(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095504
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】経皮的全内視鏡用椎間板切除器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/56 20060101AFI20220621BHJP
【FI】
A61B17/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208865
(22)【出願日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】505273648
【氏名又は名称】中村 周
(72)【発明者】
【氏名】中村 周
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL01
4C160LL24
4C160NN01
(57)【要約】
【課題】椎間板切除用器具において,経皮的全内視鏡の作業用内腔に挿入可能な細長い器具でありながら剛性も確保し,刃の部分を器具長軸より側方に突出でき,さらにその突出をハンドルにて瞬間的に適宜変化させることができる器具であり,その突出がより先端側で側方に突出できることが望ましい.
【解決手段】ハンドル操作にて弯曲して側方に突出する弾性プレートは即時的に突出を適宜変えることができるため,器具の回旋による円運動を平面的な骨面に適合させて椎間板を剥離できる.軸とクランクにより稼動する機構ではないため脆弱な部分がなく強度が高い.弾性プレートは弯曲することにより剛性が高くなり椎間板を骨面からはがすのに十分な剛性となる.ストッパーボックス内腔の構造により,弾性プレートが先端側でより側方に突出させることができるので,器具が到達できる最深部にて,より先の方まで椎間板剥離が可能となる.
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮的全内視鏡用の鉗子器具において,円筒の細長いシャフトとその先端側の一側方に開窓部があり開窓部の底に底板があり,
開窓部より先端側にストッパーボックスがあり,ストッパーボックスはシャフト内腔の延長線上で開窓部に通じる内腔を有し,その内腔の先端側は閉じており,開窓部先端はストッパーボックス内腔先端より十分手元側に位置し,
シャフトの内部で摺動するロッドがあり,ロッドの先端部に弾性プレートの一端が固定されており,弾性プレートは可塑性弾性素材の薄い板状で,弾性プレートの長さは開窓部の長さより長く,弾性プレートの幅は開窓部の幅よりも狭く,
シャフトの手元側に固定ハンドルとそれに交差して,支点軸にて回転可能に接続された一本の可動ハンドルがあり,可動ハンドルにロッドの一端をはめ込む陥凹部があり,
ハンドル操作にて押し出された弾性プレートがストッパーボックス内腔に当たって弯曲して開窓部より側方に突出することを特徴とする椎間板切除器具.
【請求項2】
前述ストッパーボックスの内腔の先端に連続して下方は曲面となっていて,それは開窓部先端の角を中心点とする円弧曲面であることを特徴とする請求項1に記載の椎間板切除器具.
【請求項3】
可動ハンドルには固定ハンドルの支点軸を受け入れる軸受孔があり,軸受孔は長円形の孔となっていることを特徴とする請求項1に記載の椎間板切除器具
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経皮的全内視鏡を用いた腰椎椎体間固定手術において使用する,椎間板を切除する器具に関するものである.
【背景技術】
【0002】
低侵襲脊椎手術において脊椎経皮的全内視鏡を用いる方法がある.脊椎経皮的全内視鏡900とは
図1,
図2のように体内に挿入する部分である本体部分901は外径約6mm弱から7mm弱程の細長い円柱で,そのなかで鏡筒902と光源路903と潅流水路904と作業用内腔905が一体となったものである.皮膚切開部Sから体内に外筒906を挿入し,その中に本体部分901を挿入して,潅流水路904から水を流して対象周囲を洗い流しながら,接続されたカメラからの画像をモニターに拡大して写して,作業用内腔905に挿入した把持鉗子800等の器具にて脊椎Bや椎間板D等に対して操作する.作業用内腔905に挿入できる器具は
図3で示す把持鉗子のような外径2.5mmから4mm程で長さ200mmから400mm程の細長い円柱形を基本外形とするもので,シャフト830にハンドル850や固定顎部810と開閉する可動顎部820等を備えた器具である.元々湾曲している器具は挿入できない.
脊椎は神経が集中する部分であり,そこ椎間板に安全に侵入できる経路は特定の小範囲に限られており,経皮的全内視鏡が細長い器具であることにより,その小さな安全領域を経由することができる.
【0003】
腰椎すべり症や腰椎椎間板変性症に対して行われている腰椎椎体間固定術とは,
図4のように,一般的には椎体間骨移植と後方スクリュー固定を行う手術である.椎体間骨移植は,椎体Bの間にある椎間板Dの大部分を切除してその空間にケージ910という箱形状のスペーサーを挿入し,そのケージには移植用の骨組織を充填しており,さらにケージ周囲にも骨移植を行うものである.後方スクリュー固定とは,骨組織である椎弓Lと椎体Bに挿入したスクリュー911と,それに付属するバー912などにて隣接する椎体同士を不動化するものである.腰椎椎体間固定術により椎体間は骨癒合して症状が緩和される. 椎体間骨移植の際に骨癒合を阻害する椎間板を大部分で切除する必要があり,それには比較的鋭利なものを強い力で椎間板と骨との境界に押し当てて骨面に沿って動かして,骨面から椎間板を剥がす必要がある.椎間板は骨面に固着しており,器具には強度と剛性が必要となる.
【0004】
腰椎椎体間固定術を経皮的全内視鏡を用いて行う方法(後述の非特許論文1)がある.経皮的全内視鏡を用いれば,従来の腰椎椎体間固定術よりはるかに小侵襲に手術を行うことができるが,前述のように使用できる器具は細長いため強度や剛性に制約がある.
また,広範囲にわたり椎間板を切除する必要がある一方,椎間板への経路がそれより小範囲であり,経皮的全内視鏡は骨や筋,筋膜,などに動きが制約されているため,器具の到達可能範囲に制限がある.そのため,到達範囲を広げる目的で,器具先端側の刃の部分を動かすよう操作できる機構をつけることが考えられるが,既存の把持鉗子800のような複数の軸とクランクにより稼動する機構では細かい部品で構成されるため,そこが脆弱となり操作時に破損してしまう.
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】論文表題「経皮的腰椎椎体間固定術(PELIF)の成績」 掲載雑誌名Journal of Spine Research 8巻7号 Page1317-1320.2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
椎間板切除用器具において,経皮的全内視鏡の作業用内腔に挿入することができる細長い器具でありながら強度と剛性も確保した構造で,刃の部分を器具長軸より側方に突出でき,さらにその突出をハンドルにて瞬間的に適宜変化させることができる器具であることが課題である.さらに,その突出がより先端側で側方に突出できる構造であることが望ましい.
【課題を解決するための手段】
【0007】
当発明の経皮的全内視鏡用椎間板切除器具は,円筒の細長いシャフトとその先端側の一側方に開窓部があり,開窓部の底(下方)に底板があり,開窓部より先端側にストッパーボックスがあり,ストッパーボックスはシャフト内腔の延長上で開窓部に通じる内腔を有する.ストッパーボックスの内腔の先端側は閉じている.シャフトの内部で摺動するロッドは,その先端部に弾性プレートの一端が固定されている.弾性プレートは可塑性弾性素材の薄い板状で,その長さは開窓部の長さより長く,弾性プレートの幅は開窓部の幅よりも狭い.シャフトの手元側に固定ハンドルとそれに交差して,支点軸にて回転可能に接続された一本の可動ハンドルがある.可動ハンドルにロッドの一端の球形状の部分をはめ込む陥凹部があり,ロッドが脱着可能で動きを許容するように接続できる.
前述ストッパーボックスの内腔の先端側は曲面となっていて,それは開窓部先端の角を中心点とする円弧曲面である.開窓部先端はストッパーボックス内腔先端より十分手元側に位置する.
可動ハンドルには固定ハンドルの支点軸を受け入れる軸受孔があり,軸受孔は長円孔となっている.
【0008】
可動ハンドルを握るとロッドが先端側に押され弾性プレートが底板に沿って先端側に進み,そして弾性プレートの先端がストッパーボックス内腔先端にあたってからさらに押されると弾性プレートがたわみ,開窓部から逸脱して側方に突出する.弾性プレートは開窓部先端の角に当たり,そこを支点にストッパーボックス内腔先端から続く曲面に沿って弾性部プレート先端が移動して弾性プレートの先端が大きく下方を向きくことで弾性プレートはより先端側で大きく突出する.ハンドルを緩めると弾性プレートの可塑性弾性により元に戻る.
手術時には器具を椎間板内に挿入し,弾性プレートがたわんだ状態で鉗子全体を回旋させると,弾性プレートの側面の角が軟らかい椎間板に食い込み,その先の硬い骨に当り,そこから動かすと骨から椎間板を剥離することができる.器具を回旋させながら弾性プレートのたわみを減らしていくと,刃を平面的な骨面に沿って動かすことができ,連続的に剥離することができる.剥離した椎間板片は既存の把持鉗子にて把持摘出する.
【0009】
弾性プレートと開窓部底板の間に椎間板片がはさまって弾性プレートの突出が元に戻らなくなり,経皮的全内視鏡の作業用内腔に引っかかって器具を体外に引き出せなくなってしまった場合でも,可動ハンドルの軸受孔が長円孔であることにより,ロッドを大きく手元側に動かすことができ,弾性プレートを手元側に大きく引っ込めて開窓部から椎間板片をはずすことができる.
【発明の効果】
【0010】
複数の軸とクランクにより稼動する機構を用いていないため脆弱な部分がなく強度が高い.弾性プレートは弯曲することにより剛性が高くなり椎間板を骨面からはがすのに十分な剛性となる.
ハンドル操作にて即時的に弾性プレートの突出を適宜変えることができるため,器具の回旋という円運動を平面的な骨面に適合させて弾性プレートを動かすことができ,連続的に広範囲に剥離することができる.
ストッパーボックス内腔の構造により,弾性プレートの先端部を拘束しながらも,より先端側で側方に突出させることができるので,器具が到達できる最深部にて,より先の方まで椎間板剥離が可能となる.
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】手術時の腰椎軸断面における経皮的全内視鏡と外筒と把持鉗子.
【
図3】経皮的全内視鏡用の既存の把持鉗子の側面図.
【
図4】腰椎椎体間固定術の腰椎矢状断面における模式図.
【
図8】実施形態1のロッド手元側と可動ハンドル陥凹部の斜視図.
【
図10】実施形態1の弾性プレート突出時の先端側の斜視図.
【
図11】実施形態1による椎間板切除時の腰椎矢状断面における動態模式図.
【
図12】実施形態1の手元側の側面図(ロッドを最大に引いた時).
【
図13】ストッパーボックス内腔の亜型の矢状断面図.
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態1を
図5~12を用いて説明する.円筒の外径3-4mmで長さが約370mmのシャフト130は,その先端側DIの上方UPへ長方形に開窓された開窓部131があり,シャフト130の内腔が外に通じている.開窓部131の底(下方DW)に底板132があり,底板の上面が平面である.開窓部131より先端側にストッパーボックス110があり,ストッパーボックス110は開窓部131に通じる内腔を有し,その内腔はシャフト130内腔の延長線上に位置する.ストッパーボックス110の内腔の先端側は閉じている.シャフト130の内腔内で摺動するロッド140は細長い円柱形で,その先端部に弾性プレート120の一端が固定されている.弾性プレート120は可塑性弾性素材の厚さ0.5mm程の薄い板状で,その長さは開窓部131の長さより長く,弾性プレート120の幅は開窓部131の幅よりもわずかに小さい.シャフト130の手元側PRに固定ハンドル150が固定され,固定ハンドル150と交差して,支点軸151にて回転可能に接続された一本の可動ハンドル160がある.図示していないが可動ハンドル160がはずれないように支点軸151にキャップを固定している.可動ハンドル上端163にロッド140の一端をはめ込む陥凹部164があり,後述するようにロッド140が脱着可能で動きを許容するように接続する.ロッド140の一端は球形のロッドボール142がついており,陥凹部164の円柱空洞内にはまって制動されるが,陥凹部164の空洞は先端側において上下方向に広がっており,一平面上(図の上下方向UP,DW)のスライドと回転の動きを小範囲で許容する.
前述ストッパーボックス110の内腔の先端111と連続してその下方が曲面112となっていて,それは開窓部先端の角113を中心点とする円弧曲面である(
図6).開窓部先端の角113はストッパーボックス内腔先端111より十分手元側に位置する.
可動ハンドル160には固定ハンドル150から突出している支点軸151を受け入れる軸受孔161があり,軸受孔161は長円孔となっている.ハサミと同様に固定ハンドルと可動ハンドルにはそれぞれに指を入れる輪152,162がある.弾性プレート120がストッパーボックス内腔先端に当たってたわみ始める位置で可動顎160の長軸がシャフト130の長軸に対して垂直となり,その状態では軸受孔161の上端に支点軸151が位置する.
【0013】
図6,9,10のように,
図9aの状態から可動ハンドル160を握るとロッド140が先端側に押され弾性プレート120が底板132に沿って先端側に進み,そして弾性プレート120がストッパーボックス内腔先端111にあたって(
図9b)からさらに押されると弾性プレート120が開窓部131から逸脱して上方UPにたわむ(
図9c,
図10).弾性プレート120は開窓部先端の角113に当たり,そこを支点にストッパーボックス内腔の曲面112に沿って弾性部プレート先端が移動して弾性プレート120の先端が大きく下方DWを向きくことで弾性プレートはより先端側で上方に出っ張る.可動ハンドルを緩めると弾性プレート120の可塑性弾性により元に戻る.
手術操作の実際は,
図11(腰椎矢状断面における動態模式図)のように,器具を椎体B間の椎間板D内に挿入した後,ハンドルを握って弾性プレート120をたわませた状態で鉗子器具全体を回旋させると,弾性プレート120の側面の角が軟らかい椎間板Dに食い込み,その先の硬い骨である椎体Bにあたる.器具をさらに回旋させながら弾性プレートのたわみを減らしていくと,刃を平面的な椎体Bと椎間板Dの境界面に沿って動かすことができ,椎体Bから椎間板Dを連続的に剥離することができる.剥離した椎間板片は既存の把持鉗子にて把持摘出する.
【0014】
弾性プレート120と底板132の間に椎間板片がはさまって弾性プレート120の突出が元に戻らなくなり,器具を体外に引き出せなくなってしまった場合でも,可動ハンドル160の軸受孔161が長円孔であることにより,
図12のように,可動ハンドル160を開いて長円孔内で支点軸をずらしていくことで,ロッド140を大きく手元側に引くことができ,弾性プレート120を手元側に大きく引っ込めて開窓部から椎間板片をはずすことができる.
【0015】
ストッパーボックス内腔の形状は,亜型として
図13aのように単純な真っ直ぐの内腔も考えられる.実施形態1よりも弾性プレートの先端部を強固に拘束し操作中に逸脱しにくいが,弾性プレートが先端側でたわみにくくなってしまう.また,
図13bのようなすこし掘り下げられた内腔も考えられる.
長円形の軸受孔161と支点軸151の隙間でずれる動きを制限するため,その隙間を埋めるスペーサーも付属するが脱着可能である.
【符号の説明】
【0016】
S 皮膚切開部
L 骨(椎弓)
B 骨(椎体)
D 椎間板
N 神経
UP 上方
DW 下方
DI 先端側
PR 手元側