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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095514
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】絶縁性熱伝導シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220621BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20220621BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20220621BHJP
   H01B 17/56 20060101ALI20220621BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220621BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 F
H01B17/56 A
B32B27/18 Z
B32B27/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031937
(22)【出願日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2020208813
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 譲章
(72)【発明者】
【氏名】池田 吉紀
【テーマコード(参考)】
4F100
5E322
5F136
5G333
【Fターム(参考)】
4F100AA14A
4F100AA14B
4F100AA14C
4F100AK47A
4F100AK47B
4F100AK47C
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DE01A
4F100DE01B
4F100DE01C
4F100DE02
4F100EH46
4F100EJ19
4F100EJ86
4F100GB41
4F100JG04A
4F100JG04B
4F100JG04C
4F100JJ01
4F100JJ01A
4F100JJ01B
4F100JJ01C
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
5E322AB06
5E322FA04
5E322FA09
5F136BC07
5F136FA14
5F136FA16
5F136FA17
5F136FA18
5F136FA23
5F136FA25
5F136FA52
5F136FA53
5F136FA54
5F136FA63
5F136FA82
5G333AA03
5G333AB07
5G333AB12
5G333CB11
5G333DA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安定したシート形状を有しつつ向上した熱伝導性を有する絶縁性熱伝導シート、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂を含有する絶縁性熱伝導シート10であって、面方向に垂直な断面全体について、絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の合計を100面積%としたときに、90~99面積%の絶縁性熱伝導粒子及び1~10面積%のバインダー樹脂を含有し、かつ、面方向に垂直な断面について、絶縁性熱伝導シートの表面部分12における絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比が、絶縁性熱伝導シートの中心部分14における絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比よりも大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂を含有する絶縁性熱伝導シートであって、
面方向に垂直な断面全体について、前記絶縁性熱伝導粒子及び前記バインダー樹脂の合計を100面積%としたときに、90~99面積%の前記絶縁性熱伝導粒子、及び1~10面積%の前記バインダー樹脂を含有し、かつ、
面方向に垂直な断面について、絶縁性熱伝導シートの表面部分における前記絶縁性熱伝導粒子に対する前記バインダー樹脂の面積比が、絶縁性熱伝導シートの中心部分における前記絶縁性熱伝導粒子に対する前記バインダー樹脂の面積比よりも大きい、
絶縁性熱伝導シート。
【請求項2】
前記絶縁性熱伝導粒子が、扁平状の絶縁性熱伝導粒子を含む、請求項1に記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項3】
前記バインダー樹脂が、アラミド樹脂である、請求項1又は2に記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項4】
前記絶縁性熱伝導粒子が、変形している扁平状の絶縁性熱伝導粒子を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項5】
前記絶縁性熱伝導粒子が、窒化ホウ素粒子である、請求項1~4のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項6】
面内方向における60W/(m・K)超の熱伝導率を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項7】
厚み方向における3.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項8】
面方向に垂直な断面全体について、10面積%超の空隙を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項9】
7.5体積%以上のバインダー樹脂及び92.5体積%未満の絶縁性熱伝導粒子を含有する2つのA層、並びに、2つのA層の間に配置されており7.5体積%未満のバインダー樹脂及び92.5体積%以上の絶縁性熱伝導粒子を含有するB層、を有する積層体を提供すること、並びに、
前記積層体をロールプレスすること、
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性熱伝導シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本開示は、電気製品内部の半導体素子や電源、光源などの発熱部品において発せられる熱を、速やかに拡散し局所的な温度上昇を緩和すること又は発熱源から離れた箇所に熱を輸送することの可能な、熱伝導性・熱輸送特性(特に面内方向における熱伝導性・熱輸送特性)に優れる絶縁性熱伝導シートに関する。
【0003】
近年、電子機器の薄短小化、高出力化に伴う発熱密度の増加により、放熱対策の重要性が高まっている。電子機器の熱トラブルを軽減するためには、周辺部材に悪影響を及ぼさないよう、機器内で発生した熱をすみやかに冷却材や筐体等へ拡散して逃がすことが重要である。このために、特定の方向への熱伝導が可能な熱伝導部材が求められる。また多くの場合、冷却材や筐体への漏電を防ぐため、熱伝導部材には電気絶縁性も求められる。
【0004】
特許文献1は、エポキシ樹脂及び無機フィラーを含有している第1表面層、第2表面層、及び中間層を備えている熱伝導シートについて記載しており、第1表面層及び第2表面層は、それぞれ、中間層よりも無機フィラーの体積含有率が小さい層であることを記載している。
【0005】
特許文献2は、特定の熱伝導率を有する芳香族ポリアミドフィルムに、接着層を介してグラファイト層が形成されてなる放熱シートを開示している。
【0006】
特許文献3は、層(A)と層(B)を含む多層構造を有する熱伝導シートについて記載しており、層(A)が、窒化ホウ素粒子等の絶縁性非球状粒子及び有機高分子化合物を含む組成物からなる層であり、層(B)が、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂などの絶縁性樹脂組成物からなる層であることを記載している。
【0007】
特許文献4は、第一の表面層及び第二の表面層、並びにこれらの表面層の間に配置される中間層を含む伝熱部材について記載しており、第一の表面層及び第二の表面層、並びに中間層が、それぞれ、六方晶窒化ホウ素一次粒子の配向度が特定の値である窒化ホウ素焼結体と、窒化ホウ素焼結体に含侵された熱硬化性樹脂組成物とを含むことを記載している。
【0008】
特許文献5は、熱硬化性樹脂及びフィラーを含む樹脂組成物層と、樹脂組成物層の少なくとも一方の面上に配置され、樹脂組成物層とは対向しない面の算術平均表面粗さが1.5μm以下である接着材層と、を有する多層樹脂シートを開示している。当該文献は、接着材層が無機フィラーを含みうることを記載している。
【0009】
特許文献6は、絶縁性粒子及びバインダー樹脂を含有する絶縁シートを開示している。当該文献は、絶縁シートが、面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有することを記載しており、かつ、絶縁性粒子が、変形している扁平状粒子を含むことを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2016/017670号
【特許文献2】特開2010-6890号公報
【特許文献3】特開2011-230472号公報
【特許文献4】国際公開第2018/181606号
【特許文献5】特開2019-14261号公報
【特許文献6】特許第6755421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の絶縁性熱伝導シートでは、十分に高い熱伝導率を有しつつ、安定したシート形状を有する絶縁性熱伝導シートを得ることができない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、安定したシート形状を有しつつ向上した熱伝導性を有する絶縁性熱伝導シートを提供することを目的とする。また、本発明は、そのような絶縁性熱伝導シートを製造する方法を提供することも目的とする。
【0013】
本件発明者らは、上記の課題が下記の態様によって解決されることを見出した:
<態様1>
絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂を含有する絶縁性熱伝導シートであって、
面方向に垂直な断面全体について、前記絶縁性熱伝導粒子及び前記バインダー樹脂の合計を100面積%としたときに、90~99面積%の前記絶縁性熱伝導粒子、及び1~10面積%の前記バインダー樹脂を含有し、かつ、
面方向に垂直な断面について、絶縁性熱伝導シートの表面部分における前記絶縁性熱伝導粒子に対する前記バインダー樹脂の面積比が、絶縁性熱伝導シートの中心部分における前記絶縁性熱伝導粒子に対する前記バインダー樹脂の面積比よりも大きい、
絶縁性熱伝導シート。
<態様2>
前記絶縁性熱伝導粒子が、扁平状の絶縁性熱伝導粒子を含む、態様1に記載の絶縁性熱伝導シート。
<態様3>
前記バインダー樹脂が、アラミド樹脂である、態様1又は2に記載の絶縁性熱伝導シート。
<態様4>
前記絶縁性熱伝導粒子が、変形している扁平状の絶縁性熱伝導粒子を含む、態様1~3のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
<態様5>
前記絶縁性熱伝導粒子が、窒化ホウ素粒子である、態様1~4のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
<態様6>
面内方向における60W/(m・K)超の熱伝導率を有する、態様1~5のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
<態様7>
厚み方向における3.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する、態様1~6のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
<態様8>
面方向に垂直な断面全体について、10面積%超の空隙を有する、態様1~7のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シート。
<態様9>
7.5体積%以上のバインダー樹脂及び92.5体積%未満の絶縁性熱伝導粒子を含有する2つのA層、並びに、2つのA層の間に配置されており7.5体積%未満のバインダー樹脂及び92.5体積%以上の絶縁性熱伝導粒子を含有するB層、を有する積層体を提供すること、並びに、
前記積層体をロールプレスすること、
を含む、態様1~8のいずれか一項に記載の絶縁性熱伝導シートの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定したシート形状を有しつつ、向上した熱伝導性を有する絶縁性熱伝導シートを提供することができる。また、本発明によれば、そのような絶縁性熱伝導シートを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本開示に係る絶縁性熱伝導シートの1つの実施態様の面方向に垂直な断面における概略図を示す。
図2図2は、本開示に係る絶縁性熱伝導シートの製造方法で用いられる積層体の1つの実施態様の面方向に垂直な断面における概略図を示す。
図3図3は、実施例1に係る絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。
図4図4は、比較例4に係る絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。
図5図5は、比較例5に係る絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。
図6図6は、比較例6に係る絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪絶縁性熱伝導シート≫
本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、
絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂を含有する絶縁性熱伝導シートであって、
面方向に垂直な断面全体について、絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の合計を100面積%としたときに、90~99面積%の絶縁性熱伝導粒子、及び1~10面積%のバインダー樹脂を含有し、かつ、
面方向に垂直な断面について、絶縁性熱伝導シートの表面部分における、絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比が、絶縁性熱伝導シートの中心部分における、絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比よりも、大きい。
【0017】
図1は、本開示に係る絶縁性熱伝導シートの1つの実施態様(絶縁性熱伝導シート10)の、面方向に垂直な断面概略図を示す。図1の「D」及び「S」は、それぞれ、絶縁性熱伝導シート10の厚み方向及び面方向を示す。なお、図1及び図2の概略図は、縮尺どおりではない。図1の絶縁性熱伝導シート10は、2つの表面部分12、及び中心部分14を有している。2つの表面部分12は、それぞれ、絶縁性熱伝導シートの主たる表面に隣接している部分である。中心部分14は、絶縁性熱伝導シートの厚み方向Dにおいて、2つの表面部分12の間に位置している部分である。絶縁性熱伝導シート10では、バインダー樹脂が、表面部分12に偏在している。すなわち、絶縁性熱伝導シート10の表面部分12における絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比が、絶縁性熱伝導シートの中心部分14における絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比よりも大きくなっている。
【0018】
一般に、絶縁性熱伝導シートの熱伝導率を向上させるためには、絶縁性熱伝導粒子の含有量(又は充填率)を高めることが考えられる。しかしながら、従来の技術では、バインダー樹脂に対する絶縁性熱伝導粒子の量が大きい場合に、シート状に成型することが困難である場合があった。
【0019】
これに対して、本件発明者らは、絶縁性熱伝導シートにおけるバインダー樹脂の分布を調節することによって、バインダー樹脂の割合が比較的低い場合であっても、シート形状を保持し、かつ比較的高い熱伝導率を示す絶縁性熱伝導シートが得られることを見出した。
【0020】
具体的には、面方向に垂直な断面全体について、絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の合計を100面積%としたときに、90~99面積%の絶縁性熱伝導粒子及び1~10面積%のバインダー樹脂を含有している絶縁性熱伝導シートにおいて、
面方向に垂直な断面について、絶縁性熱伝導シートの表面部分における絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比を、絶縁性熱伝導シートの中心部分における絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比よりも大きくすることによって、シート形状を保持し、かつ比較的高い熱伝導率を示す絶縁性熱伝導シートが得られることを見出した。
【0021】
理論によって限定する意図はないが、従来の絶縁性熱伝導シートでは、バインダー樹脂がシート内に比較的均一に分布していることによって、シート全体にわたって絶縁性熱伝導粒子の間にバインダー樹脂が存在することとなり、結果として、絶縁性熱伝導粒子の間の直接的な接触が制限されていたと考えられる。また、従来の絶縁性熱伝導シートでは、バインダー樹脂がシートの表面側に偏在している場合であっても、中心部分にも比較的多くのバインダー樹脂が存在し、結果として、絶縁性熱伝導粒子の間の直接的な接触が制限されていたと考えられる。
【0022】
これに対して、本発明に係る絶縁性熱伝導シートでは、上記のような構成によって、シートの中心部分においてバインダー樹脂が極端に低減されており、それによって、中心部分において絶縁性熱伝導粒子の相互の直接の接触が増加しており、結果として、比較的高い熱伝導率を有する絶縁性熱伝導シートを得ることができると考えられる。
【0023】
さらに、本開示に係る絶縁性熱伝導シートでは、シートの表面部分にバインダー樹脂が偏在していることによって、シート全体としての絶縁性熱伝導粒子の割合が比較的多い場合であっても、シートの良好な成形性及びシートの良好な形状保持性を確保することができると考えられる。
【0024】
以下で、本開示に係る絶縁性熱伝導シートについて詳述する。
【0025】
<絶縁性熱伝導シートの全体的な構成>
本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、面方向に垂直な断面全体について、絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の合計を100面積%としたときに、1~10面積%のバインダー樹脂を含有する。バインダー樹脂の含有率が10面積%以下である場合には、十分に高い熱伝導率を確保することができ、1面積%以上である場合には、シートの良好な成形性及びシートの良好な形状保持性を確保することができる。
【0026】
本開示に係る絶縁性熱伝導シートに含有されるバインダー樹脂は、面方向に垂直な断面全体について、絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の合計を100面積%としたときに、1.5面積%以上、2.0面積%以上、2.5面積%以上、3.0面積%以上、4.0面積%以上、若しくは5.0面積%以上であってよく、かつ/又は9.0面積%以下、8.0面積%以下、7.0面積%以下、若しくは6.0面積%以下であってよい。バインダー樹脂の含有率が1.5面積%以上である場合には、成形の容易性が確保され、かつシートの形状安定性が確保されるため、特に好ましい。
【0027】
本開示において、面方向に垂直な断面全体について、絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の合計を100面積%としたときのバインダー樹脂の「面積%」は、絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面をSEMによって撮影し、かつ取得された画像における一定面積中に存在する絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の面積を計測することによって、決定することができる。なお計測の対象とする面積は、断面全体にわたる平均の含有量が反映されるように選択され、特に、絶縁性熱伝導シートの表面部分又は中心部分のいずれかに偏らないように選択される。また、絶縁性熱伝導シートが絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂以外の添加物を有する場合には、上記の一定面積中に当該添加物が含まれないように上記の一定面積を設定することなどによって、絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の合計を100面積%としたときのバインダー樹脂の「面積%」を算出することができる。
【0028】
本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、面方向に垂直な断面全体について、絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の合計を100面積%としたときに、90~99面積%の絶縁性熱伝導粒子を含有する。絶縁性熱伝導粒子の含有率が90面積%以上である場合には良好な熱伝導性が得られ、99面積%以下である場合には樹脂組成物の粘度の上昇が抑制され、成形の容易性が確保され、かつシートの形状安定性が確保される。
【0029】
好ましくは、本開示に係る絶縁性熱伝導シートに含有される絶縁性熱伝導粒子は、面方向に垂直な断面全体について、絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の合計を100面積%としたときに、92面積%以上、93面積%以上、94面積%以上、若しくは95面積%以上であってよく、かつ/又は99面積%以未満、98.5面積%以下、98面積%以下、若しくは97面積%以下であってよい。
【0030】
本開示において、面方向に垂直な断面全体について、絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の合計を100面積%としたときの絶縁性熱伝導粒子の「面積%」は、バインダー樹脂について上述したのと同様にして決定することができる。
【0031】
なお、後述するとおり、本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、空隙及び添加物(繊維状補強材など)を含有しうる。本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、好ましくは、面方向に垂直な断面全体について、合計で、70面積%以上、80面積%以上、90面積%以上、又は95面積%以上の絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂を有する。
【0032】
<絶縁性熱伝導シートの厚み方向における構成>
上述のとおり、本開示に係る絶縁性熱伝導シートでは、バインダー樹脂が、シートの表面部分に偏在している。
【0033】
絶縁性熱伝導シートの「表面部分」は、絶縁性熱伝導シートの主たる表面のうちのいずれか1つに近接している部分である。したがって、絶縁性熱伝導シートの「表面部分」は、通常、絶縁性熱伝導シートの2つの主たる表面それぞれについて1つ存在する。
【0034】
絶縁性熱伝導シートの「表面部分」は、特には、絶縁性熱伝導シートの主たる表面のうちの1つから出発して、絶縁性熱伝導シートの厚み方向に沿って絶縁性熱伝導シートの厚みの10%までの部分とすることができる。
【0035】
一方で、絶縁性熱伝導シートの「中心部分」は、通常、絶縁性熱伝導シートの厚み方向において2つの表面部分の間に位置している部分である。
【0036】
絶縁性熱伝導シートの「中心部分」は、特には、絶縁性熱伝導シートの主たる表面のうちの1つから出発して、絶縁性熱伝導シートの厚み方向に沿って、絶縁性熱伝導シートの厚みの10%超~90%未満までの部分とすることができる。
【0037】
(バインダー樹脂の偏在)
本開示に係る絶縁性熱伝導シートでは、面方向に垂直な断面について、絶縁性熱伝導シートの表面部分における、絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比が、絶縁性熱伝導シートの中心部分における、絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比よりも大きい。
【0038】
特には、面方向に垂直な断面について、絶縁性熱伝導シートの表面部分における絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比が、絶縁性熱伝導シートの中心部分における絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比と比較して、1.1倍以上、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、若しくは10倍以上であってよく、かつ/又は、100倍以下、75倍以下、50倍以下、若しくは25倍以下であってよい。
【0039】
絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面において、絶縁性熱伝導シートの表面部分は、バインダー樹脂と絶縁性熱伝導粒子との合計を100面積%としたときに、1面積%超、2.0面積%以上、2.5面積%以上、若しくは5.0面積%以上、かつ/又は100面積%未満、90面積%以下、75面積%以下、50面積%以下、25面積%、若しくは10面積%以下のバインダー樹脂を含有することができる。
【0040】
絶縁性熱伝導シートが、その表面部分において、バインダー樹脂と絶縁性熱伝導粒子との合計を100面積%としたときに、5面積%超50面積%以下のバインダー樹脂を含有することが、好ましい。5面積%超である場合には、絶縁性熱伝導シートの形状保持性がさらに向上する。また、50面積%以下である場合には、表面部分における絶縁性熱伝導粒子の割合を比較的大きくすることができるので、絶縁性熱伝導シートの熱伝導率のさらなる向上をもたらしうる。さらに、50面積%以下である場合には、表面部分と中心部分との間での絶縁性熱伝導粒子の含有量の差を低減することが可能となり、それによって、これらの部分の間での熱特性(熱膨張率、熱収縮率など)における差異が低減されるため、絶縁性熱伝導シートの熱的寸法安定性がさらに向上しうる。
【0041】
絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面において、絶縁性熱伝導シートの表面部分は、バインダー樹脂と絶縁性熱伝導粒子との合計を100面積%としたときに、0面積%超、1面積%以上、10面積%以上、25面積%以上、50面積%以上、75面積%以上、若しくは80面積%以上、かつ/又は、98面積%以下、95面積%以下、若しくは94面積%以下の絶縁性熱伝導粒子を含有することができる。
【0042】
絶縁性熱伝導シートが、その表面部分において、バインダー樹脂と絶縁性熱伝導粒子との合計に対して、50面積%超95面積%以下の絶縁性熱伝導粒子を含有することが、好ましい。95面積%以下である場合には、表面部分におけるバインダー樹脂の含有量を増やすことができるため、絶縁性熱伝導シートの形状保持性がさらに向上しうる。また、50面積%超である場合には、表面部分における絶縁性熱伝導粒子の含有量が増加するので、絶縁性熱伝導シートの熱伝導率のさらなる向上がもたらされる。さらに、50面積%超である場合には、絶縁性熱伝導シートの熱的寸法安定性がさらに向上する。
【0043】
絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面において、絶縁性熱伝導シートは、その中心部分において、バインダー樹脂と絶縁性熱伝導粒子との合計を100面積%としたときに、0面積%超、0.01面積%以上、0.1面積%以上、0.2面積%以上、若しくは0.3面積%以上、かつ/又は10面積%未満、7.5面積%以下、5面積%以下、2.5面積%以下、若しくは1面積%以下のバインダー樹脂を含有することができる。
【0044】
絶縁性熱伝導シートが、その中心部分において、バインダー樹脂と絶縁性熱伝導粒子との合計に対して、0.1面積%以上5面積%以下のバインダー樹脂を含有することが、好ましい。中心部分におけるバインダー樹脂の割合が0.1面積%以上である場合には、絶縁性熱伝導シートの柔軟性をさらに向上させることができ、また、絶縁性熱伝導シート内の空隙率を低減することができる。また、シートの中心部分におけるバインダー樹脂の割合が5面積%以下である場合には、絶縁性熱伝導粒子の充填率を高めること、特には絶縁性熱伝導粒子の相互間の直接の接触をさらに増加させることが可能となるため、絶縁性熱伝導シートの熱伝導率がさらに向上しうる。
【0045】
また、絶縁性熱伝導シートの中心部分は、絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面において、バインダー樹脂と絶縁性熱伝導粒子との合計に対して、90面積%以上、92.5面積%以上、95面積%以上、98面積%以上、若しくは99面積%以上、かつ/又は、100面積%未満、99.9面積%以下、99.8面積%以下、若しくは99.7面積%以下の絶縁性熱伝導粒子を含有することができる。
【0046】
絶縁性熱伝導シートが、その中心部分において、バインダー樹脂と絶縁性熱伝導粒子との合計に対して、95面積%以上100面積%未満の絶縁性熱伝導粒子を含有することが、好ましい。100面積%未満である場合には、中心部分にバインダー樹脂を含有させることができるため、絶縁性熱伝導シートの柔軟性をさらに向上することが可能となり、絶縁性熱伝導シート内の空隙率を低減することができる。また、95面積%以上である場合には、絶縁性熱伝導粒子の充填率が増加するため、絶縁性熱伝導シートの熱伝導率がさらに向上する。
【0047】
絶縁性熱伝導シートの表面部分及び中心部分それぞれにおける、絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比は、絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面中の一定面積中において、絶縁性熱伝導シートの表面部分及び中心部分それぞれに存在する絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の面積を計測することによって、決定することができる。計測には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いることができる。
【0048】
(バインダー樹脂/絶縁性熱伝導粒子の組成)
本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、バインダー樹脂及び絶縁性熱伝導粒子の組成に関して、シート全体にわたって均一であってよい。すなわち、絶縁性熱伝導シートの表面部分に存在するバインダー樹脂と、絶縁性熱伝導シートの中心部分に存在するバインダー樹脂とが、種類及び組成に関して同じであってよく、かつ、絶縁性熱伝導シートの表面部分に存在する絶縁性熱伝導粒子と、絶縁性熱伝導シートの中心部分に存在する絶縁性熱伝導粒子とが、種類及び組成に関して同じであってよい。
【0049】
一方で、本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、バインダー樹脂の組成及び/又は絶縁性熱伝導粒子の組成に関して、シート全体にわたって均一でなくてもよい(不均一であってよい)。すなわち、例えば、絶縁性熱伝導シートの表面部分に存在するバインダー樹脂と、絶縁性熱伝導シートの中心部分に存在するバインダー樹脂とが、種類若しくは組成の点で異なっていてもよく、かつ/又は、絶縁性熱伝導シートの表面部分に存在する絶縁性熱伝導粒子と、絶縁性熱伝導シートの中心部分に存在する絶縁性熱伝導粒子とが、種類若しくは組成の点で異なっていてもよい。
【0050】
<空隙>
本開示に係る絶縁性熱伝導シートの1つの実施態様では、絶縁性熱伝導シートが、面方向に垂直な断面全体について、10面積%超の空隙を有する。
【0051】
従来、絶縁性熱伝導シート中の空隙は、絶縁性熱伝導シートの熱伝導率を低下させると考えられていた。特に、バインダー樹脂の含有を抑制して絶縁性熱伝導粒子を高充填させる場合には、絶縁性熱伝導粒子の形状に起因する粒子間の立体障害、及び、空隙を充填し得るバインダー樹脂の量の低下に起因して、空隙率が高くなり、結果として絶縁性熱伝導シートの熱伝導率が低下すると考えられていた。
【0052】
これに対して、本開示に係る絶縁性熱伝導シートでは、面方向に垂直な断面全体について10面積%超の空隙を有する場合であっても、比較的高い熱伝導率を達成することができる。理論によって限定する意図はないが、本発明に係る絶縁性熱伝導シートでは、バインダー樹脂の偏在によって、シート中心部分における絶縁性熱伝導粒子の充填率が向上している。そのため、シート中心部分において、絶縁性熱伝導粒子間の直接の接触が増加し、その結果として、比較的高い熱伝導率を達成することができると考えらえる。
【0053】
本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、上述のとおり、空隙率が比較的高い場合であっても、比較的高い熱伝導率を示す。一方で、絶縁性熱伝導シートにおける空隙は、可能な限り低減されていることが好ましい。好ましくは、絶縁性熱伝導シートが、面方向に垂直な断面全体について、30面積%以下、より好ましくは25面積%以下、更に好ましくは20面積%以下の空隙を有する。
【0054】
面方向に垂直な断面全体における空隙の「面積%」は、絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面をSEMによって撮影し、かつ取得された画像における一定面積中に存在する空隙の面積を計測することによって、算出することができる。
【0055】
<絶縁性熱伝導粒子>
【0056】
絶縁性熱伝導粒子は、絶縁性であり、かつバインダー樹脂よりも熱伝導が大きい任意の粒子、特に無機粒子である。絶縁性熱伝導粒子は、特に限定されず、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素などの粒子、表面を絶縁化した金属シリコン粒子、樹脂などの絶縁性材料で表面被覆した炭素繊維及び黒鉛、並びにポリマー系フィラーが挙げられる。面方向における熱伝導性、及び絶縁性の観点から、絶縁性熱伝導粒子が窒化ホウ素粒子、特には六方晶系窒化ホウ素粒子であることが好ましい。
【0057】
絶縁性熱伝導粒子の平均粒径は、好ましくは1~200μm、より好ましくは5~200μm、さらに好ましくは5~100μm、特に好ましくは10~100μmである。
【0058】
平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いてレーザー回折法によって測定されるメジアン径(ある粉体をある粒径から二つに分けたとき、その粒径より大きい粒子と小さい粒子が等量となる粒径、一般にD50とも呼ばれる)である。
【0059】
(扁平状)
本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、扁平状の絶縁性熱伝導粒子を含むことが好ましい。本開示に関して、粒子が「扁平状」であるとは、粒子の形状が板状、鱗片状、又はフレーク状であることを意味する。
【0060】
扁平状の絶縁性熱伝導粒子のアスペクト比は、10~1000であることが好ましい。アスペクト比が10以上である場合には、熱拡散性を高めるために重要な配向性が確保され、高い熱拡散性を得ることができるため好ましい。また、1000以下のアスペクト比を持つ絶縁性熱伝導粒子は、比表面積の増大による組成物の粘度の上昇が抑制されるため、加工の容易性の観点から好ましい。
【0061】
アスペクト比は、粒子の長径を、粒子の厚みで除した値であり、つまり長径/厚みである。粒子が球状の場合のアスペクト比は1であり、扁平な度合いが増すにつれてアスペクト比は高くなる。
【0062】
アスペクト比は、走査型電子顕微鏡を用いて、倍率1500倍で粒子の長径と厚みを測定し、長径/厚みを計算することによって、得ることができる。
【0063】
絶縁性熱伝導シートが扁平状の絶縁性熱伝導粒子を含む場合、扁平状の絶縁性熱伝導粒子は、絶縁性熱伝導粒子全体に対して50体積%以上を占めることが好ましい。50体積%以上である場合は、良好な面内方向の熱伝導率が確保されうる。絶縁性熱伝導粒子全体に対する扁平状の絶縁性熱伝導粒子の割合は、より好ましくは60体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上、さらにより好ましくは80体積%以上、特に好ましくは90体積%以上であり、最も好ましくは、絶縁性熱伝導粒子が、扁平状の絶縁性熱伝導粒子からなる。
【0064】
(窒化ホウ素粒子)
扁平状の絶縁性熱伝導粒子としては、例えば六方晶系窒化ホウ素粒子を挙げることができる。
【0065】
窒化ホウ素粒子の平均粒径は、例えば1μm以上、好ましくは1~200μm、さらに好ましくは5~200μm、さらにより好ましくは5~100μm、特に好ましくは10~100μmである。1μm以上である場合には、窒化ホウ素粒子の比表面積が小さく、樹脂との相溶性が確保されるため好ましく、200μm以下である場合には、シート成形の際に厚さの均一性を確保できるため好ましい。窒化ホウ素粒子は、単一の平均粒径を有する窒化ホウ素粒子を用いてもよく、異なる平均粒径を有する窒化ホウ素粒子の複数種類を混合して用いてもよい。窒化ホウ素粒子のアスペクト比は、10~1000であることが好ましい。
【0066】
絶縁性熱伝導粒子として窒化ホウ素粒子を用いる場合には、窒化ホウ素粒子以外の絶縁性熱伝導粒子を併用してもよい。その場合でも、窒化ホウ素粒子は、絶縁性熱伝導粒子全体に対して50体積%以上を占めることが好ましい。50体積%以上であれば、良好な面内方向の熱伝導率が確保されるため好ましい。絶縁性熱伝導粒子全体に対する窒化ホウ素粒子は、より好ましくは60体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上、さらにより好ましくは80体積%、特に好ましくは90体積%以上、又は95体積%以上である。
【0067】
絶縁性熱伝導粒子として窒化ホウ素粒子と等方性の熱伝導率を有するセラミックス粒子とを併用する場合には、絶縁性熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率と面内方向の熱伝導率のバランスを必要に応じて調節することができるため、好ましい態様である。また、窒化ホウ素粒子は高価な材料であるため、例えば表面を熱酸化して絶縁化した金属シリコン粒子のような安価な材料と併用することが便宜であり、この場合に、絶縁性熱伝導シートの原料コストと熱伝導率とのバランスを必要に応じて調節することができるため、好ましい態様である。
【0068】
(変形)
本開示に係る絶縁性熱伝導シートの1つの有利な実施態様では、絶縁性熱伝導粒子が、変形している扁平状の絶縁性熱伝導粒子を含んでいる。
【0069】
変形している扁平状の絶縁性熱伝導粒子を含む絶縁性熱伝導シートでは、面方向における熱伝導率がさらに向上する。理論によって限定する意図はないが、扁平状の絶縁性熱伝導粒子が変形していることによって、粒子間の隙間が埋められ、シート内部の空隙が低減されると考えられる。また、絶縁性熱伝導シートの製造の過程で、扁平状の絶縁性熱伝導粒子が変形する際に、粒子間に閉じ込められた気泡のシート外への排出が促進され、空隙の低減がさらに促進されるということも考えられる。
【0070】
変形している扁平状の絶縁性熱伝導粒子を含有している絶縁性熱伝導シートを得る方法は、特に限定されないが、例えば、扁平状の絶縁性熱伝導粒子を含む絶縁性熱伝導シート前駆体(例えば、スラリーを賦形・乾燥して得られるシートの積層体)に対してロールプレス処理を行う方法が挙げられる。特に、扁平状の絶縁性熱伝導粒子が高充填されている絶縁性熱伝導シート前駆体に対してロールプレス処理を行う方法によれば、絶縁性熱伝導粒子間に高いせん断応力が働きやすいため、粒子の変形がより顕著になると考えられる。
【0071】
〈バインダー樹脂〉
本開示に係るバインダー樹脂は、特に限定されない。バインダー樹脂としては、例えば、アラミド樹脂(芳香族ポリアミド)などの後述する熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができ、これらは、単独で、又は複数を組み合わせた混合物として用いることができる。バインダー樹脂は、特に好ましくは芳香族ポリアミドである。芳香族ポリアミドは、脂肪族ポリアミドと比較して優れた強度を有するため、バインダー樹脂として芳香族ポリアミドを用いた場合には、絶縁性熱伝導粒子の保持性及びシート形状の安定性が特に優れた絶縁性熱伝導シートを提供することができる。
【0072】
(熱特性)
絶縁性熱伝導シートの熱特性の観点からは、バインダー樹脂が耐熱性及び/又は難燃性において優れた性質を有していることが好ましい。特には、バインダー樹脂の融点又は熱分解温度が、150℃以上であることが好ましい。
【0073】
バインダー樹脂の融点は、示差走査熱量計で測定される。バインダー樹脂の融点は、より好ましくは、200℃以上、さらに好ましくは250℃以上、特に好ましくは300℃以上である。バインダー樹脂の融点の下限は、特に限定されないが、例えば、600℃以下、500℃以下、又は400℃以下である。
【0074】
バインダーの熱分解温度は、示差走査熱量計で測定される。バインダー樹脂の熱分解温度は、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは300℃以上、特に好ましくは400℃以上、最も好ましくは500℃以上である。バインダー樹脂の熱分解温度の下限は、特に限定されないが、例えば、1000℃以下、900℃以下、又は800℃以下である。
【0075】
車載向けの電子機器内部の放熱用途として用いる場合、樹脂材料の耐熱温度の高さも必要となる。炭化ケイ素を用いたパワー半導体の場合、300℃前後の耐熱性が要求される。したがって、300℃以上の耐熱性を有している樹脂は、車載用途、得にパワー半導体周辺の放熱用途に好適に用いることができる。そのような樹脂としては、例えばアラミド樹脂を挙げることができる。
【0076】
(熱可塑性樹脂)
柔軟性及びハンドリング性の観点からは、バインダー樹脂が熱可塑性樹脂を含むことが特に好ましい。熱可塑性樹脂を含む絶縁性熱伝導シートは、製造時に熱硬化を必要としないため、柔軟性に優れており、かつ電子機器内部への適用を比較的容易に行うことができる。
【0077】
また、バインダー樹脂が熱可塑性樹脂を含む場合には、絶縁性熱伝導シート内の空隙をさらに低減できると考えられるため、特に好ましい。理論によって限定する意図はないが、バインダー樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合には、例えば絶縁性熱伝導シートの製造時におけるロールプレス処理の際に加熱処理することによって、熱可塑性樹脂が軟化し、絶縁性熱伝導粒子間にトラップされた気泡の排出がさらに促進され、結果として空隙の低減効果をさらに高めることができると考えられる。
【0078】
本開示に係るバインダー樹脂として使用することができる熱可塑性樹脂としては、アラミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、及びポリベンゾオキサゾール(PBO)等を挙げることができる。
【0079】
(アラミド樹脂)
特には、バインダー樹脂がアラミド樹脂(芳香族ポリアミド)を含むこと、又はアラミド樹脂からなることが好ましい。バインダー樹脂がアラミド樹脂を含む場合、バインダー樹脂に対して90体積%以上で含有することが好ましい。バインダー樹脂としてアラミド樹脂を用いた場合には、絶縁性熱伝導粒子を高い割合で充填しながらも機械的強度がさらに優れた絶縁性熱伝導シートがもたらされる。従来の絶縁性熱伝導シートでは、シート自体の厚みが大きく、結果的に熱抵抗値が高くなってしまう場合があった。これに対して、アラミド樹脂を用いた絶縁性熱伝導シートは、絶縁性熱伝導粒子、特には窒化ホウ素粒子を高い割合で充填しながらも機械的強度に優れており、その結果、シートの厚さ自体が薄く、シート全体の熱抵抗値の低さに優れている。また、熱特性の観点からも、バインダー樹脂がアラミド樹脂を含むこと又はアラミド樹脂からなることが好ましい。アラミド樹脂は比較的高い熱分解温度を有しており、かつバインダー樹脂としてアラミド樹脂を用いた絶縁性熱伝導シートは、優れた難燃性を示す。
【0080】
アラミド樹脂は、アミド結合の60%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物である。アラミド樹脂として、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド及びその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミド及びその共重合体を用いることができ、例えばコポリパラフェニレン・3、4‘-ジフェニルエーテルテレフタルアミド(別名:コポリパラフェニレン・3、4‘-オキシジフェニレンテレフタルアミド)を挙げることができる。アラミド樹脂は単一で用いてもよく、複数を混合して用いてもよい。
【0081】
本開示に係るバインダー樹脂については、絶縁性熱伝導シートの「表面部分」と「中心部分」とにそれぞれ含まれるバインダー樹脂が、同一のものであっても異なるものであってもよい。加熱・冷却時や吸水・乾燥時の膨張・収縮率の差異に起因するシートの破壊を防ぐ点から、絶縁性熱伝導シートの「表面部分」と「中心部分」とにそれぞれ含まれるバインダー樹脂は、同一のものであることが好ましい。また、図1の絶縁性熱伝導シート10において、2つの「表面部分」12は、同一のバインダー樹脂であることが好ましい。
【0082】
〈添加物〉
本発明の絶縁性熱伝導シートは、難燃剤、変色防止剤、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、粘度調整剤、及び/又は補強材を含有していてもよい。さらに、シートの強度を高めるために、繊維状の補強材を含有していてもよい。繊維状の補強材としてアラミド樹脂の短繊維を用いると、補強材の添加によって絶縁性熱伝導シートの耐熱性が低下しないので好ましい。繊維状の補強材は、絶縁性熱伝導シート100体積部に対して0.5~25体積部の範囲で添加することが好ましく、1~20体積部の範囲で添加することがより好ましい。補強材等を添加する場合、絶縁性熱伝導シート100体積部に対するバインダー樹脂の割合は、3体積部を下回らないことが好ましい。
【0083】
<絶縁性熱伝導シート>
絶縁性熱伝導シートの厚みは特に制限されないが、例えば、300μm以下、200μm以下、150μm以下、100μm以下、又は90μm以下であってよい。絶縁性熱伝導シートの厚みの下限は、特に制限されないが、例えば0.1μm以上、1μm以上、又は10μm以上であってよい。絶縁性熱伝導シートの厚みが100μm以下である場合には、絶縁性熱伝導シート自体の熱抵抗値が低くなるため、好ましい。また、絶縁性熱伝導シート自体が薄いことによって、電子機器内部の制限された空間で放熱性能を発現することができる。
【0084】
(使用)
本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、例えば、電気製品内部の半導体素子又は電源、光源などの発熱部品において発せられる熱を速やかに拡散して局所的な温度上昇を緩和するために使用することができ、又は発熱源から離れた箇所に熱を輸送するために使用することができる。
【0085】
具体的には、本開示に係る絶縁性熱伝導シートの使用方法の例として、絶縁性熱伝導シートを発熱源(CPUなど)側に貼ることによって発熱源の熱を拡散し、それによって発熱源(チップ)温度の低減を行う使用方法、あるいは、絶縁性熱伝導シートを筐体側に貼ることによって筐体温度の局所的な増加を低減する使用方法などが挙げられる。
【0086】
絶縁性熱伝導シートを電子機器に適用する場合、その適用方法は特に限定されない。例えば、絶縁性熱伝導シートを、発熱源、例えば電子機器内部の半導体に、直接に接触させて又は他の熱伝導体を介して配置してよく、そのようにして、発熱源の表面温度を効率よく低減することができる。また、絶縁性熱伝導シートを発熱源と耐熱性の低い電子部品との間に配置することによって、耐熱性の低い電子部品に伝わる熱を拡散し、それによって、電子部品を熱から保護することができる。また、絶縁性熱伝導シートを発熱源と液晶ディスプレイの間に配置することで、局所的な加熱による液晶ディスプレイの不良、例えば色ムラを、低減することができる。さらに、絶縁性熱伝導シートを熱源と電子機器の外表面との間に配置することによって、電子機器の外表面の局所的な温度上昇を低減することができ、それによって、使用者への安全性をさらに向上することができ、例えば、低温やけどを回避することができる。
【0087】
(粘着層)
絶縁性熱伝導シートの一方の表面又は両方の表面に、粘着層及び/又は接着層を配置してもよい。この場合、粘着層及び接着層は、公知のものであってよい。絶縁性熱伝導シートの表面に粘着層及び/又は接着層を配置することで、電子機器内部等への絶縁性熱伝導シートの設置がさらに簡便となる。
【0088】
(面内方向における熱伝導率)
絶縁性熱伝導シートの熱伝導率が、面内方向で、60W/(m・K)超、65W/(m・K)超、70W/(m・K)以上、又は70W/(m・K)超であることが好ましい。熱伝導率が面内方向で60W/(m・K)超である場合には、電子機器の発熱を十分に拡散することができ、ヒートスポットが発生しにくくなるため、好ましい。面内方向の熱伝導率は高い程好ましいが、通常達成できる熱伝導率は、面内方向で高々100W/(m・K)である。
【0089】
絶縁性熱伝導シートの面内方向の熱伝導率は、熱拡散率、比重、及び比熱を全て乗じて算出することができる。すなわち、
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(比熱)×(比重)
によって算出することができる。
【0090】
上記の熱拡散率は、光交流法によって、光交流法熱拡散率測定装置を用いて測定することができる。比熱は、示差走査熱量計によって求めることができる。また、比重は、絶縁性熱伝導シートの外寸法及び重量から求めることができる。
【0091】
(厚み方向における熱伝導率)
絶縁性熱伝導シートの熱伝導率が、厚み方向で、3.0W/(m・K)、3.5W/(m・K)以上、4.0W/(m・K)、4.5W/(m・K)、若しくは5.0W/(m・K)以上であることが好ましい。厚み方向での熱伝導率の上限は特に制限されないが、10.0W/(m・K)以下、若しくは8.0W/(m・K)以下であってよい。
【0092】
絶縁性熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率は、熱拡散率、比重及び比熱を全て乗じて算出することができる。すなわち、
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(比熱)×(比重)
によって算出することができる。
【0093】
厚み方向の熱拡散率は、温度波分析法(温度波の位相遅れ計測法)により求めることができる。比熱は、示差走査熱量計によって求めることができる。また、比重は、絶縁性熱伝導シートの外寸法及び重量から求めることができる。
【0094】
本開示に係る絶縁性熱伝導シートを製造するための方法は、特に限定されない。本開示に係る絶縁性熱伝導シートは、例えば、下記に記載する本開示に係る製造方法によって製造することができる。
【0095】
≪製造方法≫
本発明は、下記の工程を含む、絶縁性熱伝導シートの製造方法を含む:
7.5体積%以上のバインダー樹脂及び92.5体積%未満の絶縁性熱伝導粒子を含有する2つのA層、並びに、2つのA層の間に配置されており7.5体積%未満のバインダー樹脂及び92.5体積%以上の絶縁性熱伝導粒子を含有するB層、を有する積層体を提供すること(提供工程)、並びに、
上記の積層体をロールプレスすること(ロールプレス工程)
を含む。
【0096】
本開示に係る製造方法に用いられるバインダー樹脂及び絶縁性熱伝導粒子については、本開示に係る絶縁性熱伝導シートについての上記の記載を参照することができる。
【0097】
<提供工程>
提供工程では、2つのA層、及びB層を有する積層体を提供する。図2は、本開示に係る絶縁性熱伝導シートの製造方法で用いる積層体の1つの実施態様(積層体20)の面方向に垂直な断面概略図を示す。この積層体20は、2つのA層22の間にB層24が配置された層構造を有している。
【0098】
(A層の構成)
2つのA層は、それぞれ独立に、1体積%以上、5体積%以上、10体積%以上、25体積%以上、50体積%以上、若しくは75体積%以上の絶縁性熱伝導粒子を含有することができ、かつ/又は、92.5体積%未満、90体積%以下、若しくは90体積%未満の絶縁性熱伝導粒子を含有することができる。
【0099】
2つのA層のうちの1つ、特には2つのA層の両方が、50体積%以上90体積%以下の絶縁性熱伝導粒子を含有することが、好ましい。90体積%以下である場合には、製造される絶縁性熱伝導シートの表面部分におけるバインダー樹脂の含有量を増やすことができるため、絶縁性熱伝導シートの形状保持性及び機械的安定性がさらに向上しうる。また、50体積%以上である場合には、製造される絶縁性熱伝導シートの熱伝導率のさらなる向上がもたらされる。さらに、50体積%以上である場合には、製造される絶縁性熱伝導シートの熱的寸法安定性がさらに向上する。
【0100】
2つのA層は、それぞれ独立に、7.5体積%以上、10体積%以上、若しくは12体積%以上のバインダー樹脂を含有することができ、かつ/又は、99体積%以下、90体積%以下、75体積%以下、50体積%以下、若しくは25体積%以下のバインダー樹脂を含有することができる。
【0101】
2つのA層のうちの1つ、特には2つのA層の両方が、10体積%以上50体積%以下のバインダー樹脂を含有することが、好ましい。10体積%以上である場合には、製造される絶縁性熱伝導シートの形状保持性がさらに向上する。また、50体積%以下である場合には、表面部分における絶縁性熱伝導粒子の含有量を増加させることが可能となるので、絶縁性熱伝導シートの熱伝導率のさらなる向上がもたらされうる。さらに、加熱された場合の絶縁性熱伝導シートの熱的寸法安定性がさらに向上しうる。
【0102】
(B層の構成)
B層は、92.5体積%以上、93体積%以上、94体積%以上、若しくは95体積%以上の絶縁性熱伝導粒子を含有することができ、かつ/又は、100体積%未満、99体積%以下、若しくは98体積%以下の絶縁性熱伝導粒子を含有することができる。
【0103】
B層は、95体積%以上99体積%以下の絶縁性熱伝導粒子を含有することが好ましい。99体積%以下である場合には、中心部分におけるバインダー樹脂の含有量を増やすことができるため、製造される絶縁性熱伝導シートの柔軟性をさらに向上させることが可能となり、また、絶縁性熱伝導シート内の空隙率を低減することができる。また、95体積%以上である場合には、絶縁性熱伝導粒子の充填率が増加し、絶縁性熱伝導粒子同士の接触がさらに促進されるため、製造される絶縁性熱伝導シートの熱伝導率がさらに向上する。
【0104】
B層は、0体積%超、0.1体積%以上、0.5体積%以上、1体積%以上、若しくは2体積%以上のバインダー樹脂を含有することができ、かつ/又は、7.5体積%未満、5体積%以下、若しくは4体積%以下のバインダー樹脂を含有することができる。
【0105】
B層は、1体積%以上5体積%以下のバインダー樹脂を含有することが好ましい。B層におけるバインダー樹脂の割合が1体積%以上である場合には、製造される絶縁性熱伝導シートの形状安定性をさらに向上させることができ、また、絶縁性熱伝導シート内の空隙率を低減することができる。また、B層におけるバインダー樹脂の割合が5体積%以下である場合には、絶縁性熱伝導粒子の充填率を高めることが可能となり、絶縁性熱伝導粒子同士の接触をさらに促進することができるため、製造される絶縁性熱伝導シートの熱伝導率がさらに向上する。
【0106】
(厚さ)
A層及びB層の厚みは、製造される絶縁性熱伝導シートにおいて、バインダー樹脂が所望の偏在パターンを示すように、適宜設定することができる。
【0107】
例えば、2つのA層の厚みは、それぞれ独立に、積層体の厚み全体に対して、0.5%以上、1%以上、2%以上、5%以上、7.5%以上、若しくは10%以上であってよく、かつ/又は、35%以下、30%以下、25%以下、若しくは20%以下であってよい。
【0108】
また、例えば、B層の厚みは、積層体の厚み全体に対して、30%以上、40%以上、50%以上、若しくは60%以上であってよく、かつ/又は、99%以下、98%以下、96%以下、90%以下、85%以下、若しくは80%以下であってよい。
【0109】
積層体を構成するA層及びB層は、バインダー樹脂及び絶縁性熱伝導粒子以外のその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、難燃剤、変色防止剤、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、粘度調整剤、及び/又は補強材などが挙げられる。「その他の成分」は、A層及びB層それぞれにおいて、25体積%以下、10体積%以下、5体積%以下、2.5体積%以下、又は1体積%以下であることが好ましい。
【0110】
(提供)
上述の積層体を提供する方法は、特に限定されない。例えば、A層及びB層に対応するスラリーをそれぞれ準備し、基材の上でそれぞれのスラリーを逐次的にシート状に賦形・乾燥することによって、積層体を得ることができる。あるいは、A層及びB層に対応するスラリーから、A層及びB層にそれぞれ対応する前駆体シート部材を事前に形成し、これらの前駆体シート部材を重ね合わせることによって、積層体を形成することもできる。
【0111】
積層体を提供する提供工程の1つの実施態様は、
(1)スラリーA及びスラリーBを調製すること、
(2)ガラス板などの基材上にスラリーAをシート状に賦形及び乾燥して、A層(第1のA層)を形成すること、
(3)上記A層の上に、スラリーBをシート状に賦形及び乾燥して、B層を形成すること、並びに、
(4)上記B層の上に、スラリーAをシート状に賦形及び乾燥して、さらなるA層(第2のA層)を形成すること
を含む。
【0112】
(スラリーの調製)
スラリーは、絶縁性熱伝導粒子、バインダー樹脂、及び溶剤を混合することによって得ることができる。絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂については、絶縁性熱伝導シートに関して上述した内容を参照することができる。
【0113】
スラリーA(A層を形成するためのスラリー)及びスラリーB(B層を形成するためのスラリー)における絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の含有量は、製造されるA層及びB層における絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の含有量が所望の値となるように、それぞれ設定することができる。
【0114】
スラリーには、随意に、難燃剤、変色防止剤、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、粘度調整剤、及び/又は補強材(繊維状の補強材)などの添加物を添加することができる。
【0115】
スラリーには、無水塩化カルシウム又は無水塩化リチウムを添加してもよい。無水塩化カルシウム又は無水塩化リチウムを添加することによって、溶剤に対するバインダー樹脂の溶解性を向上させることができる場合がある。特に、バインダー樹脂としてアラミド樹脂を用いる場合には、無水塩化カルシウム又は無水塩化リチウムを添加することが好ましく、この場合には、溶剤に対するアラミド樹脂の溶解性をさらに向上させることができる。
【0116】
溶剤としては、バインダー樹脂を溶解できる溶剤を用いることができる。例えば、バインダー樹脂としてアラミド樹脂を用いる場合、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド、又はジメチルスルホキシドを用いることができる。
【0117】
絶縁性熱伝導粒子、バインダー樹脂及び溶剤の混合には、例えばペイントシェーカーやビーズミル、プラネタリミキサ、攪拌型分散機、自公転攪拌混合機、三本ロール、ニーダー、単軸又は二軸混錬機等の、一般的な混錬装置を用いることができる。
【0118】
(A層の形成)
1つの実施態様では、基材上にスラリーAをシート状に賦形及び乾燥してA層(第1のA層)を形成する。
【0119】
スラリーをシート状に賦形するために、コーター(アプリケーター)により基材上にスラリーを塗工する方法の他、押出成形、射出成形、ラミネート成形といった公知の方法を用いることができる。
【0120】
乾燥は、公知の方法によって行ってよい。乾燥温度は、例えば50℃~120℃であってよく、乾燥時間は、例えば1分~3時間、又は10分~1時間であってよい。
【0121】
基材は、特に限定されないが、基材からA層、B層、及び/又は積層体を剥離する際の剥離性に優れているものが好ましい。基材は、例えば、ガラス板、ポリアミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンサルファイドフィルム、ポリフェニレンオキシドフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルムなどであってよい。
【0122】
(B層の形成)
1つの実施態様では、上記のとおりにして形成されたA層の上に、スラリーBをシート状に賦形し、かつ乾燥することによって、B層を形成する。
【0123】
B層は、基材の代わりにA層の上でスラリーの賦形及び乾燥等を行うこと以外は、A層(第1のA層)について上述したのと同様にして、形成することができる。
【0124】
(さらなるA層の形成)
1つの実施態様では、上記のとおりにして形成されたB層の上に、スラリーBをシート状に賦形し、かつ乾燥することによって、さらなるA層(第2のA層)を形成する。
【0125】
さらなるA層は、基材の代わりにB層の上でスラリーの賦形及び乾燥等を行うこと以外は、A層(第1のA層)について上述したのと同様にして形成することができる。
【0126】
(前駆体シート部材)
基材上で賦形されたスラリーを基材から剥離し、随意にさらなる乾燥を行って、積層体を製造するための(A層又はB層に対応する)前駆体シート部材を製造することもできる。この場合には、B層に対応する前駆体シート部材を、A層に対応する前駆体シート部材の間に配置することによって、積層体を製造することができる。
【0127】
(水洗処理)
積層体及び/又は前駆体シート部材に対して、随意に水洗処理を行うことができる。水洗処理を行うことによって、絶縁性熱伝導シートにおける残留溶媒、及び存在する場合には塩を、低減することができる。水洗処理は、例えば、積層体及び/又は前駆体シート部材を、随意に基材から剥離し、イオン交換水に10分~3時間にわたって浸漬することによって行うことができる。混合工程において無水塩化カルシウム又は無水塩化リチウムを添加した場合には、水洗処理を行うことが好ましい。
【0128】
賦形されたスラリーは、比較的多くの空隙を有しているため、水の浸透性が高いと考えられる。したがって、ロールプレスを行う前の段階で水洗処理を行うことによって、より効率的に残留溶媒及び塩を除去することができると考えられる。なお、水分は、水洗後に乾燥を行うことによって、又はロールプレス処理によって、低減することができる。
【0129】
<ロールプレス工程>
本開示に係るロールプレス工程では、上記のようにして提供された積層体を、ロールプレスする。
【0130】
絶縁性熱伝導粒子を含有する複数の樹脂シートを積層して熱プレスする従来の方法では、特に絶縁性熱伝導粒子の充填度が比較的高い場合に、高い熱伝導率を有するシートを得ることができない場合があった。理論によって限定する意図はないが、従来の熱プレスを用いる方法では、高充填された絶縁性熱伝導粒子の間の立体障害に起因する空隙を十分に低減することができず、また絶縁性熱伝導粒子の間にバインダー樹脂が比較的多く残存するため、絶縁性熱伝導粒子同士の間の接触が不十分となると考えられる。
【0131】
これに対して、積層体に対してロールプレスを行う本開示に係る方法では、外部への気泡等の排出及び/又は絶縁性熱伝導粒子の変形(特には絶縁粒子を構成する一次粒子の変形)などを通じて、絶縁性熱伝導粒子の間に十分な接触が形成され、結果として、高い熱伝導率を有する絶縁性熱伝導シートを得ることができると考えられる。また、ロールプレス処理の場合には、高充填された絶縁性熱伝導粒子が相互に押し付けられることによって、かつ/又は、絶縁性熱伝導粒子の間に存在するバインダー樹脂の排除が促進されることによって、絶縁性熱伝導粒子の間の接触の形成がさらに促進されることも考えられる。
【0132】
ロールプレスは、公知の方法によって行ってよく、例えば、カレンダーロール機によって、積層体の加圧処理を行ってよい。ロールプレス工程において積層体に付与される圧力は、線圧で、好ましくは400N/cm~8000N/cm、より好ましくは2000N/cm~7500N/cm、更に好ましくは5000N/cm~7000N/cmである。線圧を400N/cm以上とすることで、絶縁性熱伝導粒子の変形が起こりやすく、また気泡のシート外への排出が顕著になる。線圧が8000N/cm以下であることにより、絶縁性熱伝導粒子が破壊しない程度に十分変形し密に充填され、シート内の空隙を少なくすることができる。ロールプレスにおいて使用するロールの直径は、例えば、200mm~1500mmであることが好ましい。
【0133】
ロールプレス処理の際には、絶縁性熱伝導シート前駆体を加熱することが好ましい。加熱温度は、使用するバインダー樹脂の種類などに応じて適宜設定することができる。バインダー樹脂としてアラミド樹脂を用いる場合、加熱温度は100~400℃であることが好ましい。加熱温度を100℃以上とすることで、バインダー樹脂が軟化しやすくロールプレス処理によって絶縁性熱伝導粒子間の隙間を埋める効果が得られやすくなる。加熱温度を400℃以下とすることで、熱履歴によるバインダー樹脂の強度低下が生じにくくなる。
【実施例0134】
以下、本開示に係る発明を、実施例によってさらに具体的に説明する。
【0135】
≪実施例1、比較例1~6≫
実施例1、及び比較例1~6では、以下の方法によって測定を行った。
【0136】
(1)絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の割合(シート全体)
絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面全体についての絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の割合は、面方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって、観察視野に絶縁性熱伝導シートの両方の主表面が入るように1000倍又は3000倍で観察し、得られた断面画像の一定面積中に存在するバインダー樹脂及び絶縁性熱伝導粒子の面積比を計測することによって決定した。面積比は、紙に印刷した断面画像をカッターナイフで切り抜いたそれぞれの紙片の重量比より算出した。なお、計測にあたっては、計測対象が絶縁性熱伝導シートの表面部分又は中心部分に偏らないように両方の主表面を含めた範囲とした。
【0137】
(2)絶縁性熱伝導粒子及びバインダー樹脂の割合(表面部分及び中心部分)
「表面部分」及び「中心部分」におけるバインダー樹脂及び絶縁性熱伝導粒子の含有量は、それぞれ、面方向に垂直な断面を、SEMによって、観察視野に絶縁性熱伝導シートの両方の主表面が入るように1000倍または3000倍で観察し、得られた断面画像において、「表面部分」及び「中心部分」における一定面積中に存在するバインダー樹脂及び絶縁性熱伝導粒子の面積比をそれぞれ計測することによって、決定した。
【0138】
なお、「表面部分」は、絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面のうち、絶縁性熱伝導シートの2つの主たる表面からそれぞれ出発して、絶縁性熱伝導シートの厚み方向に沿って絶縁性熱伝導シートの厚みの10%までの部分とした。また、「中心部分」は、絶縁性熱伝導シートの面方向に垂直な断面のうち、絶縁性熱伝導シートの主たる表面のうちの1つから出発して、絶縁性熱伝導シートの厚み方向に沿って絶縁性熱伝導シートの厚みの10%超~90%未満までの部分とした。
【0139】
(3)表面部分でのバインダー樹脂の偏在
上述のとおりにして計測したバインダー樹脂及び絶縁性熱伝導粒子の面積比に基づいて、絶縁性熱伝導シートの表面部分におけるバインダー樹脂の偏在を評価した。具体的には、絶縁性熱伝導シートの表面部分における絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比(バインダー樹脂/絶縁性熱伝導粒子)が、絶縁性熱伝導シートの中心部分における絶縁性熱伝導粒子に対するバインダー樹脂の面積比(バインダー樹脂/絶縁性熱伝導粒子)よりも大きい場合を「偏在あり」とし、そうでなかった場合を「偏在なし」とした。
【0140】
(4)空隙率(面積%)
空隙率は、面方向に垂直な断面を、SEMによって1000倍または3000倍で観察し、得られた断面画像の一定面積中に存在する空隙の面積比から、算出した。
【0141】
(5)熱伝導率
絶縁性熱伝導シートの熱伝導率は、厚み方向と面方向それぞれについて熱拡散率、比重及び比熱を全て乗じて算出した。
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(比熱)×(比重)
厚み方向の熱拡散率は、温度波分析法により求めた。測定装置には、アイフェイズ製ai-Phase mobile M3 type1を用いた。面方向の熱拡散率は光交流法により求めた。測定装置には、アドバンス理工製LaserPITを用いた。比熱は、示差走査熱量計(TA Instruments製DSCQ10)を用いて求めた。比重は、絶縁性熱伝導シートの外寸法及び重量から求めた。
【0142】
(6)配向度
窒化ホウ素の配向度は、絶縁性熱伝導シートの主たる面を測定面として、透過X線回折(XRD、リガク製NANO―Viewer)のピーク強度比によって評価した。窒化ホウ素結晶のc軸(厚み)方向に対応する(002)ピーク強度I(002)と、a軸(平面)に対応する(100)ピーク強度I(100)を用いて次の式で配向度を定義した。
(窒化ホウ素配向度)=I(002)/I(100)
配向度の値が低いほど、窒化ホウ素がシート面内と同一方向に配向していることになる。
【0143】
(7)平均粒径、アスペクト比
(i)平均粒径としては、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製MT3000)を用いて、測定時間10秒、測定回数1回で測定を行い、体積分布におけるD50値を取得した。
(ii)アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製TM3000形Miniscope)を用いて、倍率1500倍で粒子の長径と厚みを測定し、計算により求めた。
【0144】
〈実施例1〉
(A層のスラリー作製)
1-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬株式会社製)300体積部に、バインダー樹脂としてのアラミド樹脂「テクノーラ」(コポリパラフェニレン・3,4‘-ジフェニルエーテルテレフタルアミド、帝人株式会社製)14体積部、溶解樹脂の安定化剤としての無水塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)5体積部が溶解した状態で、絶縁性熱伝導粒子としての板状窒化ホウ素粒子「HSP」(Dandong Chemical Engineering Institute Co.製、平均粒径40μm、アスペクト比20~50)86体積部を加えて、プラネタリミキサで30分間撹拌することで混合し、スラリーAを得た。
【0145】
(B層のスラリー作製)
1-メチル-2-ピロリドン210体積部に、「テクノーラ」3体積部、安定化剤としての無水塩化カルシウム1体積部が溶解した状態で、「HSP」97体積部を加えて、プラネタリミキサで30分間撹拌し、三本ロールミルに二回通すことでスラリーBを得た。
【0146】
(成膜)
ガラス板上にクリアランス0.12mmのアプリケータを用いてスラリーAを塗工し、大気中80℃で20分間乾燥させて最下層の層Aを得た。得られた塗膜上にクリアランス0.62mmのアプリケータを用いてスラリーBを塗工し、大気中80℃で1時間乾燥させて中間層の層Bを得た。さらにその塗膜上にクリアランス0.12mmのアプリケータを用いてスラリーAを塗工し、大気中80℃で1時間乾燥させて最上層の層Aを得た。
【0147】
(脱塩)
得られた塗膜をイオン交換水中でガラス板から剥離して、そのままイオン交換水に30分間浸漬した。その後、大気中120℃で1時間乾燥させた。
【0148】
(圧延)
脱塩後の塗膜を220℃、線圧600kgf/cm(約5,880N/cm)のロールプレスに二回通すことで、厚さ87μmの自立性を有する柔軟な絶縁性熱伝導シートを得た。
【0149】
(熱伝導率)
得られた絶縁性熱伝導シートの比重は2.09g/cm、比熱は0.85J/(g・K)、面内方向の熱拡散率は42.2mm/s、厚み方向の熱拡散率は3.0mm/s、面内方向の熱伝導率は75W/(m・K)、厚み方向の熱伝導率は5.4W/(m・K)であった。実施例1に係る絶縁性熱伝導シートの断面SEM写真を、図3に示す。図3で見られるとおり、実施例1に係る絶縁性熱伝導シートでは、2つの表面部分のいずれにおいても、中心部分と比較して、バインダー樹脂が比較的多く存在していることが確認できる。また、図3で見られるとおり、実施例1に係る絶縁性熱伝導シートでは、中心部分において、絶縁性熱伝導粒子の相互の間の接触が比較的多く確認された。
【0150】
〈比較例1〉
最下層の層Aの成膜を実施せずに中間層の層Bと最上層の層Aの成膜のみ実施したこと以外は実施例1と同様の方法で絶縁性熱伝導シートを作製したところ、圧延の工程で塗膜が破れてしまい、絶縁性熱伝導シートは得られなかった。
【0151】
〈比較例2〉
最上層の層Aの成膜を実施せずに最下層の層Aと中間層の層Bの成膜のみ実施したこと以外は実施例1と同様の方法で絶縁性熱伝導シートを作製したところ、圧延の工程で塗膜が破れてしまい、絶縁性熱伝導シートは得られなかった。
【0152】
〈比較例3〉
最上層と最下層の層Aの成膜を実施せずに中間層の層Bの成膜のみ実施したこと以外は実施例1と同様の方法で絶縁性熱伝導シートを作製したところ、ガラス板から剥離の工程で塗膜が破れてしまい、絶縁性熱伝導シートは得られなかった。
【0153】
〈比較例4〉
1-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬株式会社製)350体積部に、バインダー樹脂としてのアラミド樹脂「テクノーラ」(コポリパラフェニレン・3,4‘-ジフェニルエーテルテレフタルアミド、帝人株式会社製)5体積部、溶解樹脂の安定化剤としての無水塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)2体積部が溶解した状態で、絶縁性熱伝導粒子としての鱗片状窒化ホウ素粒子「HSL」(Dandong Chemical Engineering Institute Co.製、平均粒径30μm、アスペクト比38)95体積部を加えて、自転・公転ミキサーで10分間撹拌することで混合し、スラリーを得た。
【0154】
得られたスラリーをクリアランス0.14mmのバーコーターを用いてガラス板上に塗布して賦形し、かつ115℃で20分間乾燥させた。その後、イオン交換水に1時間浸漬・脱塩した後に、シート状に賦形されたスラリーを水中でガラス板から剥離した。剥離したシートを、100℃で30分間乾燥して、厚さ100μmの前駆体シート部材を得た。
【0155】
得られた前駆体シート部材に、温度280℃、線圧4000N/cmの条件でカレンダーロール機による圧縮処理を施して、厚さ37μmの柔軟な絶縁性熱伝導シートを得た。比較例4に係る絶縁性熱伝導シートの断面SEM写真を、図4に示す。図4で見られるとおり、比較例4に係る絶縁性熱伝導シートでは、中心部分に対して、表面部分におけるバインダー樹脂の偏在は見られなかった。
【0156】
〈比較例5〉
アラミド樹脂を8体積部とし、かつ鱗片状窒化ホウ素粒子を92体積部としたこと以外は、比較例4と同様にして、厚さ27μmの絶縁性熱伝導シートを得た。比較例5に係る絶縁性熱伝導シートの断面SEM写真を、図5に示す。図5で見られるとおり、比較例5に係る絶縁性熱伝導シートでは、中心部分に対して、表面部分におけるバインダー樹脂の偏在は見られなかった。
【0157】
〈比較例6〉
1-メチル-2-ピロリドン(和光純薬工業株式会社製)450体積部に、バインダー樹脂としてのアラミド樹脂「テクノーラ」10体積部、溶解樹脂の安定化剤としての無水塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)2体積部が溶解した状態で、絶縁性熱伝導粒子としての鱗片状窒化ホウ素粒子「PT110」(Momentive社製、平均粒径45μm、アスペクト比35)90体積部を加えて、80℃に加熱しながらスリーワンモーター撹拌機で60分間攪拌することで混合を行い、均一なスラリーを得た。
【0158】
得られたスラリーを、クリアランス0.28mmのバーコーターを用いてガラス板上に塗布してシート状に賦形し、70℃で1時間乾燥させた。その後、賦形されたスラリーを水中でガラス板から剥離した後に、100℃で1時間乾燥して、厚さ100μmの絶縁性熱伝導シート前駆体を得た。得られた絶縁性熱伝導シート前駆体に、温度270℃、線圧4000N/cmの条件でカレンダーロール機による圧縮処理を施して、厚さ48μmの絶縁性熱伝導シートを得た。比較例6に係る絶縁性熱伝導シートの断面SEM写真を、図6に示す。図6で見られるとおり、比較例6に係る絶縁性熱伝導シートでは、中心部分に対して、表面部分におけるバインダー樹脂の偏在は見られなかった。
【0159】
【表1】
【0160】
≪評価≫
表1で見られるとおり、実施例1の絶縁性熱伝導シートの製造に用いた積層体は、バインダー樹脂と絶縁性熱伝導粒子との体積比が97:3であるB層の2つの主面に、それぞれ、バインダー樹脂と絶縁性熱伝導粒子との体積比が86:14であるA層が配置された構成(層の構成=A/B/A)を有しており、製造過程において、シートへの良好な成形性が確認された。これに対して、B層の1つの主面のみにA層を有している積層体を用いた比較例1及び比較例2、並びにB層のみを用いた比較例3では、シートを成形することができなかった。
【0161】
また、表1で見られるとおり、実施例1で製造された絶縁性熱伝導シートは、面方向に垂直な断面全体において、2.1面積%のバインダー樹脂及び97.9面積%の絶縁性熱伝導粒子を有しており、かつ、バインダー樹脂が、表面部分に偏在していた。実施例1の絶縁性熱伝導シートは、比較例4~6と比較して、面方向及び厚み方向において、高い熱伝導率を示した。
【0162】
特に、実施例1の絶縁性熱伝導シートにおける絶縁性熱伝導粒子の含有率は、比較例4と同等であり、かつ空隙率が比較的高いにもかかわらず、実施例1は、この例よりも高い熱伝導を示した。
【0163】
理論によって限定する意図はないが、比較例4~6は、バインダー樹脂がシート内に均一に分布しているため、シートの全体にわたって絶縁性熱伝導粒子の間にバインダー樹脂が存在することとなり、結果として、絶縁性熱伝導粒子を高充填することによる利点を十分に活かすことができていないと考えられる。これに対して、実施例1に係る絶縁性熱伝導シートでは、バインダー樹脂が表面部分に偏在していることによって、シートの中心部分における絶縁性熱伝導粒子の間の直接の接触が増加しており、結果として、絶縁性熱伝導シート全体の熱伝導率が向上したと考えられる。
【符号の説明】
【0164】
10 絶縁性熱伝導シート
12 絶縁性熱伝導シートの表面部分
14 絶縁性熱伝導シートの中心部分
20 積層体
22 A層
24 B層
D 厚み方向
S 面方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6