(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095334
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】固化体の作製方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/26 20060101AFI20220621BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20220621BHJP
G21F 9/30 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B22/06 Z
C04B22/06 A
G21F9/30 511B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208604
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504085750
【氏名又は名称】アドバンエンジ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 美沙紀
(72)【発明者】
【氏名】中野 寛子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 善貴
(72)【発明者】
【氏名】井手 広史
(72)【発明者】
【氏名】工藤 勇
(72)【発明者】
【氏名】末松 久幸
(72)【発明者】
【氏名】ドウ ティ マイ ズン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ヤル
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA00
4G112MA01
4G112PA03
4G112PA11
4G112PB03
4G112PB04
(57)【要約】
【課題】放射性アルミニウムを含むアルカリ活性材料を固化する場合において、放射性アルミニウムの含有量を増やす技術を提供する。
【解決手段】固化体の作製方法は、アルミニウム合金をアルカリ金属の水酸化物溶液に溶解することによって、アルミニウム溶解液を生成する溶解工程(S1)と、原料としてのアルミニウム溶解液、活性フィラー、及びアルカリシリカ溶液を混錬することによって、アルカリ活性材料を生成する混錬工程(S3)と、アルカリ活性材料を型に充填して養生することによって、固化体を作製する固化工程(S4)を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金をアルカリ金属の水酸化物溶液に溶解することによって、アルミニウム溶解液を生成する溶解工程と、
原料としての前記アルミニウム溶解液、活性フィラー、及びアルカリシリカ溶液を混錬することによって、アルカリ活性材料を生成する混錬工程と、
前記アルカリ活性材料を型に充填して養生することによって、固化体を作製する固化工程を含む固化体の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の固化体の作製方法において、
前記アルカリ活性材料の原料となるアルミニウムとして、放射化された前記アルミニウム合金、または放射性物質が付着した前記アルミニウム合金のみを含むことを特徴とする固化体の作製方法。
【請求項3】
請求項2に記載の固化体の作製方法において、
前記活性フィラーが、非晶質シリカを含むことを特徴とする固化体の作製方法。
【請求項4】
請求項3に記載の固化体の作製方法において、
前記活性フィラーが、シリカヒュームであることを特徴とする固化体の作製方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の固化体の作製方法において、
前記アルミニウム溶解液から不純物を分離する分離工程を含み、
前記混錬工程において、前記不純物が分離された前記アルミニウム溶解液と、前記活性フィラーと、前記アルカリシリカ溶液とを混錬することを特徴とする固化体の作製方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の固化体の作製方法において、
前記固化体のアルミニウムに対するケイ素の含有比率は、1.8以上であることを特徴とする固化体の作製方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の固化体の作製方法において、
前記固化体に対するアルミニウムの含有量は、8.0[wt%]未満であることを特徴とする固化体の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物としてのアルミニウムを含む固化体の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性雑固体廃棄物の埋設技術基準では、ドラム缶内に健全性を損なう物質を含まないこと、及び最大放射能濃度を超えないことが重要な要件となっている。通常の放射性雑固体廃棄物(例えば、鉄系金属、コンクリート、ガラス等)は、ドラム缶内に格納してコンクリート等の充填剤を充填することによって、基準に適合した固化体の作製が可能である。
【0003】
しかしながら、放射化もしくは放射性物質によって汚染されたアルミニウム(以下、「放射性アルミニウム」と表記する。)は、化学的性質上、コンクリート等のアルカリ性物質と反応すると水素ガスが発生し、固化体を破損させることから、難廃棄物として分類されている。そのため、放射性アルミニウムは、固化体の作製が行われず、原子力施設等の管理区域内に保管されているのが現状である。
【0004】
近年、特許文献1、2に記載されているように、コンクリートを代替する材料として、アルカリ活性材料(所謂、ジオポリマー)が注目されている。ジオポリマーは、主に建築資材として開発されたものであるが、組成の柔軟性、耐熱性、化学的安定性、耐放射線性等、放射性廃棄物を固化する材料としての適性もあると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-239446号公報
【特許文献2】特開2020-19681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2には、ジオポリマーで放射性物質を固化できると記載されているに留まり、放射性アルミニウムをジオポリマーで固化する具体的な方法が開示されているとは言い難い。特に、固化体の総数を削減するためには、固化体1個当たりに含まれる放射性アルミニウム量を増やすことが重要となる。なお、このような課題は、放射性アルミニウムのみならず、一般廃棄物としてのアルミニウムにも当てはまる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウムを含むアルカリ活性材料を固化する場合において、廃棄物としてのアルミニウムの含有量を増やす技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係る固化体の作製方法は、アルミニウム合金をアルカリ金属の水酸化物溶液に溶解することによって、アルミニウム溶解液を生成する溶解工程と、原料としての前記アルミニウム溶解液、活性フィラー、及びアルカリシリカ溶液を混錬することによって、アルカリ活性材料を作製する混錬工程と、前記アルカリ活性材料を型に充填して養生することによって、固化体を作製する固化工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルミニウムを含むアルカリ活性材料を固化する場合において、廃棄物としてのアルミニウムの含有量を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】放射性固化体の作製方法の工程を示す図である。
【
図2】アルミニウムに対するケイ素の含有比率と、放射性固化体の平均圧縮強度との関係を示す図である。
【
図3】放射性固化体に対するアルミニウムの充填量と、放射性固化体の平均圧縮強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本実施形態に係る放射性固化体の作製方法を説明する。
図1は、放射性固化体の作製方法の工程を示す図である。なお、以下に記載する本発明の実施形態は、本発明を具体化する際の一例を示すものであって、本発明の範囲を実施形態の記載の範囲に限定するものではない。従って、本発明は、実施形態に種々の変更を加えて実施することができる。
【0012】
本実施形態に係る放射性固化体の作製方法は、放射性アルミニウム合金を原料として、アルカリ活性材料(所謂、ジオポリマー)の固化体を作製する方法である。但し、本発明は、放射性アルミニウム合金を原料にする「放射性固化体の作製方法」に限定されず、一般廃棄物としてのアルミニウム合金を原料とする「固化体の作製方法」としても利用することができる。
【0013】
本実施形態のアルミニウム合金は、アルミニウムに添加物(例えば、Fe、Mn、Cu、Mg、Si等)が添加されたものである。典型的には、1000番系、5000番系、または6000番系のアルミニウム合金が該当するが、これには限定されない。アルミニウム合金中の添加物の含有比率は、0.1~5%、より典型的には、0.5~2%程度である。
【0014】
アルミニウム合金は、例えば、試験研究炉の格納容器の材料として用いられる他、商用発電炉でも利用されている。そして、本実施形態の対象となるアルミニウム合金は、これらの原子炉から廃棄物として廃棄されるものである。また、放射性アルミニウムとは、放射化されて自ら放射能を有するアルミニウム合金に限定されず、放射性物質が付着したアルミニウム合金も含むものとする。
【0015】
まず、
図1に示すように、放射性アルミニウム合金を、水酸化ナトリウム溶液に溶解して、アルミニウム溶解液(アルミン酸ナトリウム)を生成する(S1)。アルミニウム溶解液には、アルミニウム合金のうち、アルミニウムが溶解してイオン化すると共に、添加物が溶解せずに固体として残る。この工程は溶解工程の一例である。なお、溶解工程では、水酸化ナトリウム溶液に代えて、ナトリウム以外のアルカリ金属(典型的には、カリウム)の水酸化物溶液を用いることができる。
【0016】
次に、アルミニウム合金の添加物で且つ水酸化ナトリウム溶液に溶解しなかった物質(以下、「不純物」と表記する。)を、アルミニウム溶解液から分離する(S2)。不純物を分離する方法としては、周知のあらゆる方法を採用することができるが、例えば、吸引濾過やフィルタープレスなどを採用することができる。この工程は分離工程の一例である。
【0017】
次に、不純物が分離されたアルミニウム溶解液と、活性フィラーと、アルカリシリカ溶液とを混錬することによって、アルカリ活性材料が生成される(S3)。活性フィラーは、非晶質シリカを含み且つアルミニウムを含まない物質であって、例えば、シリカヒューム(二酸化ケイ素)を採用することができる。アルカリシリカ溶液は、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムであって、S1のアルカリ金属と同じアルカリ金属を含む。この工程は、混錬工程の一例である。
【0018】
より詳細には、まず化学式1のように、シリカヒュームがアルカリ刺激を受けて、モノマー化する。次に、化学式2のように、モノマー化したシリカヒュームとアルミニウム溶解液とが脱水縮重合して、アルカリ活性材料が生成される。また、アルカリ金属(化学式2では、K)は、4価のSiに対する3価のAlの補償に用いられる。
【0019】
【0020】
【0021】
ここで、アルカリ活性材料は、原料としてアルミニウムを必要とするので、アルミニウムを含む活性フィラーを原料として用いるのが一般的である。しかしながら、本実施形態では、放射性アルミニウム合金を溶解させたアルミニウム溶解液と、アルミニウムを含まない活性フィラーと、アルカリシリカ溶液とを、原料として用いている。すなわち、本実施形態に係るアルカリ活性材料の原料となるアルミニウムは、放射性アルミニウム合金のみである。
【0022】
次に、アルカリ活性材料を型に充填して養生することによって、放射性アルミニウムを含む固化体(以下、「放射性固化体」と表記する。)を作製する(S4)。より詳細には、「養生」とは、アルカリ活性材料を充填した型を密封し、20~80℃(例えば、60℃)で半日~1週間程度(例えば、4日間)の時間をかけて、放射性アルミニウムを固化させる化学反応(脱水縮重合)を促進する処理である。この工程は固化工程の一例である。
【0023】
次に、
図2及び
図3を参照して、本実施形態に係る放射性固化体の作製方法の効果を確認する実験について説明する。
図2は、アルミニウムに対するケイ素の含有比率(以下、「ケイ素/アルミ比」と表記する。)と、放射性固化体の平均圧縮強度との関係を示す図である。
図3は、放射性固化体に対するアルミニウムの充填量と、放射性固化体の平均圧縮強度との関係を示す図である。
【0024】
アルミニウムに対するケイ素の含有比率を1.0~2.2まで変動させ(
図2)、且つ放射性固化体におけるアルミニウムの充填量を7.31~9.27[wt%]まで変動させて(
図3)、上記の方法で作製した複数の放射性固化体の平均圧縮強度を計測する実験を行った。なお、プロット“●”は、アルミニウムに対するナトリウムの含有比率(以下、「ナトリウム/アルミ比」と表記する。)を1.0とした場合の実験結果である。また、プロット“▲”は、ナトリウム/アルミ比を1.1とした場合の実験結果である。
【0025】
放射性固化体には、貯蔵時に破損して放射性アルミニウムが露出するのを防止するために、ある程度の強度が求められる。一方、放射性固化体の総量を少なくするためには、放射性固化体におけるアルミニウムの含有量を増やす必要がある。
【0026】
上記の観点で
図2を参照すると、ケイ素/アルミ比が1.8以上の場合と1.8未満の場合とでは、平均圧縮強度に大きな差があることが確認された。すなわち、放射性固化体に十分な平均圧縮強度を付与するには、ケイ素/アルミ比を1.8以上とするのが望ましい。また、放射性固化体の総量を少なくするためには、ケイ素/アルミ比が1.8に近いのが望ましい。
【0027】
また、上記の観点で
図3を参照すると、アルミニウムの充填量が8.0未満の場合と8.0以上の場合とでは、平均圧縮強度に大きな差があることが確認された。すなわち、放射性固化体に十分な平均圧縮強度を付与するには、放射性固化体に対するアルミニウムの含有量を8.0[wt%]未満とするのが望ましい。また、放射性固化体の総量を少なくするためには、放射性固化体に対するアルミニウムの含有量が8.0[wt%]に近いのが望ましい。
【0028】
なお、ナトリウム/アルミ比=1.0に限定して
図2及び
図3を参照すると、ケイ素/アルミ比が1.6以上の全てのプロット“●”で平均圧縮強度が1.0[MPa]を超え、アルミニウムの充填量が8.25以上の全てのプロット“●”で平均圧縮強度が1.0[MPa]を超えている。すなわち、ナトリウム/アルミ比を1.0にすることによって、ナトリウム/アルミ比が1.1の場合と比較して、平均圧縮強度の向上とアルミニウムの含有量の増大とを両立することができる。
【0029】
但し、ナトリウム/アルミ比を1.0にすると、溶解工程で全てのアルミニウムがイオン化しない可能性がある。そのため、溶解工程で全てのアルミニウムをイオン化させる観点では、ナトリウム/アルミ比は1.0より高いことが望ましい。
【0030】
上記の実施形態によれば、例えば以下の作用効果を奏する。
【0031】
上記の実施形態によれば、放射性アルミニウム合金を、アルカリ活性材料の原料として用いた。これにより、放射性アルミニウム合金を、アルカリ活性材料の被固化物とし、アルカリ活性材料の原料としてアルミニウムを含む活性フィラー(例えば、フライアッシュ、メタカオリン)を用いる場合と比較して、アルカリ活性材料中の放射性アルミニウムの含有量を増やすことができる。その結果、固化体の総量が減少する。
【0032】
また、上記の実施形態によれば、非晶質シリカを含む活性フィラーを用いることによって、化学式1で示される反応をスムーズに進行させることができる。同様に、液体のアルミニウム溶解液をアルカリ活性材料の原料とすることによって、化学式2で示される反応をスムーズに進行させることができる。
【0033】
また、アルミニウム合金に含まれる元素のうち、放射化したアルミニウムの半減期は主な添加物と比較して短いので、放射能を有するのは水酸化物溶液に溶解しない不純物がほとんどである。そこで上記の実施形態によれば、混錬工程に先立って、アルミニウム溶解液から不純物を分離することによって、放射性固化体の放射能濃度を低下させることができる。
【0034】
さらに、ケイ素/アルミ比を1.8以上で且つ1.8に近い値に設定することによって、平均圧縮強度の向上とアルミニウムの含有量の増大とを両立することができる。同様に、放射性固化体に対するアルミニウムの含有量を8.0[wt%]未満で且つ8.0[wt%]に近い値に設定することによって、平均圧縮強度の向上とアルミニウムの含有量の増大とを両立することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態等について説明したが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。