(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095485
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】発光素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/32 20100101AFI20220621BHJP
【FI】
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208841
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 義樹
(72)【発明者】
【氏名】片岡 恵太
(72)【発明者】
【氏名】成田 哲生
(72)【発明者】
【氏名】近藤 嘉代
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA24
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA49
5F241CA57
5F241CA65
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フェルミ準位と伝導帯の縮退により電気抵抗が効果的に低減したAlGaNからなる発光素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】発光素子1は、フェルミ準位と伝導帯が縮退したAlGaNからなるn型コンタクト層12と、n型コンタクト層に積層されたAlGaNからなる発光層13と、を備え、n型コンタクト層のAl組成が発光層のAl組成よりも0.1以上大きく、n型コンタクト層の実効ドナー濃度が、縮退が生じる濃度であって、かつ4.0×10
19cm
-3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルミ準位と伝導帯が縮退した、AlGaNからなるn型コンタクト層と、
前記n型コンタクト層に積層された、AlGaNからなる発光層と、
を備え、
前記n型コンタクト層のAl組成xが、前記発光層のAl組成xよりも0.1以上大きく、
前記n型コンタクト層が、前記縮退が生じる濃度であって、かつ4.0×1019cm-3以下の実効ドナー濃度を有する、
発光素子。
【請求項2】
前記n型コンタクト層の実効ドナー濃度が、(-3.0×1018)x3+(9.3×1018)x2+(8.1×1018)x+1.6×1018cm-3(xは前記n型コンタクト層のAl組成x)以上である、
請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記n型コンタクト層のAl組成xが、0.5以上である、
請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記n型コンタクト層のAl組成xが、0.7以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記n型コンタクト層の電気抵抗率が、5×10-2Ω・cm以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項6】
気相成長法により、フェルミ準位と伝導帯が縮退した、AlGaNからなるn型コンタクト層を形成する工程と、
前記n型コンタクト層上に、AlGaNからなる発光層を形成する工程と、
を含み、
前記n型コンタクト層のAl組成xが、前記発光層のAl組成xよりも0.1以上大きく、
前記n型コンタクト層が、前記縮退が生じる濃度であって、かつ4.0×1019cm-3以下の実効ドナー濃度を有し、
前記n型コンタクト層を形成する工程における、前記n型コンタクト層の原料ガスのV/III比が1000以上、3200以下の範囲内にある、
発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記n型コンタクト層を形成する工程における、前記n型コンタクト層の成長温度が1150℃以下である、
請求項6に記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光ダイオード(LED)におけるトンネル接合に、縮退的にドープした窒化ガリウム層を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。上記の“縮退的にドープした”とは、ドーパントを高濃度でドープすることにより、フェルミ準位が伝導帯と重なった(縮退した)ことを意味すると考えられる。フェルミ準位と伝導帯が縮退した半導体は、通常は金属のように振る舞い、電気抵抗が低減する。また、金属のような振る舞いをするため、電気抵抗の温度依存性がない。このため、縮退的にドープした窒化ガリウム層をトンネル接合に用いたLEDは、広い温度領域での駆動が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SiなどのIV族元素をドーパントとするn型AlGaNにおいては、IV族元素の濃度を増加させると、ある濃度までは一般的な半導体と同様に電気抵抗が低減するが、ある濃度を超えると反対に電気抵抗が増加し始める。このため、従来の通常の方法では、IV族元素の濃度を高めても、電気抵抗を効果的に低減することができない。
【0005】
本発明の目的は、フェルミ準位と伝導帯の縮退により電気抵抗が効果的に低減した、IV族元素の濃度をドーパントとするAlGaNからなるn型コンタクト層を有する発光素子、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[5]の発光素子、及び[6]、[7]の発光素子の製造方法を提供する。
【0007】
[1]フェルミ準位と伝導帯が縮退した、AlGaNからなるn型コンタクト層と、前記n型コンタクト層に積層された、AlGaNからなる発光層と、を備え、前記n型コンタクト層のAl組成xが、前記発光層のAl組成xよりも0.1以上大きく、前記n型コンタクト層が、前記縮退が生じる濃度であって、かつ4.0×1019cm-3以下の実効ドナー濃度を有する、発光素子。
[2]前記n型コンタクト層の実効ドナー濃度が、(-3.0×1018)x3+(9.3×1018)x2+(8.1×1018)x+1.6×1018cm-3(xは前記n型コンタクト層のAl組成x)以上である、上記[1]に記載の発光素子。
[3]前記n型コンタクト層のAl組成xが、0.5以上である、上記[1]又は[2]に記載の発光素子。
[4]前記n型コンタクト層のAl組成xが、0.7以下である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の発光素子。
[5]前記n型コンタクト層の電気抵抗率が、5×10-2Ω・cm以下である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の発光素子。
[6]気相成長法により、フェルミ準位と伝導帯が縮退した、AlGaNからなるn型コンタクト層を形成する工程と、前記n型コンタクト層上に、AlGaNからなる発光層を形成する工程と、を含み、前記n型コンタクト層のAl組成xが、前記発光層のAl組成xよりも0.1以上大きく、前記n型コンタクト層が、前記縮退が生じる濃度であって、かつ4.0×1019cm-3以下の実効ドナー濃度を有し、前記n型コンタクト層を形成する工程における、前記n型コンタクト層の原料ガスのV/III比が1000以上、3200以下の範囲内にある、発光素子の製造方法。
[7]前記n型コンタクト層を形成する工程における、前記n型コンタクト層の成長温度が1150℃以下である、上記[6]に記載の発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フェルミ準位と伝導帯の縮退により電気抵抗が効果的に低減した、IV族元素の濃度をドーパントとするAlGaNからなるn型コンタクト層を有する発光素子、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る発光素子の垂直断面図である。
【
図2】
図2は、Al組成が0%、50%、62%、100%のAlGaNにおいて縮退が生じるSi濃度の下限値のプロット点と、その近似曲線を示すグラフである。
【
図3】
図3は、n型コンタクト層のAl組成と電気抵抗率の関係を示すグラフである。
【
図4】
図4(a)~(c)は、n型コンタクト層のSi濃度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5(a)~(c)は、n型コンタクト層の電気抵抗率、キャリア濃度、移動度の温度依存性を示すグラフである。
【
図6】
図6は、n型コンタクト層の原料ガスのV/III比と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、n型コンタクト層の成長温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8(a)~(c)は、各種のn型コンタクト層のカソードルミネッセンス測定により得られたスペクトルを示す。
【
図9】
図9は、各試料の実効ドナー濃度N
d-N
aとIV族元素としてのSiの濃度との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、グループA、Cの試料#1、#2、#8、#9の電気抵抗率ρの温度依存性を示すグラフである。
【
図11】
図11は、グループA、Cの試料#1、#2、#8、#9のエネルギーE
1と実効ドナー濃度N
d-N
aとの関係を示すグラフである。
【
図12】
図12(a)は、Al組成xが0のAlGaNとAl組成xが0.62のAlGaNのE
d,0の値をプロットした点と、それら2点を通る直線を示すグラフである。
図12(b)は、Al組成xが0のAlGaNとAl組成xが0.62のAlGaNのαの値をプロットした点と、それら2点を通る直線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発光素子の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る発光素子1の垂直断面図である。発光素子1は、フリップチップ実装型の発光ダイオード(LED)であり、基板10と、基板10上のバッファ層11と、バッファ層11上のn型コンタクト層12と、n型コンタクト層12上の発光層13と、発光層13上の電子ブロック層14と、電子ブロック層14上のp型コンタクト層15と、p型コンタクト層15上の透明電極16と、透明電極16に接続されたp電極17と、n型コンタクト層12に接続されたn電極18と、を備える。
【0011】
なお、発光素子1の構成における「上」とは、
図1に示されるような向きに発光素子1を置いたときの「上」であり、基板10からp電極17に向かう方向を意味するものとする。
【0012】
基板10は、サファイアからなる成長基板である。基板10の厚さは、例えば、900μmである。基板10の材料として、サファイア以外にも、AlN、Si、SiC、ZnOなどを用いることができる。
【0013】
バッファ層11は、例えば、核層、低温バッファ層、高温バッファ層の3層を順に積層した構造を有する。核層は、低温で成長させたノンドープのAlNからなり、結晶成長の核となる層である。核層の厚さは、例えば、10nmである。低温バッファ層は、核層よりも高温で成長させたノンドープのAlNからなる層である。低温バッファ層の厚さは、例えば、0.3μmである。高温バッファ層は、低温バッファ層よりも高温で成長させたノンドープのAlNからなる層である。高温バッファ層の厚さは、例えば、2.7μmである。このようなバッファ層11を設けることで、AlNの貫通転位の密度低減を図っている。
【0014】
発光層13は、n型コンタクト層12に積層された層である。発光層13は、AlGaNからなり、好ましくは多重量子井戸(MQW)構造を有する。発光層13のAl組成x(MQW構造を有する場合は井戸層のAl組成x)は、所望の発光波長に応じて設定され、例えば、発光波長がおよそ280nmである場合には、0.35~0.45に設定される。ここで、上記のAl組成xは、Gaの含有量とAlの含有量の合計を1としたときのAlの含有量の割合であり、AlGaNの理想的な組成においてはAlxGa1-xN(0≦x≦1)と表される。
【0015】
例えば、発光層13は、井戸層が2層のMQW構造、すなわち、第1障壁層、第1井戸層、第2障壁層、第2井戸層、第3障壁層の順に積層された構造を有する。第1井戸層及び第2井戸層は、n型のAlGaNからなる。第1障壁層、第2障壁層、及び第3障壁層は、第1井戸層及び第2井戸層よりもAl組成の高いn型のAlGaN(Al組成xが1のもの、すなわちAlNを含む)からなる。
【0016】
一例としては、第1井戸層及び第2井戸層のAl組成x、厚さ、ドーパントとしてのSiの濃度は、それぞれ0.4、2.4nm、9×1018/cm3である。また、第1障壁層及び第2障壁層のAl組成x、厚さ、ドーパントとしてのSiの濃度は、それぞれ0.55、19nm、9×1018/cm3である。また、第3障壁層のAl組成x、厚さ、ドーパントとしてのSiの濃度は、0.55、4nm、5×1018/cm3である。
【0017】
n型コンタクト層12は、Si、GeなどのIV族元素をドナーとして含むn型のAlGaNからなる。n型コンタクト層12のAl組成xの下限値は、発光層13から発せられる光の吸収を抑えることのできる範囲の下限値として設定される。n型コンタクト層12のAl組成xが発光層13を構成するAlGaNのAl組成x(発光層13がMQW構造を有する場合は井戸層のAl組成x)よりも0.1以上大きければ、発光層13から発せられる光のn型コンタクト層12による吸収を効果的に抑えることができ、0.15以上大きければ、より効果的に抑えることができる。したがって、n型コンタクト層12のAl組成xが発光層13のAl組成xよりも0.1以上大きいことが好ましく、0.15以上大きいことがより好ましい。
【0018】
例えば、発光層13のAl組成xが0.35~0.45である場合、およそ280nmの波長を有する光が発せられ、n型コンタクト層12のAl組成xが0.5以上であれば効果的に吸収を抑えることができ、0.55以上であればより効果的に吸収を抑えることができる。
【0019】
また、n型コンタクト層12のAl組成xの上限値は、Al組成xの増加に伴う電気抵抗の増加を抑えることのできる範囲の上限値として設定することができる。AlGaNの電気抵抗は、Al組成xを増加させていったときに、0.7まではほとんど一定であるが、0.7を超えると増加し始める。このため、n型コンタクト層12のAl組成xは0.7以下に設定されることが好ましい。
【0020】
このため、発光素子1が紫外発光素子である場合の好ましい一例として、n型コンタクト層12のAl組成xは、0.5以上、0.7以下の範囲内にある。この場合、理想的には、n型コンタクト層12は、AlxGa1-xN(0.5≦x≦0.7)で表される組成を有する。
【0021】
また、n型コンタクト層12は、フェルミ準位と伝導帯が縮退する実効ドナー濃度Nd-Naを有する。ここで、Ndはドナー濃度であり、Naはアクセプター濃度である。Nd-Naが4.0×1019cm-3以下であれば、III族空孔とIV族元素との複合欠陥による自己補償がほぼ生じないため、Nd-Naの値は、n型コンタクト層12においてドナーとして働くIV族元素の濃度からアクセプターとして働く元素の濃度を引いた値にほぼ等しい。不純物濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定することができる。
【0022】
なお、IV族元素は、AlGaNにおいて、Ga又はAlのサイトに入るとドナーとして機能し、Nのサイトに入るとアクセプターとして機能する。AlGaNにおいては、CがNのサイトに入りやすい性質を有し、C以外のIV族元素はGa又はAlのサイトに入りやすい性質を有する。このため、通常、AlGaNにおいてアクセプターとして機能するIV族元素は主にCである。また、Cはドーパントとして意図的に添加されるものだけでなく、例えば、MOCVDで用いられるIII族原料に含まれるものなどもAlGaNに取り込まれる。したがって、ドナーとして用いられるIV族元素の種類に依らず、通常、アクセプター濃度NaはCの濃度にほぼ等しく、成長温度の調整などによりn型コンタクト層12へのCの混入を抑えることができれば、実効ドナー濃度Nd-NaはIV族元素の濃度にほぼ等しくなる。
【0023】
非特許文献“A. Wolos et al., “Properties of metal-insulator transition and electron spin relaxation in GaN:Si”, PHYSICAL REVIEW B 83, 165206 (2011)”によれば、Siをドーパントとして含むGaNにおいて、Si濃度が1.6×1018cm-3以上であるときにフェルミ準位と伝導帯が縮退するとされている。なお、このSi濃度の条件は、GaNがアクセプターを含む場合も含めて、実効ドナー濃度Nd-Naの条件として一般化できると考えられる。すなわち、Al組成xが0のAlGaN(GaN)において縮退が生じるSi濃度の下限値が1.6×1018cm-3であるといえる。
【0024】
また、本発明者らは、Al組成xが0.62のAlGaN(Al0.62Ga0.38N)において縮退が生じる実効ドナー濃度Nd-Naの下限値が9.5×1018cm-3であることを導出した。この導出の方法については後述する。
【0025】
さらに、本発明者らは、Al組成が0.5のAlGaN(Al0.5Ga0.5N)において縮退が生じる実効ドナー濃度Nd-Naの下限値が7.6×1018cm-3であり、Al組成が1のAlGaN(AlN)において縮退が生じる実効ドナー濃度Nd-Naの下限値が1.6×1019cm-3であることを導出した。この導出の方法についても後述する。
【0026】
また、IV族元素をドナーとして含むAlGaNにおいては、通常、実効ドナー濃度Nd-Naを高めることにより、フェルミ準位と伝導帯を縮退させることができるが、実効ドナー濃度Nd-Naが4.0×1019cm-3を超えると、III族空孔とIV族元素との複合欠陥が発生して自己補償が生じることにより、電気抵抗が効果的に低減されない。
【0027】
III族空孔とIV族元素との複合欠陥の詳細については未だ明らかになっていないが、1つの可能性として、AlGaNの成長過程において生じるIII族空孔にIV族元素が入らずに他の位置に留まった場合に、IV族元素がドナーとして振る舞う(電子を放出する)ことができず、その状態に応じて1~3個の正孔が放出されていることが考えられる。
【0028】
図2は、上述のAl組成xが0、0.5、0.62、1のAlGaN(GaN、Al
0.5Ga
0.5N、Al
0.62Ga
0.38N、AlN)において縮退が生じるSi濃度の下限値のプロット点と、その近似曲線を示すグラフである。
図2の近似曲線は、Al組成xの関数として、N
d-N
a=(-3.0×10
18)x
3+(9.3×10
18)x
2+(8.1×10
18)x+1.6×10
18の式で表される。
【0029】
実効ドナー濃度N
d-N
aが、
図2におけるこの近似曲線よりも上側、すなわち(-3.0×10
18)x
3+(9.3×10
18)x
2+(8.1×10
18)x+1.6×10
18以上であって、かつ4.0×10
19cm
-3以下であれば、n型コンタクト層12のフェルミ準位と伝導帯が縮退する。
【0030】
本実施の形態によれば、例えば、n型コンタクト層12のIV族元素の濃度を5×1018cm-3以上、4×1019cm-3以下の範囲に、n型コンタクト層12の成長温度を850℃以上、1100℃以下の範囲に、後述するn型コンタクト層12の原料ガスのV/III比を1000以上、3200以下の範囲にそれぞれ設定することにより、n型コンタクト層12の電気抵抗率を5×10-2Ω・cm以下にすることができる。また、このn型コンタクト層12のIV族元素の濃度、成長温度、原料ガスのV/III比の条件下におけるn型コンタクト層12の電気抵抗率の下限値は、1×10-3Ω・cm程度であると考えられる。n型コンタクト層12の厚さは、例えば、500~3000nmである。
【0031】
電子ブロック層14は、第3障壁層よりもAl組成xの高いp型のAlGaNからなる。電子ブロック層14によって、電子がp型コンタクト層15側に拡散してしまうのを抑制している。電子ブロック層14のAl組成x、厚さ、ドーパントとしてのMgの濃度は、例えば、それぞれ0.8、25nm、5×1019/cm3である。
【0032】
p型コンタクト層15は、第1p型コンタクト層と第2p型コンタクト層を順に積層した構造を有する。第1p型コンタクト層及び第2p型コンタクト層は、p型のGaNからなる。第1p型コンタクト層の厚さ、ドーパントとしてのMg濃度は、例えば、それぞれ700nm、2×1019/cm3である。また、第2p型コンタクト層の厚さ、ドーパントとしてのMgの濃度は、例えば、それぞれ60nm、1×1020/cm3である。
【0033】
p型コンタクト層15表面の一部領域には溝が設けられている。溝はp型コンタクト層15及び発光層13を貫通し、n型コンタクト層12に達しており、この溝により露出したn型コンタクト層12の表面にn電極18が接続されている。
【0034】
透明電極16は、例えば、IZO、ITO、ICO、ZnOなどの可視光に対して透明な導電性酸化物からなる。なお、発光層13から発せられる光が紫外光(365nm以下の光)である場合は、GaNからなるp型コンタクト層15にその多くが吸収されてしまうため、透明電極16を透過することはなく、p電極17での反射光は得られない。ただし、薄膜であるGaNからなるp型コンタクト層15を用いた場合又はAlGaNからなるp型コンタクト層15を用いた場合であって、かつ、薄膜である透明電極16を用いた場合又は紫外光に透明な材料からなる透明電極16を用いた場合は、それらによる紫外光の吸収を抑えることができるため、光出力を大幅に高めることができる。p電極17は、例えば、Ni/Auからなる。n電極18は、例えば、Ti/Al/Ni、V/Al/Ni、V/Al/Ruなどからなる。
【0035】
なお、発光素子1は、フェイスアップ実装型であってもよい。また、発光素子1のn型コンタクト層12などの特徴的な構成はレーザーダイオードなどのLED以外の発光素子に適用することもできる。
【0036】
(発光素子の製造方法)
以下に、本発明の実施の形態に係る発光素子1の製造方法の一例について説明する。気相成長法による発光素子1の各層の形成においては、Ga原料ガス、Al原料ガス、N原料ガスとしては、例えば、それぞれトリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、アンモニアを用いる。また、n型ドーパントの原料ガス、p型ドーパントの原料ガスとしては、例えば、それぞれSiの原料ガスであるシランガス、Mgの原料ガスであるビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムガスを用いる。また、キャリアガスとしては、例えば、水素ガスや窒素ガスを用いる。また、本実施の形態における各層の成長温度は、成膜装置の加熱用ヒーターの温度であり、基板10の表面温度は加熱用ヒーターの温度よりもおよそ100℃低い。
【0037】
まず、基板10を用意し、その上にバッファ層11を形成する。バッファ層11の形成においては、まず、スパッタによってAlNからなる核層を形成する。成長温度は、例えば、880℃である。次に、核層上に、MOCVD法によってAlNからなる低温バッファ層、高温バッファ層を順に形成する。低温バッファ層の成長条件は、例えば、成長温度が1090℃、成長圧力が50mbarである。また、高温バッファ層の成長条件は、例えば、成長温度が1270℃、成長圧力が50mbarである。
【0038】
次に、バッファ層11上に、MOCVD法によってSiなどのIV族元素を含むAlGaNからなるn型コンタクト層12を形成する。n型コンタクト層12の形成においては、n型コンタクト層12の電気抵抗を低くするため、n型コンタクト層12の原料ガスのV/III比を1000以上、3200以下の範囲内に設定する。ここで、V/III比は、III族元素(Ga、Al)とV族元素(N)の原料ガスにおける原子数の比を意味する。
【0039】
また、n型コンタクト層12の形成においては、n型コンタクト層12の成長温度を1150℃以下に設定することが好ましい。成長温度を1150℃以下に設定することにより、成長温度の増加に伴う電気抵抗の増加を抑えることができる。これは、III族元素、特に蒸発しやすいGaの蒸発が抑えられて、III族空孔の過剰な発生が抑えられ、それによってIII族空孔とIV族元素との複合欠陥の影響による電気抵抗の増加が抑えられるものと考えられる。
【0040】
また、n型コンタクト層12の形成においては、n型コンタクト層12の成長温度を850℃以上に設定することが好ましい。成長温度が850℃に満たない場合、V族元素Nの原料であるアンモニアが分解し難くなるため、アンモニアの供給量を大きくしなければならなくなり、V/III比を異常に高く設定しなければならなくなる。また、成長温度が低い場合、III族原料からCが混入するという問題も生じ得るため、成長温度をこの問題を回避できる温度、例えば850℃以上に設定することが好ましい。
【0041】
また、n型コンタクト層12の成長圧力は、例えば、20~200mbarに設定する。
【0042】
次に、n型コンタクト層12上に、MOCVD法によって発光層13を形成する。発光層13の形成は、第1障壁層、第1井戸層、第2障壁層、第2井戸層、第3障壁層の順に積層して行う。発光層13の成長条件は、例えば、成長温度が975℃、成長圧力が400mbarである。
【0043】
次に、発光層13上に、MOCVD法によって電子ブロック層14を形成する。電子ブロック層14の成長条件は、例えば、成長温度が1025℃、成長圧力が50mbarである。
【0044】
次に、電子ブロック層14上に、MOCVD法によってp型コンタクト層15を形成する。p型コンタクト層15の形成は、第1p型コンタクト層、第2p型コンタクト層の順に積層して行う。第1のp型コンタクト層の成長条件は、例えば、成長温度が1050℃、成長圧力が200mbarである。第2のp型コンタクト層の成長条件は、例えば、成長温度が1050℃、成長圧力が100mbarである。
【0045】
次に、p型コンタクト層15表面の所定領域をドライエッチングし、n型コンタクト層12に達する深さの溝を形成する。
【0046】
次に、p型コンタクト層15上に透明電極16を形成する。次に、透明電極16上にp電極17、溝の底面に露出するn型コンタクト層12上にn電極18を形成する。透明電極16、p電極17、およびn電極18は、スパッタや蒸着などによって形成する。
【0047】
(実施の形態の効果)
上記の本発明の実施の形態によれば、III族空孔とIV族元素との複合欠陥の量を抑えて、フェルミ準位と伝導帯の縮退により電気抵抗が効果的に低減したAlGaNからなるn型コンタクト層を得ることができる。n型コンタクト層の電気抵抗を低減することにより、発光素子の順方向電流に対する出力を増加させることができる。また、フェルミ準位と伝導帯が縮退したn型コンタクト層の電気抵抗は温度依存性を持たないため、発光素子を広い温度領域で駆動させることができる。
【実施例0048】
以下、上記の本発明の実施の形態に係るn型コンタクト層12の特性の評価結果について述べる。本実施例においては、基板10上にバッファ層11を介してn型コンタクト層12を後述する各種条件で形成し、それらn型コンタクト層12について評価を行った。次の表1に、本実施例に係る基板10、バッファ層11、及びn型コンタクト層12の構成及び成長条件を示す。また、n型コンタクト層12のn型ドーパントとしてSiを用いた。
【0049】
【0050】
本実施例においては、n型コンタクト層12の電気抵抗率、キャリア濃度、及び移動度はホール効果測定により測定し、Si濃度は二次イオン質量分析(SIMS)により測定した。
【0051】
図3は、n型コンタクト層12のAl組成xと電気抵抗率との関係を示すグラフである。
図3は、n型コンタクト層12のAl組成xがおよそ0.7を超えると電気抵抗が増加することを示している。次の表2に、
図3のプロット点の数値、及び各々のプロット点に係るn型コンタクト層12の成長温度と原料ガスのV/III比を示す。
【0052】
【0053】
図4(a)~(c)は、n型コンタクト層12のSi濃度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
図4(a)に係るn型コンタクト層12の成長温度、原料ガスのV/III比は、それぞれ1013℃、1058である。
図4(b)に係るn型コンタクト層12の成長温度、原料ガスのV/III比は、それぞれ1013℃、1587である。
図4(c)に係るn型コンタクト層12の成長温度、原料ガスのV/III比は、それぞれ1083℃、1058である。
図4(a)~(c)は、n型コンタクト層12のSi濃度がおよそ4.0×10
19cm
-3を超えると電気抵抗が増加することを示している。次の表3に、
図4のプロット点の数値を示す。
【0054】
【0055】
図4(a)~(c)、表3によれば、例えば、n型コンタクト層12の電気抵抗率を5×10
-2Ω・cm以下にするためには、n型コンタクト層12の成長温度、原料ガスのV/III比がそれぞれ1013℃、1058であるときには、Si濃度を1.2×10
19~4.0×10
19cm
-3に設定し、n型コンタクト層12の成長温度、原料ガスのV/III比がそれぞれ1013℃、1587であるときには、Si濃度を2.1×10
19~3.2×10
19cm
-3に設定し、n型コンタクト層12の成長温度、原料ガスのV/III比がそれぞれ1083℃、1058であるときには、Si濃度を5.4×10
18~2.7×10
19cm
-3に設定すればよいことがわかる。
【0056】
図5(a)~(c)は、n型コンタクト層12の電気抵抗率、キャリア濃度、移動度の温度依存性を示すグラフである。
図5(a)~(c)には、それぞれSi濃度が2.10×10
19cm
-3、3.20×10
19cm
-3、4.30×10
19cm
-3の3種のn型コンタクト層12の測定値が示されている。Si濃度が2.10×10
19cm
-3であるn型コンタクト層12の成長温度、原料ガスのV/III比は、それぞれ1013℃、1587であり、Si濃度が3.20×10
19cm
-3であるn型コンタクト層12の成長温度、原料ガスのV/III比は、それぞれ1013℃、1587であり、Si濃度が4.30×10
19cm
-3であるn型コンタクト層12の成長温度、原料ガスのV/III比は、それぞれ1043℃、1587である。
【0057】
フェルミ準位と伝導帯が縮退しているn型のAlGaNにおいては、キャリア濃度の温度依存性がほとんどない。
図5(b)によれば、Si濃度が2.10×10
19cm
-3、3.20×10
19cm
-3のn型コンタクト層12はキャリア濃度の温度依存性が小さいため、フェルミ準位と伝導帯が縮退していると判定できる。
【0058】
一方、Si濃度が4.30×1019cm-3のn型コンタクト層12にはキャリア濃度の温度依存性が見られるため、フェルミ準位と伝導帯が縮退していないと判定できる。Si濃度が十分に高いにもかかわらず縮退が見られないのは、Si濃度が4.0×1019cm-3以上のn型コンタクト層12においては、電子が補償され、フェルミ準位が低くなって縮退が解けることによると考えられる。
【0059】
図5(c)によれば、Si濃度が2.10×10
19cm
-3、3.20×10
19cm
-3のn型コンタクト層12においては、移動度の温度依存性はほとんどないが、Si濃度が4.30×10
19cm
-3のn型コンタクト層12においては、比較的大きな移動度の温度依存性がある。これは、Si濃度が4.30×10
19cm
-3のn型コンタクト層12のSi濃度が高いためにIII族空孔とSiの複合欠陥が多く存在し、これらの複合欠陥によってキャリアが散乱するためと考えられる。
【0060】
また、
図5(a)によれば、Si濃度が2.10×10
19cm
-3、3.20×10
19cm
-3のn型コンタクト層12においては、電気抵抗率の温度依存性がほとんどないが、Si濃度が4.30×10
19cm
-3のn型コンタクト層12においては、比較的大きな電気抵抗率の温度依存性がある。これは、Si濃度が4.30×10
19cm
-3のn型コンタクト層12にIII族空孔とSiの複合欠陥が多く存在していることによると考えられる。
【0061】
図6は、n型コンタクト層12の原料ガスのV/III比と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
図6に係るn型コンタクト層12の成長温度は、1013℃である。
図6は、n型コンタクト層12の原料ガスのV/III比がおよそ1500のときに電気抵抗率が最小値をとり、原料ガスのV/III比が1000以上、3200以下の範囲内にあるときに低い抵抗率が得られることを示している。次の表4に、
図6のプロット点の数値を示す。
【0062】
【0063】
図7は、n型コンタクト層12の成長温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
図7は、n型コンタクト層12の成長温度がおよそ1100~1150℃の間で電気抵抗が増加し始めることを示している。次の表5に、
図7のプロット点の数値、及び各々のプロット点に係るn型コンタクト層12の原料ガスのV/III比を示す。
【0064】
【0065】
図8(a)~(c)は、各種のn型コンタクト層12のカソードルミネッセンス測定により得られたスペクトル(CLスペクトル)を示す。n型コンタクト層12のCLスペクトルにおける、フォトンエネルギーが2.4eV付近のピークは、III族空孔とSiとの複合欠陥に起因する発光によるものであり、このピークの強度が大きいほどIII族空孔とSiとの複合欠陥が多いことになる。
【0066】
なお、フォトンエネルギーが3.2eV付近のピークは、V族サイトのCに起因する発光によるものであり、フォトンエネルギーが4.9eV付近のピークは、バンドギャップに相当する発光によるものである。
【0067】
図8(a)は、n型コンタクト層12のCLスペクトルの形状のSi濃度による変化を示している。
図8(a)によれば、III族空孔とSiとの複合欠陥に起因するピークは、Si濃度が4.0×10
18~3.0×10
19cm
-3のn型コンタクト層12には確認されず、Si濃度が4.0×10
19cm
-3のn型コンタクト層12に弱く現れ、Si濃度が6.0×10
19cm
-3のn型コンタクト層12に強く現れている。
【0068】
III族空孔とSiとの複合欠陥が多いほどn型コンタクト層12の電気抵抗は大きくなるため、この
図8(a)から得られる結果は、n型コンタクト層12のSi濃度がおよそ4.0×10
19cm
-3を超えると電気抵抗が増加するという
図4(a)~(c)から得られる結果と一致する。
【0069】
図8(b)は、n型コンタクト層12のCLスペクトルの形状の原料ガスのV/III比による変化を示している。
図8(b)によれば、III族空孔とSiとの複合欠陥に起因するピークは、原料ガスのV/III比が1100~1600のn型コンタクト層12には確認されず、原料ガスのV/III比が3200のn型コンタクト層12に確認される。
【0070】
III族空孔とSiとの複合欠陥が多いほどn型コンタクト層12の電気抵抗は大きくなるため、この
図8(b)から得られる結果は、n型コンタクト層12の原料ガスのV/III比が1000以上、3200以下の範囲内にあるときに低い抵抗率が得られるという
図6から得られる結果と一致する。
【0071】
図8(c)は、n型コンタクト層12のCLスペクトルの形状の成長温度による変化を示している。
図8(c)によれば、III族空孔とSiとの複合欠陥に起因するピークは、成長温度が1010~1080℃のn型コンタクト層12には確認されず、成長温度が1170℃のn型コンタクト層12に確認される。
【0072】
III族空孔とSiとの複合欠陥が多いほどn型コンタクト層12の電気抵抗は大きくなるため、この
図8(c)から得られる結果は、n型コンタクト層12の成長温度がおよそ1100~1150℃の間で電気抵抗が増加し始めるという
図7から得られる結果と一致する。
【0073】
なお、本実施例の各評価においては、n型コンタクト層12のn型ドーパントとしてSiを用いたが、GeなどのSi以外のIV族元素を用いる場合であっても同様の評価結果が得られる。
ここで、各試料のSi及びC濃度は、SIMSにより測定した。電気抵抗率及び電子濃度は、30~300Kの温度範囲でのvan-der-Pauw法とホール効果測定の結果から見積もった。実効ドナー濃度Nd-Naは、0.1mol/lのNaOH溶液を電解液として用いた電気化学容量-電圧(C-V)測定の結果から見積もった。Al0.62Ga0.38Nの静的な比誘電率は、GaNの比誘電率である8.9とAlNの比誘電率である8.5の間の線形補間により8.66と推測した。
表6においては、低い濃度のSiを添加された試料#1、#2がグループA、中程度の濃度のSiを添加された試料#3~#7がグループB、高い濃度のSiを添加された試料#8、#9がグループCに分類されている。
試料#2は、Si濃度に対する実効ドナー濃度が低く、また、電気抵抗が高かった。これは、自由電子を補償するアクセプターとしてのNサイト上のCの濃度が高いことによると考えられる。試料#2においては、表6に示されるように、C濃度が5.9×1018cm-3であり、Si濃度の6.5×1018cm-3と同等であった。そして、試料#2の実効ドナー濃度Nd-Nである9.3×1017cm-3は、Si濃度からC濃度を引いた値である6.0×1017cm-3と近かった。このことは、試料#2の電子のほとんどがNサイト上のCにトラップされ、そのために電気抵抗が高まったことを示している。