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特開2022-9535スルフェート化又はスルホン化成分を含むヒドロゲルを用いて異なる物質群の物質を区分して隔離するための方法及び材料
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  • 特開-スルフェート化又はスルホン化成分を含むヒドロゲルを用いて異なる物質群の物質を区分して隔離するための方法及び材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009535
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】スルフェート化又はスルホン化成分を含むヒドロゲルを用いて異なる物質群の物質を区分して隔離するための方法及び材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/26 20060101AFI20220106BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220106BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220106BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61L27/26
A61L27/36 130
A61L27/38
A61L27/52
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175133
(22)【出願日】2021-10-27
(62)【分割の表示】P 2019548648の分割
【原出願日】2018-03-09
(31)【優先権主張番号】102017105195.3
(32)【優先日】2017-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】500525405
【氏名又は名称】ライプニッツ-インスティチュート フュア ポリマーフォルシュング ドレスデン エーファウ
【氏名又は名称原語表記】Leibniz-Institut fuer Polymerforschung Dresden e.V.
【住所又は居所原語表記】Hohe Strasse 6,D-01069 Dresden,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス シルマー
(72)【発明者】
【氏名】ウーベ フロイデンベルク
(72)【発明者】
【氏名】カルステン ウェルナー
(72)【発明者】
【氏名】パサント アタラ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081AB05
4C081AB12
4C081AB13
4C081AB15
4C081BA12
4C081BB06
4C081CA061
4C081CA101
4C081CA151
4C081CA181
4C081CA281
4C081CC04
4C081CD011
4C081CD061
4C081CD071
4C081CD081
4C081CD111
4C081CD121
4C081CD171
4C081CD27
4C081CD28
4C081CD29
4C081DA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】バイオ流体中のある種の物質の濃度に、意識的に影響を与えることが可能となる方法を提供する。
【解決手段】スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルの中の異なる物質群A及びBの物質を区分して隔離し、バイオ流体から物質群Aの物質を枯渇させると同時に別な方法で、そのスルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルからバイオ流体の中に、物質群A又はBの物質を放出するか、及び/又は、スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルの中の物質群Bの物質の結合を弱めさせる方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルの中の異なる物質群A及びBの物質を区分して隔離するため、及びバイオ流体から物質群Aの物質を枯渇させ、同時に、前記スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルから前記バイオ流体の中に物質群A又はBの物質を区分して放出するか、又は前記スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルの中の前記物質群Bの物質の結合性を低下させるための方法であって、前記スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルが、タイプ1、タイプ2、タイプ3又はタイプ4のヒドロゲルの群から選択され、且つ前記ヒドロゲルが、荷電されていない構成単位及び荷電された構成単位から構成され、前記荷電された構成単位が、タイプ1では0.0040~0.0060mole/g、タイプ2では0.0025~0.0040mole/g、タイプ3では0.0005~0.0025mole/g、及びタイプ4では0040~0.0100mole/gの、繰り返し単位あたりのスルフェート基及び/又はスルホネート基の数を前記繰り返し単位のモル質量で割ったものから計算されたパラメーターを特徴とし、且つ膨潤させたヒドロゲルが、20kPa未満の貯蔵モジュラスを有し、且つ前記膨潤させたヒドロゲルの性質が、タイプ1では0.09~0.20、タイプ2では0.05~0.18、タイプ3では0.01~0.12、及びタイプ4では0.16~0.8の、mmole/mLの単位での、スルフェート基又はスルホネート基の濃度を有し、且つ、前記バイオ流体中の物質群Aの物質の濃度及び物質群Bの物質の濃度への影響が、前記ヒドロゲルのタイプの選択によって定まることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ヒドロゲルの前記荷電された構成単位が、タイプ1では0.0050mole/g、タイプ2では0.0035mole/g又は0.0038mole/g、タイプ3では0.0019mole/g、及びタイプ4では0.0045mole/gの、繰り返し単位あたりのスルフェート基及び/又はスルホネート基の数を前記繰り返し単位のモル質量で割ったものを有し、且つ前記膨潤させたヒドロゲルの性質が、タイプ1では0.12、タイプ2では0.12又は0.14、タイプ3では0.06、及びタイプ4では0.28又は0.16の、mmole/mLの単位での、スルフェート又はスルホネートの濃度を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルの中の異なる物質群A及びBの物質を区分して隔離するため、及びバイオ流体から物質群Aの物質を枯渇させ、同時に前記スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルから前記バイオ流体中の物質群Bの物質を区分して放出するためか、又は前記スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルの中の物質群Bの物質の結合性を低下させるための方法であって、前記スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルが、タイプ1、タイプ2、タイプ3、又はタイプ4のヒドロゲルの群から選択され、且つ前記ヒドロゲルが、荷電されていない構成単位及び荷電された構成単位から構成され、前記荷電された構成単位が、タイプ1では60~80、タイプ2では30~75、タイプ3では10~30、及びタイプ4では80~120の、ポリマー1moleあたりのスルフェート基又はスルホネート基のmoleの濃度を有し、且つ前記ヒドロゲル中の前記荷電された構成単位が、タイプ1では0.0015~0.0025、タイプ2では0.0015~0.0030、タイプ3では0.0010~0.0040、及びタイプ4では0.0018~0.0050の、mmole/mLの単位での濃度のGBを有し、且つ前記膨潤させたヒドロゲルが、20kPaより低い貯蔵モジュラスを有しながらも、前記スルフェート基又はスルホネート基の濃度が、前記ヒドロゲル1mLあたりのmmoleで、タイプ1では0.09~0.20、タイプ2では0.05~0.18、タイプ3では0.01~0.12、及びタイプ4では0.16~0.80であり、且つ、前記バイオ流体中の物質群Aの物質及び物質群Bの物質の濃度が、前記ヒドロゲルのタイプの選択による影響を受けることを特徴とする、方法。
【請求項4】
前記荷電された構成単位が、ポリマー1moleあたり、タイプ1では70.2、タイプ2では48.4又は75.0、タイプ3では23.4、及びタイプ4では90.0の、スルフェート基又はスルホネート基のmole濃度を有し、且つ前記ヒドロゲルの中の前記荷電された構成単位が、タイプ1では0.0018、タイプ2では0.0025又は0.0018、タイプ3では0.0027、及びタイプ4では0.0031又は0.0018の、mmole/mLの単位での濃度のGBを有し、且つ前記膨潤させたヒドロゲルが、20kPa未満の貯蔵モジュラスを有し、前記ヒドロゲル中のスルフェート基又はスルホネート基の濃度が、mmole/mLの単位で、タイプ1では0.12、タイプ2では0.12又は0.14、タイプ3では0.06、及びタイプ4では0.28又は0.16であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロゲルに対する前記構成単位の架橋が、前記GB及び/又はUGBの上への、アミン、チオール、カルボキシル、無水物、マレイミド、ビニルスルホン、アクリレート、ヒドロキシル、イソシアネート、エポキシド、及びアルデヒドのクラスからの適切な官能基の反応か、又は静電気力若しくは疎水性の相互作用、水素結合、又は双極子相互作用をベースとする非共有結合を形成することが可能な群によって起きることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記荷電された構成単位の前記ヒドロゲルに対する前記架橋が、500g/mole未満のモル質量のUGBを有する、小さな二官能性架橋分子の方法による直接的な架橋を介して起きることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
天然原料から得られるスルフェート化グリコサミノグリカン、たとえばヘパリン及び選択的脱硫ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、スルフェート化ヒアルロン酸、さらにはマンノース、ラクトース、デキストランをベースとするスルフェート化グリコポリマー、並びに硫黄含有モノマーとして、スチレンスルホン酸(SS)、ビニルスルホン酸(VS)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アミノプロパンスルホン酸(APS)、又はアネトールスルホン酸(AS)を担持するポリスルホネート化化合物、並びにさらには、上述の結合基を含む単位を有するコポリマーが、荷電された構成単位として選択され、且つ、ポリエチレングリコール、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び/又はポリアクリルアミド(PAM)又は短鎖の二官能性架橋剤分子が、荷電されていない構成単位として選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
タイプ1のヒドロゲルにおいて、bNGF、PDGF-BB、VEGF-A、エオタキシン、GRO-アルファ、IL-8、IP-10、MCP-1、MIP-1アルファ、MIP-1ベータ、Rantes、SDF1-アルファ、IFN-ガンマ、IL-12p40、IL-4、スクレロスチン及び/又はDKK1の物質の少なくとも1つが、前記物質群Aの物質として選択され、前記物質が前記バイオ流体から、前記溶液の初期濃度の50%を超えて枯渇され、且つ前記ヒドロゲルの中に隔離されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
タイプ1のヒドロゲルにおいて、FGF-2、TGFb1、EGF、HGF、PLGF、GM-CSF、IL-1ベータ、IL-10、IL-6及び/又はTNF-アルファの物質の少なくとも1つが、前記物質群Bの物質として選択され、前記物質が、前記ヒドロゲルの中の前記溶液の初期濃度のわずか50%まで結合されるか、又はそれから放出されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
タイプ2のヒドロゲルにおいて、bNGF、PDGF-BB、VEGF-A、エオタキ
シン、GRO-アルファ、IL-8、IP-10、MCP-1、Rantes、SDF1-アルファ、IFN-ガンマ、IL-12p40、IL-4、及び/又はDKK1の物質の少なくとも1つが、物質群Aの物質として選択され、前記物質が前記バイオ流体から、前記溶液の初期濃度の50%を超えて枯渇され、且つ前記ヒドロゲルの中に隔離されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
タイプ2のヒドロゲルにおいて、FGF-2、TGFb1、EGF、HGF、PLGF、GM-CSF、IL-1ベータ、IL-10、IL-6、TNF-アルファ、及び/又はスクレロスチンの物質の少なくとも1つが、物質群Bの物質として選択され、前記物質が、前記ヒドロゲルの中の前記溶液の初期濃度のわずか50%まで結合されるか、又はそれから放出されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
タイプ3のヒドロゲルにおいて、bNGF、PDGF-BB、VEGF-A、エオタキシン、GRO-アルファ、IP-10、Rantes、SDF1-アルファ、IFN-ガンマ、及び/又はIL-4の物質の少なくとも1つが、物質群Aの物質として選択され、前記物質が、前記バイオ流体から、前記溶液の初期濃度の50%を超えて枯渇され、且つ前記ヒドロゲルの中に隔離されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
タイプ3のヒドロゲルにおいて、FGF-2、TGFb1、EGF、HGF、PLGF、IL-8、MCP-1、MIP-1アルファ、MIP-1ベータ、GM-CSF、IL-1ベータ、IL-10、IL-12p40、IL-6、TNF-アルファ、スクレロスチン、及び/又はDKK1の物質の少なくとも1つが、物質群Bの物質として選択され、前記物質が、前記ヒドロゲルの中に前記溶液の初期濃度のわずか50%まで結合されるか、又はそれから放出されることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
タイプ4のヒドロゲルにおいて、bNGF、PDGF-BB、VEGF-A、エオタキシン、GRO-アルファ、IL-8、IP-10、MCP-1、MIP-1アルファ、MIP-1ベータ、Rantes、SDF1-アルファ、IFN-ガンマ、IL-1ベータ、IL-10、IL-12p40、IL-4、IL-6、及び/又はTNF-アルファの物質の少なくとも1つが、物質群Aの物質として選択され、前記物質が、前記バイオ流体から、前記溶液の初期濃度の60%を超えて枯渇され、且つ前記ヒドロゲルの中に隔離されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
タイプ4のヒドロゲルにおいて、EGF、PLGF及び/又はGM-CSFの物質の少なくとも1つが、物質群Bの物質として選択され、前記物質が、前記ヒドロゲルの中に前記溶液の初期濃度のわずか40%まで結合されるか、又はそれから放出されることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
タイプ1、タイプ2、タイプ3、又はタイプ4のヒドロゲルが、物質群A及び/又はBの少なくとも1種の物質を用いて高い濃度でプリチャージされ、その後で、それらの物質が、前記ヒドロゲルから、平行且つ独立して放出されて、前記バイオ流体中の濃度を変化させることを特徴とする、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒドロゲルが、多相材料から、すなわち、前記ヒドロゲル材料の前記異なるタイプ1~4又は異なる加工形態(微小粒子及びバルクのヒドロゲル)の混合物から形成されるか、又は、異なる物質、又は物質の量を用いてプリチャージされることを特徴とする、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルからの物質群A又はBからの物質の前記バイオ流体の中への前記区分した放出と、前記スルフェート化及び/又はスルホン化ヒドロゲルの中の前記物質群Bの物質の前記低下した結合性とが、同時に起きることを特徴とする、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の方法を実施するための、共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料であって、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の形態にある荷電された構成単位、及び少なくとも2個のアミノ基又はチオール基を有する、アミン基又はチオール基を含むポリマー又は架橋分子の形態にある荷電されていない構成単位をベースとし、前記荷電された構成単位及び荷電されていない構成単位が、EDC/スルホ-NHSを用いて前記ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)のカルボキシル基を活性化させ、且つアミノ基を含むポリマーを用いるか、又は前記少なくとも2個のアミノ基を有する架橋剤分子を用いるかのいずれかで直接架橋させることにより得ることが可能なポリマーネットワークに架橋されるが、それぞれの場合において、それぞれアミノ基、及びマイケルタイプの付加を可能とする基を含む二官能性架橋剤分子の手段によるアミドの形成、又は前記活性化されたカルボキシル基の官能化を用い、次いで、前記チオール基を含むポリマー又は前記少なくとも2個のチオール基を有する前記架橋剤分子を含むポリマーを用いて、それぞれの場合においてマイケルタイプの付加を介して架橋させる、共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項20】
マイケルタイプの付加を可能とする前記基が、マレイミド基、ビニルスルホン基、又はアクリレート基から選択されることを特徴とする、請求項19に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項21】
アミン基及びチオール基を含む前記ポリマーが、荷電されていない構成単位として、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)(POX)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び/又はポリアリールアミド(PAM)のクラスから選択され、且つ、アミン基又はチオール基を含む前記架橋剤分子が、非ポリマー性の、二官能性架橋剤分子であることを特徴とする、請求項19又は20に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項22】
4-スチレンスルホン酸対マレイン酸のモル比が可変で、6:1から1:6までの範囲、且つモル質量が5,000~100,000g/moleの範囲であるポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)が前記荷電された構成単位として選択されることを特徴とする、請求項19~21のいずれか1項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項23】
前記ペプチド配列中の反応性アミノ酸としてリシン又はシステインのいずれかを有する、共役結合された酵素的に切断可能なペプチドを含むポリマーが、前記ポリマーネットワークを形成させるための荷電されていない構成単位として使用されることを特徴とする、請求項19~22のいずれか1項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項24】
前記酵素的に切断可能なペプチドが、ヒト又は細菌性プロテアーゼ、特にMMP、カテプシン、エラスターゼ、オーレオリシン及び/又は血液凝固酵素によって切断可能であることを特徴とする、請求項23に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項25】
アミノ基若しくはカルボキシル基及び/又はセル-インストラクティングペプチドを有する生理活性及び/又は抗接着性分子が、前記ヒドロゲルネットワークに、配列中のリシン又はシステインを介して、前記荷電された構成単位のポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)又はマイケルタイプの付加を可能とする基を有するその誘導体に、共有
結合を形成することによって結合されることを特徴とする、請求項23又は24に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項26】
前記生理活性分子が、抗菌物質、たとえば抗生物質若しくは消毒剤、又は医薬活性成分であることを特徴とする、請求項25に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項27】
前記抗接着性分子が、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリ(2-オキサゾリン)(POX)であることを特徴とする、請求項25又は26に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項28】
前記セル-インストラクティングペプチドが、細胞外マトリックス、たとえばコラーゲン、ラミニン、テネイシン、フィブロネクチン、及びビトロネクチンの、構造的及び機能的タンパク質から誘導されたペプチドであることを特徴とする、請求項25~27のいずれか1項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項29】
前記生理活性及び/又は抗接着性及び/又は細胞誘導性のペプチドが、前記ヒドロゲルネットワークに、酵素的に切断可能なペプチド配列を介して共有結合的に結合されていることを特徴とする、請求項23~28のいずれか1項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項30】
前記ヒドロゲル材料が、0.2~22kPaの貯蔵モジュラスを有していることを特徴とする、請求項19~29のいずれか1項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項31】
請求項1~18のいずれか1項に記載の方法を実施するための物理的に架橋されたヒドロゲル材料であって、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の形態にある荷電された構成単位と、ポリマーの形態にある荷電されていない構成単位との間の物理的相互作用をベースとし、強く正に荷電されたペプチド配列が、前記ポリマーの上に共役結合されている、物理的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項32】
前記強く正に荷電されたペプチド配列が、リシン若しくはアルギニンの少なくとも10個の繰り返し、又はリシン及びアラニンを用いるか若しくはアルギニン及びアラニンを用いたジペプチドモチーフの少なくとも5個の繰り返しを含んでいることを特徴とする、請求項31に記載の物理的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項33】
前記ヒドロゲルが、インビボで血管形成、免疫疾患、癌、糖尿病、神経変性疾患、クローン病、大腸潰瘍、多発性硬化症、喘息、慢性関節リウマチ、又は皮膚の創傷治癒、及び骨の再生を調節するための因子を取り扱うために使用されることを特徴とする、請求項1~32のいずれか1項に記載のヒドロゲルの使用。
【請求項34】
皮膚の創傷治癒のために、タイプ2のヒドロゲルが、炎症誘発性のケモカインの、エオタキシン、GRO-a、IL-8、IP-10、MCP-1、MCP-3、MCD、Rantes、及びSDF-1-アルファの少なくとも1つを前記ヒドロゲルの内側に隔離するために使用され、前記再生誘発因子の、EGF、FGF-2、TGFb1、IL-10、HGF、及びPLGFの少なくとも1つが、前記バイオ流体の中で、影響されないか又はほとんど影響されずに留まることを特徴とする、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
微生物又は真核生物由来の細胞溶解物から、目標とするタンパク質を精製するための、請求項1~32のいずれか1項に記載のヒドロゲルの使用。
【請求項36】
バイオ流体から、タイプ1~3の前記ヒドロゲルに弱く結合されている、EGF、FGF-2、TGF-β、IL-10、HGF、及びPLGFのシグナル伝達分子をネガティブに選択及び分離するための、請求項1~32のいずれか1項に記載のヒドロゲルの使用。
【請求項37】
胚幹細胞(ES)、人工多能性幹細胞(iPS-)、並びにES及びiPS-を伴わないその他の幹細胞及び前駆細胞、患者から採取した初代細胞、不死化細胞系、さらには心臓、筋肉、腎臓、肝臓、及び神経組織から、インビトロで細胞及び器官培養するための、請求項1~32のいずれか1項に記載のヒドロゲルの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルフェート化及び/又はスルホン化成分を含むヒドロゲルを用いて、異なる物質群(substance group)A及びBの物質を、区分して隔離させ(differentiated sequestration)、スルフェート化及び/又はスルホン化成分を含むヒドロゲルから、A又はBの物質群の物質を、バイオ流体の中に区別して同時に放出して、物質群Aの物質を枯渇させるか、及び/又はスルフェート化又はスルホン化成分を含むヒドロゲルの中の物質群Bの物質の結合性を低下させるための方法に関する。本発明はさらに、ネットワーク成分としてのポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)、及び、また別のネットワーク成分としてのアミン-又はチオール含有架橋分子をベースとして合成的に得ることが可能であり、且つ、異なる物質の群の物質を区分して隔離するための材料としての特徴を有し、且つ上述の方法で使用される、ヒドロゲルにも関する。物質群A及びBは、化学的に定義される物質群ではないが、ヒドロゲルのタイプに応じて、全体の系の中で、相当する集合体(constellation)及び組成の中での、本発明による区分した隔離を起こさせる、異なる物質を含んでいてよい。したがって、物質群A及びBは、全体の系の中での、それらの挙動によって定義される。
【背景技術】
【0002】
本発明の適用分野は、バイオテクノロジー及び医薬の分野であるが、そこでは、ある種の物質が、バイオ流体から分子レベルで選択的に除去され、且つヒドロゲルの中に隔離され、その一方では、他の物質は、特別に隔離されることはなく、ヒドロゲルからバイオ流体の中に選択的に放出される。したがって、より広い意味合いでは、それは、分子レベルの分離プロセスである。より広い意味合いでは、本発明の適用分野は、技術的、生物医学的、及び生物学的用途のため、たとえば哺乳動物の細胞を培養するためか、又は表面の抗菌加工(antibacterial finish)のための、段階的に負に荷電した(graded negatively charged)ヒドロゲルの使用にある。
【0003】
スルフェート化成分、たとえばスターPEG-グリコサミノシクロ-ヒドロゲルを含む、ヒドロゲルは、国際公開第2010/060485A1号パンフレットからも公知であり、バイオテクノロジー的な用途における使用のためか、又はインプラント若しくは再生治療で使用するためか、又は組織置換え材料として検討されている。
【0004】
これらの材料のキーとなる特徴は、ヒドロゲルの成分のポリマー鎖の上のスルフェート基と、可溶性タンパク質、たとえば代謝、輸送及びシグナル伝達機能を支配するタンパク質、たとえば酵素及びシグナル伝達分子との間に生じる相互作用にあるが、ここで、前者にはたとえば、プロテアーゼ、リポラーゼ、アミラーゼが含まれ、且つ後者にはたとえば、ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、増殖因子、及びケモカインが含まれる。
【0005】
それらのタンパク質に対する親和性で決定的な相互作用は、主として、適用条件下では負に荷電している、ヒドロゲルのスルフェート基又はスルホン酸基と、正に荷電している、タンパク質のアミノ酸側鎖との間の静電気力に基づいている。
【0006】
この原理は、ヒドロゲルの開発では、当業界では、シグナル伝達分子の徐放のためのスルフェート化糖(グリコサミノグリカン=GAG)、たとえば増殖因子VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor=血管内皮増殖因子)及びFGF-2(Fibroblast Growth Factor 2=線維芽細
胞増殖因子2)のためを含め、すでに広く使用されている。それに加えて、FGF-2及びVEGFの放出は、その下にあるスターPEG-GAGヒドロゲルのスルフェート化の程度が低いほど、次第に多くなる可能性がある。スルホン酸基を含む合成ポリマー、たとえば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)(J.Phys.Chem.,B,2007,111(13),pp.3391~3397、DOI:10.1021/jp067707d9)、又は2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(米国特許第5,451,617号明細書、及び米国特許第5,011,275号明細書、並びに米国特許出願公開第2008/011412号明細書)は、たとえばコンタクトレンズで使用する目的のヒドロゲルを製造するためのスルホン化成分として使用されてきた。
【0007】
しかしながら、スルホン酸基を担持する、共有結合的に架橋された、含水ポリマーネットワーク、すなわちヒドロゲルは、現在のところ知られていないが、その中で、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)のカルボキシル基が、アミン基含有短鎖の架橋剤又はアミン基含有ポリマーとの、架橋のための官能基として使用されてきた。
【0008】
また別の欠点は、スルフェート化又はスルホン化成分を含むヒドロゲル(すなわち、構成単位(building block))とタンパク質との間の相互作用が、ほとんどの場合、1つないしは2つのシグナル伝達分子を含む溶液からだけで、多くの場合、生理学的に関連する条件下ではないところで、ずっと検討されてきた。しかしながら、関連する生物学的文脈においては、各種の異なるタンパク質を含むバイオ流体が、各種の濃度で存在しているが、そのシグナル伝達分子は、バイオ流体中に、わずか100pg/mL~2000ng/mLの範囲内という極めて低いレベルであり、それに対して、その他のタンパク質、たとえばアルブミンは、約60mg/mLという高い濃度で存在している。
【0009】
この場合、シグナル伝達分子の正に荷電した領域と、ヒドロゲルの中の負に荷電したスルフェート基又はスルホネート基との間の一次的な静電的引力が、重要な役割を果たすが、ここで多くの場合、それらの推定のためには、タンパク質の等電点(IEP)が使用される。しかしながら、IEPに基づいて推測することが可能な、生理学的条件下における正味の電荷に加えて、電荷の分布、たとえば正に荷電した電荷クラスター(charge
cluster)の存在、さらには二次的な相互作用(これは、タンパク質のサイズ及びタンパク質の構造、並びに、より弱い非イオン性の分子間力たとえば、疎水性相互作用、水素結合、又は双極子相互作用によって影響される)が役割を果たして、そのため、タンパク質のヒドロゲルに対する、絶対的若しくは相対的な結合性を予測することが、極めて困難となる。それに加えて、多くの場合無視されてきたが、たとえば、目標のタンパク質と、浸透圧の調節及び輸送プロセスの制御を担っているアルブミンとの相互作用、さらにはアルブミンとヒドロゲルとの間の相互作用に起因する、さらなる競合プロセスも存在する。さらに、荷電したポリマーとタンパク質との間の分子的な相互作用を予測するために文献で使用されている結合定数は、溶液中での個々の分子-タンパク質複合体の相互作用を記述する場合にのみ有効であって、それに対して、ヒドロゲルにおいては、ポリマーネットワークの中での、隣接するポリマー鎖、三次元的な電荷の分布、又は親和中心(affinity center)が、得られる相互作用、従って、ヒドロゲル中へのタンパク質の結合性に強い影響力を有している。
【0010】
したがって、スルフェート化及び/又はスルホン化成分を含むヒドロゲル(構成単位)と、複合バイオ流体(complex biofluid)の分子成分との間の結合の選択性については、これまで、解明することができなかった。したがって、立証された方法及びプロセスでは、用途に適した(application-relevant)バイオ流体において、スルフェート化又はスルホン化成分を含むヒドロゲル(構成単位)によってシグナル伝達分子のレベルを選択的に調節することは、極めて限られて範囲でしか可能でなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、バイオ流体中のある種の物質の濃度に、意識的に影響を与えることが可能となる方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
その目的は、独立請求項に記載の特徴を有する方法及び材料によって達成される。そのプロセスを実施するのに適した材料としては、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)をベースとする完全に合成のヒドロゲル系を合成成分として使用したが、このものは、生理学的条件下では負に荷電しており、そのため、部分的に正に荷電した生体分子と密接な関係があって、各種の物質群から物質が区分して隔離される。その方法及び材料のさらなる展開は、従属請求項に記載されている。「完全に合成の(fully synthetic)」という用語は、ヒドロゲル化に、生物学的由来の成分がまったく必要無いということを意味している。したがって、有害な免疫原性反応の危険性を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ヒドロゲル上で、ヒトの内皮細胞を24時間培養した後の、細胞培養物の代表的な光学顕微鏡画像を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の文脈において、「物質群A及びBから物質を隔離する(sequestration of substances from the substance groups A and B)」ということは、これらの物質、たとえばシグナル伝達分子、因子、又は酵素を、ヒドロゲル材料中の親和中心に結合させ、それにより、ヒドロゲルとの直接的な接触で、バイオ流体からこれらの物質の濃度を低下させるか、又は完全に除去するということを指している。ヒドロゲルは、荷電されているか、又は荷電されていない構成単位からなる。
【0015】
本発明には、スルフェート基及び/又はスルホネート基を含むヒドロゲルとして、以下の性質及び以下の組成を有するヒドロゲルが含まれる:たとえば国際公開第2014040591A2号パンフレットに記載されているような、2つのヒドロゲル成分又はヒドロゲル構成単位の間で、共有結合的(化学的)架橋又は物理的架橋により形成されたポリマーネットワーク。そのヒドロゲルの第一の構成単位又は成分は、生理学的条件下では荷電していない分子(荷電されていない構成単位(uncharged building block=UGB)とも呼ばれる)であり、好ましくは20g/mole~100,000g/moleのモル質量を有している。その荷電されていない分子は、有利には、ポリエチレングリコール、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び/又はポリアクリルアミド(PAM)、又は短鎖の二官能性架橋剤分子のクラスから選択又は誘導される。さらに、UGBは、少なくとも2個の官能基、好ましくは4~8個の官能基を有していて、それらは架橋させるのに特に好都合である。(GB又はUGBで)架橋のために適した官能基としては、以下のものが挙げられる:アミン、チオール、カルボキシル、無水物、マレイミド、ビニルスルホン、アクリレート、ヒドロキシル、イソシアネート、エポキシド、及びアルデヒド基、又は、静電気力、疎水性相互作用、水素結合、双極子相互作用に基づく非共有結合を形成することが可能な基。第二の構成単位(成分)は、(硫黄系の)スルフェート基又はスルホネート基を有するポリマーからなり、そのため、それは、生理学的条件下では負に荷電しており(荷電された構成単位(charged building block=GB))(任意に、2,000~250,000g/moleのモル質量を有する)、主として静電
的(イオン的)相互作用を介し、且つ程度は低いが、より弱い結合、たとえばファンデルワールス力、水素結合、又は疎水性相互作用を介して、ヒドロゲルネットワークの中でタンパク質を結合することができる。本発明においては、タンパク質の結合を顕著に規定する親和中心が、スルフェート基又はスルホン酸基であり、それらは、生理学的条件下では、大きく負に荷電している。スルフェート化又はスルホン化ポリマーは、天然原料たとえば、ヘパリン及び選択的に脱硫されたヘパリンから得られたスルフェート化グリコサミノグリカン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、スルフェート化ヒアルロン酸、さらにはマンノース、ラクトース、デキストランをベースとするスルフェート化グリコポリマー、並びに、ポリスルホネート化化合物(硫黄含有モノマーとして含まれてもよい)、たとえば、スチレンスルホン酸(SS)、ビニルスルホン酸(VS)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アミノプロパンスルホン酸(APS)、又はアネトールスルホン酸(AS)(さらには、上述の架橋基を含む単位を有するコポリマー中)である。
【0016】
親和中心の、負に荷電したスルフェート基又はスルホネート基は、GBに沿ってのみ意識的に分散されるが、それに対して、UGBは、タンパク質の吸着を最小限にする成分である。GB上に存在し、架橋反応に使用されることがない、いずれのカルボキシル基も、ヒドロゲルの中でのタンパク質の結合には無関係であると考えられるが、その理由は、GBのスルフェート基又はスルホネート基が、顕著に、より酸性化されている、したがって好ましくは脱プロトン化されているからである。
【0017】
生理学的条件とは、ヒトの組織における生理的な塩分濃度にぴったり相当するpH値及びイオン強度を組織の中で有する水溶液であり、したがって、ホスフェート緩衝剤を使用して、pH7.4と約0.9%のNaClになるように調節される。
【0018】
本発明におけるバイオ流体は、各種の塩含量、好ましくは生理的塩分濃度及びタンパク質の混合物を有する水溶液である。
【0019】
そのタンパク質含量は可変であり、ほとんどは、100pg/mL~2000ng/mLの範囲の低レベルの水溶性の球状タンパク質、たとえばシグナル伝達分子、酵素、又は因子、並びにアルブミンからなるが、アルブミンは、体内の浸透圧及び輸送プロセスを統制し、高い濃度、たとえば約60mg/mLで存在している。
【0020】
本発明の概念に従えば、スルフェート化又はスルホン化成分(GB)を含むヒドロゲルに対する代謝、輸送、及びシグナル機能(たとえば、シグナル伝達分子及び酵素)の結合を調節するタンパク質の差は、一方では、GBとタンパク質との間の静電的相互作用、さらにはタンパク質のサイズ及び構造(たとえば、特異的なタンパク質ドメインの存在)によって、他方では、そのヒドロゲルのネットワークパラメーターによって、顕著に決まってくる。ネットワークパラメーターは以下の項目から測定した:(1)生理学的条件下で膨潤させたヒドロゲルの中での、膨潤させたヒドロゲル中のスルフェート又はスルホネートの濃度(mmoleのスルフェート又はスルホネート/mL);及び(2)GBの電荷の特性サイズ(characteristic size)としての、GBの繰り返し単位あたりのスルフェート基又はスルホネート基の数を、GBの繰り返し単位のモル質量で割ったもの(基の数/(g/mole))。パラメーター(1)は、相互作用中心(三次元的に膨潤させたヒドロゲルネットワークの中の負に荷電したスルフェート基又はスルホネート基に相当)の数に関連し、従って、ヒドロゲルの中へのタンパク質(シグナル伝達分子、酵素)の結合に顕著に影響するであろう。このパラメーターには、GBとタンパク質(シグナル伝達分子、酵素)との、分子間相互作用(すなわち、隣接するポリマー鎖の相互作用)が含まれる。その一方で、パラメーター(2)は、異なるGB上での相互作用中心(負に荷電したスルフェート基又はスルホネート基に相当)の密度及び分布を示し、
そのため、タンパク質と、それぞれ個々のGBとの相互作用を決めるであろうし、従って、ポリマー鎖の電荷中心の空間的な修飾を介する特異的な相互作用が含まれるが、これは、たとえば、タンパク質-グリコサミノグリカン相互作用として公知である(参照、Capila,I.Linhardt,RJ Angew Chem Int Ed Engl,2002,41(3),391~412)。ヒドロゲルとタンパク質(シグナル伝達分子)との間の結合及び放出の挙動は、本発明においては、パラメーター(1)及び(2)両方から得られるヒドロゲルネットワークの性質の結果を重ね合わせることによって決められ、したがって、これらのパラメーターを特定することによって定量的に記述することができる(例示的実施形態UGB1-GB1 01からUGB1-GB4 04の結果も参照されたい)。
【0021】
さらに、立体的な効果も考慮しなければならないが、その理由は、タンパク質を結合及び隔離するためには、そのヒドロゲルネットワークの立体的な接近容易性(accessibility)が保証されていなければならない、すなわち、そのタンパク質のサイズが、そのヒドロゲルのメッシュサイズ(たとえば、ゴム弾性理論の方法によるヒドロゲルの貯蔵モジュラスから、材料及び方法に関連して、推定される)を超えてはならないからである。
【0022】
バイオ流体を、それらのネットワーク構造及びそれらのスルフェート化度又はスルホン化度で、選択的にグレードわけすることが可能なヒドロゲルと接触させることによって、そのバイオ流体中の関連するシグナル伝達分子の濃度を、シグナル伝達分子のそのヒドロゲルに対する結合の特異的な選択性を介して調節することが可能であり、したがって、生物学的又はバイオテクノロジー的な適用に調節することができる。その生物学的適用は、医療的な文脈においては、血管形成、血管のスプラウティング、免疫応答の制御のため、とりわけ神経変性及び自己免疫性及び癌の疾患、糖尿病の治療のため、皮膚の創傷治癒及び骨再生において、腫瘍増殖の抑制のため、並びに体内及び体表での消毒及び抗菌処置のための、可溶性シグナル伝達分子の修飾に関連させることができる。バイオテクノロジー的な適用には、胚幹細胞(ES)、人工多能性幹細胞(iPS)、その他の非ES及びiPS関連幹細胞及び前駆細胞、一次の、患者由来の細胞、不死化細胞系、並びに心臓、筋肉、腎臓、肝臓及び神経組織、さらにはタンパク質混合物、特にシグナル伝達分子混合物又は酵素混合物の濃縮又は枯渇、且つ分離における、インビトロの細胞及び器官の培養が含まれる。
【0023】
本発明のまた別の態様は、先に述べたように、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の形態にある荷電された構成単位、及びアミン基又はチオール基を含むポリマー、又は少なくとも2個のアミノ基若しくはチオール基を有する架橋剤分子の形態にある荷電されていない構成単位をベースとする、上述の方法を実施するための共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料に関連する。それらの荷電された構成単位及び荷電されていない構成単位が架橋されて、ポリマーネットワークを形成するが、それらは、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)のカルボキシル基を、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)を用いて活性化し、アミン基を含むポリマー又は少なくとも2個のアミノ基を有する架橋剤分子を用いて直接的に架橋させて、それぞれアミドを形成させるか、又は、アミノ基及びマイケルタイプの付加をすることができる基をそれぞれ有する二官能性架橋剤分子の手段による活性化されたカルボキシル基の機能付与、及びそれに続けてのチオール基を含むポリマー又は少なくとも2個のチオール基を有する架橋剤分子のそれぞれマイケルタイプの付加を介して架橋させることにより、得ることができる。マイケルタイプの付加が可能な基は、マレイミド基、ビニルスルホン基、及びアクリレート基から選択するのが好ましい。荷電されていない構成単位として、アミン基又はチオール基を含むポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)(POX
)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)及び/又はポリアクリルアミド(PAM)のクラスから選択するのが好ましい。それらに代わって使用される、アミン基又はチオール基を含む短鎖の架橋剤分子が、非ポリマー性の二官能性架橋剤分子であるのが好ましい。荷電された構成単位としてのポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)は、4-スチレンスルホン酸対マレイン酸のモル比が、6:1から1:6までの範囲、且つモル質量が、5,000~100,000g/moleの範囲で変化させて、選択するのが有利である。本発明の特に好ましい実施形態においては、ポリマーネットワーク形成のために、酵素的に切断可能なペプチドを含むポリマーが、荷電されていない構成単位として使用される。これらの酵素的に切断可能なペプチドは、好ましくは、反応性アミノ酸として、ペプチド配列の中に、リシン(側鎖の中にアミノ基)、又はシステイン(側鎖の中にチオール基)のいずれかを有している。酵素的に切断可能なペプチドは、有利には、ヒト又は細菌性プロテアーゼを利用して切断することが可能であり、具体的には、以下のものが挙げられる:応答性のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)たとえば、PQGIWGQ、IPVSLRSG若しくはVPMSMRGG、カテプシン応答性のたとえば、VPMSMRGG、エラスターゼ応答性のたとえば、AAPV若しくはAPEEIMDRQ、血液凝固酵素応答性のたとえば、トロンビン応答性のGGF-ピペコリン酸RYSWGCG若しくはGG-シクロヘキシルアラニンARSWGCG、FXa応答性のたとえば、GGIEGRMGGWCG、カリクレイン応答性たとえば、CGGGPFRIGGWCG、又は細菌性-プロテアーゼ応答性の、たとえば、オーレオリシン応答性のADVFEA若しくはAAEAA、エラスターゼ-応答性のAAPV、又はプロテアーゼIV応答性配列の、MKATKLVLGAVILGSTLLAG。このようにして構築されたヒドロゲルでは、自己調節性の放出及び分解メカニズムが可能となる。本発明のまた別の実施形態においては、アミノ基又はカルボキシル基を有する生理活性及び/又は抗接着性(antiadhesive)分子、及び/又は細胞工学的(cell-engineering)ペプチド、特に、KCWG-RGDSP、KCWG-EIDGIELT、KCWG-IKLLI、KGCWGGRNIAEIIKDI、KGCWGGSDPGYIGSRSDDSA、KGCWGGPQVTRGDVFTMP、KGCWGGKGGNGEPRGDTYRAYから選択されるものが、配列中のリシン又はシステインを介して、荷電された構成単位のポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)、又はヒドロゲルネットワークにマイケルタイプの付加が可能な基を有するその誘導体に、共有結合を形成することにより結合される。それらの生理活性分子は、抗菌物質、たとえば抗生物質若しくは消毒剤、又は医薬品であってよい。抗接着性分子は、好ましくは、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリ(2-オキサゾリン)(POX)である。細胞工学的ペプチドは、好ましくは、細胞外マトリックスの構造タンパク質及び機能性タンパク質から誘導されるペプチド、たとえばコラーゲン、ラミニン、テネイシン、フィブロネクチン、及びビトロネクチンから誘導されるペプチドである。有利な実施形態においては、その生理活性及び/又は抗接着性及び/又は細胞工学的なペプチドが、酵素的に切断可能なペプチド配列を介して、ヒドロゲルネットワークに共有結合的に結合されている。酵素的に切断可能なペプチドは、すでに述べたように、好ましくは、ヒト又は細菌性プロテアーゼ、たとえばMMP、カテプシン、エラスターゼ、血液凝固酵素に感受性がある。このタイプのヒドロゲルによって、ヒドロゲルネットワークを保持しながらも、自己調節性放出及び分解メカニズムが可能となる。そのヒドロゲル材料が、0.2~22kPaの貯蔵モジュラスを有しているのが好ましい。膨潤させたネットワーク中のスルホネート濃度、及び繰り返し単位のモル質量(MW)で割り算をした繰り返し単位あたりのスルホネート基の数(WE)(単位、g/mole)は、表5.1に定義される範囲に従って、互いに独立して変化させることが可能である(下記、参照)。
【0024】
したがって、本発明は、完全に合成で、高度に水和されたヒドロゲルを提供するが、それは、荷電された構成単位(GB)としてのポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)のスルホネート基を介して物質群のための親和中心を担持しており、意識的に格付
け可能な物理的及び生化学的性質を有している。この場合、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)は、先に記述されたヒドロゲル材料の意味合いでは、荷電された構成単位(GB)として使用される。この材料は、天然の細胞外のマトリックス(ECM)のすべての重要な機能を、モジュール方式で、すなわちほとんど互いに独立して、マップする可能性を与える。さらに詳しくは、これらの機能は、第一の機能としては、成長している細胞のための枠組み、支持、及び保護機能であり、第二の機能としては、細胞接着の調節であり、第三の機能としては、治療的に関連するシグナル伝達分子のグレードわけした隔離及び可逆的な放出であり、且つ第四の機能としては、内殖細胞によるオンデマンド方式の再構築の可能性である。物理的性質たとえば、その材料の剛性及び水和度は、広い範囲で調節可能である。本発明の好ましい実施形態においては、この目的のために、共有結合的に架橋されたヒドロゲルが、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)を用いて活性化されたポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)のカルボキシル基を、荷電されていない構成単位としての、直鎖状若しくはstar-分岐状のポリエチレングリコールの末端アミノ基と、安定なアミド基を介して、反応させることにより、調製された。それに代わる実施形態においては、生細胞を包埋する場合に好ましいが、第一のステップにおいて、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)を用いて活性化させたポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)のカルボキシル基を、短鎖の二官能性架橋剤分子、N-(2-アミノエチル)マレイミドの手段でグレードわけし、すなわち、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の1分子あたり、6~10個のN-(2-アミノエチル)マレイミドの分子を用いて機能付与し、次いで精製、単離する。N-(2-アミノエチル)マレイミドを用いた、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)のこれらの誘導体を次いで、水溶液中又は複合バイオ流体中で生細胞及び生体分子を混合したときに、自発的で、バイオオルソゴナルな(bio-orothogonal)反応をさせるが、前述のヒドロゲル構造の意味合いの内で、機能付与したポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)誘導体のマレイミド基と、荷電されていない構成単位としての、チオール基含有二官能性架橋剤分子又はチオール基含有ポリマーのチオール基との間でのマイケルタイプの付加を介してのそれらの機能変化をもたらすことはない。これらの構成単位は、たとえば、その配列の中にアミノ酸のシステイン(これは、側鎖にチオール基を有している)を有し、且つ4本アームのポリエチレングリコール(PEG)の1本以上のアームに前もって共役結合された、酵素的に切断可能なペプチドであってよい(Tsurkan,et al.,2013(Adv.Mater.,2013,25,2606~2610に記載あり)。このタイプの架橋は、マレイミドと遊離のチオール基との反応が速いために、他の生体分子、又は細胞表面のタンパク質との望ましくない副反応がなく、直接的な反応が起きて、そのために、マイケルタイプの付加反応を、重合細胞のためのバイオオルソゴナルな架橋反応として使用することが可能であるという利点を有している。細胞工学的ペプチド、たとえばアミノ酸配列CWGRGDSPの手段により、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)誘導体のマレイミド基を介して、ヒドロゲルに機能付与することもまた可能である。さらに、抗菌性物質、たとえば、正に荷電した抗生物質を用いて、ヒドロゲル材料に機能付与してもよい。
【0025】
上述の方法を実施するために、共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料に代わるものとして、物理的に架橋されたヒドロゲル材料を適用してもよい。この、同様に完全に合成の材料は、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の形態にある荷電された構成単位と、ポリマーの形態にある荷電されていない構成単位との間の物理的相互作用をベースとしているが、ここで、高度に正に荷電したペプチド配列が、ポリマーの上に共役結合されている。高度に正に荷電したペプチド配列は、好ましくは、リシン若しくはアルギニンの少なくとも10個の繰り返し、又はリシン及びアラニンを用いるか若しくはアルギニン及びアラニンを用いたジペプチドモチーフの少なくとも5個の繰り返しを含んでいる。
【0026】
本発明の実施形態のさらなる詳細、特徴、及び利点は、以下の例示的実施形態の記述からも明らかになるであろうが、それらは、添付した表及び図によっても、記述され、立証される。図1は、ヒドロゲル上で、ヒトの内皮細胞を24時間培養した後の、細胞培養物の代表的な光学顕微鏡画像を示している。
【0027】
他の有利な濃度比もまた、ネットワークの性質を慎重に変化させることにより設定することが可能であり、提案された方法によって、追加のシグナル伝達分子へ分析を拡張することによって、いかなるバイオ流体中であっても、これらの化学種の濃度を調節することが可能ともなる。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
【表7】
【0035】
【表8】
【0036】
表5.1、表5.2、表6.1及び表6.2において、繰り返し単位(WE)あたりのスルフェート基又はスルホネート基の数を、WEのモル質量(MW)で割ったものを、荷電された単位[mole/g]の性質として、列Aに示す。膨潤させたヒドロゲルの性質として、mmole/mLの単位での、スルフェート基又はスルホネート基の濃度を列Bに、且つkPaの単位での貯蔵モジュラスを列Cに示す。列Dには、荷電されていない構成単位の性質を列記する。
【0037】
列Eは、荷電された構成単位の、ポリマー1moleあたりのスルフェート基又はスルホネート基のモル濃度(単位:mole/mole)を示している。列Fは、mmole/mLの単位でのGBの濃度としてのヒドロゲルの性質を示し、列Gは、mmole/mLの単位での、スルフェート基又はスルホネート基の濃度を示し、且つ列Cは、貯蔵モジュラスである。
【0038】
20kPaの貯蔵モジュラスは、この方法で示された仮定に従えば、ほぼ6nmのメッシュサイズに相当し、したがって、本明細書で論じたのと構造的に類似のシグナル伝達分子の全部が、ヒドロゲルの中に、立体的に接近するのが容易となっている筈である。
【0039】
【表9】
【0040】
表7には、バイオ流体中で関連する濃度にある物質群A及びBの物質が列記されている。
【0041】
ここで、上に示した表の中の例示的実施形態(AB)を参照しながら、本発明を説明す
る。
【0042】
たとえば、表1の中のUGB1-GB1 01からのヒドロゲル(AB1)は、異なるシグナル伝達分子の濃度を調節するのに特に有利であることがわかった(表3参照)。
【0043】
ケモカインのクラスは、三次構造と高い構造的類似性を有しており、それは、ジスルフィド橋架けによる4個のシステインによる相互作用により安定化されている(PROSITE ID:PS00471及びPS00472に相当)。さらに、ケモカインは、強い正の実効電荷のIEP>9、又は正に荷電したドメインたとえばMIP1-アルファ及びMIP1-ベータと、10kDa未満のモル質量(表3参照)とを特徴としており、ヒドロゲルの中に、このヒドロゲルのタイプにより強く結合されていて、それにより、隣接するバイオ流体から枯渇されるが(MIP1-アルファ及びMIP1-ベータの結合は、ほぼ60%であり、他のケモカインの、エオタキシン、GRO-アルファ、IL-8、IP-10、MCP-1、RANTES及びSDF-1アルファは95%以上が結合される(表3))、その一方で、驚くべきことには、次の、FGFファミリー(PROSITE ID:PS00247に相当)及びTGFb1ファミリー(PROSITE ID:PS00250に相当)の増殖因子及び構造的に類似のタンパク質のクラスに関連する、強く正に荷電したシグナル伝達分子FGF-2(IEP、9.58)及びTGFb1(IEP、8.59)は、31%及び18%と極めて弱く結合されており、PLGF(IEP、8.37)の結合性は10%未満とさらに弱く(表3)、且つわずかに塩基性のIEPを有するサイトカイン、たとえばIL-10(IEP、7.65)のクラスに関連するシグナル伝達分子、さらには中性の範囲(pH、5.5~7)にあるIEPを有するシグナル伝達分子、たとえばIL1-ベータ、IL6、及びTNF-アルファ、並びにIL-1-ベータタンパク質ファミリー(PROSITE ID:PS00253に相当)、IL-10タンパク質ファミリー(PROSITE ID:PS00520に相当)、インターロイキン-6/GM-CSF/MGFファミリー(PROSITE ID:PS00254に相当)及びTNF-アルファタンパク質ファミリー(PROSITE ID:PS00251に相当)の構造的に類似のタンパク質は、複合バイオ流体(TNF-アルファの結合、約38%)から、ほんの弱く30%以下で結合されており(表3)、そのため、バイオ流体の中では、ほとんど荷電されない濃度で存在している。さらに、わずかに負の実効電荷のEGF(IEP、4.8)及び10%未満の結合性を有する増殖因子は、ほとんど結合されない。その結果、細胞の生存に欠かすことができないシグナル伝達因子、たとえばEGF、FGF-2、TGFβ又はPLGFは、上述のヒドロゲルの方法で実現される隔離による影響は受けないままである。
【0044】
塩基性の強いサイトカインのIFN-ガンマ(IEP、9.52)、IL-4(IEP、9.25)、WNT及びBMP拮抗物質のスクレロスチン(9.57)及びDKK1(8.72)、さらには構造的に類似のタンパク質IL-4/IL-13ファミリー(PROSITE ID:PS00838に相当)、及びスクレロスチン様のファミリー(InterPro ID:IPR008835に相当)、並びに塩基性の強い増殖因子のbNGF(IEP、9.00)、PDGF(IEP、9.4)及びVEGF(IEP、9.2)、並びに構造的に類似のタンパク質のNGFファミリー(PROSITE ID:PS00248に相当)及びPDGFファミリー(PROSITE ID:PS00250に相当)及びIL-12p40は、予想通りに(表3)59.9%以上と強く結合され、そのため、バイオ流体から枯渇される。
【0045】
バイオ流体を、表5.1に記載のタイプ1の特定の電荷及びネットワーク特性を有するヒドロゲルと接触させることによって、注記した配列モチーフに従って、DKK1、bNGF、PDGF-BB、VEGF、さらにはケモカイン(たとえば、エオタキシン、Gro-アルファ、IL-8、IP-10、MCP-1アルファ、MIP1ベータ、Rant
es、SDF1アルファ)に構造的に類似のタンパク質を有する増殖因子、並びにIFN-ガンマ、IL4及びスクレロスチンに構造的に類似のタンパク質を有するサイトカインを選択すると、タンパク質ファミリーをバイオ流体から枯渇させることができるか、又はヒドロゲルをあらかじめ荷電しておくことによって、バイオ流体中のそれらの濃度を高めることが可能であり、その一方で、有利なことには、上述のシグナル伝達分子EGF、FGF-2、TGFb1、PLGF、IL-10、IL1ベータ、IL6、及びTNFアルファの濃度をほとんど変化させずに保持することができる。さらに、このヒドロゲルは、GB1と、血液凝固では重要な酵素のトロンビン及び抗トロンビンとの相互作用を有している(Uwe Freudenberg et al.,Journal of Controlled Release(Journal of Controlled Release:Offical Journal of the Controlled Release Society),220,no.Part A,(2015/12/28):79~88,doi:10.1016/j.jconrel,2015.10.028による)。
【0046】
また別の特に有利な例示的実施形態(AB2)は、ヒドロゲルタイプGB1-GB2 02(表2参照)からなり、このものは、ヒドロゲルタイプUGB1:GB1 01(表3参照)とほぼ同じ結合及び隔離パターンを有しているが、ただし、異なっているのは、2つのケモカイン、MIP-1アルファ及びMIP-1ベータ並びにスクレロスチンとのより弱い結合性(それぞれ約40%、表3)、及びIL-10(15%)、IL-6(8%)、TNFアルファ(25%)とのさらに弱い結合性(表3参照)、さらに有利には、FGF-2(5%)及びTGFb1(0%)との結合性がほとんど存在せず、且つGB2と血液凝固酵素トロンビン及び抗トロンビンとの相互作用が欠けていることである(参照、Uwe Freudenberg et al.,Journal of Controlled Release(Journal of Controlled Release:Offical Journal of the Controlled Release Society),220,no.Part A,(2015/12/28):79~88,doi:10.1016/j.jconrel,2015.10.028)。また別の有利な例示的実施形態は、UGB2-GB5 23(AB23、表1参照)であるが、このものは、AB2と同様に、表5.1に従えばタイプ2に割り当てることが可能な電荷特性を有しているが、スルホネート含量が、わずかに異なって0.14mmole/mLであり(表1又は表5.2、列B)、且つ繰り返し単位(WE)あたりのスルホネート基の数をそのWEのモル重量(MW)で割った数値[mole/g]0.0038がわずかに異なっているが、しかしながら、両方のパラメーターが、表5.1でタイプ2ヒドロゲルに与えられた範囲である。しかしながら、そのヒドロゲルは、また別の荷電された、合成ゲル構成単位(GB5)から異なる架橋反応(架橋タイプ2、表1)を用いて形成されたものであり、AB2(表3参照)とほぼ同一の結合及び隔離パターンを有しているが、2つのケモカイン、MIP-1アルファ及びMIP-1ベータに、いくぶん強い結合性を有している点で異なっている。このことは、表5.1に記載の特性電荷パターンを用いたヒドロゲルの分類を立証しており、特に有利な隔離パターンも表している。
【0047】
また別の有利な例示的実施形態(AB3)は、ヒドロゲルタイプUGB1-GB3 03(表2参照)で代表されるが、このものは、多くのタンパク質(シグナル伝達分子)に対して、顕著に弱い結合性を有しているが、その理由は、AB1及びAB2と比較して、ヒドロゲル中のスルフェート基又はスルホネート基の濃度が顕著に低く(表5.2、列B、0.06、AB1又はAB2での0.12mmole/mLと比較されたい)、さらにはWEあたりのスルフェート基又はスルホン基の数をWEのモル質量で割ったものが、AB1又はAB2での0.005又は0.0035に比較して、0.0019と低い(参照、表5.2、列A)からである。このタイプのヒドロゲルでは、bNGF、PDGF-BB及びVEGF A、エオタキシン、GRO-アルファ、IP-10、Rantes、S
DF-1アルファ、IFN-ガンマ、並びにIL-4が、ヒドロゲルによって50%を超えて結合され、それにより、バイオ流体から枯渇される。それとは対照的に、IL-8、MCP-1及びIL-12p40は、ヒドロゲルによって約45%しか結合されず(表3参照)、HGF、MIP-1アルファ、MIP-1ベータ、IL-1ベータ、IL-10、IL-6、TNFアルファ、及びDKK1は、16~36%でさらに弱く(表3参照)、且つFGF-2、TGFb1、EGF、PLGF、GM-CSF、及びスクレロスチンはほとんど結合されず(12%未満)(表3参照)、そのため、シグナル伝達分子の大部分は、AB1及びAB2よりは、顕著に少ない。このタイプのゲルを用いれば、任意のバイオ流体から、たとえばbNGF、PDGF-BB、及びVEGF A、エオタキシン、GRO-アルファ、IP-10、Rantes、SDF-1アルファ、IFN-ガンマ、並びにIL-4を、高い選択性で分離することが可能である。
【0048】
また別の有利な実施形態は、ヒドロゲルUGB1-GB4 04(表1参照)であって、このものは、ヒドロゲル中でのスルフェート基又はスルホネート基の濃度が0.28mmole/mLと高く(表5.2、列B)、同様に、WEあたりのスルホネート基の数をWEのモル質量で割ったものが0.0045mole/gと高いために、HGF、PLGF、GM-GSF、及びEGFを例外として、検討したすべての因子を、ヒドロゲルの中に高効率(72~100%、表3参照)で結合し、そのため、それらが、バイオ流体から枯渇される(表3参照)。
【0049】
特に、このヒドロゲルを用いると、隣接するバイオ流体からの、検討し、構造的に類似のすべての因子(IEP、及び構造的類似性の存在)の枯渇が起こるが、特には、次のものが挙げられる:ジスルフィド橋架けによる4個のシステインの相互作用から生じる三次構造の高い構造類似性を有し、且つ強い正の実効電荷、IEP>9、又はMIP1アルファ及びMIP1ベータの中におけるような正に荷電したドメイン、及び10kDa未満の分子量を特徴とするケモカインのクラス(PROSITE ID:PS00471及びPS00472に相当)(表のタンパク質性質参照)、FGF-2(IEP、9.58)、TGFb1(IEP、8.59)、及び構造的に類似のFGFファミリータンパク質(PROSITE ID:PS00247に相当)、TGFファミリー(PROSITE ID:PS00250に相当)及び、わずかに塩基性のEPを有するサイトカインたとえば、IL-10(IEP、7.65)に関連するシグナル伝達分子のクラス、さらには、中性の範囲(pH、5.5~7)にあるIEPを有するシグナル伝達分子たとえば、IL1β、IL6、及びTNF、並びにIL-1βタンパク質ファミリー(PROSITE ID:PS00253に相当)及びIL-10タンパク質ファミリー(PROSITE ID:PS00520に相当)の構造的に類似のタンパク質。また別の有利な例示的実施形態の、UGB2-GB4 20(表1参照)は、表5.1に従えば、同じGB 5を有するAB4と同様にタイプ4に属することが可能な電荷特性(参照、表5.1列A:0.0045)を有するが、ただしスルホネート濃度は0.16mmole/mL(参照、表1及び表5.1))と低いものの、それでもまだタイプ4に属するが、しかし異なる架橋反応(表1におけるVN:2)を用いて形成されたものであって、UGB1-GB4 04とほぼ同一の結合又は隔離パターンを有している(表3参照)。したがって、この結果もまた、物質の群の物質の区分した隔離のための、表5.1に記載のタイプ1~5の電荷特性の、効果的な予知性能を立証している。
【0050】
また別の例示的実施形態は、UGB1及びUGB3から形成させた、荷電していないヒドロゲル(UGB2-UGB3 26)であって、このものは、予想した通り、ネガティブコントロールとして、バイオ流体からシグナル伝達分子をほとんど、全く結合しない。PDGF-BBを19.7±23.1%、且つIP 10を16.1±16.4%と少しは隔離したことを除けば(これは標準偏差が大きいので、有意であるとは分類することができない)、このヒドロゲルでは、隔離は起きない(試験したすべてのシグナル伝達分子
で、1.3%以下、表3参照)。この結果は、荷電された親和中心が存在しないこと、したがって、上述の電荷相互作用が存在しないことに、明らかに帰することができる。しかしながら、4.4kPaの貯蔵モジュラス、したがってネットワークのメッシュサイズ(表1)は、UGB1-GB2 02、UGB2-GB4 20及びUGB2-GB5 23の貯蔵モジュラスとほぼ同等である、すなわち、荷電された例示的実施形態のシグナル伝達分子との立体的な相互作用は、匹敵している。これらの結果は、特に荷電していないヒドロゲル(UGB2-UGB3 26)とシグナル伝達分子との相互作用が欠落していること(すなわち、結合及び隔離効果の不在)によって、表5.1に記載の区分した隔離の主張を実証している。
【0051】
それと同時に、個々の因子を、他の因子の隔離、したがって枯渇と平行且つ独立して、表5のタイプ1~3のヒドロゲルを選択的にプリチャージさせることによって、バイオ流体の中に放出させることができる。したがって、各種のタイプのヒドロゲルを用いて、合バイオ流体中の個々のシグナル伝達分子のほとんどすべてのレベルを、ヒドロゲルに目標のプリチャージをすることによって調整することができるか、又は、シグナル伝達分子をほぼ定量的に隔離(枯渇)させることができる(たとえば、各種のタンパク質含有溶液からシグナル伝達分子を分離するために適用)。
【0052】
UGB1-GB1 01~UGB2-UGB3 26の例示的実施形態に基づくと、本発明の記述において重要な、タンパク質の性質、ヒドロゲルの性質、及びヒドロゲルネットワークにおけるタンパク質の結合性の間の次の関係は明白である:表3に記載のシグナル伝達分子の強い結合性は、タンパク質の側では、正の実効電荷(ここでは、相当するパラメーターとして、高い塩基性のIEP)、さらには分子量の逆数(高いIEP及び小さい分子量は結合性を向上させる、参照、表3)に関連し、高く正に荷電し、比較的に小さいケモカイン(<9kDa)は、最も強く結合され、且つヒドロゲルネットワークの側では、(1)ヒドロゲル中におけるスルフェート基又はスルホネート基の高い濃度(表1、及び5.2、列B)、及び(2)WEあたりのスルフェート基又はスルホネート基の数をWEのモル質量で割ったものが大きいと、シグナル伝達分子の結合性が高くなる。これらのパラメーターに対応して、ヒドロゲルに対する、最強の結合性から最弱の結合性まで、次のような順序が得られる:UGB1-GB4 04≒UGB2-GB4 20<UGB1-GB1 01<UGB1-GB2 02≒UGB2-GB5 23<UGB1-GB3 03<<UGB2-UGB3 26。この結果は、実験的に見出された結合性の値を裏付けている(表3参照)。それに加えて、上述のヒドロゲルネットワークのパラメーター(1)と(2)の組合せを変えると、文献において「特異的な相互作用(specific interactions)」として知られている強い相互作用、すなわちタンパク質と負に荷電した多価電解質(たとえば、グリコース-アミノグリカン)との間の異なる相互作用中心の空間的なマッチングを調整することが可能であり、したがって、分子量及び実効荷電に加えて、その他の構造的な性質をタンパク質側で使用して、ヒドロゲルに対する結合性を調節することができる。これらの相関により、塩基性が強く、比較的に小さなシグナル伝達分子のFGF-2、TGFb1及びPLGFの、ヒドロゲルのタイプUGB1-GB1 01、UGB1 GB2-02、GB3 UGB1-03、及びUGB1-GB4 04に対する結合性が低いことも説明できる。
【0053】
可溶性シグナル伝達分子のレベルを調節するためのさらなる可能性は、異なるヒドロゲルのタイプを順次又は組み合わせて使用することをベースとし、広く各種の特異的な隔離及び放出の性質を的確に調節することである。ネットワークの性質(特に、前述のパラメーター(1)及び(2)の目標とする変動、及びさらに、いわゆる多相ヒドロゲル材料における異なる組成物の中のヒドロゲルのミクロ粒子の組合せ(たとえば、個々のシグナル伝達分子を用いた荷電)(すなわち、異なるタイプのヒドロゲルのタイプを混合するか、又はシグナル伝達分子又はタンパク質をプリチャージすることによって)、その他の有利
な濃度比を、隣接するバイオ流体の中で設定することもまた可能である。
【0054】
分析をさらなるシグナル伝達分子にまで拡張することにより、提案されている方法により、各種のタイプのバイオ流体中のそれらの物質濃度を調節することが可能となる。
【0055】
シグナル伝達分子の複雑な生物学的機能を、たとえば治療的なコンセプトのために、効果的に調節することを可能とするためには、細胞の直接的な(immediate)生物学的環境又は生物学的適用からは異なるシグナル伝達分子を積極的に管理することが、シグナル伝達分子を用いてプリチャージされたヒドロゲルから個々のシグナル伝達分子を徐放させることに加えて、必要である。したがって、多数の関連するシグナル伝達分子との相互作用を考慮しなければならない。スルフェート化又はスルホン化成分を含むヒドロゲルを、徐放性のために、シグナル伝達分子を用いて荷電した場合、生物学的環境からのその他の治療的に重要な分子を、同時に隔離し、したがってそのシグナル伝達分子の治療的に望ましい放出を用いて、同時に不活性化する可能性があり、それにより、望ましくない副作用を呈する可能性がある。しかしながら、他方では、スルフェート化基又はスルホン化基を担持するヒドロゲルの中に、治療的に望ましくないシグナル伝達分子を特に隔離し、それにより不活性化させることもまた可能である。全体として、極めて複雑な放出及び隔離のシナリオが可能であって、それにより、全体として、生物学的効果、特に材料の分子分離性能が決められる。
【0056】
本発明のさらに有利な実施形態には、低いトータルレベルでの生物学的に活性なタンパク質の濃度又はレベルを調節するための、表5のタイプ1~4に従ったヒドロゲルの使用が含まれる。
【0057】
その方法の本質的な利点は、その利用可能性が広範であるところにある。その方法は、有利には、スルフェート化成分又はスルホン化成分を含むヒドロゲルを使用することによる、バイオ流体から又はバイオ流体のバイオテクノロジー的な精製及びタンパク質混合物の分離の両方に使用することができる。
【0058】
例示的な狭い文脈においては、因子を取り扱うその方法は、血管形成、免疫疾患、糖尿病、神経変性疾患、及び創傷治癒を調節するために、インビボで使用することができる。
【0059】
創傷治癒においては、主として炎症誘発(pro-inflammatory)作用のあるケモカイン(たとえば、エオタキシン、GRO-a、IL-8、IP-10、MCP-1、MCP-3、MCD、Rantes、及びSDF-1)をヒドロゲルの内側に隔離するが、それに対して再生誘発(pro-regenerative)因子(たとえば、EGF、FGF-2、TGFb1、IL-10、HGF、及びPLGF)は、ほとんど影響を受けないままであろう。
【0060】
本発明の特に重要な適用分野は、バイオ流体中の物質の濃度の調節であって、これは、インビトロ及びインビボでの細胞の運命を決める役割を担っている。炎症誘発性のケモカインの調節不全及びそれに伴う慢性の炎症は、各種の疾患たとえば、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、喘息、又は慢性関節リウマチの発症の原因である。本発明による、スルフェート化成分又はスルホン化成分を含む各種のヒドロゲルを適用することにより、バイオ流体からこれらの炎症性因子の濃度を調節することを目標とするのは、可能な適用シナリオを表している。
【0061】
より広い文脈では、本発明による、スルフェート化成分又はスルホン化成分を含むヒドロゲルを適用することによって、複合タンパク質混合物から、検討中、又は構造的に類似のシグナル伝達分子の精製を目標とすることが可能となる。したがって、記述されたゲル
系は、微生物又は真核生物由来の細胞溶解物から、タンパク質を目標とする精製のために、バイオテクノロジー的に使用することができる。この場合においては、それらの細胞溶解物が、本発明におけるヒドロゲルによって促されて、シグナル伝達分子に結合する。第二のステップにおいては、その結合された物質を、高濃度の食塩溶液又は正に荷電した多価電解質(たとえば、キトサン)を用いて洗浄し、その結果分離することにより、さらなる用途のためにそのヒドロゲルから再び取り出すことができる。さらに、タイプ1~3結合例のヒドロゲルに弱く結合されたシグナル伝達分子を分離するためのネガティブな選択もある。EGF、FGF-2、TGF-β、IL-10、HGF、及びPLGFは、24時間結合させた後の上澄みを使用することにより、可能である。
【0062】
本発明の関連する実用的な利点は、各種の生物学的に関連するシグナル伝達分子の、目標とする段階的な電荷特性とネットワーク構造とを有するスルフェート化又はスルホン化ヒドロゲルへの結合が、バイオ流体のような生理的電解質の中での、1mg/mL~45mg/mLもの高いアルブミン濃度と同時に、100pg/mL~2000ng/mLのような低いレベルのシグナル伝達分子でも実現されること、並びに、その結果、個々のシグナル伝達分子の異なるヒドロゲルのタイプへの結合性における選択性の違いを利用することが可能であることにある。
【0063】
表1に示したUGB1-GB1 01~UGB1-GB4 011の例示的実施形態は、架橋反応1に従った共有結合的に架橋されたヒドロゲルであるが、ここで、GB4(ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-リンゴ酸)の分子、スチレンスルホン酸:マレイン酸モル比=3:1、表1)の6~24個のカルボキシル基(4本アームのスターPEGにおける1.5~6のモル比に依存する)が、EDC/スルホ-NHSで活性化されて、4本アームの、アミン末端のUGB1と直接反応して、ヒドロゲルを生じ(表1参照)、スルホネート濃度が0.28~0.06mmole/mLで可変であり、且つ貯蔵モジュラスが4.8~19.6kPAで可変のヒドロゲルが得られる(表1参照)。
【0064】
表1に示した例示的実施形態UGB1-GB5 12~UGB1-GB5 19は、架橋原理1に従った共有結合的に架橋されたヒドロゲルであるが、ここで、スチレンスルホン酸対マレイン酸=1:1のモル比を有するポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の分子(GB5)の6~24個のカルボキシル基(4官能のスターPEGの中の、モル比1.5~6に依存する)が、EDC/SN HSによって活性化され、且つ、4本アームの、アミン末端のUGB1(表1参照)の手段によってヒドロゲルに直接転換されて、スルホネート濃度が0.13~0.05mmole/mLで可変であり、且つ貯蔵モジュラスが3~21.8kPAの相で可変であるヒドロゲルが得られる(表1参照)。
【0065】
例示的実施形態のUGB2-GB4 20~UGB2-GB4 22は、架橋原理2に従った、共有結合的に架橋されたヒドロゲルであり、そこでは、スチレンスルホン酸:マレイン酸のモル比=3:1で、EDC/スルホ-NHSを用いて活性化されたGB4(ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の8個のカルボキシル基が、第一のステップにおいて、短鎖の二官能性架橋剤分子のN-(2-アミノエチル)マレイミドを用いて機能付与され、その後で、精製、単離される。これらのGB4の誘導体は、生理食塩液(又は血清)をUGB-2(チオール末端の4本アームのPEG)と混合することによって、ヒドロゲルに転換させると、スルホネート基の濃度が0.16~0.05mmole/mL且つ貯蔵モジュラスが3.7~0.2kPaの階調を有するヒドロゲルが得られた。
【0066】
例示的実施形態のUGB2-GB5 23~UGB2-GB5 25は、架橋原理2(VN2、表1)に従った共有結合的に架橋されたヒドロゲルであって、そこでは、スチレンスルホン酸:マレイン酸=1:1のモル比を有し、EDC/スルホ-NHSで活性化さ
れたGB5(ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の8個のカルボキシル基が、第一のステップにおいて、短鎖の二官能性架橋剤分子のN-(2-アミノエチル)マレイミドによって機能付与され、次いで、精製、単離される。次いで、これらのGB5の誘導体を、生理食塩溶液(又は血清)をUGB-2(チオール末端の4本アームのPEG)と混合することにより、ヒドロゲルに転換させると、スルホネート基の濃度が0.14~0.04mmole/mL、且つ貯蔵モジュラスが4.6~0.3kPaの階調を有するヒドロゲルが得られた。
【0067】
例示的実施形態のUGB2-UGB3 26は、荷電していないPEGヒドロゲルであって、それでは、架橋原理2に従って、チオール末端の4本アームのPEG(UGB-2)を、マレイミド末端の4本アームのPEG(UGB-3)と反応させた。このヒドロゲルは、隔離実験において、荷電していないネガティブコントロールとして使用した。
【0068】
驚くべきことには、広範囲の有利な性質及び性質の組合せを有し、且つ不都合な免疫原性反応を示さない完全合成のヒドロゲルが、例示的実施形態04~5をベースに調製することができる。したがって、膨潤させたヒドロゲルの、0.04~0.28mmole/mLの広範なスルホネート基の濃度と、0.2~21.8kPaの貯蔵モジュラスの同様に大きな変動とが、互いに独立して大幅に調節することが可能である。たとえば、ヒドロゲルのUGB2-GB4 21、UGB1-GB5 14、UGB1-GB5 15、及びUGB1-GB4 08は、膨潤させたヒドロゲルの中で一定のスルホネート基の濃度0.08mmole/mLを有しているが、それと同時に、貯蔵モジュラスは、1.1、5.5、12.5、及び19.6kPaと漸増している、すなわち、ヒドロゲルのスルホネート濃度と剛性は、広い範囲にわたって、互いに独立して変調させることができる。同様に、ほぼ一定の8.0~8.5kPaの貯蔵モジュラスを有するが、0.05のスルホネート濃度を有するUGB1-GB5 19、0.06のスルホネート濃度を有するUGB1-GB4 11、及び0.09のスルホネート濃度を有するUGB1-GB4 10の選択では、そのスルホネート濃度を、ヒドロゲルの剛性とは独立して変化させることができる(表1参照)。それに加えて、VN1の場合で、1.5~3、及び3~6、且つVN2の場合で0.5~0.75、及び1~1.5、及び1.5~2の範囲のUGB:GBのモル比のさらなる変動、且つGB及びUGBの濃度のさらなる変動と共に、その他多くの性能の組合せを作ることができる。
【0069】
驚くべきことには、マレイン酸中の密に隣接している酸基の1つをEDC/スルホNHSを用いて活性化させる(それは、隣接するカルボキシル基のみならず、特にはスルホネート基及び疎水性のスチレン単位によって、それらの反応性が、予測不能な様式で影響される)ことから開始する、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の架橋によって、荷電されていない構成単位で定義されるヒドロゲル材料を、上述の幅広く格付け可能な性質を有するように、合成することが可能であった。この場合、精密なネットワーク形成(VN1の場合)又は誘導体化(VN2の場合)が、驚くべきことには、1分という極めて短い活性化時間(すなわちEDC/スルホNHSが、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)に添加され(参照、表4)、その後で、アミノ基を担持した分子を、次いで、活性化されたポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)と混合し、且つその反応剤を極めて強力な撹拌をすることにより反応させる間の時間)を使用して達成された。
【0070】
また別の例示的実施形態においては、タイプUGB1-GB1 01、UGB1-GB4 20、UGB1-GB5 23、及びUGB1-GB3 26のヒドロゲルを、接着ペプチドのCWRGDSPを用いて機能付与し、且つVEGF-A及びFGF-2を用いてプリチャージさせ、且つヒト内皮細胞の培養のための、無血清の細胞培地のゲル表面の上で使用した。接着細胞のモルホロジーは、24時間の培養時間の後で、図1に示すよう
に、UGB1-GB1 01、UGB2-GB4 20、UGB2-GB5 23、及びUGB2-UGB3 26について分析した。内皮細胞は、異なるヒドロゲルの上では、異なるモルホロジーが想定され、アスペクト比と円形度の2つのパラメーターによって表すことができる。高いアスペクト比及び低い円形度は、望ましい細長い内皮細胞のモルホロジーに相当し、生物学的に望ましい筒状構造の形成における第一のステップである。UGB1-GB1 01、UGB2-GB4 20及びUGB2-GB5 23の上で培養した内皮細胞のアスペクト比は、3.4±1.0、4.1±1.1、及び4.9±1.6であったが、それに対して、荷電していない参照ゲルのUGB2-UGB3 26は、2.1±1.2と、顕著に低いアスペクト比を有していた。ヒドロゲルのUGB1-GB1
01、UGB1-GB4 20、及びUGB1-GB5 23、並びにUGB1-GB3 26の上の内皮細胞での円形度は、その逆数に相当して、0.5±0.1、0.4±0.1、0.3±0.1、並びに0.7±0.3であった。これらの差は、統計的にも、高度に有意であった。したがって、表5.1に記載の内皮細胞は、タイプ1(UGB1-GB1 01)、タイプ4(UGB2-GB4 20)、タイプ2(UGB2-GB5 23)、並びに荷電していないタイプ5(UGB1-GB3 26)の、異なる電荷及び隔離性能を有するヒドロゲルの上では、顕著に異なる挙動を示す。荷電していないヒドロゲルの上では、その細胞は、望ましくない、短いアスペクト比と高い円形度とを示すが、それに対して望ましいモルホロジーは、次の順序で高くなる:UGB1-GB1 01<UGB1-GB4 20<UGB2-GB5 23。タイプ2のヒドロゲルのUGB2-GB5 23は、この実験では最善の結果を示す。したがって、この順序づけは、ヒト内皮細胞の培養に対して、電荷の性質及び隔離パターンが直接影響することを立証している。
【0071】
また別の例示的実施形態においては、タイプ1(UGB1-GB1 01)、タイプ4(UGB1-GB4 20)、タイプ2(UGB1-GB5 23)並びに荷電していないタイプ5(UGB1-UGB3 26)のヒドロゲルを、ヒト間葉細胞(mesenchymal stromal cell)の重合に使用した。それらのヒドロゲルは、細胞応答性であった、すなわち、接着媒介性のペプチドのCWGRGDSPを用いたヒドロゲルの機能付与に加えて、これらの細胞によって分泌されたマトリックスメタロプロテアーゼによって酵素的に切断可能な、切断可能なペプチド配列GCGGPQGIWGQGGCGが、それぞれの荷電されていない構成単位の上にあらかじめ抱合され、VN2による架橋に使用された。包埋された細胞の代謝活性は、24時間後に、生存度の証拠として、PrestoBlue(登録商標)試験で特性解析した。ヒドロゲルの中で重合したヒト間葉細胞の代謝活性は、相対蛍光単位として測定して、それぞれ、タイプ1では7112±3924、タイプ2では3704±2945、タイプ4では3160±6023、且つ荷電していないタイプ5では、2316±446であった。したがって、ヒト間葉細胞は、タイプ2ゲルの中に包埋させたときに最高の代謝活性を示し、且つ荷電していない参照ゲルのゲルの中に包埋させたときに最低の代謝活性を示した。したがって、ヒドロゲル、特にタイプ2のものが、3Dにおける、ヒトの生の間葉細胞の培養には特に有利であることがわかった。
【0072】
また別の有利な例示的実施形態においては、UGB1-GB1 01、UGB2-GB4 20、UGB2-GB5 23、及びUGB2-UGB3 26を、正に荷電した基を担持する抗生物質のゲンタマイシンを用いた、区分した隔離によって、機能付与した。次いで、その阻害性を、2つの関連する病原性菌種の、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)(E・コリ(E.coli))及びスタフィロコッカス・エピデルミジス(Staphylococcus epidermidis)(スタフ・エピデルミジス(Staph.Epidermidis))を使用して、異なるヒドロゲルからゲンタマイシンを放出させることにより測定した。抗菌活性は、阻止帯のサイズ(培養プレート上、ヒドロゲルからの距離、「物質及び方法」の項参照)により測定した。UG
B1-GB1 01、UGB2-GB4 20、UGB2-GB5 23、及びUGB2-UGB3 26のタイプのヒドロゲルでは、あらかじめゲンタマイシン隔離をしないと、阻止帯は検出できなかった、すなわち、それらのヒドロゲルは、抗菌効果を有していなかった。ヒドロゲルによってゲンタマイシンをあらかじめ区分して隔離した場合においては、次のようなグレードの阻止帯が測定された:UGB1-GB1 01:3.08±0.33mm、UGB2-GB4 20、E・コリ(E.coli):3.08±0.33mm、S・エピデルミジス(S.Epidermidis):2.94±0.35mm、UGB2-GB4 20:E・コリ(E.coli):1.78±0.27mm、S・エピデルミジス(S.Epidermidis):1.76±0.45mm;UGB2-GB5 23、E・コリ(E.coli):2.18±0.38mm、S・エピデルミジス(S.Epidermidis):1.81±0.51mm、並びに荷電していない参照ゲルUGB2 UGB3-26、E・コリ(E.coli):0.48±0.36mm、S・エピデルミジス(S.Epidermidis):0.90±0.28mm。したがって、予想していた通り、荷電していない参照ゲルのUGB2-UGB3 26では、ゲンタマイシンの極めてわずかな量しか、非特異的に隔離されず、次いで再び放出された。他のヒドロゲルでは、以下の順で並べた、抗菌作用が見出された:UGB2-GB4 20<UGB2-GB5 23<UGB1-GB1 01。この結果は、正に荷電した薬物分子の区分した隔離を立証している。それに加えて、ゲンタマイシンの硫化濃度を変化させることによって、抗菌効果が変わることも立証できた。
【実施例0073】
材料及び方法:
(GB1からのGB2及びGB3から製造した)ヘパリンの領域選択的脱硫(region-selective desulfation)
領域選択的脱硫されたヘパリン(GB2及びGB3)の合成のために、ヘパリン(MW:14,000、Merck Millipore、生産者番号:375095,Germany、GB1)を先ず脱イオン化超純水の中に溶解させ、Amberlite IR-120H+イオン交換カラム(Sigma-Aldrich,Germany)を用いて、脱塩させた。そのヘパリン溶液に、pH6に達するまでピリジン(Sigma-Aldrich,Germany)を添加することによって、ヘパリン-ピリジン塩を形成させ、それを、B-490ロータリーエバポレーター(Buechi,Germany)中で溶媒蒸発させることによって濃縮し、次いで、-80℃で凍結乾燥させ(GEA Lyovac GT2,Germany)、且つさらなる加工をするまで、-20℃で保存した。
【0074】
N-脱硫ヘパリン(N-DSH、GB2)を調製するために、1g/Lのヘパリン-ピリジンを、DMSOと脱イオン化超純水との混合物(95:5)の中に溶解させ、50℃で1.5時間培養した。そのようにして得られた溶液を、脱イオン化超純水を用いて、1:1で希釈し、1Mの水酸化ナトリウム溶液(Sigma-Aldrich,Germany)を用いてpH9に調節した。脱イオン化超純水を用いて3日間、その溶液を透析(Spectrum Labs,Germany、MWCO=8kDa)した後で、脱硫ヘパリンのN-アセチル化を実施した。この目的のためには、その溶液に、10%(v/v)のメタノール(Sigma-Aldrich,Germany)及び50mMの炭酸ナトリウム(Sigma-Aldrich,Germany)を添加した。そのアセチル化反応は、4℃に冷却し、400rpm一定で撹拌しながら、半時間ごとに1mgのヘパリンあたり400μLの無水酢酸(Sigma-Aldrich,Germany)を添加することにより、3時間かけて実施し、次いで2Mの炭酸ナトリウム溶液を添加することによって、pHを7.5に調節した。
【0075】
6O-N-脱硫ヘパリン(6ON-DSH、GB3)を調製するために、1g/Lのヘ
パリン-ピリジンを、DMSOと脱イオン化超純水との混合物(95:5)の中に溶解させ、90℃で24時間培養した。そのようにして得られた溶液を、脱イオン化超純水を用いて1:1で希釈し、1Mの水酸化ナトリウム溶液(Sigma-Aldrich,Germany)を用いてpH9に調節した。脱イオン化超純水を用いて3日間かけて、透析チューブ(Spectrum Labs,Germany、MWCO=8kDa)で透析した後で、B-490(Buechi,Germany)で溶媒蒸発させることにより6O-N-脱硫ヘパリンを濃縮し、その後で凍結乾燥させた(GEA Lyovac GT2,Germany)。
【0076】
GB及びUGBの特性解析(表2参照):
GB1~GB3の分子量は、Dawn HELEOS II(Wyatt Technology Europe,Germany)上、690nmでの多角度光散乱法により求めた。分子量決定に必要なdn/dcの値は、RI検出器(Optilab T-rEX,Wyatt,Germany)を用い、λ=690nmの波長で測定した。GB1、GB2、及びGB3での、0.1351mL・g-1のRIの増分、dn/dcが、光散乱実験の評価には必要であった。モル質量を求めるための光散乱の結果は、Astraソフトウェア、バージョン6.1(Wyatt Technology,USA)を用いて実施した。
【0077】
ヘパリン誘導体(GB1~GB3)のスルフェート化度は、元素分析(Elementar,Vario MICRO cube,Germany)により、S:Nのモル比に基づいて求めた。それぞれの二糖類単位が、ちょうど1個のN原子を含んでいるので、GB1、GB2及びGB3のスルフェート化度(スルフェート基の数/繰り返し単位)は、S:Nのモル比により求めた。さらに、繰り返し単位のモル質量も、それから求めた。繰り返し単位あたり、又はポリマー1モルあたりのスルフェート基の数を、それに基づいて計算した。
【0078】
GB4及びGB5(ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸))の分子量、及び繰り返し単位あたり、又はポリマー1モルあたりのスルフェート基の数は、生産者(Sigma-Aldrich、生産者番号:434566,Germany)からの情報に基づいている。
【0079】
UGB1、UGB2、UGB3、アミノ-、チオール-若しくはマレイミド-末端の4本アームのPEGの分子量及び構造は、生産者(Jenkem Technology,USA)からの情報に基づいている。UGB4(酵素的に切断可能なペプチド末端の4本アームのPEG)のモル質量及び構造は、Tsurkan et.al,2013(Adv.Mater.,2013,25,2606~2610)に記載のプロセスに従って生産され、使用された。
【0080】
ヘパリン又はヘパリン誘導体をベースとするヒドロゲルの調製(表1も参照されたい):
ヒドロゲルを調製するために、ヘパリン(GB1)(Merck-Millipore、生産者番号:375095,Germany)、GB1をベースとする脱硫ヘパリン誘導体を、GB2及びGB3のために、荷電された成分(GB)としてのヒドロゲルのタイプ(表2参照)に従った前述の方法によって、脱イオン化超純水の中に、ボルテックスミキサー(IKA,Germany)を用い、4℃で30秒間、500rpmで溶解させた。それに加えて、4本アームのアミン末端のPEG(MW、10,000、Jenkem
Technology,USA)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC;Sigma-Aldrich,Germany)、及びN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS、Sigma-Aldrich,Germany)を、同様にして、すべてのタイプのヒドロゲルのために、UGB1として、溶
解させた。ヒドロゲル構成単位の完全な溶解を確保するために、これらの溶液をさらに、超音波浴(RK 100H、Bandelin,Germany)を用い、4℃で5分かけて処理した。
【0081】
GB1~GB3を活性化させるために、EDC及びスルホ-NHS(EDC:スルホ-NHSの比率=2:1)を、溶解させたGBに添加し(最終反応混合物のUGB1の1moleあたり4moleのスルホ-NHS、8moleのEDC)、4℃で、表4に記載した時間、培養した。GB1、GB2、GB3の活性化時間の後で、溶解させたアミノ末端の4本アームのPEG(UGB1)をさらに加え、且つボルテックスミキサー(IKA,Germany)を用いて、500rpmで30秒間混合した。
【0082】
架橋反応1の後での、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)をベースとするヒドロゲルの調製(VN1、表1参照):
4-スチレンスルホン酸:マレイン酸のモル比=3:1のポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)(Sigma-Aldrich、生産者番号:434566,Germany、GB4、表2参照)、及び4-スチレンスルホン酸:マレイン酸のモル比=1:1のもの(Sigma-Aldrich、生産者番号:434558,Germany、GB5、表2参照)、及びUGB1(四価のPEG、アミン末端、MW=10,000、Jenkem Technology,USA)を使用して、以下の方法で、共有結合的に架橋されたヒドロゲルを調製した:GB4又はGB5及びUGB1をそれぞれ、脱イオン化した超純水に、ヒドロゲル混合物の全容積の1/3ずつ、表1に見られるものの、3倍の濃度で溶解させ、さらに、超音波浴(RK 100H、Bandelin,Germany)を用いて、4℃で5分間処理した。その後で、全部の溶液を、次のステップのために4℃でなじませた(tempered):1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC、Sigma-Aldrich,Germany)及びN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS;Sigma-Aldrich,Germany)もやはり、全反応混合物の1/6に溶解し、4℃でなじませた。UGB1:EDC:スルホNHSのモル比は、1:8:4である(UGB1のそれぞれのアミノ基では、1:2:1)。次のステップにおいて、GB4又はGB5にEDC及びスルホ-NHSを添加し、ピペッティングによって混合し、且つ30秒間の待ち時間の後に、その反応混合物を、ボルテックスシェーカー(VWR,Germany)で10秒間混合し、次いでまた別の待ち時間20秒をとった。この手順の後で、全活性化時間1分で、ボルテックスシェーカー上のUGB1を、活性化させたGB4又はGB5にピペット移植し、次いでまた別の10秒間、ボルテックスシェーカーを用いて混合した。最終的な反応混合物(ここでは、UGB1及びGB4又はGB5の濃度は、表1に記載の濃度に相当している)は、今や、ピペッティングにより任意の型(forms)の中に注入することが可能であり、ゲル化は、12時間かけて重合させることにより起こさせる。次いで、それらのヒドロゲルを、リン酸緩衝生理食塩液の溶液の中に、数時間の間溶液交換を繰り返すことにより完全に膨潤させ、その後で、そのヒドロゲルを、使用するか、又は特性解析した。
【0083】
ヒト内皮細胞を用いた細胞培養のためのヒドロゲルの調製:
ヒト内皮細胞を培養するために、カバーガラスの上に、1cmあたり11μLの最終的な反応混合物をピペッティングすることにより、約100μmの最終厚みを有する表面結合された(surface-bound)ゲルを形成させた。そのカバーガラスは、以下の文献の手順に従って、あらかしめ、ポリ(エチレン-old-無水マレイン酸)の薄膜を用いてコーティングして、ヒドロゲルの共有結合を確保しておいた:Pompe et.al.,Biomolecules,2003,4,1072~1079。RGDペプチドを用いた修飾をするために、EDC/スルホ-NHSを含むリン酸緩衝生理食塩溶液の中で膨潤させた、成形したヒドロゲルを、4℃の、1/15Mのリン酸緩衝生理食塩
溶液の中に、50mMのEDC及び25mMのスルホ-NHSの濃度で溶解させ、且つ、GB4又はGB5の残存カルボキシル基を、20分かけて活性化させてから、ホウ酸塩緩衝剤(100mM、pH8.0、4℃)を用いて、洗い流した。次いで、その活性化されたヒドロゲルを、ホウ酸塩緩衝剤(100mM、pH8.0)の中に溶解させた、ペプチド配列
【化1】
(Peptides International、Louisville,KY,USA)の50mg/mLの濃度を有する溶液と、室温で2時間かけて反応させ、次いで、リン酸緩衝生理食塩液を用いて、十分すぎるくらい洗浄した。
【0084】
細胞培養:
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC、Lonza,Germany)を、フィブロネクチン-コーティングした細胞培養フラスコ上のPromocell C-22010を補充したPromocell C-22010(PromoCell GmbH,Germany)の上に、37℃、及び5%COで継代培養し、80%の密集度を達成した。継代2~6からの細胞を、それに続く実験で使用した。
【0085】
RGD-機能を付与され、表面結合されたヒドロゲルを、VEGF-A及びFGF-2と共に、ヒドロゲル表面1cmあたり0.565μgの濃度で、RTで18時間かけて培養し、次いでリン酸緩衝生理食塩液を用いて2回洗浄した。
【0086】
Promocell培地中、補助混合なしで、RGD-及びVEGF-165並びにFGF-2で機能付与させたヒドロゲルの上で、50,000細胞/cmを培養した。24時間培養した後で、細胞を洗浄し、固定し、光学顕微鏡(Olympus IX73倒立顕微鏡、Hamburg,Germany)により特性解析した。アスペクト比は、Fuji画像処理ソフトウェアを用いて個々の細胞を測定してから、細胞の長さを細胞の幅で割り算することにより求めた。円形度は、Fiji画像処理ソフトウェアの手段により、次式に従って求めた:円形度=4*π*(細胞面積/周長)。それぞれの場合において、n=10の独立した試料について、1画像あたり20個の細胞を測定した。GraphPad Prismソフトウェアを用いた統計的評価及び一元配置Anova試験から、検討した全部の条件下で有意な差があることが明らかになった。
【0087】
架橋反応2の後での、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)をベースとするヒドロゲルの調製(VN2、表1参照):
マレイミド基を用いたポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の誘導体化:
架橋反応2に従ったヒドロゲルを形成させるためには、最初にGB4又はGB5を、N-(2-アミノエチル)マレイミドトリフルオロアセテート(Sigma,Germany)を用いて官能化させなければならない。この目的のために、GB4又はGB5それぞれの500mg(25μmole)を、2.7mLの脱イオン化超純水の中に溶解させ、氷上で、10分間撹拌する。その試料容器は、25mLのスナップカバーガラス(snap-cover glass)である。次いで、65.14mgのNHS(0.30mmole)を400μLの中に溶解させ、且つ200μLの氷冷した脱イオン化超純水の中に溶解させた115.02mg(0.60mmole)のEDCを、GB4又はGB5の溶液に添加して、5分間待った。次のステップにおいて、200μLのMilliQ水の中に溶解させた、76.25mg(0.30mmole)のN-(-2-アミノエチル)マレイミドトリフルオロアセテートを、GB4又はGB5を活性化させる活性化時間が完了した後で40秒かけて、滴下により添加した。その反応混合物を、氷の上で、さらにま
た別の10分間撹拌する。最後に、氷浴を外し、その混合物を、室温で一夜撹拌する。その生成物を、MWCO=5kDaの排除サイズの透析チューブの中に入れる。2日にわたって透析を実施する;第一日には、1モル濃度の塩化ナトリウム溶液2.5リットルを用い、6時間かけて透析を実施する。この場合、その溶液を、2時間ごとに取り替える。6時間経過後は、脱イオン化超純水に対して、透析を一晩がかりで実施する。第二日には、透析を、脱イオン化超純水に対して実施し、水は、2時間ごとに取り替える。最後のステップにおいて、その溶液を凍結乾燥させる。
【0088】
GB4/GB5-マレイミド誘導体の特性解析のための排除体積クロマトグラフィー:
排除体積クロマトグラフィー(SEC)は、GB4又はGB51分子あたりのマレイミド基を求めるために使用される。この目的のためには、ペプチドRGD-SP(M=990g/mole)を、各種の過剰状態で、GB4/GB5-マレイミド誘導体にカップリングさせる。検討したRGD-SPの過剰モルは、この場合においては、GB4又はGB5に対して、6.8、10又は12である。最初に試料容器の中で、35μLのそれぞれのRGD-SP濃度と、35μLのリン酸緩衝生理食塩溶液とを混合することにより、キャリブレーションを実施する。
【0089】
この検討のためには、Phenomnex(Germany)製のBioSEP-SEC S2000カラムを使用するが、この中には、HPLCシステムAgilent 1100(Germany)が挿入されている。溶出液はリン酸緩衝生理食塩溶液であり、流速は0.5mL/分である。注入容積は、50μLである。
【0090】
同一の溶出条件で、マレイミド基の測定も実施する。それぞれの場合において、試料容器の中で、35μLのRGD濃縮液を、35μLのGB4/GB5-マレイミド誘導体溶液と混合する。その方法によって、マレイミドとGB4又はGB5との転化率の正確な定量が可能となる。
【0091】
架橋反応2の後のポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)誘導体をベースとするヒドロゲルの調製(VN2、表1参照):
GB4/GB5マレイミド誘導体と4本アームで、チオール末端のPEG(UGB2、Mw=10,000Da、Jenchem,USA、表2)とを、表1に記載の濃度の2倍で、リン酸緩衝生理食塩溶液の中に溶解させる。その後で、両方の成分と等しい容積を、ミクロ反応容器の中にピペット移植し、ボルテックスシェーカー上で10秒間振盪させる。次いで、その反応混合物の所定の容積を抜き出し、Sigma Cote(登録商標)でコーティングした直径9mmのカバーガラスの上に置く。Sigma Cote(登録商標)でコーティングしたまた別のカバーガラスを、その液滴の上に置く。30分後にカバーガラスを取り外し、そのゲルの薄片を、リン酸緩衝生理食塩溶液の中で12時間かけて膨潤させる。高いUGB2濃度のところでは、最適なゲル化を起こさせるために、1MのHClを用いて、UGB2のpHを5~7のpHに調節することができる。
【0092】
3D中で、ヒト間葉細胞を用いる、細胞培養のヒドロゲルの製造:
上述の方法に従い、UGB2に代えて、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)で切断可能なヒドロゲルを、UGB4(表4、Tsurkan et al.,Adv.Mater.,2013,25(18),2606~2610により記述された手順に従って合成)を使用して調製した。
【0093】
この目的のためには、細胞をGB4又はGB5誘導体の中に懸濁させ、上述の方法に従って混合することによりヒドロゲルを形成させ、5分間のゲル化時間の直後に、リン酸緩衝生理食塩溶液及び細胞培養培地の中で膨潤させた。
【0094】
細胞培養:
間葉幹細胞(MSC、ATCC、脂肪組織から単離、Germany)を、DMEM中、10%のシ胎血清及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンを用い、標準培養条件下(5%CO、37℃)で培養した。実験には、継代2~4のMSCを使用した。
【0095】
GB-4又はGB-5誘導体及びUGBを、GBの1moleあたり1moleのCGWGGRGDSPと混合し、リン酸緩衝生理食塩溶液の中に溶解させた(GB4又はGB5誘導体の濃度は、表1に示したものの3倍の濃度であった)。混合した後、その溶液を、37℃で10~15分間培養し、次いで、濃縮された細胞懸濁液を、最終的な反応混合物にまで外挿して6×10細胞/mLを有する最終的なゲル容積の1/3に混ぜ込んだ。UGB4(表1の3倍濃度)を、リン酸緩衝生理食塩溶液中全ゲル容積のまた別の1/3の中に溶解させ、GB4/5誘導体の細胞との混合物に加え、ピペッティングにより混ぜ合わせた。5分間かけてゲル化させてから、上述の細胞培養培地を加え、そのヒドロゲルを、前述のようにして、37℃で24時間培養した。
【0096】
PrestoBlue(登録商標)試験:PrestoBlue(登録商標)試験は、ヒドロゲル中への細胞の播種に続けて、24時間の培養時間の後に実施する。この目的のためには、PrestoBlue(登録商標)染料の細胞培養培地中10%溶液を、それぞれのヒドロゲル試料に添加し、マイクロタイタープレート中、37℃で1時間かけて培養する。次いで、マイクロプレート光度計(Tecan Spark(登録商標),Germany)を用いて蛍光を測定する。励起波長は560nmであり、蛍光は、590nmの波長のところで測定した。細胞の代謝活性は、相対蛍光値(RFU)で示した。4種の主題測定(subject determination)で、独立して10回の実験(n=40)で評価したが、すべての条件で、有意な差が見出された(一元配置Anova)。
【0097】
抗菌阻止帯アッセイ:
ヒドロゲルディスク(60μL)を、1mLの50μg/mLゲンタマイシン(Sigma Aldrich,Germany)の中で18時間かけて培養し、次いでリン酸緩衝生理食塩溶液を用いて、2回洗浄した。ゲンタマイシンを導入した(gentamiycin-charged)ヒドロゲルの抗菌活性を、阻止帯アッセイにより測定した。この目的のためには、ルリアブロス(LB)寒天(Sigma Aldrich,Munich,Germany)プレートを、生産者の説明書に従って調節した。エシェリキア・コリ(Escherichia coli)K12 DH5(DSMZ,Germany)及びスタフィロコッカス・エピデルミジス(Staphylococcus epidermidis)PCI 1200(ATCC,USA)の12時間成長培養菌を、0.1にまで希釈して、600nmで光学濃度(OD)を測定した。これらの細菌懸濁液の250μLを、それぞれのプレートの上に塗布した。滅菌した綿布を使用して、細菌を均等に分散させた。それぞれゲンタマイシン導入又は非導入の、ヒドロゲルのUGB1-GB1 01、UGB2-GB4 20、及びUGB2-GB5 23、さらにはUGB2-UGB3 26を、寒天プレートの四隅に塗布し、それらのプレートを、37℃で一夜かけて培養した。その後で、デジタルキャリパーを用いて、阻止帯の測定をした。3種の主題デフィニション(subject definition)で、独立して10回の実験(n=30)で評価したが、すべての条件で、有意な差が見出された(一元配置Anova)。
【0098】
ヒドロゲルの物理的-化学的性質の測定:
各種のタイプのヒドロゲルの物理的性質を測定するために、67μLの未重合のヒドロゲル溶液を、それぞれの場合において、Sigmacote(Sigma-Aldrich,Germany)で処理した2枚の9mmのガラススライド(Menzel Gla
eser,Germany)の間で、室温で16時間かけて重合させ、次いでそのようにして得られたゲルの薄片を、ガラススライドから取り外した。それらのゲルの薄片の直径を、タイプFLA-3100(Fujitsu,Japan)のスキャナーを用いて光学的に測定した(非膨潤状態での直径)。その後で、それらのゲルの薄片を、0.9%NaCl緩衝によりpH7.4としたリン酸緩衝生理食塩溶液(PBS)(Sigma-Aldrich,Germany)の中(生理学的条件下)で24時間かけて膨潤させ、FLAタイプ3100(Fujitsu,Japan)のスキャナーを用いて再度測定した(膨潤状態における直径)。測定した直径から、それらのヒドロゲルの膨潤度を、次式に従って求めた:
膨潤度=膨潤させたヒドロゲルの直径)/(未膨潤のヒドロゲルの直径)
【数1】
表1を参照されたい。
【0099】
報告されているデータはそれぞれ、少なくとも4個の独立した試料からの平均(MW)から求めたものである。それに加えて、標準偏差(SD)も示した。
【0100】
さらに、ヒドロゲルの貯蔵モジュラス及び損失モジュラスを、TA Instruments(United Kingdom)製のタイプAresの剪断レオメーターを使用して、振動式レオメトリー法で測定した(単位、キロバスカル)。この目的のためには、生理学的条件下(リン酸緩衝生理食塩溶液(PBS、0.9%NaClでpH7.4に緩衝(Sigma-Aldrich,Germany))で24時間かけて膨潤させたヒドロゲルから8mmの薄片を打ち抜き、低変形(2%)で、室温で周波数を1~100rad/sと上げるように設定した、9mmのプレート-プレート測定器で測定し、全周波数範囲にわたっての平均値を求めた(1試料あたり、1測定値)。報告されている数値は、独立して調製した4枚のヒドロゲルディスクの平均値であり、標準偏差の±も示している。4種のヒドロゲルのタイプの貯蔵モジュラスも表1に示したが、損失モジュラスは、数桁低いものであった(データ示さず)。
【0101】
表1に、ヒドロゲルの物理的-化学的性質を示している。
【0102】
ヒドロゲルのメッシュサイズは、実験的に求めた貯蔵モジュラスから、次式を使用したゴム弾性理論に基づいて誘導することができる(Polymer Physics,Michael Rubinstein and Ralph H.Colby,2006,Oxford University Press,Oxford):
【数2】
式中、G’は、測定された貯蔵モジュラスであり、Nは、アボガドロ定数であり、Rは、一般ガス定数であり、且つTは、温度(単位、ケルビン)である。
【0103】
各種のタイプのヒドロゲルの結合性を求めるために、未重合のヒドロゲルの溶液を、Sigmacote(Sigma-Aldrich,Germany)(Menzel Glasses)で処理した2枚の5mmのガラススライドの間で、室温で16時間かけて
重合させ、次いで、0.9%NaClでpH7.4に緩衝させたリン酸緩衝生理食塩溶液(PBS)(Sigma-Aldrich,Germany)の中で24時間かけて膨潤させた。合計容積を調節し、それにより、4種のヒドロゲルのタイプの中のGB1、GB2、GB3、及びGB4(参照、表4)で、同じモル量となるようにした。結合(隔離)の検討のために、それぞれのヒドロゲルのディスクを、0.5mLのタンパク質LoBind反応容器(Eppendorf Tubes,Germany)の中で、1%(m/v)ウシ血清アルブミン(Sigma-Aldrich,Germany)及び0.05%(m/v)Proclin 300(Sigma-Aldrich,Germany)を含む、400μLのPBSの中に溶解させた、表3に相当するタンパク質の混合物と共に、24時間かけて培養した(インキュベーション後の溶液2に相当)。タンパク質混合物を調製するために、ProcartaPlex Standard A、B及びC(ebioscience,Germany)を、生産者の説明書に従って溶解させ、且つ、タンパク質DKK1(生産者番号:120-30、Peprotech,Germany)、スクレロスチン(生産者番号:1406-ST、Peprotech,Germany)、及びTGFb1(生産者:100-21、Peprotech,Germany)を追加した。それら個々の濃度を、表7に示す(インキュベーション前の溶液1に相当)。
【0104】
タンパク質濃度を測定するまで、それらの溶液1及び2は、-80℃で保存した。溶液1及び2の中のタンパク質濃度を測定するために、Bioplex 200タイプ(Biorad,Germany)の装置の上で、ProcarteaPlex Simplexキットに相当するものと組み合わせて、生産者の説明書に従ってProcartaPlex Human chemokine Panel 1(ebioscience,Germany)を用いて試料の測定をした。
【0105】
シグナル伝達分子の結合(隔離)は、測定した溶液1及び2の濃度から、次式に従って求めた:
結合(%)=(溶液2における1濃度(インキュベーション後)/溶液1における濃度(インキュベーション前))×100
【0106】
表4に、GB1~4のカルボキシル基の活性化時間(単位、分)及び結合の検討のために用いたゲル容積を示している。
【0107】
それらのスルフェート化又はスルホン化ヒドロゲルが特徴としているのは、荷電された構成単位(GB)の電荷分布(単位、ポリマー1moleあたりのスルフェート基又はスルホネート基のmole数)、及び、生理学的条件下で膨潤させたヒドロゲル容積の中のスルフェート基又はスルホネート基の濃度(単位、スルフェート又はスルホネートのmmole/mLのヒドロゲル)、及び、特定の領域における、WEあたりのスルフェート基又はスルホネート基の数をWEのモル質量で割ったもの、である。その計算は、ヒドロゲル構成単位が定量的にネットワークの中に組み込まれると仮定して、ヒドロゲル化の際のヒドロゲルの構成単位のモル濃度(表1参照)及び容積膨潤(表1)をベースにして実施した。
【0108】
未膨潤のヒドロゲルの中のスルフェート基又はスルホネート基の濃度は、(未膨潤のヒドロゲルの中のGBの濃度)×(繰り返し単位の数)×(繰り返し単位あたりのスルフェート基又はスルホネート基の数)から計算した。膨潤させたゲルの中のスルフェート又はスルホネートの濃度(表1)は、未膨潤のヒドロゲルの中のスルフェート基又はスルホネート基の濃度を膨潤度(表1参照)で割り算をして計算した。
【0109】
抽出実験では、測定可能となるほどのゲル成分の溶出が生ずることはなく、したがって
、ゲル成分が完全に組み込まれるという仮説が、妥当であると考えられる。
【0110】
表3に、先に論じたようにして、インキュベーションの前の可溶性因子の濃度で正規化した、ヒドロゲルの中に結合されたシグナル伝達分子の量のパーセントを示す。そのパーセントは、質量パーセントである。
【0111】
(シグナル物質(signal substances)又は因子(factors)とも呼ばれる)物質の分子サイズは、キロダルトン(kDa)の単位で表される。
【0112】
それらのタンパク質(シグナル伝達分子)は、略号よる方法(表3)及びUiversal Protein Resource database(UniProt;http://www.uniprot.org/)のUniProt Identification Numbers(Uniprot ID)で、独自に割り付けられている。
【0113】
等電点(IEP)及びモル質量は、ExPASy ProtParm(http://web.expasy.org/protparam/(参考文献:Gasteiger,E.,et al.,The Proteomics Protocols Handbook,571~607(2005))のプログラムを使用した、完全生物学的加工(fully biologically processed)アミノ酸配列をベースにして求めた。
【0114】
タンパク質の構造パラメーターは、UniProt Identification NumbersをベースとするデータベースのExPASy PROSITEを使用して決めた(http://prosite.expasy.org/;Sigrist,C.J.A.,et al.,New and continuing development at ExPASy PROSITE;参考文献:(1)Nucleic Acids Res.,41,(2013);(2)Sigrist,C.J.A.,et al.,PROSITE:a documented database using patterns and profiles as motif descriptors.,Brief.Bioinform.,3,265~274(2002))。
図1
【手続補正書】
【提出日】2021-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料であって、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の形態にある荷電された構成単位、及び少なくとも2個のアミノ基又はチオール基を有する、アミン基又はチオール基を含むポリマー又は架橋分子の形態にある荷電されていない構成単位をベースとし、前記荷電された構成単位及び荷電されていない構成単位が、EDC/スルホ-NHSを用いて前記ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)のカルボキシル基を活性化させ、且つアミノ基を含むポリマーを用いるか、又は前記少なくとも2個のアミノ基を有する架橋剤分子を用いるかのいずれかで直接架橋させることにより得ることが可能なポリマーネットワークに架橋されるが、それぞれの場合において、それぞれアミノ基、及びマイケルタイプの付加を可能とする基を含む二官能性架橋剤分子の手段によるアミドの形成、又は前記活性化されたカルボキシル基の官能化を用い、次いで、前記チオール基を含むポリマー又は前記少なくとも2個のチオール基を有する前記架橋剤分子を含むポリマーを用いて、それぞれの場合においてマイケルタイプの付加を介して架橋させる、共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項2】
マイケルタイプの付加を可能とする前記基が、マレイミド基、ビニルスルホン基、又はアクリレート基から選択されることを特徴とする、請求項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項3】
アミン基及びチオール基を含む前記ポリマーが、荷電されていない構成単位として、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)(POX)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、及び/又はポリアリールアミド(PAM)のクラスから選択され、且つ、アミン基又はチオール基を含む前記架橋剤分子が、非ポリマー性の、二官能性架橋剤分子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項4】
4-スチレンスルホン酸対マレイン酸のモル比が可変で、6:1から1:6までの範囲、且つモル質量が5,000~100,000g/moleの範囲であるポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)が前記荷電された構成単位として選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項5】
前記ペプチド配列中の反応性アミノ酸としてリシン又はシステインのいずれかを有する、共役結合された酵素的に切断可能なペプチドを含むポリマーが、前記ポリマーネットワークを形成させるための荷電されていない構成単位として使用されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項6】
前記酵素的に切断可能なペプチドが、ヒト又は細菌性プロテアーゼ、特にMMP、カテプシン、エラスターゼ、オーレオリシン及び/又は血液凝固酵素によって切断可能であることを特徴とする、請求項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項7】
アミノ基若しくはカルボキシル基及び/又はセル-インストラクティングペプチドを有する生理活性及び/又は抗接着性分子が、前記ヒドロゲルネットワークに、配列中のリシン又はシステインを介して、前記荷電された構成単位のポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)又はマイケルタイプの付加を可能とする基を有するその誘導体に、共有結合を形成することによって結合されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項8】
前記生理活性分子が、抗菌物質、たとえば抗生物質若しくは消毒剤、又は医薬活性成分であることを特徴とする、請求項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項9】
前記抗接着性分子が、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリ(2-オキサゾリン)(POX)であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項10】
前記セル-インストラクティングペプチドが、細胞外マトリックス、たとえばコラーゲン、ラミニン、テネイシン、フィブロネクチン、及びビトロネクチンの、構造的及び機能的タンパク質から誘導されたペプチドであることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項11】
前記生理活性及び/又は抗接着性及び/又は細胞誘導性のペプチドが、前記ヒドロゲルネットワークに、酵素的に切断可能なペプチド配列を介して共有結合的に結合されていることを特徴とする、請求項5~10のいずれか1項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項12】
前記ヒドロゲル材料が、0.2~22kPaの貯蔵モジュラスを有していることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の共有結合的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項13】
物理的に架橋されたヒドロゲル材料であって、ポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)の形態にある荷電された構成単位と、ポリマーの形態にある荷電されていない構成単位との間の物理的相互作用をベースとし、強く正に荷電されたペプチド配列が、前記ポリマーの上に共役結合されている、物理的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項14】
前記強く正に荷電されたペプチド配列が、リシン若しくはアルギニンの少なくとも10個の繰り返し、又はリシン及びアラニンを用いるか若しくはアルギニン及びアラニンを用いたジペプチドモチーフの少なくとも5個の繰り返しを含んでいることを特徴とする、請求項13に記載の物理的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項15】
前記ヒドロゲルが、インビボで血管形成、免疫疾患、癌、糖尿病、神経変性疾患、クローン病、大腸潰瘍、多発性硬化症、喘息、慢性関節リウマチ、又は皮膚の創傷治癒、及び骨の再生を調節するための因子を取り扱うために使用されることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載のヒドロゲルの使用。
【請求項16】
皮膚の創傷治癒のために、タイプ2のヒドロゲルが、炎症誘発性のケモカインの、エオタキシン、GRO-a、IL-8、IP-10、MCP-1、MCP-3、MCD、Rantes、及びSDF-1-アルファの少なくとも1つを前記ヒドロゲルの内側に隔離するために使用され、前記再生誘発因子の、EGF、FGF-2、TGFb1、IL-10、HGF、及びPLGFの少なくとも1つが、前記バイオ流体の中で、影響されないか又はほとんど影響されずに留まることを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
微生物又は真核生物由来の細胞溶解物から、目標とするタンパク質を精製するための、請求項1~14のいずれか1項に記載のヒドロゲルの使用。
【請求項18】
バイオ流体から、タイプ1~3の前記ヒドロゲルに弱く結合されている、EGF、FGF-2、TGF-β、IL-10、HGF、及びPLGFのシグナル伝達分子をネガティブに選択及び分離するための、請求項1~14のいずれか1項に記載のヒドロゲルの使用。
【請求項19】
胚幹細胞(ES)、人工多能性幹細胞(iPS-)、並びにES及びiPS-を伴わないその他の幹細胞及び前駆細胞、患者から採取した初代細胞、不死化細胞系、さらには心臓、筋肉、腎臓、肝臓、及び神経組織から、インビトロで細胞及び器官培養するための、請求項1~14のいずれか1項に記載のヒドロゲルの使用。