:MR2=1:3~1:4であることがより好ましい。
【0034】
前記無機系充填材としては、耐火性を付与するものを用いることができる。
前記無機系充填材は、上記したように、前記熱膨張性黒鉛の膨張に伴う断熱層が形成される際に、熱容量を増大させ伝熱を抑制させつつ、骨材のようにも機能して前記断熱層の強度を向上させる。
このような無機系充填材としては、金属水酸化物、軽量骨材等を用いることができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。軽量骨材としては、フライアッシュ、ガラスバルーン、セラミックバルーン、シラスバルーン等が挙げられる。
また、前記無機系充填材として、炭酸カルシウムを用いることもできる。
前記熱膨張性耐火シートをより廉価に作製することを重視した場合、前記無機系充填材としては、炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0035】
前記有機系充填材は、少なくとも、炭素及び水素を含有する有機化合物である。
前記有機系充填材としては、難燃性を示す有機系充填材を用いることが好ましい。難燃性を示す有機系充填材としては、炭素及び水素に加えて、ヘテロ原子として、窒素、リンなどを含むものが好ましい。
難燃性を示す有機系充填材としては、窒素を含有する難燃剤が挙げられ、詳しくは、メラミン系化合物、グアニジン化合物などが挙げられる。
前記メラミン系化合物としては、メラミン、メレム、メロンなどのメラミン若しくはメラミン誘導体、またはこれらの塩が挙げられる。メラミンまたはメラミン誘導体の塩としては、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、オルトリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、ポリメタリン酸メラミン、ピロ硫酸メラム、有機スルホン酸メラム、有機ホスホン酸メラミン、有機ホスフィン酸メラミン、ホウ酸メラミンなどが挙げられる。
前記グアニジン系化合物としては、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素などが挙げられる。
これらの化合物は、1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本実施形態に係る熱膨張性耐火シートでは、上記したように、前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率よりも高いことが重要である。
熱膨張性耐火シートが、例えば、ガラス板と、該ガラス板が取り付けられる框と、該框が取り付けられる窓枠とを備える窓における、前記ガラス板と前記框との間の狭小な隙間に取り付けられる場合、前記熱膨張性耐火シートの一方のシート面は、前記ガラス板と対向する前記框の面に当接するように取り付けられる。すなわち、前記ガラス板と前記框との間に取り付けられた状態において、前記熱膨張性耐火シートの幅方向は、前記ガラスと対応する前記框の面と平行な方向となり、前記熱膨張性耐火シートの厚み方向は、前記ガラスと対向する前記框の面に対して垂直な方向となる。
そのため、前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向よりも高いと、前記熱膨張性耐火シートが熱膨張したときに、前記ガラスと前記框との間の狭小な隙間をより小さくすることができる。
すなわち、前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率よりも高いことにより、建築物などの狭小な隙間に介装されて取り付けられた状態において火炎に曝されたときに、前記熱膨張性耐火シートは、前記狭小な隙間を比較的十分に埋めることができる。
これにより、前記火炎が前記狭小な隙間を通過することを比較的十分に抑制することができる。
その結果、前記熱膨張性耐火シートは、建築物などの狭小な隙間に介装されて取り付けられた状態における耐火性が向上されたものとなる。
前記熱膨張性耐火シートの厚み方向の熱膨張倍率が、前記熱膨張性耐火シートの幅方向の熱膨張倍率よりも高いことにより、前記熱膨張性耐火シートの厚みを比較的薄くすることができるので、壁に設けた貫通孔に前記熱膨張性耐火シートを巻き付けた管などを挿通させるような場面において、前記貫通孔と前記管との間が狭いような場合でも、挿入作業を容易に行うことができる。
すなわち、前記熱膨張性耐火シートを狭小な箇所に取り付けるときの作業性が向上される。
【0037】
前記熱膨張性耐火シートにおいて、厚み方向の熱膨張倍率が幅方向の熱膨張倍率が高くなっている理由は定かではないが、本発明者は、前記熱膨張性耐火シート中において、前記熱膨張性黒鉛が前記熱膨張性耐火シートにおける厚み方向に膨張し易くなるように配向されていることが一因であると推察している。なお、後述するように、熱膨張性耐火組成物を押出形成したもの(一次シート)を一対のローラ間で挟みつつ搬送することにより前記熱硬化性耐火シートとしたときに、前記熱膨張性耐火シートにおける厚み方向に膨張し易くなるように、前記熱膨張性黒鉛を配向することができると考えられる。
また、前記熱膨張性耐火シートを作製するための前記熱膨張性耐火組成物が、前記マトリックス成分として、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂(TPO)を含むことにより、前記熱膨張性耐火組成物を溶融状態としたときに、溶融状態における前記熱膨張性耐火組成物の粘度を適切に調整できるので、これにより、前記熱膨張性耐火シートにおける前記熱膨張性黒鉛の配向性をより一層向上させることができると考えられる。
【0038】
なお、熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性耐火組成物の組成(前記熱膨張性耐火組成物に配合する成分や配合組成)を適切に調整することにより、前記熱膨張性耐火組成物から作製される熱膨張性耐火シートを、厚み方向の熱膨張倍率が幅方向の熱膨張倍率よりも高いものとすることができる。
また、前記熱膨張性耐火組成物を押出成形することにより前記熱膨張性耐火シートを作製する場合には、前記熱膨張性耐火組成物の混練条件(混練温度、混練時間、混練速度など)や、押出条件(押出圧力など)を適切に調整することにより、前記熱膨張性耐火シートを、厚み方向の熱膨張倍率が幅方向の熱膨張倍率よりも高いものとすることができる。
【0039】
本実施形態に係る熱膨張性耐火シートは、熱膨張前の厚みが0.6mm以下であることが好ましい。
熱膨張前の厚みが0.6mm以下であることにより、後述の実施例の項で示しているように、前記熱膨張性耐火シートは、幅方向よりも厚み方向により一層膨張するものとなる。
これにより、建築物における狭小な隙間に介装されて取り付けられた状態において火炎に曝されたときに、前記熱膨張性耐火シートは、前記狭小な隙間をより一層十分に埋めることができる。
その結果、前記火炎が前記狭小な隙間を通過することをより一層十分に抑制することができる。
前記熱膨張性耐火シートの厚みは、0.5mm以下であってもよい。
前記熱膨張性耐火シートの厚みは、0.1mm以上とすることができる。
前記熱膨張性耐火シートの厚みは、無作為に選択した複数箇所(例えば、10箇所)の厚みをマイクロメータ―で測定した値を平均した算術平均値として求めることができる。
前記熱膨張性耐火シートの厚みが0.1mm以上であると、層間構造を有する熱膨張性黒鉛の破壊を抑制することができるので、前記熱膨張性耐火シートにおける熱膨張性能の低下を抑制することができる。
【0040】
[熱膨張性耐火シートの製造方法]
次に、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートの製造方法について、
図1を参照しながら説明する。
なお、以下の熱膨張性耐火シートの製造方法について、上記した熱膨張性耐火シートと説明が重複する箇所については、その説明は繰り返さない。
【0041】
図1(a)に示したように、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートの製造方法は、マトリックス成分及び熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火組成物を、加熱溶融状態でシート化するシート化工程S1を実施して、前記熱膨張性耐火組成物で構成された熱膨張性耐火シートを製造する。
また、
図1(b)に示したように、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートの製造方法では、シート化工程S1において、加熱溶融状態の前記熱膨張性耐火組成物で一次シートを作製する一次シート作製工程S1aと、一次シート作製工程S1aで作製された前記一次シートを薄肉化して、前記一次シートよりも厚みの薄い二次シートを作製する薄肉化工程S1bと、を実施してもよい。
さらに、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートの製造方法では、薄肉化工程S1bにおいて、一対のローラ間に、前記一次シートを挟みつつ搬送することにより、前記一次シートを薄肉化してもよい。
【0042】
本実施形態に係る熱膨張性耐火シートの製造方法は、例えば、
図2に示したような、熱膨張性耐火シート製造装置を用いて行うことができる。
【0043】
図2に示したように、熱膨張性耐火シート製造装置1は、熱膨張性耐火組成物を収容し、収容した前記熱膨張性耐火組成物を所定量ずつ排出するホッパ10と、ホッパ10から排出された前記熱膨張性耐火組成物を加熱溶融状態で押出成形して一次シートを作製する一次シート作製部20と、一次シート作製部20で作製された前記一次シートを薄肉化して、前記一次シートよりも厚みの薄い二次シートを作製する二次シート作製部30と、二次シート作製部30で作製された前記二次シートを巻き取る巻取部40と、を備えている。
なお、
図2には図示されていないが、熱膨張性耐火組成物は、被混練物を混練するための混練翼を備えた混練部にて調製される。
具体的には、前記熱膨張性耐火組成物は、前記混練部に被混練物(マトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び、必要に応じて、充填材)を加え、該被混練物を適度な溶融粘度を有するように加熱した上で、前記混練翼で前記被混練物の溶融粘度に応じて適宜混練することにより調製される。
このように調製された熱膨張性耐火組成物は、送出ライン(図示せず)を通ってホッパ10内に供給される。
【0044】
ホッパ10は、熱膨張性耐火組成物を収容する収容部11と、収容部11の下端側に接続されて、収容部11に収容された前記熱膨張性耐火組成物を所定量ずつ排出する排出部12とを備えている。
本実施形態に係る熱膨張性耐火シート製造装置1では、収容部11は、排出部12に向けて(すなわち、下側に向けて)幅狭となる漏斗状に構成されており、漏斗部の中心を通る中心軸が鉛直方向に沿うように配されている。このように、漏斗状に構成されることにより、排出部12からの前記熱膨張性耐火組成物の排出量が調整される。
排出部12は、直管状に構成されており、長さ方向が鉛直方向に沿うようにして、前記収容部11の下端側に連結されている。
【0045】
一次シート作製部20は、ホッパ10から排出された前記熱膨張性耐火組成物を収容する収容部21と、収容部21内に配されて、収容部21に収容された前記熱膨張性耐火組成物を混練しながら下流側に向けて搬送するスクリュー22と、スクリュー22の下流側に配されて、スクリュー22によって混練されながら搬送された前記熱膨張性耐火組成物をシート状に成形するダイ23と、を備えている。
具体的には、一次シート作製部20は、押出機と、該押出機の先端に装着したフラットダイとによって構成することができる。
【0046】
スクリュー22は、軸部22aと、軸部22aの周囲に螺旋状に取り付けられた翼部22bとを備えている。
本実施形態に係る熱膨張性耐火シート製造装置1では、スクリュー22は、軸部22aの延在方向が水平方向となるように配されており、翼部22bは、複数の翼22b1が、下側部分が上側部分よりもダイ23と近い位置関係となるように軸部22aの周囲に所定間隔を空けた状態で取り付けられることにより、螺旋状をなしている。
翼部22bがこのような螺旋状をなすことにより、収容部21に収容された前記熱膨張性耐火組成物が翼部22bで混練されながらダイ23に向けて搬送される。
前記熱膨張性耐火組成物に含まれる熱膨張性黒鉛が過度に粉砕されてしまうと接炎時における熱膨張性耐火シートの膨張性が十分に発揮され難くなるため、スクリュー22は、過度なシェアストレスを与えないように構成されていることが好ましい。
そのようなことから、押出機は二軸押出機よりも単軸押出機であることが好ましく、前記スクリュー22はシングルフライトタイプのフルフライトスクリューが好ましい。
【0047】
収容部21は、スクリュー22を収容可能に構成されている。本実施形態に係る熱膨張性耐火シート製造装置1では、上記したように、スクリュー22は、軸部22aの延在方向が水平方向となるように配されているので、収容部21は、このように配されたスクリュー22を収容すべく、水平方向に細長となるように構成されている。
収容部21は、収容部21に収容された前記熱膨張性耐火樹脂組成物を加熱するための加熱部(図示せず)を備えている。前記加熱部で前記熱膨張性耐火樹脂組成物を加熱することにより、加熱溶融状態の前記熱膨張性耐火樹脂組成物を、スクリュー22で混練しながらダイ23に向けて搬送することができる。
【0048】
ダイ23は、入口23aから出口23bに向かうにつれて、溶融状態の前記熱膨張性耐火樹脂組成物の流路を絞り、かつ、出口23bの形状が断面矩形状(断面において幅方向が長手方向となる細長い矩形状)となるように構成されている。このように構成されることにより、溶融状態の前記熱膨張性耐火樹脂組成物が出口23bから押し出されるときに、シート状に成形することができる(一次シートを得ることができる)。
なお、本実施形態に係る熱膨張性耐火シート製造装置1では、ダイ23の入口23aにおいては、溶融状態の前記熱膨張性耐火樹脂組成物は、断面において幅方向が長手方向となる断面楕円形状であるものの、出口23bにおいては、シート状に成形されて押し出される(一次シートとされる)。
ダイ23は、溶融状態の前記熱膨張性耐火樹脂組成物がスリットから吐出される際に適度なせん断が加わるようにすることで熱膨張性黒鉛やその破片を膨張方向がシート厚み方向となるように配向させるのに有利となる。
ダイ23は、スリット間隔が1mm~2mm程度のものが好ましい。
【0049】
二次シート作製部30は、ダイ23から押し出された一次シートを挟みつつ下流側に搬送する一対のローラ31、32を備えている。
本実施形態に係る熱膨張性耐火シート製造装置1では、一対のローラ31、32は、鉛直方向に重なるように配されている。
一対のローラ31、32は、外周面どうしの間隔が、一次シートの厚みよりも小さくなるように配されている。これにより、前記一次シートを薄肉化して、前記一次シートよりも厚みの薄い二次シートを得ることができる。
一対のローラ31、32の間隔は、一次シートの厚みよりも小さければどのような大きさであってもよいが、0.1mm以上1mm未満であることが好ましく、0.4mm以上0.8mm以下であることがより好ましく、0.4mm以上0.6mm以下であることがさらに好ましい。
一対のローラ31、32の間隔が0.1mm以上1mm未満であると、熱膨張性黒鉛が過度に破砕されてしまうことを抑制できるとともに、所望の使用部分での取り扱い性(例えば、狭小な箇所に取り付けるときの作業性)が悪くなることを抑制することができる。
二次シート作製部30においては、一対のローラ31、32の外表面の温度は、所定範囲の温度内に維持されていることが好ましく、例えば、30~40℃の範囲の温度に維持されていることが好ましい。これにより、外気温の変動に伴って一対のローラ31、32の外表面の温度が変動することを抑制した状態で、前記一次シートを薄肉化することができる。すなわち、安定した条件で、前記一次シートを薄肉化することができる。
一対のローラ31、32は、例えば、温水を流すことが可能となるように構成されており、温水を流すことにより、前記一対のローラ31、32の外表面の温度は、30~40℃の範囲の温度に維持されていることが好ましい。
一対のローラ31、32は、二次シートを搬送する方向(図中の実線矢印の方向)に向かって回転する。
一対のローラ31、32は、二次シートを搬送する方向に向かって略同一速度で回転することが好ましい。
一対のローラ31、32は、一方の周速を他方の周速の90%~99%として二次シートにせん断力を加えるようにしてもよい。
一対のローラ31、32の回転速度は、一次シート作製部20からの一次シートの搬送速度を勘案して、適宜設定される。
一対のローラ31、32の回転速度は、ダイ23から押出された一次シートに対して引き落としをかけるように設定されてもよく、一対のローラ31、32に導入される直前での一次シートの厚みがダイスリット間隔の0.6倍~0.9倍となるように引き落としが加わる速度としてもよい。
【0050】
巻取部40は、二次シート作製部30で作製されたシートを巻き取る巻取ローラ41を備えている。
巻取ローラ41は、二次シートを巻き取る方向(図中の破線矢印の方向)に向かって回転する。
巻取ローラ41の巻取速度は、二次シート作製部30における一対のローラ31、32の回転速度(すなわち、二次シートの搬送速度)を勘案して、適宜設定される。
【0051】
次に、
図2に示した熱膨張性耐火シート製造装置1を用いて、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートの製造方法を実施する例について説明する。
【0052】
図2に示した熱膨張性耐火シート製造装置1では、シート化工程S1を、一次シート作製部20及び二次シート作製部30にて実施する。詳しくは、
図2に示した熱膨張性耐火シート製造装置1では、一次シート作製工程S1aを一次シート作製部20で実施し、薄肉化工程S1bを二次シート作製部30で実施する。
具体的には、シート化工程S1(一次シート作製工程S1a及び薄肉化工程S1b)は、以下のように実施される。
まず、ホッパ10の収容部11に収容され、ホッパ10の排出部12から排出された熱膨張性耐火組成物を、一次シート作製部20の収容部21で受けて収容する。
次に、収容部21において、加熱部にて熱膨張性耐火組成物を加熱することにより加熱溶融状態とし、この加熱溶融状態の熱膨張性耐火組成物を、スクリュー22で混練しながらダイ23に向けて(詳しくは、ダイ23の入口23aに向けて)搬送する。
【0053】
前記加熱部における加熱温度は、マトリックス成分に含有される熱可塑性樹脂の種類や前記マトリックス成分の組成に応じて適宜選択することができる。
例えば、マトリックス成分に含有される熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂であり、マトリックス成分が熱硬化性樹脂であるオレフィン系樹脂に加えてゴムを含有している場合(すなわち、マトリックス成分がオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂(TPO)を含有している場合)には、前記加熱部における加熱温度は、70℃以上にすることが好ましい。
加熱温度の下限値を上記のような範囲とすることにより、マトリックス成分としてオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂(TPO)を含有している熱膨張性耐火組成物を、十分な溶融状態とすることができる。
また、上記のような場合、前記加熱部における加熱温度は、140℃以下にすることが好ましい。前記加熱部における加熱温度を140℃以下にすることにより、前記熱膨張性耐火組成物が加工中に膨張することを抑制することができる。
加熱温度の上限値を上記のような範囲とすることにより、マトリックス成分としてオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂(TPO)を含有している熱膨張性耐火樹脂組成物中において、熱膨張性黒鉛が過度に膨張することを抑制することができる。
また、熱膨張性耐火樹脂組成物の溶融粘度が過度に低下することを抑制でき、前記熱膨張性耐火組成物をスクリュー22で好適に搬送することができる。
【0054】
スクリュー22の回転速度は、前記熱膨張性耐火組成物における熱膨張性黒鉛の含有割合に応じて適宜選択することができる。
スクリュー22の回転速度をこのように選択することにより、前記熱膨張性黒鉛を過度に微細化せずに、前記熱膨張性耐火組成物中に前記熱膨張性黒鉛を十分に分散させた状態で、溶融状態の前記熱膨張性耐火組成物を、スクリュー22にて好適に搬送することができる。
【0055】
次に、スクリュー22で混練しながら搬送された前記熱膨張性耐火組成物を、ダイ23にてシート状に成形し、一次シートを作製する。詳しくは、断面矩形状(幅方向が細長となる断面矩形状)となるように構成された出口23bから溶融状態の前記熱膨張性耐火組成物を押し出すことによりシート状に成形して、一次シートを作製する。
【0056】
次に、ダイ23の出口23bから押し出すことにより作製した一次シートを二次シート作製部30で薄肉化して、一次シートよりも厚みが薄い二次シートを作製する。詳しくは、ダイ23の出口23bから押し出すことにより作製した一次シートを、二次シート作製部30の一対のローラ31、32の間に挟みつつ搬送することにより、二次シートを作製する。
【0057】
上記したように、一対のローラ31、32は、その間隔が、0.1mm以上1mm未満であることが好ましく、0.4mm以上0.8mm以下であることがより好ましく、0.4mm以上0.6mm以下であることがさらに好ましい。
また、上記したように、一対のローラ31、32は、温水を流すことが可能となるように構成されており、一対のローラ31、32の外表面の温度は、温水を流すことにより、30℃~40℃の温度に維持されていることが好ましい。
【0058】
以上のようにして、
図2に示した熱膨張性耐火シート製造装置1にて、シート化工程S1(一次シート作製工程S1a、薄肉化工程S1b)を実施することにより、熱膨張性耐火シート(
図2に示した熱膨張性耐火シート製造装置1を用いた例では、二次シート)を製造することができる。
【0059】
なお、シート化工程S1で作製された熱膨張性耐火シート(
図2に示した熱膨張性耐火シート製造装置1を用いた例では、二次シート)は、巻取部40で巻き取られ(より詳しくは、巻取部40の巻取ローラ41で巻き取られ)、巻き取られた状態で保管される。
【0060】
本発明に係る熱膨張性耐火シート、及び、熱膨張性耐火シートの製造方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る熱膨張性耐火シート、及び、熱膨張性耐火シートの製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0061】
例えば、熱膨張性耐火シートの製造方法に係る上記実施形態では、シート化工程S1において、一次シート作製工程S1a及び薄肉化工程S1bの両方を実施する例について説明したが、シート化工程S1を実施する例はこれに限られるものではない。
例えば、シート化工程S1において、一次シート作製工程S1aのみを実施してもよい。
また、シート化工程S1において、薄肉化工程S1bの後に、薄肉化工程S1bで作製された二次シートをさらに薄肉化された三次シートを得るために、三次シート作製工程を実施してもよい。
即ち、本実施形態においては、一対のローラ31、32と巻取ローラ41との間にさらに一対以上のローラを設けて一次シートを多段階に薄肉化させるようにしてもよい。
【0062】
また、熱膨張性耐火シートの製造方法に係る上記実施形態では、一次シート作製工程S1aにおいて、単軸のスクリュー22を備える一次シート作製部20を用いて一次シートを作製する例について説明したが、一次シートを作製する例はこれに限られない。
例えば、二軸以上のスクリュー22を備える一次シート作製部20を用いて一次シートを作製してもよい。
【実施例0063】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。以下の実施例は本発明をさらに詳しく説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0064】
以下の表1に示したような組成を有する熱膨張性耐火組成物を、
図2で示したような単軸押出形成機で押し出して一次シートを作製し、該一次シートを、さらに、間隔を、0.4mm、0.5mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1mmと変えた一対のローラ間に通すことにより、厚みの異なる6枚の二次シートを作製した。
前記単軸押出成形機は、収容部に加熱部を備えるものを用いた。
そして、前記単軸押出成形機では、熱膨張性耐火組成物が適度な溶融粘度を有するように加熱した上で、スクリュー22を用いて前記熱膨張性耐火組成物の溶融粘度に応じて適宜混練しながら押し出しを行った。
なお、収容部21において、上流側(ホッパ10側)の温度は70℃であり、下流側(ダイ23側)の温度は100℃であり、ダイ23での押出は、140℃にて行った。
また、下記表1において、マトリックス成分は、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂(TPO。質量割合は、オレフィン系樹脂:ブチルゴム=7:3)であり、熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイトであり、無機系充填材は、炭酸カルシウムであり、有機系充填材は、メラミン系化合物である。
【0065】
【0066】
これらの二次シートから、平面寸法W1が3mm×W2が3mmで試験体(第1試験体~第6試験体)を切り出して、幅方向の熱膨張率に対する厚み方向の熱膨張倍率の比Rを求めた。熱膨張倍率の比は、以下のようにして求めた。
なお、第1試験体は、初期厚み(加熱膨張前の厚み)tが0.4mmの試験体であり、第2試験体は、初期厚みtが0.5mmの試験体であり、第3試験体は、初期厚みtが0.7mmの試験体であり、第4試験体は、初期厚みtが0.8mmの試験体であり、第5試験体は、初期厚みtが0.9mmの試験体であり、第6試験体は、初期厚みtが1mmの試験体である。
第1試験体~第6試験体の初期厚みtは、無作為に選択した複数箇所(例えば、10箇所)の厚みをマイクロメータ―で測定した値を平均した算術平均値として求めた。
(1)各試験体を、800℃のオーブンに20分間放置して熱膨張させる。
(2)熱膨張後の各試験体について、平面寸法W1’、W2’、及び、厚みt’をそれぞれ測定する。
なお、厚みt’も、初期厚みtと同様にして測定する。
(3)第1試験体~第6試験体について、初期の平面寸法(W1、W2)に対する熱膨張後の平面寸法(W1’、W2’)の比を求めるとともに、初期の厚みtに対する熱膨張後の厚みt’の比を求める。
(4)これらの比の値を、以下の式(1)に代入して、幅方向の熱膨張率に対する厚み方向の熱膨張率の比Rを算出する。
なお、以下の式(1)において、(W1’/W1,W2’/W2)
aveは、W1’/W1の値及びW2’/W2の値を算術平均した値を意味する。
第1試験体~第6試験体について、t、t’/t、W1’/W1、W2’/W2、及び、(W1’/W1,W2’/W2)
aveを以下の表2に示した。
また、初期厚みtとRとの相関関係について、
図3に示した。
【0067】
【0068】
【0069】
図3に示したように、初期厚みtが0.4mm~1mmのいずれの場合であっても、幅方向の熱膨張倍率に対する厚み方向の熱膨張倍率の比Rは、1を大きく上回っており、幅方向よりも厚み方向に十分に熱膨張できていることが分かる。
また、初期厚みtが0.5mm以下の場合には、幅方向の熱膨張倍率に対する厚み方向の熱膨張倍率の比Rは、3.5を上回る値を示しているのに対し、初期厚みtが0.7mm以上の場合には、幅方向の熱膨張倍率に対する厚み方向の熱膨張倍率の比Rは、2.5以下となっていることが分かる。
すなわち、0.5mmと0.7mmとの間である0.6mmが臨界点となることが予想される。
このことから、初期厚みtを0.6mm以下とすることにより、熱膨張性耐火シートが火炎に曝されたときに、幅方向よりも厚み方向により十分に膨張して、火炎の通過をより一層抑制できるものとなることが分かる。
また、幅方向よりも厚み方向により十分に膨張することから、壁に設けた貫通孔に前記熱膨張性耐火シートを巻き付けた管などを挿通させるような場面において、前記貫通孔と前記管との間が狭いような場合でも、挿入作業を容易に行うことができると考えられる。
すなわち、前記熱膨張性耐火シートを狭小な箇所に取り付けるときの作業性が向上されると考えられる。
1:熱膨張性耐火シート製造装置、10:ホッパ、11:収容部、12:排出部、20:一次シート作製部、21:収容部、22:スクリュー、23:ダイ、30:二次シート作製部、31:ローラ、32:ローラ、41:巻取ローラ、
22a:軸部、22b:翼部、23a:入口、23b:出口、22b1:翼、
S1:シート化工程、
S1a:一次シート作製工程、S1b:薄肉化工程。