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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095537
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】MnZn系フェライト
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/34 20060101AFI20220621BHJP
   C04B 35/38 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H01F1/34 140
C04B35/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182808
(22)【出願日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2020208715
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】石原 真由
(72)【発明者】
【氏名】中村 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】菊地 孝宏
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AB02
5E041AB19
5E041BD01
5E041CA01
5E041NN02
5E041NN13
5E041NN14
(57)【要約】
【課題】MnZn系フェライトに、Nb,VおよびLiCOを同時に添加することで、高初透磁率を維持しながら高周波のインピーダンスおよびΔB=Bm-Brを向上させたノイズフィルタ向け高透磁率MnZn系フェライトを提供する。
【解決手段】基本成分をFe:51.00~54.00mol%、ZnO:15.00~21.00mol%、残部MnOとし、添加成分としてSiをSiO換算で50~150質量ppm、CaをCaCO換算で250~1100質量ppmとし、さらにNbをNb換算で50~500質量ppmもしくはVをV換算で100~700質量ppmのいずれか、あるいは両方と、LiをLiCO換算で200~600質量ppm(ただし200質量ppmは含まない)とし、500k~3MHzのインピーダンスの最大値を40Ω・mm-1以上かつ100℃のときのΔB=Bm-Brを250mT以上とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本成分と副成分からなるMnZn系フェライトであって、
上記基本成分として、
鉄:Fe換算で51.00~54.00mol%、
亜鉛:ZnO換算で15.00~21.00mol%および
マンガン:残部
を含み、
上記副成分として、
Si:SiO換算で50~150質量ppm、
Ca:CaCO換算で250~1100質量ppm、
Nb:Nb換算で50~500質量ppmおよび
Li:LiCO換算で200質量ppm超、600質量ppm以下
であるMnZn系フェライト。
【請求項2】
基本成分と副成分からなるMnZn系フェライトであって、
上記基本成分として、
鉄:Fe換算で51.00~54.00mol%、
亜鉛:ZnO換算で15.00~21.00mol%および
マンガン:残部
を含み、
上記副成分として、
Si:SiO換算で50~150質量ppm、
Ca:CaCO換算で250~1100質量ppm、
V:V換算で100~700質量ppmおよび
Li:LiCO換算で200質量ppm超、600質量ppm以下
であるMnZn系フェライト。
【請求項3】
基本成分と副成分からなるMnZn系フェライトであって、
上記基本成分として、
鉄:Fe換算で51.00~54.00mol%、
亜鉛:ZnO換算で15.00~21.00mol%および
マンガン:残部
を含み、
上記副成分として、
Si:SiO換算で50~150質量ppm、
Ca:CaCO換算で250~1100質量ppm、
Nb:Nb換算で50~500質量ppm、
V:V換算で100~700質量ppmおよび
Li:LiCO換算で200質量ppm超、600質量ppm以下
であるMnZn系フェライト。
【請求項4】
以下の(1)式で求められるΔB[mT]の値が、100℃において250mT以上である請求項1~3のいずれか1項に記載のMnZn系フェライト。
ΔB=B-B ・・・(1)式
(ただし、Bは飽和磁束密度[mT]、Bは残留磁束密度[mT]である)
【請求項5】
周波数500kHz~3MHzの範囲において、以下の(2)式および(3)式で求められる規格化インピーダンスZnorm[Ω・mm-1]の最大値が40Ω・mm-1以上である請求項1~4のいずれか1項に記載のMnZn系フェライト。
norm=Z・c/N ・・・(2)式
=l/A ・・・(3)式
(Zはインピーダンス[Ω]、cはコア定数[mm-1]、lは磁路長[mm]、Aは断面積[mm]、Nはコイルの巻き数[-]である)
【請求項6】
10kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)が4000以上、かつ500kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)が4500以上である請求項1~5のいずれか1項に記載のMnZn系フェライト。
【請求項7】
焼結密度が4.97g/cm以上である請求項1~6のいずれか1項に記載のMnZn系フェライト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源等のノイズ対策部品等に広く用いられているMnZn系フェライトに関し、その磁性材料の磁気飽和特性と高周波特性を改善したノイズフィルタ用高透磁率MnZn系フェライトに関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性材料の一つとして代表的なMnZn系フェライトは、スイッチング電源における電源トランスやノイズ対策用部品として広く用いられている。中でもノイズ対策部品として用いられるMnZn系フェライトは、高透磁率であることが求められ、エアコン、テレビ、パソコンなどのあらゆる電子機器において、不要な電気成分(ノイズ)を取り除く役割を担うコモン・モード・チョークとして利用されている。
【0003】
近年では車の電動化が進み、カーエレクトロニクス分野においてMnZn系フェライトが需要を伸ばしている。ここで、車載用途の場合、エンジンルーム周りになると、その周囲温度が-40℃~150℃と幅広い温度範囲となる。そのため、かかる温度範囲の環境下のすべてで安定した特性を示すコモン・モード・チョークが必要となる。
【0004】
ここで、現在市販されているMnZn系フェライトは、高透磁率といっても、室温における飽和磁束密度が440mT、100℃における飽和磁束密度が250mT程度である。また、100℃における飽和磁束密度Bmと残留磁束密度Brの差であるΔBは、高くとも190mT程度であるため、高温になると損失が大きくなる。そのため、かかるMnZn系フェライトが使用されたノイズフィルタ用の部品は、その使用環境下で発熱してしまう。
よって、ΔBという値は、ノイズフィルタ用途の場合、インバータやコンプレッサーなどが発するパルスノイズへの効果を考慮すると、高温でも安定して使用できるよう値を高く、例えば、100℃のときには250mT以上にする必要がある。
【0005】
さらに、ノイズフィルタ用コモン・モード・チョークとしての機能を果たすためには、取り除きたいノイズの周波数において、そのノイズよりも十分に大きい規格化インピーダンスが必要となる。
特に近年では、電気自動車の車載用半導体として炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのパワー半導体が導入され始めているが、これらパワー半導体は1MHz以上の高周波帯域で大きなノイズを発生させる。従って、かかるパワー半導体と共に用いる場合は、高周波帯域のノイズを除去できる高い規格化インピーダンスを示すコモン・モード・チョークが必要である。
【0006】
MnZn系フェライトは、アモルファス金属などと比較して安価であることから、ノイズフィルタとして導入しやすい反面、Fe2+の含有量が多いことから、Fe3+-Fe2+間での電子の授受が起こりやすいため、比抵抗が0.1Ω・mオーダーと低い。かように比抵抗が低いと、使用する周波数帯が高くなるにつれ、フェライト内の渦電流による損失が急増し、初透磁率が低下する。それに伴ってインダクタンスが低下し、同時に規格化インピーダンスの最大値の低下および最大値をとる周波数の低周波化を招く。
そのため、MHzオーダーで高い規格化インピーダンスを得るためには、比抵抗が10Ω・m以上とフェライトの中では比較的高いNiZn系フェライトを用いるか、MnZn系フェライトのFe2+の量を減らして比抵抗を上昇させる必要がある。
【0007】
しかし、NiZn系フェライトの場合、低周波における初透磁率が数百程度と低くコモン・モード・チョークには向かない。他方、MnZn系フェライトの場合、フェライトのFe2+を減らすと磁気モーメントが減少して飽和磁束密度が低下するという問題点がある。
【0008】
比抵抗を上昇させるもう一つの手法として、金属酸化物を微量添加する方策がある。というのは、主成分以外の金属酸化物は、導電性を示さず、結晶組織の中で粒界に偏析する。そのため、粒界抵抗が上昇して、フェライト本体の比抵抗が上昇するからである。
【0009】
しかしながら、このように、高周波の規格化インピーダンスやΔBを向上させるため、金属酸化物を微量添加して比抵抗を上昇させると、一般的には10kHz周辺の低周波における初透磁率が低下してしまうという問題点がある。
なお、本明細での規格化インピーダンスとは、実測したインピーダンスを寸法およびコイルの巻き数で規格化した値である。
【0010】
ここで、特許文献1および特許文献2には、NbおよびVの添加により残留磁束密度が低減しΔBが向上する効果が得られることが示されている。
また、特許文献3および特許文献4には、高周波の規格化インピーダンスやΔBの向上に効果があるNb,V,Liを含有したMnZn系フェライトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6-140231号公報
【特許文献2】特開平6-283320号公報
【特許文献3】特開2014-080344号公報
【特許文献4】特開2001-342058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、NbおよびVの添加により残留磁束密度が低減しΔBが向上する効果が得られることが示されている。
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の発明は、電源トランス用磁心として用いられるMnZn系フェライトに適用されており、高透磁率材として初透磁率には言及されていない。なお、一般に添加物を加え、比抵抗を上昇させると、10kHz程度の低周波における初透磁率は低下するため、NbとVのみの添加では十分な初透磁率が確保できずノイズ対策用フェライトとしては不向きといえる。
【0013】
また、特許文献3および特許文献4に記載の発明は、いずれもΔBと規格化インピーダンスの向上を目的としたものではない。
【0014】
よって、MnZn系フェライトをコモン・モード・チョークとして使用するためには、高初透磁率であることが必要であるため、従来技術では、低周波帯の初透磁率の低下を押さえながら高周波帯の規格化インピーダンスやΔBの向上を図ることは解決されていない。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑み開発されたもので、10~150kHz程度の周波帯における初透磁率の低下を防ぎつつ、100℃のような高温でもΔBが大きくかつ飽和しにくく、500kHz~3MHzの高周波帯での規格化インピーダンスの最大値を大きくすることで10kHz~3MHzにおけるノイズ除去能の高いノイズ対策用MnZn系フェライトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.基本成分と副成分からなるMnZn系フェライトであって、上記基本成分として、鉄:Fe換算で51.00~54.00mol%、亜鉛:ZnO換算で15.00~21.00mol%およびマンガン:残部を含み、上記副成分として、Si:SiO換算で50~150質量ppm、Ca:CaCO換算で250~1100質量ppm、Nb:Nb換算で50~500質量ppmおよびLi:LiCO換算で200質量ppm超、600質量ppm以下であるMnZn系フェライト。
【0017】
2.基本成分と副成分からなるMnZn系フェライトであって、上記基本成分として、鉄:Fe換算で51.00~54.00mol%、亜鉛:ZnO換算で15.00~21.00mol%およびマンガン:残部を含み、上記副成分として、Si:SiO換算で50~150質量ppm、Ca:CaCO換算で250~1100質量ppm、V:V換算で100~700質量ppmおよびLi:LiCO換算で200質量ppm超、600質量ppm以下であるMnZn系フェライト。
【0018】
3.基本成分と副成分からなるMnZn系フェライトであって、上記基本成分として、鉄:Fe換算で51.00~54.00mol%、亜鉛:ZnO換算で15.00~21.00mol%およびマンガン:残部を含み、上記副成分として、Si:SiO換算で50~150質量ppm、Ca:CaCO換算で250~1100質量ppm、Nb:Nb換算で50~500質量ppm、V:V換算で100~700質量ppmおよびLi:LiCO換算で200質量ppm超、600質量ppm以下であるMnZn系フェライト。
【0019】
4.以下の(1)式で求められるΔB[mT]の値が、100℃において250mT以上である前記1~3のいずれか1項に記載のMnZn系フェライト。
ΔB=B-B ・・・(1)式
(ただし、Bは飽和磁束密度[mT]、Bは残留磁束密度[mT]である)
【0020】
5.周波数500kHz~3MHzの範囲において、以下の(2)式および(3)式で求められる規格化インピーダンスZnorm[Ω・mm-1]の最大値が40Ω・mm-1以上である前記1~4のいずれか1項に記載のMnZn系フェライト。
norm=Z・c/N ・・・(2)式
=l/A ・・・(3)式
(Zはインピーダンス[Ω]、cはコア定数[mm-1]、lは磁路長[mm]、Aは断面積[mm]、Nはコイルの巻き数[-]である)
【0021】
6.10kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)が4000以上、かつ500kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)が4500以上である前記1~5のいずれか1項に記載のMnZn系フェライト。
【0022】
7.焼結密度が4.97g/cm以上である前記1~6のいずれか1項に記載のMnZn系フェライト。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、100℃といった高温におけるΔB=Bm-Brが大きく、高周波帯における規格化インピーダンス値の高い高透磁率MnZn系フェライトが得られ、高温かつ高周波に対応可能なコモン・モード・チョークとして使用できるMnZn系フェライトが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明のMnZn系フェライトは、前述のとおり、Fe,ZnおよびMnの酸化物を基本成分とする。なお、以下のmol%は基本成分中の組成比である。
【0025】
本発明では、鉄を、Fe換算で51.00~54.00mol%含有する。Fe換算で51.00mol%未満では、室温の初透磁率が低下する。一方、Fe換算で54.00mol%を超えると室温の初透磁率が低下すると共に、損失成分が増え、相対損失係数tanδ/μが大きくなってしまうためである。好ましくは、Fe換算で51.50~54.00mol%の範囲である。より好ましくは、Fe換算で52.00~53.90mol%の範囲である。さらに好ましくは、Fe換算で52.50~53.80mol%の範囲である。
加えて、Feは、上記下限未満になるとフェライトのBmが低下してしまい、十分なΔBが得られなくなってしまう。一方、Feが上記上限を超えるとフェライトの初透磁率の低下を招き、本来の高透磁率材用途には不向きである。
【0026】
本発明では、亜鉛を、ZnO換算で15.00~21.00mol%含有する。ZnOがかかる下限値未満になると、フェライトの比抵抗が低下し高周波特性が不良となる。一方、ZnOがかかる上限値を超えるとフェライトのBmが低下し十分なΔBが得られなくなってしまう。なお、ZnOの好ましい範囲は、ZnO換算で15.00mol%超、21.00mol%以下である。より好ましくは、ZnO換算で16.00~20.00mol%である。さらに好ましくは、ZnO換算で17.00~20.00mol%である。
【0027】
本発明において、残部をMnとしたのは、Niの場合だと十分な初透磁率が得られないためである。なお、MnOの好ましい範囲は、23.00~30.00mol%、より好ましくは25.00mol%以上30.00mol%未満、さらに好ましくは25.00~29.50mol%、よりさらに好ましくは26.00~29.40mol%である。
【0028】
次に、副成分について説明する。
Si:SiO換算で50~150質量ppm、Ca:CaCO換算で250~1100質量ppm
SiOとCaCOは、ともに結晶組織の中で粒界に偏析し、粒界の抵抗を向上させる。それに伴い高周波帯の初透磁率や規格化インピーダンスを向上させる働きがある。上記下限値よりも少ない場合、いずれも高周波におけるフェライトの初透磁率が急激に降下してしまい、高周波特性には不利になる。一方で上記上限値よりも多い場合、いずれも低周波におけるフェライトの初透磁率を著しく低下させてしまう。そのため、いずれの成分も上記範囲が適切である。なお、シリコンの好ましい添加範囲は、SiO換算で55~120質量ppmである。また、カルシウムの好ましい添加範囲は、CaCO換算で350~1080質量ppm、より好ましくは、CaCO換算で500~1050質量ppmの範囲である。
【0029】
Nb:Nb換算で50~500質量ppm
酸化ニオブNbは、粒界に偏析し、Caと結合して粒内に残存しているCa2+を粒界に引き寄せることで粒界を高抵抗化させ、渦電流損失を低減させるため高周波帯の規格化インピーダンスを高く維持することができ、残留磁束密度を低減させる効果があると考えられる。
本発明でNbの添加範囲を50~500質量ppmとしたのは、この範囲に満たないと前記した効果が十分に得られない一方で、この範囲を超えると異常粒成長を起こしてしまい、フェライトの比抵抗の低下および初透磁率の低下を招いてしまうためである。なお、ニオブの好ましい添加範囲は、Nb換算で60~400質量ppmである。より好ましくは、Nb換算で70~350質量ppm、さらに好ましくは、Nb換算で200~300質量ppmの範囲である。
【0030】
V:V換算で100~700質量ppm
酸化バナジウムVは、比較的融点が低く、焼成時に液相を形成することで結晶の緻密化を促進し、焼結密度を向上させ飽和磁束密度を増大させる効果を有する。また、Vは、Nbと同様に粒界近傍でCa-V結合を形成しCa2+が粒界に偏析することでフェライトの高抵抗化、渦電流損失の低減による高周波帯の規格化インピーダンスの向上、残留磁束密度の低減をもたらすと考えられる。なお、VはNbよりも残留磁束密度の低減に大きな効果をもたらす。
加えて、液相焼結になることで粒界近傍の歪みが緩和されるので、粒界応力が低減して残留磁束密度が低減すると考えられる。本発明において、Vの添加範囲を100~700質量ppmとしたのは、100質量ppm未満の場合、前記の効果が十分に得られない一方で、700質量ppm超になるとフェライトの比抵抗が上昇してその初透磁率が大きく低下してしまうためである。なお、バナジウムの好ましい添加範囲は、V換算で150~600質量ppmである。より好ましくは、V換算で180~550質量ppm、さらに好ましくは、V換算で300~500質量ppmの範囲である。
【0031】
Li:LiCO換算で200質量ppm超、600質量ppm以下
リチウムは通常酸化物の形態で存在し、酸化リチウムは、上記した他の添加物と同様に、フェライトの比抵抗を向上させる効果がある。また、酸化リチウムは、初透磁率の温度特性に影響を与える。
MnZn系フェライトの初透磁率は、一般的に磁性が消失する温度であるキュリー温度の直下でピークをとり、これをプライマリーピークと呼ぶ。また、MnZn系フェライトの初透磁率は、キュリー温度よりも低い温度で結晶磁気異方性定数Kが0となる温度で出現するピークがあり、かかるピークをセカンダリーピークと呼ぶが、酸化リチウムを添加すると、このセカンダリーピークが高温側に移動する。
【0032】
一般的に高透磁率材の場合、室温付近(25℃付近)にセカンダリーピークが出現する組成を選択するが、本発明では、あえてセカンダリーピークを10~15℃程度低温にずらした組成にLiCOを添加して調整することで、セカンダリーピークを室温付近(25℃付近)にシフトさせる。かかるセカンダリーピークのシフトによって、本発明は、フェライトの、高透磁率を維持しながら比抵抗を向上させ、その高周波特性の改善および残留磁束密度の低減といった効果を得ることができる。
【0033】
なお、上述のとおり、リチウムを添加するごとにセカンダリーピークが高温側にシフトするため、リチウム添加前のセカンダリーピークの温度によって量を調節する必要がある。具体的には、200質量ppm以下の場合セカンダリーピークのシフトが十分でない一方で、600質量ppm超ではセカンダリーピークが大きく高温側にずれてしまい、初透磁率の向上に寄与しないため、上記範囲とした。なお、リチウムの好ましい添加範囲は、LiCO換算で220~580質量ppmである。より好ましくは、LiCO換算で250~550質量ppm、さらに好ましくは、LiCO換算で300~500質量ppmの範囲である。
【0034】
これらNb、VおよびLiの酸化物のうち少なくとも2つ、あるいは3つすべての添加による相乗効果によって、フェライトの、高初透磁率と高いΔBの実現および高周波帯における高規格化インピーダンスの実現がいずれも可能となったと考えられる。
【0035】
本発明は、以下の(1)式で求められるΔB[mT]の値を、100℃において250mT以上とする。MnZnフェライトの高透磁率材(μiが4,000以上)の場合は,飽和磁束密度が低く100℃などの高温で磁気飽和を起こしやすいからである。なお、かかるΔB[mT]の値の好ましい上限は100℃において320mT程度である。
ここで、従来は、100℃における飽和磁束密度が250mT程度なので、ΔBは190[mT]程度である。
ΔB=B-B ・・・(1)式
(ただし、Bは飽和磁束密度[mT]、Bは残留磁束密度[mT]である)
【0036】
本発明は、周波数500kHz~3MHzの範囲において、以下の(2)式および(3)式で求められる規格化インピーダンスZnorm[Ω・mm-1]の1MHz付近で生じる最大値を40Ω・mm-1以上とする。1MHz付近のノイズを除去するためである。なお、かかる最大値の好ましい上限は65Ω・mm-1程度である
ここで、従来は、高透磁率材の場合、高周波におけるインダクタンスは低いので、規格化インピーダンスZnormは30[Ω・mm-1]程度である。
norm=Z・c/N・・・(2)式
=l/A ・・・(3)式
(Zはインピーダンス[Ω]、cはコア定数[mm-1]、lは磁路長[mm]、Aは断面積[mm]、Nはコイルの巻き数[-]である)
【0037】
本発明は、10kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)を4000以上、かつ500kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)を4500以上とするのが好ましい。なお、10kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)の好ましい上限は6500程度、また500kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)の好ましい上限は6500程度である。
【0038】
焼結密度について、本発明のMnZn系フェライトは4.97g/cm以上が望ましい。これを満たすことで飽和磁束密度が4.97g/cm未満の焼結密度の場合よりも向上し、ΔBの向上に寄与するためである。なお、好ましい上限は5.10g/cm程度である。
【0039】
かかる焼結密度を達成するには、1370℃またはそれ以上という高温で焼成することが望ましい。また、焼成時間についてはより長いほど焼結密度が高まり好ましいといえる。しかし、焼成時間が長すぎると特性は上がるが生産性などが低下してしまうため、実用的な範囲として12時間程度が上限である。また、焼成温度も高すぎるとZnの蒸発量が増大してしまい、組成変動に大きく影響してしまうため、1450℃程度を上限とするのが好ましい。さらに、高温長時間で焼成するほど結晶粒が大きく成長し、初透磁率は高くなるが粒内の渦電流が流れやすくなるため、渦電流損失が増大し、高周波における初透磁率や規格化インピーダンスが低下するため、温度は1370~1385℃、時間は2~4時間がより好ましい焼成の条件と考えられる。
【0040】
なお、本発明におけるMnZn系フェライトを製造する方法は、本明細に記載のないかぎり、いずれも常法を用いることができる。
【実施例0041】
[実施例1]
含有する鉄、亜鉛およびマンガンをすべてFe,ZnOおよびMnOとして換算した場合に、Fe,ZnOおよびMnOの比率が53.44:17.09:27.47mol%となるように秤量した原料粉末を、湿式ボールミルを用いて16時間混合し、大気中で925℃、3時間の条件で仮焼した。次に、この仮焼粉に酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化ニオブおよび酸化リチウムをそれぞれSiO,CaCO,NbおよびLiCOの換算で表1に示す比率で添加し、湿式ボールミルで16時間粉砕を行った。かかる粉砕後、乾燥して得られた粉砕粉にポリビニルアルコール(PVA)を加え、篩に通して造粒し造粒紛とした。かかる造粒紛を、トロイダル状に成形し成形体とした後、この成形体をバッチ型焼成炉に導入し、最高温度1370℃で2時間、窒素ガスと空気を適宜混合したガス流中で焼成し、外径30mm、内径19mm、高さ6mmの焼結体トロイダルコアとした。
【0042】
かくして得られたトロイダルコアに対し、23℃にてアルキメデス法により焼結密度を算出し、4端子法によって比抵抗を測定した。
次いで、上記トロイダルコアに銅線を10ターン巻き、LCRメータ(キーサイト社製4980A)を用いて10kHzのときの-20~200℃の範囲でインダクタンスLと品質係数Qを測定し、その値を基に計算した初透磁率からキュリー温度Tを算出した。また、23℃のときの1k~30MHzのインダクタンスLと品質係数Qを測定し、その値を基に初透磁率およびコア定数で規格化した規格化インピーダンスZ・c/Nを算出した。
また、上記トロイダルコアに1次側40ターン、2次側20ターンの銅線を巻き、直流磁化特性試験装置を用い、磁化力Hを最大1200A/mとして、その飽和磁束密度および残留磁束密度を測定した。なお、ΔBは飽和磁束密度と残留磁束密度の差として算出した。
微量添加物の影響を調査した結果を表1に併記する。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示した実施例のように、NbとLiCO,VとLiCO,NbとVとLiCOという組み合わせで微量添加物を加えると、初透磁率はLiCOの効果で無添加の場合と比べ向上し、規格化インピーダンスの最大値が40Ω・mm-1以上になった。さらに、ΔBは100℃のとき250mT以上を得ることができた。
【0045】
[実施例2]
原料粉末を表2に記載のとおりに、秤量、混合、仮焼し、仮焼粉に酸化ケイ素、酸化カルシウムをそれぞれSiO,CaCOの換算で表2に示した比率で、酸化ニオブ、酸化バナジウムおよび酸化リチウムをNb,VおよびLiCOの換算でそれぞれ300、500および300質量ppm添加した。その後実施例1と同様に粉砕、造粒、成形を行い、成形体をバッチ型焼成炉に導入し、最高温度1370℃で2時間焼成することで実施例1と同様の焼結体トロイダルコアを得た。
【0046】
得られたトロイダルコアを、実施例1と同じ方法、手順を用いて、同項目を測定した。
基本組成、SiOおよびCaCOの添加量を変化させ、Nb,VおよびLiCOの効果を調査した実施例の結果を表2に併記する。なお、比較例11、12ではNb,VおよびLiCOを添加しなかった。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示したように、基本組成やSiOおよびCaCOの添加量が変化しても、Nb,VおよびLiCOの添加効果により前記実施例1の結果と同様に、初透磁率および飽和磁束密度、ΔB、高周波における規格化インピーダンスの向上が見られる。