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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095288
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】半月板再生基材
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/18 20060101AFI20220621BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20220621BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/58
A61L27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208522
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 周平
(72)【発明者】
【氏名】池田 邦明
(72)【発明者】
【氏名】瀬崎 俊輔
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB05
4C081BA12
4C081BA16
4C081BB08
4C081BC02
4C081CA171
4C081CA172
4C081CC01
4C081DA02
4C081DA05
4C081DC02
4C081DC03
(57)【要約】
【課題】損傷した半月板の患部を覆うように巻き付けて固定することで半月板の再生を促進することができ、取り扱い性と耐久性に優れた半月板再生基材を提供する。
【解決手段】半月板の再生治療において、膝関節の半月板の損傷部分を覆うことで、半月板の再生を促進することができる半月板再生基材であって、ポリグリコリドからなる不織布の片方の面上にラクチド-ε-カプロラクトン共重合体からなるフィルムが複合一体化されている半月板再生基材。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半月板の再生治療において、膝関節の半月板の損傷部分を覆うように巻き付け固定することで、半月板の再生を促進することができる半月板再生基材であって、生体吸収性材料からなる不織布の片方の面上に生体吸収性材料からなるフィルムが複合一体化されていることを特徴とする半月板再生基材。
【請求項2】
前記フィルムを構成する生体吸収性材料は、前記不織布を構成する生体吸収性材料よりも分解速度が遅いことを特徴とする請求項1に記載の半月板再生基材。
【請求項3】
半月板の再生治療において、膝関節の半月板の損傷部分を覆うように巻き付け固定することで、半月板の再生を促進することができる半月板再生基材であって、ポリグリコリドからなる不織布の片方の面上にラクチド-ε-カプロラクトン共重合体からなるフィルムが複合一体化されていることを特徴とする半月板再生基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷した半月板の患部を覆うように巻き付けて固定することで半月板の再生を促進することができ、取り扱い性と耐久性に優れた半月板再生基材に関する。
【背景技術】
【0002】
半月板は、膝関節内にある軟骨様組織である。以下に図1及び2を用いて膝関節の構造について説明する。図1は、右膝関節の矢状面での断面模式図であり、図2は右膝関節の横断面での断面模式図である。図1に示すように、膝関節は大腿骨4と脛骨5との間に半月板1を有し、大腿骨4と脛骨5とが対向する側にはそれぞれ軟骨3が形成されている。膝の前面には膝蓋骨6があり、その下部には膝蓋下脂肪体(IPFP:Infrapatellar Fat Pad)2がある。膝関節は関節包7で包まれており、関節内部は関節液8で満たされている。図2に示すように、半月板1は膝関節の内側と外側で対抗するように一対形成されており、膝関節の前面側と後面側が厚くなっている。
【0003】
半月板の変性や損傷は、変形性膝関節症(OA:osteoarthritis)における軟骨変性とともによく見られる病態の一つである。また、半月板を切除することで、軟骨組織が減少し、変形性膝関節症が進行するという報告もある。半月板は、無血管領域を多く含む組織であるため、自己再生能力が乏しく自己修復は困難である。そのため、手術では半月板の治癒を促進する目的で、半月縫合術に加えて、成長因子、滑膜移植、骨髄刺激等の追加処置がなされてきたが、半月板の再生は不充分であった。
【0004】
一方、近年の細胞工学技術の進展によって、ヒト細胞を含む数々の動物細胞の培養が可能となり、また、それらの細胞を用いてヒトの組織や器官を再構築しようとする、いわゆる再生医療の研究が急速に進んでいる。再生医療においては、細胞が増殖分化して三次元的な生体組織様の構造物を構築できるかがポイントであり、例えば、基材を患者の体内に移植し、周りの組織又は器官から細胞を基材中に侵入させ増殖分化させて組織又は器官を再生する方法が行われている。
【0005】
再生医療用の基材として、例えば、特許文献1に開示されるような生体吸収性材料からなる不織布を用いることが提案されている。生体吸収性材料からなる不織布は、再生医療用の基材や縫合補強材として用いた場合には、その空隙部分に細胞が侵入して増殖し、早期に組織が再生される。半月板の再生治療においても、このような組織再生基材を用いることが試みられるようになってきており、例えば、生体吸収性材料からなる不織布を生体吸収性材料からなるフィルムで挟んだ構造の組織再生基材や、不織布状のコラーゲンを多層積層させた組織再生基材を半月板の再生に用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05-076586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、生体吸収性材料からなる不織布を生体吸収性材料からなるフィルムで挟んだ組織再生基材は、半月板の再生能力が低いことに加え、曲げにくいことから半月板の患部に巻き付ける、包む等の移植での操作が行いにくいという問題があった。また、コラーゲンを多層積層させた組織再生基材は、生体吸収性材料からなる不織布を生体吸収性材料からなるフィルムで挟んだ組織再生基材よりは半月板の再生能力が高いものの、それでも充分ではなく、更に、半月板のような高い荷重と摩擦に曝される過酷な環境に用いるには強度に劣るという問題があった。
【0008】
本発明は、損傷した半月板の患部を覆うように巻き付けて固定することで半月板の再生を促進することができ、取り扱い性と耐久性に優れた半月板再生基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、半月板の再生治療において、膝関節の半月板の損傷部分を覆うように巻き付け固定することで、半月板の再生を促進することができる半月板再生基材であって、生体吸収性材料からなる不織布の片方の面上に生体吸収性材料からなるフィルムが複合一体化されている半月板再生基材である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、生体吸収性材料からなる不織布の片面に生体吸収性材料からなるフィルムを積層、複合一体化することによって従来の組織再生基材よりも高い半月板再生性能を発揮することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の半月板再生基材は、生体吸収性材料からなる不織布(以下、単に不織布ともいう)を有する。
上記不織布は、半月板以外の外部から侵入してきた細胞や半月板内の細胞が増殖するための足場となる役割を有する。また、上記不織布は、生体吸収性材料からなるため、半月板が再生するとともに徐々に体内へ吸収されるため、取り出しのための再手術が必要なく安全性が高い。
【0012】
上記生体吸収性材料は、特に限定されず、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコリド共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリジオキサノン、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも半月板の辺縁から細胞をより集めやすくすることができることからポリグリコリドが好ましい。
【0013】
上記ポリグリコリドの重量平均分子量の好ましい下限は30000、好ましい上限は400000である。上記ポリグリコリドの重量平均分子量が30000以上であると、強度をより高めることができ、400000以下であると、異物反応をより抑えることができる。上記ポリグリコリドの重量平均分子量のより好ましい下限は50000、より好ましい上限は300000である。
【0014】
上記ポリグリコリドの分子量の代替指標としてメルトフローレートを用いてもよい。該ポリグリコリドのメルトフローレートの好ましい下限は0.1g/10分、好ましい上限は100g/10分である。この範囲内であると、ポリグリコリドからなる不織布を作製することが容易となる。ポリグリコリドのメルトフローレートのより好ましい下限は1g/10分、より好ましい上限は50g/10分である。
なお、メルトフローレートの測定条件は、ポリグリコリドを240℃、10分間、シリンダー内で保持して溶融した後、荷重4kgfの条件で測定した値を意味する。
【0015】
上記不織布は、平均繊維径が0.9μm以上7.0μm以下であることが好ましい。
不織布の平均繊維径が上記範囲であることで、細胞をより侵入させやすくすることができるとともに強度も高めることができる。上記不織布の平均繊維径は、1.5μm以上であることがより好ましく、3.0μm以下であることがより好ましく、2.0μm以下であることが更に好ましい。
なお、本明細書において不織布の平均繊維径は、生地の中央の一部を切り取り、電子顕微鏡を用いて観察して繊維径をランダムに10カ所測定し、平均したものを意味する。
【0016】
上記不織布は目付が3g/m以上20g/m以下であることが好ましい。
不織布の平均繊維径に加えて目付を上記範囲とすることで、細胞をより侵入させやすくすることができるとともに強度も高めることができる。上記不織布の目付は、5g/m以上であることが好ましく、15g/m以下であることが好ましい。
【0017】
上記不織布の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は50μm、好ましい上限は200μmである。不織布の厚みが上記範囲であることで、得られる半月板再生基材の強度をより高めることができるとともに、半月板の再生能力を向上させることができる。上記不織布の厚さのより好ましい下限は70μm、より好ましい上限は130μmである。
【0018】
上記不織布の製造方法は特に限定されず、例えば、エレクトロスピニングデポジション法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、水流交絡法、エアレイド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、湿式法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0019】
本発明の半月板再生基材は、上記生体吸収性材料からなる不織布の片方の面上に生体吸収性材料からなるフィルム(以下、単にフィルムともいう)を有する。
上記フィルムは、大腿骨や脛骨等の半月板と接する骨の動きを円滑にする、つまり、損傷した半月板の患部が再生するまでの間、患部の軟骨としての働きを代替する役割を有する。
上記フィルムは表面が滑らかであるため、半月板と接する骨の動きを阻害しがたい。また、上記フィルムは生体吸収性材料からなるため、半月板が再生するとともに徐々に体内へ吸収され、最終的には消滅することから安全性が高い。
【0020】
上記フィルムを構成する生体吸収性材料は特に限定されず、上記不織布と同様の生体吸収性材料を用いることができるが、上記フィルムを構成する生体吸収性材料は、上記不織布を構成する生体吸収性材料よりも分解速度が遅いことが好ましい。
上記フィルムを上記不織布よりも分解速度の遅い生体吸収性材料によって構成することで、半月板が再生するまでの間充分に軟骨との摩擦に耐える耐久性を付与することができる。このような生体吸収性材料は、上記不織布を構成する生体吸収性材料に応じて適宜決定されるが、上記不織布を構成する生体吸収性材料がポリグリコリドである場合、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体であることが好ましい。
【0021】
上記ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体は、ラクチドに由来する構成単位とε-カプロラクトンに由来する構成単位とのモル比が45:55以上55:45以下であることが好ましい。上記ラクチドに由来する構成単位とε-カプロラクトンに由来する構成単位とのモル比が上記範囲であることで、高い耐久性と適度な分解速度を有するフィルムとすることができる。上記ラクチドに由来する構成単位とε-カプロラクトンに由来する構成単位とのモル比は、48:52以上52:48以下であることがより好ましい。
【0022】
上記ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体の重量平均分子量の好ましい下限は150000、好ましい上限は600000である。上記ポリグリコリドの重量平均分子量が300000以上であると、強度をより高めることができる。上記ポリグリコリドの重量平均分子量のより好ましい下限は200000、より好ましい上限は400000である。
【0023】
上記フィルムの製造方法は特に限定されず、例えば、溶融押出成型法等従来公知の方法を用いることができる。
【0024】
本発明の半月板再生基材は、上記不織布の片方の面上に上記フィルムが複合一体化されている。
上記フィルムを上記不織布の片方の面だけに積層させることにより、上記フィルムを積層していない面は多数の空隙を有する不織布が露出するため、半月板内部及び半月板周縁から細胞が侵入、増殖しやすくなり、従来の組織再生基材よりも半月板再生能力を高めることができる。
また、本発明の半月板再生基材は、上記フィルムを上記不織布の片面にしか積層させていないため、巻き付ける、包むといった操作が行いやすく、取り扱い性が高い。更に、上記フィルムを有していることから、軟骨との摩擦に対する耐久性も高い。なお、ここで複合一体化とは、上記不織布と上記フィルムとが容易に分離しない程度に強固に貼り合わせることを意味する。また、上記不織布及び上記フィルムは厚みの調節等の目的で複数の不織布又はフィルムを積層した構造であってもよい。
【0025】
本発明の半月板再生基材の製造方法は特に限定されず、例えば、上記方法で製造した不織布に上記方法で製造したフィルムを重ね、重りを載せた状態で真空加熱する方法等によって製造することができる。
【0026】
本発明の半月板再生基材は、半月板の再生治療に用いられる。
具体的には、損傷した半月板の患部に半月板再生基材を巻き付け、縫い合わせる等の方法で固定することで、半月板の再生を促進することができる。特に本発明は、従来の半月板再生基材と比べて半月板の再生能力に優れるため、再生後の半月板が再断裂してしまうリスクを低減することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、損傷した半月板の患部を覆うように巻き付けて固定することで半月板の再生を促進することができ、取り扱い性と耐久性に優れた半月板再生基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】右膝関節の矢状面での断面模式図である。
図2】右膝関節の横断面での断面模式図である。
図3】引張強度の測定の結果を表したグラフである。
図4】糸掛け強力の測定の結果を表したグラフである。
図5】細胞の生存定量評価の結果を示す写真である。
図6】細胞の生存定量評価の結果を表したグラフである。
図7】半月板の再生性の評価における8週目の半月板欠損部位の様子を示した顕微鏡写真である。
図8】半月板の再生性の評価における12週目の半月板欠損部位の様子を示した顕微鏡写真である。
図9】半月板の再生性の評価におけるIshida scoreの結果を表したグラフである。
図10】大腿骨軟骨の損傷の評価における8週目の大腿骨の軟骨の様子を示した顕微鏡写真である。
図11】大腿骨軟骨の損傷の評価における12週目の大腿骨の軟骨の様子を示した顕微鏡写真である。
図12】大腿骨軟骨の損傷の評価におけるOARSI scoreの結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
生体吸収性不織布(ネオベールナノ(NV-1010-D15G)、グンゼ社製、平均繊維径:3μm、目付:10g/m、厚み:80μm)の片面上にラクチド-ε-カプロラクトン共重合体からなるフィルム(厚み:100μm、ラクチドに由来する構成単位とε-カプロラクトンに由来する構成単位とのモル比:50:50)3枚を重ねて積層体とした。積層体を真空乾燥機(DP41、ヤマト科学株式会社製)に入れ、シリコンシートで挟み板状の重りを載せ3kPaの荷重を加えた。真空下で160℃、10分加熱圧着することで半月板再生基材を得た。
【0031】
(比較例1)
グンゼ社製SEAMDURASD-0909C(厚み80μmのポリグリコリドからなる不織布を厚み100μmのラクチド-ε-カプロラクトン共重合体からなるフィルム2枚で挟んだ3層構造)を半月板再生基材として用いた。
【0032】
(比較例2)
ガイストリッヒ(Geistlich)社製Bio-Gide(不織布状のコラーゲン2層構造、厚み:600μm)を半月板再生基材として用いた。
【0033】
<評価>
実施例及び比較例で得られた半月板再生基材について以下の評価を行った。
【0034】
(引張強度の測定)
得られた半月板再生基材を50×10mmにカットして測定サンプルを作製した。測定サンプルをチャックに装着し、オートグラフ(島津製作所製)を用いてチャック間距離20mm、試験速度50mm/minの条件で引張強度を測定した。次いで、生理食塩水に2週間、4週間、8週間浸した測定サンプルをそれぞれ用意し、各サンプルについて上記と同様の方法で引張強度を測定した。結果を図3に示した。なお、比較例2については、4週間と8週間は半月板再生基材が完全に分解してしまったため測定できなかった。
【0035】
(糸掛け強力の測定)
得られた半月板再生基材を22mm×22mmにカットし、1組の対向する辺の端部から3mmの位置に穴をあけて糸(2-0ナイロン糸、直径0.3mm)をそれぞれ通した。通した糸は両端を結んで輪にしてこれを測定サンプルとした。得られた測定サンプルについて各糸をチャックで挟みオートグラフ(島津製作所製)を用いてチャック間距離40mm、試験速度100mm/minの条件で糸での引張強度(糸掛け強力)を測定した。次いで、生理食塩水に2週間、4週間、8週間浸した測定サンプルをそれぞれ用意し、各サンプルについて上記と同様の方法で糸掛け強力を測定した。結果を図4に示した。なお、比較例2については、4週間と8週間は半月板再生基材が完全に分解してしまったため測定できなかった。
【0036】
(細胞生存定量の評価)
得られた半月板再生基材を1×1cmにカットし、培養液に浸透した後にATDC-5を各基材の上に散布し、37度でインキュベートした。1週、2週、4週後にLIVE/DEAD assay試薬を用いてレーザ顕微鏡にて生存細胞の評価を行った。
染色写真を図5に、生細胞数の結果を定量化したグラフを図6に示した。
図5、6より実施例1が比較例1、2よりも細胞を増殖させる性能に優れていることが分かる。
【0037】
(半月板の再生性の評価)
実験動物としてウサギ(日本白色家兎、月齢6ヶ月、オス)を用意し、内側半月板前節部にΦ2mmの円柱欠損を作製した。半月板欠損部の周囲に半月板再生基材をそれぞれ巻き付けるように移植して縫合した。コントロールとして半月板再生基材を移植しないものと、実施例1の半月板再生基材を移植したウサギを2羽、比較例1と比較例2の半月板再生基材を移植したウサギを2羽の計4羽のウサギに対して移植を行った。
術後8、12週目に犠牲死させ、半月板を取り出した。その後、半月板の切除部位についてサフラニンO染色を施した顕微鏡サンプルを作製し、顕微鏡写真を撮影した。8週目の写真を図7に、12週目の写真を図8に示した。また、組織標本をスコアリングすることでIshida scoreを算出した。算出したIshida scoreを図9に示した。なお、Ishida scoreとは半月板組織修復についての評価法である。
図7、8より、実施例1では欠損部位が埋まってきていることが分かり、また、欠損部位の表面が染色されていることから、表面から細胞が侵入していることが分かる。一方、比較例1、2では、欠損がほとんど埋まっておらず、また表面もほとんど染色されていないことから細胞の侵入が少ないことが分かる。このことは、図9のIshida score結果からも確認できる。
【0038】
(大腿骨軟骨の損傷の評価)
半月板再生性の評価で犠死させたウサギの大腿骨を取り出した。取り出した大腿骨の半月板と接する軟骨についてサフラニンO染色を施した顕微鏡サンプルを作製し、顕微鏡写真を撮影した。8週目の写真を図10に、12週目の写真を図11に示した。また、組織標本をスコアリングすることでOARSI scoreを算出した。算出したOARSI scoreを図12に示した。なお、OARSI scoreとは、軟骨変性の評価に用いるスコアリングである。
図10、11より、実施例1は染色された面積が大きいことから軟骨細胞がダメージを受けていないことが分かる。一方、比較例1、2は半月板再生基材を移植していないものと比べると摩耗は少ないものの、染色された面積が小さいことから、細胞はダメージを受けていることがわかる。このことは、図12のOARSI score結果からも確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、損傷した半月板の患部を覆うように巻き付けて固定することで半月板の再生を促進することができ、取り扱い性と耐久性に優れた半月板再生基材を提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 半月板
2 膝蓋下脂肪体
3 軟骨
4 大腿骨
5 脛骨
6 膝蓋骨
7 関節包
8 関節液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12