(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095325
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】塗膜剥離剤および塗膜剥離方法
(51)【国際特許分類】
C09D 9/00 20060101AFI20220621BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220621BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20220621BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20220621BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C09D9/00
C09D7/65
C09D7/20
B05D3/10 N
B05D7/14 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208590
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】595004838
【氏名又は名称】大伸化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 彰則
(72)【発明者】
【氏名】坂野 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】松川 欣司
(72)【発明者】
【氏名】木村 友昭
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB05Z
4D075BB20Y
4D075DA27
4D075DB02
4D075DC05
4D075EA14
4D075EC22
4D075EC53
4D075EC54
4J038DD002
4J038HA156
4J038JA17
4J038KA06
4J038KA19
4J038MA14
4J038NA10
4J038PC02
4J038RA02
4J038RA16
(57)【要約】
【課題】 安定して塗膜を剥離することが可能で、特には、塗膜が設けられている構造物の部位によらず確実に塗膜を剥離することが可能な塗膜剥離剤および塗膜剥離方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、塗膜剥離液と、繊維状粒子と、を含むペースト状の塗膜剥離剤である。本発明の塗膜剥離剤は、鋼構造物の表面に設けられた塗膜を剥離するめに好適に用いられる。ペースト状の塗膜剥離剤とすることで、塗膜剥離液に含まれる剥離成分が保持され、塗膜に浸透するので、塗膜の周囲環境に左右されず、安定して塗膜を剥離することが可能となる。また、構造物の狭あい部分にペースト状の塗膜剥離剤を埋め込むことで、剥離成分を十分に浸透させて確実に塗膜を剥離することが可能となる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜剥離液と、
繊維状粒子と、を含むペースト状の塗膜剥離剤。
【請求項2】
塗膜剥離液は、
アルコール系溶剤と、
炭化水素系溶剤と、
水と、を含む請求項1記載の塗膜剥離剤。
【請求項3】
繊維状粒子は、直径が1~1000μmであり、長さが1~50mmである請求項1または2記載の塗膜剥離剤。
【請求項4】
繊維状粒子の含有量は、塗膜剥離剤全体に対して、1~10質量%である請求項1~3のいずれか1つに記載の塗膜剥離剤。
【請求項5】
繊維状粒子は、化学繊維からなるマルチフィラメントである請求項1~4のいずれか1つに記載の塗膜剥離剤。
【請求項6】
鋼構造物の塗膜表面に、請求項1~5のいずれか1つに記載の塗膜剥離剤を塗布する塗布工程と、
塗布された塗膜剥離剤をシートで被覆するとともに、塗膜剥離剤を加圧する被覆工程と、
所定時間放置したのち、シートを除去し、塗膜を鋼構造物から剥離する剥離工程と、を有する塗膜剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造物の塗膜を剥離する塗膜剥離剤および塗膜剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼道路橋などの鋼構造物の表面は、防食、防錆を目的として塗料による塗膜で覆われている。塗膜の経年劣化を防ぐことは困難であるので、新しい塗膜への塗り替えが必要となるが、そのためには、古い塗膜を剥離しなければならない。
【0003】
塗膜の剥離方法としては、主にブラスト処理などの物理的な外力を加えて削り取る方法と、塗膜に特定の化学成分を浸透させて剥離する方法とがある。物理的な剥離方法では、塗膜の粉じんが飛散するなど作業者や環境への負荷が問題となり、近年では塗膜剥離剤を用いた化学的な剥離方法が用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1記載の船底塗膜剥離剤や特許文献2記載の塗膜剥離剤は、人体および環境に対する影響を考慮して水系の塗膜剥離剤とされている。特許文献3記載の塗膜剥離組成物は、水とベンジルアルコールとセルロース誘導体を含み、ベンジルアルコールを乳化するとともに増粘させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-91677号公報
【特許文献2】特開2019-131651号公報
【特許文献3】国際公開第2018/179925号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
防食塗膜は、詳細には、鋼板素地の表面に複数の膜が積層されたものである。例えば、素地側から順に、エッチングプライマー/鉛系さび止めペイント/長油性フタル酸樹脂塗料が積層されたA塗装系、エッチングプライマー/鉛系さび止めペイント/フェノール樹脂MIO(鱗片状酸化鉄)塗料/塩化ゴム系塗料が積層されたB塗装系など、塗料で用いる樹脂の種類も塗膜によって異なっている。従来の塗膜剥離剤によって、これらの防食塗膜を剥離することは可能であるが、塗膜の状態、塗膜の環境条件、塗膜が設けられている構造物の部位などによって、塗膜剥離剤の塗膜への浸透量および浸透時間が一定せず、塗膜を十分に剥離できないおそれがある。
【0007】
また、構造物の安全確認のために、定期的にまたは地震などの災害時には緊急的に構造物の点検が実施される。この点検では、素地を露出させるために、部分的に塗膜を剥離除去する必要がある。点検の対象となる部位は、橋脚の隅角部、補剛材の溶接部、複数のボルトによる締結部などの狭あい部分であるが、このような部分の塗膜に対して、液状の塗膜剥離剤を十分に浸透させて剥離することは困難である。
【0008】
本発明の目的は、安定して塗膜を剥離することが可能で、特には、塗膜が設けられている構造物の部位によらず確実に塗膜を剥離することが可能な塗膜剥離剤および塗膜剥離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、塗膜剥離液と、
繊維状粒子と、を含むペースト状の塗膜剥離剤である。
【0010】
また本発明の塗膜剥離剤は、塗膜剥離液が、
アルコール系溶剤と、
炭化水素系溶剤と、
水と、を含む。
【0011】
また本発明の塗膜剥離剤は、繊維状粒子の直径が、1~1000μmであり、長さが1~50mmである。
【0012】
また本発明の塗膜剥離剤は、繊維状粒子の含有量が、塗膜剥離剤全体に対して、1~10質量%である。
【0013】
また本発明は、鋼構造物の塗膜表面に、上記の塗膜剥離剤を塗布する塗布工程と、
塗布された塗膜剥離剤をシートで被覆するとともに、塗膜剥離剤を加圧する被覆工程と、
所定時間放置したのち、シートを除去し、塗膜を鋼構造物から剥離する剥離工程と、を有する塗膜剥離方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塗膜剥離液と繊維状粒子とを含むことで、混合物がペースト状となる。ペースト状の塗膜剥離剤とすることで、塗膜剥離液に含まれる剥離成分が保持され、塗膜に浸透するので、塗膜の周囲環境に左右されず、安定して塗膜を剥離することが可能となる。また、構造物の狭あい部分にペースト状の塗膜剥離剤を埋め込むことで、剥離成分を十分に浸透させて確実に塗膜を剥離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、塗膜剥離液と、繊維状粒子と、を含むペースト状の塗膜剥離剤である。本発明の塗膜剥離剤は、鋼構造物の表面に設けられた塗膜を剥離するめに好適に用いられる。「ペースト状」とは、液状の塗膜剥離液と繊維状粒子とを混合することで増粘した半固体状の状態をいう。本発明において、例えば、粘度が2Pa・s以上である高粘度の状態をペースト状という。粘度は、比較的高粘度での測定に適した音叉振動式粘度計を用いた測定方法(JIS Z8803:2011 振動粘度計による粘度測定方法に準拠)で測定したもの(温度条件:25℃)である。また、消防法の危険物確認試験における液状確認試験に準拠した試験(温度条件:40℃)において、本発明の塗膜剥離剤は、到達時間が90秒を超えており、固体と判断されるものである。
【0017】
(塗膜剥離液)
塗膜剥離液は、塗膜を剥離する剥離成分を含むものであれば限定されない。塗膜剥離液は、例えば、アルコール系溶剤と、炭化水素系溶剤と、水と、を含むものであってよい。
【0018】
・アルコール系溶剤
アルコール系溶剤は、塗膜中の樹脂を膨潤させ、密着力を低減させる剥離成分である。アルコール系溶剤としては、比較的高い沸点を有するものが好ましく、例えば、沸点が100℃以上の1価または2価のアルコール系溶剤を用いることができる。1価のアルコール系溶剤の具体例としては、C5以上のアミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール等の脂肪酸アルコール、ベンジルアルコール、ベンジルカルビノール、ベンジルジメチルカルビノール等の芳香族アルコール等が挙げられる。これらのうち、ベンジルアルコール等の芳香アルコールが好ましい。
【0019】
2価アルコール系溶剤の具体例としては、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ならびにそれらのメチル、エチル、プロピル、およびブチルエーテルの群から選ばれる。具体的にはエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0020】
アルコール系溶剤は、上記具体例の1種または2種以上を用いることができる。アルコール系溶剤としては、ベンジルアルコール単独、またはベンジルアルコールとジエチレングリコールの併用が好ましい。
【0021】
・炭化水素系溶剤
上記アルコール系溶剤を含んでいれば、塗膜剥離液として機能するが、助剤として炭化水素系溶剤をさらに含むことで、塗膜の膨潤および剥離を促進させることができるので好ましい。炭化水素系溶剤は、例えば、飽和脂肪族系炭化水素または芳香族系炭化水素を用いることができる。飽和脂肪族系炭化水素としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィンを用いることができ、シクロパラフィンが好ましい。シクロパラフィンの具体例としては、アルキルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族系炭化水素としては、ナフタレン、トリメチルベンゼン等が挙げられる。炭化水素系溶剤は、これら具体例の1種または2種以上を用いることができる。
【0022】
・水
水は、塗膜剥離液を非引火性とするための溶媒である。水としては、例えば、蒸留水、精製水、脱イオン水、純水、超純水等を用いることができる。
【0023】
塗膜剥離液は、例えば、アルコール系溶剤の含有量が、30~75質量%であり、炭化水素系溶剤の含有量が、1~5質量%であり、水の含有量が、20~65質量%である。塗膜剥離液が、炭化水素系溶剤を含まない場合は、例えば、アルコール系溶剤の含有量が、35~80質量%であり、水の含有量が、20~65質量%である。塗膜剥離液は、効果を損なわない範囲で、さらに、増粘剤、塗膜浸透剤、溶剤保持剤、pH調整剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0024】
増粘剤としては、例えば、天然品、合成品のいずれでもよく、シリカ、カオリン鉱物、サーペンチン、タルク、雲母、バーミキュライト、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイトを含む)、ベントナイト、セピオライト、有機クレー、有機ベントナイト、セルロース等が挙げられる。これらの中から、少なくとも1種を含むものであり、2種以上併用してもよい。
【0025】
(繊維状粒子)
繊維状粒子は、塗膜剥離液と混合することで塗膜剥離液を増粘させ、塗膜剥離剤全体をペースト状とするものである。繊維状粒子は、塗膜剥離液の含有成分に対する耐性を有するとともに、含有成分を変性させないものであればよい。繊維状粒子が、塗膜剥離液の含有成分に対する耐性を有しなければ、経時的に繊維状粒子が溶解、分解され、塗膜剥離剤の特性の変化、粘度低下などが生じる。また繊維状粒子が、塗膜剥離液の含有成分を変性させてしまうと、塗膜剥離剤の特性の変化などが生じる。
【0026】
繊維状粒子の材料としては、上記の特性を有しているものであれば、化学繊維であっても天然繊維であっても用いることができる。化学繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの合成繊維、セルロースを含む再生繊維を用いることができる。また、天然繊維としては、例えば、絹、毛、綿、麻などを用いることができる。取扱い易さ、コスト面など種々の観点から、繊維状粒子の材料としては、化学繊維が好ましく、合成繊維がさらに好ましく、ポリエステルが最も好ましい。
【0027】
繊維状粒子の大きさは、塗膜剥離剤全体をペースト状とするものであればよく、例えば、直径が1~1000μmであり、長さが1~50mmであり、好ましくは、直径が5~10μmであり、長さが5~10mmである。なお、繊維状粒子は、例えば撚り糸など複数の繊維が集合した形態(マルチフィラメント)であってもよく、1つの繊維からなる形態(モノフィラメント)であってもよい。繊維状粒子が、マルチフィラメント形態であれば、繊維状粒子を構成する複数の繊維間に剥離成分が容易に保持されるので、好ましい。
【0028】
繊維状粒子の含有量は、塗膜剥離剤全体をペースト状とする範囲であればよく、例えば、塗膜剥離剤全体に対して、1~10質量%であり、好ましくは、2~7質量%であり、特に好ましくは、4~7質量%である。
【0029】
塗膜剥離剤の製造方法について説明する。なお、塗膜剥離液は、公知の製造方法によって製造することが可能である。塗膜剥離液は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ペリカンリムーバー アクア、ペリカンリムーバー アクアDX(いずれも大伸化学株式会社製)などを用いることができる。塗膜剥離液と、繊維状粒子との混合は、例えば、自転公転撹拌機など異種材料の撹拌に適した撹拌機を用いることができる。
【0030】
本発明の塗膜剥離剤が剥離対象とする塗膜は、防食塗膜全般であり、対象を限定するものではない。剥離対象の塗膜としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、フェノール樹脂、フタル酸樹脂、塩化ゴム樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の樹脂を含む塗膜(特にこれらを主成分とするもの)が挙げられる。特に、鋼道路橋等において用いられているA塗装系(鉛含有さび止め、フタル酸樹脂系)、B塗装系(鉛含有さび止め、塩化ゴム系)、C-1塗装系(ジンクリッチペイント、エポキシ樹脂系)、C-4塗装系(ジンクリッチペイント、フッ素樹脂系)、D塗装系(タールエポキシ樹脂系または変性エポキシ樹脂系)等において有効である。
【0031】
従来の液状の塗膜剥離剤では、塗布後の剥離対象塗膜周辺の気温または湿度などによって、塗膜剥離剤の成分が揮発するなどして、剥離成分が十分に塗膜に浸透せず、塗膜が剥離できないおそれがある。また、剥離が可能であっても、塗布から剥離可能となるまでの期間が一定しないおそれがある。また、剥離対象塗膜が鉛直方向に延びるような塗膜の場合、塗布後の液だれなどが生じ、塗膜の場所によって剥離成分の浸透量がばらつき、塗膜が剥離できないおそれがある。構造物の狭あい部分も同様に、場所によって剥離成分の浸透量がばらつき、塗膜が剥離できないおそれがある。本発明の塗膜剥離剤は、ペースト状であり、塗膜剥離液に含まれる剥離成分が保持され、塗膜に浸透するので、塗膜の周囲環境に左右されず、安定して塗膜を剥離することが可能となる。また、構造物の狭あい部分にペースト状の塗膜剥離剤を埋め込むことで、剥離成分を十分に浸透させて確実に塗膜を剥離することが可能となる。
【0032】
次に、本発明の塗膜剥離剤を用いた塗膜剥離方法について説明する。まず、本発明の塗膜剥離剤は、従来の塗膜剥離剤を用いた塗膜剥離方法と類似の方法とすることができる。例えば、剥離対象の塗膜表面に本発明の塗膜剥離剤を塗布し、所定時間放置して塗膜を膨潤、軟化させ、スクレーパー等を用いて塗膜を掻き取って剥離除去する。
【0033】
また、本発明の塗膜剥離剤は、以下のような塗膜剥離方法に適用することで、さらに安定して塗膜を剥離することが可能となる。
図1に示すように、本発明の塗膜剥離剤を用いた塗膜剥離方法は、塗布工程(S1)と、被覆工程(S2)と、剥離工程(S3)と、を有する。
【0034】
・塗布工程(S1)
塗布工程は、鋼構造物の塗膜表面に、本発明の塗膜剥離剤を塗布する。塗布工程では、鋼構造物の塗膜表面に、本発明のペースト状の塗膜剥離剤を塗布することが可能であれば、塗布方法は限定されない。例えば、ディズペンサーで塗膜剥離剤を塗膜表面に供給し、ヘラまたはブレードなどを用いて適量を塗布すればよい。
【0035】
塗布工程における塗膜剥離剤の塗布量は、剥離対象となる塗膜の種類、塗膜剥離液の組成などによって適宜設定すればよい。従来の液状の塗膜剥離剤では、塗膜表面に塗布可能な量に限界がある。これに対して、本発明の塗膜剥離剤は、ペースト状であるので、塗膜表面に厚塗りすることも可能で、より多くの剥離成分を塗布することができる。
【0036】
・被覆工程(S2)
被覆工程は、塗布された塗膜剥離剤をシートで被覆するとともに、塗膜剥離剤を加圧する。このシートは、塗膜剥離剤を覆うことで、塗膜の周囲環境から受ける影響を抑制するとともに、ペースト状の塗膜剥離剤に接触して加圧することで、繊維状粒子の繊維間に保持されていた剥離成分が塗膜へと浸透し易くしている。上記のように塗膜は複数層からなることが多く、剥離成分が表面側から浸透し、1層目の剥離が進むと、1層目が浮き上がり(塗膜リフティング)、2層目との間に空間が生じることがある。これにより、2層目に剥離成分が浸透しにくくなり、剥離が不十分となる。2層目が剥離できたとしても、2層目以降で同じような浮き上がりが生じることがある。シートを用いることにより、大気中への揮発などによる剥離成分の減少をさらに抑え、剥離成分の塗膜への浸透が促進され、塗膜リフティングも抑制できるので、さらに安定して塗膜を剥離することが可能となる。シートによって塗膜剥離剤に加える圧力としては、例えば、0.025~0.10kg/cm2とすればよい。圧力が0.025kg/cm2より低いと、加圧による剥離成分の浸透促進効果が小さく、0.10kg/cm2より高いと、塗膜剥離液が押し出されて繊維状粒子と分離してしまう。
【0037】
被覆工程で使用されるシートは、繊維状粒子と同様に、塗膜剥離液の含有成分に対する耐性を有するとともに、含有成分を変性させないものであればよい。シートは、塗膜剥離剤を加圧するための強度を有していることが好ましい。このようなシートとしては、例えば、直鎖低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、無延伸ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンブテン-1共重合体、エチレンオクテン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体等のポリオレフィン系樹脂フィルム、無延伸ナイロン等のポリアミド系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム等が挙げられる。
【0038】
シートは、塗膜剥離剤を被覆した状態で、シートの周縁部分を粘着テープなどで固定してもよい。シートは、上記のような樹脂フィルムを基材とし、基材の一方面に粘着層を設け、シート自体が粘着テープのように構成されていてもよい。このような構成であれば、固定用の粘着テープを別途準備する必要がない。なお、粘着層は、塗膜剥離剤と接触することになるので、粘着層も繊維状粒子と同様に、塗膜剥離液の含有成分に対する耐性を有するとともに、含有成分を変性させないものであればよい。
【0039】
剥離対象の塗膜が鋼板素地に設けられている場合は、磁力によって固定することもできる。本発明の塗膜剥離剤およびシートは、いずれも非磁性であるので、鋼板と磁石との間に生じる磁気吸着力によって、塗膜剥離剤およびシートを塗膜表面に固定することができる。シートの固定に用いる磁石の種類および形状などは、限定されない。複数の磁石を用いて、シートの周縁部分を固定してもよく、シートの中央部分を固定してもよい。また、板状の磁石で、シートに重ねるようにしてシート全体を固定するようにしてもよい。
【0040】
・剥離工程(S3)
剥離工程は、被覆工程終了後、所定時間放置したのち、シートを除去し、塗膜を鋼構造物から剥離する。シート除去後の剥離方法は、従来と同様にスクレーパー等を用いて塗膜を掻き取って剥離除去することができる。
【0041】
本発明の塗膜剥離剤を用いた場合、所定時間放置している間に塗膜剥離液が塗膜に浸透することで、塗膜表面には、繊維状粒子が多く残る。残った繊維状粒子がシートと塗膜とに絡みつき、シートの除去と同時に、一部の塗膜が剥離除去される。これにより、塗膜の掻き取り作業を大幅に軽減することができる。さらに剥離した塗膜を、シートごと回収することができるので、剥離後の塗膜の処理作業も大幅に軽減することができる。このような、シートによる塗膜の同時除去は、塗膜の種類、繊維状粒子の種類およびシートの種類の組み合わせを適切に選択することで、効果がさらに向上する。繊維状粒子によるシートと塗膜との結合力がより強くなるような組み合わせを選択すれば、シート除去時にさらに多くの塗膜を同時除去することができる。
【0042】
(実施例)
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
・実験1
塗膜剥離液100gに対して、異なる含有量で繊維状粒子を投入し、混合して得られた塗膜剥離剤の液状確認試験を行なった。液状確認試験は、消防法の危険物確認試験における液状確認試験に準拠した試験(温度条件:40℃)である。
塗膜剥離液:ペリカンリムーバー アクア(大伸化学株式会社製)
繊維状粒子:ポリエステル樹脂(直径1mm(マルチフィラメント)、長さ5mm)
繊維状粒子の含有量は、0.5質量%、1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%および10質量%とした。塗膜剥離液であるペリカンリムーバー アクアは、アルコール系溶剤としてベンジルアルコールを含み、炭化水素系溶剤として飽和脂肪族系炭化水素を含み、増粘剤としてベントナイトおよびセルロースを含む水系の塗膜剥離液である。
【0044】
繊維状粒子の含有量が0.5質量%では、液状確認試験において、液体の状態であり、含有量が1~10質量%では、液状確認試験において、全て固体の状態であり、本発明におけるペースト状といえるものであった。
【0045】
・実験2
実験1で作製した各塗膜剥離剤について、垂直壁面での塗工性について確認した。ステンレス鋼板SUS304(縦148mm、横70mm、厚さ0.8mm)を垂直な状態で固定し、各塗膜剥離剤5gを鋼板表面に塗布した。塗布から1時間経過後および24時間経過後において、鋼板表面の塗膜剥離剤の状態を目視で確認した。繊維状粒子を含まない(0質量%)従来品の塗膜剥離液(ペリカンリムーバー アクア)を、比較例とした。
【0046】
目視評価
鋼板表面に塗布した位置から塗膜剥離剤の位置が変化しない場合 ○
塗膜剥離剤の位置が下方に変化したが鋼板内に留まった場合 △
塗膜剥離剤が鋼板外にまで流れ落ちた場合 ×
結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
実験2からわかるように、垂直壁面という塗布条件であっても繊維状粒子の含有量が4~7質量%であれば、塗膜剥離剤の位置が変化しないことがわかる。例えば、繊維状粒子を含まない(0質量%)従来品も含めて、塗布後に流れ落ちてしまうと、塗膜剥離液が、塗膜に十分に浸透しないので、剥離できないことや、塗膜の上部と下部とで浸透する塗膜剥離液の量がばらつき、十分に剥離できないことがある。塗膜剥離剤が塗布後に同じ位置に保持されると、塗膜剥離液が塗膜に十分に浸透し、確実に剥離することができる。
【0049】
・実験3
実験1で作製した塗膜剥離剤のうち、繊維状粒子の含有量が4質量%のものを用いて、加圧力による影響を確認した。水平に置いたステンレス鋼板SUS304の表面に、塗布面積が20cm2(縦5cm、横4cm)となるように、塗膜剥離剤を塗布し、塗膜剥離剤をアルミニウム板で被覆した。アルミニウム板上から荷重を加えて、塗膜剥離液の染み出しを目視で確認した。荷重を変化させて、塗膜剥離剤に加えた圧力を変化させた。塗膜剥離剤に加えた圧力は、0.025kg/cm2、0.038kg/cm2、0.050kg/cm2、0.10kg/cm2、0.15kg/cm2とした。
【0050】
塗膜剥離剤に加えた圧力が0.025~0.050kg/cm2では、塗膜剥離液の染み出しは見られなかった。0.10kg/cm2では、少量の染み出しが見られ、0.15kg/cm2では、多量の染み出しが見られた。本発明の塗膜剥離方法において、被覆工程でシートによって塗膜剥離剤を被覆する場合、例えば、加える圧力を0.10kg/cm2以下とすればよいことがわかった。
【0051】
・実験4
本発明の塗膜剥離剤を用いた塗膜剥離方法を実施し、塗膜剥離効果について確認した。
剥離対象塗膜:A塗装系(膜厚300~400μm)
:B塗装系(膜厚300~400μm)
:C塗装系1(膜厚500~700μm)
:C塗装系2(膜厚1000μm程度)
塗膜剥離剤:実験1で作製した塗膜剥離剤のうち繊維状粒子の含有量が4質量%のもの
シート:ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート)製シート(商品名 せこたん、ニチバン株式会社製)
【0052】
実施例の塗膜剥離方法については、次のとおりとした。前記剥離対象塗膜付きのステンレス鋼板SUS304を準備し、垂直に立てた状態で、前記塗膜剥離剤を、塗布量が3kg/m2となるように塗布した。塗布した塗膜剥離剤を前記シートで被覆し、恒温恒湿槽(温度20℃、湿度60%)内で放置した。所定日数放置後にシートを除去し、スクレーパーによって塗膜を掻き取って、剥離除去した。所定日数は、1日、3日、7日とした。なお、前記塗膜剥離剤の代わりに従来品の塗膜剥離液(ペリカンリムーバー アクア)を用いた以外は、実施例と同様にしたものを比較例とした。
【0053】
塗膜除去率評価
スクレーパーで掻き取った後に残った塗膜の膜厚を、膜厚計(デュアルタイプ膜厚計LZ-990「エスカル」、株式会社ケツト科学研究所製)によって測定し、下記式に従って、塗膜除去率を算出した。塗膜の膜厚は、塗膜の中央および四隅の計5か所を測定し、算術平均値とした。
塗膜除去率(%)=((除去前の膜厚-除去後の膜厚)/除去前の膜厚)×100
除去率が90%以上を◎とし、除去率が80%以上90%未満を○とし、除去率が50%以上80%未満を△とし、除去率が50%未満を×とした。
結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
A塗装系塗膜およびB塗装系塗膜について、比較例では、塗膜への浸透量が少ないために、除去が不十分であった。これに対して、実施例では、塗膜への浸透量が多く、A塗装系塗膜およびB塗装系塗膜のいずれも除去率が98%以上であった。C塗装系塗膜は、A塗装系塗膜およびB塗装系塗膜より剥離除去が困難な塗膜である。C塗装系塗膜について、比較例では、C塗装系1およびC塗装系2のいずれも7日放置しても塗膜に浸透せず、除去が不十分であった。実施例では、1日放置の時点での除去は不十分であったが、比較的塗膜厚さが薄いC塗装系1では、3日放置で除去率が99%以上であった。また、比較的塗膜厚さが厚いC塗装系2でも、7日放置すれば除去率が99%以上であった。
【0056】
このように、従来の塗膜剥離液に比べて、本発明のペースト状の塗膜剥離剤を用いることで、塗膜への剥離成分の浸透が促進され、確実に塗膜を剥離することができる。
【0057】
・実験5
剥離対象塗膜をC塗装系2とし、塗布量を2kg/m2に減らしたもの、塗膜剥離剤として繊維状粒子の含有量が3質量%のもので、塗布量を2kg/m2および3kg/m2としたものについても実験4と同様に、実施例の塗膜剥離方法を行なった。いずれも7日放置で、除去率が99.9%以上であり、塗布量を変化させた場合、繊維状粒子の含有量を変化させた場合でも十分な効果が得られた。
【0058】
・実験6
塗膜剥離液として、複数種類の市販品を用いたものを示す。剥離対象膜をA塗装系とし、塗膜剥離液にペリカンリムーバー アクアDX(商品名、大伸化学株式会社製)を用いたもの、塗膜剥離液にバイオハクリX-WB(商品名、山一化学工業株式会社製)を用いたもの、塗膜剥離液にリペアソルブS(商品名、三協化学株式会社製)を用いたものについても実験4と同様に、実施例の塗膜剥離方法を行なった。塗膜剥離液であるペリカンリムーバー アクアDXは、アルコール系溶剤としてベンジルアルコールを含み、炭化水素系溶剤を含まない、水系の塗膜剥離液である。塗膜剥離液であるバイオハクリX-WBは、アルコール系溶剤としてベンジルアルコールを含み、炭化水素系溶剤としてミネラルスピリット、ナフタレンを含む水系の塗膜剥離液である。塗膜剥離液であるリペアソルブSは、アルコール系溶剤としてベンジルアルコールを含み、炭化水素系溶剤を含まない、水系の塗膜剥離液である。いずれも1日放置で、除去率が97%以上であり、塗膜剥離液を変更した場合でも十分な効果が得られた。