(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095263
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用触媒インク、固体高分子形燃料電池用触媒層、および固体高分子形燃料電池用膜―電極接合体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220621BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220621BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M8/10 101
H01M4/92
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208483
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川村 敦弘
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018EE03
5H018HH01
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】プロトン伝導が向上し、高い発電性能を示す固体高分子形燃料電池用触媒層インクを提供する。
【解決手段】触媒粒子、導電性担体、高分子電解質、繊維状物質および3種以上の溶媒で構成され粒子径分布測定装置で測定された前記触媒インクの分散質における粒子径が1.0μm以上12μm以下の範囲に存在する頻度ピーク(P
1)と、粒子径が0.3μm以上1.0μm未満の範囲に存在する頻度ピーク(P
2)との比(P
2/P
1)が1.2以上2.0未満である式(1)を満たすことを特徴とする固体高分子形燃料電池用インクである。
2.0 > P
2 / P
1 ≧ 1.2 ・・・・ 式(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粒子、導電性担体、高分子電解質、繊維状物質および溶媒で構成された固体高分子形燃料電池用触媒インクであって、
粒子径分布測定装置で測定された前記触媒インクの分散質における粒子径が1.0μm以上12μm以下の範囲に存在する頻度ピーク(P1)と、粒子径が0.3μm以上1.0μm未満の範囲に存在する頻度ピーク(P2)との比(P2/P1)が1.2以上2.0未満である式(1)を満たすことを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒インク。
2.0 > P2 / P1 ≧ 1.2 ・・・・ 式(1)
【請求項2】
固体高分子形燃料電池用触媒インクであって、前記触媒粒子が、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムから選ばれた金属であることを特徴とする請求項1記載の固体高分子形燃料電池用触媒インク。
【請求項3】
固体高分子形燃料電池用触媒層であって、前記固体高分子形燃料電池用触媒インクで作製されたことを特徴とする請求項1~2のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用触媒層。
【請求項4】
固体高分子形燃料電池用膜―電極接合体であって、前記固体高分子形燃料電池用触媒層をアノードおよびカソードの少なくとも一方に設けたことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用膜―電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用触媒インク、固体高分子形燃料電池用触媒層、および固体高分子形燃料電池用膜―電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題を解決するために、CO2削減に向けた新規動力源の開発が求められている。その動力源として、CO2を排出しない燃料電池が注目されている。燃料電池とは、燃料(例:水素)と酸化剤(例:酸素)を用いて酸化して無害な水を生成する。水を生成することで得られた化学エネルギーを電気エネルギーに変換して、動力源または電源として使用される。
【0003】
燃料電池は、電解質の種類によって分類されることから作動温度に強く依存し、搭載物が作動する温度領域によってそれぞれ適した燃料電池が使用される。固体高分子形燃料電池(PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型化および軽量化が可能であることから、家庭用電源、車載用動力源として開発が行なわれている。
【0004】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、高分子電解質膜を燃料極(アノード)と空気極(カソード)で挟んだ構造体(膜電極接合体)を持ち、燃料極側に燃料ガスとして水素を供給し、空気極側に酸素を含む空気ガスを供給することで、下記の電気化学反応により発電する。
アノード:H2→ 2H++ 2e- ・・・(反応1)
カソード:1/2O2+ 2H+ + 2e- → H2O ・・・(反応2)
アノードおよびカソードは、それぞれ触媒層とガス拡散層の積層構造からなる。アノード側触媒層に供給された水素から、電極触媒によりプロトンと電子を生成する(反応1)。プロトンは、アノード側触媒層内の高分子電解質、高分子電解質膜を通過して、カソードに移動する。電子は、外部回路を通り、カソードに移動する。カソード側触媒層では、プロトン、電子および外部から供給された空気中に含まれる酸素が反応して水を生成する(反応2)。
【0005】
燃料電池の低コスト化に向けて、高出力特性を示す燃料電池の開発に注力されている。しかしながら、低加湿運転下による水の不足によって高分子電解質のプロトン伝導が低下して発電性能を減少させる問題がある。燃料電池の触媒は、導電性担体、例えば、カーボン粒子表面に白金などの触媒活性を有する金属が担持されたものである。カーボン粒子表面は元来疎水性であり、触媒活性を有する金属の表面も不純物などの影響で表面の状態が制御でない。このような触媒粒子と親水性の高分子溶液とを混合すると、触媒粒子の表面張力によって混合直後は粒子がままこ状態になり、触媒粒子を均一に分散させることが困難なる。そこで、前記触媒担持粒子について、その粒度分布のピークが1μmとする技術が知られている(特許文献1)。一般に触媒担持粒子の表面を賦活処理すると、表面積が大きくなるため、互いに吸着して塊りができやすい。粒度が1μm以下の触媒担持粒子を用いても、賦活処理後の触媒担持粒子の粒度を測定すると、粒度が1μm以上の領域においてピークが現れる場合がある。このピークは塊りによるものと考えられる。そして、このような塊りが生じている触媒担持粒子を用いて電解質膜を製造すると、塊りが電解質膜に押し込められて、電解質膜を破断させるなど、電解質膜に悪影響を与える場合がある。上記課題を解決するために、触媒インク中でプロトン伝導の機能を担う高分子電解質と触媒とを均一に絡み合わせることでプロトン伝導性を高めて固体高分子形燃料電池の出力特性を向上させた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような実情を鑑みて成されたものであり、プロトン伝導が向上でき、高出力が可能な固体高分子形燃料電池用触媒インク、固体高分子形燃料電池用触媒層および膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る、触媒粒子、導電性担体、高分子電解質、繊維状物質および溶媒で構成された固体高分子形燃料電池用触媒インクであって、粒子径分布測定装置で測定された前記触媒インクの分散質における粒子径が1.0μm以上12μm以下の範囲に存在する頻度ピーク(P1)と、粒子径が0.3μm以上1.0μm未満の範囲に存在する頻度ピーク(P2)との比(P2/P1)が1.2以上2.0未満である式(1)を満たすことを特徴とする。
【0009】
2.0 > P2 / P1 ≧ 1.2 ・・・・ 式(1)
また、本発明の一態様に係る固体高分子形燃料電池用触媒インクであって、前記触媒粒子が白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムから選ばれた金属であることを特徴とする
また、本発明の一態様に係る固体高分子形燃料電池用触媒層であって、前記固体高分子形燃料電池用触媒インクで作製されたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る固体高分子形燃料電池用膜―電極接合体であって、前記固体高分子形燃料電池用触媒層をアノードおよびカソードの少なくとも一方に設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、プロトン伝導が向上し、高い発電性能を示す固体高分子形燃料電池用触媒層を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池用の触媒インクの構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池用の触媒層の構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る膜電極接合体の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下に記載する実施の形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の実施形態の範囲に含まれるものである。
【0014】
図1は、触媒粒子1、導電性担体2、高分子電解質3、繊維状物質4を備えた本発明の一実施形態である固体高分子形燃料電池用の触媒インクである。
図2は、触媒粒子1、導電性担体2、高分子電解質3および繊維状物質4を備えた本発明の一実施形態である固体高分子形燃料電池用の触媒層(カソード用触媒層5,アノード用触媒層6)である。
図3は、高分子電解質膜7、カソード用触媒層5、アノード用触媒層6、ガスケット材8およびガス拡散層9を備えた本発明の一実施形態である膜電極接合体である。
【0015】
次に触媒層(カソード触媒層5,アノード触媒層6)の構成について、
図2を参照して説明する。本実施形態で用いる触媒粒子1としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素のほか、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属、若しくはこれらの合金が使用できる。また、酸化物、複酸化物等も使用できる。さらに、これらの触媒の粒径は、例えば0.1nm以上1μm以下、好ましくは0.5nm以上100nm以下、更に好ましくは1nm以上10nm以下である。
【0016】
これらの触媒粒子1を担持する導電性担体2は、一般的にカーボン粒子が使用される。カーボン粒子の種類は、微粒子状で導電性を有し、触媒粒子1に侵されないものであればどのようなものでも構わないが、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、フラーレン等が使用できる。
【0017】
本実施形態で用いる高分子電解質3としては、プロトン伝導性を有するものであれば良く、高分子電解質膜7(
図3参照)と同様の素材を用いることができ、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質等を用いることができる。なお、フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製のNafion(登録商標)系材料等を用いることができる。
【0018】
触媒粒子1に担持されている導電性担体2の質量Cおよび繊維状物質4の質量CFと高分子電解質3の質量Iとの比I/(C+CF)は、0.2以上1.5以下であると良い。
特に、IEC(高分子電解質のイオン交換容量)が1.1以上1.3未満の際には、I/(C+CF)は、0.2以上0.8未満であるとより好ましい。また、IECが1.3以上1.5未満の際には、I/(C+CF)は、0.8以上1.5以下であるとより好ましい。これは、IECが低いほど、高分子電解質3と繊維状物質4とが絡み合いやすく、IECによって発電性能に対するI/(C+CF)の有効範囲が変化するためである。
I/(C+CF)が0.2未満のとき、プロトンパスが乏しく、発電性能を著しく損なう。また、I/(C+CF)が1.5を超えるとき、触媒層の排水性が低下して、燃料電池の発電性能を著しく損なう。
【0019】
本実施形態で用いた繊維状物質4としては、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどのカーボン繊維およびプロトン伝導性を備えた高分子電解質繊維を用いることが出来る。好ましくは、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブが挙げられる。例えば、昭和電工社製のVGCFーH(登録商標)などの材料を用いることが出来る。カーボン繊維の繊維径としては、30~500nmが好ましく、60~300nmがより好ましい。上記範囲にすることにより、触媒層内の空隙を増加させることができ、高い発電性能を示す。カーボン繊維の繊維長は0.5~20μmが好ましく、1~10μmがより好ましい。上記範囲にすることにより、触媒層の強度を高めることができ、形成時にクラックが生じることを抑制できる。また、触媒層内の空隙を増加させることができ、高い発電性能を示す。また、触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒粒子1を担持した導電性担体2、高分子電解質3および繊維状物質4を浸食することがなく、高分子電解質3を流動性の高い状態で溶解若しくは微細ゲルとして分散できるものあれば特に制限はない。
【0020】
なお、溶媒としては揮発性の有機溶媒や水が含まれることが望ましく、有機溶媒に関しては、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、1-プロパノ―ル、2-プロパノ―ル、1-ブタノ-ル、2-ブタノ-ル、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノ-ル等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等の極性溶媒等が使用される。また、3種以上の溶媒を混合させたものが好ましく、中でも2種以上のアルコールを含むものが好ましい。さらに、極性や誘電率が異なる複数の溶媒が触媒インク中に混在することで高分子電解質3が触媒に隅々まで行き届き、発電性能を向上させる。
【0021】
次に膜電極接合体の作製と構成について、
図3を参照して説明する。
上記膜電極接合体は、高分子電解質膜7の表裏面に、触媒層(表面側にカソード触媒層5,裏面側にアノード触媒層6)、ガスケット材8及びガス拡散層9を備えている。ガスケット材8及びガス拡散層9は、この順番で高分子電解質膜7側から順次積層されている。ガスケット材8は、触媒層(カソード触媒層5,アノード触媒層6)の周囲を囲むようにして配置されている。
【0022】
上記膜電極接合体に用いられる高分子電解質膜7としては、プロトン伝導性を有するものであればよく、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質等を用いることができる。なお、フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製のNafion(登録商標)等を用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質膜としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質膜を用いることができる。中でも、高分子電解質膜7としてフッ素系高分子電解質としてパーフルオロスルホン酸を含む材料を好適に用いることができる。
【0023】
ガスケット材8及び粘着層を有するプラスチックフィルムは、熱加圧時に溶融しない程度の耐熱性を有しているものであれば良い。例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート等の高分子フィルムを用いることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。ガスケット材8における基材としては、ガスバリヤ性、耐熱性を考慮した場合、ポリエチレンナフタレートであることが特に好ましい。
【0024】
ガスケット材8及び粘着層を有するプラスチックフィルムの粘着層は、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ゴム系などの粘着剤であればよく、ガスケット材8及び高分子電解質膜5との密着性と、熱加圧時における耐熱性を考慮するとアクリル系であることがより好ましい。ガスケット材8及び粘着層を有するプラスチックフィルムの粘着層の密着性は、高分子電解質膜5-ガスケット材8間の密着力が、ガスケット材―粘着層を有するプラスチックフィルム間の密着力より大きければ、膜電極接合体にガスケット材8を付与することが容易であるため好ましい。
【0025】
次に、上記触媒インク、触媒層および膜電極接合体の製造について説明する。触媒インクを作製する際の分散処理は、様々な装置を用いることができる。例えば、分散処理としては、ボールミルやロールミルによる処理、せん断ミルによる処理、湿式ミルによる処理、超音波分散処理などが挙げられる。また、遠心力で攪拌を行うホモジナイザーなどを用いても良い。
【0026】
分散された上記触媒インクの分散性および粒子径は、例えば以下の方法を用いて測定することができる。まず、分散処理を完了した触媒インクについて、レーザー回折散乱法を取り入れた粒子径分布測定装置を用いて触媒インクに含まれる分散質の粒子径を測定する。
【0027】
使用装置および測定条件を以下の通りとする。
装置名:レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置
型番:MT3000II SERIES
メーカー:MICROTRACK MRB
透過設定:吸収
上記粒径分布測定装置を用いて測定された触媒インクでは、2つ以上3つ以下のピークが確認される。粒子径が1.0μm以上12μm以下の範囲に存在する頻度ピークを一次ピーク(P1)、粒子径が0.3μm以上1.0μm未満の範囲に存在する頻度ピークを二次ピーク(P2)とすると、二次ピーク/一次ピーク比(P2/P1)が1.2以上2.0未満であることが好ましい。また、上記ピーク比が1.0以下であると、触媒と電解質との絡み合いが弱くなり、プロトン伝導性が低下し、出力特性は損なわれる。さらに、上記ピーク比が2.0以上であると、触媒と電解質との絡み合いが過剰に強くなり、形成される触媒層中の空孔が狭くなって水詰まりが生じ、出力特性は損なわれる。
【0028】
上記触媒インクを塗工用基材上に形成する塗工方式として、ダイ方式、グラビア方式、およびスプレー方式などが挙げられるが、本発明に関しては限定しない。膜電極接合体の構成要素である上記触媒層が形成される塗工用基材は、高分子電解質膜7および転写基材であるが、本発明に関しては限定しない。
【0029】
転写法で作製する場合、転写基材を構成する材料としては、その表面に触媒層を形成できるものであり、かつ触媒層を高分子電解質膜7に転写できるものであれば良い。例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムを用いることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。
【0030】
カソード用触媒層5およびアノード用触媒層6のイオン交換容量をIECとして、IECが1.1以上1.5以下であることが望ましい。この範囲では、触媒層のガス拡散性および排水性が高まり、良好な発電性能が得られる。一方、IECが1.1未満のとき、高分子電解質3と繊維状物質4との絡み合いが抑制され、高分子電解質3が凝集するため、好ましくない。また、IECが1.5を超える場合、高分子電解質3と導電性担体2あるいはカーボン繊維4との結びつきが強くなり、排水性が低下するため、好ましくない。
上記のことから、IECが1.1以上1.5以下であるカーボン繊維含有の触媒層を持った膜電極接合体は高い発電性能を示すことがわかる。
【0031】
本発明の実施形態の一つである膜電極接合体は、上記触媒層をアノードおよびカソードの少なくとも一方に設けており、このような構成とすることにより発電性能が優れた膜電極接合体が得られる。
以上で説明した膜電極接合体の製造方法によれば、高分子電解質膜7の両面に触媒層が良好な形状で接合された膜電極接合体を製造することができる。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例について具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0033】
まず、共通する製造工程について説明する。
<触媒インクの調液>
触媒層を形成するための触媒インクは、フッ素系高分子電解質の分散溶液(DE2020:ケマーズ社製)、触媒として白金を用いた白金担持カーボン(TEC10E50E:田中貴金属工業社製)、繊維状物質、2種のアルコールおよび水で構成されており、これらをボールミルで混合することで触媒層の触媒インクを調液した。
<触媒インクの粒子径分布測定>
後述する実施例1~3および比較例1~3でそれぞれ作製した触媒インクに含まれる分散質の粒子径について、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置で評価した。
<触媒層の形成および膜―電極接合体の製造>
アプリケーターにより、アノード触媒層およびカソード触媒層を高分子電解質膜上に形成させて、膜-電極接合体を製造した。
<発電評価>
後述する実施例1~3および比較例1~3でそれぞれ作製した膜-電極接合体を挟持するように、ガス拡散層として用いるカーボンペーパーを貼り合わせ、発電評価セル内に設置した。
【0034】
次に燃料電池測定装置を用いて、セル温度80℃とし、電流電圧測定を行った。燃料ガスとして水素を、酸化剤ガスとして空気を用い、利用率一定による流量制御した。
[実施例1]
粒子径分布測定装置で得られた頻度ピーク比(P2/P1)が1.23であるカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工し、これを備えた膜-電極接合体を作製した。
[実施例2]
粒子径分布測定装置で得られた頻度ピーク比(P2/P1)が1.47であるカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工し、これを備えた膜-電極接合体を作製した。
[実施例3]
粒子径分布測定装置で得られた頻度ピーク比(P2/P1)が1.93であるカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工し、これを備えた膜-電極接合体を作製した。
[比較例1]
粒子径分布測定装置で得られた頻度ピーク比(P2/P1)が0.52であるカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工し、これを備えた膜-電極接合体を作製した。
[比較例2]
粒子径分布測定装置で得られた頻度ピーク比(P2/P1)が0.95であるカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工し、これを備えた膜-電極接合体を作製した。
[比較例3]
粒子径分布測定装置で得られた頻度ピーク比(P2/P1)が2.12であるカソード触媒インクを、カソード触媒層の白金担持量が0.3mg/cm2になるように塗工し、これを備えた膜-電極接合体を作製した。
<評価結果>
表に実施例および比較例のP2/P1および出力特性の値をまとめた。
【0035】
【0036】
表1から、実施例1~3の頻度ピーク比(P2/P1)が1.2以上2.0未満における出力は906~970mW/cm2となり、比較例1~2の頻度ピーク比(P2/P1)が1.0未満における出力は825~870mW/cm2となった。比較例3の頻度ピーク比(P2/P1)が2.0以上における出力は892mW/cm2となった。この結果から、本実施形態に係る触媒インク、およびこれを用いた膜―電極接合体により、高出力特性が得られることがわかった。
本実施形態に係る触媒層および膜-電極接合体を採用することで、十分なプロトン伝導性及びガス拡散性を有し、長期的に高い出力特性を発揮することが可能となる。すなわち、本実施形態によれば、触媒インクに含まれる分散質の粒子径分布における、頻度ピーク比(P2/P1)が1.2以上2.0未満にすることで、固体高分子形燃料電池の運転において十分なガス拡散性とプロトン伝導性を有し、長期的に高い発電性能を発揮することが可能な電極触媒層、膜-電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することができる。したがって、本発明は、固体高分子形燃料電池を利用した、定置型コジェネレーションシステムや燃料電池自動車等に好適に用いることができ、産業上の利用価値が大きい。